JP7346878B2 - リンオキソ酸化パルプの製造方法 - Google Patents

リンオキソ酸化パルプの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、リンオキソ酸化パルプの製造方法に関する。具体的には、本発明は、再利用リンオキソ酸化剤を用いてパルプをリンオキソ酸化する工程を含むリンオキソ酸化パルプの製造方法に関する。
近年、石油資源の代替及び環境意識の高まりから、再生産可能な天然繊維を利用した材料が着目されている。天然繊維の中でも、繊維径が10μm以上50μm以下の繊維状セルロース、特に木材由来の繊維状セルロース(パルプ)は、主に紙製品としてこれまで幅広く使用されてきた。また、繊維状セルロースとしては、繊維径が1μm以下の微細繊維状セルロースも知られている。
微細繊維状セルロースは、従来のセルロース繊維を機械処理することで製造可能であるが、セルロース繊維同士は水素結合により、強く結合している。したがって、単純に機械処理を行うのみでは、微細繊維状セルロースを得るまでに膨大なエネルギーが必要となる。このため、より小さな機械処理エネルギーで微細繊維状セルロースを製造するために、機械処理と合わせて、化学処理や生物処理といった前処理を行うことが検討されている。特に、化学処理により、セルロース表面のヒドロキシ基に親水性の官能基(例えば、カルボキシル基、カチオン基、リン酸基など)を導入すると、イオン同士の電気的な反発が生じ、かつイオンが水和することで、特に水系溶媒への分散性が著しく向上する。このため、化学処理を施さない場合に比べて微細化のエネルギー効率が高くなる。
例えば、特許文献1及び2には、リン酸基がセルロースのヒドロキシ基とエステルを形成したリン酸化微細繊維状セルロース及びリン酸化微細繊維状セルロースの製造方法が開示されている。また、特許文献3にはリンオキソ酸化剤による多糖類のリン酸化反応後に回収される未反応のリンオキソ酸化剤を回収して、多糖類のリン酸化反応に用いるリンオキソ酸化パルプの製造方法が開示されている。
国際公開第2013/073652号公報 国際公開第2014/185505号公報 特開2017-179104号公報
セルロース繊維等のパルプをリンオキソ酸化する工程においては、リンや尿素を多量に含む試薬が使用されている。そして、その試薬の一部は未反応であるが、廃棄処分されることが多く、リンオキソ酸化工程後に生じる排水の処理コストがかさむことが懸念されている。また、特許文献3のように、未反応のリンオキソ酸化剤を再利用する検討も進められているが、回収物を単に再利用しただけではパルプのリンオキソ酸化が十分に進行しない場合があった。
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、リンオキソ酸化反応後の工程において回収される、未反応のリンオキソ酸化剤を含む回収物を再利用した場合であっても、リンオキソ酸化を十分に進行させ得るリンオキソ酸化パルプの製造方法を提供することを目的として検討を進めた。
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、リンオキソ酸化反応後の工程において回収される、未反応のリンオキソ酸化剤を含む回収物を濃縮することにより、再利用リンオキソ酸化剤を用いた場合であっても、パルプのリンオキソ酸化反応を十分に進行させ得ることを見出した。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
[1] リンオキソ酸化剤によるリンオキソ酸化反応後の工程において回収される、未反応のリンオキソ酸化剤を含む回収物を濃縮した濃縮回収物の存在下において、パルプ原料をリンオキソ酸化する工程を含む、リンオキソ酸化パルプの製造方法。
[2] 濃縮回収物は、回収物を循環濃縮、膜濃縮及び加熱減圧濃縮から選択される少なくとも1種の方法で濃縮することで得られる、[1]に記載のリンオキソ酸化パルプの製造方法。
[3] リンオキソ酸化剤は、リンオキソ酸及びリンオキソ酸塩から選択される少なくとも1種と、尿素とを含む、[1]又は[2]に記載のリンオキソ酸化パルプの製造方法。
[4] 濃縮回収物の全質量に対する、リン原子濃度が0.40質量%以上である、[1]~[3]のいずれかに記載のリンオキソ酸化パルプの製造方法。
[5] 濃縮回収物の全質量に対する、窒素原子濃度が0.70質量%以上である、[1]~[4]のいずれかに記載のリンオキソ酸化パルプの製造方法。
[6] [1]~[5]のいずれかに記載のリンオキソ酸化パルプの製造方法で製造されたリンオキソ酸化パルプを解繊処理する工程を含む、微細繊維状セルロースの製造方法。
本発明の製造方法によれば、再利用リンオキソ酸化剤を用いた場合であっても、パルプのリンオキソ酸化反応を十分に進行させることができ、所望量のリンオキソ酸基が導入されたパルプを製造することができる。
図1は、本発明のリンオキソ酸化パルプの製造方法の一態様を説明する工程図である。 図2は、本発明のリンオキソ酸化パルプの製造方法の一態様を説明する工程図である。 図3は、リンオキソ酸基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
(リンオキソ酸化パルプの製造方法)
本発明は、リンオキソ酸化パルプの製造方法に関する。本発明のリンオキソ酸化パルプの製造方法は、リンオキソ酸化剤によるリンオキソ酸化反応後の工程において回収される、未反応のリンオキソ酸化剤を含む回収物を濃縮した濃縮回収物の存在下において、パルプ原料をリンオキソ酸化する工程を含む。
本発明のリンオキソ酸化パルプの製造方法は、上記構成を有するものであるため、パルプのリンオキソ酸化反応後に回収される未反応のリンオキソ酸化剤を再利用することができる。このため、本発明では、リンオキソ酸化パルプの製造工程で排出される排水の処理コストを軽減することができる。また、本発明では、リンオキソ酸化パルプの製造工程で用いられるリンオキソ酸化試薬を再利用することができるため、廃液中のリンオキソ酸化剤の含有量を低減することができ、環境への負荷を低減することができる。さらに、パルプのリンオキソ酸化反応に用いる新たなリンオキソ酸化剤の量を削減することができるため、リンオキソ酸化パルプの製造コストを抑制することも可能となる。
パルプ原料としては、たとえば木材パルプ、非木材パルプ、および脱墨パルプが挙げられる。木材パルプとしては、特に限定されないが、たとえば広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)および酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)およびケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)およびサーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられる。非木材パルプとしては、特に限定されないが、たとえばコットンリンターおよびコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わらおよびバガス等の非木材系パルプが挙げられる。脱墨パルプとしては、特に限定されないが、たとえば古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。パルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
<回収物を得るためのリンオキソ酸化工程>
本発明のリンオキソ酸化パルプの製造工程は、パルプ原料をリンオキソ酸化する工程を含む。このリンオキソ酸化工程では、他のリンオキソ酸化反応後の工程において回収される回収物であって、未反応のリンオキソ酸化剤を含む回収物を濃縮した濃縮回収物が用いられる。つまり、本発明のリンオキソ酸化パルプの製造工程では、まず回収物を得るためのリンオキソ酸化工程が行われる。
回収物を得るためのリンオキソ酸化反応工程で使用されるリンオキソ酸化剤は、リン原子を含有し、パルプ中のセルロースとエステル結合を形成しうる化合物(以下、化合物Aともいう)を含む。化合物Aは、リンオキソ酸及びリンオキソ酸塩から選択される少なくとも1種を有することが好ましい。より具体的には、化合物Aとして、リン酸もしくはその塩、亜リン酸もしくはその塩、脱水縮合リン酸もしくはその塩、無水リン酸(五酸化二リン)などが挙げられるが特に限定されない。リン酸としては、種々の純度のものを使用することができ、たとえば100%リン酸(正リン酸)や85%リン酸を使用することができる。亜リン酸としては、99%亜リン酸(ホスホン酸)が挙げられる。脱水縮合リン酸は、リン酸が脱水反応により2分子以上縮合したものであり、例えばピロリン酸、ポリリン酸等を挙げることができる。リン酸塩、亜リン酸塩、脱水縮合リン酸塩としては、リン酸、亜リン酸または脱水縮合リン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。これらのうち、リン酸基の導入効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、またはリン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、またはリン酸二水素アンモニウムがより好ましい。
回収物を得るためのリンオキソ酸化工程では、セルロースを含むパルプ原料と化合物Aの反応を、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」ともいう)の存在下で行うことが好ましい。すなわち、リンオキソ酸化剤は、リンオキソ酸及びリンオキソ酸塩から選択される少なくとも1種と、尿素とを含む剤であることが好ましい。
化合物Bとしては、たとえば尿素、ビウレット、1-フェニル尿素、1-ベンジル尿素、1-メチル尿素、および1-エチル尿素などが挙げられる。反応の均一性を向上させる観点から、化合物Bは水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性をさらに向上させる観点からは、化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。
化合物Aを化合物Bとの共存下でパルプ原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態、湿潤状態またはスラリー状のパルプ原料に対して、化合物Aと化合物Bを混合する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態または湿潤状態のパルプ原料を用いることが好ましく、特に乾燥状態のパルプ原料を用いることが好ましい。パルプ原料の形態は、特に限定されないが、たとえば綿状や薄いシート状であることが好ましい。化合物Aおよび化合物Bは、それぞれ粉末状または溶媒に溶解させた溶液状または融点以上まで加熱して溶融させた状態でパルプ原料に添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、溶媒に溶解させた溶液状、特に水溶液の状態で添加することが好ましい。また、化合物Aと化合物Bはパルプ原料に対して同時に添加してもよく、別々に添加してもよく、混合物として添加してもよい。化合物Aと化合物Bの添加方法としては、特に限定されないが、化合物Aと化合物Bが溶液状の場合は、パルプ原料を溶液内に浸漬し吸液させたのちに取り出してもよいし、パルプ原料に溶液を滴下してもよい。また、必要量の化合物Aと化合物Bをパルプ原料に添加してもよいし、過剰量の化合物Aと化合物Bをそれぞれパルプ原料に添加した後に、圧搾や濾過によって余剰の化合物Aと化合物Bを除去してもよい。
リンオキソ酸化剤が化合物Aと化合物Bを含む剤である場合、リンオキソ酸化剤を含む溶液(リンオキソ酸化剤含有溶液)のpHは7以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましい。リンオキソ酸化剤を含む溶液のpHは、例えば、リンオキソ酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものとアルカリ性を示すものを併用し、その量比を変えて調整してもよい。リンオキソ酸化剤を含む溶液のpHは、リンオキソ酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものに無機アルカリまたは有機アルカリを添加すること等により調整してもよい。
パルプ原料に対する化合物Aの添加量は、化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合において、パルプ原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量が0.5質量%以上100質量%以下となることが好ましく、1質量%以上50質量%以下となることがより好ましく、2質量%以上30質量%以下となることがさらに好ましい。また、パルプ原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は、化合物Bの添加量を窒素原子量に換算した場合において、パルプ原料(絶乾質量)に対する窒素原子の添加量が5質量%以上200質量%以下であることが好ましく、20質量%以上150質量%以下であることがより好ましく、45質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましい。
セルロースを含むパルプ原料と化合物Aの反応においては、化合物Bの他に、たとえばアミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、たとえばホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、たとえばメチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
リンオキソ酸化工程においては、パルプ原料に化合物A等を添加又は混合した後、当該パルプ原料に対して加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リンオキソ酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、たとえば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、たとえば撹拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置、高周波乾燥装置を用いることができる。
本実施形態に係る加熱処理においては、たとえば薄いシート状のパルプ原料に化合物Aを含浸等の方法により添加した後、加熱する方法や、ニーダー等でパルプ原料と化合物Aを混練又は撹拌しながら加熱する方法を採用することができる。これにより、パルプ原料における化合物Aの濃度ムラを抑制して、パルプ原料に含まれるセルロース繊維表面へより均一にリンオキソ酸基を導入することが可能となる。これは、乾燥に伴い水分子がパルプ原料表面に移動する際、溶存する化合物Aが表面張力によって水分子に引き付けられ、同様にパルプ原料表面に移動してしまう(すなわち、化合物Aの濃度ムラを生じてしまう)ことを抑制できることに起因するものと考えられる。
また、加熱処理に用いる加熱装置は、たとえばスラリーが保持する水分、及び化合物Aとパルプ原料中のセルロース等が含む水酸基等との脱水縮合(リン酸エステル化)反応に伴って生じる水分、を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましい。このような加熱装置としては、例えば送風方式のオーブン等が挙げられる。装置系内の水分を常に排出することにより、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもできる。
加熱処理の時間は、たとえばパルプ原料から実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。
上述したリンオキソ酸化反応後には、未反応のリンオキソ酸化剤を含む回収物が回収される。リンオキソ酸化反応後には、反応産物が得られ、反応産物には、リンオキソ酸化パルプと未反応のリンオキソ酸化剤が含まれている。反応産物から未反応のリンオキソ酸化剤を含む溶液を分離することで回収物が得られる。例えば、反応産物を濾過して、濾液を回収することで未反応のリンオキソ酸化剤を含む溶液を分離することができる。また、反応産物を遠心脱水や圧搾することによっても未反応のリンオキソ酸化剤を含む溶液を分離することができる。
<濃縮工程>
本発明の製造方法においては、未反応のリンオキソ酸化剤を含む溶液を分離した後には、該回収物を濃縮する工程が設けられる。濃縮工程としては、例えば、循環濃縮工程、膜濃縮工程、加熱濃縮工程、減圧濃縮工程、加熱減圧濃縮工程等が挙げられる。中でも、濃縮工程は、循環濃縮工程、膜濃縮工程及び加熱減圧濃縮工程から選択される少なくとも1種の工程であることが好ましい。すなわち、濃縮工程を経て得られる濃縮回収物は、未反応のリンオキソ酸化剤を含む溶液を分離した後に回収される該回収物を、循環濃縮、膜濃縮及び加熱減圧濃縮から選択される少なくとも1種の方法で濃縮することで得られるものであることが好ましい。なお、濃縮工程は、上記工程を2工程以上組み合わせた工程であってもよい。
循環濃縮工程は、未反応のリンオキソ酸化剤を含む溶液を分離した後に得られる回収物を再度リンオキソ酸化処理済みのパルプ原料に添加し、未反応のリンオキソ酸化剤を含む溶液を回収する工程を繰り返し行う工程である。すなわち、パルプ原料に残存する未反応のリンオキソ酸化剤を、回収物で洗い流すことで、再び回収される回収物中の未反応のリンオキソ酸化剤の濃度を高める操作を行う。循環回数は、3回以上であることが好ましく、10回以上であることがより好ましい。なお、循環回数とは、リンオキソ酸化剤を含む溶液をパルプ原料に添加する回数である。循環回数を上記範囲内とすることにより、濃縮後の回収物におけるリンオキソ酸化剤濃度を十分に高めることができる。
膜濃縮工程では、逆浸透(RO)膜、ナノろ過(NF)膜等を用いることができる。中でも、逆浸透(RO)膜は好ましく用いられる。なお、膜濃縮工程で採用される膜処理の方式は特に限定されるものではなく、例えば、膜面に対して垂直方向に処理水を供給する単純濾過方式(全量濾過方式)と、膜面に対して平行方向に処理水を供給するクロスフロー濾過方式などを採用することができる。
加熱減圧濃縮工程では、未反応のリンオキソ酸化剤を含む溶液を分離した後に得られる回収物を加熱及び加圧させて溶媒を揮発することで濃縮を行う。加熱減圧濃縮工程では、例えば、エバポレーター、減圧濃縮機等を用いることができる。加熱減圧濃縮工程における処理温度は、20℃以上であることが好ましく、30℃以上であることがより好ましく、40℃以上であることがさらに好ましい。加熱減圧濃縮工程における処理温度は、90℃以下であることが好ましい。また、加熱減圧濃縮工程における処理圧力は、1000hPa以下であることが好ましく、500hPa以下であることがより好ましく、200hPa以下であることがさらに好ましい。
上述したような濃縮工程を経ることで濃縮回収物が得られる。濃縮回収物には、当然ながら未反応のリンオキソ酸化剤が含まれる。すなわち、濃縮回収物には、リンオキソ酸及びリンオキソ酸塩から選択される少なくとも1種が含まれる。ここで、濃縮回収物におけるリン原子濃度は、濃縮回収物の全質量に対して、0.40質量%以上であることが好ましく、0.50質量%以上であることがより好ましく、1.00質量%以上であることがさらに好ましく、1.50質量%以上であることが一層好ましく、2.00質量%以上であることがより一層好ましく、2.50質量%以上であることが特に好ましい。また、濃縮回収物におけるリン原子濃度は、濃縮回収物の全質量に対して、8質量%以下であることが好ましい。濃縮回収物におけるリン原子濃度を上記範囲内とすることにより、再利用リンオキソ酸化剤を用いた場合であっても、パルプのリンオキソ酸化反応を十分に進行させることができ、所望量のリンオキソ酸基が導入されたパルプを製造しやすくなる。
リン原子濃度の測定には呈色反応を利用することができる。具体的には、デジタルパックテスト全リン用((株)共立理化学研究所製)を用いて濃縮回収物中のリン原子濃度を測定することができる。具体的には、耐圧瓶にサンプル1mL、R-1試薬を1滴、R-2試薬を0.5mL加え振り混ぜる。その後、高圧分解器にて蒸気が出始めてから30分加熱を続ける。30分後、分解器より取り出し20℃まで冷却しR-3試薬を4滴加え振り混ぜる。調製した液を呈色試薬の含まれたチューブに全量入れ、数回振り混ぜたあと、デジタルパックテストにて測定を行う。
さらに、濃縮回収物には、尿素が含まれる。濃縮回収物における窒素原子濃度は、濃縮回収物の全質量に対して、0.70質量%以上であることが好ましく、1.00質量%以上であることがより好ましく、3.00質量%以上であることがさらに好ましく、5.00質量%以上であることが一層好ましく、10.00質量%以上であることがより一層好ましく、12.00質量%以上であることが特に好ましい。また、濃縮回収物における窒素原子濃度は、濃縮回収物の全質量に対して、25質量%以下であることが好ましい。濃縮回収物における窒素原子濃度を上記範囲内とすることにより、再利用リンオキソ酸化剤を用いた場合であっても、パルプのリンオキソ酸化反応を十分に進行させることができ、所望量のリンオキソ酸基が導入されたパルプを製造しやすくなる。
窒素原子濃度の測定には呈色反応を利用することができる。具体的には、デジタルパックテスト全窒素用((株)共立理化学研究所製)を用いて濃縮回収物中の窒素原子濃度を測定することができる。具体的には、耐圧瓶にサンプル1mL、R-1試薬を1滴、R-2試薬を0.5mL加え振り混ぜる。その後、高圧分解器にて蒸気が出始めてから30分加熱を続ける。30分後、分解器より取り出し20℃まで冷却しR-3試薬を2滴加え振り混ぜる。調製した液を呈色試薬の含まれたチューブに全量入れ、1分間振り混ぜたあと、デジタルパックテストにて測定を行う。
<リンオキソ酸化工程>
本発明のリンオキソ酸化パルプの製造方法は、上述した工程を経て得られる濃縮回収物の存在下において、パルプ原料をリンオキソ酸化する工程を含む。なお、濃縮回収物の存在下においてパルプ原料をリンオキソ酸化する工程における反応条件は、上述した<回収物を得るためのリンオキソ酸化工程>における反応条件と同様であることが好ましい。
図1は、本発明のリンオキソ酸化パルプの製造方法の一態様を説明する工程図である。図1に示されるように、本発明のリンオキソ酸化パルプの製造方法においては、リンオキソ酸化剤によるパルプ原料のリンオキソ酸化反応後に回収される回収物を濃縮し、得られる濃縮回収物を用いてパルプ原料をリンオキソ酸化する工程を含む。このように、本発明は、濃縮回収物の存在下においてリンオキソ酸化されたリンオキソ酸化パルプの製造方法に関するものである。
回収物は、リンオキソ酸化反応の反応産物から分離回収されるものである。すなわち、本発明のリンオキソ酸化パルプの製造方法は、回収物を得るためのパルプ原料のリンオキソ酸化反応工程を含むものである。回収物を得るためのパルプ原料のリンオキソ酸化反応工程を経た後の反応産物には、リンオキソ酸化パルプと未反応のリンオキソ酸化剤が含まれており、反応産物から未反応のリンオキソ酸化剤を含む溶液を分離することで回収物が得られる。すなわち、回収物を得るためのパルプ原料のリンオキソ酸化反応後には、反応産物から未反応のリンオキソ酸化剤を含む回収物を分離する工程をさらに含むことが好ましい。分離する工程では、反応産物から回収物を分離すると同時に、回収物を得るためのパルプ原料のリンオキソ酸化反応工程で得られたリンオキソ酸化パルプも得られる。
分離工程は、上述した回収物を得るためのパルプ原料のリンオキソ酸化反応後の反応産物から回収物を分離する工程である。反応産物が固形物状である場合は、分離工程では、反応産物にイオン交換水等の溶媒が添加される。反応産物に含まれる未反応のリンオキソ酸化剤等は、添加された溶媒に溶解するため、均一に撹拌後に濾別し、液相を得ることによって回収物を得ることができる。また、反応産物がスラリー状である場合は、分離工程では、固液分離を行うこともできる。固液分離工程で濾別をし、液相を得ることによって回収物を得ることができる。
リンオキソ酸化反応後に回収される回収物は、未反応のリンオキソ酸化剤を含む。すなわち、回収物は、回収物を得るためのパルプ原料のリンオキソ酸化反応で消費されなかったリンオキソ酸化剤を含む。このような回収物は、再びパルプ原料のリンオキソ酸化反応に用いられる。すなわち、回収物は再利用リンオキソ酸化剤含有溶液と言い換えることもできる。
回収物には、回収物を得るためのパルプ原料のリンオキソ酸化反応工程で使用されたリンオキソ酸化剤の少なくとも一部が含まれていることになる。上述したように、リンオキソ酸化剤には、リンオキソ酸及びリンオキソ酸塩から選択される少なくとも1種と、尿素が含まれていることが好ましいから、回収物にもリンオキソ酸及びリンオキソ酸塩から選択される少なくとも1種と、尿素が含まれていることが好ましい。
図1では、回収物は、濃縮された後に、上流にあるリンオキソ酸化反応工程に再び戻され、リンオキソ酸化剤(リンオキソ酸化剤含有溶液)として使用される態様が図示されている。図1に示されるように、パルプ原料のリンオキソ酸化反応は連続反応であり、その連続反応のいずれかの段階からリンオキソ酸化剤含有溶液として濃縮回収物が使用されてもよい。なお、濃縮回収物には、リンオキソ酸化剤を新たに添加してもよいが、濃縮回収物のみをリンオキソ酸化剤含有溶液として使用することが好ましい。
濃縮回収物は、上流にあるリンオキソ酸化反応工程に再び戻されてもよいが、他のリンオキソ酸化反応工程のリンオキソ酸化剤含有溶液として用いられてもよい。図2は、濃縮回収物が他のリンオキソ酸化反応工程に用いられる場合を説明する工程図である。図2では、まず、リンオキソ酸化剤による第1のパルプ原料の第1のリンオキソ酸化反応が行われる。第1のリンオキソ酸化反応の反応産物として、未反応リンオキソ酸化剤と第1のリンオキソ酸化パルプが得られ、第1の分離工程において、回収物が回収され、この回収物は濃縮される。次いで、得られた濃縮回収物は第2のパルプ原料のリンオキソ酸化剤含有溶液として用いられ、第2のリンオキソ酸化反応が行われる。第2のリンオキソ酸化反応後には、反応産物として、未反応リンオキソ酸化剤と第2のリンオキソ酸化パルプが得られ、第2の分離工程において、回収物が再度回収され濃縮される。第2の分離工程においては、濃縮回収物の回収と同時に第2のリンオキソ酸化パルプが得られる。本発明は、このような第2のリンオキソ酸化パルプの製造方法に関するものである。
本発明が図2のような工程を含むリンオキソ酸化パルプの製造方法である場合、第1のパルプ原料と第2のパルプ原料は同種のものであってもよく、異種のものであってもよい。また、第1のリンオキソ酸化反応工程と、第2のリンオキソ酸化反応工程の反応条件は同条件であってもよく、異なる条件であってもよい。
図2では図示されていないが、第2の分離工程で回収された濃縮回収物は、さらに第3のパルプ原料のリンオキソ酸化剤含有溶液として用いられてもよい。この場合、第3のリンオキソ酸化反応の反応産物として、未反応リンオキソ酸化剤と第3のリンオキソ酸化パルプが得られ、第3の分離工程において、濃縮回収物と第3のリンオキソ酸化パルプに分離される。このように、パルプ原料のリンオキソ酸化反応で回収される濃縮回収物は、複数回再利用される場合もある。
濃縮回収物の存在下においてパルプ原料をリンオキソ酸化する工程では、濃縮回収物の添加量を回収物中に含まれるリン原子量に換算した場合、パルプ原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量を0.5質量%以上100質量%以下とすることが好ましく、1.0質量%以上50質量%以下とすることがより好ましく、2質量%以上30質量%以下とすることがさらに好ましい。また、パルプ原料(絶乾質量)に対する窒素原子の添加量は5質量%以上200質量%以下とすることが好ましく、20質量%以上と150質量%以下することがより好ましく、45質量%以上100質量%以下とすることがさらに好ましい。パルプ原料に対するリン原子と窒素原子の添加量が上記範囲内であれば、パルプ原料を効率よくリンオキソ酸化することができる。
濃縮回収物の存在下においてパルプ原料をリンオキソ酸化する工程は、少なくとも1回行えば良いが、複数回繰り返すこともできる。この場合、より多くのリンオキソ酸基が導入されるので好ましい。また、本発明では、濃縮回収物におけるリンオキソ酸化剤の濃度をさら高めるために、回収物とは別にリンオキソ酸化剤を添加してもよく、リンオキソ酸化剤とは別に他の添加剤を添加してもよい。
<洗浄工程>
リンオキソ酸化工程の後には、必要に応じて洗浄工程を設けてもよい。洗浄工程は、たとえば水や有機溶媒によりリンオキソ酸化パルプを洗浄することにより行われる。また、洗浄工程は後述する各工程の後に行われてもよく、各洗浄工程において実施される洗浄回数は、特に限定されない。
<アルカリ処理工程>
リンオキソ酸化工程の後には、必要に応じてアルカリ処理工程を設けてもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えばアルカリ溶液中に、リンオキソ酸化パルプを浸漬する方法が挙げられる。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されず、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。本実施形態においては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムをアルカリ化合物として用いることが好ましい。また、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水または有機溶媒のいずれであってもよい。中でも、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水、またはアルコールに例示される極性有機溶媒などを含む極性溶媒であることが好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒であることがより好ましい。アルカリ溶液としては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましい。アルカリ処理工程におけるリンオキソ酸化パルプのアルカリ溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、たとえば5分以上30分以下であることが好ましく、10分以上20分以下であることがより好ましい。アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は、特に限定されないが、たとえばリンオキソ酸化パルプの絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の使用量を減らすために、リンオキソ酸化工程の後であってアルカリ処理工程の前に、洗浄工程を設けることが好ましい。
<酸処理工程>
リンオキソ酸化工程の後には、必要に応じて酸処理工程を設けてもよい。例えば、リンオキソ酸化工程、酸処理及びアルカリ処理をこの順で行ってもよい。
酸処理の方法としては、特に限定されないが、たとえば酸を含有する酸性液中にリンオキソ酸化パルプを浸漬する方法が挙げられる。使用する酸性液の濃度は、特に限定されないが、たとえば10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。また、使用する酸性液のpHは、特に限定されないが、たとえば0以上4以下であることが好ましく、1以上3以下であることがより好ましい。酸性液に含まれる酸としては、たとえば無機酸、スルホン酸、カルボン酸等を用いることができる。無機酸としては、たとえば硫酸、硝酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。スルホン酸としては、たとえばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。カルボン酸としては、たとえばギ酸、酢酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸等が挙げられる。これらの中でも、塩酸または硫酸を用いることが特に好ましい。
酸処理における酸溶液の温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上100℃以下が好ましく、20℃以上90℃以下がより好ましい。酸処理における酸溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、たとえば5分以上120分以下が好ましく、10分以上60分以下がより好ましい。酸処理における酸溶液の使用量は、特に限定されないが、たとえばリンオキソ酸化パルプの絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
<その他の工程>
リンオキソ酸化パルプの製造工程では、上述した工程に加えて、さらに濾過工程を設けてもよい。濾過工程では、フィルター等の濾材を用いて、分散液中の異物や浮遊物質(SS)等を除去できる。フィルターとしては、例えば、セラミックフィルターを用いることができる。また、濾過工程では精密濾過(MF膜)、限外濾過(UF膜)を用いることも好ましい。
(リンオキソ酸化パルプ)
本発明は、上述したリンオキソ酸化パルプの製造方法で製造されたリンオキソ酸化パルプに関するものであってもよい。リンオキソ酸化パルプは、リンオキソ酸基を有する。なお、本明細書において、リンオキソ酸基には、リンオキソ酸基に由来する置換基も含まれる。
リンオキソ酸基は、たとえば下記式(1)で表される置換基である。リンオキソ酸基は、たとえばリン酸からヒドロキシ基を取り除いたものにあたる、2価の官能基である。具体的には-PO32で表される基である。リンオキソ酸基には、リンオキソ酸基に由来する置換基も含まれ、リンオキソ酸基に由来する置換基には、リンオキソ酸基の塩、リンオキソ酸エステル基などの置換基が含まれる。なお、リンオキソ酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮合した基(たとえばピロリン酸基)としてリンオキソ酸化パルプに含まれていてもよい。また、リンオキソ酸基は、たとえば、亜リン酸基(ホスホン酸基)であってもよく、リンオキソ酸基に由来する置換基は、亜リン酸基の塩などであってもよい。
式(1)中、a、bおよびnは自然数であり、mは任意の数である(ただし、a=b×mである)。α1,α2,・・・,αnおよびα’のうちa個がO-であり、残りはR,ORのいずれかである。なお、各αnおよびα’の全てがO-であっても構わない。Rは、各々、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、不飽和-環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。また、式(1)においては、nは1であることが好ましい。
飽和-直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、又はn-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロピル基、又はt-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンチル基、又はシクロヘキシル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-直鎖状炭化水素基としては、ビニル基、又はアリル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロペニル基、又は3-ブテニル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられるが、特に限定されない。芳香族基としては、フェニル基、又はナフチル基等が挙げられるが、特に限定されない。
また、Rにおける誘導基としては、上記各種炭化水素基の主鎖又は側鎖に対し、カルボキシ基、ヒドロキシ基、又はアミノ基などの官能基のうち、少なくとも1種類が付加又は置換した状態の官能基が挙げられるが、特に限定されない。また、Rの主鎖を構成する炭素原子数は特に限定されないが、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。
βb+は有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、脂肪族アンモニウム、又は芳香族アンモニウムが挙げられ、無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、若しくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、若しくはマグネシウム等の2価金属の陽イオン、又は水素イオン等が挙げられるが、特に限定されない。これらは1種又は2種類以上を組み合わせて適用することもできる。有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βを含むパルプ原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、又はカリウムのイオンが好ましいが、特に限定されない。なお、βb+は有機オニウムイオンであってもよい。
リンオキソ酸化パルプに対するリンオキソ酸基の導入量は、たとえばリンオキソ酸化パルプ1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることがとくに好ましい。また、リンオキソ酸化パルプに対するリンオキソ酸基の導入量は、たとえばリンオキソ酸化パルプ1g(質量)あたり5.20mmol/g以下であることが好ましく、3.65mmol/g以下であることがより好ましく、3.50mmol/g以下であることがさらに好ましく、3.00mmol/g以下であることが特に好ましい。本発明の製造方法においては、特に、リンオキソ酸化パルプに対するリンオキソ酸基の導入量が1.00mmol/g以上を達成できるように、回収物を濃縮することが好ましい。リンオキソ酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、リンオキソ酸化パルプを微細化する際には、その微細化を容易とすることができ、微細繊維状セルロースの安定性を高めることが可能となる。ここで、単位mmol/gにおける分母は、リンオキソ酸基の対イオンが水素イオン(H+)であるときのリンオキソ酸化パルプの質量を示す。
リンオキソ酸化パルプに対するリンオキソ酸基の導入量は、たとえば中和滴定法により測定することができる。中和滴定法による測定では、得られたリンオキソ酸化パルプを含有するスラリーに、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリを加えながらpHの変化を求めることにより、導入量を測定する。
図3は、リンオキソ酸基を有するリンオキソ酸化パルプ含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。リンオキソ酸化パルプに対するリンオキソ酸基の導入量は、たとえば次のように測定される。
まず、リンオキソ酸化パルプを含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。
次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、図3の上側部に示すような滴定曲線を得る。図3の上側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットしており、図3の下側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対するpHの増分(微分値)(1/mmol)をプロットしている。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ確認される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中に含まれるリンオキソ酸化パルプの第1解離酸量と等しくなり、第1終点から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれるリンオキソ酸化パルプの第2解離酸量と等しくなり、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれるリンオキソ酸化パルプの総解離酸量と等しくなる。そして、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量を滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、リンオキソ酸基導入量(mmol/g)となる。なお、単にリンオキソ酸基導入量(またはリンオキソ酸基量)と言った場合は、第1解離酸量のことを表す。
なお、図3において、滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼び、第1終点から第2終点までの領域を第2領域と呼ぶ。例えば、リンオキソ酸基がリン酸基の場合であって、このリン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上、リンオキソ酸基における弱酸性基量(本明細書では第2解離酸量ともいう)が低下し、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、リンオキソ酸基における強酸性基量(本明細書では第1解離酸量ともいう)は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致する。また、リンオキソ酸基が亜リン酸基の場合は、リンオキソ酸基に弱酸性基が存在しなくなるため、第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなるか、第2領域に必要としたアルカリ量はゼロとなる場合もある。この場合、滴定曲線において、pHの増分が極大となる点は一つとなる。
なお、上述のリンオキソ酸基導入量(mmol/g)は、分母が酸型のパルプの質量を示すことから、酸型のパルプが有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(酸型)と呼ぶ)を示している。一方で、リンオキソ酸基の対イオンが電荷当量となるように任意の陽イオンCに置換されている場合は、分母を当該陽イオンCが対イオンであるときのパルプの質量に変換することで、陽イオンCが対イオンであるパルプが有するリンオキソ酸基量(以降、リンオキソ酸基量(C型))を求めることができる。
すなわち、下記計算式によって算出する。
リンオキソ酸基量(C型)=リンオキソ酸基量(酸型)/{1+(W-1)×A/1000}
A[mmol/g]:パルプが有するリンオキソ酸基由来の総アニオン量(リンオキソ酸基の総解離酸量)
W:陽イオンCの1価あたりの式量(たとえば、Naは23、Alは9)
なお、滴定法によるリンオキソ酸基量の測定においては、水酸化ナトリウム水溶液1滴の滴下量が多すぎる場合や、滴定間隔が短すぎる場合、本来より低いリンオキソ酸基量となるなど正確な値が得られないことがある。適切な滴下量、滴定間隔としては、例えば、0.1N水酸化ナトリウム水溶液を5~30秒に10~50μLずつ滴定するなどが望ましい。また、リンオキソ酸化パルプ含有スラリーに溶解した二酸化炭素の影響を排除するため、例えば、滴定開始の15分前から滴定終了まで、窒素ガスなどの不活性ガスをスラリーに吹き込みながら測定するなどが望ましい。
(微細繊維状セルロースの製造方法)
本発明は、上述したリンオキソ酸化パルプの製造方法で製造されたリンオキソ酸化パルプを解繊処理する工程を含む、微細繊維状セルロースの製造方法に関するものでもある。なお、本明細書において、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを微細繊維状セルロースもしくはCNFと呼ぶこともある。微細繊維状セルロースの繊維幅は1000nm以下であればよく、100nm以下であることが好ましく、8nm以下であることがより好ましい。
微細繊維状セルロースの繊維幅は、たとえば電子顕微鏡観察などにより測定することが可能である。微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば1000nm以下である。微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば2nm以上1000nm以下であることが好ましく、2nm以上100nm以下であることがより好ましく、2nm以上50nm以下であることがさらに好ましく、2nm以上10nm以下であることが特に好ましい。微細繊維状セルロースの平均繊維幅を2nm以上とすることにより、セルロース分子として水に溶解することを抑制し、微細繊維状セルロースによる強度や剛性、寸法安定性の向上という効果をより発現しやすくすることができる。なお、微細繊維状セルロースは、たとえば単繊維状のセルロースである。
微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば電子顕微鏡を用いて以下のようにして測定される。まず、濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の微細繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。次いで、観察対象となる繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を目視で読み取る。このようにして、少なくとも互いに重なっていない表面部分の観察画像を3組以上得る。次いで、各画像に対して、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を読み取る。これにより、少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。そして、読み取った繊維幅の平均値を、微細繊維状セルロースの平均繊維幅とする。
微細繊維状セルロースの繊維長は、特に限定されないが、たとえば0.1μm以上1000μm以下であることが好ましく、0.1μm以上800μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上600μm以下であることがさらに好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制できる。また、繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることも可能となる。なお、微細繊維状セルロースの繊維長は、たとえばTEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
微細繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造を有することは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は、たとえば30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。これにより、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
微細繊維状セルロースの軸比(繊維長/繊維幅)は、特に限定されないが、たとえば20以上10000以下であることが好ましく、50以上1000以下であることがより好ましい。軸比を上記下限値以上とすることにより、微細繊維状セルロースを含有するシートを形成しやすい。また、溶媒分散体を作製した際に十分な増粘性が得られやすい。軸比を上記上限値以下とすることにより、たとえば微細繊維状セルロースを水分散液として扱う際に、希釈等のハンドリングがしやすくなる点で好ましい。
<解繊処理>
微細繊維状セルロースの製造工程は、上述したリンオキソ酸化パルプの製造方法で製造されたリンオキソ酸化パルプを解繊処理する工程を含む。リンオキソ酸化パルプを解繊処理工程で解繊処理することにより、微細繊維状セルロースが得られる。解繊処理工程においては、たとえば解繊処理装置を用いることができる。解繊処理装置は、特に限定されないが、たとえば高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなどを使用することができる。上記解繊処理装置の中でも、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミネーションのおそれが少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーを用いるのがより好ましい。
解繊処理工程においては、たとえばリンオキソ酸化パルプを、分散媒により希釈してスラリー状にすることが好ましい。分散媒としては、水、および極性有機溶媒などの有機溶媒から選択される1種または2種以上を使用することができる。極性有機溶媒としては、特に限定されないが、たとえばアルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、非プロトン性極性溶媒等が好ましい。アルコール類としては、たとえばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類としては、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、たとえばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。エステル類としては、たとえば酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒としてはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)等が挙げられる。
解繊処理時のリンオキソ酸化パルプの固形分濃度は適宜設定できる。また、リンオキソ酸化パルプを分散媒に分散させて得たスラリー中には、例えば水素結合性のある尿素などのリンオキソ酸化パルプ以外の固形分が含まれていてもよい。
このような解繊処理工程を経て、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含む分散液が得られる。解繊処理後の分散液には、任意成分が添加されてもよい。任意成分としては、親水性高分子、親水性低分子、有機イオン等を挙げることができる。また、微細繊維状セルロース含有分散液は、任意成分として、界面活性剤、カップリング剤、無機層状化合物、無機化合物、レベリング剤、防腐剤、消泡剤、有機系粒子、潤滑剤、帯電防止剤、紫外線防御剤、染料、顔料、安定剤、磁性粉、配向促進剤、可塑剤、分散剤、および架橋剤から選択される一種または二種以上を含んでいてもよい。
(用途)
上述したリンオキソ酸化パルプは、再利用リンオキソ酸化剤を用いてリンオキソ酸化されたものであるが、リンオキソ酸基導入量は、再利用されていないリンオキソ酸化剤を用いてリンオキソ酸化をした際のリンオキソ酸基導入量と同レベルであり、リンオキソ酸基導入量は十分である。このため、微細繊維状セルロースとする際の微細化が容易であり、微細化度合いも良好である。そして、このような微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース含有スラリーや微細繊維状セルロース含有シートにおいては、その透明性が十分に高い。このような特性を活かす観点から微細繊維状セルロースは各種のディスプレイ装置、各種の太陽電池、等の光透過性基板の用途に適している。また、電子機器の基板、家電の部材、各種の乗り物や建物の窓材、内装材、外装材、包装用資材等の用途にも適している。さらに、糸、フィルタ、織物、緩衝材、スポンジ、研磨材などの他、シートそのものを補強材として使う用途にも適している。また、本発明の繊維状セルロースは、増粘剤として各種用途(例えば、食品、化粧品、セメント、塗料、インクなどへの添加物など)に使用することもできる。
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
[実施例1]
<リンオキソ酸化反応工程>
針葉樹クラフトパルプとして、王子製紙製のパルプ(固形分93質量%、坪量245g/m2シート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)を原料として使用した。上記針葉樹クラフトパルプ(絶乾質量)100質量部に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液(リンオキソ酸化剤含有溶液)を加え、リン酸二水素アンモニウム45質量部(リン原子の質量部数が12質量部)、尿素120質量部、イオン交換水150質量部となるように圧搾し、薬液含浸パルプを得た。熱風乾燥機で加熱し、パルプ中のセルロースにリンオキソ酸基を導入し、リンオキソ酸化パルプAを得た。
<濃縮工程(循環濃縮)>
上記<リンオキソ酸化反応工程>で得られた、未反応リンオキソ酸化剤とリンオキソ酸化パルプを含む固形物に、リンオキソ酸化パルプの濃度が10質量%以下となるようイオン交換水を注ぎ、撹拌して均一に分散希釈し、吸引濾過により濾液を回収することで未反応のリンオキソ酸化剤を含む溶液Aを得た。得られた溶液Aを用いて、未反応のリンオキソ酸化剤を含むリンオキソ酸エステル化後のリンオキソ酸化パルプをリンオキソ酸化パルプの濃度が10質量%以下となるよう希釈し、吸引濾過により濾液を回収することで溶液Aよりもリンと窒素濃度が高い溶液Bを得た。この作業を15回繰り返すことで濃縮された溶液Cを得た。溶液Cのリン原子濃度と窒素原子濃度を後述する方法で測定した。
<リン原子濃度の測定>
リン原子濃度の測定には呈色反応を利用した。リンオキソ酸化剤を含む溶液Cをデジタルパックテスト全リン用((株)共立理化学研究所製)を使用し測定した。具体的には、耐圧瓶にサンプル1mL、R-1試薬を1滴、R-2試薬を0.5mL加え振り混ぜた。その後、高圧分解器にて蒸気が出始めてから30分加熱を続けた。30分後、分解器より取り出し20℃まで冷却しR-3試薬を4滴加え振り混ぜた。調製した液を呈色試薬の含まれたチューブに全量入れ、数回振り混ぜたあと、デジタルパックテストにて測定を行った。
<窒素原子濃度の測定>
窒素原子濃度の測定には呈色反応を利用した。リンオキソ酸化剤を含む溶液をデジタルパックテスト全窒素用((株)共立理化学研究所製)を使用し測定した。具体的には、耐圧瓶にサンプル1mL、R-1試薬を1滴、R-2試薬を0.5mL加え振り混ぜた。その後、高圧分解器にて蒸気が出始めてから30分加熱を続けた。30分後、分解器より取り出し20℃まで冷却しR-3試薬を2滴加え振り混ぜた。調製した液を呈色試薬の含まれたチューブに全量入れ、1分間振り混ぜたあと、デジタルパックテストにて測定を行った。
<リンオキソ酸エステル化反応>
別途、針葉樹クラフトパルプとして、王子製紙製のパルプ(固形分93質量%、坪量245g/m2シート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)をパルプ原料として使用し、パルプ原料1g当たり溶液Cを3.14g添加し、送風乾燥機にて160℃で、11分間加熱することでリンオキソ酸化パルプBを得た。
<洗浄・アルカリ(中和)処理工程>
次いで、得られたリンオキソ酸化パルプBに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、リンオキソ酸化パルプB 100g(絶乾質量)に対して10Lのイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。濾液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
次いで、洗浄後のリンオキソ酸化パルプBに対して中和処理を次のようにして行った。まず、洗浄後のリンオキソ酸化パルプBを10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加することにより、pHが12以上13以下のリンオキソ酸化パルプスラリーを得た。次いで、当該リンオキソ酸化パルプスラリーを脱水して、中和処理が施されたリンオキソ酸化パルプBを得た。
さらに、中和処理後のリンオキソ酸化パルプBに対して、上記洗浄処理を行った。これにより得られたリンオキソ酸化パルプBに対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1230cm-1付近にリン酸基のP=Oに基づく吸収が観察され、パルプにリン酸基が付加されていることが確認された。また、得られたリンオキソ酸化パルプBを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
<機械処理工程>
得られたリンオキソ酸化パルプBにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(スギノマシン社製、スターバースト)で200MPaの圧力にて6回処理し、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液を得た。X線回折により、この微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、微細繊維状セルロースの繊維幅を、透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3~5nmであった。
<リンオキソ酸基の導入量の測定>
微細繊維状セルロースのリンオキソ酸基量(リンオキソ酸化パルプBのリンオキソ酸基量と等しい)は、対象となる微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液にイオン交換水を添加して、含有量を0.2質量%とし、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。
イオン交換樹脂による処理は、上記微細繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することにより行った。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の微細繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を5秒に10μLずつ加えながら、スラリーが示すpHの値の変化を計測することにより行った。なお、滴定開始の15分前から窒素ガスをスラリーに吹き込みながら滴定を行った。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ観測される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ(図3)。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の第1解離酸量と等しくなる。また、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の総解離酸量と等しくなる。なお、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値をリンオキソ酸基量(第1解離酸量)(mmol/g)とした。また、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値を総解離酸量(mmol/g)とした。
[実施例2]
<濃縮工程(膜濃縮)>
[実施例1]の<濃縮工程(循環濃縮)>で得られた溶液Aを、クロスフロー式平膜試験機(GEウォーター・テクノロジーズ製 SEPA CFII)に設置された逆浸透膜(DOW FILMTECTM製 SW30HR-380)で処理することで、濃縮溶液Dを得た。この溶液Dを用いた以外は、実施例1と同様方法で、<リンオキソ酸エステル化反応>、<洗浄・アルカリ(中和)処理工程>及び<機械処理工程>を行った。
[実施例3]
<濃縮工程(減圧加熱濃縮)>
[実施例1]の<濃縮工程(循環濃縮)>で得られた溶液Aを500mLのナスフラスコに入れ、ロータリーエバポレーター(東京理化機械(株)製)にて減圧濃縮を行った。その際、フラスコの底部を40℃の水浴につけることで、濃縮を促進し溶液Eを得た。溶液Eを、リン濃度が3.8質量%となるよう希釈し溶液E'とした。この溶液E'を用いた以外は、実施例1と同様方法で、<リンオキソ酸エステル化反応>、<洗浄・アルカリ(中和)処理工程>及び<機械処理工程>を行った。
[実施例4]
<リンオキソ酸化反応工程>
針葉樹クラフトパルプとして、王子製紙製のパルプ(固形分93質量%、坪量245g/m2シート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)を原料として使用した。上記針葉樹クラフトパルプ(絶乾質量)100質量部に、亜リン酸(ホスホン酸)と尿素の混合水溶液(リンオキソ酸化剤含有溶液)を加え、亜リン酸33質量部(リン原子の質量部数が12質量部)、尿素120質量部、イオン交換水150質量部となるように圧搾し、薬液含浸パルプを得た。熱風乾燥機で加熱し、パルプ中のセルロースにリンオキソ酸基を導入し、リンオキソ酸化パルプCを得た。
上記<リンオキソ酸化反応工程>で得られた未反応リンオキソ酸化剤とリンオキソ酸化パルプを含む固形物に、リンオキソ酸化パルプの濃度が10質量%以下となるようイオン交換水を注ぎ、撹拌して均一に分散希釈し、吸引濾過により濾液を回収することで未反応のリンオキソ酸化剤を含む溶液Fを得た。得られた溶液Fを用いて、未反応リンオキソ酸化剤とリンオキソ酸化パルプをリンオキソ酸化パルプの濃度が10質量%以下となるよう希釈し、吸引濾過により濾液を回収することで溶液Fよりもリンと窒素濃度が高い溶液Gを得た。この作業を15回繰り返すことで濃縮された溶液Hを得た。溶液Hのリン原子濃度と窒素原子濃度を上述した方法で測定した。
<リンオキソ酸エステル化反応>
別途、針葉樹クラフトパルプとして、王子製紙製のパルプ(固形分93質量%、坪量245g/m2シート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)をパルプ原料として使用し、パルプ原料1g当たり溶液Hを3.00g添加し、送風乾燥機にて160℃で、11分間加熱することでリンオキソ酸化パルプDを得た。リンオキソ酸化パルプDを用いた以外は、実施例1と同様方法で、<洗浄・アルカリ(中和)処理工程>及び<機械処理工程>を行った。
[比較例1]
溶液Aを濃縮せずに用いた以外は、実施例1と同様方法で、<リンオキソ酸エステル化反応>、<洗浄・アルカリ(中和)処理工程>及び<機械処理工程>を行った。
表1から明らかなように、実施例では、所定量以上のリンオキソ酸基が導入されたリンオキソ酸化パルプ及び微細繊維状セルロースが得られた。一方、比較例においては、リンオキソ酸化パルプ及び微細繊維状セルロースにおいて、リンオキソ酸基の導入が検出されなかった。

Claims (5)

  1. リンオキソ酸化剤によるリンオキソ酸化反応後の工程において回収される、未反応のリンオキソ酸化剤を含む回収物を濃縮した濃縮回収物の存在下において、パルプ原料をリンオキソ酸化する工程を含み、
    前記濃縮回収物は、前記回収物を循環濃縮することで得られる、リンオキソ酸化パルプの製造方法。
  2. 前記リンオキソ酸化剤は、リンオキソ酸及びリンオキソ酸塩から選択される少なくとも1種と、尿素とを含む、請求項に記載のリンオキソ酸化パルプの製造方法。
  3. 前記濃縮回収物の全質量に対する、リン原子濃度が0.40質量%以上である、請求項1又は2に記載のリンオキソ酸化パルプの製造方法。
  4. 前記濃縮回収物の全質量に対する、窒素原子濃度が0.70質量%以上である、請求項1~のいずれか1項に記載のリンオキソ酸化パルプの製造方法。
  5. 請求項1~のいずれか1項に記載のリンオキソ酸化パルプの製造方法で製造されたリンオキソ酸化パルプを解繊処理する工程を含む、微細繊維状セルロースの製造方法。
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