[第1例]
本開示の実施の形態の第1例について、図1~図8(C)を用いて説明する。なお、軸方向、径方向、および周方向とは、特に断らない限り、逆入力遮断クラッチ1の軸方向、径方向、および周方向をいう。本例において、逆入力遮断クラッチ1の軸方向、径方向、および周方向は、入力部材3の軸方向、径方向、および周方向と一致し、かつ、出力部材4の軸方向、径方向および周方向と一致する。また、軸方向片側とは、入力部材3側(図2の右側)をいい、軸方向他側とは、出力部材4側(図2の左側)をいう。
<逆入力遮断クラッチの構造の説明>
本例の逆入力遮断クラッチ1は、被押圧部材2と、入力部材3と、出力部材4と、係合子5と、ねじりコイルばね6とを備える。逆入力遮断クラッチ1は、入力部材3に入力される回転トルクを出力部材4に伝達するのに対し、出力部材4に逆入力される回転トルクは完全に遮断して入力部材3に伝達しないか、または、その一部のみを入力部材3に伝達して残部を遮断する逆入力遮断機能を有する。
被押圧部材2は、内周面に被押圧面7を有する。被押圧面7の径方向内側に、入力部材3の入力側係合部27および出力部材4の出力側係合部31が同軸に配置され、かつ、係合子5が被押圧面7に対する遠近方向の移動を可能に配置される。被押圧面7の径方向内側で、入力側係合部27、出力側係合部31、および係合子5は回転可能である。また、被押圧面7は、係合子5が被押圧面に近づく方向に移動した場合に、係合子5の押圧面33と接触する面を構成する。
本例では、被押圧面7は、軸方向から見て円環状であり、これに限られないが、本例では、軸方向に関して内径の変化しない円筒面状の形状を有する。
本例では、被押圧部材2は、ハウジングなどの使用時にも回転しない固定部分に支持固定されて、その回転が拘束される。あるいは、被押圧部材2は、該固定部分により構成される。被押圧部材2は、内周面に被押圧面7を有する限り、その形状は問われない。
本例では、被押圧部材2は、軸方向片側に配置された第1素子8と、軸方向他側に配置された第2素子9とを、複数本の結合ボルト10により結合固定することで、全体として中空円盤状に構成されている。
第1素子8は、円筒状の第1大径筒部11と、円筒状の第1小径筒部12と、中空円形平板状の第1側板部13と、フランジ部14とを備える。
被押圧面7は、第1大径筒部11の内周面に設けられ、かつ、第1素子8の中心軸を中心とする円筒面により構成されている。
第1大径筒部11は、フランジ部14よりも軸方向他側に位置する部分である軸方向他側の端部の外周面に、内径側嵌合面15を有する。内径側嵌合面15は、第1素子8の中心軸を中心とする円筒面により構成されている。
第1小径筒部12は、第1大径筒部11の軸方向片側に、第1大径筒部11と同軸に配置されている。第1小径筒部12は、内周面の軸方向他側の端部から中間部にかけての部分に、第1軸受嵌合面16を有する。第1軸受嵌合面16は、第1素子8の中心軸を中心とする円筒面により構成されている。すなわち、被押圧面7と内径側嵌合面15と第1軸受嵌合面16とは、互いに同軸に配置されている。
第1側板部13は、軸方向から見て中空円形の端面形状を有し、第1大径筒部11の軸方向片側の端部と第1小径筒部12の軸方向他側の端部とを接続する。すなわち、第1側板部13の径方向外側の端部が第1大径筒部11の軸方向片側の端部に接続され、かつ、第1側板部13の径方向内側の端部が第1小径筒部12の軸方向他側の端部に接続されている。
フランジ部14は、第1大径筒部11の軸方向中間部から径方向外側に向けて突出している。フランジ部14は、周方向複数箇所に、軸方向に貫通する通孔を有する。本例では、フランジ部14は、周方向8箇所に、軸方向に貫通する通孔を有する。
第2素子9は、円筒状の第2大径筒部17と、円筒状の第2小径筒部18と、中空円形平板状の第2側板部19と、複数の取付部20とを備える。
第2大径筒部17は、軸方向片側部分の内周面に、外径側嵌合面21を有する。外径側嵌合面21は、第2素子9の中心軸を中心とする円筒面により構成されている。外径側嵌合面21は、第1素子8の内径側嵌合面15に対して、がたつきなく嵌合することが可能な内径寸法を有する。
第2大径筒部17は、第1素子8の通孔と整合する周方向複数箇所に、軸方向片側の端面に開口するねじ孔を有する。より具体的には、第2大径筒部17は、第1素子8に備えられた8つの通孔と整合する周方向8箇所に、軸方向片側の端面に開口するねじ孔を有する。
第2小径筒部18は、第2大径筒部17の軸方向他側に、第2大径筒部17と同軸に配置されている。第2小径筒部18は、内周面の軸方向片側の端部から中間部にかけての部分に、第2軸受嵌合面22を有する。第2軸受嵌合面22は、第2素子9の中心軸を中心とする円筒面により構成されている。すなわち、外径側嵌合面21と第2軸受嵌合面22とは、互いに同軸に配置されている。
第2側板部19は、軸方向から見て中空円形の端面形状を有し、第2大径筒部17の軸方向他側の端部と第2小径筒部18の軸方向片側の端部とを接続する。すなわち、第2側板部19の径方向外側の端部が第2大径筒部17の軸方向他側の端部に接続され、かつ、第2側板部19の径方向内側の端部が第2小径筒部18の軸方向片側の端部に接続されている。
それぞれの取付部20は、周方向複数箇所に備えられている。本例では、4つの取付部20が、周方向等間隔に備えられている。取付部20は、第2大径筒部17の外周面から径方向外側に向けて突出する突出部23と、該突出部23を軸方向に貫通する取付孔24とを有する。
第1素子8と第2素子9とは、第1素子8の内径側嵌合面15を、第2素子9の外径側嵌合面21にがたつきなく嵌合させ、かつ、第1素子8のフランジ部14の軸方向他側の側面を、第2素子9の第2大径筒部17の軸方向片側の端面に当接させた状態で、第1素子8に備えられた通孔に挿通した結合ボルト10を、第2素子9に備えられたねじ孔に螺合し、さらに締め付けることにより、結合固定される。
本例では、第1素子8の内径側嵌合面15と第1軸受嵌合面16とが互いに同軸に配置され、かつ、第2素子9の外径側嵌合面21と第2軸受嵌合面22とが互いに同軸に配置されている。このため、内径側嵌合面15と外径側嵌合面21とをがたつきなく嵌合させた、被押圧部材2の組立状態で、第1軸受嵌合面16と第2軸受嵌合面22とは、互いに同軸に配置される。
入力部材3は、被押圧面7の径方向内側に配置された入力側係合部27を有し、被押圧面7と同軸に配置されている。入力部材3は、電動モータなどの入力側機構に接続され、回転トルクが入力され、該回転トルクの入力により、被押圧面7の径方向内側において回転可能に構成される。入力側係合部27は、入力部材3の回転中心Oから径方向外側に外れた部分に設けられ、係合子5の入力側被係合部34と係合可能な位置に配置される。入力側係合部27は、入力部材3または係合子5の回転に伴って、入力側被係合部34と係合するように構成される。
本例では、入力部材3は、入力側係合部27のほかに、基板部25と、入力軸部26とを有する。
基板部25は、軸方向から見て略円形の端面形状を有する。
入力軸部26は、基板部25の軸方向片側面の中央部から軸方向片側に向けて突出している。入力軸部26は、軸方向片側部分に、前記入力側機構の出力部にトルク伝達可能に接続するためのシャンク部28aを有する。本例では、シャンク部28aは、外周面に互いに平行な2つの平坦面を含む二面幅形状を有する。ただし、シャンク部は、前記入力側機構の出力部にトルク伝達可能に接続することができれば、任意の形状とすることができる。
入力側係合部27は、基板部25の軸方向他側面のうちで回転中心Oから径方向外側に外れた部分から軸方向他側に向けて突出している。
入力側係合部27は、入力側被係合部34と係合するように構成されている限り、その形状については限定されない。また、入力側係合部27の個数は、係合子5の個数に応じて決定され、係合子5が複数の係合子5により構成される場合、入力側係合部27も複数の入力側係合部27により構成される。なお、入力側係合部27および入力側被係合部34の形状に応じて、それぞれの係合子5に対して複数の入力側係合部27を設けることもできる。
本例の逆入力遮断クラッチ1では、係合子5は、2つの係合子5により構成される。このため、入力側係合部27は、係合子5の個数に合わせて、2つの入力側係合部27により構成される。2つの入力側係合部27は、基板部25の軸方向他側面の径方向反対側2箇所位置に配置され、かつ、入力部材3の径方向に関して互いに離隔している。また、それぞれの入力側係合部27は、周方向に関して対称な形状を有する。
本例では、それぞれの入力側係合部27は、軸方向から見て、径方向外側に向かうほど周方向幅が大きくなる略扇形または略台形の端面形状を有する。それぞれの入力側係合部27の径方向内側面27aは、互いに平行な平坦面により構成されており、かつ、それぞれの入力側係合部27の径方向外側面27bは、基板部25の外周面と同じ円筒面状の輪郭形状を有する。また、それぞれの入力側係合部27の2つの周方向側面27cは、径方向外側に向かうほど互いに離れる方向に傾斜した平坦面により構成されている。
入力部材3は、被押圧部材2あるいは前記固定部分に回転自在に支持されることができる。本例では、被押圧部材2の第1素子8の径方向内側に回転自在に支持されている。このため、入力軸部26の軸方向他側部分の外周面と、第1素子8の第1軸受嵌合面16との間に第1軸受29が配置されている。
出力部材4は、被押圧面7の径方向内側において入力側係合部27よりも径方向内側に配置された出力側係合部31を有し、被押圧面7と同軸に配置されている。すなわち、出力部材4は、入力部材3とも同軸に配置されている。出力部材4は、減速機構などの出力側機構に接続されており、その回転に伴って、該出力側機構に回転トルクを出力するように構成されている。
出力側係合部31は、入力側係合部27よりも径方向内側であるが、出力部材4の回転中心Oから径方向外側に外れた部分を有し、当該部分が、係合子5の出力側被係合部35と係合可能な位置に配置される。出力側係合部31は、出力部材4または係合子5の回転に伴って、前記部分が出力側被係合部35と係合するように構成される。
本例では、出力部材4は、出力側係合部31のほか、出力軸部30を有する。
出力軸部30は、軸方向片側の端部に、径方向外側に向けて突出するフランジ部32を有し、かつ、軸方向他側部分に、前記出力側機構の入力部にトルク伝達可能に接続するためのシャンク部28bを有する。シャンク部28bは、外周面に互いに平行な2つの平坦面を含む二面幅形状を有する。ただし、シャンク部は、前記出力側機構の入力部にトルク伝達可能に接続することができれば、任意の形状とすることができる。
出力側係合部31は、出力側被係合部35と係合する部分を有するように構成されている限り、その形状については限定されない。また、出力側係合部31のうちの出力側被係合部35と係合する部分の個数は、係合子5の個数に応じて決定され、係合子5が複数の係合子5により構成される場合、出力側係合部31も複数の前記係合する部分を有するように構成される。なお、出力側係合部31および出力側被係合部35の形状に応じて、それぞれの係合子5に対して、複数の出力側係合部31あるいは複数の出力側被係合部35と係合する部分を設けることもできる。
本例では、出力側係合部31は、係合子5の個数に合わせて、2つの出力側被係合部35と係合する部分を有するように構成されている。
本例では、出力側係合部31は、軸方向から見て略矩形または略長円形の端面形状を有し、出力軸部30の軸方向片側の端面の中央部から軸方向片側に向けて突出している。すなわち、出力部材4の回転中心Oから、出力側被係合部35と係合する部分である出力側係合部31の外周面までの距離は、周方向に関して一定でない。このため、出力側係合部31は、カム機能を有する。
より具体的には、出力側係合部31の外周面は、互いに平行な2つの平坦面31aと、それぞれが部分円筒面状の2つの凸曲面31bとにより構成されている。したがって、出力部材4の回転中心Oから出力側係合部31の外周面までの距離は、周方向にわたり一定でない。2つの凸曲面31bのそれぞれは、出力部材4の回転中心Oを中心とする部分円筒面により構成されている。
出力側係合部31は、出力部材4の回転中心Oを通り、かつ、平坦面31aに直交する仮想平面に対して面対称である。さらに、出力側係合部31は、出力部材4の回転中心Oを通り、かつ、平坦面31aに平行な仮想平面に対して面対称である。
このような出力側係合部31は、2つの入力側係合部27同士の間部分に配置される。
出力部材4は、被押圧部材2あるいは前記固定部分に回転自在に支持されることができる。本例では、出力部材4は、被押圧部材2の第2素子9の径方向内側に回転自在に支持されている。このため、出力軸部30の軸方向片側部分の外周面と、第2素子9の第2軸受嵌合面22との間に第2軸受44が配置されている。
係合子5は、被押圧面7に対向する押圧面33と、入力側係合部27と係合可能な入力側被係合部34と、出力側係合部31と係合可能な出力側被係合部35とを有し、被押圧面7に対する遠近方向である第1方向の移動を可能に配置されている。
係合子5は、入力部材3に回転トルクが入力されると、入力側係合部27が入力側被係合部34に係合することに基づいて、第1方向に関して被押圧面7から離れる方向に移動し、出力側被係合部35を出力側係合部31に係合させることで、入力部材3に入力された回転トルクを出力部材4に伝達し、かつ、出力部材4に回転トルクが逆入力されると、出力側被係合部35に出力側係合部31が係合することに基づいて、押圧面33を被押圧面7に押し付けて、押圧面33を被押圧面7に摩擦係合させるように構成されている。
係合子5は、かかる構成を備えた1つの係合子5により構成することもできるし、2つ以上の係合子5により構成することもできる。
本例では、係合子5は、2つの係合子5により構成される。それぞれの係合子5が、係合子5としての機能を有する。それぞれの係合子5は、軸方向から見て略半円形の端面形状を有し、かつ、幅方向(図5に矢印Bで示す方向)に関して対称な形状を有する。以下、それぞれの係合子5の構成について説明する。
本例では、係合子5に関して径方向とは、被押圧面7に対する押圧面33の遠近方向であり、図5において矢印Aで示す方向に相当する。係合子5に関して幅方向とは、被押圧面7に対する押圧面33の遠近方向と入力部材3の軸方向との両方に直交する方向であり、図5において矢印Bで示す方向に相当する。本例では、係合子5に関する径方向が、第1方向に相当し、係合子5に関する幅方向が、第2方向に相当する。
押圧面33は、被押圧面7に対向する係合子5の径方向外側面に備えられている。本例では、押圧面33は、係合子5の径方向外側面のうち、周方向に関して互いに離隔した2箇所位置に備えられた、2つの押圧面33により構成されている。それぞれの押圧面33は、被押圧面7の曲率半径よりも小さい曲率半径を有する部分円筒面状の凸曲面により構成されている。
係合子5の径方向外側面のうち、2つの押圧面33から周方向に外れた部分は、軸方向から見た場合に、入力部材3の中心軸Oを中心とし、かつ、2つの押圧面33に接する仮想円よりも、径方向内側に存在している。すなわち、2つの押圧面33が被押圧面7に当接した状態で、2つの押圧面33から周方向に外れた部分は、被押圧面7に当接しない。
押圧面33は、係合子5のその他の部分よりも被押圧面7に対する摩擦係数が大きい表面性状を有することが好ましい。また、押圧面33は、係合子5のその他の部分と一体に構成することもできるし、係合子5のその他の部分に、貼着や接着などにより固定された摩擦材の表面により構成することもできる。
本例では、入力側被係合部34は、係合子5の幅方向中央部の径方向中間部に備えられている。より具体的には、これに限定されないが、入力側被係合部34は、軸方向から見て略弓形の開口形状を有し、かつ、係合子5の幅方向中央位置の径方向中間部を軸方向に貫通する貫通孔により構成されている。
入力側被係合部34は、入力側係合部27を緩く挿入できる大きさを有する。したがって、入力側被係合部34の内側に入力側係合部27を挿入した状態で、入力側係合部27と入力側被係合部34の内面との間には、係合子5の幅方向および径方向にそれぞれ隙間が存在する。このため、入力側係合部27は、入力側被係合部34に対し、入力部材3の回転方向に関する変位が可能であり、入力側被係合部34は、入力側係合部27に対し、係合子5の径方向の変位が可能である。
入力側被係合部34は、入力側係合部27と係合可能に構成されている限り、その形状については限定されない。これに限定されないが、本例では、入力側被係合部34は、径方向外側を向いた面に、係合子5の径方向内側面に備えられ、かつ、平坦面部36と平行な平坦面34aと、径方向内側を向いた面に、部分円筒面状の凹曲面34bを有する。
代替的に、入力側被係合部34を、係合子5の軸方向片側面にのみ開口する有底孔、あるいは、入力側被係合部34を、係合子5の径方向外側面に開口する切り欠きにより構成することもできる。
本例では、出力側被係合部35は、係合子5の径方向内側面の幅方向中央部に備えられている。出力側被係合部35は、出力側係合部31と係合可能に構成されている限り、その形状については限定されない。
本例では、係合子5は、径方向内側面に、平坦面部36を有し、かつ、平坦面部36の幅方向2箇所位置に、径方向内側に向けて突出する2つの凸部37を有する。そして、出力側被係合部35は、平坦面部36のうち、幅方向に関して2つの凸部37同士の間に存在する部分により構成されている。これに限定されないが、出力側被係合部35の幅方向寸法、すなわち2つの凸部37同士の間隔は、出力側係合部31の平坦面31aの幅方向寸法よりも大きくなっている。
本例の逆入力遮断クラッチ1では、2つの係合子5の押圧面33を径方向に関して互いに反対側に向け、かつ、平坦面部36を互いに対向させた状態で、それぞれの係合子5を被押圧部材2の径方向内側に、それぞれの係合子5の径方向であり、被押圧面7に対する押圧面33の遠近方向に相当する第1方向の移動を可能に配置する。また、軸方向片側に配置した入力部材3の2つの入力側係合部27を、2つの係合子5のそれぞれの入力側被係合部34に軸方向に挿入し、かつ、軸方向他側に配置した出力部材4の出力側係合部31を、2つの係合子5の出力側被係合部35同士の間に軸方向に挿入する。すなわち、2つの係合子5は、それぞれの出力側被係合部35により、出力側係合部31を径方向外側から挟むように配置される。
2つの係合子5を被押圧部材2の径方向内側に配置した状態で、被押圧面7と2つの押圧面33との間部分、および、2つの係合子の2つの凸部37同士が対向することにより構成される凸部37同士の2つの組み合わせのそれぞれの先端面同士の間部分の少なくとも一方に隙間が存在するように、被押圧部材2の内径寸法と係合子5の径方向寸法が規制されている。
ねじりコイルばね6は、入力部材3の入力側係合部27と係合子5との間に備えられ、第1方向に関する成分を含む弾力を発生させ、かつ、該弾力に基づいて入力側係合部27に、入力側係合部27が係合子5に対し相対回転しようとすることに対する抵抗力を付与する。本例では、ねじりコイルばね6は、2つの入力側係合部27と2つの係合子5との組み合わせのうち、互いに係合する入力側係合部27と係合子5との組み合わせごとに、2つのねじりコイルばね6により構成されている。
これに限定されないが、本例では、ねじりコイルばね6は、入力部材3の入力側係合部27と係合子5の入力側被係合部34との間に配置されており、それぞれの入力側係合部27と入力側被係合部34との組み合わせごとに、2つのねじりコイルばね6が備えられている。
より具体的には、2つのねじりコイルばね6のそれぞれは、入力側係合部27の周方向側面27cと、入力側被係合部34の平坦面34aとの間に挟持されている。すなわち、2つのねじりコイルばね6は、第1方向である係合子5の径方向に関して内側に向かうほど、第2方向である係合子5の幅方向に関して互いに離れる方向に配置されている。したがって、2つのねじりコイルばね6の弾力の第2方向に関する成分の向きは、互いに逆向きになる。
本例では、これに限定されないが、ねじりコイルばね6は、圧縮コイルばねにより構成されている。すなわち、ねじりコイルばね6は、入力側係合部27と入力側被係合部34との間に、弾性的に圧縮された状態で挟持されている。したがって、ねじりコイルばね6の弾力に基づいて係合子5に付与される力の第1方向に関する成分の向きは、係合子5の押圧面33を被押圧面7から遠ざける方向に係合子5を移動させる方向、すなわち、係合子5を径方向内側に向けて移動させる方向となっている。
また、入力部材3の回転に伴い、入力側被係合部34の内側で入力側係合部27が回転しようとすると、2つのねじりコイルばねのうちの入力部材3の回転方向に関して入力側係合部27の前側に配置されたねじりコイルばね6から該入力側係合部27に抵抗力が付与される。
本例の逆入力遮断クラッチ1は、任意の構成要素として、付勢部材42およびサポート部材45を備える。
付勢部材42は、係合子5を径方向外側に向けて弾性的に付勢する機能を有する。本例では、2つの係合子5の配置に合わせて、付勢部材42は、2つの係合子5の径方向内側面同士の間に設けられる。より具体的には、本例では、付勢部材42は、2つの係合子5の径方向内側面に備えられた平坦面部36同士の間の幅方向2箇所位置に配置された、2つの付勢部材42により構成されている。
付勢部材42は、圧縮コイルばねにより構成されており、2つの係合子5の平坦面部36同士の間で、弾性的に圧縮された状態で挟持されている。2つの係合子5は、付勢部材42により、第1方向に関して互いに離れる方向に弾性的に付勢されている。これにより、入力部材3と出力部材4とのいずれにもトルクが加わっていない中立状態において、2つの係合子5のそれぞれの押圧面33が被押圧面7に接触するようにしている。
2つの付勢部材42のそれぞれは、2つの係合子5の凸部37同士の2つの組み合わせのそれぞれの間に、長さ方向両側の端部の内側にそれぞれの凸部37を挿入することにより、その脱落が防止された状態で配置されている。
本例では、付勢部材42により係合子5に付与される径方向外側に向いた力が、ねじりコイルばね6の弾力に基づいて係合子5に付与される径方向内側を向いた力よりも大きくなるように、それぞれの付勢部材42の弾力およびそれぞれのねじりコイルばね6の弾力が規制されている。
サポート部材45は、入力部材3の2つの入力側係合部27の軸方向他側の端部である先端部同士の間にかけ渡されている。
サポート部材45は、図4に示すように、軸方向から見て、略長円形または略矩形の端面形状を有する。サポート部材45は、中央部に、出力部材4の出力側係合部31を挿通するための大径通孔38を有し、かつ、長軸方向に関して大径通孔38を挟んだ反対側2箇所に小径通孔39を有する。
サポート部材45は、それぞれの小径通孔39を挿通した支持ボルト40を、それぞれの入力側係合部27の軸方向他側の端面に開口するねじ孔41に螺合することで、2つの入力側係合部27に支持固定されている。
<逆入力遮断クラッチの動作説明>
本例の逆入力遮断クラッチ1の動作について、図6および図7を用いて説明する。なお、図6および図7は、入力部材3および出力部材4と、2つの係合子5との間の径方向に関する隙間を誇張して示している。
入力部材3に回転トルクが入力されると、入力部材3の回転方向に関係なく、2つの係合子5は被押圧面7から離れる方向に移動する。より具体的には、図6に示すように、入力側係合部27が、第2方向に関して入力側係合部27の両側に配置された2つのねじりコイルばね6のうちで入力部材3の回転方向に関して入力側係合部27の前側に配置されたねじりコイルばね6から入力側係合部27に付与される抵抗力に抗して、該前側に配置されたねじりコイルばね6を弾性的に圧縮させながら、入力側被係合部34の内側で入力部材3の回転方向(図6の例では反時計方向)に回転する。
これにより、入力側係合部27の径方向内側面27aと入力側被係合部34の平坦面34aとの間の隙間を減少させ、入力側係合部27の径方向内側面27aを入力側被係合部34の平坦面34aに接触させる。
この状態から、入力部材3がさらに回転すると、径方向内側面27aにより平坦面34aが径方向内側に向けて押圧され、係合子5が被押圧面7から離れる方向に移動する。すなわち、2つの係合子5が、入力部材3との係合に基づき、互いに近づく方向である径方向内側に向けて移動して、2つの係合子5の径方向内側面が互いに近づき、2つの係合子5の出力側被係合部35により出力部材4の出力側係合部31が径方向両側から挟持される。
このように、出力側係合部31の平坦面31aが係合子5の平坦面部36と平行になるように出力部材4を回転させつつ、出力側係合部31と係合子5の出力側被係合部35とをがたつきなく係合させる。この結果、入力部材3に入力された回転トルクが、2つの係合子5を介して、出力部材4に伝達され、該出力部材4から出力される。
出力部材4に回転トルクが逆入力されると、出力部材4の回転方向に関係なく、2つの係合子5は被押圧面7に近づく方向に移動する。より具体的には、図7に示すように、出力側係合部31が、2つの係合子5の出力側被係合部35同士の内側で、出力部材4の回転方向(図7の例では時計方向)に回転する。出力側係合部31の外周面のうち、平坦面31aと凸曲面31bとの接続部(角部)により出力側被係合部35が径方向外側に向けて押圧され、2つの係合子5が被押圧面7に近づく方向に移動する。
すなわち、2つの係合子5が、出力部材4との係合に基づき、互いに離れる方向である径方向外側に向けて移動して、2つの係合子5の押圧面33が、被押圧面7に接触し、被押圧面7に対して摩擦係合する。
この結果、出力部材4に逆入力された回転トルクが完全に遮断されて入力部材3に伝達されないか、または、出力部材4に逆入力された回転トルクの一部のみが入力部材3に伝達され残部が遮断される。
出力部材4に逆入力された回転トルクを完全に遮断して入力部材3に伝達されないようにするには、係合子5の押圧面33が被押圧面7に対して摺動(相対回転)しないように、係合子5を出力側係合部31と被押圧部材2との間で突っ張らせ(挟持して)、出力部材4をロックする。
出力部材4に逆入力された回転トルクのうちの一部のみが入力部材3に伝達され残部が遮断されるようにするには、係合子5の押圧面33が被押圧面7に対して摺動するように、係合子5を出力側係合部31と被押圧部材2との間で突っ張らせ(挟持して)、出力部材4を半ロックする。
本例の逆入力遮断クラッチ1では、以上の動作が可能となるように、各構成部材間の隙間の大きさが調整されている。特に、2つの係合子5の押圧面33が被押圧面7に接触した位置関係において、入力側係合部27の径方向内側面27aと入力側被係合部34の内面との間に、出力側係合部31の角部が出力側被係合部35を押圧することに基づいて押圧面33を被押圧面7に向けてさらに押し付けることを許容する隙間が存在するようにしている。
これにより、出力部材4に回転トルクが逆入力されたときに、係合子5の径方向外側への移動が入力側係合部27によって阻止されることが防止され、かつ、押圧面33が被押圧面7に接触した後も、押圧面33と被押圧面7との接触部に作用する面圧が、出力部材4に逆入力された回転トルクの大きさに応じて変化するようにして、出力部材4のロックまたは半ロックが適正に行われるようにしている。
本例の逆入力遮断クラッチ1では、以下の関係を満たすように、被押圧部材2、入力部材3、出力部材4、および係合子5の各部の寸法および形状がさらに規制されている。なお、図5~図7は、出力側係合部31の短軸方向寸法に対する長軸方向寸法を誇張して示している。
出力部材4の所定方向(たとえば図5の時計方向)への回転に伴い、2つの押圧面33が被押圧面7に押し付けられ、かつ、入力部材3の前記所定方向と反対方向(たとえば図5の反時計方向)への回転に伴い、入力側係合部27と入力側被係合部34とが係合した(入力側係合部27の一部が入力側被係合部34に接触した)状態において、入力側係合部27と入力側被係合部34との接触部Pinと、入力部材3の回転中心Oとの第2方向に関する距離である第1距離D1を、出力側係合部31と出力側被係合部35との接触部Poutと、出力部材4の回転中心Oとの第2方向に関する距離である第2距離D2よりも小さくしている(D1<D2)。
図7に示すように、出力部材4に回転トルクが逆入力され、係合子5の押圧面33が被押圧面7に接触した状態(ロック状態または半ロック状態)で、出力側係合部31と出力側被係合部35との接触部C1が、2つの押圧面33のうちの一方(第2方向に関して、出力部材4の回転中心Oよりも接触部C1に近い側)の押圧面33と被押圧面7との当接部C2と、出力部材4の回転中心Oとを結ぶ仮想直線Lよりも、第1方向に関して出力部材4の回転中心Oに近い側(図7の下側)に位置している。
本例の逆入力遮断クラッチ1によれば、国際公開2019/026794号に記載の逆入力遮断クラッチと同様の理由により、軸方向寸法を短くでき、かつ、部品点数を抑えることができる。
本例の逆入力遮断クラッチ1は、入力部材3および出力部材4のそれぞれの回転を、係合子5の径方向移動に変換する。このように入力部材3および出力部材4の回転を係合子5の径方向移動に変換することで、係合子5を、該係合子5の径方向内側に位置する出力部材4に係合させたり、係合子5を、該係合子5の径方向外側に位置する被押圧部材2に押し付けたりするようにしている。
このように、本例の逆入力遮断クラッチ1は、入力部材3および/または出力部材4の回転によって制御される係合子5の径方向移動に基づき、入力部材3から出力部材4に回転トルクが伝達可能になる出力部材4の非ロック状態と、出力部材4の回転が防止されるロック状態または出力部材4の回転が抑制される半ロック状態とを切り替えることができるため、逆入力遮断クラッチ1の装置全体の軸方向寸法を短くできる。
しかも、係合子5に、入力部材3に入力された回転トルクを出力部材4に伝達する機能と、出力部材4をロックまたは半ロックする機能との両方の機能を持たせている。このため、逆入力遮断クラッチ1の部品点数を抑えることができ、かつ、回転トルクを伝達する機能とロックまたは半ロックする機能とをそれぞれ別の部材に持たせる場合に比べて、動作を安定させることができる。
たとえば、回転トルクを伝達する機能とロックまたは半ロックする機能とを別の部材に持たせる場合、ロック解除または半ロック解除のタイミングと回転トルクの伝達開始のタイミングとがずれる可能性がある。この場合、ロック解除または半ロック解除から回転トルクの伝達開始までの間に出力部材に回転トルクが逆入力されると、出力部材が再びロックまたは半ロックされてしまう。
本例では、係合子5に、回転トルクを出力部材4に伝達する機能と、出力部材4をロックまたは半ロックする機能との両方の機能を持たせているため、このような不都合が生じることを防止できる。
また、入力部材3から係合子5に作用する力の向きと、出力部材4から係合子5に作用する力の向きとを逆向きにしているため、両方の力の大小関係を規制することで、係合子5の移動方向を制御できる。このため、出力部材4のロック状態または半ロック状態と非ロック状態との切り換え動作を安定して確実に行うことができる。
特に、本例の逆入力遮断クラッチ1では、入力部材3の回転時に、2つのねじりコイルばね6のうちで入力部材3の回転方向に関して入力側係合部27の前側に配置されたねじりコイルばね6を、該ねじりコイルばね6から入力側係合部27に付与される抵抗力に抗して弾性的に圧縮させる必要がある。したがって、逆入力遮断クラッチ1の組立作業の作業性を確保すべく、入力側係合部27と入力側被係合部34との間の隙間をある程度確保した場合でも、入力部材3のがたつきを抑えることができる。
本例の逆入力遮断クラッチ1では、ねじりコイルばね6の弾力は、第1方向に関する成分のほかに、第2方向に関する成分を含む。特に、本例では、2つのねじりコイルばね6の弾力の第2方向に関する成分の向きを、互いに逆向きとしている。さらに、2つのねじりコイルばね6のばね定数や自由長などのばね特性を同じとしている。このため、入力部材3と出力部材4とのいずれにもトルクが加わっていない中立状態において、第2方向に関して、入力側係合部27を入力側被係合部34の中央位置に位置させることができる。
換言すれば、入力部材3の回転方向にかかわらず、入力側係合部27と入力側被係合部34との間の周方向に関する隙間を同じにすることができる。このため、入力部材3に入力される回転トルクの向きが逆転する際に、入力側係合部27と入力側被係合部34との間の周方向隙間が大きくなることを防止できて、入力部材3のがたつきが大きくなることを防止できる。
ただし、入力部材3の片方向の回転にのみ、高い応答性が求められ、他方向の回転については、高い応答性を求められない場合などには、互いに係合する入力側係合部と入力側被係合部との間に配置された2つのねじりコイルばねのばね特性を互いに異ならせることもできる。
2つのねじりコイルばねのばね特性を異ならせることで、入力部材と出力部材とのいずれにもトルクが加わっていない中立状態において、入力側係合部と入力側被係合部との間の周方向に関する隙間のうち、入力部材が片方向に回転する場合に前側に存在する隙間を、入力部材が他方向に回転する場合に前側に存在する隙間よりも小さくすることができる。このため、入力部材が片方向に回転する場合の応答性を向上させることができる。
本例の逆入力遮断クラッチ1では、付勢部材42により、係合子5を径方向外側に向けて弾性的に付勢して、中立状態において、係合子5の押圧面33が被押圧面7に接触するようにしている。このため、出力部材4に回転トルクが逆入力された際に、該出力部材4の回転を直ちにロックまたは半ロックさせることができる。
本例の逆入力遮断クラッチ1では、サポート部材45を、入力部材3に備えられた2つの入力側係合部27の先端部同士の間にかけ渡すように設けている。このため、逆入力遮断クラッチ1をロック状態または半ロック状態から非ロック状態に切り換える際に、係合子5から入力側係合部27に径方向外側を向いた力が加わった場合でも、2つの入力側係合部27が互いに離れるように変形することを防止できる。
本例の逆入力遮断クラッチ1では、入力側係合部27と入力側被係合部34との接触部Pinと、入力部材3の回転中心Oとの第2方向に関する距離である第1距離D1を、出力側係合部31と出力側被係合部35との接触部Poutと、出力部材4の回転中心Oとの第2方向に関する距離である第2距離D2よりも小さく、かつ、ロック状態または半ロック状態において、出力側係合部31と出力側被係合部35との接触部C1を、押圧面33と被押圧面7との当接部C2と、出力部材4の回転中心Oとを結ぶ仮想直線Lよりも第1方向に関して出力部材4の回転中心Oに近い側に位置させている。
このため、ロック状態または半ロック状態から非ロック状態への切り換えを円滑に行うことができる。この理由について、図8(A)~図8(C)を参照しつつ説明する。
逆入力遮断クラッチ1のロック状態または半ロック状態において、入力部材3に回転トルクが入力されると、係合子5は、接触部C1を中心として回転する傾向となる。
第1距離D1が第2距離D2よりも大きい(D1>D2)場合、図8(B)に示すように、入力部材3に反時計方向の回転トルクが入力されると、係合子5が接触部C1を中心に反時計方向に回転する傾向となる。そして、図8(B)に一点鎖線で軌跡rを示すように、2つの押圧面33のうち、第2方向に関して出力部材4の回転中心Oを挟んで接触部C1と反対側(図8(B)の右側)に位置する押圧面33が、被押圧面7に強く押し付けられて食い込む傾向となる。
このような被押圧面7に対する押圧面33の食い込みを解除するため、ロック状態または半ロック状態から非ロック状態へ切り換える際に、入力部材3の回転トルクが瞬間的に大きくなる、すなわち、ピークトルクが発生する。
また、接触部C1が、仮想直線Lよりも第1方向に関して出力部材4の回転中心Oから遠い側に位置する場合、図8(C)に示すように、入力部材3に反時計方向の回転トルクが入力されると、係合子5が接触部C1を中心に、時計方向に回転する傾向となる。そして、図8(C)に一点鎖線で軌跡rを示すように、2つの押圧面33のうち、第2方向に関して出力部材4の回転中心Oよりも接触部C1に近い側(図8(C)の左側)に位置する押圧面33が、被押圧面7に強く押し付けられて食い込む傾向となる。
このような被押圧面7に対する押圧面33の食い込みを解除するため、ロック状態または半ロック状態から非ロック状態へ切り換える際に、入力部材3の回転トルクが瞬間的に大きくなる。
本例の逆入力遮断クラッチ1のように、第1距離D1が第2距離D2よりも小さく(D1<D2)、かつ、接触部C1が、仮想直線Lよりも第1方向に関して出力部材4の回転中心Oに近い側に位置する場合、図8(A)に示すように、入力部材3に反時計方向の回転トルクが入力されると、係合子5が接触部C1を中心に、時計方向に回転する傾向となる。
しかしながら、図8(A)に一点鎖線で軌跡r1、r2を示すように、2つの押圧面33はいずれも、被押圧面7に対して押し付けられることはない。このため、ロック状態または半ロック状態から非ロック状態へ切り換える際にも、入力部材3の回転トルクが瞬間的に大きくなることはなく、ロック状態または半ロック状態から非ロック状態への切り換えを円滑に行うことができる。また、ピークトルクが発生しないため、入力側機構の最大出力トルクを徒に大きくする必要がなく、入力側機構の徒な大型化を防止することができる。
本例の逆入力遮断クラッチ1では、被押圧面7を有する第1素子8と、固定部分に対して支持固定される取付部20を有する第2素子9とを別体に構成している。すなわち、被押圧面7を有する第1素子8を、固定部分に対し直接ボルト止めにより固定してはいない。このため、第2素子9のそれぞれの取付孔24を挿通した支持ボルトを、固定部分のそれぞれのねじ孔に螺合しさらに締め付けることにより、被押圧部材2を固定部分に対して支持固定することに伴って、第1素子8に変形が生じることを防止できる。
したがって、第1素子8の第1大径筒部11の内周面に備えられた被押圧面7の真円度の低下を防止することができる。この結果、逆入力遮断クラッチ1を非ロック状態からロック状態または半ロック状態に切り換えるロック性能を良好に確保できる、および/または、逆入力遮断クラッチ1を組み込んだ機械装置の制御性を良好に確保することができる。
本例では、第1素子8の第1大径筒部11の外周面に備えられた内径側嵌合面15と、第2素子9の第2大径筒部17の内周面に備えられた外径側嵌合面21とをがたつきなく嵌合させている。したがって、出力部材4への回転トルクの逆入力に伴って、それぞれの係合子5の押圧面33により被押圧面7が径方向外側に向けて押圧された場合でも、該被押圧面7が径方向外側に向けて変形することを防止できる。
本例の逆入力遮断クラッチ1は、図2に二点鎖線で示すように、第1素子8の第1小径筒部12の外周面と第1側板部13の軸方向片側の側面との間にかけ渡された補強リブ43を備えることもできる。補強リブ43を設ければ、被押圧面7の変形をより効果的に防止することができる。
本例では、第1大径筒部11の内周面のうち、被押圧面7およびその近傍部分にのみ高周波焼き入れにより硬化層が形成され、その後研磨加工が施されている。これにより、被押圧面7の硬さを確保しつつ、被押圧面7の寸法精度および真円度を良好に確保している。さらに、逆入力遮断クラッチ1を、非ロック状態からロック状態または半ロック状態に滑らかに切り換えられるようにしている。
本例では、入力部材3を、被押圧面7を有する第1素子8に対して回転自在に支持し、かつ、出力部材4を、取付部20を有する第2素子9に対して回転自在に支持しているが、入力部材を、固定部分に支持固定される取付部を有する第2素子に対して回転自在に支持し、かつ、出力部材を、被押圧面を有する第1素子に対して回転自在に支持することもできる。あるいは、本開示を実施する場合、被押圧面と取付部とを、同一の素子に備えさせることもできる。
本例では、ねじりコイルばね6は、圧縮コイルばねにより構成されているが、引張コイルばねにより構成することもできる。この場合、ねじりコイルばね6の弾力に基づいて係合子5に付与される力の第1方向に関する成分の向きは、係合子5の押圧面33を被押圧面7に近づける方向に係合子5を移動させる方向、すなわち係合子5を径方向外側に向けて移動させる方向となる。したがって、付勢部材42を省略しても、中立状態において、係合子5の押圧面33を被押圧面7に接触させることが可能となる。
本開示を実施する場合、入力部材、出力部材、被押圧部材、および、係合子の材質は、特に限定されない。たとえば、これらの材質としては、鉄合金、銅合金、アルミニウム合金などの金属のほか、必要に応じて強化繊維を混入した合成樹脂などを適用することができる。また、入力部材、出力部材、被押圧部材、および、係合子のそれぞれに対して、同じ材質を適用することもできるし、異なる材質を適用することもできる。
本開示を実施する場合、出力部材に回転トルクを逆入力した場合に、出力部材がロックまたは半ロックする条件さえ満たせば、入力部材、出力部材、被押圧部材、および、係合子が相互に接触する部分に、潤滑剤を介在させることもできる。あるいは、入力部材、出力部材、被押圧部材、および、係合子のうちの少なくとも1つを含油メタル製とすることもできる。
[第2例]
本開示の実施の形態の第2例について、図9を用いて説明する。本例の逆入力遮断クラッチ1aでは、ねじりコイルばね6aは圧縮コイルばねにより構成され、かつ、ねじりコイルばね6aの弾力に基づいて係合子5に付与される力の第1方向に関する成分の向きを、係合子5の押圧面33を被押圧面7に近づける方向に係合子5を移動させる方向、すなわち係合子5を径方向外側に向けて移動させる方向としている。
本例では、入力部材3の入力側係合部27は、軸方向から見て、径方向外側に向かうほど周方向幅が小さくなる略台形の端面形状を有する。すなわち、入力側係合部27の2つの周方向側面27c1は、径方向外側に向かうほど互いに近づく方向に傾斜した平坦面により構成されている。
ねじりコイルばね6aは、入力側係合部27の周方向側面27c1と、入力側被係合部34の凹曲面34bとの間にかけ渡されている。本例でも、ねじりコイルばね6aは、2つのねじりコイルばね6aにより構成されている。2つのねじりコイルばね6aは、係合子5の径方向に関して内側に向かうほど互いに近づく方向に配置されている。したがって、2つのねじりコイルばね6aの弾力に基づいて係合子5に付与される力の第1方向に関する成分の向きは、係合子5のそれぞれの押圧面33を被押圧面7に近づける方向に係合子5を移動させる方向、すなわち係合子5を径方向外側に向けて移動させる方向となる。
2つのねじりコイルばね6aの弾力の第2方向に関する成分の向きは、互いに逆向きになっている。したがって、入力部材3の回転に伴い、入力側被係合部34の内側で入力側係合部27が回転しようとすると、入力部材3の回転方向に関して入力側係合部27の前側に配置されたねじりコイルばね6aから該入力側係合部27に抵抗力が付与される。
本例の逆入力遮断クラッチ1aでも、組立作業の作業性を確保すべく、入力側係合部27と入力側被係合部34との間の隙間をある程度確保した場合でも、入力部材3のがたつきを抑えることができる。
本例の逆入力遮断クラッチ1aでは、ねじりコイルばね6aの弾力に基づいて係合子5に付与される力の第1方向に関する成分の向きを、係合子5を径方向外側に向けて移動させる方向としている。このため、付勢部材42に加えて、ねじりコイルばね6aの弾力によっても、係合子5を径方向外側に向けて弾性的に付勢することができる。この結果、中立状態において、係合子5の押圧面33を被押圧面7に接触させることができて、出力部材4に回転トルクが逆入力された際に、該出力部材4の回転を直ちにロックまたは半ロックさせることができる。
本例では、付勢部材42を省略することもできる。第2例のその他の部分の構成および作用効果は、第1例と同様である。
[第3例]
本開示の実施の形態の第3例について、図10を用いて説明する。本例の逆入力遮断クラッチ1bでは、ねじりコイルばね6bは、2つの入力側係合部27と2つの係合子5との組み合わせのうち、互いに係合する入力側係合部27と入力側被係合部34との組み合わせごとに、1つのねじりコイルばね6bにより構成されている。
ねじりコイルばね6bは、入力側係合部27の径方向外側部分の周方向中央部と、係合子5のうちで入力側被係合部34の径方向外側に位置する部分の周方向中央部とにかけ渡されている。具体的には、ねじりコイルばね6bの径方向内側の端部は、入力側係合部27の径方向外側部分の周方向中央部に、入力部材3の中心軸Oに平行な軸を中心とする揺動可能に支持され、かつ、ねじりコイルばね6bの径方向外側の端部は、係合子5のうちで入力側被係合部34の径方向外側に位置する部分の周方向中央部に、入力部材3の中心軸Oに平行な軸を中心とする揺動可能に支持されている。
本例では、ねじりコイルばね6bの弾力は、第1方向に関する成分を含むが、第2方向に関する成分を含んでいない。また、ねじりコイルばね6bは、引張コイルばねにより構成されている。したがって、ねじりコイルばね6bの弾力に基づいて係合子5に付与される力の第1方向に関する成分の向きは、係合子5の押圧面33を被押圧面7から遠ざける方向に係合子5を移動させる方向、すなわち係合子5を径方向内側に向けて移動させる方向となっている。
本例の逆入力遮断クラッチ1bでは、入力部材3の回転に伴い、入力側被係合部34の内側で入力側係合部27が回転すると、ねじりコイルばね6bが弾性的に伸長する。この状態で、ねじりコイルばね6bは、弾性的に復元しようとするため、入力側係合部27に、係合子5に対して回転しようとすることに対する抵抗力が付与される。このため、本例の逆入力遮断クラッチ1bでも、組立作業の作業性を確保すべく、入力側係合部27と入力側被係合部34との間の隙間をある程度確保した場合でも、入力部材3のがたつきを抑えることができる。
本例の逆入力遮断クラッチ1bによれば、入力部材3の回転方向にかかわらず、互いに係合する入力側係合部27と入力側被係合部34との組み合わせごとに1つのねじりコイルばね6bにより、入力側係合部27が係合子5に対して回転しようとすることに対する抵抗力を付与することができる。すなわち、第1例との比較では、ねじりコイルばね6bの個数を削減することができる。第3例のその他の部分の構成および作用効果は、第1例と同様である。
第3例の変形例として、ねじりコイルばね6を圧縮コイルばねにより構成することもできる。この場合、ねじりコイルばね6bの弾力に基づいて係合子5に付与される力の第1方向に関する成分の向きを、係合子5の押圧面33を被押圧面7に近づける方向に係合子5を移動させる方向、すなわち係合子5を径方向外側に向けて移動させる方向とすることができる。
上述した本開示の各実施の形態の構造は、矛盾が生じない範囲で、適宜組み合わせて実施することができる。