JP7414219B2 - 非晶質シリカの製造方法及び化粧品原料の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、籾殻などのケイ素を含むバイオマスに含まれるケイ素を付加価値の高い非晶質シリカとして分離回収することを含む非晶質シリカもしくはこれを含む化粧品原料の製造方法に関する。
特許文献1は、炭化籾殻又は銀白色籾殻に、無機酸及び/又はアルカリを加え、加熱した後、濾過、乾燥することを特徴とする、表面積と吸着能力の大きい活性籾殻の製造方法を教示している。活性籾殻は、水中に溶解している各種の有害汚染物質を除去する浄水又は廃水の処理方法に利用される。
特許文献2は、酸化ケイ素を含む有機系廃棄物を出発原料として準備する工程と、前記有機系廃棄物を、水酸基を有するカルボン酸水溶液中に浸漬する工程と、続いて前記有機系廃棄物を水洗処理する工程と、さらに前記有機系廃棄物を大気雰囲気中で加熱する工程とを備えた、非晶質シリカの製造方法を教示している。また、前記有機系廃棄物を大気雰囲気中で加熱する工程は、300℃以上500℃以下にて加熱する第1次加熱工程と、続いて600℃以上1100℃以下にて加熱する第2次加熱工程とを含むことが記載されている。
特許文献3は、高純度ケイ素を提供する方法において、非晶性ケイ素、炭素、および不純物を含む農業廃棄物を供給する工程と、前記農業廃棄物から前記不純物をある程度抽出する工程と、シリカに対する炭素の割合を変化させる工程と、シリカを太陽光発電ケイ素に還元する工程とを含み、前記農業廃棄物は、未加工の農業廃棄物の燃焼生成物である方法を教示している。前記不純物を抽出する工程においては、前記農業廃棄物を酸性水溶液で抽出することで、抽出済み農業廃棄物を生成することが記載されている。そして、より具体的には、高純度ケイ素を製造する方法において、非晶性シリカ、炭素、および不純物を含有するコメのもみ殻を提供する工程で、シリカに対するコメのもみ殻の炭素の割合が約5:95~約60:40の範囲である工程と、抽出済みのコメのもみ殻を生成するように、塩酸の酸性水溶液中で不純物をコメのもみ殻からある程度抽出する工程と、抽出済みのコメのもみ殻を水酸化テトラアルキルアンモニウムと反応させて、クリーン化もみ殻RHAclを生成するように、シリカに対する炭素の割合を約1:1~約5:1の範囲に増加させて、シリカに対する炭素の割合を変える工程と、少なくとも約1300℃の温度の不活性雰囲気中で加熱して、シリカをRHAclから太陽光発電用のケイ素に炭素熱還元する工程とを含む方法が教示されている。
特開平6-39277号公報 国際公開第2008/53711号公報 特表2011―530472号公報
特許文献1~3に開示された方法は、いずれも籾殻等を加熱するときに生成するガスを有効利用するものではなく、炭水化物の大半が無駄に排気されており、資源回収という観点で更なる改良の余地があった。また、得られる非晶質シリカの純度もそれほど高くないために用途が限られるという問題もあった。中でも、非晶質シリカの白色度が低く、化粧品原料としての利用が制限されるため、非晶質シリカの白色度を高める必要があった。
ところで、近年、バイオマスに水蒸気を供給して水性ガス反応及び水性ガスシフト反応を起こし、得られた水性ガスをFischer-Tropsch合成(以下、「FT合成」と称する。)の原料として用いてバイオ燃料を生成する技術が注目されている。
籾殻などのバイオマスに水蒸気を供給して生成された水性ガスからバイオ燃料を合成するとともに、無機化されたバイオマス残渣からシリカを回収して再利用すれば、非常に効率のよい再資源化システムを構築することができる。
しかし、このような再資源化システムでは、ガス化効率を高めるために水性ガスシフト反応時の温度が950℃前後の高温に設定されているため、当該温度によってバイオマス残渣に含まれるシリカの一部が結晶化して再利用が困難な状況になる虞があり、また炭素成分自体が結晶化してシリカに取り込まれると、その後にバイオマス残渣を焼成しても炭素分を除去しきれず、シリカの純度が低下するとともに灰色がかったシリカとなる。そのため、何れの場合にも用途が制限されるという問題があった。
本発明は、上述した問題点に鑑み、ケイ素を含むバイオマスを原料として高品質な非晶質シリカを得ることができる非晶質シリカの製造方法およびこれを用いた白色度の高い化粧品原料の製造方法を提供することを主目的とする。
上述の目的を達成するため、本発明による非晶質シリカの製造方法および非晶質シリカを含む化粧品原料(特にファンデーション原料)の製造方法の第一の特徴構成は、ケイ素を含むバイオマスを反応塔内で熱源となる酸素の存在下で水蒸気と反応させて無機化され反応塔上部からガスとともに排出されたバイオマス残渣を得る無機化ステップと、前記無機化ステップで生じた前記バイオマス残渣中の炭素を低減して非晶質シリカを生成させるシリカ精製ステップと、前記シリカ精製ステップ前に前記バイオマス残渣を脱色前処理する前処理ステップ、および、前記シリカ精製ステップ後に前記非晶質シリカを脱色する脱色ステップの少なくとも一方を含む点にある。シリカ精製ステップ前にバイオマス残渣を脱色前処理することにより、バイオマス残渣に含まれるシリカの不純物を効率的に除去することができ、非晶質シリカもしくは化粧品原料の白色度が向上する。また、シリカ精製ステップ後に非晶質シリカを脱色することにより、不純物が残存する場合でも還元によって非晶質シリカもしくは化粧品原料の白色度を高めることができる。よって、これらの方法によれば、より純度の高い非晶質シリカもしくは化粧品原料が得られる。バイオマスを水蒸気と反応させることで水素と一酸化炭素が生成し、無機化されたバイオマス残渣が得られる。この反応は吸熱反応であり、酸素の供給量などにより温度制御が容易であるため、シリカの結晶化を抑制するのに適している。
同第二の特徴構成は、前記反応塔が、噴流床炉である点にある。反応塔として噴流床炉を用いることにより、ケイ素を含むバイオマスを水蒸気と効率的に反応させることができる。
同第三の特徴構成は、上記第一の特徴構成に加えて、前記前処理ステップで、前記バイオマス残渣の洗浄および前記バイオマス残渣に含まれる不純物金属の還元の少なくとも一方が行われる点にある。原料のバイオマスを対象とするよりもバイオマス残渣を対象とした方が、処理量が1/4~1/5に低減し、非晶質シリカの製造効率が向上する。
シリカ精製ステップ前にバイオマス残渣の洗浄を行う場合には、バイオマス残渣に含まれるシリカ以外の不純物を効率よく除去することができる。なお、シリカと不純物金属とが共存する局所部分では、シリカの融点降下によりシリカが溶融しやすくなるため、シリカの結晶化が生じやすい。溶融シリカが炭素成分の表面をコーティングすると、炭素成分が燃焼しにくく残存しやすい。一方、不純物金属を除去することで、シリカの融点降下に起因する上記現象を防止することができる。また、バイオマス残渣に含まれる不純物金属の還元を行う場合には、仮に不純物が残存する場合でも、還元により遷移元素が発色を引き起こさない価数に変化するため、非晶質シリカの白色度を十分に高めることができる。
同第四の特徴構成は、上記第一または第二の特徴構成に加えて、前記脱色ステップで、前記非晶質シリカの洗浄および前記非晶質シリカに含まれる不純物金属の還元の少なくとも一方が行われる点にある。
シリカ精製ステップ後に非晶質シリカの洗浄を行う場合には、炭素が除去されているため、非晶質シリカに含まれるシリカ以外の不純物を効率よく除去することができる。また、非晶質に含まれる不純物金属の還元を行う場合には、仮に不純物が残存する場合でも、非晶質シリカの白色度を十分に高めることができる。
同第五の特徴構成は、上記第一から第四の何れかの特徴構成に加えて、前記無機化ステップで、非晶質シリカが結晶化する相転移温度域よりも低い温度域で前記バイオマスが加熱される点にある。
相転移温度域よりも低い温度域では、非晶質シリカの結晶化が抑制されるため、より付加価値の高い非晶質シリカを得ることができる。また、炭素成分のような不純物がシリカに取り込まれにくくなるため、より高純度な非晶質シリカを得ることができる。
同第六の特徴構成は、上記第一から第五の何れかの特徴構成に加えて、前記シリカ精製ステップが前記バイオマス残渣を焼成する焼成ステップである点にある。このとき、非晶質シリカが結晶化する相転移温度域よりも低い温度で焼成することにより、より付加価値の高い非晶質シリカを得ることができる。また、不純物がシリカに取り込まれにくくなるため、バイオマス残渣を脱色前処理する前処理ステップや、非晶質シリカを脱色する脱色ステップの効果も高められる。
同第七の特徴構成は、上記第一から第六の何れかの特徴構成に加えて、前記シリカ精製ステップが、前記バイオマス残渣を第1温度域(炭素の燃焼温度域)で焼成する第1焼成ステップと、前記第1焼成ステップで得られた第1焼成物を、前記第1温度域以上の第2温度域(特に、非晶質シリカが結晶化する相転移温度域より低い温度域)で焼成する第2焼成ステップと、を含む点にある。
第1温度域で所定時間焼成する第1焼成ステップにより、局所的な温度上昇を招かずにバイオマス残渣に含まれる炭素成分の大部分を燃焼除去することができ、より高温且つ相転移温度域より低い温度域で所定時間焼成する第2焼成ステップによりシリカの結晶化を招くことなく残存する炭素成分を除去して非晶質シリカの純度を上げることができる。すなわち、低温からより高温へ加熱する二段階以上の焼成ステップを経ることで、シリカの結晶化を招かずに炭素成分を効率的に除去できる。このとき、第1温度域の上限温度が、第2温度域の下限温度以下であってもよい。第1焼成ステップの上限温度を十分に低温に設定することで、非晶質シリカの結晶化が更に抑制されるとともに、シリカに不純物が取り込まれる確率が更に低減される。
同第八の特徴構成は、上記第七の特徴構成に加えて、前記第2温度域が、600℃以上、800℃以下である点にある。
第2焼成ステップの上限温度を十分に高温に設定することで、不純物をより効率的に除去することができるとともに、第2温度域の上限を800℃とすることで、非晶質シリカの結晶化が更に抑制される。
同第九の特徴構成は、上記第一から第八の何れかの特徴構成に加えて、前記バイオマス残渣を粉砕する粉砕ステップを更に備える点にある。
例えば、無機化ステップで生じたバイオマス残渣を粉砕した後にシリカ精製ステップを実行することにより、バイオマス残渣の単位質量当たりの表面積が大きくなるため、洗浄の際には不純物の分離が容易になり、シリカ精製ステップでは炭素成分を除去するための焼成時間を短くすることができる。よって、炭素成分の分離が効率的に行なえるとともに、粒径の揃った非晶質シリカを得ることができる。粉砕されたバイオマス残渣を粒度調整してもよい。これにより、バイオマス残渣をより効率的に焼成することができるようになる。
同第十の特徴構成は、上記第一から第九の何れかの特徴構成に加えて、非晶質シリカが、食品、医薬品、化粧品、飼料、樹脂添加物、塗料添加物またはゴム添加物の用途に用いられる点にある。一方、非晶質シリカの結晶化が進行したり、非晶質シリカの純度が低かったりすると、非晶質シリカの用途が制限される。
同第十一の特徴構成は、上記第一から第十の何れかの特徴構成に加えて、前記化粧品原料が多孔質である点にある。また、非晶質シリカの形状は、原料バイオマス(籾殻など)の形状を反映しており、非常に複雑である。一般に、非晶質シリカを含む化粧品原料には、球状の非晶質シリカが用いられる。しかし、球状の非晶質シリカは高価である上、化粧品用途では保湿性や皮膚への付着性に改善の余地がある。一方、バイオマスを出発材料とする多孔質な非晶質シリカは、廃棄物であるバイオマスを原料とするため安価で製造できることに加え、多孔質で複雑な形状であるがゆえに保湿性や皮膚への付着性に優れている点で、化粧品原料、中でもファンデーション原料として好適である。
同第十二の特徴構成は、上記第一から第十一の何れかの特徴構成に加えて、前記化粧品原料の比表面積が50m/g以上である点にある。一般に、非晶質シリカを含む化粧品原料には、比表面積が10m/g以下の球状の非晶質シリカが用いられる。しかし、比表面積が10m/g以下の非晶質シリカは、化粧品用途では保湿性に改善の余地がある。一方、比表面積が50m/g以上である非晶質シリカは、安価で製造できることに加え、保湿性および皮膚への付着性に優れている点で、化粧品原料として好適である。
同第十三の特徴構成は、上記第一から第十二の何れかの特徴構成に加えて、前記化粧品原料のシリカの純度が96質量%以上(好ましくは98質量%以上)であり、カリウム含有量が0.5質量%以下である点にある。このような化粧品原料は、白色度(WH)が高く、例えばWHが86以上であり、例えば様々なバリエーションのファンデーションの製造に用い得るため、商品価値が極めて高い。
以上説明した通り、本発明によれば、ケイ素を含むバイオマスから純度の高い高品質な非晶質シリカおよびこれを含む化粧品原料を得ることができる。
BTLプラントを構成する合成ガス生成部およびFT合成反応部の説明図 非晶質シリカを生成するシリカ合成部を具備するバイオ燃料製造ラインの一例を示す説明図 非晶質シリカを生成するシリカ合成部を具備するバイオ燃料製造ラインの他の例を示す説明図
本発明の実施形態に係る非晶質シリカの製造方法およびこれを含む化粧品原料の製造方法は、(i)ケイ素を含むバイオマスから無機化されたバイオマス残渣を得る無機化ステップと、(ii)無機化ステップで生じたバイオマス残渣中の炭素を低減して非晶質シリカを生成させるシリカ精製ステップと、(iii)シリカ精製ステップ前にバイオマス残渣を脱色前処理する前処理ステップ、および、シリカ精製ステップ後に非晶質シリカを脱色する脱色ステップの少なくとも一方(以下、単にステップ(iii)とも称する。)を含む。
ステップ(iii)を行う場合、シリカ精製ステップを経て得られる非晶質シリカの白色度が向上し、非晶質シリカの品質が顕著に向上する。非晶質シリカの白色度が向上することで、例えば化粧品のファンデーション原料としての利用価値が大きく向上する。
非晶質シリカ(すなわち化粧品原料)において、シリカの純度は96質量%以上であってもよく、98質量%以上であってもよい。また、非晶質シリカの不純物濃度は、例えば以下の条件を満たしてもよい。このような非晶質シリカは、白色度(WH)が極めて高くなる。
Na含有量:0.5質量%以下
K含有量:0.5質量%以下
Mg含有量:0.20質量%以下
Ca含有量:0.30質量%以下
Mn含有量:0.12質量%以下
Fe含有量:0.080質量%以下(例えば0.075質量%以下)
Cd含有量:0.080質量%以下(例えば0.075質量%以下)
Pb含有量:0.080質量%以下(例えば0.075質量%以下、N.D.が望ましい。)
なお、上記含有量は、いずれも酸化物(SiO2、NaO、KO、MgO、CaO、MnO、Fe、CdO、PbO)に換算したときの数値である。
非晶質シリカ(すなわち化粧品原料)の白色度(WH)は、86.0以上であってもよく、86.5以上であってもよい。白色度(WH)が86以上の化粧品原料は、様々なバリエーションのファンデーションの製造に用い得るため、商品価値が極めて高い。なお、白色度(WH)は、例えば、日本電色工業株式会社製の「小型色彩計・白色度計(型式:NW-12)」を用いて測定することができる。
また、ステップ(iii)を行う場合、シリカ精製ステップを経て得られる非晶質シリカの比表面積が大きくなり、非晶質シリカの保湿性が顕著に向上する。ステップ(iii)には、バイオマス残渣もしくは非晶質シリカの表面を改質する作用があるものと考えられる。
非晶質シリカの比表面積が大きくなることで、非晶質シリカは多孔質になり、これを含む化粧品原料も多孔質になる。一般に、非晶質シリカを含む化粧品原料には、比表面積が10m/g以下の球状の非晶質シリカが用いられる。しかし、このような球状の非晶質シリカは高価である上、化粧品用途では保湿性や皮膚への付着性に改善の余地がある。一方、多孔質な非晶質シリカは、本来は有機廃棄物であるバイオマスを利用して安価で製造できることに加え、保湿性や皮膚への付着性に優れている点で化粧品原料として好適である。化粧品原料の比表面積は、例えば50m/g以上であり、80m/g以上でもよく、90m/g以上でもよい。
化粧品原料は、微細であることが好ましく、非晶質シリカの体積基準の粒度分布におけるメディアン径(D50)(平均粒径)は、例えば10μm以下であることが好ましい。平均粒径は、例えばレーザー回折式の粒度分布測定装置で測定可能である。
なお、ステップ(iii)を省略すると、非晶質シリカが薄桃色を呈したり、局所的に黒色系の色を呈したりすることがある。薄桃色が生じる原因は、バイオマスに含まれる不純物がシリカと複合物を形成することでシリカが染色するためと考えられる。不純物としては、例えば、遷移金属(Fe、Mnなど)、重金属(Cd、Pbなど)、アルカリ成分(Na、K、Ca、Mgなど)の元素や化合物が挙げられる。また、これらの不純物の元素とシリカの複合物が形成されることでシリカの融点が低下し、シリカが溶融しやすくなり、再結晶する過程で炭素成分がシリカに内包され、局所的に黒色領域が生じるものと考えられる。
ここで、無機化とは、ケイ素を含むバイオマスを有機物(炭素、水素、窒素、酸素などが主体の化合物)から無機物に変化させることを広く意味している。無機化では、水素、窒素、酸素などの少なくとも一部が分離除去される。このとき、炭素は、例えばグラファイト様の無機炭素に変化する。
無機化ステップは、バイオマスに水蒸気を供給して水素と一酸化炭素とを含むガスを生成させることを含んでもよい。ただし無機化は、バイオマスと水蒸気とを反応させてバイオマス残渣(すなわちガス化灰)得る例に限定されるものではない。例えば、(a)酸素や空気をバイオマスに供給して燃焼する、(b)水素や二酸化炭素をバイオマスに供給してガス化する、(c)バイオマスに酸素を供給せずに蒸し焼きにする、(d)窒素などの不活性ガスをバイオマスに供給して蒸し焼きにする、などの手法であってもよい。また、それぞれの手法において、シリカの結晶化を更に抑制するために、(a)シリカの相転移温度以下に温度制御する、(b)相転移温度以下でも長時間加温するとシリカが結晶化するため、加温時間を短くする、といった条件調整を行うことも含む。無機化ステップでシリカを結晶化させないことにより、前処理ステップや脱色ステップ(もしくは洗浄ステップ)での不純物の除去の効果も更に向上する。
無機化ステップで得られたガスは、FT合成もしくは発電、熱利用に利用できる。すなわち、本発明に係る非晶質シリカの製造方法および非晶質シリカを含むファンデーション原料の製造方法は、FT合成によりバイオ燃料を生成するステップを更に備えてもよい。なお、バイオマスに水蒸気を反応させて水素と一酸化炭素とを含むガスを生成させる反応は、例えば、バイオマスに水蒸気とともに酸素もしくは空気を供給して反応熱を与えたり、バイオマスに水蒸気を供給するとともに外部から熱を与えたりすることで促進される。
以下、ステップ毎に、更に詳細に説明する。
(i)無機化ステップ
無機化ステップでは、例えば、ケイ素を含むバイオマスに水蒸気を供給してもよい。このときバイオマスと水蒸気との水性ガス反応が進行し、水性ガスが生成する。水性ガス反応とは、式(1)で示されるように、例えば500℃以上の高温環境下でバイオマスである固体の炭素成分(C)と水蒸気(HO)から一酸化炭素(CO)と水素(H)が生成される吸熱反応をいう。水性ガスには、一酸化炭素と水素が主成分として含まれている。
水性ガス反応は、吸熱反応であるため、反応を促進させるために、ガス中に酸素もしくは空気を供給して酸化反応熱を付与したり、外部の熱源から熱が供給されたりする。従って、酸素もしくは空気の供給量や外部から供給される熱量によりガスの温度を容易に制御し得る。そのため比較的低い温度で、シリカの結晶化を抑制しつつ水性ガス反応を進行させることができる。
式(1):C+HO → CO+H
ケイ素を含むバイオマスとしては、籾殻、稲藁、麦藁、米糠、トウモロコシ、サトウキビなどの農作物の廃棄物の他に、竹、薄、トクサ、木材などを用い得る。中でも、籾殻は、約70質量%がセルロース、ヘミセルロース、リグニン等の炭水化物であり、約15~20質量%のシリカ成分を含んでいるので、非晶質シリカおよびファンデーション原料の出発材料として適している。籾殻は、農家で生産された籾米の出荷先であるライスセンターや、籾米を貯蔵するカントリーエレベータでの籾摺りで大量に発生する。
無機化ステップは、例えばBTL(Biomass To Liquid)プラントで行われる。BTLプラントには、バイオマスのガス化とガスの改質とを連続的に行うガス化炉と、改質ガスから燃料を合成するFT合成炉が設けられている。ガス化炉は、バイオマスを水蒸気と反応させて一酸化炭素と水素とを含む水性ガスを生成させるガス化部と、水性ガスをシフト反応により改質するガス改質部とを有する。無機化ステップは、ガス化炉のガス化部で行われ、バイオマスが無機化されたバイオマス残渣が得られる。
ガス化炉で生成した改質ガスは、FT合成炉に供給され、FT合成されることにより液体燃料(バイオ燃料)が生成される。バイオ燃料は、軽油、ジェット燃料などとして、輸送用燃料や農作業用燃料に用いられる。BTLプラントで生じた廃熱は、園芸施設、温泉などの保温用熱源に供される。また、FT合成で得られたオフガスは、ガスエンジン発電機、ボイラなどの熱源利用機器に供され、熱源利用機器による発電電力が施設内で利用される。
無機化ステップでは、バイオマスに含まれる炭素成分の多くがガス化されるため、その後に残存するバイオマス残渣の炭素成分は大幅に減量され、シリカ成分が濃縮される。すなわち、ガス化炉で熱分解され、無機化された籾殻の残渣(バイオマス残渣)には、大量のシリカ成分が含まれている。バイオマス残渣に含まれるケイ素の質量割合は、シリカに換算して、概ね50~70質量%(好ましくは概ね60質量%)にまで高められる。水蒸気で炭素成分が賦活されて多孔質になるため、その後のシリカ精製ステップ(ii)および/またはステップ(iii)における炭素成分の除去効率もしくは脱色効率が大きく向上する。
無機化ステップでは、非晶質シリカが結晶化する相転移温度域よりも低い温度域でバイオマスを無機化してもよい。例えば、酸素もしくは空気の存在下でバイオマスを燃焼させたり、酸素もしくは空気を供給せずにバイオマスを蒸し焼きにしたりすることで無機化を進行させることができる。相転移温度域よりも低い温度域では、非晶質シリカの結晶化が抑制される。また、非晶質シリカの溶融も抑制されるため、溶融シリカの結晶化による炭素成分や不純物の取り込みも生じにくい。よって、より付加価値の高い高純度な非晶質シリカを得ることができる。ここで、非晶質シリカが結晶化する相転移温度域よりも低い温度域とは、例えば、800℃以下であればよく、600℃~800℃であってもよい。BTLプラントのガス化炉を用いる場合は、より高温となるガス改質部に滞留するガスの温度を測定すればよい。
シリカが結晶化すると健康への影響の観点から工業的利用に不向きとなる。結晶質シリカは、国際がん研究機関(IARC)による発がん物質分類において、Group1(ヒトに対して発がん性がある)に分類されている。また、非晶質シリカであっても、純度が低く、炭素成分が多く含まれていると、黒く着色した状態となるので、食品、医薬品、ファンデーション原料などの化粧品、飼料、樹脂添加物、塗料添加物またはゴム添加物などに適しにくくなり、用途が制限される。
以下、BTLプラントの基本構成を示す図1を用いて更に説明する。BTLプラント100は、バイオマスから合成ガスを生成する合成ガス生成部10と、生成された合成ガスを精製する合成ガス分離部20と、精製された合成ガスから燃料を合成するFT合成反応部30を備えている。合成ガス分離部20は、生成された合成ガスから灰分等の固形物や、硫化水素、塩化水素、アンモニア等のガスを除去するためのサイクロン、スクラバ、活性炭吸着塔(CO2吸着塔)などを備える。
合成ガス生成部10は、バイオマスを水蒸気もしくは過熱水蒸気で還元して合成ガスを生成する反応塔を有するガス化炉を備えている。反応塔の内部で、水性ガス反応と水性ガスシフト反応とが進行して改質ガスである合成ガスが生成し、反応塔上部の排気口から合成ガスが排気される。合成ガスは、排気管を経て、合成ガス分離部20に導かれる。
反応塔の下方には、例えばスクリューコンベア機構を具備するバイオマス供給装置が接続されている。バイオマス供給装置は、反応塔の下方に一端がフランジ接続された筒状のケーシングと、筒状のケーシングに収容されたスクリュー羽根とを備える。筒状のケーシングの他端側には、定量供給機構を備えたホッパーが設けられている。籾殻などの乾燥系のバイオマスがホッパーに充填され、スクリュー羽根で圧密に搬送されて反応塔の下方に投入される。バイオマス供給装置よりも下方に設けられた水蒸気供給部のノズル先端から供給される水蒸気によって反応塔の内部でバイオマスが流動する噴流床が形成される。例えば常圧で約500℃程度の過熱水蒸気が反応塔の内部に供給される。ガス化炉内の温度は、生成する水性ガスおよび改質ガスの温度が、非晶質シリカが結晶化する相転移温度域よりも低い温度域(例えば800℃以下(好ましくは700℃~800℃))となるように制御すればよい。
水蒸気は、高周波加熱などにより加熱してもよい。また、外部エネルギーの消費を抑制する観点から、無機化ステップで得られた合成ガスの保有熱を利用して、熱交換により水蒸気を加熱する水蒸気加熱ステップを備えてもよく、経済性を高めることができる。
噴流床が形成される反応塔の下方内部の第1領域R1は、主に水性ガス反応が進行するガス化部である。すなわち、第1領域R1では、バイオマスの炭素成分(C)と水蒸気(HO)とが反応して、主に、一酸化炭素と水素とが生成する。第1領域R1には、水蒸気に加えて少量の酸素ガスまたは空気が供給され、バイオマスの一部の燃焼による酸化熱により反応促進に必要な熱が与えられる。なお、反応促進に必要な熱は、外部の熱源から供給してもよい。
反応塔の上方内部(すなわち第1領域R1の上方)の第2領域R2では、主に、水性ガスシフト反応が進行する。すなわち、水性ガスシフト反応は、水性ガスが反応塔を上昇する過程で進行する。水性ガスシフト反応とは、式(2)で示されるように、高温環境下で、一酸化炭素(CO)と水蒸気(HO)から二酸化炭素(CO)と水素(H)が生成される発熱反応をいう。水性ガスシフト反応に必要な水蒸気は、水蒸気供給部から供給され、第1領域R1で水性ガス反応に寄与しなかった分が消費される。
式(2):CO+HO → CO+H
水性ガスシフト反応は、通常、例えば900℃~1000℃の高温下で行われるが、既に述べたように、非晶質シリカの結晶化を抑制する観点から、800℃以下(好ましくは600℃~800℃)で行われる。
合成ガス分離部20には、誘引送風機が設けられ、反応塔内で生成されたガスが合成ガス分離部20に誘引されて精製される。反応塔内部でバイオマスから生成された合成ガスには、チャーや灰が含まれるが、これらはガス流とともに上昇して合成ガス分離部20に導入される。合成ガス分離部20で精製され、不純物が除去された合成ガスは、ヒータ及び圧縮機を介して高温高圧に加熱及び加圧されてFT合成反応部30に投入され、FT合成に供される。
FT合成とは、Fischer-Tropsch合成の略で、「FT法」もしくは「FT反応」とも呼ばれ、一酸化炭素と水素から触媒反応を用いて液体炭化水素を合成する一連の合成反応プロセスを指す。
図1を参照すると、FT合成反応部30に投入された合成ガスは、触媒が分散された溶媒中に投入されて所望の炭化水素に合成される。触媒の種類や性状により変化するが、例えば、メタノールを合成する場合には、水素と一酸化炭素の比率H/COは約2であることが好ましい。本実施形態で軽油を合成する場合には、水素と一酸化炭素の比率H/COは約1であることが好ましい。
つまり、FT合成で所望の炭化水素を効率的に得るために、水性ガスシフト反応により、水素と一酸化炭素の比率H/COが調整される。この比率は同じ種類の炭化水素を得る場合でも、FT合成で使用される触媒の種類に依存する。
無機化ステップでは、非晶質シリカの結晶化が進行しにくく、また、炭素成分や不純物がシリカに取り込まれにくくなるように、バイオマスの流動時間を所定時間以下になるように調整してもよい。バイオマスの流動時間とは、無機化のためにバイオマス(およびその残渣)を水蒸気とともに加熱する時間である。ガス化炉を用いる場合、バイオマスの流動時間とは、バイオマスが反応塔に導入されてからガス化灰として反応塔から取り出されるまでの時間(すなわち、バイオマスが反応塔に投入されてから、水性ガス反応により炭素成分の一部が抽出され、灰化してガス精製装置20に向けて反応塔から流出するまでの時間)である。無機化ステップにおけるバイオマスの流動時間は、例えば10秒~1分間としてもよい。なお、反応塔内部には一部のバイオマス残渣が残存する。このようなバイオマス残渣も非晶質シリカを含んでいるため利用可能である。
バイオマスの流動時間は、水蒸気の供給量、水蒸気への酸素ガスもしくは空気の混合量などにより制御できる。バイオマスの流動時間を適正に制御することにより、バイオマス残渣に含まれるシリカの結晶化の確率をより効果的に低減するとともに、炭素成分が結晶化したシリカに取り込まれる確率を低減することができる。その結果、後のシリカ精製ステップで純度の高いシリカを得やすくなる。
なお、無機化ステップでは、水性ガス反応以外に、少なくとも部分的に、低酸素濃度雰囲気化でバイオマスを加熱して乾留処理するような熱分解プロセスを採用するものであってもよい。
(ii)シリカ精製ステップ
シリカ精製ステップ(ii)では、無機化ステップで生じたバイオマス残渣中の炭素を低減して非晶質シリカを生成させる。シリカ精製ステップは、例えばバイオマス残渣を焼成する焼成ステップであってもよい。相転移温度域よりも低い温度域では、非晶質シリカの結晶化が抑制されるため、より付加価値の高い非晶質シリカを得ることができる。また、炭素成分のような不純物がシリカに取り込まれにくくなるため、より高純度な非晶質シリカを得ることができる。焼成することにより、炭素の除去効率を大幅に向上させることができる。このとき、炭素が低減される第1温度域でバイオマス残渣を焼成する第1焼成ステップと、第1焼成ステップで得られた第1焼成物を、第1温度域以上の第2温度域で焼成する第2焼成ステップとを行ってもよい。すなわち、低温からより高温へ加熱する二段階以上の焼成ステップを経ることで、炭素の燃焼効率が顕著に向上するとともに、シリカの結晶化が更に抑制されるため、より高品質な非晶質シリカを得ることができる。第1温度域と第2温度域とは互いに重複していてもよいが、第1温度域の上限温度は、第2温度域の下限温度以下とすることが望ましい。
相転移温度以下であれば非晶質シリカを得ることができるため、焼成段数のステップ数は限定されることはなく、1段でも2段以上で焼成することも当然含まれる。
(ii-a)第1焼成ステップ
第1焼成ステップは、炭素由来の黒色成分が除去されやすいように、バイオマス残渣に含まれる炭素成分が効率的に燃焼する条件で行うことが望ましい。このとき、第1焼成ステップの第1温度域の上限温度を十分に低温に設定することで、局所的な温度上昇を招かずにバイオマス残渣に含まれる炭素成分の大部分を燃焼除去することができ、シリカによる炭素成分の内包が抑制され、炭素成分の燃焼効率が向上する。ただし、炭素成分の燃焼効率をより向上させる観点からは、第1温度域の下限温度を400℃以上とすることが望ましく、500℃以上とすることがより好ましい。具体的には、第1温度域は、例えば、400℃~600℃であってもよく、500℃~600℃であってもよい。
昇温速度は、第1温度域に向けて、ゆっくり昇温することが好ましく、第1温度域まで1時間以上かけてゆっくり昇温することがさらに好ましい。その後、第1温度域で2~3時間保持もしくは徐々に昇温することにより、バイオマス残渣に含まれる炭素成分を効率的に燃焼させて炭素由来の黒色成分を十分に除去することができる。第1温度域において2~3時間かけて徐々に昇温させてもよい。
(ii-b)第2焼成ステップ
第2焼成ステップでは、第1焼成ステップで得られた第1焼成物を、第1温度域よりも高く、かつ非晶質シリカが結晶化する相転移温度域より低い第2温度域で焼成することが好ましい。非晶質シリカの純度を十分に高める観点からは、第2焼成ステップの上限温度を十分に高温に設定することが好ましい。ただし、非晶質シリカの結晶化を十分に抑制する観点からは、第2温度域の上限を800℃以下とすることが好ましい。第2温度域は、例えば700℃以上、800℃以下であってもよい。炭素成分の大部分が除去されており、かつ多孔質である状態で、第1温度域以上の第2温度域で第1焼成物を焼成することで、炭素成分の除去効率を高めつつ非晶質シリカの結晶化を抑制することができる。
昇温速度は、第2温度域に向けて、100~200℃/時間でゆっくり昇温することが好ましい。その後、第2温度域で1~3時間保持もしくは徐々に昇温することにより、シリカの結晶化を招くことなく炭素成分を除去して純度を上げることができる。第2温度域において2~3時間かけて徐々に昇温させてもよい。
各焼成ステップでは、空気、酸素などの雰囲気中でバイオマス残渣を燃焼させればよい。
(ii-c)粉砕ステップ
バイオマス残渣を粉砕する粉砕ステップを更に行ってもよい。例えば、シリカ精製ステップ前にバイオマス残渣を粉砕し、その後に焼成することで、焼成による炭素成分の除去が更に効率的に行なえる。粉砕されたバイオマス残渣を粒度調整してもよい。これにより、比表面積が増加して焼成による炭素成分の除去が効率的に行なえるとともに、粒径の揃ったシリカを得やすくなり、白色化の促進と均質化も容易になる。
粉砕ステップでは、無機化ステップで生じたバイオマス残渣を、例えば平均粒径が5~15μm程度になるまで粉砕すればよい。ここでも平均粒径とは、体積基準の粒度分布におけるメディアン径(D50)を意味し、例えばレーザー回折式の粒度分布測定装置で測定可能である。バイオマス残渣の平均粒径は、粉砕するバイオマス残渣量、粉砕媒体の種類と数、粉砕時間等により制御可能である。
粉砕ステップは、シリカ精製ステップ前を例としてあげたが、無機化ステップ前、前処理ステップ前、脱色ステップ前で実施してもよい。比表面積が増加することにより反応機会が増加するので、粉砕後の各ステップの効率が向上する。
(iii)前処理ステップまたは脱色ステップ
(iii-a)前処理ステップ
前処理ステップでは、シリカ精製ステップ前に、最終的に得られる非晶質シリカの白色度が高められるように所定の処理が施される。前処理の内容は、非晶質シリカの白色度が高められるものであれば特に限定されないが、例えば、バイオマス残渣の洗浄およびバイオマス残渣に含まれる不純物金属の還元の少なくとも一方が行われる。シリカ精製ステップ前にバイオマス残渣を洗浄することにより、バイオマス残渣に含まれるシリカの不純物を効率的に除去することができ、非晶質シリカの白色度が向上する。
(iii-b)脱色ステップ
脱色ステップでは、シリカ精製ステップを経て得られた非晶質シリカの白色度が高められるように所定の脱色処理が施される。脱色の内容は、非晶質シリカの白色度が高められるものであれば特に限定されないが、例えば、非晶質シリカの洗浄および非晶質シリカに含まれる不純物金属の還元の少なくとも一方が行われる。シリカ精製ステップ後に非晶質シリカの洗浄を行う場合、非晶質シリカの洗浄の進行度(すなわち白色度)を確認できるため、洗浄を修了するタイミングを容易に判断することができる。
バイオマス残渣もしくは非晶質シリカの洗浄は、液相洗浄により行う。液相洗浄は、例えば、バイオマス残渣もしくは非晶質シリカと洗浄液とを混合することにより行われる。洗浄液としては、水、酸性水溶液、アルカリ性水溶液などを用い得るが、酸性水溶液が好ましい。バイオマス残渣を水に入れた時のpHは通常9~10のアルカリ性であり、これに酸性物質、アルカリ性物質を添加することで所定のpHに調整して洗浄することができる。水もしくは水溶液に炭酸ガスを吹き込み、バブリングさせて洗浄液を酸性にしてもよい。洗浄液の温度は、洗浄効率を高める観点から、40℃以上が望ましく、50℃以上でもよい。洗浄液のpHは、例えば、pH1~5が好ましく、pHは3~5でもよい。なお、大量の水を用いる場合には、pHを 一律排水基準値の5.8~8.6(河川域)あるいは5~9(海域)としてもよい。
酸性水溶液に含まれる酸は、有機酸でも無機酸でもよい。有機酸としては、カルボン酸(クエン酸、イソクエン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸など)などを用い得るが、これらに限定されない。無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などを用い得るが、これらに限定されない。
バイオマス残渣もしくは非晶質シリカに含まれる不純物金属の還元は、例えば、バイオマス残渣もしくは非晶質シリカを還元剤と接触させることで行われる。なお、バイオマス残渣もしくは非晶質シリカを洗浄する場合、還元作用も同時に期待することができる場合がある。例えば、バイオマス残渣もしくは非晶質シリカを酸性水溶液で洗浄する場合、不純物金属の還元が進行し得る。中でも、不純物としてFe(III)が含まれる場合、Fe(III)が還元されることで、非晶質シリカの白色度が大きく向上すると考えられる。バイオマス残渣に含まれる不純物金属の還元により非晶質シリカの白色度を高める場合、不純物金属がバイオマス残渣に残存してもよい。同様に、非晶質シリカに含まれる不純物金属の還元を行う場合には、不純物金属が非晶質シリカに残存してもよい。
図2には、上述した非晶質シリカの製造装置(シリカ合成部40)を具備するバイオ燃料製造ラインの一例が示されている。当該製造装置は、ケイ素を含むバイオマスを熱分解処理して無機化する合成ガス生成部10と、合成ガス生成部10から排出された合成ガスとバイオマス残渣との混合物からバイオマス残渣を分離する合成ガス分離部20と、昇温昇圧器で昇温昇圧された合成ガスからバイオ燃料を合成するFT合成反応部30と、合成ガス分離部20で分離されたバイオマス残渣から非晶質シリカを生成するシリカ合成部40とを備える。シリカ合成部40は、バイオマス残渣を破砕する破砕機と、破砕されたバイオマス残渣を洗浄する洗浄槽と、洗浄されたバイオマス残渣を焼成して非晶質シリカを得る焼成炉とを備えている。
ガス化炉は、上述したように、バイオマスを水蒸気により流動させて水性ガス反応および水性ガスシフト反応を進行させる噴流床炉であり得る。ガス化炉には、灯油などの化石燃料またはバイオマスを用いたボイラにより生成された過熱水蒸気および酸素発生装置PSA(Pressure Swing Adsorption)で生成された酸素ガスがバイオマスとともに投入され、水性ガス反応および水性ガスシフト反応によって合成ガスが生成される。酸素の必要量を供給できるのであれば、酸素ガスではなく、空気を供給してもよい。
サイクロンによって分離されたバイオマス残渣は、破砕機で所定の粒径に破砕された後、洗浄槽で洗浄されて脱色前処理される(前処理ステップ)。その後、前処理後のバイオマス残渣が、焼成炉に投入され、焼成されることにより高純度の非晶質シリカが得られる。焼成炉としては、電気焼成炉、ガス焼成炉などを適宜用いることができる。
合成ガス分離部20のサイクロンでバイオマス残渣が除去された合成ガスは、空気予熱用の熱交換器に導かれ、その後、スクラバで洗浄されてアンモニアガスや塩化水素ガスなどが除去される。分離され、ガス精製部で精製された合成ガスは、更にCO吸着塔でCOが除去され、その後、昇温昇圧器で昇温昇圧されて、FT反応合成部30のFT反応炉に投入される。
FT反応炉では、合成ガスからFT反応によってバイオ油が合成され、バイオ油は、ワックス成分とガス成分に分離される。ガス成分は、凝縮器で液化され、液体燃料が得られる。凝縮器を通過した低級炭化水素ガスは、オフガスとしてガス発電機の燃料に供される。
図3には、非晶質シリカの製造装置(シリカ合成部40)を具備するバイオ燃料製造ライン製造ラインの他の例が示されている。バイオマスを原料として合成ガスを生成し、合成ガスから分離されたバイオマス残渣を破砕機で破砕し、焼成炉で焼成することにより非晶質シリカを生成する構成は、図2と同一である。ここでは、バイオマス残渣は、破砕機で所定の粒径に破砕された後、焼成炉に投入され、非晶質シリカに変換される。その後、非晶質シリカが洗浄槽で洗浄されて脱色される(脱色ステップ)。
[実施例]
《実施例1~3》
上述した非晶質シリカの製造方法を適用して、籾殻から化粧品原料(ファンデーション原料)として使用可能なシリカを製造した。
(i)無機化ステップ
図1に示すようなガス化炉を用い、その運転条件を下記に設定し、籾殻の無機化(籾殻と水蒸気との水性ガス反応および水性ガスシフト反応)を行った。無機化ステップで生成した合成ガスからサイクロンでバイオマス残渣を分離した。
(a)水性ガス反応が行なわれる第1領域R1の温度:550~650℃
(b)水性ガスシフト反応が行なわれる第2領域R2の温度:650~750℃
(c)水蒸気/炭素のモル比:1.2
(d)空気/純酸素比率:空気100%
(e)処理量:1t/日
(ii)粉砕ステップ
バイオマス残渣500gをボールミル(アルミナ容器+ジルコニアボール)で7時間かけて15μm以下になるまで粉砕し、バイオマス残渣の粒度調整を行った。
(iii)前処理ステップ
粉砕されたバイオマス残渣を、洗浄槽内で、その5倍の質量の蒸留水(洗浄液)と混合した。混合直後の洗浄液のpHは9~10に上昇した。洗浄液の温度を50℃に調整するとともに、実施例1の試料No.1では塩酸、実施例2の試料No.2では硫酸、実施例3の試料No.3では硝酸を用いて洗浄液のpHを5に調整し、そのまま1時間攪拌した。その後、バイオマス残渣を濾過して濾液を廃棄し、さらに同量の蒸留水でリンス洗浄して付着水を除去した。
(iv)シリカ精製ステップ
洗浄後のバイオマス残渣を1時間で550℃に昇温した後、550℃で3時間、空気雰囲気で焼成した(第1焼成ステップ)。引き続き、第1焼成ステップで得られた第1焼成物を、1時間で750℃に昇温し、750℃で2時間、空気雰囲気で焼成し、高純度非晶質シリカを得た(第2焼成ステップ)。
《比較例1》
前処理ステップ(酸性溶液による洗浄)を行わなかったこと以外、実施例1~3と同様に非晶質シリカの試料Aを製造した。
《比較例2》
バイオマスを用いてFT合成する場合に最大効率でバイオ燃料を得ることができる下記基本条件で無機化を行ったことと、前処理ステップ(酸性溶液による洗浄)を行わなかったこと以外、実施例1~3と同様に非晶質シリカの試料Bを製造した。
<基本条件>
(A)水性ガス反応が行なわれる第1領域R1の温度:550~650℃
(B)水性ガスシフト反応が行なわれる第2領域R2の温度:950℃
(C)水蒸気/炭素のモル比:1.7
(D)空気/純酸素比率:純酸素100%
(E)処理量:1t/日
各実施例および比較例で用いた条件を表1に示す。また、得られた非晶質シリカの白色度と、蛍光X線分析で得られた組成を表2に示す。なお、各試料をX線回折および電子顕微鏡で観測したところ、実施例1~3の試料No.1~No.3および比較例1の試料Aは、籾殻由来の複雑な構造を維持しており、多孔質な非晶質シリカであることが確認された。また、溶融の形跡は見られず、結晶性シリカは観測されなかった。一方、比較例の試料Bでは僅かに結晶性シリカのピークが観測された。
Figure 0007414219000001
Figure 0007414219000002
実施例1~3の試料No.1~3は、いずれも白色度が86以上と高く、僅かな染色も見られなかった。一方、比較例1の試料Aの場合、概ね白色ではあるが、僅かに薄桃色を呈していた。また、基本条件で籾殻を無機化させた比較例2の試料Bの場合、炭素が残存しており灰色を呈していた。
《実施例4~5》
前処理ステップ(酸性溶液による洗浄)において、塩酸の使用量を変更して洗浄液のpHを1~3の間で変化させたこと以外、実施例1と同様に、実施例4~5の試料No.4~5を製造した。得られた非晶質シリカの白色度と、蛍光X線分析で得られた組成と、比表面積とを、実施例1の試料No.1および比較例1の試料Aの結果とともに表3に示す。
Figure 0007414219000003
表3の結果は、前処理ステップの有無が非晶質シリカの白色度に大きく影響することと、非晶質シリカの比表面積に顕著な影響を与えることが理解できる。特に比表面積は、前処理ステップを行う場合に2桁も大きくなり、非常に保湿性に優れたファンデーション原料となり得ることが理解できる。
次に、非晶質シリカの色に影響を及ぼす不純物元素を調査するために、市販品(白色度89以上)の非晶質シリカに、順にC、KO、Fe、FeO、Feをそれぞれ40%、2%、0.1%、0.1%、0.1%追加で添加していき、実施例1と同様550℃で3時間、750℃で2時間、空気雰囲気で焼成し、白色度の変化を調べた。その結果、Feの有無が白色度に極めて大きく影響することが判明した。
上記前処理ステップでは、酸性の洗浄液との混合により、不純物の除去とともにFeの還元が進行する。鉄の価数が低いほどシリカの白色度が向上する。このような前処理ステップの還元作用も白色度の向上に一定程度は影響しているものと考えられる。ここで実施例1~3において白色度が86以上と高く、わずかな染色も見られなかったことから、前処理ステップにより還元されたFeは焼却ステップを経ても酸化されていないと考えられる。ただし、前処理ステップでは、比表面積が大きく向上することから、不純物の全体的な除去による効果も白色度に大きく影響していると考えられる。
上述した様々な実施形態は、本発明に係る非晶質シリカの製造方法の例示に過ぎず、当該記載により本発明の範囲が限定されるものではなく、各工程および各装置の各部の具体的構成は、本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能であることはいうまでもない。
10:合成ガス生成部
20:合成ガス分離部
30:FT合成反応部
40:シリカ合成部
100:BTLプラント
R1:第1領域
R2:第2領域

Claims (14)

  1. 非晶質シリカの製造方法であって、
    ケイ素を含むバイオマスを反応塔内で熱源となる酸素の存在下で水蒸気と反応させて無機化され反応塔上部からガスとともに排出されたバイオマス残渣を得る無機化ステップと、
    前記無機化ステップで生じた前記バイオマス残渣中の炭素を低減して非晶質シリカを生成させるシリカ精製ステップと、
    前記シリカ精製ステップ前に前記バイオマス残渣を脱色前処理する前処理ステップ、および、前記シリカ精製ステップ後に前記非晶質シリカを脱色する脱色ステップの少なくとも一方を含む、非晶質シリカの製造方法。
  2. 前記反応塔が、噴流床炉である、請求項1に記載の非晶質シリカの製造方法。
  3. 前記前処理ステップでは、前記バイオマス残渣の洗浄および前記バイオマス残渣に含まれる不純物金属の還元の少なくとも一方が行われる、請求項1または2に記載の非晶質シリカの製造方法。
  4. 前記脱色ステップでは、前記非晶質シリカの洗浄および前記非晶質シリカに含まれる不純物金属の還元の少なくとも一方が行われる、請求項1~3の何れか1項に記載の非晶質シリカの製造方法。
  5. 前記無機化ステップでは、非晶質シリカが結晶化する相転移温度域よりも低い温度域で前記バイオマスが無機化される、請求項1~4の何れか1項に記載の非晶質シリカの製造方法。
  6. 前記シリカ精製ステップは、前記バイオマス残渣を焼成する焼成ステップである、請求項1~5の何れか1項に記載の非晶質シリカの製造方法。
  7. 前記シリカ精製ステップは、
    前記バイオマス残渣を第1温度域で焼成する第1焼成ステップと、
    前記第1焼成ステップで得られた第1焼成物を、前記第1温度域以上の第2温度域で焼成する第2焼成ステップと、を含む、請求項1~6の何れか1項に記載の非晶質シリカの製造方法。
  8. 前記第2温度域が、600℃以上、800℃以下である、請求項7に記載の非晶質シリカの製造方法。
  9. 前記バイオマス残渣を粉砕する粉砕ステップを更に備える、請求項1~8の何れか1項に記載の非晶質シリカの製造方法。
  10. 前記非晶質シリカが、食品、医薬品、化粧品、飼料、樹脂添加物、塗料添加物またはゴム添加物の用途に用いられる、請求項1~9の何れか1項に記載の非晶質シリカの製造方法。
  11. 非晶質シリカを含む化粧品原料の製造方法であって、
    ケイ素を含むバイオマスを反応塔内で熱源となる酸素の存在下で水蒸気と反応させて無機化され反応塔上部からガスとともに排出されたバイオマス残渣を得る無機化ステップと、
    前記無機化ステップで生じた前記バイオマス残渣中の炭素を低減して非晶質シリカを生成させるシリカ精製ステップと、
    前記シリカ精製ステップ前に前記バイオマス残渣を脱色前処理する前処理ステップ、および、前記シリカ精製ステップ後に前記非晶質シリカを脱色する脱色ステップの少なくとも一方を含む、化粧品原料の製造方法。
  12. 前記化粧品原料が多孔質である、請求項11に記載のファンデーション原料の製造方法。
  13. 前記化粧品原料の比表面積が50m/g以上である、請求項11または12に記載の化粧品原料の製造方法。
  14. 前記化粧品原料のシリカの純度が96質量%以上であり、カリウム含有量が0.5質量%以下である、請求項11~13の何れか1項に記載の化粧品原料の製造方法。
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