以下に、図面を参照して本開示の実施形態に係るガス発生器について説明する。なお、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
<実施形態1>
[全体構成]
図1は、実施形態1に係るガス発生器100の中心軸X1に沿った内部構造を概略的に示す断面図である。以下、図1に示すように、ガス発生器100を中心軸Xに沿って切断した断面をガス発生器100の「縦断面」という場合がある。また、ガス発生器100の中心軸X1に沿った方向をガス発生器100の「上下方向」という場合がある。図1では、ガス発生器100の作動前の状態が示されている。ガス発生器100は、例えばエアバ
ッグを膨張、展開させるためのガスをエアバッグに供給するためのエアバッグ用ガス発生器である。また、ガス発生器100は、単一の点火器を備えたシングルタイプのガス発生器である。
図1に示すように、ガス発生器100は、ハウジング1、点火器4、樹脂製保持部5、フィルタ6、内筒部材7、カバー体9、伝火薬110、ガス発生剤120等を備えている。ガス発生器100は、点火器4を作動させることでガス発生剤120を燃焼させ、その燃焼生成物である燃焼ガスをハウジング1に形成されたガス排出口1Aから放出するように構成されている。以下、ガス発生器100の各構成について説明する。
ハウジング1はガス発生器100を構成する各部品を収容する金属製の外殻容器であり、上側容器2及び下側容器3を含んで構成されている。上側容器2及び下側容器3は、それぞれ有底略円筒状に形成されており、これらが互いの開口端同士を向き合わせた状態で接合されることで、中心軸X1方向の両端が閉塞した短尺円筒状の外殻容器としてハウジング1が形成されている。上側容器2及び下側容器3は、例えばステンレス鋼板をプレス加工することで成形することができる。
ハウジング1の内部には、点火器4、フィルタ6、内筒部材7、カバー体9、配向部材11、伝火薬110、及びガス発生剤120等が配置されている。また、ハウジング1の内部には、燃焼室10が形成されており、燃焼室10にガス発生剤120が収容されている。ここで、ハウジング1の中心軸X1方向に沿った方向において、上側容器2側(即ち、図1における上側)をガス発生器100の上側とし、下側容器3側(即ち、図1における下側)をガス発生器100の下側とする。
上側容器2は、筒状の上側周壁部21と該上側周壁部21の上端を閉塞する天板部22とを有している。上側容器2は、天板部22が平面視において概ね円形状を有しており、上側周壁部21の下端部が開放端として形成されている。また、上側容器2における上側周壁部21の下端部には、径方向外方に向かって鍔状に延在する接合部23が設けられている。また、下側容器3は、筒状の下側周壁部31と該下側周壁部31の下端を閉塞する底板部32とを有している。下側容器3は、底板部32が平面視において概ね円形状を有しており、下側周壁部31の上端部が開放端として形成されている。また、下側周壁部31の上端部には、径方向外方に向かって鍔状に延在する接合部33が連設されている。また、下側容器3における底板部32の中央には、点火器4を底板部32に取り付けるための取付孔320が形成されている。
上側容器2の接合部23と下側容器3の接合部33は、互いに重ね合わされてレーザ溶接等によって接合されることでハウジング1が形成されている。また、上側容器2の上側周壁部21には、ハウジング1の内部空間と外部空間とを連通するガス排出口1Aが、周方向に沿って複数並んで形成されている。ガス排出口1Aは、点火器4が作動する前の状態では、封止テープ1Bによって内側から閉塞されている。封止テープ1Bとしては、例えば片面に粘着部材が塗布されたアルミニウム箔等を利用することができる。
ここで、下側容器3における底板部32は、下側周壁部31の下端に接続される環状の外周底壁部321と、外周底壁部321の径方向内周側から上方に向かって(すなわち、ハウジング1の内側に向かって)隆起するカラー部322を含んでいる。カラー部322の上端側には、点火器4を底板部32に取り付けるための取付孔320が設けられている。
点火器4は、下側容器3の底板部32におけるカラー部322に形成された取付孔320に樹脂製保持部5を介して固定されている。点火器4は、金属製のカップ体の内部に点
火薬が収容された点火部41と一対の導電ピン42,42等を有する電気式の点火器である。一対の導電ピン42,42には、カップ体に収容された点火薬を着火するための着火電流が供給されるようになっている。一対の導電ピン42,42の基端側は、樹脂製保持部5によって電気的絶縁状態に保持されてカップ体の内部に挿入されている。また、一対の導電ピン42,42の基端同士を連結するように、カップ体の内部に設けられたブリッジワイヤ(抵抗体)が連架されている。ブリッジワイヤは、例えばニクロム線等であってもよい。また、点火薬としては、ZPP(ジルコニウム・過塩素酸カリウム)、ZWPP(ジル
コニウム・タングステン・過塩素酸カリウム)、THPP(水素化チタン・過塩素酸カリウム)、鉛トリシネート等を採用してもよい。なお、点火薬は、ブリッジワイヤに接触した状態でカップ体の内部に収容されている。
点火器4を作動させる際、一対の導電ピン42,42に供給される着火電流によってブリッジワイヤが発熱する。その結果、点火器4のカップ体の内部に収容された点火薬が着火、燃焼し、燃焼生成物(例えば、火炎)が生成される。そして、点火薬の燃焼に伴ってカップ体の内部圧力が上昇し、カップ体が開裂することで、カップ体の開裂箇所から燃焼生成物が放出される。また、点火器4における一対の導電ピン42,42の一部は、取付孔320を通じてハウジング1の外側に形成されたコネクタ挿入空間S1に露出するように配置されている。コネクタ挿入空間S1は外部コネクタを挿入するための空間であり、樹脂製保持部5の一部によって形成されている。
樹脂製保持部5は、点火器4を下側容器3の底板部32におけるカラー部322に固定しており、例えば、樹脂材料を下側容器3のカラー部322及び点火器4間に射出成形することによって形成されている。例えば、射出成形金型内にそれぞれ配置した下側容器3のカラー部322及び点火器4の周りに、加熱溶融させた樹脂材料を射出注入して、点火器4及びカラー部322と樹脂材料を一体化することで、下側容器3のカラー部322に点火器4を固定することができる。樹脂製保持部5は、点火器4における点火部41をハウジング1の収容空間側に配置すると共に、一対の導電ピン42,42をハウジング1の外側に露出させた状態でハウジング1の収容空間を封止するように、下側容器3のカラー部322と点火器4を一体に接合している。
内筒部材7は、点火器4における点火部41の周囲を取り囲むようにハウジング1内に配置された筒状の部材である。本実施形態における内筒部材7は有底円筒形状を有するカップ状部材であり、その内側に伝火薬110を収容する伝火室8が形成されている。内筒部材7の下端は開放端となっている。また、内筒部材7の内側に形成される伝火室8は、点火器4における点火部41に面するように形成されている。
図1に示すように、ハウジング1の内部において、内筒部材7の外側にガス発生剤120を収容する燃焼室10が形成されている。つまり、内筒部材7は、燃焼室10と伝火室8とを隔てるようにハウジング1内の収容空間を平面方向に区画している。燃焼室10に充填されるガス発生剤120は特に限定されないが、例えば比較的燃焼温度の低いガス発生剤を使用できる。ガス発生剤120の燃焼温度は、例えば1000~1700℃程度であっても良い。このようなガス発生剤120としては、例えば、硝酸グアニジン(41重量%)、塩基性硝酸銅(49重量%)及びバインダーや添加物を含む、公知のものを用いることができる。また、ガス発生剤120には、例えば顆粒状、ペレット状、円柱状、ディスク状等、種々の形状を採用できる。本実施形態において、ガス発生剤120は第1ガス発生剤の一例である。
また、伝火室8に収容される伝火薬110は特に限定されないが、着火性に優れ、ガス発生剤120よりも燃焼温度の高いガス発生剤を使用しても良い。伝火薬110は、点火器4の作動時に点火部41のカップ体から放出される点火薬の燃焼生成物によって着火し
、燃焼ガスを発生させる。伝火薬110としては、例えばニトログアニジン(34重量%)、硝酸ストロンチウム(56重量%)からなる公知のものを用いることができる。伝火薬110の形態は特に限定されず、粉状であってもよいし、バインダー等によって例えば顆粒状、ペレット状、円柱状、ディスク状等、種々の形状に成形されていてもよい。本実施形態において、伝火薬110は第2ガス発生剤の一例であり、伝火薬110を収容する伝火室8は収容室の一例である。内筒部材7の内側に形成される収容室には、公知のガス発生剤が収容されても良いし、公知の黒色火薬(ボロン硝石)等を収容しても良い。
内筒部材7には、当該内筒部材7を板厚方向に貫通するように複数の連通孔71が形成されており、連通孔71によって伝火室8と燃焼室10が連通されている。なお、本実施形態において、内筒部材7に形成される連通孔71の数は特に限定されず、単一の連通孔71が内筒部材7に設けられていても良い。また、内筒部材7は、ハウジング1における中心軸X1と平行に延伸しており、内筒部材7の中心軸は中心軸X1と同軸となるようにハウジング1内に配置されている。なお、図1に示す内筒部材7はカップ形状を有しているが、天壁部72を有していなくても良い。すなわち、上端及び下端が開放端として形成されていても良い。
更に内筒部材7の詳細について図1及び図2を参照して説明する。図2は、実施形態1に係る内筒部材7の下端側の部分拡大斜視図である。内筒部材7は、円形状を有する天壁部72と、天壁部72から下方に延設される円筒状の周壁部73を有する。また、内筒部材7における周壁部73の下部には、当該周壁部73よりも拡径された拡径部74が設けられている。拡径部74は、周壁部73に比べて内径及び外径が大きい。また、内筒部材7における内周面のうち、周壁部73から拡径部74に跨った領域には、内筒部材7の軸方向に沿って伸びる複数の溝部75が形成されている。また、内筒部材7の内周面のうち、周壁部73と拡径部74の境界位置近傍には、溝部75の下端部と連通する環状面76が全周に亘って形成されている。
また、内筒部材7における拡径部74の下端には、周方向に沿って複数の切り欠き部77が形成されており、この切り欠き部77によって伝火薬110の燃焼生成物を通過させるための通気部78が形成されている。以上のように構成される内筒部材7は、例えば周壁部73の内径が底板部32におけるカラー部322の外径よりも若干小さな寸法に形成されており、周壁部73の下端側をカラー部322に圧入することによってカラー部322に内筒部材7を固定しても良い。また、図1に示すように、内筒部材7における連通孔71は周壁部73に設けられている。
次に、図1、図3及び図4を参照してカバー体9の詳細について説明する。図3は、実施形態1に内筒部材7に装着された状態のカバー体9を示す図である。カバー体9は、有底円筒形状(カップ形状)を有し、内筒部材7における天壁部72及び周壁部73に外挿されている。本実施形態において、カバー体9は、平面視が円形状の頂壁部91と、当該頂壁部91から底板部32に向かって下方に延設される円筒状の閉塞カバー部92が一体的に構成されている。カバー体9の頂壁部91は、内筒部材7における天壁部72を覆うように配置されている。また、カバー体9における円筒状の閉塞カバー部92は、周壁部73の外周面に沿って当該周壁部73の少なくとも一部を覆うように配置されている。また、閉塞カバー部92は、該閉塞カバー部92を板厚方向に貫通する開口を有していない中実構造を有している。また、例えば、内筒部材7における周壁部73の外径と、カバー体9における閉塞カバー部92の内径はほぼ等しく、周壁部73の外周面に閉塞カバー部92の内周面が密着していても良い。
本実施形態において、内筒部材7の周壁部73に形成された連通孔71は、閉塞カバー部92によって覆われることで閉塞されている。図3に示す符号X軸,Y軸,Z軸は3次
元直交座標軸である。内筒部材7及びカバー体9は同軸に配置されており、内筒部材7及びカバー体9の中心軸は図3に示すX軸に一致している。また、図4は、実施形態1に係る内筒部材7の周壁部73及びカバー体9における閉塞カバー部92の横断面を示す図である。
図3に示す符号920は、カバー体9における閉塞カバー部92の下端周縁部である。図3に示すように、カバー体9における閉塞カバー部92は、下端周縁部920から上方に延設される脆弱部93を有している。図3及び図4に示すように、本実施形態においては、閉塞カバー部92に一対の脆弱部93が形成されている。一対の脆弱部93同士は、閉塞カバー部92において正対する位置に設けられている。(図3及び図4のY軸方向に正対している)。言い換えると、一対の脆弱部93同士は、X軸周りに180°ずれた位置それぞれ設けられている。ここで、脆弱部93は、他の部位に比べて薄肉化された部位である。例えば、閉塞カバー部92を貫通しない溝を下端周縁部920から上方に延設することで脆弱部93を形成しても良い。脆弱部93は、点火器4の作動時に伝火室8に収容された伝火薬110が燃焼することで生成された燃焼ガスの圧力によって閉塞カバー部92を開裂又は変形させるための部位である。なお、脆弱部93の代わりにスリットが閉塞カバー部92に設けられていても良い。スリットは、閉塞カバー部92に形成された切れ目であり、閉塞カバー部92を板厚方向に貫通して形成される。
また、図3及び図4に示すように、内筒部材7の周壁部73に一対の連通孔71が形成されている。各連通孔71は周壁部73の高さ方向(軸方向)において概ね同じ高さに配置されている。また、一対の連通孔71は、周壁部73において正対する位置に設けられている(図3及び図4のZ軸方向に正対している)。また、図3及び図4に示すように、周壁部73における連通孔71と、閉塞カバー部92における脆弱部93は、X軸周りに90°ずつ、ずれた位置に設けられている。つまり、一対の連通孔71と一対の脆弱部93は、周方向に均等間隔になるように配置されている。
図5は、内筒部材7に形成される連通孔71の高さ方向の位置を説明する図である。図5には、内筒部材7及びこれに装着された状態のカバー体9の部分拡大縦断面を示している。図5に示す符号R1は、点火器4の作動前において内筒部材7が閉塞カバー部92によって覆われている上下方向(中心軸X1方向)の領域(以下、「被覆領域」という)である。そして、符号R2は、被覆領域R1のうち、内筒部材7の軸方向における中央位置(中央高さ)H1よりも上側に位置する上側被覆領域である。また、符号R3は、被覆領域R1のうち、内筒部材7の軸方向における中央位置(中央高さ)H1よりも下側に位置する下側被覆領域である。本実施形態においては、内筒部材7の周壁部73に設けられる各連通孔71が上側被覆領域R2に設けられている。
次に、配向部材11について説明する。図1に示すように、配向部材11は、燃焼室10の底部領域に配置されている。詳しくは後述するが、ガス発生器100における点火器4の作動時に伝火室8の伝火薬110が燃焼することで生成された燃焼ガスは、内筒部材7の連通孔71を通じて燃焼室10の底部領域に向かって放出され、且つ、内筒部材7の下端側における通気部78を通じて燃焼室10の底部領域に放出される。配向部材11は、内筒部材7の連通孔71や通気部78を通じて伝火室8から排出される燃焼ガスを上方に向かって配向させるための部材である。図6及び図7は、配向部材11の縦断面図及び上面図である。配向部材11は、下側容器3における底板部32に沿って延在する円形状の底板ガイド部111と、底板ガイド部111に接続される側板ガイド部112と、側板ガイド部112に接続されるフィルタ載置部113を有する。配向部材11は、例えばステンレス鋼板をプレス加工すること等によって成形することができる。なお、配向部材11において底板ガイド部111は無くてもよいが、側板ガイド部112が下側周壁部31に圧入されていることが好ましい。
図6及び図7に示すように、底板ガイド部111には挿通孔111Aが形成されている。底板ガイド部111の挿通孔111Aは、ガス発生器100の組み付け時に内筒部材7を挿通させるための開口であり、本実施形態では円形状を有している。また、配向部材11における底板ガイド部111は、下側容器3における底板部32に対応する大きさを有している。ここで、符号111Bは、底板ガイド部111の径方向における外側端部である。また、符号111Cは、底板ガイド部111の上面である。配向部材11の側板ガイド部112は、底板ガイド部111の外側端部111Bに接続され、当該外側端部111Bから上方に向かって延在している。また、配向部材11におけるフィルタ載置部113は、側板ガイド部112の上端112Aに接続されており、フィルタ6を載置できるようになっている。なお、符号112Bは側板ガイド部112の内周面である。また、符号113Aはフィルタ載置部113の載置面、符号113Bはフィルタ載置部113の内面である。
以上のように構成される配向部材11は、図1に示すように、下側容器3の底板部32に設置される。その際、配向部材11の底板ガイド部111が底板部32に沿って配置される。また、側板ガイド部112は、下側周壁部31に沿って配置されると共にその上端112Aがガス排出口1Aよりも低位置に設けられている。更に、配向部材11におけるフィルタ載置部113は、図1に示すように側板ガイド部112の上端112Aからハウジング1の径方向内側に向かって延設されており、その載置面113Aにフィルタ6が載置されている。
フィルタ6は、例えば円筒形状を有し、ハウジング1と同心円状に配置されている。フィルタ6は、例えば、ステンレス鋼製平編の金網を半径方向に重ね、半径方向及び軸方向に圧縮するなど、公知の方法で形成したものを使用することができる。フィルタ6の内側には間隔をおいて内筒部材7が配置されており、フィルタ6の内周面61と内筒部材7との間に形成された環状空間によってガス発生剤120を収容する燃焼室10が形成されている。
図1に示すように、フィルタ6は、上端面及び下端面がそれぞれ上側容器2における天板部22及び配向部材11におけるフィルタ載置部113に当接し、軸方向に圧縮された状態でハウジング1の内部に組み付けられている。また、図1に示す例では、フィルタ6の外周面62とハウジング1の上側周壁部21とは離間しており、フィルタ6の外周面62と上側周壁部21との間に環状の隙間12が形成されている。フィルタ6は、燃焼室10に充填されたガス発生剤120が燃焼することで生成された燃焼ガスが通過する際に、燃焼ガスの熱を奪い取ることで当該燃焼ガスを冷却する。また、フィルタ6は、燃焼ガスの冷却機能に加え、燃焼ガスに含まれる燃焼残渣を捕集することで、当該燃焼ガスを濾過する機能を有する。
[動作]
以上のように製造される実施形態1に係るガス発生器100の動作について説明する。例えば、エアバッグ装置におけるセンサ(図示せず)が車両等の衝突に伴う衝撃を感知すると、一対の導電ピン42,42に着火電流が供給され、点火器4が作動する。すると、点火器4における点火部41のカップ体に収容された点火薬が燃焼し、その燃焼生成物である火炎や高温ガス等が生成される。そして、点火薬の燃焼に伴って点火部41の内部圧力が上昇し、カップ体が開裂することで、カップ体の開裂箇所から火炎や高温ガス等が放出される。図1に示すように、点火器4における点火部41は、内筒部材7の内側に形成された伝火室8を臨むように配置されているため、点火部41から放出される火炎や高温ガス等によって伝火薬110が着火し、燃焼する。
内筒部材7によって囲まれた伝火室8に収容された伝火薬110が燃焼することで生成された燃焼生成物(火炎や燃焼ガス)によって、伝火室8内の温度及び内圧が急激に上昇する。伝火薬110が燃焼することで生成された燃焼生成物は、下記のように内筒部材7の連通孔71と通気部78を通じて2つの経路から燃焼室10に排出される。
まず、内筒部材7の連通孔71を通じて燃焼室10に燃焼ガスを排出する第1の経路について説明する。点火器4の作動前においては、図1、図4、図5等に示すように、内筒部材7の周壁部73に形成された連通孔71は、カバー体9の閉塞カバー部92によって閉塞されている。これに対して、上記のように伝火薬110が燃焼することによって伝火室8内に燃焼生成物(火炎や燃焼ガス)が生成されると、伝火室8内の内圧が上昇する。その結果、当該連通孔71を覆う閉塞カバー部92の内周面が連通孔71を通じて伝火室8側から受ける圧力によって外側(燃焼室10側)に向けて押圧される。上記の通り、カバー体9の閉塞カバー部92には脆弱部93が設けられており、脆弱部93に対して図4に示すZ軸方向に引張り応力が作用する。その結果、閉塞カバー部92に設けられた脆弱部93が開裂する。図8は、閉塞カバー部92における脆弱部93が開裂した状態を模式的に示す図である。図8は、閉塞カバー部92のうち、連通孔71を覆う高さの横断面(X軸に直交するYZ断面)を示している。
図8に示す符号93Aは、閉塞カバー部92の脆弱部93が開裂することで形成された裂目である。また、符号92A,92Aは、閉塞カバー部92のうち、脆弱部93が開裂することで形成された裂目93Aによって互いに分離した一対の開裂カバー片である。上記のように閉塞カバー部92の脆弱部93が開裂することで一対のカバー片92A,92AがZ軸方向(すなわち、径方向)に沿って変形する。その結果、閉塞カバー部92における各カバー片92A,92Aの内周面92Bと、内筒部材7の周壁部73における外周面73Aとの間に隙間が形成され、内筒部材7の周壁部73に形成された連通孔71が開放される。本実施形態におけるガス発生器100は、内筒部材7の周壁部73における外周面73Aと閉塞カバー部92(各カバー片92A,92A)における内周面92Bとの間の隙間によって通気路13を形成し、この通気路13を通じて伝火薬110の燃焼生成物(火炎や燃焼ガス)を燃焼室10へと排出する。
図9は、図8のZ軸方向に沿った断面を模式的に示す図である。図9に示すように、内筒部材7の周壁部73における外周面73Aと閉塞カバー部92(各カバー片92A,92A)における内周面92Bとの間に形成された通気路13は、連通孔71から閉塞カバー部92(各カバー片92A,92A)の下端周縁部920まで延在しており、燃焼室10に連通している。図中の符号G1は、連通孔71、通気路13を通じて燃焼室10に放出される伝火薬110の燃焼ガスを模式的に示している。例えば、連通孔71を通じて伝火室8から流出する燃焼ガスG1は、閉塞カバー部92(各カバー片92A,92A)における内周面92Bに衝突し、下側に向かって配向される。そして、燃焼ガスG1は、閉塞カバー部92(各カバー片92A,92A)における内周面92Bに沿ってハウジング1内における下方(すなわち底板部32側)に向かって通気路13を流れる。ここで、内筒部材7が閉塞カバー部92によって覆われている領域(被覆領域R1)のうち、内筒部材7の軸方向中央位置(図5のH1)よりも上側に位置する上側被覆領域R2に連通孔71が形成されているので、通気路13を流れる燃焼ガスG1に対しての下向きに整流する効果が高まり、燃焼ガスG1が周方向に拡散されることが抑えられる。燃焼ガスG1は、周壁部73と閉塞カバー部92との間に形成された通気路13の出口(終点)、すなわち閉塞カバー部92(各カバー片92A,92A)の下端周縁部920に至った後も、慣性によって燃焼室10の底部領域(すなわち底板部32側)に向かって流れる。以上のようにして連通孔71及び通気路13を通じて燃焼室10へと排出された高温の燃焼ガスG1が燃焼室10に収容されているガス発生剤120と接触することで、ガス発生剤120が着火し、燃焼する。なお、作動時に開裂しやすいように、連通孔71から燃焼ガスG1が
排出されたときに応力がかかりやすい脆弱部93の一部をスリットにすることもできる。例えば脆弱部93のうち、周壁部73における連通孔71と対応する高さ(ほぼ同じ高さ)に位置する部分をスリットとすることが出来る。また、複数の連通孔71のうち一部を下側被覆領域R3に形成しても良い。この場合、点火器4の作動時において、下側被覆領域R3に形成された連通孔71を通じて閉塞カバー部92の下部領域(下側被覆領域R3を覆う領域)に内側から圧力を作用させることができる。これにより、閉塞カバー部92の下端周縁部920側から閉塞カバー部92を開裂させ易くなる。また、閉塞カバー部92における脆弱部93のうち、下端周縁部920側の領域をスリットにしてもよい。これにより、点火器4の作動時に、閉塞カバー部92を下端周縁部920側からより一層開裂させ易くなる。
次に、内筒部材7の通気部78を通じて燃焼室10に燃焼ガスを排出する第2の経路について説明する。点火器4の作動によって伝火室8内で生成された伝火薬110の燃焼ガスは、図2で説明した内筒部材7における溝部75と環状面76を順次通り、最終的に内筒部材7の下端に形成された通気部78を通じて燃焼室10へと排出される。通気部78を通じて燃焼室10へと排出された燃焼ガスが燃焼室10に収容されているガス発生剤120と接触することで、ガス発生剤120が着火し、燃焼する。
図10は、点火器4の作動時に伝火室8内で生成された伝火薬110の燃焼ガスG1,G2が燃焼室10に排出される状況を説明する図である。本実施形態に係るガス発生器100によれば、図10に示すように2つの経路から燃焼ガスG1,G2がそれぞれ燃焼室10へと放出される。ここで、第1の経路、すなわち内筒部材7の連通孔71及び通気路13を通じて燃焼室10へ流入する燃焼ガスG1は、閉塞カバー部92の内周面92Bによって燃焼室10における底部領域(底板部32側)に向かってガイドされる。そのため、燃焼室10の底部領域に存在するガス発生剤120が初期の段階で高温の燃焼ガスG1と接触することにより、着火される。一方、第2の経路を通じて燃焼室10に流入する燃焼ガスG2は、内筒部材7の下端に形成された通気部78を通じて燃焼室10の底部領域へ導入される。そのため、燃焼室10の底部領域に存在するガス発生剤120は、初期の段階で高温の燃焼ガスG2と接触することにより、着火される。
ここで、燃焼室10における底部領域には配向部材11が設けられており、配向部材11の底板ガイド部111が底板部32に沿って配置され、側板ガイド部112が下側周壁部31に沿って配置されている。そのため、内筒部材7の通気路13及び通気部78を通じてそれぞれ燃焼室10へと流入した燃焼ガスG1,G2、及びこれらとの接触によって着火、燃焼したガス発生剤120の燃焼ガスは、周辺に存在する未燃焼のガス発生剤120を着火させながら底板ガイド部111の上面111Cに沿って側板ガイド部112に向かって流れる。そして、燃焼ガスの流れが側板ガイド部112に至ると、側板ガイド部112と衝突することによって燃焼ガスの流れが上向きに向きを変える。次いで、燃焼ガスは、側板ガイド部112の内周面112B及びフィルタ載置部113の内面113Bに沿って流れ、周囲に存在する未燃焼のガス発生剤120を着火させながら天板部22側に向かって流れ、天板部22近傍に存在する未燃焼のガス発生剤120を着火、燃焼させる。
以上のようにして、燃焼室10内のガス発生剤120が順次着火され、燃焼することによって生成された燃焼ガスは、内周面61からフィルタ6内へと流入し、フィルタ6を通過する際に冷却及び濾過される。そして、フィルタ6の外周面62から隙間12に流出した燃焼ガスは、封止テープ1Bを破ってガス排出口1Aからハウジング1の外部へと放出される。このようにしてハウジング1のガス排出口1Aから外部に放出された燃焼ガスは、エアバッグ装置におけるエアバッグ(図示せず)に導入され、エアバッグの膨張、展開に利用される。
本実施形態におけるガス発生器100によれば、点火器4の作動時に伝火室8から受ける圧力によって閉塞カバー部92を開裂又は径方向に変形させることによって周壁部73の外周面73Aと閉塞カバー部92との間に隙間を形成することで連通孔71を開放する。そして、周壁部73の外周面73Aと閉塞カバー部92との間に連通孔71から閉塞カバー部92の下端周縁部920に至る通気路13を形成し、この通気路13を通じて燃焼ガスG1を燃焼室10の底部領域に向かって導くようにした。これにより、点火器4の作動時において、ハウジング1のガス排出口1Aから遠い位置に存在する燃焼室10の底部領域におけるガス発生剤120を点火器4の作動初期に着火、燃焼させることができる。そして、燃焼室10の底部領域におけるガス発生剤120から生成された燃焼ガスを底部領域から上方に向かって流すことで、燃焼ガスの経路周辺に存在する未燃焼のガス発生剤120を順次着火させながら燃焼室10全体におけるガス発生剤120を円滑に効率良く燃焼させ、燃焼ガスを円滑かつ迅速にガス排出口1Aから排出することができる。つまり、点火器4の作動時に、ハウジング1のガス排出口1Aから離れた位置に存在する燃焼室10の底部領域に存在するガス発生剤120から燃焼を開始させ、順次、ガス排出口1Aに向かって燃焼を伝播させてゆくことで、燃焼室10内のガス発生剤120全体として見たときに、燃焼ガスの流れに乱れが生じることを抑制しつつ円滑にガス発生剤120の着火及び燃焼を行うことができ、燃焼ガスを迅速にガス排出口1Aから外部に排出することができる(エアバッグに供給できる)。その結果、燃焼室10内におけるガス発生剤120全体として見たときにおける着火性能、燃焼性能を向上させることができる。
そして、本実施形態におけるガス発生器100によれば、図5で説明したように、内筒部材7の周壁部73に設けられる連通孔71を上側被覆領域R2に設けるようにした。点火器4の作動時に通気路13を通じて燃焼室10に供給される燃焼ガスG1は、上記のように閉塞カバー部92の内周面92Bによって燃焼室10における底部領域に向かうようにガイドされる。その際、閉塞カバー部92のうち、伝火室8から連通孔71を通じてハウジング1の径方向外側に向かって噴出される燃焼ガスG1が内周面92Bに衝突する部位から下端周縁部920までの長さ(以下、「ガイド長さ」という)が長いほど、燃焼ガスG1を燃焼室10における底部領域に向かって下向きにガイドしやすく、下方向へのガスの流れを増やすことができる。そこで、本実施形態におけるガス発生器100では、内筒部材7の連通孔71を周壁部73における上側被覆領域R2に設けることで、ガイド長さを十分に確保することができる。その結果、点火器4の作動時に連通孔71から排出される燃焼ガス全体のうち、より多くの燃焼ガスを燃焼室10における底部領域に向かって下向きにガイドすることができる。これにより、燃焼室10内におけるガス発生剤120全体の着火性能、燃焼性能を、より一層向上させることができる。
なお、内筒部材7の周壁部73に複数の連通孔71が設けられている場合、必ずしも全ての連通孔71を周壁部73の上側被覆領域R2に設ける必要は無く、少なくとも何れかの連通孔71が周壁部73の上側被覆領域R2に配置されていれば良い。言い換えると、一部の連通孔71を周壁部73の下側被覆領域R3に配置することは阻害されない。但し、内筒部材7の周壁部73に複数の連通孔71を設ける場合に、全ての連通孔71を周壁部73の上側被覆領域R2に配置した方が、連通孔71から排出される燃焼ガスの下向きへのガイド長さをより一層確保し易くなるため、好ましいことは言うまでもない。
更に、ガス発生器100によれば、内筒部材7の連通孔71を外側から閉塞カバー部92によって塞ぐようにして内筒部材7にカバー体9を装着しておき、点火器4の作動時に閉塞カバー部92を開裂又は径方向に変形させることによって連通孔71を開放すると共に通気路13を形成するようにした。これによれば、点火器4の作動前における連通孔71の閉塞と、点火器4の作動時における連通孔71の開放及び通気路13の形成を、簡単な構造によって実現できる。更に、本実施形態においては、閉塞カバー部92の下端周縁部920から上方に脆弱部93又はスリットを延設し、点火器4の作動時に脆弱部93又
はスリットを起点として閉塞カバー部92を開裂又は変形させることで連通孔71を開放及び通気路13の形成に係る動作を精度良くコントロールすることができる。ただし、ガス発生剤120を燃焼室10の底板部32側から着火させるため、連通孔71から発生した燃焼ガスG1は全量、閉塞カバー部92の下端周縁部920に向かって流れることが好ましい。そのため、脆弱部93またはスリットは、頂壁部91まで開裂が発生しないように、脆弱部93あるいはスリットの上端(頂壁部91側の端部)に、例えば特開2005-238948で示すような応力分散部を設けてもよい。
更に、ガス発生器100の内筒部材7の下端側には、連通孔71とは別に点火器4の作動時に伝火室8と燃焼室10とを連通する通気部78が設けられている。これによれば、点火器4の作動時に、通気部78を通じて燃焼室10の底部領域へと伝火薬110の燃焼ガスを放出することができる。本実施形態におけるガス発生器100によれば、連通孔71とは別に、通気部78を通じて燃焼室10の底部領域へと直接的に燃焼ガスを供給することができるため、燃焼室10の底部領域に存在するガス発生剤120への着火をより一層速やかに効率良く行うことができる。
更に、ガス発生器100は、燃焼室10の底部領域に配向部材11が配置されているため、点火器4の作動時に内筒部材7の連通孔71や通気部78を通じて伝火室8から燃焼室10の底部領域に向かって排出された燃焼ガスを、上方に向かって配向させることができる。これにより、燃焼室10の底部領域から上方に向かう燃焼ガスの流れをより円滑に作り出すことができる。その結果、燃焼室10内におけるガス発生剤120全体の着火性能、燃焼性能を、より一層向上させることができる。
特に、配向部材11は、底板部32に沿って延在する底板ガイド部111と、底板ガイド部111の外側端部111Bから上方に向かって延在する側板ガイド部112を備えている。これによれば、燃焼ガスを底板ガイド部111の上面111Cに沿ってガイドし、側板ガイド部112に至った燃焼ガスを側板ガイド部112に沿って上向きにガイドすることができる。これにより、燃焼室10の底部領域からガス排出口1Aに向かってガス発生剤120の燃焼を円滑に伝播させてゆくことができる。そして、側板ガイド部112の上端112Aは、ガス排出口1Aよりも低位置に設けられているため、側板ガイド部112に沿ってガイドした燃焼ガスをガス排出口1Aから円滑に排出することができる。更に、配向部材11は、底板ガイド部111と側板ガイド部112の間に隙間が形成されないように双方が一体成形されている。これによれば、底板ガイド部111の上面111Cに沿ってガイドした燃焼ガスが側板ガイド部112まで到達した際に、側板ガイド部112の背面側に燃焼ガスが回り込むことを好適に抑制できる。なお、側板ガイド部112がハウジング1の周壁部(下側周壁部31)に圧入されていれば、底板ガイド部111は短くてもよく、あるいは底板ガイド部111が無くてもよい。配向部材11の側板ガイド部112を下側周壁部31)に圧入することにより、底板ガイド部111が設けられていなくても、側板ガイド部112の背面側に燃焼ガスが回り込むことを好適に抑制できる。
<変形例>
以下、実施形態1の変形例に係るガス発生器について説明する。変形例の説明では、上述したガス発生器100との相違点を中心に説明し、ガス発生器100と共通する構成については同一の符号を付すことにより詳細な説明を割愛する。
図11は、変形例に係る内筒部材7を説明する図である。図11に示す内筒部材7は、拡径部74の下端側に形成された矩形の開口部によって通気部78が形成されている。すなわち、図2に示す構成例では拡径部74の下端に切り欠き部77を形成することで通気部78を形成していたが、図11に示す変形例では拡径部74の下端側に形成された開口部によって通気部78を形成している。また、図11に示す通気部78は矩形状の開口部
によって形成されているが、例えば円形状やその他の形状であっても良い。また、図11に示す通気部78は、拡径部74の周方向に沿って均等間隔で形成されていても良い。なお、内筒部材7の通気部78は、点火器4の作動時に内筒部材7の内側空間(伝火室8)と燃焼室10とを連通することができればよく、点火器4の作動前には閉塞されていてもよい。例えば、通気部78は、点火器4の作動前には封止テープ等によって閉塞され、伝火薬110の燃焼圧力により封止テープが開裂することで通気部78が開放される形態であっても良い。或いは、燃焼ガスG2の伝火室8から燃焼室10への流路が形成されるのであれば、内筒部材7における周壁部73から拡径部74に跨った領域の内周側に形成された溝部75は省略することも可能である。
また、上述した実施形態1に係る閉塞カバー部92は円筒形状を有し、閉塞カバー部92を内筒部材7の周壁部73に外挿する態様として構成されていたが、これには限定されない。図12は、変形例に係るカバー体9を説明する図である。図12に示すカバー体9は内筒部材7に装着されており、内筒部材7の天壁部を覆う頂壁部91と、頂壁部91の外周縁部から下方に延びる板状の閉塞カバー部92を有している。閉塞カバー部92は、内筒部材7の周壁部73に設けられている連通孔71に対応する数だけ頂壁部91に設けられており、連通孔71を外側から塞いでいる。また、図12に示すように、閉塞カバー部92は、内筒部材7の軸方向に沿った長手寸法を有している。また、閉塞カバー部92の内面は、周壁部73の外周面73Aに沿って密着可能な曲面形状を有している。
図12に示す符号L1は、内筒部材7における被覆領域R1のうち、上側被覆領域R2及び下側被覆領域R3の境界位置を示す仮想線である。上記変形例に係る閉塞カバー部92は、伝火室8における伝火薬110の燃焼時に伝火室8内の圧力が上昇することによって、連通孔71を通じて閉塞カバー部92の内面が外側に(燃焼室10側)に向けて押圧され、変形する。これにより、閉塞カバー部92の内面と周壁部73における外周面73Aとの間に隙間が形成される結果、連通孔71が開放されると共に燃焼ガスを燃焼室10の底部領域に導くための通気路13が形成される。また、本変形例においても、内筒部材7の周壁部73に設けられる連通孔71が上側被覆領域R2に設けられている点で実施形態1と同様である。そのため、通気路13によって燃焼ガスを下方に向けてガイドするガイド長さを十分に確保することができ、燃焼室10内におけるガス発生剤120全体の着火性能、燃焼性能を高めることができる。また、本変形例においては、頂壁部91と閉塞カバー部92の境界部に、脆弱部またはスリットあるいはこれらの組み合わせを配置しても良い。これにより、点火器4の作動時に、閉塞カバー部92が外側に(燃焼室10側)に向かってより一層変形しやすくなる。ここでいう脆弱部は、実施形態1に係る脆弱部93と同様、他の部位に比べて薄肉化された部位として構成することができる。また、頂壁部91と閉塞カバー部92の境界部にスリットを設ける場合、頂壁部91と閉塞カバー部92とが分離しないようにスリットが設けられるのは勿論であり、例えば頂壁部91と閉塞カバー部92の境界部に沿ってスリットが断続的に設けられても良い。
なお、上述までの閉塞カバー部92は、内筒部材7の天壁部を覆う頂壁部91から下方に向けて延びる態様として説明したがこれには限られない。図13に示すように、内筒部材7の連通孔71を外側から塞ぐように、周壁部73の外周面73Aに対して板状の閉塞カバー部92が独立した態様で取り付けられていても良い。なお、図13は、内筒部材7の一部と閉塞カバー部92を側面視した状態を模式的に示している。
図13に示す板状の閉塞カバー部92は、図12に示す態様と同様、内筒部材7の軸方向に沿った長手方向を有し、その内面は周壁部73の外周面73Aに沿って密着可能な曲面形状を有している。図13に示す閉塞カバー部92の上端側には、周壁部73の外周面73Aに固定される固定部92Bが設けられている。閉塞カバー部92の固定部92Bは、例えば周壁部73の外周面73Aに溶接されていても良く、点火器4の作動時に伝火室
8側から受ける圧力によって周壁部73から脱落しない態様で外周面73Aに固定されている。
図13に示す態様によっても、点火器4の作動時に連通孔71を通じて閉塞カバー部92の内面が外側に(燃焼室10側)に向けて押圧されることで閉塞カバー部92が変形する。これにより、閉塞カバー部92の内面と周壁部73における外周面73Aとの間に隙間が形成される結果、連通孔71が開放されると共に燃焼ガスを燃焼室10の底部領域に導くための通気路13を形成することができる。また、図13に示す態様においても、内筒部材7の周壁部73に設けられる連通孔71が上側被覆領域R2に設けられている。そのため、通気路13によって燃焼ガスを下方に向けてガイドするガイド長さを十分に確保することができる。なお、本変形例においても、閉塞カバー部92のうち、固定部92Bとその下方領域との境界部(図13に示す一点鎖線)に、脆弱部またはスリットあるいはこれらの組み合わせを配置しても良い。脆弱部は、実施形態1に係る脆弱部93と同様、他の部位に比べて薄肉化された部位として構成することができる。また、固定部92Bとその下方領域との境界部にスリットを設ける場合、当該境界部に沿って閉塞カバー部92が分離しないようにスリットが断続的に設けられても良い。
<実施形態2>
次に、実施形態2に係るガス発生器100Aを説明する。実施形態2においては、2つの点火器を備える所謂デュアルタイプのガス発生器100Aに、上述した内筒部材7及びカバー体9を適用する態様について説明する。実施形態2の説明において、上述までの実施形態1のガス発生器100と共通する構成については同一の符号を付すことにより詳細な説明を割愛する。
図14は、実施形態2に係るガス発生器100Aの中心軸に沿った内部構造を概略的に示す軸方向断面図である。
ハウジング1における下側容器3には、第1点火器4A及び第2点火器4Bを取り付けるための第1カラー部322A及び第2カラー部322Bが設けられている。図14に示すように、第1カラー部322Aには第1取付孔320Aが形成されており、樹脂製保持部5を介して第1点火器4Aが第1カラー部322Aに固定されている。また、第2カラー部322Bには第2取付孔320Bが形成されており、樹脂製保持部5を介して第2点火器4Bが第2カラー部322Bに固定されている。第1点火器4A及び第2点火器4Bは実施形態1に係る点火器4と同一であり詳しい説明を省略する。
ハウジング1の内部には第1燃焼室10A及び第2燃焼室10Bが設けられており、第2燃焼室10B(収容室に相当)は、実施形態1と共通の内筒部材7によって第1燃焼室10Aと隔離されている。第1燃焼室10Aには、第1ガス発生剤120Aが収容(充填)され、第2燃焼室10Bには、第2ガス発生剤120Bが収容(充填)されている。第1ガス発生剤120A及び第2ガス発生剤120Bは、実施形態1におけるガス発生剤120と同じものを使用しても良い。図14に示す例では、第2燃焼室10Bが第1燃焼室10Aに内包された状態にあるが、第1燃焼室10Aと第2燃焼室10Bが隣接して配置されていても良い。
ハウジング1内において、第1点火器4Aに対応する部位には、エンハンサ室カップ部材14が配置されている。エンハンサ室カップ部材14は、円形状を有する天壁部141と、天壁部141から下方に延設される円筒状の周壁部142を有する、概略有底円筒形状のカップ部材であり、その内側に伝火薬110を収容する伝火室8を形成している。周壁部142の下端側は、第1カラー部322Aに圧入されるなどして固定されており、第1点火器4Aの点火部41が伝火室8内を臨むようにして配置されている。周壁部142
には、例えば複数の連通孔143が設けられており、この連通孔143は、例えばアルミニウム箔等によって形成された封止テープ144によって塞がれていても良い。
また、第1燃焼室10Aに対して第2燃焼室10Bを隔離する内筒部材7は、図14に示すように、周壁部73の下端側を第2カラー部322Bに圧入することによって固定されている。なお、本実施形態においては、内筒部材7の内側に第2燃焼室10Bを形成する点で実施形態1と相違するが、その他の点については実施形態1と共通している。ここで、第2点火器4Bの点火部41は、内筒部材7の内側に形成された第2燃焼室10B内を臨むようにして配置されている。
また、実施形態1と同様、実施形態2に係るガス発生器100Aにおいても、内筒部材7にカバー体9が装着されており、内筒部材7における周壁部73に設けられた連通孔71が閉塞カバー部92によって閉塞している。これらの態様については実施形態1と共通であるため詳しい説明は省略するが、第2点火器4Bの作動によって第2燃焼室10Bの第2ガス発生剤120Bが燃焼することに伴い、連通孔71を通じて閉塞カバー部92が外側に(第1燃焼室10A側)に向けて押圧され、変形する。これにより、閉塞カバー部92の内面と周壁部73における外周面73Aとの間に隙間が形成され、連通孔71が開放されると共に通気路13(図8、図9等を参照)が形成される。また、内筒部材7における拡径部74の下端には、実施形態1と同様に通気部78が形成されている。本実施形態においては、内筒部材7における通気部78から、第2ガス発生剤120Bの燃焼ガスが第1燃焼室10Aの底部領域に排出される。
フィルタ6は円筒形状を有し、ハウジング1と同心円状に配置されている。フィルタ6の内側には第1ガス発生剤120Aが充填される第1燃焼室10Aが形成されている。また、図14に示す例では、フィルタ6の上端面及び下端面がそれぞれ上側容器2における天板部22及び下側容器3における底板部32の各内壁面に当接し、軸方向に圧縮された状態でハウジング1の内部に組み付けられている。
本実施形態におけるガス発生器100Aにおいても、ハウジング1の底板部32上に配向部材11Aが配置されている。図15は、実施形態2に係る配向部材11Aの縦断面図である。配向部材11Aは、底板部32に沿って延在する円形状の底板ガイド部111と、底板ガイド部111に接続される側板ガイド部112を備え、例えばステンレス鋼板をプレス加工すること等によって成形することができる。配向部材11Aにおいても、底板ガイド部111と側板ガイド部112は隙間が形成されないように一体に形成されている。
配向部材11Aの底板ガイド部111には、第1挿通孔111D及び第2挿通孔111Eが形成されている。第1挿通孔111Dは、ガス発生器100Aの組み付け時にエンハンサ室カップ部材14を挿通させるための開口であり、第2挿通孔111Eはガス発生器100Aの組み付け時に内筒部材7を挿通させるための開口である。ここで、配向部材11Aの底板ガイド部111は、フィルタ6の内径に略対応する大きさを有している。また、配向部材11Aの側板ガイド部112は、底板ガイド部111の外側端部111Bに接続され、当該外側端部111Bから上方に向かって延在している。上記のように構成された配向部材11Aは、ハウジング1内に設置された状態において、底板ガイド部111が底板部32に沿って配置される。また、配向部材11Aの側板ガイド部112は、フィルタ6の内周面61に沿って配置されると共にその上端112Aがガス排出口1Aよりも低位置に設けられている。その他、ガス発生器100Aの第1燃焼室10Aには、第1ガス発生剤120Aの充填量に応じて、第1燃焼室10Aの容積を調整するための円盤状のリテーナ(図示せず)が嵌め込まれていても良い。
以上のように構成されるガス発生器100Aは、エアバッグ装置におけるセンサ(図示せず)が車両等の衝突に伴う衝撃を感知すると、例えば感知した衝撃が小さい場合には第1点火器4Aのみを作動させ、衝撃が大きい場合に第1点火器4A及び第2点火器4Bの双方を作動させる。第1点火器4A及び第2点火器4Bの双方を作動させるに当たり、第1点火器4A及び第2点火器4Bを同時に作動させる場合や、第1点火器4Aの作動に時間差を伴って第2点火器4Bを作動させる場合等がある。ここでは、先行して第1点火器4Aを作動させ、第1点火器4Aに後続して第2点火器4Bを作動させる場合の動作について説明する。
まず、第1点火器4Aが作動すると、点火薬の燃焼に伴って点火部41から火炎や高温ガス等が放出されることで伝火室8に充填された伝火薬110に着火し、伝火薬110が燃焼する。伝火室8に収容された伝火薬110が燃焼することで生成された火炎や燃焼ガスによって伝火室8内の温度及び内圧が急激に上昇し、そのエネルギーによって封止テープ144が開裂することで連通孔143が開放される。その結果、伝火薬110の燃焼ガスが連通孔143から第1燃焼室10Aに放出され、伝火薬110の燃焼ガスや火炎が第1ガス発生剤120Aと接触することでガス発生剤120が着火される。
次に、第2点火器4Bが作動すると、点火薬の燃焼に伴って第2点火器4Bの点火部41から火炎や高温ガス等が放出され、第2燃焼室10Bに充填されている第2ガス発生剤120Bに着火し、第2ガス発生剤120Bが燃焼する。第2ガス発生剤120Bの燃焼に伴って生成された高温の燃焼ガスによって第2燃焼室10B内の温度及び内圧が急激に上昇し、内筒部材7の連通孔71を覆う閉塞カバー部92が連通孔71を通じて第2燃焼室10B側から受ける圧力によって外側(第1燃焼室10A側)に向けて押圧される。その結果、閉塞カバー部92における脆弱部93が開裂する(図4、図8、図9等を参照)。その結果、閉塞カバー部92における内周面92Bと内筒部材7の周壁部73における外周面73Aとの間に隙間が形成され、内筒部材7の連通孔71が開放されると共に、第2ガス発生剤120Bの燃焼ガスを第1燃焼室10Aの底部領域に向けて排出するための通気路13が形成される。すなわち、内筒部材7の連通孔71を通じて第2燃焼室10Bから噴出する燃焼ガスは、通気路13(図9を参照)を通じて下方に向けてガイドされることにより、第1燃焼室10Aにおける底部領域(底板部32側)に向かって噴出する。また、第2ガス発生剤120Bの燃焼によって生成された燃焼ガスは、内筒部材7の下端に設けられた通気部78を通じて第1燃焼室10Aにおける底部領域へと直接的に排出される。これらによって、第1燃焼室10Aの底部領域に存在する未燃焼の第1ガス発生剤120Aを優先的に燃焼させることができる。
第1燃焼室10Aにおける底部領域には配向部材11Aが設けられており、配向部材11Aの底板ガイド部111が底板部32に沿って配置され、側板ガイド部112がフィルタ6の内周面61に沿って配置されている。これにより、内筒部材7の通気路13及び通気部78を通じてそれぞれ第1燃焼室10Aへと流入した第2ガス発生剤120Bの燃焼ガスや、第2ガス発生剤120Bの燃焼ガスとの接触によって着火、燃焼した第1ガス発生剤120Aの燃焼ガスを、その経路上に存在する未燃焼の第1ガス発生剤120Aを順次着火させながら底板ガイド部111の上面111C及び側板ガイド部112の内周面112Bに沿って流し、ガス排出口1Aが位置する上方へ向かってガイドすることができる。ここで、配向部材11Aの底板ガイド部111及び側板ガイド部112は一体に接続されているため、底板ガイド部111の上面111Cに沿ってガイドした燃焼ガスがフィルタ6の下部領域に直接流入することを抑制し、燃焼ガスを側板ガイド部112の内周面112Bに沿って上方へ向けてガイドすることができる。これにより、第1燃焼室10Aの上部領域に未燃焼の第1ガス発生剤120Aが多く残存した状態で、底板ガイド部111に沿ってガイドされた燃焼ガスがフィルタ6を通じてガス排出口1Aから排出されてしまうことを抑制できる。
以上のように、本実施形態に係るガス発生器100Aによれば、第2点火器4Bの作動時において、ハウジング1のガス排出口1Aから遠い位置に存在する第1燃焼室10の底部領域における第1ガス発生剤120Aを第2点火器4Bの作動初期に優先的に着火、燃焼させることができる。そして、第1燃焼室10Aの底部領域における第1ガス発生剤120Aから生成された燃焼ガスを底部領域から上方に向かって流すことで、燃焼ガスの経路周辺に存在する未燃焼の第1ガス発生剤120Aを順次着火させながら第1燃焼室10A全体における第1ガス発生剤120Aを円滑に効率良く燃焼させ、燃焼ガスを円滑かつ迅速にガス排出口1Aから排出することができる。これにより、第1燃焼室10A内における第1ガス発生剤120A全体の着火性能、燃焼性能を向上させることができる。また、本実施形態においても、内筒部材7の周壁部73に設けられる連通孔71を上側被覆領域R2に設けるようにした(図5を参照)。これにより、第2点火器4Bの作動時に通気路13を通過する燃焼ガスのガイド長さを十分に確保することができる。その結果、第2点火器4Bの作動時に内筒部材7の連通孔71から排出される燃焼ガス全体のうち、より多くの燃焼ガスを第1燃焼室10Aにおける底部領域に向かって下向きに整流しつつ排出することができる。これにより、第1燃焼室10A内における第1ガス発生剤120A全体の着火性能、燃焼性能を、より一層向上させることができる。
なお、本実施形態における内筒部材7や閉塞カバー部92においても、勿論、図11乃至図13で説明した各変形例を採用することができる。また、本実施形態においては、第2点火器4B側に内筒部材7及び閉塞カバー部92を適用する例を説明したが、第1点火器4A側に内筒部材7及び閉塞カバー部92を適用しても良い。例えば、第1点火器4Aの点火部41を囲むようにして配置されたエンハンサ室カップ部材14に代えて内筒部材7を配置し、当該内筒部材7にカバー体9を装着しても良い。勿論、第1点火器4A及び第2点火器4Bの双方に内筒部材7及びカバー体9を配置しても良い。
以上、本開示に係るガス発生器の実施形態及び変形例について説明したが、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。