以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
[1.第1の実施形態]
最初に、本発明の第1の実施形態に係るエマルジョン破壊装置と、該装置を用いたエマルジョン破壊方法について説明する。
[1.1.エマルジョンの構成]
まず、図1を参照して、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置による処理対象であるエマルジョンについて説明する。図1は、本実施形態に係るエマルジョンを示す模式図である。
一般に、エマルジョン(Emulsion)は、相互に混じり合わない2種の液体であって、一方の液体中に他方の液体が微細な液滴となって分散している分散系溶液を意味し、乳濁液とも称される。本実施形態に係るエマルジョンは、比重の異なる2種の液体(以下、比重が大きい方の液体を「重液」、比重が小さい方の液体を「軽液」という。)と、固形分の微細粒子が懸濁した分散系溶液を意味する。本実施形態に係るエマルジョンでは、重液又は軽液のいずれか一方が水であり、他方が疎水性の液体(例えば、有機溶剤、油など)である。
ここで、疎水性の液体とは、例えば、20℃の水に対する溶解度が0g/リットル超、5.0g/リットル以下の液体であり、例えば、以下の表1に示すような、該溶解度が5.0g/リットル以下の疎水性の有機溶剤である。疎水性の液体は、水に対して溶解しにくいので、両者を混合して撹拌すると、疎水性の液体と水とのエマルジョンが生成され易い。
図1に示すように、本実施形態に係るエマルジョン1は、重液2と軽液3と微細粒子4とが懸濁した分散系溶液である。例えば、重液2は水[比重:1]であり、軽液3は比重が1未満の有機溶剤(例えば、n−ヘキサン[比重:0.66])であり、微細粒子4は含油スケールに含まれる微細スケール(粒子径:50μm以下)である。
かかるエマルジョン1では、分散媒である軽液3(例えば有機溶剤)中に、分散質である重液2の微細な液滴(例えば水滴)が分散している。ここで、軽液3と重液2の液滴との界面には、親水性(ぬれ性)が高い微細粒子4が多数介在しており、当該微細粒子4が乳化剤として機能する。このため、エマルジョン1が安定化するので、エマルジョン1が解消され難く、重液2と軽液3の相分離系に移行させ難い。このように、本実施形態では、疎水性の液体と水と固形物の微細粒子4とが懸濁し、疎水性の液体と水との界面間に微細粒子4が介在し、安定化したエマルジョンを対象としている。
ここで、上記のエマルジョン1の具体例を例示する。エマルジョン1は、例えば、油分を含んだスケールの微細粒子(鉄鋼業において、鋼材の製造中に鋼材を水冷する際に発生する微細なミルスケール等)と、水と、有機溶剤とを混合及び撹拌した懸濁液であってもよい。この懸濁液は、後述する油分分離装置において、水と油分を含んだスケールから有機溶剤中に油分を抽出するために、当該スケールと、抽出剤である有機溶剤とを混合及び撹拌することで生じる。また、エマルジョン1は、例えば、原油採掘時に生じる、原油(比重0.8〜0.98;軽液3に相当する。)と水(重液2に相当する。)と微細な土砂又は粘土(微細粒子4)との懸濁液であってもよい。なお、かかる有機溶剤又は油等の疎水性の液体の比重は、例えば0.5〜1.8であり、微細粒子の真比重は、例えば2.0〜6.0である。
また、図1に示したように、水よりも比重が小さい有機溶剤(例えば、ノルマル−ヘキサン[比重:0.66])と水とのエマルジョン1では、分散質である重液2が水となり、分散媒である軽液3が有機溶剤になるが、かかる例に限定されない。例えば、水よりも比重が大きい有機溶剤(例えば、1−ブロモプロパン[比重:1.35])と水とのエマルジョン1では、分散質である重液2が有機溶剤となり、分散媒である軽液3が水になる。かかるエマルジョン1も、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置の処理対象となりうる。
上記のようなエマルジョン1は、軽液3と重液2の液滴との界面に介在する微細粒子4によりエマルジョン1の分散系が安定化し、軽液3と重液2の二相に分離しにくい。しかし、エマルジョン1中の微細粒子4に遠心力を作用させれば、当該微細粒子4が軽液3と重液2の液滴との界面から除去され、軽液3中に重液2の液滴が混在したエマルジョンとなるため、短時間でエマルジョンを解消できる。
そこで、本実施形態では、エマルジョン破壊装置を用いて、エマルジョン1中の微細粒子4に遠心力を作用させて、重液2と軽液3との界面から微細粒子4を除去することで、エマルジョン1を破壊(即ち、解乳化:demulsification)する。これにより、エマルジョン1として安定している分散系を積極的に破壊して、比重の異なる2種の液体(即ち、水と疎水性の液体)の相分離系へ移行させ、両液体を好適に分離することができる。
[1.2.エマルジョン破壊装置の構成]
次に、図2A及び図3を参照して、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置の構成について説明する。図2Aは、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置10を示す模式図である。図3は、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置10の回転体7を示す斜視図である。なお、図2A中の実線矢印は、回転体7の回転に伴う重液2と軽液3の混合液(エマルジョン1)の流れを示し、点線矢印は、回転体7の回転に伴う軽液3の流れを示している。これは、後述する他の図2B〜図2E等でも同様である。
図2Aに示すように、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置10は、エマルジョン1を貯留する容器6と、エマルジョン1に浸漬される円筒状の回転体7と、回転体7の上部に連結される回転軸81を中心に回転体7を回転させる回転機構8とを備える。
容器6は、エマルジョン1を貯留するための貯留槽である。容器6は、外部から供給されたエマルジョン1を貯留し、エマルジョン1の破壊処理後に処理液を外部に排出する。容器6は、エマルジョン1を貯留可能であれば、円形、角形など任意の形状、大きさの槽で構成することができる。回転体7の外側で、かつ、容器6内の領域において発生する乱流条件下では、再エマルジョン化が発生しやすいことを後述するが、再エマルジョン化を抑制するには、乱流状態が発生しにくい円形が好ましい。容器6の側壁には、必要に応じて、エマルジョン1の供給口(図示せず。)と、処理液の排出口(図示せず。)が設けられる。
回転体7は、エマルジョン1に遠心力を作用させてエマルジョン1を破壊するための回転部材である。回転体7は、全体として円筒状を有し、容器6に貯留されたエマルジョン1中に浸漬して配置される。この際、回転体7の全体がエマルジョン1中に浸漬されるように配置されてもよいし(図2B参照。)、或いは、回転体7の下部側が部分的にエマルジョン1中に浸漬されるように配置されてもよい(図2A参照。)。また、回転体7の円筒軸が鉛直方向になるようにして、回転体7がエマルジョン1中に配置される。
図2A及び図3に示すように、回転体7は、円筒状の胴体71と、胴体71の下側の円形の開口部72を絞る絞り部73と、胴体71の上側の円形の開口部を塞ぐ蓋部74とを備える。図2A及び図3に示す絞り部73は、胴体71の下端に周方向に沿って設けられ、該下端から斜め下方に張り出した逆テーパ形状を有する。絞り部73の肉厚は、胴体71の肉厚と同一である。この絞り部73により、回転体7の胴体71の下側の開口部72は下方に向かうにつれて絞られる、即ち、当該開口部72の開口面積は下方に向かうにつれて縮小される。
蓋部74は、胴体71の上端に設けられる円盤状の部材であり、回転体7の胴体71の上側の円形の開口部を塞ぐ。この蓋部74は、回転体7と回転軸81を連結する連結部材としても機能し、円盤状の蓋部74の中心に回転軸81が連結される。また、蓋部74には、空気孔として機能する複数の貫通孔75が上下方向に貫通形成されている。回転体7を下方に移動させてエマルジョン1に浸漬するとき、又は外部から容器6にエマルジョン1を供給するときには、当該貫通孔75を通じて回転体7の内部の空気が回転体7の外部に抜けるため、回転体7の内部空間にエマルジョン1が容易に浸入できる。
回転体7の内径をd1、容器6の内径をD1とすると、通常、d1/D1が、0.08〜0.3となるように回転体7と容器6を設計することが好ましい。d1/D1が0.08未満であると、エマルジョン1を破壊するのに時間がかかり、容器6の容量も大きくなる。d1/D1が0.3を超えると、回転体7の外側で、かつ、容器6内の領域において発生する乱流が強くなり、再エマルジョン化が発生しやすくなる。従って、回転体7の外側での再エマルジョン化を抑制しつつ、回転体7によりエマルジョン1を効率的に破壊するためには、d1/D1が0.08〜0.3であることが好ましい。
回転機構8は、回転軸81と、制御部82と、モータ等の駆動装置(図示せず。)とを備える。回転軸81は、上記回転体7の上端に連結され、駆動装置の回転力を回転体7に伝達する。上記円筒状の回転体7の胴体71の円筒軸と回転軸81は同一の軸線上にあり、両者はともに鉛直方向に延びる。かかる回転機構8は、回転軸81を中心に(即ち、胴体71の円筒軸を中心に)、回転体7を所定の回転数で回転させる。
制御部82は、オペレータによる入力指示に基づいて、又は予め設定されたプログラムに従って、上記駆動装置を制御することで、回転体7の回転数を制御する。かかる制御部82により、回転体7の回転数が可変となる。制御部82により回転体7の回転数を制御することで、回転体7の回転により回転体7内のエマルジョン1に作用させる遠心力の大きさ(遠心加速度)を調整できる。例えば、回転体7の回転により生じる遠心力でエマルジョン1を破壊する場合には、制御部82は、回転体7の回転数を上昇させて、エマルジョン1に作用させる遠心力を高める。一方、エマルジョン1の破壊に伴い回転体7の内部に堆積した微細粒子4を回転体7の下側の開口部72から下方に排出する場合には、制御部82は、回転体7の回転数を低下させる。
以上の構成のエマルジョン破壊装置10は、容器6に貯留された重液2と軽液3のエマルジョン1中に回転体7を浸漬し、回転機構8により回転軸81を中心として回転体7を回転させる。これにより、回転体7の内部のエマルジョン1を回転させて、回転体7の内周面付近で該エマルジョン1に対して遠心力を作用させる。この結果、当該遠心力により重液2と軽液3の界面に介在する固形物の微細粒子4を当該界面から除外することで、エマルジョン1を破壊(解乳化)して、重液2と軽液3に分離する。このように、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置10では、回転体7の回転により回転体7内のエマルジョン1に遠心力を作用させて、エマルジョン1を破壊する。
以上のように、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置10は、容器6内のエマルジョン1に浸漬された回転体7を回転機構8により回転させるだけの比較的シンプルな装置構成である。従って、本実施形態にエマルジョン破壊装置10は、従来の遠心分離機と比べて、構造が簡易で小型かつ安価でありながら、エマルジョン1を破壊するために必要な遠心力をエマルジョン1に的確に作用させることができるという利点を有する。
[1.3.エマルジョンの破壊原理]
次に、図4を参照して、上記構成のエマルジョン破壊装置10を用いて遠心力によりエマルジョン1を破壊する原理について説明する。
図4に示すように、重液2(例えば水)と軽液3(例えば有機溶剤)の界面に微細粒子4が介在するため安定化しているエマルジョン1中に、回転体7を浸漬して回転させると、回転体7の内部のエマルジョン1は、回転体7と共に回転して遠心力を受ける。この際、回転体7の胴体71の内周面付近の領域76では、中心領域よりも回転径及び回転速度が大きいので、当該領域76に位置するエマルジョン1が最大の遠心力を受ける。
上記のように回転体7を回転させて、回転体7内のエマルジョン1に遠心力を与えることで、重液2と軽液3の界面に介在する微細粒子4を当該界面から除外できる。この結果、微細粒子4が除去された重液2と軽液3のみからなるエマルジョンを、攪拌すれば、比較的容易にエマルジョン状態を解消して、重液2と軽液3の相分離系に分離できる。このように回転体7により生じる遠心力でエマルジョン1を破壊する場合、上記回転体7の胴体71の内周面付近の領域76で、エマルジョン1に最も遠心力が作用するため、当該領域76において微細粒子4が除外されて、エマルジョン1が破壊され易い。
ここで、回転体7の回転中のエマルジョン1の流動について説明する。回転体7の回転中には、図4及び図2Aに示すように、回転体7の回転に伴って、容器6中のエマルジョン1は流動する。詳細には、容器6内のエマルジョン1は、回転体7の下側の開口部72の中心領域(円筒軸上及びその周辺)から回転体7内に流入する。そして、回転体7内のエマルジョン1は、回転体7の回転力により、回転体7の中心領域から上記回転体7の内周面付近の領域76に流動し、当該領域76に滞留している間に強い遠心力を受ける。この結果、当該領域76において微細粒子4が重液2と軽液3の界面から除去されるため、エマルジョン1が破壊され易くなる。その後、当該界面から微細粒子4が除去されたエマルジョン1は、回転体7の下側に流動し、絞り部73を乗り越えて下側の開口部72から回転体7外に流出する。そして、回転体7の外側において、回転体7の回転力により撹拌されることで、エマルジョン1は、分散系から重液2と軽液3の相分離系への移行が促進される。この結果、回転体7の外側の領域では、比重の小さい軽液3が浮上して、比重の大きい重液2が沈降するため、両液体が2相に分離される。
[1.4.回転体の絞り部]
次に、図2A及び図3を参照して、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置10の特徴である回転体7の絞り部73の構成と機能についてより詳細に説明する。
上記のようにして、回転体7の回転力を用いてエマルジョン1を破壊するためには、大きな遠心力が作用する回転体7の内周面付近の領域76に、所定時間以上(例えば1秒以上)に渡ってエマルジョン1を滞留させることが重要である。このためには、回転体7内のエマルジョン1が回転体7の胴体71の内周面に沿って上下方向に流動する速度を抑制し、できるだけ長い時間、当該領域76にエマルジョン1を滞留させることが好ましい。
そこで、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置10では、図2A及び図3に示すように、回転体7の下端に絞り部73を設けて、回転体7の下側の開口部72を絞るような構造を採用している。かかる絞り部73により回転体7の下側の開口部72を狭くしているので、回転体7の内部のエマルジョン1が開口部72から流出することを抑制し、回転体7内でのエマルジョン1の流速を低減できる。これにより、回転体7の内周面付近の領域76にエマルジョン1を長時間滞留させて、該エマルジョン1に対して遠心力を十分に作用させることができる。
絞り部73を設けない場合には、回転体7の下側の開口部72からエマルジョン1がすぐに排出されてしまい、回転体7内のエマルジョン1に遠心力が作用する時間が非常に短くなり(例えば1秒未満)、エマルジョン1の破壊には至らない。一方、絞り部73により開口部72を狭くすることにより、回転体7内のエマルジョン1に対して遠心力が作用する時間が長くなり(例えば1秒以上)、エマルジョン1を好適に破壊できるようになる。
ここで、上記絞り部73による開口部72の絞り度合いの適正量を説明するために、回転体7の絞り部73の高さhと、胴体71の高さHとの関係について説明する。図2A及び図3に示すように、絞り部73の高さhは、絞り部73の先端と胴体71の内周面との間の水平方向の高低差であり、絞り部73による開口部72の絞り量を表す。また、胴体71の高さHは、胴体71の鉛直方向の長さである。
絞り部73の高さhは、胴体71の高さHの3%以上であることが好ましく(h≧0.03*H)、Hの5.7%以上であることがより好ましく(h≧0.057*H)、Hの9.6%以上であることが更に好ましい(h≧0.096*H)。例えば、H=300mmである場合、hは、9mm以上であることが好ましく(h≧0.03*H)、17mm以上であることがより好ましく(h≧0.057*H)、29mm以上であることが更に好ましい(h≧0.096*H)。
hがHの3.0%未満であると、絞り部73が小さすぎるため、回転体7の内部のエマルジョン1が、回転体7の内周面に沿って上下方向に高速(+0.2m/秒超、又は−0.2m/秒未満)で移動し、絞り部73を乗り越えて、回転体7の下側の開口部72から容易に流出してしまう。このため、回転体7の内部でエマルジョン1に対して、必要な大きさの遠心力を十分な時間に渡って作用させることができないので、エマルジョン1を好適に破壊できなくなってしまう。
これに対し、hがHの3.0%以上であれば、回転体7の内周面付近に、回転体7の内部のエマルジョン1の流速が例えば上下方向に−0.2〜+0.2m/秒となる緩速領域を維持することができるので、エマルジョン1を好適に破壊できる。つまり、hがHの3.0%以上であれば、絞り部73が堰として機能し、回転体7の内部のエマルジョン1が絞り部73を乗り越えて下側の開口部72から流出することを抑制できる。これにより、回転体7の内部のエマルジョン1を回転体7の内周面付近に長く滞留させ、エマルジョン1の破壊に必要な大きさの遠心力を、十分な時間(例えば1秒以上)に渡ってエマルジョン1に対して作用させることができる。従って、回転体7によりエマルジョン1を好適に破壊できる。Hに対するhの比(=h/H)が大きいほど、この破壊効果は高くなる。
[1.5.エマルジョン破壊装置の変更例]
次に、図2B〜図2Eを参照して、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置10の変更例について説明する。図2B〜図2Eは、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置10の変更例を示す模式図である。
まず、図2Bの変更例について説明する。図2Bの変更例のエマルジョン破壊装置10は、上述した図2Aの例のエマルジョン破壊装置10と比べて、回転体7の配置が異なる。
図2Aの例のエマルジョン破壊装置10では、回転体7の一部だけをエマルジョン1に浸漬した状態で、回転体7を回転させている。しかし、かかる例に限定されず、図2Bに示すように、回転体7の全体をエマルジョン1に浸漬した状態で、回転体7を回転させてもよい。この図2Bの構成でも、回転体7の内部でエマルジョン1に遠心力を作用させて、エマルジョン1を好適に破壊できる。この際、回転体7の回転中に、エマルジョン1の破壊により分離された軽液3が、回転体7の上部の蓋部74に設けられた貫通孔75から回転体7の内部に流入するようになる。
次に、図2C〜図2Eの変更例について説明する。図2C〜図2Eの変更例のエマルジョン破壊装置10は、上述した図2Aの例のエマルジョン破壊装置10と比べて、回転体7の絞り部73の形状が異なる。回転体7の絞り部73は、回転体7の下側の開口部72を絞ることが可能な形状であれば、例えば、図2C〜図2Eに示すような多様な形状に変更することができる。
図2Cの例の絞り部73Cは、回転体7の胴体71の下端に周方向に沿って設けられ、該下端から斜め上方に張り出した順テーパ形状を有する。また、図2Dの例の絞り部73Dは、回転体7の胴体71の下端に周方向に沿って設けられ、該下端から水平方向内側に張り出した平坦なリング形状を有する。また、図2Eの例の絞り部73Eは、回転体7の胴体71の下端に周方向に沿って設けられ、該下端から内側に張り出し、垂直断面が略三角形となるリング形状を有する。
これら図2C〜図2Eの変更例の回転体7であっても、回転体7の回転中に、回転体7の内部のエマルジョン1が下側の開口部72から排出し難くなり、該回転体7の内周面付近の領域76に該エマルジョン1を滞留させることができる。従って、該エマルジョン1に、必要な大きさの遠心力を適切な長い時間作用させることができるので、エマルジョン1を好適に破壊できる。
[1.6.エマルジョンの破壊に必要な遠心力]
次に、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置10の回転体7によりエマルジョン1を破壊するために必要な遠心力について説明する。
まず、図5を参照して、以下の説明で用いる「エマルジョン相率」について説明する。重液2、軽液3及び微細粒子4を含むエマルジョン1を遠沈管に入れて、遠心分離機で遠心力をエマルジョン1に作用させると、図5に示すように4相に分離される。この4相は、上部から、軽液相101、残存したエマルジョン相102、重液相103、沈殿した微細粒子相104である。また、図5に示すdAは軽液相101及び残存したエマルジョン相102の厚さであり、dBは重液相103及び沈殿した微細粒子相104の厚さであり、dCは残存したエマルジョン相102の厚さであり、dDは沈殿した微細粒子相104の厚さである。
ここで、エマルジョン相率Eとは、次の(1)式に示すように、上記dCをdAで除算した値の百分率(Vol−%)である。
エマルジョン相率E=dC/dA (1)
上記エマルジョン1に遠心力を作用させる前、つまり、重液2、軽液3及び微細粒子4の混合液を強攪拌した後は、通常、軽液相全体がエマルジョン1になっていることが多く、エマルジョン相率Eは、ほぼ100Vol−%である。一方、遠心力を作用させてエマルジョン1を破壊した後は、図5に示すように、エマルジョン相率Eは低下し、例えば50Vol−%以下となる。このように、エマルジョン相率Eは、エマルジョン破壊装置10又は遠心分離機等により、エマルジョン1を破壊して軽液3の相と重液2の相とに分離できる度合いを表す指標となる。
次に、図4及び図6〜図8を参照して、回転体7によりエマルジョン1を破壊するために必要な遠心力の大きさ(遠心加速度)と、該遠心力の作用時間について詳細に説明する。
図4の中の拡大図に示すように、回転体7の内部のエマルジョン1中の微細粒子4に対しては、遠心力と、浮力と、重力と、該遠心力に対する反力である抵抗力とが作用する。ここで、回転体7内においては、浮力と重力は小さいので無視できる。抵抗力は、微細粒子4の親水性(ぬれ性)や粒子形状、粒子径等の影響を受ける。微細粒子4の親水性が大きい場合、微細粒子4は、重液2の液滴の表面から表面張力を受けると考えられ、この表面張力も抵抗力の一因となる。上記回転体7の回転によりエマルジョン1中の微細粒子4に作用する遠心力が、抵抗力に打ち勝つことで、重液2と軽液3の界面から微細粒子4が除外されて、エマルジョン1が破壊される。
エマルジョン1を破壊するために必要な遠心力は、微細粒子4の親水性(ぬれ性)や、粒子の形状、粒子径、軽液3と重液2の比重差などの影響を受ける。このため、回転体7の回転によりエマルジョン1に作用させる遠心力を、処理対象のエマルジョン1中に含まれる微細粒子4の特性、又は軽液3と重液2の比重差などに応じて変化させることが好ましい。
図6は、微細粒子4の単位粒子径における遠心加速度(=rω2)と作用力(微細粒子4に作用する遠心力と抵抗力)との関係を示すグラフである。
回転体7の回転数の上昇に伴って、微細粒子4に作用する遠心力の大きさ、即ち、遠心加速度が上昇する。図6に示すように、遠心加速度が上昇して、反力である抵抗力が遠心力に対抗できなくなったときに、微細粒子4は重液2と軽液3の界面から除去される。エマルジョン1は破壊される微細粒子4の粒子径が小さいほど、また、微細粒子4の親水性(ぬれ性)が大きいほど、エマルジョン1を破壊するために必要な加速度は上昇する。
図7は、微細粒子4が含油スケール又は酸化アルミニウム粉である場合の遠心加速度[単位:G]とエマルジョン相率Eとの関係を示すグラフである。
上記のように、エマルジョン1を破壊するために必要な遠心力は、エマルジョン1中に含まれる微細粒子4の特性(例えば、親水性や、粒子の形状、粒子径等)によって変化する。例えば、図7に示すように、エマルジョン相率Eが50Vol−%以下となるまでエマルジョン1を破壊するためには、微細粒子4が酸化アルミニウム粉(平均粒子径:41μm)である場合には、18G以上の遠心加速度の遠心力が必要であり、微細粒子4が含油スケ−ル(平均粒子径:29μm)である場合には、300G以上の遠心加速度の遠心力が必要である。
図8は、エマルジョン破壊装置10を用いて遠心加速度:2285Gの遠心力をエマルジョン1中の微細粒子4に作用させた場合の遠沈時間とエマルジョン相率Eとの関係を示すグラフである。
図8に示すように、エマルジョン相率Eが60Vol−%以下となるまでエマルジョン1を破壊するためには、遠心力の作用時間は1秒以上必要であり、Eが40Vol−%以下となるまでエマルジョン1を破壊するためには、遠心力の作用時間は2秒以上必要である。
以上のように、回転体7によりエマルジョン1を破壊するために必要な遠心力の大きさ(即ち、遠心加速度)や、該遠心力の作用時間は、エマルジョン1に含まれる微細粒子4の特性(粒度分布又は親水性等)等によって変化する。このため、エマルジョン破壊装置10を用いてエマルジョン1を破壊する場合には、微細粒子4の特性や、軽液3と重液2の比重差に応じて、上記遠心加速度や作用時間を適切な値に設定する必要がある。
例えば、図6に示した関係から分かるように、微細粒子4の粒子径が小さい場合には、回転体7の回転数若しくは半径(回転体7の胴体71の内周面の半径)を大きくすることにより、回転体7の内周面付近の領域76(図4参照。)で生じる遠心加速度を大きくする必要がある。また、微細粒子4の親水性(微細粒子4の表面のぬれ性)によって、遠心力に対抗する最大抵抗力が変化する。このため、微細粒子4の親水性が高い場合にも、回転体7の回転数若しくは半径を大きくすることにより、当該領域76で生じる遠心加速度を大きくする必要がある。
そこで、本実施形態に係る回転機構8の制御部82は、微細粒子4の粒径又は親水性などの特性に応じて、回転体7の回転数を増加又は減少させる。これにより、回転体7内でエマルジョン1を破壊するために必要な遠心力を、該エマルジョン1に作用させて、重液2と軽液3の界面から微細粒子4を除去し、該エマルジョン1を好適に破壊できる。
[1.7.エマルジョンの破壊に必要な遠心力が大きい場合の課題]
上述したように、エマルジョン1を破壊するために必要な遠心力が小さい場合(例えば、エマルジョン1の破壊に必要な遠心加速度が100G未満である場合)には、上記第1の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10の構成(図2A〜図2Eを参照。)であっても、特段の問題は生じない。
一方、エマルジョン1を破壊するために必要な遠心力が大きい場合(例えば、エマルジョン1の破壊に必要な遠心加速度が100G以上である場合)、回転体7の回転数若しくは半径を大きくする必要がある。この場合には、以下の2つの課題が生じる。
(課題1)回転体7の内周面付近に、分離された微細粒子4が堆積しやすくなるため、該堆積した微細粒子4により回転体7が重くなり、回転動力が大きくなってしまう。
(課題2)回転体7の外側の領域において液体が強撹拌されて、回転体7を浸漬している容器6内の液体の乱流状態が強くなり、回転体7の外側の領域でエマルジョン1が再生成されてしまう。
上記(課題2)について詳述する。100G以上の大きな遠心加速度を得るために回転体7の回転数若しくは半径を大きくした場合、容器6内の液体(エマルジョン1又は分離された重液2と軽液3等)が該回転体7により大きな撹拌力で撹拌され、該液体の流動が速くなる。特に、容器6内の回転体7の外側の領域で、液体の乱流状態が激しくなる。この結果、回転体7内で遠心力を用いてエマルジョン1を破壊して重液2と軽液3と微細粒子4に分離したとしても、該重液2と軽液3と微細粒子4が、強い乱流状態となっている回転体7の外側の領域において激しく撹拌・混合されて、エマルジョン1が再生成されてしまうことになる。
従って、エマルジョン1を破壊するために必要な遠心力が大きい場合、上記微細粒子4が堆積する問題(課題1)と、エマルジョン1が再生成する問題(課題2)を解決するために、上記第1の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10の構成(図2A〜図2Eを参照。)に、種々の工夫を加えることが好ましい。
例えば、後述する第2及び第3の実施形態のように、回転体7内においてエマルジョン1の破壊により生じた軽液3と、微細粒子4を含んだ重液2とがそれぞれ、回転体7の上部孔と下部孔から回転体7の外部へ排出されるようにしてもよい。これにより、微細粒子4を含んだ重液2と、軽液3とが混在する領域を減少させて、エマルジョン1の再生成を防止できるとともに、回転体7内に堆積した微細粒子4を回転体7の外部に好適に排出できる。
また、後述する第4の実施形態のように、回転体7の外側の領域において容器6内の液体を上下に区切る仕切板を設置し、回転体7により生じる流れを旋回流に変化させ、乱流状態を緩和するようにしてもよい。これにより、主に容器6内の上部に存在する軽液3と、主に下部に存在する重液2及び微細粒子4とに分離し、軽液3と重液2及び微細粒子4とが再度混合する確率を低減できるので、回転体7の外側の領域においてエマルジョン1が再生成することを防止できる。
このように、回転体7の外部の領域におけるエマルジョン1の再生成を抑制することで、回転体7の内部で生じるエマルジョン1の破壊が優勢になり、全体としてエマルジョン1が消失していく。以下に、上記第1の実施形態で生じ得る課題1及び課題2を解決するための第2〜第4の実施形態係について詳述する。
[2.第2の実施形態]
次に、図9を参照して、本発明の第2の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10について説明する。図9は、第2の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10を示す模式図である。第2の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10は、上記第1の実施形態と比べて、回転体7の上部及び下部に、回転体7の内部の液体又は微細粒子4を外部に排出させるための貫通孔77、78(上部孔と下部孔)が追加で設置されている点で相違する。
図9に示すように、第2の実施形態では、回転体7の下部の絞り部73に複数の貫通孔77(「第2の貫通孔」に相当する。)が形成され、回転体7の上部の蓋部74に複数の貫通孔78(「第1の貫通孔」に相当する。)が形成されている。以下では、説明の便宜上、絞り部73に形成された貫通孔77を「下部孔77」、蓋部74に形成された貫通孔78を「上部孔78」と称する。
下部孔77は、回転体7の下部の絞り部73を鉛直方向に貫通するように形成される。下部孔77は、回転体7の内部の重液2、軽液3及び微細粒子4を、特に、比重の大きい重液2及び微細粒子4を、回転体7の外部に排出する排出孔として機能する。下部孔77の設置数は、図9の例では2個であるが、1個又は3個以上設けられてもよい。下部孔77を複数設ける場合には、絞り部73の周方向に沿って等間隔に配置することが好ましい。
かかる下部孔77は、絞り部73の外周部分(回転体7の胴体71の側壁に近い側)に設けられることが好ましい。これにより、回転体7の回転時に、遠心力により回転体7の内周面付近の領域76に堆積する微細粒子4を、下部孔77から効率的に外部に排出できる。
一方、上部孔78は、回転体7の上部の蓋部74を鉛直方向に貫通するように形成される。上部孔78は、回転体7の内部の重液2、軽液3及び微細粒子4を、特に、特に、比重の小さい軽液3を、回転体7の外部に排出する排出孔として機能する。上部孔78の設置数は、図9の例では2個であるが、1個又は3個以上設けられてもよい。上部孔78を複数設ける場合には、蓋部74の周方向に沿って等間隔に配置することが好ましい。
上部孔78も、蓋部74の外周部分(回転体7の胴体71の側壁に近い側)に設けられることが好ましい。これにより、回転体7の回転時に、遠心力により回転体7の内周面付近の領域76に堆積する微細粒子4を、上部孔78から効率的に外部に排出できる。
上述したように、第1の実施形態の回転体7の内部では、絞り部73により回転体7の内周面付近の領域76にエマルジョン1を滞留させて、遠心力によりエマルジョン1を破壊する。この破壊により、微細粒子4が重液2と軽液3の界面から分離される。このため、エマルジョン1の破壊処理が継続するにつれ、内周面付近の領域76には遠心力により微細粒子4が堆積していき、蓋部74と絞り部73により外部への排出が阻害される。
しかし、第2の実施形態では、内周面付近の領域76に堆積した微細粒子4が下部孔77及び上部孔78から回転体7の外部に適度に排出されるので、該領域76に多量の微細粒子4が堆積することを防止できる。従って、回転体7に下部孔77及び上部孔78を設置することで、エマルジョン1の破壊に必要な遠心力の作用時間を維持しながら、回転体7内に微細粒子4が過度に堆積することを抑制できる。よって、回転体7内の微細粒子4の堆積による回転体7の重量及び回転動力の増加という問題(上記課題1)を解決できる。
さらに、下部孔77及び上部孔78からの微細粒子4の排出を更に促進するために、回転機構8の制御部82により回転体7の回転数を変化させてもよい。
詳細には、回転体7の回転により生じる遠心力でエマルジョン1を破壊するときには、制御部82は、所定の高遠心加速度(例えば、500〜2000G)が発生するように、高回転数で回転体7を回転させる。一方、回転体7の内部に堆積した微細粒子4を下部孔77から下方に排出するときには、制御部82は、回転体7の回転数を低下させ、上記所定の高遠心加速度よりも大幅に小さい低遠心加速度(例えば、100G未満)にまで低下させる。
このように、回転体7によるエマルジョン1の破壊処理途中に、制御部82により、回転体7の回転数を一時的に低下させ、回転体7内のエマルジョン1に作用する遠心力を低下させる。これにより、回転体7の内周面付近の領域76に堆積している微細粒子4を自重により下部孔77から好適に下方に排出することができる。従って、回転体7内の微細粒子4の堆積という問題(上記課題1)をより確実に防止できる。
さらに、第2の実施形態によれば、回転体7の下部孔77から主に重液2及び微細粒子4が排出されやすく、回転体7の上部孔78から主に軽液3が排出されやすい。これにより、回転体7の外側の領域において、軽液3は上部側に浮上し、重液2及び微細粒子4は下部側に沈降して、両者が分離されやすい。従って、微細粒子4を含んだ重液2と、軽液3とが混在する領域を減少させて、エマルジョン1の再生成を防止できる(上記課題2)。
[3.第3の実施形態]
次に、図10を参照して、本発明の第3の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10について説明する。図10は、第3の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10を示す模式図である。第3の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10は、上記第2の実施形態と比べて、回転体7の内周面に、液体の流れを阻害する環状堰79が追加で設置されている点で相違する。
図10に示すように、第3の実施形態に係る回転体7の胴体71の内周面には、環状堰79が周方向に沿って設けられる。この環状堰79は、回転体7の中心に向かって水平に張り出した平坦な環状部材であり、環状堰79の外周は胴体71の内周面に接続されている。環状堰79の張り出し高さは、例えば、胴体71の半径の半分程度であるが、かかる例に限定されない。
この環状堰79は、回転体7の回転中に、回転体7内のエマルジョン1の流動を制御して、軽液3を上方に、重液2及び微細粒子4を下方に流動させるための越流堰として機能する。即ち、図10中の矢印で示すように、回転体7の回転によりエマルジョン1を破壊しているときには、回転体7内のエマルジョン1は遠心力により、回転体7内の中心領域から内周面付近の領域76に流動した後、該内周面に沿って上下に流動し、遠心力により破壊される。この結果、比較的比重の大きい重液2及び微細粒子4は、環状堰79により上方への流動を阻害されるため、主に下方に向けて流動し、回転体7の下部の下部孔77又は開口部72から排出される。一方、比較的比重の小さい軽液3は、環状堰79を乗り越えて更に上方に流動し、回転体7の上部の上部孔78から排出される。
このようにして、回転体7内に環状堰79を設置することにより、回転体7の上方に流れる液体を軽液3のみとし、上部孔78から回転体7の外部へ放出させる一方、微細粒子4及び重液2と一部の軽液3を下部孔77又は開口部72から回転体7の外部へ放出させる。これにより、回転体7の外側の領域において、上部孔78から放出された軽液3と、下部から放出された微細粒子4及び重液2とを大きく離隔させることができる。従って、エマルジョン1を再生成するために必要な、重液2、軽液3、微細粒子4が狭い同一領域に同時に存在する確率を低下させることができる。よって、エマルジョン1を破壊するために必要な遠心力が大きい場合であっても、高速回転する回転体7の外側の領域において、重液2及び微細粒子4と、軽液3とを好適に分離して、エマルジョン1の再生成を防止できる(上記課題2)。
[4.第4の実施形態]
次に、図11A〜図11Dを参照して、本発明の第4の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10について説明する。図11A〜図11Dは、第4の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10を示す模式図である。第4の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10は、上記第1〜3の実施形態と比べて、回転体7の外側に、重液2及び微細粒子4と軽液3とを区分するための仕切板9が追加で設置されている点で相違する。
図11A〜図11Dに示すように、第4の実施形態では、回転体7の外側の領域において、容器6内のエマルジョン1を上下に仕切る仕切板9が設けられている。仕切板9は、回転体7を取り囲む板状部材であり、回転体7と容器6の側壁との間のスペースに、回転体7の胴体71の全外周を取り囲むようにして配置される。仕切板9の外縁は容器6の側壁に接続され、仕切板9の内縁は回転体7の胴体71の外周面に離隔して配置される。仕切板9の内縁と回転体7の胴体71の外周面との間には、若干の隙間91が存在する。
かかる仕切板9を設けることにより、回転体7の外側の領域において、容器6内に貯留されるエマルジョン1を上下に仕切ることができる。これにより、回転体7の内部でエマルジョン1を破壊して重液2と軽液3と微細粒子4とに分離したときに、比重の小さい軽液3が、仕切板9の上側の領域に滞留しやすくなる一方、比重の大きい重液2及び微細粒子4が、仕切板9の下側の領域に滞留しやすくなる。そして、仕切板9の上側に存在する軽液3と、主に下側に存在する重液2及び微細粒子4とが混合して、エマルジョン1が再生成されることを抑制できる。即ち、回転体7の回転により、回転体7の外側の液体は攪拌されて流動するが、仕切板9が存在することにより、当該撹拌による液体の流動を、容器6内の上下方向の流動を含む乱流ではなく、回転体7の外周を旋回する旋回流に変化させやすい。従って、エマルジョン1を破壊するために必要な遠心力が大きい場合であっても、高速回転する回転体7の外側の領域で、仕切板9の上下に区分された軽液3と重液2及び微細粒子4とが再度混合されて、エマルジョン1が再生成される確率を低減できる(上記課題2)。
また、図11Aに示す例では、仕切板9は水平に配置されている。この場合でも、図11Aに示すように、回転体7の上部孔78から放出された軽液3が仕切板9の上側の領域に滞留し、下部孔77から放出された重液2及び微細粒子4が仕切板9の下側の領域に滞留しやすいので、仕切板9により軽液3と重液2及び微細粒子4を区切ることは可能である。
しかし、仕切板9を水平に配置するよりも、図11B〜図11Dに示すように、仕切板9をすり鉢状又は逆テーパ状として、仕切板9を容器6の側壁から回転体7に向かって下るように傾斜して配置することが好ましい。さらに、この仕切板9の傾斜角は例えば15°以上であることがより好ましい。このように、仕切板9を傾斜配置することで、仕切板9の上側に存在する微細粒子4は仕切板9の傾斜に沿って滑動し、仕切板9の内縁の隙間91から仕切板9の下方に沈降するので、仕切板9上に微細粒子4が堆積することを防止できる。
さらに、図11B〜図11Dに示すように、傾斜した仕切板9の外縁部(容器6の側壁側)には、複数の貫通孔92(「第3の貫通孔」に相当する。)が形成されている。貫通孔92は、仕切板9の外縁部を鉛直方向に貫通するように形成され、仕切板9の下側に溜まった軽液3を仕切板9の上側に逃がすための排出孔として機能する。貫通孔92の設置数は、図11A〜図11Dの例では2個であるが、1個又は3個以上設けられてもよい。貫通孔92を複数設ける場合には、仕切板9の外縁に沿って等間隔に配置することが好ましい。
かかる貫通孔92を設けることで、軽液3と重液2及び微細粒子4との分離をさらに促進できる。つまり、図11B〜図11Dに示すように、仕切板9の下側の領域で重液2から分離された軽液3は、浮上して、傾斜した仕切板9の外縁部と容器6の側壁との間の鋭角領域に滞留しやすい。このため、仕切板9の外縁部に貫通孔92を設けることで、当該滞留した軽液3を、貫通孔92を通じて仕切板9の上部に逃がしつつ、仕切板9によりその上下の液体の混合を抑制できる。よって、軽液3と重液2とをより効果的に区分して、エマルジョン1の再生成を抑制できる。
また、図11Dに示すように、仕切板9の回転体7側(即ち、仕切板9の内縁)に、回転体7の胴体71の外周を取り囲む円筒状の外筒壁93を設けてもよい。外筒壁93は、回転体7の胴体71よりも大きい半径を有する円筒体であり、回転体7の胴体71との間に所定の隙間94を空けて配置される。外筒壁93の円筒軸は、回転体7の円筒軸と同一である。図11Dの例の外筒壁93の上端は、上記の仕切板9の内縁に接続されており、外筒壁93は仕切板9により回転体7の外周に位置するように支持されている。しかし、かかる例に限定されず、仕切板9と外筒壁93を非接続にし、別途の支持部材を用いて、外筒壁93を回転体7の外周に位置するように支持してもよい。
かかる外筒壁93による回転体7を覆うことにより、高速回転する回転体7の回転力により、回転体7の外側の領域の液体が強攪拌されて乱流状態になることを大幅に抑制できる。従って、エマルジョン1を破壊するために必要な遠心力が大きい場合であっても、高速回転する回転体7の外側の領域でエマルジョン1が再生成されてしまうことを、より効果的に抑制できる(上記課題2)。
[5.第5の実施形態]
次に、図12A〜図12Cを参照して、本発明の第5の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10について説明する。図12A〜図12Cは、第5の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10を示す模式図である。第5の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10は、上記第1〜3の実施形態と比べて、上記破壊処理後のエマルジョン1の処理液を比重分離するセトラーが追加で設置されている点で相違する。
図12A〜図12Cに示すように、第5の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10は、上述した容器6、回転体7及び回転機構8に加えて、セトラー20をさらに備える。セトラー20は、複数の液体の混合液を静置して、比重差を用いて該液体を分離する分離装置であり、容器6に対して配管24(又は配管25、26)を介して接続される。セトラー20は、該容器6から配管24(又は配管25、26)を通じて導入されたエマルジョン1の破壊処理後の処理液を、比重差を利用して、軽液3とエマルジョン1と重液2及び微細粒子4とに分離する。かかるセトラー20は、上述した回転体7を用いたエマルジョン1の破壊処理を連続処理で行う場合に有用である。
回転体7を用いたエマルジョン1の破壊処理を回分処理で行う場合には、処理終了時に回転体7の回転を停止するため、回転体7が浸漬された容器6内の処理液の流動はほぼ停止する。従って、エマルジョン1の破壊によって生じた軽液相は容器6内の最上相にあり、微細粒子4や重液2、エマルジョン1を含まないので、当該軽液相から軽液3のみを適切に回収することができる。
しかしながら、回転体7を用いたエマルジョン1の破壊処理を連続処理で行う場合には、回転体7の回転を停止しないため、容器6内の処理液は流動したままとなる。従って、比重が大きい微細粒子4や重液2、エマルジョン1が、最上相の軽液相に混入することがある。このため、容器6から単に軽液相を抽出しても、微細粒子4や重液2、エマルジョン1が含まれない軽液3を得ることは困難である。
そこで、第5の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10では、エマルジョン1の破壊処理を連続処理で行うために、図12A〜図12Cに示すように、上記容器6及び回転体7及び回転機構8を備えた装置の後段に、セトラー20を設置する。このセトラー20内で、比重差を用いて、エマルジョン1、微細粒子4及び重液2と軽液3とを分離することで、軽液3を連続的に回収することが可能となる。
以下に、図12A〜図12Cに示す例についてそれぞれ詳細する。まず、図12Aに示す例では、容器6内のエマルジョン1には、上記第1の実施形態と同様な構成の回転体7(図2A参照。)が設置されている。そして、容器6とセトラー20とが1本の配管24で接続されている。配管24の両端はそれぞれ、容器6の側壁の中央部と、セトラー20の側壁の中央部とに接続されている。また、容器6の側壁の下部には、外部から容器6内にエマルジョン1を導入するための供給口21設けられる。セトラー20の側壁の上部には、比重の小さい軽液3を排出するための上部排出口22が設けられ、セトラー20の側壁の下部には、比重の大きい重液2、微細粒子4及びエマルジョン1を排出するための下部排出口23が設けられている。
かかる図12Aに示すエマルジョン破壊装置10の動作を説明する。容器6内でエマルジョン1に浸漬された回転体7を回転させることにより、回転体7内でエマルジョン1に遠心力が作用して、エマルジョン1中の微細粒子4が重液2と軽液3の界面から除外される。このように微細粒子4が界面から除去されたエマルジョン1の処理液は、容器6から配管24を通じてセトラー20に導入される。
そして、セトラー20内で、該処理液を静置することにより、比重の大きい微細粒子4、重液2及びエマルジョン1を沈降させ、これらを含まない軽液3を浮上させる。これにより、処理液が相分離されて、上から順に、軽液3を含む軽液相、残存したエマルジョン1を含むエマルジョン相、微細粒子4及び重液2を含む重液相の3相に分離される。上部排出口22は、セトラー20の上部の軽液相に対応する位置に設けられているので、該上部排出口22から軽液3が外部に排出される。一方、下部排出口23は、セトラー20の下部の重液相に対応する位置に設けられているので、該下部排出口23から軽液3、微細粒子4及び残存したエマルジョン1の混合液が外部に排出される。
次に、図12Bに示す例では、容器6内のエマルジョン1には、上記第4の実施形態と同様な構成の回転体7(図11D参照。)が設置されている。そして、容器6とセトラー20とが2本の配管(上部配管25、下部配管26)で接続されている。上部配管25の両端はそれぞれ、容器6の側壁の上部と、セトラー20の側壁の上部とに接続され、下部配管26の両端はそれぞれ、容器6の側壁の下部と、セトラー20の側壁の下部とに接続されている。
かかる図12Bに示すエマルジョン破壊装置10の動作を説明する。容器6内でエマルジョン1に浸漬された回転体7を回転させることにより、回転体7内でエマルジョン1に遠心力が作用して、エマルジョン1中の微細粒子4が重液2と軽液3の界面から除外される。図12Bに示す例の回転体7及び仕切板9等は、図2Aの者と比べて、容器6内で重液2と軽液3を分離する能力が高いので、微細粒子4が界面から除去されたエマルジョン1の処理液は、容器6内の主に上部領域に滞留する軽液3と、主に中央及び下部領域に滞留する重液2、微細粒子4及び残存したエマルジョン1とに大まかに分離される。そして、容器6の上部領域の軽液3は、上部配管25を通じてセトラー20の上部に導入される。一方、容器6の中央及び下部領域の重液2、微細粒子4及び残存したエマルジョン1は、下部配管26を通じてセトラー20の下部に導入される。
そして、セトラー20内で、該処理液を静置することにより、比重の大きい微細粒子4、重液2は沈降し、残存したエマルジョン1は若干浮上し、軽液3は最上相まで浮上する。この結果、処理液が相分離されて、上記の軽液相、エマルジョン相、重液相の3相に分離される。そして、上部排出口22から軽液3が外部に排出され、下部排出口23から軽液3、微細粒子4及びエマルジョン1の混合液が外部に排出される。
最後に、図12Cに示す例では、上記図12Bに示す例と比べて、回転体7及び仕切板9等の構成と配置が相違しており、図12Cに示す例の容器6内で重液2と軽液3を分離する能力は、上記図12Bに示す例よりも低いものの、上記図12Aに示す例よりも高い。この図12Cに示す例でも、図12Bに示す例と同様に、エマルジョン1の処理液が、容器6内の主に上部領域に滞留する軽液3と、主に中央及び下部領域に滞留する重液2、微細粒子4及び残存したエマルジョン1とに大まかに分離される。そして、該軽液3が上部配管25を通じてセトラー20の上部に導入され、該重液2、微細粒子4及び残存したエマルジョン1が、下部配管26を通じてセトラー20の下部に導入される。これにより、これら処理液は、セトラー20内で、上記12Bに示す例と同様に、上記の軽液相、エマルジョン相、重液相の3相に分離される。
以上、図12A〜図12Cを参照して説明したように、第5の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10は、容器6内で回転体7の回転によりエマルジョン1の処理液が流動していたとしても、後段のセトラー20を用いて処理液を軽液3と重液2に安定的に分離できる。従って、容器6内における回転体7によるエマルジョン1の破壊処理と、セトラー20での分離処理とを同時並行して連続的に遂行できる。このような連続処理により、回分処理の場合よりも、軽液3と重液2の分離処理の効率を大幅に向上できる。
また、図12Cに示す例で、エマルジョン1の破壊処理と、回転体7内からの微細粒子4の排出処理を回分処理で行ってもよい。上述したように、回転機構8の制御部82により、回転体7の回転数は可変である。この制御部82により、高回転数(例えば5650rpm)と低回転数(例えば980rpm)の間で、回転体7の回転数を定期的に増減させる。これにより、回転体7の回転により生じる遠心加速度を、高遠心加速度(例えば1000G)と低遠心加速度(例えば30G)の間で、増減させる。これにより、高回転数及び高遠心加速度のときには、回転体7によりエマルジョン1の破壊処理を行いつつ、低回転数及び低遠心加速度のときには、回転体7の内周面付近の領域76に堆積した微細粒子4を、回転体7の下部の開口部72から回転体7外に排出できる。これによって、図12Cに示すシンプルな構造の回転体7を用いた場合でも、微細粒子4の堆積の問題を解決しながら、エマルジョン1の破壊処理を継続できる。
[6.エマルジョン破壊方法]
次に、本発明の好適な実施形態に係るエマルジョン破壊方法について説明する。
上述したように、エマルジョン破壊装置10によるエマルジョン1の破壊は、特に、回転体7内の内周面付近の領域76で生じる。一方、エマルジョン1の再生成は、回転体7の外側の領域で生じる。そして、回転体7内でエマルジョン1を破壊するために必要な遠心力は、微細粒子4の特性(粒子形状、粒子径、親水性等)や、軽液3と重液2の比重差などに依存して変化する。エマルジョン1を破壊するために必要な遠心力が大きい場合には、回転体7の回転数若しくは半径を大きくして、回転体7内で大きな遠心加速度をエマルジョン1に作用させる必要がある。しかし、この場合には、上述した回転体7内に微細粒子4が堆積する問題(課題1)と、回転体7外でエマルジョン1が再生成する問題(課題2)が生じてしまう。
従って、エマルジョン1を破壊するために必要な遠心力が大きい場合、例えば、エマルジョン1の破壊に必要な遠心加速度が100G以上である場合には、必要な遠心加速度が大きく、回転体7の回転数を大きくする必要があるので、回転体7の外側において、回転体7による撹拌力が強くなり、乱流やエマルジョン1の再生成が生じやすく、回転体7内に微細粒子4が堆積しやすい。従って、この場合には、上記第2の実施形態(図9)、第3の実施形態(図10)、又は第4の実施形態(図11A〜図11D)、第5の実施形態(図12B、図12C)に係る特別な構造(上部孔77、下部孔78、環状堰79、仕切板9等)を具備するエマルジョン破壊装置10を使用することが好ましい。
一方、エマルジョン1を破壊するために必要な遠心力が小さい場合、例えば、エマルジョン1の破壊に必要な遠心加速度が100G未満である場合には、必要な遠心加速度が小さく、回転体7の回転数は小さくて済むので、回転体7による撹拌力が弱いので、回転体7の外側におけるエマルジョン1の再生成は生じにくく、回転体7内の微細粒子4の堆積も生じにくい。従って、この場合には、上記第1の実施形態(図2A〜図2E)又は第5の実施形態(図12A)に係るシンプルな構造(主として回転体7)を具備するエマルジョン破壊装置10を用いれば、十分である。
そこで、本実施形態に係るエマルジョン破壊方法では、エマルジョン1の破壊に必要な遠心加速度が100G以上であるか否かに基づいて、上記第1〜第5の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10を使い分ける。
即ち、エマルジョン1の破壊に必要な遠心加速度が100G以上、4000G以下である場合には、上記第2の実施形態(図9)、第3の実施形態(図10)、又は第4の実施形態(図11A〜図11D)、第5の実施形態(図12B、図12C)に係るエマルジョン破壊装置10を用いて、エマルジョン1の破壊処理を行う。これにより、回転体7の外側におけるエマルジョン1の再生成(課題1)や、回転体7の内部における微細粒子4の堆積(課題2)を抑制しつつ、回転体7内で大きい遠心加速度の遠心力をエマルジョン1に作用させて、エマルジョン1を好適に破壊できる。なお、遠心加速度の上限を4000Gとすることにより、回転体7を上方で1点支持する回転軸81のシャフト径を抑えて、回転機構8を安価にすることができる。
一方、エマルジョン1の破壊に必要な遠心加速度が5G以上、100G未満である場合には、上記第1の実施形態(図2A〜図2E)又は第5の実施形態(図12A)に係るシンプルな構造のエマルジョン破壊装置10を用いて、エマルジョン1の破壊処理を行う。これにより、よりシンプル、小型かつ安価な構造のエマルジョン破壊装置10を用いて、回転体7の外側におけるエマルジョン1の再生成や、回転体7の内部における微細粒子4の堆積を生じさせることなく、回転体7内で小さい遠心加速度の遠心力をエマルジョン1に作用させて、エマルジョン1を好適に破壊できる。
このように、本実施形態に係るエマルジョン破壊方法では、エマルジョン1の破壊に必要な遠心加速度を判断基準として、エマルジョン破壊装置10を使い分けることを特徴とする。これにより、必要十分な構成のエマルジョン破壊装置10を用いて、効率的にエマルジョン1を破壊できる。
なお、本実施形態では、エマルジョン破壊装置10を使い分ける判断基準となる遠心加速度の基準値を100Gに設定している。この理由は、次の通りである。本発明者は、エマルジョン破壊装置10の回転体7の回転数を多段階で変化させ(即ち、遠心加速度を多段階で変化させ)、回転体7の外側の領域における液体の乱れを測定する試験を行った。その結果、遠心加速度が100G以上になると、回転体7の外側の液体の流動が乱流化して、エマルジョン1の再生成が生じやすくなることが分かった。そこで、本実施形態に係るエマルジョン破壊方法では、上記遠心加速度の基準値を100Gとして、エマルジョン破壊装置10を使い分けている。
以上、本実施形態に係るエマルジョン破壊装置10を用いたエマルジョン破壊方法に説明した。本実施形態によれば、重液2と軽液3の界面に微細粒子4が介在することで安定化したエマルジョン1を含む液体に対して、高速回転する回転体7により遠心力を作用させることで、微細粒子4を該界面から除去し、エマルジョン1を破壊(解乳化)することができる。さらに、エマルジョン破壊装置10により、重液2(例えば水)及び微細粒子4(例えば含油スケール)の含有率が少ない軽液3(例えば、有機溶剤)と、軽液3をほとんど含まない重液2及び微細粒子4とを分離して回収することができる。
[7.油分分離装置]
次に、図13を参照して、上記のエマルジョン破壊装置10が適用された油分分離装置について説明する。図13は、本実施形態に係る油分分離装置を示す模式図である。
本実施形態に係る油分分離装置は、油分および水分を含有するスケール類(含油スケール)から油分を分離するための装置である。この油分分離装置では、含油スケール中の油分を抽出剤である有機溶剤に抽出するときに、該有機溶剤と水とのエマルジョン1が生成される。このエマルジョン1は、有機溶剤と水の界面にスケールの微細粒子4(微細スケール)が介在しているため安定化しており、破壊されにくい。そこで、本実施形態に係る油分分離装置は、上記エマルジョン破壊装置10を利用して、該エマルジョン1を効果的に破壊して、水と有機溶剤と微細スケールと油分を適切に分離することを目的としている。以下に、油分分離装置とこれを用いた油分分離方法について詳述する。
なお、以下では、油分分離装置の処理対象として、上記の重液2が水であり、軽液3が親油性の有機溶剤であり、微細粒子4が微細スケールである例について説明するが、油分分離装置の処理対象は、かかる例に限定されるものではない。ここで、親油性の有機溶媒は、常圧での沸点が100℃未満であり、常温常圧で液体であり、例えば、例えば、ジエチルエーテル、ペンタン、ヘキサン、ギ酸エチル、酢酸エチル及びベンゼンからなる群から選択される1種又は2種以上であることが好ましく、特に、ペンタン又はヘキサンがより好ましい。以下では、親油性の有機溶剤として、ノルマル−ヘキサン(n−ヘキサン)を用いる例について説明する。油分分離装置は、抽出剤として親油性の有機溶剤(n−ヘキサン)を用いて含油スケールから油分を抽出しつつ、この抽出処理により生じた水とn−ヘキサンと微細スケールとが懸濁したエマルジョン1を破壊して、水とn−ヘキサンと微細スケールを分離する。
図13に示すように、油分分離装置100は、スラリー化槽110と、抽出槽120と、固液分離装置130と、エマルジョン破壊装置10と、蒸留装置140と、有機溶剤除去装置150とを備える。
スラリー化槽110は、モータ111と撹拌部材112を有する攪拌機を備える。スラリー化槽110は、後段の抽出槽120に対して配管113を介して接続されている。配管113には、スラリーを送出するためのポンプ114が設けられている。スラリー化槽110には、外部から含油スケールと水が投入される。スラリー化槽110は、モータ111により撹拌部材112を回転させることにより、含油スケールと水とを混合して第1のスラリー(含油スケールと水の混合物)を生成する。
抽出槽120は、モータ121と撹拌翼122を有する攪拌機を備える。抽出槽120は、後段の固液分離装置130に対して配管123を介して接続されている。配管123には、油分を含む有機溶剤と第1のスラリーとの混合物を送出するためのポンプ114が設けられている。抽出槽120には、スラリー化槽110から配管113を介して第1のスラリーが導入され、蒸留装置140から配管146を介して再生された有機溶剤が導入され、エマルジョン破壊装置10から配管133を介して水が導入される。有機溶剤は、n−ヘキサン(比重:0.66)などの親油性有機溶剤で構成され、含有スケールから油分を抽出するための抽出剤として機能する。抽出槽120は、モータ121により撹拌翼122を回転させることにより、第1のスラリーと有機溶剤とを撹拌して、混合する。これにより、第1のスラリー中の含油スケールに含まれる油分が有機溶剤中に抽出される。
かかる抽出槽120では、微細スケールと水と有機溶剤が強攪拌されるため、上述したエマルジョン1が生成される。即ち、抽出槽120では、油分の抽出剤として、有機溶剤として例えばn−ヘキサンを使用して、含油スケールから油分を抽出する。n−ヘキサンは疎水性で親油性の液体であり、その比重は0.66g/cm3と水より小さく、沸点は69℃である。含油スケールに水分を添加して、スラリー状にし、このスラリーにn−ヘキサンを添加して、強撹拌すると、含油スケールの表面に付着している油分は、n−ヘキサン中に抽出される。かかる抽出後に、これら混合物を静置すると、下からスケール相、水相、ヘキサン相に分離されるが、このヘキサン相は、水(重液2)とヘキサン(軽液3)のW/O型エマルジョンからなる状態となり、水滴とヘキサンの界面に微細スケールが介在することにより、該W/O型エマルジョンは安定化してしまう。
また、抽出槽120において、含油スケールと水とが混合された第1のスラリーと、上記有機溶剤とを含む混合物を撹拌するときに、当該混合物の撹拌レイノルズ数(Re)を、500〜40000の範囲内とすることが好ましい。これにより、含油スケールの分散が十分に進み、効果的に油分を有機溶媒に抽出して、スケールから除去できる。撹拌レイノルズ数が500未満であれば、スケールからの油分除去率が低くなる。一方、撹拌レイノルズ数10000以上では、油分除去率の効果の上昇は小さくなる。
なお、図15に示すように、抽出槽120の撹拌機の回転数をn[s−1],当該撹拌機の幾何学的形状を、槽125の径D2[m],槽125内の液体の深さH2[m],撹拌翼122の径d2[m],当該撹拌翼122の幅b[m]であらわすと、撹拌レイノルズ数(Re)は、(2)式のようにあらわされる。
撹拌レイノルズ数(Re)=(n×d2 2×ρ)/μ (2)
ただし、ρ:混合液の密度(kg/m3)、μ:混合液の粘度(Pa・s)
固液分離装置130は、例えば液体サイクロンで構成され、処理対象物を固体と液体に分離する。固液分離装置130は、後段のエマルジョン破壊装置10に対して配管131を介して接続され、後段の有機溶剤除去装置150に対して配管132を介して接続されている。固液分離装置130には、抽出槽120から、上記油分を含む有機溶剤と第1のスラリーとの混合物が導入される。固液分離装置130は、比重差を利用して、当該混合物を、油分及び水を含有する有機溶剤(主に液体)と、スケールを含有する第2のスラリー(主に固体)とに分離する。
エマルジョン破壊装置10は、上述した各実施形態に係るエマルジョン破壊装置10で構成することができる。図13の例では、第5の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10(図12B参照。)が適用されているが、上述した第2〜第4の実施形態に係るエマルジョン1を適用してもよい。また、エマルジョン破壊装置10は、後段の蒸留装置140に対して配管133を介して接続され、前述の抽出槽120に対して配管134を介して接続されている。
エマルジョン破壊装置10は、固液分離装置130から、油分及び水を含有する有機溶剤(即ち、W/O型エマルジョン)が導入される。エマルジョン破壊装置10は、遠心力を用いて、当該有機溶剤中に含まれる水と有機溶剤とのエマルジョン1を破壊し、油分を含有する有機溶剤と、水とに分離する。詳細には、エマルジョン破壊装置10は、上述した回転体7の回転力により、回転体7内の水とヘキサンのW/O型エマルジョンに対して遠心力を作用させる。このとき、回転体7内で作用させる遠心力の遠心加速度を500G以上とすることが好ましい。
これにより、水滴とn−ヘキサンの界面に介在している微細スケールが好適に分離されるため、W/O型エマルジョンが破壊され、油分を含むヘキサン(軽液3)と、微細スケールを含む水(重液2)とに分離される。油分を含有する有機溶剤は、エマルジョン破壊装置10のセトラー20の上部排出口22から配管133を通じて蒸留装置140に排出される。一方、微細スケールを含む水は、エマルジョン破壊装置10のセトラー20の下部排出口23から配管134を通じて抽出槽120に排出される。
蒸留装置140は、モータ141と撹拌部材142を有する攪拌機を備える。蒸留装置140は、前述の抽出槽120に対して配管143、コンデンサー145及び配管146を介して接続されている。また、蒸留装置140の下端には、油分を排出するための配管144が接続されている。蒸留装置140には、エマルジョン破壊装置10から油分を含有する有機溶剤が導入される。蒸留装置140は、当該含油有機溶剤を蒸留して、有機溶剤(n−ヘキサン)と油分とに分離する。
コンデンサー145は、蒸留装置140の上部から配管143を通じて排出された有機溶剤(n−ヘキサン)を凝縮して液化する。このようにして回収及び再生された有機溶剤(n−ヘキサン)は配管146を通じて抽出槽120に供給されて、上記含油スケールから油分を抽出する抽出剤として再利用される。一方、蒸留装置140で分離された油分は、配管143を通じて外部に排出、回収される。
有機溶剤除去装置150は、モータ151と撹拌部材152を有する攪拌機を備える。蒸留装置140は、前述のコンデンサー145に対して配管154を介して接続されている。また、有機溶剤除去装置150の下端には、スケールを含有する第2のスラリーを排出するための配管144が接続されている。
有機溶剤除去装置150には、固液分離装置130から、スケールを含有する第2のスラリーが導入される。この第2のスラリーには、有機溶剤(n−ヘキサン)が例えば1〜5質量%含まれている。有機溶剤除去装置150は、当該第2のスラリー中に残存する有機溶剤を加温して揮発させ、配管154を通じてコンデンサー145に排出する。また、一方、有機溶剤除去装置150で有機溶剤が揮発された後の第2のスラリーに含まれるスケールは、スラリー状態のまま配管153を通じて外部に排出、回収される。このように有機溶剤除去装置150により有機溶剤(n−ヘキサン)を揮発分離した後のスケール中の油分は、初期の含油スケールと比べて大幅に低減されている。
以上、本実施形態に係る油分分離装置100と、これを用いて含油スケールから油分を分離する油分分離方法について説明した。
本実施形態によれば、抽出槽120による油分の抽出工程において、微細スケールの介在により安定化した水と親油性有機溶剤のエマルジョン1が生成される。このエマルジョン1を抽出槽120からエマルジョン破壊装置10に導入して、高速回転する回転体7の回転力により、例えば500G以上の遠心加速度を該エマルジョン1に作用させる。これにより、水と親油性有機溶剤の界面から微細スケールを除去して、効果的にエマルジョン1を破壊し、水と親油性有機溶剤に分離できる。さらに、エマルジョン破壊装置10により、エマルジョン1を、微細スケール及び水をほとんど含まない有機溶剤と、有機溶剤をほとんど含まない微細スケール及び水とに分離して排出できる。従って、当該有機溶剤と、微細スケール及び水とを好適に分離回収できる。
また、本実施形態に係る油分分離装置100に適用されたエマルジョン破壊装置10は、従来の遠心分離機と比べて、シンプルな装置構成であり、小型かつ安価である。従って、エマルジョン破壊装置10を適用することで、遠心分離機等の他の分離装置を用いる場合よりも、油分分離装置100の装置構成を簡素化、小型化及び安価にできる。
なお、油分分離装置100において上記水と親油性有機溶剤のエマルジョン1を破壊する際には、低遠心加速度(例えば100G未満)でも破壊可能である場合もある。従って、この場合には、上記第1の実施形態(図2A〜図2E)又は第5の実施形態(図12A)に係るシンプルな構造(主として回転体7)を具備するエマルジョン破壊装置10を用いることもできる。しかし、実際には、例えば100G以上の高遠心加速度が必要な場合が多い。この場合には、上記第2の実施形態(図9)、第3の実施形態(図10)、又は第4の実施形態(図11A〜図11D)、第5の実施形態(図12B、図12C)に係る特別な構造(上部孔77、下部孔78、環状堰79、仕切板9等)を具備するエマルジョン破壊装置10を使用することが好ましい。
また、従来の遠心分離機で処理対象物を遠心分離した場合、遠心分離機から排出される固形物(脱水ケーキ)はケーキ状になる。従って、上記油分分離装置100のエマルジョン破壊装置10に代えて遠心分離機を用いた場合、遠心分離機から排出されるスケールの脱水ケーキ中に残存する微量の有機溶剤を回収するためには、油分抽出プロセスにおいて、該脱水ケーキを再度スラリー化し、加熱する必要がある。従って、該スラリー化及び加熱処理の分だけ、処理工程数と、処理コスト及び装置コストが増加してしまう。これに対し、本実施形態に係る油分分離装置100では、有機溶剤除去装置150において、スケール及び微量の有機溶剤を含有する第2のスラリーを加熱して、有機溶剤を揮発させて除去し、スラリー状態のスケールを排出する。従って、上記脱水ケーキのような固体状のスケールではなく、スラリー状のスケールを回収することができる。
以下、本発明の実施例について詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
実施例1では、上述した第1の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10(図2A参照。)を用いて、エマルジョン1を破壊する試験を行った。本試験の条件と結果を表2に示す。
本試験では、回転体7の内径d1を56mm、回転体7の胴体71の高さHを100mm、回転体7の絞り部73の高さhを6mmとし、容器6内のエマルジョン1の容量を50リットルとした。かかるエマルジョン破壊装置10を用いて、エマルジョン破壊処理を回分処理で行った。まず、容器6内にエマルジョン1を投入した後に、回転体7を20秒回転させて、遠心力によるエマルジョン1の破壊処理を行った。その後、処理液を30秒間静置して相分離させ、容器6内のエマルジョン相率Eを測定した。エマルジョン相率Eが小さいほど、分散系液体のエマルジョン1を好適に破壊して、軽液3と重液2の相分離系液体に分離できたことになる。
表2に示すように、微細粒子4として酸化アルミニウム粉を用いた場合(実施例1−1、2)、1000rpm以下の低回転数であってもエマルジョン1を破壊でき、このときの遠心加速度は30Gであり、上記基準値である100G未満であった。これに対し、微細粒子4として含油スケールを用いた場合(実施例1−3〜7)、回転数を2000rpm以上の高回転数とすれば、エマルジョン1を破壊でき、このときの遠心加速度は250〜2000Gであり、上記基準値である100G以上であった。
実施例1−3と1−4の比較結果から分かるように、回転体7の回転数が大きいほど、つまり、遠心加速度が大きいほど、エマルジョン相率Eが小さくなり、エマルジョン1を効果的に破壊できるといえる。しかし、実施例1−4と1−5の比較結果や、実施例1−6と1−7の比較結果から分かるように、回転体7の回転数及び遠心加速度が大きすぎると、回転体7の外側でエマルジョン1の再生成が生じるため、却ってエマルジョン相率Eが小さくなるといえる。
[実施例2]
実施例2では、上述した第2の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10(図9参照。)を用いて、エマルジョン1を破壊する試験を行った。第2の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10は、回転体7に上部孔78と下部孔77を設けたことを特徴としている。本試験の条件と結果を表3に示す。なお、実施例2のその他の試験条件については、上記実施例1と同様である。
表3に示す実施例2−1〜5と、上記表2に示す実施例1−1〜5との比較結果から分かるように、実施例2において回転体7に上部孔78と下部孔77を設けることにより、実施例1よりもエマルジョン相率Eが低下しており、エマルジョン1の破壊効果がさらに向上されている。これにより、上部孔78と下部孔77により回転体7内の重液2と軽液3を分離して回転体7外に排出する効果が実証されたといえる。
[実施例3]
実施例3では、上述した第3の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10(図10参照。)を用いて、エマルジョン1を破壊する試験を行った。第3の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10は、回転体7に上部孔78と下部孔77に加えて環状堰79を設けたことを特徴としている。本試験の条件と結果を表4に示す。なお、実施例3のその他の試験条件については、上記実施例1と同様である。
表4に示す実施例3−1〜5と、上記表3に示す実施例2−1〜5との比較結果から分かるように、実施例3において回転体7に上部孔78と下部孔77に加えて環状堰79を設けることにより、実施例2よりもさらにエマルジョン相率Eが低下しており、エマルジョン1の破壊効果がさらに向上されている。これにより、環状堰79により回転体7内の重液2と軽液3を分離して上部孔78と下部孔77から回転体7外に排出する効果が実証されたといえる。
[実施例4]
実施例4では、上述した第4の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10(図11A参照。)を用いて、エマルジョン1を破壊する試験を行った。図11Aに示す第4の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10は、上記第3の実施形態(図10参照。)の構成に加え、さらに、回転体7の外側に水平な仕切板9を設けたことを特徴としている。本試験の条件と結果を表5に示す。なお、実施例4のその他の試験条件については、上記実施例1と同様である。
表5に示す実施例4−1〜5と、上記表4に示す実施例3−1〜5との比較結果から分かるように、実施例4において回転体7の外側に水平な仕切板9を設けることにより、実施例3よりもエマルジョン相率Eが低下しており、エマルジョン1の破壊効果がさらに向上されている。これにより、水平な仕切板9により回転体7の外部の領域の重液2と軽液3を区分して、エマルジョン1の再生成を防止する効果が実証されたといえる。
[実施例5]
実施例5では、上述した第4の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10(図11B参照。)を用いて、エマルジョン1を破壊する試験を行った。図11Bに示す第4の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10は、上記第3の実施形態(図10参照。)の構成に加え、さらに、回転体7の外側に、傾斜した仕切板9を設けたことを特徴としている。本試験の条件と結果を表6に示す。なお、実施例5のその他の試験条件については、上記実施例1と同様である。
表6に示す実施例5−1、5−3〜5と、上記表5に示す実施例4−1、4−3〜5との比較結果から分かるように、実施例5において回転体7の外側に水平な仕切板9を設けることにより、実施例4よりもエマルジョン相率Eが低下しており、エマルジョン1の破壊効果がさらに向上されている。これにより、仕切板9を傾斜配置することにより、回転体7の外部の領域の重液2と軽液3を区分して、エマルジョン1の再生成を防止する効果が実証されたといえる。
[実施例6]
実施例6では、上述した第5の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10(図12B参照。)を用いて、エマルジョン1を破壊する試験を行った。図12Bに示す第5の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10は、上記第4の実施形態(図11D参照。)の構成に加え、さらに、セトラー20を設けたことを特徴としている。本試験の条件と結果を表7に示す。
本試験では、回転体7の内径d1を56mm、回転体7の胴体71の高さHを100mm、回転体7の絞り部73の高さhを6mmとし、容器6内のエマルジョン1の容量を50リットルとした。また、セトラー20の直径を300mm、高さを600mmとした。かかるエマルジョン破壊装置10を用いて、エマルジョン破壊処理を連続処理で行った。
まず、容器6内にエマルジョン1を連続投入(10リットル/分)し、回転体7を連続回転させて、遠心力によるエマルジョン1の破壊処理を行った。その後、処理液をセトラー20に投入し、比重差を用いて処理液を分離した。セトラー内のサンプルを採取し、セトラー20内のエマルジョン相率Eを測定した。また、セトラー20から排出された軽液3中のSS濃度(浮遊物質濃度)を測定した。なお、実施例6−1〜5において、セトラーから排出された軽液3中のSS濃度は、ほぼゼロであり、透明であった。
表7に示すように、実施例6に係るエマルジョン破壊装置10(図12B参照。)を用いて、エマルジョン1を連続的に破壊する処理を行った場合でも、エマルジョン1を好適に破壊して、エマルジョン相率Eを低減できた。実施例6−1〜5と、上記表6に示す実施例5−1〜5等との比較結果から分かるように、実施例6において連続処理を行うためにセトラー20を用いることにより、回分処理の実施例5と同定若しくはそれ以上にエマルジョン相率Eが低下している。これにより、エマルジョン破壊装置10により連続的にエマルジョン1を破壊する場合でも、セトラー20により処理液を重液2と軽液3に分離する効果が実証されたといえる。
[実施例7]
実施例7では、上述した第5の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10(図12C参照。)を用いて、エマルジョン1を破壊する試験を行った。図12Cに示す第5の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10は、上記第4の実施形態(図11B参照。)の構成に加え、さらに、セトラー20を設けたことを特徴としている。本試験の条件と結果を表8に示す。
本試験では、回転体7の内径d1を56mm、回転体7の胴体71の高さHを100mm、回転体7の絞り部73の高さhを6mmとし、容器6内のエマルジョン1の容量を50リットルとした。また、セトラー20の直径を300mm、高さを600mmとした。かかるエマルジョン破壊装置10を用いて、エマルジョン破壊処理を回分処理で行った。
まず、容器6内にエマルジョン1を連続投入(10リットル/分)しながら、回転体7により生じる遠心加速度が1000Gとなるように回転数を制御して、回転体7を30秒間に渡って回転させることにより、1000Gの遠心加速度の遠心力を作用させてエマルジョン1の破壊処理を行った。その後、回転体7の回転数を低下させ、遠心加速度を30Gまで低下させた後に、再度、回転体7の回転数を上昇させ、遠心加速度を1000Gに到達させた。このような回転数及び遠心加速度の増減制御を繰り返し行った。かかるエマルジョン1の破壊処理中は、容器6内の処理液をセトラー20に投入し、比重差を用いて処理液を分離した。
そして、セトラー20内のサンプルを採取し、セトラー20内のエマルジョン相率Eを測定した。また、セトラー20から排出された軽液3中のSS濃度を測定した。なお、実施例7−1において、セトラーから排出された軽液3中のSS濃度は、ほぼゼロであり、透明であった。
表8に示すように、実施例7に係るエマルジョン破壊装置10(図12C参照。)を用いて、回転体7の回転数を定期的に増減させながら、回分処理でエマルジョン1を破壊する処理を行った場合でも、エマルジョン1を好適に破壊して、エマルジョン相率Eを十分に低減できる効果と、セトラー20により処理液を重液2と軽液3に分離する効果が実証されたといえる。また、回転体7の回転数を低下させたときには、回転体7の内周面付近の領域76に堆積した微細粒子4を回転体7外に排出することが可能であった。
[比較例]
前述した実施例1〜7の比較例として、図14A又は図14Bに示すエマルジョン破壊装置10を用いて、エマルジョン1を破壊する試験を行った。比較例に係るエマルジョン破壊装置10は、絞り部73が設けられていない回転体70を使用し、回転体70の内周面付近の領域76にエマルジョン1を保持しにくい構造となっている。なお、比較例のその他の試験条件については、上記実施例1と同様である。
表9に示す比較例8−1〜5と、上記表2に示す実施例1−1〜5との比較結果から分かるように、比較例では、エマルジョン相率Eが93Vol−%と非常に高く、エマルジョン1をほとんど破壊できていない。この理由は、比較例の回転体70に絞り部73が設けられていないため、回転体70の内周面付近の領域76にエマルジョン1を保持しにくく、該領域76にエマルジョン1を必要な作用時間(例えば1秒以上)だけ滞留させることができないからでると考えられる。これに対し、実施例1では、比較例よりもエマルジョン相率Eが大幅に低下しており、回転体7に絞り部73を設けることで、エマルジョン1の破壊効果に優れることが実証されたといえる。他の実施例2〜7についても同様である。
[実施例8]
実施例8では、上述した油分分離装置100(図13参照。)を用いて、含油スケールから油分を分離する試験を行った。
油分を分離する際には、まず、スラリー化槽110により予めスラリー化した含油スケール(表10参照。)を、約8リットル/分で抽出槽120(容量;50リットル)に連続投入した。抽出槽120では、油分の抽出剤(親油性有機溶剤)としてn−ヘキサンを使用し、含油スケールと水とが混合されたスラリーと、n−ヘキサンとを含む混合物を撹拌した。このときの混合物の撹拌レイノルズ数(Re)は約3200であり、抽出槽120における含油スケールのスラリーの滞留時間は、約3分であった。
次いで、抽出槽120で強撹拌された、含油スケールとn−ヘキサンの混合物は、液体サイクロン(固液分離装置130)に導入した。液体サイクロンでは、遠心力により、n−ヘキサンと第1のスラリーとの混合物を分離した。このとき、混合物に作用する遠心力の遠心加速度が約250Gになるように、液体サイクロンのサイズを選択した。そして、液体サイクロン下部からスケールと水と少量のn−ヘキサンが混合した第2のスラリーを回収し、液体サイクロン上部からn−ヘキサンと水と微細スケールからなるエマルジョン1を回収した。
次いで、当該エマルジョン1をエマルジョンブレイカーに送液し、回転体7内で発生する遠心力により、n−ヘキサン相中に浮遊している微細スケールを分離し、エマルジョン1を破壊(解乳化)した。このとき、エマルジョン破壊装置10の回転体7内で発生する遠心力の遠心加速度は、1800Gであった。この結果、エマルジョン破壊装置10のセトラー20で分離した含油n−ヘキサン相中には、ほとんどSS成分は含まれていなかった。
エマルジョン破壊装置10により分離された含油n−ヘキサンを回収し、蒸留装置140に送液した。蒸留装置140では、含油n−ヘキサンを98℃に加熱し、n−ヘキサン成分を揮発させ、油分とn−ヘキサンを分離した。そして、蒸留装置140で揮発したn−ヘキサンを、コンデンサー145により液化した後に、抽出槽120に再度投入した。一方、蒸留装置140で分離された油分は系外へ排出した。上記セトラー20でSS成分をほとんど分離しているため、蒸留装置140で分離回収された油分中にもほとんどSS成分は含まれておらず、別のプラントで該油分を燃料代替として十分に使用することができた。
一方、上記の液体サイクロンの下部から回収した第2のスラリーを、有機溶剤除去装置150に送液した。該有機溶剤除去装置150内で第2のスラリーを98℃まで加温し、スラリー中に約2質量%で含有されているn−ヘキサンを蒸発させて除去した。n−ヘキサンが除去されたスラリーは、系外へ排出され、不図示の脱水機で脱水して、脱油スケールを得た。
上記の油分抽出プロセスにおいて、エマルジョン破壊装置10内の処理液を採取し、エマルジョン相率Eを測定したところ、26vol−%であり、十分にエマルジョン1を破壊できていた。また、有機溶剤除去装置150から回収された脱油スケール中の油分の濃度を測定したところ、平均で0.39質量%であり、スケールから油分を十分に除去できていた。
[実施例9]
実施例9では、上記第1の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10(図2B参照。)を用いて、回転体7の絞り部73の高さhを変化させたときの、回転体7の内周面付近の領域76における液体の流速を、流体シミュレーションによって計算し、緩速領域(鉛直方向の流速が0.2m/秒以下)の有無を調べた。回転体7の内径d1を200mm、回転体7の回転数を3820rpm、容器6内のエマルジョン1の容量を785リットルとした。また、軽液3としてn−ヘキサン、重液2として水、微細粒子4として実施例1で用いた含油スケールを激しく混合して生じるエマルジョン1をエマルジョン破壊装置10の処理対象とした。本試験の条件と結果を表11に示す。
表11に示すように、h/Hが5.7%以上であれば、回転体7の内周面付近の領域76において、液体の鉛直方向の流速が−0.2〜+0.2m/秒となる緩速領域が生成されることが分かった。従って、h/Hが、少なくとも3.0%以上でないと、回転体7の内周面付近の領域76に、エマルジョン1を破壊するために必要な緩速領域を維持できないことが実証されたといえる。
[実施例10]
実施例10では、上記第1の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10(図2B参照。)を用いて、エマルジョン1を破壊する回分試験を行ない、回転体7の回転数及び遠心加速度と、エマルジョン相率Eとの関係を求めた。まず、容器6内にエマルジョン1を投入した後に、回転体7を20秒回転させて、遠心力によるエマルジョン1の破壊処理を行った。その後、処理液を30秒間静置して相分離させ、容器6内のエマルジョン相率Eを測定した。回転体7の内径d1を200mm、回転体7の胴体71の高さHを300mm、回転体7の絞り部73の高さhを40mmとし、容器6内のエマルジョン1の容量を785リットルとした。本試験の条件と結果を表11に示す。
表12に示すように、回転体7により発生する遠心加速度が、102G以上になると、高速回転する回転体7の外側の領域で、エマルジョン1が激しく流動して、乱流となり、エマルジョン相率が上昇することが分かった。従って、回転体7により発生する遠心加速度が100G以上である場合には、前述した第2〜第4の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10のように、回転体7の外側の領域において乱流によるエマルジョン1の再生成を抑制するための手段を講じる必要があることが実証されたといえる。また、該遠心加速度が少なくとも83G以下である場合には、前述した第1の実施形態に係るエマルジョン破壊装置10のように、シンプルな構造の回転体7を使用したとしても、回転体7の外側の領域において乱流やエマルジョン1の再生成が生じ難いことが実証されたともいえる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。