JP7343011B1 - 分散剤、導電材分散体、電極膜および二次電池 - Google Patents

分散剤、導電材分散体、電極膜および二次電池 Download PDF

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Abstract

【課題】泡立ちが少ない導電材分散体を提供すること。また、電子抵抗およびイオン抵抗が低く、低温特性が良好な二次電池を提供すること。【解決手段】少なくとも水を含有する媒体(D)中で炭素系導電材(C)を分散するための分散剤であって、下記(1)を満たす重合体(A)と、下記(2)を満たす成分(B)とを含有する分散剤。(1)前記重合体(A)は、カルボキシル基含有構造単位、ヒドロキシル基含有構造単位および複素環含有構造単位からなる群より選ばれる少なくとも1種以上を構造単位として80質量%以上含み、重量平均分子量が0.5万以上36万以下である。(2)前記成分(B)は、前記重合体(A)の原料であるモノマー、重合開始剤および連鎖移動剤のいずれか1種以上に由来する前記重合体(A)以外の化合物であって、成分(B)の含有量が、前記分散剤を基準として2質量%以下である。【選択図】なし

Description

本発明は、分散剤、導電材分散体、電極膜および二次電池に関する。
近年、導電材によって、帯電防止性、導電性、熱伝導性および電磁波シールド性等の機能を各種材料に付与し、様々な用途に応用するための開発が盛んに行われている。導電材としては、耐熱性、耐光性、および対腐食性が高いこと、軽量であり比較的安価であること、導電性が高いこと等の理由から、炭素系の導電材が広く利用されている。
導電材を用いて機能を付与するために、プラスチック又はガラス等の基材に導電材を練り込む方法を用いることができる。しかし、加工性の高さから、導電材を湿式で分散させ、必要に応じて各種材料と混合して塗工する方法が主流となっている。また、光学特性、意匠性、および電気的特性といった他の用途特性を低下させないために、導電材には少量で高い導電性を発揮することが求められる。そのため、比表面積が大きい炭素系導電材、特に、カーボンブラック(以下CB)又はカーボンナノチューブ(以下CNT)を使用することが有効である。しかし、比表面積が大きい炭素系導電材は、凝集力が強く、親水性が極めて低いため、特に水を含む媒体において、良好に分散させることが難しいという問題があった。
こうした背景から、導電材に向けた各種分散剤が検討されている。例えば、CBやCNTの分散に関し、特許文献1では、それぞれ分散剤を水媒体に分散させた導電材分散体を提案している。特許文献1では、ポリビニルピロリドン又はポリビニルアルコールを分散剤として用いている。これらの分散剤の使用によって、効率的な導電ネットワークを形成できれば、導電体分散体調製し、例えば二次電池に用いた場合には、初期特性又はサイクル寿命の向上が期待できる。
また、一般に、水を含む媒体に分散質を分散させる際には、泡立ちが生じやすいことが知られている。泡立ちが生じると、様々な問題が起こりやすい。例えば、気泡が分散質の濡れを邪魔して仕込み性および分散性が悪化しやすい。また、分散機のエネルギーが気泡の微細化に消費されて分散が進まなくなりやすい。これらのことから、結果的に、前述のような効率的な導電ネットワークの形成ができなくなる。さらに、高圧ホモジナイザーのような圧力によって分散質を微細化するタイプの分散機では、気泡が入ると、爆発またはノズルの詰まり、あるいは装置の破損といったリスクが生じる。 そのため、このような問題を解決するために、分散媒が水を含む場合には、しばしば消泡剤が用いられてきた。
一方、特許文献2では、アクリロニトリルおよびブタジエンの重合体を合成する際に生じる、不飽和結合を有する低分子量有機化合物の残留物が電池特性に影響することを開示している。具体的には、上記残留物を含む重合体が負極に用いられた場合、残留物が電解液に溶解して正極側に移動し、不飽和結合が酸化反応を引き起こすことによって、電池性能が低下することを見出し、不飽和結合を有する低分子量有機化合物の残留物を低減することによって電池性能の低下を解決している。
また、特許文献3では、アクリル系重合体を含む結着剤組成物を電極用スラリーに用いた場合に、重合体を重合によって形成するための単量体、および、単量体が反応してなるオリゴマーが活物質に吸着して、分散安定性が低下することを見出し、単量体およびオリゴマー量を低減させることによって電池性能の低下を解決する方法を提案している。なお、アクリル系重合体は乳化剤によって媒体に分散した状態で用いられている。
特表2016-514080号公報 国際公開第2013/146548号公報 特開2014/146600号公報
しかしながら、特許文献1に記載の分散剤を用いた場合でも、電池の出力、およびサイクル寿命が不十分となることがあった。その原因を鋭意検討したところ、特定の構造単位を有する分散剤(重合体)の原料に由来する成分が泡立ちを顕著にし、分散性を低下させていることが判明した。特に、特定の構造単位を有する分散剤(重合体)の原料に由来する成分を一定量以上含有する分散剤を分散媒に溶解させ、撹拌しながら導電材を添加する場合に、導電材と共に空気が混入するため、泡立ちが極めて顕著となることが分かった。
さらに、特定の構造単位を有する分散剤(重合体)の原料に由来する成分が、電池内で電解液中に溶出し、電解液粘度を増加させ電解質イオンの拡散抵抗を増大させる、あるいは電解液溶媒の誘電率を低下させ電解液の伝導度を低下させるという現象のいずれか、または両方が同時に起こり、イオン抵抗を悪化させ、結果として、電池の諸特性を悪化させていることが明らかとなった。
本発明者らが詳細に調査したところによると、特に、低温では、イオン抵抗が支配的になるため、イオン抵抗が悪い電池は出力が顕著に悪くなることが分かった。また、泡立ちによる分散不良を解決するために消泡剤を添加した場合には、消泡剤も電解液に溶出し、同様の理由で電池特性を悪化させることが分かった。さらに、重合体を乳化剤や界面活性剤等を用いて乳化した状態で用いる場合にも、乳化剤および界面活性剤は電解液に溶出するため、同様の理由で電池特性を悪化させることが分かった。
なお、先に記載した分散剤の原料に由来する成分は、比較的酸化耐性が高い構造である。そのため、特許文献2に記載されるような、不飽和結合を有する低分子量有機化合物の残留物(すなわち、酸化耐性が低い成分)を低減することによって電池性能の低下を解決する方法とは、技術的思想が異なる。
したがって、本発明の一実施形態は、泡立ちが少ない導電材分散体を提供する。また、本発明の一実施形態は、電子抵抗およびイオン抵抗が低く、かつ低温特性が良好な二次電池を提供する。
本発明者らは、上記の課題を解決するべくさらに検討した。その結果、特定の重合体と、特定の重合体の原料に由来する成分を一定量以下含む分散剤を用いることで、消泡剤を添加せずに、またはごく微量の添加によって、良好に分散でき、電子抵抗を向上させ、さらに低温特性を向上させた二次電池を提供することが可能となった。また、二次電池のみならず各種用途において、優れた特性を実現できる、効率的な導電ネットワークを形成可能な導電材分散体を提供することが可能となった。
すなわち、本発明は、以下の実施形態を含む。本発明の実施形態は以下に限定されない。
本発明の一実施形態は、少なくとも水を含有する媒体(D)中で炭素系導電材(C)を分散するための分散剤であって、下記(1)を満たす重合体(A)と、下記(2)を満たす成分(B)とを含有する分散剤である。
(1)前記重合体(A)は、カルボキシル基含有構造単位、ヒドロキシル基含有構造単位および複素環含有構造単位からなる群より選ばれる少なくとも1種以上を構造単位として80質量%以上含み、重量平均分子量が0.5万以上36万以下である。
(2)前記成分(B)は、前記重合体(A)の原料であるモノマー、重合開始剤および連鎖移動剤のいずれか1種以上に由来する前記重合体(A)以外の化合物であって、成分(B)の含有量が、前記分散剤を基準として2質量%以下である。
また、本発明の一実施形態は、下記(1)を満たす重合体(A)と、下記(2)を満たす成分(B)と、炭素系導電材(C)と、少なくとも水を含有する媒体(D)とを含有する導電材分散体であって、前記成分(B)の含有率が、前記導電材分散体の質量を基準として1質量%以下である、導電材分散体である。
(1)前記重合体(A)は、カルボキシル基含有構造単位、ヒドロキシル基含有構造単位、および複素環含有構造単位からなる群より選ばれる少なくとも1種以上を構造単位として80質量%以上含み、重量平均分子量が0.5万以上36万以下である。
(2)前記成分(B)は、前記重合体(A)の原料であるモノマー、重合開始剤および連鎖移動剤のいずれか1種以上に由来する前記重合体(A)以外の化合物である。
また、本発明の一実施形態は、上記導電材分散体から形成された、電極膜である。
また、本発明の一実施形態は、上記電極膜を含む、二次電池である。
本発明の実施形態によれば、泡立ちが少ない導電材分散体を提供することができる。また、レート特性およびサイクル特性が良好であり、電子抵抗およびイオン抵抗が低く、かつ低温特性が良好な、二次電池を提供することができる。
以下、本発明の実施形態について、詳しく説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明には要旨を変更しない範囲において実施される実施形態も含まれる。
本明細書において、「重合体(A)」、「炭素系導電材(C)」および「少なくとも水を含有する媒体(D)」を、「重合体」、「導電材」および「媒体(D)」と略記する場合がある。また、「(メタ)アクリル」、「(メタ)アクリロ」、「(メタ)アクリル酸」、「(メタ)アクリレート」、および「(メタ)アクリロイルオキシ」と表記した場合には、特に説明がない限り、それぞれ、「アクリルまたはメタクリル」、「アクリロまたはメタクリロ」、「アクリル酸またはメタクリル酸」、「アクリレートまたはメタクリレート」および「アクリロイルオキシまたはメタクリロイルオキシ」を表すものとする。
<重合体(A)>
重合体(A)は、カルボキシル基含有構造単位、ヒドロキシル基含有構造単位、複素環含有構造単位からなる群より選ばれる少なくとも1種以上を構成単位として80質量%以上含有する。重合体(A)の重量平均分子量は、0.5万以上、36万以下である。
重合体(A)は、少なくとも水を含有する媒体(D)中で炭素系導電材(C)を分散するための分散剤として機能する。
重合体(A)は、主鎖にアルキレン構造を含むことが好ましい。分子内に、カルボキシル基、ヒドロキシル基、および複素環からなる群から選択されるいずれか1種以上の構造単位を80質量%以上有することで、強い分極性を有する。そのため、炭素系導電材(C)への吸着性と媒体への親和性が高まり、炭素系導電材(C)を媒体(D)中で分散状態を安定な保つことができるようになる。
重合体(A)は、カルボキシル基含有構造単位、ヒドロキシル基含有構造単位、および複素環含有構造単位のからなる群から選択される2種以上を含有してもよい。上記重合体(A)が2種以上の構造単位を含む場合、炭素系導電材(C)への吸着性、および媒体(D)への親和性が高まるため、より好ましい。
重合体(A)の重量平均分子量は、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量で、0.5万以上であり、0.6万以上が好ましく、0.8万以上がより好ましい。また、36万以下であり、26万以下が好ましく、10万以下がより好ましい。上記のような重量平均分子量を有すると、分散体の安定性がより向上する。
本明細書において、カルボキシル基含有構造単位とは、カルボキシル基を含む構造単位を意味する。カルボキシル基中の水素原子が、ナトリウムやリチウム等の金属原子に置換された基を有する構造単位や、アルキルアミン、アルカノールアミン等の塩基と塩を形成した構造単位も、カルボキシル基含有構造単位に包含されるものとする。また、2つのカルボキシル基が脱水縮合した「-C(=O)-O-C(=O)-」で示される構造を有する基(本明細書では「酸無水物基」という)も、重合体(A)の製造時や媒体(D)中での加水分解等によってカルボキシル基を形成するため、酸無水物基を含む構造単位もカルボキシル基含有構造単位に包含されるものとする。
カルボキシル基含有構造単位の好ましい態様として、カルボキシル基を含む置換基によって置換されたアルキレン構造を含有する構造単位が挙げられる。ここで、アルキレン構造は、直鎖状又は分岐状のアルキレン構造であることが好ましい。カルボキシル基含有構造単位に含まれるカルボキシル基の数は、1つまたは2つであることが好ましく、1つであることがより好ましい。また、カルボキシル基中の水素原子がナトリウムに置換された構造単位であると、導電材(C)への親和性が高まるため好ましい。
重合体(A)へのカルボキシル基含有構造単位の導入方法は、特に限定されない。例えば、カルボキシル基を含むモノマーの重合反応により重合体を製造する方法、または、カルボキシル基以外の官能基を含むモノマーの重合反応により重合体を製造し、カルボキシル基に変性させる方法等が挙げられる。特に、カルボキシル基を含むモノマーの重合反応により重合体を製造する方法を好ましく用いることができる。
カルボキシル基含有構造単位を形成するためのカルボキシル基を含むモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸等の不飽和脂肪酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロフタレート、エチレンオキサイド変性コハク酸(メタ)アクリレート、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート等のカルボキシル基含有(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等の酸無水物基含有モノマーおよびその単官能アルコール付加体等が挙げられる。上記の内、カルボキシル基含有モノマーは、不飽和脂肪酸が好ましく、(メタ)アクリル酸がより好ましく、アクリル酸がさらに好ましい。
カルボキシル基含有構造単位の含有量は、後述する媒体(D)と適度な親和性を持たせる観点から、重合体の質量(但し開始剤および連鎖移動剤を除く)を100質量%とした場合に、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。一方、上記含有量は100質量%が最も好ましく、98質量%以下であってよい。
一実施形態において、重合体(A)は、ヒドロキシル基含有構造単位、および複素環含有構造単位からなる群から選択される1種以上をさらに含有する場合、炭素系導電材と媒体との親和性が高くなり、好ましい。
ヒドロキシル基含有構造単位、および複素環含有構造単位からなる群から選択される1種以上をさらに含有する場合、カルボキシル基含有構造単位の含有量は、重合体の全質量(但し、開始剤および連鎖移動剤を除く)を100質量%とした場合に、3質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。また、電解液耐性および保管中の吸湿を防止する観点から、重合体の質量を基準として(すなわち、重合体の質量を100質量%とした場合に)、97質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。
ヒドロキシル基含有構造単位は、ヒドロキシル基を含む構造単位であり、好ましくは、ヒドロキシル基を含む置換基によって置換されたアルキレン構造を含有する構造単位を含む。アルキレン構造は、直鎖状又は分岐状のアルキレン構造であることが好ましい。ヒドロキシル基含有構造単位に含まれるヒドロキシル基の数は、1つまたは2つであることが好ましく、1つであることがより好ましい。
重合体(A)へのヒドロキシル基含有構造単位の導入方法は、特に限定されない。例えば、ヒドロキシル基を含むモノマーの重合反応により重合体を製造する方法、または、ヒドロキシル基以外の官能基を含むモノマーの重合反応により重合体を製造し、ヒドロキシル基に変性させる方法等が挙げられる。反応性、原料価格の観点から合理的な方法を選択することができる。
ヒドロキシル基含有構造単位を形成するためのヒドロキシル基を含むモノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシビニルベンゼン、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレートまたはこれらモノマーのカプロラクトン付加物(付加モル数は1~5)等が挙げられる。ヒドロキシル基を含むモノマーは、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートがより好ましく、2-ヒドロキシエチルアクリレートがさらに好ましい。
ヒドロキシル基以外の官能基を含むモノマーの重合反応により重合体(A)を製造してヒドロキシル基に変性させる方法としては、例えば、ポリ酢酸ビニルのアセチル基を、水酸化ナトリウム等のアルカリによりけん化し、ヒドロキシル基とする方法が挙げられる(けん化反応)。水酸化ナトリウムの濃度と処理時間を変えることで、けん化の反応率(けん化度)を任意にコントロールすることができる。
また、炭素系導電材と媒体との親和性を高める目的で、重合体中のヒドロキシル基の少なくとも一部をアルデヒド化合物と反応させ、アセタール基に変性させて用いてもよい(アセタール化)。
アセタール化反応に用いるアルデヒド化合物は、例えば、炭素数1~15の直鎖状、分枝状、環状飽和、不飽和、又は芳香族のアルデヒド等化合物等を用いることができるが、これらに限定されない。具体的には、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオニルアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、tert-ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、およびシクロヘキシルアルデヒド等が挙げられる。これらのアルデヒド化合物は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらのアルデヒド化合物は、ホルムアルデヒドを除き、1以上の水素原子がハロゲン等によって置換されたものであってもよい。汎用性の観点で、炭素数1~10の直鎖状、分枝状、環状飽和、不飽和、又は芳香族のアルデヒド等化合物が好ましく、炭素数1~4の直鎖状のアルデヒド化合物がより好ましい。使用するアルデヒド化合物と処理時間を変えることで、アセタール化の反応率(アセタール化度)を任意にコントロールすることができる。
ヒドロキシル基含有構造単位の含有量は、重合体の質量(但し、開始剤および連鎖移動剤を除く)を100質量%とした場合に、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、99.8質量%以下であることがさらに好ましい。ただし、ヒドロキシル基含有構造単位、および複素環含有構造単位からなる群から選択される1種以上をさらに含有する場合には、上記含有量は5質量%以上であることが好ましく、95質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましい。上記範囲に調整することで、分極を強め、炭素系導電材および媒体への親和性を高めることができる。また、電解液に対する耐性の観点からも好ましい。
カルボキシル基含有構造単位、および複素環含有構造単位からなる群から選択される1種以上をさらに含有すると、分極がより強くなるため特に好ましい。アセタール基の含有量は、上記ヒドロキシル基含有構造単位の含有量と同様の理由から、上記ヒドロキシル基含有構造単位の含有量の好ましい範囲内とすることが好ましい。
複素環含有構造単位は、複素環を含む構造単位であり、複素環を含む置換基によって置換されたアルキレン構造を含有する構造単位がより好ましい。アルキレン構造は、直鎖状又は分岐状のアルキレン構造であることが好ましい。複素環含有構造単位に含まれる複素環は、単環構造であっても縮合環構造であってもよいが、単環構造であることが好ましい。また、複素環含有構造単位に含まれる複素環の数は、1つまたは2つであることが好ましく、1つであることがより好ましい。
複素環は環を構成する原子(環員原子)に炭素以外の原子を含んでいる。例えば、複素環は、1つまたは2つ以上の窒素原子、酸素原子、硫黄原子等を含んでもよい。環を構成する炭素以外の原子としては、窒素原子および/または酸素原子が好ましく、窒素原子がより好ましい。環を構成する原子に炭素以外の原子を含む場合、複素環内で分極が生じ、炭素系導電材に強く作用できるようになる。
また、重合体(A)への複素環の導入方法は、特に限定されない。例えば、複素環を含むモノマーの重合反応により重合体を調製する方法を用いることができる。
複素環含有構造単位を形成するための複素環を含むモノマーとしては、N-ビニル環状アミドが好ましく、例えば、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニル-ε-カプロラクタム、N-ビニル-2-ピペリドン、N-ビニル-3-モルホリノン、N-ビニル-1,3-オキサジン-2-オン、N-ビニル-3,5-モルホリンジオン等が挙げられる。特に、電池特性向上の観点からN-ビニル-2-ピロリドンが好ましい。なお、これらは、単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
複素環含有構造単位の含有量は、重合体の質量(但し、開始剤および連鎖移動剤を除く)を100質量%とした場合に、上述したように分極を強くして炭素系導電材への作用を高める観点から、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることが特に好ましい。一実施形態において、上記含有量は100質量%であってもよい。ただし、カルボキシル基含有構造単位、およびヒドロキシル基含有構造単位からなる群から選択される1種以上をさらに含有する場合には、複素環含有構造単位の含有量は、重合体の質量を基準として(すなわち、重合体の質量を100質量%とした場合に)、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。一方、上記含有量は、95質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましい。カルボキシル基含有構造単位、およびヒドロキシル基含有構造単位からなる群から選択される1種以上をさらに含有する場合、極性が高くなり、電解液に対する耐性を向上させることができることからより好ましい。
重合体(A)は、さらに、その他構造単位を含んでもよい。その他構造単位としては、活性水素基含有構造単位(ただし、カルボキシル基およびヒドロキシル基を除く)、塩基性基含有構造単位、エステル基含有構造単位およびニトリル基含有構造単位からなる群より選択される1種以上の構造単位を含んでもよい。
その他の構造単位の含有量は、重合体の質量(但し、開始剤および連鎖移動剤を除く)を100質量%とした場合に、重合体(A)の分極を損なわない観点から、20質量%以下未満であり、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
活性水素基含有構造単位は、活性水素基として、例えば、一級アミノ基、二級アミノ基、メルカプト基等を有する構造単位である。ここで、「一級アミノ基」とは、-NH2(アミノ基)を意味し、「二級アミノ基」とは、一級アミノ基上の一つの水素原子がアルキル基等の有機残基で置換された基を意味する。ただし、酸アミド中の一級アミノ基および二級アミノ基は、本明細書では、活性水素基には含めない。
塩基性基含有構造単位は、塩基性基を有する構造単位である。塩基性基としては、例えば、3級アミノ基、アミド基などが挙げられる。なお、1級アミノ基を有する構造単位、および2級アミノ基を有する構造単位は、塩基性を呈する場合があり得るが、本明細書では、前記活性水素基含有構造単位の態様として扱い、塩基性基含有構造単位には属さないものとして扱うこととする。
エステル基含有構造単位とは、エステル基(-CO-O-)を有する構造単位である。エステル基含有構造単位を形成するためのエステル基を含むモノマーとしては、例えば、(R12C=C-CO-O-R2で表される構造を有するモノマーが挙げられる。上記式において、R1は、水素原子またはメチル基であって少なくとも一方が水素原子である。R2は、置換基を有していてもよいアルキル基である。
なお、アルキル基の置換基として上記活性水素基または上記塩基性基を含むものは、上記活性水素基含有構造単位または上記塩基性基含有構造単位として扱い、エステル基含有構造単位には属さないものとして扱うこととする。
ニトリル基含有構造単位は、ニトリル基を含む構造単位であり、好ましくはニトリル基を含む置換基によって置換されたアルキレン構造を含有する構造単位を含む。上記アルキレン構造は、直鎖状又は分岐状のアルキレン構造であることが好ましい。ニトリル基含有構造単位に含まれるニトリル基の数は、1つまたは2つであることが好ましく、1つであることがより好ましい。
一実施形態において、重合体(A)に含まれる構造単位の組み合わせは、カルボキシル基含有構造単位のみ、カルボキシル基含有構造単位/ヒドロキシル基含有構造単位、カルボキシル基含有構造単位/複素環含有構造単位、ヒドロキシル基含有構造単位/複素環含有構造単位、ヒドロキシル基含有構造単位/アセチル基含有構造単位、およびヒドロキシル基含有構造単位/アセチル基含有構造単位/アセタール基含有構造単位からなる群から選択される1種であることが好ましい。
重合体(A)の製造方法は、特に限定されない。例えば、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法、沈殿重合等が挙げられる。なかでも、溶液重合法または沈殿重合法が好ましい。重合反応系は、例えば、イオン重合、フリーラジカル重合、リビングラジカル重合などの付加重合等が挙げられる。なかでも、フリーラジカル重合またはリビングラジカル重合が好ましい。また、ラジカル重合開始剤は、例えば、過酸化物、アゾ系開始剤等が挙げられる。
重合開始剤としては、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシネオデカネート、t-ブチルパーオキシピバレート、ジラウロイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、1,1-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’-アゾビス-4-メトキシ-2,4-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル等のアゾ系重合開始剤等が挙げられる。
これらは1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのラジカル重合開始剤と適当な還元剤とを組み合わせてレドックス系開始剤として用いてもよい。
これらの重合開始剤は、使用する全モノマーの総質量を基準として(すなわち、全モノマーの総質量を100質量%とした場合に)、1質量%以下の配合量で用いることが一般的である。重合開始剤の配合量は、重合を行う温度、および重合開始剤の半減期を考慮して適宜選ぶことができる。
重合体(A)の製造工程においては、本発明の目的を損わない範囲で、連鎖移動剤等を用いて、製造する重合体の分子量の制御を行うことができる。連鎖移動剤は、例えば、オクチルメルカプタン、ノニルメルカプタン、デシルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール等のアルキルメルカプタン類、チオグリコール酸オクチル、チオグリコール酸ノニル、チオグリコール酸-2-エチルヘキシル等のチオグリコール酸エステル類、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、1-メチル-4-イソプロピリデン-1-シクロヘキセン、α-ピネン、β-ピネン等が挙げられる。
取扱性および安定性の点から、特に、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール、チオグリコール酸エステル類、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、1-メチル-4-イソプロピリデン-1-シクロヘキセン、α-ピネン、およびβ-ピネン等が好ましい。上記化合物を使用した場合、得られる重合体が低臭気となる点でも好ましい。一実施形態において、連鎖移動剤として、上記化合物の1種を単独で、または2種以上を併用することが好ましい。
連鎖移動剤は、要求される分子量に応じて適宜添加することができる。一般的には、使用する全モノマーの総質量を基準として(すなわち、全モノマーの総質量を100質量%とした場合に)、0.001質量%~4質量%の範囲で用いることが好ましい。一実施形態において、上記連鎖移動剤の配合量は、0.01~4質量%が好ましく、0.1~2質量%がより好ましい。連鎖移動剤を上記範囲とすることで、本発明の実施形態において分散剤として使用する重合体(A)の分子量を好適な範囲に容易に調整することができる。
また、その他の分子量制御方法として、重合方法を変える方法、重合開始剤の量を調整する方法、および重合温度を変更する方法等が挙げられる。これらの分子量制御方法は、一種の方法だけを単独で用いてもよいし、二種以上の方法を併用してもよい。
導電材分散体において、重合体(A)は分散剤として機能する。このような観点から、導電材分散体中の重合体(A)の含有量は、導電材の比表面積と濡れやすさに応じて決めるのが好ましい。一実施形態において、導電材の質量を基準として(すなわち、導電材の質量を100質量%とした場合に)、重合体(A)の含有量は、2質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。一方、上記含有量は、250質量%以下であることが好ましく、150質量%以下であることがより好ましく、100質量%以下であることがさらに好ましい。
<重合体(E)>
重合体(E)とは、重合体(A)中に含まれ得る重合体(A)を構成するモノマー同士が重合した分子量が1,000未満の重合体成分である。泡立ちを抑制し、かつ破泡および消泡を容易にする観点から、重合体(E)の含有率は、重合体(A)の全質量を基準として(すなわち、重合体(A)の質量を100質量%とした場合に)、5質量%以下であることが好ましく、4質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。重合体(A)における重合体(E)の含有量を上記範囲内に調整した場合、重合体(E)が電解液に溶出し、電解液の粘度を増加させ、電解液溶媒の誘電率を低下させる不具合を抑制できる。
重合体(E)の含有率は、一般的なゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定できる。より具体的には、例えば、実施例に記載の方法に従って測定できる。
重合体(A)において、重合体(A)の全質量を基準として重合体(E)の含有量を5質量%以下に調整する方法としては、製造時の条件を適正化させる方法、および重合体を精製する方法がある。例えば、(1)重合温度や重合時間を適正化して、単量体の重合反応率を向上させる方法、(2)開始剤や連鎖移動剤の量を適正化して、低分子量成分の副生成量を低減させる方法、(3)貧溶媒に重合体(A)および重合体(E)を含む溶液を滴下して沈殿させ、低分子量成分である重合体(E)を除去する再沈殿法、(4)製造と精製を同時に行える沈殿重合法等が挙げられる。
重合体の組成によって異なるが、重合体(E)の量を制御しやすいという観点から、再沈殿法又は沈殿重合法が好ましい。さらに、簡便さの観点から、沈殿重合法が最も好ましい。
<成分(B)>
成分(B)とは、重合体(A)の原料に由来する重合体(A)以外の成分である。成分(B)は、重合体(A)製造時の未反応の原料および上記重合反応または上記変性反応で生じる副生成物を指す。
未反応の原料としては、上記重合体(A)で例示した、カルボキシル基を含むモノマー、変性によりカルボキシル基に変換可能なモノマー(例えばアクリルアミド等)、ヒドロキシル基を含むモノマー、変性によりヒドロキシル基に変換可能なモノマー(例えば酢酸ビニル等)、アルデヒド、複素環を含むモノマー、重合開始剤、および連鎖移動剤等が挙げられる。
上記重合反応または変性反応で生じる副生成物としては、酢酸、酢酸ナトリウム、重合開始剤が重合に寄与せずに失活して生じた化合物、連鎖移動剤が重合に寄与せずに失活して生じた化合物等が挙げられる。
成分(B)の含有率は、泡立ちおよび電解液への悪影響を抑制する観点から、分散剤の質量を基準として(すなわち、分散剤の質量を100質量%とした場合に)、2質量%以下である。好ましくは1.9質量%以下であり、より好ましくは1.8質量%以下であり、さらに好ましくは1.5質量%以下であり、特に好ましくは1質量%以下であり、中でも特に好ましくは0.5質量%以下である。また、成分(B)の含有率は、導電材の濡れ性を向上させる観点から、0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることがより好ましい。
また、成分(B)の含有量は、導電材分散体の質量を基準として(すなわち、導電材分散体の質量を100質量%とした場合に)、1質量%以下であることが好ましく、0.9質量%以下であることがより好ましく、0.7質量%以下であることがさらに好ましい。
成分(B)は、いずれもイオンまたは分極が強い高極性の構造を有していることから、上記範囲内であれば、疎水性の導電材と水との親和性を向上させるが、上記範囲を上回ると、水を含有する媒体中では泡立ちの原因となり得る。また、分散剤中の含有率および導電材分散体の含有率が上記範囲外となった場合、成分(B)が電極膜に残留しやすくなり、電解液中に溶出して電解液の伝導度を低下させ得る。
重合開始剤および重合開始剤が重合せずに失活して生じた化合物の含有率は、分散剤の質量を基準として(すなわち、分散剤の質量を100質量%とした場合に)、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。また、連鎖移動剤および連鎖移動剤が重合せずに失活して生じた化合物の含有率は、分散剤の質量を基準として(すなわち、分散剤の質量を100質量%とした場合に)、0.5質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以下であることがより好ましい。
成分(B)の含有率は、分散剤の揮発成分量と、イオンクロマトグラフィーによるイオン性の不揮発性成分量との和から求めることができる。また、成分(B)の構造は、ガスクロマトグラフィー分析により決定することができる。
<炭素系導電材(C)>
炭素系導電材(C)とは、炭素を主成分とする導電性の材料を指す。炭素系導電材としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ(以下「CNT」と略記することがある)、カーボンファイバー、グラファイト等の炭素材料が挙げられる。炭素系導電材のなかでも、導電性と密度の観点から、カーボンブラックおよび/またはカーボンナノチューブが好ましい。また、導電材分散体の製造工程または使用中に泡が発生した場合、カーボンナノチューブは、凝集力が極めて強く、アスペクト比が高いことから、泡の膜を突き破って破泡させる効果(以下「破泡効果」という)があるため、特に好ましい。
炭素系導電材は1種類を用いてもよいし、効率的な導電ネットワーク形成の観点から、同種の炭素系導電材で物性の異なるものを2種類以上組み合わせて用いてもよい。同種の炭素系導電材で物性の異なるものとしては、例えば、平均外径または平均繊維径が異なる2種類のカーボンナノチューブ、または、比表面積の異なる2種類のカーボンブラック等が挙げられる。
炭素系導電材のBET法で算出した比表面積は、100m2/g以上であることが好ましく、150m2/g以上であることがより好ましい。一方、上記比表面積は、1200m2/g以下であることが好ましく、850m2/g以下であることがより好ましい。炭素系導電材が上記比表面積であると、重合体が形成する気泡膜に対して、破泡効果が高くなる。
カーボンナノチューブは、平面的なグラファイトを円筒状に巻いた形状を有しており、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブを含み、これらが混在してもよい。また、直径の異なるカーボンナノチューブが混在してもよい。特に、直径が異なるカーボンナノチューブが混在すると、破泡効果が高くなり、好ましい。単層カーボンナノチューブは一層のグラファイトが巻かれた構造を有する。多層カーボンナノチューブは、二以上の層のグラファイトが巻かれた構造を有する。また、カーボンナノチューブの側壁はグラファイト構造でなくともよい。また、例えば、アモルファス構造を有する側壁を備えるカーボンナノチューブも本明細書ではカーボンナノチューブの一態様として取り扱う。
カーボンナノチューブの形状は限定されない。かかる形状としては、針状、円筒チューブ状、魚骨状(フィッシュボーン又はカップ積層型)、トランプ状(プレートレット)およびコイル状を含む様々な形状が挙げられる。本実施形態においてカーボンナノチューブの形状は、なかでも、針状、又は、円筒チューブ状であることが好ましい。カーボンナノチューブは、単独の形状、または2種以上の形状の組合せであってもよい。
カーボンナノチューブの形態は、例えば、グラファイトウィスカー、フィラメンタスカーボン、グラファイトファイバー、極細炭素チューブ、カーボンチューブ、カーボンフィブリル、カーボンマイクロチューブおよびカーボンナノファイバー等が挙げられる。カーボンナノチューブは、これらの単独の形態又は二種以上を組み合わせられた形態を有していてもよい。
カーボンナノチューブを用いる場合、カーボンナノチューブの平均外径は、1nm以上であることが好ましい。また、30nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましく、12nm以下であることがさらに好ましく、7nm以下であることが特に好ましい。平均外径を上記範囲とすることで、効率的な導電ネットワークを形成できる。
なお、平均外径は以下のようにして算出できる。まず透過型電子顕微鏡によって、カーボンナノチューブを観測するとともに撮像する。次に観測写真において、任意の300個のカーボンナノチューブを選び、それぞれの外径を計測する。次に外径の数平均としてカーボンナノチューブの平均外径(nm)を算出する。
カーボンナノチューブの平均繊維長を平均外径で除した値をアスペクト比という。カーボンナノチューブのアスペクト比は、上記破泡効果の観点から、20以上であることが好ましく、50以上であることがより好ましく、5000以下であることが好ましく、200以下であることがより好ましい。
なお、アスペクト比の算出に用いる平均繊維長は以下のようにして算出できる。まず、走査型電子顕微鏡によって、カーボンナノチューブを観測するとともに撮像する。次に、観測写真において、任意の300個のカーボンナノチューブを選び、それぞれの繊維長を計測する。次に、繊維長の数平均としてカーボンナノチューブの平均繊維長を算出する。
カーボンナノチューブの平均繊維長は、効率的な導電ネットワークを形成し、かつ、前記破泡効果を発揮させるために、0.3μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、5μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。
カーボンブラックは、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、中空カーボンブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。また、カーボンブラックは、中性、酸性、塩基性のいずれでもよく、酸化処理されたカーボンブラック、又は黒鉛化処理されたカーボンブラックを使用してもよい。カーボンブラックを用いる場合は、アスペクト比が高く破泡効果が高いアセチレンブラックがより好ましい。
炭素系導電材の含有量は、導電材分散体の不揮発分を基準として(すなわち、導電材分散体の不揮発分を100質量%とした場合に)、0.1~25質量%が好ましく、0.3~10質量%がより好ましい。上記範囲にすることで、沈降やゲル化を起こすことなく、導電材を良好に、かつ安定に存在させることができる。また、導電材の含有量は、導電材の比表面積、分散媒への親和性等によって、適当な流動性または粘度の導電材分散体が得られるように、適宜調整することが好ましい。
<媒体(D)>
媒体(D)は、少なくとも水を含有し、本発明の効果を損なわない範囲で、任意で水と親和性のある他の媒体を含んでもよい。一実施形態において、媒体(D)は水のみでもよい。水と親和性のある他の媒体としては、下記の消泡剤として列挙した液状媒体を用いることができる。
<消泡剤>
一実施形態において、導電材分散体は、さらに消泡剤を少量含んでもよい。消泡剤の添加量は、導電材分散体の質量を基準として(すなわち、導電材分散体の質量を100質量%とした場合に)、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。導電材分散体は、消泡剤を含まないことが最も好ましい。
消泡剤は、市販の消泡剤、湿潤剤、水溶性有機溶剤等、消泡効果を有するものであれば任意に用いることができ、1種類でも、複数を組み合わせて用いてもよい。例えば、以下が挙げられる。
アルコール系;エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、オクチルアルコール、ヘキサデシルアルコール、アセチレンアルコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アセチレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール、プロピレングリコール、その他グリコール類等。
脂肪酸エステル系;ジエチレングリコールラウレート、グリセリンモノリシノレート、アルケニルコハク酸誘導体、ソルビトールモノラウレート、ソルビトールトリオレエート、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノラウレート、天然ワックス等。
アミド系;ポリオキシアルキレンアミド、アクリレートポリアミン等。
リン酸エステル系;リン酸トリブチル、ナトリウムオクチルホスフェート等。
金属セッケン系;アルミニウムステアレート、カルシウムオレエート等、
油脂系;動植物油、胡麻油、ひまし油等。
鉱油系:灯油、パラフィン等。
シリコーン系:ジメチルシリコーン油、シリコーンペースト、シリコーンエマルジョン、有機変性ポリシロキサン、フルオロシリコーン油等。アルコール系以外の水溶性有機溶剤:N-メチル-2-ピロリドン等。
なかでも、電解液の拡散抵抗および伝導度への影響を抑える観点から、アルコール系またはN-メチル-2-ピロリドンが好ましい。消泡効果の観点からは、アセチレングリコール系が好ましい。上記のような消泡剤を用いると、導電材分散体の表面張力を下げることができる。導電材分散体の表面張力は、分散機のエネルギー効率および塗工性の観点から、73mN/m以下が好ましく、70mN/m以下がより好ましく、65mN/m以下がさらに好ましい。消泡剤は、仕込みを含む分散工程の開始から終了までの任意のタイミングで添加することができるが、仕込み性や分散効率の観点から、被分散物と分散媒を混合する前に添加するのが好ましい。また、一度に添加しても、複数回にわけて添加してもよい。
<導電材分散体>
本発明の一実施形態である導電材分散体は、重合体(A)、成分(B)、炭素系導電材(C)、および媒体(D)を含有する。導電材分散体は、二次電池用電極に好適に用いることができる。しかし、二次電池の用途に限らず、二次電池以外の蓄電デバイス、例えば、電気二重層キャパシタ用電極、非水電解質キャパシタ用電極等、または、プラスチックやゴム製品のICトレーや電子部品材料の成形体等の帯電防止材、電子部品、透明電極(ITO膜)代替、電磁波シールド等にも用いることができる。
本発明の一実施形態である導電材分散体は、無機塩基、無機金属塩、または有機塩基等の添加剤を含有できる。上記重合体(A)の強い分極と前記添加剤が相互作用することから、被分散物の経時分散安定性がより向上する。無機塩基および無機金属塩としては、アルカリ金属、およびアルカリ土類金属の少なくとも一方を有する化合物が好ましい。
無機塩基および無機金属塩としては、アルカリ金属、およびアルカリ土類金属の、塩化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、タングステン酸塩、バナジウム酸塩、モリブデン酸塩、ニオブ酸塩、ならびにホウ酸塩等が挙げられる。これらのなかでも容易にカチオンを供給できる面でアルカリ金属、アルカリ土類金属の塩化物、水酸化物、炭酸塩、アルコキシドが好ましい。
アルカリ金属の水酸化物は、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
アルカリ土類金属の水酸化物は、例えば、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
アルカリ金属の炭酸塩は、例えば、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。
アルカリ土類金属の炭酸塩は、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムが挙げられる。
アルカリ金属のアルコキシドは、例えば、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウム-n-ブトキシド、リチウム-t-ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウム-n-ブトキシド、カリウム-t-ブトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウム-n-ブトキシド、ナトリウム-t-ブトキシド等が挙げられる。アルコキシドの炭素数は5以上であってもよい。
アルカリ土類金属のアルコキシドは、例えば、マグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシド、マグネシウム-n-ブトキシド、マグネシウム-t-ブトキシド等が挙げられる。アルコキシドの炭素数は5以上であってもよい。
これらのなかでも水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、リチウム-t-ブトキシド、カリウム-t-ブトキシド、ナトリウム-t-ブトキシド、がより好ましい。なお、本発明の無機塩基および無機金属塩が有する金属は、遷移金属であってもよい。
有機塩基は、例えば、炭素数1~40であり、置換されていてもよいアルキル基を有する1級、2級、3級アルキルアミン、またはその塩基性窒素原子を含有する化合物が挙げられる。
炭素数1~40であり、置換されていてもよいアルキル基を有する1級アルキルアミンは、例えば、プロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、オクチルアミン、2ーエチルヘキシルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、2-アミノエタノール、3-アミノプロパノール、3-エトキシプロピルアミン、3-ラウリルオキシプロピルアミン等が挙げられる。
炭素数1~40であり、置換されていてもよいアルキル基を有する2級アルキルアミンは、例えば、ジブチルアミン、ジイソブチルアミン、N-メチルヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジステアリルアミン、2-メチルアミノエタノール等が挙げられる。
炭素数1~40であり、置換されていてもよいアルキル基を有する3級アルキルアミンは、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルブチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、ジメチルオクチルアミン、トリ-n-ブチルアミン、ジメチルベンジルアミン、トリオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルミリスチルアミン、ジメチルパルミチルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジラウリルモノメチルアミン、トリエタノールアミン、2-(ジメチルアミノ)エタノール等が挙げられる。
これらのなかでも、炭素数1~30であり、置換されていてもよいアルキル基を有する1級、2級または3級アルキルアミンが好ましく、1~20の炭素数を有し、置換されていてもよいアルキル基を有する1級、2級または3級アルキルアミンがより好ましい。
置換されていてもよいアルキル基とは、水素原子が置換されていてもよいことを意味し、置換基としては、ヒドロキシ基等が挙げられる。
その他の塩基性窒素原子を含有する化合物は、例えば、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5(DBN)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、イミダゾール、1-メチルイミダゾール等が挙げられる。
無機塩基、無機金属塩、および有機塩基の配合量の合計は、分散剤の質量を基準として(すなわち、分散剤の質量を100質量%とした場合に)、1質量%以上であることが好ましく、100質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。適量配合すると炭素系導電材の濡れ性がより向上する。
導電材分散体のpHは、3以上7以下であることが好ましく、6.5以下であることがより好ましく、6以下であることがさらに好ましい。pHは、一般的なpHメーターにより測定することができる。
複素弾性率は、導電材分散体の硬さを示す指標である。導電材分散体の動的粘弾性測定による複素弾性率は、25℃および1Hzにおいて5Pa以上であることが好ましく、10Pa以上であることがより好ましい、また、300Pa未満であることが好ましく、200Pa以下であることがより好ましく、100Pa以下であることがより好ましく、60Pa以下であることがさらに好ましい。
位相角は、導電材分散体に与える歪みに対する位相ズレを数値化したものである。導電材分散体の動的粘弾性測定による位相角は、25℃および1Hzにおいて3°以上であることが好ましく、5°以上であることがより好ましく、10°以上であることがさらに好ましい。また、60°未満であることが好ましく、50°以下であることが好ましい。
導電材分散体の複素弾性率または位相角を上記範囲とすることで、カーボンナノチューブの繊維長、又はカーボンブラックのストラクチャー長が大きい導電材を、長さを一定以上に保ったまま均一かつ良好に分散させた導電材分散体を容易に得ることができる。
本実施形態の導電材分散体のレーザー回折法によって測定した累積10%における粒径D10は、150nm以上であることが好ましく、250nm以上であることがより好ましく、300nm以上であることが特に好ましい。レーザー回折法によって測定した累積10%における粒径D10が上記範囲であると、導電材を微細に破断させずに分散することができ、電極中で効率的な導電ネットワークを有利に形成することができる。また、所望の複素弾性率または位相角にコントロールする手段としても有効である。ただし、D10の値だけでは、導電材の長い構造を保って良好に解凝集させた状態と、大きな凝集粒子を含み分散不良な状態とを区別できないため、電極膜として良好な特性を得るためには、複素弾性率または位相角と組み合わせて判断することが好ましい。
また、本実施形態の導電材分散体のレーザー回折法によって測定した累積10%における粒径D10は、貯蔵安定性の観点から、5000nm以下であることが好ましく、4000nmであることがより好ましく、3500nm以下であることがさらに好ましい。
レーザー回折法によって測定した粒径は、分散体中の導電材の長さ(カーボンナノチューブの繊維長、またはカーボンブラックのストラクチャー長)と相関があり、導電材分散体の粒径D10を上記範囲とすることで、微細に破断した導電材を少なくし、導電材の長さを一定以上に保持したまま良好に分散した導電材分散体を有利に得ることができる。上記範囲を上回ると凝集した状態の導電材が多く存在し、また、上記範囲を下回ると微細に切断された導電材が多数生じることから、効率的な導電ネットワークの形成が難しくなる。レーザー回折法による粒度分布は、導電材の状態の推測に有用であるが、繊維状やストラクチャー状の非球形材料を、球形と仮定して算出しているため、実際の状態と乖離がある場合がある。そのため、導電材同士、導電材と重合体、重合体同士、分散媒と導電材または重合体との相互作用の影響を受ける複素弾性率または位相角と組み合わせて導電材の状態を判断することが、課題解決に特に有効である。
なお、粒径D10は、一般的なレーザー回折法の測定装置を用いて求めることができるが、より具体的には、実施例に記載の方法により測定することができる。本明細書では、累積10%における粒径D10を「D10」と表記する場合がある。また、累積50%における粒径D50を「D50」と表記する場合がある。
また、本発明の一実施形態として、導電材分散体に、カルボキシメチルセルロースまたはその塩をさらに含んでもよい。カルボキシメチルセルロースまたはその塩(以下、CMCと表記する場合がある)は、セルロースを原料として得られるアニオン系水溶性高分子である。本発明の一実施形態において、導電材分散体を製造する際にCMCをさらに含む場合、CMCの重量平均分子量は0.5万以上が好ましい。また、10万以下が好ましく、7万以下がさらに好ましく、6万以下がより好ましく、3万以下が特に好ましい。重量平均分子量を上記範囲とすることで、CMCと重合体(A)との分子間力、CMCと導電材との分子間力、および、CMCと水との分子間力のバランスがよくなり、良好に分散させ、状態を維持できる。また、CMCのエーテル化度は0.5以上か好ましく、0.6以上がより好ましい。また、0.9以下が好ましく、0.8以下がより好ましい。エーテル化度を上記範囲とすることで、水および導電材に対して適度な親和性を持たせることができる。さらに、二次電池に用いた場合には、電池内で分散剤が電解液に溶解して電解液の粘度を増大させるなどの不具合を防ぐことができる。
CMCの製造方法は特に限定はされず、一般的なCMCまたはその塩の製造方法により製造することができる。すなわち、セルロースにアルカリを反応させるマーセル化反応を行った後、得られたアルカリセルロースにエーテル化剤を添加してエーテル化反応を行うことで製造される。例えば、水と有機溶媒を含む混合溶媒を用いてマーセル化反応を行った後、モノクロロ酢酸を加えてエーテル化反応を行い、その後、過剰のアルカリを酸で中和した後、混合溶媒の除去、洗浄および乾燥を経て、粉砕する事により製造することができる。マーセル化反応の反応時間を長くすることでセルロース原料を低分子量化することができる。
CMCの重量平均分子量は、プルラン換算の重量平均分子量で、10,000以上が好ましく、15,000以上がより好ましい。また、100,000以下が好ましく、60,000以下がより好ましく、30,000以下がさらに好ましい。適度な重量平均分子量を有するとCNTへの吸着性が向上し、分散体の安定性がより向上する。また、上記範囲を下回ると吸湿性が高くなり、膜強度が低下しやすくなる。上記範囲を上回ると水溶液中での水素結合により粘度が高くなり、CNTの仕込み性および機貯蔵安定性が低下する。また、上記範囲を上回ると、ノズル式の高圧ホモジナイザーなどの狭い流路を被分散液が通過するタイプの分散機を用いた場合、狭い流路への移送が困難になり、分散効率が低下する。
市販のCMCは上記好ましい範囲よりも高分子量のものが多いため、酸性水溶液中で加水分解反応することにより低分子量化して用いてもよい。加水分解させるCMCは、重量平均分子量が6万より大きく50万以下が好ましい。50万より大きい場合、重量平均分子量が50万を超えると加水分解反応に時間がかかり、CMCの酸化分解物が多量に発生するため、精製が困難となる。酸性水溶液中での加水分解反応は、加熱、加圧して行うと短時間で反応が進む。反応時間、温度、pHを調整することで、CMCの分子量をコントロールすることができる。また、冷却してアルカリでpH7以上に中和することで反応を停止することができる。酸および塩基は、一般に入手しやすいものを用いることができる。
CMCの含有量は、CNTの質量を基準として10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。また、100質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。上記範囲にすることで、二次電池用電極に用いた際の導電性を害することなくCNTを良好に、かつ安定に存在させることができる。また、塗加工性および貯蔵安定性の観点から、分散で用いたCMCよりも高分子量のCMCを加えてもよい。高分子量のCMCを加える場合、CNT分散液を製造した後、または分散工程の終盤で加えるのが好ましい。分散初期から加えると分散媒の粘度が高くなりすぎて撹拌効率が低下する、あるいは、CNTに対する吸着平衡が変化し分散性が低下するといった不具合が起こり得る。
<分散方法>
本発明の導電材分散体は、例えば、分散剤、炭素系導電材、および媒体を含有する組成物(原料)を、分散装置を使用して、分散処理を行い微細に分散して製造することが好ましい。なお、分散処理は、使用する材料の添加タイミングを任意に調整し、2回以上の多段階処理をしてもよい。
分散装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機を使用することができる。例えば、ニーダー、2本ロールミル、3本ロールミル、プラネタリーミキサー、ボールミル、横型サンドミル、縦型サンドミル、アニュラー型ビーズミル、アトライター、ハイシアミキサー、ディスパー、または高圧ホモジナイザー等が挙げられる。高圧ホモジナイザーを使用する際の圧力は60~150MPaが好ましく、60~120MPaであることがより好ましい。
分散装置を用いた分散方式には、バッチ式分散、パス式分散、循環分散等があるが、いずれの方式でもよく、2つ以上の方式を組み合わせてもよい。
バッチ式分散とは、配管などを用いずに、分散装置本体のみで分散を行う方法である。取扱いが簡易であるため、少量製造する場合に好ましい。パス式分散とは、分散装置本体に、配管を介して被分散液を供給するタンクと、被分散液を受けるタンクとを備え、分散装置本体を通過(パス)させる分散方式である。また、循環式分散とは、分散装置本体を通過した被分散液を、被分散液を供給するタンクに戻して、循環させながら分散を行う方式である。
いずれも処理時間を長くするほど分散が進むため、目的の分散状態になるまでパス、あるいは循環を繰り返せばよく、タンクの大きさや処理時間を変更すれば処理量を増やすことができる。パス式分散は、循環式分散と比較して分散状態を均一化させやすい点で好ましい。循環式分散は、パス式分散と比較して作業や製造設備が簡易である点で好ましい。分散工程は、凝集粒子の解砕、導電材の解れ、濡れ、安定化等が順次、あるいは同時に進行する。進行の仕方によって仕上がりの分散状態が異なることから、各分散工程における分散状態は各種評価方法を用いて管理することが好ましい。例えば、後述する実施例に記載の方法で管理することができる。
また、導電材組成物にせん断応力をかけて、グラインドゲージによる判定(JIS K5600-2-5に準ず)で分散粒度が200μm以下となるまで予備分散を行ってから、引き続き本分散を行うことによって導電材分散体を製造する方法が好ましい。上記本分散は、高圧ホモジナイザー等を用いて60~150MPaの圧力で、上記D50が100μm以下となるまで実施することが好ましい。い。この際、塩基を添加して分散媒のpHを7.0以上13.5以下に調整すると、導電材の濡れ性が向上し、また、分散剤の作用を高めることができる。
せん断応力をかける分散方法としては、3本ロールミル、プラネタリーミキサー、ハイシアミキサー、ディスパー等の分散装置を用いる方法が挙げられる。なかでも、高圧ホモジナイザーに適した粘度と同等の粘度で分散できるハイシアミキサーの使用が好ましい。せん断応力による予備分散を行った後に、高圧ホモジナイザーによる本分散を行うことにより、導電材の長さを保ったまま良好に分散することができ、電極において発達した導電パスを形成することができる。上記方法は、導電材が多層カーボンナノチューブまたはカーボンブラックの場合に特に適している。一方、メディアの衝突力により分散させるタイプのビーズミル等の場合、導電材が微細に破断されやすいため、電極において導電パスの形成に不利になる場合がある。また、導電材が単層カーボンナノチューブの場合には、プラネタリーミキサーなどで高濃度、高粘度の状態で混練してから希釈し粘度を調整して、せん断応力により本分散することで、さらに長い繊維長のまま均一化することができ、特に負極に用いる場合には、充放電に伴う電極の膨張収縮の影響を緩和できるため、好ましい。
本発明の一実施形態である導電材分散体は、さらに結着剤を含んでもよい。導電材分散体を二次電池に用いる場合には、結着剤は、通常、二次電池の結着剤として用いられるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、結着剤は、炭素系導電材、その他の粒子等の物質間を結合することができる樹脂であり、本明細書において記載する重合体(A)および重合体(E)とは異なる。
二次電池に用いる結着剤は、例えば、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、スチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルピロリドン等を構成単位として含む重合体または共重合体;
ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂;セルロース樹脂(例えば、カルボキシメチルセルロース;
スチレン-ブタジエンゴム、フッ素ゴムのようなエラストマー;
ポリアニリン、ポリアセチレンのような導電性樹脂等が挙げられる。
また、これらの樹脂の変性体や混合物、および共重合体でもよい。これらのなかでも、正極の結着剤として使用する場合は、耐性面から分子内にフッ素原子を有する重合体または共重合体、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テトラフルオロエチレン等が好ましい。また、負極の結着剤として使用する場合は、密着性が良好なカルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸等が好ましい。カルボキシメチルセルロースを結着剤として用いる場合には、重量平均分子量が15万以上であることが好ましく、上記の導電材分散体を製造する際に含むCMC(すなわち、分散剤としての機能を重視して用いるCMC)とは、好ましい重量平均分子量の範囲が異なる。
二次電池に用いる結着剤の含有量は、導電材分散体の不揮発分の質量を基準として(すなわち、導電材分散体の不揮発分の質量を100質量%として)、0.5~30質量%が好ましく、0.5~25質量%がより好ましい。
導電材分散体は、正極活物質または負極活物質を含んでもよい。本明細書では、正極活物質および負極活物質を、単に「活物質」という場合がある。活物質とは、電池反応の基となる材料のことである。活物質は、起電力から、正極活物質と負極活物質に分けられる。本明細書では、正極活物質または負極活物質を含む導電材分散体を、それぞれ「正極合材組成物」、「負極合材組成物」、または単に「合材組成物」という場合がある。
合材組成物は、均一性および加工性を向上させるためにスラリー状であることが好ましい。合材組成物は、活物質を含有する導電材分散体か、または結着剤および活物質を含有する導電材分散体を少なくとも含有する。本明細書において、合材組成物を「合材スラリー」という場合がある。
<正極活物質>
正極活物質は、特に限定されないが、例えば、二次電池用途は、リチウムイオンを可逆的にドーピングまたはインターカレーション可能な金属酸化物および金属硫化物等の金属化合物を使用することができる。例えば、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMn24またはLixMnO2)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNiO2)、リチウムコバルト複合酸化物(LixCoO2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLixNi1-yCoy2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixMnyCo1-y2)、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixNiyCozMn1-y-z2)、スピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物(例えばLixMn2-yNiy4)等のリチウムと遷移金属との複合酸化物粉末、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物粉末(例えばLixFePO4、LixFe1-yMnyPO4、LixCoPO4など)、酸化マンガン、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、バナジウム酸化物(例えばV25、V613)、酸化チタン等の遷移金属酸化物粉末、硫酸鉄(Fe2(SO43)、TiS2、およびFeS等の遷移金属硫化物粉末等が挙げられる。ただし、x、y、zは、数であり、0<x<1、0<y<1、0<z<1、0<y+z<1である。
これら正極活物質は、1種または複数を組み合わせて使用することもできる。これらのなかでも、耐水性の観点から、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物粉末が特に好ましい。
<負極活物質>
負極活物質は、特に限定されないが、例えば、リチウムイオンを可逆的にドーピングまたはインターカレーション可能な金属Li、またはその合金、スズ合金、シリコン合金負極、LiXTiO2、LiXFe23、LiXFe34、LiXWO2等の金属酸化物系、ポリアセチレン、ポリ-p-フェニレン等の導電性高分子、高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛、あるいは天然黒鉛等の炭素質粉末、樹脂焼成炭素材料を用いることができる。ただし、xは数であり、0<x<1である。これら負極活物質は、1種または複数を組み合わせて使用することもできる。
合材組成物中の炭素系導電材の含有量は、活物質の質量を基準として(すなわち、活物質の質量を100質量%として)、0.01質量%以上であることが好ましく、0.02質量%以上であることがより好ましく、0.03質量%以上であることがさらに好ましい。また、10質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。
合材組成物中の重合体(A)の含有量は、活物質の質量を基準として(すなわち、活物質の質量を100質量%として)、0.01質量%以上であることが好ましく、0.02質量%以上であることがより好ましい。また、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
合材組成物が結着剤を含有する場合、合材組成物中の結着剤の含有量は、活物質の質量を基準として(すなわち、活物質の質量を100質量%として)、0.5質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。また、30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。
合材組成物中の固形分量は、合材組成物の質量を基準として(すなわち、合材組成物の質量を100質量%として)、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。また、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。
合材組成物は、従来公知の様々な方法で作製することができる。例えば、分散剤と、炭素系導電材と、媒体と、結着剤と、活物質とを混合、分散させて作製する方法;分散剤と、炭素系導電材と、媒体とを分散させてから活物質を添加した後、結着剤を添加して作製する方法;分散剤と、炭素系導電材と、媒体とを分散させてから結着剤を添加した後、活物質を添加して作製する方法等が挙げられる。
合材組成物を作製する方法としては、分散剤と、炭素系導電材と、媒体と、成分とを分散させてから結着剤を添加した後、活物質をさらに加えて分散させる処理を行う方法が好ましい。分散に使用される分散装置は特に限定されない。導電材分散体の説明において挙げた分散手段を用いて、合材組成物を得ることができる。したがって、合材組成物を作製する方法としては、導電材分散体に結着剤を添加することなく、活物質を加えて分散させる処理を行ってもよい。
<電極膜>
本発明の一実施形態である導電材分散体を用いて形成した塗膜を二次電池に用いる場合、上記塗膜を本明細書では「電極膜」という。したがって、本発明の一実施形態は、上記実施形態の導電材分散体を用いてなる電極膜に関する。電極膜は、さらに集電体を含んでもよい。電極膜は、例えば、集電体上に導電材分散体を塗工し、乾燥させることで得ることができ、集電体と膜とを含む。正極合材組成物を用いて形成した電極膜を、正極として使用することができる。負極合材組成物を用いて形成した電極膜を、負極として使用することができる。本明細書において、活物質を含む導電材分散体を用いて形成した膜を「電極合材層」という場合がある。
上記電極膜の形成に用いられる集電体の材質および形状は特に限定されず、各種二次電池にあったものを適宜選択することができる。集電体の材質としては、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、またはステンレス等の導電性金属または合金が挙げられる。また、形状としては、一般的には平面状の箔が用いられるが、表面を粗面化した集電体、穴あき箔状の集電体、メッシュ状の集電体も使用できる。集電体の厚みは、0.5~30μm程度が好ましい。
集電体上に導電材分散体を塗工する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。具体的には、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、ナイフコーティング法、スプレーコティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法または静電塗装法等を挙げることができる。
乾燥方法としては、放置乾燥、または、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機等を用いる乾燥を挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではない。
塗工後に、平版プレス、カレンダーロール等により圧延処理を行ってもよい。形成された膜の厚みは、例えば、1μm以上500μm以下であり、好ましくは10μm以上300μm以下である。
導電材分散体を用いて形成された電極膜は、電極合材層と集電体との密着性向上、または、電極膜の導電性を向上させるために、電極合材層の下地層として用いることも可能である。
<二次電池>
本発明の一実施形態である二次電池は、正極と、負極と、電解質とを含み、正極および負極からなる群から選択される少なくとも1つが、上記電極膜を含む。
電解質としては、イオンが移動可能な従来公知の様々なものを使用することができる。例えば、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiCF3SO3、Li(CF3SO22N、LiC49SO3、Li(CF3SO23C、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF2、LiSCN、又はLiBPh4(ただし、Phはフェニル基である)等リチウム塩を含むものが挙げられるが、これらに限定されない。電解質は非水系の溶媒に溶解して、電解液として使用することが好ましい。
非水系の溶媒としては、特に限定はされないが、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、およびジエチルカーボネート等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、およびγ-オクタノイックラクトン等のラクトン類;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、1,2-メトキシエタン、1,2-エトキシエタン、および1,2-ジブトキシエタン等のグライム類;メチルフォルメート、メチルアセテート、およびメチルプロピオネート等のエステル類;ジメチルスルホキシド、およびスルホラン等のスルホキシド類;並びに、アセトニトリル等のニトリル類等が挙げられる。これらの溶媒は、それぞれ単独で使用してもよいが、2種以上を混合して使用してもよい。
二次電池は、セパレーターを含むことが好ましい。セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリアミド不織布およびこれらに親水性処理を施した不織布が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
上記実施形態の二次電池の構造は特に限定されないが、通常、正極および負極と、必要に応じて設けられるセパレーターとを備え、ペーパー型、円筒型、ボタン型、積層型等、使用する目的に応じた種々の形状とすることができる。
以下に実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断らない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表す。
<分散剤の合成>
(実施例1-1)
(分散剤1の合成)
温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、イオン交換水137部、アクリル酸100部、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール9.3部、 および重合開始剤としてV-50(富士フィルム和光純薬社製)0.5部を加え、70℃に加温し、温度70℃下にて300分間(5時間)攪拌した。転化率が90%以上になったところで冷却して反応を終了した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応の原料を低減して、分散剤の水溶液を得た。4つ口セパラブルフラスコにメチルエチルケトン250部、メタノール250部を仕込んでおき、ディスパーで1,000回転させたところに、得られた分散剤水溶液を1時間かけて滴下した。生成した白色沈殿物をろ過で取出し、減圧乾燥して、分散剤1を得た。表1に記載の各構造単位の含有率、重量平均分子量(Mw)、成分(B)の含有量、重合体(E)の含有量は、表2に示す通りであった。
(実施例1-2)
(分散剤2の合成)
3-メルカプト-1,2-プロパンジオールの量を2.8部に変更した以外は、実施例1-1と同様にして、分散剤2を得た。
(実施例1-3、比較例1-1)
(分散剤3、比較分散剤1の合成)
温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、イオン交換水137部、アクリル酸100部、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール0.8部、 および重合開始剤としてV-50(富士フィルム和光純薬社製)0.5部を加え、70℃に加温し、温度70℃下にて300分間(5時間)攪拌した。転化率が90%以上になったところで冷却して反応を終了した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応の原料を低減して、重合体の水溶液を得た。得られた重合体水溶液を半量をとりわけ、乾燥させて比較分散剤1とした。一方、4つ口セパラブルフラスコにメチルエチルケトン250部、メタノール250部を仕込んでおき、ディスパーで1,000回転させたところに、残りの重合体水溶液を1時間かけて滴下した。生成した白色沈殿物をろ過で取出し、減圧乾燥して、散剤3を得た。
(実施例1-4)
(分散剤4の合成)
3-メルカプト-1,2-プロパンジオールの量を0.6部に変更した以外は、実施例1-1と同様にして、分散剤4を得た。
(実施例1-5)
(分散剤5の合成)
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、メタノール100部、ジエタノールアミン0.1部、次亜リン酸ナトリウム5部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を70℃に加熱してアクリル酸68部、およびN-ビニル-2-ピロリドン32部を2時間かけて滴下した。引き続き、2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン二塩酸塩(富士フイルム和光純薬製:V-50)2部とイオン交換水18部からなる開始剤水溶液を、1時間半かけて滴下した。滴下終了後、3.5時間反応させた後、V-50、0.1部とイオン交換水0.9部からなる水溶液を投入し、さらに30分後にV-50、0.1部とイオン交換水0.9部からなる水溶液を再び投入した。
重合開始から4.5時間後に、転化率が95%となったことを確認し、pH調整剤としての10%マロン酸水溶液0.5部を添加して、重合体の水分散液を得た。引き続き、減圧ろ過によってろ別し、メタノールにて洗浄し、減圧乾燥によって溶媒を完全に除去して、分散剤5を得た。
(実施例1-6)(比較例1-2)
(分散剤6、比較分散剤2の合成)
温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、イオン交換水137部、アクリル酸95部、アクリロニトリル5部、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール2.8部、 および重合開始剤としてV-50(富士フィルム和光純薬社製)0.5部を加え、70℃に加温し、温度70℃下にて300分間(5時間)攪拌した。転化率が90%以上になったところで冷却して反応を終了した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応の原料を低減して、重合体の水溶液を得た。重合体水溶液を半量をとりわけ、乾燥させて比較分散剤2とした。一方、4つ口セパラブルフラスコにメチルエチルケトン250部、メタノール250部を仕込んでおき、ディスパーで1,000回転させたところに、残りの重合体水溶液を1時間かけて滴下した。生成した白色沈殿物をろ過で取出し、減圧乾燥して、分散剤6を得た。
(実施例1-7)
(分散剤7の合成)
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、イオン交換水50部、メタノール50部、ジエタノールアミン0.1部、次亜リン酸ナトリウム5部、アクリル酸-2-ヒドロキシエチル12部、N-ビニル-2-ピロリドン86部、アクリルアミド2部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を70℃に加熱して2時間保持した。2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン二塩酸塩(富士フイルム和光純薬製:V-50)2部とイオン交換水18部からなる開始剤水溶液を1時間半かけて滴下した。
滴下終了後、3.5時間反応させた後、V-50、0.1部とイオン交換水0.9部からなる水溶液を投入し、さらに30分後にV-50、0.1部とイオン交換水0.9部からなる水溶液を再び投入した。転化率が90%となったことを確認し、pH調整剤としての10%マロン酸水溶液1.4部を添加して、重合体の水分散液を得た。その後、減圧ろ過してろ別し、メタノール50部およびイオン交換水50部の混合液にて洗浄してから、減圧乾燥して溶媒を完全に除去し、分散剤7を得た。
(実施例1-8)(比較例1-3)
(分散剤8、比較分散剤3の合成)
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、メタノール100部、酢酸ビニル100部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を50℃に加熱して2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオン酸メチルエステル)(富士フイルム和光純薬製:V-601)0.5部を4時間かけて反応容器内に滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、同温度でさらに2時間保持した。
転化率が95%以上になったところで冷却して反応を終了させ、ポリ酢酸ビニル/メタノール溶液を得た。引き続き、2mol/Lの水酸化ナトリウム/メタノール溶液を、水酸化ナトリウム量として60部(仕込んだ酢酸量に対して0.4当量)添加し、60℃に昇温して4時間反応させ、けん化度86mol%のポリビニルアルコール/メタノール混合液を得た。減圧乾燥して得られた白色固体をメノウ乳鉢にて粉砕し、半量を取り分けて、比較分散剤3とした。一方、残りの半量を、メタノール100部、およびメチルエチルケトン100部の混合溶液中で超音波照射して懸濁させ、ろ別し減圧乾燥して、分散剤8を得た。
(実施例1-9)
(分散剤9の合成)
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、メタノール100部、酢酸ビニル100部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を50℃に加熱して2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオン酸メチルエステル)(富士フイルム和光純薬製:V-601)0.5部を4時間かけて反応容器内に滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、同温度でさらに2時間保持した。
転化率が95%以上になったところで冷却して反応を終了させ、ポリ酢酸ビニル/メタノール溶液を得た。引き続き、2mol/Lの水酸化ナトリウム/メタノール溶液を、水酸化ナトリウム量として80部添加し、70℃に昇温して5時間反応させ、けん化度98mol%のポリビニルアルコール/メタノール混合液を得た。続いてイオン交換水800質量部を加えてポリビニルアルコールを溶解し、塩酸2質量部、ブチルアルデヒド20質量部を撹拌しながら滴下した。80℃に昇温して1時間保持して水酸基の一部をブチラール化させ、冷却して反応を停止した。
4つ口セパラブルフラスコにメチルエチルケトン250部、メタノール250部を仕込んでおき、ディスパーで1,000回転させたところに、上記のようにして得た重合体溶液を1時間かけて滴下した。生成した白色沈殿物をろ過で取出し、減圧乾燥して分散剤9を得た。
表1に記載の各構造単位の含有率、重量平均分子量(Mw)、成分(B)の含有量、重合体(E)の含有量は、表2に示す通りであった。
(実施例1-10)(比較例1-4)
(分散剤10、比較分散剤4の合成)
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、イオン交換水100部、ジエタノールアミン0.1部、次亜リン酸ナトリウム5部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を90℃に加熱してN-ビニル-2-ピロリドン100部を2時間かけて滴下した。引き続き、2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン二塩酸塩2部(富士フイルム和光純薬製:V-50)とイオン交換水18部からなる開始剤水溶液を1時間半かけて滴下した。
滴下終了後、3.5時間反応させた後、V-50、0.1部とイオン交換水0.9部からなる水溶液を投入し、さらに30分後にV-50、0.1部とイオン交換水0.9部からなる水溶液を再び投入した。重合開始から4.5時間後に、転化率が90%となったことを確認し、pH調整剤としての10%マロン酸水溶液1.4部を添加して、重合体の水分散液を得た。半量を取り分けて減圧乾燥によって溶媒を除去し、比較分散剤4とした。一方、残りの半量を減圧ろ過によってろ別し、イオン交換水100部にて洗浄し、減圧乾燥によって溶媒を除去して、分散剤10を得た。
(実施例1-11)
(分散剤11の合成)
温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、イオン交換水137部、アクリル酸86部、メタクリル酸14部、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール2.8部、 および重合開始剤としてV-50(富士フィルム和光純薬社製)0.5部を加え、70℃に加温し、温度70℃下にて300分間(5時間)攪拌した。転化率が90%以上になったところで冷却して反応を終了した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応の原料を低減して、重合体の水溶液を得た。4つ口セパラブルフラスコにメチルエチルケトン250部、メタノール250部を仕込んでおき、ディスパーで1,000回転させたところに、得られた重合体水溶液を1時間かけて滴下した。生成した白色沈殿物をろ過で取出し、減圧乾燥して、分散剤11を得た。
表1に重合体(A)中の各構造単位を示す。また、各構造単位の含有率、重量平均分子量(Mw)、成分(B)の含有量、重合体(E)の含有量は、表2に示す通りであった。
Figure 0007343011000001
Figure 0007343011000002
(重合体(A)の重量平均分子量(Mw)および重合体(E)の含有量の測定)
合成した重合体(A)の重量平均分子量(Mw)、および分子量1,000未満の重合体(E)の含有量は、RI検出器を装備したゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した。
装置は、HLC-8320GPC(東ソー社製)を用い、分離カラムとして順に、TSKgel Guardcolumn PWXL(6.0mmI.D.×4cm)を1本、TSKgel GMPXL(7.8mmI.D.×30cm)を2本の計3本を直列に繋ぎ、カラム温度40℃、溶離液として0.2Mリン酸緩衝液(pH7.0)、を用い、流速1.0mL/minで測定した。測定サンプルは、上記溶離液に濃度0.1質量%の濃度で調整し、一晩静置して溶解させた後、0.45μmのセルロースアセテートフィルターでろ過したものとし、サンプル量は0.1mLとした。検量線は標準PEO/PEG(Agilent Technologies)、三次元近似曲線とした。
重合体(A)の重量平均分子量は、溶媒ピークは含めずに、得られたクロマトグラムのピーク面積の積分値から算出した。重合体(E)の含有率は、溶媒ピークは含めずに、得られたクロマトグラムの全体のピーク面積に占める分子量1,000未満に相当する面積の割合より算出した。
分散剤に含まれる成分(B)の量は、下記により求めた揮発成分の含有量と、イオン性の不揮発性成分の含有量との和から算出した。成分(B)の含有量を表2に示した。
(揮発成分の含有量)
分散剤に含まれる揮発成分の含有量は、熱風オーブンにて熱処理した際の重量減少から、カールフィッシャー法により定量した水分量を差し引いて算出した。アルミニウム皿に試料を約0.5g採取して広げ、140℃の熱風オーブンにて10分間静置した後、デシケーター内で3分間放冷し、素早く乾燥後の重量を測定し、重量減少率G1(%)を算出した。
水分量G2(%)は、カールフィッシャー水分計(卓上型電量法水分計CA-200型:三菱ケミカルアナリテック社製、陰極液:三菱ケミカル株式会社製、アクアミクロン(登録商標)CXU、陽極液:三菱ケミカル株式会社製、アクアミクロン(登録商標)AX)を用いて、窒素ガス250ml/分流通下、140℃で試料を処理し、カールフィッシャー法により測定した。揮発成分の含有量は、G1-G2(%)として算出した。
(イオン性の不揮発性成分の含有量)
重合体8、9、および、比較分散剤3について、目開き1mm(16メッシュ)のふるい(JIS規格Z8801-1~3準拠)でふるい分けした。上記のふるいを通過した粉末10gを100℃で1時間乾燥させ、揮発成分を除去した。次いで、揮発成分を除去した粉末と、超純水50mLとを共栓付き100mL三角フラスコに投入し、冷却コンデンサーを付け、95℃にて10時間撹拌、抽出した。
得られた抽出液を、超純水で100倍に希釈し、ろ過を行った後、固相抽出カラム(GLサイエンス社製InertSep HLB)を用いて樹脂分を除去した。そして、得られた液を用いてイオンクロマトグラフィー(「ICS2000」、Thermo Fisher Scientific社製)にて、酢酸ナトリウムの量を算出した。なお、定量に際しては、酢酸水溶液を用いて作成した検量線を使用した。
なお、各重合体をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、重合開始剤が重合せずに失活して生じた化合物として、分散剤1~7、10,11、および比較分散剤1、2、4からは表3に記載の化合物11~13が、分散剤8、9および比較分散剤3からは化合物14~16が、それぞれ検出された。成分(B)に含まれる各化合物の構造決定におけるガスクロマトグラフィーの測定条件は以下の通りである。
分析装置:ガスクロマトグラフィー(GC-2025、島津製作所社製)
溶媒:DMF
キャピラリーカラム:GLサイエンス製DB-5MS
カラム温度条件:60℃Hold5分、100℃まで昇温(5℃/分、Hold0分)、280℃まで昇温(20℃/分、Hold5分)
キャリアガス:ヘリウム(35kPa)
注入口温度:110℃
Figure 0007343011000003
(核磁気共鳴による重合体(A)の構造単位の含有量の分析)
重合体(A)を構成する構造単位の構造およびその含有量は、核磁気共鳴装置(ADVANCE400Nanobay:Bruker Japan社製)を用い、測定溶媒(D3C)2S=O、1mmNMRチューブ使用)による1H-NMR定量スペクトル、および、測定溶媒(D3C)2S=O、10mmNMRチューブ使用による13C-NMR定量スペクトルから求めた。ただし、重合開始剤や連鎖移動剤に由来するピークは、重合体(A)中の各構造単位の含有量から除外して算出した。
<導電材分散体の作製>
(実施例2-1)
表4に示す組成に従い、ステンレス容器に、合計1kgのイオン交換水、分散剤1、および塩基を加えて、ディスパーで均一になるまで撹拌した。その後、導電材をディスパーで撹拌しながら添加し、ハイシアミキサー(L5M-A、SILVERSON社製)に角穴ハイシアスクリーンを装着し、8,000rpmの速度で全体が均一になり、グラインドゲージにて分散粒度が250μm以下になるまでバッチ式分散を行った。このとき、グラインドゲージにて確認した分散粒度は180μmであった。
続いて、ステンレス容器から、配管を介して高圧ホモジナイザー(スターバーストラボHJP-17007、スギノマシン社製)に被分散液を供給し、D50が100μm以下になるまで20回パス式分散処理を行った。分散処理はシングルノズルチャンバーを使用し、ノズル径0.25mm、圧力100MPaにて行った。得られた導電材分散体(分散体1)は、低粘度かつ貯蔵安定性が良好であった。
(実施例2-2~2-23)
表4に示す組成に従い、実施例2-1と同様にして、各分散体(分散体2~23)を得た。ただし、メジアン径が100μm以上である場合、追加で2パス分散処理を行い、再度測定し、メジアン径が100μm以下になるまで繰り返した。本発明の一実施形態である導電材分散体(分散体2~23)は、いずれも低粘度かつ貯蔵安定性が良好であった。
(実施例2-24~2-31)
表4に示す組成に従い、カルボキシメチルセルロースまたはその塩を重合体と同時に添加した以外は、実施例2-1と同様にして、各分散体(分散体24~31)を得た。ただし、メジアン径が100μm以上である場合、追加で2パス分散処理を行い、再度測定し、メジアン径が100μm以下になるまで繰り返した。本発明の一実施形態である導電材分散体(分散体24~31)は、いずれも低粘度かつ貯蔵安定性が良好であった。
(実施例2-32)
表4に示す組成に従い、ガラス瓶(M-225、柏洋硝子株式会社製)に分散剤3と、塩基と、イオン交換水とを仕込み、十分に混合溶解、または混合した後、導電材を加え、ジルコニアビーズ(ビーズ径0.5mmφ)をメディアとして、ペイントコンディショナーで2時間ごとにガラス瓶を冷却しながら合計8時間分散し、導電材分散体32を得た。表4に示す通り、導電材分散体32は低粘度で、貯蔵安定性が比較的良好であった。
(実施例2-33)
分散体3と分散体20とを、導電材の質量比が1対10となるようにディスパーにて混合し、分散体33を得た。
(実施例2-34)
表4に示す組成に従い、ラボプラストミル(株式会社東洋精機製作所社製)に分散剤1と導電材と、少量のイオン交換水とを仕込み3時間分散したのち、ステンレス容器に移し替え、残りのイオン交換水および、塩基を加えハイシアミキサー(L5M-A、SILVERSON社製)に角穴ハイシアスクリーンを装着し、8,000rpmの速度で全体が均一になり、グラインドゲージにて分散粒度が250μm以下になるまでバッチ式分散を行って分散体34を得た。このとき、グラインドゲージにて確認した分散粒度は80μmであった。
(実施例2-35~2-37)
表4に示す組成に従い、実施例2-34と同様にして、各分散体(分散体35~37)を得た。本発明の一実施形態である導電材分散体(分散体35~37)は、いずれも低粘度かつ貯蔵安定性が良好であった。
(比較例2-1~2-4)
表4に示す組成に従い、ステンレス容器に、合計1kgのイオン交換水、重合体、塩基を加えて、ディスパーで均一になるまで撹拌した。その後、導電材をディスパーで撹拌しながら添加し、ハイシアミキサー(L5M-A、SILVERSON社製)に角穴ハイシアスクリーンを装着し、8,000rpmの速度でバッチ式分散を行った。しかし、いずれも3時間を超えても分散粒度が250μm以下にならなかったため、分散不可と判断した。
そこで、表4に示す量の消泡剤を追加して、全体が均一になり、分散粒度が250μm以下になるまで再度バッチ式分散を行った。続いて、ステンレス容器から、配管を介して高圧ホモジナイザー(スターバーストラボHJP-17007、スギノマシン社製)に被分散液を供給し、D50が100μm以下になるまで30回パス式分散処理を行った。分散処理はシングルノズルチャンバーを使用し、ノズル径0.25mm、圧力100MPaにて行った。
消泡剤を添加して作製した導電材分散体(比較分散体1~4)は、いずれも比較的低粘度かつ貯蔵安定性が良好であったが、複素弾性率または位相角が不良のものがあった。
(炭素系導電材の比表面積測定方法)
炭素系導電材を電子天秤(sartorius社製、MSA225S100DI)を用いて、0.03g計量した後、110℃で15分間、脱気しながら乾燥させた。その後、全自動比表面積測定装置(MOUNTECH社製、HM-model1208)を用いて、炭素系導電材の比表面積(m2/g)を測定した。
(レーザー回折法による粒度分布測定方法)
導電材分散体を25℃の恒温槽に1時間以上静置した後、導電材分散体を十分に撹拌および希釈してから、粒度分布計(HORIBA製、Partica LA-960V2)を用いて、導電材分散体の累積粒径D10および累積粒径D50を測定した。炭素系導電材の粒子屈折率は1.9、形状は非球形とした。溶媒の屈折率は1.333とした。測定の際は、透過率の数値が50~85%の範囲になるようにCNT分散液の濃度を希釈して行った。
(導電材分散体の複素弾性率および位相角)
導電材分散体の複素弾性率および位相角は、直径35mm、2°のコーンにてレオメーター(Thermo Fisher Scientific株式会社製RheoStress1回転式レオメーター)を用い、25℃、周波数1Hzにて、ひずみ率0.01%から5%の範囲で動的粘弾性測定を実施することで評価した。
<判定基準(複素弾性率)>
1:300Pa以上または5Pa未満(不良)
2:60Pa以上300Pa未満(良)
3:10Pa以上60Pa未満(優良)
4:5Pa以上10Pa未満(良)
<判定基準(位相角)>
1:10°以上60°未満(優良)
2:3°以上10°未満(良)
3:3°未満(不良)
Figure 0007343011000004
なお、表4記載の原料は以下の通りである。
・TUBALL:シングルウォールカーボンナノチューブ(OCSiAl製、平均外径1.7nm、平均繊維径21μm、比表面積490m2/g)
・6A:JENOTUBE6A(JEIO製、多層CNT、平均外径6nm、平均繊維径58μm、比表面積700m2/g)
・10B:JENOTUBE10B(JEIO製、多層CNT、平均外径10nm、平均繊維径100μm、比表面積233m2/g)
・Li-400:デンカブラックLi-400(デンカ製、アセチレンブラック、平均一次粒子径48nm、比表面積39m2/g
・CMC1:7ULC(カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、ASHLAND製、重量平均分子量9,000、エーテル化度0.65~0.90)
・CMC2:サンローズA APP-84(カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、日本製紙製、重量平均分子量17,600、エーテル化度0.65~0.75)
<泡立ち性試験>
(試験例1~8)
表5に記載の各分散剤または比較分散剤0.25g、および炭酸ナトリウム0.05gを70mlのガラス製容器に入れ、総重量が50gとなるようにイオン交換水を加えてから密栓し、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)で15分間撹拌した。攪拌後直ちに水平な台の上で2時間静置し、液面上に残った気泡の高さを記録した。評価結果は表5に示した。
<判定基準>
○:1分間静置後の気泡の高さが0.5cm未満(良)
△:1分間静置後の気泡の高さが0.5cm以上1.5cm未満(不良)
×:1分間静置後の気泡の高さが1.5cm以上(不可)
(試験例9~24)
表5に記載の各分散剤0.25g、および炭酸ナトリウム0.05gに、「意図的に添加した原料由来成分」を、それぞれ重合体に対して2.5質量%となるように加え、さらに総重量が50gとなるようにイオン交換水を加えてガラス製容器に入れて密栓し、試験例1~8と同様に泡立ち性試験をおこなった。判定基準も同一とした。なお、「意図的に添加した原料由来成分」とは、重合体(A)の原料に由来する成分(B)として特定された各成分である。評価結果は表5に示した。
なお、重合開始剤が重合せずに失活して生じた化合物として、表5記載の化合物11、12、13の混合物は以下のようにして調製した。ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、イオン交換水97部を仕込み、窒素ガスで置換して、反応容器内を56℃に加熱して15分保持した。2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン二塩酸塩(V-50)3部を滴下して、56℃で4時間保持した後、放冷した。得られた水溶液を、成分(B)の分析と同様にしてガスクロマトグラフィーにて分析し、化学式11、12、13を定量した。化合物11、12、13の混合物の添加量は、固形分3質量%として換算した。
また、表5記載の化合物14、15、16の混合物は以下のようにして調製した。ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、メタノール97部を仕込み、窒素ガスで置換して、反応容器内を51℃に加熱して15分保持した。2,2′-アゾビス(2-メチルプロピオン酸メチルエステル)(V-601)3部を滴下して、51℃で4時間保持した後、放冷した。得られた溶液を、成分(B)の分析と同様にしてガスクロマトグラフィーにて分析し、化学式14、15、16を定量した。化合物11、12、13の混合物、化合物14、15、16の混合物は、合算値として表5中に示した。
Figure 0007343011000005
試験例1~24の結果から、本発明の分散剤は泡立ちが少なく良好であるのに対し、成分(B)に相当する原料由来成分を多く含有すると、泡立ちが顕著になることが確認できた。特に、試験例17、18、19に見られるように、重合開始剤が重合せずに失活して生じた化合物、または連鎖移動剤を含む場合は、泡立ちが顕著であった。また、試験例に記載のない分散剤1、2、4、5、7、9、11を用いて、試験例1と同様にして試験したところ、いずれも泡立ちが少なく良好だった。
<負極合材組成物および負極の作製>
(実施例3-1)
プラスチック製容器に導電材分散体(分散体1)と、増粘剤と、水とを加えた後、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌した。その後、負極活物質として人造黒鉛およびシリコン(人造黒鉛:シリコン=9:1(質量比))を添加し、前記の自転・公転ミキサーを用いて、2,000rpmで150秒間撹拌した。さらにその後、SBRを加えて、前記の自転・公転ミキサーを用いて、2,000rpmで30秒間撹拌し、負極合材組成物を得た。尚、負極合材組成物中の活物質、導電材、分散剤、増粘剤およびSBRは、これらの合計を100%とした際に表6の配合量(%)になるように配合し、負極合材組成物の不揮発分が45%となるように水の量を調製した。尚、表6の配合量は、負極合材組成物中に占める各々の成分の正味の含有量(不揮発分)を表す。
得られた負極合材組成物を、アプリケーターを用いて、厚さ20μmの銅箔上に塗工して後、電気オーブン中で120℃±5℃で25分間、塗膜を乾燥させて電極膜を作製した。その後、電極膜をロールプレス(サンクメタル製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行って、負極(負極1)を得た。なお、合材層の単位当たりの目付量は10mg/cm2であり、圧延処理後の合材層の密度は1.6g/cm3であった。
なお、上記の原料は以下の通りである。
・人造黒鉛:CGB-20(日本黒鉛工業社製)、不揮発分100%
・シリコン:一酸化珪素(大阪チタニウムテクノロジー社製、SILICON MONOOXIDE SiO 1.3C 5μm)、不揮発分100%
・増粘剤:カルボキシメチルセルロース#1190(ダイセルファインケム社製)、不揮発分100%
・SBR:スチレンブタジエンゴムTRD2001(JSR社製)、不揮発分48%
(実施例3-2~3-37)
導電材分散体を、表6に示す各分散体(分散体2~37)に変更し、表6にします組成比に変更した以外は、実施例3-1と同様の方法により、負極2~37を得た。
(比較例3-1~3-4)
導電材分散体を、表6に示す各分散体(比較分散体1~4)に変更した以外は、実施例3-1と同様の方法により、比較負極1~4を得た。
(負極の導電性評価方法)
得られた負極を、三菱化学アナリテック製:ロレスターGP、MCP-T610を用いて合材層の表面抵抗率(Ω/□)を測定した。測定後、合材層の厚みを乗算し、負極の体積抵抗率(Ω・cm)とした。合材層の厚みは、膜厚計(NIKON製、DIGIMICROMH-15M)を用いて、電極中の3点を測定した平均値から、銅箔の膜厚を減算し、負極の体積抵抗率(Ω・cm)とした。
<判定基準>
◎:0.3Ω・cm未満(優良)
○:0.3Ω・cm以上0.5Ω・cm未満(良)
×:0.5Ω・cm以上(不良)
Figure 0007343011000006
(正極用合材組成物および正極の作製)
(実施例4-1)
プラスチック製容器に導電材分散体(分散体1)と、増粘剤と、水とを加えた後、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌し、その後、正極活物質としてLFPを添加し、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで150秒間撹拌した。さらにその後、PTFEを添加し、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌し、正極用合材組成物を得た。正極用合材組成物の不揮発分は65質量%とした。
正極合材組成物を、アプリケーターを用いて、厚さ20μmのアルミ箔上に塗工した後、電気オーブン中で120℃±5℃で25分間乾燥し、電極膜を作製した。その後、電極膜をロールプレス(サンクメタル製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行い、正極(正極1)を得た。なお、合材層の単位当たりの目付量が20mg/cm2であり、圧延処理後の合材層の密度は2.1g/ccであった。
なお、表7に示した原料は以下の通りである。
・LFP:リン酸鉄リチウム HED(登録商標)LFP-400(BASF社製、不揮発分100%)
・PTFE:ポリテトラフルオロエチレン ポリフロン PTFE D-210C(ダイキン工業社製、不揮発分60%)
・増粘剤:カルボキシメチルセルロース#1190(ダイセルファインケム社製、不揮発分100%)
(実施例4-2~4-37)
導電材分散体を、表7に示す各分散体(分散体2~37)に変更した以外は、実施例4-1と同様の方法により、正極2~37を得た。
(比較例4-1~4-4)
導電材分散体を、表7に示す各分散体(比較分散体1~4)に変更した以外は、実施例3-1と同様の方法により、比較正極1~4を得た。
(正極の導電性評価方法)
得られた正極を、銅箔の替わりにアルミ箔とした以外は負極と同様の方法で導電性評価した。
<判定基準>
◎:10Ω・cm未満(優良)
〇:10Ω・cm以上20Ω・cm未満(良)
×:20Ω・cm以上(不良)
Figure 0007343011000007
(標準正極の作製)
正極活物質としてLFP(HED(登録商標)LFP-400、BASF社製、不揮発分100%)92質量%、アセチレンブラック(デンカブラック(登録商標)HS‐100、デンカ社製、不揮発分100%)4質量%、増粘剤(カルボキシメチルセルロース#1190、ダイセルファインケム社製、不揮発分100%)1.6質量%となるようにプラスチック製容器に加えた後、ヘラを用いて均一になるまで混合した。その後、水を20.5質量%添加し、自転・公転ミキサー(シンキー社製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌した。その後、プラスチック製容器内の混合物をヘラで均一になるまで混合し、自転・公転ミキサーを用いて、PTFE(ダイキン工業社製、不揮発分60質量%)4質量%を加え、2,000rpmで30秒間撹拌した。さらにその後、水を11.2質量%添加し、前記の自転・公転ミキサーを用いて、2,000rpmで30秒間撹拌した。最後に、高速攪拌機を用いて、3,000rpmで10分間撹拌し、標準正極用合材組成物を得た。
上述の標準正極用合材組成物を集電体となる厚さ20μmのアルミ箔上にアプリケーターを用いて塗工した後、電気オーブン中で120℃±5℃で25分間乾燥して電極の単位面積当たりの目付量が20mg/cm2となるように調整した。さらにロールプレス(サンクメタル製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行い、合材層の密度が2.1g/cm3となる標準正極を作製した。
(標準負極の作製)
容量150mlのプラスチック容器にアセチレンブラック(デンカブラック(登録商標)HS‐100、デンカ社製)0.5質量%と、増粘剤(カルボキシメチルセルロース#1190、ダイセルファインケム社製、不揮発分100%)1質量%と、水98.4質量%とを加えた後、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌した。さらに活物質として人造黒鉛(CGB-20、日本黒鉛工業社製、不揮発分100%)を87質量%、シリコン(一酸化珪素、大阪チタニウムテクノロジー社製、SILICON MONOOXIDE SiO 1.3C 5μm、不揮発分100%)を10質量%添加し、自転・公転ミキサー(シンキー社製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで150秒間撹拌した。続いてSBR(TRD2001、JSR社製)を3.1質量%加えて、自転・公転ミキサー(シンキー社製 あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌し、標準負極用合材組成物を得た。標準負極用合材組成物の不揮発分は50質量%とした。
上述の標準負極用合材組成物を集電体となる厚さ20μmの銅箔上にアプリケーターを用いて塗工した後、電気オーブン中で80℃±5℃で25分間乾燥して電極の単位面積当たりの目付量が10mg/cm2となるように調整した。さらにロールプレス(サンクメタル社製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行い、合材層の密度が1.6g/cm3となる標準負極を作製した。
(実施例5-1~5-37、比較例5-1~5-4)
(実施例6-1~6-37、比較例6-1~6-4)
(二次電池の作製)
表8および表9に記載した負極および正極を使用して、各々50mm×45mm、45mm×40mmに打ち抜き、その間に挿入されるセパレーター(多孔質ポリプロプレンフィルム)をアルミ製ラミネート袋に挿入し、電気オーブン中、70℃で1時間乾燥した。その後、アルゴンガスで満たされたグローブボックス内で、電解液(エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネートを体積比1:1:1の割合で混合した混合溶媒を作製し、さらに添加剤として、ビニレンカーボネートを100質量%に対して1質量%加えた後、LiPF6を1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を2mL注入した後、アルミ製ラミネートを封口して、それぞれ負極評価用電池1~37、負極評価用比較電池1~4、正極評価用電池1~37、正極評価用比較電池1~4を作製した。
Figure 0007343011000008
Figure 0007343011000009
(二次電池のレート特性評価方法)
得られた負極評価用二次電池および正極評価用二次電池を25℃の恒温室内に設置し、充放電装置(北斗電工社製、SM-8)を用いて充放電測定を行った。充電電流10mA(0.2C)にて充電終止電圧4.3Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流1mA(0.02C))を行った後、放電電流10mA(0.2C)にて、放電終止電圧3Vで定電流放電を行った。この操作を3回繰り返した後、充電電流10mA(0.2C)にて充電終止電圧4.3Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流(1mA0.02C))を行い、放電電流0.2Cおよび3Cで放電終止電圧3.0Vに達するまで定電流放電を行って、それぞれ放電容量を求めた。レート特性は0.2C放電容量と3C放電容量の比、以下の数式1で表すことができる。

(数式1)
レート特性=3C放電容量/3回目の0.2C放電容量×100(%)

<判定基準>
◎:80%以上(優良)
○:60%以上80%未満(良)
×:60%未満(不良)
(二次電池のサイクル特性評価方法)
得られた負極評価用二次電池および正極評価用二次電池を25℃の恒温室内に設置し、充放電装置(北斗電工製、SM-8)を用いて充放電測定を行った。充電電流25mA(0.5C)にて充電終止電圧4.3Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流2.5mA(0.05C))を行った後、放電電流25mA(0.5C)にて、放電終止電圧3Vで定電流放電を行った。この操作を200回繰り返した。サイクル特性は25℃における3回目の0.5C放電容量と200回目の0.5C放電容量の比、以下の数式2で表すことができる。

(数式2)
サイクル特性=3回目の0.5C放電容量/200回目の0.5C放電容量×100(%)

<判定基準>
◎:85%以上(優良)
○:80%以上85%未満(良)
×:80%未満(不良)
(二次電池の低温特性)
得られた負極評価用二次電池および正極評価用二次電池を25℃の恒温室内に設置し、充放電装置(北斗電工社製、SM-8)を用いて充放電測定を行った。充電電流25mA(0.5C)にて充電終止電圧4.3Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流2.5mA(0.05C))を行った後、放電電流25mA(0.5C)にて、放電終止電圧3Vで定電流放電を行った。この操作を10回繰り返した後、充電電流25mA(0.5C)にて充電終止電圧4.3Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流2.5mA(0.05C))を行った。その後、負極評価用二次電池および正極評価用二次電池を-10℃の恒温室内に1時間静置し、放電電流100mA(2.0C)にて、放電終止電圧3Vで定電流放電を行った。低温特性は25℃における10回目の0.5C放電容量と、11回目の2.0C放電容量の比、以下の数式3で表すことができる。
(数式3)
低温特性=2.0C放電容量/10回目の0.5C放電容量×100(%)

<判定基準>
◎:80%以上(優良)
○:60%以上80%未満(良)
×:60%未満(不良)

Claims (11)

  1. 少なくとも水を含有する媒体(D)中で炭素系導電材(C)を分散するための分散剤であって、
    下記(1-1)および(1-2)を満たす重合体(A)と、下記(2)を満たす成分(B)とを含有する分散剤。
    (1-1)前記重合体(A)は、カルボキシル基含有構造単位、ヒドロキシル基含有構造単位および複素環含有構造単位からなる群より選ばれる少なくとも1種以上を構造単位として80質量%以上含み、重量平均分子量が0.5万以上36万以下である。
    (1-2)前記重合体(A)は、分子量が1,000未満である重合体(E)を含み、前記重合体(A)の全質量を基準として前記重合体(E)を5質量%以下含有する。
    (2)前記成分(B)は、前記重合体(A)の原料であるモノマー、重合開始剤および連鎖移動剤のいずれか1種以上に由来する前記重合体(A)以外の化合物であって、成分(B)の含有量が、前記分散剤を基準として1.9質量%以下である。
  2. 下記(1)を満たす重合体(A)と、下記(2)を満たす成分(B)と、炭素系導電材(C)と、少なくとも水を含有する媒体(D)と、分子量が1,000未満である重合体(E)と、を含有し、消泡剤を含まない、導電材分散体であって、
    前記成分(B)の含有率が、前記導電材分散体の質量を基準として0.0197質量%以下であり、
    前記成分(E)の含有率が、前記重合体(A)の全質量を基準として5質量%以下である、導電材分散体。
    (1)前記重合体(A)は、カルボキシル基含有構造単位、ヒドロキシル基含有構造単位、および複素環含有構造単位からなる群より選ばれる少なくとも1種以上を構造単位として80質量%以上含み、重量平均分子量が0.5万以上36万以下である。
    (2)前記成分(B)は、前記重合体(A)の原料であるモノマー、重合開始剤および連鎖移動剤のいずれか1種以上に由来する前記重合体(A)以外の化合物である。
  3. レーザー回折法によって測定した粒度分布の累積10%における粒径D10が0.15μm以上である、請求項2に記載の導電材分散体。
  4. 動的粘弾性測定による25℃における1Hzでの位相角が、3°以上60°未満である、請求項2に記載の導電材分散体。
  5. 動的粘弾性測定による25℃における1Hzでの複素弾性率が、5Pa以上300Pa未満である、請求項2に記載の導電材分散体。
  6. さらに、カルボキシメチルセルロースおよび/またはその塩をさらに含む、請求項2に記載の導電材分散体。
  7. 前記カルボキシメチルセルロースおよび/またはその塩は、重量平均分子量が1万以上10万以下である、請求項6に記載の導電材分散体。
  8. さらに、結着剤を含む、請求項2に記載の導電材分散体。
  9. さらに、電極活物質を含む、請求項2に記載の導電材分散体。
  10. 請求項2~9いずれか1項に記載の導電材分散体から形成された、電極膜。
  11. 請求項10に記載の電極膜を含む、二次電池。

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