以下に、実施の形態にかかるレーダ装置を図面に基づいて詳細に説明する。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1にかかるレーダ装置のブロック図である。実施の形態1にかかるレーダ装置1は、目標の捜索と目標の追尾とを行う。目標は、航空機等の飛翔体である。
レーダ装置1は、アレイアンテナ10と、アレイアンテナ10へ信号を送信する送信部11と、アレイアンテナ10からの信号を受信する受信部12と、アレイアンテナ10を制御するビーム制御部13とを備える。
アレイアンテナ10は、アレイ状に配列された複数のアンテナ素子と、各々がアンテナ素子に対応して設けられた複数の送受信モジュールとを有する。アレイアンテナ10は、覆域に含まれる複数の捜索領域の各々へビームを照射し、かつ覆域に存在する目標におけるビームの反射によって伝播した反射波を受信する。実施の形態1では、アレイアンテナ10は、複数の捜索領域の各々へのビームの照射を時分割で行うとともに、複数の捜索領域の各々からの反射波の受信を時分割で行う。アレイアンテナ10は、各捜索領域にて個別の捜索周期および個別のタイミングで目標の捜索を行う。アンテナ素子および送受信モジュールの図示は省略する。
ビーム制御部13は、アレイアンテナ10からの各ビームスポットの方向を示す情報とビームスポットごとの照射の順序の情報とを保持する。ビームスポットは、覆域におけるビームの照射領域である。各ビームスポットの方向とビームスポットごとの照射の順序とは、あらかじめ設定されている。ビームスポットの方向を示す情報には、方位角の情報と仰角の情報とが含まれる。各ビームスポットの方向を示す情報には、俯角の情報が含まれても良い。ビーム制御部13は、ビームの照射を制御するための照射指示を送信部11へ出力する。
送信部11は、照射指示にしたがって各送受信モジュールへ信号を送信する。各送受信モジュールは、送信部11からの信号にしたがって、対応するアンテナ素子の位相および振幅を制御する。各アンテナ素子は、位相および振幅の制御によって狭角のビームを形成する。狭角のビームとは、ビームスポットにビームが収まる程度の狭いビーム角のビームとする。各アンテナ素子は、電波すなわちビームを各ビームスポットへ向けて放射する。
各アンテナ素子は、反射波を受信する。各送受信モジュールは、対応するアンテナ素子による反射波の受信によって得られた受信信号の位相を制御して、受信信号を受信部12へ出力する。受信部12は、受信信号に対し、アナログデジタル変換および周波数変換を行う。受信部12は、受信信号を位相振幅情報に変換する。
また、レーダ装置1は、反射波の受信によって得られた信号に基づく観測値を取得する信号処理部14と、観測値を収集する観測値収集部15と、航跡の情報を捜索領域ごとに保持する航跡管理部16と、登録された航跡を観測値に基づいて更新する航跡更新部17とを備える。航跡は、目標の軌道である。航跡は、航跡の情報が航跡管理部16に保持されることによって、レーダ装置1に登録される。
受信部12は、位相振幅情報を信号処理部14へ出力する。信号処理部14は、受信部12から入力された位相振幅情報への信号処理によって、観測値を取得する。観測値は、捜索によって検出された目標についての情報である。観測値には、目標の位置を示す情報と時刻の情報とが含まれる。観測値には、クラッタの受信などによって誤検出された情報が含まれる場合がある。信号処理部14は、取得された観測値を観測値収集部15へ出力する。
観測値収集部15は、信号処理部14から入力された観測値を保持する。また、観測値収集部15は、部分観測範囲を求める。部分観測範囲は、予測範囲が複数の捜索領域に跨る場合において捜索領域同士の境界によって区分けされる部分である。予測範囲は、覆域のうち目標の存在が予測される範囲である。部分観測範囲は、予測範囲のうち各捜索領域と重複する範囲でもある。観測値収集部15は、部分観測範囲ごとに観測値を収集する。観測値収集部15は、観測値の収集を終えると、収集された観測値を航跡更新部17へ出力する。
なお、複数の捜索領域のうちの任意の1つである捜索領域Xについて、捜索領域Xと予測範囲とが重複する範囲である部分観測範囲を、捜索領域Xに属する部分観測範囲と称することがある。また、部分観測範囲が属する捜索領域Xを観測領域、部分観測範囲が属さない捜索領域を観測外領域と称することがある。
航跡管理部16は、捜索によって検出された各目標について、捜索領域ごとに最大で1つの航跡を保持する。また、航跡管理部16は、登録された航跡に基づいて予測範囲を求める。航跡管理部16は、予測範囲の情報を観測値収集部15へ出力する。なお、捜索領域Xに対応する航跡として航跡管理部16に情報が保持された航跡を、捜索領域Xに属する航跡と称することがある。また、航跡管理部16は、航跡の移動と、航跡の削除とを行う。航跡の移動と航跡の削除とについては後述する。航跡管理部16は、保持されている航跡の情報を航跡更新部17へ出力する。
航跡更新部17には、航跡管理部16から航跡の情報が入力される。航跡更新部17には、収集された観測値が観測値収集部15から入力される。航跡更新部17は、観測領域の各航跡について、各観測値との相関の有無を判定する。航跡更新部17は、処理対象である航跡と相関を有すると判定された観測値を航跡に追加する更新処理によって、更新後の航跡を算出する。また、航跡更新部17は、観測外領域の各航跡について、観測時刻において予測される航跡であるメモリトラック航跡を算出する。航跡の更新処理および航跡の予測処理には、例えばカルマンフィルタアルゴリズムが用いられる。
航跡更新部17は、算出された各航跡についての評価値を算出する。航跡更新部17は、算出された航跡の中から、評価値が最も高い1つの航跡である最良航跡を選択する。航跡更新部17は、観測領域について求めた最良航跡の情報を航跡管理部16へ出力する。また、航跡更新部17は、観測外領域について求めたメモリトラック航跡の情報を航跡管理部16へ出力する。なお、評価値は、例えば、予測位置と観測位置との残差と、当該残差の確率密度分布とに基づいて算出される。観測位置とは、航跡のうち観測時刻における位置とする。予測位置とは、観測時刻において登録されている航跡を基に予測される位置とする。残差の確率密度分布は、残差の誤差情報を指す。一般的なカルマンフィルタの処理方式によると、残差の誤差情報は、観測位置の誤差情報と予測位置の誤差情報との和に基づいて求められる。観測位置の誤差情報と予測位置の誤差情報との各々は、多変量正規分布に従う共分散行列により表される。評価値は、その他の方法によって算出されても良い。
航跡管理部16には、航跡更新部17にて算出された航跡の情報が所属領域の情報とともに入力される。所属領域は、航跡が属する捜索領域である。航跡管理部16は、当該所属領域である捜索領域について保持されている航跡の情報を、入力された航跡の情報に置き換える。すなわち、航跡管理部16は、航跡の情報を上書きする。なお、以下の説明にて、所属外領域とは、航跡が属する捜索領域以外の捜索領域とする。
次に、ビームスポット、覆域および捜索領域について説明する。図2は、実施の形態1にかかるレーダ装置がビームを照射する覆域とビームスポットとの例を示す概念図である。覆域20は、方位角と仰角とによって表される領域である。覆域20の全体は、ビームスポット24によって覆われる。覆域20は、複数の捜索領域に分割される。図2に示す例では、覆域20は、2つの捜索領域21A,21Bに分割される。捜索領域21Aと捜索領域21Bとの境界22は、ある方位角方向に設定される。捜索領域21Aと捜索領域21Bとは、方位角方向へ配列される。
レーダ装置1は、各捜索領域21A,21Bの各ビームスポット24へ、あらかじめ決められた順序、かつあらかじめ決められた周期でビームを照射する。図2には、アレイアンテナ10から捜索領域21A内の1つのビームスポット24へ照射されるときのビーム23を示している。なお、覆域20は、3つ以上の捜索領域に分割されても良い。覆域20は、仰角方向へ配列された2つ以上の捜索領域に分割されても良く、距離方向へ配列された2つ以上の捜索領域に分割されても良い。
図3は、図2に示す覆域における予測範囲と部分観測範囲との例を示す概念図である。図3には、縦軸を仰角方向、横軸を方位角方向とする2次元の覆域20における捜索領域21A,21Bを示している。また、図3には、捜索領域21Aと捜索領域21Bとに跨る予測範囲26を示している。部分観測範囲27Aは、予測範囲26のうち捜索領域21Aに含まれる範囲である。部分観測範囲27Bは、予測範囲26のうち捜索領域21Bに含まれる範囲である。図3には、部分観測範囲27Aに存在している目標25を示している。
観測値収集部15は、部分観測範囲27Aの各ビームスポット24へのビームの照射によって取得された観測値と、部分観測範囲27Bの各ビームスポット24へのビームの照射によって取得された観測値とを収集する。航跡更新部17は、部分観測範囲27Aにおけるビームの照射によって収集された観測値に基づいて、捜索領域21Aに属する航跡について更新後の航跡を算出する。航跡更新部17は、部分観測範囲27Bにおけるビームの照射によって収集された観測値に基づいて、捜索領域21Bに属する航跡について更新後の航跡を算出する。
図4は、図2に示す覆域に含まれる各捜索領域と各捜索領域に属する航跡との例を示す概念図である。図4に示す例では、捜索領域21Aに属する航跡Taと捜索領域21Bに属する航跡Tbとが登録されている。図4には、各航跡Ta,Tbの平滑位置を表す点と、各航跡Ta,Tbの予測位置を表す矢印とを示している。
航跡管理部16は、航跡Taの予測位置および予測位置の誤差情報を基に、航跡Taの存在が予測される予測範囲28Aを求める。航跡管理部16は、航跡Tbの予測位置および予測位置の誤差情報を基に、航跡Tbの存在が予測される予測範囲28Bを求める。航跡管理部16は、予測範囲28Aと予測範囲28Bとを包含する予測範囲26を求める。航跡管理部16は、方位角方向と仰角方向と距離方向とにおける各予測範囲28A,28Bの範囲を全て包含する予測範囲26を求める。
図5は、図4に示す複数の捜索領域に予測範囲が跨るか否かを判定する方法の例を説明するための図である。位置30は、航跡Taの平滑位置である。位置31は、航跡Taの予測位置である。交点32は、位置31から固有ベクトル方向に伸ばした直線と境界22との交点である。航跡管理部16は、境界22のうち位置31に最も近い位置33を参照点として求める。航跡管理部16は、位置33が予測範囲28A内にある場合に、予測範囲28Aが複数の捜索領域に跨ると判断する。すなわち、航跡管理部16は、第1の捜索領域と第2の捜索領域との境界22のうち第1の捜索領域に属する航跡の予測位置に最も近い位置である参照点が予測範囲に含まれるか否かに基づいて、予測範囲が第1の捜索領域と第2の捜索領域とに跨るか否かを判定する。
航跡管理部16は、複数の捜索領域に航跡の予測範囲が跨るか否かの判定結果を、航跡の登録と、航跡の移動と、航跡の削除とにおける判断基準の1つとして使用する。航跡の移動とは、処理対象である航跡を所属外領域に属する航跡として登録することを指す。航跡の削除とは、航跡の情報を削除することを指す。
次に、航跡管理部16による航跡の登録、航跡の移動および航跡の削除について説明する。図6は、実施の形態1にかかるレーダ装置が有する航跡管理部による航跡の登録、航跡の移動および航跡の削除のための動作手順を示すフローチャートである。ステップS1において、航跡管理部16は、追尾のための処理対象である航跡についての予測範囲を算出する。ステップS2において、航跡管理部16は、ステップS1において算出された予測範囲が、処理対象である航跡が属する所属領域と所属外領域とに跨るか否かを判断する。
予測範囲が所属領域と所属外領域とに跨る場合(ステップS2,Yes)、航跡管理部16は、航跡を登録するための処理を行う。航跡を登録するための処理として、航跡管理部16は、ステップS3において、所属外領域に属する航跡が登録されているか否かを判断する。
所属外領域に属する航跡が登録されていない場合(ステップS3,No)、航跡管理部16は、ステップS4において、処理対象である航跡を複製して、複製された航跡を所属外領域に属する航跡として登録する。航跡の複製とは、ある所属領域に属する航跡の情報を、所属外領域に属する航跡の情報としても保持すること、すなわち、ある目標についての航跡の情報を複数の捜索領域に対応させて保持することを指す。ステップS4を終えると、航跡管理部16は、図6に示す手順による動作を終了する。所属外領域に属する航跡が既に登録されている場合(ステップS3,Yes)、航跡管理部16は図6に示す手順による動作を終了する。
予測範囲が所属領域と所属外領域とに跨らない場合(ステップS2,No)、ステップS5において、航跡管理部16は、ステップS1において算出された予測範囲が所属外領域に内包されるか否かを判断する。予測範囲が所属外領域に内包される場合(ステップS5,Yes)、航跡管理部16は、航跡を移動するための処理を行う。航跡を移動するための処理として、航跡管理部16は、ステップS6において、所属外領域に属する航跡が登録されているか否かを判断する。
所属外領域に属する航跡が登録されていない場合(ステップS6,No)、航跡管理部16は、ステップS8において、処理対象である航跡を所属外領域に属する航跡として移動する。一方、所属外領域に属する航跡が既に登録されている場合(ステップS6,Yes)、航跡管理部16は、ステップS7において、処理対象である航跡と所属外領域に属する航跡とのうち評価値が高いほうの航跡を選択する。処理対象である航跡の評価値が所属外領域について登録されている航跡の評価値よりも高い場合、航跡管理部16は、所属外領域について登録されている航跡を削除し、処理対象である航跡を所属外領域に属する航跡として登録する。一方、所属外領域について登録されている航跡の評価値が処理対象である航跡の評価値よりも高い場合、航跡管理部16は、所属外領域についての航跡の登録を維持する。ステップS7またはステップS8を終えると、航跡管理部16は、図6に示す手順による動作を終了する。
ステップS1において算出された予測範囲が所属外領域に内包されない場合(ステップS5,No)、かかる予測範囲は、所属領域に内包される。ステップS9において、航跡管理部16は、所属領域についての属する航跡の登録後に、所属領域についての観測値が1回以上取得されたか否かを判断する。所属領域についての観測値が1回以上取得されるとは、部分観測範囲について収集された観測値が航跡更新部17へ1回以上入力されていることを指す。
所属領域についての観測値が1回以上取得されている場合(ステップS9,Yes)、航跡管理部16は、手順をステップS10へ進める。予測範囲が所属領域に内包され、かつ航跡の登録後に所属領域についての観測値が1回以上取得されている場合に、航跡管理部16は、航跡を削除するための処理を行う。一方、所属領域についての観測値が1回以上取得されていない場合(ステップS9,No)、航跡管理部16は、図6に示す手順による動作を終了する。
航跡を削除するための処理として、航跡管理部16は、ステップS10において、処理対象である航跡が最良航跡か否かを評価値に基づいて判断する。ここでは、追尾している目標についての航跡の情報が複数の捜索領域に対応させて保持されているとして、処理対象である航跡の評価値が、各航跡の評価値の中で最も高いか否かを判断する。処理対象である航跡の評価値が各航跡の評価値の中で最も高い場合、航跡管理部16は、処理対象である航跡を、複数の捜索領域に対応させて保持されている複数の航跡における最良航跡と判断する。
追尾している目標について、複数の捜索領域に対応させて保持されている複数の航跡のうち、処理対象である航跡が最良航跡である場合(ステップS10,Yes)、航跡管理部16は、ステップS11において、処理対象である航跡以外のすべての航跡を削除する。すなわち、航跡管理部16は、追尾している目標について、複数の捜索領域に対応させて保持されている複数の航跡のうち、処理対象である航跡以外のすべての航跡を削除する。一方、処理対象である航跡が最良航跡ではない場合(ステップS10,No)、航跡管理部16は、ステップS12において、処理対象である航跡を削除する。ステップS11またはステップS12を終えると、航跡管理部16は、図6に示す手順による動作を終了する。
次に、実施の形態1にかかるレーダ装置1による目標追尾処理と、比較例における目標追尾処理とについて説明する。比較例の場合、レーダ装置1は、目標ごとに1つの航跡を保持する。比較例の場合、レーダ装置1は、各目標について、複数の捜索領域において捜索領域ごとの航跡の保持を行わない。比較例の場合、レーダ装置1は、部分捜索範囲において収集された各観測値について航跡との相関処理によって、例えば航跡の評価値が最も高くなる観測値を判定する。レーダ装置1は、判定された観測値に基づいて、保持している航跡を更新する。
図7は、実施の形態1の比較例における目標追尾処理の例を示す概念図である。図7において、縦軸は時刻、横軸は方位角方向における位置をそれぞれ表す。図7では、初期状態として、1つの目標の追尾により航跡T10が得られているものとして、初期状態以降における目標追尾処理の様子を示している。矢印Dは、方位角方向における目標の位置の推移を表している。
航跡管理部16は、航跡T10に基づいて予測範囲26を求める。観測値収集部15は、部分観測範囲P11について観測値を収集することによって、観測値d11を取得する。部分観測範囲P11は、予測範囲26のうち捜索領域21Bに含まれる範囲である。ここで、目標は、実際には捜索領域21Aに存在しているものとする。観測値d11は、誤検出された観測値である。航跡更新部17は、観測値d11に基づく航跡T10の更新処理によって、航跡T11を算出する。
航跡管理部16は、航跡T11に基づいて予測範囲26を求める。航跡更新部17は、部分観測範囲P12について取得された観測値d12に基づく航跡T11の更新処理によって、航跡T12を算出する。その次に求められる予測範囲26のうち捜索領域21Aに含まれる部分観測範囲P13には、捜索領域21Aにおける目標の検出によって得られる観測値d13は含まれない。または、部分観測範囲P13に観測値d13が含まれる場合であっても、観測値d13が航跡T12とは相関しないことによって、航跡T12の更新処理において観測値d13は使用されない。
このように、比較例では、実際には目標が存在していない捜索領域において誤検出された観測値と目標とが相関した場合に、誤検出された観測値によって航跡が更新されることによって、レーダ装置1の追尾性能が低下することがある。比較例の場合、誤検出された観測値によって航跡が更新された後に、目標が存在する捜索領域における目標の検出によって観測値が得られても観測値が航跡とは相関しないことによって、レーダ装置1は、目標の追尾を継続できなくなることがある。
図8は、実施の形態1にかかるレーダ装置による目標追尾処理の第1の例を示す概念図である。第1の例は、目標の位置が捜索領域21Aの中で推移する場合の例とする。図8において、縦軸は時刻、横軸は方位角方向における位置をそれぞれ表す。図8では、初期状態として、1つの目標の追尾により航跡T20aが得られているものとして、初期状態以降における目標追尾処理の様子を示している。航跡T20aは、捜索領域21Aに属する航跡である。
ここで、処理対象である航跡T20aの予測範囲が、第1の捜索領域である捜索領域21Aと第2の捜索領域である捜索領域21Bとに跨っており、かつ捜索領域21Bに属する航跡が登録されていないとする。第1の捜索領域は、覆域20に含まれる複数の捜索領域のうちの任意の1つである。第2の捜索領域は、第1の捜索領域以外の捜索領域である。航跡管理部16は、航跡T20aを複製する。航跡管理部16は、複製された航跡T20bを、捜索領域21Bに属する航跡として保持する。これにより、所属外領域である捜索領域21Bに属する航跡T20bが登録される。このように、航跡管理部16は、捜索領域21Aに属する航跡T20aと同じ航跡の情報を、捜索領域21Bに属する航跡T20bの情報として保持する。
航跡管理部16は、航跡T20a,T20bに基づいて予測範囲26を算出する。観測値収集部15は、部分観測範囲P21について観測値を収集することによって、観測値d21を取得する。部分観測範囲P21は、予測範囲26のうち捜索領域21Bに含まれる範囲である。ここで、目標は、実際には捜索領域21Aに存在しているものとする。観測値d21は、誤検出された観測値である。航跡更新部17は、観測値d21に基づく航跡T20a,T20bの更新処理によって、更新後の航跡を算出する。また、航跡更新部17は、航跡T20a,T20bに基づいてメモリトラック航跡を算出する。
航跡更新部17は、算出された各航跡についての評価値を算出する。航跡更新部17は、算出された航跡の中から評価値が最も高い航跡を選択する。図8に示す例では、観測値d21に基づく航跡T20bの更新処理によって算出された航跡T21bの評価値が、観測値d21に基づく航跡T20aの更新処理によって算出された航跡の評価値よりも高いことによって、航跡T21bが選択されたとする。航跡管理部16は、捜索領域21Bについて保持されている航跡T20bの情報を、航跡更新部17から入力された航跡T21bの情報に置き換える。また、航跡管理部16は、捜索領域21Aについて保持されている航跡T20aの情報を、航跡更新部17から入力された航跡T21aの情報に置き換える。航跡T21aは、航跡T20aに基づいて算出されたメモリトラック航跡である。このように、航跡更新部17は、航跡T20aと航跡T20bとのうち、航跡T20bについては観測値d21に基づいて更新後の航跡T21bを求め、かつ他方については登録された航跡T20aを基に予測される航跡である航跡T21aを求める。
次に、航跡管理部16は、航跡T21a,T21bに基づいて予測範囲26を算出する。観測値収集部15は、部分観測範囲P22について観測値を収集することによって、観測値d22を取得する。部分観測範囲P22は、予測範囲26のうち捜索領域21Bに含まれる範囲である。ここで、目標は、実際には捜索領域21Aに存在しているものとする。観測値d22は、誤検出された観測値である。航跡更新部17は、観測値d22に基づく航跡T21a,T21bの更新処理によって、更新後の航跡を算出する。また、航跡更新部17は、航跡T21a,T21bに基づいてメモリトラック航跡を算出する。
航跡更新部17は、算出された各航跡についての評価値を算出する。航跡更新部17は、算出された航跡の中から評価値が最も高い航跡を選択する。図8に示す例では、観測値d22に基づく航跡T21bの更新処理によって算出された航跡T22bの評価値が、観測値d22に基づく航跡T21aの更新処理によって算出された航跡の評価値よりも高いことによって、航跡T22bが選択されたとする。航跡管理部16は、捜索領域21Bについて保持されている航跡T21bの情報を、航跡更新部17から入力された航跡T22bの情報に置き換える。また、航跡管理部16は、捜索領域21Aについて保持されている航跡T21aの情報を、航跡更新部17から入力された航跡T22aの情報に置き換える。航跡T22aは、航跡T21aに基づいて算出されたメモリトラック航跡である。このように、航跡更新部17は、航跡T21aと航跡T21bとのうち、航跡T21bについては観測値d22に基づいて更新後の航跡T22bを求め、かつ他方については登録された航跡T21aを基に予測される航跡である航跡T22aを求める。
次に、航跡管理部16は、航跡T22a,T22bに基づいて予測範囲26を算出する。観測値収集部15は、部分観測範囲P23について観測値を収集することによって、観測値d23を取得する。部分観測範囲P23は、予測範囲26のうち捜索領域21Aに含まれる範囲である。ここで、目標は、捜索領域21Aに存在しているものとする。観測値d23は、目標の検出によって得られた観測値である。航跡更新部17は、観測値d23に基づく航跡T22a,T22bの更新処理によって、更新後の航跡を算出する。また、航跡更新部17は、航跡T22a,T22bに基づいてメモリトラック航跡を算出する。
航跡更新部17は、算出された各航跡についての評価値を算出する。航跡更新部17は、算出された航跡の中から評価値が最も高い航跡を選択する。図8に示す例では、観測値d23に基づく航跡T22aの更新処理によって算出された航跡T23aの評価値が、観測値d23に基づく航跡T22bの更新処理によって算出された航跡の評価値よりも高いことによって、航跡T23aが選択されたとする。航跡管理部16は、捜索領域21Aについて保持されている航跡T22aの情報を、航跡更新部17から入力された航跡T23aの情報に置き換える。また、航跡管理部16は、捜索領域21Bについて保持されている航跡T22bの情報を、航跡更新部17から入力された航跡T23bの情報に置き換える。航跡T23bは、航跡T22bに基づいて算出されたメモリトラック航跡である。このように、航跡更新部17は、航跡T22aと航跡T22bとのうち、航跡T22aについては観測値d23に基づいて更新後の航跡T23aを求め、かつ他方については登録された航跡T22bを基に予測される航跡である航跡T23bを求める。
さらに、航跡T23bの予測範囲が捜索領域21Bに内包されるとする。航跡T23aの情報と航跡T23bの情報とが保持された時点では、捜索領域21Bに属する航跡T20bが登録された以降において、捜索領域21Aについての観測値と捜索領域21Bについての観測値とがともに1回以上取得されている。航跡管理部16は、航跡T23aの評価値と航跡T23bの評価値とを比較し、航跡T23aと航跡T23bとのうち評価値が低いほうの航跡を削除する。図8に示す例では、航跡管理部16は、航跡T23bを削除する。
このように、実施の形態1にかかるレーダ装置1は、複数の捜索領域の各々に対応させて航跡の情報を保持する。レーダ装置1は、実際には目標が存在していない捜索領域にて誤検出された観測値に基づいて更新後の航跡が求められる場合であっても、目標が存在する捜索領域についてメモリトラック航跡を求めることによって、追尾性能の低下を抑制できる。また、目標が存在する捜索領域における目標の検出によって得られた観測値が航跡と相関するため、レーダ装置1は、目標の追尾を継続することができる。
図9は、実施の形態1にかかるレーダ装置による目標追尾処理の第2の例を示す概念図である。第2の例は、目標の位置が捜索領域21Aから捜索領域21Bへ移動する場合の例とする。図9において、縦軸は時刻、横軸は方位角方向における位置をそれぞれ表す。図9では、初期状態として、1つの目標の追尾により航跡T30aが得られているものとして、初期状態以降における目標追尾処理の様子を示している。航跡T30aは、捜索領域21Aに属する航跡である。
ここで、処理対象である航跡T30aの予測範囲が、第1の捜索領域である捜索領域21Aと第2の捜索領域である捜索領域21Bとに跨っており、かつ捜索領域21Bに属する航跡が登録されていないとする。航跡管理部16は、航跡T30aを複製する。航跡管理部16は、複製された航跡T30bを、捜索領域21Bに属する航跡として保持する。これにより、所属外領域である捜索領域21Bに属する航跡T30bが登録される。このように、航跡管理部16は、複数の捜索領域21A,21Bのうちの捜索領域21Aに属する航跡T30aと同じ航跡の情報を、捜索領域21Bに属する航跡T30bの情報として保持する。
航跡管理部16は、航跡T30a,T30bに基づいて予測範囲26を算出する。観測値収集部15は、部分観測範囲P31について観測値を収集することによって、観測値d31を取得する。部分観測範囲P31は、予測範囲26のうち捜索領域21Bに含まれる範囲である。ここで、目標は、実際には捜索領域21Aに存在しているものとする。観測値d31は、誤検出された観測値である。航跡更新部17は、観測値d31に基づく航跡T30a,T30bの更新処理によって、更新後の航跡を算出する。また、航跡更新部17は、航跡T30a,T30bに基づいてメモリトラック航跡を算出する。
航跡更新部17は、算出された各航跡についての評価値を算出する。航跡更新部17は、算出された航跡の中から評価値が最も高い航跡を選択する。図9に示す例では、観測値d31に基づく航跡T30bの更新処理によって算出された航跡T31bの評価値が、観測値d31に基づく航跡T30aの更新処理によって算出された航跡の評価値よりも高いことによって、航跡T31bが選択されたとする。航跡管理部16は、捜索領域21Bについて保持されている航跡T30bの情報を、航跡更新部17から入力された航跡T31bの情報に置き換える。また、航跡管理部16は、捜索領域21Aについて保持されている航跡T30aの情報を、航跡更新部17から入力された航跡T31aの情報に置き換える。航跡T31aは、航跡T30aに基づいて算出されたメモリトラック航跡である。このように、航跡更新部17は、航跡T30aと航跡T30bとのうち、航跡T30bについては観測値d31に基づいて更新後の航跡T31bを求め、かつ他方については登録された航跡T30aを基に予測される航跡である航跡T31aを求める。
次に、航跡管理部16は、航跡T31a,T31bに基づいて予測範囲26を算出する。観測値収集部15は、部分観測範囲P32について観測値を収集することによって、観測値d32を取得する。部分観測範囲P32は、予測範囲26のうち捜索領域21Bに含まれる範囲である。ここで、目標は、実際には捜索領域21Bに存在しているものとする。観測値d32は、目標の検出によって得られた観測値である。航跡更新部17は、観測値d32に基づく航跡T31a,T31bの更新処理によって、更新後の航跡を算出する。また、航跡更新部17は、航跡T31a,T31bに基づいてメモリトラック航跡を算出する。
航跡更新部17は、算出された各航跡についての評価値を算出する。航跡更新部17は、算出された航跡の中から評価値が最も高い航跡を選択する。図9に示す例では、観測値d32に基づく航跡T31bの更新処理によって算出された航跡T32bの評価値が、観測値d32に基づく航跡T31aの更新処理によって算出された航跡の評価値よりも高いことによって、航跡T32bが選択されたとする。航跡管理部16は、捜索領域21Bについて保持されている航跡T31bの情報を、航跡更新部17から入力された航跡T32bの情報に置き換える。また、航跡管理部16は、捜索領域21Aについて保持されている航跡T31aの情報を、航跡更新部17から入力された航跡T32aの情報に置き換える。航跡T32aは、航跡T31aに基づいて算出されたメモリトラック航跡である。このように、航跡更新部17は、航跡T31aと航跡T31bとのうち、航跡T31bについては観測値d32に基づいて更新後の航跡T32bを求め、かつ他方については登録された航跡T31aを基に予測される航跡である航跡T32aを求める。
次に、航跡管理部16は、航跡T32a,T32bに基づいて予測範囲26を算出する。観測値収集部15は、部分観測範囲P33について観測値を収集することによって、観測値d33を取得する。部分観測範囲P33は、予測範囲26のうち捜索領域21Bに含まれる範囲である。ここで、目標は、実際には捜索領域21Bに存在しているものとする。観測値d33は、目標の検出によって得られた観測値である。航跡更新部17は、観測値d33に基づく航跡T32a,T32bの更新処理によって、更新後の航跡を算出する。また、航跡更新部17は、航跡T32a,T32bに基づいてメモリトラック航跡を算出する。
航跡更新部17は、算出された各航跡についての評価値を算出する。航跡更新部17は、算出された航跡の中から評価値が最も高い航跡を選択する。図9に示す例では、観測値d33に基づく航跡T32bの更新処理によって算出された航跡T33bの評価値が、観測値d33に基づく航跡T32aの更新処理によって算出された航跡の評価値よりも高いことによって、航跡T33bが選択されたとする。航跡管理部16は、捜索領域21Bについて保持されている航跡T32bの情報を、航跡更新部17から入力された航跡T33bの情報に置き換える。また、航跡管理部16は、捜索領域21Aについて保持されている航跡T32aの情報を、航跡更新部17から入力された航跡T33aの情報に置き換える。航跡T33aは、航跡T32aに基づいて算出されたメモリトラック航跡である。このように、航跡更新部17は、航跡T32aと航跡T32bとのうち、航跡T32bについては観測値d33に基づいて更新後の航跡T33bを求め、かつ他方については登録された航跡T32aを基に予測される航跡である航跡T33aを求める。
次に、航跡管理部16は、航跡T33a,T33bに基づいて予測範囲26を算出する。観測値収集部15は、部分観測範囲P34について観測値の収集を試みるが、観測値が得られなかったとする。部分観測範囲P34は、予測範囲26のうち捜索領域21Aに含まれる範囲である。航跡更新部17は、観測値に基づく航跡T33a,T33bの更新処理は行わず、航跡T33a,T33bに基づいてメモリトラック航跡を算出する。航跡T34aは、航跡T33aに基づいて算出されたメモリトラック航跡である。航跡T34bは、航跡T33bに基づいて算出されたメモリトラック航跡である。
ここで、航跡T34aの予測範囲と航跡T34bの予測範囲とが、どちらも捜索領域21Aと捜索領域21Bとに跨っていないとする。航跡更新部17は、航跡T34aについての評価値と航跡T34bについての評価値とを算出する。航跡更新部17は、航跡T34aと航跡T34bとのうち、評価値が低いほうを削除する。図9に示す例では、航跡T34aの評価値のほうが航跡T34bの評価値よりも低いとする。航跡更新部17は、航跡T34aを削除する。航跡管理部16は、捜索領域21Bについて保持されている航跡T33bの情報を、航跡更新部17から入力された航跡T34bの情報に置き換える。
レーダ装置1は、相関処理における判定の誤りによって、目標が存在していない捜索領域に属する航跡が登録されている状況において、目標が捜索領域間を移動することがある。図9に示す例では、目標が存在していない捜索領域21Bに属する航跡T31bが登録されている状況において、目標が捜索領域21Aから捜索領域21Bへ移動する。レーダ装置1は、目標が過去に存在した捜索領域に属する航跡、すなわち航跡T31aを、目標が現在存在している捜索領域について得られた観測値、すなわち観測値d32によって更新処理した結果と、既存の航跡に基づくメモリトラック航跡との中から最良航跡を選択する。実施の形態1によると、レーダ装置1は、追尾の精度が低下し得るこのような状況でも、追尾性能の低下を抑制できる。
次に、航跡更新部17へ部分観測範囲ごとの観測値が入力される順序と観測値の時系列とが逆転する場合について説明する。図10は、実施の形態1において部分観測範囲ごとの観測値が入力される順序と観測値の時系列とが逆転する例について説明するための概念図である。
観測値収集部15は、部分観測範囲内の観測値の収集が完了してから、航跡更新部17へ観測値を出力する。このように観測値収集部15では、部分観測範囲ごとの観測値を出力するための処理が一括して行われる。このため、複数の部分観測範囲の各々から航跡更新部17へ観測値が入力される順序が、複数の部分観測範囲の各々における観測値が観測された順序とは逆になる場合がある。図10に示す例では、部分観測範囲P7における観測値d7が観測された時刻が部分観測範囲P6における観測値d6が観測された時刻よりも早いとする。観測値d6と観測値d7とは、同一の目標の検出によって得られた観測値とする。この場合に、航跡更新部17へ観測値d7が入力されるよりも前に、航跡更新部17へ観測値d6が入力されることがあり得る。この場合、航跡更新部17は、最新の観測時刻ではなく過去の観測時刻を用いて更新処理を行う必要がある。
航跡更新部17は、更新後の航跡を求めるときに用いられた過去の観測値と過去の航跡の情報とを保持し、捜索領域ごとの観測値が航跡更新部17へ入力される順序と観測値の時系列とが逆転する場合に、時系列に従い航跡を再計算しても良い。または、航跡更新部17は、過去の時刻における目標の予測位置を求めて航跡の相関判定と更新処理とを行う。これにより、レーダ装置1は、部分観測範囲ごとの観測値が入力される順序と観測値の観測時刻とが逆転する場合でも、追尾性能の低下を抑制できる。
次に、航跡の予測範囲が3つ以上の捜索領域に跨がる場合について説明する。図11は、実施の形態1において航跡の予測範囲が3つ以上の捜索領域に跨がる例について説明するための概念図である。
図11に示す例では、覆域20は、4つの捜索領域21A,21B,21C,21Dに分割される。4つの捜索領域21A,21B,21C,21Dは、方位角方向に2つ、仰角方向に2つのアレイ状に配列されている。境界22は、捜索領域21A,21Cと捜索領域21B,21Dとの境界である。境界29は、捜索領域21A,21Bと捜索領域21C,21Dとの境界である。目標の位置は、4つの捜索領域21A,21B,21C,21Dを跨いで推移し得る。また、捜索領域21Aに属する航跡T8aと、捜索領域21Bに属する航跡T8bと、捜索領域21Cに属する航跡T8cとが存在している。
航跡T8bの予測範囲は、捜索領域21Bと捜索領域21Dとに跨っている。航跡T8cの予測範囲は、捜索領域21Cと捜索領域21Dとに跨っている。この場合において、航跡管理部16は、捜索領域21Dに属する航跡として、航跡T8bと航跡T8cとのうち評価値が高いほうの航跡を複製したものを登録する。すなわち、航跡管理部16は、予測範囲が3つ以上の捜索領域に跨る場合に、当該3つ以上の捜索領域の各々に属する航跡のうち評価値が最も高い航跡である最良航跡と同じ航跡の情報を、当該3つ以上の捜索領域のうち最良航跡が属する捜索領域以外の捜索領域に属する航跡の情報として保持する。これにより、レーダ装置1は、航跡の予測範囲が3つ以上の捜索領域に跨る場合において、追尾性能の低下を抑制できる。
実施の形態2.
実施の形態2では、互いに近い位置に目標が存在している場合における目標追尾処理の例について説明する。図12は、実施の形態2にかかるレーダ装置による目標追尾処理の例を示す概念図である。実施の形態2にかかるレーダ装置1は、実施の形態1にかかるレーダ装置1と同様の構成を有する。実施の形態2では、上記の実施の形態1と同一の構成要素には同一の符号を付し、実施の形態1とは異なる処理について主に説明する。
実施の形態2において、航跡管理部16は、複数の目標が互いに接近している場合に、各目標についての予測範囲を包含する予測範囲を算出する。航跡更新部17は、最良航跡を目標ごとに選択するのではなく、複数の目標について、目標ごとの評価値の合計が最大となるような航跡の組み合わせを選択する。なお、航跡更新部17は、2つ以上の目標についての各航跡が互いに共通の観測値と相関する場合における組み合わせを選択対象から除外する。
図12には、2つの目標T4,T5の航跡を示している。航跡T4a,T4bは、目標T4の航跡である。航跡T5a,T5bは、目標T5の航跡である。航跡T4aと航跡T5aとは、捜索領域21Aに属する。航跡T4bと航跡T5bとは、捜索領域21Bに属する。観測値d4と観測値d5とは、部分観測範囲P45におけるビームの照射によって収集された観測値である。
航跡更新部17は、観測値d4と相関を有する航跡T4a,T5aについて、観測値d4に基づく更新後の航跡T4a4,T5a4を算出する。航跡更新部17は、観測値d5と相関を有する航跡T5a,T4bについて、観測値d5に基づく更新後の航跡T5a5,T4b5を算出する。また、航跡更新部17は、各航跡T4a,T4b,T5a,T5bのメモリトラック航跡である航跡T4am,T4bm,T5am,T5bmを算出する。
図13は、実施の形態2において航跡ごとに算出された評価値の例を示す図である。目標T4についての各航跡T4am,T4a4,T4bm,T4b5のうち、評価値が最も高いのは航跡T4a4である。目標T5についての各構成T5am,T5a4,T5a5,T5bmのうち、評価値が最も高いのは航跡T5a4である。各評価値の合計が最も高い航跡の組み合わせは、航跡T4a4と航跡T5a4との組み合わせである。ただし、航跡T4a4と航跡T5a4とが互いに共通の観測値d4と相関する航跡であることから、航跡管理部16は、航跡T4a4と航跡T5a4との組み合わせを選択の対象から除外する。
航跡T4a4と航跡T5a5との組み合わせは、航跡T4a4と航跡T5a4との組み合わせに次いで各評価値の合計が高い組み合わせである。また、航跡T4a4と航跡T5a5とは、互いに異なる観測値と相関する航跡である。航跡管理部16は、航跡T4a4と航跡T5a5との組み合わせを選択する。
多目標の航跡を更新する場合に、2つ以上の目標についての各航跡が互いに共通の観測値と相関するという結果を除外しながら各航跡の最良の組み合わせを選択するためのアルゴリズムとしては、Global Nearest Neighbor(GNN)が知られている。各目標について捜索領域21A,21Bごとに複数の航跡の情報を保持し、複数の航跡と、各航跡との相関を有する観測値との組み合わせの中から、当該目標について航跡を更新するための航跡を各航跡の中から選択する点が、実施の形態2による更新処理の特徴の1つである。
実施の形態2にかかるレーダ装置1は、複数の目標の各航跡が共通の観測値と相関を有することで同一の目標を追尾するというダブルトラックの発生を抑制することができる。
実施の形態3.
図14は、実施の形態3にかかるレーダ装置のブロック図である。実施の形態3にかかるレーダ装置2は、複数のアレイアンテナ10を有する。実施の形態3では、上記の実施の形態1または2と同一の構成要素には同一の符号を付し、実施の形態1または2とは異なる構成について主に説明する。
レーダ装置2は、複数の送信部11と、複数の受信部12と、複数のビーム制御部13とを有する。複数の送信部11の各々は、アレイアンテナ10に対応して設けられている。複数の受信部12の各々は、アレイアンテナ10に対応して設けられている。複数のビーム制御部13の各々は、アレイアンテナ10に対応して設けられている。複数のアレイアンテナ10の各々は、覆域20に含まれる各捜索領域を互いに分担して、ビームの照射と反射波の受信とを行う。信号処理部14には、複数の受信部12の各々からの位相振幅情報が入力される。
実施の形態3にかかるレーダ装置2は、複数のアレイアンテナ10を有することによって、捜索領域同士の境界付近において精度良く目標を追尾することができる。
実施の形態4.
図15は、実施の形態4にかかるレーダ装置のブロック図である。実施の形態4にかかるレーダ装置3は、目標諸元算出部18を有する。実施の形態4では、上記の実施の形態1から3と同一の構成要素には同一の符号を付し、実施の形態1から3とは異なる構成について主に説明する。
航跡管理部16は、保持されている航跡の情報を目標諸元算出部18へ出力する。目標諸元算出部18は、航跡の情報に基づいて、目標についての情報である目標諸元を算出する。目標諸元には、目標の位置、目標の速度といった情報が含まれる。目標諸元算出部18は、例えば、追尾している目標について複数の捜索領域に対応させて保持されている複数の航跡のうち評価値が最大である最良航跡の情報に基づいて目標諸元を算出する。または、目標諸元算出部18は、目標諸元として、各捜索領域に属する各航跡についての平均値を算出する。目標諸元算出部18は、各航跡の評価値に基づく加重平均による平均値を算出する。目標諸元算出部18は、レーダ装置3の外部にある外部装置へ目標諸元のデータを出力する。外部装置の図示は省略する。レーダ装置3は、レーダ装置3に連接されたシステムへ目標諸元を出力しても良い。レーダ装置3から出力される目標諸元の情報は、コンソールにおける表示において使用されても良い。
実施の形態4にかかるレーダ装置3は、各目標について複数の航跡の情報が保持される場合に、各目標についての目標諸元を外部装置へ出力することができる。
次に、各実施の形態の変形例について説明する。図5に示すように複数の捜索領域に予測範囲が跨るか否かを判定する場合における参照点は、境界22のうち位置31に最も近い位置33に限られず、位置33以外の位置であっても良い。参照点は、位置31から固有ベクトル方向に伸ばした直線と境界22との交点32であっても良い。すなわち、航跡管理部16は、第1の捜索領域に属する航跡の予測位置から固有ベクトル方向に伸ばした直線と境界22との交点32である参照点が予測範囲に含まれるか否かに基づいて、予測範囲が第1の捜索領域と第2の捜索領域とに跨るか否かを判定する。
航跡管理部16は、求めた参照点の周囲に一定間隔をなす複数の参照点を設定し、予測範囲内に1つ以上の参照点が含まれる場合に予測範囲が複数の捜索領域に跨ると判定しても良い。
処理対象である航跡の複製において、複製元の航跡と複製先の航跡とに差異が生じるのは、観測値に基づいて更新後の航跡が算出されたときである。したがって、航跡管理部16は、航跡の予測範囲が複数の捜索領域に跨るタイミングにおいて航跡を複製しなくても良く、観測値に基づいて更新された航跡を算出する直前まで待って航跡を複製しても良い。すなわち、航跡管理部16は、航跡を2つ以上の捜索領域に属する航跡として登録するための複製を、観測値に基づいて更新された航跡を算出する直前に行う。
上記する航跡の更新において、航跡管理部16は、航跡更新部17により航跡が算出されてから評価値を求め、最良航跡以外の航跡を削除する。航跡管理部16は、更新後の航跡の評価値のみを算出して最良航跡を求め、最良航跡への更新を行うこととしても良い。すなわち、航跡管理部16は、更新後の航跡の中から評価値が最も高い航跡である最良航跡を求め、最良航跡への更新を行う。
航跡更新部17は、航跡の予測範囲が2つ以上の捜索領域に跨る場合に、予測位置と観測位置との残差およびその確率密度分布に基づいて算出された評価値に、予測範囲のうち観測領域に含まれる部分の割合を加味することによって、評価値を調整しても良い。また、航跡更新部17は、観測領域および観測外領域におけるメモリトラック航跡について、観測領域と観測外領域との個別に設定されたパラメータに基づいて評価値を算出しても良い。
次に、レーダ装置1,2,3が有するハードウェア構成について説明する。ビーム制御部13、信号処理部14、観測値収集部15、航跡管理部16、航跡更新部17および目標諸元算出部18である各機能部の機能は、処理回路を使用して実現される。処理回路は、メモリに格納されるプログラムを実行するプロセッサである。または、処理回路は、レーダ装置1,2,3に搭載される専用のハードウェアである。
図16は、実施の形態1から4にかかるレーダ装置が有するハードウェア構成の第1の例を示す図である。図16には、プログラムを実行するハードウェアを用いて上記各機能部の機能が実現される場合におけるハードウェア構成を示している。プロセッサ41とメモリ42とは、バスを介して相互に接続されている。
プロセッサ41は、CPU(Central Processing Unit)である。プロセッサ41は、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、又はDSP(Digital Signal Processor)であっても良い。上記各機能部の機能は、プロセッサ41と、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせによって実現される。ソフトウェアまたはファームウェアは、プログラムとして記述され、内蔵メモリであるメモリ42に格納される。メモリ42は、不揮発性もしくは揮発性の半導体メモリであって、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)またはEEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)である。
図17は、実施の形態1から4にかかるレーダ装置が有するハードウェア構成の第2の例を示す図である。図17には、上記機能部の各機能が専用のハードウェアである処理回路43を使用して実現される場合におけるハードウェア構成を示している。処理回路43は、単一回路、複合回路、プログラム化されたプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はこれらの組み合わせである。
以上の実施の形態に示した構成は、本開示の内容の一例を示すものである。各実施の形態の構成は、別の公知の技術と組み合わせることが可能である。各実施の形態の構成同士が適宜組み合わせられても良い。本開示の要旨を逸脱しない範囲で、各実施の形態の構成の一部を省略、変更することが可能である。