JP7356035B2 - 鍛造用材料、鍛造部材およびその製造方法 - Google Patents
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Description
(1)本発明の一態様に係る鍛造用材料は、外側鋼材と内側鋼材とを備える、側方押出しによる鍛造用材料であって、前記外側鋼材の組成が、質量%で、C:0.60~1.60%、Si:0.05~2.00%、Mn:0.20~1.50%、P:0.001~0.030%、S:0.005~0.025%、Al:0.005~0.100%、N:0.0010~0.0250%を含有し、さらに、Cr:0.50~2.00%、Mo:0.20~2.00%、V:0.40~1.50%、W:0.30~1.50%からなる群から選択される1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不純物より成り、前記内側鋼材の組成が、質量%で、C:0.05~0.40%、Si:0.05~0.50%、Mn:0.20~1.00%、P:0.001~0.030%、S:0.005~0.025%、Al:0.005~0.100%、N:0.0010~0.0250%、Cr:0.01~0.30%を含有し、残部がFeおよび不純物より成り、前記鍛造用材料が、側方押出しされる箇所において、前記鍛造用材料の軸方向と垂直な面における前記外側鋼材の面積S1と前記内側鋼材の面積S2とが式1を満たし、端面拘束圧縮試験にてひずみ速度10s-1で得られた変形抵抗で、相当塑性ひずみ1.5における前記外側鋼材の変形抵抗σ’1と前記内側鋼材の変形抵抗σ’2とが、式2を満たす。
0.90≧S2/(S1+S2) <式1>
σ’1×S1/(S1+S2)+σ’2×S2/(S1+S2)≦750[MPa] <式2>
(2)上記(1)に記載の鍛造用材料では、前記外側鋼材と前記内側鋼材との間のクリアランスが0.1mm~2mmであってもよい。
(3)上記(1)又は(2)に記載の鍛造用材料では、前記外側鋼材が、ボンデリューベ処理皮膜を有してもよい。
(4)本発明の別の態様に係る鍛造部材は、上記(1)に記載の化学成分を備える外側鋼材と内側鋼材とで形成された基部と、前記基部から外方に突出した突出部とを備え、前記突出部が、前記基部における前記外側鋼材の部分から突設させた外側突部と、前記基部における前記内側鋼材の部分から突設され、且つ前記外側突部内の少なくとも一部の空間に充填された内側突部とを備え、前記外側突部の厚さが0.5mm以上である。
(5)上記(4)に記載の鍛造部材では、前記突出部の根元における前記外側鋼材の面積SP1と前記内側鋼材の面積SP2との比率RPと、前記基部における、前記突出部の近傍における前記外側鋼材の面積SB1と前記内側鋼材の面積SB2との比率RBとが、下記式3~式5を満たしてもよい。
RP=SP2/(SP1+SP2) <式3>
RB=SB2/(SB1+SB2) <式4>
|(RP-RB)/RP|≦5% <式5>
(6)上記(4)又は(5)に記載の鍛造部材では、前記外側突部のビッカース硬さが660HV以上であってもよい。
(7)本発明の別の態様に係る鍛造部材の製造方法は、上記(4)~(6)のいずれか一項に記載の鍛造部材の製造方法であって、上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の鍛造用材料を鍛造加工する工程と、鍛造された前記鍛造用材料に焼入焼戻し処理をする工程と、を備え、前記鍛造加工を、前記鍛造用材料に対する側方押出しとし、前記側方押出しによって、前記基部および前記突出部を成形し、前記突出部は、前記側方押出しに際して、前記内側突部が前記外側突部内に入り込んだ状態とし、前記突出部を、0.90≧S2/(S1+S2)が満たされる箇所に設ける。
(8)上記(7)に記載の鍛造部材の製造方法では、前記焼入焼戻し処理が、高周波焼入焼戻し処理であってもよい。
2.鍛造用材料の外側鋼材においては、C含有量を高め、さらにMo、及びV等の合金炭化物生成元素を含有させることとした。鍛造用材料の外側鋼材は、鍛造後に鍛造部材の表層部を構成することとなる。従って、鍛造用材料の外側鋼材の成分を上述のように制御することで、鍛造部材の表面硬さ及び硬化層深さを増大させ、鍛造部材の耐摩耗性を高めることができた。
3.鍛造用材料の内側鋼材においては、外側鋼材と比較して、C含有量、及びその他の合金元素の含有量を低いものとした。これにより、鍛造用材料の鍛造における成形荷重を低減し、加工性を高めることができた。
4.外側鋼材と内側鋼材とから構成される複合材料に大きな塑性変形を生じさせると、外側鋼材の破断などが生じる場合がある。そこで、外側鋼材の面積S1と内側鋼材の面積S2との比率を所定範囲内とした。さらに、外側鋼材の変形抵抗と内側鋼材の変形抵抗とが所定の関係を満たすこととした。これにより、例えば側方押出しのような複雑形状を形成する鍛造加工を、複合材料に適用することが可能となった。
0.90≧S2/(S1+S2) <式1>
σ’1×S1/(S1+S2)+σ’2×S2/(S1+S2)≦750[MPa] <式2>
以下に、まず、本実施形態に係る鍛造用材料について詳細に述べる。
まず、本実施形態に係る鍛造用材料1を構成する外側鋼材11と内側鋼材12の化学成分について説明する。以下に示す各元素の割合(%)は全て質量%を意味する。
C(内側鋼材):0.05~0.40%
炭素(C)は鋼材の強度を確保する上で必須の元素である。鍛造後に鍛造部材の表層部を構成することとなる、鍛造用材料の外側鋼材は、高い耐摩耗性を実現するために、焼入焼戻し後の硬さが660HV以上である必要がある。そのため、外側鋼材のC含有量は0.60~1.60%の範囲とする。外側鋼材のC含有量が0.60%未満では、焼入焼戻し後でも660HV以上のビッカース硬さが得られない。一方、外側鋼材のC含有量が1.60%を超えると、外側鋼材の鋳造及び熱間圧延時の延性を劣化させる。そのため、外側鋼材のC含有量を0.60~1.60%とする。外側鋼材のC含有量を0.70%以上、0.80%以上、又は1.00%以上としてもよい。外側鋼材のC含有量を1.50%以下、1.40%以下、又は1.20%以下としてもよい。
Si(内側鋼材):0.05~0.50%
シリコン(Si)は焼戻し軟化抵抗を向上させ、温度上昇に伴う軟化を抑制する効果を有する、有用な元素である。外側鋼材において、Si含有量が0.05%未満では前記作用が発揮できない。一方、外側鋼材において、Si含有量が2.00%を超えると前記作用が飽和し始め、含有量に見合う効果が期待できない。そのため、外側鋼材のSi含有量を0.05~2.00%とする。外側鋼材のSi含有量を0.10%以上、0.20%以上、又は0.50%以上としてもよい。外側鋼材のSi含有量を1.50%以下、1.40%以下、又は1.20%以下としてもよい。
Mn(内側鋼材):0.20~1.00%
マンガン(Mn)は焼入性を高めると同時に、赤熱脆性を抑制し、熱間延性を向上させる元素である。外側鋼材のMn含有量が0.20%未満では、前記作用が発揮できない。一方、外側鋼材のMn含有量が1.50%を超えると、含有量に見合う効果が期待できない。そのため、外側鋼材のMn含有量を0.20~1.50%とする。外側鋼材のMn含有量を0.25%以上、0.30%以上、又は0.40%以上としてもよい。外側鋼材のMn含有量を1.40%以下、1.30%以下、又は1.20%以下としてもよい。
リン(P)は不純物として含まれる元素である。Pは粒界に偏析して粒界強度を下げる。そのため、P含有量はなるべく低い方が良い。そのため、外側鋼材および内側鋼材の両方におけるP含有量の上限を0.030%以下とする。外側鋼材および内側鋼材の両方におけるP含有量の好ましい上限は0.020%、0.018%、又は0.015%である。一方、Pは製鋼工程において低減することができるものの、0.001%未満とするには製造コストがかかり、また0.001%未満としても粒界強度が顕著に向上することはない。そのため、外側鋼材および内側鋼材の両方におけるP含有量の下限を0.001%以上、0.002%以上、又は0.005%以上としてもよい。外側鋼材及び内側鋼材においてP含有量の数値範囲を異ならせてもよい。
硫黄(S)は鍛造用材料の被削性を向上させるため、0.005%以上を含有させる。しかし、S含有量が多すぎると、Mnによって固定されなかったSがFeSとして粒界に生成することで、熱間延性が低下する。また、大量に生成したMnSによって、耐摩耗性が低下する。そのため、鍛造部材の表層部を構成する外側鋼材および基材部を構成する内側鋼材におけるS含有量の上限を0.025%以下とする。したがって、外側鋼材および内側鋼材のS含有量をともに0.005~0.025%とする。外側鋼材および内側鋼材のS含有量を0.008%以上、0.010%以上、又は0.015%以上としてもよい。外側鋼材および内側鋼材のS含有量を0.022%以下、0.020%以下、又は0.018%以下としてもよい。外側鋼材及び内側鋼材においてS含有量の数値範囲を異ならせてもよい。
アルミニウム(Al)は脱酸作用を有するとともに、熱処理の際、Nと結合してAlNを形成することによりオーステナイト粒の粗大化を防止し、靭性を高める効果を持つ。鍛造部材の表層部を構成する外側鋼材および基材部を構成する内側鋼材のAl含有量が0.005%未満ではこれらの効果が発揮されず、一方、0.100%を超えると上記効果が飽和する。そのため、外側鋼材および内側鋼材のAl含有量をともに0.005~0.100%とする。外側鋼材および内側鋼材のAl含有量を0.008%以上、0.010%以上、又は0.015%以上としてもよい。外側鋼材および内側鋼材のAl含有量を0.080%以下、0.060%以下、又は0.050%以下としてもよい。外側鋼材及び内側鋼材においてAl含有量の数値範囲を異ならせてもよい。
窒素(N)はAl、Vと結合して窒化物を形成することによりオーステナイト粒の粗大化を防止し、靭性を高める効果を有する。鍛造部材の表層部を構成する外側鋼材および基材部を構成する内側鋼材のN含有量が0.0010%未満ではその効果が小さく、一方、0.0250%を超えると上記効果が飽和する。そのため、外側鋼材および内側鋼材のN含有量をともに0.0010~0.0250%とする。好ましくは、外側鋼材および内側鋼材のN含有量を0.0030~0.0150%とする。外側鋼材及び内側鋼材においてN含有量の数値範囲を異ならせてもよい。
クロム(Cr)は鋼材の焼入性を高めると同時に、硬い炭化物を形成し耐摩耗性を向上させる有用な元素である。鍛造部材の基材部を構成する内側鋼材には高い焼入性・耐摩耗性は必要なく、部品加工時の鍛造性および被削性が優先される。また、Crはセメンタイトを安定化させる元素でもあり、球状化焼鈍時に球状セメンタイト生成に必要な核をわずかに残すために、微量添加する。0.01%未満だとその効果が小さく、一方、0.30%を超えると、部品加工時の鍛造性および被削性を悪化させる。そのため、内側鋼材のCr含有量を0.01~0.30%とする。内側鋼材のCr含有量を0.02%以上、0.05%以上、又は0.10%以上としてもよい。内側鋼材のCr含有量を0.25%以下、0.20%以下、又は0.18%以下としてもよい。
鍛造部材の表層部を構成する外側鋼材において、Cr、Mo、VおよびWは、1種または2種以上を含有する。以下、各元素について説明する。
前述のように、クロム(Cr)は鋼材の焼入性を高め、耐摩耗性を向上させる元素である。鍛造部材の表層部を構成する外側鋼材のCr含有量が0.50%未満では上記作用が発揮できず、一方、2.00%を超えると部品加工時の鍛造性および被削性を低下させる。そのため、外側鋼材のCr含有量を0.50~2.00%とする。外側鋼材のCr含有量を0.60%以上、0.80%以上、又は1.00%以上としてもよい。外側鋼材のCr含有量を1.80%以下、1.60%以下、又は1.40%以下としてもよい。
モリブデン(Mo)は鋼材の焼入性を高めると同時に、硬い炭化物を形成して耐摩耗性を向上させる有用な元素である。鍛造部材の表層部を構成する外側鋼材のMo含有量が0.20%未満では上記作用が発揮できず、一方、2.00%を超えると部品加工時の鍛造性および被削性を低下させる。そのため、外側鋼材のMo含有量を0.20~2.00%とする。外側鋼材のMo含有量を0.30%以上、0.50%以上、又は0.80%以上としてもよい。外側鋼材のMo含有量を1.50%以下、1.20%以下、又は1.00%以下としてもよい。
バナジウム(V)は硬い炭化物を形成して耐摩耗性を向上させるとともに、結晶粒を微細化して靭性を向上させる有用な元素である。表層部のV含有量が0.40%未満では耐摩耗性向上効果が発揮できず、一方、1.50%を超えると部品加工時の鍛造性および被削性を低下させる。そのため、外側鋼材のV含有量を0.40~1.50%とする。外側鋼材のV含有量を0.50%以上、0.60%以上、又は0.80%以上としてもよい。外側鋼材のV含有量を1.40%以下、1.30%以下、又は1.00%以下としてもよい。
タングステン(W)は鋼材の焼戻し軟化抵抗を高めると同時に、硬い炭化物を形成して耐摩耗性を向上させる有用な元素である。鍛造部材の表層部を構成する外側鋼材のW含有量が0.30%未満では上記作用が発揮できず、一方、1.50%を超えると部品加工時の鍛造性および被削性を低下させる。そのため、外側鋼材のW含有量を0.30~1.50%とする。外側鋼材のW含有量を0.40%以上、0.50%以上、又は0.80%以上としてもよい。外側鋼材のW含有量を1.40%以下、1.30%以下、又は1.00%以下としてもよい。
外側鋼材11は中空状の鋼材であり、内側鋼材12は外側鋼材11の内部に配置されている。本実施形態に係る鍛造用材料1を側方押出しに供する場合、図2に示されるように、内側鋼材12を例えば棒鋼とし、外側鋼材11をパイプ状形状とすることが好ましい。図2に示される鍛造用材料1を側方押出しすることによって、図7に示される鍛造部材2を得ることができる。
外側鋼材11は、本実施形態に係る鍛造用材料1を加工して得られる鍛造部材2において、他の鋼部材と接触して摺動する部位である表層部を構成する。よって、本実施形態に係る鍛造用材料1の外側鋼材11は、少なくとも、鍛造部材2の表面のうち摺動を受ける部分を覆ったものでなければならない。さらに外側鋼材11は、所定条件の焼入焼戻し後に高い耐摩耗性を有する必要がある。そのため、外側鋼材11には、前述のようにCr、Mo等の硬質な合金炭化物生成元素と、高濃度のCとを含有させ、これにより所定条件の焼入焼戻し後のビッカース硬さが660HV以上となるようにする。鍛造用材料1の表層部にあたる外側鋼材11のビッカース硬さが、所定条件の焼入焼戻し後に660HV未満であると、鍛造部材2の表層部の耐摩耗性を確保できなくなる。ただし、焼入焼戻し前の段階における外側鋼材11の硬さは特に規定されない。鍛造加工前の段階では、加工性を考慮すると、外側鋼材11の硬さが低いほうが好ましい。
0.90≧S2/(S1+S2) <式1>
なお、鍛造用材料1の全域にわたり式1が満たされる必要はない。少なくとも鍛造によって大きな変形を受ける箇所、即ち側方押出しされる箇所において式1が満たされていればよい。例えば、図3に示されるように、外側鋼材11の面積S1と内側鋼材12の面積S2との割合が一様であってもよい。一方、鍛造用材料1が側方押出しによる鍛造加工用である場合、少なくとも側方押出される箇所において式1が満たされていれば足りる。従って、例えば図4に示されるように、鍛造用材料1の一部に外側鋼材11が配されていてもよい。図4の鍛造用材料1では、その両端において式1が満たされないこととなるが、側方押出される箇所に外側鋼材11が配されており、この箇所において式1が満たされていればよい。また、例えば図5に示されるように、外側鋼材11の両端がテーパー形状を有することも妨げられない。図5の鍛造用材料1でも、その両端において式1が満たされないこととなるが、側方押出される箇所に外側鋼材11が配されており、この箇所において式1が満たされていればよい。
σ’1×S1/(S1+S2)+σ’2×S2/(S1+S2)≦750[MPa] <式2>
ここで、上記変形抵抗は、ひずみ速度10s-1で端面拘束圧縮試験を行って得られる値である。
本実施形態の鍛造用材料における内側鋼材12は、必ずしもその全面が外側鋼材11に覆われていなくともよい。他の部品と接触しない表面において、内側鋼材12が露出していてもよい(図4参照)。例えば、本実施形態の鍛造用材料1からなる十字軸継手における中心軸方向には内側鋼材12が露出する場合があるが、この部分には耐摩耗性が要求されないため、内側鋼材12が露出していてもよい。また、内側鋼材12の内部に空洞が設けられてもよい。このような鍛造用材料を側方押出しに供した場合、内側鋼材12の内部の空洞は、側方押出し軸が形成される前に内側鋼材12によって充填され、消失すると考えられる。従って、上述した鍛造用材料1の軸方向と垂直な面における内側鋼材12の面積S2に、空洞部の面積は算入しない。
本実施形態の鍛造用材料1を鍛造加工することにより鍛造部材2が成形される。本実施形態の鍛造部材2は、外側鋼材21と内側鋼材22とで形成された基部23と、基部23から外方に突出した突出部24とを備えている。鍛造部材2の外側鋼材21及び内側鋼材22の成分は、上述された鍛造用材料1の外側鋼材11及び内側鋼材12の成分と同じである。また、突出部24は、基部23を形成する外側鋼材21の所定の部分から突設させた外側突部241と、基部23を形成する内側鋼材22の部分から突設され、且つ外側突部241内の少なくとも一部の空間に充填された内側突部242とで一体に成形されている。ここで、突出部24を形成する内側突部242は、外側突部241内の全空間に充填されていてもよいが、必ずしも外側突部241内の全空間に充填されている必要はなく、外側突部241内の一部に入り込んだ状態、すなわち、外側突部241と内側突部242との間に空間が形成された状態であってもよい。
RP=SP2/(SP1+SP2) <式3>
RB=SB2/(SB1+SB2) <式4>
|(RP-RB)/RP|≦5% <式5>
ここで、式3~5における記号は、以下の事項を示す。
SP1:突出部24の根元における外側鋼材21の面積
SP2:突出部24の根元における内側鋼材22の面積
RP:SP1及びSP2の比率
SB1:基部23における、突出部24の近傍における外側鋼材21の面積
SB2:基部23における、突出部24の近傍における内側鋼材22の面積
RB:SB1及びSB2の比率
以下、本実施形態の鍛造用材料を用いた鍛造部材の製造方法を説明する。本実施形態に係る鍛造部材の製造方法は、本実施形態に係る鍛造用材料1を鍛造加工する工程と、鍛造された鍛造用材料1に焼入焼戻し処理をする工程と、を備え、鍛造加工を、鍛造用材料1に対する側方押出しとし、側方押出しによって基部23および突出部24を成形し、突出部24は、側方押出しに際して、内側突部242が外側突部241内に入り込んだ状態とし、突出部24を、0.90≧S2/(S1+S2)が満たされる箇所に設ける。以下、この製造方法について詳細に説明する。
まず、表1の「外側鋼材」と「内側鋼材」に示す化学成分を有する鋼を溶製し、連続鋳造によりビレットを作製した。表1において、下線が付された値は、本発明の発明範囲外である。また、表1において、意図的に添加されていない元素の含有量は、空白で示した。
ただし、表1の本発明例1は、外側鋼材の内径と内側鋼材の外径を47.5mmとし、比較例10は外側鋼材の内径と内側鋼材の外径を48.7mmとすることで、内側鋼材の割合を増加させた。また、比較例9は、外側鋼材の内径と内側鋼材の外径を35.5mmとすることで、内側鋼材の割合を減少させた。さらに、単一鋼材からなる比較例19~21も作成した。これらの製造方法などについては後述する。
σ’1×S1/(S1+S2)+σ’2×S2/(S1+S2)≦750[MPa]
を満たす場合を、本発明の範囲内であるとして合格と判定した。
比較例20及び21も、単一鋼材から構成されたものである。その外径は、上述の例1~18の外側鋼材の外径と同一とした。その製造方法は、上述の例1~18の内側鋼材の製造方法と同一とした。これに、例1~18と同じ条件で側方押出をした。そして、例1~18と同じ方法で耐摩耗性評価と硬さ測定を行った。
表1のNo.1~8が本発明例で、その他(No.9~21)は比較例である。これら発明例及び比較例の内側鋼材面積割合、σ、最大成形荷重、摩耗重量、及び外側鋼材の焼入れ焼戻し後硬さを表2に記載した。表2において、発明範囲外の値、及び合否基準に満たない値には下線を付した。なお、表中の「σ」とは、σ’1×S1/(S1+S2)+σ’2×S2/(S1+S2)によって得られる値である。
比較例10の鍛造用材料は、外側鋼材の厚さが小さすぎたので、側方押出の際に外側鋼材が割れてしまった。このため、比較例10の鍛造用材料からは、鍛造部材を製造することができなかった。
比較例11の鍛造用材料は、その外側鋼材の炭素量が不足しており、さらにCr、Mo、VおよびWの含有量が不足していた。そのため、比較例11の鍛造用材料から得られた鍛造部材は、耐摩耗性が不足した。
比較例12の鍛造用材料は、その内側鋼材の炭素量が過剰であった。そのため、比較例12の鍛造用材料の側方押出の際には、成形荷重が過剰となった。
比較例13~16の鍛造用材料は、その外側鋼材においてCr、Mo、VおよびWの含有量が不足していた。そのため、比較例13~16の鍛造用材料から得られた鍛造部材は、耐摩耗性が不足した。
比較例17の鍛造用材料は、その内側鋼材のSi量が過剰であり、σが750MPaを上回った。そのため、比較例17の鍛造用材料の側方押出の際には、成形荷重が過剰となった。
比較例18の鍛造用材料は、その内側鋼材のMnが過剰であり、σが750MPaを上回った。そのため、比較例18の鍛造用材料の側方押出の際には、成形荷重が過剰となった。
比較例20の鍛造用材料は、単一鋼材からなるものであり、その化学成分は本発明の内側鋼材の化学成分と近い。ただし、Cr量が本発明の内側鋼材よりも高くされており、さらにMoを含有する。この比較例20の側方押出の際には、成形荷重が過剰となった。その一方で、比較例20の鍛造用材料から得られた鍛造部材は、耐摩耗性が不足した。
比較例21の鍛造用材料は、単一鋼材からなるものであり、その化学成分は本発明の外側鋼材の範囲に属する。比較例21の鍛造用材料から得られた鍛造部材の耐摩耗性は合格範囲内であったが、比較例21の側方押出の際には、成形荷重が過剰となった。
11 外側鋼材
12 内側鋼材
2 鍛造部材
21 外側鋼材
22 内側鋼材
23 基部
24 突出部
241 外側突部
242 内側突部
Claims (8)
- 外側鋼材と内側鋼材とを備える、側方押出しによる鍛造用材料であって、
前記外側鋼材の組成が、質量%で、
C:0.60~1.60%、
Si:0.05~2.00%、
Mn:0.20~1.50%、
P:0.001~0.030%、
S:0.005~0.025%、
Al:0.005~0.100%、
N:0.0010~0.0250%
を含有し、さらに、
Cr:0.50~2.00%
Mo:0.20~2.00%
V:0.40~1.50%
W:0.30~1.50%
からなる群から選択される1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不純物より成り、
前記内側鋼材の組成が、質量%で、
C:0.05~0.40%、
Si:0.05~0.50%、
Mn:0.20~1.00%、
P:0.001~0.030%、
S:0.005~0.025%、
Al:0.005~0.100%、
N:0.0010~0.0250%、
Cr:0.01~0.30%
を含有し、残部がFeおよび不純物より成り、
前記鍛造用材料が、側方押出しされる箇所において、前記鍛造用材料の軸方向と垂直な面における前記外側鋼材の面積S1と前記内側鋼材の面積S2とが式1を満たし、
端面拘束圧縮試験にてひずみ速度10s-1で得られた変形抵抗で、相当塑性ひずみ1.5における前記外側鋼材の変形抵抗σ’1と前記内側鋼材の変形抵抗σ’2とが、式2を満たす
鍛造用材料。
0.90≧S2/(S1+S2) <式1>
σ’1×S1/(S1+S2)+σ’2×S2/(S1+S2)≦750[MPa] <式2> - 前記外側鋼材と前記内側鋼材との間のクリアランスが0.1mm~2mmであることを特徴とする請求項1に記載の鍛造用材料。
- 前記外側鋼材が、ボンデリューベ処理皮膜を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の鍛造用材料。
- 請求項1に記載の化学成分を備える外側鋼材と内側鋼材とで形成された基部と、前記基部から外方に突出した突出部とを備え、
前記突出部が、前記基部における前記外側鋼材の部分から突設させた外側突部と、前記基部における前記内側鋼材の部分から突設され、且つ前記外側突部内の少なくとも一部の空間に充填された内側突部とを備え、
前記外側突部の厚さが0.5mm以上である
ことを特徴とする鍛造部材。 - 前記突出部の根元における前記外側鋼材の面積SP1と前記内側鋼材の面積SP2との比率RPと、
前記基部における、前記突出部の近傍における前記外側鋼材の面積SB1と前記内側鋼材の面積SB2との比率RBとが、下記式3~式5を満たすことを特徴とする請求項4に記載の鍛造部材。
RP=SP2/(SP1+SP2) <式3>
RB=SB2/(SB1+SB2) <式4>
|(RP-RB)/RP|≦5% <式5> - 前記外側突部のビッカース硬さが660HV以上であることを特徴とする請求項4又は5に記載の鍛造部材。
- 請求項4~6のいずれか一項に記載の鍛造部材の製造方法であって、
請求項1~3のいずれか一項に記載の鍛造用材料を鍛造加工する工程と、
鍛造された前記鍛造用材料に焼入焼戻し処理をする工程と、
を備え、
前記鍛造加工を、前記鍛造用材料に対する側方押出しとし、
前記側方押出しによって、前記基部および前記突出部を成形し、
前記突出部は、前記側方押出しに際して、前記内側突部が前記外側突部内に入り込んだ状態とし、
前記突出部を、0.90≧S2/(S1+S2)が満たされる箇所に設ける
ことを特徴とする鍛造部材の製造方法。 - 前記焼入焼戻し処理が、高周波焼入焼戻し処理であることを特徴とする請求項7に記載の鍛造部材の製造方法。
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