JP7375788B2 - 表面処理皮膜付き亜鉛系めっき鋼板及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、自動車、家電、建材などに用いられ、亜鉛系めっき鋼板の表面に形成された表面処理皮膜中に6価クロムなどの公害規制物質を全く含まない表面処理を施した環境調和型亜鉛系めっき鋼板及びその製造方法に関し、特に、電気・電子機器など、電磁波漏れ(EMI)を防止する必要がある用途に好適であり、電磁波シールド性に優れ、さらに平面部耐食性、加工部耐食性、潤滑性、積層時の耐横滑り性及び耐コイル潰れ性にも優れた表面処理皮膜付き亜鉛系めっき鋼板に関するものである。
近年、家電製品のデジタル化の進展及びCPUの高速化などに伴い、その周辺機器や人体に悪影響を及ぼす電磁波障害に関する問題が重要視されつつある。係る問題に対応し、わが国では「情報処理装置等電波障害自主規制協議会(VCCI)」が設立されており、昨今、VCCIの規格を遵守すべく、電磁波障害問題に対する業界自主規制の傾向がますます強まっている。電気・電子機器内の電子基盤等から発生する電磁波ノイズの対策として、金属(導電体)素材のシールドボックスにより電子基盤等を包囲し、電磁波をシールドする技術がその一例である。
シールドボックスは、シールドボックスを構成する導通性素材が電磁波を反射することにより電磁波を遮蔽する。また、シールドボックスを構成する素材の導通性が高いほど電磁波の反射率も高くなり、電磁波シールド性が向上する。そのため、シールドボックスの電磁波シールド性を確保する上では、シールドボックスを構成する金属板が高い導通性を有することが重要となる。
また、シールドボックスは、金属板を成型加工して製造されるため不連続部(継目や接合部)を有し、その不連続部から電磁波の漏洩または侵入が生じやすい。そのため、シールドボックスでは通常、不連続部に導通性の良いガスケットを挿入して電磁波の漏洩・侵入を防いでいる。
ここで、シールドボックスの遮蔽性をより確実にするためには、所望の電流をシールドボックス全体に亘り通電可能な構造とする必要がある。しかしながら、上記金属体とガスケットとの接触部は通常、接触圧力が低いため、金属体-ガスケット間の電気導通性(以下、単に「導通性」という)に劣り、該接触部における通電量が低くなる傾向にある。そのため、シールドボックスを構成する金属板の導通性を確保することに加え、金属板-ガスケット間の導通性をも確保することが、シールドボックスの更なる高性能化を図る上で重要となる。
一方、今日ではあらゆる環境下で電気・電子機器が使用されていることを踏まえ、シールドボックスを構成する素材には、過酷な使用環境下においても腐食しないこと、すなわち、優れた平面部耐食性を有することも要求される。そのため、シールドボックスを構成する素材としては、クロム酸、重クロム酸又はその塩類を主要成分とした処理液によるクロメート処理を施した亜鉛系めっき鋼板が広く用いられてきた。
先述のとおり、シールドボックスを構成する金属体(亜鉛系めっき鋼板)には高い導通性、特には、ガスケットとの導通性が要求される。ここで、クロメート処理により亜鉛系めっき鋼板表面に形成される皮膜は、素地鋼板よりも導通性が劣る一方、薄膜であっても防錆性能を発揮することが可能である。このため、クロメート処理を施した亜鉛系めっき鋼板においては、導通性に劣る皮膜を極力薄くすることにより、(表面処理なしの)亜鉛系めっき鋼板に匹敵する導通性が得られる。すなわち、上記ガスケットとの導通性は十分に確保されるため、防錆性能と電磁波シールド性を両立することが可能であった。しかしながら、最近の地球環境問題から、クロメート処理によらない無公害な表面処理皮膜付き亜鉛系めっき鋼板、所謂クロムフリー処理鋼板を採用することへの要請が高まっている。
また、シールドボックスを構成する金属体(亜鉛系めっき鋼板)は、多くの場合、何らかの加工、例えば曲げ加工、プレス成形、ロールフォーミング等をうけたのちに製品となる。そのため、加工時にかじりが起こって金属表面が損傷・脱落したり、より厳しい加工においては潤滑性不足から母材に割れが発生したりする場合がある。これらの問題を解決するためには、潤滑性にも優れることが必要である。
クロムフリー処理鋼板に関する技術は既に数多く提案されており、例えば特許文献1には、ジルコニウム化合物と、テトラアルコキシシランと、エポキシ基を有する化合物と、キレート剤と、バナジン酸化合物と、特定の金属化合物を特定の比率で含有する第一層用表面処理剤と、有機樹脂及び潤滑剤を含む第二層用表面処理液とを用いて二層皮膜を形成する技術が開示されている。
特許文献2には、特定の樹脂エマルションと、テトラアルコキシシランと、特定のシランカップリング剤と、キレート剤と、バナジン酸化合物と、チタン化合物と、潤滑剤とを特定の比率で含有する表面処理液を用いて皮膜を形成する技術が開示されている。
特許文献3には、ヘキサフルオロジルコニウム酸と無機酸とを含有する処理剤を用いてZrおよびFを含有する下地皮膜を形成した後、そのうえに、特定のウレタンゴムと、カルボジイミド樹脂と、有機チタン化合物と、コロイダルシリカと、ポリエチレンワックスを特定の比率で含有する処理剤を用いて上層皮膜を形成する技術が開示されている。
特許文献4には、特定のpH及び、特定の遊離酸度を有し、特定の金属イオンと、リン酸と、有機樹脂と、固形潤滑剤と、特定の添加剤とを含む表面処理液を用いて皮膜を形成する技術が開示されている。
特許文献5には、亜鉛系めっき鋼板上に、ジルコニウム化合物、水分散性シリカ、マグネシウム化合物、バナジウム化合物及びフッ素化合物を含む酸性無機被覆剤と、ウレタン樹脂、ケイ酸塩、チタン化合物、ポリカルボジイミド樹脂及びシランカップリング剤を含むアルカリ性有機無機複合被覆剤とを用いて、二層皮膜を形成する技術が開示されている。
これらの技術により形成される皮膜は、有機成分或いは無機成分の複合添加により、薄膜で優れた耐食性を実現し、耐食性と導通性の両立を図っている。さらに、皮膜中にワックスなどの潤滑剤を添加することにより潤滑性を高め、耐食性、導通性に加えて、潤滑性に優れた皮膜を得ることを狙っている。
特許5754102号公報 特開2012-092443号公報 特開2011-017082号公報 特開2007-284710号公報 WO2013/161621A1
上記した従来技術に従う潤滑性が付与された鋼板は、鉄鋼メーカーで製造する場合に鋼板が非常に長いものとなるため、コイル状にして出荷されることが多い。その場合にコイルが潰れたり、或いは巻き緩みが生じたりすることが問題になる。また、自動車・家電・建材等の用途で上記鋼板を用いる場合は、上記のコイルから直接加工することが難しいため、コイル状の鋼板を一度切板にした後、最終製品に加工することが多い。その際には、切板にした鋼板が積層して保管されることになるが、その場合に積層体が横滑りを起こしやすいことが問題になる。いずれの場合も、製造後のハンドリング性に課題が残ることになる。そのため、潤滑性に優れながらも、積層時の横滑りやコイル潰れといった問題も起こしにくい表面処理皮膜付き亜鉛系めっき鋼板が希求されている。
さらに、上述の通り、シールドボックスを構成する金属体(亜鉛系めっき鋼板)は、使用時に何らかの加工を施されることが多いが、近年は製品の高品質化に伴って、従来よりもさらに高い加工部の耐食性が要求されるようになっている。従って、一般的な平面部の耐食性に加えて、加工部の耐食性にも優れた表面処理皮膜付き亜鉛系めっき鋼板が求められている。
本発明は、従来技術で解決されていない上記の問題を解決したものであり、6価クロムなどの公害規制物質を全く含まず、良好な導通性を有しながら、平面部耐食性及び潤滑性に優れ、さらには加工部耐食性、積層時の耐横滑り性並びに耐コイル潰れ性にも優れる表面処理皮膜付き亜鉛系めっき鋼板を、その製造方法に併せて提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ブタジエンゴムを含むエラストマー成分と、ケイ素化合物と、リン化合物と、バナジウム化合物と、チタン化合物を配合した皮膜とすることにより、導通性と平面部耐食性が比較的優れた皮膜が得られることを見出した。
また、本発明者らは、無機成分(ケイ素化合物、リン化合物、バナジウム化合物、チタン化合物)からなる皮膜中にブタジエンゴムを含むエラストマー成分が微粒子として分散した状態を実現することにより、耐食性、特に加工部耐食性が高まる可能性に着目した。本発明者らは、表面処理液の成分に、ブタジエンゴムを含むエラストマーのエマルションと、シランカップリング剤と、ホスホン酸化合物とを用いる手法により、上記の組成系ではじめて、無機成分(ケイ素化合物、リン化合物、バナジウム化合物、チタン化合物)による皮膜中に、ブタジエンゴムを含むエラストマー成分が微粒子として分散した状態の皮膜が得られることを確認した。そして、上記ブタジエンゴムを含むエラストマー成分の占める面積率が特定の範囲にある場合に、実際に加工部耐食性が大きく改善すること、平面部耐食性にも改善が見られること、を知見するに到った。すなわち、導通性、平面部耐食性、加工部耐食性を高いレベルで両立できる手法を見出した。
さらに、上記の皮膜にワックス成分を添加し、特定の面積率を占める扁平形状粒子として存在させることによって、潤滑性と、積層時の耐横滑り性および耐コイル潰れ性とを両立できることも見出した。
以上の知見に基づいて、良好な導通性を有しながら、平面部耐食性、加工部耐食性、潤滑性、積層時の耐横滑り性および耐コイル潰れ性の全てを満たすような、表面処理皮膜付き亜鉛系めっき鋼板を得ることに成功した。
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
1.亜鉛系めっき層上に表面処理皮膜を有する亜鉛系めっき鋼板であって
前記表面処理皮膜は、
平均粒子径が20nm~500nmの粒子の少なくとも一部にブタジエンゴムを含むエラストマー成分(a)と、
扁平形状を有するワックス成分(b)と、
ケイ素化合物(c)と、
リン化合物(d)と、
バナジウム化合物(e)と、
チタン化合物(f)と、
を含み、
前記表面処理皮膜の表面における、前記ワックス成分(b)が存在する領域の面積率が2%~40%、かつ前記ワックス成分(b)が存在しない領域のうちの前記エラストマー成分(a)の面積率が5%~50%であることを特徴とする、表面処理皮膜付き亜鉛系めっき鋼板。
2.前記表面処理皮膜中に、前記ケイ素化合物(c)をSiO換算で20.0質量%~50.0質量%、前記リン化合物(d)をP換算で0.4質量%~8.0質量%、前記バナジウム化合物(e)をV換算で0.1質量%~2.0質量%、前記チタン化合物(f)をTi換算で0.1質量%~2.0質量%にて含む、前記1に記載の表面処理皮膜付き亜鉛系めっき鋼板。
3.前記バナジウム化合物(e)中のバナジウムの価数が4価である、前記1または2に記載の表面処理皮膜付き亜鉛系めっき鋼板。
4.前記ワックス成分(b)が存在しない領域から抽出した1μm×1μmの正方形領域における、前記エラストマー成分(a)が存在する面積率が5%以上である、前記1から3のいずれかに記載の表面処理皮膜付き亜鉛系めっき鋼板。
5.前記表面処理皮膜の内部における、ワックス成分(b)の存在する領域の面積率が1%未満であることを特徴とする、前記1から4のいずれかに記載の表面処理皮膜付き亜鉛系めっき鋼板。
6.前記エラストマー成分(a)は、さらにウレタンゴムもしくはポリウレタン系熱可塑性エラストマーを含む、前記1から5のいずれかに記載の表面処理皮膜付き亜鉛系めっき鋼板。
7.亜鉛系めっき鋼板の亜鉛系めっき層の表面に、平均粒子径が20nm~500nmの粒子の少なくとも一部にブタジエンゴムを含むエラストマーエマルション(A)と、ワックス(B)と、シラン化合物(C)と、ホスホン酸化合物(D)と、バナジウム化合物(E)と、チタン化合物(F)と、水と、を下記[I]および[II]の条件の下に含有し、pHが3.0~7.0である表面処理液を塗布し、次いで、鋼板の到達温度が前記ワックス(B)の融点よりも10℃以上高い条件にて加熱乾燥し、表面処理皮膜を形成することを特徴とする、表面処理皮膜付き亜鉛系めっき鋼板の製造方法。

[I]水系表面処理液の全固形分の質量(NV)に対する、前記ブタジエンゴムを含むエラストマーエマルション(A)の固形分の質量(A)の比(A)/(NV)が0.05~0.45
[II]水系表面処理液の全固形分の質量(NV)に対する、前記ワックス(B)の固形分の質量(B)の比(B)/(NV)が0.003~0.050
8.前記表面処理液は、下記[III]から[VI]の条件を満足する、前記7に記載の表面処理皮膜付き亜鉛系めっき鋼板の製造方法。

[III]水系表面処理液の全固形分の質量(NV)に対する、前記シラン化合物(C)のSiO換算の質量(CSiO2)の比(CSiO2)/(NV)が、0.20~0.50
[IV]水系表面処理液の全固形分の質量(NV)に対する、前記ホスホン酸化合物(D)のP換算の質量(D)の比(D)/(NV)が、0.004~0.080
[V]水系表面処理液の全固形分の質量(NV)に対する、前記バナジウム化合物(E)のV換算の質量(E)の比(E)/(NV)が、0.001~0.020
[VI]水系表面処理液の全固形分の質量(NV)に対する、前記チタン化合物(F)のTi換算の質量(FTi)の比(FTi)/(NV)が、0.001~0.020
9.前記バナジウム化合物(E)がバナジル化合物である、前記7または8に記載の表面処理皮膜付き亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
10.前記エラストマーエマルション(A)が、さらにウレタンゴムもしくはポリウレタン系熱可塑性エラストマーを含む、前記7から9のいずれかに記載の表面処理皮膜付き亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
11.前記シラン化合物(C)が、テトラアルコキシシランおよび/または活性水素含有アミノ基、エポキシ基、メルカプト基およびメタクリロキシ基から選ばれた少なくとも1種の反応性官能基を有する、少なくとも1種のシランカップリング剤である、前記7から10のいずれかに記載の表面処理皮膜付き亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
本発明によれば、導通性、耐食性、潤滑性の諸性能に優れ、しかも積層時の耐横滑り性や耐コイル潰れ性にも優れる、表面処理皮膜付き亜鉛系めっき鋼板を提供することができる。
動摩擦係数測定装置を示す概略正面図である。 使用したビードの形状・寸法を示す概略斜視図である。 滑り始めの静止摩擦係数測定装置を示す概略正面図である。 No.14(発明例)の20μm×20μmの範囲の表面SEM像である。 No.14(発明例)の2μm×2μmの範囲の表面SEM像である。 No.28(比較例)の20μm×20μmの範囲の表面SEM像である。 No.26(比較例)の2μm×2μmの範囲の表面SEM像である。
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また、本明細書中、例えば「a~b」なる数値範囲についての記載は、aとbとの間の範囲のみならず上限値および下限値も含めることを意図した記載である。すなわち、本明細書において、例えば「a~b」なる記載は「a以上b以下」を意味する。
1.表面処理皮膜付き亜鉛系めっき鋼板
1.1 鋼板
本発明に用いる亜鉛系めっき鋼板は、亜鉛系めっき層を備えれば特に制限はない。亜鉛系めっき鋼板としては、溶融亜鉛めっき鋼板(GI)又はこれを合金化した合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)、更には溶融Zn-5質量%Al合金めっき鋼板(GF)、溶融Zn-55質量%Al合金めっき鋼板(GL)、電気亜鉛めっき鋼板(EG)、電気亜鉛-Ni合金めっき鋼板(Zn-11質量%Ni)等が挙げられる。
1.2 表面処理皮膜
本発明では、亜鉛系めっき鋼板上に表面処理皮膜が形成されている。本発明の表面処理皮膜は、平均径が20nm~500nmの粒子であって、かつ該粒子の少なくとも一部にブタジエンゴムが含まれるエラストマー成分(a)と、扁平形状の構造を有するワックス成分(b)と、ケイ素化合物(c)と、リン化合物(d)と、バナジウム化合物(e)と、チタン化合物(f)とを含む。なお、ここで言うエラストマーとは、常温でゴム弾性を示す高分子物質であるものを指し、熱硬化性エラストマー(ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ポリウレタンゴム、ブチルゴムなど)と、熱可塑性エラストマー(ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、アクリル系熱可塑性エラストマーなど)が含まれる。
本発明の表面処理皮膜の表面における前記ワックス成分(b)の存在する領域の面積率は、2%~40%である。また、本発明の表面処理皮膜の表面におけるワックス成分(b)が存在しない領域のうちの前記エラストマー成分(a)の存在する領域の面積率は、5%~50%であり、前記エラストマー成分(a)は粒子として分散している。
そして、本発明の皮膜中には、ケイ素化合物(c)がSiO換算で20.0質量%~50.0質量%、リン化合物(d)がP換算で0.4質量%~8.0質量%、バナジウム化合物(e)がV換算で0.1質量%~2.0質量%、チタン化合物(f)がTi換算で0.1質量%~2.0質量%含まれていることが好ましい。
本発明の表面処理皮膜は、皮膜に含まれる各成分を所定の割合で含む水系表面処理液を、亜鉛系めっき鋼板上に塗布し、所定の到達板温で乾燥させることにより得られる。以下に、本発明の表面処理皮膜が形成されるメカニズムを説明する。
本発明の表面処理皮膜に含まれる、上記した各成分を所定の割合で含む表面処理液を亜鉛系めっき鋼板上に塗布し所定の温度で乾燥した際に、ケイ素化合物(c)を主体とする皮膜中に、リン化合物(d)とバナジウム化合物(e)とチタン化合物(f)とが分散し、さらにエラストマー成分(a)が粒子として分散した状態とする。さらに、ワックス成分(b)は、上記の無機皮膜の表面に扁平形状の粒子として存在する状態とする。
以上の皮膜構造を実現するためには、表面処理液中における各成分の表面エネルギーのバランスを適正にし、エラストマー成分(a)を、ケイ素化合物(c)を主体とする皮膜中に分散しやすくすること、及びワックスの融点よりも高い温度に昇温し、ワックスの溶融とワックス同士の結合を促進することが重要である。
なお、後述するように本実施形態における表面処理液は、前記の皮膜構造を実現するために、ブタジエンゴムを含むエラストマーのエマルション(A)と、ケイ素化合物(c)の前駆体としてのシラン化合物(C)と、リン化合物(d)の前駆体としてのホスホン酸化合物(D)とを含有する。シラン化合物(C)とブタジエンゴムを含むエラストマーのエマルション(A)の造膜作用により、ケイ素化合物(c)中にエラストマー成分が分散した構造が形成されると推定される。また、ホスホン酸化合物(D)は、乳化剤として作用することにより、ブタジエンゴムを含むエラストマーのエマルション(A)同士の凝集や会合を抑制していると考えられ、これにより、ブタジエンゴムを含むエラストマー成分(a)が、皮膜中に微細な粒子として分散した構造を実現することができると推定される。これに対し、表面処理液がシラン化合物(C)を含有しない場合、あるいはホスホン酸化合物(D)を含有しない場合には、ケイ素化合物(c)を主体とする皮膜中にエラストマー成分(a)が微細な粒子として分散した構造は実現できない。
本発明の表面処理皮膜では、ブタジエンゴムを含むエラストマー成分(a)と、ケイ素化合物(c)と、リン化合物(d)と、バナジウム化合物(e)と、チタン化合物(f)を含むことにより、薄膜でも優れた平面部耐食性を実現し、優れた導通性と平面部耐食性を両立できる。そして、ケイ素化合物(c)を主体とする皮膜中に、リン化合物(d)とバナジウム化合物(e)とチタン化合物(f)とが分散し、さらにエラストマー成分(a)が粒子として分散した構造となることにより、加工部の耐食性が改善され、導通性、平面部耐食性、加工部耐食性を高いレベルで両立することができる。さらに、皮膜表面に扁平形状のワックス成分(b)を粒子として特定の面積率で存在させることにより、加工時の潤滑性と積層時の耐横滑り性を両立することが可能となる。このような効果の発現原理は定かではないが、推定される効果の発現機構を以下に説明する。
[平面部耐食性]
まず、ケイ素化合物(c)を主体とする皮膜中に、ブタジエンゴムを含むエラストマー成分(a)を添加することにより、ケイ素化合物(c)単体の場合よりも皮膜が緻密化されるため、腐食因子のバリア性が高まり、平面部耐食性が向上すると考えられる。また、リン化合物(d)、バナジウム化合物(e)、チタン化合物(f)を含むことにより、鋼板の一部が腐食し始めた場合にも、上記の成分が素早く溶出し、保護皮膜を形成するため、腐食の進行を抑制することができる。これらリン化合物(d)、バナジウム化合物(e)、チタン化合物(f)が複合して形成される保護皮膜は、より高いバリア性を有しているため、これらの化合物が単独で存在する場合よりも優れた平面部耐食性を実現できると推定される。よって、薄膜でも優れた平面部耐食性が実現し、導通性と平面部耐食性の両立が可能となる。
[加工部耐食性]
さらに、本発明で見出したように、ケイ素化合物(c)を主体とする皮膜中に、リン化合物(d)とバナジウム化合物(e)とチタン化合物(f)とが分散し、さらにブタジエンゴムを含むエラストマー成分(a)が粒子として分散した構造となることにより加工部耐食性にも優れた皮膜が得られる。この理由は、ケイ素化合物(c)を主体とする皮膜中にブタジエンゴムを含むエラストマー成分(a)が分散していることにより、ブタジエンゴムを含むエラストマー成分(a)が加工時の応力を分散させ、皮膜の損傷を抑制するため、加工部においても平面部同様のバリア効果が維持されるためだと推定される。また、リン化合物(d)とバナジウム化合物(e)とチタン化合物(f)が分散していることにより、皮膜が損傷してバリア性が失われた場合にも、上記の成分が素早く溶出し、保護皮膜を形成して腐食の進行を抑制するという効果もあると考えられる。
[潤滑性]
また、本発明の表面処理皮膜においては、ワックス成分(b)を扁平形状の粒子として特定面積率で存在させることにより、まず潤滑性を確保できる。すなわち、例えば鋼板に曲げ加工、プレス成形、ロールフォーミング等の加工を施す際に、皮膜が高い荷重を受ける場合は、ワックス成分(b)が相手材(加工用の金型や治具)と接触し、ワックスの効果により摩擦係数は低減される。
[積層時の耐横滑り性(および耐コイル潰れ性)]
さらに、本発明の表面処理皮膜においては、ワックス成分(b)を扁平形状の粒子として特定面積率で存在させることにより、優れた潤滑性に併せて積層時の耐横滑り性を両立できる。本発明の皮膜においては、エラストマー成分(a)が微細な粒子として皮膜中に分散し、その一部が皮膜表面から突出した状態となっている。よって、ワックス成分(b)が扁平形状の粒子として存在することにより、例えば皮膜付き鋼板を積層して使用するなど、皮膜に低荷重が加わる場合には、エラストマー成分(a)が優先的に相手材(積層されている鋼板における鋼板または皮膜、以下同様)と接触し、ワックス成分(b)が相手材と接触しないため、滑りが抑制されると推定される。このようなメカニズムにより、加工時の高い潤滑性を有しながらも、積層時の横滑りやコイル潰れを抑制することが可能になると推定される。これに対し、ワックス成分(b)が扁平形状でない場合は、鋼板積層時などの皮膜に低荷重がかかる場合にもワックスが相手材と接触し、その潤滑作用が現れるため、積層時の耐横滑り性が劣化すると推定される。
なお、例えば鋼板をコイル状にして出荷する際に問題となる、コイル潰れは、鋼板相互間での滑りに起因するから、横滑り性と同様の特性であり、耐横滑り性の評価をもって耐コイル潰れ性を評価することができる。
ここで、ワックス成分(b)が扁平形状の粒子であるとは、ワックス成分の粒子の平均アスペクト比ARが10以上であることを指す。平均アスペクト比ARが10以上となる範囲であれば、扁平形状でない粒子が含まれていてもよい。なお、皮膜中の平均アスペクト比ARは、下記のようにして算出する。まず、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて皮膜表面における粒子を観察し、該粒子の輪郭内に描かれうる最長線分の長さLを求める。この操作を、皮膜表面からランダムに抽出した10個のワックス粒子に対して行い、その相加平均Lavを求める。次に、SEMを用いて皮膜を断面から観察し、粒子の最大厚みtmaxと最小厚みtminを計測してその平均値(tmax+tmin/2)を計算する。この操作を、皮膜断面からランダムに抽出した10個のワックス粒子に対して行い、その相加平均tavを算出する。Lavをtavで割ったLav/tavが、平均アスペクト比ARである。
次に、本発明の表面処理皮膜の構造について、詳細に説明する。
本発明の表面処理皮膜の表面において、ワックス成分(b)が存在する領域の面積率は、2%~40%であることが肝要である。上記面積率が2%未満であると、ワックス(b)による滑り性向上効果が表れず、潤滑性が不十分となる。一方で、上記面積率が40%より大きいと、滑り性が高まりすぎて、積層時の横滑りやコイル潰れが発生しやすくなる。
なお、本発明の表面処理皮膜の表面における、ワックス成分(b)が存在する領域の面積率は、次のようにして算出する。まず、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて皮膜表面を観察し、20μm×20μm程度の範囲のSEM像をランダムに5視野撮影する。このとき、皮膜表面の情報を得るために、加速電圧1kV以下の条件で観察を行う。得られた皮膜表面のSEM像において、ワックス成分(b)は、周囲よりも暗いコントラストを有する扁平形状の粒子として観察される。そこで、撮影したSEM像を画像処理によって二値化し、扁平形状粒子の面積率を計算する。そして、これを抽出した5視野全てで実施し、平均をとることにより、表面処理皮膜の表面における、ワックス成分(b)が存在する領域の面積率を算出することができる。
さらに望ましくは、本発明の表面処理皮膜の内部におけるワックス成分(b)が存在する領域の面積率が1%未満であることが望ましい。上記面積率が1%未満であることにより、皮膜内部がより緻密なものとなり、より優れた耐食性を得ることができる。ここに、表面処理皮膜の内部は、表面処理皮膜に対して、SEMを用いて加速電圧:2~5kVにて観察したときに得られる、SEM像として定義することができる。
本発明の表面処理皮膜の内部におけるワックス成分(b)が存在する領域の面積率は、次のようにして算出する。まず、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて皮膜表面を観察し、20μm×20μm程度の範囲のSEM像をランダムに5視野撮影する。このとき、皮膜内部の情報を得るため、加速電圧2kV以上5kV以下の条件にて観察したときに得られるSEM像の撮影を行う。得られた皮膜内部のSEM像において、ワックス成分(b)は、周囲よりも暗いコントラストを有する扁平形状の粒子として観察される。そこで、撮影したSEM像を画像処理によって二値化し、扁平形状粒子の面積率を計算する。
また、本発明の表面処理皮膜の表面において、ワックス成分(b)が存在しない領域のうちのエラストマー成分(a)の存在する面積率は、5%~50%であることが肝要である。上記面積率が5%~50%であることにより、加工部耐食性及び積層時の耐横滑り性が十分なものとなる。上記面積率が5%未満である場合、加工部耐食性が劣化する上、積層時の耐横滑り性も不十分となる。一方、上記面積率が50%より大きい場合には、平面部耐食性及び加工部耐食性が不十分となる。
表面処理皮膜の表面における、ワックス成分(b)が存在しない領域のうちのエラストマー成分(a)の存在する面積率は、例えば下記の方法によって算出することができる。まず、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて皮膜表面を観察し、扁平形状の粒子となっているワックス成分(b)の存在しない領域から、2μm×2μm程度の範囲のSEM像をランダムに5視野撮影する。この時、皮膜表面の情報を得るため、加速電圧1kV以下の条件で観察を行う。得られた皮膜表面のSEM像において、エラストマー成分(a)は、周囲よりも暗いコントラストを有する粒子として観察される。そこで、撮影したSEM像を画像処理によって二値化し、暗い粒子の面積率を計算する。そして、これを抽出した5視野全てで実施し、平均をとることにより、「表面処理皮膜の表面における、ワックス成分が存在しない領域のうちのエラストマー成分(a)の存在する面積率」を算出することができる。
また、本発明では、エラストマー成分(a)が皮膜中により均一に分散していることがより好ましい。エラストマー成分(a)の分散状態は、「ワックス成分(b)が存在しない領域から抽出した1μm×1μmの正方形領域におけるエラストマー成分(a)が存在する面積率」を用いて評価することができる。本発明の表面処理皮膜では、ワックス成分(b)が存在しない領域から抽出した任意の1μm×1μmの正方形領域におけるエラストマー成分(a)の存在する面積率が5%以上であることが好ましい。より好ましくは、8%以上である。上記面積率が5%以上となることは、エラストマー成分(a)がケイ素化合物を主体とする皮膜中により均一に分散していることであり、加工時の応力集中を抑制する効果が高まるため、より一層優れた加工部耐食性が得られる。
表面処理皮膜の表面において、ワックス成分(b)が存在しない領域から抽出した1μm×1μmの任意の正方形領域におけるエラストマー成分の存在する面積率が5%以上となることを確認するには、以下の様な方法を用いることができる。
まず、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、皮膜表面を観察し、扁平形状粒子となっているワックス成分(b)が存在しない領域から1μm×1μmの正方形領域をランダムに10視野抽出する。このとき、皮膜表面の情報を得るため、加速電圧1kV以下の条件で観察を行う。得られた皮膜表面のSEM像において、エラストマー成分(a)は周囲よりも暗いコントラストで観察されるため、画像処理を用いてSEM像を二値化し、上記の1μm×1μmの正方形領域におけるエラストマー成分(a)の面積率を算出する。そして、これを抽出した10視野全てで実施し、10視野の全てで上記面積率が5%以上であることを確認できれば、「ワックス成分(b)が存在しない領域から抽出した1μm×1μmの任意の正方形領域におけるエラストマー成分(a)の存在する面積率が5%以上となる」とみなすことができる。
本発明の表面処理皮膜の厚みは、0.05μm~2.00μmとすることが好ましい。すなわち、膜厚が0.05μm未満であると、耐食性が不十分となる、おそれがある。一方、膜厚が2.00μmより大きくなると、導通性が不十分となる、おそれがある。
引き続いて、本発明の表面処理皮膜を構成する成分について、詳細に説明する。
<エラストマー成分(a)>
本発明の表面処理皮膜に含まれるエラストマー成分(a)は、平均径が20nm~500nmの粒子の少なくとも一部にブタジエンゴムを含む。本発明の表面処理皮膜では、エラストマー成分(a)がケイ素化合物を主体とする皮膜中に分散した構造となることにより、皮膜を緻密化させ平面部耐食性を向上させる効果が得られる。さらに、エラストマー成分(a)の一部にブタジエンゴムが含まれることにより、加工時の応力集中を抑制して加工部耐食性を向上させる効果と、積層時の横滑りやコイル潰れを抑制する効果が発現する。加えて、エラストマー成分(a)の平均粒子径が20nm~500nmであることにより、加工部耐食性、平面部耐食性、積層時の耐横滑り性を向上させる効果が十分に発揮される。すなわち、エラストマー成分(a)の平均粒子径が20nmより小さい場合は、ワックスと相手材の接触を抑制する効果がなくなり、積層時の耐横滑り性が不十分となる。また、エラストマー成分(a)の平均粒子径が500nmより大きい場合は、応力集中抑制効果が不十分となり、加工部耐食性が改善されない。好ましくは、平均粒子径が50nm~300nmである。
なお、エラストマー成分(a)のうち、ブタジエンゴムでないエラストマー粒子が含まれていてもよいが、エラストマー成分(a)全体に占めるブタジエンゴムエラストマー粒子の割合は、20質量%以上であることが好ましい。より好ましくは、40質量%以上である。なぜなら、エラストマー成分(a)全体に占めるブタジエンゴムエラストマーの割合が20質量%未満である場合には、加工部耐食性や積層時の耐横滑り性および耐コイル潰れ性を向上させる効果が小さくなるためである。
表面処理皮膜中のエラストマー成分(a)の平均粒子径は、例えば下記の方法によって算出することができる。まず、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて皮膜表面を観察し、2μm×2μm程度の範囲のSEM像をランダムに5視野撮影する。得られた皮膜表面のSEM像において、エラストマー成分(a)は、周囲よりも暗いコントラストを有する粒子(暗い粒子)として観察される。そこで、撮影したSEM像内に観察される全ての暗い粒子の粒子径を測定し、その面積平均をとることで平均粒子径を計算する。この平均粒子径を5視野全てで計算し、さらに3つの値の平均をとることにより、皮膜中のエラストマー成分(a)の平均粒子径を算出することができる。
なお、エラストマー成分(a)を含む表面処理皮膜は、エラストマー成分(a)を水に分散して得られたエラストマーエマルション(A)を含む水系表面処理液を用いて形成する。
また、エラストマー成分(a)には、ブタジエンゴム以外のエラストマーを含むことができる。より望ましくは、ブタジエンゴムに加え、さらにウレタンゴムもしくはポリウレタン系熱可塑性エラストマーも含まれることが望ましい。ウレタンゴムもしくはポリウレタン系熱可塑性エラストマーが含まれることにより、基材と表面処理皮膜の結合力が高まり、より優れた平面部耐食性及び加工部耐食性が得られる。なお、ブタジエンゴム以外のエラストマーを含む場合、該ブタジエンゴム以外のエラストマーの含有比率は、80質量%未満であることが好ましい。より好ましくは60質量%未満である。
<ワックス成分(b)>
本発明の表面処理皮膜に含まれるワックス成分(b)は、皮膜中において扁平形状の粒子として存在することにより、優れた潤滑性および耐横滑り性を実現する。扁平形状のワックス成分(b)を含む表面処理皮膜は、ワックス(B)を含む水系表面処理液を亜鉛系めっき鋼板上に塗布し、さらにワックス(B)の融点より10℃以上高い到達板温となるような条件で乾燥し、ワックス(B)を完全に溶融させることにより得られる。水系表面処理液に用いるワックス(B)の種類は特に限定されないが、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス、パラフィンワックス、モンタンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどを用いることができる。
<ケイ素化合物(c)>
本発明の表面処理皮膜に含まれるケイ素化合物(c)は、SiO換算で20.0質量%~50.0質量%であることが好ましい。ケイ素化合物(c)をSiO換算で20.0質量%~50.0質量%含む表面処理皮膜は、シラン化合物(C)を含む水系表面処理液を用いて形成される。皮膜中に、ケイ素化合物(c)がSiO換算で20.0質量%~50.0質量%含まれることにより、シロキサン結合によりバリア性の高い皮膜骨格が形成されて優れた平面部耐食性が得られるとともに、エラストマー成分(a)との複合効果で優れた平面部耐食性、加工部耐食性が得られる。ケイ素化合物(c)の含有量が20.0質量%未満であると、シロキサン結合により皮膜のバリア性を高める効果が発揮されず、耐食性が不十分となる、おそれがある。一方、ケイ素化合物(c)の含有量が50.0質量%より多いと、エラストマー成分(a)との複合効果が小さくなり、平面部耐食性、加工部耐食性が不十分となる、おそれがある。
<リン化合物(d)>
本発明の表面処理皮膜に含まれるリン化合物(d)は、P換算で0.4質量%~8.0質量%であることが好ましい。本発明の表面処理皮膜中のリン化合物(d)は、ホスホン酸化合物(D)を含む水系表面処理液を亜鉛系めっき鋼板上に塗布して乾燥させることにより得られる。リン化合物(d)は、皮膜中に分散していることにより、腐食抑制作用を示し、平面部耐食性、加工部耐食性を向上させる。さらに、同じく皮膜中に含まれるバナジウム化合物(e)、チタン化合物(f)との相互作用によって、より優れた腐食抑制作用を発揮する。皮膜中に含まれるリン化合物(d)が、P換算で0.4質量%未満であると、リン化合物(d)による腐食抑制作用が十分に発揮されず、平面部耐食性、加工部耐食性が不十分となる、おそれがある。一方で、リン化合物(d)がP換算で8.0質量%より多いと、皮膜の溶出性が高まり、平面部耐食性、加工部耐食性が劣化する、おそれがある。
<バナジウム化合物(e)>
本発明の表面処理皮膜に含まれるバナジウム化合物(e)は、V換算で0.1質量%~2.0質量%であることが好ましい。本発明の表面処理皮膜中のバナジウム化合物(e)は、バナジウム化合物(E)を含む水系表面処理液を亜鉛系めっき鋼板上に塗布して乾燥させることにより得られる。バナジウム化合物(e)は、皮膜中に分散していることにより、腐食抑制作用を示し、平面部耐食性、加工部耐食性を向上させる。さらに、同じく皮膜中に含まれるリン化合物(d)、チタン化合物(f)との相互作用により、より優れた腐食抑制作用を発揮する。皮膜中に含まれるバナジウム化合物(e)が、V換算で0.1質量%未満であると、バナジウム化合物(e)による腐食抑制作用が十分に発揮されず、平面部耐食性、加工部耐食性が不十分となる、おそれがある。一方で、バナジウム化合物(e)がV換算で2.0質量%より多いと、皮膜の溶出性が高まり、平面部耐食性、加工部耐食性が劣化する、おそれがある。
さらに、バナジウム化合物(e)中のバナジウムの価数は4価であることがより望ましい。バナジウムの価数が4価である場合に、加工部の腐食抑制作用が最も高く、加工部耐食性をより優れたものとすることができる。加工部の腐食抑制には、バナジウムが腐食環境で皮膜から溶出しやすいこと、溶出したバナジウムが皮膜損傷部分に沈殿すること、の2つが必要である。バナジウムの価数が高いほど、バナジウムの腐食環境下での溶出性は高まるが、溶出バナジウムの皮膜損傷部分での沈殿性が低くなる。この両者のバランスは、バナジウムが4価である場合が極めて良好になり、加工部の腐食抑制作用が最も高いと考えられる。なお、皮膜中のバナジウムの価数は、X線光電子分光測定などを用いて測定することができる。
<チタン化合物(f)>
本発明の表面処理皮膜に含まれるチタン化合物(f)は、Ti換算で0.1質量%~2.0質量%であることが好ましい。本発明の表面処理皮膜中のチタン化合物(f)は、チタン化合物(F)を含む水系表面処理液を亜鉛系めっき鋼板上に塗布して乾燥させることにより得られる。チタン化合物(f)は、皮膜中に分散していることにより、腐食抑制作用を示し、平面部耐食性、加工部耐食性を向上させる。さらに、同じく皮膜中に含まれるリン化合物(d)、バナジウム化合物(e)との相互作用により、より優れた腐食抑制作用を発揮する。皮膜中に含まれるチタン化合物(f)が、Ti換算で0.1質量%未満であると、チタン化合物(f)による腐食抑制作用が十分に発揮されず、平面部耐食性、加工部耐食性が不十分となる、おそれがある。一方で、チタン化合物(f)がTi換算で2.0質量%より多いと、皮膜の溶出性が高まり、平面部耐食性、加工部耐食性が劣化する、おそれがある。
皮膜中のケイ素化合物(c)(SiO換算)、リン化合物(d)(P換算)、バナジウム化合物(e)(V換算)、チタン化合物(f)(Ti換算)の含有量は、蛍光X線分析を用い、表面処理皮膜中のSi、P、V、Tiの量をそれぞれ定量することで算出できる。また、皮膜の質量は、鋼板上から酸処理などにより皮膜を剥離し、剥離前後の重量変化を測定することで算出できる。本発明者が検討した結果、上記の方法により算出した皮膜の質量に対する、ケイ素化合物(c)(SiO換算)、リン化合物(d)(P換算)、バナジウム化合物(e)(V換算)、チタン化合物(f)(Ti換算)の各成分の量は、水系表面処理液の全固形分に対する各成分の質量比(シラン化合物(C)(SiO換算)、ホスホン酸化合物(D)(P換算)、バナジウム化合物(E)(V換算)、チタン化合物(F)(Ti換算))と対応することが確認できた。したがって、皮膜中のケイ素化合物(c)(SiO換算)、リン化合物(d)(P換算)、バナジウム化合物(e)(V換算)、チタン化合物(f)(Ti換算)の質量比は、水系表面処理液の全固形分に対する各成分の質量比と同じと見做すことができる。
2.表面処理鋼板の製造方法
次に、本実施形態の表面処理皮膜付き亜鉛系めっき鋼板を製造する方法について、例を挙げて説明する。表面処理皮膜付き亜鉛系めっき鋼板は、亜鉛系めっき鋼板を用意し、亜鉛系めっき鋼板の片面または両面に、本発明の表面処理皮膜に含まれる各成分を所定の割合で含む水系表面処理液を塗布し、所定の到達板温となるように乾燥させることにより、亜鉛系めっき鋼板上に表面処理皮膜を形成することにより製造される。
2.1 水系表面処理液
まず、本実施形態で用いる水系表面処理液について説明する。本実施形態では、例えば、水系表面処理液として、ブタジエンゴムを含むエラストマーエマルション(A)と、ワックス(B)と、シラン化合物(C)と、ホスホン酸化合物(D)と、バナジウム化合物(E)と、チタン化合物(F)と、水とを、次の[I]および[II]の条件の下に含み、pHが3.0~7.0であるものを用いることができる。
<ブタジエンゴムを含むエラストマーエマルション(A)>
表面処理皮膜にブタジエンゴムを含むエラストマー成分(a)を含有させるためには、本実施形態の水系表面処理液に、ブタジエンゴムを含むエラストマーエマルション(A)を添加する。ブタジエンゴムを含むエラストマーエマルション(A)は、水系表面処理液中において、粒子として分散しているものを用いる。水系表面処理液中のブタジエンゴムを含むエラストマーエマルション(A)の平均粒子径は、20nm~500nmに調整する。この調整は、例えば、平均粒子径が20nm~500nmであるようなブタジエンゴムを含むエラストマーエマルションに加えてポリオキシエチレン脂肪酸ジエステルなどの界面活性剤を添加し、水系表面処理液中でのエマルションの凝集を抑制することによって行うことができる。
これにより、皮膜中に含まれるエラストマー成分(a)の平均粒子径も20nm~500nmとなり、優れた加工部耐食性並びに積層時の耐横滑り性が実現できる。ブタジエンゴムを含むエラストマーエマルション(A)中のブタジエンゴムとしては、スチレン-ブタジエンゴムエラストマー(SBR)、メチルメタクリレート-ブタジエンゴムエラストマー(MBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴムエラストマー(NBR)のうちの少なくとも一つを含むものが望ましい。
さらに、エラストマーエマルション(A)は、次の[I]の条件にて配合する必要がある。
[I]水系表面処理液の全固形分の質量(NV)に対する、前記ブタジエンゴムを含むエラストマーエマルション(A)の固形分の質量(A)の比(A)/(NV)が0.05~0.45
<(A)/(NV)>
水系表面処理液の全固形分の質量(NV)に対する、前記ブタジエンゴムを含むエラストマーエマルション(A)の固形分の質量(A)の比(A)/(NV)は、0.05~0.45である。好ましくは、0.10~0.40である。すなわち、(A)/(NV)が0.05~0.45の範囲にあることにより、「皮膜の表面において、ワックス成分(b)が存在しない領域のうちのエラストマー成分(a)の存在する面積率が、5%~50%である皮膜」が実現できるため、平面部耐食性、加工部耐食性、積層時の耐横滑り性が十分となる。
また、本実施形態の水系表面処理液には、ブタジエンゴムに加え、ウレタンゴムもしくはポリウレタン系熱可塑性エラストマーを添加することがより望ましい。なお、ウレタンゴムもしくはポリウレタン系熱可塑性エラストマーは、必要に応じて水系表面処理液に添加されるものであり、含まれていなくてもよい。水系表面処理液中にウレタンゴムもしくはポリウレタン系熱可塑性エラストマーが添加されていると、皮膜中のエラストマー成分としてウレタンゴムもしくはポリウレタン系熱可塑性エラストマーが含まれることになり、耐食性がより一層向上する。ウレタンゴムもしくはポリウレタン系熱可塑性エラストマーとしては、水系表面処理液中での平均粒子径が20nm~500nmの粒子となっているものを用いる。これにより、皮膜中に含まれるエラストマー成分(a)の平均粒子径も20nm~500nmとなり、優れた平面部耐食性、加工部耐食性及び積層時の耐横滑り性が実現できる。
<ワックス(B)>
表面処理皮膜にワックス成分(b)を含有させるためには、本実施形態の水系表面処理液にワックス(B)を添加する。ワックス(B)の種類としては特に限定されないが、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、酸化ポリプロピレンワックス、パラフィンワックス、モンタンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどを用いることができる。より好ましくは、ワックスが溶融し皮膜表面に扁平形状粒子を形成することを促進するため、融点が140℃以下のワックスを用いることが望ましい。
さらに、ワックス(B)は、次の[II]の条件にて配合する必要がある。
[II]水系表面処理液の全固形分の質量(NV)に対する、前記ワックス(B)の固形分の質量(B)の比(B)/(NV)が0.003~0.050
<(B)/(NV)>
水系表面処理液の全固形分の質量(NV)に対する、前記ワックス(B)の固形分の質量(B)の比(B)/(NV)は、0.003~0.050である。より好ましくは、0.040以下である。すなわち、(B)/(NV)が0.003~0.050の範囲にあることにより、「皮膜表面における、ワックス成分(b)が存在する領域の面積率が2%~40%である皮膜」を実現できるため、潤滑性と、積層時の耐横滑り性が十分なものとなる。
<シラン化合物(C)>
表面処理皮膜中に含まれるケイ素化合物(c)の前駆体としては、本実施形態の水系表面処理液にシラン化合物(C)を添加する。シラン化合物(C)は、水系表面処理液を亜鉛系めっき鋼板上に塗布して乾燥させる過程で、加水分解によりシラノール化し、シロキサン結合により三次元架橋したシロキサン型の皮膜を形成する。さらに、シラン化合物(C)が皮膜を形成する際には、エラストマー成分(a)の前駆体であるブタジエンゴムを含むエラストマーエマルション(A)を取り込むことにより、ケイ素化合物(c)中にエラストマー成分(a)が微粒子として分散した構造が形成されるため、加工部耐食性が向上できる。
シラン化合物(C)としては、シランカップリング剤もしくはテトラアルコキシシランの少なくとも一方を用いることが好ましく、さらに好ましくは、シランカップリング剤とテトラアルコキシシランの両方を用いることが好ましい。シランカップリング剤とテトラアルコキシシランの両方を用いることにより、より緻密な皮膜を得ることが可能となる。
シランカップリング剤としては、例えば、N-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトエリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン等を用いることができる。中でも、活性水素含有アミノ基、エポキシ基、ビニル基、メルカプト基およびメタクリロキシ基から選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有し、更にアルコキシを3つ持つトリアルコキシシランを用いることが、耐食性の観点からは望ましい。このようなシランカップリング剤としては、例えば、N-(アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が使用できる。
また、テトラアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシランなどを用いることができる。中でも、平面部耐食性がより優れるという観点からテトラエトキシシラン、およびテトラメトキシシランが好ましい。
<ホスホン酸化合物(D)>
表面処理皮膜中に含まれるリン化合物(d)の前駆体としては、本実施形態の水系表面処理液に、ホスホン酸化合物(D)を添加する。ホスホン酸化合物(D)を含有する表面処理液を用いることにより、皮膜中にリン化合物(d)が分散した構造となり、その腐食抑制効果により平面部耐食性、加工部耐食性が向上する。
また、ホスホン酸化合物(D)が表面処理液中に含まれることにより、その乳化作用により、エラストマー成分(a)がケイ素化合物(c)を主体とする皮膜中に微粒子として分散した構造を実現できる。上記ホスホン酸化合物(D)を含まない場合は、表面処理液中において、エラストマー成分(a)の前駆体であるブタジエンゴムを含むエラストマーエマルション(A)の凝集が進むため、エラストマー成分(a)がケイ素化合物(c)を主体とする皮膜中に微粒子として分散した構造を実現できない。
ホスホン酸化合物(D)としては、特に限定されないが、ホスホン酸の他、アミノトリメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、1-ヒドロキシメタン-1,1-ジホスホン酸、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、またはそれらの塩等を挙げることができる。これらの中でも、1-ヒドロキシメタン-1,1-ジホスホン酸または1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸は、乳化作用により処理液中のエラストマーを皮膜中に分散させる効果が高いため、特に望ましい。
<バナジウム化合物(E)>
表面処理皮膜中に含まれるバナジウム化合物(e)の前駆体としては、本実施形態の水系表面処理液にバナジウム化合物(E)を添加する。バナジウム化合物(E)としては、例えば、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、バナジルアセチルアセトネート、硫酸バナジル等が挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。この中でも、バナジルアセチルアセトネート、硫酸バナジル等のバナジル化合物を用いることが特に望ましい。バナジウム化合物(E)としてバナジル化合物を用いることにより、皮膜中に含まれるバナジウム化合物(e)の価数が4価となり、より優れた加工部耐食性が得られる。
<チタン化合物(F)>
表面処理皮膜中に含まれるチタン化合物(f)の前駆体としては、本実施形態の水系表面処理液にチタン化合物(F)を添加する。チタン化合物(F)としては、例えば、硫酸チタニル、硝酸チタニル、硝酸チタン、塩化チタニル、塩化チタン、チタニアゾル、酸化チタン、シュウ酸チタン酸カリウム、チタンフッ化水素酸、チタンフッ化アンモニウム、チタンラクテート、チタンテトライソプロポキシド、チタンアセチルアセトネート、ジイソプロピルチタニウムビスアセチルアセトンなどを用いることができる。また、硫酸チタニルの水溶液を、熱加水分解させて得られるメタチタン酸や、アルカリ中和で得られるオルソチタン酸およびこれらの塩も挙げられる。
本実施形態で用いる水系表面処理液に含まれる、上記したシラン化合物(C)、ホスホン酸化合物(D)、バナジウム化合物(E)およびチタン化合物(F)成分の好ましい配合比は、以下の[III]~[VI]に示す通りである。
[III]水系表面処理液の全固形分の質量(NV)に対する、前記シラン化合物(C)のSiO換算の質量(CSiO2)の比(CSiO2)/(NV)が、0.20~0.50
[IV]水系表面処理液の全固形分の質量(NV)に対する、前記ホスホン酸化合物(D)のP換算の質量(D)の比(D)/(NV)が、0.004~0.080
[V]水系表面処理液の全固形分の質量(NV)に対する、前記バナジウム化合物(E)のV換算の質量(E)の比(E)/(NV)が、0.001~0.020
[VI]水系表面処理液の全固形分の質量(NV)に対する、前記チタン化合物(F)のTi換算の質量(FTi)の比(FTi)/(NV)が、0.001~0.020
<(CSiO2)/(NV)>
水系表面処理液の全固形分の質量(NV)に対する、前記シラン化合物(C)のSiO換算の質量(CSiO2)の比(CSiO2)/(NV)は、0.20~0.50であることが好ましい。(CSiO2)/(NV)が、0.20~0.50となるように前記シラン化合物(C)を配合することにより、「皮膜中にエラストマー成分(a)が粒子として分散しており、さらにケイ素化合物(c)がSiO換算で20.0質量%~50.0質量%含まれる皮膜」が実現できるため、平面部耐食性及び加工部耐食性が十分なものとなる。(CSiO2)/(NV)が0.20未満であると、皮膜中に含まれるケイ素化合物(c)のSiO換算質量が20質量%未満となり、シロキサン結合により皮膜のバリア性を高める効果が発揮されなくなるため、平面部耐食性が不十分となる、おそれがある。一方、(CSiO2)/(NV)が0.50より大きいと、皮膜中に含まれるケイ素化合物(c)のSiO換算質量が50.0質量%より多くなるため、エラストマー成分(a)との複合効果が失われ、平面部耐食性、加工部耐食性が不十分となる、おそれがある。
<(D)/(NV)>
水系表面処理液の全固形分の質量(NV)に対する、前記ホスホン酸化合物(D)のP換算の質量(D)の比(D)/(NV)は、0.004~0.080であることが好ましい。(D)/(NV)が0.004~0.080であることにより、皮膜中に含まれるリン化合物(d)のP換算質量が0.4質量%~8.0質量%となるため、その腐食抑制効果により優れた平面部耐食性、加工部耐食性が実現できる。
<(E)/(NV)>
水系表面処理液の全固形分の質量(NV)に対する、前記バナジウム化合物(E)のV換算の質量(E)の比(E)/(NV)は、0.001~0.020であることが好ましい。(E)/(NV)が0.001~0.020であることにより、皮膜中に含まれるバナジウム化合物(e)のV換算質量が0.1質量%~2.0質量%となるため、その腐食抑制効果により優れた平面部耐食性、加工部耐食性が実現できる。
<(FTi)/(NV)>
水系表面処理液の全固形分の質量(NV)に対する、前記チタン化合物(F)のTi換算の質量(FTi)の比(FTi)/(NV)は、0.001~0.020であることが好ましい。(FTi)/(NV)が、0.001~0.020であることにより、皮膜中に含まれるチタン化合物(f)のTi換算質量が0.1質量%~2.0質量%となるため、その腐食抑制効果により優れた平面部耐食性、加工部耐食性が実現できる。
<pH>
水系表面処理液のpHは、3.0~7.0とする。より望ましくは、4.0~6.0である。表面処理液のpHが3.0~7.0の範囲にあることにより、皮膜中にエラストマー粒子が分散するため、優れた加工部耐食性が得られる。さらに、pHが4.0~6.0の範囲にあることにより、エラストマー粒子が皮膜中により均一に分散した状態となるため、より優れた平面部耐食性及び加工部耐食性が得られる。本発明において、pHの調整に用いるアルカリとしては、アンモニウム、アミン、アミンの誘導体およびアミノポリカルボン酸が好ましく、pHの調整に用いる酸としては、ギ酸、酢酸などの揮発性の酸が好ましい。
また、本発明の水系表面処理液は、上記した成分を脱イオン水、蒸留水などの水中で混合することにより得られる。表面処理液の固形分割合は適宜選択すればよい。なお、本発明の水系表面処理液には、被塗面に均一な皮膜を形成するための濡れ性向上剤と呼ばれる界面活性剤や増粘剤、導電性を向上させるための導電性物質、意匠性向上のための着色顔料、造膜性向上のための溶剤等を、必要に応じて適宜添加してもよい。また、水系表面処理液に、必要に応じてアルコール、ケトン、セロソルブ系の水溶性溶剤、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤、防菌防カビ剤、着色剤などを添加しても良い。これらを添加することにより、表面処理液の乾燥性、塗布外観、作業性、貯蔵安定性(保管安定性)、意匠性が向上する。ただし、これらは本発明で得られる品質を損なわない程度に添加することが重要であり、添加量は多くても表面処理液の全固形分に対して5質量%未満である。
2.2 皮膜の形成方法
本実施形態では、このようにして得られた水系表面処理液を、亜鉛系めっき鋼板上に塗布し加熱乾燥することにより表面処理皮膜を形成する。前記表面処理液を亜鉛系めっき鋼板に塗布する方法としては、ロールコート法、バーコート法、浸漬法、スプレー塗布法などが挙げられ、処理される亜鉛系めっき鋼板の形状等によって適宜最適な方法が選択される。より具体的には、例えば、処理される亜鉛系めっき鋼板がシート状であればロールコート法、バーコート法や、表面処理液を亜鉛系めっき鋼板にスプレーしてロール絞りや気体を高圧で吹きかけて塗布量を調整する。亜鉛系めっき鋼板が成型品とされている場合であれば、表面処理液に浸漬して引き上げ、場合によっては圧縮エアーで余分な表面処理液を吹き飛ばして塗布量を調整する方法などが選択される。
また、亜鉛系めっき鋼板に表面処理液を塗布する前に、必要に応じて、亜鉛系めっき鋼板表面上の油分や汚れを除去することを目的とした前処理を亜鉛系めっき鋼板に施してもよい。亜鉛系めっき鋼板は、防錆目的で防錆油が塗られている場合が多く、また、防錆油で塗油されていない場合でも、作業中に付着した油分や汚れなどがある。これらの塗油、油分、汚れは、亜鉛系めっき層の表面の濡れ性を阻害し、均一な第1層皮膜を形成する上で支障をきたすが、上記の前処理を施すことにより、亜鉛系めっき層の表面が清浄化され、均一に濡れやすくなる。亜鉛系めっき鋼板表面上に油分や汚れなどがなく、表面処理液が均一に濡れる場合は、前処理工程は特に必要はない。なお、前処理の方法は特に限定されず、例えば湯洗、溶剤洗浄、アルカリ脱脂洗浄などの方法が挙げられる。
亜鉛系めっき層の表面に塗布した表面処理液を、加熱乾燥する際の加熱温度(最高到達板温)は、ワックス(B)の融点より10℃以上高い温度とし、より好ましくはワックス(B)の融点より20℃以上高い温度とする。ワックス(B)の融点より10℃以上高い温度とすることにより、ワックス(B)が溶融し皮膜表面に扁平形状粒子を形成するため、潤滑性に優れた皮膜となる。ただし、皮膜中の水分を蒸発させるため、最低でも60℃以上で乾燥する。なお、複数種のワックスを用いる場合は、最も融点の高いワックスの融点以上とすることが好ましい。
また、加熱時間は、使用される亜鉛系めっき鋼板の種類などによって適宜最適な条件が選択される。なお、生産性などの観点からは、0.1~60秒が好ましく、1~30秒がより好ましい。
以上の工程により、本実施形態の表面処理鋼板が得られる。
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
1.試験板の作製方法
1.1 供試板(素材)
以下の市販の材料を供試板として使用した。
(I)電気亜鉛めっき鋼板(EG):板厚0.8mm、目付量20/20(g/m)
(II)溶融亜鉛めっき鋼板(GI):板厚0.8mm、目付量60/60(g/m)
(III)合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA):板厚0.8mm、目付け量40/40(g/m)
なお、目付量はそれぞれの鋼板の主面上への目付量を示している。例えば、電気亜鉛めっき鋼板の場合(20/20(g/m))は、鋼板の両面のそれぞれに20g/mのめっき層を有することを意味する。
1.2 前処理(洗浄)
試験片の作製方法としては、まず上記の供試材の表面を、日本パーカライジング(株)製パルクリーンN364Sを用いて処理し、表面上の油分や汚れを取り除いた。次に、水道水で水洗して供試板表面が水で100%濡れることを確認した後、更に純水(脱イオン水)を流しかけ、100℃雰囲気のオーブンで水分を乾燥したものを試験片として使用した。
1.3 表面処理液の調整
各成分を表1に示す組成(全固形分に対する質量比)にて水中で混合し、亜鉛系めっき鋼板用の表面処理液を得た。なお、表1中のA、B、CSiO2、D、E及びFTiは、それぞれ、ブタジエンゴムを含むエラストマーエマルション(A)の固形分の質量、ワックス(B)の固形分の質量、シラン化合物(C)のSiO換算の質量、ホスホン酸化合物(D)のP換算の質量、バナジン酸化合物(E)のV換算の質量、チタン化合物(F)のTi換算の質量を表す。また、表面処理液のpHは、酢酸もしくはアンモニアを用いて表1に示す値に調整した。
Figure 0007375788000001
以下、表1で使用された化合物について説明する。
<ブタジエンゴムを含むエラストマー(A)>
A1:スチレン-ブタジエンゴムエラストマー(平均粒子径180nm)
A2:メチルメタクリレート-ブタジエンゴムエラストマー(平均粒子径150nm)
A3:アクリロニトリル-ブタジエンゴムエラストマー(平均粒子径130nm)
A4:スチレン-ブタジエンゴムエラストマー(平均粒子径700nm)
A5:ウレタンゴムエラストマー(平均粒子径10nm)
A6:ウレタンゴムエラストマー(平均粒子径60nm)
<ワックス(B)>
B1:ポリエチレンワックス(融点120℃)
B2:マイクロクリスタリンワックス(融点90℃)
<シラン化合物(C)>
C1:γ-グルシジルトリエトキシシラン
C2:3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン
C3:N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン
C4:テトラエトキシシラン
C5:コロイダルシリカ
<ホスホン酸化合物(D)>
D1:1-ヒドロキシメタン-1,1-ジホスホン酸
D2:ホスホン酸
D3:リン酸水素二ナトリウム
<バナジウム化合物(E)>
E1:メタバナジン酸アンモニウム
E2:バナジルアセチルアセトネート(V:19.2%)
<チタン化合物(F)>
F1:チタンフッ化アンモニウム
F2:チタンアセチルアセトナート(Ti:12.5%)
1-4.処理方法
上記の亜鉛系めっき鋼板用表面処理液を用いて、バーコート塗装にて各供試板上に塗装し、その後、水洗することなく、そのままオーブンに入れて、表2に示す乾燥温度で乾燥させ、表2に示す皮膜量の表面処理皮膜を形成した。乾燥温度は、オーブン中の雰囲気温度とオーブンに入れている時間とで調節した。なお、乾燥温度は、供試板表面の到達温度(到達板温)として示す。バーコート塗装の具体的な方法は、以下のとおりである。
バーコート塗装:処理液を試験板に滴下して、#3~8バーコーターで塗装した。使用したバーコーターの番手と処理液の固形分濃度とにより、所定の皮膜厚となるように調整した。皮膜厚は、表面処理皮膜形成後の鋼板の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することによって求めた。
Figure 0007375788000002
2.評価
このようにして得られた実施例および比較例の表面処理鋼板について、以下の各項目(1)から(11)に従って評価した。
2.1 皮膜性状評価
(1)皮膜中の各成分の存在及び含有量
皮膜中のケイ素化合物(c)(SiO換算)、リン化合物(d)(P換算)、バナジウム化合物(e)(V換算)、チタン化合物(f)(Ti換算)の質量比は、前述の通り、水系表面処理液の全固形分に対する質量比と同じになるため、この値を用いて下記の項目(1-1)~(1-4)に従って評価した。
(1-1)皮膜中のケイ素化合物(c)のSiO換算の質量比
1:20.0質量%未満もしくは50.0質量%を超える範囲で含まれる
2:20.0質量%~50.0質量%の範囲で含まれる
3:皮膜中に含まれない
(1-2)皮膜中のリン化合物(d)のP換算の質量比
1:0.4質量%未満もしくは8.0質量%を超える範囲で含まれる
2:0.4質量%~8.0質量%の範囲で含まれる
3:皮膜中に含まれない
(1-3)皮膜中のバナジウム化合物(e)のV換算の質量比
1:0.1質量%未満もしくは2.0質量%を超える範囲で含まれる
2:0.1質量%~2.0質量%の範囲で含まれる
3:皮膜中に含まれない
(1-4)皮膜中のチタン化合物(f)のTi換算の質量比
1:0.1質量%未満もしくは2.0質量%を超える範囲で含まれる
2:0.1質量%~2.0質量%の範囲で含まれる
3:皮膜中に含まれない
また、各鋼板上から酸処理により皮膜を剥離し、赤外線分光分析と、熱分解GC-MS(ガスクロマトグラフ-質量分析計)分析とを行った。そして、赤外線分光分析により得られた皮膜の赤外吸収スペクトルにおける樹脂成分由来の観測吸収の帰属から解析した結果と、熱分解GC-MSの結果とから、皮膜中のブタジエンゴムの存在と、ウレタンゴムもしくはウレタン系熱可塑性エラストマーの存在を確認し、以下の項目(1-5)に従って評価した。
(1-5)皮膜中のブタジエンゴムの存在
1:皮膜中にブタジエンゴムが含まれない
2:皮膜中にブタジエンゴムは含まれるが、ウレタンゴムもしくはウレタン系熱可塑性エラストマーは含まれない
3:皮膜中にブタジエンゴムが含まれ、ウレタンゴムもしくはウレタン系熱可塑性エラストマーも含まれる
(2)皮膜表面における扁平形状のワックス粒子の面積率
皮膜の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、加速電圧0.5kVの条件で皮膜表面を観察し、20μm×20μmの範囲のSEM像をランダムに5視野撮影した。得られた皮膜表面のSEM像において、暗いコントラストで観察される扁平形状のワックス粒子の有無を確認した。さらに、扁平形状のワックス粒子が存在する場合には、撮影したSEM像を画像処理によって二値化し、扁平形状粒子の面積率を計算した。そして、これを抽出した5視野全てで実施し、平均をとることにより、表面処理皮膜の表面におけるワックス成分が存在する領域の面積率を算出し、以下のように評価した。
1:扁平形状のワックス粒子が観察されない
2:扁平形状のワックス粒子が観察され、皮膜表面における面積率が2%未満
3:扁平形状のワックス粒子が観察され、皮膜表面における面積率が40%超え
4:扁平形状のワックス粒子が観察され、皮膜表面における面積率が2%以上40%以下
(3)皮膜表面におけるエラストマー粒子の平均粒子径
走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、加速電圧0.5kVの条件で皮膜表面を観察し、前述の扁平形状ワックス粒子が存在しない領域から2μm×2μmの範囲のSEM像をランダムに5視野撮影した。得られた皮膜表面のSEM像において、周囲よりも暗いコントラストを有するエラストマー粒子の有無を確認した。そして、暗いコントラストを有するエラストマー粒子が存在する場合には、撮影したSEM像内に観察される全ての暗い粒子の粒子径を測定し、その平均をとることで平均粒子径を計算した。この平均粒子径を5視野全てで計算し、さらに3つの値の平均をとることにより、皮膜中のエラストマー成分の平均粒子径を算出した。これらの結果を元に、以下のように評価した。
1:エラストマー粒子が観察されない
2:エラストマー粒子が観察され、平均粒子径が20nm未満
3:エラストマー粒子が観察され、平均粒子径が500nm超え
4:エラストマー粒子が存在し、平均粒子径が20nm以上500nm以下
(4)皮膜表面におけるワックス成分が存在しない領域のうち、エラストマー粒子の占める面積率
走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、加速電圧0.5kVの条件で皮膜表面を観察し、扁平形状のワックス粒子の存在しない領域から、2μm×2μmの範囲のSEM像をランダムに5視野撮影した。得られた皮膜表面のSEM像において、撮影したSEM像を画像処理によって二値化し、エラストマー成分に相当する暗い粒子の面積率を計算した。そして、これを抽出した5視野全てで実施し、平均をとることにより、「表面処理皮膜の表面における、ワックス成分が存在しない領域のうちのエラストマー粒子の占める面積率」を算出した。得られた値を元に、以下のように評価した。
1:エラストマー粒子の占める面積率が5%未満
2:エラストマー粒子の占める面積率が50%超え
3:エラストマー粒子の占める面積率が5%以上50%以下
(5)皮膜表面におけるエラストマー粒子の分散状態
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、加速電圧1kVで皮膜表面を観察し、扁平形状のワックス粒子が存在しない領域から1μm×1μmの正方形領域をランダムに10視野抽出した。得られた皮膜表面のSEM像において、撮影したSEM像を画像処理によって二値化し、エラストマー成分に相当する暗い粒子の面積率を計算した。そして、これを抽出した10視野全てで実施し、算出した値を用いて以下のように評価した。
1:10視野のいずれかの視野でエラストマー粒子の面積率が5%未満
2:10視野の全てで上記面積率が5%以上
(6)皮膜内部におけるワックス成分の面積率
皮膜の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、加速電圧3kVの条件で皮膜表面を観察し、20μm×20μmの範囲のSEM像をランダムに5視野撮影した。得られた皮膜表面のSEM像において、暗いコントラストで観察される扁平形状のワックス粒子の有無を確認した。さらに、扁平形状のワックス粒子が存在する場合には、撮影したSEM像を画像処理によって二値化し、扁平形状粒子の面積率を計算した。そして、これを抽出した5視野全てで実施し、平均をとることにより、表面処理皮膜の内部におけるワックス成分が存在する領域の面積率を算出し、以下のように評価した。
1:表面処理皮膜の内部におけるワックス成分が存在する領域の面積率が1%以上
2:表面処理皮膜の内部におけるワックス成分が存在する領域の面積率が1%未満
2.2 性能評価
(7)平面部耐食性
皮膜を形成した各供試板からサイズ70mm×150mmの試験片を切り出し、切り出した各試験片の裏面と端部をビニールテープでシールして、JIS-Z-2371-2000に準拠する塩水噴霧試験(SST)を実施した。耐食性の評価は、塩水噴霧試験144時間後の白錆発生面積率を目視にて、下記評価基準で評価した。
評価基準:
◎ :白錆発生面積率1%未満
○+:白錆発生面積率1%以上5%未満
○ :白錆発生面積率5%以上20%未満
△ :白錆発生面積率20%以上40%未満
× :白錆発生面積率40%以上
(8)加工部耐食性
皮膜を形成した各供試板からサイズ70mm×150mmの試験片を切り出し、切り出した各試験片の裏面と端部をビニールテープでシールした後、直径:2mmの棒(ステンレス製)に挟み込むようにして180°曲げて、万力を用いて絞め込んだ。この曲げたサンプルについて塩水噴霧試験(JIS-Z-2371-2000)を行い、72時間経過後の曲げ加工部外(表)側の白錆発生面積率で評価した。
評価基準:
◎ :曲げ加工部の白錆発生面積率1%未満
○+:曲げ加工部の白錆発生面積率1%以上5%未満
○ :曲げ加工部の白錆発生面積率5%以上10%未満
△ :曲げ加工部の白錆発生面積率10%以上80%未満
× :曲げ加工部の白錆発生面積率80%以上
(9)導通性
上記の試験片について、三菱化学アナリテック(株)製ロレスタGP、ESP端子を用い表面抵抗値を測定した。表面抵抗値は、端子にかかる荷重を50gピッチで増加させて測定し、表面抵抗値を10-4Ω以下とすることができる最小荷重の判定により、導通性を評価した。
評価基準:
◎:10点測定の平均荷重が300g未満
○:10点測定の平均荷重が300g以上750g未満
△:10点測定の平均荷重が750g以上950g未満
×:10点測定の平均荷重が950g以上
(10)潤滑性
潤滑性は、以下のようにして求めた各供試材の動摩擦係数μを用いて評価した。図1は、動摩擦係数測定装置を示す概略正面図である。同図に示すように、供試材から採取した摩擦係数測定用試料1(以下、試料1という)が試料台2に固定され、試料台2は、水平移動可能なスライドテーブル3の上面に固定されている。スライドテーブル3の下面には、これに接したローラ4を有する上下動可能なスライドテーブル支持台5が設けられ、これを押上げることにより、ビード6による摩擦係数測定用試料1への押付荷重Nを測定するための第1ロードセル7が、スライドテーブル支持台5に取付けられている。上記押し付け力を作用させた状態でスライドテーブル3を水平方向へ移動させるための摺動抵抗力Fを測定するための第2ロードセル8が、スライドテーブル3の一方の端部でレール9の上方に取付けられている。
図2は使用したビードの形状・寸法を示す概略斜視図である。ビード6の下面が試料1の表面に押し付けられた状態で摺動する。図2に示すビード6の形状は幅10mm、試料1の摺動方向長さ12mm、摺動方向両端の下部は曲率4.5mmRの曲面で構成され、試料1が押し付けられるビード下面は幅10mm、摺動方向長さ3mmの平面を有する。
摩擦係数測定試験は、図2に示すビードを用い、押し付け荷重N:400kgf、試料の引き抜き速度(スライドテーブル3の水平移動速度):100cm/minの条件で実施した。
供試材とビードとの間の動摩擦係数μは、式:μ=F/Nで算出した。動摩擦係数μが小さい程、潤滑性に優れると評価できる。具体的には、以下のような基準で評価した。
評価基準:
◎:摩擦係数μが0.15未満
〇:摩擦係数μが0.15以上0.20未満
△:摩擦係数μが0.20以上0.25未満
×:摩擦係数μが0.25以上
(11)積層時の耐横滑り性
積層時の耐横滑り性は、以下のような手法で求めた各供試材の滑り始めの静止摩擦係数μを用いて評価した。図3は、滑り始めの静止摩擦係数測定装置を示す概略正面図である。同図に示すように、供試材から採取した摩擦係数測定用試料が3枚重ねられている。以下、左から試料10-1、試料10-2、試料10-3とする。試料10-1と試料10-3は、押さえ治具11によって固定されている。また、試料10-1の左と試料10-3の右には、ビード12-1、ビード12-2が配置され、さらにビード12-1の左には摩擦係数測定用試料10-2への押付荷重Nを測定するための第1ロードセル13が取付けられている。ビード12-1及び12-2が試料10-1及び試料10-3と接触する部分のサイズは幅30mm、摺動方向長さ35mmの平面である。上記押付荷重Nを作用させた状態で試料10-2を上方に引っ張る際の摺動抵抗力Fを測定するため、試料10-2の上部に第2ロードセル14が取り付けられている。
各試料の滑り始めの静止摩擦係数μは、押し付け荷重Nと、試料10-2が滑り始めた際の摺動抵抗力Fとを用いて、式:μ=F/Nで算出した。滑り始めの摩擦係数μが大きい程、積層時の耐横滑り性に優れると評価できる。具体的には、以下のような基準で評価した。
評価基準:
◎:滑り始めの摩擦係数μが0.15以上
〇:滑り始めの摩擦係数μが0.10以上0.15未満
△:滑り始めの摩擦係数μが0.08以上0.10未満
×:滑り始めの摩擦係数μが0.08未満
以上の結果を表3、4に示す。
Figure 0007375788000003
Figure 0007375788000004
表3、4に示すように、本発明の表面処理皮膜付き亜鉛系めっき鋼板は、いずれも耐食性、導通性、潤滑性、積層時の耐横滑り性及び耐コイル潰れ性のすべてにおいて優れた性能を有している。これに対し、いずれかの要件が本発明の適正範囲を逸脱した比較例は、耐食性、密着性、導通性および潤滑性、積層時の耐横滑り性及び耐コイル潰れ性のいずれかが不十分であった。
また、No.14(発明例)の表面処理鋼板の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて加速電圧0.5kVの条件で観察し、皮膜表面のSEM像を得た。図4は、No.14(発明例)の20μm×20μmの範囲の表面SEM像、図5は、No.14(発明例)の2μm×2μmの範囲の表面SEM像である。
図4から、No.14(発明例)では、表面処理皮膜の表面に暗いコントラストの扁平形状のワックス粒子が存在すること、及び表面処理皮膜の表面における前記ワックス成分の存在する領域の面積率が2%~40%であることが確認された。また、図5から、No.14(発明例)では、暗いコントラストのエラストマー粒子が存在し、その平均粒子径が20nm~500nmであること、及び表面処理皮膜の表面におけるワックス成分が存在しない領域のうちのエラストマー成分の存在する領域の面積率が5%~50%であることが確認できた。
さらに、No.28(比較例)及びNo.26(比較例)の表面処理鋼板の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて加速電圧0.5kVの条件で観察し、皮膜表面のSEM像を得た。図6は、No.28(比較例)の20μm×20μmの範囲の表面SEM像、図7は、No.26(比較例)の2μm×2μmの範囲の表面SEM像である。
図6から、No.28(比較例)では、皮膜表面における暗いコントラストの扁平形状のワックス粒子の面積率が2%未満であることが確認された。図7から、No.26(比較例)では、暗いコントラストのエラストマー粒子の面積率が5%未満であることが確認された。
1 試料
2 試料台
3 スライドテーブル
4 ローラ
5 スライドテーブル支持台
6 ビード
7 第1ロードセル
8 第2ロードセル
9 レール
10-1、10-2、10-3 試料
11 押さえ治具
12-1、12-2 ビード
13 第1ロードセル
皮膜中に6価クロムなどの公害規制物質を全く含むことなく、導通性、耐食性、潤滑性の諸性能に優れ、しかも積層時の耐横滑り性や耐コイル潰れ性にも優れる亜鉛系めっき鋼板を提供することができる。従って、本発明の製造方法によって製造された亜鉛系めっき鋼板は、自動車、家電、OA機器等の部品として極めて有用である。

Claims (11)

  1. 亜鉛系めっき層上に表面処理皮膜を有する亜鉛系めっき鋼板であって、
    前記表面処理皮膜は、
    平均粒子径が20nm~500nmの粒子の少なくとも一部にブタジエンゴムを含むエラストマー成分(a)と、
    扁平形状を有するワックス成分(b)と、
    ケイ素化合物(c)と、
    リン化合物(d)と、
    バナジウム化合物(e)と、
    チタン化合物(f)と、
    を含み、
    前記表面処理皮膜の表面における、前記ワックス成分(b)が存在する領域の面積率が2%~40%、かつ前記ワックス成分(b)が存在しない領域のうちの前記エラストマー成分(a)の面積率が5%~50%であり、前記表面処理皮膜中に、前記ケイ素化合物(c)をSiO 換算で10.0質量%~60.0質量%、前記リン化合物(d)をP換算で0.2質量%~10.0質量%、前記バナジウム化合物(e)をV換算で0.08質量%~5.0質量%、前記チタン化合物(f)をTi換算で0.08質量%~5.0質量%にて含む、ことを特徴とする、表面処理皮膜付き亜鉛系めっき鋼板。
  2. 前記表面処理皮膜中に、前記ケイ素化合物(c)をSiO換算で20.0質量%~50.0質量%、前記リン化合物(d)をP換算で0.4質量%~8.0質量%、前記バナジウム化合物(e)をV換算で0.1質量%~2.0質量%、前記チタン化合物(f)をTi換算で0.1質量%~2.0質量%にて含む、請求項1に記載の表面処理皮膜付き亜鉛系めっき鋼板。
  3. 前記バナジウム化合物(e)中のバナジウムの価数が4価である、請求項1または2に記載の表面処理皮膜付き亜鉛系めっき鋼板。
  4. 前記ワックス成分(b)が存在しない領域から抽出した1μm×1μmの正方形領域における、前記エラストマー成分(a)が存在する面積率が5%以上である、請求項1から3のいずれかに記載の表面処理皮膜付き亜鉛系めっき鋼板。
  5. 前記表面処理皮膜の内部における、ワックス成分(b)の存在する領域の面積率が1%未満であることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の表面処理皮膜付き亜鉛系めっき鋼板。
  6. 前記エラストマー成分(a)は、さらにウレタンゴムもしくはポリウレタン系熱可塑性エラストマーを含む、請求項1から5のいずれかに記載の表面処理皮膜付き亜鉛系めっき鋼板。
  7. 亜鉛系めっき鋼板の亜鉛系めっき層の表面に、平均粒子径が20nm~500nmの粒子の少なくとも一部にブタジエンゴムを含むエラストマーエマルション(A)と、ワックス(B)と、シラン化合物(C)と、ホスホン酸化合物(D)と、バナジウム化合物(E)と、チタン化合物(F)と、水と、を下記[I]および[II]の条件の下に含有し、pHが3.0~7.0である、水系表面処理液であって、前記水系表面処理液の全固形分の質量(NV)に対する、前記シラン化合物(C)のSiO 換算の質量(C SiO2 )の比(C SiO2 )/(NV)が0.10~0.60、前記水系表面処理液の全固形分の質量(NV)に対する、前記ホスホン酸化合物(D)のP換算の質量(D )の比(D )/(NV)が0.002~0.100、前記水系表面処理液の全固形分の質量(NV)に対する、前記バナジウム化合物(E)のV換算の質量(E )の比(E )/(NV)が0.0008~0.050および、前記水系表面処理液の全固形分の質量(NV)に対する、前記チタン化合物(F)のTi換算の質量(F Ti )の比(F Ti )/(NV)が0.0008~0.050である、水系表面処理液を塗布し、次いで、鋼板の到達温度が前記ワックス(B)の融点よりも10℃以上高い条件にて加熱乾燥し、表面処理皮膜を形成することを特徴とする、表面処理皮膜付き亜鉛系めっき鋼板の製造方法。

    [I]水系表面処理液の全固形分の質量(NV)に対する、前記ブタジエンゴムを含むエラストマーエマルション(A)の固形分の質量(A)の比(A)/(NV)が0.05~0.45
    [II]水系表面処理液の全固形分の質量(NV)に対する、前記ワックス(B)の固形分の質量(B)の比(B)/(NV)が0.003~0.050
  8. 前記水系表面処理液は、下記[III]から[VI]の条件を満足する、請求項7に記載の表面処理皮膜付き亜鉛系めっき鋼板の製造方法。

    [III]水系表面処理液の全固形分の質量(NV)に対する、前記シラン化合物(C)のSiO換算の質量(CSiO2)の比(CSiO2)/(NV)が、0.20~0.50
    [IV]水系表面処理液の全固形分の質量(NV)に対する、前記ホスホン酸化合物(D)のP換算の質量(D)の比(D)/(NV)が、0.004~0.080
    [V]水系表面処理液の全固形分の質量(NV)に対する、前記バナジウム化合物(E)のV換算の質量(E)の比(E)/(NV)が、0.001~0.020
    [VI]水系表面処理液の全固形分の質量(NV)に対する、前記チタン化合物(F)のTi換算の質量(FTi)の比(FTi)/(NV)が、0.001~0.020
  9. 前記バナジウム化合物(E)がバナジル化合物である、請求項7または8に記載の表面処理皮膜付き亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
  10. 前記エラストマーエマルション(A)が、さらにウレタンゴムもしくはポリウレタン系熱可塑性エラストマーを含む、請求項7から9のいずれかに記載の表面処理皮膜付き亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
  11. 前記シラン化合物(C)が、テトラアルコキシシランおよび/または活性水素含有アミノ基、エポキシ基、メルカプト基およびメタクリロキシ基から選ばれた少なくとも1種の反応性官能基を有する、少なくとも1種のシランカップリング剤である、請求項7から10のいずれかに記載の表面処理皮膜付き亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
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