JP7362199B2 - 車両用制御装置 - Google Patents

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Description

本発明は、走行のための駆動トルクを主駆動輪と副駆動輪とに配分するトルク配分システムを搭載した車両に用いられる制御装置に関する。
従来、四輪自動車などの車両の4WD(four-wheel-drive:四輪駆動)システムとして、アクティブトルクスプリット4WDシステムが広く知られている。アクティブトルクスプリット4WDシステムの一例では、通常時は、車両の走行のための駆動トルクが主駆動輪(たとえば、左右の前輪)に伝達される。車両の走行中にタイヤスリップが生じると、路面摩擦係数が推定されて、その推定された路面摩擦係数などからタイヤスリップが発生しないように、電子制御カップリングにより駆動トルクが主駆動輪と副駆動輪とに能動的に配分される。
図5は、アクティブトルクスプリット4WDシステムにおけるトルク配分について説明するための図である。
アクティブトルクスプリット4WDシステムでは、たとえば、車両に設けられているアクセルペダルの操作量であるアクセル開度が一定の状態で、主駆動輪のタイヤ回転数が副駆動輪のタイヤ回転数よりも一定以上大きくなると、主駆動輪にタイヤスリップが生じていると判定される(時刻T51)。
タイヤスリップが生じていると判定された場合、主駆動輪および副駆動輪の各駆動力などから路面摩擦係数が推定され、その推定された路面摩擦係数(推定路面μ)から主駆動輪および副駆動輪に配分するトルクが決定される。そして、電子制御カップリングの係合状態が制御されて、その決定されたトルクが主駆動輪および副駆動輪に伝達される。その結果、主駆動輪が受け持つトルクがタイヤスリップを生じないトルクに低下して、主駆動輪のタイヤがグリップを取り戻し(時刻T52)、主駆動輪での低下分のトルクを副駆動輪が受け持つことにより、アクセル開度に応じた加速度で車両が加速する。
特開平11-230867号公報
ところが、従来の制御では、主駆動輪にタイヤスリップが一時的に生じて、路面摩擦係数が推定された後、車両が路面摩擦係数の高い路面を走行しても、路面摩擦係数が更新されず、副駆動輪が不要に駆動されるという問題がある。副駆動輪の不要な駆動は、走行燃費の悪化を招く。
本発明の目的は、副駆動輪の不要な駆動を抑制できる、車両用制御装置を提供することである。
前記の目的を達成するため、本発明の一の局面に係る車両用制御装置は、走行のための駆動トルクを主駆動輪と副駆動輪とに配分するトルク配分システムを搭載した車両に用いられる制御装置であって、主駆動輪のタイヤスリップを検出するスリップ検出手段と、路面摩擦係数を推定する推定手段と、推定手段により推定された路面摩擦係数を記憶する記憶手段とを含み、推定手段は、検出手段によりタイヤスリップが検出されたことに応じて路面摩擦係数を推定し、スリップ検出手段によりタイヤスリップが検出されなくなった後、主駆動輪の駆動力が記憶手段に記憶されている路面摩擦係数から求まる主駆動輪と路面との間の摩擦力を上回っても、スリップ検出手段によりタイヤスリップが検出されない場合、推定する路面摩擦係数を駆動力に応じて高い側に更新する。
この構成によれば、主駆動輪のタイヤスリップが検出されると、路面摩擦係数が推定され、その推定された路面摩擦係数である推定路面μが記憶手段に記憶される。記憶手段に記憶されている推定路面μを使用して、主駆動輪が受け持つトルクがタイヤスリップを生じないトルクに低減するよう、駆動トルクの主駆動輪と副駆動輪とへの配分を決定すれば、主駆動輪のタイヤがグリップを取り戻すことができる。
車両の走行路面が摩擦係数の低い路面から摩擦係数の高い路面に変わった場合、主駆動輪がタイヤスリップを生じたときの推定路面μは、現在の路面の実際の摩擦係数よりも低い。そのため、主駆動輪の駆動力がタイヤスリップを生じたときの推定路面μと主駆動輪の輪重(タイヤ軸にかかる荷重)とを乗じて求まる推定摩擦力を上回っても、主駆動輪のタイヤスリップが生じないことがある。それを考えると、主駆動輪の駆動力が推定摩擦力を上回る状況で主駆動輪のタイヤスリップが生じない場合、推定摩擦力が実際よりも低い、つまり推定路面μが実際の路面摩擦係数よりも低いと想定される。
そこで、主駆動輪のタイヤスリップが検出されなくなった後、主駆動輪の駆動力が記憶手段に記憶されている推定路面μから求まる摩擦力を上回っても、主駆動輪のタイヤスリップが検出されない場合、推定手段により推定される路面摩擦係数が駆動力に応じて高い側に更新される。これにより、車両の走行路面が摩擦係数の低い路面から摩擦係数の高い路面に変わった後、つまり主駆動輪のタイヤスリップが生じにくい状況になった後もなお副駆動輪が不要に駆動されるという無駄をなくすことができ、車両の走行燃費を向上させることができる。
本発明の他の局面に係る車両用制御装置は、走行のための駆動トルクを主駆動輪と副駆動輪とに配分するトルク配分システムを搭載した車両に用いられる制御装置であって、主駆動輪のタイヤスリップを検出するスリップ検出手段と、路面摩擦係数を推定する推定手段と、路面摩擦係数が低下しやすい状況を検出する状況検出手段と、推定手段により推定された路面摩擦係数を記憶する記憶手段とを含み、推定手段は、スリップ検出手段によりタイヤスリップが検出されたことに応じて路面摩擦係数を推定し、スリップ検出手段によりタイヤスリップが検出されなくなった後、推定する路面摩擦係数を状況検出手段の検出結果に応じて高い側に更新する。
この構成によれば、主駆動輪のタイヤスリップが検出されると、路面摩擦係数が推定され、その推定された路面摩擦係数である推定路面μが記憶手段に記憶される。記憶手段に記憶されている推定路面μを使用して、主駆動輪が受け持つトルクがタイヤスリップを生じないトルクに低減するよう、駆動トルクの主駆動輪と副駆動輪とへの配分を決定すれば、主駆動輪のタイヤがグリップを取り戻すことができる。
路面摩擦係数が低下しやすい状況、たとえば、気温が低い状況や路面が雨で濡れている状況では、路面摩擦係数が低い可能性が高く、路面摩擦係数が低下しにくい状況、たとえば、気温が高い状況や路面が乾いている状況では、路面摩擦係数が高い可能性が高い。
そこで、主駆動輪のタイヤスリップが検出されなくなった後、路面摩擦係数が低下しやすい状況が検出され、推定手段による推定される路面摩擦係数がその検出結果に応じて高い側に更新される。これにより、主駆動輪のタイヤスリップが生じにくい状況になった後もなお副駆動輪が不要に駆動されるという無駄をなくすことができ、車両の走行燃費を向上させることができる。
本発明によれば、副駆動輪の不要な駆動を抑制することができ、副駆動輪の不要な駆動による車両の走行燃費の低下を抑制することができる。
本発明の実施形態に係るECUが搭載された車両の平面図である。 ECUの機能的な構成を示すブロック図である。 アクセル開度、タイヤ回転数、スリップ判定結果、主駆動輪の駆動力および推定路面μの時間変化の一例を示す図である。 他の実施形態におけるアクセル開度、タイヤ回転数、スリップ判定結果および推定路面μの時間変化の一例を示す図である。 アクティブトルクスプリット4WDシステムにおけるトルク配分について説明するための図である。
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
<アクティブトルクスプリット4WDシステム>
図1は、本発明の実施形態に係るECU31が搭載された車両1の平面図である。
車両1は、アクティブトルクスプリット4WDシステムを採用している。車両1には、エンジン2、トランスミッション3、フロントデファレンシャルギヤ4、トランスファ5、プロペラシャフト6およびリヤデファレンシャルギヤ7が含まれる。
エンジン2は、車両1の前後方向に対してクランクシャフトが横向きになるように、つまりクランクシャフトが車幅方向に延びるように、車両1の前部に横置きで搭載(マウント)されている。
トランスミッション3は、たとえば、ラビニヨ型の遊星歯車機構を備える有段式の自動変速機(AT:Automatic Transmission)であってもよいし、ベルト式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)であってもよい。
フロントデファレンシャルギヤ4のデフケース11には、リングギヤ12が固定されている。リングギヤ12には、エンジン2の回転がトランスミッション3で変速されて入力される。リングギヤ12に入力される回転により、デフケース11がリングギヤ12と一体に回転する。そして、デフケース11の回転がピニオンギヤ13を介して各サイドギヤ14の回転に変換されて、各サイドギヤと一体に左右のフロントドライブシャフト15L,15Rが回転し、フロントドライブシャフト15L,15Rの回転がそれぞれ主駆動輪である前輪16L,16Rに伝達される。
トランスファ5は、たとえば、フロントデファレンシャルギヤ4のデフケース11と一体に回転する第1かさ歯車17と、この第1かさ歯車17と噛合する第2かさ歯車18とを含む。第2かさ歯車18の中心には、車両1の前後方向に延びるプロペラシャフト6の前端が接続されている。
プロペラシャフト6は、フロント側部分6Fとリヤ側部分6Rとに分割して構成されており、フロント側部分6Fとリヤ側部分6Rとの間には、電子制御カップリング21が介装されている。電子制御カップリング21には、入力側クラッチプレートと出力側クラッチプレートを交互に複数配置した多板摩擦クラッチを有する公知のものが採用されている。
プロペラシャフト6の後端は、リヤデファレンシャルギヤ7のドライブピニオンシャフトに連結されている。プロペラシャフト6からリヤデファレンシャルギヤ7に伝達されるトルクにより、リヤドライブシャフト22L,22Rが回転し、リヤドライブシャフト22L,22Rの回転がそれぞれ副駆動輪である後輪23L,23Rに伝達される。
また、車両1には、マイコン(マイクロコントローラユニット)を含む構成のECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)31が備えられている。
前輪16L,16Rおよび後輪23L,23Rのそれぞれに対応して、各タイヤの回転に同期したパルス信号を検出信号として出力するタイヤ回転センサ32が設けられている。ECU31には、各タイヤ回転センサ32が接続されている。また、ECU31には、エンジン2の回転(クランクシャフトの回転)に同期したパルス信号を検出信号として出力するエンジン回転センサ33と、車両1に設けられたアクセルペダルの操作量に応じた検出信号を出力するアクセルセンサ34とが接続されている。
ECU31には、その他にも、制御に必要な各種センサが接続されている。各種センサには、たとえば、車両1の前後方向の加速度に応じた検出信号を出力する前後Gセンサ35、車両1の左右方向(横方向)の加速度に応じた検出信号を出力する横Gセンサ36などが含まれる。
ECU31は、各タイヤ回転センサ32の検出信号から前輪16L,16Rおよび後輪23L,23Rの各タイヤ回転数を求める。ECU31は、エンジン回転センサ33の検出信号からエンジン2の回転数であるエンジン回転数を求め、アクセルセンサ34の検出信号からアクセル開度を求める。アクセル開度は、アクセルペダルの操作量であり、たとえば、アクセルペダルが最大まで踏み込まれたときを100%とする百分率である。また、ECU31は、前後Gセンサ35の検出信号から車両1の前後方向の加速度を求め、横Gセンサ36の検出信号から車両1の横方向の加速度を求める。そして、ECU31は、各種センサから入力される検出信号から求めた数値などに基づいて、電子制御カップリング21を制御する。
なお、図1には、1つのECU31のみが示されているが、車両1には、各部を制御するため、ECU31と同様の構成を有する複数のECUが搭載されている。ECU31を含む複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。
また、図1には、ECU31による制御に必要な各種センサの一部のみが示されている。
<機能処理部>
図2は、ECU31の機能的な構成を示すブロック図である。
ECU31は、スリップ検出(判定)部311、路面摩擦係数推定部312、路面摩擦係数記憶部313、トルク配分決定部314およびカップリング制御部315を実質的に備えている。これらの機能部は、プログラム処理によってソフトウエア的に実現されてもよいし、論理回路などのハードウェアにより実現されてもよいし、それらの組合せにより実現されてもよい。
スリップ検出部311、路面摩擦係数推定部312、路面摩擦係数記憶部313、トルク配分決定部314およびカップリング制御部315は、一定の周期で以下に説明する動作を繰り返す。
スリップ検出部311は、主駆動輪である前輪16L,16Rのタイヤスリップを検出する。具体的には、スリップ検出部311は、左前輪16Lの回転数と左後輪23Lの回転数とを比較し、それらの差回転(回転数の差)が第1閾値以上である場合、左前輪16Lにタイヤスリップが生じていると判定し、差回転が第2閾値未満である場合、左前輪16Lのタイヤスリップが生じていないと判定する。また、スリップ検出部311は、右前輪16Rの回転数と右後輪23Rの回転数とを比較し、それらの差回転が第1閾値以上である場合、右前輪16Rにタイヤスリップが生じていると判定し、差回転が第2閾値未満である場合、右前輪16Rのタイヤスリップが生じていないと判定する。
なお、第1閾値と第2閾値とは、同じ値であってもよいし、異なる値であってもよい。また、左前輪16Lの回転数と左右の後輪23R,23Lの回転数の平均値との比較により、左前輪16Lにタイヤスリップが生じているか否かが判定されてもよい。同様に、右前輪16Rの回転数と左右の後輪23R,23Lの回転数の平均値との比較により、右前輪16Rにタイヤスリップが生じているか否かが判定されてもよい。
スリップ検出部311は、左前輪16Lまたは右前輪16Rの少なくとも一方のタイヤスリップを検出すると、ECU31の内蔵メモリに設けられるスリップ判定フラグに「1」をセットする(図5の時刻T51)。一方、スリップ検出部311は、左前輪16Lおよび右前輪16Rの両方のタイヤスリップを検出しなくなると、言い換えれば、左前輪16Lおよび右前輪16Rの両方にタイヤスリップが生じていないと判定すると、スリップ判定フラグを「0」にリセットする(図5の時刻T52)。
路面摩擦係数推定部312は、公知の手法により、前輪16L,16Rおよび後輪23L,23Rの各回転数から路面摩擦係数(路面μ)を推定する。
路面摩擦係数記憶部313は、路面摩擦係数推定部312によって路面μが推定されると、その推定された路面μ(推定路面μ)を記憶する。
トルク配分決定部314は、路面摩擦係数記憶部313に記憶されている推定路面μを使用して、駆動トルクの前輪16L,16Rおよび後輪23L,23Rへの配分を決定する。すなわち、トルク配分決定部314は、推定路面μから前輪16L,16Rがタイヤスリップを生じずに受け持つことができるトルクを求める。そして、そのトルクを前輪16L,16Rに配分されるトルクに決定し、車両1の走行のための駆動トルクから前輪16L,16Rに配分されるトルクを差し引き、その差し引いた残余のトルクを後輪23L,23Rに配分されるトルクに決定する。
カップリング制御部315は、トルク配分決定部314によって決定された配分に従って、駆動トルクが前輪16L,16Rと後輪23L,23Rとに配分されるように、電子制御カップリング21の係合状態を制御する。
図3は、アクセル開度、タイヤ回転数、スリップ判定結果、前輪16L,16Rの駆動力および推定路面μの時間変化の一例を示す図である。
スリップ検出部311により、左前輪16Lまたは右前輪16Rの少なくとも一方のタイヤスリップが検出されて、スリップ判定フラグに「1」がセットされると、路面摩擦係数推定部312により、路面μが推定される(図5の時刻T51)。そして、その推定された路面μである推定路面μが路面摩擦係数記憶部313に記憶され、また、トルク配分決定部314により、路面摩擦係数記憶部313に記憶された推定路面μを使用して、駆動トルクの前輪16L,16Rおよび後輪23L,23Rへの配分が決定される。その後、カップリング制御部315により、電子制御カップリング21の係合状態が制御されて、その決定された配分に従ったトルクが前輪16L,16Rおよび後輪23L,23Rに伝達される。その結果、前輪16L,16Rが受け持つトルクがタイヤスリップを生じないトルクに低下して、前輪16L,16Rのタイヤがグリップを取り戻し、前輪16L,16Rでの低下分のトルクを後輪23L,23Rが受け持つことにより、アクセル開度に応じた加速度で車両1が加速する。前輪16L,16Rのタイヤがグリップを取り戻すと、スリップ検出部311により、前輪16L,16Rの両方にタイヤスリップが生じていないと判定されて、スリップ判定フラグが「0」にリセットされる(図5の時刻T52)。
その後、アクセルペダルが踏まれると(図3の時刻T31)、前輪16L,16Rの駆動力が上昇し、それに伴って、前輪16L,16Rのタイヤ回転数が上昇する。また、路面摩擦係数推定部312により、前輪16L,16Rの駆動力が求められる。
具体的には、前輪16L,16Rの駆動力を求めるため、駆動トルクが算出される。駆動トルクの算出では、エンジントルクが求められる。エンジントルクは、たとえば、エンジン回転数およびスロットル開度とエンジントルクとの関係を示すエンジントルク特性線から求めることができる。また、トランスミッション3の変速比が求められる。たとえば、トランスミッション3がベルト式の無段変速機である場合、プライマリプーリおよびセカンダリプーリの各回転数を回転センサの検出信号から求めて、その求めた各回転数を用いた演算により、変速比を求めることができる。エンジントルクおよび変速比などを用いた演算により、エンジン2からトランスミッション3を介してフロントデファレンシャルギヤ4に入力される駆動トルクが算出される。そして、駆動トルクの前輪16L,16Rおよび後輪23L,23Rへの配分から、前輪16L,16Rが受け持つトルクが算出され、そのトルクを前輪16L,16Rのタイヤ半径で除することにより、前輪16L,16Rの駆動力が算出される。
一方、路面摩擦係数推定部312により、路面摩擦係数記憶部313に記憶されている推定路面μと前輪16L,16Rの輪重(タイヤ軸にかかる荷重)とが乗算されて、前輪16L,16Rのタイヤと路面との間に発生する摩擦力が求められる。このとき、路面摩擦係数記憶部313に記憶されている推定路面μは、前輪16L,16Rのタイヤスリップが生じたときに推定されたものであり、現在の路面の摩擦係数ではなく、この推定路面μから求められる摩擦力は、推定値である。したがって、車両1の走行路面が摩擦係数の低い路面から摩擦係数の高い路面に変わっていれば、前輪16L,16Rの駆動力がタイヤスリップを生じたときの推定路面μと前輪16L,16Rの輪重との乗算により求まる推定摩擦力を上回っても、前輪16L,16Rのタイヤスリップが生じないことがある。
そこで、前輪16L,16Rの駆動力が推定摩擦力を上回っても、スリップ検出部311により前輪16L,16Rのタイヤスリップが検出されない場合、路面摩擦係数推定部312による推定路面μが前輪16L,16Rの駆動力に応じて高い側に更新される(時間T32-T33)。そして、その更新された推定路面μが路面摩擦係数記憶部313に記憶されると、トルク配分決定部314により、路面摩擦係数記憶部313に新たに記憶された推定路面μを使用して、駆動トルクの前輪16L,16Rおよび後輪23L,23Rへの配分が新たに決定される。
<作用効果>
前輪16L,16Rのタイヤスリップが検出されなくなった後、前輪16L,16Rの駆動力が路面摩擦係数記憶部313に記憶されている推定路面μから求まる推定摩擦力を上回っても、前輪16L,16Rのタイヤスリップが検出されない場合、推定路面μが駆動力に応じて高い側に更新される。これにより、車両1の走行路面が摩擦係数の低い路面から摩擦係数の高い路面に変わった後、つまり前輪16L,16Rのタイヤスリップが生じにくい状況になった後もなお後輪23L,23Rが不要に駆動されるという無駄をなくすことができ、車両1の走行燃費を向上させることができる。
<他の実施形態>
図4は、他の実施形態におけるアクセル開度、タイヤ回転数、スリップ判定結果および推定路面μの時間変化の一例を示す図である。
前述の実施形態では、前輪16L,16Rの駆動力が推定摩擦力を上回っても、スリップ検出部311により前輪16L,16Rのタイヤスリップが検出されない場合、路面摩擦係数推定部312による推定路面μが高い側に更新されるとした。これに限らず、図4に示されるように、駆動トルクの前輪16L,16Rおよび後輪23L,23Rへの配分により、前輪16L,16Rのタイヤがグリップを取り戻し、スリップ検出部311により、前輪16L,16Rの両方にタイヤスリップが生じていないと判定されると(時刻T41)、路面摩擦係数推定部312による推定路面μが徐々に高い側に更新されてもよい。
たとえば、図2に仮想線で示されるように、車両1の外部の気温(外気温)を検出する外気温センサ37が車両1に設けられて、その外気温センサ37により検出される外気温が予め定める温度よりも低いときには、路面摩擦係数が低い可能性が高いので、推定路面μが第1時間変化率で高い側に更新され、外気温が予め定める温度以上であるときには、路面摩擦係数が高い可能性が高いので、推定路面μが第1時間変化率よりも大きい第2時間変化率で高い側に更新されてもよい。なお、車両1の停止中は、路面状況が変わらないので、推定路面μは更新されない。
<作用効果>
かかる処理によっても、車両1の走行路面が摩擦係数の低い路面から摩擦係数の高い路面に変わった後、つまり前輪16L,16Rのタイヤスリップが生じにくい状況になった後もなお後輪23L,23Rが不要に駆動されるという無駄をなくすことができ、車両1の走行燃費を向上させることができる。
<変形例>
以上、本発明の2つの実施形態について説明したが、本発明は、さらに他の形態で実施することもできる。
たとえば、外気温が相対的に低いときには、路面摩擦係数が低い可能性が高いので、推定路面μが第1時間変化率で高い側に更新され、外気温が相対的に高いときには、路面摩擦係数が高い可能性が高いので、推定路面μが第1時間変化率よりも大きい第2時間変化率で高い側に更新されるとした。しかしながら、外気温が低い状況に限らず、路面が雨で濡れている状況においても、路面摩擦係数が低い可能性が高く、路面が乾いている状況では、路面摩擦係数が高い可能性が高い。そこで、車両1のワイパの作動中または雨滴センサによる雨滴の検出中は、推定路面μが第1時間変化率で高い側に更新され、ワイパの非作動中または雨滴センサによる雨滴の非検出中は、推定路面μが第1時間変化率よりも大きい第2時間変化率で高い側に更新されてもよい。
また、前述の実施形態では、動力の非分配時に動力が伝達される主駆動輪が前輪16L,16Rである構成を取り上げたが、本発明に係る車両用制御装置は、動力の非分配時に動力が伝達される主駆動輪が後輪23L,23Rである構成の車両に用いることもできる。
トランスミッション3は、動力分割式無段変速機であってもよい。動力分割式無段変速機は、たとえば、変速比の変更により動力を無段階に変速するベルト式の無段変速機構を備え、インプット軸とアウトプット軸との間で動力を2つの経路に分岐して伝達可能な変速機である。
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
1:車両
16L,16R:前輪(主駆動輪)
23L,23R:後輪(副駆動輪)
31:ECU(制御装置)
37:外気温センサ(状況検出手段)
311:スリップ検出部(スリップ検出手段)
312:路面摩擦係数推定部(推定手段)
313:路面摩擦係数記憶部(記憶手段)

Claims (1)

  1. 走行のための駆動トルクを主駆動輪と副駆動輪とに配分するトルク配分システムを搭載した車両に用いられる制御装置であって、
    前記主駆動輪のタイヤスリップを検出するスリップ検出手段と、
    路面摩擦係数を推定する推定手段と、
    路面摩擦係数が低下しやすい状況を検出する状況検出手段と、
    前記推定手段により推定された路面摩擦係数を記憶する記憶手段と、
    前記記憶手段に記憶されている路面摩擦係数を使用して、前記駆動トルクの前記主駆動輪および前記副駆動輪への配分を決定する配分決定手段とを含み、
    前記推定手段は、前記スリップ検出手段によりタイヤスリップが検出されたことに応じて路面摩擦係数を推定し、前記配分決定手段により決定された配分に従ったトルクが前記主駆動輪および前記副駆動輪に伝達されて、前記主駆動輪が受け持つトルクがタイヤスリップを生じないトルクに低下して、前記スリップ検出手段によりタイヤスリップが検出されなくなった後、推定する路面摩擦係数を前記状況検出手段の検出結果に応じて高い側に更新するものであって、前記状況検出手段の検出結果から、外気温が予め定める温度よりも低い状況または路面が雨で濡れている状況では、推定する路面摩擦係数を第1時間変化率で高い側に更新し、外気温が前記予め定める温度以上である状況または路面が乾いている状況では、推定する路面摩擦係数を前記第1時間変化率よりも大きい第2時間変化率で高い側に更新する、車両用制御装置。
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