JP7396114B2 - 通信用電線 - Google Patents

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Description

本開示は、通信用電線に関する。
自動車等の分野において、高速通信の需要が増している。高速通信に用いられる通信用電線の例として、特許文献1,2に、導体と、該導体の外周を被覆する絶縁被覆と、からなる1対の絶縁電線が撚り合わせられた対撚線と、対撚線の外周を被覆する絶縁材料よりなるシースを有する通信用電線が、開示されている。特許文献1,2では、シースと対撚線を構成する絶縁電線との間に空隙が設けられた、ルーズジャケット型と称される形態を、主に扱っている。
国際公開第2017/168842号 国際公開第2018/117204号
複数の絶縁電線を含む信号線の外周にシースを有する通信用電線としては、特許文献1,2に開示されるように、シースと信号線との間に空隙を有するルーズジャケット型のものの他に、シースと信号線の間に空隙が実質的に設けられず、信号線を構成する絶縁電線の表面にシースの構成材料を密着させた充実型のものがある。ルーズジャケット型と充実型には、それぞれ長所が存在するが、充実型のシースを有する通信用電線の大きな長所として、信号線をシースによって外側から押さえ込むことで、信号線を構成する絶縁電線において、撚り合わせ構造の緩み等、相対位置のずれを抑制できる点を、挙げることができる。信号線を構成する絶縁電線の相対位置が安定に保持されることで、通信用電線において、安定した特性インピーダンスが得られ、また、モード変換特性等の通信特性が向上する。
しかし、シースを充実型構造とする場合には、ルーズジャケット型とする場合と比較して、押し出し成形によってシースを形成する際に、溶融したポリマー材料によって、信号線を構成する絶縁電線に対して、大きな圧力が印加されることになる。すると、それら絶縁電線に、相対位置のずれや変形が発生し、信号線の平衡度が低下する可能性がある。例えば、図2に、1対の絶縁電線11,11を構成する絶縁被覆13,13が、相互に隣接する位置で、押し潰されている状態を示している。信号線の平衡度の低下は、モード変換特性の悪化等、通信用電線の伝送特性の低下につながりうる。
以上に鑑み、複数の絶縁電線を含む信号線の外周に、充実型のシースを有する通信用電線であって、シースを押し出し成形する際の圧力の影響で、伝送特性の低下が起こりにくい通信用電線を提供することを課題とする。
本開示にかかる通信用電線は、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する絶縁電線を複数含む信号線と、前記信号線の外周を被覆する充実状のシースと、を有し、前記シースの構成材料は、200℃において荷重2.16kgで計測されるメルトフローレートが、0.25g/10分以上である。
本開示にかかる通信用電線は、複数の絶縁電線を含む信号線の外周に、充実型のシースを有する通信用電線であって、シースを押し出し成形する際の圧力の影響で、伝送特性の低下が起こりにくい通信用電線となる。
図1は、本開示の一実施形態にかかる通信用電線の構成を示す断面図である。図1および次の図2では、見やすいように、部材間が接触する箇所にも、小さな隙間を設けて表示している。 図2は、絶縁被覆の変形が大きくなった通信用電線を示す断面図である。 図3は、実施例中、試料3にかかる通信用電線の断面を撮影した写真である。
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施態様を説明する。
本開示にかかる通信用電線は、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する絶縁電線を複数含む信号線と、前記信号線の外周を被覆する充実状のシースと、を有し、前記シースの構成材料は、200℃において荷重2.16kgで計測されるメルトフローレートが、0.25g/10分以上である。
上記通信用電線においては、シースが充実型構造をとっており、信号線を構成する絶縁電線の表面に、シースの構成材料が密着することになるが、シースの構成材料が所定の下限以上のメルトフローレートを有している。そのため、押し出し成形によってシースを形成する際に、構成材料が絶縁電線の周囲の領域に充填されやすくなり、絶縁電線に印加される圧力が、小さくて済む。その結果、押し出し成形の際の圧力によって、絶縁電線に相対位置の変化や変形が発生し、信号線の平衡度が下がる事態が、生じにくくなる。その結果として、通信用電線において、モード変換特性をはじめとする伝送特性が、高い状態に維持される。
ここで、前記信号線は、1対の前記絶縁電線が相互に撚り合わせられた対撚線として構成されているとよい。信号線が対撚線として構成されていることで、1対の絶縁電線が相互に撚り合わせられずに並列に配置されている場合と比較して、1対の絶縁電線の相対位置が、安定に保持されやすい。よって、シースの構成材料のメルトフローレートが高くなっていることの効果と合わせて、押し出し成形によってシースを製造する際に、絶縁電線の相対位置の変化が特に起こりにくい。その結果、通信用電線の伝送特性を、特に良好に維持しやすい。
前記シースと前記信号線の間には、他の層状の部材が設けられないとよい。信号線の外周に、テープ等の部材を配置すると、信号線を構成する絶縁電線の相対位置を安定に維持しやすくなるが、本開示にかかる通信用電線においては、シースの構成材料のメルトフローレートが十分に高くなっていることにより、信号線の外周にテープ等の部材を配置しなくても、絶縁電線の相対位置を、十分に安定に保持することができる。テープ等の部材を信号線の外周に配置しないことで、通信用電線の製造コストを抑制することができる。
前記絶縁電線における前記絶縁被覆の厚さについて、最も薄い箇所の厚さを短厚とし、前記短厚の方向に直交する方向における厚さを長厚として、前記長厚に対する前記短厚の比率として規定される被覆厚比が、65%以上であるとよい。被覆厚比が大きいほど、信号線を構成する絶縁電線における相対位置の変化や変形が小さいことが示され、高い伝送特性を得るための良い指標となる。被覆厚比が65%以上であれば、通信用電線として、十分に高いモード変換特性を得ることができる。
この場合に、前記被覆厚比が、95%以下であるとよい。被覆厚比が大きいほど、通信用電線において、モード変換特性をはじめとして、良好な伝送特性が得られるが、95%を超えて被覆厚比を大きくしても、伝送特性向上の効果は飽和する。シースを構成する材料のメルトフローレートが高くなるほど、被覆厚比が大きくなる傾向があるが、被覆厚比を過剰に大きくしないことで、シースの構成材料として多様な材料を使用することが可能となる。また、通信用電線の製造コストを抑制することができる。
[本開示の実施形態の詳細]
以下、図面を用いて、本開示の一実施形態にかかる通信用電線について詳細に説明する。本明細書において、メルトフローレート(MFR)は、200℃において、荷重2.16kgで計測される値を指す。その他の特性については、特記しないかぎり、室温、大気中にて測定される値とする。また、本明細書において、材料組成について、ある成分が主成分であるとは、材料の全質量のうち、その成分が50質量%以上を占める状態を指す。有機ポリマーには、オリゴマー等、比較的低重合度のものも含むものとする。平行、垂直、直交、円形等、部材の形状や配置を示す語には、幾何的に厳密な概念のみならず、通信用電線として許容される範囲の誤差を含むものとする。
(通信用電線の全体構成)
図1に、本開示の一実施形態にかかる通信用電線1について、軸線方向に垂直に切断した断面図を示す。
通信用電線1は、信号線10を有している。信号線10は、複数の絶縁電線11を含んでいる。通信用電線1はさらに、信号線10の外周を被覆して、シース20を有している。本実施形態において、シース20は、充実型の構造をとっている。シース20の構成材料については、後に詳しく説明するが、MFRが0.25g/10分以上となっている。
信号線10を構成する各絶縁電線11は、導体12と、導体12の外周を被覆する絶縁被覆13を有している。信号線10を構成する絶縁電線11の本数は特に限定されず、2本、4本等とすることができるが、ここでは、2本(1対)の絶縁電線11,11を含む形態を扱う。信号線10として1対の絶縁電線11,11を含む通信用電線1は、差動信号を伝送するのに用いることができる。信号線10は、1対の絶縁電線11,11が、並列に配置され、軸線方向を平行に揃えて相互に接触したパラレルペア線として構成されていてもよいが、1対の絶縁電線11,11が、相互に撚り合わせられた対撚線として構成されることが好ましい。対撚線は、パラレルペア線と比較して、1対の絶縁電線11,11の相対位置を安定に保持する効果に優れる。以下でも、信号線10が対撚線として構成される場合を、主に扱う。通信用電線1の適用周波数は、特に限定されるものではないが、少なくとも1MHz~50MHzの周波数域で使用できるものであるとよい。
導体12を構成する材料としては、種々の金属材料を用いることができるが、強度を保ちながら、信号線10における伝送特性を高める等の観点から、銅合金を用いることが好ましい。導体12は、単線よりなってもよいが、屈曲時の柔軟性を高める等の観点から、複数の素線(例えば7本)が撚り合わせられた撚線よりなることが好ましい。この場合に、素線を撚り合わせた後に、圧縮成形を行い、圧縮撚線としてもよい。導体12が撚線として構成される場合に、全て同じ素線よりなっても、2種以上の素線よりなってもよい。
絶縁被覆13を構成する材料も、特に限定されるものではないが、有機ポリマーを主成分とする材料を用いることが好ましい。有機ポリマーの例として、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド等を挙げることができる。特に、有機ポリマーとして、分子極性の低いもの、特に無極性のものを用いることが好ましく、上記の中で、ポリオレフィン、特にポリプロピレンを用いることが好ましい。有機ポリマーは、上記で列挙したものから複数種を混合して用いてもよく、上記で列挙したものと、上記で列挙したもの以外を混合して用いてもよい。絶縁被覆13を構成するポリマー材料は、架橋されていてもよく、また発泡されていてもよい。また、絶縁被覆13は、有機ポリマーに加え、適宜、添加剤を含有してもよい。添加剤としては、難燃剤、安定剤、増量剤、老化防止剤、顔料、滑剤等、一般に電線の被覆材に添加しうる各種添加剤を挙げることができる。
導体12の径や絶縁被覆13の厚さは、特に限定されるものではないが、絶縁電線11の細径化等の観点から、導体断面積を、0.22mm未満、特に0.15mm以下としておくことが好ましい。また、絶縁被覆13の厚さを、0.30mm以下、特に0.20mm以下としておくことが好ましい。それらのような導体断面積および被覆厚を採用した場合に、絶縁電線11の外径を、1.0mm以下、さらには0.90mm以下とすることができる。また、それらのような導体断面積および被覆厚を採用した際に、通信用電線1の特性インピーダンスを、例えば100±10Ωの範囲に収めやすくなる。1対の絶縁電線11,11より構成される対撚線の撚りピッチとしては、12mm以上、また30mm以下とする形態を、例示することができる。
シース20は、通信用電線1において、信号線10の保護や、信号線10における絶縁電線11,11の相対位置の安定化等の機能を果たす。上記のように、シース20は、充実型の構造をとっている。つまり、シース20と信号線10を構成する絶縁電線11,11の間には、不可避的なものを除いて、空隙が設けられておらず、絶縁電線11,11の表面のうち、信号線10全体としての外側に露出した領域のほぼ全域に、シース20の構成材料が密着している。なお、シース20と信号線10を構成する絶縁電線11,11の間に不可避的に生じうる空隙としては、空隙率にして、おおむね5%未満のものを指す。ここで、空隙率とは、通信用電線1の軸線方向に垂直な断面において、シース20の外周面に囲まれた領域の面積のうち、空隙が占める面積の割合を指す。
シース20の構成材料は、有機ポリマーを主成分として構成され、0.25g/10分以上のMFRを有する限りにおいて、特に限定されるものではないが、絶縁被覆13と同様の材料、つまり、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド等の有機ポリマーを含む材料を挙げることができる。これらの中で、ポリオレフィン、特にポリプロピレンを用いることが好ましい。有機ポリマーは、上記で列挙したものから複数種を混合して用いてもよく、上記で列挙したものと、上記で列挙したもの以外を混合して用いてもよい。シース20を構成するポリマー材料は、架橋されていてもよく、また発泡されていてもよい。また、シース20は、有機ポリマーに加え、適宜、添加剤を含有してもよい。添加剤としては、難燃剤、安定剤、増量剤、老化防止剤、顔料、滑剤等、一般に電線の被覆材に添加しうる各種添加剤を挙げることができる。シース20の構成材料は、絶縁被覆13の構成材料と、同種のものであっても、異種のものであっても構わないが、通信用電線1全体の構成および製造工程を簡素化する観点からは、同種の材料よりなる方が好ましい。
シース20の厚さは、信号線10の保護や、信号線10における絶縁電線11,11の相対位置の保持等の効果が十分に得られ、また、所望の特性インピーダンスが得られるように、適宜設定すればよい。最も薄い箇所の厚さで、0.2mm以上、さらに好ましくは0.3mm以上とすればよい。一方、実効誘電率を小さく抑え、所定の範囲の特性インピーダンスを確保すること、通信用電線1全体を細径化することを考慮すると、シース20の厚さを、1.0mm以下、さらに好ましくは0.8mm以下とすればよい。また、シース20の外周面によって規定される通信用電線1全体の外径が、4.0mm以下、さらには3.5mm以下となるようにすればよい。
通信用電線1において、シース20と信号線10の間に、他の層状の部材を設ける形態を妨げるものではないが、そのような層状の部材は、設けられない方が好ましい。ここで、層状の部材とは、有機ポリマーを主成分とするもの等、層状に連続した固体材料が信号線10の外周を取り囲む部材を指し、信号線10の外周に螺旋状に巻き付けたテープ体等を例示することができる。なお、層状の部材でなければ、シース20と信号線10の間に、他の物質が介在されてもよい。例えば、信号線10の外周に、タルク等の無機粉末材料を含む剥離剤を配置したうえで、シース20を設ける形態を、好ましいものとして例示することができる。
(シースの構成材料と伝送特性)
本実施形態にかかる通信用電線1においては、シース20が充実型の構造をとっていることで、信号線10を外側から押さえ込んで、信号線10の構造を安定に保持することができる。その結果として、通信用電線1において、所定の特性インピーダンスを安定して得ることができ、モード変換特性等の伝送特性も高められる。特に、信号線10が、1対の絶縁電線11,11が相互に撚り合わせられた対撚線として構成されている場合には、その撚り合わせ構造によって絶縁電線11,11の相互配置が安定化されることの効果と合わせて、特性インピーダンスの安定化や伝送特性の向上に、高い効果が得られる。充実型のシース20は、対撚線の撚り構造を緩みなく保持する役割を果たす。
本実施形態にかかる通信用電線1において、充実型のシース20を構成する材料は、有機ポリマーを主成分としてなり、200℃、荷重2.16kgにて、0.25g/10分以上のMFRを示す。シース20は、信号線10の外周に、溶融したポリマー材料を押し出し成形することで、形成される。一般に、絶縁電線を複数含む通信用電線に設けられるシースとしては、シースと信号線の間に実質的に空隙を有さない充実型の他に、シースと信号線の間に空隙が設けられたルーズジャケット型がある。それらのうち、充実型のシース20を形成する場合には、信号線10を構成する絶縁被覆13に、溶融させたシース20の構成材料を密着させる必要があることから、ルーズジャケット型とする場合と比較して、溶融したシース20の構成材料から、絶縁電線11,11に、大きな圧力が印加される。
溶融したポリマー材料によって、絶縁電線11,11に大きな圧力が印加されると、1対の絶縁電線11,11の相対位置にずれが発生する可能性や、絶縁電線11,11に変形が生じる可能性がある。典型的には、図2に示す通信用電線1’のように、1対の絶縁電線11,11が相互に隣接する中央部Cにおいて、絶縁被覆13に潰れが発生しやすい。信号線10を構成する絶縁電線11,11に、相対位置のずれや変形が発生すると、信号線10の平衡度が低下する。平衡度の低下は、モード変換特性の悪化等、通信用電線1の伝送特性の低下につながりうる。
しかし、本実施形態にかかる通信用電線1においては、シース20の構成材料が、0.25g/10分以上のMFRを有し、流動性に優れたものとなっていることから、高い圧力を印加しなくても、押し出し成形を行う際に、溶融したポリマー材料が、信号線10を構成する絶縁電線11,11の表面に密着する状態まで、絶縁電線11,11の周囲の領域に、充填されやすい。そのため、シース20の押し出し成形時に、溶融したポリマー材料から絶縁電線11,11に、大きな圧力は印加されにくく、絶縁電線11,11に、相対位置のずれや、変形が発生しにくくなる。図1に示すように、1対の絶縁電線11,11が相互に隣接する中央部Cにおいても、絶縁被覆13の潰れが発生しにくく、絶縁電線11,11のそれぞれが、対称性の高い形状に保持されやすくなる。
絶縁電線11,11に相対位置のずれや変形が生じるのが抑制されることで、信号線10の平衡度が高く保たれ、モード変換特性等、通信用電線1の伝送特性を、高く維持することができる。特に、信号線10が対撚線として構成されている場合には、絶縁電線11,11の撚り合わせ構造によって、シース20を押し出し成形する際にも、1対の絶縁電線11,11の相対配置が安定に維持されやすく、信号線10の平衡度の低下を小さく抑える効果に優れる。例えば、信号線10を対撚線とした場合に、1MHz~50MHzの通信周波数における透過モード変換(LCTL)を、-50dB以下(LCTL≦-50dB)、さらには-55dB以下(LCTL≦-55dB)とすることができる。
シース20の押し出し成形時の圧力印加による伝送特性への影響を、さらに効果的に抑制する観点から、構成材料のMFRは、0.3g/10分以上、さらには0.5g/10分以上、0.8g/10分以上であると、特に好ましい。一方、シース20の構成材料のMFRには、上限は特に設けられないが、MFRが高すぎると、押し出し成形によるシース20の製造性が低下するので、おおむね、7.0g/10分以下、さらには5.0g/10分以下であるとよい。シース20の構成材料のMFRは、使用する有機ポリマーの種類(モノマーユニットの種類および繰り返しパターン)や重合度、添加剤の種類や添加量等によって、調整することができる。重合度等の異なる複数の有機ポリマーを混合することで、MFRを調整してもよい。
上記のように、シース20の構成材料が0.25g/10分以上のMFRを有することで、シース20を押し出し成形する際の絶縁電線11,11の位置ずれや変形を、十分に抑制することができる。よって、シース20と信号線10の間に、位置ずれや変形を抑制することを目的として、テープ体等、他の層状部材を配置する必要はない。他の層状部材を配置しないことで、通信用電線1を構成する部材の数が少なくなり、通信用電線1の製造工程も簡素になるので、通信用電線1の製造コストを低く抑えることができる。
シース20を押し出し成形する際の絶縁電線11,11の変形の程度は、被覆厚比Rによって評価することができる。図2に示すように、通信用電線1の軸線方向に直交する断面において、絶縁被覆13が最も薄くなった箇所の厚さを、短厚aとし、その短厚aに対応する方向と直交する方向における絶縁被覆13の厚さを、長厚bとする。そして、長厚bに対する短厚aの比率を、被覆厚比Rとする(R=a/b×100%)。被覆厚比Rの値が大きいほど、短厚aと長厚bの差が小さく、絶縁電線11,11の断面が、対称性の高い、つまり円形に近い状態にあり、シース20の押し出し成形時に、大きな変形を受けていないことが示される。上でも説明したように、信号線10においては、1対の絶縁電線11,11が相互に隣接する中央部Cにおいて、絶縁被覆13の潰れが生じやすく、1対の絶縁電線11,11が相互に接する部位の絶縁被覆13の厚さが、短厚aとなる。一方、短厚aの方向である絶縁電線11,11の隣接方向から、90°回転した方向において(図2の上下方向)、長厚bが規定される。その長厚bの方向、およびさらに90°回転した絶縁電線11,11の並びの外側の方向(図2の左右外側方向)における絶縁被覆13の厚さは、シース20を押し出し成形する前と、ほぼ変わらない厚さに維持される。
本実施形態にかかる通信用電線1においては、シース20のMFRが十分に高くなっていることにより、絶縁被覆11,11の被覆厚比Rが、シース20の押し出し成形を経ても、大きな値に維持される。例えば、被覆厚比Rを、65%以上、さらには70%以上、80%以上とすることができる。絶縁被覆11,11が、そのように高い被覆厚比Rを有することで、通信用電線1の伝送特性を高く保持する効果に、特に優れる。被覆厚比Rの上限は特に規定されないが、大きくしすぎても、伝送特性を向上させる効果が飽和する。また、被覆厚比Rを過剰に大きい範囲に限定するとすれば、シース20を構成するのに使用しうる材料が限られ、シース20の押し出し成形等、通信用電線1の製造に要するコストも大きくなる。そこで、被覆厚比Rは、95%以下、さらには90%以下に留めておくことが好ましい。
以下に実施例を示す。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。以下では、シースの構成材料のMFRと、通信用電線の構造および伝送特性との関係について、検証した。
[試料の作製]
φ0.165mmの線径を有する銅合金素線を7本撚り合わせて、導体断面積0.13mmの電線導体を作製した。得られた電線導体の外周に、ポリプロピレン樹脂を押し出し、厚さ0.19mmの絶縁被覆を形成した。絶縁電線の外径は、0.84mmとなった。このようにして得られた絶縁電線を、ピッチ20mmで2本撚り合わせて、信号線を作製した。
上記で作製した信号線の外周に、ポリプロピレン樹脂を押し出して、充実型のシースを形成し、通信用電線を作製した。通信用電線全体としての外径は、3.2mmとし、シースの厚さは、最も薄い箇所で、約0.74mmとなった。シースの形成に際し、ポリプロピレン樹脂として、下の表1に示すMFR(200℃×2.16kg荷重での値)を有するものを、それぞれ用いて、試料1~7にかかる通信用電線を作製した。MFRの制御は、分子量が異なるポリプロピレン樹脂を組み合わせることで、行った。
[評価]
(被覆厚比)
作製した試料1~7にかかる通信用電線を、アクリル樹脂に包埋して固定したうえで、切断することで、断面試料を得た。断面試料において、図2に示すように、1対の絶縁電線が相互に隣接する箇所において絶縁被覆の厚さを計測し、短厚aとした。また、その短厚方向に直交する方向において絶縁被覆の厚さを計測し、長厚bとした。そして、得られた長厚bに対する短厚aの比率を計算し、被覆厚比Rとした(R=a/b×100%)。評価は、4個体の試料に対して行い(N=4)、各試料個体に含まれる2本の絶縁電線についての値を、全4個体で平均し、その平均値を記録した。
(伝送特性)
試料1~7にかかる通信用電線に対して、伝送特性として、透過モード変換(LCTL)を計測した。計測は、1MHz~50MHzの周波数範囲で、ネットワークアナライザーを用いて行い、その周波数範囲における最大値を記録した。
[結果]
表1に、試料1~7について、シースの構成材料のMFRとともに、被覆厚比およびLCTLの評価結果をまとめる。また、図3に、例として、試料3の断面を撮影した写真を掲載する。
Figure 0007396114000001
試料1~5においては、シースの構成材料のMFRが、0.25g/10分以上となっている。それに対応して、通信用電線を構成する絶縁電線における被覆厚比が、65%以上の大きな値をとっており、絶縁電線の変形が小さく抑えられていることが分かる。図3の試料3の断面写真においても、2本の絶縁電線が、外形をほぼ円形に近似できる対称性の高い形状を維持していることが確認される。さらに、試料1~5において、シースの構成材料のMFRが大きくなるほど、被覆厚比の値が大きくなっている。一方で、シースの構成材料のMFRが、0.25g/10分よりも低い試料6,7においては、被覆厚比が65%未満の小さな値になっており、絶縁電線の変形が大きくなっていることが分かる。
次に、LCTLの測定結果を見ると、シースの構成材料のMFRが0.25g/10分以上である試料1~5においては、LCTLが、-50dB以下(LCTL≦-50dB)となっている。さらに、おおむね、シースの構成材料のMFRが大きくなるほど、LCTLが小さくなる挙動が見られる。一方で、シースの構成材料のMFRが0.25g/10分未満である試料6,7においては、LCTLが-50dBを超えている(LCTL>-50dB)。
以上の実験結果より、シースの構成材料として、MFRが高いものを用い、溶融状態における流動性を高めることで、充実形状への押し出し成形の際に、絶縁電線に変形が起きるのを、抑制できる。そして、絶縁電線の変形が抑制されることで、モード変換特性に代表される通信用電線の伝送特性を高めることができる。具体的には、シースの構成材料のMFRを0.25g/10分以上とすることで、通信用電線のLCTLを、-50dB以下の水準に維持することができる。
以上、本開示の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
1,1’ 通信用電線
10 信号線
11 絶縁電線
12 導体
13 絶縁被覆
20 シース
a 短厚
b 長厚
C 中央部

Claims (3)

  1. 導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する1対の絶縁電線を含む信号線と、
    前記信号線の外周を被覆する充実状のシースと、を有し、
    前記シースの構成材料は、200℃において荷重2.16kgで計測されるメルトフローレートが、0.25g/10分以上、7.0g/10分以下であり、
    前記絶縁電線における前記絶縁被覆の厚さについて、
    最も薄い箇所の厚さを短厚とし、
    前記短厚の方向に直交する方向における厚さを長厚として、
    前記長厚に対する前記短厚の比率として規定される被覆厚比が、65%以上、95%以下であり、
    前記短厚は、前記信号線の中央部において、1対の前記絶縁電線が相互に接する部位の前記絶縁被覆の厚さであり、
    前記長厚は、1対の前記絶縁電線の隣接方向から90°回転した方向における前記絶縁被覆の厚さに相当し、そこからさらに90°回転した、1対の前記絶縁電線の並びの外側の方向で、前記絶縁被覆が前記長厚と同じ厚さを有する、通信用電線。
  2. 前記信号線は、1対の前記絶縁電線が相互に撚り合わせられた対撚線として構成されている、請求項1に記載の通信用電線。
  3. 前記シースと前記信号線の間には、他の層状の部材が設けられない、請求項1または請求項2に記載の通信用電線。
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