以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
<1.分離方法の処理対象>
まず、本発明の実施形態に係る分離方法による処理対象の混合物、親水性粒子、疎水性粒子、疎水性液等について説明する。
処理対象物は、疎水性粒子と親水性粒子とが混在する混合物である。このような混合物としては、例えばフライアッシュ、高炉ガス灰、及び石炭等が挙げられる。フライアッシュは石炭焚き火力発電所から排出される物質であり、疎水性粒子として未燃炭素粒子(カーボン粒子の一種)を含み、親水性粒子としてSiO2、Al2O3を主成分とする金属酸化物粒子を含む。フライアッシュは、例えば親水性粒子である金属酸化物粒子を約90~95質量%含み、疎水性粒子である未燃炭素粒子を約5~10質量%含むものが多い。
高炉ガス灰は高炉へ装入した原料の粉塵、高炉内の冶金反応により生じた粉塵等を捕集したもの、言い換えると高炉集塵灰であり、疎水性粒子としてコークス由来の未燃炭素粒子を含み、親水性粒子としてFe2O3を主成分とする金属酸化物粒子を含む。高炉ガス灰は、例えば未燃炭素粒子を15~30質量%、金属酸化物粒子を70~85質量%含む。
石炭は、疎水性粒子であるカーボンの粒子(コークス粉又は石炭粉等)に、親水性粒子である金属酸化物(Al2O3、SiO2等)の粒子が混入した混合物である。
ところで、本実施形態の処理対象物である混合物においては、疎水性粒子と親水性粒子とが互いに独立して存在する場合もあるし、両者が一体となっている場合もある。両者が一体となっている場合の例としては、親水性粒子が疎水性粒子の表層部または内部に混入している場合が挙げられる。具体的には、疎水性粒子は多孔質となっていることが多い。そして、疎水性粒子が多孔質となる場合、その表層部の気孔に親水性粒子が混入していることが多い。そして、疎水性粒子の表層部に混入した親水性粒子は、疎水性粒子に親水性を付与することになる。つまり、疎水性粒子の表層部の一部は親水化していることが多い。さらに、疎水性粒子の内部の気孔にも金属酸化物粒子が混入している場合がある。
疎水性粒子の表層部または内部に親水性粒子が混入している場合(特に、疎水性粒子の内部に親水性粒子が混入している場合)、単に混合物を水及び疎水性液と攪拌しただけでは、両者を十分に分離することが困難な場合がある。
このため、疎水性粒子と親水性粒子との分離効率を高めるためには、混合物を事前粉砕することが好ましい。このような事前粉砕により、疎水性粒子の表層部または内部の親水性粒子を疎水性粒子から除去することができる。ただし、このような事前粉砕によっても、疎水性粒子の表層部に親水性粒子が残留する場合がある。そして、疎水性粒子の表層部の一部は残留した親水性粒子によって親水性となっている。また、このような事前粉砕はビーズミルを用いた湿式粉砕により行われる場合があり、この場合、疎水性粒子の表層部に水が残留することがある。疎水性粒子の表層部に残留した水も疎水性粒子の表層部に親水性を付与する。
本実施形態では、上記のような親水性粒子と疎水性粒子の混合物から、親水性粒子(例えば金属酸化物粒子)と疎水性粒子(例えば未燃炭素粒子)をそれぞれ分離して回収する。これにより、金属酸化物粒子は、例えば、コンクリート用原料(骨材、混和剤等)や建材の原料等に再利用され、未燃炭素粒子は、例えば、発電用、製鉄用、セメントクリンカー用の炭素材料等として再利用される。この際、回収される金属酸化物粒子中における未燃炭素粒子の含有率を例えば6質量%以下にまで低下させることができれば、金属酸化物粒子の品質が向上し、リサイクル用途が向上する。特に、金属酸化物粒子中における未燃炭素粒子の含有率を3質量%以下にまで低下させることができれば、JIS A6201-2008に記載のコンクリート用フライアッシュI種の品質規定中の強熱減量(未燃炭素粒子の含有率とほぼ同値)の範囲内になり、他の粉末度などの品質規定を調整することにより、コンクリート用フライアッシュとして、金属酸化物粒子を有償でリサイクル可能となり、さらにそのリサイクル用途も拡張する。
次に、本実施形態に係る分離方法で使用する疎水性液について説明する。疎水性液は、疎水性を有する液体、即ち、水に対する親和性が低い(水に溶解し難い、若しくは水と混ざり難い)性質を有する液体である。疎水性液は、例えば、20℃の水に対する溶解度が0g/L以上、5.0g/L以下の液体である。なお、本明細書における疎水性とは、親油性を含む性質である。疎水性液は、例えば、疎水性を有する有機溶剤(以下、「疎水性液」という。)、又は各種の油等であってよい。疎水性液は、水に対する親和性が低いので、疎水性液と水を混合及び撹拌した混合液を静置すると、水を主体とする水相と、疎水性液を主体とする疎水性液相の2相に分離される。なお、詳細は後述するが、処理対象である混合物、水、及び疎水性液の混合液(スラリー)を静置すると、上記水相及び疎水性液相の間にエマルジョン相が形成される。このエマルジョン相内には疎水性粒子が大量に含まれる。
さらに、本実施形態では、疎水性液として、水と比重が異なる、即ち比重が1より大きいか、または1より小さい液体を使用する。水と比重が異なる疎水性液を用いることで、疎水性液と水の混合液を撹拌した後に静置すると、両液の比重差によって、水相と疎水性液相とに分離される。
疎水性液の比重は、0.95未満または1.05超であることが好ましい。これにより、混合物、水(比重1)、及び疎水性液を混合して静置した後、例えば1~30秒程度の短時間で迅速に、混合液がエマルジョン相、水相及び疎水性液相の3相に分離される。したがって、疎水性粒子及び親水性粒子の分離速度が向上する。また、回収工程では、固液分離装置で疎水性粒子を回収した後、当該疎水性粒子に付着した疎水性液を蒸発させる。このため、疎水性液の沸点は200℃未満が好ましく、水の沸点より低いこと、具体的には90℃未満であることがより好ましい。上記回収工程の詳細は後述する。
疎水性液は典型的には溶剤、オイルなどである。比重が0.95未満の疎水性液としては、例えばn-ペンタン、n-ヘキサン、ケロシン、ガソリンなどが挙げられ、比重が1.05超の疎水性液としては、例えば、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1-ブロモプロパン、ハイドロフルオロエーテル、シリコーンオイルなどが挙げられる。
次に、親水性粒子と疎水性粒子について説明する。親水性粒子は、水に対する親和性を有する粒子であり、上記疎水性液よりも水に混ざり易い性質を有する。一方、疎水性粒子は、上記疎水性液に対する親和性を有する粒子であり、水よりも疎水性液に混ざり易い性質を有する。
親水性粒子は、例えば、上述したように、Al2O3、SiO2、Fe2O3等の金属酸化物の粒子であるが、親水性を有する粒子であれば、その他の材質の粒子であってもよい。一方、疎水性粒子は、例えば、未燃炭素等の石炭粉若しくはコークス粉などであるが、疎水性を有する粒子で、表面の一部が親水性を有する粒子であれば、その他の材質の粒子であってもよい。疎水性粒子の表面の一部が親水性である場合、例えば、水と比重が異なる疎水性液を等容量入れた容器に疎水性粒子を投入し、撹拌した後に静置すると、水と比重が異なる疎水性液との中間部分にエマルジョン相ができ、そのエマルジョン相に疎水性粒子が濃縮される。ここで、上記試験に使用可能な容器(すなわち、エマルジョン相を観察可能な容器)としては、例えば、容器の内側の鉛直方向の一部にポリエチレンなどのプラスチック製テープを貼ったガラス製の密閉容器が挙げられる。このような容器を使用することで、接液部がガラスである部分からは水相とエマルジョン相との界面が認識でき、接液部がプラスチック製テープである部分からはエマルジョン相と疎水性液相との界面が認識できる。理由は後述する。このようにすることで、疎水性粒子の表面の一部が親水性であるかどうかの判断ができる。
処理対象物である混合物中に含まれる親水性粒子の含有率、疎水性粒子の含有率は、特に限定されないが、例えば、混合物中の親水性粒子の含有率は5~97質量%であってよく、疎水性粒子の含有率は3~95質量%程度であってよい。ただし、親水性粒子と疎水性粒子の含有率は合計で100質量%以下である。疎水性粒子が未燃炭素粒子である場合、例えば、混合物がフライアッシュ又は高炉ガス灰である場合、強熱減量率を測定し、その値を疎水性粒子の含有率とすることができる。強熱減量率とは、105℃で乾燥したサンプルを975℃にセットした大気雰囲気化の炉内で15分以上保持した際の質量減少率である。
<2.分離方法の概要>
次に、本実施形態に係る混合物から親水性粒子と疎水性粒子を分離する方法の概要について説明する。
本実施形態に係る分離方法は、親水性粒子(例えば金属酸化物粒子)と疎水性粒子(例えば未燃炭素粒子)が混在する混合物(例えばフライアッシュ)から、親水性粒子と親水性粒子をそれぞれ分離する湿式分離方法である。
この分離方法では、親水性粒子の抽出剤として水を使用するとともに、疎水性粒子の抽出剤として、水と比重が異なる疎水性液を使用する。そして、当該水と疎水性液を、処理対象の混合物(固形分)に混合して撹拌し、混合物が分散した第1スラリーを生成する(混合工程)。次いで、分離装置(例えば、沈殿槽、静置槽等のセトラー)内で当該第1スラリーを静置することで、上記第1スラリーを水相、エマルジョン相、及び疎水性液相の3相に比重分離する。ここで重要なのは、第1スラリーが単に水相及び疎水性液相の2相に分離するだけでなく、これらの相の間にエマルジョン相が形成されることである。本発明者は、後述する実験(実験例1)によって第1スラリーからエマルジョン相が形成されることを知見した。親水性粒子は主に水相内に存在し、疎水性粒子は主にエマルジョン相内に存在する。疎水性液の比重が水より大きい場合、上から水相、エマルジョン相、疎水性液相の順で各相が形成され、疎水性液相の比重が水より小さい場合、上から疎水性液相、エマルジョン相、水相の順で各相が形成される。
なお、少量の混合物を処理する場合等では、分離装置として、セトラーに替えて、ビーカー等の各種の容器を用いて第1スラリーを静置し、第1スラリーを水相、エマルジョン相、及び疎水性液相に比重分離することもできる。さらに、上記分離工程で分離された水相(第2スラリー)から、親水性粒子を分離して回収するとともに(第1回収工程)、上記分離工程で分離されたエマルジョン相(第3スラリー)から、疎水性粒子を分離して回収する(第2回収工程)。これによって、親水性粒子と疎水性粒子を迅速かつ効率的に分離でき、含有率の高い親水性粒子と疎水性粒子をそれぞれ回収して再利用することができる。以下に、かかる分離方法について詳述する。
(2-1.分離原理と作用効果)
ここで、図1を参照して、本実施形態に係る分離方法の原理について説明する。図1は攪拌直後の第1スラリーの状態を模式的に示す模式図である。本実施形態における分離方法では、疎水性粒子と親水性粒子とが混在する混合物に、水と疎水性液を投入し、激しく撹拌(混合)する。これによって第1スラリーを生成する。ついで、第1スラリーを例えばセトラー内で静置する。これにより、第1スラリーを水相、エマルジョン相、及び疎水性液相に分離する。
このようなエマルジョン相が形成される理由は以下の通りであると推察される。すなわち、攪拌直後の第1スラリーにおいては、水相1中に疎水性液の微細な液滴2aが多数分散している。また、水相1内には親水性粒子5も多数分散している。一方で、上述したように、本実施形態における疎水性粒子6は親水性の特性も有する(より詳細には、表層部の一部が金属酸化物粒子または水により親水化されている)。このため、多くの疎水性粒子6は、液滴2aの表層部に凝集する。表層部が疎水性粒子6で覆われた液滴2a同士は、互いに合一化しにくくなる。さらに、液滴2a及びその表層部を覆う疎水性粒子6全体の比重は、水及び疎水性液の間の値となる。一方で、疎水性粒子6で覆われなかった液滴2a同士は互いに合一化し、疎水性液相を形成する。したがって、表層部が疎水性粒子6で覆われた多数の液滴2a同士が合一化せずに凝集して1つの相、すなわちエマルジョン相を形成し、その上下に水相1または疎水性液相が配置されることになる。このように、エマルジョン相は主に表層部が疎水性粒子6で覆われた多数の液滴2aで構成される。ただし、エマルジョン相は、液滴2a間の水分(水相1)、当該水相1内に単独で残留する疎水性粒子6等も含む。
以上の理由により、エマルジョン相が形成されると考えられる。さらに、エマルジョン相には、多くの疎水性粒子6が存在することになる。詳細は後述するが、疎水性液内には疎水性粒子6はほとんど存在しない。そこで、本実施形態では、エマルジョン相を第1スラリーから引き抜き、このエマルジョン相から疎水性粒子を回収する。一方で、親水性粒子5は水相1に濃縮される。さらに、本実施形態では、疎水性液の比重は水と異なっているので、分離対象である混合物と、水及び疎水性液とを混合・撹拌して第1スラリーとした後、第1スラリーを静置することで、例えば1~30秒程度の短時間で第1スラリーを水相、エマルジョン相、及び疎水性液相に分離することができる。したがって、疎水性粒子6と親水性粒子5が混在する混合物から疎水性粒子6と親水性粒子5を分離するときの親水性粒子5及び疎水性粒子6の分離速度及び分離効率を向上できる。
ここで、上記特許文献1に記載の従来の浮選方法では、本実施形態のように大量の疎水性液を用いるのではなく、灯油、軽油等の捕集剤と起泡剤をわずかに用いて、比重が相対的に小さい疎水性粒子(未燃炭素101)を気泡103に付着させて浮上させていた(図8参照。)。このとき、水に添加される捕集剤及び起泡剤の添加量は、フライアッシュの質量に対して数質量%程度と微量である。しかし、かかる従来方法では、未燃炭素101の粒子径が大きい場合には、未燃炭素101が気泡103に付着したとしても、気泡103から剥がれ易いため、浮上しにくくなり、分離し難い。この従来方法では、沈降しようとする未燃炭素101に気泡を付着させて、重力に逆らって無理矢理に浮上させようとしている。このため、浮上速度が非常に遅く、未燃炭素含有率を低含有率(例えば3質量%以下)まで低下させるまでの時間が1時間程度もかかるだけでなく、回収された親水性粒子(金属酸化物)中における未燃炭素101の含有率を目標値以下(例えば3質量%以下)に低下できない場合もあるなど、分離効率も悪いという問題があった。
これに対し、本実施形態に係る分離方法は、上記特許文献1に記載の従来の浮選方法と比べて、疎水性粒子6(例えば未燃炭素)を疎水性液相中に効率的に分離して分離でき、混合物から疎水性粒子6を分離する能力に優れる。よって、疎水性粒子6の分離速度を大幅に高めることができるとともに、分離効率も向上できるので、回収された親水性粒子5中における疎水性粒子6の含有率を大幅に低減できる。
なお、疎水性粒子6が微細であるほど、疎水性粒子6と液滴2aとの親和性が高くなる。つまり、疎水性粒子6が液滴2aに捕集されやすくなり、エマルジョン相に濃縮しやすくなる。したがって、より多くの疎水性粒子6を回収することができる。ここで、上述した事前粉砕により疎水性粒子6を微細化できる。したがって、事前粉砕を行うことで、親水性粒子5と疎水性粒子6とを分離できるだけでなく、疎水性粒子6を微細化し、エマルジョン相内に留まりやすくすることもできる。したがって、疎水性粒子6を微細化するという観点からも、混合物を事前粉砕することが好ましい。
さらに、本実施形態に係る分離方法では、後述するように分離工程で使用した疎水性液を、後段の固液分離、蒸留処理などの回収工程により回収して、混合工程及び分離工程に再利用する。これにより、混合工程及び分離工程において、大量の疎水性液を循環使用できるので、当該工程中において、疎水性粒子6と疎水性液との接触確率は非常に高い。
以上のように、水相、エマルジョン相、及び疎水性液相を利用して、親水性粒子5と疎水性粒子6を湿式分離した結果、最終的には、疎水性粒子6は水相内にはほとんど含まれなくなる。このため、分離工程で用いた容器の上部から水相(親水性粒子5を含む第2スラリー)を抜き出し、脱水することで、疎水性粒子6の含有率が低い親水性粒子5を回収することができる。一方、第1スラリーからエマルジョン相(疎水性粒子6を含む第3スラリー)を抜き出し、疎水性液を固液分離することで、親水性粒子5の含有率が低い疎水性粒子6を回収することができる。
また、水の比重が疎水性液よりも低い場合、水相とその上方の気相との界面において、表面張力により、疎水性液の薄い表層が、水相の表層よりも上側に形成される場合がある。この疎水性液の表層には疎水性粒子6が付着しうる。従って、分離工程により分離された水相(親水性粒子5を含む第2スラリー)を容器から抜き出す際に、水相の表層付近から採取するよりも、水相の表層から例えば2~30cm程度下の領域から、親水性粒子5を含む第2スラリーを抜き出すことが好ましい。これにより、上記水相の上側に形成された疎水性液の表層に浮上している疎水性粒子6を、採取しないようにすることができる。従って、回収される親水性粒子5中における疎水性粒子6の含有率を、さらに低減できる。
<3.単段連続処理プロセス>
次に、本実施形態に係る分離方法を、1組の混合用ミキサー10b(混合工程)とセトラー20(比重分離工程)を用いて、単段連続処理プロセスで実施する形態について説明する。なお、本実施形態に係る分離方法は、混合工程、分離工程及び回収工程等を回分処理で実施することも可能であるが、分離・回収速度及び生産性の観点からは、これら工程を同時並行する連続処理で実施することが好ましい。
(3-1.分離システムの構成と分離方法)
まず、図2を参照して、本実施形態に係る分離システム8の構成と、分離システム8を用いた親水性粒子と疎水性粒子の分離方法について説明する。図2は、本実施形態に係る分離システム8と、それを用いた単段連続処理プロセスを示す模式図である。この単段連続処理プロセスは、水と、水より比重の大きい疎水性体用い、親水性粒子と疎水性粒子からなる混合物から、親水性粒子と疎水性粒子を分離するプロセスである。
図2に示すように、分離システム8は、事前攪拌用ミキサー10aと、ビーズミル15(事前粉砕部)と、混合用ミキサー10b(混合部)と、セトラー20(比重分離部)と、界面認識装置(界面認識部)60と、第1回収装置30と、第2回収装置40とを備える。
(3-1-0)事前攪拌用ミキサーによるスラリー工程
スラリー工程では、親水性粒子及び疎水性粒子が混在した混合物に水を投入し、これらの混合液を激しく撹拌(混合)する。これにより、事前粉砕用の第0スラリーを生成する(S0)。
このスラリー工程(S0)を実行する混合装置としては、例えば、混合物及び水の混合液を撹拌する撹拌翼を備えた容器、ラインミキサー、又は内部で混合液を撹可能なポンプなどを使用することができる。図2の例の事前攪拌用ミキサー10aは、混合液を撹拌する撹拌翼を備えた容器の一例である。
事前攪拌用ミキサー10aは、事前攪拌用モータ11aと事前攪拌用撹拌翼12aを有する攪拌機である。この事前攪拌用ミキサー10aは、後段のビーズミル15に対して配管13a及びポンプP1を介して接続されている。事前攪拌用ミキサー10aの容器内部には、分離対象の混合物及び水が投入される。事前攪拌用ミキサー10aは、事前攪拌用モータ11aにより事前攪拌用撹拌翼12aを回転させることにより、混合物及び水の混合液を攪拌することで、第0スラリーを生成する(スラリー工程)。第0スラリーは、配管13aを通ってビーズミル15に送出される。なお、配管13aにはポンプP1が接続されており、ポンプP1によって配管13a中の第0スラリーがビーズミル15に送出される。
(3-1-1)ビーズミルによる事前粉砕工程(S1)
上述したように、疎水性粒子の表層部または内部には、親水性粒子が混入している場合がある。例えば、混合物がフライアッシュである場合、フライアッシュ中の金属酸化物粒子は、Al2O3とSiO2を成分の主体としたほぼ球形の粒子である。多くの金属酸化物粒子は、未燃炭素粒子の外側に独立して存在している。しかし、フライアッシュ中の未燃炭素粒子は多孔質であり、未燃炭素粒子の表層部または内部の気孔に金属酸化物粒子が混入している場合がある。未燃炭素粒子中に入りこんでいる金属酸化物粒子の比率は、未燃炭素粒子の質量と同量におよぶことがある。
上記の<2.分離方法の概要>に示した分離方法のみで、疎水性粒子と親水性粒子との分離はある程度までは進むが、多くの疎水性粒子の内部に親水性粒子が混入している場合、分離性は悪化する。分離性の悪化の原因は、フライアッシュ中の一部の未燃炭素粒子の内部に金属酸化物粒子が混入しているためであり、このような未燃炭素粒子が多いと、分離性は悪化する。そこで、<2.分離方法の概要>に示した方法で親水性粒子及び疎水性粒子を分離する前に、対象とする混合物に対して事前粉砕処理を施すことで、疎水性粒子と親水性粒子との分離性を向上させる。また、事前粉砕を行うことで疎水性粒子が微細化するので、疎水性粒子をエマルジョン相3中に濃縮しやすくすることもできる。
本実施形態では、第0スラリーをビーズミル15に投入することで、第0スラリー中の混合物を湿式粉砕する。これにより、疎水性粒子を粉砕し、疎水性粒子中に混入している親水性粒子を疎水性粒子から除去する。したがって、第0スラリーにおいては、疎水性粒子から多くの親水性粒子が除去されている。ただし、疎水性粒子から親水性粒子を完全に除去することは難しく、疎水性粒子の表層部の気孔に親水性粒子が残留していることが多い。このため、疎水性粒子の表層部の一部は親水化されている。また、ビーズミル15によって疎水性粒子が微細化している。一方で、親水性粒子は疎水性粒子に比べて硬い場合が多く、ビーズミル15による事前粉砕を経てもその大きさはほとんど変わらないことが多い。事前粉砕後の第0スラリーは、配管13bを通って混合用ミキサー10bに導入される。
なお、混合物がフライアッシュである場合、多孔質である未燃炭素粒子は粉砕されやすいが、酸化物粒子は球形で緻密であり粉砕しにくい。よって、ビーズミル15を用いた事前粉砕工程を行うことが好ましい。これにより、フライアッシュ中に含まれる硬い酸化物粒子を破壊せずに、脆い未燃炭素粒子を、短時間で効率的に粉砕できる。上記ビーズの直径(以下、ビーズ径という。)が大きいほど、略球状の酸化物粒子の間にある粒子径が小さい未燃炭素粒子を粉砕するためには、硬い略球状の酸化物粒子を粉砕せねばならず、ビーズと粒子径の小さい未燃炭素粒子が衝突する可能性は低くなる。一方、ビーズ径が小さく、言い換えるとビーズの曲率が大きくなるほど、ビーズは、硬い略球状の酸化物粒子と衝突せずに、粒子径の小さい未燃炭素粒子と接触することができる。そのため、ビーズ径は2mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましい。なお、他の種類の混合物をビーズミル15により事前粉砕する場合にも、同様の理由からビーズ径は2mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましい。一方、ビーズ径の下限は、粉砕後、ビーズと粉体を分離する必要があるため、粉砕後の粉体の最大粒子径より大きいことが好ましく、試験を行い決定する。例えば、フライアッシュの場合、通常、粉砕後の粒子径は、200μm未満であることから、メデイアの直径は200μm以上が好ましい。
なお、粉砕方法はビーズミルに限らず、様々な方法が適用可能である。例えば、ビーズ以外の粉砕媒体(例えばボール)を用いてもよい。また、高せん断式ホモジナイザーの高速せん断羽根に衝突させて粉砕する、又は超音波粉砕機により超音波を照射して粉砕する、等のいずれを用いてもよい。混合物中の親水性粒子と疎水性粒子のそれぞれの硬さ又は両粒子の一体化状況等を観察し、最終的には粉砕方法をテストして、最適な方法を選定すればよい。また、事前粉砕は乾式で行ってもよい。この場合、スラリー工程は省略可能である。
なお、上述したスラリー工程及び事前粉砕工程は必ずしも行わなくてもよいが、親水性粒子及び疎水性粒子の分離効率、特に疎水性粒子の分離効率を高めるという観点からは、スラリー工程及び事前粉砕工程を行うことが好ましい。
(3-1-2)混合用ミキサーによる混合工程(S2)
混合工程では、第0スラリーに水及び疎水性液を投入し、これらの混合液を激しく撹拌(混合)する。これにより、第1スラリーを生成する(S2)。
この混合工程(S2)を実行する混合装置としては、上述したスラリー工程で使用した装置を挙げることができる。図2の例の混合用ミキサー10bは、混合液を撹拌する撹拌翼を備えた容器の一例である。
すなわち、混合用ミキサー10bは、混合用モータ11bと混合用撹拌翼12bを有する攪拌機である。この混合用ミキサー10bは、後段のセトラー20に対して配管13c及びポンプP2を介して接続されている。混合用ミキサー10bの容器内部には、第0スラリーと、水と、水と比重が異なる疎水性液とが投入される。混合用ミキサー10は、混合用モータ11bにより混合用撹拌翼12bを回転させることにより、混合物、水、及び疎水性液の混合液を攪拌することで、第1スラリーを生成する(混合工程)。第1スラリーは、配管13cを通ってセトラー20に送出される。なお、配管13cにはポンプP2が接続されており、ポンプP2によって配管13c中の第1スラリーがセトラー20に送出される。
(3-1-3)セトラーによる比重分離工程(S3)
セトラー20は、比重分離工程を実行する比重分離部の一例であり、上記混合用ミキサー10bに対して配管13cを介して接続される。セトラー20は、上記混合工程(S2)で生成された第1スラリーを静置することにより、水と疎水性液の比重差を利用して、親水性粒子を主として含む水相1と、疎水性粒子を主として含むエマルジョン相3と、疎水性液相2とに分離する(S3)。なお、図2の例では、水相1が疎水性液相2よりも上方に配置される例を示している。
セトラー20の上端近傍の側面は、後段の第1回収装置30に対して配管21を介して接続され、当該配管21には、親水性粒子を含む水相1(第2スラリー)を送出するためのポンプP3が設けられている。さらに、セトラー20の側面は、後段の第2回収装置40に対して配管24を介して接続され、当該配管24には、疎水性粒子を含むエマルジョン相3(第3スラリー)を送出するためのポンプP4が設けられている。なお、配管24とセトラー20との接続部分はセトラー20の上下方向に移動可能となっている。エマルジョン相3の位置が上下に変動しうるからである。配管24とセトラー20との接続部分の位置は、後述する界面認識工程の結果に基づいて制御される。さらに、セトラー20の下端には、配管23及びポンプP5が接続されており、配管23は混合用ミキサー10bに接続されている。したがって、配管23は疎水性液相2(第4スラリー)を引き抜いて混合用ミキサー10bに循環させる。ポンプP5は配管23内の第4スラリーを混合用ミキサー10bに送出する。なお、何らかの理由(例えば疎水性粒子が粗大である)等の理由により、疎水性粒子がエマルジョン相3に留まらず、疎水性液相2に落下する場合がある。このような疎水性粒子は、配管23及び混合用ミキサー10bを経由して再度セトラー20に投入される。これにより、エマルジョン相3に取り込まれなかった疎水性粒子を再度エマルジョン相3に取り込ませることができる。なお、非常に粗大な粒子はこのような循環を行ってもエマルジョン相3に取り込まれにくいので、配管23に別途回収機構を設け(例えば分岐管)、この回収機構から疎水性粒子を回収し、別途処理してもよい。あるいは、この回収機構から疎水性粒子を回収し、前段のビーズミル15に送り、粉砕してもよい。水相1が疎水性液相2よりも下方に配置される場合、配管21、23の位置が逆になる。この場合、エマルジョン相3に取り込まれなかった疎水性粒子は水相1の底部に沈降するので、セトラー20の下部に疎水性粒子の回収機構を設けて回収し、別途処理してもよい。あるいは、この回収機構から疎水性粒子を回収し、前段のビーズミル15に送り、粉砕してもよい。
セトラー20は、混合用ミキサー10bから配管13cを通じて導入された第1スラリーを、比重差を利用して、水相1と、エマルジョン相3と、疎水性液相2とに分離しながら、親水性粒子を水相1に移動させ、疎水性粒子をエマルジョン相3に移動させることにより、親水性粒子と疎水性粒子とを分離する。この分離原理は、前述の図1で説明した通りである。その後、親水性粒子を含む水相1(第2スラリー)は、セトラー20の上部から配管21を通じて第1回収装置30に排出される。一方、疎水性粒子を含むエマルジョン相3(第3スラリー)は、セトラー20の側面から配管24を通じて第2回収装置40に排出される(S5、引き抜き工程)。なお、引き抜き工程は、後述する界面認識工程の結果に基づいて行われる。詳細は後述する。
(3-1-3a)セトラーの具体例
次に、図3及び図4を参照して、セトラー20の具体例について説明する。セトラー20としては、例えば、図3に示す横流式分離装置200、図4に示す上昇流式分離装置210、あるいは不図示の液体サイクロン式分離装置等が挙げられる。
図3に示すように、横流式分離装置200では、横長の容器201の側面から、水平方向に第1スラリーが供給され、当該第1スラリーが容器201内で静置されることで、第1スラリーが水相1、エマルジョン相3、及び疎水性液相2に比重分離される。また、図4に示すように、上昇流式分離装置210では、縦長の容器211の底面から上向きに第1スラリーが供給され、当該第1スラリーが容器211内で静置されることで、第1スラリーが水相1、エマルジョン相3、及び疎水性液相2に比重分離される。
(3-1-4)界面認識装置(界面認識部)による界面認識工程(S4)
上述したように、本実施形態では、多くの疎水性粒子がエマルジョン相3内に存在する。このため、エマルジョン相3を第3スラリーとしてセトラー20、すなわち第1スラリーから引き抜く。しかし、エマルジョン相3の位置は様々な要因で上下動するため、第1スラリーからエマルジョン相3を正確に引き抜くためには、エマルジョン相3の位置を正確に認識する必要がある。ただし、少なくとも疎水性液相2とエマルジョン相3との界面が認識できれば、当該界面の近傍(疎水性液相2の比重が水相1よりも大きい場合には当該界面の直上、疎水性液相2の比重が水相1よりも小さい場合には当該界面の直下)からエマルジョン相3を引き抜くことができる。したがって、少なくとも疎水性液相2とエマルジョン相3との界面が認識できればよい。もちろん、これに加えて、水相1とエマルジョン相3との界面も認識できることが好ましい。本発明者は、以下に示す方法で各相の界面を認識できることを見出した。以下、界面認識工程の具体例を説明する。
(3-1-4a)画像認識を用いた界面認識工程
この例では、画像を用いてエマルジョン相3と他の相との界面を認識する。この例では、界面認識装置60は、セトラー20の側面に形成された観察窓と、撮像装置と、制御装置とを備える。
観察窓は、撮像装置がセトラー20の内部を観察(撮像)するための窓である。本発明者が観察窓について検討したところ、水相1とエマルジョン相3との界面を観察するために必要な観察窓の材質と、疎水性液相2とエマルジョン相3との界面を観察するために必要な観察窓の材質とは互いに異なることが判明した。具体的には、水相1とエマルジョン相3との界面を観察するための観察窓は、ガラス製であることが必要である。
一方、疎水性液相2とエマルジョン相3との界面を観察するための観察窓は、表面に親水性官能基を有しない透明板(以下、このような透明板を単に「樹脂窓」とも称する)であることが必要である。表面に親水性官能基を有しない透明板は、例えば、透明板そのものが親水性官能基を有しない樹脂で構成されているプラスチック板の他、少なくとも第1スラリーに接する面が親水性官能基を有しない透明塗料で覆われている透明板(例えばガラス製の透明板)等が挙げられる。
ここで、親水性官能基としては、例えば水酸基(OH)、アミノ基(NH2)、カルボキシル基(COOH)、スルホン酸基(SO3H)等が該当する。透明板の表面に親水性官能基を有するかどうかは、表面接触型の赤外分光法での測定にて、該当する官能基のシグナルが検出されるかどうかで判断可能である。
プラスチック板の材質としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、塩化ビニル、アクリル、ポリスチレン、ABS樹脂、ナイロン樹脂、ポリカーボネード、テフロン(登録商標)、エチレン酸ビコポリマー、フェノール樹脂、メラミン、不飽和ポリエステル、エポキシ等が挙げられる。透明塗料の具体例としては、アクリル合成樹脂塗料、ポリウレタン合成樹脂塗料、アクリルシリコン合成樹脂塗料、フッ素合成樹脂塗料等が挙げられる。なお、疎水性液によっては使用できない材質もあるため、使用する疎水性液に適した材質を選定することが好ましい。
界面の種類毎に上述した材質の観察窓を適用することで、撮像装置が各界面を撮像することができる。また、作業者が観察窓越しにセトラー20の内部を観察した場合、各相の界面を認識することができる。例えば、混合物がフライアッシュである場合、作業者が水相1とエマルジョン相3との界面をガラス窓越しに観察した場合、エマルジョン相3は黒色に見え、水相1は灰色に見える。撮像装置が当該界面を撮像した場合、エマルジョン相3を黒色に、水相1を灰色に撮像することができる。また、作業者が疎水性液相2とエマルジョン相3との界面を樹脂窓越しに観察した場合、疎水性液相2は透明に見え、エマルジョン相は黒色に見える。撮像装置が当該界面を撮像した場合、疎水性液相2を透明に、エマルジョン相3を黒色に撮像することができる。なお、観察窓が上記の条件を満たさない場合、各相の界面を認識することができない。例えば、疎水性液相2とエマルジョン相3との界面をガラス窓越しに観察しようとした場合、エマルジョン相3がメニスカスの影響で疎水性液相2側に広がり、疎水性液相2とエマルジョン相3との界面が判別できなくなってしまう。同様に、水相1とエマルジョン相3との界面を樹脂窓越しに観察しようとした場合、エマルジョン相3がメニスカスの影響で水相1側に広がり、水相1エマルジョン相3との界面が判別できなくなってしまう。
観察窓の具体例を図5及び図6に示す。図5に示す観察窓20aは、下側窓20bと上側窓20cに区分されている。水相1が疎水性液相2よりも上方に配置される場合(すなわち、疎水性液の比重が水よりも大きい場合)、下側窓20bは樹脂窓であり、上側窓20cはガラス窓となる。一方、水相1が疎水性液相2よりも下方に配置される場合(すなわち、疎水性液の比重が水よりも小さい場合)、下側窓20bはガラス窓であり、上側窓20cは樹脂窓となる。エマルジョン相3の認識精度を高めるためには、観察窓20aはなるべくセトラー20の上下端に渡って形成されていることが好ましい。ただし、エマルジョン相3の形成位置がおおよそ予測できる場合には、その範囲内で観察窓20aが形成されていればよい。
つぎに、下側窓20bと上側窓20cの設置場所と設置長さは、水相1とエマルジョン相3との界面、または、エマルジョン相3と疎水性液相2との界面が変位する場所に設置し、その変位幅を上回る長さ、例えば約2倍の長さで設置すればよい。
一方で、水相1とエマルジョン相3との界面は必ずしも認識されなくてもよい。例えば、水相1は第1スラリーの上端または下端に存在するので、これらの位置から水相1を引き抜くことができる。ただし、例えば連続処理を続けていくと、水相1を引き抜く際にエマルジョン相3も同時に引き抜く場合がある。例えば、水相1がエマルジョン相3の上方に配置される場合、水相1とエマルジョン相3との界面があらかじめ設定された位置よりも上方に移動する場合がある。この場合、水相1を引き抜く際に、エマルジョン相3も同時に引き抜いてしまうことがある。水相1及びエマルジョン相3を同時に引き抜いた場合、引き抜いた水相1から得られる固形物中に若干多めの疎水性粒子が含まれる場合がある。一方、水相1とエマルジョン相3との界面があらかじめ設定された位置よりも下方に移動する場合もある。この場合、エマルジョン相3を引き抜く際に水相1も同時に引き抜いてしまい、引き抜いたエマルジョン相3から得られる疎水性粒子に若干多めの親水性粒子が含まれることがある。このような観点から、水相1とエマルジョン相3との界面も認識することが好ましい。もちろん、この場合であっても、エマルジョン相3から多くの疎水性粒子を回収することができるので、疎水性粒子の分離速度及び分離効率は改善される。
図6は、2つの観察窓20d、20eを示す。観察窓20d、20eはそれぞれ別の相を観察するための観察窓である。例えば観察窓20dは疎水性液相2とエマルジョン相3との界面を認識するための観察窓であり、観察窓20eは水相1とエマルジョン相3との界面を認識するための観察窓であってもよい。この場合、観察窓20dは樹脂窓となり、観察窓20eはガラス窓となる。エマルジョン相3の認識精度を高めるためには、観察窓20d、20eはなるべくセトラー20の上下端に渡って形成されていることが好ましい。ただし、エマルジョン相3の形成位置がおおよそ予測できる場合には、その範囲内で観察窓20d、20eが形成されていればよい。
撮像装置は、観察窓越しに第1スラリーを撮像することで、撮像画像を取得する。この撮像画像には、少なくとも疎水性液相2とエマルジョン相3との界面が描かれており、好ましくはさらに水相1とエマルジョン相3との界面も描かれている。
制御装置は、撮像画像を解析することで、少なくとも疎水性液相2とエマルジョン相3との界面を認識し、好ましくはさらに水相1とエマルジョン相3との界面も認識する。そして、認識結果に基づいて、例えば以下の処理を行う。
具体的には、制御装置は、配管24とセトラー20との接続部分をエマルジョン相3が存在する位置に移動させる。そして、ポンプP4(引き抜き部)により配管24からエマルジョン相3(第3スラリー)が引き抜かれ、第2回収装置40に排出される(S5、引き抜き工程)。
さらに、制御装置は、連続処理を行っている場合、エマルジョン相3の位置(具体的には、水相1とエマルジョン相3との界面(界面1)の位置と、疎水性液相2とエマルジョン相3との界面(界面2)の位置)を設定位置からなるべく変動させないようにするために、以下の処理を行うことが好ましい。例えば、制御装置は、界面1が設定位置より高い場合には、エマルジョン相3をポンプP4により引き抜き、界面1が設定位置より低い場合には、エマルジョン相3の引き抜きを停止すればよい。一方、制御装置は、界面2が設定位置より高い場合にはポンプP5によりセトラー20の下部にある疎水性液相2を引き抜いて混合用ミキサー10bに戻し、後述するコンデンサー33から混合用ミキサー10bに供給される疎水性液の量を削減すればよい。制御装置は、界面2が設定位置より低い場合には、ポンプP5によるセトラー20の下部からの疎水性液相2の引き抜きを停止し、コンデンサー33から混合用ミキサー10bに供給される疎水性液の量を増加させればよい。なお、上記の処理は水相1が疎水性液相2よりも上方に配置される場合に行われる例である。水相1が疎水性液相2よりも下方に配置される場合も同様の処理が行われる。
なお、制御装置は上述した動作が可能な電子計算機(CPU、ROM、RAM、入力装置、ディスプレイ等で構成される)、通信装置、アクチュエータ等で構成されればよい。制御装置が行う動作は作業者が人為的に行ってもよい。
なお、回分処理を行う場合、各相の界面の位置が処理ごとに変動する。このため、制御装置は、処理ごとに界面認識装置60を上下させて、水相1とエマルジョン相3との界面、エマルジョン相3と疎水性液相2との界面の位置を界面認識装置60に認識することが好ましい。
(3-1-4b)SS(Suspended Solids)濃度を用いた界面認識工程
この例では、SS濃度を用いてエマルジョン相3と他の相との界面を認識する。この例では、界面認識装置60は、セトラー20の側面に形成された観察窓と、SS濃度測定装置と、制御装置とを備える。なお、この例では、エマルジョン相3と疎水性液相2との界面のみ認識することができる。
観察窓は上述した(3-1-4a)と同様である。SS濃度測定装置は、樹脂窓越しに光を照射し、エマルジョン相3内で散乱した散乱光と、疎水性液相2内で散乱した散乱光とを受光し、受光した散乱光に基づいて、エマルジョン相3のSS濃度と、疎水性液相2のSS濃度とを測定する。より具体的に説明すると、SS濃度測定装置は、樹脂窓の上端から下端に亘って(エマルジョン相3と疎水性液相2との界面の位置がある程度予想できる場合には予想される領域内で)、上述した光の照射、散乱光の受光、SS濃度の測定を行う。この際、SS濃度がある領域で大きく(例えば50g/l以上)変動する。そのような変動が生じた領域がエマルジョン相3と疎水性液相2との界面となる。なお、このような変動が生じるのは、エマルジョン相3中には多くの疎水性粒子が存在するのでSS濃度が高くなるが、疎水性液相2中には粒子がほとんど存在しないので、SS濃度は非常に低くなるからである。
なお、SS濃度測定装置は、各相を透過した透過光に基づいてSS濃度を測定してもよい。SS濃度測定装置は従来の装置を適宜使用することができる。
制御装置は、SS濃度測定装置が測定したSS濃度の差異に基づいて、少なくとも疎水性液相2とエマルジョン相3との界面を認識する。具体的には、制御装置は、樹脂窓越しに測定されたSS濃度の差異が所定値以上となった位置をエマルジョン相3と疎水性液相2との界面と認識する。所定は例えば上述した50g/lであるが、混合物の種類、使用する疎水性液の種類等に応じて適宜調整すればよい。
制御装置は、認識結果に基づいて、上述した処理を行う。制御装置は上述した動作が可能な電子計算機(CPU、ROM、RAM、入力装置、ディスプレイ等で構成される)、通信装置、アクチュエータ等で構成されればよい。制御装置が行う動作は作業者が人為的に行ってもよい。
(3-1-4c)電気抵抗を用いた界面認識工程
この例では、電気抵抗を用いてエマルジョン相3と疎水性液相2との界面を認識する。この例では、界面認識装置60は、電気抵抗測定装置と、制御装置とを備える。なお、この例では、エマルジョン相3と疎水性液相2との界面のみ認識することができる。
電気抵抗測定装置は、エマルジョン相3の電気抵抗と疎水性液相2の電気抵抗とを測定する。より具体的に説明すると、電気抵抗測定装置は、セトラー20内の液面から下方に向かって(エマルジョン相3と疎水性液相2との界面の位置がある程度予想できる場合には予想される領域内で)第1スラリーの電気抵抗を測定する。この際、電気抵抗がある領域で大きく変動する(例えば60~110kΩ程度だった値が∞近くまで上昇する)。そのような変動が生じた領域がエマルジョン相3と疎水性液相2との界面となる。なお、このような変動が生じるのは、エマルジョン相3では導電性を有する多くの疎水性粒子(例えば未燃炭素粒子)と、導電性の高い水とを含んでいるため、電気抵抗が小さくなるが、疎水性液相2では導電性を示す物質がほぼ存在せず、電気抵抗が∞になるからである。電気抵抗装置は従来の装置、例えば静電容量式レベル計を適宜使用することができる。
制御装置は、電気抵抗装置が測定した電気抵抗の差異に基づいて、疎水性液相2とエマルジョン相3との界面を認識する。具体的には、制御装置は、電気抵抗の差異が所定値以上となった位置をエマルジョン相3と疎水性液相2との界面と認識する。所定値は例えば110kΩであるが、混合物の種類、使用する疎水性液の種類等に応じて適宜調整すればよい。
制御装置は、認識結果に基づいて、上述した処理を行う。制御装置は上述した動作が可能な電子計算機(CPU、ROM、RAM、入力装置、ディスプレイ等で構成される)、通信装置、アクチュエータ等で構成されればよい。制御装置が行う動作は作業者が人為的に行ってもよい。
上述した各具体例はいずれか1つのみ行ってもよいし、適宜組み合わせて行ってもよい。例えば、SS濃度または電気抵抗を用いた界面認識工程でエマルジョン相3と疎水性液相2との界面を認識し、画像認識を用いた界面認識工程でエマルジョン相3と水相1との界面を認識するようにしてもよい。
このように、本実施形態では、界面認識工程(S4)によりエマルジョン相3の位置を正確に特定するので、エマルジョン相3を安定して引き抜くことができる。さらに、その上下に存在する水相1及び疎水性液相2(特に水相1)も安定して引き抜くことができる。結果として、親水性粒子及び疎水性粒子の分離効率を安定して高めることができる。
(3-1-5)第1回収装置30による第1回収工程(S6)
第1回収装置30は、上記比重分離工程(S3)により分離された親水性粒子を含む水相1(第2スラリー)から水を分離して、親水性粒子(例えば金属酸化物粒子)を回収する(S6)。第1回収装置30は、遠心分離機31と、乾燥装置32と、コンデンサー33とを備える。
遠心分離機31は、固液分離装置の一例であり、遠心力を利用して、液体中に懸濁する固体と液体とを分離する。遠心分離機31は、後段の乾燥装置32に対して配管34を介して接続され、前段の事前攪拌用ミキサー10a及び混合用ミキサー10bに対して配管35を介して接続されている。遠心分離機31には上記セトラー20から上記親水性粒子を含む水相1(第2スラリー)が導入される。遠心分離機31は、遠心力を利用して、当該第2スラリーを、親水性粒子と水とに分離する。遠心分離機31で脱水された親水性粒子は、配管34を通じて乾燥装置32に排出される。一方、遠心分離機31で分離された水は、配管35を通じて事前攪拌用ミキサー10a及び混合用ミキサー10bに戻されて、上記スラリー工程(S0)及び混合工程(S2)にて再利用される。
なお、本実施形態では、遠心分離機31による遠心分離により、第2スラリーを水と親水性粒子に固液分離するが、これに替えて、フィルタープレス又は蒸留又はろ過等の固液分離方法を用いてもよい。ただし、第2スラリーには微量の疎水性液が含まれる場合があり、さらに疎水性液が揮発性を有する場合がある。疎水性液が揮発性を有する場合、揮発した溶剤ガスの漏えいが激しい。したがって、疎水性液が揮発性を有する場合、フィルタープレスを使用することは好ましくない。溶剤ガスの漏えいを少なくするには、固液分離装置として、例えば、蒸留装置、遠心分離装置、ろ過装置を使用することが好ましい。ここで、遠心分離機31としては、後述する通常の遠心分離器の他に、濾過機能を有する遠心分離機を使用することもできる。
乾燥装置32は、上記遠心分離機31から導入された親水性粒子を加熱して、残存する水分を蒸発させることで、親水性粒子を乾燥させる(乾燥工程)。乾燥した親水性粒子は、配管36から排出されて回収される。コンデンサー33は、乾燥装置32から配管37を通じて送出された水蒸気を凝縮して、液体の水に戻す(凝縮工程)。コンデンサー33で生成された液体の水は、配管35、38を通じて事前攪拌用ミキサー10a及び混合用ミキサー10bに戻されて、上記スラリー工程(S0)及び混合工程(S2)にて再利用される。
このように、本実施形態では、第1回収工程(S6)にて、上記比重分離工程(S3)により分離された親水性粒子を含む水相1(第2スラリー)を、遠心分離機31により親水性粒子と水に分離した後に、乾燥装置32で親水性粒子を乾燥させて、乾粉の親水性粒子を回収する。しかし、第1回収工程(S3)は、かかる例に限定されず、上記分離工程(S2)により分離された親水性粒子を含む水相1(第2スラリー)に対して、上記固液分離工程や乾燥工程を行わずに、そのまま回収して、水スラリー状態の親水性粒子を回収してもよい。親水性粒子を乾粉状態又は水スラリー状態のいずれで回収するかは、親水性粒子のリサイクル用途等に応じて適宜選択可能である。
また、第1回収工程(S6)では、上記比重分離工程(S3)により分離された親水性粒子を含む水相1(第2スラリー)に対して、疎水性液の沸点以上の温度まで加温する、又は、疎水性液が蒸発する気圧まで減圧することにより、当該水相1中に残存する疎水性液を蒸発させて除去することが好ましい。これにより、回収される親水性粒子に疎水性液が含まれることを防止でき、親水性粒子の品質を向上できる。本実施形態に係る分離システム8では、図2に示す乾燥装置32による乾燥工程で、水とともに疎水性液を加熱して蒸発させることで、第2スラリー中に残存している疎水性液を除去できる。なお、疎水性液が揮発性を有する場合には、常温で蒸発するが、疎水性液の比重が水の比重より大きいことから、気相と直接接しないことが多いため、撹拌もしくはエアレーションを行う必要があり、揮発した溶剤が飛散しないように対処することが望ましい。
(3-1-6)第2回収装置40による第2回収工程(S7)
第2回収装置40は、上記引き抜き工程(S5)により分離された疎水性粒子を含むエマルジョン相3(第3スラリー)から疎水性液を分離して、疎水性粒子(例えば未燃炭素粒子)を回収する(S7)。第2回収装置40は、遠心分離機41と、乾燥装置42と、コンデンサー43とを備える。
遠心分離機41は、後段の乾燥装置42に対して配管44を介して接続され、前段の混合用ミキサー10bに対して配管45を介して接続されている。遠心分離機41には上記セトラー20からエマルジョン相3(第3スラリー)が導入される。遠心分離機41は、遠心力を利用して、当該第3スラリーを、疎水性粒子と疎水性液(水分も微量含まれるが、説明の簡略化のためにここでは疎水性液とする)とに分離する(固液分離工程)。遠心分離機41で疎水性液が分離された疎水性粒子は、配管44を通じて乾燥装置42に排出される。一方、遠心分離機41で分離された疎水性液は、配管45を通じて混合用ミキサー10bに戻されて、上記混合工程(S2)にて再利用される。なお、本実施形態では、遠心分離機41による遠心分離により、第3スラリーを疎水性液と疎水性粒子に固液分離するが、これに替えて、フィルタープレス又は蒸留又はろ過等の固液分離方法を用いてもよい。ただし、疎水性液が揮発性を有する場合、揮発した溶剤ガスの漏えいが激しいため、フィルタープレスを使用することは好ましくない。溶剤ガスの漏えいを少なくするには、固液分離装置として、例えば、蒸留装置、遠心分離装置、ろ過装置を使用することが好ましい。
ここで、遠心分離機41についてさらに詳細に説明する。セトラー20から導入された第3スラリーに遠心力を作用させた際に、第3スラリーのエマルジョンが破壊され、第3スラリーが水と疎水性液と疎水性粒子とに分離する。この3つの物体の比重と表面の性状により、疎水性粒子が濃縮する場所が異なる。例えば、第3スラリーを遠沈管に投入し、遠心加速度100G以上で第3スラリーのエマルジョンを破壊した場合、図9に示すように、第3スラリーが下側から疎水性粒子相3a、疎水性液相2、及び水相1のように分離する。このように第3スラリーが分離した場合、遠心分離機41の回転体の内筒の外側で、疎水性粒子が圧密される。このため、疎水性粒子は、遠心分離機41内のケーキかき出し装置によって排出される。また、第3スラリーを遠沈管に投入し、遠心加速度100G以上で第3スラリーのエマルジョンを破壊した場合、図10に示すように、第3スラリーが下側から疎水性液相2、疎水性粒子相3a、及び水相1のように分離する場合もある。このようなエマルジョンでは、上記の通常の遠心分離とは異なり、疎水性粒子相3aの位置が一定にならない。このため、疎水性粒子3aのみからなるケーキを回収することは困難となり、ケーキ以外に疎水性液相2も回収することになる。このような場合には、遠心分離機41として、濾過機能を有する遠心分離機を使用することが適切である。
濾過機能を有する遠心分離機の一例を図11に示す。図11に示す遠心分離機41aは、遠心力が作用する方向の壁面に濾過液が通過する細孔41cが多数形成された回転体41bを有する。回転体41bは例えば細孔41cが多数形成された円筒型容器である。この回転体41bに第3スラリーを投入し、例えば100G以上の遠心加速度で第3スラリーに遠心力を作用させると、第3スラリーのエマルジョンが破壊される。この結果、水または疎水性液は細孔41cを通過するが、疎水性粒子は細孔41cを通過できないため、疎水性粒子を脱液することができる。つまり、第3スラリーがエマルジョンのままでは、濾過抵抗が非常に大きく濾過できないが、第3スラリーに遠心力を作用させることで、第3スラリーのエマルジョンが破壊され、濾過しやすい水および疎水性液と、疎水性粒子とに分離され、第3スラリーを濾過および脱液しやすくなる。
このように、疎水性粒子が濃縮する場所によって好適な遠心分離機が異なる。そこで、第3スラリーを予め遠沈管などに入れ、遠心力を作用させて第3スラリーのエマルジョンを破壊した際に、疎水性粒子がどの部分に濃縮するかを調査する。この結果に基づいて、通常の遠心分離機を使用するのか、濾過機能を有する遠心分離機を使用するのかを判断することが好ましい。
乾燥装置42は、上記遠心分離機41から導入された疎水性粒子を加熱して、残存する疎水性液分を蒸発させることで、疎水性粒子を乾燥させる。乾燥した疎水性粒子は、配管46から排出されて回収される。コンデンサー43は、乾燥装置42から配管47を通じて送出された疎水性液の蒸気を凝縮して、液体の疎水性液に戻す(凝縮工程)。コンデンサー43で生成された液体の疎水性液は、配管48を通じて混合用ミキサー10bに戻されて、上記混合工程(S2)にて再利用される。
このように、本実施形態に係る疎水性粒子の回収方法では、第2回収工程(S7)にて、上記比重分離工程(S3)により分離された疎水性粒子を含むエマルジョン相3(第3スラリー)を、遠心分離機41により疎水性粒子と疎水性液に分離した後に、乾燥装置42で疎水性粒子を乾燥させて、乾粉の疎水性粒子(例えば未燃炭素粉)を回収する。
なお、引き抜き工程(S5)によって引き抜かれたエマルジョン相3(第3スラリー)には、微量ながら親水性粒子が含まれている場合がある。そこで、第3スラリーを第2回収装置40に導入する前に、洗浄工程を行ってもよい。洗浄工程は、第3スラリーに対して上述した混合工程(S2)、比重分離工程(S3)、界面認識工程(S4)、及び引き抜き工程(S5)と同様の処理を行うものである。洗浄工程中の混合工程では、第3スラリーにさらに水を投入する。そして、第3スラリー中の親水性粒子は洗浄工程中の比重分離工程によって水相1に取り込まれる。洗浄工程中の比重分離工程で生じた水相1及び疎水性液相2は、例えば混合用ミキサー10bに戻される。洗浄工程中の比重分離工程によって生成されたエマルジョン相3は、第2回収装置40に送出される。これにより、より親水性粒子の含有量が少ないエマルジョン相3を第2回収装置40に送出することができる。
ところで、分離対象の混合物には鉄分等の磁着物がコンタミネーションとして含まれていることがある。例えば、石炭焚き火力発電所等の炉内においては、酸素濃度が低く、かつ、石炭が炉内に滞留する時間は短時間であるため、石炭中に含まれている鉄分(Fe2O3)の一部がマグネタイト(Fe3O4)に還元される。このため、フライアッシュには、磁着物としてマグネタイト粉(Fe3O4)が残存することとなる。また、例えば、高炉ガス灰中には、磁着物として、磁性を有するスピネル型結晶構造のスピネルフェライトや、AFe2O4(AはFe、Mn、Ni、Zn等)などが含まれている。
このような磁着物は、親水性粒子及び疎水性粒子とは別の工程(磁選工程)で回収してもよい。例えば、図2に示す配管のうち適宜の箇所(例えば、配管13c、21、24)に磁選ストレーナーを設置しておき、これらの磁選ストレーナーを用いて磁着物を回収してもよい。磁着物を回収する対象に応じて磁選ストレーナーの設置位置を調整することができる。例えば、配管13cに磁選ストレーナーを設置することで、混合物全体から磁着物を回収することができる。また、配管21に磁選ストレーナーを設置することで、水相1中の親水性粒子から磁着物を回収することができる。また、配管24に磁選ストレーナーを設置することで、エマルジョン相3中の疎水性粒子から磁着物を回収することができる。
以上、本実施形態に係る分離方法及び分離システム8について説明した。本実施形態では、当該方法を単段連続処理プロセスで行うため、上記のスラリー工程(S0)、事前粉砕工程(S1)、混合工程(S2)、比重分離工程(S3)、界面認識工程(S4)、引き抜き工程(S5)、第1回収工程(S6)及び第2回収工程(S7)を同時並行で行う。これにより、親水性粒子と疎水性粒子の分離効率及び生産性を向上できる。特に、本実施形態では、界面認識工程(S4)によりエマルジョン相3の位置を正確に認識することができるので、エマルジョン相3を正確に引き抜くことができ、ひいては、疎水性粒子の分離効率及び生産性を向上できる。
さらに、第1回収工程(S6)にて親水性粒子から分離された水を回収して、スラリー工程(S0)及び混合工程(S2)で投入される水として再利用するとともに、第2回収工程(S7)にて疎水性粒子から分離された疎水性液を回収して、混合工程(S2)で投入される疎水性液として再利用する。これにより、水及び疎水性液を使い捨てにしなくても済むので、疎水性液の原料コストや廃棄コストを低減できる。さらに、混合工程(S2)及び事前分離工程(S3)で大量の疎水性液を繰り返し使用でき、疎水性粒子が疎水性液に接触する機会を増加できる。また、事前分離工程(S3)~引き抜き工程(S5)では、混合物のうち疎水性粒子をエマルジョン相3に取り込み、親水性粒子を水相1に取り込むことにより、親水性粒子と疎水性粒子を高効率で分離できる。
また、第1回収工程(S6)および第2回収工程(S7)で、例えば、疎水性液の沸点が90℃未満の時、疎水性液体より高い水温である水内に、親水性粒子を含む第2スラリーもしくは疎水性粒子を含む第3スラリーを投入し混合して、第2スラリー中もしくは第3スラリー中の疎水性液を揮発除去した後、第2スラリーもしくは第3スラリーを遠心分離機で脱水し、親水性粒子もしくは疎水性粒子を回収してもよい。
従って、本実施形態に係る分離方法は、上記特許文献1に記載の従来の浮選方法と比べて、親水性粒子と疎水性粒子の分離速度及び分離効率を大幅に向上できる。例えば、本実施形態に係る比重分離工程(S3)により、例えば1秒~30秒程度の短時間で親水性粒子と疎水性粒子を迅速に分離できる。さらに、界面認識工程(S4)によりエマルジョン相3の位置を正確に特定することができるので、疎水性粒子が濃縮したエマルジョン相3を正確に引き抜くことができる。
(3-2)疎水性液の比重の好ましい範囲
次に、本実施形態に係る分離方法で用いられる疎水性液の比重(液比重)の好ましい範囲について詳細に説明する。
疎水性液の比重は、0.95未満または1.05超であることが好ましい。疎水性液の比重が0.95以上または1.05以下であると、疎水性液と水の比重が近いので、上記比重分離工程(S3)においてセトラー20による比重分離速度が低下してしまう。このため、分離装置内で混合液(第1スラリー)を静置してから、水相1、エマルジョン相3、及び疎水性液相2の3相に分離するまでに、例えば1分以上の長時間がかかるので、所望の処理量を得るためには分離装置を大型化する必要がある。
従って、疎水性液の比重を0.95未満または1.05超とすることにより、セトラー20内で水と疎水性液を静置した後、例えば1~30秒程度で迅速に、水相1、エマルジョン相3、及び疎水性液相2の3相に分離することができ、比重分離速度を向上できる。
<4.分離システムの変形例>
次に、図2及び図7に基づいて、分離システム8の変形例である分離システム8Aについて説明する。図7に示す分離システム8Aが行うプロセスは、図2と同様に、水と、水より比重の大きい疎水性液体用い、親水性粒子と疎水性粒子からなる混合物から、親水性粒子と疎水性粒子を分離するプロセスである。分離システム8Aは、向流型2段連続処理プロセスで分離システム8と同様の処理を行うものである。なお、本変形例においても回分プロセス及び連続処理プロセスのいずれも可能であるが、連続処理プロセスで実行することが好ましい。
分離システム8Aは、図2に示す事前攪拌用ミキサー10a及びビーズミル15と(図7では図示省略)、1段目の混合用ミキサー10b-1、セトラー20-1、及び界面認識装置60-1と、2段目の混合用ミキサー10b-2、セトラー20-2、及び界面認識装置60-2と、第1回収装置30と、第2回収装置40とを備える。ここで、混合用ミキサー10b-1、10b-2は混合用モータ11b-1、11b-2と混合用撹拌翼12b-1、12b-2を有する攪拌機である。混合用ミキサー10b-1、10b-2、セトラー20-1、20-2、第1回収装置30、第2回収装置40の各々の機能及び構成は、上記分離システム8(図2等参照。)の各装置と略同一であるので、詳細説明は省略する。
図2及び図7に示すように、分離システム8Aでは、事前攪拌用ミキサー10a及びビーズミル15は、分離システム8と同様にスラリー工程(S0)及び事前粉砕工程(S1)を行う。ついで、1段目の混合用ミキサー10b-1、セトラー20-1、及び界面認識装置60-1は、1段目の混合工程(S2_1)、1段目の比重分離工程(S3_1)、1段目の界面認識工程(S4_1)、1段目の引き抜き工程(S5_1)を行う。さらに、2段目の混合用ミキサー10b-2、セトラー20-2、及び界面認識装置60-2は、2段目の混合工程(S2_2)、2段目の比重分離工程(S3_2)、2段目の界面認識工程(S4_2)、2段目の引き抜き工程(S5_2)を行う。そして、第1回収装置30は、2段目の比重分離工程(S3_2)で分離された親水性粒子を含む水相1から、親水性粒子と水を回収する(S6)。一方、第2回収装置40は、1段目の引き抜き工程(S5_1)で引き抜かれた疎水性粒子を含むエマルジョン相3から、疎水性粒子と疎水性液を回収する(S7)。
詳細には、まず、ビーズミル15から排出された第0スラリー、系内でリサイクルされる水、1段目のセトラー20-1から排出された疎水性液相2、及び2段目のセトラー20-2から排出された疎水性粒子を含むエマルジョン相3は、1段目の混合用ミキサー10b-1に投入されて、混合・撹拌される(S2_1)。ここで、系内でリサイクルされる水は、配管35、38を通って混合用ミキサー10b-1に送出される。1段目のセトラー20-1から排出された疎水性液相2は、配管23-1を通って混合用ミキサー10b-1に送出される。なお、配管23-1にはポンプP5が接続されており、ポンプP5によって配管23-1中の疎水性液相2が1段目の混合用ミキサー10b-1に送出される。2段目のセトラー20-2から排出されたエマルジョン相3(第3スラリー)は、配管24-2を通って混合用ミキサー10b-1に送出される。なお、配管24-2にはポンプP8が接続されており、ポンプP5によって配管24-2中のエマルジョン相3が混合用ミキサー10b-1に送出される。
ついで、1段目の混合用ミキサー10b-1で生成された1段目の第1スラリーは、配管13b-1を通って1段目のセトラー20-1に送出される。なお、配管13b-1にはポンプP2が接続されており、ポンプP2によって配管13b-1中の1段目の第1スラリーが1段目のセトラー20-1に送出される。
ついで、1段目のセトラー20-1にて、1段目の第1スラリーが水相1、エマルジョン相3及び疎水性液相2に分離される(S3_1)。水相1(第2スラリー)は、1段目のセトラー20-1の上部から配管21-1を通じて2段目の混合用ミキサー10b-2に投入される。配管21-1にはポンプP3が接続されており、ポンプP3によって配管21-1中の1段目の第2スラリーが混合用ミキサー10b-2に送出される。ここで、水相1には親水性粒子の他、エマルジョン相3に取り込まれずに残存した疎水性粒子を含む場合があり、これを2段目の工程でエマルジョン相3に取り込ませる。一方、1段目の界面認識工程(S4_1)によりエマルジョン相3の位置が特定される。特定されたエマルジョン相3(第3スラリー)は、配管24-1に引き出され(S5_1)、配管24-1を通って第2回収装置40の遠心分離機41に送出される。なお、配管24-1にはポンプP4が接続されており、ポンプP4によって配管24-1中のエマルジョン相3が第2回収装置40の遠心分離機41に送出される。第3スラリーを遠心分離機41に送出する前に上述した洗浄工程を行ってもよい。洗浄工程によって生じたエマルジョン相3は、第2回収装置40の遠心分離機41に送出される。洗浄工程によって生じた水相1及び疎水性液相2は、例えば1段目の混合用ミキサー10b-1に戻せばよい。疎水性液相2は、配管23-1を通って混合用ミキサー10b-1に送出される。
ついで、2段目の混合用ミキサー10b-2には、1段目で生成された第2スラリーの他、後段の遠心分離機41で固液分離された疎水性液、及び2段目のセトラー20-2から排出された疎水性液相2が投入される。遠心分離機41で固液分離された疎水性液は、配管45を通って2段目の混合用ミキサー10b-2に投入される。2段目のセトラー20-2から排出された疎水性液相2は、配管23-2を通って2段目の混合用ミキサー10b-2に投入される。配管23-2にはポンプP9が設けられており、ポンプP9によって配管23-2中の疎水性液相2が混合用ミキサー10b-1に送出される。
ついで、2段目の混合用ミキサー10b-2は、これらを混合・撹拌する(S2_2)。これによって生成された2段目の第1スラリーは、配管13b-2を通って2段目のセトラー20-2に送出される。なお、配管13b-2にはポンプP6が接続されており、ポンプP6によって配管13b-2中の第1スラリーが1段目のセトラー20-1に送出される。
ついで、2段目のセトラー20-2にて、2段目の第1スラリーが水相1、エマルジョン相3及び疎水性液相2に分離される(S3_2)。水相1(第2スラリー)は、2段目のセトラー20-2の上部から配管21-2を通じて第1回収装置30に送出される。配管21-2にはポンプP7が接続されており、ポンプP7によって配管21-2中の2段目の第2スラリーが第1回収装置30の遠心分離機31に送出される。一方、2段目の界面認識工程(S4_2)によりエマルジョン相3の位置が特定される。特定されたエマルジョン相3(第3スラリー)は、配管24-2に引き出され(S5_1)、配管24-2を通って混合用ミキサー10b-1に送出される。ここで、エマルジョン相3には疎水性粒子の他、水相1に取り込まれなかった親水性粒子が含まれる場合がある。そこで、エマルジョン相3を1段目の混合用ミキサー10b-1に戻し、1段目の工程でこのような親水性粒子を水相1に取り込ませる。疎水性液相2は、配管23-2を通って2段目の混合用ミキサー10b-2に送出される。なお、配管23-2にはポンプP9が接続されており、ポンプP9によって配管23-2中の疎水性液相2が2段目の混合用ミキサー10b-2に送出される。
第1回収装置30及び第2回収装置40は、上述した分離システム8で説明した処理と同様の処理(第1回収工程S6、第2回収工程S7)を行う。なお、第1回収工程で回収された水は、リサイクルされて、1段目の混合用ミキサー10b-1及び図示しない事前攪拌用ミキサーに投入され、スラリー工程及び1段目の混合工程(S2_1)に利用される。一方、疎水性液は、2段目の混合用ミキサー10b-2に投入され、上記2段目の混合工程(S2_2)に使用される。このように、水相1とエマルジョン相3とは互いに逆方向に流動する。つまり、水相1は上流(1段目)から下流(2段目)に流れ、第1回収装置30で回収される。一方、エマルジョン相3は下流(2段目)から上流(1段目)に流れ、第2回収装置40で回収される。なお、上述した磁選工程を適宜行ってもよい。
以上のように、変形例に係る分離システム8Aでは、1段目の混合用ミキサー10b-1、セトラー20-1、及び界面認識装置60-1と、2段目の混合用ミキサー10b-2、セトラー20-2、及び界面認識装置60-2とを用いて混合工程(S2)、比重分離工程(S3)、界面認識工程(S4)、及び引き抜き工程(S5)を2段階で行う。これにより、分離システム8Aでは、上述した単段の分離システム8と比べて、親水性粒子と疎水性粒子の分離効率をさらに向上できる。よって、疎水性粒子の含有率がより低い親水性粒子と、親水性粒子の含有率がより低い疎水性粒子をそれぞれ回収できる。さらに、本変形例は向流型連続処理プロセスであるので、分離システム8による単段連続処理プロセスと比べて、分離速度や、生産性を低下させることもない。
ここで、本実施形態に係る分離システム8Aは3段以上のN(Nは3以上の整数)段向流型多段連続処理プロセスを行うものであってもよい。この場合、分離システム8Aは、混合用ミキサー10b、セトラー20、及び界面認識装置60の組をN段有する。また、分離システム8Aは、事前攪拌用ミキサー10a、ビーズミル15、第1回収装置30、及び第2回収装置40を備える。段数が多いほど、親水性粒子と疎水性粒子の分離効率は向上し、回収される固形物中の親水性粒子と疎水性粒子の含有率をそれぞれ増加できる。N段向流型多段連続処理プロセスでは、概ね以下の処理が行われる。
n(nは1以上N以下の整数)段目の混合用ミキサーには、(n-1)段目で生成された第1スラリー(水相1)、n段目のセトラー20で分離された疎水性液相2、及び(n+1)段目で生成された第3スラリー(エマルジョン相3)が投入される。nが1となる場合、混合用ミキサーには第1スラリーの代わりに第0スラリーが投入される。第0スラリーは、他の段の混合用ミキサーに投入してもよい。また、nが1となる場合、混合用ミキサーには上記の他、第1回収装置30で回収された水も投入される。また、nがNとなる場合、第3スラリーの代わりに第2回収装置40で回収された疎水性液が投入される。事前攪拌用ミキサー10a、ビーズミル15、混合用ミキサー10b、セトラー20、界面認識装置60、第1回収装置30、及び第2回収装置40が行う処理は上述した通りである。1段目で生成された第3スラリー(エマルジョン相3)は第2回収装置40に送出され、N段目で生成された第1スラリー(水相1)は第1回収装置30に送出される。したがって、水相1とエマルジョン相3とは互いに逆方向に流動する。つまり、水相1は上流(1段目)から下流(N段目)に流れ、第1回収装置30で回収される。一方、エマルジョン相3は下流(N段目)から上流(1段目)に流れ、第2回収装置40で回収される。水相1が下流に向かうほど、水相1中の親水性粒子の含有率が高くなり、エマルジョン相3が上流に向かうほど、エマルジョン相3中の疎水性粒子の含有率が高くなる。
<1.実験例1>
次に、本実施形態の実施例について説明する。実験例1では、第1スラリーの静置後の相分離の態様、及びエマルジョン相3の界面を認識する方法について検討した。まず、水、1-ブロモプロパン(疎水性液、比重1.35)、及びビーズミルで湿式粉砕したフライアッシュをガラス容器及びPE(ポリエチレン)容器にそれぞれ投入し、激しく攪拌することで、各容器内で第1スラリーを生成した。ガラス容器は上述したガラス窓に相当し、PE容器は上述した樹脂窓に相当する。ついで、各容器を静置した。ついで、ガラス容器を肉眼で観察したところ、水面側から順に灰色の相、及び黒色の相が形成されていることがわかった。各液の比重を考慮すると、灰色の相は水相1であることがわかった。一方、水相1と黒色の相との界面よりも下方は全面黒色となり、当該界面の下方の相分離の態様を把握することができなかった。
ついで、PE容器を視認したところ、上述した水相1と黒色の相との界面よりも下方の部分で、黒色の相と透明な相とが形成されていることがわかった。各液の比重を考慮すると、透明な相は疎水性液相2であることがわかった。ただし、黒色の相と疎水性液相2との界面よりも上方は全面黒色となり、水相1と黒色の相との界面を視認することはできなかった。
以上により、水相1と疎水性液相2との間に黒色の相、すなわちエマルジョン相3が形成されていることがわかった。さらに、ガラス容器越しに水相1とエマルジョン相3との界面を視認できること、PE容器越しにエマルジョン相3と疎水性液相2との界面を視認できることがわかった。
さらに、これらの容器をキーエンスの画像認識装置(コントローラー:CV-X400F、カメラ:CA-H035C)に認識させたところ、画像認識装置は、ガラス容器から水相1とエマルジョン相3との界面を認識することができ、PE容器からエマルジョン相3と疎水性液相2との界面を認識することができた。さらに、画像認識装置によって得られた解析結果の画像(撮像画像)を詳細に検討したところ、水相1及びエマルジョン相3中に多数の粒子が浮遊していることがわかった。各液相の性状及び各粒子の性状を考慮すると、水相1中の粒子は親水性粒子となり、エマルジョン相3中の粒子は疎水性粒子となる。一方で、疎水性液相2中には粒子がほとんど観測されなかった。したがって、水相1中に多くの親水性粒子が濃縮し、エマルジョン相3中に多くの疎水性粒子が濃縮していることがわかった。さらに、(3-1-4a)の画像認識を用いた界面認識工程により各界面を認識できることがわかった。
ついで、各相の物性値(電気抵抗、光散乱または光透過によるSS濃度)を測定したところ、表1の結果が得られた。特に、下線部は各相の差異がはっきりしており、界面の認識方法として好適であることがわかった。したがって、上述した(3-1-4b)のSS濃度を用いた界面認識工程及び(3-1-4c)の電気抵抗を用いた界面認識工程により各相の界面を認識できることがわかった。
つぎに、疎水性液を1-ブロモプロパンからn-ヘキサン(疎水性液、比重0.65)に変更し、PE容器をPET製の容器に変更して、上述した処理と同様の処理を行った。この結果、表2に示すように、水相1と疎水性液相2との位置が逆転した他は上述した結果と同様の結果が得られた。特に、下線部は各相の差異がはっきりしており、界面の認識方法として好適であることがわかった。したがって、上述した(3-1-4a)の画像認識を用いた界面認識工程、(3-1-4b)のSS濃度を用いた界面認識工程、及び(3-1-4c)の電気抵抗を用いた界面認識工程により各相の界面を認識できることがわかった。
さらに、容器の内側の鉛直方向の一部に透明なポリエチレンテープを貼ったガラス製の密閉容器に、水と1-ブロモプロパンを等容量入れ、実験例1で使用したビーズミルで湿式粉砕したフライアッシュを投入し、混合した後、静置した。この結果、接液部がガラスである部分からは水相とエマルジョン相との界面が認識でき、接液部がポリエチレンテープである部分からはエマルジョン相と疎水性液相との界面が認識できた。具体的には、水相は薄い灰色になり、エマルジョン相は黒色となっていることがわかった。エマルジョン相をスポイトで採水し、顕微鏡観察したところ、フライアッシュ中の黒色の未燃炭素粒子が存在することが判明し、エマルジョン相内に未燃炭素粒子(疎水性粒子)が濃縮していることが判明した。
<2.実験例2>
実験例2では、上述した分離システム8を用いてフライアッシュから親水性粒子(金属酸化物粒子)及び疎水性粒子(未燃炭素粒子)を分離した。この際、5種類の界面認識装置60(比較例2-1、実施例2-2~2-5)を用いて、界面認識の可否及び分離効率について検討した。
まず、分離システム8が行った処理について説明する。分離対象の混合物として、フライアッシュ(未燃炭素含有率:8.6質量%)を用いた。スラリー工程(S0)では、フライアッシュを含む第0スラリーを生成した。事前粉砕工程(S1)では、直径0.3mmのビーズ(ジルコニア製)を有するビーズミル15を用いて10秒間第0スラリーを湿式粉砕した。混合工程(S2)では、事前粉砕後の第0スラリーに疎水性液(1-ブロモプロパン、比重1.35)を混合し、混合用ミキサー10b内で十分に攪拌した。これにより生成された第1スラリーをセトラー20に投入した。セトラー20では、第1スラリーを静置することで、比重分離工程(S3)を行った。セトラー20には、水相1とエマルジョン相3との界面(界面1)と、エマルジョン相3と疎水性液相2との界面(界面2)とを認識するための界面認識装置60が設置されている。界面認識装置60の構成を表3に示す。
界面認識装置60を用いて界面認識工程(S4)を行い、界面1、2が認識できた場合には、界面1、2があらかじめ設定された設定位置に略一致するように各工程を制御した。具体的には、界面1が設定位置より高い場合には、エマルジョン相3をポンプP4により引き抜き、界面1が設定位置より低い場合には、エマルジョン相3の引き抜きを停止した。界面2が設定位置より高い場合にはポンプP5によりセトラー20下部にある疎水性液相2を引き抜いて混合用ミキサー10bに戻し、コンデンサー33から混合用ミキサー10bに供給される疎水性液の量を削減した。界面2が設定位置より低い場合には、ポンプP5によるセトラー20下部からの疎水性液相2の引き抜きを停止し、コンデンサー33から混合用ミキサー10bに供給される疎水性液の量を増加させた。
その後、ポンプP3より引き抜いた水相1(第2スラリー)を遠心分離機31で脱水し、その後、乾燥装置32にて乾燥させ、固形物(乾粉)を得た。また、第2スラリー中の固形物の濃度、回収した固形物中の未燃炭素含有率(固形物の総質量に対する未燃炭素粒子の質量%)を算出した。ここで、固形物の濃度は、スラリーを一定体積量採取し、105℃で水分を蒸発させた後、固形物残渣の質量を測定し、採取したスラリー体積と固形物残渣の質量より算出した。未燃炭素の含有率は、強熱減量率を測定することで算出した。一方、ポンプP4より引き抜いたエマルジョン相3(第3スラリー)を、濾過機能を有した遠心分離機41で脱液し、その後、乾燥装置42にて乾燥させ、固形物(乾粉)を得た。また、第3スラリー中の固形物の濃度、回収した固形物中の未燃炭素含有率(固形物の総質量に対する未燃炭素粒子の質量%)を算出した。ここで、固形物の濃度は、脱液された液体の体積と固形物の質量とに基づいて算出した。未燃炭素の含有率は、上記と同様に算出した。固形物濃度及び固形物中の未燃炭素含有量は、ある時間内で測定された複数の値の算術平均とした。結果を表3に示す。固形物濃度及び固形物中の未燃炭素含有量に関するカッコ内の数値は、ある時間内で測定された値の範囲を示す。
(2-1.考察1)
比較例2-1では、エマルジョン相3と疎水性液相2との界面認識が不明瞭であり、ときどき、エマルジョン相3の引き抜きの際に、固形物をほとんど含まない疎水性液相2を引き抜くことがあった。そのため、エマルジョン相3より引き抜いた第3スラリー中の固形物濃度は大きく変動し、分離効率が悪かった。エマルジョン相3より引き抜いた第3スラリーを脱水し、乾燥したところ、固形物中のカーボン含有率は60.4質量%と実施例に比して低くなった。また、水相1より引き抜いた第2スラリー中の固形物濃度はほぼ一定であり、回収した固形物中のカーボン含有率も低かった。したがって、比較例2-1では、エマルジョン相3と疎水性液相2との界面認識が不明瞭であったために、疎水性粒子の分離効率が低くなったと言える。
(2-2.考察2)
実施例2-2では、水相1とエマルジョン相3との界面認識が不明瞭であり、エマルジョン相3が水相1の方(上方)に広がった。つまり、水相1とエマルジョン相3との界面が設定位置よりも上方に広がった。このため、ときどき水相1の引き抜きの際に、未燃炭素粒子濃度が高いエマルジョン相3の一部を水相1とともに引き抜くことがあった。そのため、水相1より引き抜いた固形物の未燃炭素含有率は、処理前のフライアッシュより低い値となったが、不安定であった(未燃炭素含有率のばらつきが大きくなった)。しかしながら、エマルジョン相3より引き抜いた第3スラリー中の固形物濃度は高く、引き抜いた第3スラリーを脱水し、乾燥したところ、固形物中の未燃炭素含有率は62.1質量%と高かった。したがって、未燃炭素粒子の分離効率は非常に高くなった。
(2-3.考察3)
実施例2-3では、水相1とエマルジョン相3との界面認識、エマルジョン相3と疎水性液相2との界面認識ができ、結果として、未燃炭素粒子が濃縮しているエマルジョン相3のみを引き抜くことができた。そのため、エマルジョン相3より引き抜いた第3スラリー中の固形物濃度は120g/lと高く、かつ、エマルジョン相3より引き抜いた第3スラリーを脱液し、乾燥したところ、固形物中の未燃炭素含有率は65.0質量%と高かった。また、水相1より引き抜いた第2スラリー中の固形物濃度はほぼ一定であり、回収した固形物中の未燃炭素含有率も低かった。したがって、親水性粒子及び疎水性粒子の分離効率が非常に高かった。
(2-4.考察4)
実施例2-4では、水相1とエマルジョン相3との界面認識、エマルジョン相3と疎水性液相2との界面認識ができ、結果として、未燃炭素粒子が濃縮しているエマルジョン相3のみを引き抜くことができた。そのため、エマルジョン相3より引き抜いた第3スラリー中の固形物濃度は124g/lと高く、かつ、エマルジョン相3より引き抜いた第3スラリーを脱水し、乾燥したところ、固形物中の未燃炭素含有率は63.4質量%と高かった。また、水相1より引き抜いた第2スラリー中の固形物濃度はほぼ一定であり、回収した固形物中の未燃炭素含有率も低かった。したがって、親水性粒子及び疎水性粒子の分離効率が非常に高かった。
(2-5.考察5)
実施例2-5では、水相1とエマルジョン相3との界面認識、エマルジョン相3と疎水性液相2との界面認識ができ、結果として、未燃炭素粒子が濃縮しているエマルジョン相3のみを引き抜くことができた。そのため、エマルジョン相3より引き抜いた第3スラリー中の固形物濃度は128g/lと高く、かつ、エマルジョン相3より引き抜いた第3スラリーを脱水し、乾燥したところ、固形物中の未燃炭素含有率は66.3質量%と高かった。また、水相1より引き抜いた第2スラリー中の固形物濃度はほぼ一定であり、回収した固形物中の未燃炭素含有率も低かった。したがって、親水性粒子及び疎水性粒子の分離効率が非常に高かった。
<3.実験例3>
実験例3では、分離対象の混合物を高炉ガス灰(未燃炭素含有率:35質量%)に変えた場合であっても同様の分離処理が可能かを検証した。具体的には、高炉灰40gに水を200m加えて攪拌することで、第0スラリーを生成した。ついで、第0スラリーを湿式粉砕した。事前粉砕工程(S1)では、直径1.0mmのビーズ(ジルコニア製)を有するビーズミル15を用いて5分間第0スラリーを湿式粉砕した。ついで、湿式粉砕後の第0スラリーの全量、水200ml、及び疎水性液体としてn-ヘキサン(比重:0.65)400mlを1リットルのガラス容器に投入した。ついで、ガラス容器を激しく1分間手で混合し、その後、静置した。これにより、ガラス容器内の第1スラリーが上から疎水性液相2(n-ヘキサン相)、エマルジョン相3、水相1となり、未燃炭素粒子はエマルジョン相3に濃縮し、Fe2O3を主成分とする金属酸化物粒子は水相1に濃縮した。
ついで、ガラス容器内面(第1スラリーと接する面)の一部に鉛直方向に透明のPEからなるシールを張り付けることで、第1スラリーと接する面の材質をガラスまたはPEとした。ついで、各々の材質の部分越しに画像を撮像し、画像解析を行った。画像解析は実験例1で使用した画像認識装置(コントローラー:CV-X400F、カメラ:CA-H035C)を用いて行った。これにより、PE越しに撮像した撮像画像から、疎水性液相2とエマルジョン相3との界面を判別し、ガラス越しに撮像した撮像画像から、エマルジョン相3と水相1との界面を判別した。ついで、エマルジョン相3および水相1からサンプルを採取し、成分分析を行った。エマルジョン相3から得た固形物中の未燃炭素含有率は63質量%であり、水相1から得た固形物中の未燃炭素含有率は21質量%であった。したがって、界面認識を行うことで、高炉ガス灰からも疎水性粒子(未燃炭素粒子)を高い分離効率で分離できることを確認した。
さらに、容器の内側の鉛直方向の一部に透明なポリエチレンテープを貼ったガラス製の密閉容器に、水とn-ペンタン(比重0.63)を等容量入れ、実験例3で使用したビーズミルで湿式粉砕した高炉ガス灰を投入し、混合した後、静置した。この結果、接液部がガラスである部分からは水相とエマルジョン相との界面が認識でき、接液部がポリエチレンテープである部分からはエマルジョン相と疎水性液相との界面が認識できた。具体的には、水相は薄い赤色になり、エマルジョン相は黒色となっていることがわかった。エマルジョン相をスポイトで採水し、顕微鏡観察したところ、高炉ガス灰中の黒色の未燃炭素粒子が存在することが判明し、エマルジョン相内に未燃炭素粒子(疎水性粒子)が濃縮していることが判明した。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。