JP7360511B2 - 熱可塑性樹脂エマルジョン、繊維集束用組成物、及びこれを用いた樹脂含浸繊維、成形品 - Google Patents

熱可塑性樹脂エマルジョン、繊維集束用組成物、及びこれを用いた樹脂含浸繊維、成形品 Download PDF

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Description

本発明は主に繊維強化熱可塑性樹脂複合材料の製造に用いられる熱可塑性樹脂エマルジョン、繊維の集束用組成物、その集束用組成物で集束された樹脂含浸繊維、およびこれを用いた成形品に関するものである。
炭素繊維を代表とする繊維材料は高強度、高弾性、電気伝導性等の優れた特徴をもち、その特徴を活かして熱可塑性樹脂をマトリックスとした繊維強化熱可塑性樹脂複合材料として、家電、輸送機械、スポーツ用品など様々な産業分野で広く利用されている。
これら繊維強化熱可塑性樹脂複合材料の製造に際しては、繊維に対して集束処理を行い繊維ストランドとした後、(1)短繊維化して熱可塑性樹脂と溶融混練する方法、(2)シート状とし熱可塑性樹脂シートと積層させる方法などで行なっている。
集束処理は、数百本~数万本からなる独立した繊維を集束剤により一体化させ、ストランドとするもので、後の熱可塑性樹脂との複合化工程に必要不可欠な処理である。
この集束剤は、繊維ストランドに耐擦性を付与させ、複合化工程における作業性に影響を与えるのみならず、本質的に相溶性のない繊維と熱可塑性樹脂との間に濡れ性や接着性等を付与し、最終的な繊維強化熱可塑性樹脂複合材料の性能や品質に大きく影響を与える重要なものである。
従来、繊維と熱可塑性樹脂との親和性を高める目的では、さまざまな集束剤が検討されている。例えば、特許文献1では、共重合ナイロン樹脂を主成分とする水系エマルジョンで繊維を集束させることで、繊維と熱可塑性樹脂との接着性を向上させて、繊維強化熱可塑性樹脂複合材料の強度を改善する方法が開示されている。あるいは特許文献2では、特定のカルボキシル基量を有するスチレン系エマルジョンで集束処理する方法が開示されている。
また、特許文献3では、炭素繊維等からなる連続強化繊維シートと、熱可塑性樹脂からなる樹脂シートとを交互に積層した状態で、熱プレス処理(加熱加圧処理)を行うことにより、連続強化繊維間の隙間に熱可塑性樹脂を含浸させた繊維強化熱可塑性樹脂複合材料が開示されている。
さらに、特許文献4では、炭素繊維等からなる連続強化繊維間の隙間に熱可塑性樹脂を含浸させたシート状のプリプレグを積層することにより形成された繊維強化熱可塑性樹脂複合材料が提案されており、予め所定の形状(長さ)に切断されたプリプレグの強化繊維を所定の方向に配向させた状態で、熱プレスにより付着(溶融接着)させて積層することで、生産性に優れ、高性能を有する繊維強化熱可塑性樹脂複合材料を得ることができると開示されている。
特開昭61-254629号公報 特開2004-176227号公報 特開2013-189634号公報 国際公開WO2016/067711号公報
しかし、これらの方法では、繊維と熱可塑性樹脂との界面接着強度こそ向上するものの、最終的に得られる繊維強化熱可塑性樹脂複合材料の曲げ強度等の機械的物性は、未だ満足できるものではない。
本発明者らは前述の諸事情に鑑み、現状の問題点を解決すべく鋭意検討した結果、繊維を集束させる組成物として、特定の粒子径をもつ熱可塑性樹脂エマルジョンを含むことで、上記課題が解決されることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の[1]および[2]で構成される。
[1]樹脂含浸繊維と熱可塑性樹脂とが複合化した繊維強化熱可塑性樹脂複合材料の製造において、複数の繊維を集束して前記樹脂含浸繊維を製造するための繊維集束用組成物に配合される熱可塑性樹脂エマルジョンであり、芳香族ビニル系単量体40~98.5重量%と、前記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な他の単量体1.5~60重量%との共重合体を含有し、前記共重合体の平均粒子径が、70nm以上150nm以下である熱可塑性樹脂エマルジョン。
[2]上記[1]に記載の熱可塑性樹脂エマルジョンを含有する繊維集束用組成物。
本発明には、以下の[3]~[5]のような態様も含まれる。
[3]上記[2]に記載の繊繊維集束用組成物で集束された樹脂含浸繊維。
[4]上記[3]に記載の樹脂含浸繊維と熱可塑性樹脂からなる積層品を成形してなる成形品。
本発明によれば、成形品の曲げ強度を向上させることのできる熱可塑性樹脂エマルジョン、繊維集束用組成物、及びこれを用いた樹脂含浸繊維、成形品を提供することにある。
以下、本発明につき詳細に説明する。
本発明の繊維集束用組成物に含まれる熱可塑性エマルジョンは、複数の単量体が重合した共重合体を含有する。複数の単量体は、芳香族ビニル系単量体を必須成分として含有する。芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエンおよびジビニルベンゼン等が挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にスチレン、α-メチルスチレンの使用が好ましい。
芳香族ビニル系単量体と共重合可能な他の単量体としては、エチレン系不飽和カルボン酸単量体、シアン化ビニル系単量体、アルキルエステル系単量体、ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体、不飽和カルボン酸アミド系単量体、ビニルピリジン系単量体、共役ジエン系単量体等が挙げられ、目的に応じて各々1種または2種以上混合して使用することが可能である。
エチレン系不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのモノまたはジカルボン酸(無水物)等が挙げられる。
シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-クロルアクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリル等が挙げられる。
アルキルエステル系単量体としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマルエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、2-エチルヘキシルアクリレート等が挙げられる。
ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体としては、β-ヒドロキシエチルアクリレート、β-ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジ-(エチレングリコール)マレエート、ジ-(エチレングリコール)イタコネート、2-ヒドロキシエチルマレエート、ビス(2-ヒドロキシエチル)マレエート、2-ヒドロキシエチルメチルフマレート等が挙げられる。
不飽和カルボン酸アミド系単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド等が挙げられる。
ビニルピリジン系単量体としては、2-ビニルピリジン、3-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、2-メチル-5-ビニルピリジン等が挙げられる。
共役ジエン系単量体としては、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロル-1,3-ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換および側鎖共役ヘキサジエン類等が挙げられる。
中でも、芳香族ビニル系単量体と共重合可能な他の単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、イタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メチルメタクリレート、ブチルアクリレート、β-ヒドロキシエチルアクリレート、アクリルアミドまたはメタクリルアミド、2-ビニルピリジン、1,3-ブタジエンの使用が好ましい。
全単量体中の芳香族ビニル系単量体の含有量は、40~98.5重量%であり、45~95重量%であることが好ましく、47~90重量%であることがより好ましい。この範囲に調整することで樹脂含浸繊維と熱可塑性樹脂との接着性に優れる傾向にある。
全単量体中の「芳香族ビニル系単量体と共重合可能な他の単量体」の含有量は、芳香族ビニル系樹脂エマルジョン100重量%に対して、1.5~60重量%であり、5~55重量%であることが好ましく、10~53重量%であることがより好ましい。この範囲に調整することで樹脂含浸繊維と熱可塑性樹脂との接着性に優れる傾向にある。
熱可塑性樹脂エマルジョンの各単量体の好ましい組成比率としては、芳香族ビニル系単量体60~95重量%、シアン化ビニル系単量体4~39重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体1~15重量%が挙げられ、さらに好ましい組成比率としては、芳香族ビニル系単量体80~94重量%、シアン化ビニル系単量体5~15重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体1~5重量%が挙げられる。
本発明の繊維集束用組成物に含まれる熱可塑性樹脂エマルジョンは、乳化重合により得られる場合、本発明の目的を損なわない範囲であれば特に制限はなく公知の乳化重合法、例えば、一括添加方法、分割添加方法、連続添加方法、多段階重合法、シード重合法、パワーフィード重合法等の何れを採用してもよい。中でも重合時の安定性や分子量の調整の容易さから連続添加方法が好ましい。
本発明の繊維集束用組成物に含まれる熱可塑性樹脂エマルジョンを乳化重合の際には、n-ヘキシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、t-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-ステアリルメルカプタン等のアルキルメルカプタン、ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン化合物、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系化合物、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物、アリルアルコール等のアリル化合物、ジクロルメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物、α-ベンジルオキシスチレン、α-ベンジルオキシアクリロニトリル、α-ベンジルオキシアクリルアミド等のビニルエーテル、トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン、アクロレイン、メタアクロレイン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2-エチルヘキシルチオグリコレート、α-メチルスチレンダイマー、ターピノレン等の連鎖移動剤や過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性重合開始剤、クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、t-ブチルハイドロパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等の油溶性重合開始剤、還元剤である硫酸第一鉄、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、亜ニチオン酸塩、ニチオン酸塩、チオ硫酸塩、また、ホルムアルデヒドスルホン酸塩、ベンズアルデヒドスルホン酸塩などの還元性スルホン酸塩、更にはL-アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸などのカルボン酸類、更にはデキストロース、サッカロースなどの還元糖類、更にはジメチルアニリン、トリエタノールアミンなどのアミン類の各々1種または2種以上の添加剤を使用することも可能である。これらの添加剤の使用量に特に制限は無いが、製品コストや最終製品の外観への影響を考えると、全単量体100重量部に対して、各々0.01~5重量部の範囲で使用することが好ましい。
本発明の繊維集束用組成物に含まれる熱可塑性樹脂エマルジョンを乳化重合する際に使用される乳化剤に特に制限はなく、例えば、高級アルコールの硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、脂肪族カルボン酸塩、非イオン性界面活性剤の硫酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤あるいはポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルフェニルエーテル型、アルキルエーテル型等のノニオン性界面活性剤が挙げられ、これらを1種又は2種以上使用することができ、全単量体100重量部に対して、0.05~10重量部の範囲で使用するのが好ましい。0.05重量部未満では重合液の安定性に劣り、10重量部を越えると最終製品での成型の際にガスが多量に発生し、成形品表面を損なう不具合が発生する。好ましくは0.1~8重量部、より好ましくは0.5~5重量部の範囲である。
更に、重合時には、公知の電解質、重合促進剤、キレート剤等を使用することができる。
本発明の繊維集束用組成物に含まれる熱可塑性樹脂エマルジョンのガラス転移温度は110℃以下であることが、繊維間への含浸の点から好ましい。特に好ましくは105℃以下である。尚、ガラス転移温度は通常のDSC法により測定することが可能である。
上記、ガラス転移温度の調整は、単量体の混合比率、重合時に用いる添加剤の種類や量、重合温度、重合後に添加する添加剤等により調整することが可能である。
熱可塑性樹脂エマルジョンの平均粒子径は、150nm以下であり、130nm以下であることが好ましく、127nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。
熱可塑性樹脂エマルジョンの平均粒子径が150nmを超えると、炭素繊維に繊維集束用組成物が浸透しにくくなり、含浸性が低下する。また、熱可塑性樹脂エマルジョンの平均粒子径が70nm未満であると、熱可塑性樹脂エマルジョンの分散安定性が低下する。
熱可塑性樹脂エマルジョンの平均粒子径は、例えば、実施例に記載されている方法で測定することができる。
また、熱可塑性樹脂エマルジョンの粒子径は、その乳化重合時の乳化剤量や重合時の使用重合水を変えることによって調整することも可能である。乳化剤量は、全単量体100重量部に対して、1.8~2.5重量部であることが好ましい。また、乳化剤は2段以上で添加することが好ましく、1段目に全添加量の15~95重量%を添加することが好ましく、30~90重量%を添加することがより好ましい。使用重合水量は、90~270重量部であることが好ましく、140~250重量部であることがより好ましい。
また、本発明の繊維集束用組成物には、ポリエステル系樹脂エマルジョン、ポリウレタン系樹脂エマルジョン、酢酸ビニル系樹脂エマルジョン、塩化ビニリデン系樹脂エマルジョン、ポリアミド系樹脂エマルジョン、芳香族ビニル系樹脂エマルジョン、アクリル系樹脂エマルジョン、オレフィン系樹脂エマルジョンなどの他の熱可塑性樹脂エマルジョン、分散剤、レベリング剤、滑剤、消泡剤、濡れ剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、着色剤、帯電防止剤、可塑剤等を本発明の効果を損なわない範囲に配合して使用することが可能である。
本発明の繊維集束用組成物中の熱可塑性樹脂エマルジョンの含有割合(固形分換算)は、80重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましい。また、繊維集束用組成物中の他の樹脂エマルジョンの含有割合(固形分換算)は、20重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましい。
本発明の繊維集束用組成物を繊維に集束させる方法には特に制限はなく、スプレー法や塗布法または含浸法等の方法から1種または2種以上組み合わせて選択することが可能である。
本発明の繊維集束用組成物を集束させる繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、硼素繊維、炭化ケイ素繊維、あるいはアルミウム繊維、ステンレス繊維、銅繊維、ニッケル繊維などの金属繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアリレート繊維、ポリイミド繊維、(ナノ)セルロース繊維などの有機繊維等を用いることが出来る。さらにこれらの繊維は1種または2種以上を組み合わせて用いることも可能である。中でも、炭素繊維が最も好ましい。炭素繊維には、通常の炭素繊維に加えて、ニッケルなどの金属で被覆処理した炭素繊維なども含まれ、かつその形態に特に制限はなく、連続繊維、チョップド繊維、ミルド形状や不織布等、目的に応じて任意の形態のものを選ぶことが可能である。
本発明における繊維集束用組成物と繊維の含有比率には特に制限は無いが、熱可塑性樹脂との接着性や最終製品の強度面から、固形分換算で、繊維集束用組成物1~20重量部、繊維99~80重量部の範囲で含浸させることが好ましい。
本発明の樹脂含浸繊維における、繊維に繊維集束用組成物を集束させた後の水分の蒸発方法については特に制限はなく、例えば乾燥機を使用する方法、赤外線を照射する方法、連続的に乾燥機を通過させる方法等を目的に応じて採用することが可能である。中でも、水分の蒸発だけではなく、集束した繊維集束用組成物を溶融させ、繊維表面を更に均一に被覆させるために、繊維集束用組成物のガラス転移温度+60℃以上に調整された1m以上の行路を持つ乾燥機内を0.5m/分以上の速度で連続的に通過させながら乾燥することが好ましい。
本発明の樹脂含浸繊維は、熱可塑性樹脂と溶融混練し、繊維強化熱可塑性樹脂組成物として用いることができる。さらに、熱可塑性樹脂シートまたはフィルムと積層させた積層品として用いることもできる。
本発明の樹脂含浸繊維と組み合わせる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリスチレン(PS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム-スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル-エチレンプロピレンゴム-スチレン共重合体(AES)、アクリロニトリル-アクリルゴム-スチレン共重合体(ASA)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)等のスチレン系樹脂、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)、ポリアミド樹脂(PA)、熱可塑性ポリウレタン樹脂(TPU)、ポリ乳酸樹脂(PLA)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)あるいはスチレン系樹脂と、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド樹脂(PA)、及びポリ乳酸樹脂(PLA)から選ばれる1種以上の樹脂とのアロイが例示され、最終製品の要求性能に合わせて1種又は2種以上組み合わせて用いることが可能である。中でもスチレン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、およびスチレン系樹脂とポリエステル樹脂またはポリアミドとのアロイが、最終製品の成形性と強度のバランスの点で好ましく、ポリエステル樹脂またはポリアミドがより好ましい。
本発明の樹脂含浸繊維と組み合せる熱可塑性樹脂には、例えば、光安定剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、難燃剤、難燃助剤、可塑剤、顔料、染料等の各種添加剤を含むこともできる。
本発明の樹脂含浸繊維と熱可塑性樹脂とを溶融混練して得られた繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、例えば、射出成形、多層押し出し成形、フィルム成形、シート成形、インフレーション成形、プレス成形、SMC成形法、LFT-D法等、目的に応じた加工法を採用することで成形品を得ることが可能である。また、場合によっては予備賦形を行う工程を挟むことも可能である。
本発明の樹脂含浸繊維からなる層を熱可塑性樹脂シートまたはフィルムと積層させた積層体は、プレス成型等により成形品を得ることができる。また、場合によっては予備賦形を行う工程を挟むことも可能である。
成形品の加工温度に特に制限はなく、使用される熱可塑性樹脂の特性により任意の温度を選択することが可能であるが、成形サイクルの点から180~270℃の範囲で成形することが好ましく、更に好ましくは180~250℃の範囲である。
以下、本実施形態を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。また、各実施例、比較例での各種物性の測定は次の方法による。
平均粒子径
光子相関法による平均粒子径の測定によって行い、FPAR-1000(大塚電子製)を使用し、JIS Z8826に準拠した方法で測定した。
衝撃エネルギー吸収
各実施例及び比較例で得られた試験片を用い、JIS K7074に準じて得られた曲げ応力-歪曲線図において、終点を5%歪とし、応力-歪曲線に囲まれた面積で求めた。単位:J
曲げ強度
各実施例及び比較例で得られた試験片を用い、JIS K7074に準じて曲げ強度を測定した。単位:MPa
<熱可塑性樹脂エマルジョン(1)>
耐圧性の重合反応機に、脱イオン水100部を添加した後、窒素置換を行った。スチレン88部、アクリロニトリル10部、t-ドデシルメルカプタン0.7部からなる単量体混合物A100部を準備し、これを単量体混合物A100重量%あたり5重量%の単量体混合物A-1と95重量%の単量体混合物A-2に分けた。
次いで、反応器を75℃に昇温し、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.7部(固形分換算)および単量体混合物A―1を加えて十分攪拌した後、過硫酸カリウム0.1部を仕込み、80℃にて重合を開始した。
開始から1時間後に残りの単量体混合物A―2と、アクリル酸2部を脱イオン水18部に溶解させた溶液と、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.4部(固形分換算)、重炭酸ナトリウム0.7部および過硫酸カリウム0.1部を脱イオン水30部に溶解させた溶液とを、7.5時間にわたって連続的に添加した。
そのまま重合温度を80℃に5時間保ち重合を終了した。次いで、熱可塑性樹脂エマルジョンを苛性ソーダ水溶液でpHを約7に調整した後、水蒸気蒸留により未反応単量体および他の低沸点化合物を除去し、固形分を45%に調整し、熱可塑性樹脂エマルジョン(1)を得た。上述の方法で平均粒子径を測定したところ、126nmであった。
<熱可塑性樹脂エマルジョン(2)>
耐圧性の重合反応機に、脱イオン水120部を添加した後、窒素置換を行った。スチレン88部、アクリロニトリル10部、t-ドデシルメルカプタン0.8部からなる単量体混合物A100部を準備し、これを単量体混合物A100重量%あたり5重量%の単量体混合物A-1と95重量%の単量体混合物A-2に分けた。
次いで反応器を75℃に昇温し、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.0部(固形分換算)および単量体混合物A―1加えて十分攪拌した後、過硫酸カリウム0.1部を仕込み、80℃にて重合を開始した。
開始から1時間後に残りの単量体混合物A―2、アクリル酸2部を脱イオン水18部に溶解させた溶液、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.1部(固形分換算)と重炭酸ナトリウム0.7部および過硫酸カリウム0.1部を脱イオン水30部に溶解させた溶液を7.5時間にわたって連続的に添加した。
そのまま重合温度を80℃に5時間保ち重合を終了した。次いで、熱可塑性樹脂エマルジョンを苛性ソーダ水溶液でpHを約7に調整した後、水蒸気蒸留により未反応単量体および他の低沸点化合物を除去し、固形分を45%に調整し、熱可塑性樹脂エマルジョン(2)を得た。上述の方法で平均粒子径を測定したところ、99nmであった。
<熱可塑性樹脂エマルジョン(3)>
耐圧性の重合反応機に、脱イオン水140部を添加した後、窒素置換を行った。スチレン88部、アクリロニトリル10部、t-ドデシルメルカプタン0.8部からなる単量体混合物A100部を準備し、これを単量体混合物A100重量%あたり5重量%の単量体混合物A-1と95重量%の単量体混合物A-2に分けた。
次いで反応器を75℃に昇温し、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.3部(固形分換算)および単量体混合物A-1加えて十分攪拌した後、過硫酸カリウム0.1部を仕込み、80℃にて重合を開始した。
開始から1時間後に残りの単量体混合物A-2、アクリル酸2部を脱イオン水18部に溶解させた溶液、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.8部(固形分換算)と重炭酸ナトリウム0.7部および過硫酸カリウム0.1部を脱イオン水30部に溶解させた溶液を7.5時間にわたって連続的に添加した。
そのまま重合温度を80℃に5時間保ち重合を終了した。次いで、熱可塑性樹脂エマルジョンを苛性ソーダ水溶液でpHを約7に調整した後、水蒸気蒸留により未反応単量体および他の低沸点化合物を除去し、固形分を45%に調整し、共重合体エマルジョン(3)を得た。上述の方法で平均粒子径を測定したところ、94nmであった。
<熱可塑性樹脂エマルジョン(4)>
耐圧性の重合反応機に、脱イオン水190部を添加した後、窒素置換を行った。スチレン88部、アクリロニトリル10部、t-ドデシルメルカプタン0.8部からなる単量体混合物A100部を準備し、これを単量体混合物A100重量%あたり5重量%の単量体混合物A-1と95重量%の単量体混合物A-2に分けた。
次いで反応器を75℃に昇温し、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.8部(固形分換算)および単量体混合物A-1加えて十分攪拌した後、過硫酸カリウム0.1部を仕込み、80℃にて重合を開始した。
開始から1時間後に残りの単量体混合物A-2、アクリル酸2部を脱イオン水18部に溶解させた溶液、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.3部(固形分換算)と重炭酸ナトリウム0.7部および過硫酸カリウム0.1部を脱イオン水30部に溶解させた溶液を7.5時間にわたって連続的に添加した。
そのまま重合温度を80℃に5時間保ち重合を終了した。次いで、熱可塑性樹脂エマルジョンを苛性ソーダ水溶液でpHを約7に調整した後、水蒸気蒸留により未反応単量体および他の低沸点化合物を除去し、固形分を45%に調整し、熱可塑性樹脂エマルジョン(4)を得た。上述の方法で平均粒子径を測定したところ、79nmであった。
<熱可塑性樹脂エマルジョンエマルジョン(5)>
耐圧性の重合反応機に、脱イオン水45部を添加した後、窒素置換を行った。スチレン88部、アクリロニトリル10部、t-ドデシルメルカプタン0.8部からなる単量体混合物A100部を準備し、これを単量体混合物A100重量%あたり5重量%の単量体混合物A-1と95重量%の単量体混合物A-2に分けた。
次いで反応器を75℃に昇温し、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.4部(固形分換算)および単量体混合物A-1加えて十分攪拌した後、過硫酸カリウム0.1部を仕込み、80℃にて重合を開始した。
開始から1時間後に残りの単量体混合物A-2、アクリル酸2部を脱イオン水18部に溶解させた溶液、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.7部(固形分換算)と重炭酸ナトリウム0.7部および過硫酸カリウム0.1部を脱イオン水30部に溶解させた溶液を7.5時間にわたって連続的に添加した。
そのまま重合温度を80℃に5時間保ち重合を終了した。次いで、熱可塑性樹脂エマルジョンを苛性ソーダ水溶液でpHを約7に調整した後、水蒸気蒸留により未反応単量体および他の低沸点化合物を除去し、固形分を45%に調整し、熱可塑性樹脂エマルジョン(5)を得た。上述の方法で平均粒子径を測定した結果、145nmであった。
<熱可塑性樹脂エマルジョン(6)>
耐圧性の重合反応機に、脱イオン水45部を添加した後、窒素置換を行った。スチレン88部、アクリロニトリル10部、t-ドデシルメルカプタン0.8部からなる単量体混合物A100部を準備し、これを単量体混合物A100重量%あたり5重量%の単量体混合物A-1と95重量%の単量体混合物A-2に分けた。
次いで反応器を75℃に昇温し、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2部(固形分換算)および単量体混合物A-1加えて十分攪拌した後、過硫酸カリウム0.1部を仕込み、80℃にて重合を開始した。
開始から1時間後に残りの単量体混合物A-2、アクリル酸2部を脱イオン水18部に溶解させた溶液、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.5部(固形分換算)と重炭酸ナトリウム0.7部および過硫酸カリウム0.1部を脱イオン水30部に溶解させた溶液を7.5時間にわたって連続的に添加した。
そのまま重合温度を80℃に5時間保ち重合を終了した。次いで、熱可塑性樹脂エマルジョンを苛性ソーダ水溶液でpHを約7に調整した後、水蒸気蒸留により未反応単量体および他の低沸点化合物を除去し、固形分を45%に調整し、熱可塑性樹脂エマルジョン(6)を得た。上述の方法で平均粒子径を測定したところ、160nmであった。
得られた熱可塑性樹脂エマルジョン(1)~(6)を、繊維集束用組成物(1)~(6)として用いた。
<連続樹脂含浸繊維(1)の製造方法>
布引装置を用いて、繊維集束用組成物(1)(固形分換算)を炭素繊維100重量部に対して付着量が15重量部となるように含浸させ、その後得られた連続樹脂含浸繊維を180℃に調整した乾燥炉内を1m/分の速さで3分間移動させることにより、水分を完全に除去し、最終の連続樹脂含浸繊維(1)を得た。
<連続樹脂含浸繊維(2)~(6)の製造方法>
繊維集束用組成物(1)を繊維集束用組成物(2)~(6)に変更した以外は連続樹脂含浸繊維(1)と同じ製法で、連続樹脂含浸繊維(2)~(6)を得た。
上述の連続樹脂含浸繊維に用いた炭素繊維は、帝人株式会社製 Tenax(登録商標)-J STS40 F13 24K 1600tex
<連続樹脂含浸繊維と熱可塑性樹脂からなる積層品の製造方法>
連続樹脂含浸繊維を20cm角のシートとなるように複数枚並列させた後、ポリアミド樹脂フィルム(東レフィルム加工株式会社製 レイファン(登録商標)N0 1401 厚み40μm)と炭素繊維含量が30重量%になるように交互に積層させ、設定温度250℃の圧縮成型機NF37型を用いて、圧力5MPaをかけた状態で余熱を5分間行った後、圧力15MPaをかけた状態で5分間熱プレス処理を行い、厚みが2mmの積層品を作製した。また、得られた積層品から幅15mm×長さ150mmの試験片を切り出し曲げ試験用試験片とした。
尚、積層品を作成する際には炭素繊維の方向は一方向に揃えてあり、また曲げ試験用試験片は炭素繊維の方向と試験片の長辺の方向が一致する方向で切り出しを行った。
表1より、本発明の繊維集束用組成物を用いて製造された連続樹脂含浸繊維をポリアミド樹脂フィルムと積層した実施例1~5は、衝撃吸収エネルギー、曲げ強度に優れるものであった。
比較例1は、本発明の繊維集束用組成物に含まれる熱可塑性樹脂エマルジョンの平均粒子径が規定範囲を満足しないため、衝撃吸収エネルギー、曲げ強度に劣るものであった。
上述の通り、本発明品は、従来のものに比べて製品強度に優れる特性を有することから、成形体として、例えば自動車部品や電化製品に好適である。

Claims (4)

  1. 樹脂含浸繊維と熱可塑性樹脂とが複合化した繊維強化熱可塑性樹脂複合材料の製造において、複数の繊維を集束して前記樹脂含浸繊維を製造するための繊維集束用組成物に配合される熱可塑性樹脂エマルジョンであり、
    芳香族ビニル系単量体80~94重量%と、前記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な他の単量体との共重合体を含有し、前記他の単量体は、シアン化ビニル系単量体5~15重量%と、エチレン系不飽和カルボン酸単量体1~5重量%とを含有し、
    前記共重合体の平均粒子径が、70nm以上127nm以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂エマルジョン。
  2. 請求項1に記載の熱可塑性樹脂エマルジョンを含有することを特徴とする繊維集束用組成物。
  3. 請求項2に記載の繊維集束用組成物で集束された樹脂含浸繊維。
  4. 請求項3に記載の樹脂含浸繊維からなる層と熱可塑性樹脂層を含む積層体を成形してなる成形品。
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