JP7353142B2 - 繊維強化プラスチック製線条体の端末定着構造および方法,ならびに筒状緩衝材 - Google Patents

繊維強化プラスチック製線条体の端末定着構造および方法,ならびに筒状緩衝材 Download PDF

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Description

この発明は,繊維強化プラスチック製の線条体の末端部分に,端末ソケット(定着具)を定着(固定)する定着構造および方法に関する。この発明はまた繊維強化プラスチック製線条体に対してその周囲から加えられる力を緩衝するのに適する筒状緩衝材に関する。
繊維およびプラスチックの複合材によって構成されるFRP(Fiber Reinforced Plastics )(繊維強化プラスチック)は高い強度を有しており,FRPを用いて作製されたケーブル(ロープ,ロッド)は,鋼製ケーブルに比べて軽量で,高耐食性,非磁性などの優れた特性を持つ。炭素(カーボン)繊維,ガラス繊維,ケブラー繊維などがFRPに使用する繊維の素材として,エポキシ樹脂,ポリアミド樹脂,フェノール樹脂などがFRPに使用するプラスチックの素材として,それぞれ用いられている。FRPケーブルは,たとえばプレストレストコンクリートの緊張材,電線の補強材等として使用される。
FRPケーブルは,その長手方向への引っ張りについて鋼製ケーブルと同等の高い強度を有する一方,局部的なせん断力や表面のキズなどに対しては弱い。このため,鋼製ケーブルと同じようにくさびを直接にかませてその端末部にソケットを固定すると,せん断破壊や表層破壊によるすべりが発生し,ケーブルとソケットの高い定着効率を得ることができない。
特許文献1は,炭素繊維強化プラスチック製ケーブル(CFRPケーブル)の末端部分に,表面および裏面に研磨粒子が付着した摩擦シートを被せ,さらにその上から金属製素線を編組したブレードネットチューブを被せ,上記摩擦シートおよびブレードネットチューブが被せられている部分をくさびに挟み込み,これを端末ソケット内にくさび止めする,端末定着構造および方法を開示する。摩擦シートおよびブレードネットチューブによってくさびによる局部的なせん断力を緩衝することができ,くさびの位置におけるCFRPケーブルのせん断破壊や表層破壊を生じにくくすることができる。
国際公開WO2011/019075
しかしながら,はじめにCFRPケーブルの末端部分に摩擦シートを被せ,次にその上にブレードネットチューブを被せる必要があるので,これらの2つの部材を現場で取付けるのにやや時間がかかる。また,ブレードネットチューブは,金属製素線のストランドをチューブ状に編組したものであるので柔軟性と高い強度を併せ持つが,ストランドの直径が太いと,くさびによって周囲から強い力で締め付けられたときにストランドの直下にあるCFRPケーブルに局部的に強い力がかかってしまうことがある。
この発明は,繊維強化プラスチック製の線条体への緩衝材の取付け時間の短縮を図ることを目的とする。
この発明はまた,くさびによる線条体への局部的なせん断力をさらに均等に分散できるようにすることを目的とする。
この発明はさらに,くさびを再利用しやすくすることを目的とする。
この発明による繊維強化プラスチック製線条体の端末定着構造は,繊維強化プラスチック製の線条体の末端部分に筒状緩衝材が被せられ,上記筒状緩衝材が被せられている部分が,端末ソケット内に,くさびによって挟まれて固定されるものであって,上記筒状緩衝材が,細長い積層緩衝シートがらせん状に巻回され,らせん状の積層緩衝シートの側端同士が接触するときに上記線条体の直径に沿う直径の円筒状の中空を持つように形付けられたものであり,上記筒状緩衝材を構成する積層緩衝シートの両端部に面ファスナーがそれぞれ固定されているものである。
この発明による繊維強化プラスチック製線条体の端末定着方法は,細長い積層緩衝シートがらせん状に巻回された筒状緩衝材であって,らせん状の積層緩衝シートの側端同士が接触するときに上記筒状緩衝材が被せられる線条体の直径に沿う直径の円筒状の中空を持つように形付けられ,上記筒状緩衝材を構成する積層緩衝シートの両端部に面ファスナーがそれぞれ固定された筒状緩衝材を用意し,繊維強化プラスチック製の線条体の末端部分に上記筒状緩衝材を被せ,上記筒状緩衝材の両端部のそれぞれにおいて,上記筒状緩衝材の端部に面ファスナーを巻き付けて固定し,上記筒状緩衝材が被せられている部分をくさびによって挟み,これを端末ソケット内にくさび止めするものである。
この発明は,上述した繊維強化プラスチック製線条体の端末定着構造および方法に適する筒状緩衝材も提供する。この発明による筒状緩衝材は,細長い積層緩衝シートがらせん状に巻回されたものであって,らせん状の積層緩衝シートの側端同士が接触するときに上記筒状緩衝材が被せられる線条体の直径に沿う直径の円筒状の中空を持つように形付けられおり,上記積層緩衝シートの両端部に面ファスナーがそれぞれ固定されていることを特徴とする。
繊維強化プラスチック製線条体は,炭素繊維,ガラス繊維,ケブラー繊維等の繊維材料と,エポキシ樹脂,ポリアミド樹脂,フェノール樹脂等のプラスチック材料とを複合(混合)させた素材を,線条に形成したものである。線条体は長手方向にほぼ一様な断面形状を有し,長さが径に比べて長い。線条体にはケーブル,ロープ,ロッドなどが含まれる。
繊維強化プラスチック製線条体の末端部分は端末ソケット内にくさび止めされる。たとえば,長手方向に半割りされたくさび(2分割体(2つの半体)),または長手方向に3つ割り,4つ割りされたくさび(3分割体,4分割体)によって繊維強化プラスチック製線条体の末端部分を挟み,これを端末ソケットに押し入れる。端末ソケットはくさび状の中空を持つ。繊維強化プラスチック製線条体の末端部分を挟み込むくさびが端末ソケットの中空にきつく押し込まれ,これにより繊維強化プラスチック製線条体の末端部分に,くさびを介して端末ソケットが定着(固定)される。
くさびが挟まれる繊維強化プラスチック製線条体の末端部分に筒状緩衝材が被せられる。すなわち,繊維強化プラスチック製線条体にくさびは直接にはかまされず,線条体とくさびとの間に筒状緩衝材が介在する。くさびが繊維強化プラスチック製線条体をその周囲から強く締め付けることで発生する局部的なせん断力が筒状緩衝材によって緩衝されかつ分散されるので,繊維強化プラスチック製線条体が端末ソケットの位置(くさびの位置)において損傷しにくくなり,高い定着効率(引張強度)を確保することができる。
この発明によると,細長い積層緩衝シートがらせん状に巻き回され,らせん状の積層緩衝シートの側端同士が接触するときに線条体の直径に沿う直径の円筒状の中空を持つようにあらかじめ形付けられている筒状緩衝材が用意される。現場において繊維強化プラスチック製線条体の末端部分に筒状緩衝材を被せれば(筒状緩衝材の円筒状中空内に線条体を通せば),筒状緩衝材の線条体への基本的な取付けは完了する。
筒状緩衝材は,円筒状の中空を確保して細長い積層緩衝シートをらせん状に巻き回したものであるから,らせん方向と逆方向に筒状緩衝材を捻じると,筒状緩衝材にはらせん状の隙間が形成され(側端同士の間にらせん状の隙間があく),筒状緩衝材の中空の直径が拡がる(緩みが生じる)。筒状緩衝材の中空直径を拡げることによって,繊維強化プラスチック製線条体の末端部分に筒状緩衝材を被せやすくなる。筒状緩衝材を繊維強化プラスチック製線条体の末端部に被せた後,筒状緩衝材をらせん方向に捻じると,筒状緩衝材の中空の直径が狭まる。筒状緩衝材は,積層緩衝シートの側端同士が接触するときに中空直径が繊維強化プラスチック製線条体の直径に沿う直径(線条体の直径に等しい直径またはわずかに大きい直径)を持つので,積層緩衝シートの側端同士が接触するまで筒状緩衝材をらせん方向に捻じることで,筒状緩衝材によって,繊維強化プラスチック製線条体の表面を緩みなくしっかりと覆うことができる。
筒状緩衝材によって繊維強化プラスチック製線条体の表面を覆った状態で,上述したようにくさびを取り付け,これを端末ソケットの中空内に押し込まなければならない。筒状緩衝体の取り付け位置にずれが生じたり,筒状緩衝材に大きな緩みが生じたりすると,定着効率(引張強度)に悪影響が生じかねない。
この発明によると,筒状緩衝材を構成する積層緩衝シートの両端部に面ファスナーがそれぞれ固定されているので,筒状緩衝材の両端部のそれぞれにおいて,上記面ファスナーを筒状緩衝材の端部に巻き付けることで,筒状緩衝体を,線条体にしっかりと拘束することができる。筒状緩衝材の両端部を線条体に緩みなくしっかりと固定する(取り付ける)ことができ,しかもこれを短時間で完了することができる。筒状緩衝材によってしっかりと覆われた繊維強化プラスチック製線条体にくさびを取り付け,端末ソケットの中空内に押し込めば,くさびによって筒状緩衝材は周囲からさらに強い力で締め付けられるので,もはや筒状緩衝材が位置ずれしたり,緩んだりすることはない。繊維強化プラスチック製線条体に筒状緩衝材を取り付けるのに要する時間を大幅に短縮することができ,したがってその後にくさびおよび端末ソケットを定着して作業を終了するために要する時間も大幅に短くすることができる。
面ファスナーは上記筒状緩衝材の両端部のそれぞれに巻き付けられて用いられるので,基本的には筒状緩衝材の周長を超える長さを持つ。もっとも,上記面ファスナーはその少なくとも一部が伸縮性を有するものであってもよく,この場合には伸ばされたときの面ファスナーの長さが筒状緩衝材の周長を超えればよい(もちろん,伸ばされていないときに,筒状緩衝材の周長を超える長さを面ファスナーが有していてもよい)。面ファスナーの少なくとも一部が伸縮性を有することによって,面ファスナーを筒状緩衝材の両端部にきつく巻き付けることができる。
面ファスナーは,筒状緩衝材の端部から繊維強化プラスチック製線条体にかけて巻き付けてもよい。筒状緩衝材の端部における直径が厚くなりすぎることが防止される。また,筒状緩衝材の両側に繊維強化プラスチック製線条体に巻き付けられた面ファスナーが位置することになるので,面ファスナーによって筒状緩衝材の動きがその両側から拘束され,繊維強化プラスチック製線条体に沿う筒状緩衝材の位置ずれも防止することができる。
一実施態様では,くさびの内面が滑り止め加工されている。くさびの内面の滑り止め加工は,くさび内面の溝加工または凹凸加工でもよいし,くさび内面に金属粒子を固定したものでもよい。摩擦力が向上し,滑り止めを効果的に達成することができる。
上記積層緩衝シートは,一実施態様では,外面および内面に増摩粒子が付着した摩擦緩衝シート,および摩擦緩衝シートの少なくとも外面に積層される,細金属線を織った金属製メッシュシートを備えている。
摩擦緩衝シートは,布(クロス),不織布,紙,フィルムなど,厚さ方向に緩衝機能を有するシート材を基材とし,その表面および裏面のそれぞれに,摩擦力を増強するための増摩粒子,たとえばアルミナ粒子,セラミック粒子,ダイヤモンド粒子等を付着させたものである。上記摩擦緩衝シートは,多層,たとえば2層,3層,4層に形成してもよい。
金属製メッシュシートは細金属線(金属製の細線材)を細かい網目で織ったものである。細金属線の織り方は任意であり,平織,綾織,亀甲織,タイロッド織,トンキャップ織その他の織り方が採用される。ステンレス,鉄,アルミニウム,真鍮,銅,チタン,インコネル,ハステロイ等,任意の金属素材の細線を用いることができる。
細金属線は,この明細書において2.00mm以下の直径の金属線を言う。直径2.00mmを超える金属線を用いると,複数本の金属線を織った金属製メッシュシートを備える積層緩衝シートの強度が高くなりすぎ,積層緩衝シートを筒状緩衝材に成形しにくく(筒状に形付けしにくく)なってしまうことがある。直径2.00mm以下の複数本の金属線を織った金属製メッシュシートを用いて積層緩衝シートを構成することによって,繊維強化プラスチック製線条体の直径に沿う直径の円筒状の中空を持つように積層緩衝シートを形付けしやすい。
金属製メッシュシートのメッシュ数(1インチ(25.4mm)あたりの網目の数)は任意とすることができる。もっとも,金属製メッシュシートは繊維強化プラスチック製線条体を覆うものであるから,目開きがあまりにも大きすぎる(網目が粗すぎる)ものでないのが好ましい。
金属製メッシュシートを構成する金属線の直径が細いので,くさびによって周囲から強い力で締め付けられたときに金属製メッシュシートによって繊維強化プラスチック製線条体に局部的に強い力がかかることがない。
また,表面および裏面に増摩粒子が付着した摩擦緩衝シートを含ませることで,長手方向に強く引っ張られても,増摩粒子によって生じる摩擦力によって繊維強化プラスチック製線条体が端末ソケット(くさび)から抜けにくくなる。
くさびの内面に滑り止め加工が施されている場合,摩擦緩衝シートがくさびによって周囲から強く締め付けられると,くさびの内面に摩擦緩衝シートが食い込み,摩擦緩衝シートが破損し,摩擦緩衝シートがくさびの内面に硬く付着してしまう(こびりついてしまう)ことがある。筒状緩衝材を摩擦緩衝シートと,その外面に積層された金属製メッシュシートによって構成することで,くさび内面に摩擦緩衝シートが直接に食い込むことがなくなる。摩擦緩衝シートの破損を防止することができ,くさび内面への摩擦緩衝シートのこびりつきも軽減または防止することができる。このように摩擦緩衝シートの少なくとも外面に積層される金属製メッシュシートは,摩擦緩衝シートの保護材(くさび内面への摩擦緩衝シートのこびりつき防止材)としても機能する。もちろん,くさびが繊維強化プラスチック製線条体をその周囲から強く締め付けることで発生する局部的なせん断力は金属製メッシュシートによっても緩衝されかつ分散されるので,金属製メッシュシートは定着効率の向上にも寄与する。くさび内面と摩擦緩衝シートとの間に金属製メッシュシートが介在することで,上述したように,くさび内面に摩擦緩衝シートが付着しないまたは付着してもその量を少なくすることができるので,くさびを再利用しやすくもなる。
金属製メッシュシートは摩擦緩衝シートの外面のみならず内面にも重ね合わせてもよい。この場合,繊維強化プラスチック製線条体と摩擦緩衝シートの間に金属製メッシュシートが挟まれ,これらも直接に接触しないことになる。繊維強化プラスチック製線条体が複数本の繊維束を撚り合わせた撚り線によって構成される場合,上記線条体の表面にはらせん状の凹凸(またはらせん状の溝)が形成される。上記線条体に摩擦緩衝シートが直接に接触し,これが周囲から強い力で締め付けられると,上記線条体の表面の凸状部分において摩擦緩衝シートが大きく押し潰されることで厚さが薄くなり,凹状部分(溝)において相対的に摩擦緩衝シートの厚さが厚くなり,摩擦緩衝シートによる緩衝作用が均一にならなくなることが考えられる。摩擦緩衝シートの内面に金属製メッシュシートを積層することによって摩擦緩衝シートの保形効果が生じるので,線条体の表面の全体にわたって摩擦緩衝シートによる緩衝作用の均一化を図ることができる。
一実施態様では,摩擦緩衝シートと金属製メッシュシートとが接着剤によって接着されている。摩擦緩衝シートと金属製メッシュシートとがばらけることがなくなるので,現場において筒状緩衝材を線条体にさらに取り付けやすくなる。
好ましくは,筒状緩衝材の長手方向の長さが上記くさびの長手方向の長さ以上である。くさびによって締め付けられる繊維強化プラスチック製線条体の範囲を,その全長にわたって筒状緩衝材によって覆うことができるので,くさびによるせん断力が繊維強化プラスチック製線条体に局所的に加わることが効果的に防止される。
好ましい実施態様では,上記積層緩衝シートが,上記金属製メッシュシートの外面にさらに積層された噛み込み防止シートを備えている。くさび内面への摩擦緩衝シートの付着をさらに効果的に防止することができる。噛み込み防止シートは,金属製メッシュシートであってもよいし,金属箔,金属箔付きフィルムであってもよい。
端末定着構造を,炭素繊維強化プラスチック製ケーブルの末端部分に適用した斜視図である。 端末定着構造の製造工程を示す斜視図である。 平坦にした筒状緩衝材(積層緩衝シート)の一部破断拡大斜視図である。 図3のIV-IV線に沿う筒状緩衝材の拡大断面図である。 面ファスナーの断面図である。 端末定着構造の製造工程を示す断面図である。 端末定着構造の製造工程を示す斜視図である。 くさびの内面を示す斜視図である。 端末定着構造の製造工程を示す断面図である。 端末定着構造の製造工程を示す断面図である。
図1は,端末定着構造を,炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製ケーブル(以下,CFRPケーブル1と呼ぶ)の末端部分に適用した実施例を示す斜視図である。図1に示す端末定着構造の詳細は,その製造工程を説明することによって明らかになるので,以下,図2~図10を参照して図1に示す端末定着構造の製造工程を説明する。
CFRPケーブル1は,炭素繊維およびエポキシ樹脂の複合材を材料とする,断面が円形の複数本の撚り線をさらに撚り合わせることで構成されている。撚り線は多数本の連続する炭素繊維と,多数本の炭素繊維に含侵されたエポキシ樹脂によって断面円形に形成されたものである。図1および図2には,1×7構造(1本の撚り線を中心にしてその周囲に6本の撚り線を撚り合わせた構造)を持つCFRPケーブル1が示されている。CFRPケーブル1の構造および直径は任意に設計することができる。
CFRPケーブル1の末端部付近に被せられる筒状緩衝材2は,図3に拡大して示す細長い積層緩衝シート2A(その構造の詳細は後述する)を筒状に形成したものである。細長い積層緩衝シート2Aを,CFRPケーブル1の直径に沿う,好ましくはほぼ同じ直径を持つバー(CFRPケーブル1自体でもよい)にらせん状に巻き付け,積層緩衝シート2AにCFRPケーブル1の直径とほぼ同じ直径の円筒状の中空を持つ筒形状を付与することで,筒状緩衝材2は作られる。
筒状緩衝材2を構成する積層緩衝シート2Aの側端同士は互いに固定されていない。このため,たとえば筒状緩衝材2の両端部を両手で掴み,らせん方向と逆方向に捻じる(回転させる)と,隣り合う積層緩衝シート2Aの間(側端同士の間)にらせん状のすき間が形成され,筒状緩衝材2の中空の直径が拡がる。逆にらせん方向に沿って筒状緩衝材2を捻じると,隣り合う積層緩衝シート2Aの間のすき間が狭まり,積層緩衝シート2Aの側端同士が接触する。積層緩衝シート2Aの側端同士が接触しているときの筒状緩衝材2の中空の直径が,CFRPケーブル1の直径にほぼ等しい。
図3および図4を参照して,積層緩衝シート2Aは,その内面から外面に向かって,SUSメッシュシート2e,摩擦緩衝シート2d,SUSメッシュシート2c,およびSUSメッシュシート2aを,この順番に積層することによって作られる。最内層のSUSメッシュシート2eがCFRPケーブル1に,最外層のSUSメッシュシート2aが後述するくさび6に,それぞれ接触する。なお,SUSとは 1.2%以下の炭素および10.5%以上のクロムを含み,鉄以外の元素の合計が50%を超えない合金鋼を意味し,錆にくい特殊鋼である。SUSと同等の強度を持つ他の金属または合金,たとえばステンレス,鉄,アルミニウム,真鍮,銅,チタン,インコネル,ハステロイ,これらの合金等を用いることもできる。
SUSメッシュシート2c,2eは,たとえば直径0.47mmの比較的細い線径を持つ多数本のSUS細線を平織した織金網である。平織に代えて,綾織,亀甲織,タイロッド織,トンキャップ織その他の織り方でSUS細線を織ってもよい。積層緩衝シート2A(図3)を筒状緩衝材2(図2)に形付けやすくするために,SUSメッシュシート2c,2eを構成するSUS細線には2.00mm以下の直径を有するものが用いられる。
摩擦緩衝シート2dは,合成繊維クロスの表面および裏面に,多数のアルミナ粒子3を増摩材として接着(塗布)したものである。アルミナ粒子3は摩擦力を増強するために用いられる(図4においてはアルミナ粒子3の図示が省略されている)。図4には1枚の摩擦緩衝シート2dが用いられている態様が示されているが,摩擦緩衝シート2d単層の厚さに応じて,複数枚の摩擦緩衝シート2dを重合わせて用いてもよい。
合成繊維クロスに代えてその他のクロス,不織布,紙,フィルム等,厚さ方向に緩衝機能を有するシート材を摩擦緩衝シート2dとして用いてもよい。
最外層のSUSメッシュシート2aは,たとえば直径0.47mmの多数本のSUS細線を平織または綾織した織金網である。最外層のSUSメッシュシート2aもSUS以外の金属または合金を用いることができ,SUSメッシュシート2aを構成するSUS細線もその直径が2.00mm以下のものが用いられる。SUSメッシュシート2aについては,SUS細線を織ったメッシュシートに代えて,金属箔,金属箔付きフィルムシートを用いることもできる。
図4を参照して,最外層のSUSメッシュシート2aとこれに隣り合うSUSメッシュシート2cとの間に接着剤2bが塗布されている。接着剤2bは,SUSメッシュシート2a,SUSメッシュシート2c,摩擦緩衝シート2d,SUSメッシュシート2eに浸透し,これによって積層緩衝シート2Aを構成するすべてのSUSメッシュシート2a,2c,2eおよび摩擦緩衝シート2dは互いに接着されて一体化される。図4には接着剤2bが厚さを持つように強調して描かれているが,接着剤2bは上述のように浸透するので,厚さはほとんど無くなる。接着剤2bは最外層のSUSメッシュシート2aの外側から供給してもよいし,各シート間に供給してもよい。
積層緩衝シート2Aを,CFRPケーブル1の直径に沿う直径のバーに側部同士を接触させてらせん状に巻き付けてしばらく放置することによって,積層緩衝シート2Aを構成するSUSメッシュシート2a,2c,2eが塑性変形し,上述したようにCFRPケーブル1の直径に沿う直径の中空を持つ筒形状が付与されて筒状緩衝材2となる。もちろん,接着剤2bも筒形状の保持に役立つ。
図2を参照して,CFRPケーブル1に筒状緩衝材2を通し,CFRPケーブル1の末端部に筒状緩衝材2を被せる。筒状緩衝材2の長さは後述するくさび6の長手方向の長さよりも長ければよい。CFRPケーブル1の末端部の外周面を包むようにして筒状緩衝材2はCFRPケーブル1の外周面に被せられる。筒状緩衝材2に緩みが生じてらせん状のすき間が生じている場合には,らせん方向に筒状緩衝材2を捻じればよい。CFRPケーブル1に緩みなく(隙間なく)筒状緩衝材2が被せられる。
筒状緩衝材2の両端部に,細長い面ファスナー(フック-ループ・ファスナー)30がそれぞれ固定されている。図5は面ファスナー30の断面図である。
図2および図5を参照して,面ファスナー30は,伸縮性に富む基材の表面にループ面31aが設けられた伸縮部31と,伸縮部31の端部にステープラ35によって固定された,表面にループ面32aが,裏面にフック面32bがそれぞれ設けられた着脱部32とから構成される。伸縮部31または着脱部32のループ面31a,32aに着脱部32のフック面32bを重ね合わせることで,ループ面31a,32aとフック面32bを着脱自在に結合することができる。面ファスナー30(伸縮部31および着脱部32)の全長は筒状緩衝材2の周長よりも長く,筒状緩衝材2の端部全周に面ファスナー30を巻き付けることができる。伸縮部31と着脱部32は,ステープラ35に代えて,接着剤,粘着テープ,その他の固定手段を用いて固定してもよい。
図2を参照して,面ファスナー30は,その伸縮部31の端部が,筒状緩衝材2の両端部にそれぞれステープラによって固定されている。CFRPケーブル1に筒状緩衝材2を被せた後,筒状緩衝材2の両端部のそれぞれに,面ファスナー30を巻き付けて固定する(ループ面31a,32aとフック面32bを重ね合わせて結合する)。筒状緩衝材2の両端部を,CFRPケーブル1の末端部付近に短時間で固定することができる。
上述したように,面ファスナー30は伸縮部31を備えるので,面ファスナー30を引っ張りながら筒状緩衝材2の端部に巻き付けることができ,これによって筒状緩衝材2をCFRPケーブル1に緩みなくしっかりと固定することができる。
ビニルテープを筒状緩衝材2の両端部に巻き付けることでも,筒状緩衝材2をCFRPケーブル1に固定することは可能である。しかしながら,氷点下の気温の現場ではビニルテープが硬くなり,粘着力が弱くなることがある。逆に高温下や直射日光下ではビニルテープが柔らかくなってしまい,拘束力が弱まって筒状緩衝材2に緩みが生じることがある。さらに,ビニルテープは,その粘着面に土埃や潤滑剤等が付着して粘着面が汚れてしまったりすると,粘着力(結合力)が極端に低くなる。
これに対し,面ファスナー30はあらゆる環境下における屋外を含む現場作業に適している。現場気温が氷点下であっても高温下であっても,面ファスナー30の結合力にはほとんど影響しない。また,土埃や潤滑剤が付着したりしても結合力はほとんど変わらない。さらに,面ファスナー30は繰り返し使用することができるので,面ファスナー30をしっかりと巻きつけることができなかったとしても,一旦剥がして再度巻きなおすことも容易である。面ファスナー30を筒状緩衝材2のCFRPケーブル1への固定に利用することによって,現場作業を大幅に効率化することができる。
さらに,ビニルテープがロール品であるとすると,ビニルテープをロールから引き出し,筒状緩衝材2の両端部に巻き付け,切断する,という一連の複数の工程を必要とする。これに対し,面ファスナー30は筒状緩衝材2の両端部にあらかじめ固定されているから,筒状緩衝材2の両端部に巻き付けるだけで済む。現場作業時間を大幅に短縮することができる。
好ましくは,面ファスナー30は,筒状緩衝材2の端部からCFRPケーブル1にかけて斜めに(らせん状に)巻き付けられる。筒状緩衝材2の端部における直径(面ファスナー30を含む直径)が,面ファスナー30が巻き付けられることで厚くなりすぎることが防止される。また,筒状緩衝材2の両側にCFRPケーブル1に巻き付けられた面ファスナー30が位置することになるので,面ファスナー30によって筒状緩衝材2の動きがその両側から拘束され,CFRPケーブル1に沿う筒状緩衝材2の位置ずれも防止することができる。筒状緩衝材2の動きをその両側から拘束しておくだけで十分であれば(筒状緩衝材2の端部を面ファスナー30によって締め付ける必要がなければ),面ファスナー30は,筒状緩衝材2の端部全周にわたって巻きつける必要はなく,CFRPケーブル1に巻き付けておけば充分である。
図1,図6,図7および図8を参照して,端末ソケット(端末スリーブ)5および4つのくさび6が用意される。端末ソケット5は,金属製(たとえばステンレス鋼製または鉄製)で,その外形は円筒状であり,内部に概略円錐状の中空5aを持つ。また端末ソケット5の末端部付近の外周面にはねじ溝5dが形成されている。端末ソケット5の口の小さい開口5b側から,端末ソケット5の中空5aに筒状緩衝材2が被せられたCFRPケーブル1の端末部が挿入され,口の大きい開口5c側から外に出される。
端末ソケット5の外に出たCFRPケーブル1の端末部に,4つのくさび6を装着する。4つのくさび6はいずれも同一形状であり,その内面に長手方向に浅い窪み6aが形成され,窪み6aにはくさび6の長手方向に直交する方向に複数の溝(凹凸,刃,歯)6bが形成されている。窪み6aの形状(深さを含む)は長手方向において同一である。他方,くさび6の肉厚は先端から末端に向かうにしたがって厚くなっている。4つのくさび6を組み合わせると概略円錐状の外形となり(図7),端末ソケット5の中空5aの形状とほぼ合致する。くさび6の内面の窪み6a中の複数の溝6bは滑り止め(摩擦力向上)のために形成されている。
図7および図8を参照して,くさび6の内面の窪み6aは浅く,CFRPケーブル1の末端部分(筒状緩衝材2が位置している部分)はその全体が窪み6aに入り込まず,CFRPケーブル1の末端部分を挟み込んだ状態において,隣り合うくさび6の間には長手方向に隙間があく。
図9を参照して,端末ソケット5の口の大きい開口側から,くさび6を端末ソケット5の中空5aに押し込む。図10を参照して,くさび6をさらに強く端末ソケット5に押込むと,4つのくさび6が端末ソケット5の内壁によって周囲から押さえつけられて締付けられる。これよりCFRPケーブル1の末端部に,くさび6,さらには上述した筒状緩衝材2を介して,端末ソケット5が固定される(図1)。
1 CFRPケーブル
2 筒状緩衝材
2A 積層緩衝シート
2a,2c,2e SUSメッシュシート
2b 接着剤
2d 摩擦緩衝シート
3 アルミナ粒子
5 端末ソケット
6 くさび
6b 溝
30 面ファスナー
31 伸縮部
32 脱着部

Claims (11)

  1. 繊維強化プラスチック製の線条体の末端部分に筒状緩衝材が被せられ,上記筒状緩衝材が被せられている部分が,端末ソケット内に,くさびによって挟まれて固定される,繊維強化プラスチック製線条体の端末定着構造であって,
    上記筒状緩衝材が,
    細長い積層緩衝シートがらせん状に巻回され,らせん状の積層緩衝シートの側端同士が接触するときに上記線条体の直径に沿う直径の円筒状の中空を持つように形付けられたものであり,
    上記筒状緩衝材を構成する積層緩衝シートの両端部に面ファスナーがそれぞれ固定されており,上記筒状緩衝材の両端部のそれぞれに上記面ファスナーが巻き付けられて固定されている,
    繊維強化プラスチック製線条体の端末定着構造。
  2. 上記面ファスナーが上記筒状緩衝材の周長を超える長さを持つ,請求項1に記載の繊維強化プラスチック製線条体の端末定着構造。
  3. 上記面ファスナーの少なくとも一部が伸縮性を有している,請求項1に記載の繊維強化プラスチック製線条体の端末定着構造。
  4. 上記くさびの内面が滑り止め加工されている,
    請求項1から3のいずれか一項に記載の繊維強化プラスチック製線条体の端末定着構造。
  5. 上記積層緩衝シートが,
    外面および内面に増摩粒子が付着した摩擦緩衝シート,および
    摩擦緩衝シートの少なくとも外面に積層される,細金属線を織った金属製メッシュシート,を備えている,
    請求項1から4のいずれか一項に記載の繊維強化プラスチック製線条体の端末定着構造。
  6. 上記金属製メッシュシートを構成する細金属線の直径が2.00mm以下である,
    請求項5に記載の繊維強化プラスチック製線条体の端末定着構造。
  7. 上記摩擦緩衝シートと上記金属製メッシュシートとが接着剤によって接着されている,
    請求項5または6に記載の繊維強化プラスチック製線条体の端末定着構造。
  8. 上記筒状緩衝材の長手方向の長さが,上記くさびの長手方向の長さ以上である,
    請求項1から7のいずれか一項に記載の繊維強化プラスチック製線条体の端末定着構造。
  9. 上記積層緩衝シートが,上記金属製メッシュシートの外面にさらに積層された噛み込み防止シートをさらに備えている,
    請求項5から8のいずれか一項に記載の繊維強化プラスチック製線条体の端末定着構造。
  10. 細長い積層緩衝シートがらせん状に巻回された筒状緩衝材であって,らせん状の積層緩衝シートの側端同士が接触するときに上記筒状緩衝材が被せられる線条体の直径に沿う直径の円筒状の中空を持つように形付けられ,上記筒状緩衝材を構成する積層緩衝シートの両端部に面ファスナーがそれぞれ固定された筒状緩衝材を用意し,
    繊維強化プラスチック製の線条体の末端部分に上記筒状緩衝材を被せ,
    上記筒状緩衝材の両端部のそれぞれにおいて,上記筒状緩衝材の端部に面ファスナーを巻き付けて固定し,
    上記筒状緩衝材が被せられている部分をくさびによって挟み,これを端末ソケット内にくさび止めする,
    繊維強化プラスチック製線条体の端末定着方法。
  11. 細長い積層緩衝シートがらせん状に巻回された筒状緩衝材であって,
    らせん状の積層緩衝シートの側端同士が接触するときに上記筒状緩衝材が被せられる線条体の直径に沿う直径の円筒状の中空を持つように形付けられおり,
    上記筒状緩衝材の両端部のそれぞれに巻き付けて固定可能な面ファスナーが上記積層緩衝シートの両端部にそれぞれ固定されている,
    筒状緩衝材。
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