本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、下記成分(1)~(4)を含有してなることを特徴とする撥水性コーティング剤を見出した。
(1)両末端にシラノール基を有する数平均分子量(Mn)が50,000~200,00
0のジメチルシリコーンポリマー
(2)3官能性シラン化合物および/またはその部分加水分解縮合物
(3)脂肪族系炭化水素溶媒に溶解可能な有機カルボン酸ビスマス塩化合物およびチタニウム化合物
(4)溶剤
また、本発明者は上記課題を解決するコーティング膜の製造方法として、上記成分(1)~(4)を含有してなる撥水性コーティング剤を塗布し、極細の長繊維からなる布を用いて展延させることを特徴とする撥水性コーティング膜の製造方法を見出した。
本発明における両末端にシラノール基を有する数平均分子量(Mn)が50,000~200,000のジメチルシリコーンポリマーとは、両末端にSi-OHで表わされるシラノール基を有し、一般に市販されている材料が使用可能である。
高い撥水性、いわゆる水の静止接触角が高いコーティング膜、および高い表面滑り性を得るためには、数平均分子量(Mn)が50,000以上のジメチルシリコーンポリマーを用いることが必要である。数平均分子量(Mn)が50,000未満の分子量が小さいジメチルシリコーンポリマー材料は、高い撥水性、あるいは良好な塗膜表面の滑り性を得ることができない。より薄い膜厚で高い撥水性、あるいは塗膜表面滑り性を得るためには、数平均分子量(Mn)が55,000以上、さらに高い撥水性および塗膜表面の滑り性を得るためには数平均分子量(Mn)が60,000以上の両末端にシラノール基を有するジメチルシリコーンポリマーを用いることが好ましい。
一方、数平均分子量(Mn)が高いジメチルシリコーンポリマー材料は、高い撥水性に加えて塗膜表面滑り性発現にも有用であるが、ジメチルシリコーンポリマーの数平均分子量(Mn)が高くなるに伴って粘度が高くなり、とくに200,000を超えると流動性がほとんどなくなるため、拭き上げ性等の取り扱い性が極端に困難となる傾向にある。
しかし、数平均分子量(Mn)が200,000までのジメチルシリコーンポリマーでは塗装方法等の改良によって均一な塗膜を得ることが可能である。しかし、200,000を超えると塗装方法の工夫では対応が極めて困難であるばかりか、材料の製造そのものも困難となり、入手することが難しく、かつ高価となるため、実用性が乏しいという課題もある。
なお、数平均分子量(Mn)が高い材料と本発明成分(2)との相溶性をより高めるために比較的、数平均分子量(Mn)の小さいジメチルシリコーンポリマーを併用することも好ましく用いられる。
本発明で言うところの数平均分子量(Mn)は、通常の合成高分子の分子量測定に使用されるGPCシステム(Gel Permeation Chromatography System)を用いれば容易に測定可能である。例えば、東ソー株式会社製の高速GPC装置(HLC-8220GPC)を用い、クロロホルムを展開溶媒として用いる方法を挙げることができる。
本発明撥水性コーティング剤の使い易さの改良、および硬化速度のコントロール、べたつき性向上、油脂成分に対する防汚性改良などを目的に、先に述べた相溶性改良に有効な数平均分子量(Mn)が50,000未満の両末端にシラノール基を有するジメチルシリコーンポリマーを併用することが可能である。
さらには、コーティング膜の屈折率などを制御する目的で、フェニル基やトリフルオロプロピル基を含有する両末端にシラノール基を有するシリコーンポリマーなどを併用することも可能である。
本発明撥水性コーティング剤は、基板への濡れ性に優れているとは言い難いが、本発明撥水性コーティング剤は極薄い膜厚に塗布されるため、基板との強い親和力で均一塗布および耐久性確保を可能とするものである。
基板との濡れ性向上を図り、コーティング特性を向上させるためには、数平均分子量(Mn)が50,000未満の両末端にシラノール基を有するジメチルシリコーンポリマーを併用することが、塗膜性能を低下させることなく可能なことから好ましい。
かかる両末端にシラノール基を有する数平均分子量(Mn)が50,000未満のジメチルシリコーンポリマーやフェニル基含有シリコーンポリマー、トリフルオロプロピル基含有シリコーンポリマーなどの添加量は、あまり多くなり過ぎると撥水性を低下させる、塗膜表面の滑り性を低下させる傾向にあることから、目的とする特性との関係で決められるべきものである。
本発明の成分(1)である数平均分子量(Mn)が50,000~200,000の両末端にシラノール基を有するジメチルシリコーンポリマーで入手可能な材料としてはDMS-S42、DMS-S45、DMS-S51(GELEST Inc.製)などが挙げられる。
これら両末端にシラノール基を有するジメチルシリコーンポリマーは、単独で用いることも可能であるし、2種以上併用することも可能である。
以上の本発明の成分(1)と併用可能な数平均分子量(Mn)が50,000未満の両末端にシラノール基を有するジメチルシリコーンポリマーで入手可能な材料としては、PRX413、BY16-873(東レ・ダウコーニング製)、X-21-5841、KF-9701(信越シリコーン製)、DMS-S12、DMS-S14、DMS-S15、DMS-S21、DMS-S27、DMS-S31、DMS-S32、DMS-S33、DMS-S35(GELEST Inc.製)などを挙げることができる。
また、両末端にシラノール基を有するフェニル基含有シリコーンポリマーとしてはPDS-0338,PDS-1615(GELEST Inc.製)、トリフルオロプロピル基含有シリコーンポリマーとしてはFMS-9921,FMS-9922(GELEST Inc.製)などを挙げることができる。
次に、成分(2)について以下に述べる。本発明撥水性コーティング剤に含まれる成分(1)は、それ単独では液状、ないしは流動性はあるものの非常に高粘度の液状物であり、未硬化状態では撥水性に乏しく、さらにはべとつきが大きいため、実用性のあるコーティング膜は得られない。
よって、撥水性および滑り性に優れる成分(1)を含むコーティング膜を得るためには、三次元架橋させることが必要となる。そのために用いられる成分が成分(2)である。
すなわち、成分(2)を用いることで、コーティング膜は三次元架橋構造となり、撥水性、あるいは耐摩耗性、耐候性などの耐久性を有し、かつ塗膜表面の滑り性などを付与することが可能となる。
ここで、本発明成分(2)の含有量は成分(1)を3次元架橋させることで、べとつきや耐久性付与可能な量が含まれていれば十分であるが、通常、本発明の特徴である室温で硬化させることを可能とするためには、成分(1)100重量部に対して、成分(2)を5重量部~1,000重量部を用いることが望ましい。さらに撥水性と滑り性の両性能を満足させるためには、成分(1)100重量部に対して、成分(2)を10重量部~900重量部を用いることが好ましい。
なお、成分(2)における重量部とは使用される化合物が、湿気などによって硬化した後の残分量が一定になったときの重量として定義される部数を示す。ちなみに、成分(1)は実質的に揮発性を全く有していないので、使用重量そのものが重量部となる。よって、コーティング塗膜における成分(2)の重量部は硬化後の総重量部から成分(1)を差し引いた重量部として求めることができる。
成分(2)は、3官能性シラン化合物および/またはその部分加水分解縮合物であり、部分加水分解縮合物は通常、オリゴマーと呼ばれる化合物であるが、成分(1)である両末端にシラノール基を有する数平均分子量(Mn)が50,000~200,000のジメチルシリコーンポリマーを特殊な装置を必要とせずに硬化可能な材料であればとくに限定されないが、硬化速度、硬化膜の安定性、さらには硬化膜の撥水性および滑り性の耐久性付与等の観点から、以下の材料が好ましく用いられる。
ここで、3官能性シラン化合物としては、下記一般式(A)で表わされるシラン化合物が挙げられる。
R1Si(OR2)3 (A)
(ここで、R1は炭素数1~3のアルキル基、またはアルケニル基、OR2は加水分解性基である)。
炭素数1~3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基が挙げられる。中でも、撥水性と硬化性のバランスが優れるアルキル基としては、メチル基、エチル基が挙げられる。さらには、より耐久性を高めることが可能なアルキル基としては、メチル基が挙げられる。
アルケニル基としては、ビニル基やアリル基が挙げられるが、中でも熱や水分に対する安定性が高く、かつ入手が容易なことからビニル基が好ましく用いられる。
次に、加水分解性基であるOR2について述べる。OR2としては、加水分解が可能な官能基であれば、とくに限定されるものではないが、加水分解の容易さ、すなわち空気中の水分によって容易に加水分解反応が進行可能であるとの観点から、アシルオキシ基や低級アルコキシ基が好ましく用いられ、2種以上の混合基であっても良い。
中でも、室温環境下放置による硬化処理を考慮すれば、加水分解性に優れ、加水分解後の揮散性等から炭素数1から8のアシルオキシ基、アルコキシ基が挙げられる。中でも特に好ましい加水分解性基としては、少なくともその加水分解性基の一部以上がアセトキシ基、メトキシ基、エトキシ基が好ましい加水分解性基として挙げられる。さらに、本発明コーティング剤が特別な換気設備などを有していない環境下でも塗布可能なことが望まれることを考慮すると、揮散後の臭気や刺激性等の関係からメトキシ基、エトキシ基が好ましく、中でも適度な加水分解性を有し、かつ揮発性に優れ、臭気が少ないことからメトキシ基が最も好ましい。また、2種以上の混合基の場合には、少なくとも一つ以上がメトキシ基あるいはエトキシ基であることが好ましい。
3官能性シラン化合物の部分加水分解縮合物は、一般には通称オリゴマー家具物として呼ばれている化合物であるが、その化合物調整にはいろいろの手法が知られているが、最も標準的な方法としては、上記一般式(A)で表わされるシラン化合物をゲル化しない程度の水で加水分解し、その後、該加水分解物を熟成によって縮合させた化合物や、敢えて濃縮することで縮合をより進行させた化合物が挙げられる。
ここで、上記一般式(A)で表わされるシラン化合物が3官能性シラン化合物であること、さらには溶液塗布を可能とするために加水分解物をゲル化させないこと、および部分加水分解縮合物にする効果を考慮すると、加水分解に使用される水の添加量は3官能性シラン化合物1モルに対して1.20モル~0.04モル、よりゲル化を抑制しつつ、縮合を進行させるためには1.10モル~0.08モル、さらには1.05モル~0.16モルであることが望ましい。すなわち、0.04モル未満の場合には未反応3官能性シラン化合物の残存量が多くなり、部分加水分解縮合物にする効果が小さくなる。
また、加水分解性基がメトキシ基やエトキシ基を有し、かつR1官能基が低級アルキル基を有する化合物のような架橋反応が起こり易い3官能性シラン化合物の場合には1.10モル~0.40モル、さらに好ましくは1.05モル~0.50モルが最も好ましい。
加水分解に際しては、加水分解反応をスムーズに進行させ、より確実に進行させるためには、用いる水に酸や塩基を添加すること、あるいは加温することも有用な手段である。とくに、加水分解後に脱アルコールや脱カルボン酸を行う際には、濃縮後の部分加水分解縮合物中に酸や塩基を残存させないために、加水分解に用いる酸としては希塩酸が好ましい。希塩酸の濃度は加水分解官能基の種類やR1官能基の種類によって異なるが、通常は0.005規定~1.500規定の塩酸が用いられる。
上記一般式(A)で表わされる3官能性シラン化合物は通常、水との相溶性に乏しいため、加水分解反応が一部進行するまでは不均一反応となる。かかる反応の均一化を図る目的で3官能性シラン化合物にアルコールやアセトンなどのケトン化合物などを添加することも好ましく適用される。その際に添加するアルコールとしては加水分解後に生成するアルコールと同じ、ないしはそれよりも低級なアルコールが好ましい。
加水分解反応は通常、3官能性シラン化合物中に水を添加して行われるが、添加する水は、撹拌下で滴下しながら添加する方法、あるいは一度に添加しても何ら問題は無い。また、該加水分解反応は発熱を伴う反応であるため、加水分解によって生成するアルコール等が異常に揮発することを抑えるために、外温を冷却することも好ましい実施態様である。
また、加水分解後の脱水縮合は室温下で熟成することで十分進行可能であるが、より確実に脱水縮合を進行させるためには加水分解物を脱アルコール等による濃縮によって、より完全に脱水縮合反応を進行させることが可能である。
得られた部分加水分解縮合物は、GC(ガスクロマトグラム)等による分析結果から、生成したアルコール種および生成量から実質的にシラノール基を有さないアルコキシ基、あるいはアシルオキシ基を置換基として有する縮合化合物であることが確認できる。
最も簡便で有用な分析手段であるガスクロマトグラム分析について、その具体的な分析条件を以下に述べる。
ガスクロマトグラム装置としては一般市販の装置が使用でき、具体的装置としては株式会社島津製作所のGC-2010を挙げることができる。また、具体的分析条件を以下に記す。
カラム:信和化学株式会社製ULBON HR-52(内径0.25mm、長さ30mL、膜厚0.25ミクロンm)、
キャリアーガス:ヘリウム、流量(線速度)30cm/sec.
カラム注入のスピリット比:30対1
注入口温度:200℃
カラム温度:40℃/5分hold→毎分10℃昇温→100℃
検出温度:200℃
検出器:FID
本発明における一般式(A)で表わされる3官能性シラン化合物の具体的な代表化合物例としては、メチルトリアセトキシシラン、エチルトリアセトキシシラン、プロピルトリアセトキシシラン、イソプロピルトリアセトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メチルトリプロピオノキシシラン、エチルトリプロピオノキシシラン、プロピルトリプロピオノキシシラン、イソプロピルトリプロピオノキシシラン、ビニルトリプロピオノキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、プロピルトリプロポキシシラン、イソプロピルトリプロポキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリブトキシシラン、プロピルトリブトキシシラン、イソプロピルトリブトキシシラン、ビニルトリブトキシシランなどが挙げられる。
これらの3官能性シラン化合物は、そのままで組成物中に添加混合して用いることも可能である。しかし、一般的に3官能性シラン化合物は揮発性を有するものが多く、塗膜化段階で一部揮発し、さらにはその揮発量は温度や湿度などの環境に大きく依存することから、性能のばらつき要因となるため、あらかじめ加水分解し、部分加水分解縮合物として用いることが好ましい。また、部分加水分解縮合物は1分子内の加水分解官能基数が多くなるため、架橋度を高める効果があり、その結果、コーティング膜の耐久性向上にも有効である。
3官能性シラン化合物は、それぞれ単独で用いることも可能であるが、耐久性、硬化速度や撥水性のバランスを高める目的で、部分加水分解縮合物を含めて2種以上の3官能性シラン化合物を併用して使用することも可能であることは言うまでもない。
とくに撥水性、滑り性を満足させ、さらにはこれら性能の耐久性を高め、加えて性状が室温で液体のために取り扱い易さに優れることから、3官能性シラン化合物の中でも低級アルキル基と低級アルコキシ基、あるいは低級アシロキシ基を有する3官能性シラン化合物が好ましい。中でもメチルトリメトキシシラン化合物、エチルトリメトキシシラン化合物、メチルトリエトキシシラン化合物、エチルトリエトキシシラン化合物、またアシルオキシシラン化合物としてはメチルトリアセトキシシラン化合物、エチルトリアセトキシシラン化合物がとくに好ましく用いられる。
また、エチルトリアセトキシシラン化合物とメチルトリアセトキシシラン化合物との混合系は、室温で液体として取り扱うことが可能なこと、および架橋度をさらに高めることが可能なことから好ましい実施態様のひとつとして挙げられる。
さらに、3官能性シラン化合物の部分加水分解縮合物としてはメチルトリメトキシシラン化合物、メチルトリエトキシシラン化合物、エチルトリメトキシシラン化合物およびエチルトリエトキシシラン化合物の部分加水分解縮合物が、塗料の安定性、優れた成分(1)との相溶性、および溶剤への良好な溶解性、さらには塗布後の反応性などのバランスに優れることから良好な拭き上げ性を有し、もっとも好ましい。
3官能性シラン化合物は、塗料中の存在状態としては未縮合モノマーであっても、一部部分的に縮合した部分加水分解縮合物オリゴマーであっても、アルコキシ基として存在している限りは、何ら問題はない。
すなわち、3官能性シラン化合物中のOR2基は、3分の2以上が未加水分解状態、好ましくは2分の1以上が、さらに最も好ましくは10分の1以上が未加水分解状態のアルコキシ基やアシルオキシ基であることが、拭き上げ性および良好な外観確保の為に必要である。
また、かかる3官能性シラン化合物の部分加水分解縮合物は市販されている物をそのまま用いることも可能である。具体的な使用材料としては、KR-400N(信越化学工業株式会社製)を挙げることができる。
しかし、かかる市販されている3官能性シラン化合物の部分加水分解縮合物および新たに調整された3官能性シラン化合物の部分加水分解縮合物であっても、先に記述したガスクロマトグラム分析を行うと、少なからず加水分解生成物のアルコール、カルボン酸等が検出されることから、原料のみならず塗料調整および保管等における水分管理をきっちりと行うことが重要であることは言うまでもない。
一般式(A)で表わされる3官能性シラン化合物およびその部分加水分解縮合物は、先にガスクロマトグラム等で分析・同定することができることを述べたが、分析以外の手段として材料の物理定数である粘度等で規定することも可能である。液状材料の粘度は温度依存性のあることが知られており、本発明が室温下で使用されることから、粘度としては25℃で定義されるべきである。
かかる粘度パラメーターを用いて一般式(A)で表わされる化合物の好ましい範囲を規定すると、少し縮合が進んだ0.6 cps以上の化合物であることが望ましい。より好ましくは、粘度が0.75cps以上まで縮合を進展させた化合物が好ましく、更に、好ましくは粘度が0.85cps以上まで縮合を進展させた化合物が好ましく用いられる。また、縮合を進め過ぎて、粘度が5cps以上になると組成物系が不安定となるばかりか、成分(1)との相溶性不良が発生する。また、コーティング時の拭き上げ性を考慮すると粘度は3cps以下が好ましい。ちなみに、全く縮合が進んでいない3官能性シラン化合物であるメチルトリメトキシシラン化合物は、20℃における粘度が0.5cpsであることが知られており、これをアンドレードの式を用いて25℃に換算すると、約0.48cpsになる。一方、市販の加水分解縮合物であるKR-400Nは0.9cpsであり、耐久性のみならず、拭き上げ性の観点からも成分(2)として好ましい材料である。
3官能性シラン化合物の部分加水分解縮合物の構造としては、鎖状構造や環状構造を挙げることができるが、いずれの構造においても塗布後に架橋反応が可能なアルコキシ基やアセトキシ基などの官能基を有している。とくに塗料の安定性、塗布後の反応性、揮発性などの観点からアルコキシ基としてはメトキシ基やエトキシ基などの低級アルコキシ基が好ましい。
また、3官能性シラン化合物1分子内にアセトキシ基とアルコキシ基の2種以上を有する3官能性シラン化合物や異種のアルコキシ基を有する3官能性シラン化合物も硬化速度制御の観点から、好ましく用いられる。1分子内にアセトキシ基とアルコキシ基の2種の官能基を有する3官能性シラン化合物は、トリアセトキシシラン化合物に各種アルコールを適当量添加し、単に撹拌・混合することによる置換反応によって得ることができる。また、必要に応じて加熱等を行うことで、より簡単に得ることも可能である。また、異種のアルコキシ基を有する3官能性シラン化合物は、トリクロロシラン化合物に相当する混合アルコールを適当量添加し、単に撹拌・混合することによる置換反応によって得ることができる。
3官能性シラン化合物や3官能性シラン化合物の部分加水分解縮合物、さらにはトリアセトキシシラン化合物と各種アルコールとの置換反応によって得られる3官能性シラン化合物の成分分析、構造解析は先に述べたガスクロマトグラム以外にガスクロマトグラム/マススペクトル、FT-IR等用いることで容易に、且つより詳細に行うことができる。
本発明の成分(3)は成分(1)と成分(2)を3次元架橋させて撥水性と耐久性を向上させるために必須の成分であり、塗料としての実用性の観点から脂肪族系炭化水素溶媒に溶解可能なことが必要条件となる。
ここで脂肪族炭化水素溶媒とは、ノルマルヘプタン、ノルマルオクタンなどの単一溶媒に加えて、数種類の沸点を有するイソパラフィン系炭化水素化合物などの混合物などが挙げられる。
脂肪族系炭化水素溶媒に溶解可能な有機カルボン酸ビスマス塩化合物としては公知の有機カルボン酸ビスマス塩化合物を用いることができ、取り扱い安全性に優れ、かつ得られたコーティング膜を着色することなく、撥水性、滑り性およびその耐久性に優れた膜とすることができる。
かかる有機カルボン酸ビスマス塩化合物としては、下記一般式(B)で示される化合物であり、カルボン酸としては、脂肪族カルボン酸、脂環式カルボン酸、芳香族カルボン酸が挙げられる。脂肪族カルボン酸は直鎖または分岐鎖を有してもよく飽和脂肪族カルボン酸であっても不飽和脂肪族カルボン酸であってもよい。さらに、カルボン酸はヒドロキシ基を有していてもよい。
Bi(OOCR3)3 (B)
(但し、式中OOCR3は脂肪族カルボン酸、脂環族カルボン酸または芳香族カルボン酸のカルボン酸残基を表し、ヒドロキシ基を有していてもよい。)
これらのカルボン酸としては、炭素数1~21のものを挙げることができ、例えば酢酸、プロピオン酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸およびエイコサン酸などの飽和脂肪族カルボン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、アクリル酸、メタアクリル酸などの不飽和脂肪族カルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸などの脂環式カルボン酸、安息香酸、サリチル酸およびマンデル酸などの芳香族カルボン酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、ヒドロキシステアリン酸およびリシノール酸などのヒドロキシ基を挙げることができる。中でも反応性の観点、および安全に取り扱いができること、更には入手の容易さなどからオクチル酸ビスマス、2-エチルヘキシル酸ビスマス、ネオデカン酸ビスマス、ロジン酸ビスマス等の有機カルボン酸ビスマス塩化合物が好ましく用いられる。これらの有機カルボン酸ビスマス塩化合物は、一種単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
かかる有機カルボン酸ビスマス塩化合物を合成する場合、公知の方法である酸化ビスマスと有機カルボン酸とを反応させる方法によって容易に製造することが可能である。また、反応後に得られる生成物中に未反応の有機カルボン酸が含まれている場合、本発明においては、未反応有機カルボン酸を減圧化、あるいは洗浄等を行って除去して使用することもできるが、コスト面を考慮して未反応有機カルボン酸を含んだまま使用することも可能である。
有機カルボン酸ビスマス塩化合物の使用量は、特に限定されないが、その使用に際しては、未反応有機カルボン酸を含有した状態で用いられることを含めて、有機カルボン酸ビスマス塩化合物の使用量を規定する場合は、ビスマス含量を定めておいて使用することが好ましい。
本発明成分(3)の有機カルボン酸ビスマス塩化合物で入手可能な材料としては2-エチルヘキサン酸ビスマス(Bi25%)(和光純薬工業製)、プキャット25(Bi25%)、プキャットB7(Bi7%)、ネオデカン酸ビスマス(Bi16%)(日本化学産業製)、K-KAT348、XK-628、XK-640、XC-C227(キングインダストリーズ製)、カプリル酸ビスマス(高南無機製)、ネオスタンU-600(日東化成製)などが挙げられる。
本発明成分(3)のもう一つの成分である脂肪族系炭化水素溶媒に溶解可能なチタニウム化合物としては、チタニウムトリアルコキシドおよびその縮合物、さらにはチタニウムアルコキシドキレート化合物などが挙げられる。具体的にはチタニウムイソプロポキシド、チタニウムトリブトキシド、およびそれらの縮合物、さらにはチタニウムアルキルアセトアセテート・ジブトキシド、チタニウムエチルアセトアセテート・ジブトキシドなどのチタニウムキレート化合物などが挙げられる。とくにイソプロポキシドは反応速度の向上による耐久性向上に有用であり、ブトキシド化合物は塗料の保存安定性と硬化性のバランスに優れることから好ましい。
かかるチタニウム化合物で市販されていて入手可能な材料として具体的に使用可能な材料としては、オルガチックスTA-21、オルガチックスTA-23、オルガチックスTA-30(いずれもマツモトファインケミカル株式会社製)、D-20、D-25、D-175(いずれも信越化学工業株式会社製)を挙げることができる。
かかるチタニウム化合物は、有機カルボン酸ビスマス塩化合物と併用することによって、拭き上げ性を低下させることなく、塗膜の撥水性、耐久性向上に有効となるのである。
成分(3)の添加量は成分(1)と成分(2)の合計量100重量部に対して、1重量部~50重量部が使用可能であるが、好ましくは2.5重量部~45重量部、更に好ましくは5重量部~35重量部である。1重量部未満の場合は添加効果が無く、良好な耐久性を得ることができない。
チタニウム化合物の添加比量は、有機カルボン酸ビスマス塩化合物10重量部に対して、1重量部~30重量部であることが望ましい。とくに塗膜の外観向上のためには、2.5重量部~20重量部、また、より好ましくは4重量部~15重量部が望ましい。
また、本発明成分(2)の3官能性シラン化合物および/またはその部分加水分解縮合物を用いる理由は、単なる強固な3次元架橋構造にするためのみではなく、本発明が適用される大きな基板、具体的には車のボディーなどへの適用において、簡単且つ均一に塗布するためにも有効に働く。
なお、強固な3次元架橋構造を有するかどうかは、成分(1)、成分(2)を溶解可能な溶剤たとえばイソパラフィン系炭化水素溶剤であるアイソパーEや酢酸エチル溶剤中に室温下で数時間以上浸漬した後の残存固形分量や塗膜の撥水性などを測定することで確かめることができる。前者は一般的にはゲル分率と呼ばれ、高い耐久性を得るためには、ゲル分率が30%以上、さらに好ましくは40%以上が好ましい。かかる高いゲル分率とすることで屋外暴露試験一か月後の水の接触角保持率が95%以上、さらに好ましくは96%以上を有した被膜を実現することができる。
なお、成分(2)である3官能性シラン化合物および/またはその部分加水分解縮合物と成分(3)である有機カルボン酸ビスマス塩化合物およびチタニウム化合物の各成分の添加組成比は、成分(1)の種類や組成重量比によって、適宜、定められるべきであるが、通常、その組成添加重量比は、有機カルボン酸ビスマス塩化合物とチタニウム化合物の合計量1重量部に対して3官能性シラン化合物および/またはその部分加水分解縮合物が、0.5重量部~20重量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは1重量部~15重量部、最も好ましくは2重量部~10重量部の範囲である。
すなわち、成分(3)の添加組成比が少なすぎると、硬化速度が遅くなり、拭き上げ後の塗料固形分残存量が少なくなり、そのために高い撥水性を得ることができなくなる傾向にある。一方、成分(3)の添加組成比が多すぎると、拭き上げ性が劣る傾向にあり、簡単且つ均一に塗布することが困難となる。
また、成分(2)の3官能性シラン化合物および/またはその部分加水分解縮合物および成分(3)からなる組成物中には、塗料としての安定性、硬化後塗膜の撥水性、成分(1)との相溶性向上の観点から、塗料中における3次元化の進行が制御可能な範囲内であれば水分やアルコール等の活性プロトンを有する化合物が含有されていても何ら問題はない。一般に3官能性シラン化合物は揮発性が高く、安定した性能を有する塗膜を得るために少量の水で加水分解し、さらには縮合されている方が好ましい場合もある。
次に本発明の成分(4)について述べる。本発明撥水性コーティング剤は、成分(1)、成分(2)および成分(3)を成分(4)である溶剤で希釈した状態で保存・使用されることから、溶剤としてはこれら成分と均一混合可能な有機化合物が適用される。
本発明撥水性コーティング剤は成分(1)として両末端にシラノール基を有する数平均分子量(Mn)が50,000~200,000のジメチルシリコーンポリマーが用いられるが、ここで数平均分子量が高くなると粘度も高くなるため、無溶剤系で塗料化することは実質的に不可能であるばかりか、実用的でない。したがって、塗膜の均一化および塗料安定性の観点から、溶剤によって希釈して使用される。
本発明撥水性コーティング剤が、通常、室温環境下のような温和な条件下で使用されるため、少なくとも溶剤のうちの50wt%以上は1気圧下の沸点が60℃~300℃、より好ましくは70℃~250℃を有する、比較的揮発性の高い溶剤であることが好ましい。
また、本発明の成分(2)である3官能性シラン化合物および/またはその部分加水分解縮合物がアルコールなどの活性プロトンを有する化合物との反応性が高いことから、主溶剤としては塗料の安定性を維持し、塗膜の耐久性を高めるために、活性プロトンを有していない成分(2)および成分(3)に対して不活性な化合物が好ましく用いられる。
本発明成分(3)が脂肪族系炭化水素溶媒に溶解可能な有機カルボン酸ビスマス塩化合物およびチタニウム化合物であることから、最も好ましい溶剤としては、脂肪族系炭化水素溶媒を挙げることができる。
ここで脂肪族系炭化水素の具体的化合物としてはノルマルヘプタン、ノルマルオクタンなどに加えて、ノルマルノナン、ノルマルデカンなどを挙げることができる。更には数種類の沸点を有するイソパラフィン系炭化水素化合物の混合物なども挙げることができ、具体例としてはアイソパーE, アイソパーG, アイソパーH, アイソパーL, アイソパーM, アイソパーVなどが挙げられる。更にはあるいはナフテン系炭化水素化合物の混合物であるエクソールD30, エクソールD40, エクソールD60, エクソールD80, エクソールD110, エクソールD130やミネラルスピリットなども挙げることができる。
また、脂肪族系炭化水素の代替溶剤、あるいは添加混合溶剤として使用可能な代表的主溶剤としては、エーテル系化合物、エステル系化合物、芳香族炭化水素系化合物、ケトン系化合物、有機ハロゲン化物系化合物などがある。中でも安全性などの点から、エーテル系化合物、エステル系化合物が好ましい。
エーテル系化合物の具体的化合物としてはジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジアミルエーテルなどが挙げられる。
エステル系化合物の具体的化合物としてはエチルアセテート、プロピルアセテート、ブチルアセテート、アミルアセテート、イソアミルアセテート、ヘプチルアセテート、エチルブチレート、イソアミルイソバレレートなどが挙げられる。
芳香族炭化水素系化合物の具体的化合物としてはトルエン、キシレン、ジメチルベンゼン、トリメチルベンゼン、エチルベンゼンなどが挙げられる。
ケトン系化合物の具体的化合物としてはメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。
有機ハロゲン化物系化合物の具体的化合物としてはトリクロロエタン、トリクロロエチレンなどが挙げられる。
本発明が自然環境下の開放系で用いられることが多いことを考慮すると、芳香性を有するエチルアセテート、プロピルアセテート、ブチルアセテート、アミルアセテート、イソアミルアセテート、ヘプチルアセテート、エチルブチレート、イソアミルイソバレレートなどのエステル系を含んでなる溶剤が好ましい。
一方、臭気に敏感な作業者にとっては、臭いが弱く、毒性も比較的弱い脂肪族炭化水素系化合物が、とくに有用な溶剤であるが、かかる脂肪族炭化水素系化合物としては、前述の数種類の沸点を有するイソパラフィン系炭化水素化合物の混合物を挙げることができ、
これらの溶剤は、単独で用いてもよく、また2種以上を併用して用いても何ら問題はない。とくに、塗料を白濁させない、あるいは2層に分離させない範囲内で蟻酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、ラウリン酸、ステアリン酸などの有機酸、さらにはメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの低級アルコールなどを塗料溶剤として添加することも、塗料の保存安定性を向上させ得る点から有用である。とくにアルコールを添加する際には、3官能性シラン化合物がアルコキシ基を有する場合は加水分解官能基と同等、ないしはより低級のアルコール添加がコーティング後の反応性を低下させることなく、塗料の保存安定性向上に有効なことから好ましい。
さらには、かかる蟻酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、ラウリン酸、ステアリン酸などの有機酸を先に述べたアシルオキシシランとの反応によって、生成せしめるために溶剤中にメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、さらにはプロピレングリコールモノメチルエーテルやプロピレングリコールモノエチルエーテルなどのアルコールを適当量、溶剤中に添加することも可能である。
かかる溶剤の一部として用いる有機酸としては、塗料の安定性と硬化性とのバランスが優れることから長鎖有機カルボン酸が好ましく用いられる。また、その含有量は成分(3)の有機カルボン酸ビスマス塩化合物1モルに対して、0.1モル~50モルの範囲が好ましい。さらに好ましくは0.2モル~10モルの範囲で用いられる。更には、有機カルボン酸ビスマス塩化合物中に含まれる有機カルボン酸を長鎖有機カルボン酸として用いることも、当然可能な実施態様である。
また、本発明成分(2)の3官能性シラン化合物は、アルコキシ基の種類によっては、比較的沸点が低く、揮発性もあり、かつ成分(1)との相溶性に優れた化合物を溶剤の一部として用いることも可能である。
溶剤の含有量は固形分として定義されるが、塗料の安定性、十分な撥水性を得るのに必要な膜厚の確保、さらには斑の無い均一な塗膜を得るために、塗装方法にもよるが、通常は固形分が0.5wt%~30wt%の範囲で使用される。とくに撥水性に加えて塗膜表面の滑り性を確保するためには、1wt%~25wt%が好ましく用いられる。さらには耐久性を含めた性能確保のためには、2wt%~20wt%がより好ましく用いられる。種々の塗装方法や塗装条件にも適応可能な固形分としては、3wt%~17.5wt%の範囲がもっとも好ましい。
なお、固形分測定は、本発明が自然環境下などの温和な条件下で用いられることから、厳密に規定することは困難であるが、通常はアルミカップなどの容器に少量のコーティング剤を注ぎ、使用条件下で放置した後の残存重量を測定し、一定値に達した値を持って固形分とすることができる。また、測定時間の短縮を目的に乾燥機内等で加熱することも可能である。生産管理上の測定条件としては、100℃で残存重量が一定になる時間を求め、該条件を用いて固形分とすることも可能である。
本発明成分(1)は実質的に揮発性を有していないので、その固形分は100%である。しかし、本発明成分(2)の3官能性シラン化合物および/またはその部分加水分解縮合物、および成分(3)の有機カルボン酸ビスマス塩化合物とチタニウム化合物の固形分は、これら成分がいずれも空気中の水分によって少なくともその一部が加水分解等によって反応し、その後、成分(1)とも反応することが考えられるので、反応した後に得られる一定値となった値をもって固形分とすることが現実的である。
本発明撥水性コーティング剤は、成分(1)、成分(2)、成分(3)および成分(4)からなる組成物として保存・使用可能であるが、より保存時の変質を防ぐ目的で、あらかじめ成分(1)、成分(2)および成分(4)を主成分とする溶液と成分(3)および成分(4)からなる硬化剤成分溶液の2溶液を調整しておいて、使用前に混合することでより安定したコーティング剤とすることも実用面では好ましい実施態様である。
本発明撥水性コーティング剤中には、成分(1)、成分(2)および成分(3)以外の塗膜形成成分として、先に述べた数平均分子量(Mn)が50,000未満の両末端にシラノール基を有するジメチルシリコーンポリマー、さらにはフェニル基やトリフルオロプロピル基含有シリコーンポリマー以外に、4官能性シ
ラン化合物や2官能性シラン化合物、さらには各種界面活性剤など、多くの添加可能な材料がある。
とくに、4官能性シラン化合物は、基板との密着性や硬度をさらに高める目的で、撥水性を大きく低下させない範囲内で併用することが可能である。その具体的な代表化合物例としては、テトラアセトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラsec-ブトキシシランおよびかかる4官能性シラン化合物の部分加水分解縮合物などが挙げられる。
また、塗布時の拭き上げ性向上を目的とした硬化速度の制御に有効な添加材として、2官能性シラン化合物が挙げられる。該シラン化合物の具体例としては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、ジメチルジアセトキシシラン、メチルエチルジメトキシシラン、メチルエチルジエトキシシラン、メチルエチルジプロポキシシラン、メチルエチルジブトキシシラン、メチルエチルジアセトキシシラン、メチルプロピルジメトキシシラン、メチルプロピルジエトキシシラン、メチルプロピルジプロポキシシラン、メチルプロピルジブトキシシラン、メチルプロピルジアセトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジプロポキシシラン、メチルフェニルジブトキシシラン、メチルフェニルジアセトキシシランなどが挙げられる。中でも撥水性を低下させない点から、ジメチルシラン化合物が好ましく用いられる。
これら4官能性シラン化合物や2官能性シラン化合物は単に3官能性シラン化合物と混合して用いることができるが、3官能性シラン化合物を部分加水分解縮合物として用いる場合には、あらかじめそれぞれを均一混合液とした後に、加水分解・脱水縮合させて共縮合系の部分加水分解縮合物とすることが塗料としての均一性を高めるために有用な手段である。
本発明撥水性コーティング剤中には、基板への濡れ性、およびコーティング膜の平滑性を高める目的で各種界面活性剤が好ましく用いられる。界面活性剤としては、本発明成分(4)の溶剤に溶解可能であるフッ素系レベリング剤、シリコーン系レベリング剤、高分子エーテル系レベリング剤、ノニオン系レベリング剤などの中から選ばれた1種以上を使用することが好ましい。
とくに、塗膜の撥水性を低下させずに、界面活性効果を高めることが可能な材料として、フッ素系レベリング剤が好ましく用いられ、たとえばメガファックF-554(DIC社製)などが好ましい界面活性剤として挙げられる。
また、各種界面活性剤の添加量は、本発明撥水性コーティング剤に対して、10ppm~104ppmであることが望ましい。10ppm未満の場合は、界面活性剤のレベリング性に対する添加効果が小さく、104ppmを越える場合は界面活性剤が表面にブリードアウトして、指触性や撥水性が低下する傾向にある。
本発明撥水性コーティング剤は、基材表面に塗布後、特殊な硬化処理装置などを必要とせず、室温条件下に放置するのみで容易に硬化させることが可能である。具体的な温度条件としては、溶媒が揮散可能な温度であれば十分であるが、通常は5℃以上、好ましくは10℃以上が実用的な温度条件として推奨される。また、硬化時間を短縮させるために、加熱すること、あるいは乾燥を速めるために風を当てることも好ましい実施態様である。
次に本発明における滑り性について述べる。滑り性は表面摩擦係数で表すことができる。表面摩擦に関する実用的な評価としては、人の指や爪などで軽くこすることで良、不良を定性的に測ることが可能であるが、任意性を無くすための方法として用いられるのが表面摩擦係数である。該表面摩擦係数はTRIBOGEAR(HEIDON社製)TYPE:14FWを測定装置として用いることで再現性良く、かつ定量的な測定が可能である。
本発明撥水性コーティング剤の基板への塗布方法は、とくに制限されることはないが、具体的方法としては、ディッピング塗装、スプレー塗装、流し塗り法、刷毛塗り法、スピンコート法、塗料を含浸させた布やスポンジによる転写塗布法などが挙げられ、基板の大きさ、形状などによって適宜、選択されるべきである。
さらにもう一つの本発明であるコーティング膜の製造方法について述べる。すなわち、本発明は、下記成分(1)~(4)を含有してなる撥水性コーティング剤を塗布したのち、極細の長繊維からなる布を用いて展延(所謂拭き上げ)させる撥水性コーティング膜の製造方法である。
(1)両末端にシラノール基を有する数平均分子量(Mn)が50,000~200,00
0のジメチルシリコーンポリマー
(2)3官能性シラン化合物および/またはその部分加水分解縮合物
(3)脂肪族系炭化水素溶媒に溶解可能な有機カルボン酸ビスマス塩化合物およびチタニウム化合物
(4)溶剤
本発明撥水性コーティング剤の塗布方法として、成型品のような異型形状を有する物品には、刷毛塗り法や塗料を含浸させた布やスポンジによる転写塗布法およびスプレー塗装が非塗布部分をなくすことができることから好ましい。
とくに塗膜の均一性や平滑性を確保する方法として、刷毛塗り法、塗料を含浸させた布やスポンジによる転写塗布法、あるいはスプレー塗装で塗布した後に、薄膜塗装を可能とする極細の長繊維からなる布を用いて、展延(所謂拭き上げ)させる方法が実用的で、かつ良好な外観を得る方法である。
ここで、極細の長繊維からなる布の形態としては、一般にマイクロファイバーと呼ばれる糸からなる織物や編み物などを挙げることができ、シート状であってもタオル状であっても問題ない。さらに織物としては、表と裏がそれぞれ結節されたニ重織物、あるいは経糸が緯糸の上と下を交差させて織られた、いわゆる綾織物、さらには経糸と緯糸が5本以上から構成される織物である、朱子織などが挙げられる。とくに多量の塗料が転写塗布されてなる塗膜の展延(所謂拭き上げ)時には織物をタオル状とした布が好ましく用いられる。
また、展延に用いられる布材料としては、天然繊維、合成繊維、および天然繊維と合成繊維の混紡繊維、さらにはポリエステルとポリアミドなどの2種以上の合成繊維を複合化させた繊維なども使用することができる。とくに合成繊維は海島型構造からなる繊維、あるいは分割型構造からなる繊維が極細化可能なことからもっとも好ましい。さらには塗膜厚の均一化のためには、繊維直径としては1.0ミクロンmから7.5ミクロンm が好ましい。なかでもより塗膜厚みの均一化に望ましい繊維直径としては1.5ミクロンmから7.0ミクロンm が好ましく用いられる。
本発明の撥水性コーティング剤が疎水性を有し、かつ空気中の水分によって硬化が促進されることから、ポリエステル100%の材料と有機溶剤に可溶なポリマーを同時に紡糸した後に、可溶なポリマー成分を溶解除去した、いわゆる海島型構造からなる極細の長繊維が膜の表面均一性付与に優れることから好ましい布であるばかりでなく、耐久性向上にも有用なことから、少なくとも最終仕上げには好ましく用いられる。
また、両末端にシラノール基を有する数平均分子量(Mn)が50,000~200,000の高分子量ジメチルシリコーンポリマーを主成分として用いられている撥水性コーティング剤においては、展延(所謂拭き上げ)時にコーティング剤が布材料の内部まで浸透しにくいため、布表面に付着した状態で展延(所謂拭き上げ)される傾向にある。
よって、大面積基板などに適用する場合には展延(所謂拭き上げ)をスムーズに行わせるために、多量のコーティング剤が付着している初期段階は、コーティング剤を吸着除去し易い分割型構造からなる極細繊維を適用し、最終仕上げに表面が平坦な海島型構造からなる極細繊維を用いる2段階展延法が好ましい。
また、水分による硬化を促進する目的から水分を含浸させた布を展延(所謂拭き上げ)に用いることも有用な方法である。含浸させる水分量としては絞っても水の滴が落ちない程度であれば、十分な効果が期待される。
さらには水分中に少量の酸や塩基を含ませることも可能であり、具体的には希塩酸や希酢酸などの揮発性を有する酸化合物を含ませた水が展延(所謂拭き上げ)後の加水分解をよりスムーズに進行可能なことから、好ましく用いられる。
本発明撥水性コーティング膜はジメチルシリコーンポリマーが3次元架橋した構造を有することから、その屈折率は比較的低いため、光の反射を低減させることが可能となり、深みのある光沢性を有するという特徴もある。
しかし、コーティング膜の膜厚が厚くなり過ぎると光の干渉作用による縞模様や塗り斑が目立ちやすく、意匠性に劣る傾向がある。また、コーティング膜の膜厚が薄くなりすぎると、撥水性効果が低下する傾向にあるばかりでなく、表面滑り性も低下傾向にある。また、被塗装基板上の傷を埋める効果も小さく、さらには光の反射低減による深みのある光沢性の発現が低下する傾向となる。
よって、本発明撥水性コーティング剤から得られるコーティング膜の膜厚は、可視光波長より薄く、撥水性確保に必要な膜厚である4nm~200nm、より好ましくは6nm~100nm、さらに好ましくは8nm~80nmが推奨される。
本発明撥水性コーティング剤は、基板に塗布したのち、室温環境下で自然乾燥によって硬化させるのみで十分な撥水性、表面塗膜の滑り性、耐候性、耐薬品性などの耐久性を有する撥水性コーティング膜となる。
本発明撥水性コーティング剤の硬化条件としては、通常の自然環境条件で十分に硬化が可能であるが、撥水性をさらに高める施策として湿度の高い環境下、具体的には50%RH、より好ましくは60%RH以上の湿度環境下で硬化せしめることが好ましい。湿度を高める手段としては、床に水や温水を張る方法,あるいは水のミスト散布などが簡便で、かつ有効な方法として挙げられる。
本発明撥水性コーティング剤の硬化時間を短縮する方法としては、乾燥を速めるために送風すること、あるいは車への適用時には車のエンジンをかけてボンネットを含めた車体の温度を上げることも有効な方法として挙げられる。
本発明撥水性コーティング剤によって得られるコーティング膜は、撥水性が高く、耐久性、滑り性、耐候性に優れることから、通常は人の手や指、さらには布やペーパー類などで擦すられることの多い用途、あるいは雨水や水道水などが降りかかる用途に適用されることが好ましい。
本発明撥水性コーティング剤の硬化反応が、いかなる化学的変化を伴っているかを完全に解明するには至っていないが、基本的にはジメチルシリコーンポリマーの両末端シラノール基が架橋剤である3官能性シラン化合物および/またはその部分加水分解縮合物の加水分解生成物と有機カルボン酸ビスマス塩化合物およびチタニウム化合物を直接的、あるいは間接的に反応した構造となっているものと推定される。
すなわち、高い数平均分子量(Mn)の両末端シラノール基を有するジメチルシリコーンポリマーが、3次元的に架橋構造を形成することによって良好な特性を発現していると考えられる。
また、成分(2)である3官能性シラン化合物および/またはその部分加水分解縮合物や成分(3)である有機カルボン酸ビスマス塩化合物およびチタニウム化合物の加水分解、および硬化反応スキームの詳細についても、未だ確定するには至っていないが、恐らく協奏的に、複雑な反応系で進行していると推定される。
本発明撥水性コーティング膜は、表面エネルギーが低く、優れた撥水性を有しており、さらにコーティング膜は高度に3次元架橋されたものであるため、撥水性、表面塗膜の滑り性などに加えて、耐候性、耐薬品性などに優れた高い耐久性を有する。
本発明における撥水性を評価する方法としては、微小な水滴を塗膜表面に形成させ、その時の水と塗膜表面との間に生じる、いわゆる水の静止接触角を測定する方法が最も一般的である。また、水の静止接触角は、“自動接触角計”(FACE社製)CA-Z型を測定装置として用いることで測定が可能である。
本発明における撥水性に優れるコーティング膜とは、水の静止接触角が高く、具体的には、その初期における接触角が被コーティング基板より高い接触角を有する膜を意味する。さらに高い撥水性を有する膜としては静止接触角が100度以上、理想的な高い撥水性を有する膜としては静止接触角が102度以上を有する膜が挙げられる。
すなわち、水の静止接触角が基板より低い膜は撥水性コーティング膜を設ける意味が無く、また、静止接触角が100度未満の膜においては、雨水や浄水、さらには酒類などの液体材料が、膜表面に付着した場合、膜表面から落下しにくくなることから、撥水性コーティング膜を設ける意味が小さい。
かかるコーティング膜では表面に水滴などが残り易く、高級感を損なうばかりでなく、乾燥後に塗膜上に雨染み、あるいは水焼け等と呼ばれる表面外観不良を起こしやすいという問題がある。
また、本発明における耐久性とは、長期間の使用に耐えるかどうかを判断するための尺度であり、具体的には一カ月間以上の屋外曝露試験後の撥水性保持率が90%以上、さらには、シリコーン成分が溶解する溶剤、例えばイソパラフィン系炭化水素であるアイソパーEやエチルアセテート、あるいはその混合物系などに浸漬した後の撥水性保持率が90%以上であることを意味する。