以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
[1.エマルジョンの構成]
まず、図1を参照して、本発明の第1の実施形態に係るエマルジョン破壊方法による処理対象であるエマルジョンについて説明する。図1は、本実施形態に係るエマルジョンを示す模式図である。
一般に、エマルジョン(Emulsion)は、相互に混じり合わない2種の液体であって、一方の液体中に他方の液体が微細な液滴となって分散している分散系溶液を意味し、乳濁液とも称される。本実施形態に係るエマルジョンは、比重の異なる2種の液体(以下、比重が大きい方の液体を「重液」、比重が小さい方の液体を「軽液」という。)と、微細な固体粒子(以下、「微細粒子」という。)が懸濁した分散系溶液を意味する。本実施形態に係るエマルジョンでは、重液又は軽液のいずれか一方が水であり、他方が疎水性の液体(例えば、疎水性の有機溶剤、油など)である。
ここで、疎水性の液体とは、例えば、20℃の水に対する溶解度が0g/リットル超、5.0g/リットル以下の液体であり、例えば、以下の表1に示すような、該溶解度が5.0g/リットル以下の疎水性の有機溶剤(以下、単に「有機溶剤」とも呼称する。)又は各種の油等である。疎水性の液体は、水に対して溶解しにくいので、両者を混合して撹拌すると、疎水性の液体と水とのエマルジョンが生成され易い。
図1に示すように、本実施形態に係るエマルジョン1は、重液2と軽液3と微細粒子4とが懸濁した分散系溶液である。例えば、重液2は水[比重:1]であり、軽液3は比重が1未満の有機溶剤(例えば、n−ヘキサン[比重:0.66])であり、微細粒子4は含油スケールに含まれる微細スケール(粒子径:50μm以下)である。
かかるエマルジョン1では、分散媒である軽液3(例えば有機溶剤)中に、分散質である重液2の微細な液滴(例えば水滴)が分散している。ここで、軽液3と重液2の液滴との界面には、親水性(ぬれ性)が高い微細粒子4が多数介在しており、当該微細粒子4が乳化剤として機能する。このため、エマルジョン1が安定化するので、エマルジョン1が解消され難く、重液2と軽液3の相分離系に移行させ難い。このように、本実施形態では、疎水性の液体と水と固形物の微細粒子4とが懸濁し、疎水性の液体と水との界面間に微細粒子4が介在し、安定化したエマルジョンを対象としている。
ここで、上記のエマルジョン1の具体例を例示する。エマルジョン1は、例えば、油分を含んだスケールの微細粒子(鉄鋼業において、鋼材の製造中に鋼材を水冷する際に発生する微細なミルスケール等)と、水と、有機溶剤とを混合及び撹拌した懸濁液であってもよい。この懸濁液は、後述する油分分離装置において、水と油分を含んだスケールから有機溶剤中に油分を抽出するために、当該スケールと、抽出剤である有機溶剤とを混合及び撹拌することで生じる。また、エマルジョン1は、例えば、原油採掘時に生じる、原油(比重0.8〜0.98;軽液3に相当する。)と水(重液2に相当する。)と微細な土砂又は粘土(微細粒子4)との懸濁液であってもよい。なお、かかる有機溶剤又は油等の疎水性の液体の比重は、例えば0.5〜1.8であり、微細粒子の真比重は、例えば2.0〜6.0である。
また、図1に示したように、水よりも比重が小さい有機溶剤(例えば、ノルマル−ヘキサン[比重:0.66])と水とのエマルジョン1では、分散質である重液2が水となり、分散媒である軽液3が有機溶剤になるが、かかる例に限定されない。例えば、水よりも比重が大きい有機溶剤(例えば、1−ブロモプロパン[比重:1.35])と水とのエマルジョン1では、分散質である重液2が有機溶剤となり、分散媒である軽液3が水になる。かかるエマルジョン1も、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置の処理対象となりうる。
上記のようなエマルジョン1は、軽液3と重液2の液滴との界面に介在する微細粒子4によりエマルジョン1の分散系が安定化し、軽液3と重液2の二相に分離しにくい。しかし、エマルジョン1中の微細粒子4に遠心力を作用させれば、当該微細粒子4が軽液3と重液2の液滴との界面から除去され、軽液3中に重液2の液滴が混在したエマルジョンとなるため、短時間でエマルジョンを解消できる。
そこで、本実施形態では、エマルジョン破壊装置を用いて、エマルジョン1中の微細粒子4に遠心力を作用させて、重液2と軽液3との界面から微細粒子4を除去することで、エマルジョン1を破壊(即ち、解乳化:demulsification)する。これにより、エマルジョン1として安定している分散系を積極的に破壊して、比重の異なる2種の液体(即ち、水と疎水性の液体)の相分離系へ移行させ、両液体を好適に分離することができる。
なお、上記のようにエマルジョンとは、乳濁状態の分散系溶液を意味するが、エマルジョンは、乳濁状態の分散系溶液のみを厳密に指すものではない。本実施形態に係るエマルジョンは、少なくとも乳濁状態の分散系溶液を含む液体を指し、例えば、エマルジョンには、乳濁状態の分散系溶液以外にも、相分離系の液体(例えば、水又は有機溶媒等)が含まれてもよい。つまり、エマルジョンは、一般的な乳濁状態の2種の液体及び固体粒子(例えば、水、有機溶剤及び微細粒子)と、それ以外の液体(例えば、水又は有機溶媒)の混合液のことを指す場合もある。
また、図1では軽液3内に重液2の滴が安定状態となったエマルジョン1(重液/軽液エマルジョン)を示しており、この重液/軽液エマルジョンが一般的に生成される。しかし、エマルジョンは、かかる例に限定されず、例えば、重液内に軽液滴が安定状態となったエマルジョン(軽液/重液エマルジョン)が生成される場合もあり、この軽液/重液エマルジョンも、本実施形態に係るエマルジョン破壊方法の処理対象となりうる。
[2.エマルジョン破壊装置の構成]
次に、本実施形態に係るエマルジョン破壊方法に用いられるエマルジョン破壊装置の要部の構成と、エマルジョン破壊装置を用いたエマルジョンの破壊原理等について説明する。なお、本実施形態では、エマルジョンに遠心力を付与する遠心力付与装置として、エマルジョンの破壊処理のために専用に考案された特別なエマルジョン破壊装置を用いる。しかし、本発明においてエマルジョンに遠心力を付与する装置(以下、「遠心力付与装置」という。)は、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置の例に限定されず、エマルジョンに遠心力を付与可能な装置であれば、例えば、後述する遠心分離機30(第2の実施形態の図19を参照。)等、他の装置であってもよい。
[2.1.エマルジョン破壊装置の要部の構成]
次に、図2及び図3を参照して、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置の要部の構成について説明する。図2は、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置10の要部を示す模式図である。図3は、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置10の回転体7を示す斜視図である。なお、図2中の実線矢印は、回転体7の回転に伴う重液2と軽液3の混合液(エマルジョン1)の流れを示し、点線矢印は、回転体7の回転に伴う軽液3の流れを示しており、他の図(図8、図9等)でも同様である。
図2に示すように、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置10は、エマルジョン1を貯留する容器6と、エマルジョン1に浸漬される円筒状の回転体7と、回転体7の上部に連結される回転軸81を中心に回転体7を回転させる回転機構8とを備える。
容器6は、エマルジョン1を貯留するための貯留槽である。容器6は、外部から供給されたエマルジョン1を貯留し、エマルジョン1の破壊処理後に処理液を外部に排出する。容器6は、エマルジョン1を貯留可能であれば、円形、角形など任意の形状、大きさの槽で構成することができる。回転体7の外側で、かつ、容器6内の領域において発生する乱流条件下では、再エマルジョン化が発生しやすいが、再エマルジョン化を抑制するためには、容器6の形状は、乱流状態が発生しにくい円形が好ましい。容器6の側壁には、必要に応じて、エマルジョン1の供給口(図示せず。)と、処理液の排出口(図示せず。)が設けられる。
回転体7は、エマルジョン1に遠心力を作用させてエマルジョン1を破壊するための回転部材である。回転体7は、全体として円筒状を有し、容器6に貯留されたエマルジョン1中に浸漬して配置される。この際、回転体7の全体がエマルジョン1中に浸漬されるように配置されてもよいし、或いは、回転体7の下部側が部分的にエマルジョン1中に浸漬されるように配置されてもよい(図2参照。)。また、回転体7の円筒軸が鉛直方向になるようにして、回転体7がエマルジョン1中に配置される。
図2及び図3に示すように、回転体7は、円筒状の胴体71と、胴体71の下側の円形の開口部72を絞る絞り部73と、胴体71の上側の円形の開口部を塞ぐ蓋部74とを備える。図2及び図3に示す絞り部73は、胴体71の下端に周方向に沿って設けられ、該下端から斜め下方に張り出した逆テーパ形状を有する。絞り部73の肉厚は、胴体71の肉厚と同一である。この絞り部73により、回転体7の胴体71の下側の開口部72は下方に向かうにつれて絞られる、即ち、当該開口部72の開口面積は下方に向かうにつれて縮小される。
蓋部74は、胴体71の上端に設けられる円盤状の部材であり、回転体7の胴体71の上側の円形の開口部を塞ぐ。この蓋部74は、回転体7と回転軸81を連結する連結部材としても機能し、円盤状の蓋部74の中心に回転軸81が連結される。また、蓋部74には、空気孔として機能する複数の貫通孔75が上下方向に貫通形成されている。回転体7を下方に移動させてエマルジョン1に浸漬するとき、又は外部から容器6にエマルジョン1を供給するときには、当該貫通孔75を通じて回転体7の内部の空気が回転体7の外部に抜けるため、回転体7の内部空間にエマルジョン1が容易に浸入できる。
回転体7の内径をd1、容器6の内径をD1とすると、通常、d1/D1が、0.08〜0.3となるように回転体7と容器6を設計することが好ましい。d1/D1が0.08未満であると、エマルジョン1を破壊するのに時間がかかり、容器6の容量も大きくなる。d1/D1が0.3を超えると、回転体7の外側で、かつ、容器6内の領域において発生する乱流が強くなり、再エマルジョン化が発生しやすくなる。従って、回転体7の外側での再エマルジョン化を抑制しつつ、回転体7によりエマルジョン1を効率的に破壊するためには、d1/D1が0.08〜0.3であることが好ましい。
回転機構8は、回転軸と81と、制御部82と、モータ等の駆動装置(図示せず。)とを備える。回転軸81は、上記回転体7の上端に連結され、駆動装置の回転力を回転体7に伝達する。上記円筒状の回転体7の胴体71の円筒軸と回転軸81は同一の軸線上にあり、両者はともに鉛直方向に延びる。かかる回転機構8は、回転軸81を中心に(即ち、胴体71の円筒軸を中心に)、回転体7を所定の回転数で回転させる。
制御部82は、オペレータによる入力指示に基づいて、又は予め設定されたプログラムに従って、上記駆動装置を制御することで、回転体7の回転数を制御する。かかる制御部82により、回転体7の回転数が可変となる。制御部82により回転体7の回転数を制御することで、回転体7の回転により回転体7内のエマルジョン1に作用させる遠心力の大きさ(遠心加速度)を調整できる。例えば、回転体7の回転により生じる遠心力でエマルジョン1を破壊する場合には、制御部82は、回転体7の回転数を上昇させて、エマルジョン1に作用させる遠心力を高める。一方、エマルジョン1の破壊に伴い回転体7の内部に堆積した微細粒子4を回転体7の下側の開口部72から下方に排出する場合には、制御部82は、回転体7の回転数を低下させるか、回転体7の回転を停止させるか、或いは、回転体7を逆回転させる。
以上の構成のエマルジョン破壊装置10は、容器6に貯留された重液2と軽液3のエマルジョン1中に回転体7を浸漬し、回転機構8により回転軸81を中心として回転体7を回転させる。これにより、回転体7の内部のエマルジョン1を回転させて、回転体7の内周面付近で該エマルジョン1に対して遠心力を作用させる。この結果、当該遠心力により重液2と軽液3の界面に介在する固形物の微細粒子4を当該界面から除外することで、エマルジョン1を破壊(解乳化)して、重液2と軽液3に分離する。このように、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置10では、回転体7の回転により回転体7内のエマルジョン1に遠心力を作用させて、エマルジョン1を破壊する。
以上のように、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置10は、容器6内のエマルジョン1に浸漬された回転体7を回転機構8により回転させるだけの比較的シンプルな装置構成である。従って、本実施形態にエマルジョン破壊装置10は、従来の遠心分離機と比べて、構造が簡易で小型かつ安価でありながら、エマルジョン1を破壊するために必要な遠心力をエマルジョン1に的確に作用させることができるという利点を有する。
[2.2.エマルジョンの破壊原理]
次に、図4を参照して、上記構成のエマルジョン破壊装置10を用いて遠心力によりエマルジョン1を破壊する原理について説明する。
図4に示すように、重液2(例えば水)と軽液3(例えば有機溶剤)の界面に微細粒子4が介在するため安定化しているエマルジョン1中に、回転体7を浸漬して回転させると、回転体7の内部のエマルジョン1は、回転体7と共に回転して遠心力を受ける。この際、回転体7の胴体71の内周面付近の領域76では、中心領域よりも回転径及び回転速度が大きいので、当該領域76に位置するエマルジョン1が最大の遠心力を受ける。
上記のように回転体7を回転させて、回転体7内のエマルジョン1に遠心力を与えることで、重液2と軽液3の界面に介在する微細粒子4を当該界面から除外できる。この結果、微細粒子4が除去された重液2と軽液3のみからなるエマルジョンを、攪拌すれば、比較的容易に乳濁状態が解消されて、重液2と軽液3の相分離系に分離できる。このように回転体7により生じる遠心力でエマルジョン1を破壊する場合、上記回転体7の胴体71の内周面付近の領域76で、エマルジョン1に最も遠心力が作用するため、当該領域76において微細粒子4が除外されて、エマルジョン1が破壊され易い。
ここで、回転体7の回転中のエマルジョン1の流動について説明する。回転体7の回転中には、図4及び図2に示すように、回転体7の回転に伴って、容器6中のエマルジョン1は流動する。詳細には、容器6内のエマルジョン1は、回転体7の下側の開口部72の中心領域(円筒軸上及びその周辺)から回転体7内に流入する。そして、回転体7内のエマルジョン1は、回転体7の回転力により、回転体7の中心領域から上記回転体7の内周面付近の領域76に流動し、当該領域76に滞留している間に強い遠心力を受ける。この結果、当該領域76において微細粒子4が重液2と軽液3の界面から除去されるため、エマルジョン1が破壊され易くなる。その後、当該界面から微細粒子4が除去されたエマルジョン1は、回転体7の下側に流動し、絞り部73を乗り越えて下側の開口部72から回転体7外に流出する。そして、回転体7の外側において、回転体7の回転力により撹拌されることで、エマルジョン1は、乳濁状態の分散系溶液から重液2と軽液3の相分離系溶液への移行が促進される。この結果、回転体7の外側の領域では、比重の小さい軽液3が浮上して、比重の大きい重液2が沈降するため、両液体が2相に分離される。
[2.3.回転体の絞り部]
次に、図2及び図3を参照して、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置10の特徴である回転体7の絞り部73の構成と機能についてより詳細に説明する。
上記のようにして、回転体7の回転力を用いてエマルジョン1を破壊するためには、大きな遠心力が作用する回転体7の内周面付近の領域76に、所定時間以上(例えば1秒以上)に渡ってエマルジョン1を滞留させることが重要である。このためには、回転体7内のエマルジョン1が回転体7の胴体71の内周面に沿って上下方向に流動する速度を抑制し、できるだけ長い時間、当該領域76にエマルジョン1を滞留させることが好ましい。
そこで、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置10では、図2及び図3に示すように、回転体7の下端に絞り部73を設けて、回転体7の下側の開口部72を絞るような構造を採用している。かかる絞り部73により回転体7の下側の開口部72を狭くしているので、回転体7の内部のエマルジョン1が開口部72から流出することを抑制し、回転体7内でのエマルジョン1の流速を低減できる。これにより、回転体7の内周面付近の領域76にエマルジョン1を長時間滞留させて、該エマルジョン1に対して遠心力を十分に作用させることができる。
絞り部73を設けない場合には、回転体7の下側の開口部72からエマルジョン1がすぐに排出されてしまい、回転体7内のエマルジョン1に遠心力が作用する時間が非常に短くなり(例えば1秒未満)、エマルジョン1の破壊には至らない。一方、絞り部73により開口部72を狭くすることにより、回転体7内のエマルジョン1に対して遠心力が作用する時間が長くなり(例えば1秒以上)、エマルジョン1を好適に破壊できるようになる。
ここで、上記絞り部73による開口部72の絞り度合いの適正量を説明するために、回転体7の絞り部73の高さhと、胴体71の高さHとの関係について説明する。図2及び図3に示すように、絞り部73の高さhは、絞り部73の先端と胴体71の内周面との間の水平方向の高低差であり、絞り部73による開口部72の絞り量を表す。また、胴体71の高さHは、胴体71の鉛直方向の長さである。
絞り部73の高さhは、胴体71の高さHの3%以上であることが好ましく(h≧0.03*H)、Hの5.7%以上であることがより好ましく(h≧0.057*H)、Hの9.6%以上であることが更に好ましい(h≧0.096*H)。例えば、H=300mmである場合、hは、9mm以上であることが好ましく(h≧0.03*H)、17mm以上であることがより好ましく(h≧0.057*H)、29mm以上であることが更に好ましい(h≧0.096*H)。
hがHの3.0%未満であると、絞り部73が小さすぎるため、回転体7の内部のエマルジョン1が、回転体7の内周面に沿って上下方向に高速(+0.2m/秒超、又は−0.2m/秒未満)で移動し、絞り部73を乗り越えて、回転体7の下側の開口部72から容易に流出してしまう。このため、回転体7の内部でエマルジョン1に対して、必要な大きさの遠心力を十分な時間に渡って作用させることができないので、エマルジョン1を好適に破壊できなくなってしまう。
これに対し、hがHの3.0%以上であれば、回転体7の内周面付近に、回転体7の内部のエマルジョン1の流速が例えば上下方向に−0.2〜+0.2m/秒となる緩速領域を維持することができるので、エマルジョン1を好適に破壊できる。つまり、hがHの3.0%以上であれば、絞り部73が堰として機能し、回転体7の内部のエマルジョン1が絞り部73を乗り越えて下側の開口部72から流出することを抑制できる。これにより、回転体7の内部のエマルジョン1を回転体7の内周面付近に長く滞留させ、エマルジョン1の破壊に必要な大きさの遠心力を、十分な時間(例えば1秒以上)に渡ってエマルジョン1に対して作用させることができる。従って、回転体7によりエマルジョン1を好適に破壊できる。Hに対するhの比(=h/H)が大きいほど、この破壊効果は高くなる。
[2.4.エマルジョン相率]
次に、図5を参照して、以下の説明で用いる「エマルジョン相率E」について説明する。重液2、軽液3及び微細粒子4を含むエマルジョン1を遠沈管に入れて、遠心力付与装置(遠心分離機)で遠心力をエマルジョン1に作用させた後に静置すると、遠心力が作用された後のエマルジョン1は、図5に示すように4相に分離される。この4相は、上側から、軽液相101、エマルジョン相102、重液相103、微細粒子相104である。
軽液相101は、遠心力の作用によりエマルジョン1から分離された軽液3を主体とする液相である。エマルジョン相102は、遠心力の作用によっても破壊されずに残存したエマルジョン1を主体とする乳濁状態の液相(微粒の微細粒子を含む。)である。重液相103は、遠心力の作用によりエマルジョン1から分離された重液2を主体とする液相である。微細粒子相104は、遠心力の作用によりエマルジョン1から分離されて沈殿した微細粒子4と重液2を主体とする固液混合相である。例えば、重液2が水、軽液3が有機溶剤(例えばヘキサン)、微細粒子4が微細スケールである場合には、軽液相101は有機溶剤相(例えばヘキサン相)となり、重液相103は水相となり、微細粒子相104は微細スケール相となる。なお、以下では、微細粒子相104にも重液2が含まれているので、重液相103及び微細粒子相104をまとめて重液相と称する場合もある。
また、図5に示すdAは軽液相101及びエマルジョン相102の厚さ[mm]であり、dBは重液相103及び微細粒子相104の厚さ[mm]であり、dCはエマルジョン相102の厚さ[mm]であり、dDは微細粒子相104の厚さ[mm]である。
ここで、エマルジョン相率Eとは、次の式(1)に示すように、上記dCをdAで除算した値(体積割合)である。つまり、エマルジョン相率Eは、「遠心力の作用によりエマルジョン1から分離された軽液相101及びエマルジョン相102の厚さdA」に対する「遠心力の作用によっても破壊されずに残存したエマルジョン相102の厚さdc」の比率である(E=0〜1.0)。
エマルジョン相率E=dC/dA (1)
上記エマルジョン1に遠心力を作用させる前、つまり、重液2、軽液3及び微細粒子4の混合液を強攪拌した後は、通常、軽液相全体がエマルジョン1になっていることが多く、エマルジョン相率Eは、ほぼ1.0である。一方、遠心力を作用させてエマルジョン1を破壊した後は、図5に示すように、エマルジョン相率Eは低下し、例えば0.5以下となる。このように、エマルジョン相率Eは、エマルジョン破壊装置10又は遠心分離機30等の遠心力付与装置により、乳濁状態のエマルジョン1を破壊(解乳化)して軽液3の相と重液2の相とに分離できる度合いを表す指標となる。エマルジョン相率Eが低い場合には、遠心力によるエマルジョン1の破壊効率が高く、一方、エマルジョン相率Eが高い場合には、遠心力によるエマルジョン1の破壊効率が低いことを表す。
[2.5.エマルジョンの破壊に必要な遠心加速度(エマルジョン破壊強度)]
次に、図4及び図6を参照して、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置10の回転体7によりエマルジョン1を破壊するために必要な遠心加速度(以下、「エマルジョン破壊強度」という場合もある。)と、該遠心力の作用時間について説明する。
図4の中の拡大図に示すように、回転体7の内部のエマルジョン1中の微細粒子4に対しては、遠心力と、浮力と、重力と、該遠心力に対する反力である抵抗力とが作用する。ここで、回転体7内においては、浮力と重力は小さいので無視できる。抵抗力は、微細粒子4のぬれ性(親水性)や粒子形状、粒子径等の影響を受ける。微細粒子4のぬれ性が大きい場合、微細粒子4は、重液2の液滴の表面から表面張力を受けると考えられ、この表面張力も抵抗力の一因となる。上記回転体7の回転によりエマルジョン1中の微細粒子4に作用する遠心力が、抵抗力に打ち勝つことで、重液2と軽液3の界面から微細粒子4が除去されて、エマルジョン1が破壊される。
エマルジョン1を破壊するために必要な遠心力は、微細粒子4の特性(例えば、微細粒子4のぬれ性、粒子の形状、粒子径、比重等)や、軽液3と重液2の比重差などの影響を受ける。このため、回転体7の回転によりエマルジョン1に作用させる遠心力を、処理対象のエマルジョン1中に含まれる微細粒子4の特性、又は軽液3と重液2の比重差などに応じて変化させることが好ましい。
図6は、微細粒子4の単位粒子径における遠心加速度a(a=rω2)と作用力(微細粒子4に作用する遠心力と抵抗力)との関係を示すグラフである。
回転体7の回転数の増加に伴って、微細粒子4に作用する遠心力の大きさ、即ち、遠心加速度が増加する。図6に示すように、遠心加速度が増加して、反力である抵抗力が遠心力に対抗できなくなったときに、微細粒子4は重液2と軽液3の界面から除去される。エマルジョン1は破壊される微細粒子4の粒子径が小さいほど、また、微細粒子4のぬれ性が大きいほど、エマルジョン1を破壊するために必要な遠心加速度(エマルジョン破壊強度)は増加する。
このように、回転体7によりエマルジョン1を破壊するために必要な遠心加速度(即ち、エマルジョン破壊強度)は、エマルジョン1に含まれる微細粒子4の特性(粒子径、ぬれ性、比重等)等によって変化する。具体的には、微細粒子4の粒子径又は比重が小さい場合には、微細粒子4に作用する遠心力は小さくなるため、エマルジョン破壊強度は大きくなる。一方、微細粒子4の粒子径又は比重が大きい場合には、微細粒子4に作用する遠心力は大きくなるため、エマルジョン破壊強度は小さくなる。また、微細粒子4のぬれ性が大きい場合、重液滴と微細粒子との粘着力が大きくなり、エマルジョン破壊強度が大きくなる。一方、微細粒子4のぬれ性が小さい場合、重液滴と微細粒子4との粘着力が小さくなり、エマルジョン破壊強度も小さくなる。
従って、エマルジョン破壊装置10を用いてエマルジョン1を破壊する場合には、上記のような微細粒子4の特性や、軽液3と重液2の比重差に応じて、上記遠心加速度や遠心力の作用時間を適切な値に設定する必要がある。
例えば、図6に示した関係から分かるように、微細粒子4の粒子径が小さい場合には、回転体7の回転数若しくは半径(回転体7の胴体71の内周面の半径)を大きくすることにより、回転体7の内周面付近の領域76(図4参照。)で生じる遠心加速度を大きくする必要がある。また、微細粒子4のぬれ性によって、遠心力に対抗する最大抵抗力が変化する。このため、微細粒子4のぬれ性が高い場合にも、回転体7の回転数若しくは半径を大きくすることにより、当該領域76で生じる遠心加速度を大きくする必要がある。
そこで、本実施形態に係る回転機構8の制御部82は、微細粒子4の粒径又はぬれ性などの特性に応じて、回転体7の回転数を増加又は減少させる。これにより、回転体7内でエマルジョン1を破壊するために必要な遠心加速度の遠心力を、該エマルジョン1に作用させて、重液2と軽液3の界面から微細粒子4を除去して、該エマルジョン1を好適に破壊できる。
ところで、比較的簡易かつ小さな構造のエマルジョン破壊装置10により付与可能な遠心加速度には、上限がある。従って、エマルジョン破壊装置10を用いてエマルジョン1を破壊する場合には、エマルジョン1を破壊するために必要な遠心加速度(エマルジョン破壊強度)を低位安定化することが好ましい。エマルジョン破壊強度を低位安定化するために重要な点は、次の(1)及び(2)のとおりである。
(1)微細粒子4のぬれ性(親水性)を小さくする。
(2)微細粒子4から超微細粒子群や比重が小さい粒子群を事前に分離する。
上記(1)の方法において、微細粒子4のぬれ性を小さくするためには、(a)微細粒子4の表面の粗度を小さくしたり、(b)エマルジョン1に疎水化剤を添加したり、(c)微細粒子4を含むエマルジョン1のpHを調整して微細粒子4のゼータ電位を小さくする方法が考えられる。しかし、(a)微細粒子4の表面の粗度を小さくする方法は、容易ではない。また、(b)疎水化剤を使用する方法は、処理コストが大きくなり、好ましくない。
従って、(c)微細粒子4を含むエマルジョン1のpHを調整し、微細粒子4のゼータ電位の絶対値を小さくすることで、ぬれ性を小さくする方法が、最も経済的であると考えられる。微細粒子4のゼータ電位の絶対値が大きいほど、微細粒子4の表面付近は、+または−に強く帯電する。すると、電気的引力により、極性分子である水分子は帯電した微細粒子4の表面近辺に集められて、電気二重層が厚くなるので、ぬれ性が大きくなる。逆に、ゼータ電位の絶対値が小さいと、微細粒子4と水分子との電気的引力は小さくなり、電気二重層が小さくなるので、微細粒子4のぬれ性が小さくなる。
また、上記(2)の方法は、微細粒子4群中において、より粒子径が小さい超微細粒子群や比重が小さい粒子群を事前に分離しておき、エマルジョン1中に含まれる微細粒子4の粒子径や比重をできるだけ大きくする方法である。微細粒子4の沈降速度の差異を利用して、超微細粒子群や比重が小さい粒子群をある程度分離することは可能である。しかし、この方法では、分離した超微粒子群や比重が小さい粒子群の処理が別途必要となるため、プロセス全体から考えると好ましくない場合が多い。
以上の観点より、本実施形態では、上記(1)の(c)のエマルジョン1のpHを調整する方法によって、エマルジョン破壊強度を低位安定化することを特徴としている。なお、エマルジョン1のpHとは、エマルジョン1に含まれる水相(水溶液)のpHを意味し、エマルジョン1に含まれる有機溶剤や油分のpHを意味するものではない。エマルジョン1のpHを調整した上でエマルジョン1を破壊する方法の詳細については後述する。
[2.6.エマルジョン破壊装置の回転体の絞り部の変更例]
次に、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置10の回転体7の絞り部73の変更例について説明する。
上記図2の例のエマルジョン破壊装置10では、回転体7の一部だけをエマルジョン1に浸漬し、蓋部74を液面上に出した状態で、回転体7を回転させている。しかし、かかる例に限定されず、回転体7の全体をエマルジョン1に浸漬した状態で、回転体7を回転させてもよい。この構成でも、回転体7の内部でエマルジョン1に遠心力を作用させて、エマルジョン1を好適に破壊できる。この際、回転体7の回転中に、エマルジョン1の破壊により分離された軽液3が、回転体7の上部の蓋部74に設けられた貫通孔75から回転体7の内部に流入するようになる。
また。エマルジョン破壊装置10の回転体7の絞り部73の形状は、図2に示したような逆テーパ状の例に限定されない。回転体7の絞り部73は、回転体7の下側の開口部72を絞ることが可能な形状であれば、多様な形状に変更することができる。例えば、絞り部73は、回転体7の胴体71の下端に周方向に沿って設けられ、該下端から斜め上方に張り出した順テーパ形状を有してもよい。また、絞り部73は、回転体7の胴体71の下端に周方向に沿って設けられ、該下端から水平方向内側に張り出した平坦なリング形状を有してもよい。また、絞り部73は、回転体7の胴体71の下端に周方向に沿って設けられ、該下端から内側に張り出し、垂直断面が略三角形となるリング形状を有してもよい。
これら変更例の形状の回転体7であっても、回転体7の回転中に、回転体7の内部のエマルジョン1が下側の開口部72から排出し難くなり、該回転体7の内周面付近の領域76に該エマルジョン1を滞留させることができる。従って、該エマルジョン1に、必要な大きさの遠心力を適切な長い時間作用させることができるので、エマルジョン1を好適に破壊できる。
[2.7.エマルジョン破壊装置の回転体及びその周辺構成の変更例]
次に、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置10の回転体7及びその周辺構成の変更例について説明する。
上述したように、エマルジョン1を破壊するために必要な遠心加速度が小さい場合(例えば、100G未満である場合)には、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置10の構成(図2参照。)であっても、特段の問題は生じない。
一方、エマルジョン1を破壊するために必要な遠心加速度が大きい場合(例えば、100G以上である場合)、回転体7の回転数若しくは半径を大きくする必要がある。この場合には、以下の2つの課題が生じる。
(課題1)回転体7の内周面付近に、分離された微細粒子4が堆積しやすくなるため、該堆積した微細粒子4により回転体7が重くなり、回転動力が大きくなってしまう。
(課題2)回転体7の外側の領域において液体が強撹拌されて、回転体7を浸漬している容器6内の液体の乱流状態が強くなり、回転体7の外側の領域でエマルジョン1が再生成されてしまう。
上記(課題2)について詳述する。100G以上の大きな遠心加速度を得るために回転体7の回転数若しくは半径を大きくした場合、容器6内の液体(エマルジョン1又は分離された重液2と軽液3等)が該回転体7により大きな撹拌力で撹拌され、該液体の流動が速くなる。特に、容器6内の回転体7の外側の領域で、液体の乱流状態が激しくなる。この結果、回転体7内で遠心力を用いてエマルジョン1を破壊して重液2と軽液3と微細粒子4に分離したとしても、該重液2と軽液3と微細粒子4が、強い乱流状態となっている回転体7の外側の領域において激しく撹拌・混合されて、エマルジョン1が再生成されてしまうことになる。
従って、エマルジョン1を破壊するために必要な遠心加速度が大きい場合、上記微細粒子4が堆積する問題(課題1)と、エマルジョン1が再生成する問題(課題2)を解決するために、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置10の構成(図2を参照。)に、種々の工夫を加えることが好ましい。
まず、図7を参照して、第1の変更例について説明する。図7に示すように、回転体7の下部と上部に1又は2以上の貫通孔(下部孔77と上部孔78)を設けてもよい。下部孔77は、回転体7の下部の絞り部73を鉛直方向に貫通するように形成され、主に比重の大きい重液2及び微細粒子4を、回転体7の外部に排出する排出孔として機能する。上部孔78は、回転体7の上部の蓋部74を鉛直方向に貫通するように形成され、主に比重の小さい軽液3を、回転体7の外部に排出する排出孔として機能する。これら下部孔77と上部孔78はそれぞれ、絞り部73又は蓋部74の外周部分(回転体7の胴体71の側壁に近い側)に設けられることが好ましい。これにより、回転体7の回転時に、遠心力により回転体7の内周面付近の領域76に堆積する微細粒子4を、下部孔77と上部孔78から効率的に外部に排出できる。
かかる構成により、回転体7の内周面付近の領域76に堆積した微細粒子4が下部孔77及び上部孔78から回転体7の外部に適度に排出されるので、該領域76に多量の微細粒子4が堆積することを防止できる。よって、回転体7内の微細粒子4の堆積による回転体7の重量及び回転動力の増加という問題(上記課題1)を解決できる。さらに、回転体7の下部孔77から主に重液2及び微細粒子4が排出されやすく、回転体7の上部孔78から主に軽液3が排出されやすい。これにより、回転体7の外側の領域において、軽液3は上部側に浮上し、重液2及び微細粒子4は下部側に沈降して、両者が分離されやすい。従って、微細粒子4を含んだ重液2と、軽液3とが混在する領域を減少させて、エマルジョン1の再生成を防止できる(上記課題2)。
さらに、図7に示すように、回転体7の胴体71の内周面に、回転体7の中心に向かって水平に張り出した環状堰79を設けてもよい。この環状堰79は、回転体7の回転中に、回転体7内のエマルジョン1の流動を制御して、軽液3を上方に、重液2及び微細粒子4を下方に流動させるための越流堰として機能する。
かかる環状堰79により、比較的比重の大きい重液2及び微細粒子4は、環状堰79により上方への流動を阻害されるため、主に下方に向けて流動し、回転体7の下部の下部孔77又は開口部72から排出される。一方、比較的比重の小さい軽液3は、環状堰79を乗り越えて更に上方に流動し、回転体7の上部の上部孔78から排出される。これにより、回転体7の外側の領域において、上部孔78から放出された軽液3と、下部から放出された微細粒子4及び重液2とを大きく離隔させることができる。従って、エマルジョン1を再生成するために必要な、重液2、軽液3、微細粒子4が狭い同一領域に同時に存在する確率を低下させることができる。よって、エマルジョン1を破壊するために必要な遠心力が大きい場合であっても、高速回転する回転体7の外側の領域において、重液2及び微細粒子4と、軽液3とを好適に分離して、エマルジョン1の再生成を防止できる(上記課題2)。
次に、図8を参照して、第2の変更例について説明する。図8に示すように、回転体7の外側の領域において、容器6内の液体を上下に区分する仕切板9を設置してもよい。仕切板9は回転体7と容器6の側壁との間のスペースに、回転体7の胴体71の全外周を取り囲むようにして配置される。仕切板9の内縁と回転体7の胴体71の外周面との間には、若干の隙間91が存在する。
かかる仕切板9を設けることにより、回転体7の内部でエマルジョン1を破壊して重液2と軽液3と微細粒子4とに分離したときに、比重の小さい軽液3が、仕切板9の上側の領域に滞留しやすくなる一方、比重の大きい重液2及び微細粒子4が、仕切板9の下側の領域に滞留しやすくなる。そして、仕切板9の主に上側に存在する軽液3と、主に下側に存在する重液2及び微細粒子4とが混合して、エマルジョン1が再生成されることを抑制できる。即ち、回転体7の回転により、回転体7の外側の液体は攪拌されて流動するが、仕切板9が存在することにより、当該撹拌による液体の流動を、容器6内の上下方向の流動を含む乱流ではなく、回転体7の外周を旋回する旋回流に変化させやすい。従って、エマルジョン1を破壊するために必要な遠心力が大きい場合であっても、高速回転する回転体7の外側の領域で、仕切板9の上下に区分された軽液3と重液2及び微細粒子4とが再度混合されて、エマルジョン1が再生成される確率を低減できる(上記課題2)。
また、仕切板9は水平に配置されてもよいが、図8に示すように、仕切板9をすり鉢状又は逆テーパ状として、仕切板9を容器6の側壁から回転体7に向かって下るように傾斜して配置((傾斜角は例えば15°以上)することが好ましい。これにより、仕切板9の上側に存在する微細粒子4は仕切板9の傾斜に沿って滑動し、仕切板9の内縁の隙間91から仕切板9の下方に沈降するので、仕切板9上に微細粒子4が堆積することを防止できる。
さらに、図8に示すように、傾斜した仕切板9の外縁部(容器6の側壁側)に、複数の貫通孔92を形成し、仕切板9の下側に溜まった軽液3を仕切板9の上側に逃がすための排出孔として機能させてもよい。かかる貫通孔92を設けることで、軽液3と、重液2及び微細粒子4との分離をさらに促進できる。つまり、図8に示すように、仕切板9の下側の領域で重液2から分離された軽液3は、浮上して、傾斜した仕切板9の外縁部と容器6の側壁との間の鋭角領域に滞留しやすい。このため、仕切板9の外縁部に貫通孔92を設けることで、当該滞留した軽液3を、貫通孔92を通じて仕切板9の上部に逃がしつつ、仕切板9によりその上下の液体の混合を抑制できる。よって、軽液3と重液2とをより効果的に区分して、エマルジョン1の再生成を抑制できる(上記課題2)。
以上のように、回転体7の外部の領域におけるエマルジョン1の再生成を抑制することで、回転体7の内部で生じるエマルジョン1の破壊が優勢になり、全体としてエマルジョン1が消失していく。
[2.8.エマルジョン破壊装置の全体構成]
次に、図9を参照して、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置の全体構成について説明する。図9は、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置10の全体構成を示す模式図である。
図9に示すように、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置10は、上述した容器6、回転体7及び回転機構8等の要部の構成に加えて、セトラー20をさらに備える。セトラー20は、複数種類の液体の混合液を静置して、比重差を用いて該液体を分離する分離装置であり、容器6に対して配管24を介して接続される。セトラー20は、該容器6から配管24を通じて導入されたエマルジョン1の破壊処理後の処理液を、比重差を利用して、軽液3(軽液相)と、エマルジョン1(エマルジョン相)と、重液2及び微細粒子4(重液相)とに分離する。かかるセトラー20は、上述した回転体7を用いたエマルジョン1の破壊処理を連続処理で行う場合に有用である。
回転体7を用いたエマルジョン1の破壊処理を回分処理で行う場合には、処理終了時に回転体7の回転を停止するため、回転体7が浸漬された容器6内の処理液の流動はほぼ停止する。従って、エマルジョン1の破壊によって生じた軽液相は容器6内の最上相にあり、微細粒子4や重液2、エマルジョン1を含まないので、当該軽液相から軽液3のみを適切に回収することができる。
しかしながら、回転体7を用いたエマルジョン1の破壊処理を連続処理で行う場合には、回転体7の回転を停止しないため、容器6内の処理液は流動したままとなる。従って、比重が大きい微細粒子4や重液2、エマルジョン1が、最上相の軽液相に混入することがある。このため、容器6から単に軽液相を抽出しても、微細粒子4や重液2、エマルジョン1が含まれない軽液3を得ることは困難である。
そこで、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置10では、エマルジョン1の破壊処理を連続処理で行うために、図9に示すように、上記容器6及び回転体7及び回転機構8を備えた装置の後段に、セトラー20を設置する。このセトラー20内で、比重差を用いて、軽液3と、エマルジョン1と、重液2及び微細粒子4とを分離することで、軽液3を連続的に回収することが可能となる。
図9に示す例では、容器6内のエマルジョン1には、エマルジョン破壊装置10の容器6とセトラー20とが1本の配管24で接続されている。配管24の両端はそれぞれ、容器6の側壁の中央部と、セトラー20の側壁の中央部とに接続されている。また、容器6の側壁の下部には、外部から容器6内にエマルジョン1を導入するための供給口21が設けられる。さらに、セトラー20の側壁の上部には、比重の小さい軽液3を排出するための上部排出口22が設けられ、セトラー20の側壁の下部には、比重の大きい重液2、微細粒子4及びエマルジョン1を排出するための下部排出口23が設けられている。
かかる図9に示すエマルジョン破壊装置10の動作を説明する。容器6内でエマルジョン1に浸漬された回転体7を回転させることにより、回転体7内でエマルジョン1に遠心力が作用して、エマルジョン1中の微細粒子4が重液2と軽液3の界面から除外される。このように微細粒子4が界面から除去されたエマルジョン1の処理液は、容器6から配管24を通じてセトラー20に導入される。
そして、セトラー20内で、該エマルジョン1の処理液を静置することにより、比重の大きい微細粒子4、重液2及びエマルジョン1を沈降させ、これらを含まない軽液3を浮上させる。これにより、処理液が相分離されて、上から順に、軽液3を主に含む軽液相、残存したエマルジョン1を主に含むエマルジョン相、沈殿した微細粒子4及び重液2を主に含む重液相の3相に分離される。上部排出口22は、セトラー20の上部の軽液相に対応する位置に設けられているので、該上部排出口22から軽液3が外部に排出される。一方、下部排出口23は、セトラー20の下部の重液相に対応する位置に設けられているので、該下部排出口23から重液2、微細粒子4及び残存したエマルジョン1の混合液が外部に排出される。なお、当該下部排出口23から排出されるエマルジョン1を含む混合液は、エマルジョン破壊装置10の容器6に再投入されて、再度、エマルジョン1の破壊処理が施されてもよい。
以上のように、エマルジョン破壊装置10の後段にセトラー20を設けることにより、容器6内で回転体7の回転によりエマルジョン1の処理液が流動していたとしても、後段のセトラー20を用いて処理液を軽液3と重液2に安定的に分離できる。従って、容器6内における回転体7によるエマルジョン1の破壊処理と、セトラー20での液相の分離処理とを同時並行して連続的に遂行できる。このような連続処理により、回分処理の場合よりも、軽液3と重液2の分離処理の効率を大幅に向上できる。
次に、図10を参照して、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置10のセトラー20の変更例について説明する。図10は、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置10の全体構成の変更例を示す模式図である。
図10に示すように、変更例に係るエマルジョン破壊装置10としては、図8に示した仕切板9等を備えるエマルジョン破壊装置10が用いられる。そして、このエマルジョン破壊装置10の後段に、軽液相とエマルジョン相と重液相をより確実に分離及び回収するために、2つのセトラー20A、20Bが設けられる。第1のセトラー20Aは、上記図9のセトラー20と同様に、エマルジョン破壊処理後のエマルジョンの処理液を、比重差により、上から順に、軽液相とエマルジョン相と重液相の3相に一次分離する。また、第2のセトラー20Bは、第1のセトラー20Aから供給されたエマルジョン相と重液相の混合液を、エマルジョン1を含むエマルジョン相と、重液2及び微細粒子4を含む重液相の2相に二次分離する。
第1のセトラー20Aは、エマルジョン破壊装置10の容器6と2本の配管(上部配管25、下部配管26)で接続されている。上部配管25の両端はそれぞれ、容器6の側壁の上部と、第1のセトラー20Aの側壁の上部(軽液相に対応する位置)とに接続され、下部配管26の両端はそれぞれ、容器6の側壁の下部と、第1のセトラー20Aの側壁の下部(エマルジョン相又は重液相に対応する位置)とに接続されている。さらに、第1のセトラー20Aの側壁の上部には、比重の小さい軽液3を排出するための上部排出口22が設けられ、セトラー20の側壁の下部には、比重の大きい重液2、微細粒子4及びエマルジョン1を排出するための下部排出口23が設けられている。
また、第2のセトラー20Bは、第1のセトラー20Aの後段に配置され、配管136を介して第1のセトラー20Aと接続されている。配管136の両端はそれぞれ、第1のセトラー20Aの下部排出口23と、第2のセトラー20Bの側壁の下部(エマルジョン相又は重液相に対応する位置)とに接続されている。さらに、第2のセトラー20Bの側壁の中央部(エマルジョン相に対応する位置)には、比較的比重の小さいエマルジョン1を排出するための中央排出口27が設けられ、第2のセトラー20Bの側壁の下部(重液相に対応する位置)には、比較的比重の大きい重液2、微細粒子4を排出するための下部排出口28が、設けられている。
かかる図10に示すエマルジョン破壊装置10の動作を説明する。容器6内でエマルジョン1に浸漬された回転体7を回転させることにより、回転体7内でエマルジョン1に遠心力が作用して、エマルジョン1中の微細粒子4が重液2と軽液3の界面から除外される。図8及び図10に示す例のエマルジョン破壊装置10は、図2及び図9に示す例のエマルジョン破壊装置10と比べて、容器6内で重液2と軽液3を分離する能力が高い。従って、微細粒子4が界面から除去されたエマルジョン1の処理液は、容器6内の主に上部領域に滞留する軽液3と、主に中央及び下部領域に滞留する重液2、微細粒子4及び残存したエマルジョン1とに大まかに分離される。そして、容器6の上部領域の軽液3は、上部配管25を通じて第1のセトラー20Aの上部に導入される。一方、容器6の中央及び下部領域の重液2、微細粒子4及び残存したエマルジョン1は、下部配管26を通じて第1のセトラー20Aの下部に導入される。
そして、第1のセトラー20A内で、該処理液を静置することにより、比重の大きい微細粒子4及び重液2は沈降し、残存したエマルジョン1は若干浮上し、比重の小さい軽液3は最上相まで浮上する。この結果、処理液が相分離されて、上記の軽液相、エマルジョン相、重液相の3相に分離される。そして、軽液3は上部排出口22から配管133を通じて外部に排出される。また、重液2、微細粒子4及びエマルジョン1の混合液は、下部排出口23から配管136を通じて第2のセトラー20Bに排出される。
その後、第2のセトラー20B内で、第1のセトラー20Aから流入した処理液を静置することにより、比較的比重の大きい微細粒子4及び重液2は沈降し、比較的比重の小さいエマルジョン1は浮上する。この結果、処理液が相分離されて、残存したエマルジョン1を含むエマルジョン相と、重液2及び微細粒子4を含む重液相の2相に分離される。そして、エマルジョン1は、第2のセトラー20Bの中央排出口27から配管134、131を通じて、エマルジョン破壊装置10の容器6に戻されて、再投入される。また、重液2及び微細粒子4の混合液は、下部排出口28から配管135を通じて外部に排出される。
上述したように、エマルジョン1は、重液2と軽液3と微細粒子4の混合液であり、図1に示したように、軽液3内に微細な重液2の滴が入り込み、その界面に微細粒子4が介在し、重液滴同士の合一化を阻害している乳濁状態である。このとき、重液2の量は軽液3の量に比べて少量(例えば、1/5〜1/20程度)である。従って、エマルジョン1の破壊処理後に、処理液を静置して、軽液相とエマルジョン相と重液相とに分離すると、各相の量(厚さ)の比率は異なるものになる。
そこで、図10に示す装置構成では、まず、第1のセトラー20Aにより、大部分を占める軽液3(軽液相)と、エマルジョン1、重液2及び微細粒子4(エマルジョン相及び重液相)とを比重分離する。次いで、第2のセトラー20Bにより、エマルジョン1(エマルジョン相)と、重液2及び微細粒子4(重液相)とを比重分離する。第2のセトラー20Bにて分離及び回収されたエマルジョン1は、新たなエマルジョン1とともにエマルジョン破壊装置10に再投入されて、エマルジョン破壊処理が再度施される。なお、第2のセトラー20Bにて分離及び回収される重液2は、第1のセトラー20Aにて分離及び回収される軽液3に比べて少量(例えば、1/5〜1/20程度)である。
以上のように、エマルジョン破壊装置10の後段に2つのセトラー20A、20Bを設けることにより、エマルジョン破壊装置10で処理されたエマルジョン1の処理液を、軽液3(軽液相)と、残存したエマルジョン1(エマルジョン相)と、重液2及び微細粒子4(重液相)とに、より確実に分離できる。また、残存したエマルジョン1を、第2のセトラー20Bからエマルジョン破壊装置10の容器6に戻すことにより、エマルジョン1の破壊処理を繰り返して、エマルジョン1から分離された重液2と軽液3の回収量を増加できる。
[2.9.エマルジョン破壊装置を含むエマルジョン処理装置の構成]
次に、図11を参照して、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置10及びその周辺装置を備えたエマルジョン処理装置50の構成について説明する。図11は、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置10及びその周辺装置を備えたエマルジョン処理装置50の構成を示す模式図である。
後述するように、本実施形態に係るエマルジョン破壊方法は、エマルジョン破壊処理に供されるエマルジョン1のpHを事前に調整することによって、エマルジョン1の破壊に必要な遠心加速度(エマルジョン破壊強度)と、エマルジョン破壊処理後のエマルジョン相率Eを低位安定化することを特徴としている。このため、前述したエマルジョン破壊装置10(図2及び図10等を参照。)に、エマルジョン1のpHを調整するためのpH調整装置を設けることが好ましい。そこで、以下では、前述のエマルジョン破壊装置10と、当該pH調整装置を含む周辺装置とを備えたエマルジョン処理装置50の構成例を説明する。
図11に示すように、本実施形態に係るエマルジョン処理装置50は、セトラー20を有するエマルジョン破壊装置10と、スラリー化槽110と、スラリーpH調整槽160と、撹拌槽120と、固液分離装置130とを備える。これらスラリー化槽110、スラリーpH調整槽160、撹拌槽120及び固液分離装置130等の周辺装置は、エマルジョン破壊装置10の前段に設けられており、エマルジョン破壊装置10に供給されるエマルジョン1を生成するとともに、当該エマルジョン1のpHを調整する機能を有する。
スラリー化槽110は、モータ111と撹拌部材112を有する攪拌機を備える。また、スラリー化槽110は、後段のスラリーpH調整槽160に対して配管115を介して接続されている。スラリー化槽110には、外部から重液2(例えば水)と微細粒子4(例えば含油スケール)が投入される。スラリー化槽110は、モータ111により撹拌部材112を回転させることにより、重液2と微細粒子4を混合して第1のスラリー(重液2と微細粒子4の混合物)を生成する。
スラリーpH調整槽160は、エマルジョン破壊装置10に供されるエマルジョン1のpHを調整するためのpH調整装置の一例である。該スラリーpH調整槽160は、モータ161及び撹拌部材162を有する攪拌機と、スラリーにpH調整剤を供給するためのpH調整剤供給装置163と、pH計164、165、166を備える。また、スラリーpH調整槽160は、後段の撹拌槽120に対して配管113を介して接続され、当該配管113には、スラリーを送出するためのポンプ114が設けられている。
pH計164、165、166は、電極式のpH計、例えばガラス電極式のpH計で構成され、ガラス電極と比較電極の間に生じた電位差を検知することにより、被測定液のpHを検出する。ガラス電極と比較電極の内部液としては例えばKCl溶液が用いられ、ガラス電極の先端にはガラス膜が設けられ、比較電極の先端には被測定液と電気的接続を保つために液絡部が設けられている。この液絡部は、例えば多孔性セラミック等の材質からなり、被測定液との電気的接続を保つとともに、比較電極の内部液が液絡部から微量ずつ放出される。なお、pH計としては、上記電極式のpH計などの連続測定可能なpH計を用いることが好ましい。また、電極式のpH計としては、上記ガラス電極式のpH計以外にも、例えば、水素電極を用いたpH計を使用してもよい。
pH計164は、エマルジョン破壊装置10の前段にスラリーpH調整槽160に設けられ、スラリーpH調整槽160内のスラリー(例えば、水と微細粒子4の混合物)のpHを測定する。一方、pH計165、166は、エマルジョン破壊装置10の後段に、セトラー20に付随して設けられ、エマルジョン破壊装置10及びセトラー20により分離された水相(重液相又は軽液相)のpHのpHを測定する。図11に示すpH計165は、セトラー20から重液相(重液2及び微細粒子4)を排出するための配管135に設けられ、当該配管135内の重液相のpHを測定するが、かかる例に限定されない。例えば、pH計165は、セトラー20の下部側に設けられ、セトラー20内の重液相のpHを測定してもよい。また、図11に示すpH計166は、セトラー20から軽液相(軽液3)を排出するための配管133に設けられ、当該配管133内の軽液相のpHを測定するが、かかる例に限定されない。例えば、pH計166は、セトラー20の上部側に設けられ、セトラー20内の軽液相のpHを測定してもよい。
また、pH計165、pH計166は、エマルジョン破壊装置10の遠心力の作用によりエマルジョン1が破壊されてセトラー20で分離された水相のpHを測定するためのものである。例えば、重液2が水であり、軽液3が水より比重の軽い疎水性の液体(例えばノルマル−ヘキサン)である場合には、pH計165により、セトラー20の最下部に分離された重液相(即ち、主に水と微細粒子4を含む水相)のpHが測定される。一方、例えば、重液2が水より比重の重い疎水性の液体(例えば1−ブロモプロパン)であり、軽液3が水である場合には、pH計166により、セトラー20の最上部に分離された軽液相(即ち、主に水を含む水相)のpHが測定される。
pH調整剤供給装置163は、上記pH計164、pH計165又はpH計166によるpH測定値に基づいて、スラリーpH調整槽160へのpH調整剤の供給量を制御する。pH調整剤供給装置163は、上記pH測定値が所望のpH設定値となるように、必要な量のpH調整剤をスラリーpH調整槽160に供給して、スラリーに添加する。ここで、pH調整剤は、対象物の酸性又はアルカリ性の度合いを調整するための添加剤であり、対象物に添加されるpH調整剤の量又は濃度を変えることで、対象物のpHを調整できる。酸性のpH調整剤としては、例えば、希塩酸、希硫酸、炭酸、硝酸、ふっ酸、酢酸等を用いることができ、アルカリ性のpH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、水酸化マグネシウム水溶液等を用いることができる。後述するように、本実施形態に係るエマルジョン破壊方法では、エマルジョン破壊強度及びエマルジョン相率Eが低くなるように、エマルジョン破壊装置10に供給されるエマルジョン1のpHを、予め適切なpH設定値に調整する。このために、pH調整剤供給装置163は、上記pH測定値に基づいて、pH調整剤の供給量又は濃度を制御し、必要な量又は濃度のpH調整剤をスラリーpH調整槽160内のスラリーに供給する。
スラリーpH調整槽160には、前段のスラリー化槽110から第1のスラリー(重液2と微細粒子4の混合物)が投入されるとともに、pH調整剤供給装置163から必要に応じてpH調整剤が投入される。スラリーpH調整槽160は、モータ161により撹拌部材162を回転させることにより、第1のスラリーとpH調整剤を混合して、当該スラリーのpHを調整する。
撹拌槽120は、モータ121と撹拌翼122を有する攪拌機を備える。また、撹拌槽120は、後段の固液分離装置130に対して配管123を介して接続され、当該配管123には、上記第1のスラリーと軽液3との混合物を送出するためのポンプ114が設けられている。撹拌槽120には、スラリーpH調整槽160から配管113を介して、上記pHが調整された第1のスラリー(例えば、重液2と微細粒子4の混合物)が導入されるとともに、外部から軽液3(例えば、有機溶剤)が導入される。撹拌槽120は、モータ121により撹拌翼122を回転させることにより、第1のスラリーと軽液3とを撹拌して、混合する。これにより、図1に示したような重液2と軽液3のエマルジョン1(重液/軽液型エマルジョン)が生成され、当該重液2と軽液3の界面に微細粒子4が介在することで、エマルジョン1が安定化する。このため、当該エマルジョン1を破壊して重液2と軽液3に分離及び回収するためは、撹拌槽120で生成されたエマルジョン1をエマルジョン破壊装置10に投入して、エマルジョン1に遠心力を作用させて破壊(解乳化)する必要がある。
固液分離装置130は、例えば液体サイクロンで構成され、遠心力を利用して、液体中に懸濁する固体と液体を分離する。固液分離装置130は、後段のエマルジョン破壊装置10に対して配管131を介して接続されている。固液分離装置130には、撹拌槽120から、上記第1のスラリーと軽液3の混合物(エマルジョン1を含む。)が導入される。固液分離装置130は、遠心力を利用して、当該混合物を、微量の微細粒子4と重液2を含有する軽液3(主に、エマルジョン1からなる液体)と、微細粒子4と重液2を含有する第2のスラリー(主に固体)とに分離する。この固液分離装置130により分離された重液2と軽液3のエマルジョン1は、配管131を通じてエマルジョン破壊装置10に供給され、第2のスラリー(主に微細粒子4と重液2)は、配管132を通じて外部に排出される。
エマルジョン破壊装置10には、上記固液分離装置130により分離されたエマルジョン1が投入される。エマルジョン破壊装置10は、予め設定された遠心加速度の設定値の遠心力を作用させることにより、エマルジョン1を破壊する。エマルジョン破壊装置10により遠心力が付与された後のエマルジョン1の処理液は、セトラー20により、軽液3(有機溶剤)を主に含む軽液相(有機溶剤相)と、残存したエマルジョン1を含むエマルジョン相と、重液2(水)及び微量の微細粒子4を含む重液相(水相)に分離される。
セトラー20で分離された軽液相は上部排出口22から配管133を通じて外部に排出され、重液相(水相)は下部排出口28から配管135を通じて外部に排出される。一方、セトラー20で分離されたエマルジョン相は、中央排出口27から配管134を通じてエマルジョン破壊装置10に戻され(リターン投入量B)、固液分離装置130から新規に投入されるエマルジョン1(新規投入量A)とともに、エマルジョン破壊装置10に再投入される。これにより、残存したエマルジョン1をエマルジョン破壊装置10にて再破壊して、重液2と軽液3に再分離できるので、重液2と軽液3の回収量を増加できる。
以上、図11を参照して、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置10を備えたエマルジョン処理装置50について説明した。当該エマルジョン処理装置50によれば、エマルジョン破壊装置10に投入されるエマルジョン1のpHを予め調整しておくことで、エマルジョン破壊処理におけるエマルジョン破壊強度と、エマルジョン破壊処理後のエマルジョン相率Eを低位安定化できる。
[3.エマルジョン破壊方法]
次に、本実施形態に係るエマルジョン破壊方法について説明する。なお、本実施形態に係るエマルジョン破壊方法は、上記構成のエマルジョン破壊装置10を備えるエマルジョン処理装置50(図11等を参照。)を用いて実行される。
[3.1.エマルジョン破壊方法の概要]
本実施形態に係るエマルジョン破壊方法の目的は、エマルジョン破壊処理に供されるエマルジョン1のpH(つまり、エマルジョン1に含まれる水相のpH)を予め適切なpH設定値に調整しておくことにより、エマルジョン破壊処理により生じる系外排液が排液のpH基準を満たすようにし、かつ、エマルジョン1の破壊に必要な遠心加速度を低位安定化して、エマルジョン1を安定的に破壊できるようにすることにある。
日本国の環境省の排水基準では、排液のpH(水素イオン濃度)の許与限度は、5.0以上、9.0以下(海域に排出されるもの)、特に、5.8以上、8.6以下(海域以外の公共用水域に排出されるもの)であると規定されている。そこで、本実施形態に係るエマルジョン破壊方法においても、エマルジョン破壊処理後に系外に排出される水相のpHが、5.0以上、9.0以下、好ましくは5.8以上、8.6以下となるように、エマルジョン1のpHを調整することとする。
また、本願発明者らが鋭意検討した結果、エマルジョン破壊処理後の処理液のエマルジョン相率Eが0.5超であると、エマルジョン破壊処理が不安定になることが判明した。つまり、エマルジョン1の破壊に必要な遠心加速度(エマルジョン破壊強度)を低位安定化して、エマルジョン破壊処理を安定化するためには、エマルジョン破壊処理後の処理液のエマルジョン相率Eを0.5以下にする必要があることが判明した。
そこで、本実施形態に係るエマルジョン破壊方法においては、エマルジョン1のpHの設定に当たり、エマルジョン破壊処理後の系外排液(エマルジョン破壊処理後の水相)のpHが、海洋排出のpH基準であるpH=5.0〜9.0の範囲内となることを基本とし、その範囲内において、エマルジョン相率Eが0.5以下となるように遠心加速度を設定することを特徴とする。これにより、排液のpH基準を満たしつつ、エマルジョン破壊強度を低位安定化して、エマルジョン破壊処理を安定的に継続することができる。
ただし、pHが5.0〜9.0の範囲において、採用した遠心力付与装置(前述のエマルジョン破壊装置10、又は後述の遠心分離機30)により付与可能な最大加速度の遠心力をエマルジョン1に付与しても、エマルジョン相率Eを0.5以下にできない場合には、エマルジョン1のpHを5.0〜9.0の範囲外に設定することで、エマルジョン相率Eを0.5以下とし、かつ、遠心加速度を当該最大加速度以下の値に設定する。
例えば、一般的な遠心分離機30により付与可能な最大加速度は例えば5000Gであり、上記エマルジョン破壊装置10により付与可能な最大加速度も例えば5000Gである。このように遠心力付与装置の最大加速度が不足する場合には、エマルジョン相率Eを0.5以下にすることを優先して、エマルジョン1のpHを上記排水のpH基準の範囲外(5.0未満、又は9.0超)に設定することで、エマルジョン1の破壊に必要な遠心加速度を低減し、エマルジョン破壊処理の安定化を図る。なお、この場合には、エマルジョン破壊装置10の後段に、系外排液に中和剤を添加する中和装置を設け、エマルジョン破壊処理の後処理として当該中和装置により系外排液を中和することで、系外排液が上記排水基準(pH=5.0〜9.0)を満たすようにする必要がある。
以上のように、本実施形態に係るエマルジョン破壊方法では、エマルジョン破壊処理に供されるエマルジョン1のpHと、エマルジョン破壊処理でエマルジョン1に作用させる遠心加速度を、適正な値に調整する。これにより、エマルジョン破壊処理により生じる系外排液が排液のpH基準(pH=5.0〜9.0)を満たすようにし、かつ、エマルジョン1の破壊に必要な遠心加速度を低位安定化して、エマルジョン破壊処理を安定化する。以下に、このエマルジョン破壊方法について詳述する。
[3.2.エマルジョン相率とリターン投入量比の関係]
次に、図12を参照して、エマルジョン破壊工程後のエマルジョン相率Eと、エマルジョン破壊工程におけるリターン投入量比rとの関係について詳述する。図12は、エマルジョン相率Eとリターン投入量比rとの関係を示すグラフである。
前述の図10及び図11等で示した通り、エマルジョン破壊装置10及びセトラー20により破壊及び分離されたエマルジョン相のエマルジョン1は、エマルジョン破壊装置10の前段に戻されて、再度、新たなエマルジョン1とともにエマルジョン破壊装置10に投入されて処理される。なお、図10等でエマルジョン1とともに戻される重液2は少量である。
ここで、リターン投入量比rとは、図10に示すように、「エマルジョン破壊装置10に新規に投入されるエマルジョン1の投入量(新規投入量A)[L/分]」に対する「セトラー20からエマルジョン破壊装置10に戻されるエマルジョン1の投入量(リターン投入量B)[L/分]」の比であり、以下の式(2)で表される。なお、以下の式(3)に示すように、セトラー20から配管133、135を通じて系外に排出される液体(軽液3、重液2及び微細粒子4)の排出量(C)は、上記の新規投入量(A)と略同一である。
r=B/A (2)
A=C (3)
かかるエマルジョン破壊工程におけるリターン投入量比rと、エマルジョン破壊工程後に測定されたエマルジョン相率Eの関係を図12に示す。
図12に示すように、エマルジョン破壊処理後のエマルジョン相率Eが高いほど、リターン投入量比rが増加しており、エマルジョン破壊装置10による再処理が必要となり、処理量が増加する。エマルジョン相率Eが0.5以下では、グラフの勾配は比較的小さく、エマルジョン相率Eが変化しても、リターン投入量比rは大きく変化しない。しかし、エマルジョン相率Eが0.5を超えた付近より、グラフの勾配は急激に大きくなり、エマルジョン相率Eが0.5超の範囲では、エマルジョン相率Eの変化に応じて、リターン投入量比rが大きく変化する。つまり、エマルジョン相率Eが0.5を超過すると、リターン投入量比rは大きく変動し、エマルジョン破壊装置10による安定的なエマルジョン破壊処理を達成できないことになる。
より詳細には、図12に示すように、エマルジョン相率Eが0.5を超過すると、リターン投入量比rが急激に上昇し、エマルジョン破壊装置10により再処理されるエマルジョン1のリターン投入量Bが急激に増加する。実際のエマルジョン破壊処理においては、リターン投入量比rを一定にして操業するので、エマルジョン相率Eが0.5よりも高い領域の状態で処理すると、エマルジョン破壊処理が安定化しない。
そのため、従来技術のように処理対象のエマルジョンのpH調整を行うことなく、エマルジョン破壊処理を安定化しようとすると、以下の(a)又は(b)の操業方法を取らざるを得ない。
(a)リターン投入量比rの振れ幅の上限側においてもエマルジョン破壊処理を十分に行えるように、非常に高い遠心加速度を設定できる高価な遠心分離機を導入し、遠心加速度を高めに設定して(安全係数を高くして)、エマルジョン相率Eが0.5以下の状態を維持して操業する。
(b)遠心分離機の容量を大きくすることで、遠心加速度を高めることなく、処理量の能力を高め、リターン投入量Bを多くして(安全係数を高くして)、エマルジョン相率Eが0.5超のままで操業する。なお、この(b)の操業方法は、上記(a)の操業方法によりエマルジョン破壊処理を安定化できない場合に、やむを得ず取り得る方法である。
これ対して、本実施形態に係るエマルジョン破壊方法では、処理対象のエマルジョン1のpHを適正化することで、より低い遠心加速度を用いて、エマルジョン相率Eが0.5以下の状態を維持できる。従って、上記(a)の従来方法の遠心分離機よりも、低い遠心加速度で相対的に低価格の遠心分離機30、又は、新規で低価格なエマルジョン破壊装置10を用いることで、エマルジョン破壊処理の安定化を実現することができる。よって、本実施形態によれば、従来よりも、遠心力付与装置(エマルジョン破壊装置10又は遠心分離機30)の設備の仕様を小型化及び簡素化して、設備コストを低減できる。
また、次に説明する理由からも、エマルジョン相率Eが0.5以下の状態でエマルジョン破壊処理を行うことが好ましい。即ち、図12に示すように破壊処理後のエマルジョン相率Eが0.5よりも大きくなると、上記のようにリターン投入量Bが急激に多くなり、エマルジョン破壊装置10内の回転体7を大きくするか、或いは、回転体7の回転数を大きくする必要がある。また、エマルジョン破壊装置10に新規投入されるエマルジョン1中の微細粒子4の特性が変動(例えば、微細粒子4のぬれ性の増加や、微細な粒子の増加)することにより、破壊処理に供されるエマルジョン1のpHや遠心加速度が同一の条件であっても、破壊処理後のエマルジョン相率Eは変化してしまう。
つまり、重液2と軽液3の界面に介在する微細粒子4に遠心力が作用するとき(図4参照。)、この遠心力(F)は、F=m*aとなる。なお、mは微細粒子4の質量、aは遠心加速度である。ここで、微細粒子4が界面から除去されるためにF0の力が必要であるとき、遠心加速度aが一定の場合、F>F0になるためには、質量mがある一定以上である必要がある。即ち、微細粒子4の粒子径が小さいと、mは小さいため、F<F0となり、エマルジョン1を破壊できなくなる。従って、エマルジョン破壊装置10に新規投入されるエマルジョン1中の微細粒子4の粒子径が変動すると、破壊処理後のエマルジョン相率Eも変動することになる。同様に、微細粒子4のぬれ性が増加すると、F0自体が大きくなるので、エマルジョン1の破壊が阻害されて、エマルジョン相率Eが増加する。このように、エマルジョン破壊装置10に新規投入されるエマルジョン1中の微細粒子4の特性の変動、即ち、ぬれ性の増加や微細な粒子の増加により、エマルジョン相率Eが大きくなると、リターン投入量比rは大きく変動するようになる。
以上の理由から、破壊処理後のエマルジョン相率Eが0.5より大きい場合には、新規投入されるエマルジョン1中の微細粒子4の特性の変動に起因したリターン投入量比rの変動が過敏となり、エマルジョン破壊処理の安定制御が困難となる。そこで、本実施形態では、微細粒子4の特性の変動によっても、リターン投入量比rを大きく変動させないために、エマルジョン相率Eが0.5以下となるように、エマルジョン1のpH及び遠心加速度を調整することにより、エマルジョン破壊処理の安定化を実現する。
[3.3.pHと遠心加速度とエマルジョン相率との相関関係]
次に、エマルジョン1のpHと遠心加速度とエマルジョン相率Eとの相関関係の具体例と、当該相関関係に基づいてpH設定値及び遠心加速度の設定値を設定する方法について説明する。
本実施形態では、エマルジョン相率Eが0.5以下になるように、エマルジョン破壊装置10に投入されるエマルジョン1のpHの設定値(以下、「pH設定値」という。)と、エマルジョン破壊装置10によりエマルジョン1に作用させる遠心加速度の設定値(以下、「加速度設定値」という。)を設定する。
この際、まず、第1条件(pH設定値が5.0以上、9.0以下、かつ、エマルジョン相率Eが0.5以下)を満たすように、pH設定値と、加速度設定値を設定する。ここで、pH設定値を5.0〜9.0の範囲内とする理由は、エマルジョン破壊処理により生じた水相(余剰水や付着水を含む水溶液)が系外に排出されることを想定して、上述した排水のpH基準の規定を順守するためである。
ところが、上記第1条件により設定された加速度設定値が、遠心力付与装置(本実施形態に係るエマルジョン破壊装置10、又は後述する第2の実施形態に係る遠心分離機30)により付与可能な遠心加速度の最大値(以下、「最大加速度」という場合もある。)を超える場合がある。この場合には、第2条件(エマルジョン相率Eが0.5以下)を満たすように、pH設定値を5.0未満又は9.0超の範囲で設定しつつ、加速度設定値をできる限り小さい適性値に設定する。
以上のようにpH設定値と加速度設定値を設定することにより、エマルジョン相率Eを0.5以下に抑えつつ、遠心加速度を低位安定化できるので、エマルジョン破壊処理を安定化できる。
ところで、処理対象となるエマルジョン1の種類によって、pH設定値と加速度設定値の適性値がそれぞれ異なるため、当該種類ごとにpH設定値と加速度設定値を設定する必要がある。そこで、実際のエマルジョン破壊処理を実行する前に予め予備試験を行い、エマルジョン1の種類ごとに、エマルジョン破壊処理におけるpHと遠心加速度とエマルジョン相率Eとの相関関係を求めておくことが好ましい。この予備試験では、各種のエマルジョンのサンプルに対して、pH設定値と加速度設定値が相異なる条件下で遠心力を作用させて、当該遠心力を作用させた後の各サンプルのエマルジョン相率Eを測定する。かかる予備試験により、エマルジョンの種類ごとに、エマルジョン破壊処理におけるpHと遠心加速度とエマルジョン相率Eとの相関関係を測定して、グラフ化しておく。
そして、エマルジョン破壊装置10の実機を用いた実際の操業においては、処理対象のエマルジョン1の種類に対応する上記相関関係のグラフを参照して、エマルジョン相率Eが0.5以下となるように、pH設定値と加速度設定値を適性値に設定して、エマルジョン破壊処理を実行する。このように予備試験で測定された相関関係に基づいて、pH設定値と加速度設定値を設定する基準としては、例えば、以下の基準が考えられる。
(a)エマルジョン相率Eが0.5以下となり、かつ、pH設定値が5.0〜9.0となる範囲内で、エマルジョン相率Eができるだけ小さい値になるように、pH設定値と加速度設定値を設定する。
(b)エマルジョン相率Eが0.5以下となり、かつ、加速度設定値が遠心力付与装置の最大加速度以下となる範囲内で、pH設定値に関わらずに、エマルジョン相率Eができるだけ小さい値になるように、pH設定値と加速度設定値を設定する。
(c)エマルジョン相率Eが0.5以下となり、かつ、pH設定値が5.0〜9.0となる範囲内で、加速度設定値ができるだけ小さい値になるように、pH設定値と加速度設定値を設定する。
(d)エマルジョン相率Eが0.5以下となり、かつ、加速度設定値が遠心力付与装置の最大加速度以下となる範囲内で、pH設定値に関わらずに、加速度設定値ができるだけ小さい値になるように、pH設定値と加速度設定値を設定する。
上記で例示した(a)〜(d)の設定基準のいずれを用いてもよいが、できるだけエマルジョン相率Eを低位安定化して、エマルジョン破壊処理を安定化するためには、上記(a)又は(b)の設定基準が好ましい。
次に、図13A〜図13Bを参照して、上記相関関係を表すグラフと、pH設定値と加速度設定値の設定方法の具体例について説明する
図13Aは、後述する実施例1に係る相関関係を表すグラフである。図13Aに示す相関関係によれば、エマルジョン相率Eを0.5以下にするためには、加速度設定値をできるだけ大きな値に設定し、かつ、pH設定値を7〜9の範囲内に設定することが好ましいといえる。pH5〜9の領域において、エマルジョン相率が0.5を下回る加速度領域(230G以上)が存在し、その加速度領域は、エマルジョン破壊装置10の最大加速度(例えば約5000G)以下であることから、上記設定基準(a)もしくは(c)を適用することができる。
ここで、上記設定基準(a)によれば、例えば、図13A中のプロットSで示すように、pH設定値を7.8に設定し、加速度設定値を1712Gに設定することが好ましい。これにより、エマルジョン相率Eが0.5以下となり、かつ、pH設定値が上記排液のpH基準(5.0〜9.0)の範囲内で、エマルジョン相率Eができるだけ小さい値になるように、pH設定値と加速度設定値を設定できる。
また、上記設定基準(c)によれば、例えば、図13A中のプロットTで示すように、pH設定値を7.8に設定し、加速度設定値を230Gに設定することが好ましい。これにより、エマルジョン相率Eが0.5以下となり、かつ、pH設定値が排液のpH基準(5.0〜9.0)の範囲で、加速度設定値ができるだけ小さい値になるように、pH設定値と加速度設定値を設定できる。
また、図13Bは、後述する実施例2に係る相関関係を表すグラフである。図13Bに示す相関関係によれば、エマルジョン相率Eを0.5以下にするためには、加速度設定値をできるだけ大きな値に設定し、かつ、pH設定値をできるだけ強酸性側又は強アルカリ性側の値に設定することが好ましいといえる。pH5.0〜9.0の領域においては、エマルジョン相率Eを0.5以下にするためには、5000G超の加速度設定値が必要となり、エマルジョン破壊装置10で付与可能な最大加速度(例えば5000G)を超えてしまう。
そこで、遠心力付与装置を選定しやすくするためには、上記設定基準(b)もしくは(d)を適用して、アルカリ性側よりもエマルジョン1を破壊しやすい酸性側のpH領域にpH設定値を設定し、かつ、エマルジョン相率Eが0.5以下になるように加速度設定値を設定することが好ましい。
上記設定基準(b)によれば、例えば、図13B中のプロットUで示すように、pH設定値を1.8に設定し、加速度設定値を5000Gに設定することが好ましい。これにより、エマルジョン相率Eが0.5以下となり、かつ、加速度設定値がエマルジョン破壊装置10の最大加速度(例えば5000G)以下となる範囲内で、pH設定値に関わらずに、エマルジョン相率Eができるだけ小さい値になるように、pH設定値と加速度設定値を設定できる。
また、上記設定基準(d)によれば、例えば、図13B中のプロットWで示すように、pH設定値を4.8に設定し、加速度設定値を5000Gに設定することが好ましい。これにより、エマルジョン相率Eが0.5以下となり、かつ、加速度設定値がエマルジョン破壊装置10の最大加速度以下(例えば5000G)となる範囲内で、pH設定値に関わらずに、加速度設定値ができるだけ小さい値になるように、pH設定値と加速度設定値を設定できる。
[3.4.エマルジョン破壊方法の全体フロー]
次に、図14を参照して、本実施形態に係るエマルジョン破壊方法の全体フローについて説明する。図14は、本実施形態に係るエマルジョン破壊方法を示すフローチャートである。
図14に示すように、相関関係の測定工程(S10)と、pH設定値及び加速度設定値の設定工程(S20)と、pH調整工程(S30)と、エマルジョン破壊工程(S40)とを含む。以下、各工程について詳述する。
(1)相関関係の測定工程(S10)
まず、S10では、処理対象のエマルジョン1に関し、前述した予備試験を行うことにより、当該エマルジョン1のpHと、エマルジョン破壊処理で作用させる遠心加速度と、エマルジョン処理程後のエマルジョン相率Eとの相関関係を測定する。
この予備試験では、処理対象のエマルジョン1の複数のサンプルを準備し、各サンプルのpHと、当該各サンプルに作用させる遠心力の遠心加速度が異なる条件下で、各サンプルに遠心力を作用させた後に、各サンプルのエマルジョン相率Eを測定する。そして、各サンプルのpHと遠心加速度とエマルジョン相率Eの相関関係を示すグラフ(例えば、図13A〜図13Cを参照。)を作成する。なお、かかる測定工程(S10)の予備試験で、エマルジョン1のサンプルのpHを正確に測定する方法については、例えば2種類の方法があるが、それらの詳細は後述する(図16及び図17参照。)。
(2)pH設定値及び加速度設定値の設定工程(S20)
次いで、S20では、上記S10で得られた相関関係に基づいて、後段のエマルジョン破壊工程で使用するpH設定値pS及び加速度設定値aSを設定する。
ここで、図15を参照して、設定工程(S20)の詳細を説明する。図15は、本実施形態に係るエマルジョン破壊方法の設定工程を示すフローチャートである。
図17に示すように、まず、上記相関関係に基づいて、第1条件を満たすように、pH設定値pS1及び加速度設定値aS1を設定する(S210)。ここで、第1条件は、pH設定値pSが5.0以上、9.0以下であり、かつ、エマルジョン相率Eが0.5以下である。例えば、図13Aの相関関係の場合は、E≦0.5、かつ、5.0≦pS1≦9.0の条件を満たしつつ、Eをできるだけ小さくするために、pS1=pH7.8、aS1=1712Gに設定される。
次いで、上記S210で設定された加速度設定値aS1が、遠心力付与装置(エマルジョン破壊装置10又は遠心分離機30)により付与可能な遠心加速度の最大値aMAXを超過するか否かを判定する(S212)。例えば、遠心力付与装置が遠心分離機30である場合の加速度最大値aMAXは、例えば5000Gであり、エマルジョン破壊装置10の場合の加速度最大値aMAXは、例えば5000Gである。
S212の判定の結果、加速度設定値aS1が加速度最大値aMAX以下である場合(aS1≦aMAX)には、上記S210にて第1条件を満たすように設定されたpH設定値pS1及び加速度設定値aS1をそのまま、pH設定値pS及び加速度設定値aSとして、設定工程を終了する。例えば、上記図13Aの相関関係の場合は、aS1≦aMAXであるので、そのままpS=pS1、aS=aS1に設定する。一方、加速度設定値aS1が加速度最大値aMAX超である場合(aS1>aMAX)には、次の再設定工程S214に進む。例えば、図13Bの相関関係の場合は、aS1>aMAXとなるので、S214に進む。
S214では、上記相関関係に基づいて、第2条件を満たすように、pH設定値pS2を5.0未満又は9.0超の範囲で再設定し、かつ、加速度設定値aS2を上記加速度最大値aMAX以下の値に再設定する(S214)。ここで、第2条件は、エマルジョン相率Eが0.5以下である。例えば、図13Bの相関関係の場合は、E≦0.5の条件を満たしつつ、Eをできるだけ小さくするために、pS2=pH1.8、aS2=5000Gに設定される。そして、上記S214にて第2条件を満たすように再設定されたpH設定値pS2及び加速度設定値aS2を、pH設定値pS及び加速度設定値aSとして、設定工程を終了する。
以上のように、pH設定値pS及び加速度設定値aSを設定することで、加速度設定値aSを加速度最大値aMAX以下の実施可能な値に設定できるとともに、遠心力付与装置のスペックの制約条件下で、エマルジョン破壊工程後のエマルジョン相率Eをできるだけ低位安定化できる。
(3)pH調整工程(S30)
次いで、図14に戻り、上記設定工程(S20)の次のpH調整工程(S30)の説明を続ける。S30では、エマルジョン破壊工程前の実際の処理対象のエマルジョン1(つまり、エマルジョン破壊装置10等の実機に投入されるエマルジョン1)に対いてpH調整剤を添加して、当該エマルジョン1のpHを、上記S20で設定されたpH設定値pSに調整する。このようにpH調整することにより、次のエマルジョン破壊工程(S40)においてエマルジョン1の破壊処理に必要な遠心加速度(エマルジョン破壊強度)を低位安定化できる。なお、かかるpH調整工程(S30)において、上記エマルジョン1のpHを正確に調整する方法については、例えば2種類の方法があるが、それらの詳細は後述する。
(4)エマルジョン破壊工程(S40)
その後、S40では、上記S30にてpHが調整されたエマルジョン1をエマルジョン破壊装置10に新規投入しながら、当該エマルジョン1に対して、上記S20で設定された加速度設定値aSの遠心力を作用させる。この遠心力の作用により、当該エマルジョン1の処理液は破壊(解乳化)された後に、セトラー20にて軽液相、エマルジョン相、重液相に比重分離される。さらに、セトラー20内の残存したエマルジョン1は、エマルジョン破壊装置10に戻されて、上記新規投入されるエマルジョン1とともに再投入されて、再びエマルジョン破壊処理が行われる。
以上のように、本実施形態に係るエマルジョン破壊方法では、予め予備試験で測定された相関関係に基づいて、pH設定値pS及び加速度設定値aSを適正値に設定する。そして、実際のエマルジョン破壊工程では、予めpH設定値pSに調整されたエマルジョン1に対して、適正な加速度設定値aSの遠心力を作用させる。これにより、エマルジョン破壊工程後の処理液中のエマルジョン相率Eを0.5以下に低位安定化できるので、エマルジョン1のリターン投入量Bの絶対量及び変動を抑制して、エマルジョン破壊処理を安定的に実行できる。さらに、エマルジョン相率Eが0.5以下となる範囲内で、加速度設定値aSをできるだけ小さく設定することにより、エマルジョン破壊工程で実際に付与される遠心加速度を低位安定化できる。よって、エマルジョン破壊装置10を簡素かつ小型の構造にすることができ、設備コストも安価にできる。さらに、エマルジョン1のpH設定値pSを5.0以上、9.0以下にすることにより、エマルジョン破壊処理後の系外排液が、排水のpH基準を満たすようになり、排液の中和処理などに要する追加設備及び追加コストを削減できる。
なお、上記のエマルジョン破壊方法のフロー(図14参照。)において、pH調整工程(S30)及びエマルジョン破壊工程(S40)は、実機の遠心力付与装置を用いて行われる本工程(実際の操業)である。これに対し、相関関係の測定工程(S10)はあくまでも、実機の操業前の予備試験を行うための予備工程であり、上記本工程(S30、S40)と同時に行われる必要はない。
また、予備工程である測定工程(S10)での予備試験に用いる遠心力付与装置は、本工程(S40)にてエマルジョン1の処理液を実際に処理するときの遠心力付与装置(エマルジョン破壊装置10又は遠心分離機30:以下、「実機の遠心力付与装置」と称する。)とは、異なるものでああっても構わない。例えば、予備工程(S10)の遠心力付与装置と、本工程(S40)の実機の遠心力付与装置とは、ラボレベルと実機レベルのようなスケールの違いがあっても構わない。
また、上記設定工程(S20)にて加速度設定値aSを設定するときには、次の基準を用いることが好ましい。
(1)実機の遠心力付与装置が既に決定している場合(処理設備が既に存在する場合等)は、その装置が付与可能な遠心加速度の最小値aMINと最大値aMAXの範囲内で、加速度設定値aSを設定する。
(2)実機の遠心力付与装置を新たに導入する場合は、相関関係の測定工程(S10)の結果を踏まえながらも、それ以外の因子(処理量、設備コスト、設置エリア制約、安全係数等)も考慮して装置仕様を決定し、決定された装置が付与可能な遠心加速度の最小値aMINと最大値aMAXの範囲内で、加速度設定値aSを設定する。
[3.5.pH調整方法]
次に、上記図14に示したpH調整工程(S30)において、エマルジョン1のpHを正確に調整する方法について説明する。
エマルジョン1のpHを調整するためには、pH計を用いて、調整前後のエマルジョン1のpHを正確に測定する必要がある。前述した通り、本実施形態ではpH計として、例えばガラス電極式のpH計164、165、166(図11参照。)を用いる。
ところが、電極式のpH計は、電極の液絡部に有機溶剤又は油分が付着すると、測定誤差や誤作動が生じやすくなる。詳細には、ガラス電極式のpH計の比較電極には前述の液絡部があり、比較電極内のKCl溶液が液絡部から徐々に放出されながら、電極内と被測定液との電気的接続を保っている。そのため、有機溶剤又は油等の疎水性の液体で液絡部を塞いでしまうと、電気的接続を保てなくなり、正しいpHを連続的に測定できなくなる。電極表面に付着する疎水性の液体を何度も洗い落せば、pH計を引き続き使用できるが、高頻度の洗浄は実用的ではない。
そのため、本実施形態に係るpH調整工程(S30)では、以下の2つのpH調整方法のいずれかを選択することで、電極式のpH計を用いて破壊処理に供されるエマルジョン1のpHを正確に測定して、安定的かつ連続的にpHを調整できるようにする。
(1)エマルジョン破壊工程(S40)の前段階であって、疎水性の液体を混合する前に、水と微細粒子4からなる混合物(スラリー)に対してpH調整剤を添加することにより、当該スラリーのpHを調整し、その後に、当該スラリーに疎水性の液体を混合する。
(2)pH調整工程(S30)とエマルジョン破壊工程(S40)を同時並行で連続的に実行し、エマルジョン破壊工程(S40)にてエマルジョン1を破壊した後に分離される水相のpHを連続的又は間欠的に測定しながら、当該pH測定値に基づいて、エマルジョン破壊工程(S40)に供される前のエマルジョン1に対してpH調整剤を添加することにより、エマルジョン1のpHを調整する。
かかる2つのpH調整方法(1)及び(2)について、以下に詳述する。なお、以下では、上記図11に示したエマルジョン処理装置50を用いて、エマルジョンの破壊処理を連続的に行いながら、当該エマルジョン破壊装置10に投入される前のエマルジョン1のpHを調整する例について説明する。
[3.5.1.pH調整方法(1)]
まず、上記pH調整方法(1)について説明する。このpH調整方法(1)は、重液2、軽液3及び微細粒子4からエマルジョン1を新たに生成し、当該エマルジョン1を破壊する場合に用いられる。
かかるpH調整方法(1)では、上記pH調整工程(S30)とエマルジョン破壊工程(S40)を順次実行する。そして、pH調整工程(S30)において、エマルジョン1のpHをpH設定値pSに調整するために、まず、電極式のpH計を用いて、水と微細粒子4とが懸濁したスラリーのpHを測定する。次いで、この測定の結果として得られるpH測定値に基づいて、当該スラリーに対してpH調整剤を添加して、スラリーのpHをpH設定値pSに調整する(S30)。その後に、当該pHが調整されたスラリーに対して疎水性の液体を混合及び撹拌することにより、pHがpH設定値pSに調整されたエマルジョン1を生成し、当該エマルジョン1をエマルジョン破壊装置10に投入して、エマルジョン破壊工程(S40)を実行する。
ここで、重液2が水であり、軽液3が疎水性の液体(例えば有機溶剤)である場合に、図11に示すエマルジョン処理装置50を用いて、上記pH調整方法(1)を実行する具体例について説明する。
重液2が水であり、軽液3が有機溶剤である場合には、図11に示すように、エマルジョン破壊装置10の前段に設けられたスラリーpH調整槽160において、有機溶剤を含有しないスラリー(水と微細粒子4の混合物)のpHをpH計164で測定しながら、所望のpH設定値pSに調整すればよい。
即ち、電極式のpH計164は、電極の液絡部に有機溶剤が付着すると、測定誤差や誤作動が生じやすくなる。そこで、有機溶剤(軽液3)の混合前に予め、スラリー化槽110にて水(重液2)と微細粒子4を混合してスラリーを生成し、次いで、スラリーpH調整槽160にてpH計164を用いてスラリーのpHを測定しながら、所望のpH設定値pSに調整し、その後に、撹拌槽120にて当該pHが調整されたスラリーに有機溶剤(軽液3)を混合して、エマルジョン化すればよい。これにより、pH計164の電極の液絡部が有機溶剤又は油分により閉塞されないので、pH計164の測定値に誤差が生じにくくなり、スラリーのpHを所望のpH設定値pSに高精度で調整できる。このようにしてスラリーのpHを調整した後、撹拌槽120にて有機溶剤(軽液3)を混合して、所望のpH設定値pSに調整されたエマルジョン1を生成することで、エマルジョン破壊装置10に投入されるエマルジョン1のpHを制御することができる。
以上のように、水と微細粒子4を混合しスラリー化し、pH計164を用いてスラリーのpHを調整することにより、pH計164の測定誤差や誤作動が生じにくくなる。そして、スラリーのpHを調整した後、当該スラリーに疎水性の液体(有機溶剤)を混合してエマルジョン1を生成することで、エマルジョン破壊装置10に投入されるエマルジョン1のpHを高精度で制御することができる。
なお、スラリー化槽110に投入される微細粒子4が含油スケールの微細粒子である場合には、スラリーpH調整槽160にてpH調整されるスラリーにも、当該含油スケールの油分が含まれているので、当該油分によってpH計164の電極の液絡部が閉塞されて、測定誤差や誤作動の原因となることが懸念される。しかし、スラリーのほとんどが水とスケールであり、油分の含有量は少なく、また、油分の全周囲にスケール微粉が付着しているため、スラリーの水相中に浸み出す油分の量も微量である。従って、当該油分によるpH計164の誤作動の頻度は少なく、pH計164の自動洗浄機能を使用し、頻繁に洗浄と校正を行うことで、十分に対応できる。これにより、スラリーに油分が含まれていたとしても、スラリーpH調整槽160におけるスラリーのpH調整に問題はない。
また、上記では、スラリーpH調整槽160に設けられたpH計164によるpH測定値に基づいて、スラリーpH調整槽160内のスラリーのpHを調整したが、かかる例に限定されない。例えば、セトラー20に設けられたpH計165により、水相(重液相)のpHを測定し、当該pH測定値に基づいて、スラリーpH調整槽160内のスラリーのpHを調整してもよい。
[3.5.2.pH調整方法(2)]
次に、上記pH調整方法(2)について説明する。このpH調整方法(2)は、重液2、軽液3及び微細粒子4からエマルジョン1を新たに生成し、当該エマルジョン1を破壊する場合に用いることもできるし、既成のエマルジョン1を破壊する場合にも用いることができる。
かかるpH調整方法(2)では、pH調整工程(S30)とエマルジョン破壊工程(S40)を同時並行で連続的に実行する。そして、エマルジョン破壊工程(S40)にてエマルジョン1を破壊した後に分離される水相のpHを、電極式のpH計を用いて連続的又は間欠的に測定しながら、当該pH測定値に基づいて、エマルジョン破壊工程(S40)に供される前のエマルジョン1に対してpH調整剤を添加することにより、当該エマルジョン1のpHをpH設定値pSに調整する(S30)。
ここで、軽液3が水であり、重液2が疎水性の液体(例えば有機溶剤)である場合に、図11に示すエマルジョン処理装置50を用いて、上記pH調整方法(2)を実行する具体例について説明する。
軽液3が水であり、重液2が有機溶剤である場合には、図11に示すように、エマルジョン破壊装置10の前段に設けられた電極式のpH計164による測定対象物(有機溶剤と微細スケールを含むスラリー)に、有機溶剤(重液2)が含まれる。このため、当該pH計164の電極の液絡部が有機溶剤又は油分により閉塞されてしまい、測定誤差や誤作動が生じやすい。従って、エマルジョン破壊装置10に投入する前に、当該pH計164を用いてスラリーのpHを正確に測定することは難しい。
そこで、この場合には、エマルジョン破壊装置10の後段に設けられた電極式のpH計166を用いて、エマルジョン破壊処理及びセトラー20により分離された水相(軽液相)のpHを測定し、当該pH測定値に基づいて、エマルジョン破壊装置10に投入されるエマルジョン1のpHを調整することが好ましい。セトラー20で分離された水相には、有機溶剤(重液2)や微細粒子4の油分がほとんど含まれていないので、当該pH計166により当該水相のpHを正確に測定できる。よって、pH調整剤供給装置163は、当該pH計166によるpH測定値に基づいて、スラリーpH調整槽160内のスラリーのpHを所望のpH設定値pSに高精度で調整できる。この結果、エマルジョン破壊装置10に投入されるエマルジョン1のpHも所望のpH設定値pSに正確に調整できる。
なお、上記では、重液2、軽液3及び微細粒子4から新たに生成したエマルジョン1を破壊する場合について説明したが、既成のエマルジョン1を破壊する場合にも、上記pH調整方法(2)を用いることができる。例えば、エマルジョン破壊装置10の前段に、既成のエマルジョン1が投入されるpH調整槽(図示せず。)を設け、エマルジョン破壊装置10の後段のセトラー20に設けられたpH計165又はpH計166による水相のpH測定値に基づいて、当該pH調整槽内で既成のエマルジョン1のpHを調整し、当該pHが調整された既成のエマルジョン1をエマルジョン破壊装置10に投入してもよい。
以上のように、エマルジョン破壊装置10の前段で、有機溶剤等が混合されていないスラリーのpHを測定可能な場合は、エマルジョン破壊装置10の前段に設けられたpH計164を用いて、当該スラリーのpHを高精度に測定して、当該スラリーのpHを正確に調整した後に、有機溶剤を混合して、エマルジョン破壊装置10に投入されるエマルジョン1のpHを所望のpH設定値に調整すればよい。一方、水と有機溶剤を含むエマルジョン1が既に存在し、この既成のエマルジョンを処理対象としなければならない場合は、エマルジョン破壊装置10の後段に設けられたpH計165又は166を用いて、エマルジョン破壊処理により分離された水相のpHを連続的又は間欠的に測定し、当該pH測定値に基づいて、エマルジョン破壊装置10に投入されるエマルジョン1のpHを所望のpH設定値pSに調整すればよい。
[3.6.相関関係の測定方法]
次に、上記図14に示した相関関係の測定工程(S10)において、電極式のpH計を用いてエマルジョン1のサンプルのpHを高精度で測定して、相関関係を正確に求める方法について説明する。
前述のpH調整方法(1)及び(2)で説明したように、電極式のpH計は、電極の液絡部に有機溶剤が付着すると、測定誤差や誤作動が生じやすくなる。このため、上記pH調整工程(S30)だけでなく、相関関係の測定工程(S10)の予備試験においても、電極式のpH計を用いてエマルジョン1のサンプルのpHを測定して調整する際に、同様の問題が生じる。
そこで、本実施形態に係る測定工程(S10)では、以下に説明する2つの測定方法(1)又は(2)(図16及び図17を参照。)のいずれかを選択することで、電極式のpH計を用いてエマルジョン1のサンプルのpHを正確に測定して、pHと遠心加速度とエマルジョン相率Eの相関関係を正確に測定できるようにする。
[3.6.1.相関関係の測定方法(1)]
まず、図16を参照して、相関関係の測定方法(1)について説明する。この測定方法(1)は、重液2、軽液3及び微細粒子4からエマルジョン1のサンプルを新たに生成し、当該エマルジョン1のサンプルの相関関係を測定する場合に用いられる。
図16に示すように、まず、水と微細粒子4とが懸濁したスラリーの複数のサンプルのpHを、電極式のpH計を用いて測定しながら、当該pH測定値に基づいて、スラリーの複数のサンプルに対してpH調整剤を添加して、当該スラリーの複数のサンプルのpHを相異なる値に調整する(S110)。
次いで、上記pHが調整されたスラリーの各サンプルに対してそれぞれ、疎水性の液体(有機溶剤等)を混合して、エマルジョン化することにより、予備試験で用いられるエマルジョン1の複数のサンプルを生成する(S112)。上記S110でスラリーの複数のサンプルのpHが相異なる値に調整されているから、本S112で生成されるエマルジョン1の複数のサンプルのpHも、相異なる値に調整されている。
さらに、上記エマルジョン1の複数のサンプルに対してそれぞれ、相異なる遠心加速度の設定値の遠心力を作用させる(S114)。これにより、各サンプルのエマルジョン1の少なくとも一部が破壊されて、水相と、疎水性の液体相(有機溶剤相)と、エマルジョン相とに分離される。
その後、上記遠心力を作用させた後の各サンプルのエマルジョン相率Eを測定する(S116)。上記S110〜S114により、各サンプルのpH値と、作用される遠心加速度が相異なるので、測定される各サンプルのエマルジョン相率Eも相異なる値となる。
以上のフローにより、上記S110で測定されたスラリーの各サンプルのpHの測定値(即ち、エマルジョン1の各サンプルのpH値)と、上記S112で設定した遠心加速度の設定値と、上記S116で測定されたエマルジョン相率Eとから、対象のエマルジョン1に関する相関関係を求めることができる。この際、電極式のpH計を用いて、有機溶剤を含むエマルジョン1のサンプルのpHを測定するのではなく、有機溶剤を含まないスラリーのサンプルのpHを測定する。従って、pH計の液絡部に対する有機溶剤の付着による測定誤差や誤作動が生じないため、エマルジョン1の各サンプルのpHを高精度で測定して、相関関係を正確に測定できる。
[3.6.2.相関関係の測定方法(2)]
次に、図17を参照して、相関関係の測定方法(2)について説明する。この測定方法(2)は、既成のエマルジョン1のサンプルの相関関係を測定する場合に用いられる。
図17に示すように、まず、既成のエマルジョン1の複数のサンプルに対して、相異なる量又は濃度のpH調整剤を添加して、当該複数のサンプルのpHを相異なる値に調整する(S120)。この時点では、各サンプルのpHを測定しないので、各サンプルのpHは未知である。
次いで、上記エマルジョン1の複数のサンプルに対してそれぞれ、相異なる遠心加速度の設定値の遠心力を作用させる(S122)。これにより、各サンプルのエマルジョン1の少なくとも一部が破壊されて、水相と、疎水性の液体相(有機溶剤相)と、エマルジョン相とに分離される。
その後、上記遠心力を作用させた後のエマルジョン1の各サンプルのエマルジョン相率Eを測定する(S124)。上記S120〜S124により、各サンプルのpH値と、作用される遠心加速度が相異なるので、測定される各サンプルのエマルジョン相率Eも相異なる値となる。
さらに、上記遠心力の作用により各サンプルのエマルジョン1のから分離された水相のpHを、電極式のpH計を用いて測定する(S126)。この各サンプルの水相のpHは、S120で調整されたエマルジョン1の各サンプルのpHと略同一である。従って、各サンプルの水相のpHを測定することで、エマルジョン1の各サンプルのpHを測定したことになる。
以上のフローにより、上記S122で設定した遠心加速度の設定値と、上記S124で測定されたエマルジョン相率Eと、上記S126で測定された水相のpHの測定値(即ち、エマルジョン1の各サンプルのpH値)とから、対象のエマルジョン1に関する相関関係を求めることができる。この際、電極式のpH計を用いて、有機溶剤を含むエマルジョン1のサンプルのpHを測定するのではなく、有機溶剤を含まない水相のサンプルのpHを測定する。従って、pH計の液絡部に対する有機溶剤の付着による測定誤差や誤作動が生じないため、エマルジョン1の各サンプルのpHを高精度で測定して、相関関係を正確に測定できる。
[4.油分分離装置及び油分分離方法]
次に、図18を参照して、上記エマルジョン破壊装置10及びエマルジョン処理装置50が適用された油分分離装置100と、本実施形態に係るエマルジョン破壊方法が適用された油分分離方法について説明する。図18は、本実施形態に係る油分分離装置100を示す模式図である。
本実施形態に係る油分分離装置100は、油分及び水分を含有するスケール類(含油スケール)から油分を分離するための装置である。この油分分離装置100では、含油スケール中の油分を抽出剤である有機溶剤に抽出するときに、該有機溶剤と水と微細スケールからなるエマルジョン1が生成される。このエマルジョン1は、有機溶剤と水の界面にスケールの微細粒子4(微細スケール)が介在しているため安定化しており、破壊されにくい。そこで、本実施形態に係る油分分離装置100は、上記エマルジョン破壊装置10を利用して、該エマルジョン1を効果的に破壊して、水と有機溶剤と微細スケールと油分を適切に分離することを目的としている。以下に、油分分離装置100とこれを用いた油分分離方法について詳述する。
なお、以下では、油分分離装置100の処理対象として、上記の重液2が水であり、軽液3が親油性の有機溶剤であり、微細粒子4が微細スケールである例について説明するが、油分分離装置の処理対象は、かかる例に限定されるものではない。ここで、親油性の有機溶媒は、常圧での沸点が100℃未満であり、常温常圧で液体であり、例えば、例えば、ジエチルエーテル、ペンタン、ヘキサン、ギ酸エチル、酢酸エチル及びベンゼンからなる群から選択される1種又は2種以上であることが好ましく、特に、ペンタン又はヘキサンがより好ましい。以下では、親油性の有機溶剤として、ノルマル−ヘキサン(n−ヘキサン)を用いる例について説明する。油分分離装置100は、抽出剤として親油性の有機溶剤(n−ヘキサン)を用いて含油スケールから油分を抽出しつつ、この抽出処理により生じた水とn−ヘキサンと微細スケールとが懸濁したエマルジョン1を破壊して、水とn−ヘキサンと微細スケールを分離する。
図18に示すように、油分分離装置100は、スラリー化槽110と、スラリーpH調整槽160と、撹拌槽120(抽出槽)と、固液分離装置130と、セトラー20を有するエマルジョン破壊装置10と、蒸留装置140と、有機溶剤除去装置150とを備える。なお、油分分離装置100において、蒸留装置140及び有機溶剤除去装置150以外の各装置は、前述のエマルジョン処理装置50の各装置と略同一であるので、それらの詳細説明については適宜割愛する。
スラリー化槽110は、モータ111により撹拌部材112を回転させることにより、含油スケール(微細粒子4)と水(重液2)とを混合して第1のスラリー(含油スケールと水の混合物)を生成する(スラリー化工程)。
スラリーpH調整槽160には、前段のスラリー化槽110から第1のスラリーが投入されるとともに、pH調整剤供給装置163から必要に応じてpH調整剤が投入される。スラリーpH調整槽160は、モータ161により撹拌部材162を回転させることにより、第1のスラリーとpH調整剤を混合して、pH計164により当該スラリーのpHを測定しながら、当該スラリーのpHを前述のpH設定値に調整する(pH調整工程)。
撹拌槽120は、含油スケールと有機溶剤を撹拌することにより当該含油スケールから有機溶剤中に油分を抽出する抽出槽として機能する。撹拌槽120には、スラリーpH調整槽160から配管113を介して第1のスラリーが導入され、蒸留装置140から配管146を介して再生された有機溶剤が導入される。有機溶剤は、n−ヘキサン(比重:0.66)などの親油性有機溶剤で構成され、含油スケールから油分を抽出するための抽出剤として機能する。撹拌槽120は、モータ121により撹拌翼122を回転させることにより、第1のスラリーと有機溶剤とを撹拌して、混合する。これにより、第1のスラリー中の含油スケールに含まれる油分が有機溶剤中に抽出される(抽出工程)。
かかる撹拌槽120では、微細スケールと水と有機溶剤が強攪拌されるため、上述したエマルジョン1が生成される。即ち、撹拌槽120では、油分の抽出剤として、有機溶剤として例えばn−ヘキサンを使用して、含油スケールから油分を抽出する。n−ヘキサンは疎水性で親油性の液体であり、その比重は0.66g/cm3と水より小さく、沸点は69℃である。含油スケールに水分を添加して、スラリー状にし、このスラリーにn−ヘキサンを添加して、強撹拌すると、含油スケールの表面に付着している油分は、n−ヘキサン中に抽出される。かかる抽出後に、これら混合物を静置すると、下からスケール相、水相、ヘキサン相に分離されるが、このヘキサン相は、水(重液2)とヘキサン(軽液3)のW/O型エマルジョンからなる状態となり、水滴とヘキサンの界面に微細スケールが介在することにより、該W/O型エマルジョンは安定化してしまう。
また、撹拌槽120において、含油スケールと水とが混合された第1のスラリーと、上記有機溶剤とを含む混合物を撹拌するときに、当該混合物の撹拌レイノルズ数(Re)を、500〜40000の範囲内とすることが好ましい。これにより、含油スケールの分散が十分に進み、効果的に油分を有機溶媒に抽出して、スケールから除去できる。撹拌レイノルズ数が500未満であれば、スケールからの油分除去率が低くなる。一方、撹拌レイノルズ数10000以上では、油分除去率の効果の上昇は小さくなる。
なお、撹拌槽120の撹拌機の回転数をn[s−1],当該撹拌機の幾何学的形状を、撹拌槽120の径D2[m],撹拌槽120内の液体の深さH2[m],撹拌翼122の径d2[m],当該撹拌翼122の幅b[m]であらわすと、撹拌レイノルズ数(Re)は、(2)式のようにあらわされる。
撹拌レイノルズ数(Re)=(n×d2 2×ρ)/μ (2)
ただし、ρ:混合液の密度(kg/m3)、μ:混合液の粘度(Pa・s)
固液分離装置130には、撹拌槽120から、上記油分を含む有機溶剤と第1のスラリーとの混合物が導入される。固液分離装置130は、遠心力を利用して、当該混合物を、油分、水及び微量の微細スケールを含有する有機溶剤(主に液体)と、微細スケールを含有する第2のスラリー(主に固体)とに分離する(固液分離工程)。
エマルジョン破壊装置10には、固液分離装置130から、油分、水及び微量の微細スケールを含有する有機溶剤(即ち、W/O型エマルジョン)が導入される。エマルジョン破壊装置10は、当該有機溶剤中に含まれる水と有機溶剤とのエマルジョン1に対して、上記加速度設定値の遠心力を作用させる。これにより、水滴と有機溶剤(n−ヘキサン)の界面に介在している微細スケールが好適に分離されるため、W/O型エマルジョンが破壊される(エマルジョン破壊工程)。そして、このエマルジョン1の処理液は、セトラー20にて、油分を含む有機溶剤(軽液相)と、残存したエマルジョン1(エマルジョン相)と、微細スケールを含む水(重液相)とに比重分離される(比重分離工程)。
その後、油分を含有する有機溶剤(軽液相)は、セトラー20の上部排出口22から配管133を通じて蒸留装置140に排出される。一方、微細スケールを含む水(重液相)は、セトラー20の下部排出口28から配管135を通じて有機溶剤除去装置150に排出される。また、セトラー20で分離されたエマルジョン相は、中央排出口27から配管134を通じてエマルジョン破壊装置10の前段に戻され(リターン投入量B)、固液分離装置130から新規に投入されるエマルジョン1(新規投入量A)とともに、エマルジョン破壊装置10に再投入される。
蒸留装置140は、モータ141と撹拌部材142を有する攪拌機を備える。蒸留装置140は、前述の撹拌槽120に対して配管143、コンデンサー145及び配管146を介して接続されている。また、蒸留装置140の下端には、油分を排出するための配管144が接続されている。蒸留装置140には、エマルジョン破壊装置10のセトラー20から油分を含有する有機溶剤(軽液相)が導入される。蒸留装置140は、当該含油有機溶剤を蒸留して、有機溶剤(n−ヘキサン)と油分とに分離する(蒸留工程)。
コンデンサー145は、蒸留装置140の上部から配管143を通じて排出された有機溶剤(n−ヘキサン)を凝縮して液化する。このようにして回収及び再生された有機溶剤(n−ヘキサン)は配管146を通じて撹拌槽120に供給されて、上記含油スケールから油分を抽出する抽出剤として再利用される。一方、蒸留装置140で分離された油分は、配管144を通じて外部に排出、回収される。
有機溶剤除去装置150は、モータ151と撹拌部材152を有する攪拌機を備える。有機溶剤除去装置150は、前述のコンデンサー145に対して配管154を介して接続されている。また、有機溶剤除去装置150の下端には、スケールを含有する第2のスラリーを排出するための配管153が接続されている。
有機溶剤除去装置150には、固液分離装置130から配管132を通じて、スケールを含有する第2のスラリーが導入される。この第2のスラリーには、有機溶剤(n−ヘキサン)が例えば1〜5質量%含まれている。有機溶剤除去装置150は、当該第2のスラリー中に残存する有機溶剤を加温して揮発させて、第2のスラリー中のスケールから有機溶剤(軽液3)を除去する(軽液除去工程)。そして、当該有機溶剤は、配管154を通じてコンデンサー145に排出される。一方、有機溶剤除去装置150で有機溶剤が除去された後の第2のスラリーに含まれるスケールは、スラリー状態のまま配管153を通じて外部に排出、回収される。このように有機溶剤除去装置150により有機溶剤(n−ヘキサン)を揮発分離した後のスケール中の油分は、初期の含油スケールと比べて大幅に低減されている。
以上、本実施形態に係る油分分離装置100と、これを用いて含油スケールから油分を分離する油分分離方法について説明した。
本実施形態によれば、撹拌槽120(抽出槽)による油分の抽出工程において、微細スケールの介在により安定化した水と親油性有機溶剤のエマルジョン1が生成される。このエマルジョン1を撹拌槽120からエマルジョン破壊装置10に導入して、高速回転する回転体7の回転力により、予め設定された加速度設定値の遠心加速度を該エマルジョン1に作用させる。これにより、水と親油性有機溶剤の界面から微細スケールを除去して、効果的にエマルジョン1を破壊し、水と親油性有機溶剤に分離できる。さらに、エマルジョン破壊装置10のセトラー20により、エマルジョン1を、微細スケール及び水をほとんど含まない有機溶剤(軽液相)と、有機溶剤をほとんど含まない微細スケール及び水(重液相)と、残存したエマルジョン1を含むエマルジョン相とに分離して排出できる。従って、当該有機溶剤と、微細スケール及び水とを好適に分離回収できる。
また、エマルジョン破壊装置10は、従来の遠心分離機と比べて、シンプルな装置構成であり、小型かつ安価である。従って、エマルジョン破壊装置10を適用することで、遠心分離機等の他の分離装置を用いる場合よりも、油分分離装置100の装置構成を簡素化、小型化及び安価にできる。
さらに、本実施形態では、エマルジョン破壊装置10の前段において、スラリーpH調整槽160により、第1のスラリーのpHを、予め設定された適切なpH設定値に調整する。これにより、エマルジョン破壊装置10に投入されるエマルジョン1のpHを適切なpH設定値に調整できるので、エマルジョン破壊装置10において当該エマルジョン1を破壊するために必要な遠心加速度(エマルジョン破壊強度)を低い値に抑えることができる。よって、エマルジョン破壊装置10の装置構成をさらに簡素化、小型化、安価にできる。
加えて、上記事前試験により得られた相関関係に基づいて、エマルジョン1のpH設定値と、当該エマルジョン1に作用させる遠心力の加速度設定値を適正値に設定することにより、エマルジョン破壊処理後のエマルジョン相率Eを0.5以下に低位安定化できるとともに、エマルジョン1のリターン投入量Bの絶対量と変動を抑制できる。従って、エマルジョン破壊処理を安定化でき、この結果、油分分離装置100全体の油分分離処理も安定化できる。
また、上記pH設定値を5.0〜9.0に設定することにより、油分分離装置100から系外に排出される排水(上記図18の配管153から排出される水とスケールのスラリー)のpHを、排水のpH基準の範囲内とすることができる。これにより、系外排液による環境汚染を防止できるとともに、油分分離装置100において、排液を中和するための中和装置等の追加設備を増設しなくて済むので、設備の全体構成を簡素化し、設備コストを低減できる。
[5.第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。前述の第1の実施形態では、遠心力付与装置として、エマルジョン1の破壊処理に特化した専用のエマルジョン破壊装置10(図2、図8、図9等を参照。)を用いたが、第2の実施形態では、遠心力付与装置として、遠心分離機を用いる。第2の実施形態の遠心力付与装置以外の構成は、前述の第1の実施形態の場合と略同一であるので、その詳細説明は省略する。
[5.1.遠心分離機]
まず、図19を参照して、第2の実施形態に係る遠心力付与装置である遠心分離機30の構成について説明する。図19は、第2の実施形態に係る遠心力付与装置である遠心分離機30の構成を示す模式図である。
図19に示すように、遠心分離機30は、例えば、デカンタ型の遠心分離機で構成される。デカンタ型の遠心分離機は、一般に、遠心力により主に固形分と液体分の固液分離を行う装置であり、円筒部と円錐部からなる回転胴と、その中に組み込まれたスクリューとが差速をもって回転することで遠心力を発生させて、回転胴内の処理対象物を遠心分離しながら、当該分離された処理対象物をスクリューにより回転胴の外側に排出する。また、遠心分離機30の後段には、上記セトラー20が設けられている。
遠心分離機30には、外部から配管123を通じて、上記重液2、軽液3及び微細粒子4が懸濁したエマルジョン1が投入される。遠心分離機30は、当該エマルジョン1に対して遠心力を作用させることにより、重液2及び軽液3と、微細粒子4とを固液分離するとともに、エマルジョン1を破壊(解乳化)する。このエマルジョン1の破壊原理は、上記第1の実施形態と同様であり(図4等を参照。)、重液2と軽液3の界面に介在する微細粒子4を遠心力により除去することにより、エマルジョン1の破壊が行われる。
遠心分離機30により分離された固体分(主に微細粒子4を含むスラリー)は、配管132を通じて外部に排出される。一方、遠心分離機30により分離された液体分(主に、重液2、軽液3及び微量の微細粒子4を含むエマルジョン1の処理液)は、配管29を通じてセトラー20に排出される。
セトラー20は、上記第1の実施形態と同様に、遠心力が付与されたエマルジョン1の処理液を、比重差を用いて、軽液相とエマルジョン相と重液相に分離する。セトラー20で分離された軽液相は、主に軽液3を含む液体であり、セトラー20の上部排出口22から配管133を通じて外部に排出される。また、セトラー20で分離された重液相は、主に重液2と微細粒子4を含む液体であり、セトラー20の下部排出口28から配管135を通じて外部に排出される。
一方、セトラー20で分離されたエマルジョン相は、遠心分離機30により破壊されずに残存したエマルジョン1を主に含む液体である。このエマルジョン相は、セトラー20の中央排出口27から配管134を通じて遠心分離機30に戻され(リターン投入量B)、新規に投入されるエマルジョン1(新規投入量A)とともに、遠心分離機30に再投入される。これにより、残存したエマルジョン1を遠心分離機30にて再破壊して、重液2と軽液3に再分離できるので、重液2と軽液3の回収量を増加できる。
以上の構成の遠心分離機30によっても、上記第1の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10と同様に、エマルジョン1を破壊することができる。特に、より高価かつ高性能の遠心分離機30を用いれば、遠心分離機30によりエマルジョン1に付与可能な遠心加速度の最大値を、上記5000Gより大きな値に増加させることも可能である。従って、エマルジョン破壊装置10により破壊が困難なエマルジョン1であっても、高価かつ高性能の遠心分離機30を用いれば、好適に破壊することが可能になる。特に、エマルジョン1に含まれる微細粒子4に微細な粒子が多く含まれる場合や、微細粒子4のぬれ性が大きい場合には、当該エマルジョン1を破壊するためには大きい遠心加速度が必要になるので、高価かつ高性能の遠心分離機30を用いることが好ましい。
[5.2.遠心分離機を含むエマルジョン処理装置の構成]
次に、図20を参照して、第2の実施形態に係る遠心分離機30及びその周辺装置を備えたエマルジョン処理装置50の構成について説明する。図20は、第2の実施形態に係る遠心分離機30及びその周辺装置を備えたエマルジョン処理装置50の構成を示す模式図である。
図20に示すように、第2の実施形態に係るエマルジョン処理装置50は、セトラー20を備えた遠心分離機30と、スラリー化槽110と、スラリーpH調整槽160と、撹拌槽120とを備える。これらスラリー化槽110、スラリーpH調整槽160及び撹拌槽120等の周辺装置は、エマルジョン破壊装置10の前段に設けられており、エマルジョン破壊装置10に供給されるエマルジョン1を生成するとともに、当該エマルジョン1のpHを調整する機能を有する。なお、第2の実施形態に係るエマルジョン処理装置50のスラリー化槽110、スラリーpH調整槽160及び撹拌槽120の構成と処理は、上記第1の実施形態に係るエマルジョン処理装置50の場合と略同一であるので、詳細説明は省略する。
遠心分離機30には、撹拌槽120により生成されたエマルジョン1が投入される。上記第1の実施形態では、エマルジョン破壊装置10の前段に固液分離装置130(図11参照。)が設置されていたが、第2の実施形態では、遠心分離機30が固液分離機能を有するので、遠心分離機30の前段に固液分離装置130を設置しなくてもよい。
遠心分離機30は、予め設定された遠心加速度の設定値の遠心力を作用させることにより、エマルジョン1を破壊する。遠心分離機30により遠心力が付与された後のエマルジョン1の処理液は、セトラー20により、軽液3(有機溶剤)を主に含む軽液相(有機溶剤相)と、残存したエマルジョン1を含むエマルジョン相と、重液2(水)及び微量の微細粒子4を含む重液相(水相)に分離される。
セトラー20で分離された軽液相は上部排出口22から配管133を通じて外部に排出され、重液相(水相)は下部排出口28から配管135を通じて外部に排出される。一方、セトラー20で分離されたエマルジョン相は、中央排出口27から配管134を通じて遠心分離機30に戻され(リターン投入量B)、撹拌槽120から新規に投入されるエマルジョン1(新規投入量A)とともに、遠心分離機30に再投入される。これにより、残存したエマルジョン1を遠心分離機30にて再破壊して、重液2と軽液3に再分離できるので、重液2と軽液3の回収量を増加できる。
以上、図20を参照して、第2の実施形態に係る遠心分離機30を備えたエマルジョン処理装置50について説明した。当該エマルジョン処理装置50によれば、遠心分離機30に投入されるエマルジョン1のpHを予め調整しておくことで、エマルジョン破壊処理におけるエマルジョン破壊強度と、エマルジョン破壊処理後のエマルジョン相率Eを低位安定化できる。
[5.3.油分分離装置及び油分分離方法]
次に、図21を参照して、上記の遠心分離機30が適用された油分分離装置200と油分分離方法について説明する。図21は、第2の実施形態に係る油分分離装置200を示す模式図である。
図21に示すように、第2の実施形態に係る油分分離装置200は、上記第1の実施形態に係る油分分離装置100(図18を参照。)と比べて、遠心力付与装置として、エマルジョン破壊装置10に替えて遠心分離機30を用いる点で相違し、その他の構成は略同一である。なお、以下では、第2の実施形態に係る油分分離装置200の処理対象として、第1の実施形態と同様、重液2が水であり、軽液3が親油性の有機溶剤(例えばn−ヘキサン)であり、微細粒子4が微細スケールである例について説明する。
第2の実施形態では、スラリー化槽110、スラリーpH調整槽160及び撹拌槽120での処理は、上記第1の実施形態と略同一であるので、詳細説明は省略する。
撹拌槽120で生成されたエマルジョン1、即ち、油分、水及び微量の微細スケールを含有する有機溶剤(即ち、W/O型エマルジョン)は、固液分離装置130(図18を参照。)を介さずに直接、遠心分離機30に投入される。遠心分離機30は、当該エマルジョン1に対して、上記加速度設定値の遠心力を作用させる。これにより、水滴と有機溶剤(n−ヘキサン)の界面に介在している微細スケールが好適に分離されるため、W/O型エマルジョンが破壊される(エマルジョン破壊工程)。
遠心分離機30で分離された固体分(主に微細スケール)は、配管132を通じて有機溶剤除去装置150に排出される。一方、遠心分離機30で遠心力が作用されたエマルジョン1の処理液は、配管29を通じてセトラー20に供給され、セトラー20にて、油分を含む有機溶剤(軽液相)と、残存したエマルジョン1(エマルジョン相)と、微細スケールを含む水(重液相)とに比重分離される(比重分離工程)。
その後、油分を含有する有機溶剤(軽液相)は、セトラー20の上部排出口22から配管133を通じて蒸留装置140に排出される。一方、微細スケールを含む水(重液相)は、セトラー20の下部排出口28から配管135を通じて有機溶剤除去装置150に排出される。また、セトラー20で分離されたエマルジョン相は、中央排出口27から配管134を通じて遠心分離機30の前段に戻され(リターン投入量B)、撹拌槽120から新規に投入されるエマルジョン1(新規投入量A)とともに、遠心分離機30に再投入される。
その後、蒸留装置140及び有機溶剤除去装置150での処理は、上記第1の実施形態と略同一であるので、詳細説明は省略する。
以上、第2の実施形態に係る遠心分離機30を備えた油分分離装置200と、これを用いて含油スケールから油分を分離する油分分離方法について説明した。
第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、遠心分離機30により水と親油性有機溶剤の界面から微細スケールを除去して、効果的にエマルジョン1を破壊し、水と親油性有機溶剤と微細スケールとを好適に分離回収できる。さらに、遠心分離機30の加速度最大値は、エマルジョン破壊装置10の加速度最大値よりも大きいのでエマルジョン破壊装置10では破壊が困難なエマルジョン1も好適に破壊できる。
また、エマルジョン1のpH設定値と、当該エマルジョン1に作用させる遠心力の加速度設定値を適正値に設定することにより、エマルジョン破壊処理後のエマルジョン相率Eを0.5以下に低位安定化できるとともに、エマルジョン1のリターン投入量Bの絶対量と変動を抑制できる。従って、エマルジョン破壊処理を安定化でき、この結果、油分分離装置100全体の油分分離処理も安定化できる。
また、上記pH設定値を5.0〜9.0に設定することにより、油分分離装置100から系外に排出される排水(上記図18の配管153から排出される水とスケールのスラリー)のpHを、排水のpH基準の範囲内とすることができる。これにより、系外排液による環境汚染を防止できるとともに、油分分離装置100において、排液を中和するための中和装置等の追加設備を増設しなくて済むので、設備の全体構成を簡素化し、設備コストを低減できる。
また、上記pH設定値を5.0〜9.0に設定することにより、油分分離装置100から系外に排出される排水(上記図21の配管153から排出される水とスケールのスラリー)のpHを、排水のpH基準の範囲内とすることができる。これにより、系外排液による環境汚染を防止できるとともに、油分分離装置100において、排液を中和するための中和装置等の追加設備を増設しなくて済むので、設備の全体構成を簡素化し、設備コストを低減できる。
以下、本発明の実施例について詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例1では、含油スケール中の油分を、ヘキサンで抽出して除去することを目的に、本発明を実施適用した。実施例1では、水(重液2)と有機溶剤(軽液3)と微細スケール(微細粒子4)とからなるエマルジョン1を、エマルジョン破壊装置10を用いて破壊する試験を行った。
まず、エマルジョンのpHと遠心加速度とエマルジョン相率の相関関係を測定する測定工程を実施した。次に示す重液2、軽液3、微細粒子4を、表2に示す配合率で混合して、エマルジョン1のサンプル液を生成し、当該サンプル液中のエマルジョン1を遠心力により破壊する試験を行い、相関関係を求めた。
重液:水
軽液:有機溶剤(n−ヘキサン、比重:0.66)
微細粒子:含油スケール(平均粒子径21μm、油分含有率:5質量%)
具体的には、まず、表2に記載の配合原料の内、含油スケールと水を密閉式の透明な遠沈管(容量:50ml)に入れ、激しく混合してスラリー状にした。そのスラリーに、pH調整剤として希塩酸もしくは水酸化ナトリウム水溶液を添加しながら、pH計を用いて当該スラリーのpHを測定し、当該pH測定値に基づいて、スラリーのpHを4〜11.4に調整した。スラリーのpH調整後、表2記載の配合率となるようにスラリーにn−ヘキサンを追加した。その後、スラリーが入った遠沈管を密閉にし、スラリーを激しく混合して、エマルジョン1のサンプル液を作成した。次いで、遠沈管を卓上遠心分離機にセットし、回転数を調整し、所定の遠心加速度の遠心力を10秒間作用させた。遠心分離機の停止後、遠沈管を静置し、エマルジョン相率Eを求めた。エマルジョン相率Eの測定後、再度、サンプル液を激しく混合してエマルジョン状態のサンプル液に戻した後、異なる遠心加速度の遠心力をサンプル液に作用させ、エマルジョン1を破壊し、エマルジョン相率Eを測定した。このような試験を、遠心加速度とpHの値を段階的に異なる値に変更した上で、複数回繰り返すことによって、エマルジョン1のpHと遠心加速度とエマルジョン相率Eとの相関関係を求めて、グラフにプロットした。このグラフを図13Aに示す。図13Aに示すように、遠心加速度が大きくなると、エマルジョン相率Eは小さくなり、かつ、pH7〜9付近が最もエマルジョン1を破壊しやすい領域であるといえる。
次に、上記図13Aの相関関係に基づいて、pH設定値と遠心加速度の設定値を設定する設定工程を実施した。排液のpH基準を満たすpH5〜9の領域において、エマルジョン相率Eが0.5を下回る加速度領域(230G以上)が存在し、その加速度領域は、遠心力付与装置の最大加速度(約5000G)以下であることから、上記設定基準(a)もしくは(c)を適用することができる。
そこで、実施例1−1では、上記設定基準(a)により、図13A中のプロットSで示すように、pH設定値を7.8に設定し、加速度設定値を1712Gに設定した。これにより、エマルジョン相率Eが0.5以下となり、かつ、pH設定値が5.0〜9.0となる範囲内で、エマルジョン相率Eができるだけ小さい値になるように、pH設定値と加速度設定値を設定できた。また、実施例1−2では、上記設定基準(c)により、図13A中のプロットTで示すように、pH設定値を7.8に設定し、加速度設定値を230Gに設定した。これにより、エマルジョン相率Eが0.5以下となり、かつ、pH設定値が5.0〜9.0となる範囲内で、加速度設定値ができるだけ小さい値になるように、pH設定値と加速度設定値を設定できた。
次に、pH調整工程とエマルジョン破壊工程を、上記油分分離装置100(図18参照。)を用いて、含油スケールから油分を分離する試験の中で実施した。
まず、含油スケールと水のみを表2記載の配合で混合し、スラリー化槽110により予めスラリー化して第1のスラリーを生成した。次いで、実施例1−1および実施例1−2とも、スラリーpH調整槽160で第1のスラリーのpHを7.8に調整した後、約8L/分で撹拌槽120(容量:50L)に連続投入した。撹拌槽120では、油分の抽出剤(親油性有機溶剤)としてn−ヘキサンを表2の配合となるように添加し、含油スケールと水とが混合された第1のスラリーと、n−ヘキサンとを含む混合物を強撹拌した。このときの混合物の撹拌レイノルズ数(Re)は約3200であり、撹拌槽120におけるスラリーの滞留時間は、約3分であった。
次いで、撹拌槽120で強撹拌された、第1のスラリーとn−ヘキサンの混合物を、液体サイクロン(固液分離装置130)に導入した。液体サイクロンでは、遠心力により、第1のスラリーとn−ヘキサンとの混合物を固液分離した。このとき、混合物に作用する遠心加速度が約100Gになるように、液体サイクロンのサイズを選択した。そして、液体サイクロン下部からスケールと水と少量のn−ヘキサンが混合された第2のスラリーを回収し、液体サイクロン上部からn−ヘキサンと水と微細スケールからなるエマルジョン1の処理液(破壊対象のエマルジョン)を回収した。
次いで、当該エマルジョン1の処理液をエマルジョン破壊装置10に送液し、回転体7内で発生する遠心加速度(実施例1−1では1712Gに設定、実施例1−2では230Gに設定)の遠心力をエマルジョン1に作用させた。これにより、n−ヘキサン相中に浮遊している微細スケールを分離し、エマルジョン1を破壊(解乳化)した。さらに、エマルジョン破壊装置10の後段のセトラー20にて、遠心力の作用後のエマルジョン1の処理液を、水と含油n−ヘキサンに分離した。含油n−ヘキサン中には、ほとんど微細スケールは含まれていなかった。
その後、セトラー20により分離された含油n−ヘキサンを回収し、蒸留装置140に送液した。蒸留装置140では、含油n−ヘキサンを98℃に加熱し、n−ヘキサン成分を揮発させ、油分とn−ヘキサンを分離した。そして、蒸留装置140で揮発したn−ヘキサンを、コンデンサー145により液化した後に、撹拌槽120に再度投入した。一方、蒸留装置140で分離された油分は系外へ排出した。上記セトラー20で微細スケールをほとんど分離しているため、蒸留装置140で分離回収された油分中にもほとんど微細スケールは含まれておらず、別のプラントで該油分を燃料代替として十分に使用することができた。
一方、上記の液体サイクロンの下部から回収した第2のスラリー(微細スケールと水)を有機溶剤除去装置150に送液した。該有機溶剤除去装置150内で第2のスラリーを98℃まで加温し、スラリー中に約2質量%で含有されているn−ヘキサンを蒸発させて除去した。n−ヘキサンが除去されたスラリーは、系外へ排出され、不図示の脱水機で脱水して、脱油スケールを得た。
上記の油分抽出プロセスにおいて、セトラー20におけるエマルジョン相率Eを測定したところ、実施例1−1では0.03であり、実施例1−2では0.48であり、ほぼ、目標値どおりであり、Eが0.5以下となるように制御して、エマルジョン1の破壊処理を安定的に実行できた。また、有機溶剤除去装置150から回収された脱油スケール中の油分の濃度を測定したところ、実施例1−1および実施例1−2とも約0.4質量%であり、スケールから油分を十分に除去できた。また、実施例1−1および実施例1−2とも、pH設定値を7.8に設定したため、破壊処理後のエマルジョン1の処理液から分離された水相(重液)のpHや、有機溶剤除去装置150から系外排出されるスラリー中の水相のpHも、約7.8であり、排液のpH基準の範囲内(pH=5.0〜9.0)であった。よって、有機溶剤除去装置150からのスラリーを不図示の脱水機でスケールと水とに分離した後、排水の系外への排出に当たって、別途の中和装置を用いる必要はなかった。
実施例2では、水(重液2)と灯油(軽液3)とアルミナ微粉(微細粒子4)とからなるエマルジョン1を、遠心分離機30を用いて破壊する試験を行った。
まず、エマルジョンのpHと遠心加速度とエマルジョン相率の相関関係を測定する測定工程を実施した。次に示す重液2、軽液3、微細粒子4を、表3に示す配合率で混合して、エマルジョン1のサンプル液を生成し、当該サンプル液中のエマルジョン1を遠心力により破壊する試験を行い、相関関係を求めた。
重液:水
軽液:有機溶剤(灯油、比重:0.8)
微細粒子:α−Al2O3(平均粒子径2.7μm)
具体的には、まず、表3に記載の配合原料の内、α−Al2O3と、水と、灯油と、pH調整剤として任意量の希塩酸もしくは水酸化ナトリウム水溶液とを、密閉式の透明な遠沈管(容量:50ml)に入れ、激しく混合して、エマルジョン化し、エマルジョン1のサンプル液を作成した。次いで、遠沈管を卓上遠心分離機にセットし、回転数を調整し、所定の遠心加速度の遠心力を10秒間作用させた。遠心分離機の停止後、遠沈管を静置し、エマルジョン相率Eを求めた。エマルジョン相率Eの測定後、再度、サンプル液を激しく混合してエマルジョン状態のサンプル液に戻した後、異なる遠心加速度の遠心力を作用させ、エマルジョン1を破壊し、エマルジョン相率Eを測定した。最大の遠心加速度9321Gの遠心力を作用させた後、遠沈管内の水相部分を分取し、pH計でpHを測定した。このような試験を、pHの値を段階的に異なる値に変更した上で、複数回繰り返すことによって、遠心加速度とエマルジョン相率Eとエマルジョン1のpHとの相関関係を求めて、グラフにプロットした。このグラフを図13Bに示す。図13Bに示すように、加速度が大きくなると、エマルジョン相率Eは小さくなり、かつ、アルカリ性側と酸性側では、エマルジョン1を破壊しやすく、特に酸性側は、エマルジョンを破壊しやすい領域であるといえる。
次に、上記図13Bの相関関係に基づいて、pH設定値と加速度の設定値を設定する設定工程を実施した。排液のpH基準を満たすpH5〜9の領域において、エマルジョン相率Eが0.5を下回るには、加速度が5000G以上必要となり、適切な遠心力付与装置を選定することは難しい。そこで、よりエマルジョン1が破壊しやすいpH領域である酸性側にpH設定値を調整し、エマルジョン相率Eを0.5以下にする方が、遠心力付与装置を選定しやすくなり、上記設定基準(b)もしくは(d)を適用することができる。
このため、実施例2−1では、上記設定基準(b)により、図13B中のプロットUで示すように、pH設定値を1.8に設定し、加速度設定値を5000Gに設定した。これにより、エマルジョン相率Eが0.5以下となり、かつ、加速度設定値が遠心力付与装置の最大加速度以下となる範囲内で、pH設定値に関わらずに、エマルジョン相率Eができるだけ小さい値になるように、pH設定値と加速度設定値を設定できた。また、実施例2−2では、上記設定基準(d)により、図13B中のプロットWで示すように、pH設定値を4.8に設定し、加速度設定値を5000Gに設定した。これにより、エマルジョン相率Eが0.5以下となり、かつ、加速度設定値が遠心力付与装置の最大加速度以下となる範囲内で、pH設定値に関わらずに、加速度設定値ができるだけ小さい値になるように、pH設定値と加速度設定値を設定できた。
次に、pH調整工程とエマルジョン破壊工程を、図20に示すエマルジョン処理装置50を用いて実施した。
まず、α−Al2O3と水のみを表3記載の配合率で混合し、スラリー化槽110により予めスラリー化し、当該スラリーを、次のスラリーpH調整槽160に入れた。そして、後述するセトラー20の重液相にあるpH計165で測定されるpHが、実施例2−1では1.8になるように、実施例2−2では4.8になるように、pH調整剤供給装置163を用いてpH調整剤をスラリーpH調整槽160内のスラリーに供給して、当該スラリーのpHを調整した。
さらに、pH調整されたスラリーを、約8L/分で撹拌槽120(容量:50L)に連続投入した。撹拌槽120では、灯油(軽液)を表3の配合となるように添加し、α−Al2O3と水とが混合されたスラリーと、灯油とを含む混合物を強撹拌し、エマルジョン化させた。このときの混合物の撹拌レイノルズ数(Re)は約3200であり、撹拌槽120におけるスラリーの滞留時間は、約3分であった。
次いで、撹拌槽120で強撹拌して生成されたエマルジョン1の処理液を、遠心分離機30に送液し、遠心分離機30により加速度設定値(実施例2−1、実施例2−2ともに5000G)の遠心力をエマルジョン1に作用させた。これにより、灯油相中に浮遊しているα−Al2O3を分離し、エマルジョン1を破壊(解乳化)した。遠心力で分離した重液2(水)を含んだ粒子(α−Al2O3)は、遠心分離機30内で分離され、系外に排出した。一方、遠心分離機30内で分離した軽液3(灯油)とエマルジョン1と重液2(水)を含む処理液は、セトラー20内で静置して、相分離させた。その後、軽液3(灯油)および重液2(水)は系外に排出した。一方、残存したエマルジョン1を、撹拌槽120から新規投入されるエマルジョン1とともに、再度、遠心分離機30に投入して、再破壊した。
上記の試験においてセトラー20におけるエマルジョン相率Eを測定したところ、実施例2−1では0.03であり、実施例2−2では0.47であり、ほぼ、目標値どおりであり、Eが0.5以下となるように制御して、エマルジョン1の破壊処理を安定的に実行できた。特に、本実施例2のように、遠心力付与装置により付与可能な遠心加速度の最大値の制約がある場合であっても、破壊対象のエマルジョン1のpHを、排液のpH基準の範囲外に適切に調整することによって、Eが0.5以下となるようにエマルジョン1の破壊処理を安定的に実行できた。なお、セトラー20及び遠心分離機30から排出される水相(重液2)のpHは5.0未満であっため、不図示の中和装置により中和剤を添加して、排液のpH基準の範囲内(pH=5.0〜9.0)に調整した上で、系外に排出した。
実施例3では、有機溶剤(重液2)と水(軽液3)と活性炭紛体(微細粒子4)とからなるエマルジョン1を、遠心分離機30を用いて破壊する試験を行った。
まず、エマルジョンのpHと遠心加速度とエマルジョン相率の相関関係を測定する測定工程を実施した。次に示す重液2、軽液3、微細粒子4を、表4に示す配合率で混合して、エマルジョン1のサンプル液を生成し、当該サンプル液中のエマルジョン1を遠心力により破壊する試験を行い、相関関係を求めた。
重液:有機溶剤(トリクロロエチレン、比重:1.46)
軽液:水
微細粒子:活性炭粉体(平均粒子径7μm)
具体的には、まず、表4に記載の配合原料の内、活性炭粉体と水のみを、密閉式の透明な遠沈管(容量:50ml)に入れ、激しく混合して、スラリー状にした。そのスラリーに、pH調整剤として希塩酸もしくは水酸化ナトリウム水溶液を添加しながら、pH計を用いて当該スラリーのpHを測定し、当該pH測定値に基づいて、スラリーのpHを1.97〜12.0に調整した。スラリーのpH調整後、表4記載の配合率となるようにスラリーにトリクロロエチレンを追加した。その後、スラリーが入った遠沈管を密閉にし、スラリーを激しく混合して、エマルジョン1のサンプル液を作成した。次いで、遠沈管を卓上遠心分離機にセットし、回転数を調整し、所定の遠心加速度の遠心力を10秒間作用させた。遠心分離機の停止後、遠沈管を静置し、エマルジョン相率Eを求めた。エマルジョン相率Eの測定後、再度、サンプル液を激しく混合しエマルジョン状態のサンプル液に戻した後、異なる遠心加速度の遠心力をサンプル液に作用させ、エマルジョン1を破壊し、エマルジョン相率Eを測定した。このような試験を、加速度設定値とpH設定値を段階的に異なる値に変更させた条件で、複数回繰り返すことによって、エマルジョン1のpHと遠心加速度とエマルジョン相率Eとの相関関係を求めて、グラフにプロットした。このグラフを図13Cに示す。図13Cに示すように、遠心加速度が大きくなると、エマルジョン相率Eは小さくなり、かつ、pH4〜7付近が最もエマルジョン1を破壊しやすい領域であるといえる。
次に、上記図13Cの相関関係に基づいて、pH設定値と遠心加速度の設定値を設定する設定工程を実施した。排液のpH基準を満たすpH5〜9の領域において、エマルジョン相率Eが0.5を下回る加速度領域(550G以上)が存在し、その加速度領域は、遠心力付与装置の最大加速度(約5000G)以下であることから、上記設定基準(a)もしくは(c)を適用することができる。
そこで、実施例3−1では、上記設定基準(a)により、図13C中のプロットXで示すように、pH設定値を5.6に設定し、加速度設定値を2300Gに設定した。これにより、エマルジョン相率Eが0.5以下となり、かつ、pH設定値が5.0〜9.0となる範囲内で、エマルジョン相率Eができるだけ小さい値になるように、pH設定値と加速度設定値を設定できた。また、実施例3−2では、上記設定基準(c)により、図13C中のプロットYで示すように、pH設定値を5.6に設定し、加速度設定値を550Gに設定した。これにより、エマルジョン相率Eが0.5以下となり、かつ、pH設定値が5.0〜9.0となる範囲内で、加速度設定値ができるだけ小さい値になるように、pH設定値と加速度設定値を設定できた。
次に、pH調整工程とエマルジョン破壊工程を、図20に示すエマルジョン処理装置50を用いて実施した。
まず、活性炭粉体と水のみを表7記載の配合率で混合し、スラリー化槽110により予めスラリー化し、当該スラリーを、次のスラリーpH調整槽160に入れた。そして、スラリーpH調整槽160内のpH計164で測定されるpHが、実施例3−1、実施例3−2ともに5.6になるように、pH調整剤供給装置163を用いてpH調整剤をスラリーpH調整槽160内のスラリーに供給して、当該スラリーのpHを調整した。
さらに、pH調整されたスラリーを、約8L/分で撹拌槽120(容量:50L)に連続投入した。撹拌槽120では、トリクロロエチレン(重液)を表4の配合となるように添加し、活性炭粉体と水とが混合されたスラリーと、トリクロロエチレンとを含む混合物を強撹拌し、エマルジョン化させた。このときの混合物の撹拌レイノルズ数(Re)は約3200であり、撹拌槽120におけるスラリーの滞留時間は、約3分であった。
次いで、撹拌槽120で強撹拌して生成されたエマルジョン1の処理液を、遠心分離機30に送液し、遠心分離機30により加速度設定値(実施例3−1では550G、実施例3−2では2300G)の遠心力をエマルジョン1に作用させた。これにより、水相中に浮遊している活性炭粉体を分離し、エマルジョン1を破壊(解乳化)した。遠心力で分離した重液2(トリクロロエチレン)を含んだ粒子(活性炭粉体)は、遠心分離機30内で分離され、系外に排出した。一方、遠心分離機30内で分離した軽液3(水)とエマルジョン1と重液2(トリクロロエチレン)を含む処理液は、セトラー20内で静置して、相分離させた。その後、軽液3(水)および重液2(トリクロロエチレン)は系外に排出した。一方、残存したエマルジョン1は撹拌槽120から新規投入されるエマルジョン1とともに、再度、遠心分離機30に投入して、再破壊した。
上記の試験においてセトラー20におけるエマルジョン相率Eを測定したところ、実施例3−1では0.04であり、実施例3−2では0.47であり、ほぼ目標値どおりであり、Eが0.5以下となるように制御して、エマルジョン1の破壊処理を安定的に実行できた。また、実施例3−1および実施例3−2とも、pH設定値を5.6に設定したため、セトラー20から排出される水相(軽液3)のpHも、約5.6であり、排液のpH基準の範囲内(pH=5.0〜9.0)であった。よって、セトラー20から排出される水相(軽液3)の系外への排出に当たって、別途の中和装置を用いる必要はなかった。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。