JP7355718B2 - 溶接用フラックス及びその製造方法、並びに該溶接用フラックスを使用したサブマージアーク溶接方法 - Google Patents

溶接用フラックス及びその製造方法、並びに該溶接用フラックスを使用したサブマージアーク溶接方法 Download PDF

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Description

本発明は、耐吸湿性に優れた溶接用フラックス及びその製造方法、並びに該溶接用フラックスを使用したサブマージアーク溶接方法に関する。
溶接用フラックスが適用される溶接方法の例として、一般的にサブマージアーク溶接やエレクトロスラグ溶接等が挙げられる。例えば、サブマージアーク溶接は、石油や天然ガス等を輸送するパイプライン用の造管溶接等に用いられる溶接方法である。このサブマージアーク溶接用に設計されたフラックスは、高温多湿の雰囲気に放置した場合、フラックス粒子の細孔内部や表面に水分が吸着して、吸湿しやすい性質を有している。そして、粒子に吸着した水分は、高温のアークにさらされると分解して水素及び酸素となり、溶接金属の拡散性水素量を増加させて低温割れを引き起こすとともに、溶接作業性に悪影響を及ぼす。したがって、サブマージアーク溶接においては、溶接用フラックスの耐吸湿性の向上が極めて重要な課題の一つとして挙げられている。
そこで、特許文献1には、フラックス中のAl、SiO、MgO、CaF換算値、MnO換算値、NaO換算値、KO換算値及びLiO換算値のうち少なくとも一つ以上の合計、FeO換算値、CaO、水溶性SiO、水溶性NaO、並びに水溶性KOの含有量を適切に調整し、所定の数式により得られる値を限定したサブマージアーク溶接用フラックスが提案されている。
また、特許文献2には、フラックス中の上記酸化物及びTiOの含有量、並びに所定の数式により得られる値を限定したサブマージアーク溶接用フラックスが開示されている。
上記特許文献1及び2には、フラックスの吸湿量及び溶接金属中の拡散性水素量を低減することが可能となる旨が記載されている。特に、吸湿量については、フラックスを再乾燥した後に、2時間の強制吸湿を実施し、フラックスが有する水分量を測定することにより評価している。
特開2016-140888号公報 特開2016-140889号公報
しかしながら、一般的な使用現場では、再乾燥後に2時間を超えて放置されたフラックスを使用することがあり、上記特許文献1及び2に記載のサブマージアーク溶接用フラックスは、長時間放置後の吸湿性について、十分な検討がなされていなかった。
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであって、長時間放置された場合であっても優れた耐吸湿性を得ることができ、これにより、溶接金属の割れの要因の一つである溶接金属中の拡散性水素量を低減することができる溶接用フラックス及びその製造方法、並びに該溶接用フラックスを使用したサブマージアーク溶接方法を提供することを目的とする。
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、溶接用フラックスに含まれるSiを含む酸化物について着目した。すなわち、本発明者らは、このSiを含む酸化物を含有する粒子は極めて吸湿しやすいため、この粒子の表面に耐吸湿性の高い化合物層を生成させることによりフラックスの耐吸湿性を向上し、溶接金属中の拡散性水素量を低減することができることを見出した。以下、溶接用フラックスを単にフラックスということがある。
本発明の上記目的は、溶接用フラックスに係る下記[1]の構成により達成される。
[1] 溶接用フラックスであって、
前記溶接用フラックスは酸化物を含有する粒子を有し、
前記酸化物はSiを含み、
前記粒子の外表面の少なくとも一部には化合物層が生成されており、
前記化合物層は、エリンガム図における500~1000℃の温度範囲で、SiO標準生成ギブスエネルギーよりも低い標準生成ギブスエネルギーを有する酸化物を構成する強脱酸元素を含み、
前記外表面の50%以上に前記化合物層が生成されている前記粒子が、前記酸化物を含有する粒子の全粒子数に対して50%以上の割合で存在する、溶接用フラックス。
また、溶接用フラックスに係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[5]に関する。
[2] 前記強脱酸元素は、
エリンガム図における500~1000℃の全温度領域において、酸化物標準生成ギブスエネルギーの値が、-800kJ/g・molO以下である酸化物を構成する元素である、[1]に記載の溶接用フラックス。
[3] 前記強脱酸元素は、Mg、Ca及びBaから選択された少なくとも一種の元素である、[1]又は[2]に記載の溶接用フラックス。
[4] 前記Siを含む酸化物は、Si単体の酸化物、又は、K、Na及びAlから選択された少なくとも一種とSiとを含有する複合酸化物である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の溶接用フラックス。
[5] 溶接用フラックス全質量あたり、
全F量:5.0質量%以上、20.0質量%以下、
全SiのSiO換算値:10.0質量%以上、25.0質量%以下、
全AlのAl換算値:14.0質量%以上、30.0質量%以下、
Na及びKのいずれか一方又は両方:全NaのNaO換算値及び全KのKO換算値の合計で1.0質量%以上、6.0質量%以下、
全TiのTiO換算値:0.5質量%以上、5.0質量%以下、
全MnのMnO換算値:0.5質量%以上、13.0質量以下、及び
全FeのFeO換算値:0.5質量%以上、7.0質量以下、
を含有するとともに、
Mg、Ca及びBaから選択された少なくとも一種を、
全MgのMgO換算値:15.0質量%以上、30.0質量%以下、
全CaのCaO換算値:7.0質量%以上、30.0質量%以下、
全BaのBaO換算値:8.0質量%以下、
の範囲で含有する、[1]~[4]のいずれか1つに記載の溶接用フラックス。
また、本発明の上記目的は、溶接用フラックスの製造方法に係る下記[6]の構成により達成される。
[6] [1]~[5]のいずれか1つに記載の溶接用フラックスを製造する溶接用フラックスの製造方法であって、
粉体原料を配合した配合フラックスに結合剤を添加して造粒後、500~1000℃の温度で焼成する工程を有し、
前記配合フラックスは、前記粉体原料として、Siを含む酸化物の粉体原料、及び、強脱酸元素を含む金属の粉体原料又は化合物の粉体原料を含有し、
前記強脱酸元素は、エリンガム図における500~1000℃の温度範囲でSiOよりも低い標準生成ギブスエネルギーを有する酸化物を構成する元素である、溶接用フラックスの製造方法。
また、溶接用フラックスの製造方法に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[7]に関する。
[7] 前記強脱酸元素を含む金属の粉体原料又は化合物の粉体原料は、Mgを含む粉体原料、Caを含む粉体原料及びBaを含む粉体原料から選択された少なくとも一種の粉体原料を含有し、
前記Mgを含む粉体原料は、Mgを含む粉体原料全質量に対してMgを25質量%以上含有し、
前記Caを含む粉体原料は、Caを含む粉体原料全質量に対してCaを30質量%以上含有し、
前記Baを含む粉体原料は、Baを含む粉体原料全質量に対してBaを60質量%以上含有するものであり、
前記Mgを含む粉体原料のうち、粒径が75μm以下であるMgを含む粉体原料の割合を、前記Mgを含む粉体原料全質量に対する質量%で[a]、
前記Caを含む粉体原料のうち、粒径が75μm以下であるCaを含む粉体原料の割合を、前記Caを含む粉体原料全質量に対する質量%で[b]、
前記Baを含む粉体原料のうち、粒径が75μm以下であるBaを含む粉体原料の割合を、前記Baを含む粉体原料全質量に対する質量%で[c]、
前記Siを含む酸化物の粉体原料のうち、粒径が75μm以下であるSiを含む酸化物の粉体原料の割合を、前記Siを含む酸化物の粉体原料全量に対する質量%で[d]としたとき、
下記式(1)により得られる値が2.5以上である、[6]に記載の溶接用フラックスの製造方法。
([a]+[b]+[c])/[d]・・・(1)
また、本発明の上記目的は、サブマージアーク溶接方法に係る下記[8]の構成により達成される。
[8] [1]~[5]のいずれか1つに記載の溶接用フラックスを用いたサブマージアーク溶接方法。
本発明によれば、長時間放置された場合であっても優れた耐吸湿性を得ることができ、これにより、溶接金属の割れの要因の一つである溶接金属中の拡散性水素量を低減することができる溶接用フラックス及びその製造方法、並びに該溶接用フラックスを使用したサブマージアーク溶接方法を提供することができる。
図1は、本実施形態により得られた溶接用フラックスの断面を撮影したSEM写真の一例である。
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。また、本明細書において、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本発明における溶接用フラックスとしては、サブマージアーク溶接用フラックス及びエレクトロスラグ溶接用フラックス等が挙げられる。以下、本実施形態においては、溶接用フラックスの一例として、サブマージアーク溶接用フラックスに関して説明するが、本発明はサブマージ溶接用フラックスに限定されるものではない。
[溶接用フラックス]
本実施形態に係る溶接用フラックスは、酸化物を含有する粒子を有し、酸化物はSiを含み、粒子の外表面の少なくとも一部には化合物層が生成されており、化合物層は、エリンガム図における500~1000℃の温度範囲で、SiO標準生成ギブスエネルギーよりも低い標準生成ギブスエネルギーを有する酸化物を構成する強脱酸元素を含み、外表面の50%以上に上記化合物層が生成されている粒子が、Siを含む酸化物を含有する粒子の全粒子数に対して50%以上の割合で存在するものである。
以下、各要件について更に詳細に説明する。
<Siを含む酸化物を含有する粒子>
Siを含む酸化物は、溶融スラグに適度の粘性を与えることによって、主にビード外観及びビード形状を良好にするため、溶接用フラックスを製造するための粉体原料として、広く使用される。しかし、Siを含む酸化物を含有する粒子は極めて吸湿しやすいため、水分を多く含む特徴がある。そこで、Siを含む酸化物を含有する粒子の外表面に、後述する耐吸湿性の高い化合物層が生成されていると、フラックスの耐吸湿性を向上させることができ、これにより溶接金属中の拡散性水素量を低減することができる。
なお、Siを含む酸化物としては、Si単体の酸化物、又は、K、Na及びAlから選択された少なくとも一種とSiとを含有する複合酸化物が挙げられ、これらは特に吸湿しやすい特性を有することから、本発明の効果が期待できる。また、Siを含む酸化物のうち、K、Na及びAlから選択された少なくとも一種とSiとを含有する複合酸化物は、より吸湿しやすい特性を有することから、本発明の効果がより期待できる。なお、上記複合酸化物の具体的な例としては、KAlSi、NaAlSi、CaAlSi等が挙げられる。
<化合物層>
化合物層は、エリンガム図における500~1000℃の温度範囲で、SiO標準生成ギブスエネルギーよりも低い標準生成ギブスエネルギーを有する酸化物を構成する強脱酸元素を含有する。この化合物層は、例えば、酸素との親和性が高い強脱酸元素を含む金属の粉体原料又は化合物の粉体原料と、Siを含む酸化物の粉体原料と、水ガラス等の結合剤を用いてフラックスを造粒し、所定の温度で焼成することにより生成することができる。
なお、化合物層は、Siを含む酸化物を含有する全ての粒子の外表面に生成されている必要はなく、また、粒子の外表面全面に生成されている必要もない。具体的には、Siを含む酸化物を含有する粒子の外表面の50%以上に化合物層が生成されている粒子が、上記酸化物を含有する粒子の全粒子数に対して50%以上の割合で存在していればよい。また、上記酸化物を含有する粒子の全粒子数に対する、Siを含む酸化物を含有する粒子の外表面の50%以上に化合物層が生成されている粒子の割合は、好ましくは60%以上であり、より好ましくは65%以上であり、更に好ましくは75%以上である。
なお、ここで指す粒子の外表面とは、該粒子の断面における観察により判断するものとし、粒子の断面の円周を指す。また、本願明細書において、Siを含む酸化物の粉体原料とは、Siを含む酸化物を含有する粒子を含む原料をいう。
<強脱酸元素>
強脱酸元素とは、SiO標準生成ギブスエネルギーよりも低い標準生成ギブスエネルギーを有する酸化物を構成する元素を指し、例えば、Ti、Ce、Al、Zr、Ba、Ca及びMg等が挙げられる。上記化合物層は、強脱酸元素を含む金属又は化合物の粒子が、Siを含む酸化物を含有する粒子の外表面に接触して、強脱酸元素を含む金属又は化合物の粒子と、Siを含む酸化物を含有する粒子とが、フラックス製造工程における焼成時の熱により、界面反応することで生成されると考えられる。したがって、上記化合物層を生成するためには、フラックス製造工程における焼成温度の範囲内において、SiO標準生成ギブスエネルギーよりも低い標準生成ギブスエネルギーを有する酸化物を構成する強脱酸元素を含む金属の粉体原料又は化合物の粉体原料を、配合フラックスの粉体原料として用いることが必要である。
これらの強脱酸元素のうち、特に、エリンガム図における500~1000℃の全温度領域において、標準生成ギブスエネルギーの値が、-800kJ/g・molO以下である酸化物を構成する元素を採用すると、SiO標準生成ギブスエネルギーとの差が大きくなり、より化合物層が生成されやすくなるため好ましい。500~1000℃の全温度領域において、標準生成ギブスエネルギーの値が、-800kJ/g・molO以下である酸化物を構成する元素としては、Al、Zr、Ba、Ca及びMgが挙げられる。なお、強脱酸元素としては、Mg、Ca及びBaから選択された少なくとも一種の元素を選択することがより好ましく、これらの強脱酸元素を含む金属又は化合物の粉体原料を使用すると、Siを含む酸化物を含有する粒子の外表面に接触して、フラックス製造工程における焼成時の熱により界面反応することで、耐吸湿性が高い化合物層が生成される。
<フラックスの組成>
以下、本実施形態に係るフラックスにおける各成分の含有量について説明する。なお、本実施形態における含有量とは、特に説明がない限り、フラックス全質量に対する質量%を意味する。なお、フラックスの含有量は、分析方法の制約上換算値で規定する成分が存在する。そのため、フラックス全質量に対する各成分の含有量の合計は、換算値を用いる性質上、100質量%を超える場合がある。
(全F量:5.0質量%以上、20.0質量%以下)
フッ化物は、溶融スラグの電気伝導性や流動性を高める効果があり、また、溶融スラグの高温粘性に影響を与える成分の1つでもあることから、溶接作業性に寄与する。また、アーク溶接時のフッ化物の分解反応によって、アーク雰囲気中の水蒸気分圧を下げ、溶接金属中の拡散性水素量を低減することができる。このフラックス全質量に対するフッ化物の含有量は、フラックス全質量に対するFの質量%(全F量とも言う)で規定する。したがって、良好なスラグ剥離性と、スラグ焼付きの発生防止、及び溶接金属中の拡散性水素量の低減化の観点より、全F量は、5.0質量%以上であることが好ましく、10.0質量%以上であることがより好ましく、12.0質量%以上であることが更に好ましい。
一方、ビードの波目が粗くなってビード外観が劣化することを防ぎ、良好なビード形状を得るため、全F量は20.0質量%以下であることが好ましく、18.0質量%以下であることがより好ましく、17.0質量%以下であることが更に好ましい。
本実施形態のフラックスにおけるF源としては、主にCaFが挙げられ、その他にBaF、AlFやMgFなどが含まれることがあるが、全F量が上記範囲内であれば、前述したフッ化物の効果に変わりはない。
(全SiのSiO換算値:10.0質量%以上、25.0質量%以下)
Siを含む酸化物は、溶融スラグに適度な粘性を与えることによって、主にビード外観及びビード形状を良好にする。また、金属Si及びFe-Si等の合金中のSiは、還元剤として働き、溶接金属の酸素量の増加に伴う機械的性質の劣化を防ぎ、ポックマークの発生を抑制する。このフラックス全質量に対するSiの含有量は、フラックス中の全Si量を、SiOに換算したSiO換算値で規定する。上記効果を得るためには、SiO換算値は10.0質量%以上であることが好ましく、11.0質量%以上であることがより好ましい。
一方、SiO換算値の上限が適切に規定されていると、ビード形状やスラグ剥離性及び靱性が劣化を防止することができる。したがって、SiO換算値は25.0質量%以下であることが好ましく、20.0質量%以下であることがより好ましい。
なお、ここで規定するSiO換算値には、前述したSiを含む酸化物、金属Si及びFe-Si等の合金の他に、水ガラス等の結合剤に由来するSiのSiO換算値も含まれる。
(全AlのAl換算値:14.0質量%以上、30.0質量%以下)
Alは、SiO標準生成ギブスエネルギーよりも低い標準生成ギブスエネルギーを有する酸化物を構成する強脱酸元素の一つである。そのため、フラックス中にAlを含む粉体原料を添加することにより、上記Siを含む酸化物を含有する粒子の外表面に、Alを含む化合物層が生成され、これにより、フラックスの耐吸湿性を向上させることができ、溶接金属中の拡散性水素量を低減することができる。このフラックス全質量に対するAlの含有量は、フラックス中の全Al量を、Alに換算したAl換算値で規定する。上記効果を得るためには、Al換算値は14.0質量%以上であることが好ましい。また、30.0質量%以下であることが好ましい。上記Alを含む粉体原料として、例えば、Al、AlF、金属Al及びAl-Mg等の合金等の形態で添加することができる。特にAlは、スラグの剥離性や低温靱性の向上に大きく寄与し、溶接時のビード形状及びビード外観を良好にする成分であることから、Alの形態で添加することが好ましい。良好なビード形状及びビード外観を得られることからAl換算値は、16.0質量%以上であることがより好ましい。
一方、溶融スラグの融点が過度に上昇することを防ぎ、ビード端の良好なスラグ剥離性を保つことができるため、Al換算値は、27.0質量%以下であることがより好ましい。
(Na及びKのいずれか一方又は両方:全NaのNaO換算値及び全KのKO換算値の合計で1.0質量%以上、6.0質量%以下)
アルカリ金属であるNa及びKは、主に溶接時のアーク安定性とフラックスの吸湿特性に影響を与える成分である。溶接時のアーク安定性の観点より、フラックス中にNa及びKのいずれか一方又は両方が含有されていることが好ましい。このフラックス全質量に対するNa及びKの含有量は、フラックス中の全Na及び全K量を、それぞれNaO及びKOに換算したNaO換算値及びKO換算値で規定する。良好なアーク安定性が得られることから、NaO換算値及びKO換算値の合計は1.0質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましい。
一方、フラックスが過剰に吸湿することを防ぐため、NaO換算値及びKO換算値の合計は6.0質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以下であることがより好ましい。Na及びKを含む粉体原料として、例えばNaO、KO、KAlSi、NaAlSi、CaAlSi等の酸化物の形態で添加することができるが、より良好なアーク安定性を得るためにKAlSi、NaAlSiの形態でフラックス中に添加されることがより好ましい。
なお、ここで規定するNaO換算値及びKO換算値には、前述したNa及びKを含む酸化物の他に、水ガラス等の結合剤に由来するNa及びKのNaO換算値及びKO換算値も含まれる。
(全TiのTiO換算値:0.5質量%以上、5.0質量%以下)
Tiは、SiO標準生成ギブスエネルギーよりも低い標準生成ギブスエネルギーを有する酸化物を構成する強脱酸元素の一つである。したがって、フラックス中にTiを含む粉体原料を添加することにより、上記Siを含む酸化物を含有する粒子の外表面に、Tiを含む化合物層が生成される。これにより、フラックスの耐吸湿性を向上させることができ、溶接金属中の拡散性水素量を低減することができる。このフラックス全質量に対するTiの含有量は、フラックス中の全Ti量を、TiOに換算したTiO換算値で規定する。上記効果を得るためには、TiO換算値は0.5質量%以上であることが好ましい。また、5.0質量%以下であることが好ましい。上記Tiを含む粉体原料として、例えばTiO、金属Ti、又はFe-Ti等の合金等の形態で添加することができる。特に、TiOは、スラグの剥離性や低温靱性を向上させることができる成分であるとともに、溶接時のビード形状及びビード外観を良好にする成分であることから、TiOの形態で添加することが好ましい。良好なビード形状及びビード外観を得られることからTiO換算値は1.0質量%以上であることがより好ましい。
一方、溶融スラグの融点が過度に上昇しすぎることを防ぎ、ビード端の良好なスラグ剥離性を保つことができるため、TiO換算値は4.0質量%以下であることがより好ましい。
(全MnのMnO換算値:0.5質量%以上、13.0質量%以下)
Mnは、溶融スラグの粘性及び凝固温度に影響を与えるとともに、耐ポックマーク性改善に有効である。また、フラックス中にMnが適切な量で含まれていると、良好な低温靱性が得られ、気孔欠陥の発生を防止することができる。このフラックス全質量に対するMnの含有量は、フラックス中の全Mn量を、MnOに換算したMnO換算値で規定する。上記効果を得るためには、MnO換算値で0.5質量%以上であることが好ましく、0.6%質量%以上であることがより好ましく、0.8質量%以上であることがさらにより好ましい。
一方、溶接金属の低温における機械的性質の劣化を防ぎ、スラグ焼付きの発生を抑制することができるとともに、良好なビード形状及びスラグ剥離性を得ることができることから、MnO換算値で13.0質量%以下であることが好ましく、11.0質量%以下であることがより好ましく、5.0質量%以下であることが更に好ましい。Mnを含む粉体原料として、例えばMnO、MnO及びMnなどの酸化物、金属Mn及びFe-Si-Mn等の合金の形態で添加することができるが、各種形態の中でも、特に酸化物の形態で添加するとともに、MnO換算値が0.5質量%以上、13.0質量%以下であると、Mnの有用性がより発揮されるため、より好ましい。
(全FeのFeO換算値:0.5質量%以上、7.0質量%以下)
Feは、脱酸現象を促進し、耐ポックマーク性を高める効果があり、特に溶接電流が直流(DC:Direct Current)の場合に、より高い効果を得ることができる。このフラックス全質量に対するFeの含有量は、フラックス中の全Fe量を、FeOに換算したFeO換算値で規定する。上記効果を得るためには、FeO換算値で0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましい。
一方、溶融スラグの凝固温度を適切にしてビード外観、ビード形状及びスラグ剥離性を向上させるため、FeO換算値で7.0質量%以下であることが好ましく、4.0質量%以下であることがより好ましい。Feを含む粉体原料として、例えばFeO、Fe及びFeなどの酸化物、金属Fe及びFe-Si等の合金の形態で添加することができるが、特に、Fe-Si等の合金や金属Feの形態で添加するとともに、FeO換算値が0.5質量%以上、7.0質量%以下であると、Feの有用性がより発揮されるため、より好ましい。
本実施形態のフラックスは、前述した含有成分に加えて、上記強脱酸元素として、Mg、Ba及びCaから選択された少なくとも一種を以下に示す含有量で含有することがより好ましく、Mg及びCaから選択された少なくとも一種を以下に示す含有量で含有することが更に好ましく、Mg及びCaの両方を、いずれも以下に示す含有量で含有することが最も好ましい。これらの成分の好ましい含有量について、以下に説明する。
(全MgのMgO換算値:15.0質量%以上、30.0質量%以下)
Mgは、SiO標準生成ギブスエネルギーよりも低い標準生成ギブスエネルギーを有する酸化物を構成する強脱酸元素の一つである。したがって、フラックス中にMgを含む粉体原料を添加することにより、上記Siを含む酸化物粒子の外表面に、Mgを含む化合物層が生成される。これにより、フラックスの耐吸湿性を向上させることができ、溶接金属中の拡散性水素量を低減することができる。このフラックス全質量に対するMgの含有量は、フラックス中の全Mg量を、MgOに換算したMgO換算値で規定する。上記効果を得るため、MgO換算値は15.0質量%以上であることが好ましい。また、MgO換算値は30.0質量%以下であることが好ましい。MgOに換算されるMg源としては、例えばMgO、MgF、MgCO、Al-Mg等の合金、又は金属Mg等の形態が挙げられる。特に、上記Mg源のうち、スラグ剥離性の向上にも大きく寄与する成分であることから、MgOの形態であることが好ましい。電極の極性によらず、良好なスラグ剥離性を確保し、スラグ焼付きを防ぐことができることから、MgO換算値は19.0質量%以上であることがより好ましく、20.0質量%以上であることが更に好ましい。
一方、ビード形状が凸になるのを防ぐことができ、良好なスラグ剥離性を保つことができるため、MgO換算値は26.0質量%以下であることがより好ましく、25.0質量%以下であることが更に好ましい。
(全CaのCaO換算値:7.0質量%以上、30.0質量%以下)
Caは、SiO標準生成ギブスエネルギーよりも低い標準生成ギブスエネルギーを有する酸化物を構成する強脱酸元素の一つである。したがって、フラックス中にCaOを含む粉体原料を添加することにより、上記Siを含む酸化物を含有する粒子の外表面に、Caを含む化合物層が生成される。これにより、フラックスの耐吸湿性を向上させることができ、溶接金属中の拡散性水素量を低減することができる。このフラックス全質量に対するCaの含有量は、フラックス中の全Ca量を、CaOに換算したCaO換算値で規定する。上記効果を得るため、CaO換算値は7.0質量%以上であることが好ましい。また、CaO換算値は30.0質量%以下であることが好ましい。CaOに換算されるCa源としては、例えばCaO、CaF、CaCO、Ca-Si等の合金、又は金属Ca等の形態が挙げられる。特に、CaFは、スラグ剥離性の向上にも大きく寄与する成分であることから、CaFの形態で添加することが好ましい。スラグの塩基度を高めて溶接金属の清浄度を高めることにより、溶接金属の機械的性質を向上させるため、CaO換算値は17.0質量%以上であることがより好ましく、20.0質量%以上であることが更に好ましい。
一方、溶融スラグの流動性が過度に高くなることを防ぎ、良好なビード外観及び形状を得ることができるため、CaO換算値は26.0質量%以下であることがより好ましく、24.0質量%以下であることが更に好ましい。
(全BaのBaO換算値:8.0質量%以下)
Baは、SiO標準生成ギブスエネルギーよりも低い標準生成ギブスエネルギーを有する酸化物を構成する強脱酸元素の一つである。したがって、フラックス中にBaOを含む粉体原料を添加することにより、上記Siを含む酸化物を含有する粒子の外表面に、Baを含む化合物層が生成される。これにより、フラックスの耐吸湿性を向上させることができ、溶接金属中の拡散性水素量を低減することができる。このフラックス全質量に対するBaの含有量は、フラックスの全Ba量を、BaOに換算したBaO換算値で規定する。
上記効果を得るため、任意でBaを添加する場合、BaO換算値は0.1質量%以上であることが好ましい。また、BaO換算値は8.0質量%以下であることが好ましい。BaOに換算されるBa源としては、例えばBaO、BaF、BaCO、又は金属Ba等の形態が挙げられる。BaO換算値の下限値は特に限定されるものではないが、スラグの塩基度を高めて溶接金属の清浄度を高めることにより、溶接金属の機械的性質を向上させるため、任意でBaを添加する場合、BaO換算値は1.0質量%以上であることがより好ましい。
一方、溶融スラグの流動性が過度に高くなることを防ぎ、良好なビード外観及び形状を得ることができるため、BaO換算値は6.0質量%以下であることが好ましい。
ところで、上記で示した全F量、SiO換算値、Al換算値、NaO換算値、KO換算値、TiO換算値、MgO換算値、CaO換算値、BaO換算値、MnO換算値及びFeO換算値の合計は、良好なスラグ剥離性及びビード形状を得る観点から92質量%以上であることが好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上が更に好ましい。
本実施形態のフラックスは、前述した成分に加えて、必要に応じてZr及びBから選択された少なくとも一種を含有してもよい。これらの元素の含有量について、以下に説明する。
(全BのB換算値:0.50質量%以下)
Bは、溶接金属の靱性向上に有効な成分である。フラックス全質量に対するBの含有量は、フラックス中の全B量を、Bに換算したB換算値で規定する。B換算値の下限は特に設けないが、上記効果を得たい場合は、B換算値は0.01質量%以上であることが好ましく、0.03質量%以上であることがより好ましい。
一方、溶接金属の硬化による高温割れの発生及び靱性の低下を防止することができることから、B換算値は0.50質量%以下であることが好ましく、0.30質量%以下であることがより好ましい。Bを含む粉体原料として、例えば金属B、Fe-B、Fe-Si-B等の合金、Bの酸化物等の形態で添加することができる。
(全ZrのZrO換算値:3.0質量%以下)
Zrは、SiO標準生成ギブスエネルギーよりも低い標準生成ギブスエネルギーを有する酸化物を構成する強脱酸元素の一つである。したがって、フラックス中にZrを含む粉体原料を添加することにより、上記Siを含む酸化物を含有する粒子の外表面に、Zrを含む化合物層が生成される。これにより、フラックスの耐吸湿性を向上させることができ、溶接金属中の拡散性水素量を低減することができる。また、Zrは溶融スラグの粘性及び凝固温度に影響を与えるとともに、高速度の溶接でのアーク安定性、良好なビード形状及びビード外観、良好なスラグ剥離性を得るために有効な成分である。フラックス全質量に対するZrの含有量は、フラックス中の全Zr量を、ZrOに換算したZrO換算値で規定する。Zrを含む粉体原料は比較的高価であるため、特に下限は設けないが、上記効果を得たい場合は、ZrO換算値は0.01質量%以上であることが好ましく、3.0質量%以下とすることが好ましい。Zrを含む粉体原料として、例えばZrO、ZrSiO及びZrを含む合金等の形態で添加することができる。
本実施形態のフラックスは、前述した含有成分に加えて、Ni、Mo、Cu及びCr等の元素を含有していてもよい。フラックス中にNi、Mo、Cu及びCrを添加する場合に、これらの合計値は、5質量%以下とすることが好ましい。
フラックスに含まれる上記以外の元素として、P、S、Nb及びVなどの不可避的不純物が挙げられる。これらの不可避的不純物のうち、Nb及びVは溶接金属の低温靱性を低下させるため、フラックス全質量に対して各々0.5質量%以下に規制することが好ましく、溶接品質に影響するP及びSはそれぞれ、フラックス全質量に対して0.20質量%以下に規制することが好ましい。
[溶接用フラックスの製造方法]
本発明の溶接用フラックスは、以下の粉体原料を配合した配合フラックスに結合剤を添加して造粒後、500~1000℃の温度で焼成することにより得られる。
上記配合フラックスは、粉体原料として、Siを含む酸化物の粉体原料、及び、上述の強脱酸元素を含む金属の粉体原料又は化合物の粉体原料を含有するものである。強脱酸元素を含む金属の粉体原料又は化合物の粉体原料としては、上記Mgを含む粉体原料、上記Caを含む粉体原料及び上記Baを含む粉体原料の他、上述したフラックスの成分を含む酸化物の粉体原料、及びフッ化物又は炭酸塩等を含む粉体原料が挙げられる。さらに、結合剤としては、例えば、水ガラス、ポリビニルアルコール等を使用することができる。造粒法は、特に限定されるものではないが、転動式造粒機や押し出し式造粒機などを用いる方法が好ましい。
造粒後の焼成は、ロータリーキルン、定置式バッチ炉及びベルト式焼成炉などで行うことができる。本発明においては、エリンガム図における500~1000℃の温度範囲で、SiO標準生成ギブスエネルギーよりも低い標準生成ギブスエネルギーを有する酸化物を構成する強脱酸元素を含むフラックス原料を採用するため、焼成温度は500~1000℃とし、700~900℃とすることが好ましい。
また、本発明者らは、上記粉体原料の粒径を適切に規定することにより、Siを含む酸化物を含有する粒子の外表面に化合物層が生成されやすいことを見出した。本発明では、後述する式(1)で表されるように、Siを含む酸化物の粉体原料のうち、粒径が75μm以下である粒子が特に吸湿しやすいことから、種々の強脱酸元素を含む金属の粉体原料及び化合物の粉体原料のうち、粒径が75μm以下である粉体原料の合計量の質量割合が、Siを含む粉体原料のうち、粒径が75μm以下である粉体原料の質量割合よりも大きいことを好ましいとしている。これにより、Siを含む酸化物の粉体原料の表面と、強脱酸元素を含む金属の粉体原料又は化合物の粉体原料の粒子の表面との接触面積及び接触回数が増加し、反応層が生成されやすくなる。
なお、『粒径が75μm以下』とは、JIS Z 8815:1994に準拠した方法により、JIS Z 8801:2019に基づく目開き75μmの篩いを用いてふるい分けを行った際に、その篩いを通過することを意味する。
なお、上記強脱酸元素を含む金属の粉体原料及び化合物の粉体原料は、Mgを含む粉体原料、Caを含む粉体原料及びBaを含む粉体原料から選択された少なくとも一種の粉体原料を含有することが好ましい。また、Mgを含む粉体原料は、Mgを含む粉体原料全質量に対してMgを25質量%以上含有し、Caを含む粉体原料は、Caを含む粉体原料全質量に対してCaを30質量%以上含有し、Baを含む粉体原料は、Baを含む粉体原料全質量に対してBaを60質量%以上含有するものであることが好ましい。
さらに、Mgを含む粉体原料のうち、粒径が75μm以下であるMgを含む粉体原料の割合を、上記Mgを含む粉体原料全質量に対する質量%で[a]、上記Caを含む粉体原料のうち、粒径が75μm以下であるCaを含む粉体原料の割合を、上記Caを含む粉体原料全質量に対する質量%で[b]、上記Baを含む粉体原料の割合を、上記Baを含む粉体原料全質量に対する質量%で[c]、上記Siを含む粉体原料のうち、粒径が75μm以下であるSiを含む粉体原料の割合を、上記Siを含む粉体原料全質量に対する質量%で[d]としたとき、下記式(1)により得られる値が2.5以上であると、反応層が所望の被覆率で生成されやすくなるため、好ましい。
([a]+[b]+[c])/[d]・・・(1)
Mgを含む粉体原料としては、Mgを含む粉体原料全質量に対してMgを50質量%以上含有するものを用いることがより好ましく、52質量%以上含有するものを用いることがより好ましい。このようなMgを含む粉体原料としては、例えば、MgO及びMgCO、MgF等を用いることができる。
また、Caを含む粉体原料としては、Caを含む粉体原料全質量に対してCaを40質量%以上含有するものを用いることがより好ましく、45質量%以上含有するものを用いることが更に好ましい。このようなCaを含む粉体原料としては、例えば、CaF及びCaCO、CaO等を用いることができる。
また、Baを含む粉体原料としては、Baを含む粉体原料全質量に対してBaを62質量%以上含有するものを用いることがより好ましく、65質量%以上含有するものを用いることが更に好ましい。このようなBaを含む粉体原料としては、例えば、BaF及びBaCO、BaO等を用いることができる。
ここで、Mg、Ca及びBaを含む粉体原料全質量に対する各元素の含有量について説明する。例えば、Mgを含む粉体原料で例示すると、MgОのみからなる粉体原料のみを使用する場合は、MgОのみからなる粉体原料全質量に対するMg含有量とし、60質量%となる。また、マグネシアクリンカーのようなMgО以外の成分や不純物を含む粉体原料の場合は、マグネシアクリンカー全質量に対するMg含有量となる。さらに、Mgを含む粉体原料を複数種使用する場合は、全てのMgを含む粉体の全質量に対するMg含有量となる。
さらに、Siを含む酸化物の粉体原料としては、例えば、SiO、KAlSi、NaAlSi、CaAlSi等を用いることができ、これらのうち、SiO、KAlSi、NaAlSiを用いることがより好ましい。
[溶接用フラックスを使用したサブマージアーク溶接方法]
本発明は、上記本発明の溶接用フラックスを用いたサブマージアーク溶接方法にも関する。溶接用フラックスの構成及び好ましい成分については、上記の通りである。
(溶接条件)
本実施形態に係るフラックスを用いた1電極溶接として、例えば以下の条件が例示できるが、下記条件になんら限定されるものではない。なお、1stとは鋼板の表面側の溶接を表し、2ndとは鋼板の裏面側の溶接を表す。
溶接電流:400~1000A(1st)、600~1000A(2nd)
アーク電圧:26~36V(1st)、26~36V(2nd)
溶接速度:60~150cm/分(1st、2nd)
鋼種:JIS G 3106:2015準拠
板厚:9~60mm
突出し長さ:15~45mm
本実施形態に係るフラックスを用いた2電極溶接として、例えば以下の条件が例示できるが、下記条件になんら限定されるものではない。なお、L極とは先行極を表し、T極とは後行極を表す。
溶接電流/アーク電圧:500~1200A/26~40V(1st、L極)、
500~1200A/26~40V(1st、T極)、
500~1500A/26~40V(2nd、L極)、
500~1500A/26~40V(2nd、T極)
溶接速度:10~1000cm/分(1st、2nd)
電極配置:L極とT極とのなす角が0~45°
鋼種:JIS G 3106:2015準拠
以下に実施例を挙げて本実施形態を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することが可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
<発明例No.1~5及び比較例No.6~12>
JIS Z 8815:1994に準拠した方法により、JIS Z 8801:2019に基づく目開き75μmの篩いを用いてふるい分けを行った下記表1に示す粒度分布を有する粉体原料と、その他の粉体原料を配合し、結合剤としての水ガラスとともに混錬した後、造粒し、更にロータリーキルンを使用して600~900℃で焼成して、整粒することにより、下記表2に示す溶接用フラックスを製造した。
なお、発明例No.1~5及び比較例No.6~12において、Mgを含む粉体原料は、Mgを含む粉体原料全質量に対してMgを53~58質量%含有し、Caを含む粉体原料は、Caを含む粉体原料全質量に対してCaを45~50質量%含有し、Baを含む粉体原料は、Baを含む粉体原料全質量に対してBaを65~70質量%含有する粉体原料を使用した。
その後、得られたフラックスの断面を観察し、化合物層の有無及びその組成等を測定するとともに、フラックスの耐吸湿性を測定した。
フラックス断面の観察方法、耐吸湿性及び拡散性水素量の測定方法等について、以下に具体的に説明する。また、これらの測定結果を下記表3に示す。
(フラックス断面の観察)
得られた溶接用フラックスを樹脂に埋め込んで、フラックス垂直断面が観察面となるように研磨を行い、観察面を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)で観察した。なお、SEMの倍率を1000倍、加速電圧を5~15kVとし、反射電子(BackScattered Electron;BSE)像による組成像を観察することにより、化合物層の生成有無及び状態を確認した。
また、化合物層の断面に対して、エネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X-ray spectroscopy;EDX)を用いて元素分析をし、Siを含む酸化物を含有する粒子、及びその周りの化合物層に含まれる元素を、マッピングにて分析した。
SEMによるEDX分析は次のようにして行うことができる。例えば、卓上顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製:Miniscope TM3030)を用いて、上記研磨を行った観察面を1000倍の倍率にて観察する。
本実施例では、Siを含む酸化物を含有する粒子の有無を観察するとともに、Siを含む酸化物を含有する粒子において、Si以外の元素について調査した。また、Siを含む酸化物を含有する粒子の外表面における化合物層を観察し、被覆率の評価を行った。
なお、下記表3に示す「Siを含む酸化物を含有する粒子中のSi以外の元素」における、K、Na、Ti、Al及びMgの欄において、これらの元素が検出されたものを「○」、検出されなかったものを「-」とした。
化合物層の観察による被覆率の評価は、200μm×170μmの矩形である任意の3視野(視野1、視野2、視野3)を選定し、各3視野について、Siを含む酸化物を含有する粒子を任意で1粒子選択することにより行った。具体的には、1視野につき1粒子の外表面を観察し、外表面の50%以上の領域に化合物層が生成されている視野を「○」、外表面に化合物層が生成されているが、化合物層の生成領域が粒子の外表面の50%未満である視野を「△」、外表面に化合物層が生成されていない視野を「×」とし、視野1、視野2及び視野3の観察結果として、下記表3の「任意の1粒子における化合物層の被覆率評価」の欄にそれぞれ示す。
また、上記3視野における化合物層の観察による被覆率の評価結果に基づき、全3視野に対する上記で「○」と判断した視野の比率を分数で表し、下記表3の「被覆率評価で「○」と判断した視野の比率」の欄に示す。
さらに、2視野以上で「○」となったもの、すなわち、上記比率が2/3以上であるものを、化合物層が「有」と評価し、2視野以上で「○」とならなかったもの、すなわち上記比率が1/3以下であるものを、化合物層が「無」と評価し、下記表3の「化合物層の有無」の欄に示す。
また、上記元素分析により、化合物層に含まれる元素について調査した。下記表3に示す「化合物層に含まれる元素」におけるSi、Ti、Ce、Al、Zr、Ba、Ca及びMgの欄において、これらの成分が検出されたものを「○」、検出されなかったものを「-」とした。
図1は、本実施形態により得られた溶接用フラックスの断面を撮影したSEM写真の一例である。図1に示すように、Siを含む酸化物を含有する粒子1の外表面には、化合物層2が生成されている。粒子1及び化合物層2について、EDXにより元素分析を実施すると、粒子1にはSi、O、K、Na及びAl等が観測され、化合物層2にはMg及びCaが観測された。
(耐吸湿性)
耐吸湿性は、24時間の強制吸湿後のフラックスの水分量により評価した。具体的には、得られたフラックスに対して、250℃で1時間の再乾燥を実施した後、気温が摂氏30℃、湿度が80RH%である条件下において24時間放置し、水分測定装置(三菱化学株式会社製 CA-200)を用いて、フラックス中の水分量をカールフィッシャー(KF)法により測定した。本実施例においては、KF法により測定された水分量が1200ppm以下であるものを合格とした。
また、得られたフラックスを使用して、以下に示す溶接条件にてサブマージアーク溶接を実施し、得られた溶接金属中の拡散性水素量を測定した。
溶接電流:450~550A
アーク電圧:30~34V
溶接速度:480~520mm/分
鋼種:JIS G 3106:2015 SM400準拠
板厚:12mm
突出し長さ:30mm
(拡散性水素量)
直径が4.0mmであり、JIS Z 3351 2012に準拠した組成を有するワイヤを使用して、上記溶接条件でサブマージアーク溶接を実施し、得られた溶接金属について拡散性水素量を測定した。拡散性水素量は、JIS Z 3118:2007に規定される鋼溶接部の水素量測定方法に準拠して測定した。本実施例では、溶接金属中の拡散性水素量が3.5ml/100g以下であるものを合格とした。耐吸湿性及び溶接金属中の拡散性水素量の測定結果を下記表3に併せて示す。
Figure 0007355718000001
Figure 0007355718000002
Figure 0007355718000003
上記表1~表3に示すように、発明例No.1~5は、Siを含む酸化物を含有する粒子の外表面に、所定の被覆率、すなわち外表面の50%以上で強脱酸元素を含む化合物層が生成されているものが、酸化物を含有する粒子の全粒子数に対して50%以上の割合で存在するため、優れた耐吸湿性を得ることができ、これにより、溶接金属中の拡散性水素量を3.5ml/100g以下とする溶接用フラックスを得ることができた。
一方、比較例No.6~12は、Siを含む酸化物を含有する粒子の外表面に、上記所定の被覆率で所定の化合物層が生成されているものが、酸化物を含有する粒子の全粒子数に対して50%未満であったため、発明例と比較してフラックスの水分量が高くなり、このフラックスを用いて得られた溶接金属中の拡散性水素量が、発明例と比較して高くなった。
1 Siを含む酸化物を含有する粒子
2 化合物層

Claims (6)

  1. 溶接用フラックスであって、
    前記溶接用フラックスは酸化物を含有する粒子を有し、
    前記酸化物はSiを含み、
    前記粒子の外表面の少なくとも一部には化合物層が生成されており、
    前記化合物層は、エリンガム図における500~1000℃の温度範囲で、SiO標準生成ギブスエネルギーよりも低い標準生成ギブスエネルギーを有する酸化物を構成する強脱酸元素を含み、
    前記外表面の50%以上に前記化合物層が生成されている前記粒子が、前記酸化物を含有する粒子の全粒子数に対して50%以上の割合で存在し、
    溶接用フラックス全質量あたり、
    全F量:5.0質量%以上、20.0質量%以下、
    全SiのSiO 換算値:10.0質量%以上、25.0質量%以下、
    全AlのAl 換算値:14.0質量%以上、30.0質量%以下、
    Na及びKのいずれか一方又は両方:全NaのNa O換算値及び全KのK O換算値の合計で1.0質量%以上、6.0質量%以下、
    全TiのTiO 換算値:0.5質量%以上、5.0質量%以下、
    全MnのMnO換算値:0.5質量%以上、13.0質量以下、及び
    全FeのFeO換算値:0.5質量%以上、7.0質量以下、
    を含有するとともに、
    Mg、Ca及びBaから選択された少なくとも一種を、
    全MgのMgO換算値:15.0質量%以上、30.0質量%以下、
    全CaのCaO換算値:7.0質量%以上、30.0質量%以下、
    全BaのBaO換算値:8.0質量%以下、
    の範囲で含有する、溶接用フラックス。
  2. 前記強脱酸元素は、
    エリンガム図における500~1000℃の全温度領域において、酸化物標準生成ギブスエネルギーの値が、-800kJ/g・molO以下である酸化物を構成する元素である、請求項1に記載の溶接用フラックス。
  3. 前記強脱酸元素は、Mg、Ca及びBaから選択された少なくとも一種の元素である、請求項1又は2に記載の溶接用フラックス。
  4. 前記Siを含む酸化物は、Si単体の酸化物、又は、K、Na及びAlから選択された少なくとも一種とSiとを含有する複合酸化物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の溶接用フラックス。
  5. 請求項1~のいずれか1項に記載の溶接用フラックスを製造する溶接用フラックスの製造方法であって、
    粉体原料を配合した配合フラックスに結合剤を添加して造粒後、500~1000℃の温度で焼成する工程を有し、
    前記配合フラックスは、前記粉体原料として、Siを含む酸化物の粉体原料、及び、強脱酸元素を含む金属の粉体原料又は化合物の粉体原料を含有し、
    前記強脱酸元素は、エリンガム図における500~1000℃の温度範囲でSiOよりも低い標準生成ギブスエネルギーを有する酸化物を構成する元素であり、
    前記強脱酸元素を含む金属の粉体原料又は化合物の粉体原料は、Mgを含む粉体原料、Caを含む粉体原料及びBaを含む粉体原料から選択された少なくとも一種の粉体原料を含有し、
    前記Mgを含む粉体原料は、Mgを含む粉体原料全質量に対してMgを25質量%以上含有し、
    前記Caを含む粉体原料は、Caを含む粉体原料全質量に対してCaを30質量%以上含有し、
    前記Baを含む粉体原料は、Baを含む粉体原料全質量に対してBaを60質量%以上含有するものであり、
    前記Mgを含む粉体原料のうち、粒径が75μm以下であるMgを含む粉体原料の割合を、前記Mgを含む粉体原料全質量に対する質量%で[a]、
    前記Caを含む粉体原料のうち、粒径が75μm以下であるCaを含む粉体原料の割合を、前記Caを含む粉体原料全質量に対する質量%で[b]、
    前記Baを含む粉体原料のうち、粒径が75μm以下であるBaを含む粉体原料の割合を、前記Baを含む粉体原料全質量に対する質量%で[c]、
    前記Siを含む酸化物の粉体原料のうち、粒径が75μm以下であるSiを含む酸化物の粉体原料の割合を、前記Siを含む酸化物の粉体原料全量に対する質量%で[d]としたとき、
    下記式(1)により得られる値が2.5以上である、溶接用フラックスの製造方法。
    ([a]+[b]+[c])/[d]・・・(1)
  6. 請求項1~のいずれか1項に記載の溶接用フラックスを用いたサブマージアーク溶接方法。
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