JP7358045B2 - 捺染用インクセット - Google Patents
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Description
インクジェット捺染方法は、インク液滴を吐出させ、布帛に付着させて印刷を行う方法であり、その機構が比較的簡便で、高精細、高品位な画像を形成できるという利点がある。また、従来法とは異なり版作成の必要がないため、手早く階調性に優れた画像を形成できるので、少量多品種生産対応でき、さらに画像として必要な少量のインクしか使用しないため廃液が少ない等、環境的にも優れている。
一方、捺染用インクとしては、染料インクと顔料インクがある。顔料インクは、耐光性が高く、後処理が不要という点で、染料インクに比べ簡便である。
しかし、顔料インクは、染料インクと異なり、繊維の官能基と色材とを反応させて化学結合を形成させることはできない。そのため、色材を定着させて堅牢性を向上させるため、バインダー成分として定着樹脂を添加するが、インクジェット捺染においては、インクの粘度を抑えて吐出の信頼性を確保するために、定着樹脂の添加量には制約がある。
特許文献2では、ポリジオキソラン樹脂を含む水性液で布帛を前処理し、該布帛にインクジェット方式により染料インクを付与して画像を形成し、その後発色処理を行う捺染方法が開示されている。
特許文献3では、布帛素材に、パラフィンワックス及び酸化ポリエチレンを含有させ、インクジェット方式により染料インクを付与し、次いで発色処理後、洗浄し、乾燥する捺染方法が開示されている。
特許文献4では、分散染料インク等により布帛へ記録された画像に、布帛表面より屈折率が低い皮膜形成能を持つシリコーン樹脂等を含有する濃色加工液をインクジェット方式にて付与する捺染方法が開示されている。そして、その比較例2には、分散イエロー染料でイエローパッチを作成した後、アミノ変性シリコーンを含む濃色加工液で処理しても、ブラックインクのオーバープリント適性が向上しないことが示されている。
そこで画像濃度を向上させるインクジェット捺染方法の開発が強く望まれている。
本発明は、水系顔料インクを用いたインクジェット捺染であっても、従来のスクリーン捺染で得られる捺染物に劣らない画像濃度を有する印捺物を得ることができる捺染用インクセット、及び捺染方法を提供することを課題とする。
すなわち、本発明は、次の[1]及び[2]を提供する。
[1]捺染用前処理剤と水系顔料インクの組み合わせを含む捺染用インクセットであって、
該前処理剤が、親水性シリコーン樹脂と水を含み、
該親水性シリコーン樹脂表面に対する、液適法により測定される該水系顔料インクの滴下100msec後の動的接触角が75°以下である、捺染用インクセット。
[2]下記の工程1及び2を有する捺染方法。
工程1:親水性シリコーン樹脂と水を含む捺染用前処理剤を布帛に付着させる工程
工程2:工程1で得られた布帛に水系顔料インクを付与する工程
ここで、親水性シリコーン樹脂表面に対する、液適法により測定される該水系顔料インクの滴下100msec後の動的接触角が75°以下である。
本発明の捺染用インクセット(以下、単に「インクセット」ともいう)は、捺染用前処理剤と水系顔料インクの組み合わせを含む捺染用インクセットであって、該前処理剤が、親水性シリコーン樹脂と水を含み、該親水性シリコーン樹脂表面に対する、液適法により測定される該水系顔料インクの滴下100msec後の動的接触角が75°以下である。
なお、「水系」とは、媒体中で、水が最大割合を占めていることを意味する。
「インクジェット捺染」とは、インクジェット方式を利用して印刷媒体である布帛の表面にインクを印刷することをいい、「印捺物」とは、印刷媒体である布帛の表面にインクが印刷されて画像が形成されたものをいう。
本発明のインクセットに用いられる捺染用前処理剤は、親水性シリコーン樹脂を含むが、この親水性シリコーン樹脂は、液適法による動的接触角が75°以下であり、水系顔料インクの濡れ広がり性を向上させるため、インクジェット捺染であっても、従来のスクリーン捺染で得られる捺染物に劣らない画像濃度の高い印捺物を得ることができると考えられる。
本発明で用いられる捺染用前処理剤(以下、「前処理剤」ともいう)は、布帛がインクの吸収性、定着性に劣ることから、インクジェット捺染方法等において、画像濃度の優れた印捺物を得る観点から、布帛印刷前の前処理で用いられるものである。前記前処理剤は、親水性シリコーン樹脂と水を含有する。
以下、前処理剤に含まれる成分等について説明する。
本発明においては、インクの濡れ広がり性を向上させ、画像濃度の優れた印捺物を得る観点から、前処理剤中のポリマーとして親水性シリコーン樹脂を用いる。ここで、「親水性」とは、水に添加した場合に透明又は乳濁するものをいい、水に溶解して透明性を有するものが好ましい。
本発明で用いられる親水性シリコーン樹脂は、インクの濡れ広がり性を向上させる観点から、親水性シリコーン樹脂表面に対する、液適法により測定される水系顔料インクの滴下100msec後の動的接触角が75°以下である。
本発明における接触角は、いわゆる液滴法による動的接触角であり、固体表面上を液滴が濡れ広がる状態を想定した動的な接触角の変化として知られている。
動的接触角は固体に対する液の濡れ性を表す一つの尺度であり、一般に濡れ性がよいほど、接触角は小さくなる。動的接触角はシリコーン樹脂の親水性を示す指標となる。
本発明で用いられる液滴法による動的接触角の測定は、一般的な方法でよく、市販の動的接触角計を使用して、水系顔料インクの液滴の所定量を親水性シリコーン樹脂表面に接触させて行う。動的接触角は、インク液滴の滴下後、ごく短時間で安定する。
前記動的接触角は、インクの濡れ広がり性を向上させ、画像濃度の優れた印捺物を得る観点から、好ましくは60°以下、より好ましくは50°以下、更に好ましくは40°以下、より更に好ましくは30°以下である。
本発明に係る動的接触角の測定は、水系顔料インクを滴下した後100msec後の動的接触角の測定として行うが、具体的には、実施例記載の方法により行うことができる。
親水性シリコーン樹脂としては、カチオン性、ノニオン性、及びアニオン性のシリコーン樹脂が挙げられ、カチオン性シリコーン樹脂及びノニオン性シリコーン樹脂から選ばれる1種以上が好ましく、カチオン性シリコーン樹脂がより好ましい。
また、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジエンポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等のポリシロキサン、及び該ポリシロキサンのシロキサン結合からなる主鎖に、親水性基を付加した変性ポリマーが好ましく挙げられる。
ポリシロキサンの変性ポリマーとしては、アミノ変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン、アルコール変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、及びこれらの任意の混合物、共重合物等が挙げられる。
これらの中では、インクの濡れ広がり性を向上させ、画像濃度の優れた印捺物を得る観点から、アミノ変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、及びカルボキシ変性シリコーンから選ばれる1種以上が好ましく、アミノ変性シリコーン及びポリエーテル変性シリコーンから選ばれる1種以上がより好ましく、アミノ変性シリコーンが更に好ましい。
アミノ変性シリコーンは、ジメチルポリシロキサンのメチル基の一部に-R-NH2、-RNHR’NH2(式中、R、R’は炭化水素基を示す)等の、アミノ基が導入されたものである。
アミノ変性シリコーンのアミノ当量は、好ましくは100g/mol以上、より好ましくは200g/mol以上、更に好ましくは300g/mol以上であり、そして、好ましくは10,000g/mol以下、より好ましくは8,000g/mol以下、更に好ましくは5,000g/mol以下である。すなわち、アミノ変性シリコーンのアミノ当量は、好ましくは100g/mol以上10,000g/mol以下、より好ましくは200g/mol以上8,000g/mol以下、更に好ましくは300g/mol以上5,000g/mol以下である。
ここで、アミノ当量とは、アミノ変性シリコーンの重量平均分子量を、該アミノ変性シリコーンが一分子あたりに有するアミノ基の数の平均値で除した値をいう。
アミノ変性シリコーンの25℃における動粘度は、好ましくは40mm2/s以上、より好ましくは50mm2/s以上、更に好ましくは60mm2/s以上であり、そして、好ましくは1000mm2/s以下、より好ましくは800mm2/s以下、更に好ましくは700mm2/s以下である。
なお、動粘度は、JIS Z8803の方法により、ウッベローデ粘度計で測定することができる。
乳化物の調製は界面活性剤を用いてもよいし、自己乳化させたものでもよい。乳化物の調製に用いられる界面活性剤としては、高級アルコールの酸化エチレン縮合物、脂肪酸モノグリセライド等の非イオン性界面活性剤、アルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩等の陽イオン性界面活性剤、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等のアニオン性界面活性剤が挙げられる。
印刷された布帛の顔料の表面電位から考えて、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤を用いて乳化されたアミノ変性シリコーンが好ましく、非イオン性界面活性剤がより好ましい。
アミノ変性シリコーンの市販品例としては、信越化学工業株式会社製のX-22-161A、KF-22-1660B-3、KF-8008、KF-8012、KF-393、KF-859、KF-860、KF-864、KF-865、KF-868、KF-869、KF-889、KF-8005、KF-8003、東レ・ダウコーニング株式会社製のFZ-3508、BY16-205、FZ-3705、BY16-850、FZ-3501、FZ-3785、BY16-213、BY16-203、BY16-849、BY16-890、BY16-893、SS-3588等が挙げられる。
ポリエーテル変性シリコーンは、シリコーンの側鎖及び/又は末端の炭化水素基を、ポリエーテル基で置換された構造を有するものである。該ポリエーテル基としては、ポリエチレンオキシ基、ポリプロピレンオキシ基、エチレンオキシ基(EO)とプロピレンオキシ基(PO)がブロック状又はランダムに付加したポリアルキレンオキシ基が好適である。
ポリエーテル変性シリコーンのHLB(親水性親油性バランス)は、好ましくは2以上、より好ましくは4以上、更に好ましくは6以上であり、そして、好ましくは20以下、より好ましくは18以下、更に好ましくは16以下である。
ここで、HLB値は、ポリエーテル変性シリコーンの水及び油への親和性を示す値であり、グリフィン法により次式から求めることができる。
HLB=20×[(ポリエーテル変性シリコーン中に含まれる親水基の分子量)/(ポリエーテル変性シリコーンの分子量)]
ポリエーテル変性シリコーンの25℃における動粘度は、好ましくは10mm2/s以上、より好ましくは12mm2/s以上、更に好ましくは15mm2/s以上であり、そして、好ましくは100mm2/s以下、より好ましくは80mm2/s以下、更に好ましくは50mm2/s以下である。
カルボキシ変性シリコーンは、官能基としてカルボキシ基を有するシリコーンであり、
そのカルボキシ当量は、好ましくは150g/mol以上であり、そして、好ましくは5000g/mol以下、より好ましくは4000g/mol以下である。
カルボキシ変性シリコーンの市販品例としては、東レ・ダウコーニング株式会社製のSF8418、BY16-880、BY16-750、信越化学工業株式会社製のX-22-164、X-22-3701、X-22-3710等が挙げられる。
本発明に用いられる親水性シリコーン樹脂は、カチオン密度が0.2mmol/g以上のカチオン性シリコーン樹脂であることが好ましい。
カチオン性シリコーン樹脂のカチオン密度は、画像濃度、画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくは0.2mmol/g以上、より好ましくは0.3mmol/g以上であり、そして、好ましくは8mmol/g以下、より好ましくは7mmol/g以下、更に好ましくは6mmol/g以下である。
カチオン性シリコーン樹脂のカチオン密度は、下記式により算出することができる。
シリコーン樹脂のカチオン密度(mmol/g)=シリコーン樹脂1g中のカチオン基のモル数×価数
また、カチオン密度が0.2mmol/g未満の親水性シリコーン樹脂を用いる場合、画像濃度、画像鮮明性を向上させる観点から、後述する多価金属塩を配合し、前記前処理剤のカチオン濃度を、好ましくは0.2mmol/g以上、より好ましくは0.3mmol/g以上、そして、好ましくは8mmol/g以下、より好ましくは7mmol/g以下、更に好ましくは6mmol/g以下とすることが好ましい。
本発明に用いる前処理剤は、カチオン濃度を上げ、画像濃度、画像鮮明性を向上させる観点から、更に多価金属塩を含有することができる。多価金属塩は、インク中の顔料を凝集させるとともに、定着樹脂を析出させて、布帛上にインクの強固な被膜を形成させると共に、インクジェット印刷におけるドット径を小さくし過ぎないようにして、画像濃度、画像鮮明性を向上させることができると考えられる。
多価金属塩としては、チタン化合物、クロム化合物、銅化合物、コバルト化合物、ストロンチウム化合物、バリウム化合物、鉄化合物、アルミニウム化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物等の塩が挙げられる。これらの中でも、顔料を効果的に凝集させ、画像濃度、画像鮮明性を向上させる観点から、アルミニウム塩、カルシウム塩、及びマグネシウム塩から選ばれる1種以上が好ましく、カルシウム塩やマグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩がより好ましく、カルシウム塩が更に好ましい。多価金属塩がカルシウム塩であると、前処理剤の安定性が増し、かつ、前処理後の布帛をヒートプレスした場合にも布帛表面に塩が析出しにくくなる。
カルシウム塩の具体例としては、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム等の炭酸カルシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、珪酸カルシウム等が挙げられるが、水溶性を確保し、前処理剤の跡残りを低減する観点から、硝酸カルシウム及び塩化カルシウムから選ばれる1種以上が好ましく、硝酸カルシウムがより好ましい。
多価金属塩は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、前処理剤中のカチオン濃度(金属イオンの含有量)は、前述のとおり、画像濃度、画像鮮明性を向上させる観点から、前処理剤中、好ましくは0.2mmol/g以上、より好ましくは0.3mmol/g以上、そして、好ましくは8mmol/g以下、より好ましくは7mmol/g以下、更に好ましくは6mmol/g以下である。
ここで、前処理剤中の金属イオン濃度(金属イオンの含有量)は、シリコーン樹脂由来のカチオン密度と多価金属塩由来の金属イオン濃度の合計量となる。
前処理剤中のカチオン濃度は、親水性シリコーン樹脂及び/又は金属イオンの1gにおけるカチオン基の量と価数、及び前処理剤中の含有量から計算で求めることができる。具体的には、下記式により算出される。
前処理剤中のカチオン濃度(mmol/g)=前処理剤1g中のカチオン基のモル数×価数
本発明で用いられる水系顔料インクは、インクジェット印刷用であることが好ましく、顔料、水不溶性ポリマー、水溶性有機溶媒、及び水を含有することが好ましい。顔料は、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子Aの形態であることが好ましく、また、水系顔料インクは、顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子Aと定着樹脂としての顔料を含有しない水不溶性ポリマー粒子Bを含有することがより好ましい。
本発明に用いられる顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよく、レーキ顔料、蛍光顔料を用いることもできる。また、必要に応じて、それらと体質顔料を併用することもできる。
無機顔料の具体例としては、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄、ベンガラ、酸化クロム等の金属酸化物、真珠光沢顔料等が挙げられる。特に黒色インクにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
有機顔料の具体例としては、アゾレーキ顔料、不溶性モノアゾ顔料、不溶性ジスアゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料類;フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料、ジケトピロロピロール顔料、ベンツイミダゾロン顔料、スレン顔料等の多環式顔料類等が挙げられる。
色相は特に限定されず、ホワイト、ブラック、グレー等の無彩色顔料;イエロー、マゼンタ、シアン、ブルー、レッド、オレンジ、グリーン等の有彩色顔料をいずれも用いることができる。
体質顔料としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等が挙げられる。
前記顔料は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子A(以下、「顔料含有ポリマー粒子A」ともいう)を構成する水不溶性ポリマーa(以下、「ポリマーa」ともいう)は、少なくとも顔料分散能を有するものであれば特に制限はない。
本発明においてポリマーaの「水不溶性」とは、105℃で2時間乾燥させ、恒量に達したポリマーを、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10g以下であることを意味し、ポリマーaの前記溶解量は、好ましくは5g以下、より好ましくは1g以下である。ポリマーaがアニオン性ポリマーの場合、その溶解量は、ポリマーのアニオン性基を水酸化ナトリウムで100%中和した時の溶解量である。
インク中でのポリマーaの存在形態は、顔料の分散安定性の観点から、顔料をポリマーaが含有している顔料内包状態がより好ましい。
ポリマーaの分子中に含まれるイオン性基は、イオン性モノマー(a-1)によりポリマー骨格に導入されてなるものが好ましい。すなわち、ポリマーaは、イオン性モノマー(a-1)由来の構成単位を含むものが好ましい。ポリマーaとしては、ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂等が挙げられる。
これらの中では、ビニル系樹脂が好ましく、イオン性モノマー(a-1)(以下、「(a-1)成分」ともいう)と、疎水性モノマー(a-2)(以下、「(a-2)成分」ともいう)とを含む原料モノマー(a)(以下、単に「原料モノマー(a)」ともいう)を共重合させてなるビニル系樹脂がより好ましい。
該ビニル系樹脂は、(a-1)成分由来の構成単位と(a-2)成分由来の構成単位とを含むことが好ましい。該ビニル系樹脂は、更にノニオン性モノマー(a-3)(以下、「(a-3)成分」ともいう)由来の構成単位を含むことが好ましい。
イオン性モノマー(a-1)としては、アニオン性モノマーが好ましく、カルボン酸モノマー、スルホン酸モノマー等が挙げられる。これらの中では、カルボン酸モノマーがより好ましい。
カルボン酸モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、及びシトラコン酸から選ばれる1種以上が挙げられるが、好ましくは(メタ)アクリル酸である。「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる少なくとも1種を意味し、「(メタ)アクリレート」とはアクリレート及びメタクリレートから選ばれる少なくとも1種である。
本発明において疎水性モノマー(a-2)の「疎水性」とは、モノマーを25℃のイオン交換水100gへ飽和するまで溶解させたときに、その溶解量が10g未満であることをいう。疎水性モノマー(a-2)の前記溶解量は、顔料の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは5g以下、より好ましくは1g以下である。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、炭素数6以上18以下のアルキル基を有するものが好ましく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(イソ又はターシャリー)ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(イソ)オクチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
芳香族基含有モノマーとしては、炭素数6以上22以下の芳香族基を有するビニル系モノマーが好ましく、スチレン系モノマー、芳香族基含有(メタ)アクリレート等がより好ましい。スチレン系モノマーとしては、スチレン、2-メチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等が挙げられ、芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはスチレン、α-メチルスチレン及びベンジル(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上である。
マクロモノマーとしては、顔料の分散安定性を向上させる観点から、芳香族基含有モノマー系マクロモノマー及びシリコーン系マクロモノマーが好ましく、芳香族基含有モノマー系マクロモノマーがより好ましい。芳香族基含有モノマー系マクロモノマーを構成する芳香族基含有モノマーとしては、前記の芳香族基含有モノマーが挙げられ、スチレン及びベンジル(メタ)アクリレートが好ましく、スチレンがより好ましい。
商業的に入手しうるスチレン系マクロモノマーの具体例としては、東亞合成株式会社製のAS-6(S)、AN-6(S)、HS-6(S)等が挙げられる。
ノニオン性モノマー(a-3)は、水や水溶性有機溶媒との親和性が高いモノマーである。ノニオン性モノマー(a-3)としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコール(n=2~30、nはオキシエチレン基の平均付加モル数を示す。以下、nは当該オキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。)(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;メトキシポリエチレングリコール(n=1~30)(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;フェノキシ(エチレングリコール/プロピレングリコール共重合)(n=1~30、その中のエチレングリコール:n=1~29)(メタ)アクリレートから選ばれる1種以上が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、より好ましくはメトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートである。
商業的に入手しうるノニオン性モノマー(a-3)の具体例としては、新中村化学工業株式会社製のNKエステルM-20G、同40G、同90G、同230G等、日油株式会社のブレンマーPE-90、同200、同350等、PME-100、同200、同400等、PP-500、同800、同1000等、AP-150、同400、同550等、50PEP-300、50POEP-800B、43PAPE-600B等が挙げられる。
上記(a-1)~(a-3)成分は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
ビニル系樹脂製造時における、(a-1)~(a-3)成分の原料モノマー(a)中の含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)又はビニル系樹脂中における(a-1)~(a-3)成分由来の構成単位の含有量は、顔料の分散安定性を向上させる観点から、次のとおりである。
(a-1)成分の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは12質量%以上であり、そして、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。
(a-2)成分の含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは88質量%以下である。
(a-3)成分の含有量は0質量%以上であり、(a-3)成分を含有する場合、好ましくは1質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
ビニル系樹脂は、原料モノマー(a)を塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合法により共重合させることにより製造される。これらの重合法の中では、溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒に特に制限はないが、極性有機溶媒が好ましい。極性有機溶媒としては、炭素数1以上3以下の脂肪族アルコール、炭素数3以上5以下のケトン類、エーテル類、酢酸エチル等のエステル類等が挙げられる。これらの中では、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン、又はこれらの1種以上と水との混合溶媒が好ましく、メチルエチルケトン又はそれと水との混合溶媒が好ましい。
重合の際には、重合開始剤や重合連鎖移動剤を用いることができる。
重合開始剤としては、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物や、有機過酸化物等の公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。
重合連鎖移動剤としては、カルボキシ基含有メルカプタン類;アルキルメルカプタン;2-メルカプトエタノール等のヒドロキシ基含有メルカプタン類等の公知の連鎖移動剤を用いることができる。
また、重合モノマーの連鎖の様式に制限はなく、ランダム、ブロック、グラフト等のいずれの重合様式でもよい。
ビニル系樹脂の数平均分子量は、顔料への吸着性及び分散安定性を向上させる観点から、好ましくは5000以上、より好ましくは8000以上、更に好ましくは1万以上であり、そして、好ましくは15万以下、より好ましくは10万以下、更に好ましくは8万以下である。数平均分子量は、実施例に記載の方法により測定される。
顔料含有ポリマー粒子Aは、顔料水分散体として下記の工程1及び2を有する方法により、効率的に製造することができる。
工程1:顔料、ポリマーa、有機溶媒、及び水を含む顔料混合物を分散処理して分散処理物を得る工程
工程2:工程1で得られた分散処理物から有機溶媒を除去して顔料含有ポリマー粒子Aの水分散体(以下、「顔料水分散体(i)」ともいう)を得る工程
本発明においては、更に、下記の工程3を行うことが好ましい。
工程3:工程2で得られた顔料水分散体(i)に架橋剤を添加し、顔料含有ポリマー粒子Aを架橋させて、顔料含有架橋ポリマー粒子A1の水分散体(I)(以下、「顔料水分散体(I)」ともいう)を得る工程
本発明に係る顔料を含有する水不溶性ポリマー粒子Aは、工程3で得られる顔料含有架橋ポリマー粒子A1をも包含する。
工程1における顔料混合物は、ポリマーaを有機溶媒に溶解させ、次に顔料、水、及び必要に応じて中和剤、界面活性剤等を、得られた有機溶媒溶液に加えて混合し、水中油型の分散液を得る方法により得ることが好ましい。ポリマーaの有機溶媒溶液に加える順序に制限はないが、水、中和剤、顔料の順に加えることが好ましい。
中和する場合は、pHが7以上11以下になるように中和することが好ましい。
中和剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、各種アミン等の塩基が挙げられ、好ましくは水酸化ナトリウム及びアンモニアである。
また、ポリマーaを予め中和しておいてもよい。
中和剤の使用当量は、保存安定性を向上させる観点から、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは30モル%以上であり、そして、好ましくは150モル%以下、より好ましくは120モル%以下、更に好ましくは100モル%以下である。ここで中和剤の使用当量は、中和前のポリマーaを「ポリマーa’」とする場合、次式によって求めることができる。
中和剤の使用当量(モル%)=〔{中和剤の添加質量(g)/中和剤の当量}/[{ポリマーa’の酸価(mgKOH/g)×ポリマー(B)の質量(g)}/(56×1,000)]〕×100
予備分散に用いる分散機としては、アンカー翼、ディスパー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置を用いることができる。
本分散に用いる剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ニーダー等の混練機、マイクロフルイダイザー等の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機が挙げられる。これらの中でも、顔料を小粒子径化する観点から、高圧ホモジナイザー、ビーズミルを用いることが好ましい。
高圧ホモジナイザーを用いて分散処理を行う場合、20MPa以上の分散圧力でパス回数の制御により、顔料を所望の粒径になるように制御することができ、後述する顔料水散体(I)の平均粒径も調整することができる。
工程2における有機溶媒の除去は、公知の方法で行うことができる。得られた顔料水分散体(i)中の有機溶媒は実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、残留していてもよい。残留有機溶媒の量は、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下である。
また、粗大粒子等を除去する目的で、有機溶媒を除去した水分散体を、更に遠心分離した後、液層部分をフィルター等で濾過し、該フィルター等を通過してなるものを、顔料水分散体(i)として得ることが好ましい。
工程3は、任意であるが、工程2で得られた顔料水分散体(i)に架橋剤を添加し、顔料含有ポリマー粒子Aを構成するポリマーaのカルボキシ基の一部を架橋し、顔料含有ポリマー粒子Aの表層部に架橋構造を形成させて、顔料含有架橋ポリマー粒子A1の顔料水分散体(I)を得る。これにより、ポリマーaが架橋されてなるポリマーa1が顔料表面に強固に吸着又は固定化され、顔料の凝集が抑制され、結果として、得られるインクの保存安定性がより向上し、画像濃度をより向上させることができると考えられる。
架橋剤の分子量は、反応容易性、保存安定性を向上させる観点から、好ましくは120以上、より好ましくは150以上であり、そして、好ましくは2,000以下、より好ましくは1,500以下である。
架橋剤のエポキシ当量は、好ましくは90以上、より好ましくは100以上であり、そして、好ましくは300以下、より好ましくは200以下である。
架橋剤の水溶率は、水を主体とする媒体中で効率よくポリマーaのカルボキシ基と架橋させる観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。ここで、水溶率とは、室温25℃にて水90質量部に架橋剤10質量部を溶解したときの溶解率(質量%)をいう。
架橋剤の好適例としては、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(水溶率27質量%)、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル(水溶率0質量%)等のポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
架橋処理の温度は、前記と同様の観点から、好ましくは40℃以上、より好ましは50℃以上であり、そして、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下である。
固形分濃度は、実施例に記載の方法により測定される。
顔料水分散体(I)中の顔料の含有量は、分散安定性の観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは12質量%以上であり、そして、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
顔料水分散体(I)中の顔料含有架橋ポリマー粒子A1を構成する架橋ポリマーa1と顔料の質量比[架橋ポリマーa1/顔料]は、好ましくは8/92以上、より好ましくは10/90以上であり、そして、好ましくは45/55以下、より好ましくは40/60以下である。
顔料含有架橋ポリマー粒子Aの平均粒径は、保存安定性を向上させる観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは80nm以上であり、そして、好ましくは400nm以下、より好ましくは350nm以下である。
平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
本発明のインクは、画像耐久性を向上させる観点から、顔料を含有しない水不溶性ポリマー粒子B(以下、「ポリマー粒子B」ともいう)を含有することが好ましい。ポリマー粒子Bは、顔料を含有せず、水不溶性ポリマーb(以下、「ポリマーb」ともいう)単独で構成される水不溶性ポリマー粒子である。
ポリマーbの「水不溶性」とは、前記ポリマーaにおける前記定義と同じである。
ポリマーbとしては、ポリウレタン及びポリエステル等の縮合系ポリマー;アクリル系ポリマー、スチレン系ポリマー、スチレン-アクリル系ポリマー等のビニル系ポリマーが挙げられる。ポリマー粒子Bとしては、印刷媒体上での乾燥性を早め、画像濃度を向上させる観点から、アクリル系ポリマー粒子B1、ポリウレタン樹脂粒子が好ましく、アクリル系ポリマー粒子B1がより好ましい。
ポリマーbがアクリル系ポリマーの場合、ポリマーbは、前記のポリマーa1と同一でも異なっていてもよいが、(メタ)アクリル酸(b-1)由来の構成単位と、(メタ)アクリル酸エステル(b-2)由来の構成単位とを含むことが好ましい。
(メタ)アクリル酸(b-1)は、画像濃度を向上させる観点から、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる少なくとも1種が好ましく、メタクリル酸がより好ましい。
(メタ)アクリル酸エステル(b-2)は、画像濃度を向上させる観点から、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、及び(メタ)アクリル酸シクロヘキシルから選ばれる少なくとも1種が好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、及び(メタ)アクリル酸シクロヘキシルから選ばれる少なくとも1種がより好ましく、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルがより好ましい。
アクリル系ポリマーb中の(メタ)アクリル酸エステル(b-2)由来の構成単位の含有量は、画像濃度を向上させる観点から、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上であり、そして、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98.5質量%以下である。
水不溶性アクリル系ポリマー粒子B1の平均粒径は、画像濃度を向上させる観点から、好ましくは20nm以上、より好ましくは50nm以上であり、そして、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下である。
重量平均分子量、平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
水不溶性アクリル系ポリマー粒子B1は、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルの混合物を、公知の重合方法により共重合させることにより製造することができる。
重合の際には、重合開始剤として、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩や水溶性アゾ重合開始剤等を用いることができ、樹脂粒子の分散安定性を向上させる観点から、界面活性剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、オキシエチレン/オキシプロピレンブロックコポリマー等の非イオン界面活性剤を用いることができる。
好ましい重合条件は、重合開始剤の種類等によって異なるが、顔料含有ポリマー粒子A1におけるビニル系樹脂の重合条件と同様である。
水不溶性アクリル系ポリマー粒子B1は、水性インクへの配合性の観点から、重合反応に用いた溶剤を除去せずに、水を主分散媒とするポリマー粒子の水分散体(エマルション)として用いることが好ましい。該ポリマー粒子は中和剤で中和することが好ましい。
顔料を含有しない水不溶性ポリマー粒子B(ポリマー粒子B)は、前述したように水分散液として用いることが好ましいが、該水分散液を得る際、ポリマー粒子Bを構成するポリマーbは、中和剤で中和されてなることが好ましい。
中和剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、アンモニア等が挙げられるが、好ましくは水酸化ナトリウムである。
中和剤の使用当量(モル%)は、ポリマー粒子Bの分散安定性の観点から、好ましくは10モル%以上、より好ましくは30モル%以上であり、そして、好ましくは150モル%以下、より好ましくは120モル%以下である。中和剤の使用当量は、前述と同様の方法によって求めることができる。
水不溶性アクリル系ポリマーの酸価は、分散安定性の観点から、好ましくは5mgKOH/g以上、より好ましくは10mgKOH/g以上であり、そして好ましくは50mgKOH/g以下である。
本発明に係る水系顔料インクは、画像濃度を向上させる観点から、沸点が100℃以上300℃以下の水溶性有機溶媒を含有することが好ましい。
水溶性有機溶媒は、常温(25℃)で液体であっても固体であってもよい。水溶性有機溶媒は、有機溶媒を25℃の水100mlに溶解させたときに、その溶解量が10ml以上である有機溶媒をいう。
水溶性有機溶媒の沸点は、保存安定性を向上させる観点から、好ましくは110℃以上、より好ましくは115℃以上、更に好ましくは118℃以上であり、そして、好ましくは300℃以下、より好ましくは298℃以下、更に好ましくは295℃以下である。
ここで、沸点とは標準沸点(1気圧下での沸点)をいい、水溶性有機溶媒を2種以上を用いる場合には、各水溶性有機溶媒の含有量(質量%)で重み付けした加重平均値とする。
グリコールエーテルとしては、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、アルキレングリコールジアルキルエーテルが好ましく、アルキレングリコールモノアルキルエーテルがより好ましい。グリコールエーテルのアルキル基の炭素数は、1以上、好ましくは2以上、より好ましくは3以上であり、そして、好ましくは6以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは4以下である。アルキル基は、直鎖であっても、分岐鎖であってもよい。
本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲で、沸点が100℃以上300℃以下の水溶性有機溶媒以外の他の有機溶媒を含有してもよい。他の有機溶媒としては、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール等の一価アルコールが挙げられる。
界面活性剤としては、ノニオン性界面活性剤が好ましく、画像濃度を向上させる観点から、アセチレングリコール系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤から選ばれる1種以上がより好ましく、アセチレングリコール系界面活性剤とシリコーン系界面活性剤とを併用することが更に好ましい。
アセチレングリコール系界面活性剤としては、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、2,4-ジメチル-5-ヘキシン-3-オール等のアセチレン系ジオール、及びそれらのエチレンオキシド付加物が挙げられる。
前記エチレンオキシド付加物のエチレンオキシ基(EO)の平均付加モル数の和(n)は、好ましくは1以上、より好ましくは1.5以上であり、そして、好ましくは20以下、より好ましくは10以下である。
アセチレングリコール系界面活性剤の市販品例としては、日信化学工業株式会社製の「サーフィノール」シリーズ、「オルフィン」シリーズ、川研ファインケミカル株式会社製の「アセチレノール」シリーズ等が挙げられる。これらの中でも、サーフィノール420(n:1.3)、サーフィノール440(n:3.5)、サーフィノール465、サーフィノール485、オルフィンE1010、アセチレノールE100、アセチレノールE200、アセチレノールE40、アセチレノールE60、アセチレノールE81等が好ましい。
シリコーン系界面活性剤としては、前記の前処理剤に含まれる親水性シリコーン樹脂として挙げられたものを用いることができる。例えば、ジメチルポリシロキサン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン等が挙げられるが、上記と同様の観点から、ポリエーテル変性シリコーンが好ましい。
ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤のHLB(親水性親油性バランス)値は、水系インクへの溶解性の観点から、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは4以上である。HLB値は、グリフィン法により求めることができる。
ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤の具体例としては、信越化学工業株式会社製のKFシリーズ;KF-353、KF-355A、KF-642、KF-6011等、日信化学工業株式会社製のシルフェイスSAGシリーズ、ビックケミー・ジャパン株式会社製のBYKシリーズ等が挙げられる。
これらの中では、信越化学工業株式会社製のKFシリーズが好ましい。
本発明に係る水系顔料インクは、顔料水分散体(I)と、ポリマー粒子Bの水分散液と、水溶性有機溶媒と、必要に応じて、界面活性剤と、更にその他の有機溶媒等とを混合することにより、効率的に製造することができる。それらの混合方法に特に制限はない。
(顔料の含有量)
インク中の顔料の含有量は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは18質量%以下、更に好ましく15質量%以下である。
(顔料含有架橋ポリマー粒子Aの含有量)
インク中の顔料含有架橋ポリマー粒子Aの含有量は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは7質量%以上であり、そして、好ましくは25質量%以下、より好ましくは23質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
インク中のポリマー粒子Bの含有量は、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは18質量%以下、更に好ましくは15質量%以下である。
顔料含有架橋ポリマー粒子A1に対するポリマー粒子Bの質量比〔ポリマー粒子B/顔料含有架橋ポリマー粒子A〕は、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.4以上、更に好ましくは0.6以上であり、そして、好ましくは2以下、より好ましくは1.8以下、更に好ましくは1.5以下である。
なお、本発明のインクには、顔料含有架橋ポリマー粒子Aとポリマー粒子Bが含まれるため、前記質量比〔ポリマー/顔料〕におけるポリマーの量は、架橋ポリマーa1とポリマーbの合計量である。
インク中の沸点100℃以上300℃以下の水溶性有機溶媒の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは8質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましく40質量%以下である。
インク中の界面活性剤の含有量は、好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上であり、そして、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
インク中のアセチレングリコール系界面活性剤の含有量は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上であり、そして、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。また、インク中のシリコーン系界面活性剤の含有量は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上であり、そして、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。
(水の含有量)
インク中の水の含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。
インクの32℃における粘度は、インクの連続吐出性を向上させる観点から、好ましくは2mPa・s以上、より好ましくは3mPa・s以上、更に好ましくは4mPa・s以上であり、そして、好ましくは20mPa・s以下、より好ましくは15mPa・s以下、更に好ましくは12mPa・s以下である。
本発明に用いられるインクの20℃における静的表面張力は、印字濃度を向上させる観点から、好ましくは20mN/m以上、より好ましくは22mN/m以上、更に好ましくは24mN/m以上であり、そして、好ましくは45mN/m以下、より好ましくは43mN/m以下、更に好ましくは40mN/m以下である。
20℃におけるインクのpHは、分散安定性を向上させる観点から、好ましくは5.5以上、より好ましくは6.0以上、更に好ましくは6.5以上であり、そして、部材耐性、皮膚刺激性の観点から、好ましくは11.0以下、より好ましくは10.5以下、更に好ましくは10.0以下である。
本発明の捺染方法は、下記の工程1及び2を有する。
工程1:親水性シリコーン樹脂と水を含む捺染用前処理剤を布帛に付着させる工程
工程2:工程1で得られた布帛に水系顔料インクを付与する工程
ここで、親水性シリコーン樹脂表面に対する、液適法により測定される該水系顔料インクの滴下100msec後の動的接触角が75°以下である
ただし、工程1と2の間に布帛を乾燥させる工程があってもよい。
捺染方法としては、インクジェット捺染方法が好ましい。
本発明の捺染方法により、インクジェット捺染であっても、従来のスクリーン捺染で得られる捺染物に劣らない画像濃度を有する印捺物を得ることができる。
工程1は、親水性シリコーン樹脂と水を含む捺染用前処理剤を布帛に付着させる工程である。前処理剤を、布帛の印刷領域に付着させる方法は特に限定されない。例えば、布帛を前処理剤に浸漬する方法、布帛布の全面又は印刷領域に各種塗工機(インクジェット印刷機を含む)で塗布する方法、噴霧する方法等の公知の方法が挙げられる。
印刷媒体は、布帛であるが、布帛としては、従来から使用されているいずれのものでもよい。例えば、綿、絹、麻等の天然繊維、レーヨン繊維、アセテート繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維等の合成繊維からなる布帛、及びこれら繊維の2種以上からなる混紡布帛等が挙げられる。
前処理剤で処理される前の布帛は、顔料等で着色又は染色されていないものであることが好ましい。
前処理剤の布帛への付着量は、画像濃度の観点から、乾燥後質量で、好ましくは1g/m2以上、より好ましくは2g/m2以上、更に好ましくは3g/m2以上、より更に好ましくは4g/m2以上であり、そして、風合いを損なわないようする観点から、好ましくは40g/m2以下、より好ましくは30g/m2以下、更に好ましくは20g/m2以下、より更に好ましくは15g/m2以下である。
工程2は、工程1で得られた布帛に水系顔料インクを付与する工程である。
工程2の開始前、工程1の終了後には、必要に応じて、前処理剤を付着した布帛を乾燥させる工程を有していてもよい。布帛を乾燥方法に特に制限はないが、前処理剤の定着性の観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上で、そして、布帛及び前処理剤の劣化防止の観点から、好ましくは180℃以下、より好ましくは160℃以下で、1分間以上1時間以下の加熱処理を行うことができる。
例えば、ドロップオンデマンド型のインクジェット捺染装置が挙げられる。このインクジェット捺染装置としては、ヘッドに配設された圧電素子を用いたピエゾ式を採用した装置、ヘッドに配設された発熱抵抗素子のヒーター等による熱エネルギーを用いたサーマル式を採用した装置等が挙げられるが、ピエゾ式のインクジェット捺染装置がより好ましい。
ピエゾ式のインクジェット捺染装置は、多数のノズルが、各々圧力室に連通しており、この圧力室の壁面をピエゾ素子で振動させることにより、ノズルからインク液滴を吐出させる。
印刷ヘッドの印加電圧は、高速印刷の効率性等の観点から、好ましくは5V以上、より好ましくは10V以上、更に好ましくは15V以上であり、そして、好ましくは40V以下、より好ましくは35V以下、更に好ましくは30V以下である。
駆動周波数は、高速印刷の効率性等の観点から、好ましくは2kHz以上、より好ましくは5kHz以上、更に好ましくは8kHz以上であり、そして、好ましくは60kHz以下、より好ましくは50kHz以下、更に好ましくは40kHz以下である。
インクの吐出液滴量は、インク液滴の着弾位置の精度維持及び画質向上の観点から、1滴あたり好ましくは0.5pL以上、より好ましくは1.0pL以上、更に好ましくは1.5pL以上、より更に好ましくは1.8pL以上であり、そして、好ましくは20pL以下、より好ましくは15pL以下、更に好ましくは13pL以下である。
印刷ヘッド解像度は、好ましくは400dpi(ドット/インチ)以上、より好ましくは500dpi以上、更に好ましくは550dpi以上である。
印刷された布帛は、必要に応じて加熱処理することができる。加熱処理としては、例えば、ヒートプレス法、熱風乾燥法、常圧~高圧スチーム法、及び赤外線(ランプ)によるサーモフィックス法が挙げられる。
加熱処理時の温度は、インクを効率的に定着・硬化させる観点から、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上で、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下で、30秒間以上2分間程度行うことが好ましい。
加熱処理後は、印捺物を水洗し、乾燥してもよい。このとき、必要に応じて、未固着の顔料を熱石鹸液等で洗い落とすソーピング処理を行ってもよい。
このようにして、布帛上に、本発明のインクセットに由来する画像が形成された印捺物を得ることができる。こうして得られた印捺物は、従来のスクリーン捺染で得られる捺染物に劣らない優れた画像濃度を有する。
N,N-ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶離液として、ゲル浸透クロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC-8320GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSKgel SuperAWM-H、TSKgel SuperAW3000、TSKgel guardcolum Super AW-H)、流速:0.5mL/min〕により、標準物質として分子量既知の単分散ポリスチレンキット〔PStQuick B(F-550、F-80、F-10、F-1、A-1000)、PStQuick C(F-288、F-40、F-4、A-5000、A-500)、東ソー株式会社製〕を用いて測定した。
測定サンプルは、ガラスバイアル中にポリマー0.1gを前記溶離液10mLと混合し、25℃で10時間、マグネチックスターラーで撹拌し、シリンジフィルター(DISMIC-13HP、PTFE製、0.2μm、アドバンテック株式会社製)で濾過したものを用いた。
レーザー粒子解析システム「ELS-8000」(大塚電子株式会社製)を用いてキュムラント解析を行い、平均粒径を測定した。測定する粒子の濃度が5×10-3重量%(固形分濃度換算)になるよう水で希釈した分散液を用いた。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力し、得られたキュムラント平均粒径を顔料含有ポリマー粒子A、ポリマー粒子Bの平均粒径とした。
赤外線水分計「FD-230」(株式会社ケツト科学研究所製)を用いて、測定試料5gを乾燥温度150℃、測定モード96(監視時間2.5分/変動幅0.05%)の条件にて乾燥させた後、測定試料の水分(%)を測定し、下記式により固形分濃度を算出した。
固形分濃度(%)=100-測定試料の水分(%)
電位差自動滴定装置(京都電子工業株式会社製、電動ビューレット、型番:APB-610)に樹脂をトルエンとアセトン(2:1)を混合した滴定溶剤に溶かし、電位差滴定法により0.1N水酸化カリウム/エタノール溶液で滴定し、滴定曲線上の変曲点を終点とした。水酸化カリウム溶液の終点までの滴定量から酸価(mgKOH/g)を算出した。
シリコーン樹脂15%の水溶液(pH7に調整)0.5gを、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製、商品名:ルミラーT60、厚み:75μm)上に滴下し、バーコーター(テスター産業株式会社製、商品名:SA-203、ROD No.4、塗布厚9.1μm)を用いて30cm/秒程度の速さで引き、液膜厚9.1μmのシリコーン樹脂層を形成した。これを直ぐに、温度60℃に設定した定温乾燥機(ヤマト科学株式会社製、商品名:DVS402)の中に入れ、10分間乾燥を行った。
その後室温に戻し、乾燥したシリコーン樹脂表面に水系顔料インクを2.0μL滴下し、ポータブル接触角計(協和界面科学株式会社製、商品名:PCA-1)を用いて、25℃で、インク滴下100ms後のインクの動的接触角を測定した。
E型粘度計(東機産業株式会社製、型番:TV-25、標準コーンロータ1°34’×R24使用、回転数50rpm)を用いて、32℃にて水系インクの粘度を測定した。
(7)水系インクの静的表面張力の測定
表面張力計(協和界面科学株式会社製、商品名:CBVP-Z)を用いて、白金プレートを5gの水系インクの入った円柱ポリエチレン製容器(直径3.6cm×深さ1.2cm)に浸漬させ、20℃にて水系インクの静的表面張力を測定した。
(8)水系インクのpHの測定
pH電極「6337-10D」(株式会社堀場製作所製)を使用した卓上型pH計「F-71」(株式会社堀場製作所製)を用いて、20℃における水系インクのpHを測定した。
硫酸ジエチル3.76g(0.024mol)及び2-エチル-2-オキサゾリン65.3g(0.66mol)を、脱水した酢酸エチル140g中に溶解し、窒素雰囲気下、8時間加熱還流し、末端反応性ポリ(N-プロピオニルエチレンイミン)を合成した。
ここに、側鎖1級アミノプロピル変性ポリジメチルシロキサン(重量分子量10万、アミノ当量:20500)500g(アミノ基にして0.024mol)の50%酢酸エチル溶液を一括して加え、12時間加熱還流した。反応混合物を減圧濃縮し、疎水性のN-プロピオニルエチレンイミン・ジメチルシロキサン共重合体を淡黄色ゴム状固体(537g、収率95%)として得た。重量平均分子量は149,000であった。
調製例1(前処理剤1の調製)
ガラス製容器にアミノ変性シリコーン:KF-393(信越化学工業株式会社製、アミノ当量:350g/mol、動粘度:70mm2/s、カチオン密度:3mmol/g)と、アセチレングリコール系界面活性剤:サーフィノール465(日信化学株式会社製、4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのエチレンオキシド(10モル)付加物、有効分100%)、及びKF-393と等量のメチルエチルケトンを添加した。撹拌しながら、pH7となるように3mol/L塩酸とイオン交換水を添加し、10分間撹拌した。その後、減圧蒸留してメチルエチルケトンを除去することで、転送乳化を行い、前処理剤1を得た。
調製例1において、アミノ変性シリコーン:KF-393の代りに、アミノ変性シリコーン:KF-889又はポリエーテル変性シリコーン:KF-643を用いて、表1に示す条件で、調製例1と同様にして、前処理剤2~4を得た。
比較調製例1~3(前処理剤11~13の調製)
調製例1において、表1に示す条件で、調製例1と同様にして、pH7となるように3mol/L水酸化ナトリウムで調整し、前処理剤11~13を得た。
比較調製例4(前処理剤14の調製)
調製例1において、アミノ変性シリコーン:KF-889の代りに、合成例1で得られた疎水性のオキサゾリン変性シリコーンを用いて、表1に示す条件で、調製例1と同様にして、前処理剤14を得た。
・KF-393:アミノ変性シリコーン(信越化学工業株式会社製、アミノ当量:350g/mol、動粘度:70mm2/s(25℃)、カチオン密度:3mmol/g)
・KF-889:アミノ変性シリコーン(信越化学工業株式会社製、アミノ当量:3000g/mol、動粘度:500mm2/s(25℃)、カチオン密度:0.34mmol/g)
・KF-643:ポリエーテル変性シリコーン(信越化学工業株式会社製、HLB:14、動粘度:19mm2/s(25℃)、カチオン密度:0mmol/g)
・PAS-H-1L:ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド水溶液(ニットーボーメディカル株式会社製、カチオン性ポリマー、重量平均分子量8500、カチオン密度:6mmol/g)
・PAA-HCl-05:ポリアリルアミン塩酸塩水溶液(ニットーボーメディカル株式会社製、カチオン性ポリマー、重量平均分子量5000、カチオン密度:11mmol/g)
メタクリル酸(和光純薬工業株式会社製)16部、スチレン(富士フイルム和光純薬株式会社製)44部、スチレンマクロモノマー「AS-6S」(東亞合成株式会社製、数平均分子量6,000、固形分50%)30部、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシド平均付加モル数:4、日油株式会社製、商品名:ブレンマーPME-200)25部を混合し、モノマー混合液115部を調製した。
反応容器内に、メチルエチルケトン18部及び連鎖移動剤である2-メルカプトエタノール0.03部、及び前記モノマー混合液の10%(11.5部)を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った。
一方、モノマー混合液の残りの90%(103.5部)と前記連鎖移動剤0.27部、メチルエチルケトン42部、及び重合開始剤2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)「V-65」(富士フイルム和光純薬株式会社製)3部を混合した混合液を滴下ロートに入れ、窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら75℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了から75℃で2時間経過後、前記重合開始剤3部をメチルエチルケトン5部に溶解した溶液を加え、更に75℃で2時間、80℃で2時間熟成させ、更にメチルエチルケトン50部を加え、水不溶性ポリマー(重量平均分子量:50,000、酸価:104mgKOH/g)の溶液を得た。水不溶性ポリマーa溶液の固形分濃度は45%であった。
1000mLセパラブルフラスコ中にメタクリル酸メチル(富士フイルム和光純薬株式会社製)145部、アクリル酸2-エチルヘキシル(富士フイルム和光純薬株式会社製)50部、メタクリル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)5部、ラテムルE118B(花王株式会社製、乳化剤、有効分26%)18.5部、イオン交換水96部、過硫酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)を仕込み、撹拌羽根で撹拌を行い(300rpm)モノマー乳化液を得た。
反応容器内に、ラテムルE118B 4.6部、イオン交換水186部、過硫酸カリウム0.08部を入れ窒素ガス置換を十分行った。窒素雰囲気下、撹拌羽根で攪拌(200rpm)しながら80℃まで昇温し、上記モノマー乳化液を滴下ロート中に仕込みのこのモノマー乳液を3時間かけて滴下、反応させ、水不溶性ポリマーb(重量平均分子量:50万、酸価:15mgKOH/g)の水分散体を得た。この水分散体中のポリマー粒子Bの固形分濃度は41.6%、平均粒径は100nmであった。
製造例1(顔料含有ポリマー粒子Aの水分散体の製造)
合成例2で得られた水不溶性ポリマーa溶液95.2部をメチルエチルケトン53.9部に溶かし、その中に中和剤として5N水酸化ナトリウム水溶液15.0部と25%アンモニア水0.5部、及びイオン交換水341.3部を加え、更にカーボンブラック顔料としてC.I.ピグメント・ブラック7(キャボット社製)100部を加え、顔料混合液を得た。中和度は78.8モル%であった。顔料混合液をディスパー(浅田鉄工株式会社製、ウルトラディスパー:商品名)を用いて、20℃でディスパー翼を7000rpmで回転させる条件で60分間攪拌した。得られた分散液をマイクロフルイダイザー「高圧ホモジナイザーM-140K」(Microfluidics社製)を用いて、180MPaの圧力で15パス分散処理した。
得られた顔料含有ポリマー粒子の分散液を、減圧下60℃でメチルエチルケトンを除去し、更に一部の水を除去し、遠心分離し、液層部分をフィルター「ミニザルトシリンジフィルター」(ザルトリウス社製、孔径:5μm、材質:酢酸セルロース)でろ過して粗大粒子を除き、顔料含有ポリマー粒子の水分散体(固形分濃度:25%)を得た。
得られた顔料含有ポリマー粒子Aの水分散体100部に対して、架橋剤(ナガセケムテックス株式会社製、デナコールEX-321L、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、エポキシ当量:129、水溶率:27%)を0.45部とイオン交換水15.23部を加え、撹拌しながら70℃、3時間の加熱処理を行った(架橋率:33%)。
室温まで冷却後、液層部分をフィルター「ミニザルトシリンジフィルター」(ザルトリウス社製、孔径:5μm、材質:酢酸セルロース)でろ過して粗大粒子を除き、顔料含有架橋ポリマー粒子の水分散体(固形分濃度:22.0%、顔料:17%、ポリマー:5%)を得た。顔料含有架橋ポリマー粒子の平均粒径は100.0nmであった。
製造例2(水系顔料インクの調製)
製造例1で得られた顔料含有架橋ポリマー粒子の水分散体(固形分濃度:22.0%)508.9g、合成例3で得られたポリマー粒子Bの水分散体(固形分濃度:41.6%)48.3g、プロピレングリコール(沸点188℃)308.0g、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(沸点220℃)22.0g、シリコーン系界面活性剤(信越化学工業株式会社製、KF-6011、PEG-11メチルエーテルジメチコン、25℃における動粘度:130mm2/s、HLB:12)2.2g、アセチレングリコール系界面活性剤(日信化学工業株式会社製、サーフィノール440、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのエチレンオキシド(3.5モル)付加物、有効分100%)5.5g、イオン交換水205.1gを添加して混合した。得られた混合液をフィルター「ミニザルトシリンジフィルター」(ザルトリウス社製、孔径:5.0μm、材質:酢酸セルロース)で濾過し、黒色水系インクを得た。結果を表2に示す。
調製例で得られた前処理剤と、製造例2で得られた水系インクの組み合わせを含むインクセットを用いて、下記(1)に示す方法で印捺物を作製し、下記(2)、(3)に示す方法で画像濃度の評価、ドット径の測定を行った。結果を表3に示す。
(1)印捺物の作製
布帛(株式会社色染社製、綿、ブロード40、シルケット加工あり、サイズ15cm×21cmに裁断)を、前処理剤を入れた浴中に25℃で10秒間浸漬し、その後60℃の恒温槽中で30分間乾燥させ、前処理をした布帛(印刷媒体)を準備した(前処理剤の付着量(固形分)8g/m2)。
室温25±1℃、相対湿度50±5%の環境で、インクジェットヘッド(京セラ株式会社製、「KJ4B-HD06MHG-STDV」、ピエゾ式)を装備したワンパス方式の印刷評価装置(株式会社トライテック製)に水系インクを充填した。
印刷ヘッド印加電圧26V、駆動周波数10kHz、吐出液適量12pL、印刷ヘッド温度32℃、印刷ヘッド解像度600dpi、負圧-4.0kPaを設定し、記録媒体の長手方向と搬送方向が同じになる向きに、記録媒体を搬送台に減圧で固定した。
前記印刷評価装置に印刷命令を転送し、搬送速度100mm/sでDuty100%のベタ画像を印刷し、インクジェット印捺物を作製した(インクの付着量(固形分)1.5g/m2)。得られた印捺物は直ぐに160℃の定温乾燥機にて1分間加熱乾燥させた。
(2)画像濃度の評価
分光光度計SpectroEye(X-Rite社製)を使用し、濃度フィルタ:DIN、絶対白色基準、変更フィルタ:なしの条件にて、印捺物の100%dutyベタ印刷部分の画像濃度を測定し、評価した。
デジタルマイクロスコープ(株式会社ハイロックス製、RH-2000)を用いて10%duty部のドット径を20点測定し、その平均値をドット径とした。
ドット径は画像の品質を評価するための指標の1つである。インク液滴が繊維上で弾かれるとドット径が小さくなり過ぎて画像濃度が低下し、繊維上で滲んでしまうとドット径が大きくなり過ぎて画像鮮明性が低下する。
ドット径は、インク液滴が繊維上で弾かれ、ドット径が小さくなり過ぎて画像濃度が低下するのを抑制する観点から、好ましくは40μm以上、より好ましくは50μm以上、更に好ましくは60μm以上であり、インク液滴が繊維上で滲んで画像鮮明性が低下するのを抑制する観点から、好ましくは155μm以下、より好ましくは120μm以下、更に好ましくは100μm以下、より更に好ましくは80μm以下である。
また、比較例12、13のように、動的接触角が75°以下であり、カチオン密度が高いカチオン性ポリマーであっても、親水性シリコーン樹脂でないものを用いると画像濃度が向上しないことが分かる。
さらに、比較例14のように、変性シリコーンであっても、動的接触角が75°を超えるものを用いると画像濃度が向上しないことが分かる。
実施例1において、前処理剤中のシリコーン樹脂の含有量を変えて、布帛への付着量(乾燥後質量)を測定した。また、その際の印捺物の画像濃度を測定し、付着量と画像濃度の関係を検証した。その結果を、実施例1と共に表4に示す。
Claims (8)
- 捺染用前処理剤と水系顔料インクの組み合わせを含む捺染用インクセットであって、
該前処理剤が、親水性シリコーン樹脂と水を含み、
該親水性シリコーン樹脂表面に対する、液適法により測定される該水系顔料インクの滴下100msec後の動的接触角が75°以下であり、
該親水性シリコーン樹脂が、カチオン密度が0.2mmol/g以上のカチオン性シリコーン樹脂である、捺染用インクセット。 - 親水性シリコーン樹脂が、アミノ変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、及びカルボキシ変性シリコーンから選ばれる1種以上である、請求項1に記載の捺染用インクセット。
- 捺染用前処理剤が、カチオン性シリコーン樹脂を2質量%以上含有する、請求項1又は2に記載の捺染用インクセット。
- 捺染用前処理剤が、更に多価金属塩を含む、請求項1~3のいずれかに記載の捺染用インクセット。
- 水系顔料インクがインクジェット印刷用である、請求項1~4のいずれかに記載の捺染用インクセット。
- 水系顔料インクが、顔料、水不溶性ポリマー、水溶性有機溶剤、及び水を含む、請求項1~5のいずれかに記載の捺染用インクセット。
- 下記の工程1及び2を有する捺染方法。
工程1:親水性シリコーン樹脂と水を含む捺染用前処理剤を布帛に付着させる工程
工程2:工程1で得られた布帛に水系顔料インクを付与する工程
ここで、親水性シリコーン樹脂表面に対する、液適法により測定される該水系顔料インクの滴下100msec後の動的接触角が75°以下であり、該親水性シリコーン樹脂が、カチオン密度が0.2mmol/g以上のカチオン性シリコーン樹脂である。 - 工程2において、水系顔料インクをインクジェット方式で布帛に付与する、請求項7に記載の捺染方法。
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