JP5331952B2 - 固定化方法及びセンシング方法 - Google Patents

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Description

本発明は、被検出物質と特異的に反応するプローブ物質を電界効果型トランジスタに結合させるために用いる架橋分子を介したプローブ物質の固定化方法、及び電界効果型トランジスタを用いた被検出物質のセンシング方法に関する。
バイオセンシングデバイスは医療・環境・創薬分野において広く利用されている。特に、昨今のゲノミクス分野の発展に伴い、遺伝子治療・テーラーメード医療等を目的とした抗原、DNA等の生体物質のセンシングデバイスの開発が望まれている。
従来、生体物質のセンシングにおいては、レーザースキャナーなどを用いた蛍光・発光によるセンシングが主流であり、最近では電気化学反応を用いた電流・電位検出も試みられるようになってきている。また、半導体検出においては、従来のシリコン窒化膜/シリコン酸化膜/シリコン構造を有するイオン感応性電界効果型トランジスタ(ISFET)をベースとしているものが挙げられる。
しかしながら、これらの方法において、生体物質の検出・測定は、電極部の実行表面積の増加や反応物質の固定化量の増加、増感ラベル剤・インターカレーター分子の導入といった量的な効果によるものがほとんどであり、デバイス自体の改良例は非常に乏しい。また、レーザースキャナーを用いた検出や電気化学検出は、集積化・微細化によって応答感度(強度、応答速度など)が減少する傾向があり、問題点を抱えている。
このように、生体物質のセンシングにおいて、オンチップ化、微小化、集積化といった要求を満たす上で、また、特に、抗原や、DNAの一塩基多型などを検出する上で、最大限の効果を引き出すには更なる改良が必要である。
特開2004−4007号公報 特開2005−91014号公報 特開2005−218310号公報 特開2007−232683号公報
Daisuke Niwa,Takayuki Homma,Tetsuya Osaka,Jpn. J. Appl. Phys.,Vol.43,No.1A/B,2004,pp.L105−L107
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、有機単分子膜を一体化させた有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を有する半導体デバイスによる生体物質の高感度のセンシングを可能にする方法として、被検出物質を選択的に検出するために用いるプローブ物質を、架橋分子を介して電界効果型トランジスタに結合させるための架橋分子及びプローブ物質の固定化方法、及びこの固定化方法を適用した電界効果型トランジスタを用いた被検出物質のセンシング方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を検出部として有する半導体デバイス(電界効果型トランジスタ)により、抗原、DNA等の生体物質を被検出物質として検出する際、有機単分子膜と被検出物質と特異的に反応するプローブ物質とを繋ぐために、有機単分子膜とプローブ物質との双方と結合することができる架橋分子が用いられるが、この架橋分子が、被検出物質のセンシング時に電界効果型トランジスタに電圧を印加した際、プローブ物質の十分な結合を与えることができず、架橋分子、プローブ物質又はそれら双方が脱離してしまって、十分な検出感度と再現性が得られない場合があることを知見した。
そこで、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、電界効果型トランジスタの絶縁層の上に形成された有機単分子膜に架橋分子を結合させた後、電界効果型トランジスタの通電回路に通電することによって架橋分子に電圧を印加し、その後、架橋分子にプローブ物質を結合させて被検出物質をセンシングすることにより、有機単分子膜とプローブ物質との間に架橋分子を介した、より強い結合が形成され、その結果として、実際のセンシングの段階における電圧の印加による架橋分子やプローブ物質の脱離が減少し、従来に比べて、高い感度と再現性で被検出物質を検出することが可能となることを見出し、本発明をなすに至った。
即ち、本発明は、以下の固定化方法及びセンシング方法を提供する。
[1] 半導体上に反応ゲート絶縁部としてシリコン酸化物又は無機酸化物を含む絶縁層が形成された電界効果型トランジスタの上記絶縁層の上に、反応性官能基を有する有機分子で構成された有機単分子膜を形成し、該有機単分子膜に、上記反応性官能基を介して架橋分子を結合させ、更に、該架橋分子に被検出物質に特異的に反応するプローブ物質を結合させることにより、上記有機単分子膜に上記架橋分子及びプローブ物質を固定化する方法であって、
上記有機単分子膜に上記架橋分子を結合した後、上記電界効果型トランジスタの通電回路に通電することにより上記架橋分子に電圧を印加して、上記架橋分子に上記プローブ物質を結合させて固定化することを特徴とする架橋分子及びプローブ物質の固定化方法。
[2] 上記有機単分子膜が、アミノ系官能基、カルボキシル系官能基又はメルカプト系官能基を有する炭素数3〜20の直鎖状炭化水素基を有するアルコキシシランの単分子膜であることを特徴とする[1]記載の固定化方法。
[3] 半導体上に反応ゲート絶縁部としてシリコン酸化物又は無機酸化物を含む絶縁層が形成された電界効果型トランジスタの上記絶縁層の上に、反応性官能基を有する有機分子で構成された有機単分子膜を形成し、該有機単分子膜に、上記反応性官能基を介して架橋分子を結合させ、更に、該架橋分子に被検出物質に特異的に反応するプローブ物質を結合させて、該プローブ物質と被検出物質の結合により生じる絶縁層の表面電位変化を検出するセンシング方法であって、
上記有機単分子膜に上記架橋分子を結合した後、上記電界効果型トランジスタの通電回路に通電することにより上記架橋分子に電圧を印加して、上記架橋分子に上記プローブ物質を結合させてセンシングすることを特徴とするセンシング方法。
[4] 上記プローブ物質が抗体であり、上記被検出物質が抗原であることを特徴とする[3]記載のセンシング方法。
[5] 上記プローブ物質が塩基数3〜35の短鎖プローブDNAであり、上記被検出物質が塩基数3〜35の短鎖ターゲットDNAであることを特徴とする[3]記載のセンシング方法。
[6] 上記有機単分子膜が、アミノ系官能基、カルボキシル系官能基又はメルカプト系官能基を有する炭素数3〜20の直鎖状炭化水素基を有するアルコキシシランの単分子膜であることを特徴とする[3]乃至[5]のいずれかに記載のセンシング方法。
本発明によれば、センシング時の電圧の印加による架橋分子やプローブ物質の脱離を抑制して、従来に比べて、高い感度と再現性で被検出物質を検出することができる。
本発明のセンシングに用いる半導体デバイスを示す断面図であり、(A)は電界効果型トランジスタ、(B)は電界効果型トランジスタのゲート電極の絶縁層上に有機単分子膜を形成した状態、(C)は有機単分子膜に架橋分子が結合した状態、(D)は架橋分子を介してプローブ物質が結合した状態、(E)はプローブ物質に被検出物質が結合した状態を示す。 本発明のセンシング方法を用いた抗原抗体反応に基づく検出の概念図である。 本発明のセンシング方法を用いたDNAのハイブリダイゼーション反応に基づくDNA検出の概念図である。 オンチップデバイスのユニット構成例を示し、(A)は部分平面図、(B)はその拡大断面図である。 実施例1及び比較例1で測定したデバイスの電圧応答(電圧−電流曲線)を示すグラフである。
以下、本発明について更に詳しく説明する。
本発明の方法において、センシングデバイスとしては、半導体上に反応ゲート絶縁部としてシリコン酸化物又は無機酸化物を含む絶縁層(第1の絶縁層)が形成された電界効果型トランジスタの絶縁層の上に、反応性官能基を有する有機分子で構成された有機単分子膜を形成し、有機単分子膜に、その反応性官能基を介して架橋分子を結合させてなる、架橋分子/有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を検出部として備える半導体センシングデバイスが用いられる。
この半導体センシングデバイスは、架橋分子/有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を検出部として備えるが、このうち、絶縁層/半導体構造部分は、半導体上に反応ゲート絶縁部としてシリコン酸化物又は無機酸化物を含む絶縁層が形成された電界効果型トランジスタを利用することができ、その構成は、従来公知のものを利用することができる。この電界効果型トランジスタとしては、例えば、図1(A)に示されるようなものが例示される。なお、図1中、1はシリコン基板、2はシリコン酸化物又は無機酸化物(ガラス、アルミナなど)を含む絶縁層、4はゲート電極、5はソース電極、6はドレイン電極、7はチャンネル領域を示す。
そして、図1(B)に示されるように、絶縁層2上に有機単分子膜3が形成される。ここで、本発明においては、基本原理として、絶縁層表面上の被検出物質の結合の反応に伴う表面電位変化を電気信号として検出する構成とする。なお、上記絶縁層は10〜100nm、特に10〜50nmの厚さに形成することができる。
有機単分子膜は、公知の方法で、絶縁層上に直接形成される。この有機単分子膜は、有機分子を絶縁層上に気相化学反応又は液相反応によって形成し、その最適化、例えば、有機分子の自己集積化機能によって有機単分子が細密パッキングされた膜が形成される。
この場合、有機単分子膜としては、例えば、反応性官能基、特にアミノ系の官能基(−NH2、−NH−、C55N−、C44N−等)、カルボキシル系の官能基(−COOH等)又はメルカプト系の官能基(−SH等)を少なくとも1個含有する炭素数3〜20の直鎖状炭化水素基(アルキル基等)を有するアルコキシシランを用いることが好適である。これらのアルコキシシランは、特に、絶縁層としてシリコン酸化物が形成されたものを用いた場合、シリコン酸化物と結合させることができるため好適である。
また、アミノ系の官能基、カルボキシル系の官能基、メルカプト系の官能基等の反応性官能基に置換可能な基、例えば−Br、−CN等のアミノ誘導基を有するアルコキシシランを用いて単分子膜を形成後、これらアミノ誘導基をアミノ基に置換する方法で導入することもできる。
なお、絶縁層としてシリコン酸化物が形成されたものを用いる場合、アルコキシシランとしては、密着性等の点でトリアルコキシシランが好ましく、またアルコキシ基としては炭素数1〜3のアルコキシ基(−OR:Rは一価炭化水素基を表す)、特にメトキシ基(−OCH3)、エトキシ基(−OC25)が好ましい。より具体的には、H2N(CH23Si(OCH33、H2N(CH23Si(OC253、HS(CH23Si(OCH33、HS(CH23Si(OC253等の反応性官能基を有するトリアルコキシシランが挙げられる。
更に、本発明においては、有機単分子膜に架橋分子が結合されており、例えば、図1(C)に示されるように、有機単分子膜に架橋分子11が結合される。架橋分子は、有機単分子膜と反応し、かつプローブ物質と反応することができる官能基を有しているものが用いられ、有機単分子膜及びプローブ物質の種類によって適宜選定される。例えば、有機単分子膜の反応性官能基として、また、プローブ物質として、これら双方がアミノ基を有するものである場合、グルタルアルデヒド等の両末端にアルデヒド基を有する化合物を用いることができ、一方のアルデヒド基を有機単分子膜と反応させて結合させて固定化し、他方のアルデヒド基をプローブ物質のアミノ基と反応させることができる。また、反応性官能基としてメルカプト基を有する有機分子の単分子膜を用いる場合、例えば、2,2’−ジピリジルジスルフィドなどを用いて固定化することができる。
そして、図1(D)に示されるように、架橋分子11に対し、プローブ物質12を結合させてセンシングデバイスとし、更に、図1(E)に示されるように、このプローブ物質12と被検出物質13との反応により両者を結合させ、この反応により生じる絶縁層の表面電位変化を電気信号として検出する。本発明においては、被検出物質として、抗原、DNA等の生体物質を対象とすることができる。
架橋分子は、架橋分子を含む溶液中に電界効果型トランジスタを浸漬し、絶縁層上に形成された有機単分子膜に架橋分子を接触させることで導入可能である。
本発明においては、有機単分子膜に上記架橋分子を結合させた後、電界効果型トランジスタの通電回路に通電する。そして、この通電により、架橋分子に電圧を印加する。これにより、有機単分子膜と架橋分子との間に強い結合力が形成される。その結果、実際のセンシングの段階における電圧の印加による架橋分子やプローブ物質、更には被検出物質の脱離が減少し、高い感度と再現性で被検出物質を検出することができる。
電圧は、電界効果型トランジスタの回路構造を破壊しない許容電圧範囲内で印加すればよく、有機単分子膜に上記架橋分子を結合させた後の電界効果型トランジスタに対し、その通電回路(ゲート端子)から、その検出部であるゲート部分に、参照電極を用いて、例えば−3〜+3Vの電圧、より好ましくは−2〜+2Vを印加すればよい。電圧の印加は、定電圧での印加でもよいが、上記範囲で電圧を掃印することが好ましい。電圧の印加は、1回でもよく、また複数回に分けて実施してもよい。通常、1回当たりの印加の時間は10秒〜20秒である。電圧の印加は、所定の電圧を印加できる公知の装置を用いればよいが、半導体センシングデバイスを用いたセンシングにおいて被検出物質の結合前後の電圧応答を計測する機器が電圧の印加が可能なものであれば、これを用いて電圧を印加することも可能である。
プローブ物質は、プローブ物質が含まれる溶液に電界効果型トランジスタを、架橋分子を導入した後に浸漬し、架橋分子に接触させることで導入可能である。なお、プローブ物質が生体物質の場合、緩衝液に溶解した生体物質を用いることが好ましい。この際、緩衝液は中性から酸性であることがより望ましい。なお、複数のプローブ物質を固定化する場合や、プローブ物質を複数の検出部を設けたデバイスに別々に反応させる場合はスポッティングなどの手法を用いることもできる。
本発明においては、被検出物質を、架橋分子に被検出物質と特異的に反応するプローブ物質を結合させ、プローブ物質に被検出物質を反応させることにより、被検出物質の結合により生じる絶縁層の表面電位変化を検出する。これは、抗原抗体反応や、DNAのハイブリダイゼーション反応により生じる絶縁層の表面電位変化を電気信号として検出する場合に好適に用いられる。
抗原抗体反応の場合、例えば図2に示されるように、有機単分子膜に抗体がプローブ物質12として架橋分子11を介して結合され、プローブ物質12に、これと反応する抗原が被検出物質13として結合する。なお、図2中、他の構成は、図1と同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
また、DNAのハイブリダイゼーション反応の場合、例えば図3に示されるように、有機単分子膜に、例えば塩基数3〜35の短鎖プローブDNA(オリゴヌクレオチド)等のプローブ物質12が、架橋分子11を介して結合され、プローブ物質12に、これとハイブリダイゼーション反応する塩基数3〜35の短鎖ターゲットDNA等の被検出物質13が結合する。なお、図3中、他の構成は、図1と同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
この方法は、プローブDNAの官能基と、有機単分子膜を構成する有機分子の反応性官能基とを反応させて結合させることができない組合せの場合に用いられ、架橋分子を介してプローブDNAを、有機単分子膜を構成する有機分子と結合させる。この場合、例えば、反応性官能基としてアミノ基を有する有機分子の単分子膜を用いる場合、例えば、グルタルアルデヒド等の両末端にアルデヒド基を有する有機分子を用い、一方のアルデヒド基を有機単分子膜と、他方のアルデヒド基をプローブDNAのアミノ基と各々反応させて結合し、固定化することができる。また、反応性官能基としてメルカプト基を有する有機分子の単分子膜を用いる場合、例えば、2,2’−ジピリジルジスルフィドなどを用いて固定化することができる。なお、プローブDNAとしては、塩基鎖のみからなるDNAの他に、アミノ基やメルカプト基などを修飾したDNAを用いることも可能である。
DNAセンシングでは、有機単分子膜上に架橋分子を介して固定化されたプローブDNAに対し、プローブDNAと同等の長さを有する完全相補配列を有するDNA又は該完全相補配列に対して1〜3個の塩基が異なるミスマッチ配列を有するDNAをターゲットDNAとして反応させ、この反応によるプローブDNAの負電荷の変化により生じる絶縁層の表面電位変化を電気信号として検出することも可能である。
ここで、DNAはリン酸基由来の負電荷が存在するため、完全相補配列を有するDNAを反応させた場合、二重らせん化が円滑に生じ、ゲート電極上の表面電位は反応によって負に移行する。この場合、たとえばp型の電界効果型トランジスタを用いた場合、正方向に閾値電圧がシフトする。電流一定下においては電位シフトを、電圧一定下においては電流のシフトをシグナルとして検出することができる。なお、n型の電界効果型トランジスタを用いた場合、閾値電圧のシフトは正方向になり、p型の電界効果型トランジスタを用いた場合と逆になる。
一方、ミスマッチ分子をターゲットDNAとして用いた場合、二重らせん化反応の進行、程度、二重らせん構造に違いが生じることから、完全相補DNAとの反応とは異なる閾値電圧でシフトし、この程度の差により、DNA内の塩基ミスマッチを検出することができる。
プローブDNAは、プローブDNAが含まれる溶液に電界効果型トランジスタを、架橋分子を導入した後に浸漬し、架橋分子に接触させることで導入可能である。なお、プローブDNAの固定化については、緩衝液に溶解したプローブDNAを用いることが好ましい。この際、緩衝液は中性から酸性であることがより望ましい。
なお、架橋分子を介してプローブ物質を固定化する場合、プローブ物質を架橋分子に反応させた後に、非特異的に吸着しているプローブ物質を、緩衝液を用いて洗浄することが好ましい。
抗体やプローブDNA等のプローブ物質の固定化後、プローブ物質と被検出物質とを反応させる際、特に、抗原抗体反応やハイブリダイゼーション反応等の生体反応をさせる際には、緩衝液、好ましくはプローブ物質の固定化の際に用いたものと同等の緩衝液に溶解した被検出物質を用いることができる。また、測定においても被検出物質の固定化に用いたものと同等の緩衝液を用いることが好ましい。なお、複数の被検出物質を固定化する場合や、被検出物質を複数の検出部を設けたデバイスに別々に反応させる場合はスポッティングなどの手法を用いることができる。
本発明においては、上記電界効果型トランジスタの半導体上に、更に、参照ゲート絶縁部としてシリコン酸化物又は無機酸化物を含む第2の絶縁層を形成することができる。この第2の絶縁層の上には、上記検出部に結合させる物質、即ち、架橋分子、プローブ物質(抗体、プローブDNA等)及び被検出物質(抗原、ターゲットDNA等)のいずれとも反応しない有機分子で構成された第2の有機単分子膜を形成し、この有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を参照部とすることができる。なお、反応ゲート絶縁部と参照ゲート絶縁部とを、電位変化測定において互いに影響を与えない程度に離間させれば、反応ゲート絶縁部の第1の絶縁層と参照ゲート絶縁部の第2の絶縁層とを同一層内に設けることもできる。
図4は有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を検出部9及び参照部8に適用したオンチップデバイスのユニット構成例を示す。なお、図4中、1はシリコン基板、2は絶縁層、10はテンプレート部である。このデバイスのユニット構成は図示した構成に限定されず、検出部と参照部とは必ずしも1対1の関係で配置する必要はなく、必要に応じて検出部及び参照部の数及び組合せを適宜変更して配置することができる。また、検出部及び参照部は各々数〜数10μmのサイズで形成可能である。
参照部の第2の絶縁層上には、第2の有機単分子膜が形成されるが、この有機単分子膜としては、炭素数8〜22の直鎖状アルキル基又はフッ化アルキル基を有するアルコキシシランの単分子膜が好ましい。
この場合の有機単分子膜としては、絶縁層上に均一な膜を形成させるため、自己集積化膜であることが望ましい。より具体的には、アルキルシラン:CH3(CH217Si(OCH33、CH3(CH217Si(OC253、フッ素化アルキルシラン:CF3(CF27(CH22Si(OCH33、CF3(CF27(CH22Si(OC253等が挙げられる。また、有機単分子膜としてアルコキシシランを用いる場合、絶縁層がシリコン酸化物で形成されたものが好適である。
なお、第1及び第2の有機単分子膜は、パターニングにより所望の位置に形成することができる。特に、オンチップでの集積化デバイスを形成するためには、有機単分子膜のパターニングが有効である。例えば、検出部の絶縁層表面には、架橋分子の固定化のために反応性官能基を有する有機分子で構成された第1の有機単分子膜を、一方で、参照部、更には非ゲート部(テンプレート部)においては、架橋分子、プローブ物質及び被検出物質の非特異的な吸着を避けるために、これらと反応しない有機分子で構成された第2の有機単分子膜をパターニングにより位置選択的に形成する。
パターニング手法としては、まず基板上の絶縁層全面にテンプレートとなる活性をもたない有機分子の有機単分子膜を形成後、粒子線(紫外線、電子線、X線など)レジストを塗布し、粒子線によって検出部上方のレジスト部分を取り除くようにパターニングを行う。その後、レジストパターン開口部に露出した有機単分子膜を酸素プラズマエッチングなどの手法を用いて除去し、二次的に、検出部に反応性官能基を有する有機分子の有機単分子膜を形成すればよい。
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例では、デバイスとして、架橋分子/有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を検出部(検出部サイズ:10μm×1mm)として、有機単分子膜/絶縁層/半導体構造を参照部として備える半導体センシングデバイスを用いた。具体的には、公知の電界効果型トランジスタ(FET)を用い、絶縁層をシリコン酸化物とし、検出部の第1の有機単分子膜にはH2N(CH23Si(OC253で公知の方法により形成したアミノ系単分子膜を、参照部の第2の有機単分子膜には、CF3(CF27(CH22Si(OCH33で公知の方法により形成したフッ化アルキル単分子膜を用い、更に、検出部及び参照部(ゲート電極)以外の部分(テンプレート部)には、CF3(CF27(CH22Si(OCH33で公知の方法により形成したフッ化アルキル単分子膜を形成したものを用いた。
[実施例1]
アミノ系単分子膜が修飾されている検出部のゲート電極に架橋分子を介して抗体の固定化を行った。まず、有機単分子膜のアミノ基と抗体とを架橋するための架橋分子として、グルタルアルデヒドを反応させた。反応は、2.5質量%のグルタルアルデヒド水溶液0.01ml中に、末端がアミノ基の単分子膜が形成されたデバイスの検出部を、室温で30分間浸漬することにより実施した。
基板洗浄後、デバイスをホルダーに設置し、デバイスの検出部を0.1mmol/Lリン酸緩衝生理食塩水(PBS)0.5mlに30分間浸漬した。浸漬後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)0.45mlを除去し、グルタルアルデヒド修飾デバイスにデジタルソースメータ(ケースレー社製、2612)にて電圧掃印を行った。電圧掃印条件は掃印電圧−3〜3Vとし、連続して3回行った。
電圧印加後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)0.02mlをデバイスホルダーに残し、アミノ基を有する抗体(抗hCG抗体:(株)日本バイオテスト研究所製(以下同じ))を含むリン酸緩衝生理食塩水(抗体濃度:0.1g/L)を0.02ml添加し、室温で1時間反応させることで、架橋分子に抗体を固定化した。基板洗浄後、デバイスの検出部を0.1mmol/Lリン酸緩衝生理食塩水(PBS)0.5mlに30分間浸漬した。浸漬後、PBS0.45mlを除去し、室温で、抗体固定化デバイスの電流−電圧曲線を、Hg/Hg2SO4参照電極を用い、デジタルソースメータ(ケースレー社製、2612)で3回測定し、各測定回の電圧応答の差を評価した。
[比較例1]
アミノ系単分子膜が修飾されている検出部のゲート電極に架橋分子を介して抗体の固定化を行った。まず、有機単分子膜のアミノ基と抗体とを架橋するための架橋分子として、グルタルアルデヒドを反応させた。反応は、2.5質量%のグルタルアルデヒド水溶液0.01ml中に、末端がアミノ基の単分子膜が形成されたデバイスの検出部を、室温で30分間浸漬することにより実施した。
基板洗浄後、デバイスをホルダーに設置し、アミノ基を有する抗体(抗hCG抗体)を含むリン酸緩衝生理食塩水(抗体濃度:0.1g/L)を0.02ml、及びリン酸緩衝生理食塩水0.02mlを添加し、室温で1時間反応させることで、架橋分子に抗体を固定化した。基板洗浄後、デバイスの検出部を0.1mmol/Lリン酸緩衝生理食塩水(PBS)0.5mlに30分間浸漬した。浸漬後、PBS0.45mlを除去し、室温で、抗体固定化デバイスの電流−電圧曲線を、Hg/Hg2SO4参照電極を用い、デジタルソースメータ(ケースレー社製、2612)で3回測定し、各測定回の電圧応答の差を評価した。
実施例1のグルタルアルデヒド修飾デバイスに電圧掃印を行った抗体固定化デバイスの電圧応答の差の評価結果を図5(A)に、比較例1の電圧掃印を行わなかった抗体固定化デバイスの電圧応答の差の評価結果を図5(B)に示す。図5中、実線は1回目、破線は2回目、点線は3回目の測定結果を各々示す。グルタルアルデヒド修飾後に電圧を印加した場合、電流−電圧曲線の測定を繰り返しても、ほぼ同じ電圧応答が得られ、1回目と3回目との間の電圧シフト量の平均値は15mVであった。一方、グルタルアルデヒド修飾後に電圧を印加しなかった場合、電流−電圧曲線の測定を繰り返すに従って、電圧応答がシフトし、1回目と3回目との間の電圧シフト量の平均値は100mVであった。この結果から、架橋分子を結合させた後に、電圧を印加することで、架橋分子の架橋能力が強まり、固定化された抗体の脱着が少なくなることが推測される。
1 シリコン基板
2 絶縁層
3 有機単分子膜
4 ゲート電極
5 ソース電極
6 ドレイン電極
7 チャンネル領域
8 参照部
9 検出部
10 テンプレート部
11 架橋分子
12 プローブ物質(抗体、プローブDNA)
13 被検出物質(抗原、ターゲットDNA)

Claims (6)

  1. 半導体上に反応ゲート絶縁部としてシリコン酸化物又は無機酸化物を含む絶縁層が形成された電界効果型トランジスタの上記絶縁層の上に、反応性官能基を有する有機分子で構成された有機単分子膜を形成し、該有機単分子膜に、上記反応性官能基を介して架橋分子を結合させ、更に、該架橋分子に被検出物質に特異的に反応するプローブ物質を結合させることにより、上記有機単分子膜に上記架橋分子及びプローブ物質を固定化する方法であって、
    上記有機単分子膜に上記架橋分子を結合した後、上記電界効果型トランジスタの通電回路に通電することにより上記架橋分子に電圧を印加して、上記架橋分子に上記プローブ物質を結合させて固定化することを特徴とする架橋分子及びプローブ物質の固定化方法。
  2. 上記有機単分子膜が、アミノ系官能基、カルボキシル系官能基又はメルカプト系官能基を有する炭素数3〜20の直鎖状炭化水素基を有するアルコキシシランの単分子膜であることを特徴とする請求項1記載の固定化方法。
  3. 半導体上に反応ゲート絶縁部としてシリコン酸化物又は無機酸化物を含む絶縁層が形成された電界効果型トランジスタの上記絶縁層の上に、反応性官能基を有する有機分子で構成された有機単分子膜を形成し、該有機単分子膜に、上記反応性官能基を介して架橋分子を結合させ、更に、該架橋分子に被検出物質に特異的に反応するプローブ物質を結合させて、該プローブ物質と被検出物質の結合により生じる絶縁層の表面電位変化を検出するセンシング方法であって、
    上記有機単分子膜に上記架橋分子を結合した後、上記電界効果型トランジスタの通電回路に通電することにより上記架橋分子に電圧を印加して、上記架橋分子に上記プローブ物質を結合させてセンシングすることを特徴とするセンシング方法。
  4. 上記プローブ物質が抗体であり、上記被検出物質が抗原であることを特徴とする請求項3記載のセンシング方法。
  5. 上記プローブ物質が塩基数3〜35の短鎖プローブDNAであり、上記被検出物質が塩基数3〜35の短鎖ターゲットDNAであることを特徴とする請求項3記載のセンシング方法。
  6. 上記有機単分子膜が、アミノ系官能基、カルボキシル系官能基又はメルカプト系官能基を有する炭素数3〜20の直鎖状炭化水素基を有するアルコキシシランの単分子膜であることを特徴とする請求項3乃至5のいずれか1項記載のセンシング方法。
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