実施の形態1.
<電動機の構成>
図1は、実施の形態1の電動機100を示す断面図である。電動機100は、3相同期電動機であり、例えば、後述する圧縮機300(図22)に用いられる。また、電動機100は、回転子5に永久磁石55を埋め込んだ永久磁石埋込型の電動機である。
電動機100は、固定子1と、固定子1の内側に回転可能に設けられた回転子5とを有する。固定子1と回転子5との間には、エアギャップが設けられている。
回転子5は、円筒状の回転子鉄心50と、回転子鉄心50に取り付けられた永久磁石55とを有する。回転子鉄心50は、例えば厚さ0.1~0.7mmの複数枚の電磁鋼板を回転軸の方向に積層し、カシメ等により固定したものである。
回転子鉄心50の径方向の中心には、円形のシャフト孔53が形成されている。シャフト孔53には、回転軸であるシャフト56が圧入により固定されている。シャフト56の中心軸である軸線C1は、回転子5の回転軸をなしている。
以下では、シャフト56の軸線C1の方向を、「軸方向」と称する。軸線C1を中心とする周方向(図1等に矢印R1で示す)を、「周方向」と称する。軸線C1を中心とする径方向を、「径方向」と称する。
回転子鉄心50の外周に沿って、複数の磁石挿入孔51が周方向に等間隔に形成されている。磁石挿入孔51の数は、ここでは6個である。磁石挿入孔51は、回転子鉄心50の軸方向の一端から他端まで形成されている。また、磁石挿入孔51は、回転子鉄心50の外周面に沿って、直線状に延在している。
磁石挿入孔51の内部には、永久磁石55が配置されている。永久磁石55は平板状であり、軸方向に直交する面において矩形状の断面を有し、径方向に厚さを有する。1つの磁石挿入孔51には、1つの永久磁石55が配置されている。但し、1つの磁石挿入孔51に、複数の永久磁石55を配置してもよい。
1つの磁石挿入孔51は、回転子5の1磁極に相当する。磁石挿入孔51の周方向の中心は、極中心となる。磁石挿入孔51は、極中心を通る径方向の直線(磁極中心線とも称する)に直交する方向に延在している。隣り合う磁石挿入孔51の間は、極間である。
回転子鉄心50における磁石挿入孔51の数は、回転子5の極数に相当する。回転子5の極数は、6N(Nは1以上の整数)である。ここではN=1であり、回転子5の極数は6極である。
永久磁石55は、ネオジウム(Nd)、鉄(Fe)およびボロン(B)を含む希土類焼結磁石で構成される。但し、永久磁石55は、希土類磁石に限らず、例えばフェライト磁石であってもよい。
永久磁石55は、径方向外側と径方向内側とが反対の磁極を有するように着磁されている。周方向に隣り合う永久磁石55は、互いに反対の磁極を外周側に向けている。
磁石挿入孔51の周方向の両側には、フラックスバリア52がそれぞれ形成されている。フラックスバリア52は、隣り合う磁極間の漏れ磁束を抑制するための空隙である。
<固定子の構成>
固定子1は、固定子鉄心10と、固定子鉄心10に分布巻で巻かれたコイル2とを有する。固定子鉄心10は、例えば厚さ0.1~0.7mmの複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層し、カシメ等により固定したものである。
固定子鉄心10は、環状のヨーク部11と、ヨーク部11から径方向内側に延在する複数のティース12とを有する。周方向に隣り合うティース12の間に、スロット13が形成される。スロット13は、ティース12に巻かれるコイル2を収容する部分である。
固定子鉄心10のスロット13の数は、スロット数とも称する。スロット数は、18N(Nは1以上の整数)である。ここではN=1であり、スロット数は18である。ティース12の数は、スロット数と同じである。
スロット13とコイル2との間には、固定子鉄心10とコイル2とを互いに絶縁するための図示しない絶縁部が設けられている。
コイル2は、第1のコイルとしてのU相コイル2Uと、第3のコイルとしてのV相コイル2Vと、第2のコイルとしてのW相コイル2Wとを有する。
U相コイル2Uは、周方向に、6個のコイル部U1,U2,U3,U4,U5,U6を有する。V相コイル2Vは、周方向に、6個のコイル部V1,V2,V3,V4,V5,V6を有する。W相コイル2Wは、周方向に、6個のコイル部W1,W2,W3,W4,W5,W6を有する。
なお、「コイル部」とは、スロット13に挿入される2つのコイルサイド(例えば、後述するコイルサイドU11,U12)と、固定子鉄心10の軸方向端面に位置する2つのコイルエンドとを有する部分を言う。
固定子1の極数は、コイル2U,2V,2Wのそれぞれが生成する磁界の数である。より具体的には、固定子1の極数は、U相コイル2U、V相コイル2VおよびW相コイル2Wのそれぞれにおけるコイル部の数に相当する。
固定子1の極数は、6N(Nは1以上の自然数)である。ここではN=1であり、固定子1の極数は6極である。なお、同期電動機の場合には、固定子1の極数と、回転子5の極数が同じである。
各相のコイル2U,2V,2Wの合計18のコイル部は、図1における時計回りに、コイル部U1,W1,V1,U2,W2,V2,U3,W3,V3,U4,W4,V4,U5,W5,V5,U6,W6,V6の順に配列されている。
固定子鉄心10の各スロット13には、相の異なるコイル部が2つずつ配置されている。各スロット13内では、径方向外側と径方向内側に、2つのコイル部が配置されている。スロット13内の径方向外側は、「外層」とも称する。スロット13内の径方向内側は、「内層」とも称する。
U相コイル2U(第1のコイル)のコイル部U1,U2,U3,U4,U5,U6のうち、コイル部U1,U3,U5はスロット13の外層に配置され、コイル部U2,U4,U6はスロット13の内層に配置される。そのため、コイル部U1,U3,U5は外層コイル部と称し、コイル部U2,U4,U6は内層コイル部と称する。
W相コイル2W(第2のコイル)のコイル部W1,W2,W3,W4,W5,W6のうち、コイル部W1,W3,W5はスロット13の外層に配置され、コイル部W2,W4,W6はスロット13の内層に配置される。そのため、コイル部W1,W3,W5は外層コイル部と称し、コイル部W2,W4,W6は内層コイル部と称する。
一方、V相コイル2V(第3のコイル)のコイル部V1,V2,V3,V4,V5,V6は、いずれも、一方のコイルサイド(例えば、後述するコイルサイドV11)がスロット13の外層に配置され、他方のコイルサイド(例えば、後述するコイルサイドV12)がスロット13の内層に配置される。
コイル部U1~U6、コイル部V1~V6、およびコイル部W1~W6は、いずれも、2スロットピッチでスロット13に挿入される。
コイル部を2スロットピッチでスロット13に挿入するとは、コイル部を、あるスロット13と、そのスロット13から周方向に1スロットあけて隣接するスロット13(すなわち周方向に2つ目のスロット)に挿入することを言う。言い換えると、コイル部を、周方向に隣り合う2つのティース12を跨いで両側の2つのスロット13に挿入することを言う。
図2は、コイル2U,2V,2Wの配置を説明するための電動機100の断面図である。コイル部U1は、コイルサイドU11,U12を有し、コイル部U2はコイルサイドU21,U22を有し、コイル部U3はコイルサイドU31,U32を有する。コイル部U4はコイルサイドU41,U42を有し、コイル部U5はコイルサイドU51,U52を有し、コイル部U6はコイルサイドU61,U62を有する。
コイル部V1は、コイルサイドV11,V12を有し、コイル部V2はコイルサイドV21,V22を有し、コイル部V3はコイルサイドV31,V32を有する。コイル部V4はコイルサイドV41,V42を有し、コイル部V5はコイルサイドV51,V52を有し、コイル部V6はコイルサイドV61,V62を有する。
コイル部W1は、コイルサイドW11,W12を有し、コイル部W2はコイルサイドW21,W22を有し、コイル部W3はコイルサイドW31,W32を有する。コイル部W4はコイルサイドW41,W42を有し、コイル部W5はコイルサイドW51,W52を有し、コイル部W6はコイルサイドW61,W62を有する。
符号の末尾が「1」のコイルサイド(例えばコイルサイドU11,V31,W51等)には、同一方向に電流が流れる。符号の末尾が2のコイルサイド(例えばコイルサイドU12,V32,W52等)には、逆方向に電流が流れる。
固定子鉄心10のいずれのスロット13にも、相の異なる2つのコイルサイド(例えば、コイルサイドU11とコイルサイドV12)が、外層と内層に配置される。
コイル部U1,U3,U5(外層コイル)のコイルサイドU11,U12,U31,U32,U51,U52は、いずれも、スロット13の外層に配置されている。コイル部U2,U4,U6(内層コイル)のコイルサイドU21,U22,U41,U42,U61,U62は、いずれも、スロット13の内層に配置されている。
コイル部W1,W3,W5(外層コイル)のコイルサイドW11,W12,W31,W32,W51,W52は、いずれも、スロット13の外層に配置されている。コイル部W2,W4,W6(内層コイル)のコイルサイドW21,W22,W41,W42,W61,W62は、いずれも、スロット13の内層に配置されている。
一方、コイル部V1~V6のコイルサイドV11,V21,V31,V41,V51,V61は、いずれも、スロット13の外層に配置されている。コイル部V1~V6のコイルサイドV12,V22,V32,V42,V52,V62は、いずれも、スロット13の内層に配置されている。
例えば、コイル部V1のコイルサイドV12は、同じコイル部V1のコイルサイドV11が外層に配置されたスロット13に対し、周方向に1スロットあけて隣接するスロット13の内層に配置されている。コイル部V2~V6も、コイル部V1と同様である。
なお、コイル部V1~V6のコイルサイドV11,V21,V31,V41,V51,V61では、周方向に隣り合う2つのコイルサイド(例えばコイルサイドV11,V21)が、周方向に隣り合う2つのスロット13のそれぞれ外層に配置されている。
また、コイル部V1~V6のコイルサイドV12,V22,V32,V42,V52,V62では、周方向に隣り合う2つのコイルサイド(例えばコイルサイドV12,V62)が、周方向に隣り合う2つのスロット13のそれぞれ内層に配置されている。
コイル部U1,U3,U5およびコイル部V1,V3,V5は、いずれも、軸線C1側から見て、反時計回りに電流が流れるように各コイルサイドが配置されている。一方、コイル部W1,W3,W5は、いずれも、軸線C1側から見て、時計回りに電流が流れるように各コイルサイドが配置されている。
コイル部U2,U4,U6およびコイル部V2,V4,V6は、いずれも、軸線C1側から見て、時計回りに電流が流れるように各コイルサイドが配置されている。一方、コイル部W2,W4,W6は、いずれも、軸線C1側から見て、反時計回りに電流が流れるように各コイルサイドが配置されている。
図3は、コイル部U1~U6の各コイルサイド,コイル部V1~V6の各コイルサイド、およびコイル部W1~W6の各コイルサイドの配置を、固定子鉄心10を直線状に展開して示す模式図である。図3では、固定子鉄心10の軸方向一端面におけるコイルエンドを、符号Eで示す。固定子鉄心10の他端面にも、同様のコイルエンドEが配置されている。
コイル部U1のコイルエンドEは、コイルサイドU11,U12を互いに連結し、コイル部U2のコイルエンドEは、コイルサイドU21,U22を互いに連結し、コイル部U3のコイルエンドEは、コイルサイドU31,U32を互いに連結する。同様に、コイル部U4のコイルエンドEは、コイルサイドU41,U42を互いに連結し、コイル部U5のコイルエンドEは、コイルサイドU51,U52を互いに連結し、コイル部U6のコイルエンドEは、コイルサイドU61,U62を互いに連結する。
コイル部V1~V6およびコイル部W1~W6においても、コイル部U1~U6と同様に、各コイル部のコイルエンドEが、2つのコイルサイドを互いに連結する。
図4は、固定子1におけるコイル部U1~W6の結線状態を示す模式図である。電動機100には、インバータから駆動電圧が供給される。インバータのU相、V相およびW相の出力端子を、符号80U,80V,80Wで示す。
コイル部U1は、渡り線U101によりコイル部U3に接続され、さらに渡り線U103によりコイル部U5に接続されている。すなわち、コイル部U1,U3,U5は、直列に接続されている。コイル部U1は、配線部81により出力端子80Uに接続され、コイル部U5は、中性点87に接続されている。
コイル部U2は、渡り線U102によりコイル部U4に接続され、さらに渡り線U104によりコイル部U6に接続されている。すなわち、コイル部U2,U4,U6は、直列に接続されている。コイル部U2は、中性点88に接続され、コイル部U6は、配線部84により出力端子80Uに接続されている。
コイル部V1は、渡り線V101によりコイル部V3に接続され、さらに渡り線V103によりコイル部V5に接続されている。すなわち、コイル部V1,V3,V5は、直列に接続されている。コイル部V1は、配線部82により出力端子80Vに接続され、コイル部V5は、中性点87に接続されている。
コイル部V2は、渡り線V102によりコイル部V4に接続され、さらに渡り線V104によりコイル部V6に接続されている。すなわち、コイル部V2,V4,V6は、直列に接続されている。コイル部V2は、中性点88に接続され、コイル部V6は、配線部85により出力端子80Vに接続されている。
コイル部W1は、渡り線W101によりコイル部W3に接続され、さらに渡り線W103によりコイル部W5に接続されている。すなわち、コイル部W1,W3,W5は、直列に接続されている。コイル部W1は、配線部86により出力端子80Wに接続され、コイル部W3は中性点88に接続されている。
コイル部W2は、渡り線W102によりコイル部W4に接続され、さらに渡り線W104によりコイル部W6に接続されている。すなわち、コイル部W2,W4,W6は、直列に接続されている。コイル部W2は、配線部83により出力端子80Wに接続され、コイル部W6は、中性点87に接続されている。
なお、渡り線U101~U104,V101~V104,W101~W104、配線部81~86および中性点87,88は、図4では固定子鉄心10の径方向外側あるいは内側に示されているが、実際には固定子鉄心10の軸方向の一端側に配置され、樹脂等で覆われている。
図5は、図4に示したコイル部U1~W6の配線状態を示すブロック図である。出力端子80Uに接続されたコイル部U1,U3,U5と、出力端子80Vに接続されたコイル部V1,V3,V5と、出力端子80Wに接続されたコイル部W2,W4,W6とは、いずれも中性点87に接続されている。
すなわち、コイル部U1,U3,U5(外層コイル部)と、コイル部V1,V3,V5と、コイル部W2,W4,W6(内層コイル部)とがスター結線で結線され、スター結線部101を構成している。
また、出力端子80Uに接続されたコイル部U2,U4,U6と、出力端子80Vに接続されたコイル部V2,V4,V6と、出力端子80Wに接続されたコイル部W1,W3,W5とは、いずれも中性点88に接続されている。
すなわち、コイル部U2,U4,U6(内層コイル部)と、コイル部V2,V4,V6と、コイル部W1,W3,W5(外層コイル部)とがスター結線で結線され、スター結線部102を構成している。
スター結線部101とスター結線部102とは、並列に接続されている。但し、スター結線部101の中性点87とスター結線部102の中性点88とは、結線されていない。
ここではN=1の場合について説明しているが、実施の形態1の固定子1では、スロット数が18N、極数が6Nであり、コイル2U,2V,2Wはいずれも6N個のコイル部を有する。そのため、Nを用いて表すと、コイル2U,2V,2Wの結線状態は、以下のように表現することができる。
すなわち、U相コイル2Uの3N個の外層コイル部と、V相コイル2Vの3N個のコイル部と、W相コイル2Wの3N個の内層コイルとにより、N個のスター結線部101が構成される。また、U相コイル2Uの3N個の内層コイル部と、V相コイル2Vの3N個のコイル部と、W相コイル2Wの3N個の外層コイルとにより、N個のスター結線部102が構成される。これにより、中性点が互いに結線されていない2N個のスター結線部101,102が構成される。
<スロット内絶縁フィルム>
図6は、固定子鉄心10、コイル部U1~U6,V1~V6,W1~W6、およびスロット内絶縁フィルム71を示す模式図である。上記の通り、固定子鉄心10の各スロット13には、相の異なる2つのコイルサイドが外層と内層に配置される。
そのため、各スロット13の内部には、外層と内層のコイルサイドの間に位置するように、スロット内絶縁フィルム71が配置されている。スロット内絶縁フィルム71は、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の絶縁性の樹脂で構成され、軸方向に長い帯状のフィルムである。
各スロット13内にスロット内絶縁フィルム71を配置することにより、相の異なるコイルサイドを互いに絶縁することができる。
<相間絶縁フィルム>
図7は、固定子鉄心10、コイル部U1~U6,V1~V6,W1~W6、および相間絶縁フィルム91~94を示す模式図である。固定子鉄心10の軸方向端面では、相の異なる2つのコイル部のコイルエンド(例えば、コイル部U1,W1のコイルエンド)が互いに隣接する。
そのため、固定子鉄心10の軸方向端面には、相の異なるコイル部のコイルエンドを絶縁するための相間絶縁フィルム91~94が配置されている。相間絶縁フィルム91~94は、いずれもPET等の絶縁性の樹脂で構成され、軸方向に幅を有する帯状のフィルムである。
相間絶縁フィルム91は、コイル部V1~V6の径方向外側に配置され、軸線C1を中心として360度以上延在している。相間絶縁フィルム91の長手方向の両端部91a,91bは、接着により互いに固定されている。相間絶縁フィルム91は、コイル部V1~V6と、コイル部U1,U3,U5およびコイル部W1,W3,W5とを互いに絶縁する。
相間絶縁フィルム92は、コイル部V1~V6の径方向内側に配置され、軸線C1を中心として360度以上延在している。相間絶縁フィルム92の長手方向の両端部92a,92bは、接着により互いに固定されている。相間絶縁フィルム92は、コイル部V1~V6と、コイル部U2,U4,U6およびコイル部W2,W4,W6とを互いに絶縁する。
3つの相間絶縁フィルム93は、コイル部U1,U3,U5の径方向内側にそれぞれ配置されている。相間絶縁フィルム93は、コイル部U1,W1を互いに絶縁し、コイル部U3,W3を互いに絶縁し、コイル部U5,W5を互いに絶縁する。
3つの相間絶縁フィルム94は、コイル部U2,U4,U6の径方向内側にそれぞれ配置されている。相間絶縁フィルム94は、コイル部U2,W2を互いに絶縁し、コイル部U4,W4を互いに絶縁し、コイル部U6,W6を互いに絶縁する。
なお、図7には、固定子鉄心10の軸方向の一端面に配置した相間絶縁フィルム91~94を示したが、固定子鉄心10の軸方向の他端面にも、同様の相間絶縁フィルム91~94が配置されている。
図7に示した相間絶縁フィルム91~94は、あくまでも一例である。相の異なるコイル部のコイルエンドを互いに絶縁できれば、相間絶縁フィルムの数および配置は特に限定されない。
このように構成した固定子1の短節巻係数Kp、毎極毎相スロット数q、分布巻係数Kdおよび巻線係数Kwは、以下の通りである。
短節巻係数Kpは、極数、スロット数およびスロットピッチに基づき、以下の式(1)で求められる。
Kp=sin{極数/(スロット数/スロットピッチ)×(π/2)} …(1)
実施の形態1では、極数は6、スロット数は18、スロットピッチは2であるため、短節巻係数Kpは、sin{6/(18/2)×π/2}=0.866となる。
毎極毎相スロット数qは、スロット数、極数および相数から、以下の式(2)で求められる。
q=スロット数/(極数×相数) …(2)
実施の形態1では、スロット数は18、極数は6、相数は3であるため、毎極毎相スロット数qは、18/(6×3)=1となる。
分布巻係数Kdは、毎極毎相スロット数qから、以下の式(3)で求められる。
Kd=sin(π/6)/(q×sin(π/6q)) …(3)
毎極毎相スロット数qは1であるため、分布巻係数Kdは1となる。
巻線係数Kwは、短節巻係数Kpと分布巻係数Kdとから、Kw=Kp×Kdで求められる。上記の通り、短節巻係数Kpは0.866であり、分布巻係数Kdは1であるため、巻線係数Kwは、0.866×1=0.866となる。
<固定子の製造方法>
次に、固定子1の製造方法について説明する。図8は、固定子1の製造工程を示すフローチャートである。図9(A)~(E)は、固定子1の製造工程のうち、コイル2の巻き付け工程を示す工程毎の平面図である。
まず、複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層し、カシメ等により固定することにより、固定子鉄心10を組み立てる(ステップS101)。
次に、U相コイル2Uのコイル部U1,U3,U5を、スロット13に挿入する(ステップS102)。ステップS102および以下のステップS103,S105,S107,S109で用いるインサータについては、後述する。
図9(A)に示すように、コイル部U1,U3,U5のコイルサイドU11,U12,U31,U32,U51,U52は、スロット13の外層に挿入される。
次に、W相コイル2Wのコイル部W1,W3,W5を、スロット13に挿入する(ステップS103)。図9(B)に示すように、コイル部W1,W3,W5のコイルサイドW11,W12,W31,W32,W51,W52は、コイルサイドU11,U12,U31,U32,U51,U52(図9(A))とは別のスロット13の外層に挿入される。
次に、コイル部U1,U3,U5,W1,W3,W5が挿入されたスロット13内に、図7を参照して説明したスロット内絶縁フィルム71を配置する(ステップS104)。
次に、V相コイル2Vのコイル部V1~V6を、スロット13に挿入する(ステップS105)。図9(C)に示すように、コイル部V1,V3,V5のコイルサイドV11,V31,V51は、スロット13の外層に挿入される。一方、コイルサイドV12,V32,V52は、コイルサイドU11,U31,U51(図9(A))が挿入されたスロット13の内層に挿入される。
また、コイル部V2,V4,V6のコイルサイドV21,V41,V61は、スロット13の外層に挿入される。一方、コイルサイドV22,V42,V62は、コイルサイドW31,W51,W11(図9(B))が挿入されたスロット13の内層に挿入される。
その後、コイル部V1~V6が挿入されたスロット13内に、図7を参照して説明したスロット内絶縁フィルム71を配置する(ステップS106)。
次に、U相コイル2Uのコイル部U2,U4,U6を、スロット13に挿入する(ステップS107)。図9(D)に示すように、コイル部U2,U4,U6のコイルサイドU21,U41,U61は、コイルサイドW12,W32,W52(図9(B))が挿入されたスロット13の内層に挿入される。また、コイル部U2,U4,U6のコイルサイドU22,U42,U62は、コイルサイドV21,V41,V61(図9(C))が挿入されたスロット13の内層に挿入される。
その後、コイル部U2,U4,U6が挿入されたスロット13内に、図7を参照して説明したスロット内絶縁フィルム71を配置する(ステップS108)。
次に、W相コイル2Wのコイル部W2,W4,W6を、スロット13に挿入する(ステップS109)。図9(E)に示すように、コイル部W2,W4,W6のコイルサイドW21,W41,W61は、コイルサイドU32,U52,U12(図9(A))が挿入されたスロット13の内層に挿入される。また、コイル部W2,W4,W6のコイルサイドW22,W42,W62は、コイルサイドV11,V31,V51(図9(C))が挿入されたスロット13の内層に挿入される。
以上により、コイル部U1~U6、コイル部V1~V6およびコイル部W1~W6のスロット13への挿入、すなわち固定子鉄心10へのコイル2U,2V,2Wの巻き付けが完了する。
その後、固定子鉄心10の軸方向両端面に、図8を参照して説明した相間絶縁フィルム91~94を配置する。なお、相間絶縁フィルム91~94の配置は、スロット内絶縁フィルム71の配置と同じ工程(ステップS104,S106,S108)で行ってもよい。
次に、U相コイル2U、V相コイル2VおよびW相コイル2Wを、図6を参照して説明したように結線する(ステップS110)。すなわち、中性点が結線されていない2個のスター結線部101,102を並列に接続する。これにより、固定子1の製造が完了する。
ここではN=1の場合について説明しているが、Nを用いて表すと、ステップS101は、18N個のスロットを有する固定子鉄心10を組み立てる工程に相当する。ステップS102は、U相コイル2Uの6N個のコイル部のうちの3N個を、6N個のスロットの外層に挿入する工程に相当する。ステップS103は、W相コイル2Wの6N個のコイル部のうちの3N個を、6N個のスロット13の外層に挿入する工程に相当する。
ステップS105は、V相コイル2Vの6N個のコイル部を、いずれも、18N個のスロット13のうちの1つのスロット13の外層と、別のスロット13の内層とに挿入する工程に相当する。
ステップS107は、U相コイル2Uの6N個のコイル部のうちの3N個を、6N個のスロット13の内層に挿入する工程に相当する。ステップS109は、W相コイル2Wの6N個のコイル部のうち3N個を、6N個のスロット13の内層に挿入する工程に相当する。
<インサータ>
図10(A)は、上記のステップS101,S102,S105,S107,S109で用いるインサータ6を、固定子鉄心10と共に示す斜視図である。インサータ6は、 スロット13と同数のブレード(爪)61を有する自動巻線装置である。
インサータ6は、軸線C1を中心とする周方向に等間隔に配列された軸方向に長い複数のブレード(爪)61と、各ブレード61の軸方向の一端同士を連結する環状の基部60とを有する。周方向に隣り合うブレード61の間には、スリット62が形成されている。
インサータ6のスリット62には、コイル部を装着する。図10(A)に示した例では、ステップS105でスロット13に挿入するコイル部V1~V6を、インサータ6に装着している。
図10(B)は、コイル部V1~V6をインサータ6に装着した状態を、固定子鉄心10側から見た上面図である。コイル部V1~V6は、いずれも、1スリットあけて隣接する2つのスリット62に挿入される。
図10(C)は、インサータ6を固定子鉄心10の内側に挿入した状態を示す上面図である。インサータ6は、ブレード61がティース12の径方向内側に位置するように、挿入される。スリット62に保持されたコイル部V1~V6は、いずれも、周方向に1スロットあけて隣り合う2つのスロット13に挿入される。
この状態で、インサータ6を固定子鉄心10から軸方向に引き抜くと、コイル部V1~V6がティース12に巻かれ、スロット13に挿入された状態で固定子鉄心10に残る。すなわち、コイル部V1~V6のスロット13への挿入が完了する。
ここでは、コイル部V1~V6のスロット13への挿入について説明したが、図8に示したステップS102では、コイル部U1,U3,U5を、インサータ6によってスロット13に挿入する。ステップS103では、コイル部W1,W3,W5を、インサータ6によってスロット13に挿入する。同様に、ステップS107では、コイル部U2,U4,U6を、インサータ6によってスロット13に挿入する。ステップS109では、コイル部W2,W4,W6を、インサータ6によってスロット13に挿入する。
図11は、実施の形態1の固定子1の製造工程の他の例を示すフローチャートである。上述した製造工程(図8)では、ステップS107でU相コイル2Uのコイル部U2,U4,U6をスロット13に挿入し、その後のステップS109でW相コイル2Wのコイル部W2,W4,W6をスロット13に挿入した。
これに対し、図11の製造工程では、ステップS107AでW相コイル2Wのコイル部W2,W4,W6をスロット13に挿入し、その後のステップS109AでU相コイル2Uのコイル部U2,U4,U6をスロット13に挿入する。
図12(A)~(E)は、図11の製造工程のうち、コイル2の巻き付け工程を示す工程毎の平面図である。図12(A)~(C)は、図9(A)~(C)と同じである。
図12(D)に示すように、ステップS107Aでは、W相コイル2Wのコイル部W2,W4,W6をスロット13に挿入する。コイル部W2,W4,W6のコイルサイドW21,W41,W61は、コイルサイドU32,U52,U12(図12(A))が挿入されたスロット13の内層に挿入される。コイル部W2,W4,W6のコイルサイドW22,W42,W62は、コイルサイドV11,V31,V51(図12(C))が挿入されたスロット13の内層に挿入される。
図12(E)に示すように、ステップS109Aでは、U相コイル2Uのコイル部U2,U4,U6をスロット13に挿入する。コイル部U2,U4,U6のコイルサイドU21,U41,U61は、コイルサイドW12,W32,W52(図12(B))が挿入されたスロット13の内層に挿入される。コイル部U2,U4,U6のコイルサイドU22,U42,U62は、コイルサイドV21,V41,V61(図12(C))が挿入されたスロット13の内層に挿入される。
図11の製造工程は、ステップS107,S109の代わりにステップS107A,S109Aを実行することを除き、図8の製造工程と同様である。図11の製造工程で製造された固定子1の構成は、コイル部U2,U4,U6およびコイル部W2,W4,W6の配置を除き、図1の固定子1と同様である。
<作用>
実施の形態1の固定子1では、U相コイル2Uは、スロット13の外層に配置されたコイル部U1,U3,U5と、スロット13の内層に配置されたコイル部U2,U4,U6とを有する。W相コイル2Wは、スロット13の外層に配置されたコイル部W1,W3,W5と、スロット13の内層に配置されたコイル部W2,W4,W6とを有する。V相コイル2Vのコイル部V1~V6は、いずれも、スロット13の外層と、当該スロット13に1スロットあけて隣接するスロット13の内層とに配置されている。
そのため、U相コイル2U、V相コイル2VおよびW相コイル2Wは、いずれも、スロット13の外層と内層にそれぞれ6つのコイルサイドを有する。このように、各相のコイル2U,2V,2Wのコイルサイドが径方向に均一に配置されるため、各相のコイル2U,2V,2Wのインダクタンスの差が低減される。
その結果、各相のコイル2U,2V,2Wに流れる電流の不均衡を低減することができ、電流の不均衡に起因する電動機100のトルク脈動を低減することができる。
また、図9および図12を参照して説明したように、U相コイル2Uのコイル部U1~U6、V相コイル2Vのコイル部V1~V6、およびW相コイル2Wのコイル部W1~W6は、インサータ6を用いてスロット13に挿入することができるため、製造工程を簡単にすることができる。
また、図5に示したように、スター結線部101の中性点87とスター結線部102の中性点88とが結線されていないため、スター結線部101のコイル群(コイル部U1、U3,U5,V1、V3,V5,W2,W4,W6)とスター結線部102のコイル群(コイル部U2、U4,U6,V2、V4,V6,W1,W3,W5)とを循環する電流が低減される。
後述するように、スター結線部101,102の中性点87,88が結線され、スター結線部101のコイル群とスター結線部102のコイル群とを電流が循環する場合(比較例3の図20参照)、スター結線部101のコイル群とスター結線部102のコイル群との間にインダクタンスの差があると、スター結線部101のコイル群を流れる電流とスター結線部102のコイル群を流れる電流との間に位相差が生じ、各コイル群に流れる電流の振幅のピーク値が大きくなり、銅損が増加する。
この実施の形態1では、上記の通り、スター結線部101,102の中性点87,88が結線されておらず、スター結線部101のコイル群とスター結線部102のコイル群とを循環する電流が低減される。そのため、仮に、スター結線部101のコイル群とスター結線部102のコイル群との間にインダクタンスの差があったとしても、銅損の増加を抑制することができる。
<実施の形態の効果>
以上説明したように、実施の形態1の固定子1は、極数が6N(Nは1以上の整数)であり、18N個のスロットを有する固定子鉄心10と、固定子鉄心10に分布巻で巻かれたU相コイル2U(第1のコイル)、V相コイル2V(第2のコイル)およびW相コイル2W(第3のコイル)とを有する。コイル2U,2V,2Wは、いずれも、2スロットピッチで巻かれた6N個のコイル部を有する。各スロット13には、相の異なる2つのコイル部が挿入される。U相コイル2Uは、スロット13の外層(径方向外側)に挿入された3N個のコイル部U1,U3,U5と、スロット13の内層(径方向内側)に挿入された3N個のコイル部U2,U4,U6とを有する。W相コイル2Wは、スロット13の外層に挿入された3N個のコイル部W1,W3,W5と、スロット13の内層に挿入された3N個のコイル部W2,W4,W6とを有する。V相コイル2Vの6N個のコイル部V1~V6は、いずれも、スロット13の外層と、別のスロット13の内層とに挿入される。
そのため、各相のコイル2U,2V,2Wは、いずれも、スロット13の径方向外側と径方向内側にそれぞれ6N個のコイルサイドを有する。このように各相のコイル2U,2V,2Wのコイルサイドが径方向に均一に配置されるため、各相のコイル2U,2V,2Wのインダクタンスの差が低減される。その結果、各相のコイル2U,2V,2Wに流れる電流の不均衡を低減し、トルク脈動を低減することができる。
また、コイル2U,2V,2Wの各コイル部は、インサータ6によってスロット13に挿入することができるため、製造工程を簡単にすることができる。
また、スター結線部101,102の中性点87,88が互いに結線されていないため、スター結線部101のコイル群とスター結線部102のコイル群とを循環する電流が低減される。従って、仮にスター結線部101のコイル群とスター結線部102のコイル群との間にインダクタンスの差があったとしても、銅損の増加を抑制することができる。
また、3N個のコイル部U1,U3,U5(外層コイル部)と、3N個のコイル部W1,W3,W5(内層コイル部)と、3N個のコイル部V1,V3,V5とがN個のスター結線部101を構成し、3N個のコイル部U2,U4,U6(内層コイル部)と、3N個のコイル部W2,W4,W6(内層コイル部)と、3N個のコイル部V2,V4,V6とがN個のスター結線部102を構成する。スター結線部101,102のいずれにも外層のコイル部と内層のコイル部とが均等に含まれるため、スター結線部101のコイル群を流れる電流とスター結線部102のコイル群を流れる電流との不均衡を効果的に低減し、銅損の増加を低減することができる。
実施の形態2.
次に、実施の形態2について説明する。実施の形態2の固定子は、U相コイル2U、V相コイル2VおよびW相コイル2Wの結線状態が、実施の形態1と異なる。
図13は、実施の形態2の固定子におけるU相コイル2Uのコイル部U1~U6、V相コイル2Vのコイル部V1~V6、およびW相コイル2Wのコイル部W1~W6の配線状態を示すブロック図である。
実施の形態2では、U相コイル2Uのコイル部U1,U3,U5は、配線部81により出力端子80Uに接続されると共に、中性点87に接続されている。V相コイル2Vのコイル部V1,V3,V5は、配線部82により出力端子80Vに接続されると共に、中性点87に接続されている。W相コイル2Wのコイル部W1,W3,W5は、配線部83により出力端子80Wに接続されると共に、中性点87に接続されている。
すなわち、コイル部U1,U3,U5(外層コイル部)と、コイル部V1,V3,V5と、コイル部W1,W3,W5(外層コイル部)とがスター結線で結線され、スター結線部101を構成している。
また、U相コイル2Uのコイル部U2,U4,U6は、配線部84により出力端子80Uに接続されると共に、中性点88に接続されている。V相コイル2Vのコイル部V2,V4,V6は、配線部85により出力端子80Vに接続されると共に、中性点88に接続されている。W相コイル2Wのコイル部W2,W4,W6は、配線部86により出力端子80Wに接続されると共に、中性点88に接続されている。
すなわち、コイル部U2,U4,U6(内層コイル部)と、コイル部V2,V4,V6と、コイル部W2,W4,W6(内層コイル部)とがスター結線で結線され、スター結線部102を構成している。
スター結線部101とスター結線部102とは、並列に接続されている。但し、スター結線部101の中性点87とスター結線部102の中性点88とは、結線されていない。
上述した実施の形態1では、図5に示したように、スター結線部101,102のいずれにも、外層コイル部と内層コイル部とが均等に含まれていた。
これに対し、実施の形態2では、図13に示したように、スター結線部101にコイル部U1,U3,U5およびコイル部W1,W3,W5(いずれも外層コイル部)が含まれ、スター結線部102にコイル部U2,U4,U6およびコイル部W2,W4,W6(いずれも内層コイル部)が含まれている。
そのため、実施の形態1と比較すると、スター結線部101のコイル群とスター結線部102のコイル群とで電流の不均衡が生じ易く、銅損が増加する可能性がある。
しかしながら、スター結線部101の中性点87とスター結線部102の中性点88とが結線されておらず、スター結線部101のコイル群とスター結線部102のコイル群とを循環する電流が低減されるため、後述する比較例3(図20)と比較して、銅損の増加を抑制することができる。
また、固定子1におけるU相コイル2U、V相コイル2VおよびW相コイル2Wの配置は実施の形態1と同様であるため、実施の形態1と同様にトルク脈動を抑制することができる。
比較例.
次に、実施の形態1,2と対比される比較例1~3について、図14~図20を参照して説明する。なお、説明の便宜上、比較例の構成要素の幾つかに、実施の形態1の構成要素と同一の符号を付している。
比較例1.
図14は、比較例1の電動機100Aを示す断面図である。比較例1の電動機100Aは、固定子1AにおけるU相コイル2U、V相コイル2VおよびW相コイル2Wの配置が、実施の形態1と異なる。
すなわち、比較例1では、全てのU相コイル2Uがスロット13の外層に配置され、全てのW相コイル2Wがスロット13の内層に配置されている。V相コイル2Vは、径方向において、U相コイル2UとW相コイル2Wとの間に配置されている。
U相コイル2Uはコイル部U1~U6を有し、V相コイル2Vはコイル部V1~V6を有し、W相コイル2Wはコイル部W1~W6を有する。コイル部U1~W6は、いずれも2スロットピッチで、スロット13に挿入されている。
図15は、比較例1のコイル部U1~U6、コイル部V1~V6、およびコイル部W1~W6の配置を示す図である。コイル部U1~U6がそれぞれコイルサイドを有し、コイル部V1~V6がそれぞれコイルサイドを有し、コイル部W1~W6がそれぞれコイルサイドを有することは、実施の形態1で説明した通りである。
U相コイル2Uのコイル部U1~U6のコイルサイドU11,U12,U21,U22,U31,U32,U41,U42,U51,U52,U61,U62は、いずれも、スロット13の外層に配置されている。W相コイル2Wのコイル部W1~W6のコイルサイドW11,W12,W21,W22,W31,W32,W41,W42,W51,W52,W61,W62は、いずれも、スロット13の内層に配置されている。
一方、コイル部V1,V3,V5のコイルサイドV11,V31,V51は、コイルサイドW22,W42,W62が挿入されたスロット13の外層に配置されている。コイルサイドV12,V32,V52は、コイルサイドU11,U31,U51が挿入されたスロット13の内層に配置されている。
また、コイル部V2,V4,V6のコイルサイドV21,V41,V61は、コイルサイドU22,U42,U62が挿入されたスロット13の外層に配置されている。コイルサイドV22,V42,V62は、コイルサイドW31,W51,W11が挿入されたスロット13の内層に配置されている。
図16は、コイル部U1~U6の各コイルサイド,コイル部V1~V6の各コイルサイド,コイル部W1~W6の各コイルサイドの配置を、固定子鉄心10を直線状に展開して示す模式図である。
実施の形態1で説明したように、コイル部U1~U6、コイル部V1~V6およびコイル部W1~W6のいずれにおいても、各コイル部のコイルエンドEが2つのコイルサイドを互いに連結する。
この比較例1では、U相コイル2Uのコイル部U1~U6が外相に配置され、W相コイル2Wのコイル部W1~W6が内層に配置され、V相コイル2Vのコイル部V1~V6が径方向中央に配置されている。そのため、各相のコイル2U,2V,2Wには、インダクタンスの差が生じやすい。
インダクタンスの小さいコイルには電流が流れにくく、インダクタンスの大きいコイルには電流が流れやすい。そのため、各相のコイル2U,2V,2Wを流れる電流に不均衡が生じ、電動機のトルク脈動が発生する。具体的には、電気角周期の2倍のトルク脈動が発生する。6極の電動機の場合には、回転数の6倍の周波数のトルク脈動が発生する。
これに対し、実施の形態1では、上記の通り、各相のコイル2U,2V,2Wのコイルサイドが径方向に均一に配置されるため、各相のコイル2U,2V,2Wのインダクタンスの差を低減することができる。これにより、各相のコイル2U,2V,2Wに流れる電流の不均衡を低減し、トルク脈動を低減することができる。
比較例2.
図17は、比較例2の電動機100Bを示す断面図である。比較例2の電動機100Bは、固定子1BにおけるU相コイル2U、V相コイル2VおよびW相コイル2Wの配置が、実施の形態1と異なる。
すなわち、比較例1では、U相コイル2U,V相コイル2VおよびW相コイル2Wは、重ね巻で巻かれている。
より具体的には、コイル部U1は、あるスロット13内の内層と、そのスロット13に1スロットあけて隣接するスロット13の外層とに配置されるように、渦状に巻かれている。コイル部V1およびコイル部W1も、同様に渦状に巻かれている。
U相コイル2Uはコイル部U1~U6を有し、V相コイル2Vはコイル部V1~V6を有し、W相コイル2Wはコイル部W1~W6を有する。コイル部U1~W6は、いずれも2スロットピッチで、スロット13に挿入されている。
図18は、比較例1のコイル部U1~U6、コイル部V1~V6、およびコイル部W1~W6の配置を示す図である。コイル部U1~U6がそれぞれコイルサイドを有し、コイル部V1~V6がそれぞれコイルサイドを有し、コイル部W1~W6がそれぞれコイルサイドを有することは、実施の形態1で説明した通りである。
U相コイル2Uのコイル部U1,U3,U5のコイルサイドU11,U31,U51は、いずれもスロット13の内層に配置され、コイルサイドU12,U32,U52は、いずれもスロット13の外層に配置されている。コイル部U2,U4,U6のコイルサイドU21,U41,U61は、いずれもスロット13の外層に配置され、コイルサイドU22,U42,U62は、いずれもスロット13の内層に配置されている。
V相コイル2VおよびW相コイル2Wのコイルサイドの配置は、U相コイル2Uのコイルサイドの配置と同様である。
比較例2では、U相コイル2Uのコイル部U1~U6、V相コイル2Vのコイル部V1~V6、およびW相コイル2Wのコイル部W1~W6のいずれも、スロット13の内層に配置されるコイルサイドと、当該スロット13に1スロットあけて隣接するスロット13の外層に配置されるコイルサイドとを有する。
図19は、コイル部U1~U6の各コイルサイド,コイル部V1~V6の各コイルサイド、およびコイル部W1~W6の各コイルサイドの配置を、固定子鉄心10を直線状に展開して示す模式図である。
実施の形態1で説明したように、コイル部U1~U6、コイル部V1~V6およびコイル部W1~W6のいずれにおいても、各コイル部のコイルエンドEが2つのコイルサイドを互いに連結する。
この比較例2では、コイル部U1~U6、コイル部W1~W6、およびコイル部V1~V6のいずれにおいても、一方のコイルサイドがスロット13の外層に位置し、他方のコイルサイドがスロット13の内層に位置する。そのため、各相のコイル2U,2V,2Wには、比較例1のようなインダクタンスの差は生じにくい。
しかしながら、比較例2のコイル部U1~U6、コイル部W1~W6、およびコイル部V1~V6は、インサータ6(図10(A))でスロット13に挿入することができない。インサータ6は、コイル部をスロット13に径方向内側から挿入するが、コイル部U1~W6のどのコイル部から挿入を開始しても、最初のコイル部よりも外層に挿入しなければならないコイル部があるためである。
そのため、比較例2のU相コイル2U、V相コイル2VおよびW相コイル2Wは、手作業でスロット13に挿入しなければならず、固定子1の製造工程が複雑になる。
また、コイル部U1~W6は、いずれも相の異なるコイル部が隣接する。そのため、図7を参照して説明した相間絶縁フィルムは、コイル部U1~W6の総数である18枚必要になり、相間絶縁フィルムを設置する作業も複雑になる。
比較例3.
図20は、比較例3の固定子におけるU相コイル2Uのコイル部U1~U6、V相コイル2Vのコイル部V1~V6、およびW相コイル2Wのコイル部W1~W6の結線状態を示すブロック図である。比較例3の固定子の構成は、実施の形態1で説明した固定子1と同様である。
実施の形態2と同様、コイル部U1,U3,U5と、コイル部V1,V3,V5と、コイル部W1,W3,W5とがスター結線で結線され、スター結線部101を構成する。また、コイル部U2,U4,U6と、コイル部V2,V4,V6と、コイル部W2,W4,W6とがスター結線で結線され、スター結線部102を構成する。スター結線部101とスター結線部102とは、並列に接続されている。
比較例3では、実施の形態1,2とは異なり、スター結線部101の中性点87とスター結線部102の中性点88とが結線されている。
実施の形態1と同様、U相コイル2U、V相コイル2VおよびW相コイル2Wが、固定子鉄心10の径方向に均等に配置されているため、比較例1のようなトルク脈動は発生しにくい。
しかしながら、比較例3では、スター結線部101のコイル群とスター結線部102のコイル群との間にインダクタンスの差がある場合に、以下の問題が生じる。
すなわち、スター結線部101の中性点87とスター結線部102の中性点88とが接続されているため、スター結線部101のコイル群(コイル部U1,U3,U5、コイル部V1,V3,V5、およびコイル部W1,W3,W5)と、スター結線部102のコイル群(コイル部U2,U4,U6、コイル部V2,V4,V6、およびコイル部W2,W4,W6)とに流れる電流が均等に分流されず、電流の不均等が生じる。
インダクタンスの小さいコイル群に流れる電流は、振幅が大きくなり、位相が進む。これに対し、インダクタンスの大きいコイル群に流れる電流は、振幅が小さくなり、位相が遅れる。そのため、各コイル群に流れる電流の振幅のピーク値が大きくなり、電流と抵抗とによって発生する損失、すなわち銅損が増加する。
図21は、実施の形態1,2および比較例3における上記コイル群のインダクタンスの差に起因する損失増加(W)の解析結果を示すグラフである。縦軸は、解析によって求めた、インダクタンスの差に起因する損失増加(W)を示す。横軸は、実施の形態1,2および比較例3を示している。電動機の回転数は60rpsとし、トルクは15Nmとしている。
図21から、比較例3では、インダクタンスの差に起因する損失増加が3.8Wであるのに対し、実施の形態2では2.2Wまで減少しており、損失増加の低減効果が見られる。また、実施の形態1では、インダクタンスの差に起因する損失増加が0.1Wまで大幅に低減されていることが分かる。
この結果から、実施の形態1,2のように、スター結線部101,102の中性点87,88を互いに結線しないことにより、スター結線部101のコイル群を流れる電流とスター結線部102のコイル群を流れる電流との不均衡を低減し、これに伴う損失増加(すなわち銅損の増加)を抑制できることが分かる。
また、実施の形態1のようにスター結線部101,102のいずれにも外層コイル部と内層コイル部とが均等に含まれることにより、スター結線部101のコイル群を流れる電流とスター結線部102のコイル群を流れる電流との不均衡をさらに低減し、銅損の増加を効果的に抑制できることが分かる。
<圧縮機>
次に、実施の形態1,2の電動機が適用可能な圧縮機300について説明する。図22は、圧縮機300を示す断面図である。圧縮機300は、スクロール圧縮機であり、密閉容器307と、密閉容器307内に配設された圧縮機構305と、圧縮機構305を駆動する電動機100と、圧縮機構305と電動機100とを連結するシャフト56と、シャフト56の下端部(すなわち圧縮機構305側はと反対側の端部)を支持するサブフレーム308とを備えている。
圧縮機構305は、渦巻部分を有する固定スクロール301と、固定スクロール301の渦巻部分との間に圧縮室を形成する渦巻部分を有する揺動スクロール302と、シャフト56の上端部を保持するコンプライアンスフレーム303と、密閉容器307に固定されてコンプライアンスフレーム303を保持するガイドフレーム304とを備える。
固定スクロール301には、密閉容器307を貫通する吸入管310が圧入されている。また、密閉容器307には、固定スクロール301から吐出される高圧の冷媒ガスを外部に吐出する吐出管311が設けられている。この吐出管311は、密閉容器307の圧縮機構305と電動機100との間に設けられた図示しない開口部に連通している。
電動機100は、固定子1を密閉容器307に嵌め込むことにより密閉容器307に固定されている。電動機100の構成は、上述した通りである。密閉容器307には、電動機100に電力を供給するガラス端子309が溶接により固定されている。
電動機100が回転すると、その回転が揺動スクロール302に伝達され、揺動スクロール302が揺動する。揺動スクロール302が揺動すると、揺動スクロール302の渦巻部分と固定スクロール301の渦巻部分とで形成される圧縮室の容積が変化する。そして、吸入管310から冷媒ガスを吸入し、圧縮して、吐出管311から吐出する。
この圧縮機300は、実施の形態1または2で説明した電動機100を備えるため、圧縮機300の運転効率を向上することができる。
ここでは、圧縮機の一例としてスクロール圧縮機について説明したが、実施の形態1,2で説明した電動機は、スクロール圧縮機以外の圧縮機に適用してもよい。
<空気調和装置>
次に、実施の形態1,2の電動機が適用可能な空気調和装置400について説明する。図23は、空気調和装置400(冷凍サイクル装置)を示す図である。空気調和装置400は、圧縮機401と、凝縮器402と、絞り装置(減圧装置)403と、蒸発器404とを備えている。圧縮機401、凝縮器402、絞り装置403および蒸発器404は、冷媒配管407によって連結されて冷凍サイクルを構成している。すなわち、圧縮機401、凝縮器402、絞り装置403および蒸発器404の順に、冷媒が循環する。
圧縮機401、凝縮器402および絞り装置403は、室外機410に設けられている。圧縮機401は、図22に示した圧縮機300で構成されている。室外機410には、凝縮器402に空気を送風する室外送風機405が設けられている。蒸発器404は、室内機420に設けられている。この室内機420には、蒸発器404に空気を送風する室内送風機406が設けられている。
空気調和装置400の動作は、次の通りである。圧縮機401は、吸入した冷媒を圧縮して送り出す。凝縮器402は、圧縮機401から流入した冷媒と室外の空気との熱交換を行い、冷媒を凝縮して液化させて冷媒配管407に送り出す。室外送風機405は、凝縮器402に室外の空気を供給する。絞り装置403は、開度を変化させることによって、冷媒配管407を流れる冷媒の圧力等を調整する。
蒸発器404は、絞り装置403により低圧状態にされた冷媒と室内の空気との熱交換を行い、冷媒に空気の熱を奪わせて蒸発(気化)させて、冷媒配管407に送り出す。室内送風機406は、蒸発器404によって熱を奪われた空気を、室内に供給する。
圧縮機401(すなわち圧縮機300)が実施の形態1または2で説明した電動機を備えるため、空気調和装置400の運転効率を向上することができる。なお、実施の形態1または2の電動機を有する圧縮機は、他の空気調和装置あるいは冷凍サイクル装置に使用することもできる。
以上、望ましい実施の形態について具体的に説明したが、上記の実施の形態に基づき、各種の改良または変形を行なうことができる。