JP7334764B2 - 機械構造用部品およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、建産機や自動車分野で用いられる機械構造用材料に供する、表層に浸炭層を有する浸炭鋼、特に浸炭時の表層部セメンタイト生成が抑制された浸炭鋼およびその製造方法に関するものである。本発明の浸炭鋼が用いられる機械構造用部品として、建産機分野では、例えば、走行減速機のギア(プラネタリーギアおよびサンギア等の歯車)、大型減速機のギア、油圧ポンプのバルブプレート、ボールねじのナット、サイクロン減速機の曲線板およびピン、並びに、直動軸受けのブロック等が挙げられ、同様に、自動車分野では、各種軸受、エンジンのピストンピン、カムシャフトおよびタイミングギア、変速機の歯車類(ミッシングギア、リングギア、サンギアおよびプラネリタギア等)、並びに、駆動系のデフベベルギア、トリポート、インナおよびボール等が挙げられる。また、建産機や自動車分野以外では、電気機器分野の風力発電機用の軸受や減速ギア等がある。
冷間鍛造は、ニアネットシェイプ成形が可能なため、熱間鍛造と比較して鍛造後の切削量を低減でき、歩留まり低下を抑制可能な利点がある。また、浸炭焼入れ焼戻し処理は、鋼部品の疲労特性を向上させる熱処理であり、自動車用の歯車をはじめとし様々な部品に適用されている。中でも真空浸炭は、減圧下にあるバッチ炉内に浸炭用ガス(アセチレンガスやエチレンガス)を導入し、該浸炭用ガスが炭素の供給源となり部品表面より内部へと炭素を浸透拡散させる手法である。この真空浸炭は、部品の特にエッジ部において浸炭が過剰になってセメンタイトの生成を招くことが課題として残るが、表層の粒界酸化を抑制可能な点で有利である。
例えば、特許文献1では、鋼のSi添加量を高めるとともにCr添加量を低くすることにより、部品のエッジ部における過剰浸炭(セメンタイト生成)を抑制可能な真空浸炭用鋼が提案されている。また、特許文献2では、浸炭期において炭化水素ガスのパルスを1回導入し、鋼材の表面における炭素濃度がAcm線に相当する炭素濃度を超えた後、鋼材の表面における炭素濃度がAcm線に相当する炭素濃度未満となってから、次のパルスを導入することにより、粗大なセメンタイトの生成を抑制可能な、高濃度浸炭鋼の製造方法が提案されている。さらに、特許文献3では、鋼のN添加量とNb添加量を高め、熱間鍛造後に析出熱処理を施すことにより、減圧浸炭の処理温度を高温化しても結晶粒粗大化を抑制可能であり、高温化にともなう浸炭時間の短縮が可能な鍛造部品の製造方法が提案されている。
特開2019-7063号公報 特許第6497208号公報 特許第6148995号公報
近年、部品の価格競争はますます激しくなってきており、熱間鍛造よりも低コストである冷間鍛造での部品製造ニーズが強い。加えて、部品性能向上の点から、真空浸炭時の過剰浸炭(セメンタイト生成)抑制についても要求が高まっている。
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、過剰浸炭抑制のために、鋼のSi添加量を高めたため、冷間鍛造性が低下し、冷間鍛造の適用が困難であることが問題であった。また、特許文献2に記載の技術では、浸炭期において炭化水素ガスのパルスを導入後、Cの拡散を待つ時間が発生するため、熱処理時間が増大することが問題であった。さらに、特許文献3に記載の技術では、熱間鍛造部品の高温浸炭化による浸炭時間の短縮が可能であるが、当該技術を冷間鍛造部品に適用しても浸炭時結晶粒粗大化が抑制できないことが問題であった。
本発明は、上記の実情に鑑み開発されたものであり、冷間鍛造での成形が可能であり、真空浸炭時の表層部におけるセメンタイトの生成が抑制された、浸炭鋼およびその製造方法について提案することを目的とする。
発明者らは、上記の目的を達成すべく、冷間鍛造性に及ぼす合金元素の影響と真空浸炭時の表層部のセメンタイト生成について鋭意研究した結果、冷間鍛造性に優れ、真空浸炭時の表層部のセメンタイト生成が抑制された浸炭鋼およびその製造方法を完成するに到った。すなわち、本発明の要旨は、次のとおりである。
1.C:0.10~0.35質量%、
Si:0.50質量%以下、
Mn:0.30~1.50質量%、
Cr:1.10~2.00質量%、
P:0.02質量%以下、
S:0.05質量%以下、
Al:0.01~0.05質量%および
N:0.030質量%以下
を含み、残部はFe及び不可避的不純物である成分組成を有し、
表面から深さ0.05mm位置におけるセメンタイト分率が5%以下、表面からの深さ0.05mm位置における硬度がHV600以上、表面からの深さ0.05mm位置におけるオーステナイト粒径が粒度5番以上、および、表面からの深さ0.10mm位置における硬度がHV650以上である浸炭鋼。
2.前記鋼の成分組成はさらに、
Mo:1質量%以下、
Cu:1質量%以下、
Ni:1質量%以下および
B:0.01質量%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する前記1に記載の浸炭鋼。
3.前記鋼の成分組成はさらに、
Nb:0.1質量%以下、
Ti:0.1質量%以下および
V:0.1質量%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する前記1または2に記載の浸炭鋼。
4.前記成分組成はさらに、
Sn:0.1質量%以下および
Sb:0.1質量%以下
のうちから選ばれる1種または2種を含有する前記1から3のいずれかに記載の浸炭鋼。
5.前記成分組成はさらに、
Se:0.3質量%以下、
Ca:0.1質量%以下、
Pb:0.3質量%以下および
Bi:0.3質量%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する前記1から4のいずれかに記載の浸炭鋼。
6.部品形状を有する前記1から5のいずれかに記載の浸炭鋼。
7.前記1から5のいずれかに記載の成分組成を有する鋼素材に、浸炭期温度Tc(℃)および拡散期温度Td (℃)が次式(1)および(2)を満足する真空浸炭処理を施す、浸炭鋼の製造方法。
Tc+22×([Cr]-0.8)≦Td≦1100 ・・・(1)
Tc≦1000 ・・・(2)
ここで、[Cr]:鋼中Cr濃度(質量%)
本発明によれば、冷間鍛造性に優れ、真空浸炭時の表層部セメンタイト生成が抑制された浸炭鋼を提供することができ、工業上非常に有用である。
以下、本発明を具体的に説明する。すなわち、本発明の浸炭鋼は、所定の成分組成並びに表層部組織を有するものであり、成分組成から順に詳述する。
C:0.10~0.35質量%
Cは、浸炭後の中心部硬度を高めるために、0.10質量%以上を必要とする。一方、含有量が0.35質量%を超えると、圧延材の硬度が上昇し、冷間加工時の荷重増大により鍛造金型寿命の低下を招くため、C量は0.10~0.35質量%の範囲に限定した。好ましくは、0.15~0.30質量%の範囲である。
Si:0.50質量%以下
Siは、脱酸剤としての作用を持つが、Alが添加されていれば、必ずしも必要ではない合金元素である。Siは鋼を固溶強化させ圧延材硬度を高めて、冷間鍛造時の金型寿命を低下させる作用があるため、上限を0.50質量%に限定する。好ましくは0.15質量%以下であり、さらに好ましくは0.10質量%以下である。なお、Siは0質量%であっても良いことは勿論であるが、0.001質量%未満まで低減するには、多大な精錬コストを要するため、0.001質量%以上の含有は許容される。
Mn:0.30~1.50質量%
Mnは、焼入れ性を向上させ、浸炭後の硬度を上昇させる作用を持つ。この作用を得るためには、少なくとも0.30質量%の添加を必要とする。しかし、Mnの過剰な添加は、圧延材の硬度を上昇させ冷間鍛造時の金型寿命低下を招くため、上限を1.50質量%とした。好ましくは、0.35~0.65質量%である。
Cr:1.10~2.00質量%
Crは、焼入れ性を向上させ、浸炭後の硬度を上昇させる作用を持つ。この作用を得るためには、少なくとも1.10質量%の添加を必要とする。Crも、SiやMnと同様に圧延材の硬度を上昇させる作用があるが、SiやMnと比較して、その作用は小さい。すなわち、十分な焼入れ性と低い圧延材硬度を得るためには、Si、Mnを低減し、Crを増大させる設計が有効である。しかしながら、過剰なCr添加は、鋼中におけるセメンタイトの安定性を増大させ、真空浸炭後のセメンタイト分率を増大させて疲労特性低下を招くことから、上限を2.00質量%に規定する。好ましくは、1.20~1.80質量%の範囲である。
P:0.02質量%以下
Pは、結晶粒界に偏析し、靭性を低下させるため、その混入は低いほど望ましいが、0.02質量%までは許容される。また、下限については特に限定せずとも問題はないが、過剰な低P化は精錬時間の増長や精錬コストを上昇させてしまうため、0.001質量%以上とするとよい。
S:0.05質量%以下
Sは、硫化物系介在物として存在し、被削性の向上に有効な元素であり、そのためには0.001質量%以上で添加することが好ましい。しかし、過剰な添加は冷間加工性の低下を招くため、上限を0.05質量%とした。また、下限については特に限定しないが、過度の低S化は精錬コストを上昇させてしまうため、0.001質量%以上とするとよい。好ましくは0.005~0.03質量%であり、さらに好ましくは0.005~0.02質量%である。
Al:0.01~0.05質量%
Alは、酸化物を形成し脱酸に有効な元素であるとともに粗大な酸化物系介在物の生成を抑止する作用を有するが、含有量が0.01質量%に満たないと、その添加効果に乏しい。しかし、過剰な添加は介在物の増加を招き、疲労破壊の起点を増やし、低疲労強度の原因となることから、上限を0.05質量%とした。好ましくは、0.015~0.035質量%である。
N:0.030質量%以下
Nの過剰な添加は鋳造後の鋼片表面割れを招くため、0.030質量%を上限とする。下限については特に限定しないが、過度の低N化は精錬コストを上昇させてしまうため、0.0010質量%以上とするとよい。好ましくは、0.0030~0.0180質量%である。
以上、本発明の基本成分について説明したが、本発明では、必要に応じて、更に、以下に示す各成分を適宜添加することが可能である。
Mo:1質量%以下、
Cu:1質量%以下、
Ni:1質量%以下および
B:0.01質量%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上
Mo:1質量%以下
Moは、焼入れ性を向上させ、浸炭後硬度を上昇させる作用を持つ。しかし、含有量が1質量%を超えると、焼入性が過剰となり、圧延後の硬度が上昇し、加工性や被削性が低下する懸念がある。そのため、Mo含有量は1質量%以下の範囲に制限することが好ましい。なお、Moによる鋼材強度の向上効果を発現させるためには、Moは0.005質量%以上で含有されることが好ましい。さらに好ましくは、0.03~0.50質量%の範囲である。より好ましくは、0.05~0.25質量%である。
Cu:1質量%以下
Cuは、焼入れ性を向上させ、浸炭後硬度を上昇させる作用を持つ。この効果を得るためには、Cuは0.01質量%以上で含有されることが好ましい。一方、Cu含有量が1質量%を超えると、圧延材の表面肌が荒れてしまい、疵として残存する懸念がある。そこで、Cu量は1質量%以下の範囲に限定することが好ましい。より好ましくは0.015~0.5質量%の範囲である。更に好ましくは0.03~0.3質量%である。
Ni:1質量%以下
Niは、靱性の向上に有用な元素である。これらの効果を得るためには、Niは0.01質量%以上で含有されることが好ましい。一方、1質量%を超えて含有されても、上記の効果が飽和する。よって、Ni含有量は1質量%以下の範囲に限定することが好ましい。より好ましくは0.015~0.5質量%の範囲である。更に好ましくは0.03~0.3質量%である。
B:0.01質量%以下
Bは、粒界に偏析し、拡散型変態を抑制することで、焼入性の向上に有効であり、加えて粒界を強化し、疲労亀裂の発生および進展を抑制し疲労強度を向上させる効果もある。Bによるこの効果を得るためには、0.0003質量%以上でBを含有させることが好ましい。一方、0.01%を超えると、靱性が低下するため、B量は0.01質量%以下の範囲に限定することが好ましい。より好ましくは、0.0005~0.005質量%の範囲である。更に好ましくは0.0007~0.002質量%である。
以上の成分に加え、必要に応じて、更に、以下に示す各成分を適宜添加することが可能である。
Nb:0.1質量%以下、
Ti:0.1質量%以下および
V:0.1質量%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上
Nb:0.1質量%以下
Nbは、炭素や窒素と結合し、微細析出物を形成する作用により、浸炭時の結晶粒成長を抑制し結晶粒微細化効果がある。しかし、0.1質量%を超えて添加しても、その効果は飽和するのみであるため、Nb含有量は0.1質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.005~0.08質量%である。さらに好ましくは、0.01~0.06質量%である。
Ti:0.1質量%以下
Tiは、炭素や窒素と結合し、微細析出物を形成する作用により、浸炭時の結晶粒成長を抑制し結晶粒微細化効果がある。しかし、0.1質量%を超えて添加しても、その効果は飽和するのみであるため、Ti含有量は0.1質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.005~0.08質量%である。さらに好ましくは、0.01~0.06質量%である。
V:0.1質量%以下
Vは、炭素や窒素と結合し、微細析出物を形成する作用により、浸炭時の結晶粒成長を抑制し結晶粒微細化効果がある。しかし、0.1質量%を超えて添加しても、その効果は飽和するのみであるため、V含有量は0.1質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.005~0.08質量%である。さらに好ましくは、0.01~0.06質量%である。
以上の成分に加え、必要に応じて、更に、以下に示す各成分を適宜添加することが可能である。
Sn:0.1質量%以下および
Sb:0.1質量%以下
のうちから選ばれる1種または2種
Sn:0.1質量%以下
Snは、鋼材表面の耐食性を向上させるために有効な元素である。耐食性向上の観点からは、Snは0.003質量%以上含有させることが好ましい。一方、過剰な添加は加工性を劣化させることから、Snの含有量は0.1質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.0010~0.050質量%であり、更に好ましくは、0.0015~0.035質量%である。
Sb:0.1質量%以下
Sbは、鋼材表面の脱炭を抑制し、表面硬度の低下を防止するために有効な元素である。この効果を発現させるためには、Sbは0.0003質量%以上含有させることが好ましい。一方、過剰な添加は加工性を劣化させることから、Sbの含有量は0.1質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.001~0.05質量%であり、更に好ましくは、0.0015~0.035質量%である。
以上の成分に加え、必要に応じて、更に、以下に示す各成分を適宜添加することが可能である。
Se:0.3質量%以下、
Ca:0.1質量%以下、
Pb:0.3質量%以下および
Bi:0.3質量%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上
Se:0.3質量%以下
Seは、MnやCuと結合し、鋼中に析出物として分散することで被削性を向上させる。この効果を得るためには、少なくとも0.001質量%以上でSeを添加することが好ましい。一方、0.3質量%を超えて添加しても、効果は飽和する。このため、Se含有量は0.3質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.005~0.1質量%である。さらに好ましくは、0.008~0.09質量%である。
Ca:0.1質量%以下
Caは、Sと結合し、鋼中に硫化物として分散することで被削性を向上させる。この効果を得るためには、少なくとも0.0005質量%以上でCaを添加することが好ましい。一方、0.1質量%を超えて添加しても、効果は飽和する。このため、Ca含有量は0.1質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.0010~0.0500質量%である。さらに好ましくは、0.0015~0.0300質量%である。
Pb:0.3質量%以下
Bi:0.3質量%以下
PbおよびBiは、切削時の切屑を微細化する効果があり、切屑処理性を向上させる場合、これらの元素添加が有効である。この効果を得るために、PbおよびBiは0.01質量%以上の添加が好ましい。しかしながら、これらの元素を過度に添加しても切屑処理性の向上効果は飽和する。従って、合金コスト上昇を抑えるため、PbおよびBi量の上限値を0.3質量%とする。より好ましいPb量およびBi量は0.01~0.2質量%、更には0.01~0.1質量%である。
以上説明した元素以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
また、本発明の浸炭鋼は、次の条件を満足する表層を有する。
表面から深さ0.05mm位置におけるセメンタイト分率が5%以下
浸炭後の最表面側の表層にセメンタイトが存在すると、疲労破壊を促進させ、浸炭鋼(部品)の早期破壊を招く要因となる。従って、浸炭鋼(部品)の早期破壊を抑えるため、表面から深さ0.05mm位置におけるセメンタイトの分率(面積率)を5%以下とする。好ましくは3%以下であり、より好ましくは1.5%以下である。勿論、0%であってもよい。
なお、表層においてセメンタイトの残部は、マルテンサイト、ベイナイト、残留オーステナイト、パーライトで構成される。好ましくは残留オーステナイトが35%以下、パーライトが15%以下である。
表面からの深さ0.05mm位置における硬度がHV600以上
浸炭では、最表層の硬度を上昇させる効果により疲労強度が向上する。すなわち、最表層の硬度が不足した場合、疲労特性の向上効果が得られない。疲労強度の向上には、表面から深さ0.05mm位置における硬度がHV600以上である必要がある。より好ましくはHV650以上である。
表面からの深さ0.10mm位置における硬度がHV650以上
上記した深さ0.05mm位置の硬度に加えて、深さ0.10mm位置の硬度も疲労強度に影響する。すなわち、疲労強度の向上には、表面から深さ0.10mm位置における硬度がHV650以上である必要がある。
表面からの深さ0.05mm位置におけるオーステナイト粒径が粒度5番以上
浸炭後の旧オーステナイト粒径は疲労き裂の進展に影響する。粒径が粗大になると疲労特性が低下するが、これを抑制するためには、粒度5番以上の細粒が適切である。すなわち、粒度5番未満では、疲労特性が著しく低下する。より好ましくは粒度6番以上である。
次に、浸炭鋼の製造方法について、説明する。すなわち、上記した成分組成を有する棒鋼または線材を小切り切断した後、冷間鍛造を行って、所望の部品形状に成形する。その後、部品形状の冷間鍛造材に、浸炭処理を施して浸炭鋼とする。かかる冷間鍛造より前に熱間鍛造を追加してもよい。また、浸炭処理より前のいずれかの段階で部品の一部に切削加工を施してもよい。
[真空浸炭処理]
上記の浸炭処理は真空浸炭とし、次に示す条件にて行うことが、特に、上記した表層組織を得るために重要である。すなわち、真空浸炭における浸炭期温度Tc(℃)と拡散期温度Td (℃)が下記式(1)および下記式(2)を満足することである。なお、浸炭期温度Tcとは浸炭炉内に浸炭ガスを導入する期間の温度であり、および拡散期温度Tdとは鋼の表層において高濃度となっている炭素を内部へと浸透させる期間の温度である。TcとTdは必要な浸炭深さを考慮して決定するが、過剰セメンタイトの生成および旧オーステナイト粒度の低下を抑止するためには、下記式(1)および下記式(2)を満足する必要がある。
Tc+22×([Cr]-0.8)≦Td≦1100 ・・・(1)
Tc≦1000 ・・・(2)
ここで、[Cr]:鋼中Cr濃度(質量%)
真空浸炭後の鋼には、表層から内部へかけての炭素濃度分布に従う硬度分布が存在する。特に、表層は最も炭素濃度が高く、硬度が高い。この高い表層硬度が疲労特性向上に資するが、表層硬度が高いのみでは十分な疲労特性が得られない。例えばガス浸炭では、表面の粒界酸化が疲労破壊の起点となり十分な疲労特性が発揮されない場合がある。その点、真空浸炭では粒界酸化は抑制されるため、疲労特性に有利である。
しかしながら、真空浸炭では、過剰浸炭によりセメンタイトが生成しやすくなり、これが疲労破壊の起点となる場合がある。このセメンタイト生成は、Crの添加量が増大し、Siの添加量が減少するほど促進される。一方で、鋼の高Cr化および低Si化は、冷間鍛造性を向上させるために有効な手段であるため、高Cr化および低Si化を図ることが望まれる。そこで、真空浸炭においてセメンタイト生成を抑制する手段として有効である、拡散期の温度を浸炭期の温度より上昇させることに関して鋭意検討したところ、その上昇量をCr添加量に応じて適切に設定することによって、鋼の高Cr化とセメンタイトの生成抑制とを両立できることを見出すに到った。
すなわち、浸炭期の温度を拡散期と同等に高い温度とすると、セメンタイト生成抑制の観点からは特に問題はないが、浸炭期と拡散期との合計の時間だけ、高い温度で保持されることになるため、結晶粒が成長しやすくなり、粒度番号5番以上のオーステナイト粒径を得る上で不利となる。よって、浸炭期の温度に上限を設け、すなわち、浸炭期温度を1000℃以下として、浸炭期のオーステナイト粒成長の抑制を図ることとした。さらに、浸炭期に生成する過剰セメンタイトは、拡散期で消失させるべく拡散期の温度に下限を設けることとした。ここで、拡散期温度の下限は、セメンタイトの生成に影響を及ぼす浸炭期温度と鋼中のCr含有量に応じて変化するであろうことを考慮して検討を進めた結果、浸炭期温度Tcと拡散期温度Tdとが
Tc+22×([Cr]-0.8)≦Td
を満足すれば、過剰セメンタイトの生成は抑制できることがわかった。
また、拡散期に鋼が到達する最高温度が高すぎると、拡散期にオーステナイト粒の粒成長が起こるため、拡散期温度Tdの上限を1100℃とした。
以上の理由から、浸炭期の温度および拡散期の温度は、上記式(1)および(2)を満足させる必要がある。なお、拡散期の時間が長すぎると、オーステナイト粒の粒成長が生ずる懸念があるため、拡散期の時間は9時間以内とすることが好ましい。
さらに、浸炭期の温度および保持時間、ならびに拡散期の温度および保持時間は、所望の浸炭深さに応じて適宜設定できる。ただし、過剰な浸炭期の高温化および長時間化、ならびに拡散期の長時間化は結晶粒の成長を招き、浸炭後のオーステナイト粒度を増大させる懸念がある。この点から、浸炭期の温度は1000℃以下とする。880~1000℃で保持時間は9時間以内とすることが好ましい。
また、真空浸炭において上記した以外の条件は特に限定する必要はないが、以下に従って真空浸炭を行うことが好ましい。すなわち、浸炭ガスはアセチレンまたはエチレンとし、炉内は10kPa以下に減圧し、適切な撹拌にて炉内雰囲気を均一化するとよい。
上述した成分組成および浸炭条件、すなわち、式(1)および(2)を満たす条件にて、真空浸炭を行った浸炭鋼は、疲労破壊の起点となる表面の粒界酸化が抑制されており、かつ、表層のセメンタイト分率を低く抑えられ、さらに、旧オーステナイト粒径も細粒となっているので、十分な疲労特性を確保できる。
なお、粒界酸化深さは、5μm以下であることが好ましい。より好ましくは3μm以下であり、さらには1.5μm以下であることが好ましい。
以下、実施例に従って、本発明の構成および作用効果をより具体的に説明する。しかし、本発明は下記の実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲内にて適宜変更することも可能であり、これらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
表1に示す成分組成の鋼を溶製し、熱間圧延により直径50mmの丸棒に成形した。得られた圧延材について荷重1kgfのビッカース硬度測定を行った。圧延材の硬度がHV180以下であれば冷間鍛造用鋼材として使用可能である。また、丸棒より、丸棒の直径の1/4部が中心軸となるようにφ20×100mmの円柱を採取し、真空浸炭を行った後、荷重0.3kgfのビッカース硬度測定を表面下0.05mmおよび0.10mmの位置で実施した。真空浸炭における浸炭期および拡散期の処理温度は表2に示す通りである。真空浸炭の他の条件は次の通りである。真空浸炭は10kPa以下の減圧下で、浸炭ガスはアセチレンを用い、浸炭期保持を2時間、拡散期保持を9時間とした。
上記の真空浸炭後の円柱の高さ方向(丸棒の長手方向に相当)と垂直な断面について、鏡面研磨後、走査型電子顕微鏡を用いて表面からの粒界酸化深さを調べた。また、1.5%ナイタール液によるエッチングの後、走査型電子顕微鏡を用いて表面下0.05mmの位置におけるセメンタイト分率を求めた。その後、鏡面研磨し、JIS G0551に準拠して表面下0.05mmの位置における旧オーステナイト粒の結晶粒度番号を評価した。
表2に示すように、本発明に従えば、冷間鍛造で成形され、真空浸炭時の表層部セメンタイト生成を抑制可能な浸炭鋼が得られる。
Figure 0007334764000001
Figure 0007334764000002

Claims (7)

  1. C:0.10~0.35質量%、
    Si:0.50質量%以下、
    Mn:0.30~1.50質量%、
    Cr:1.10~2.00質量%、
    P:0.02質量%以下、
    S:0.05質量%以下、
    Al:0.01~0.05質量%および
    N:0.030質量%以下
    を含み、残部はFe及び不可避的不純物である成分組成を有し、
    表面から深さ0.05mm位置におけるセメンタイト分率が5%以下、表面からの深さ0.05mm位置における硬度がHV600以上、表面からの深さ0.05mm位置におけるオーステナイト粒径が粒度5番以上、および、表面からの深さ0.10mm位置における硬度がHV650以上である機械構造用部品
  2. 前記鋼の成分組成はさらに、
    Mo:1質量%以下、
    Cu:1質量%以下、
    Ni:1質量%以下および
    B:0.01質量%以下
    のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する請求項1に記載の機械構造用部品
  3. 前記鋼の成分組成はさらに、
    Nb:0.1質量%以下、
    Ti:0.1質量%以下および
    V:0.1質量%以下
    のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する請求項1または2に記載の機械構造用部品
  4. 前記成分組成はさらに、
    Sn:0.1質量%以下および
    Sb:0.1質量%以下
    のうちから選ばれる1種または2種を含有する請求項1から3のいずれかに記載の機械構造用部品
  5. 前記成分組成はさらに、
    Se:0.3質量%以下、
    Ca:0.1質量%以下、
    Pb:0.3質量%以下および
    Bi:0.3質量%以下
    のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する請求項1から4のいずれかに記載の機械構造用部品
  6. 部品形状を有する請求項1から5のいずれかに記載の機械構造用部品
  7. 請求項1から5のいずれかに記載の成分組成を有する鋼素材に、浸炭期温度Tc(℃)および拡散期温度Td (℃)が次式(1)および(2)を満足する真空浸炭処理を施す、機械構造用部品の製造方法。
    Tc+22×([Cr]-0.8)≦Td≦1100 ・・・(1)
    Tc≦1000 ・・・(2)
    ここで、[Cr]:鋼中Cr濃度(質量%)


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