JP7379304B2 - センサ素子、センサ装置、センサシステム及び検出方法 - Google Patents

センサ素子、センサ装置、センサシステム及び検出方法 Download PDF

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Description

本発明の実施形態は、センサ素子、センサ装置、センサシステム及び検出方法に関する。
ガスや匂いを検出するセンサ素子の一つとしてグラフェンを用いたグラフェンFETが知られている。しかしながら、従来技術のグラフェンFETで検出できる標的物質の種類は限られており、また選択的な検出による種類の識別も困難であった。
特開2020-046196号公報
本発明の目的は、従来技術では検出が困難であった標的物質を選択的に検出することが可能なセンサ素子、センサ装置、センサシステム及び検出方法を提供することにある。
実施形態のセンサ素子は、グラフェンと、前記グラフェンに接着されたドレイン電極と、前記グラフェンに接着されたソース電極と、前記グラフェン上に設けられ、光の照射及びその停止によって電荷状態が変化可能な第1の物質とを含む。前記グラフェン上において前記光の照射及びその停止を繰り返している期間において、前記センサ素子は、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に流れる電流を測定することによって、前記標的物質の検出が可能である。
図1は、実施形態に係るグラフェンFETの平面図である。 図2は、図1のグラフェンFETの矢視A-Aに沿った断面図である。 図3は、第1の物質及び第2の物質を示す図である。 図4は、標的物質の有無の違いによる、実施形態のグラフェンFETのソース・ドレイン電流の時間変化を示す図である。 図5は、実施形態のグラフェンFETを乾燥雰囲気に晒した場合のソース・ドレイン電流の時間変化を示す図である。 図6は、実施形態のグラフェンFETを純水を注入した容器内に収容した場合のソース・ドレイン電流の時間変化を示す図である。 図7は、値の異なる複数のゲート電圧についてソース・ドレイン電流の時間変化を調べた結果を示す図である。 図8は、光照射期間及び非光照射期間におけるソース・ドレイン電流とゲート電圧との関係を調べた結果を示す図である。 図9は、実施形態のグラフェンFETにDMTSを含む窒素ガス及び窒素ガスを供給した場合のそれぞれのソース・ドレイン電流の時間変化を示す図である。 図10は、グラフェンFETのソース・ドレイン電流を調べる実験に用いた実験装置の構成を示す図である。 図11は、従来のグラフェンFETを用いた場合の実験結果を示す図である。 図12は、実施形態のグラフェンFETに2-フェニルエチルアミンを含む窒素ガス及び窒素ガスを供給した場合のそれぞれのソース・ドレイン電流の時間変化を示す図である。 図13は、実施形態のセンサ回路及び光源回路を示すブロック図である。 図14は、実施形態のセンサシステムを示すブロック図である。 図15は、加湿ユニットの構成の一例を示す図である。 図16は、他の検査方法を説明するためのソース・ドレイン電流の時間変化を示す図である。 図17は、図16のソース・ドレイン電流の変化の一部を拡大して示す図である。
以下、図面を参照しながら実施形態を説明する。図面は、模式的又は概念的なものであり、必ずしも現実のものと同一であるとは限らない。また、図面において、同一符号は同一又は相当部分を付してあり、重複した説明は必要に応じて行う。また、簡略化のために、同一又は相当部分があっても符号を付さない場合もある。
図1は、実施形態に係るグラフェンFET1(センサ素子)の平面図である。図2は、図1のグラフェンFET1の矢視A-Aに沿った断面図である。
グラフェンFET1は、シリコン基板11、絶縁膜12、絶縁膜13、グラフェン14、ドレイン電極15、ソース電極16、絶縁膜17、ゲート電極18、第1の物質19及び高抵抗の導電層20を含む。
絶縁膜12は、シリコン基板11の表面上に設けられており、例えば、シリコン酸化膜である。絶縁膜13は、シリコン基板11の裏面上に設けられており、例えば、シリコン酸化膜である。
グラフェン14は絶縁膜12の一部の領域上に設けられている。グラフェン14の形態は単層の膜でもよいし、多層の膜でも良い。グラフェン14はFETのチャネルとして利用される。
ドレイン電極15はグラフェン14の一端部の上に設けられている。ドレイン電極15はグラフェン14に接着している。
ソース電極16はグラフェン14の他端部の上に設けられている。ソース電極16はグラフェン14に接着している。
第1の物質19は、ドレイン電極15とソース電極16との間のグラフェン14上に設けられている。なお、図3(a)~図3(e)に示すように、第1の物質19に第2の物質19aを吸着又は結合させたり、第2の物質19aをグラフェン14の上に吸着または結合させてもよい。
図3(a)では、第2の物質19aは第1の物質19に吸着又は結合されており、且つ、第1の物質9及び第2の物質19aは高抵抗の導電層20で覆われている。
図3(b)では、第2の物質19aは第1の物質19及びグラフェン14に吸着又は結合されており、且つ、第1の物質19及び第2の物質19aは高抵抗の導電層20で覆われている。
図3(c)では、第2の物質19aはグラフェン14に吸着又は結合されており、且つ、第1の物質19及び第2の物質19aは高抵抗の導電層20で覆われている。第2の物質19aは第1の物質19には吸着又は結合されていない。
図3(d)では、第2の物質19aは第1の物質19及びグラフェン14に吸着又は結合されており、第1の物質19は高抵抗の導電層20で覆われ、そして、第2の物質19aはその上端側の部分が高抵抗の導電層20から飛び出るように高抵抗の導電層20で覆われている。
図3(e)では、第2の物質19aは第1の物質19に吸着又は結合されているが、第1の物質9及び第2の物質19aは高抵抗の導電層20では覆われていない。
第2の物質19aは標的物質(検出の対象となる物質)に特異的に結合する物質である。第2の物質19aは、例えば、分子プローブである。分子プローブは、例えば、核酸アプタマーやペプチドアプタマー等のアプタマーを含む。
図1及び図2に示された絶縁膜17は、ドレイン電極15とソース電極16を覆っていて、且つ、グラフェン14をドレイン電極15とソース電極16の間の少なくとも一部で露出させる開口を有する。絶縁膜17は、ドレイン電極15及びドレイン電極15を保護する絶縁膜であり、例えば、シリコン窒化膜、アルミナ膜、シリコン酸化膜などの無機絶縁膜、あるいはポリイミド膜、ポリベンゾオキサゾール膜、パリレン膜、BCB(ベンゾシクロブテン)膜、PDMS(ポリジメチルシロキサン)膜などの有機絶縁膜である。
ゲート電極18は絶縁膜12上に設けられている。図1及び図2では、ゲート電極18は、ソース電極16から右方向に一定の距離を隔てた領域の絶縁膜12上に配置されている。ゲート電極18とグラフェン14の間には高抵抗の導電層20が形成されている。導電層20は、図示されているようにゲート電極16とグラフェン14の絶縁膜17が被覆されていない露出表面を覆っていることが好ましいが、ゲート電極16とグラフェン14の下に形成されていても構わない。また、導電層20は、第1の物質19や第2の物質19aの表面を被覆していてもよい(図3(a)~図3(c))。導電層20のゲート電極18とグラフェン5の間の抵抗は、グラフェン14のソース電極16とドレイン電極15の間の抵抗よりも十分に大きい必要がある。一般的にグラフェン14のソース電極16とドレイン電極15の間の抵抗は数kΩ程度であるため、ゲート電極16と18グラフェン14の間の抵抗は、10MΩ以上100GΩ以下の範囲にあることが好ましい。また、後述のように実施形態のセンサ素子は、高湿度雰囲気下で用いるため、導電層20は吸湿することによって導電性を発現するものであっても構わない。導電層20の材質(材料)としては、例えば、カルボキシル基、リン酸基、スルフォン酸基、シラノール基、水酸基、アミノ基などの極性基を有するもの、塩の乾燥物、極薄膜のイオン液体などが用いられる。絶縁膜12及び絶縁膜17の表面に前記極性基が形成されていて、表面リークが起こる層を形成していても構わない。このような表面リーク層は、例えばUVオゾン処理を行うことによって得られる。あるいは、金属ナノ粒子を並べてプラズモンを用いて伝導させても構わない。ゲート電極16には導電性の材料が用いられることは勿論だが、その表面に金、白金、銀、塩化銀などが形成されていると、導電層20との電荷の授受が良好となるため、より好ましい。
実施形態のセンサ素子に対して、光の照射及びその停止を繰り返すと、光が照射されている第1の期間と、光が照射されていない第2の期間において、第1の物質19には電荷の変動が生じることがある。以下、光(照射光)が照射されている期間を光照射期間、光(照射光)が照射されていない期間を非光照射期間と呼ぶ。
例えば、センサ素子に光が照射されるとグラフェンが励起されて励起電子と正孔が発生する。ここで第1の物質19のエネルギー準位が電荷移動を誘発するような適当な位置にあった場合には、グラフェンの励起電子と正孔のいずれかが電荷移動して、第1の物質19の電荷が変化する。この場合、第1の物質19はアクセプターとしての振る舞いをしている。光の照射を停止すると、第1の物質19から電荷が放電される。
あるいは、第1の物質19が励起するような波長の光を照射した場合、第1の物質19が励起して、励起電子と正孔を発生する。ここで第1の物質19の励起電子と正孔のエネルギー準位と、グラフェンのフェルミ準位と、グラフェンの励起電子と正孔のエネルギー準位との関係が電荷移動を誘発するような位置関係にあった場合には、第1の物質19の励起電子と正孔のいずれかがグラフェンに電荷移動し、第1の物質19の電荷が変化する。この場合、第1の物質19はドナーとしての振る舞いをしている。光の照射を停止すると、第1の物質19の電荷が放電される。
あるいは、第1の物質19が金属ナノ粒子であった場合、光の照射によってプラズモンが励起する。ここでプラズモンのエネルギー準位と、グラフェンのフェルミ準位と、グラフェンの励起電子及び正孔のエネルギー準位との関係が電荷移動を誘発するような位置関係にあった場合には、プラズモン誘起電荷移動が起こり、第1の物質19の電荷が変化する。この場合、金属ナノ粒子はドナーとアクセプターのいずれかの振る舞いをしている。光の照射を停止すると、第1の物質19の電荷が放電される。
上記のように、第1の物質19に、ドナーや、アクセプターとして振る舞う物質を用いれば、光の点滅(光照射の有無)によって第1の物質19の電荷が変化する。すなわち、第1の物質は、グラフェン上に設けられることで、光の照射及びその停止によって電荷状態が変化可能になる。第1の物質19の電荷が変化するとグラフェンに第1の物質19の電荷と反対の電荷が静電誘導されるため、グラフェンのフェルミ準位が変化する。また、この際、前記導電層がグラフェン表面全体を被覆していると第1の物質19の電荷がグラフェン全体に静電誘導を引き起こし、フェルミ準位の変化がグラフェン全体に引き起こされる。グラフェンのフェルミ準位が変化するとキャリア密度が変化して、ソース・ドレイン電流が変化する。以上の振る舞いは、フォトゲーティング効果と呼ばれている。第1の物質19は、グラフェンとの間で電荷移動を引き起こすことが可能な物質である。第1の物質は、例えば、カルボキシル基、リン酸基、スルフォン酸基、シラノール基、水酸基、アミノ基などを有した物質、あるいは金属粒子などである。金属粒子は、例えば、金ナノ粒子である。あるいは、半導体材料や誘電体材料などのバンドギャップを有する物質、格子欠陥を持った結晶からなる物質、非局在化したπ電子を持つ物質、ハロゲン等の強い電子吸引性部分を持った分子なども第1の物質となる。
グラフェンFET1は、例えば、匂いセンサとして用いることができる。従来よりグラフェンFETを用いたガスセンサが知られているが、従来のガスセンサは、ガスの吸着によるソース電極とドレイン電極との間に流れる電流(以下、ソース・ドレイン電流という)の変化を読み取る方式を用いている。この方式の場合、ガスがグラフェンに吸着した際に強く帯電している必要があり、検出できるガスが限られていた。具体的には、強いアクセプター分子であるNOXガスや強いドナー分子であるアンモニアなどに限定される。これらの分子は、グラフェンに吸着した際に、グラフェンとの間で電荷移動が起こって帯電する。その結果、グラフェンには吸着分子の電荷と反対の電荷が静電誘導され、フェルミ準位が変化してソース・ドレイン電流が変化する。
グラフェンFET1は、フォトゲーティング効果を利用して、匂い等の標的物質を検出する点で、従来のグラフェンを用いたガスセンサとは異なる。実施形態のセンサ素子の場合、グラフェンに静電誘導させるために電荷が変化する物質は、検出する匂い分子ではなく第1の物質19である。検出する匂い分子は、第1の物質19の電荷の変化を阻害あるいは促進すれば検出することができるため、必ずしも匂い分子が強いドナーやアクセプターである必要がない。第1の物質19の電荷の変化は、導電層20の抵抗の変化、グラフェンと第1の物質19の間での電荷移動の阻害あるいは促進、グラフェンと第1の物質19のエネルギー準位の変化、第1の物質19の励起波長の変化など、第1の物質19の電荷の変化が生じる様々な過程が変化することによって起こすことができる。したがって、全く電荷を持たない匂い分子、例えば、ジメチルトリスルフィドやリモネンなどであっても、実施形態のセンサ素子を用いて検出することができる。また、水溶液中で解離して電荷を持つことができるような匂い分子も実施形態のセンサ素子で検出することができる。例えば、2-フェニルエチルアミンは、酸解離定数9.9(推定値)の1価の陽イオンであるが、グラフェンFETを2-フェニルエチルアミン雰囲気に曝露しても、グラフェンFETのソース・ドレイン電流は緩やかにしか変化せず、湿度の変動などの外乱要因によるノイズの方が大きく検出が困難であった。実施形態のセンサ素子を用いれば、2-フェニルエチルアミンの存在を明確に検出することができる。
図4は、標的物質の有無の違いによる、本実施形態のグラフェンFETのソース・ドレイン電流(検出電流)の時間変化を示す図である。横軸の「on」及び「off」は、それぞれ、光照射期間及び非光照射期間を示している。光の照射のon/offのサイクルは、例えば、10ミリ秒から数十秒の範囲内にある。光の波長は、例えば、650nmである。
図4に示すように、光照射期間のソース・ドレイン電流と非光照射期間のソース・ドレイン電流とは異なっている。その理由は以下のように考えられる。
光照射期間においてはグラフェンは光によって励起され、グラフェン14内には励起電子及び正孔が発生する。また、光照射期間においては、グラフェン14上の第1の物質19には電荷が留まっている。例えば、ドナーの場合、光照射期間においてはドナーは励起電子及び正孔を発生する。励起電子あるいは正孔は発生した場所に留まらずグラフェンへ電荷移動する。その結果、ドナーには電荷移動せずに残された電荷が留まることになる。
グラフェン14内には、静電誘導によって、上記第1の物質19とは逆の電荷が引き寄せられる。その結果、グラフェン14のフェルミ準位の位置が変化し、ソース・ドレイン電流は変化する。また、非光照射期間においては、第1の物質19から電荷は離れ、静電誘導が生じなくなる。その結果、フェルミ準位は元の位置に戻り、ソース・ドレイン電流も元に戻る。なお、第1の物質がグラフェンとは異なる仕事関数を持った物質の場合、光照射しなくとも電荷を持っていることがある。その場合であっても、上記のような電荷移動が生じれば、第1の物質の電荷は変化する。その結果、グラフェンは静電誘導の変化によってフェルミ準位が変化するため、ソース・ドレイン電流の変化として検出できる。
図4は、実施形態のセンサ素子を用いて標的とする匂い分子を検出した際のソース・ドレイン電流の変化の様子をイメージ図として示している。照射光の有無によってソース・ドレイン電流が大きく変化する。この照射光の有無の違いによるソース・ドレイン電流の変化が、標的物質がない場合とある場合とで振幅の差として明確に現れてくる。すなわち、本発明者の鋭意研究によれば、フォトゲーティング効果を利用した実施形態のグラフェンFETは、光照射の有無の違いによるソース・ドレイン電流の変化の大きさに基づいて、標的物質を容易に検出できる。すなわち、ソース電極とドレイン電極との間に流れる電流を測定することによって、標的物質の検出が可能である。
なお、図4の場合、ソース・ドレイン電流の変化である第1の差(標的物質あり)は第2の差(標的物質なし)よりも小さい事例を示しているが、第1の物質19によっては、第1の差(標的物質あり)は第2の差(標的物質なし)よりも大きくなる可能性はある。
図5は、実施形態のグラフェンFETを乾燥雰囲気(雰囲気中の水蒸気の量や割合が一定未満である環境)に晒した場合のソース・ドレイン電流の時間変化を示す図である。
図5から、実施形態のグラフェンFETを乾燥雰囲気に晒した場合には、照射光の有無の違いによるソース・ドレイン電流の変化は小さいことが確認された。これは乾燥雰囲気ではフォトゲーティング効果(光応答)を引き起こす過程のいずれかが阻害されているためと考えられる。
次に、実施形態のグラフェンFETを高湿度雰囲気(雰囲気中の水蒸気の量や割合が一定値を超える環境)に晒した場合のソース・ドレイン電流の時間変化を調べた。より詳細には、純水を注入したカップとともに実施形態のグラフェンFETを密閉容器に収容し、ソース・ドレイン電流の時間変化を調べた。
図6は、実施形態のグラフェンFETを純水とともに密閉容器内に収容した場合のソース・ドレイン電流の時間変化を示す図である。
図6から、一定の時間が経過する前は光照射の有無の違いによるソース・ドレイン電流の差は小さく、一定の時間が経過した後はソース・ドレイン電流の差は大きくなることが分かる。この結果は以下のように考えられる。
容器内の純水が水蒸気に変わるまではある程度の時間を要する。そのため、一定の時間が経過する前は容器内の水蒸気の量や割合は一定値未満であり、一定の時間が経過した後は容器内の水蒸気の量や割合は一定値を超える。すなわち、一定の時間が経過した後、実施形態のグラフェンFETは高湿度雰囲気内に曝されることになる。したがって、図6の測定結果は、実施形態のグラフェンFET(グラフェン)に高湿度のガスを供給すると、実施形態のグラフェンFETのフォトゲーティング効果(光応答)が増幅されることを示しているといえる。
高湿度雰囲気の場合に、フォトゲーティング効果が増幅される理由としては、例えば、以下のことが考えられる。第1の物質19がドナーの場合、光照射期間においてはドナーは励起電子及び正孔を発生する。励起電子と正孔のいずれかは発生した場所に留まらずにグラフェンへ電荷移動して残された電荷がドナーにトラップされている。高湿度のガスは、この電荷移動若しくは残留電荷のトラップ、又は、その両方を促進することが考えられる。あるいはドナーの励起波長を変化させて、促進していることも考えられる。また、グラフェン内では、静電誘導によってドナーの電荷とは逆の電荷が引き寄せられる。さらに導電層がグラフェン上に形成されている場合、ドナーの電荷がグラフェン全体に及ぶため、静電誘導がグラフェン全体で発生する。高湿度のガスは、この静電誘導の過程を促進することが考えられる。
すなわち、高い湿度は、ドナーの励起、電荷移動、電荷トラップ及び静電誘導の少なくとも一つを促進し、その結果としてフォトゲーティング効果が増幅されると考えられる。
ここでは、第1の物質19がドナーの場合についてフォトゲーティング効果が増幅される理由を説明したが、アクセプタの場合でも、電荷移動、電荷トラップ及び静電誘導の少なくとも一つが促進され、フォトゲーティング効果が増幅されると考えられる。さらに金属ナノ粒子の場合には、プラズモン励起波長が変化して、フォトゲーティング効果が増幅されることも生じ得る。
また、グラフェン14や第1の物質19に標的物質が吸着されたり、分子プローブ等の第2の物質19aに標的物質が捕捉され、第2の物質19aの構造が変化すると、第1の物質の励起、電荷移動、電荷トラップ及び静電誘導の少なくとも一つが阻害又は促進される。したがって、標的物質の吸着や第2の物質19aの構造変化によってもフォトゲーティング効果(光応答)は変化する。
図7は、値の異なる複数のゲート電圧(Vg)についてソース・ドレイン電流の時間変化を調べた結果を示す図である。照射光のon/offを図示すると煩雑になるため、照射光を照射したタイミングを矢印で図示してある。ゲート電圧は、-350mV、-250mV、-150mV、-50mV、50mVである。
図7から、ゲート電圧の値が異なると、ソース・ドレイン電流の値や波形も異なることから、ゲート電圧はフォトゲーティング効果(光応答)に影響を与えることが分かる。これは、ゲート電圧を適正な値に調整することによってフォトゲーティング効果(光応答)を増幅できることを意味している。
-350mVから-50mVへゲート電圧を上げていくとソース・ドレイン電流の絶対値が低下していき、-250mVから-50mVの範囲では、照射光点滅によるソース・ドレイン電流の変化も小さくなってきていることが分かる。また、-350mVからー50mVの途中までは、光照射によってソース・ドレイン電流が低下する方向に変化しているが、-50mVの途中から逆方向の変化、すなわち光照射によりソース・ドレイン電流が上昇する方向に変わってきており、さらにゲート電圧を+50mVに上げると、光照射によるソース・ドレイン電流の上昇が大きくなってきている。この現象は、本図より光の照射時のソース・ドレイン電流値と光の照射の停止時のソース・ドレイン電流値を読み取って、ゲート電圧との関係を図示することによって理解できる。
図8は、光照射の有無の違いにおけるソース・ドレイン電流とゲート電圧との関係を調べた結果を示す図である。光照射期間の結果は白抜きの菱形及び破線で示され、非光照射期間の結果は黒丸及び実線で示されている。
ゲート電圧(Vg)が-350mVの場合、光照射期間のソース・ドレイン電流は非光照射期間のソース・ドレイン電流よりも小さい。
ゲート電圧が-250mVの場合、光照射期間のソース・ドレイン電流は非光照射期間のソース・ドレイン電流よりも小さい。
ここで、非光照射期間のソース・ドレイン電流から光照射期間のソース・ドレイン電流を引いたものを電流差ΔIとすると、Vg=-250mVの場合の電流差ΔIは、Vg=-350mVの場合の電流差ΔIよりも大きい。
ゲート電圧が-150mVの場合、光照射期間のソース・ドレイン電流は非光照射期間のソース・ドレイン電流よりも小さい。しかし、Vg=-150mVの場合の電流差ΔIは、Vg=-350mV及びVg=-250mVの場合の電流差ΔIよりも小さい。
ゲート電圧が-50mVの場合、光照射期間のソース・ドレイン電流と非光照射期間のソース・ドレイン電流との大小関係が時間経過とともに反転している。さらに、Vg=-50mVの場合の電流差ΔIの絶対値は、反転前後ともにVg=-350mV、Vg=-250mV及び-150mVの場合の電流差ΔIよりも小さい。
ゲート電圧が50mVの場合、光照射期間のソース・ドレイン電流は非光照射期間のソース・ドレイン電流よりも大きい。Vg=50mVの場合、電流差ΔIは負の値となっていて、Vg=-50mVの反転後の電流差△Iよりも絶対値が大きくなっている。
以上の結果は以下のように考えられる。
まず、光照射期間と非光照射期間とでソース・ドレイン電流の値に差が生じるのは、光の照射によって第1の物質19の帯電が正電荷側に変化し、フォトゲーティング効果(光応答)が生じたからだと考えられる。
グラフェンのソース・ドレイン電流のゲート電圧依存性は、一般的にV字型の特性を示すことが知られている。V字の底の最も低電流となっている点は、ディラック点と呼ばれキャリア密度が最も少なくなっている状態である。ディラック点の右側(ゲート電圧が高電圧側)は電子がキャリア(電子伝導領域)となっており、ディラック点から遠ざかるほど(ゲート電圧が高電圧になるほど)キャリア密度が高まって、ソース・ドレイン電流が上昇する。一方、ディラック点の左側(ゲート電圧が低電圧側)では正孔がキャリア(正孔伝導領域)となっていて、ディラック点から遠ざかるほど(ゲート電圧が低電圧になるほど)キャリア密度が高まって、ソース・ドレイン電流が上昇する。ディラック点の近傍では理論的なキャリア密度が少ないため熱励起などで僅かにキャリアが増えるとその影響が大きく現れてしまうため、少し嵩上げされてU字のような形となり、ゲート電圧の変化に対するソース・ドレイン電流の変化が鈍っている。この現象はディラック点から遠ざかってキャリア密度が上昇してくるに従って、無視できるようになるため、ゲート電圧に対するソース・ドレイン電流の変化が大きくなってくる。ディラック点からさらに遠ざかると、やがてキャリア密度の上昇が鈍ってきて、再びゲート電圧に対するソース・ドレイン電流の変化が小さくなってくる。
このようなグラフェンの電気特性は、ゲート電圧を変えることによって、グラフェンのフェルミ準位が変調されることに起因している。すなわちフェルミ準位がディラック点にあったとき、グラフェンのキャリア密度は最も少なくなり、そこからゲート電圧を上げて、フェルミ準位を高くすると電子伝導領域に入り、さらにゲート電圧を上げていって、フェルミ準位を高くしていくとキャリア密度が上昇していく。またゲート電圧を低くして、フェルミ準位がディラック点より低くした場合には、正孔伝導領域に入っていて、そこからゲート電圧をさらに下げて、フェルミ準位を低くしていくとキャリア密度が上昇してくる。
図8のソース・ドレイン電流のゲート電圧依存性は、光照射期間と非光照射期間のいずれにおいても前述の典型的なグラフェンのV字型の電気特性を示している。また非光照射期間のV字曲線に対して、光照射期間のV字曲線が左側(ゲート電圧が低電圧側)にシフトしていることから、光照射によって、グラフェンに負電荷が注入されたことを示している。グラフェン上に正電荷が発現すれば、静電誘導によってグラフェン内に負電荷が引き寄せられるため、このような状況を作ることができる。ここでは、第1の物質が光照射によって正電荷に帯電した(正確には正電荷側に帯電量が変化した)ことによって、このような電気特性の変化を引き起こしたものと説明できる。
Vg=50mVで電流差△Iが負の値を取ったのは、フェルミ準位がディラック点よりも高い位置にあり、電子伝導領域にあったためと考えることができる。電子伝導状態のため、光照射によってグラフェンに負電荷が注入されるとキャリアとなる電子の密度が上昇するためである。
Vg=-50mVで電流差△Iが全体に絶対値が小さく、また時間経過とともに正の値から負の値に反転したのは、フェルミ準位がディラック点近傍の少し低い位置にあり、時間経過とともにフェルミ準位が上昇してディラック点を越えたためと考えられる。
なお、図8の測定は、Vg=-350mV、-250mV、-150mV、-50mV、50mVの順番に行っている。また、Vg=-350mVの前は、Vg=0mVの測定を行っていた。実施形態のセンサ素子におけるゲート電圧の印加は、素子表面の高抵抗の導電層を介して行われるため、ゲート電圧が安定するまでに一定の時間を要する。Vg=-350mVのソース・ドレイン電流が徐々に高まってきているのは、直前のVg=0mVの電位が残っているためであり、Vg=-250mV以降のソース・ドレイン電流が徐々に下がってきているのは、直前の測定の電位が残っているためである。
Vg=-50mVでの測定は、上記現象によりゲート電圧が徐々に印加されてくることにより、フェルミ準位が徐々に高まっていたものと推定できる。その結果、ディラック点の少し下にあったフェルミ準位がディラック点を越えたものと推定できる。
Vg=-150mVと-250mVでは、ディラック点から離れていくほど、光照射によるソース・ドレイン電流変化が大きくなっているが、これは上記グラフェンの一般的な電気特性から、ディラック点から遠ざかるほどゲート電圧に対するソース・ドレイン電流の変化、すなわち傾きが大きくなるためである。
Vg=-350mVでは、-250mVに比べて、光照射によるソース・ドレイン電流変化が小さくなり始めているが、これも上記グラフェンの一般的な電気特性からディラック点から遠ざかりすぎると、ゲート電圧に対するソース・ドレイン電流の変化、すなわち傾き、が鈍ってくるためである。
以上のようにグラフェンのフェルミ準位が変わるとフォトゲーティング効果の大きさも変わってくる。また、グラフェンのフェルミ準位はゲート電圧を変えれば変調することができる。したがって、ゲート電圧を制御することにより、フェルミ準位をフォトゲーティング効果が最大になるように調整することもできるし、フォトゲーティング効果が一定となるようにフェルミ準位を固定することもできる。例えば、非光照射期間のソース・ドレイン電流値が一定になるようにゲート電圧をフィードバック制御してやれば、グラフェンの基底状態のフェルミ準位が固定されるため、光照射時に一定のフォトゲーティング効果を得ることができる。
本発明者は、実施形態のグラフェンFETを用いてジメチルトリスルフィド(DMTS)を検出できるか否かを調べた。DMTSはCH-S-S-S-CHの構造を持ったスルフィド化合物の一つである。
第1の物質と導電層としては金ナノ粒子とクエン酸乾燥物を用いた。このような金ナノ粒子とクエン酸乾燥物をグラフェンFETに実装するには、例えば、以下の処理を行う。まず、グラフェン上に金ナノ粒子とクエン酸を含む分散溶液を例えば10μL滴下し、その後、自然乾燥で分散溶液を気化する。
図9は、実施形態のグラフェンFETにDMTSを含む窒素ガス及び窒素ガスを供給した場合のそれぞれのソース・ドレイン電流の時間変化を示す図、図10はこのソース・ドレイン電流の時間変化を調べる実験に用いた装置の構成を示す図である。窒素ボンベ70から乾燥窒素を供給し、マスフローコントローラ71によって流量200mL/分に制御する。その後、加湿ユニット72で相対湿度98%以上に加湿し、アクリル製の透明カセット76にセットされたセンサ素子へと送り込まれる。透明カセット76の上にはLED光源77が置かれており、波長660nmの光78の出射及びその停止をできるようになっている。アクリルカセット76とLED光源77は、暗室内に設置した。また、加湿ユニット72と透明カセット76の間の配管には、三方コック73によって、加湿窒素を直接透明カセット76に送り込む経路と、DMTSの入ったインピンジャ74を介して、DMTSを含む加湿窒素を透明カセット76に送り込む経路が設けてある。
図9に示すように、実施形態のグラフェンFETに、高湿度の窒素ガスを供給した後、DMTSを含む高湿度の窒素ガスを供給し、その後、再び高湿度の窒素ガスを供給した。ゲート電圧は0mVとし、LED光のon/offサイクルは5秒/5秒とした。図が煩雑になるため、図示しないが、LED光の照射によって、ソース・ドレイン電流が上昇する挙動を示している。図中でソース・ドレイン電流が上下動しているのは、LED光のon/offによる変化が観察されたものである。
図9から、DMTSを含む高湿度窒素ガスを供給した場合のソース・ドレイン電流の最小値と最大値との差は、DMTSを含まない高湿度の窒素ガスを供給した場合のソース・ドレイン電流の最小値と最大値との差よりも明確に小さくなっている。また、DMTSを供給した直後のサイクルから振幅が変わってきているため、実施形態のグラフェンFETは、DMTSの存在を数秒前後でリアルタイム検出できることを示している。一方、DMTSがなくなった際の応答には、2~3サイクルを要していることから、吸着したDMTSを解離させるためには数十秒程度の時間を要することも分かった。ただし、DMTSを検出するためのセンサとしては、DMTSが減った時の応答が速いことよりも、DMTSが増えた時の応答が速いことの方が重要であるため、本結果は実施形態のグラフェンFETがDMTS検知センサとして十分有用であることを示すものである。
一方、従来技術のグラフェンFETでDMTS検出を試みた結果を図11に示す。金ナノ粒子等の薬液処理を何も行っていないグラフェンFETを、空調された室内で加湿せずに、各種匂い成分とともに密閉容器に閉じ込めてソース・ドレイン電流を測定した結果である。ゲート電圧は0mVとし、光照射は、30秒/30秒のon/offサイクルで行っている(煩雑となるため不図示)。初めに匂い成分を同梱せずに空気だけで測定した後、容器を開けて安息香酸メチルと同梱して再密閉して測定した後、容器を開けてメントールと同梱して再密閉して測定、以下同様に、アセトニトリルと同梱して密閉、1-オクテンー3-オールと同梱して密閉、DMTSと同梱して密閉して、ソース・ドレイン電流を測定している。各種匂い分子と同梱して密閉することにより、徐々にその匂い分子が気化して気中濃度が上昇してくるため、従来技術で検出できるのであればソース・ドレイン電流が徐々に変化してくるはずであるが、そのような挙動はすべての匂い成分において観察されていない。また光照射のon/offによるフォトゲーティング効果もほとんど観察されておらず、各種匂い成分によるその変化も観察されていない。この結果は、従来技術では多くの匂い成分を検出することが出来ないこと、特に、DMTSが検出できないことを示している。また従来技術のままフォトゲーティング効果を匂い検出に利用しようとしても、困難であることを示している。
なお、実施形態のグラフェンFETは、金ナノ粒子へのスルフィド化合物の吸着によって検出されていることが予想されるため、DTMS以外のスルフィド化合物を検出することも可能である。例えば、図示しないが、ゴム製の暗幕を用いた暗室中でフォトゲーティング効果の測定をしていたところ、途中からフォトゲーティング効果が減衰するという結果も得られている。これはゴムの加硫剤の含硫黄成分が匂い成分として暗室内に充満し、金属ナノ粒子に吸着して起きた変化と推定される。
本発明者は、実施形態のグラフェンFETを用いて2-フェニルエチルアミン、安息香酸メチルを検出できるか否かを調べた。2-フェニルエチルアミンは覚醒剤の一種であるアンフェタミンの類似分子であり、安息香酸メチルはコカインの匂い分子である。
また、第1の物質と導電層としては金ナノ粒子とクエン酸乾燥物を用いた。更に第2の物質として抗メタンフェタミンアプタマーを用いた。抗メタンフェタミンアプタマーは、覚醒剤のメタンフェタミンとアンフェタミンに結合するDNAであり、本実験では、金ナノ粒子に固着させるため、5‘末端にチオール基(-SH)修飾した。塩基配列は、「5’ SH - TTT ACT GGA GCT CAA TCA GTA CAC GAC GGT TGC AAG TGG GAC TCT GGT AGG CTG GGT TAA TTT GGG ACA AGC TTC AAC CAT GGA GTA 3’」である。
このような金ナノ粒子、クエン酸乾燥物及び抗メタンフェタミンアプタマーをグラフェンFETに実装するには、例えば、以下の処理を行う。まず、グラフェン上に金ナノ粒子とクエン酸を含む分散溶液を例えば10μL滴下し、その後、分散溶液を自然乾燥する。次に、グラフェン上に抗メタンフェタミンアプタマー1μM溶液を5μL滴下し、その後、アプタマー溶液が乾燥しないように高湿度雰囲気に密閉し、グラフェンFETを1時間放置した。次に、滴下した溶液の一部を吸湿紙で吸取り、その後、自然乾燥で残り溶液を気化する。
センサの実験の前に、2-フェニルエチルアミンとの結合力を、等温滴定カロリーメトリー(isothermal titration calorimetry、略称: ITC)を用いて測定した。チオール基修飾していない抗メタンフェタミンアプタマーを用いて、ITC測定したところ、解離定数として10μMの結果が得られた。これは2-フェニルエチルアミン濃度が10μMの時にその半分の数の分子が抗メタンフェタミンアプタマーと結合しているということを意味しており、アプタマーの結合力としては標準的な強さであることを示している。
図12は、実施形態のグラフェンFETに2-フェニルエチルアミンを含む窒素ガス、安息香酸メチルを含む窒素ガス及び窒素ガスを供給した場合のそれぞれのソース・ドレイン電流の時間変化を示す図である。実験は図10に示すDMTS検出実験と同じ構成で行っており、インピンジャの中に入れた匂い分子がDMTSから、2-フェニルエチルアミンと安息香酸メチルに変更したものを用いている。流量は図10の場合と同様に200mL/分とし、2-フェニルエチルアミンを含む窒素ガス、安息香酸メチルを含む窒素ガス及び窒素ガスのいずれも加湿ユニットを介して相対湿度98%以上として、実施形態のグラフェンFETに供給している。LED光源も同じ660nm波長のものを用いていて、on/offサイクルは5秒/5秒とした。ゲート電圧は、0mVに設定した。
図12に示すように、実施形態のグラフェンFETには、まず2-フェニルエチルアミンの入ったインピンジャをつないだ配管系を組み上げた後、高湿度の窒素ガスが供給され、次に2-フェニルエチルアミンを含む高湿度窒素ガスが供給され、次に高湿度の窒素ガスが供給され、次に配管系を安息香酸メチルの入ったインピンジャにつなぎなおした後、高湿度の窒素ガスが供給され、次に安息香酸メチルを含む高湿度窒素ガスが供給され、そして、高湿度の窒素ガスが供給される。
図12から、2-フェニルエチルアミンを含む高湿度窒素ガスを供給した場合のソース・ドレイン電流の最小値と最大値との差は、高湿度の窒素ガスを供給した場合のソース・ドレイン電流の最小値と最大値の差よりも明らかに小さい。さらにガスを切り換えた後、数秒以内に応答していることも分かる。したがって、図12から、実施形態のグラフェンFETは、ソース・ドレイン電流のフォトゲーティング効果による変化に基づいて、2-フェニルエチルアミンを容易かつリアルタイムに検出できるといえる。
一方、高湿度の安息香酸メチルガスを供給した場合のソース・ドレイン電流の最小値と最大値との差は、高湿度の窒素ガスを供給した場合のソース・ドレイン電流の最小値と最大値の差とあまり変わらない。この結果は、本実験が2-フェニルエチルアミンを選択的に検出していることを示している。
以上のことから、実施形態のグラフェンFETを用いれば、2-フェニルエチルアミンを安息香酸メチルと識別して検出することができる。すなわち、覚醒剤をコカインと間違えることなく選択的に検出できることを示している。
なお、安息香酸メチルに特異的に結合する第2の物質19aを用いれば、安息香酸メチルを検出することは可能である。
実施形態のグラフェンFETは、上述した以外の標的物質であって周知のグラフェンFETでは検出が困難又は検出が不可能な物質、例えば、コカインの別の匂い成分であるエクゴニン誘導体、メタンフェタミンやアンフェタミン等の覚醒剤、大麻の匂い成分であるカリオフィレン及びその誘導体、MDMA(メチレンジオキシメタンフェタミン、俗にエクスタシーと呼ばれる幻覚剤)の匂い成分であるヘリオトロピンやMDP2P(3,4-メチレンジオキシフェニルプロパン-2-オン)等を検出することが可能である。また、これらの匂い成分の検出から、匂いの発生源であるコカインや覚醒剤、大麻、MDMAの存在を検出することができる。これらの他の標的物質を検出する際には第2の物質19aを、それらの標的物質と結合するものを用いる。特定の標的物質に結合する第2の物質を得るためには、例えば第2の物質が核酸アプタマーであれば、SELEX(Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment)法という手法で得ることができる。SELEX法においては、1014種類程度の配列を持った核酸ライブラリーを標的物質と混ぜて、結合したものを抽出してPCR(polymerase chain reaction)増幅する。PCR増幅した核酸プールの中には、標的物質と結合する配列が高濃度に存在しているため、これを再び標的物質と混ぜて、結合したものを抽出してPCR(polymerase chain reaction)増幅するという工程を繰り返していくと、徐々に結合能の高い配列が濃縮されてくるという手法である。
また、実施形態のグラフェンFETによって、柑橘類の匂いの主成分であるリモネンを検出することもできる。リモネンは、化学式C1016で表される無電荷のモノテルペン類であり、従来技術のセンサーでは検出することが困難であった。リモネンに対して結合する分子プローブとしては、N末端-RRWLLLW-C末端のアミノ酸配列を持ったペプチドが強く結合することを発明者らが見出している。ここで、Rはアルギニン、Wはトリプトファン、Lはロイシンを表す略号である。ITC法によって測定された解離定数は12μMであった。
まず、グラフェン上にN末端―CGGGRGAGAGAR-C末端のアミノ酸配列を持ったペプチドの500nM溶液を10μL滴下し、高湿度雰囲気中で1時間放置した後、純水で洗浄した。ここでCはシステイン、Gはグリシン、Aはアラニンを表す略号である。本配列のペプチドはGAGAGAの部分がβシート構造を形成してグラフェン上に単分子膜を自己組織化することが確認されている。これにより、金ナノ粒子に結合するチオール基(システイン側鎖のーSH基)がグラフェン上に整列されるため、その後、金ナノ粒子分散溶液10μLを滴下、自然乾燥させた後、N末端―RRWLLLWRRCC―C末端の配列を持ったペプチドの1μM溶液を滴下し、高湿度雰囲気中で1時間放置した後、滴下した溶液の一部を吸湿紙で吸取り、その後、自然乾燥で残り溶液を気化させた。C末端側にRRCCのアミノ酸を追加した理由は、RRによってペプチドの水への溶解性を高めるためと、CCによって金ナノ粒子への固定をするためである。上記処理を行ったグラフェンFETを純水とリモネンとともに密閉した場合のフォトゲーティング効果によるソース・ドレイン電流の変化と、純水だけとともに密閉した場合のフォトゲーティング効果によるソース・ドレイン電流の変化とを比較すると、前者の方が電流変化が小さくなっており(不図示)、本実施形態によるグラフェンFETでリモネンの検出もできることが確認できた。また、リモネンは柑橘類の匂いの主成分であるため、本実施形態によるグラフェンFETでリモネンの発生源である柑橘類の存在も検出することができる。なお、日本国においては、柑橘類栽培に重大な損害を与える外来種であるミバエの水際対策として、柑橘類の輸入を禁止している。本実施形態によるグラフェンFETは、空港等において不法持ち込みされる柑橘類の検出センサとしても利用することができる。
上記のように、本実施形態によれば、様々な標的物質をリアルタイムに検出することが可能であり、また選択的な識別を行うことも可能となる。
以下、本実施形態のグラフェンFETを用いるセンサ回路、センサシステム及び検出方法について説明する。本実施形態のグラフェンFETを用いることで、様々な匂い成分およびその匂い成分を発生させている対象物の検出が可能なセンサ回路、センサシステム及び検出方法を提供できる。
図13は、実施形態のセンサ回路(センサ装置)2と光源回路を示すブロック図である。
センサ回路2は、グラフェンFET1と、ドレイン電圧制御部21と、ソース電圧制御部22と、ソース・ドレイン間電流計測部23と、判定部24と、ゲート電圧制御部25とを含む。センサ回路2を構成する各要素1,21~25は、例えば、シリコン基板上に形成してもよいし、グラフェンFETチップを実装したモジュール上に形成してもよいし、グラフェンFETチップが実装された交換カートリッジが挿入されるシステム筐体内に形成してもよい。なお、図13では、グラフェンFET1の個数は1であるが、その個数は2以上でもよい。更に、標的物質の種類が異なる複数のグラフェンFET1を1チップ化してもよいし、チップ積層技術を用いて配線チップ上に複数のグラフェンFETチップを高密度実装してもよい。光源回路51は、光源であるLEDチップ55と、LEDチップ55の駆動電流あるいは駆動電圧を制御する電源制御回路56と、LEDチップ55の光量を計測するためのフォトディテクター(PD)57とからなる。LED電源制御回路56は、PD57からの光量情報をもとに必要に応じて電流値あるいは電圧値の調整を行う。また、LED電源制御回路56は、指定されたon/offサイクル合わせた点滅も制御し、その同期信号をセンサー回路2の判定部24とゲート電圧制御部25へ送る。光源回路51は、グラフェンFETチップ1を含む構成要素が実装された交換カートリッジが挿入されるシステム筐体内に形成される。
ドレイン電圧制御部21は、グラフェンFET1のドレイン電極に印加する電圧を制御する。ソース電圧制御部22は、グラフェンFET1のソース電極に印加する電圧を制御する。ソース・ドレイン間電流計測部23は、グラフェンFET1のソース電極とドレイン電極との間に流れるソース・ドレイン電流を計測する。
判定部24は、計測したソース・ドレイン電流と光源回路から届いた同期信号に基づいて、標的物質の検出の有無を判定する。より詳細には以下の通りである。
標的物質の濃度を変えて高湿度雰囲気中にグラフェンFET1を曝した場合のソース・ドレイン電流の時間変化(波形)を光源の同期信号とともに予め取得しておく。また、標的物質を含まない高湿度雰囲気中にグラフェンFET1を曝した場合のソース・ドレイン電流の時間変化(波形)も光源の同期信号とともに予め取得しておく。これらのソース・ドレイン電流の時間変化情報を濃度依存性の参照データとして、例えば、判定部24内に格納される。また、所定の閾値を設定して、これも例えば、判定部24内に格納される。
判定部24は、計測したソース・ドレイン電流と参照データに基づいて、高湿度雰囲気中の標的物質の濃度を判定する。また、計測したソース・ドレイン電流の光源on/offに伴う時間変化の変動が、設定した閾値よりも大きい場合には、高湿度雰囲気中に標的物質が含まれていると判定する。また、計測したソース・ドレイン電流の光源on/offに伴う時間変化の変動が、設定した閾値よりも小さい場合には、高湿度雰囲気中に標的物質が含まれていないと判定する。
この判定は、例えば、計測したソース・ドレイン電流の光を照射した時から所定時間の経過後の値と光の照射を停止した時から所定時間の経過後の値との差の絶対値を連続的に計算していって、この値の変動が閾値よりも大きくなった場合には高湿度雰囲気中に標的物質が含まれていると判定し、また、当該絶対値の変動が閾値より小さいままである場合には、高湿度雰囲気中に標的物質が含まれていないと判定する。なお、光源点滅のサイクルとデューティ比、光照射後のソース・ドレイン電流計測する時間、光の照射を停止後のソース・ドレイン電流を計測する時間、閾値については、標的物質の種類、グラフェンFETの種類に合わせて、最適な値を適宜設定することができる。
また、上記実施形態では単純なon/offサイクルを事例に説明したが、複数の周期をヘテロダインに重畳させても構わない。一例を図16及び図17に示す。図17は図16の実線で囲まれた範囲の拡大図である。デューティ比は2:1とし、まず20ms/10msのon/offサイクルを10サイクル、300ms与える。ここで光照射期間は計200msに対し、非光照射期間は計100msとなるため、差分の100msに対してデューティ比2:1で50msの非光照射期間を与える。これにより300msの光点滅期間と50msの非光照射期間のサイクルができるため、これを10サイクル、3.5秒与える。この時、光照射期間と非光照射期間の差は500msとなるため、デューティ比2:1で250msの非光照射期間を与える。これにより3.75秒サイクルの光点滅期間/非光照射期間のサイクルが作られるため、これをさらに10サイクル、37.5秒与える。このようにして複数の異なる周期を重畳させていけば、フォトゲーティング効果によるソース・ドレイン電流の変化の時間応答の情報を複数得られることになる。例えば、点滅した瞬間の高速な応答とその後の緩やかな応答などを一括して取得することができる。また本実施形態では、デューティ比2:1で10サイクル単位の重畳を行った事例を紹介したが、デューティ比もサイクル数も取得したい情報に合わせて任意に変更して構わない。
ゲート電圧制御部25は、計測したソース・ドレイン電流に基づいて、ゲート電圧を制御する。より詳細には次の通りである。予め、ゲート電圧を変えて、照射光を点滅した際のソース・ドレイン電流の変化を計測しておき、ソース・ドレイン電流の変化が最大となるゲート電圧とソース・ドレイン電流値の最適範囲を計測しておく。この際、範囲を決めるためのソース・ドレイン電流値は、光の照射時の値でもよいし、光の照射の停止時の値でもよい。また光の照射時から一定の期間の経過後の値や光の照射の停止時から一定の期間の経過後の値、光の照射時の値と光の照射の停止後の値の両方の値を用いても構わない。あるいは、その二つの値の平均値や点滅している期間の平均値を用いても構わない。要はグラフェンのフェルミ準位を固定するうえで、最も使いやすい値を用いればよい。計測したゲート電圧とソース・ドレイン電流値の最適範囲は、参照データとして、例えばゲート電圧制御部25内に格納される。次に計測する際には、ゲート電圧制御部によって、まず事前に参照データとして取得した最適ゲート電圧範囲のゲート電圧を印加する。この際に、ソース・ドレイン間電流計測部で計測されたソース・ドレイン電流の値を元に、必要に応じてLED電源制御回路から送られるon/off同期信号も用いて、参照データとして取得した最適ソース・ドレイン電流の範囲になるように、必要に応じてゲート電圧を調整する。ソース・ドレイン電流が最適範囲に調整出来た後、センサによる計測開始準備ができたことを知らせる信号を出力する。当該信号は例えば判定部24に入力され、判定部24はソース・ドレイン間電流計測部23に基づいて判定を行う。一方、計測されたソース・ドレイン電流が最適範囲に調整できなかった場合には、計測開始準備ができなったことを知らせる信号を出力する。センシングシステムはこれらの信号をもとに、計測の運転と停止を制御するか、あるいは計測結果が取得された際の状態として記録するなどの運用を行う。
さらにセンシング中にも様々な外乱ノイズ等によって、ソース・ドレイン電流が変動し最適範囲から逸脱することも想定される。そこで必要に応じて、センシング中にもソース・ドレイン電流値をモニターしながら、ソース・ドレイン電流値を最適範囲に収めるようにゲート電圧を調整していく。
図14は、実施形態のセンサシステム3を示すブロック図である。
センサシステム3は、加湿ユニット30と、センサユニット40と、照射ユニット50と、配管61~65とを含む。
加湿ユニット30には配管61が接続されている。標的物質を含む可能性があるガス(検体ガス)9は配管61を介して加湿ユニット30内に導入される。加湿ユニット30は導入されたガス9を加湿する。
加湿ユニット30で加湿された検体ガスは、配管62及び配管63を介して、センサユニット40内に導入される。配管63の一端は配管62に接続され、配管63の他端はセンサユニット40に接続されている。
センサユニット40は、グラフェンFET1と、第1の部材41と第2の部材42とを含む。
第1の部材41の表面には凹部が設けられ、この凹部内にグラフェンFET1を含む部品2が設けられている。
第2の部材42は第1の部材41上に設けられている。第2の部材42は、第1のガス流路43と、空洞部44と、第2のガス流路45と、窓部46とを含む。
空洞部44において、グラフェンFET1のグラフェンは空洞部44内に露出する。
第1のガス流路43は空洞部44と配管63とを繋いでいる。したがって、配管63から導入された湿度が高められた検体ガスは、グラフェンFET1のグラフェンに供給される。
第2のガス流路45は、グラフェンFET1のグラフェンに供給された検体ガスを排気するために設けられている。第2のガス流路45は配管64に接続され、配管64は配管65に接続されている。配管64は第2の部材42に設けられている。配管64の一端は第2のガス流路45に接続され、配管64の他端は配管65の一端に接続されている。
配管65の他端は吸引ポンプ等を含む排気システム(不図示)に接続されている。その結果、配管61から導入される検体ガス9は、加湿ユニット30やセンサユニット40などを経由して配管65から排気されることになる
窓部45は空洞部44上に設けられている。窓部45は照射光に対して透明である。すなわち、照射光は窓部45を透過することができる。透明材料としては、アクリル樹脂やガラス、石英が一般的である。一方、部材42の窓部45以外の部分は遮光性の材料で形成されている。
また、第1の部材41の凹部に挿入されるセンサ部品2は、交換可能なカートリッジ型とすることができる。例えば、第1の部材41と、第2の部材42とが開閉可能となっていて、凹部にセンサ部品2を格納した後、第1の部材41と第2の部材42とを閉めなおすと、センサ部品2のグラフェン部分が空洞部44の位置に合わさるとともに、センサー部品に形成された電気入出力端子が、第1の部材41と、第2の部材42のいずれかに形成されたコネクタ端子に接触して、センサユニット40あるいはその外側から電気的な入出力を行うことができる。
さらに、図示しないが、センサーユニット40には、必要に応じて温度調整装置を組み込むこともできる。温度調整装置としては、例えばペルチェ素子などが用いられる。
照射ユニット50は、光源51と、光ファイバ52(光伝送路)とを含む。光源51は照射光として用いる光を発生する。光ファイバ52の光の出口側の部分は、第2の部材42内に設けられた穴を介して窓部45に繋がっている。したがって、光源51から出射した光53は、光ファイバ52を介して、グラフェンFET1のグラフェンに照射される。また、第2の部材42に設けられた穴と光ファイバの間の隙間から外部光が漏れ入らないように隙間を遮光材料で埋める工夫がなされる。具体的には第2の部材42の穴の出口部に遮光性のゴムが設ける、あるいは遮光性の接着剤を塗布するなどの方法が用いられる。
図15は、加湿ユニット30の構成の一例を示す図である。
加湿ユニット30は、配管31と、配管31の内壁に設けられた親水性不織布32と、親水性不織布32に水を供給する水供給部33とを含む。
水供給部33は、水が蓄えられた容器34と、容器34内に蓄えられた水を親水性不織布32内に供給する細い筒状の供給部35とを含む。供給部36は配管31を貫通して親水性不織布32に接触する。
なお、図示しないが、センサーシステム内に温湿度計を設置することもできる。設置場所は、例えば配管65の途中などである。
次に実施形態の検出方法について説明する。実施形態の検出方法は実施形態のグラフェンFET(以下、単にグラフェンFETという)を用いる。
実施形態の検出方法は、グラフェンFETのグラフェン上において光を点滅する第1の工程と、標的物質を含む可能性のあるガス(検体ガス)を捕集する第2の工程と、捕集した検体ガスを加湿する第3の工程と、加湿した検体ガスをグラフェンFETに供給する第4の工程と、グラフェンFETのソース電極とドレイン電極とに流れるソース・ドレイン電流を計測する第5の工程と、第5の工程で計測した電流に基づいて、検体ガス中に標的物質が含まれるか否かと含まれる場合にはその濃度を判定する第6の工程を含む。
第1の工程(光の点滅)は、例えば、図13の照射ユニット50および図13の光源回路51を用いて実施される。
第2の工程(検体ガスの捕集)は、例えば、図14の配管61とその先端に設けられた図示しない取り込み口を用いて実施される。
第3の工程(検体ガスの加湿)は、例えば、図14の加湿ユニット50を用いて実施される。
第4の工程(加湿した検体ガスの供給)は、例えば、図14の配管62~65及び図示しない排気システムを用いて実施される。
第5の工程(ソース・ドレイン電流の計測)は、例えば、図14のセンサユニット40(より詳細には図13のソース・ドレイン間電流計測部23)を用いて実施される。 第6の工程(標的物質の有無・濃度の判定)は、例えば、図14のセンサユニット40(より詳細には図13の判定部24)を用いて実施される。
更に、第5の工程で計測したソース・ドレイン電流に基づいて、グラフェンFETのグラフェンのソース・ドレイン電流値が最適範囲になるようにゲート電圧を調整する第7の工程を追加してもよい。第7の工程は、例えば、図14のセンサユニット40(より詳細には図13のゲート電圧制御部25)を用いて実施される。
なお、図14のセンサシステム3は、第1の工程~第7の工程の全てを実施できる、複数のセンサシステム(又は複数の装置)を用いて、第1の工程~第7の工程を実施してもよい。すなわち、複数のセンサシステム(又は複数の装置)毎に行う工程は異なっていてもよい。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
1…グラフェンFET、2…センサ回路、3…センサシステム、9…検体ガス、11…シリコン基板、12,13…絶縁膜、14…グラフェン、15…ドレイン電極、16…ソース電極、17…絶縁膜、18…ゲート電極、19…第1の絶縁膜、19a…第2の物質、21…ドレイン電圧制御部、22…ソース電極電圧制御部、23…ソース・ドレイン間電流計測部、24…判定部、25…ゲート電圧制御部、30…加湿ユニット、31…配管、32…親水性不織布、33…水供給部、34…容器、35…供給部、40…センサユニット、41…第1の部材、42…第2の部材、43…第1のガス流路、44…空洞部、45…第2のガス流路、46…窓部、50…照射ユニット、51…光源、52…光ファイバ、55…LED、56…光量制御部、57…点滅制御部、61~65…配管。

Claims (8)

  1. 雰囲気中に含まれている標的物質を検出可能なセンサ素子であって、
    グラフェンと、
    前記グラフェンに接着されたドレイン電極と、
    前記グラフェンに接着されたソース電極と、
    前記グラフェンに電圧を印加するためのゲート電極と、
    前記ゲート電極の表面に設けられた金と白金と銀と塩化銀のいずれかと、
    前記グラフェン上に設けられ、光の照射及びその停止によって電荷状態が変化可能な第1の物質と
    前記第1の物質に設けられ、前記標的物質に特異的に結合する第2の物質とを具備し、
    前記センサ素子上において前記光の照射及びその停止を繰り返している期間において、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に流れる電流を測定することによって、前記標的物質の検出が可能であるセンサ素子。
  2. 前記センサ素子上において前記光の照射及びその停止を繰り返している期間において、前記標的物質を含む雰囲気中に前記センサ素子が曝される場合と、前記標的物質を含まない雰囲気中に前記センサ素子が曝される場合とで、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に流れる電流が異なる請求項1に記載のセンサ素子。
  3. 前記第1の物質は、前記グラフェンとの間で電荷移動を引き起こすことが可能な物質、又は、金属粒子を含む請求項1に記載のセンサ素子。
  4. 前記標的物質を含む雰囲気中に前記センサ素子が曝された場合と、前記標的物質を含まない雰囲気中に前記センサ素子が曝される場合とのいずれかにおいて、前記光が照射されている第1の期間と前記光が照射されていない第2の期間において、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に流れる電流が異なる請求項1に記載のセンサ素子。
  5. 前記標的物質を含む前記雰囲気中に前記グラフェンと前記第1の物質が曝される場合における、前記電流の前記光が照射されている期間の値と前記電流の前記光が照射されていない期間の値との差は、前記標的物質を含まない前記雰囲気中に前記グラフェンと前記第1の物質が曝される場合における、前記電流の前記光が照射されている期間の値と前記電流の前記光が照射されていない期間の値との差とは異なる請求項1に記載のセンサ素子。
  6. 前記ゲート電極と前記グラフェンとの間に設けられた導電層を更に具備する請求項1に記載のセンサ素子。
  7. 前記ゲート電極と前記グラフェンとの間の抵抗が10MΩから100GΩの間にある請求項1に記載のセンサ素子。
  8. 雰囲気中に含まれている標的物質を検出可能なセンサ素子であって、
    グラフェンと、
    前記グラフェンに接着されたドレイン電極と、
    前記グラフェンに接着されたソース電極と、
    前記グラフェン上に設けられ、光の照射及びその停止によって電荷状態が変化可能な第1の物質と、
    前記第1の物質に設けられ、前記標的物質に特異的に結合する第2の物質とを具備し、 前記標的物質は、スルフィド化合物、リモネン、安息香酸メチル、エクゴニン誘導体、メタンフェタミン、アンフェタミン、カリオフィレン及びその誘導体、ヘリオトロピン、並びに、MDP2P(3,4-メチレンジオキシフェニルプロパン-2-オン)のいずれかであり、
    前記センサ素子上において前記光の照射及びその停止を繰り返している期間において、前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に流れる電流を測定することによって、前記標的物質の検出が可能であるセンサ素子。
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