JP2022045882A - 被覆アーク溶接棒及びその製造方法、並びに被覆アーク溶接方法 - Google Patents

被覆アーク溶接棒及びその製造方法、並びに被覆アーク溶接方法 Download PDF

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JP2022045882A
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Abstract

【課題】再アーク性及び絶縁性が共に優れた被覆アーク溶接棒及びその製造方法、並びに被覆アーク溶接方法を提供することを目的とする。【解決手段】心線と、心線を被覆する被覆剤を有する被覆アーク溶接棒であって、被覆剤は、原材料の混合時に、体積平均粒径が200μm以下の鉄粉が添加されたものであり、被覆剤全質量に対して、金属Fe:30.0質量%以上55.0質量%以下、CO2:3.5質量%以下、を含有し、被覆剤中の全CaのCaO換算値を被覆剤全質量に対する質量%で[CaO]と表し、被覆剤中の全TiのTiO2換算値を被覆剤全質量に対する質量%で[TiO2]と表す場合に、[CaO]/[TiO2]:0.5以下、であり、被覆アーク溶接棒全質量に対する被覆剤全質量:36質量%以上50質量%以下、である。【選択図】なし

Description

本発明は、造船、建築、車輌製造等の軽量鉄骨等の軟鋼を使用する一般構造物の溶接に用いられる被覆アーク溶接棒(以下、単に「溶接棒」ともいう。)及びその製造方法、並びに該被覆アーク溶接棒を使用する被覆アーク溶接方法に関する。
一般的に、船舶、建築物、車両等の製造には、全姿勢の溶接が容易であることから、被覆アーク溶接棒が利用される箇所が多数存在する。被覆アーク溶接において、溶接時の溶接棒の先端には、被覆剤が心線より遅れて溶融したことによって、保護筒と呼ばれる筒状の部分が形成され、この保護筒は、溶接を一旦中断した後に溶接棒の先端に残る。溶接を再開する場合には、この保護筒を被溶接物(以下、「母材」ともいう。)に接触させ、アークを再発生させるため、被覆剤の通電性が低い場合には、一般的に保護筒自身の通電性も低くなり、アークが再発生しにくいという問題点がある。以下、溶接途中でアークを中断させた後、アークの再発生のしやすさを「再アーク性」という。
この再アーク性を改善させる方法として、電気伝導性の高い金属粉を被覆剤に添加させることが一般的である。従来では、溶着速度が大きくなり、溶接能率が向上するという効果も相まって被覆剤に鉄粉を添加させることが知られている。なお、被覆剤に添加される鉄粉は添加量が多く、その鉄粉の粒径が細かいほど、被覆剤としての通電性は高くなる。
しかし、再アーク性を重視し、鉄粉を多く添加すると、被覆剤の通電性が過度に高くなり被覆アーク溶接棒として十分な絶縁性が確保し難くなる。
そして、絶縁性が低くなると、一般的にサイドアークと言われる被覆剤の外表面と母材との接触によってアークが発生する現象が生じやすくなる。また、電撃防止装置の付いていない溶接電源を使用した際に、溶接作業者の電撃リスクが高くなるという問題がある。
そこで、優れた再アーク性及び絶縁性の両立を目的として、種々の被覆アーク溶接棒が提案されている。
例えば、特許文献1には、被覆剤中の鉄粉の含有量、平均粒径及び比表面積を規定しており、これにより、被覆剤の絶縁性が優れていると共に、再アーク性がより一層優れており、溶接作業性が良好である低水素系被覆アーク溶接棒を得ることができることが開示されている。
また、特許文献2には、被覆剤中の金属炭酸塩、金属弗化物、鉄粉及び有機物の含有量を限定するとともに、被覆率、鋼心線と被覆筒先端との絶縁抵抗、及び鋼心線と被覆剤との絶縁抵抗を限定した低水素系仮付け用溶接棒が開示されている。
特開平11-226779号公報 特開2004-306094号公報
しかしながら、上述のとおり、再アーク性と絶縁性はトレードオフの関係である。上記特許文献1又は2に記載の溶接棒を使用する場合であっても、再アーク性については不十分であり、再アーク性及び絶縁性が共に優れた被覆アーク溶接が期待されている。
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、再アーク性及び絶縁性が共に優れた被覆アーク溶接棒及びその製造方法、並びに被覆アーク溶接方法を提供することを目的とする。
本発明の上記目的は、被覆アーク溶接棒に係る下記[1]の構成により達成される。
[1] 心線と、前記心線を被覆する被覆剤と、を有する被覆アーク溶接棒であって、
前記被覆剤は、原材料の混合時に、体積平均粒径が200μm以下の鉄粉が添加されたものであり、
被覆剤全質量に対して、
金属Fe:30.0質量%以上55.0質量%以下、
CO:3.5質量%以下、を含有し、
前記被覆剤中の全CaのCaO換算値を被覆剤全質量に対する質量%で[CaO]と表し、前記被覆剤中の全TiのTiO換算値を被覆剤全質量に対する質量%で[TiO]と表す場合に、
[CaO]/[TiO]:0.5以下、であり、
被覆アーク溶接棒全質量に対する被覆剤全質量:36質量%以上50質量%以下、であることを特徴とする被覆アーク溶接棒。
本発明の上記目的は、他の被覆アーク溶接棒に係る下記[2]の構成により達成される。
[2] 心線と、前記心線を被覆する被覆剤と、を有する被覆アーク溶接棒であって、
被覆剤全質量に対して、
金属Fe:30.0質量%以上55.0質量%以下、
CO:3.5質量%以下、を含有し、
前記被覆剤中の全CaのCaO換算値を被覆剤全質量に対する質量%で[CaO]と表し、前記被覆剤中の全TiのTiO換算値を被覆剤全質量に対する質量%で[TiO]と表す場合に、
[CaO]/[TiO]:0.5以下、であるとともに、
被覆アーク溶接棒の長手方向に垂直な断面における前記被覆剤に含まれる鉄粉の円相当径の平均粒径が100μm未満であり、
被覆アーク溶接棒全質量に対する被覆剤全質量:36質量%以上50質量%以下、であることを特徴とする被覆アーク溶接棒。
被覆アーク溶接棒に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[3]~[6]に関する。
[3] 前記被覆剤中の前記金属Feの含有量を被覆剤全質量に対する質量%で[金属Fe]と表し、前記被覆剤全質量を被覆アーク溶接棒全質量に対する質量%で[被覆率]と表す場合に、
[金属Fe]/[被覆率]:0.62以上1.14以下、であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の被覆アーク溶接棒。
[4] 前記被覆剤中の前記金属Feの含有量を被覆剤全質量に対する質量%で[金属Fe]と表し、前記被覆剤中の前記COの含有量を被覆剤全質量に対する質量%で[CO]と表す場合に、
[金属Fe]×[CO]/[TiO]:9.0以下、であることを特徴とする[1]~[3]のいずれか1つに記載の被覆アーク溶接棒。
[5] 前記被覆剤は、被覆剤全質量に対して、
前記全TiのTiO換算値:10.0質量%以上40.0質量%以下、
前記全CaのCaO換算値:0.1質量%以上4.0質量%以下、を含有することを特徴とする[1]~[4]のいずれか1つに記載の被覆アーク溶接棒。
[6] 前記被覆剤は、被覆剤全質量に対して、
全SiのSiO換算値:1.0質量%以上20.0質量%以下、を含有し、
全MnのMnO換算値:10.0質量%以下、
全AlのAl換算値:10.0質量%以下、
Na、K及びLiから選択された少なくとも1種:全NaのNaO換算値、全KのKO換算値及び全LiのLiO換算値の合計で、8.0質量%以下、であることを特徴とする[1]~[5]のいずれか1つに記載の被覆アーク溶接棒。
本発明の上記目的は、被覆アーク溶接棒の製造方法に係る下記[7]の構成により達成される。
[7] 心線と、前記心線を被覆する被覆剤と、を有する被覆アーク溶接棒の製造方法であって、
前記被覆剤を、被覆アーク溶接棒全質量に対して、36質量%以上50質量%以下の被覆率で前記心線に被覆させる工程を有し、
前記被覆材は、体積平均粒径が200μm以下である鉄粉を含有し、
被覆剤全質量に対して、
金属Fe:30.0質量%以上55.0質量%以下、及び、
CO:3.5質量%以下、であるとともに、
前記被覆剤中の全CaのCaO換算値を被覆剤全質量に対する質量%で[CaO]と表し、前記被覆剤中の全TiのTiO換算値を被覆剤全質量に対する質量%で[TiO]と表す場合に、
[CaO]/[TiO]:0.5以下、であることを特徴とする被覆アーク溶接棒の製造方法。
本発明の上記目的は、被覆アーク溶接方法に係る下記[8]の構成により達成される。
[8] [1]~[6]のいずれか1つに記載の被覆アーク溶接棒を用いて溶接することを特徴とする被覆アーク溶接方法。
本発明によれば、再アーク性及び絶縁性が共に優れた被覆アーク溶接棒及びその製造方法、並びに被覆アーク溶接方法を提供することができる。
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。また、本明細書において、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
さらに、本明細書において、「酸化物」とは、「単一酸化物」及び「複合酸化物」のうち、一種以上を意味する。「単一酸化物」とは、例えばAlならば、Al単独の酸化物(Al)といい、「複合酸化物」とは、例えば、Al、Si、Kといった複数の元素を含む酸化物をいう。
<1.被覆アーク溶接棒>
本実施形態に係る被覆アーク溶接棒は、心線と、心線を被覆する被覆剤と、を有する。以下、本実施形態に係る被覆剤及び心線について詳細に説明する。
なお、本実施形態における含有量とは、特に説明がない限り、被覆剤全質量に対する質量%を意味する。また、被覆剤の各成分の含有量について、分析方法の制約上、各元素からの換算値で規定する成分が存在するため、被覆剤全質量に対する各成分の含有量の合計は、100質量%を超える場合がある。
[1-1.被覆剤]
本発明者は、(1)被覆剤に添加された鉄粉の量及び粒径の調整、(2)被覆剤に添加される酸化物としてTiO及びCaOを選択すること、(3)炭酸塩の抑制、(4)被覆率の調整、を行うことによって、本来トレードオフの関係であった再アーク性及び絶縁性について、共に優れた効果を得られることを見出した。
具体的に、本発明者は、鉄粉の量を抑え、かつ、その粒径を小さめに調整することで、被覆剤中に分散した鉄粉間の距離を十分に確保できるため、被覆アーク溶接棒として優れた絶縁性を確保できることを見出した。また本発明者は、被覆率が高くなるように調整することで、被覆剤の外表面から心線表面までの距離が長くなるため、被覆アーク溶接棒として優れた絶縁性を確保できることも見出した。
なお、これらの構成だけであれば、優れた絶縁性を確保することができるものの、優れた再アーク性の確保は困難である。そこで、本実施形態に係る被覆アーク溶接棒では、被覆剤に含まれる酸化物として、高融点かつ溶融Feとの濡れ性が高い性質を持つTiO及びCaOを選択する。
溶接時において、被覆アーク溶接棒先端には保護筒が形成される。この保護筒は、アーク熱によって高温になるため、高融点の酸化物は固体のまま維持されるが、鉄粉は溶融すると考えられる。被覆剤中には、溶融Feとの濡れ性が高い性質を持つTiO及びCaOが含まれるため、溶融した鉄粉は高温の保護筒内で移動が容易となり、近接する溶融した鉄粉と融合しやすくなる。
すなわち、被覆剤が低温状態においては、鉄粉の粒子間に十分な距離が確保されるため、優れた絶縁性が確保できる。一方、被覆剤が高温状態になると、鉄粉が溶融し、近接する溶融Feが融合することにより、保護筒先端から心線への電気経路が十分に形成される。なお、炭酸塩は、被覆アーク溶接棒において、安定した溶接を行うために必要であるが、熱分解によって、通電性の低い酸化物が保護筒内で生成するため、本実施形態に係る被覆アーク溶接棒では、その含有量を抑制するように調整する。
以下、具体的な被覆剤中の成分、その含有量の数値限定理由、被覆率等について、更に詳細に説明する。
(金属Fe:30.0質量%以上55.0質量%以下)
金属Feは、溶着速度を増大させて、溶接能率を向上させる成分であり、また、電気伝導性が高いことから、再アーク性を良好にする成分でもある。
被覆剤全質量に対する金属Feの含有量が30.0質量%未満であると、溶接能率が低くなるとともに、良好な再アーク性を維持することができない。したがって、被覆剤全質量に対する金属Feの含有量は30.0質量%以上とし、32.5質量%以上であることが好ましく、34.0質量%以上であることがより好ましく、35.0質量%以上であることがさらに好ましい。
一方、被覆剤全質量に対する金属Feの含有量が55.0質量%を超えると、通電性が高くなりすぎて、被覆剤先端部以外からの再点弧が発生し、十分な絶縁性を確保することができない。したがって、被覆剤全質量に対する金属Feの含有量は55.0質量%以下とし、52.5質量%以下であることが好ましく、48.5質量%以下であることがより好ましく、47.0質量%以下であることがさらに好ましい。
なお、被覆剤中の金属Feは、後述する鉄粉の他、フェロマンガン、フェロシリコン、フェロチタン等の合金鉄、及び還元イルミナイト等に含有されている。
また、被覆剤全質量に対する金属Feの含有量は、例えば酸化還元滴定法により定量することができる。
(鉄粉の体積平均粒径:200μm以下)
被覆剤の原材料の混合時に添加される鉄粉の体積平均粒径(以下、単に「MV」ともいう。なお、MVは、「Mean Volume Diameter」の略称である。)は、金属Feの含有量と同様に、溶接中断後の保護筒の状態に影響を及ぼし、再アーク性に大きく影響を及ぼす。
溶接中断後の保護筒の表面は、溶接時のアーク熱により、その殆どが溶融する。ただし、鉄粉の体積平均粒径が小さい方が、被覆剤中に鉄粉が広く分散されて個数密度が高くなり、鉄粉溶融時、接触する機会が増し、近接する溶融鉄粉同士の融合が促進される。そして、溶融した鉄粉同士が融合することにより、電気経路が十分に確保されるため、再アーク性を向上させることができる。
なお、本実施形態において、鉄粉とは、金属Feを95質量%以上含有する金属粉であり、残部はC、Si、Mn、鉄粉表面で酸化したFe酸化物、及びS、P等の不純物となる。また、良好な再アーク性と絶縁性を確保する観点から、被覆剤全質量に対する鉄粉の含有量は30.0質量%以上であることが好ましく、32.5質量%以上であることがより好ましい。
鉄粉の体積平均粒径が200μmを超えると、鉄粉の個数密度が低くなり、溶融した鉄粉同士が融合し難くなるため、保護筒先端から心線への電気経路を形成し難くなり、良好な再アーク性を確保することが困難になる。したがって、被覆剤の原材料の混合時に添加される鉄粉の体積平均粒径は200μm以下とし、180μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましい。また、鉄粉の体積平均粒径の下限値は特に限定しないが、十分な絶縁性を確保する観点から20μm以上であることが好ましく、40μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることがさらに好ましい。
さらに、本実施形態において、被覆剤中に含まれる鉄粉の粒径は、被覆剤が心線から剥がれるのを防止するため、最大で500μm程度とすることが好ましい。
なお、体積平均粒径MV(Mean Volume Diameter)とは、レーザ回折・散乱法による粒度分布計により粒度分布を測定し、得られた粒子径及びその粒子径を有する粒子の総体積に基づき、下記式(I)により算出される値である。
Figure 2022045882000001
ただし、上記式(I)において、d,d,・・・,d,・・・,dは、各粒子を粒子径の小さい順から並べる場合の粒子径を表し、v,v,・・・,v,・・・,vは上記各粒子径に対応する粒子の総体積を表す。
(鉄粉の円相当径の平均粒径:100μm未満)
本実施形態に係る被覆剤中の鉄粉の平均粒径は、被覆アーク溶接棒の長手方向に垂直な断面における鉄粉の円相当径の平均値を算出することにより規定される。上記円相当径とは、JIS Z 8827-1:2018で定められているように、粒子の投影面積と等しい面積をもつ円の直径を示し、コンピュータによる画像解析ソフトなどで求めることができる。
鉄粉の円相当径の平均粒径が100μm以上であると、良好な再アーク性を確保することが困難となる。したがって、鉄粉の円相当径の平均粒径は100μm未満とし、80μm以下であることが好ましく、75μm以下であることがより好ましい。
なお、鉄粉の円相当径の平均粒径の下限値は特に規定しないが、十分な絶縁性を確保する観点から、好ましくは20μm以上とし、35μm以上であることがより好ましく、45μm以上であることがさらに好ましい。なお、本実施形態において、被覆剤が心線から剥がれるのを防止するため、被覆剤中に含まれる鉄粉の円相当径は、最大で500μm程度とすることが好ましい。
(CO:3.5質量%以下)
本実施形態においては、被覆剤中の炭酸塩の含有量をCOの含有量として規定する。
溶接時に炭酸塩の熱分解により保護筒内に生じた酸化物は、被覆剤の主要成分である金属Feより電気伝導度が低いため、被覆剤全質量に対するCOの含有量が3.5質量%を超えると、著しく再アーク性が劣化する。
また、被覆剤中の炭酸塩の含有量が高くなると、溶融スラグの流動性が高くなりすぎて、均一で被包性の良いスラグ形成が困難となり、スラグ剥離性が劣化してスラグ焼付が発生する。したがって、被覆剤全質量に対するCOの含有量は3.5質量%以下とし、2.5質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以下であることがさらに好ましく、0.5質量%以下であることがさらにより好ましい。
COの含有量の下限値は特に規定しないが、炭酸塩はアークの吹付けを向上するとともに、熱分解によりガスを生じ、溶融金属の酸化及び窒化を防ぐため、被覆剤全質量に対するCOの含有量は0.1質量%以上であることが好ましい。
なお、被覆剤中のCOは、CaCO、BaCO、MgCO、MnCO、FeCO、NaCO、KCO等の炭酸塩に含有されている。
本実施形態においては、被覆剤全質量に対する全CaのCaO換算値と全TiのTiO換算値との比を規定する。まず、TiO換算値について説明する。
(TiのTiO換算値:10.0質量%以上40.0質量%以下)
被覆剤中にTi酸化物が含まれることにより、十分な絶縁性を維持し、保護筒内においては、溶融した鉄粉の融合促進に寄与し、再アーク性が向上する。加えて、Ti酸化物は、均一で被包性の良いスラグ形成を可能とし、かつスラグ剥離性の改善効果を有する。また、スラグの凝固点を上昇させる効果を持つため、溶融金属の垂れ落ちを防止することができ、立向上進溶接を容易にすることができる。なお、本実施形態においては、被覆剤中のTi酸化物の好ましい含有量を、TiのTiO換算値として規定する。
再アーク性及び絶縁性を確保しつつ、スラグ剥離性に対し優位性を保ち、立向上進溶接を容易にするため、TiO換算値は、10.0質量%以上であることが好ましく、17.0質量%以上であることがより好ましい。また、同様の理由により、TiO換算値は、40.0質量%以下であることが好ましく、35.0質量%以下であることがより好ましい。
なお、被覆剤中のTi酸化物としては、ルチール、ルコキシン、イルミナイト、チタンスラグ、還元イルミナイト等が挙げられる。その他、溶融金属の機械的性質の向上のために金属Ti、Fe-Ti等の合金等を含有してもよい。
(CaのCaO換算値:0.1質量%以上4.0質量%以下)
被覆剤中にCa酸化物が含まれることにより、十分な絶縁性を確保し、保護筒内においては、溶融した鉄粉の融合促進に寄与し、再アーク性が向上する。加えて、Ca酸化物は、均一で被包性の良いスラグ形成を可能とし、かつスラグ剥離性の改善効果を有する。なお、本実施形態においては、被覆剤中のCa酸化物の好ましい含有量を、CaのCaO換算値として規定する。
再アーク性及び絶縁性を確保しつつ、スラグ剥離性に対し優位性を保つため、CaO換算値は0.1質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましい。また、同様の理由により、4.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以下であることがより好ましく、2.5質量%以下であることがさらに好ましく、1.0質量%以下がさらにより好ましい。
なお、被覆剤中のCa酸化物源としては、CaO等が挙げられるとともに、溶接時に熱分解して被覆剤中にCaOを生成するCaの炭酸塩、Caの珪酸塩、CaF等のフッ化物が挙げられる。その他、溶融金属の機械的性質の向上のために金属Ca、カルシウムシリコン等の合金等を含有してもよい。
([CaO]/[TiO]:0.5以下)
溶接時に、被覆アーク溶接棒が高温のアークに晒される場合に、温度が1300℃以上となると、被覆剤中のCa酸化物及びTi酸化物が反応して、その界面に絶縁性が高いCaTiOを生じるとともに、Ca酸化物及びTi酸化物間でネック形成が起こる。このネック形成は、溶融した鉄粉同士の融合を阻害するため、再アーク性が悪くなる。なお、上記ネックとは、加熱とともに粒子の接触点に物質が移動することによって起こり、この粒子が物質によって、繋がった部分をいう。
TiO換算値に対するCaO換算値の割合を低減することにより、絶縁性が高いCaTiOの生成を抑制し、ネック形成をし難くすることができる。被覆剤中の全CaのCaO換算値を被覆剤全質量に対する質量%で[CaO]と表し、被覆剤中の全TiのTiO換算値を被覆剤全質量に対する質量%で[TiO]と表す場合に、再アーク性を維持するために、[CaO]/[TiO]は0.5以下とし、0.4以下であることが好ましく、0.2以下であることがより好ましく、0.1以下であることがさらに好ましい。
(被覆率:36~50質量%)
被覆率とは、被覆アーク溶接棒の全質量に対する被覆剤の質量が占める割合(質量%)を示す。被覆率が低すぎると、被覆剤の外表面から心線までの距離が短くなるため、絶縁性が劣化する。したがって、被覆率は36質量%以上とし、37質量%以上であることが好ましい。
一方、被覆率が高すぎると、溶接後の保護筒の先端と心線の距離が長くなり、再アーク性が悪くなる。したがって、被覆率は50質量%以下とし、48質量%以下であることが好ましく、47質量%以下であることがより好ましく、46質量%以下であることがさらに好ましい。
([金属Fe]/[被覆率]:0.62以上1.14以下)
被覆率が高い場合は、溶接後の保護筒の先端と心線との距離が長くなり、被覆剤中の金属Feの含有量が少ない場合は、良好な再アーク性を確保することができない。
一方、被覆率が低い場合は、被覆剤の外表面から心線表面までの距離が短くなり、被覆剤中の金属Feの含有量が多い場合は、良好な絶縁性を確保することができない。したがって、被覆剤中の金属Feの含有量を被覆剤全質量に対する質量%で[金属Fe]と表し、被覆剤全質量を被覆アーク溶接棒全質量に対する質量%で[被覆率]と表す場合に、再アーク性と絶縁性をより高めるためには、[金属Fe]/[被覆率]は0.62以上1.14以下であることが好ましい。また、再アーク性をさらに高めるためには、0.82以上であることがより好ましく、0.85以上であることがさらに好ましい。また、絶縁性をさらに高めるためには、1.12以下であることがより好ましく、1.10以下であることがさらに好ましい。
([金属Fe]×[CO]/[TiO]:9.0以下)
被覆剤中の金属Feの含有量を、被覆剤全質量に対する質量%で[金属Fe]と表し、被覆剤中のCOの含有量を、被覆剤全質量に対する質量%で[CO]と表し、被覆剤中の全TiのTiO換算値を、被覆剤全質量に対する質量%で[TiO]と表す場合に、([金属Fe]×[CO]/[TiO])が9.0以下であると、均一で被包性の良いスラグ形成を可能とし、スラグ剥離性をより一層向上させることができる。したがって、([金属Fe]×[CO]/[TiO])は9.0以下とすることが好ましく、5.0以下であることがより好ましく、4.0以下であることがさらに好ましい。
(全SiのSiO換算値:1.0質量%以上20.0質量%以下)
被覆剤中にSiが含まれることにより、溶融スラグの粘性を上げて流動性を改良し、ビード外観及びビード形状を良好にすることができる。本実施形態においては、ビード外観及びビード形状の向上のために、必要に応じてSiを被覆剤中に含めてもよい。
被覆剤全質量に対するSiの含有量は、被覆剤中の全SiをSiOに換算したSiO換算値で規定する。溶融スラグの粘性を上げて流動性を改良し、ビード外観及びビード形状を良好にしたい場合、SiO換算値は、1.0質量%以上であることが好ましく、5.0質量%以上であることがより好ましい。また、同様の理由により、SiO換算値は20.0質量%以下であることが好ましく、17.0質量%以下であることがより好ましい。
なお、被覆剤中のSiは、SiO等のSiの酸化物、Siの珪酸塩、金属Si、フェロシリコン等の合金、水ガラス等の固着剤等に含有されている。
(全MnのMnO換算値:10.0質量%以下)
被覆剤中にMnが含まれることにより、溶接金属の引張強度及びスラグ剥離性を向上させることができる。本実施形態においては、引張強度及びスラグ剥離性の調整のために、必要に応じてMnを被覆剤中に含めてもよい。
被覆剤全質量に対するMnの含有量は、被覆剤中の全Mn量をMnOに換算したMnO換算値で規定する。MnO換算値が10.0質量%以下であれば、靱性、硬さ等の他の機械的性質の劣化を抑制しつつ、溶接金属の引張強度の調整が可能であり、良好な機械的性質を得ることができ、8.0質量%以下であるとより好ましい。
なお、被覆剤中のMnは微量であってもスラグ剥離性を向上させる効果を得ることができるが、その効果を十分に発揮させるためには、MnO換算値は0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましい。
なお、被覆剤中のMnは、MnO、MnO、Mn、Mnの酸化物、Mnの硫化物、Mnの炭酸塩、金属Mn、フェロマンガン等の合金等に含有されている。
(全AlのAl換算値:10.0質量%以下)
被覆剤中にAlが含まれることにより、溶融スラグの粘性を高め、流動性を改良し、ビード外観及びビード形状を良好にすることができる。本実施形態においては、ビード外観及びビード形状の向上のために、必要に応じてAlを被覆剤中に含めてもよい。
被覆剤全質量に対するAlの含有量は、被覆剤中の全Al量をAlに換算したAl換算値で規定する。溶融スラグの粘性を適正に調整し、流動性を制御して、ビード外観及びビード形状を良好に保つために、Al換算値は、10.0質量%以下であることが好ましく、8.0質量%以下であることがより好ましい。
また、被覆剤中のAlは微量であってもビード外観及びビード形状を良好にする効果を得ることができるが、その効果を十分に発揮させるためには、Al換算値は0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましい。
なお、被覆剤中のAlは、Al等のAlの酸化物、金属Al、アルミマグネシウム等の合金等に含有されている。
(Na、K及びLiから選択された少なくとも1種(全NaのNaO換算値、全KのKO換算値及び全LiのLiO換算値の合計):8.0質量%以下)
被覆剤中にNa、K及びLiから選択された少なくとも1種が含まれることにより、アーク安定性を向上させることができる。そこで本実施形態においては、アーク安定性向上のために、必要に応じて、Na、K及びLiから選択された少なくとも1種を被覆剤中に含めてもよい。
被覆剤全質量に対するNa、K及びLiから選択された成分の合計の含有量は、全NaのNaO換算値、全KのKO換算値及び全LiのLiO換算値の合計の含有量で規定する。以下、NaO換算値、KO換算値及びLiO換算値の合計の含有量を、RO換算値とする。アーク安定性を向上させるために、RO換算値は、8.0質量%以下であることが好ましく、6.0質量%以下であることがより好ましい。
また、被覆剤中のNa、K及びLiは微量であってもアーク安定性を向上させることができるが、その効果を十分に発揮させるためには、RO換算値は0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましい。
なお、被覆剤中のNa、K及びLiは、NaO、KO、LiO等の酸化物、金属Na、金属K、金属Li、Na合金、K合金、Li合金、水ガラス等の固着剤等に含有されている。
(C:5.0質量%以下)
被覆剤中にCが含まれることにより、アークの吹付け力を増加させて溶接作業性を向上することができる。本実施形態においては、アークの吹付け力を増加させて溶接作業性を向上するために、必要に応じてCを被覆剤中に含めてもよい。
被覆剤全質量に対するC含有量が、5.0質量%以下であれば、アークの吹付けが過度となり、スパッタ量が増大することを防止しつつ、良好な溶接作業性を得ることができることから、C含有量は5.0質量%以下であることが好ましく、4.0質量%以下であることがより好ましい。
また、被覆剤中のCは微量であっても溶接作業性を良好にする効果を得ることができるが、その効果を十分に発揮させるためには、C含有量は0.5質量%以上であることが好ましい。
なお、被覆剤中のCは、各種金属、合金粉原料、又は澱粉、木粉等の有機物に含有されている。
また、本実施形態における「被覆剤中のC含有量」は、被覆剤全質量に対する全Cの含有量から、CO中のCの含有量(CO含有量に0.2727を乗じた値)を差し引いた値である。
(全F量:5.0質量%以下)
被覆剤中にFが含まれることにより、溶融スラグの粘性を高め、流動性を改良し、ビード外観及びビード形状を良好にすることができる。本実施形態においては、ビード外観及びビード形状の向上及び拡散性水素の低減のために、必要に応じてFを被覆剤中に含めてもよい。
被覆剤全質量に対するフッ化物の含有量は、被覆剤中の全F量で規定する。溶融スラグの粘性を上げて流動性を改良し、ビード外観及びビード形状を良好にするために、被覆剤中の全F量は、5.0質量%以下であることが好ましく、4.0質量%以下であることがより好ましい。
また、被覆剤中のFは微量であってもビード外観及びビード形状を良好にする効果を得ることができるが、その効果を十分に発揮させるためには、全F量は0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましい。
なお、被覆剤中のFは、CaF、BaF、MgF、AlF、KSiF、NaSiF等に含有されている。
(換算値を含む各成分組成の合計値)
本実施形態において、上記で示した被覆剤全質量に対する金属Fe、CO含有量、TiのTiO換算値、CaのCaO換算値、全SiのSiO換算値、全MnのMnO換算値、全AlのAl換算値及びRO換算値の合計は、良好なスラグ剥離性及びビード形状を得る観点から、86質量%以上であることが好ましく、88質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。
(その他成分)
本実施形態において、被覆剤は、前述した含有成分に加えて、Feの酸化物、Feの硫化物、Feの炭酸塩等を含有していてもよい。Feの酸化物、Feの硫化物、Feの炭酸塩等に含まれるFeは被覆剤の全質量に対して、7質量%以下であることが好ましい。被覆剤は、さらに、Mg、Ba、Zr、B、Ni、Cr、Mo、V、Cu等の元素から選択された少なくとも1種を含有していてもよく、Mg、Ba、Zr、B、Ni、Cr、Mo、V、Cu等は、被覆剤の全質量に対して、各々3質量%以下とすることが好ましい。
(不純物)
被覆剤に含まれる上記以外の元素として、P等の不可避的不純物が挙げられる。耐高温割れ性等の溶接品質を確保する観点から、被覆剤全質量に対するPの含有量は、0.5質量%以下に抑制することが好ましい。また、被覆剤全質量に対する不純物の合計値は、3質量%以下に抑制することが好ましい。
[1-2.心線]
本実施形態における心線の種類については特に限定されないが、例えば直径dが2.6mm~6.0mmのものを使用することができ、特に直径が3.2mmや4.0mmのものを好適に使用することができる。
以下、本実施形態に係る心線に含まれる成分及び好ましい含有量について、以下に説明する。
(O:0.0005質量%以上、0.0500質量%以下)
心線のO含有量が過剰であると、得られる溶接金属中のO量が過剰となり、溶接金属の靱性が低下するおそれがある。
また、溶融金属の流動性が高くなり、立向、上向等の姿勢の溶接で、溶接金属のたれ落ちが発生しやすくなり、溶接作業性が低下するおそれがある。したがって、心線のO含有量は、心線の全質量に対して0.0500質量%以下であることが好ましく、0.0300質量%以下であることがより好ましく、0.0150質量%以下であることが更に好ましい。
一方、心線のO含有量が過少であると、アーク力による溶融池の撹拌が不十分となり、合金成分が均一に分布した溶接金属が得られなくなる。したがって、心線のO含有量は、心線の全質量に対して0.0005質量%以上であることが好ましく、0.0013質量%以上であることがより好ましく、0.0016質量%以上であることが更に好ましい。
(その他の成分)
本実施形態において、心線におけるその他の成分については特に限定されないが、例えばFeを主成分とする鉄系心線を好適に使用することができ、具体的にはJIS G 3503:2006に規定されているSWRY11を心線として用いることができる。
なお、心線中には、上記OやFeの他に、C、Si、Mn、P、S、N、Cu等が含有されることがある。心線の全質量に対する心線のC含有量は0.09質量%以下、Si含有量は0.10質量%以下(0質量%を含む)、Mn含有量は0.35質量%以上0.65質量%以下、P含有量は0.040質量%以下(0質量%を含む)、S含有量は0.035質量%以下(0質量%を含む)、Cu含有量は0.20質量%以下(0質量%を含む)とすることが好ましい。
以上、本実施形態に係る被覆剤及び心線について説明した。
上述のとおり、被覆剤中の鉄粉の体積平均粒径、成分の含有量及び被覆率を適切に制御することにより、再アーク性、絶縁性及びスラグ剥離性が優れているとともに、立向上進溶接に好適である被覆アーク溶接棒を得ることができる。なお、本実施形態に係る被覆アーク溶接棒は、特に立向上進溶接時の利用に好適であるが、この溶接姿勢に限定されず、全姿勢溶接において適用することができる。
<2.被覆アーク溶接棒の製造方法>
本実施形態に係る被覆アーク溶接棒の製造方法は、心線と、該心線を被覆する被覆剤と、を有する被覆アーク溶接棒の製造方法であって、
前記被覆剤を、被覆アーク溶接棒全質量に対して、36質量%以上50質量%以下の被覆率で前記心線に被覆させる工程を有し、
前記被覆材は、体積平均粒径が200μm以下である鉄粉を含有し、
被覆剤全質量に対して、
金属Fe:30.0質量%以上55.0質量%以下、及び、
CO:3.5質量%以下、であるとともに、
上記被覆剤中の全CaのCaO換算値を被覆剤全質量に対する質量%で[CaO]と表し、上記被覆剤中の全TiのTiO換算値を被覆剤全質量に対する質量%で[TiO]と表す場合に、
[CaO]/[TiO]:0.5以下、である。
そして、上記<1.被覆アーク溶接棒>で説明した本実施形態に係る被覆アーク溶接棒は、被覆剤が上記成分組成となるように被覆剤の原材料を配合し、所定の固着剤と共に混錬したものを、被覆率が被覆アーク溶接棒全質量に対して36質量%以上50質量%以下の範囲となるようにして、所定の心線の表面に塗装し、乾燥させることにより製造することができる。
なお、本実施形態に係る被覆アーク溶接棒の製造方法において、心線の種類、固着剤の種類、被覆剤の形成方法等は特に限定されず、被覆アーク溶接棒を製造する場合の通常の仕様や条件を用いることができる。
<3.被覆アーク溶接方法>
本実施形態に係る被覆アーク溶接方法は、上記<1.被覆アーク溶接棒>で説明した本実施形態に係る被覆アーク溶接棒を用いて溶接する方法である。
なお、本実施形態に係る被覆アーク溶接方法において、本実施形態に係る被覆アーク溶接棒を用いること以外の各種溶接条件については特に限定されず、母材の種類、溶接電圧、溶接電流、溶接姿勢等について、被覆アーク溶接棒を用いた溶接方法における通常の条件を用いることができる。
以下、本実施形態に係る被覆アーク溶接棒の実施例について、その比較例と比較して具体的に説明する。
まず、JIS G 3503:2006に規定されるSWRY11(被覆アーク溶接棒心線用線材)に対して、伸線加工及び切断加工を施して、心線径が3.2mmであり、長さが350mmであって、炭素鋼からなる鋼心線を作製した。
次に、被覆剤の原材料を組み合わせて、種々の成分組成を有する被覆剤を作製した。なお、被覆剤の原材料として使用した鉄粉の粒径は、市販のレーザ回折・散乱法による粒度分布計(例えば、マイクロトラック・ベル(株)(旧日機装(株))製:マイクロトラック MT3200)により測定した。
その後、被覆剤を心線の表面に塗装して、乾燥することにより、被覆材を心線に被覆させた被覆アーク溶接棒を作製した。
さらに、上記の方法により得られた被覆アーク溶接棒について、被覆剤に含まれる鉄粉の円相当径の平均粒径を測定した。ここで、鉄粉の円相当径の平均粒径の測定方法を以下に説明する。
まず、被覆アーク溶接棒の長手方向の中央を切断し、長手方向に対する垂直断面が観察面となるように、被覆アーク溶接棒を樹脂に埋め込み、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)で観察した。SEMによる観察は、倍率を50倍、加速電圧を25kVとし、反射電子(Back Scattered Electron;BSE)像による視野(2.02×1.52mm、1280×960ピクセル)を観察した。なお、視野の全面積に対して、被覆剤が占める面積の割合が50%以上となるように、観察視野を調整した。
その後、上記観察視野の被覆剤断面を、エネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X-ray spectroscopy;EDX)を用いて元素分析、元素マッピングを行い、鉄粉を同定した。
また、上記観察視野の組成像の画像全体に対し、画像解析ソフト ImageJ(version 1.50i、開発元:National Institutes of Health,USA)を用いて、1280×960ピクセルで、鉄粉と、それ以外の領域とを二値化した。その後、円相当径が30μm以上である鉄粉の総面積を、円相当径が30μm以上である鉄粉の個数で割ることにより、鉄粉の円相当径の平均粒径を算出した。上記画像解析ソフトを用いた場合に、鉄粉と、それ以外の領域とを区別する二値化のしきい値としては、100~140の範囲で設定することができるが、本実施例においては、二値化のしきい値を125とした。また、極めて細かい粒径の鉄粉は、画像処理が困難となるため、本実施例においては円相当径が30μm未満の鉄粉を測定対象から除外した。
なお、二値化のしきい値は特に限定されず、鉄粉と、それ以外の領域とを区別することができれば、任意のしきい値を設定することができる。
また、得られた各被覆アーク溶接棒を使用して溶接を実施し、再アーク性、絶縁性、立向上進溶接性及びスラグ剥離性について評価した。溶接条件、評価方法及び評価基準について、下記表1に示す。また、各被覆アーク溶接棒の被覆剤中の成分、鉄粉の体積平均粒径、鉄粉の円相当径の平均粒径及び被覆率を下記表2及び3に示し、評価結果を下記表4に示す。
なお、下記表2及び3において、[CaO]とは、被覆剤中の全CaのCaO換算値を被覆剤全質量に対する質量%で表した値であり、[TiO]とは、被覆剤中の全TiのTiO換算値を被覆剤全質量に対する質量%で表した値である。
[金属Fe]とは、被覆剤中の金属Feの含有量を被覆剤全質量に対する質量%で表した値であり、[CO]とは、被覆剤中のCOの含有量を被覆剤全質量に対する質量%で表した値である。
[NaO]とは、被覆剤中の全NaのNaO換算値を被覆剤全質量に対する質量%で表した値であり、[KO]とは、被覆剤中の全KのKO換算値を被覆剤全質量に対する質量%で表した値であり、[LiO]とは、被覆剤中の全LiのLiO換算値を被覆剤全質量に対する質量%で表した値である。
[被覆率]とは、被覆剤の全質量を被覆アーク溶接棒全質量に対する質量%で表した値である。
Figure 2022045882000002
Figure 2022045882000003
Figure 2022045882000004
Figure 2022045882000005
上記表2~4に示すように、発明例No.1~13は、被覆剤の原材料の混合時に添加された鉄粉の体積平均粒径が本発明の範囲内であるとともに、被覆剤中の金属Fe、CO、[CaO]/[TiO]、被覆率が本発明の範囲内であるため、再アーク性及び絶縁性が共に優れているため、評価A又はBであった。
一方、比較例No.14は、被覆剤の原材料の混合時に添加された鉄粉の体積平均粒径が本発明の範囲の上限を超えていたため、再アーク性がやや劣化して、評価Cとなった。
比較例No.15は、被覆率が本発明の範囲の上限を超えていたため、再アーク性がやや劣化し、評価Cとなった。
比較例No.16は、被覆率が本発明の範囲の下限未満であったため、絶縁性が劣化し、評価Dとなった。
比較例No.17は、被覆剤中の金属Feの含有量が本発明の範囲の下限未満であったため、再アーク性がやや劣化し、評価Cとなった。
比較例No.18は、被覆剤中の金属Feの含有量が本発明の範囲の上限を超えていたため、絶縁性がやや劣化し、評価Cとなった。
比較例No.19は、被覆率が本発明の範囲の下限未満であったため、絶縁性がやや劣化し、評価Cとなった。
比較例No.20は、金属Feが本発明の範囲の下限未満であったため、再アーク性がやや劣化し、評価Cとなった。
比較例No.21は、被覆剤中のCOが本発明の範囲の上限を超えていたため、再アーク性が劣化し、評価Dとなった。
比較例No.22は、被覆剤中のCOが本発明の範囲の上限を超えていたとともに、[CaO]/[TiO]も本発明の範囲の上限を超えていたため、再アーク性が劣化し、評価Dとなった。

Claims (8)

  1. 心線と、前記心線を被覆する被覆剤と、を有する被覆アーク溶接棒であって、
    前記被覆剤は、原材料の混合時に、体積平均粒径が200μm以下の鉄粉が添加されたものであり、
    被覆剤全質量に対して、
    金属Fe:30.0質量%以上55.0質量%以下、
    CO:3.5質量%以下、を含有し、
    前記被覆剤中の全CaのCaO換算値を被覆剤全質量に対する質量%で[CaO]と表し、前記被覆剤中の全TiのTiO換算値を被覆剤全質量に対する質量%で[TiO]と表す場合に、
    [CaO]/[TiO]:0.5以下、であり、
    被覆アーク溶接棒全質量に対する被覆剤全質量:36質量%以上50質量%以下、であることを特徴とする被覆アーク溶接棒。
  2. 心線と、前記心線を被覆する被覆剤と、を有する被覆アーク溶接棒であって、
    被覆剤全質量に対して、
    金属Fe:30.0質量%以上55.0質量%以下、
    CO:3.5質量%以下、を含有し、
    前記被覆剤中の全CaのCaO換算値を被覆剤全質量に対する質量%で[CaO]と表し、前記被覆剤中の全TiのTiO換算値を被覆剤全質量に対する質量%で[TiO]と表す場合に、
    [CaO]/[TiO]:0.5以下、であるとともに、
    被覆アーク溶接棒の長手方向に垂直な断面における前記被覆剤に含まれる鉄粉の円相当径の平均粒径が100μm未満であり、
    被覆アーク溶接棒全質量に対する被覆剤全質量:36質量%以上50質量%以下、であることを特徴とする被覆アーク溶接棒。
  3. 前記被覆剤中の前記金属Feの含有量を被覆剤全質量に対する質量%で[金属Fe]と表し、前記被覆剤全質量を被覆アーク溶接棒全質量に対する質量%で[被覆率]と表す場合に、
    [金属Fe]/[被覆率]:0.62以上1.14以下、であることを特徴とする請求項1又は2に記載の被覆アーク溶接棒。
  4. 前記被覆剤中の前記金属Feの含有量を被覆剤全質量に対する質量%で[金属Fe]と表し、前記被覆剤中の前記COの含有量を被覆剤全質量に対する質量%で[CO]と表す場合に、
    [金属Fe]×[CO]/[TiO]:9.0以下、であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の被覆アーク溶接棒。
  5. 前記被覆剤は、被覆剤全質量に対して、
    前記全TiのTiO換算値:10.0質量%以上40.0質量%以下、
    前記全CaのCaO換算値:0.1質量%以上4.0質量%以下、を含有することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の被覆アーク溶接棒。
  6. 前記被覆剤は、被覆剤全質量に対して、
    全SiのSiO換算値:1.0質量%以上20.0質量%以下、を含有し、
    全MnのMnO換算値:10.0質量%以下、
    全AlのAl換算値:10.0質量%以下、
    Na、K及びLiから選択された少なくとも1種:全NaのNaO換算値、全KのKO換算値及び全LiのLiO換算値の合計で、8.0質量%以下、であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の被覆アーク溶接棒。
  7. 心線と、前記心線を被覆する被覆剤と、を有する被覆アーク溶接棒の製造方法であって、
    前記被覆剤を、被覆アーク溶接棒全質量に対して、36質量%以上50質量%以下の被覆率で前記心線に被覆させる工程を有し、
    前記被覆材は、体積平均粒径が200μm以下である鉄粉を含有し、
    被覆剤全質量に対して、
    金属Fe:30.0質量%以上55.0質量%以下、及び、
    CO:3.5質量%以下、であるとともに、
    前記被覆剤中の全CaのCaO換算値を被覆剤全質量に対する質量%で[CaO]と表し、前記被覆剤中の全TiのTiO換算値を被覆剤全質量に対する質量%で[TiO]と表す場合に、
    [CaO]/[TiO]:0.5以下、であることを特徴とする被覆アーク溶接棒の製造方法。
  8. 請求項1~6のいずれか1項に記載の被覆アーク溶接棒を用いて溶接することを特徴とする被覆アーク溶接方法。
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