JP7372189B2 - 油圧駆動位置制御装置 - Google Patents

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Description

本発明は、位置決め対象を指令位置まで移動させる油圧アクチュエータへの作動油の供給を制御する油圧駆動位置制御システムの制御装置に関する。
油圧シリンダに作動油を供給して、ピストンの位置の微小な変位の精度を向上させることが可能な油圧駆動位置制御システムが、下記の特許文献1に開示されている。特許文献1に開示された油圧駆動位置制御システムでは、油圧シリンダに間欠的に作動油を供給して、ピストン位置を目標位置に合わせる。
特開2018-173131号公報
油圧シリンダに制御周期毎に間欠的に作動油を供給して目標位置にステップ移動させるシステムに於いて、静止摩擦力の影響により、位置指令で指定される位置が階段状に変化した後に、油圧シリンダに固定された位置決め対象が直ぐに動き出さず無駄時間が発生して、位置決め応答を悪化させている。これは油圧シリンダの差圧が最大静止摩擦相当圧(以降、摩擦相当圧と呼ぶ)に達する迄に複数回の制御出力による作動油の供給を要するためである。位置決め対象が動き出す迄に要した制御出力回数×制御周期の時間は移動に寄与しない無駄時間である。位置決め対象が動き出すと差圧と摩擦相当圧が釣合うため、制御出力として供給した作動油が変位に寄与する。また、位置決め対象が動き出すと、摩擦状態が静止摩擦から動摩擦に遷移して負荷圧が下がるので更に変位し易くなる。無駄時間の発生は位置決め対象の運動方向が変化する場合も生じる。運動方向が逆転する際に静止摩擦力の方向も逆転するため、差圧と摩擦相当圧の釣合いが崩れ、差圧が摩擦相当圧に達する迄、制御出力回数×制御周期の無駄時間が発生し位置決め応答を悪化させる。
本発明の目的は、油圧駆動される位置制御システムにおいて位置決め対象に働く静止摩擦の影響により生じる位置決め応答の無駄時間の短縮が可能な制御装置を提供することである。
本発明の一観点によると、
位置決め対象を移動させる推力を発生する油圧アクチュエータに作動油を供給する作動油供給系を制御して前記油圧アクチュエータを駆動する制御装置であって、
制御周期ごとに前記作動油供給系から前記油圧アクチュエータに作動油を供給させ、
前記位置決め対象が静止状態から動き始めるまでの期間、1回目の制御周期における作動油の供給量を、2回目以降の制御周期における作動油の供給量より多くし、
1回目の制御周期における作動油の供給量は、前記位置決め対象が移動しない供給量である油圧駆動位置制御装置が提供される。
1回目の制御周期における作動油の供給量を多くすることにより、静止状態の位置決め対象が動き出すまでの時間を短縮することができる。
図1は、実施例による制御装置が搭載された油圧駆動位置制御システムの概略図である。 図2Aは、実施例による制御装置が搭載された油圧駆動位置制御システムの位置決め対象と、それを支持する支持部材との摺動面の断面図であり、図2Bは、摺動面の移動時に発生する摩擦力と摩擦係数とを示すグラフである。 図3Aは、本実施例による油圧駆動位置制御シスの制御系のブロック線図であり、図3Bは、位置指令で指令される位置(指令位置)Xrefの時間波形の一例を示すグラフである。 図4は、比較例による油圧駆動位置制御システムの位置指令で指令される指令位置Xref、パルス発生部(図3A)が出力する操作パルス、油圧シリンダの差圧P、及び位置決め対象の位置X、位置偏差eの時間波形を示すグラフである。 図5は、実施例による油圧駆動装置を用いて位置決め対象を位置制御したときの指令位置Xref、パルス発生部(図3A)が出力する操作パルス、油圧シリンダの差圧P、及び位置決め対象の位置X、位置偏差eの時間変化を示すグラフである。
図1~図5を参照して、実施例におる油圧駆動位置制御システムについて説明する。
図1は、実施例による油圧駆動位置制御システムの概略図である。両ロッド型の油圧シリンダ11が、シリンダボディ11S、ピストン11P、第1ロッド11A、及び第2ロッド11Bを含む。第1ロッド11A、第2ロッド11B、及びピストン11Pが固定されており、シリンダボディ11Sが固定部に対して移動する。シリンダボディ11Sに位置決め対象10が取り付けられている。位置決め対象10は、例えば研削装置の移動テーブルである。
図2Aは、位置決め対象10、及びそれを支持する支持部材18の断面図である。位置決め対象10の下面に油圧シリンダ11が取り付けられている。支持部材18が位置決め対象10を、シリンダボディ11Sの移動方向に移動可能に支持している。
位置決め対象10の下面に、断面が逆三角形の凸状のガイド摺動面(凸)10Aが2列設けられている。位置決め対象10は、支持部材18に設けられた凹状のV断面のガイド摺動面(凹)18Aにより支持され、油圧シリンダ11の軸方向の移動が可能にされている。勘合するガイド摺動面(凸)10Aとガイド摺動面(凹)18Aとの間に潤滑油の油膜が形成されている。静止状態から位置決め対象10を駆動する場合、図2Bに示したように、移動状態よりも摺動面に大きな静止摩擦力が作用し、位置決め応答や位置精度を悪化させている。
図1に示したシリンダボディ11S内に、ピストン11Pによって隔離された第1ロッド11A側の第1油室13Aと、第2ロッド11B側の第2油室13Bとが設けられている。第1ロッド11A及び第2ロッド11Bの端部に、それぞれ第1ポート14A及び第2ポート14Bが設けられている。第1ポート14Aは、第1ロッド11A内に設けられた第1油路12Aを介して第1油室13Aに繋がっている。第2ポート14Bは、第2ロッド11B内に設けられた第2油路12Bを介して第2油室13Bに繋がっている。
作動油供給系20が、油圧シリンダ11への作動油の供給、及び油圧シリンダ11からの作動油の回収を行う。作動油供給系20は、油圧ポンプ21及び電動モータ22を含む。油圧ポンプ21は双方向油圧ポンプであり、電動モータ22によって正転、逆転の両方向に駆動される。
油圧ポンプ21と第1ポート14Aとの間の油路にリリーフ弁23Aが接続されている。同様に、油圧ポンプ21と第2ポート14Bとの間の油路に、リリーフ弁23Bが接続されている。リリーフ弁23A、23Bは、油路内の圧力が所定圧以上になったら油路内の作動油を作動油タンク30に逃がす。
一方向油圧ポンプであるチャージポンプ26が電動モータ27によって駆動される。第1ポート14Aと油圧ポンプ21との間の油路内の圧力、及び第2ポート14Bと油圧ポンプ21との間の油路内の圧力が所定のチャージ圧より低くなると、シャトル弁24を介してチャージポンプ26から作動油が油路に導入される。チャージポンプ26の吐出側の油路内の圧力が所定の圧力以上になると、リリーフ弁28が油路内の作動油を作動油タンク30に逃がす。
圧力センサ15A、15Bが、それぞれ第1ポート14A及び第2ポート14Bに繋がる油路内の圧力を測定する。圧力の測定値が制御装置50に入力される。圧力センサ15A、15Bの測定値の差、すなわち差圧と、ピストン11Pの受圧面積との積が、油圧シリンダ11が発生する推力である。すなわち、2つの圧力センサ15A、15Bは、油圧シリンダ11が発生する推力に関わる物理量を測定する推力センサとして機能する。位置センサ16が、シリンダボディ11S、すなわち位置決め対象10の位置を測定する。位置の測定値が制御装置50に入力される。
制御装置50は、圧力センサ15A、15B、及び位置センサ16から入力された圧力及び位置の測定値に基づいて、作動油供給系20を制御して、位置決め対象10を指令位置まで移動させる。指令位置を指定する情報は、外部から制御装置50に位置指令として与えられる。
次に、油圧シリンダ11が位置決め対象10に与える推力を制御する方法について説明する。
位置決め対象10を移動させる推力Fは、ピストン11Pの受圧面積Aと、第1油室13Aと第2油室13Bとの差圧Pを用いて以下の式で表される。差圧Pは、油圧シリンダ11の推力Fを油圧シリンダの受圧面積Aで除した値である。推力Fは、摩擦力や慣性抵抗等の負荷抵抗の反作用として発生するので、差圧Pを負荷圧ともよぶ。
Figure 0007372189000001
第1油室13Aと第2油室13Bとの差圧Pは、作動油の圧縮性の定義から、作動油の体積弾性係数Kv、油圧ポンプ21から油圧シリンダ11に吐出された作動油の体積ΔV、油圧シリンダ11、及び油圧シリンダ11に繋がる作動油の管路の容積Vを用いて、以下の式で表される。
Figure 0007372189000002
油圧ポンプ21から油圧シリンダ11に吐出された作動油の体積ΔVは、油圧ポンプ21の1回転当たりの押しのけ容積Dp、油圧ポンプ21の入力軸の回転角変位Δθ[rad]を用いて、以下の式で表される。
Figure 0007372189000003
油圧ポンプ21の入力軸の回転角変位Δθは、入力軸の角速度ωと電動モータ22の駆動時間Δtを用いて、以下の式で表される。角速度ωは、予め設定された固定値である。
Figure 0007372189000004
式(1)~式(4)から、油圧シリンダ11の差圧Pは以下の式(5)、発生する推力Fは以下の式(6)で表される。
Figure 0007372189000005

Figure 0007372189000006
式(6)は、電動モータ22及び油圧ポンプ21の駆動時間Δtを制御することにより、推力Fを変化させることができることを示している。本実施例では、予め規定されている制御周期ごとに、制御周期より短いパルス時間幅(以下、「パルス幅」という。)だけ油圧ポンプ21を駆動させ、残りの時間は油圧ポンプ21を停止させることにより、位置決め対象10を移動させる。すなわち、制御周期ごとに油圧シリンダ11に間欠的に作動油を供給して位置決め対象10を微小送りしながら、複数回の制御周期を実行することにより、位置決め対象10を目標位置まで移動させる。本明細書において、このような制御を「吐出容量制御」ということとする。
吐出容量制御は、位置決め対象10の位置偏差が微小であり、結果的に位置決めを行う際の位置決め対象10の移動速度が微小な領域で採用される。例えば、スティックスリップ現象が発生するような微小な速度領域で採用される。
一方、位置決め対象10の位置偏差や速度が大きい領域、例えばスティックスリップ現象が発生しない速度領域では、吐出流量制御が採用される。吐出流量制御では、位置決め対象10の位置偏差に応じて、油圧ポンプ21の回転速度を制御する。
スティックスリップ現象が発生するような微速領域では速度変動が生じやすくなるため、吐出流量制御によって速度を安定して制御することが困難である。このため、位置決め対象10の位置を安定して目標位置に合わせることが困難である。微速領域で、吐出流量制御に代えて吐出容量制御を採用することにより、位置決め対象10の位置を精度よく目標位置に合わせることができる。
次に、図3A及び図3Bを参照して、本実施例による油圧駆動位置制御システムによる位置決め対象10の吐出容量制御を適用した位置制御について説明する。
図3Aは、本実施例による油圧駆動位置制御システムの制御系のブロック線図である。制御装置50が、制御周期ごとにモータドライバ25に操作パルスを与える。モータドライバ25は、操作パルスで指令された情報に基づいて電動モータ22に駆動電力を供給する。油圧ポンプ21は、電動モータ22から与えられた動力によって油圧シリンダ11に作動油を供給する。油圧シリンダ11は、油圧ポンプ21から供給された作動油によって推力を発生し、位置決め対象10(図1)を移動させる。これにより、位置決め対象10の位置Xが変化する。位置センサ16(図1)が、位置決め対象10の位置Xを測定する。
制御装置50は、偏差・パルス幅変換部51、摩擦力補償部52、及びパルス発生部53を含む。位置決め対象10の指令位置Xrefが制御装置50に入力される。制御装置50は、指令位置Xrefから位置Xを減じることにより、位置偏差eを算出する。
偏差・パルス幅変換部51は、位置偏差eに応じて、第1操作量として第1パルス幅Tw1を生成する。例えば、第1パルス幅Tw1は位置偏差eに比例する。なお、位置偏差eが所定の値を超えると第1パルス幅Tw1が一定になるようにしてもよい。
油圧シリンダ11(図1)の第1油室13Aと第2油室13Bとの差圧Pの計測値が、制御装置50の摩擦力補償部52に入力される。差圧Pは、一方の圧力センサ15Aの測定値から他方の圧力センサ15Bの測定値を減算することにより算出される。この差圧Pは、油圧シリンダ11が発生している推力に応じた物理量である。摩擦力補償部52は、位置偏差eと差圧Pとに基づいて、第2操作量として第2パルス幅Tw2を生成する。摩擦力補償部52の詳細な処理については後述する。
制御装置50は、第1パルス幅Tw1に第2パルス幅Tw2を加算して、第3操作量として第3パルス幅Tw3を生成する。第3パルス幅Tw3がパルス発生部53に入力される。パルス発生部53は、予め設定されている固定の回転速度設定値ωと第3パルス幅Tw3とに基づいて、モータドライバ25に操作パルスを与える。操作パルスのパルス幅は第3パルス幅Tw3に等しく、パルスの波高は、回転速度設定値ωに等しい。このように、操作パルスは、電動モータ22を駆動する時間の情報、及び電動モータ22の回転数の情報を含んでいる。
モータドライバ25は、電動モータ22を、回転速度設定値ωに等しい回転数で、第3パルス幅Tw3に等しい時間だけ駆動する。
図3Bは、制御装置50に与えられる指令位置Xrefの時間変化の一例を示すグラフである。横軸が時間を表し、縦軸が指令位置Xrefを表す。指令位置Xrefを変化させる周期(以下、ステップ周期という。)をTstpと表記し、指令位置Xrefの変化量(以下、ステップ量という。)をΔXstpと表記する。
次に、摩擦力補償部52の処理について説明する。
位置決め対象10には重量に比例した摩擦抵抗が作用し、摩擦力以上の力を加えなければ位置決め対象10は動かない。静止状態から動き出す瞬間の摩擦力が最大静止摩擦力Ffrcである。油圧シリンダ11の推力Fが位置決め対象10に作用する最大静止摩擦力を超えると位置決め対象10が動き始める。油圧シリンダ11の推力Fはピストン11Pで仕切られた第1油室13Aと第2油室13Bとの圧力の差(差圧P)と受圧面積Aとの積である。最大静止摩擦力Ffrcを受圧面積Aで除した値を、摩擦相当圧Pfrcということとする。すなわち、摩擦相当圧Pfrcは、位置決め対象10に作用する最大静止摩擦力Ffrcを、油圧シリンダ11の負荷圧力に換算したものである。油圧シリンダ11の差圧Pが摩擦相当圧Pfrcを超えると位置決め対象10が動き出す。一方で油圧シリンダ11の差圧Pは式(5)に示したように油圧ポンプ21の駆動時間Δtで調節できる。
摩擦力補償部52は、位置偏差e及び差圧Pに基づいて、以下の式(7)を用いて第2パルス幅Tw2を生成する。ここで油圧シリンダ11の差圧Pが正で位置決め対象10が正方向に移動するものとする。
Figure 0007372189000007
ここで、Tfrcは比例定数である。Tfrcは差圧Pがゼロの状態から摩擦相当圧Pfrcを発生させるために必要なパルス幅である。sgn(e)は符号関数を示し、位置偏差eが正(e>0)のときに+1であり、位置偏差eが負(e<0)のとき-1である。第2パルス幅Tw2は摩擦相当圧Pfrcと差圧Pとの差及び位置偏差eに比例する。圧力偏差Pfrc-PはPfrcで除し、位置偏差eはΔXstpで除して正規化している。指令位置Xrefが変化するステップの立上り(又は立下り)のタイミングで、位置偏差eが最大のΔXstpとなり、差圧Pがゼロの場合、Tw2は以下の式(8)に示すように比例定数のTfrcと一致する。
Figure 0007372189000008
式(7)の第2パルス幅Tw2は、式(8)に示すように、指令位置Xrefの立上りのタイミングでTw2が最大の値、すなわちTfrcになる。また、位置偏差eが一定である条件下で、第2パルス幅Tw2は、摩擦相当圧Pfrcと、油圧シリンダ11の差圧Pとの差に比例する。
式(7)において、摩擦相当圧Pfrcに符号関数sgn(e)を付加しているのは、最大静止摩擦力が運動方向と逆方向に働くので、運動方向に合った補正がなされるようにPfrcの符号を考慮する必要があるためである。例えばステップ量ΔXstpが正から負に切換わった場合を考えると、位置偏差eが負になるため、符号関数sgn(e)が-1になる。このときの差圧Pは正(反転前の+方向の圧が残っているため)である。このとき、式(7)は以下の式(9)のように変形することができ、第2パルス幅Tw2はTfrcより大きくなる。このように差圧Pが静止摩擦力の方向と逆に働く場合はTfrcよりも第2パルス幅Tw2を広げて、ステップ量ΔXstpが正から負に切換わった後の初回パルスで差圧Pが摩擦相当圧に達するようにしている。
Figure 0007372189000009
次に、式(7)の物理的な意義について説明する。
位置決め対象10が静止状態から動き出すまでの期間は、差圧Pが摩擦相当圧Pfrcより小さいため、モータドライバ25に操作パルスを与えて油圧シリンダ11に作動油を供給しても油圧シリンダ11のシリンダボディ11Sは変位できず、供給した作動油は加圧に使用され、パルスを与える毎に差圧Pが上昇する。すなわち、差圧Pは、ステップ周期Tstp(図3B)の開始時点の直後(すなわち、指令位置Xrefがステップ状に変化した直後)の第1回目の制御周期の場合が最も低く、制御周期回数が増すごとに上昇し、摩擦相当圧Pfrcと差圧Pとの差が小さくなる。式(7)が示すように、摩擦相当圧Pfrcと差圧Pとの差に比例して第2パルス幅Tw2も増加するため、差圧Pが最も低い1回目の制御周期の第2パルス幅Tw2が最も大きくなる。このため、1回目の制御周期において、2回目以降の制御周期に比べてより多くの作動油を供給することができる。これにより、差圧Pの上昇を速めることが可能になり、その結果、差圧Pが摩擦相当圧Pfrcに到達するまでの制御周期の回数を削減することができる。差圧Pが摩擦相当圧Pfrcを超えると位置決め対象10が動き出し、摩擦力補償が不要な状態になる。このときの摩擦相当圧Pfrcと差圧Pは釣り合い、両者の差はゼロに近づくため、第2パルス幅Tw2も小さな値となり、摩擦補償の効果は減少する。
また、式(7)は、第2パルス幅Tw2を位置偏差eにも比例させている。その意図を次に述べる。摩擦補償が必要な期間は、ステップ周期Tstp(図3B)の開始時点から位置決め対象10が動き出すまでの期間である。この期間の位置偏差eはステップ量ΔXstp(図3B)と等しい。式(7)の位置偏差に関する項e/ΔXstpは1となり、第2パルス幅Tw2は摩擦相当圧Pfrcと差圧Pとの関係のみで決定される。位置決め対象10が指令位置Xrefに向かって動き出すと位置偏差eは減少していく。このときの位置偏差に関する項は1未満になる。例えば、位置偏差eがステップ量ΔXstpの10%の場合は、位置偏差に関する項が0.1になる。この値が圧力に関する項に掛け合わされるため、圧力に関する項の効果が1/10に減殺される。これは、位置決め対象10が指令位置Xrefni近づくほど摩擦力補償の効果を弱めることを意味する。
次に、図4及び図5を参照して、上記実施例の優れた効果について説明する。
図4は、比較例による油圧駆動位置制御システムの位置指令で指令される指令位置Xref、パルス発生部(図3A)が発生する操作パルス、差圧P、及び位置決め対象10の位置X、位置偏差eの時間変化を示すグラフである。4段目のグラフにおいて、位置決め対象10の位置Xを実線で示し、位置偏差eを破線で示している。制御周期Tcは操作パルスを与える周期である。
図4に示す比較例では、時刻t0において指令位置Xrefをステップ量ΔXstpだけ変化させる位置指令を与え、10回の操作パルスによる位置補正動作を行った。比較例による油圧駆動位置制御システムの制御装置50は、摩擦力補償部52(図3A)を備えていない。このため、位置偏差eに応じた第1パルス幅Tw1のみがパルス発生部53に入力される。電動モータ22は、制御周期Tc毎に第1パルス幅Tw1に相当する時間だけ駆動される。時刻t0でステップ量ΔXstpだけ指令位置Xrefが変化すると位置偏差eはゼロからΔXstpに変化する。
偏差・パルス幅変換部51(図3A)は、位置偏差eに対応する第1パルス幅Tw1を出力し、油圧ポンプ21は第1パルス幅Tw1に相当する時間だけ駆動される。第1パルス幅Tw1に相当する作動油が油圧シリンダ11の第1油室13Aに流れ込み、第1油室13Aの圧力が上昇する。第2油室13Bの作動油は油圧ポンプ21により吸い出されて圧力が降下する。このように第1油室13A及び第2油室13Bの圧力差(差圧P)が発生する。油圧ポンプ21が停止すると油圧ポンプ21から油圧シリンダ11への作動油の供給が止まり、第1油室13Aの圧力上昇も停止する。また油圧ポンプ21からの漏れにより第1油室13A、第2油室13Bや配管内の作動油の一部が漏れ出し、圧力が徐々に降下する。結果として差圧Pも緩やかに降下する。ただし、パルス駆動の昇圧量に比べ漏れによる降圧量が小さいのでパルス駆動を繰り返す度に差圧Pはのこぎり波状に上昇する。
油圧シリンダ11の差圧Pが摩擦相当圧Pfrcに達する迄は、位置決め対象10は動かず、位置偏差eもステップ量ΔXstpのまま変化しない。したがって、第1パルス幅Tw1は初回パルス幅と等しく、油圧ポンプ21から油圧シリンダ11に供給される作動油の量も一定である。操作パルス数が増加するにしたがって、油圧シリンダ11に供給された作動油の総量が増加し、差圧Pが徐々に高くなる。
差圧Pのピーク値が摩擦相当圧Pfrcを超えた時点で、位置決め対象10が移動し始める。図4に示した例では、時刻t1で差圧Pのピーク値が摩擦相当圧Pfrcを超え、位置決め対象10が移動を開始する。
位置決め対象10が移動を開始した後は、位置Xが指令位置Xrefに近づくため、位置偏差eは徐々に減少する。位置偏差eの減少に応じて、第1パルス幅Tw1が短くなる。図4に示した例では、時刻t2で位置Xが指令位置Xrefに一致し、位置偏差eがゼロになっている。
図4に示した比較例では、時刻t1で位置決め対象10が動き始める。時刻t0からt1までの時間が、位置決め対象10が全く移動しない無駄時間Tdである。
図5は、実施例による油圧駆動位置制御システムを用いて位置決め対象10(図1)を指令位置Xrefへ移動させるときの位置指令、パルス発生部(図3A)が発生する操作パルス、差圧P、及び位置決め対象10の位置X、位置偏差eの時間変化を示すグラフである。4段目のグラフにおいて、位置決め対象10の位置Xを実線で示し、位置偏差eを破線で示している。
図5に示した実施例では、時刻t0において指令位置Xrefがステップ量ΔXstpだけ変化し、6回のパルス出力による位置補正動作を行った応答波形を示している。時刻t0においてステップ量ΔXstpの位置指令を与えると位置偏差eはステップ量ΔXstpに等しくなり、式(7)より第2パルス幅TW2はTfrcに等しくなる。但し差圧Pをゼロと仮定している。
第1パルス幅Tw1に第2パルス幅Tw2を加算した第3パルス幅Tw3がパルス発生部53(図3A)に入力され、油圧シリンダ11に供給される作動油の量は、図4の比較例の場合より第2パルス幅TW2に相当する量だけ増加する。これにより時刻t0の1回目のパルス出力で発生する差圧Pのピーク値も図4の比較例に示したピーク値より高くなる。
時刻t3の2回目の制御周期の開始時点で、差圧Pが直前の時刻t0の制御周期の開始時点における差圧Pより大きくなっているため、式(7)から求まる第2パルス幅Tw2は、直前の制御周期において求められた第2パルス幅Tw2より短くなる。ただし、Pfrc-Pが正の値であるため、第2パルス幅Tw2は正の値を持つ。このため、時刻t3の制御周期で油圧シリンダ11に供給される作動油の量は、図4の比較例における時刻t0の制御周期の次の制御周期で油圧シリンダ11に供給される作動油の量より多い。
図5に示した例では、2回目の制御周期と3回目の周期との間の時刻t4のタイミングで差圧Pのピーク値が摩擦相当圧Pfrcを超え、位置決め対象10が移動し始める。
位置決め対象10が移動を開始した後、位置Xは指令位置Xrefに近づき、位置偏差eはゼロに近づく。差圧Pが大きくなり、位置偏差eが小さくなると式(7)から求まる第2パルス幅Tw2は急激に小さくなり摩擦補償の効果は弱まり、実質的に、位置偏差eに応じた第1パルス幅Tw1に基づいて電動モータ22が駆動されるようになる。時刻t5において、位置偏差eがゼロになる。
上述のように、本実施例では、図4に示した比較例と比べて、指令位置Xrefが変化した後の1回目の制御周期の開始時点における操作パルスである第3パルス幅Tw3が大きくなるため、位置決め対象10が静止状態から実際に動き始めるまでの無駄な時間Tdを短縮することができる。
差圧Pが摩擦相当圧Pfrcを超えて位置決め対象10が移動を開始した後は、摩擦力補償部52による補償機能は働かないことが好ましい。位置決め対象10が動き始めると、式(7)の差圧Pと摩擦相当圧Pfrcとの差、及び位置偏差eが漸減する。このため、摩擦力補償部52が生成する第2パルス幅Tw2が短くなる。したがって、位置決め対象10が動き始めると、摩擦力補償部52が位置制御に与える影響は小さくなる。このように、摩擦力補償部52は、静止状態の摩擦の影響が高い時、すなわち指令位置Xrefがステップ状に変化した時に効果を発揮し、位置決め対象10が動き始めると、自動的に出力(第2パルス幅Tw2)を小さくし、指令位置Xref付近では摩擦力補償の影響がなくなる機能を有している。
なお、位置決め対象10が静止状態のときに、摩擦相当圧Pfrcに相当する差圧Pを発生させるように油圧ポンプ21の駆動時間を決定することによっても、位置決め対象10の静止から移動開始までの無駄時間を短縮することができる。しかしこの方法は、静止状態の油圧シリンダの差圧がゼロの場合は成り立つが差圧がゼロではなく正または負に偏っていた場合問題となる。例えば差圧Pが正に偏っていた場合、摩擦相当圧Pfrcと差圧Pとの差が小さくなり、Tfrcのパルス幅では作動油の量が多過ぎて差圧Pが摩擦相当圧Pfrcを超えて動いてしまう。Tfrcのパルス幅は第1パルス幅Tw1の範囲より大きい為、場合によっては指令位置Xrefを飛び越えて、指令位置Xrefに位置決めが出来なくなる可能性がある。逆に差圧Pが負に偏っていた場合は作動油の量が足りず、差圧Pが摩擦相当圧Pfrcに到達できず、2パルス目以降で昇圧させることになり無駄時間の発生を招く結果になる。このように油圧シリンダ11の圧力状態と摩擦相当圧Pfrcの差に応じた適正なパルス幅の出力は重要である。
位置決め対象10が静止状態のときに、摩擦相当圧Pfrcに相当する差圧Pを発生させる方法では、位置決め対象10の移動中は、摩擦相当圧Pfrcを考慮せず、位置偏差eに基づいて、油圧ポンプ21の駆動時間を決定することになる。このため、位置決め対象10に作用する摩擦力が、静止摩擦力なのか、極微小な速度で移動しているときの動摩擦力なのかを正確に判別する必要がある。ところが、この2つの状態を正確に判別することは困難である。両者の判別を間違うと、制御が不安定になってしまう。
本実施例では、位置決め対象10が静止状態のときと、移動中のときとで、同じ制御を行えばよい。したがって、位置決め対象10に作用する摩擦力が、静止摩擦力なのか、極微小な速度で移動しているときの動摩擦力なのかを判別する必要がない。このため、安定した制御を行うことが可能である。
次に、上記実施例の変形例について説明する。
上記実施例では、油圧シリンダ11(図1)のピストン11P、第1ロッド11A、及び第2ロッド11Bを固定し、シリンダボディ11Sを移動させているが、逆にシリンダボディ11Sを固定して、ピストン11P、第1ロッド11A、及び第2ロッド11Bを位置決め対象10とともに移動させてもよい。また、上記実施例では、油圧シリンダ11として両ロッド油圧シリンダを用いているが、その他の油圧シリンダ、例えば複動型単ロッド油圧シリンダ、単動型単ロッド油圧シリンダ等を用いてもよい。
上記実施例では、位置決め対象10を直線に沿って移動させる油圧シリンダ11を用いているが、油圧シリンダ11に代えて、その他の油圧アクチュエータを用いてもよい。例えば、油圧アクチュエータとして油圧モータを用いてもよい。この場合には、油圧モータの回転方向の位置制御を行う油圧駆動位置制御システムに、上記実施例の制御装置50を適用するとよい。
上記実施例では、制御装置50が操作パルスにより、式(4)の角速度ωと駆動時間Δtとをモータドライバ25に与えている。その変形例として、制御装置50がモータドライバ25に、式(4)の回転角Δθを指定する情報を与えるようにしてもよい。このとき、モータドライバ25は、与えられた回転角Δθだけ電動モータ22を回転させる。
上述の実施例及び変形例は例示であり、異なる実施例及び変形例で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。複数の実施例及び変形例の同様の構成による同様の作用効果については実施例及び変形例ごとには逐次言及しない。さらに、本発明は上述の実施例及び変形例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
10 位置決め対象
10A ガイド摺動面(凸)
11 油圧シリンダ
11A 第1ロッド
11B 第2ロッド
11P ピストン
11S シリンダボディ
12A 第1油路
12B 第2油路
13A 第1油室
13B 第2油室
14A 第1ポート
14B 第2ポート
15A、15B 圧力センサ
16 位置センサ
18 支持部材
18A ガイド摺動面(凹)
20 作動油供給系
21 油圧ポンプ
22 電動モータ
23A、23B リリーフ弁
24 シャトル弁
25 モータドライバ
26 チャージポンプ
27 電動モータ
28 リリーフ弁
30 作動油タンク
50 制御装置
51 偏差・パルス幅変換部
52 摩擦力補償部
53 パルス発生部

Claims (7)

  1. 位置決め対象を移動させる推力を発生する油圧アクチュエータに作動油を供給する作動油供給系を制御して前記油圧アクチュエータを駆動する制御装置であって、
    制御周期ごとに前記作動油供給系から前記油圧アクチュエータに作動油を供給させ、
    前記位置決め対象が静止状態から動き始めるまでの期間、1回目の制御周期における作動油の供給量を、2回目以降の制御周期における作動油の供給量より多くし、
    1回目の制御周期における作動油の供給量は、前記位置決め対象が移動しない供給量である油圧駆動位置制御装置。
  2. 制御周期ごとに前記作動油供給系から前記油圧アクチュエータに作動油を供給する時間を調整することにより、作動油の供給量を変化させる請求項1に記載の油圧駆動位置制御装置。
  3. 前記位置決め対象の位置の測定値に基づいて、前記位置決め対象が指令位置に到達するまで複数回の制御周期を実行する請求項1または2に記載の油圧駆動位置制御装置。
  4. 前記位置決め対象の指令位置と、前記位置決め対象の位置の測定値との偏差に応じて第1操作量を生成し、
    前記油圧アクチュエータが発生している推力に応じた物理量の計測値と、予め設定されている推力を規定する物理量の設定値との差に応じて第2操作量を生成し、
    前記第1操作量に前記第2操作量を加算した第3操作量に基づいて前記作動油供給系を制御する請求項3に記載の油圧駆動位置制御装置。
  5. 前記位置決め対象の指令位置が変化したとき、指令位置の直近の変化量に対する前記偏差の比に基づいて、前記第2操作量を生成する請求項4に記載の油圧駆動位置制御装置。
  6. 位置決め対象を移動させる推力を発生する油圧アクチュエータに作動油を供給する油圧ポンプを制御して前記油圧アクチュエータを駆動する制御装置であって、
    制御周期ごとに前記油圧ポンプから前記油圧アクチュエータに作動油を供給させ、
    前記位置決め対象が静止状態から動き始めるまでの期間、前記位置決め対象の指令位置と現在位置との位置偏差に対応した第1パルス幅に、前記油圧アクチュエータの受圧面に作用している負荷圧力に基づく第2パルス幅を加算した第3パルス幅に相当する時間だけ前記油圧ポンプを駆動して前記油圧アクチュエータに作動油を供給する油圧駆動位置制御装置。
  7. 前記位置決め対象に作用する最大静止摩擦力を負荷圧力に換算した摩擦相当圧と、前記油圧アクチュエータの受圧面に作用している負荷圧力との差に基づいて、前記第2パルス幅を決定する請求項6に記載の油圧駆動位置制御装置。
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