以下、本発明の実施形態にかかる内燃機関用制御装置を説明する。
以下、本発明の一実施形態にかかる電子制御装置の一態様である制御装置1を説明する。この実施の形態では、制御装置1により、4気筒の内燃機関100の各気筒150に各々設けられた点火プラグ200の放電(点火)を制御する場合を例示して説明する。
以下、実施の形態において、内燃機関100の一部の構成又は全ての構成及び制御装置1の一部の構成又は全ての構成を組み合わせたものを、内燃機関100の制御装置1と言う。
[内燃機関]
図1は、内燃機関100及び内燃機関用点火装置の要部構成を説明する図である。
図2は、点火プラグ200の電極210、220を説明する部分拡大図である。
内燃機関100では、外部から吸引した空気はエアクリーナ110、吸気管111、吸気マニホールド112を通流し、吸気弁151が開くと各気筒150に流入する。各気筒150に流入する空気量は、スロットル弁113により調整され、スロットル弁113で調整された空気量は、流量センサ114により測定される。
スロットル弁113には、スロットルの開度を検出するスロットル開度センサ113aが設けられている。このスロットル開度センサ113aで検出されたスロットル弁113の開度情報は、制御装置(Electronic Control Unit:ECU)1に出力される。
なお、スロットル弁113は、電動機で駆動される電子スロットル弁が用いられるが、空気の流量を適切に調整できるものであれば、その他の方式によるものでもよい。
各気筒150に流入したガスの温度は、吸気温センサ115で検出される。
クランクシャフト123に取り付けられたリングギア120の径方向外側には、クランク角センサ121が設けられている。このクランク角センサ121により、クランクシャフト123の回転角度が検出される。実施の形態では、クランク角センサ121は、例えば10°毎及び燃焼周期毎のクランクシャフト123の回転角度を検出する。
シリンダヘッドのウォータジャケット(図示せず)には、水温センサ122が設けられている。この水温センサ122により、内燃機関100の冷却水の温度を検出する。
また、車両には、アクセルペダル125の変位量(踏み込み量)を検出するアクセルポジションセンサ(Accelerator Position Sensor:APS)126が設けられている。このアクセルポジションセンサ126により、運転者の要求トルクを検出する。このアクセルポジションセンサ126で検出された運転者の要求トルクは、後述する制御装置1に出力される。制御装置1は、この要求トルクに基づいて、スロットル弁113を制御する。
燃料タンク130に貯留された燃料は、燃料ポンプ131によって吸引及び加圧された後、プレッシャレギュレータ132が設けられた燃料配管133を通流し、燃料噴射弁(インジェクタ)134に誘導される。燃料ポンプ131から出力された燃料は、プレッシャレギュレータ132で所定の圧力に調整され、燃料噴射弁(インジェクタ)134から各気筒150内に噴射される。プレッシャレギュレータ132で圧力調整された結果、余分な燃料は戻り配管(図示せず)を介して燃料タンク130に戻される。
内燃機関100のシリンダヘッド(図示せず)には、燃焼圧センサ(CylinderPressure Sensor:CPS、筒内圧センサとも言う)140が設けられている。燃焼圧センサ140は、各気筒150内に設けられており、気筒150内の圧力(燃焼圧)を検出する。
燃焼圧センサ140は、圧電式又はゲージ式の圧力センサが用いられ、広い温度領域に渡って気筒150内の燃焼圧(筒内圧)を検出することができるようになっている。
各気筒150には、排気弁152と、燃焼後のガス(排気ガス)を気筒150の外側に排出する排気マニホールド160が取り付けられている。この排気マニホールド160の排気側には、三元触媒161が設けられている。排気弁152が開くと、気筒150から排気マニホールド160に排気ガスが排出される。この排気ガスは、排気マニホールド160を通って三元触媒161で浄化された後、大気に排出される。
三元触媒161の上流側には、上流側空燃比センサ162が設けられている。この上流側空燃比センサ162は、各気筒150から排出された排気ガスの空燃比を連続的に検出する。
また、三元触媒161の下流側には、下流側空燃比センサ163が設けられている。この下流側空燃比センサ163は、理論空燃比近傍でスイッチ的な検出信号を出力する。実施の形態では、下流側空燃比センサ163は、例えばO2センサである。
また、各気筒150の上部には、点火プラグ200が各々設けられている。点火プラグ200の放電(点火)により、気筒150内の空気と燃料との混合気に火花が着火し、気筒150内で爆発が起こり、ピストン170が押し下げられる。ピストン170が押し下げられることにより、クランクシャフト123が回転する。
点火プラグ200には、点火プラグ200に供給される電気エネルギー(電圧)を生成する点火コイル300が接続されている。点火コイル300で発生した電圧により、点火プラグ200の中心電極210と外側電極220との間に放電が生じる(図2参照)。
図2に示すように、点火プラグ200では、中心電極210は、絶縁体230により絶縁状態で支持されている。この中心電極210に所定の電圧(実施の形態では、例えば20,000V~40,000V)が印加される。
外側電極220は接地されている。中心電極210に所定の電圧が印加されると、中心電極210と外側電極220との間で放電(点火)が生じる。
なお、点火プラグ200において、中心電極210と外側電極220との間に存在する気体(ガス)の状態や筒内圧によって、ガス成分の絶縁破壊を起こして放電(点火)が発生する電圧が変動する。この放電が発生する電圧を絶縁破壊電圧と言う。
点火プラグ200の放電制御(点火制御)は、後述する制御装置1の点火制御部83により行われる。
図1に戻って、前述したスロットル開度センサ113a、流量センサ114、クランク角センサ121、アクセルポジションセンサ126、水温センサ122、燃焼圧センサ140等の各種センサからの出力信号は、制御装置1に出力される。制御装置1では、これら各種センサからの出力信号に基づいて、内燃機関100の運転状態を検出し、気筒150内に送出する空気量、燃料噴射量、点火プラグ200の点火タイミング等の制御を行う。
[制御装置のハードウェア構成]
次に、制御装置1のハードウェアの全体構成を説明する。
図1に示すように、制御装置1は、アナログ入力部10と、デジタル入力部20と、A/D(Analog/Digital)変換部30と、RAM(Random Access Memory)40と、MPU(Micro-Processing Unit)50と、ROM(Read Only Memory)60と、I/O(Input/Output)ポート70と、出力回路80と、を有する。
アナログ入力部10には、スロットル開度センサ113a、流量センサ114、アクセルポジションセンサ126、上流側空燃比センサ162、下流側空燃比センサ163、燃焼圧センサ140、水温センサ122等の各種センサからのアナログ出力信号が入力される。
アナログ入力部10には、A/D変換部30が接続されている。アナログ入力部10に入力された各種センサからのアナログ出力信号は、ノイズ除去等の信号処理が行われた後、A/D変換部30でデジタル信号に変換され、RAM40に記憶される。
デジタル入力部20には、クランク角センサ121からのデジタル出力信号が入力される。
デジタル入力部20には、I/Oポート70が接続されており、デジタル入力部20に入力されたデジタル出力信号は、このI/Oポート70を介してRAM40に記憶される。
RAM40に記憶された各出力信号は、MPU50で演算処理される。
MPU50は、ROM60に記憶された制御プログラム(図示せず)を実行することで、RAM40に記憶された出力信号を、制御プログラムに従って演算処理する。MPU50は、制御プログラムに従って、内燃機関100を駆動する各アクチュエータ(例えば、スロットル弁113、プレッシャレギュレータ132、点火プラグ200等)の作動量を規定する制御値を算出し、RAM40に一時的に記憶する。
RAM40に記憶されたアクチュエータの作動量を規定する制御値は、I/Oポート70を介して出力回路80に出力される。
出力回路80には、点火プラグ200に印加する電圧を制御する点火制御部83(図3参照)の機能などが設けられている。
[制御装置の機能ブロック]
次に、本発明の実施形態にかかる制御装置1の機能構成を説明する。
図3は、本発明の一実施形態にかかる制御装置1の機能構成を説明する機能ブロック図である。この制御装置1の各機能は、例えばMPU50がROM60に記憶された制御プログラムを実行することで、出力回路80で実現される。
図3に示すように、第1の実施形態にかかる制御装置1の出力回路80は、全体制御部81と、燃料噴射制御部82と、点火制御部83とを有する。
全体制御部81は、アクセルポジションセンサ126と、燃焼圧センサ140(CPS)に接続されており、アクセルポジションセンサ126からの要求トルク(加速信号S1)と、燃焼圧センサ140からの出力信号S2とを受け付ける。
全体制御部81は、アクセルポジションセンサ126からの要求トルク(加速信号S1)と、燃焼圧センサ140からの出力信号S2とに基づいて、燃料噴射制御部82と点火制御部83の全体的な制御を行う。
燃料噴射制御部82は、内燃機関100の各気筒150を判別する気筒判別部84と、クランクシャフト123のクランク角を計測する角度情報生成部85と、エンジン回転数を計測する回転数情報生成部86と、に接続されており、気筒判別部84からの気筒判別情報S3と、角度情報生成部85からのクランク角度情報S4と、回転数情報生成部86からのエンジン回転数情報S5と、を受け付ける。
また、燃料噴射制御部82は、気筒150内に吸気される空気の吸気量を計測する吸気量計測部87と、エンジン負荷を計測する負荷情報生成部88と、エンジン冷却水の温度を計測する水温計測部89と、に接続されており、吸気量計測部87からの吸気量情報S6と、負荷情報生成部88からのエンジン負荷情報S7と、水温計測部89からの冷却水温度情報S8と、を受け付ける。
燃料噴射制御部82は、受け付けた各情報に基づいて、燃料噴射弁134から噴射される燃料の噴射量と噴射時間(燃料噴射弁制御情報S9)を算出し、算出した燃料の噴射量と噴射時間とに基づいて燃料噴射弁134を制御する。
点火制御部83は、全体制御部81のほか、気筒判別部84と、角度情報生成部85と、回転数情報生成部86と、負荷情報生成部88と、水温計測部89とに接続されており、これらからの各情報を受け付ける。
点火制御部83は、受け付けた各情報に基づいて、点火コイル300の1次側コイル(図示せず)に通電する電流量(通電角)と、通電開始時間と、1次側コイルに通電した電流を遮断する時間(点火時間)とを算出する。
点火制御部83は、算出した通電角と、通電開始時間と、点火時間とに基づいて、点火コイル300の1次側コイルに点火信号SAを出力することで、点火プラグ200による放電制御(点火制御)を行う。
なお、少なくとも、点火制御部83が点火信号SAを用いて点火プラグ200の点火制御を行う機能は、本発明の内燃機関用制御装置に相当する。
図4は、内燃機関100の運転状態と点火プラグ200周囲のガス流速との関係を説明する図である。図4に示すように、一般にはエンジン回転数や負荷が高いほど、気筒150内のガス流速が高くなり、点火プラグ200周囲のガスも高流速になる。したがって、点火プラグ200の中心電極210と外側電極220の間において、ガスが高速に流れることとなる。また、排気再循環(EGR:Exhaust Gas Recirculation)が行われる内燃機関100では、エンジン回転数と負荷の関係に応じて、例えば図4に示すようにEGR率が設定される。なお、EGR率をより高く設定する高EGR領域を拡大するほど、低燃費化や低排気化を実現できるが、点火プラグ200において着火不良が生じやすくなる。
図5は、点火プラグ200の電極間における放電路と流速の関係を説明する図である。点火コイル300において2次側コイルに高電圧が発生し、点火プラグ200の中心電極210と外側電極220の間に絶縁破壊が生じると、これらの電極間に流れる電流が一定値以下になるまでの間、点火プラグ200の電極間に放電路が形成される。この放電路に可燃ガスが接触すると、火炎核が成長して燃焼に至る。放電路は、電極間のガス流れの影響を受けて移動するため、ガス流速が高いほど短時間で長い放電路を形成し、ガス流速が低いほど放電路が短くなる。図5(a)はガス流速が高いときの放電路211の例を示しており、図5(b)はガス流速が低いときの放電路212の例を示している。
内燃機関100が高EGR率で運転される場合、可燃ガスが放電路と接触しても火炎核が成長する確率が下がるため、可燃ガスが放電路と接触する機会を増やす必要がある。前述のように、放電路はガスの絶縁を破壊して生成されるため、放電路の維持に必要な電流を一定とすれば、放電路の長さに応じた電力の出力が必要となる。このため、ガス流速が高い場合は、短時間で大きな電力を点火コイル300から点火プラグ200へ出力するように点火コイル300の通電制御を行い、これにより図5(a)のような長い放電路211を形成することで、より広範な空間のガスと接触機会を得ることが好ましい。一方、ガス流速が低い場合は、小さな電力を長時間の間に点火コイル300から点火プラグ200へ出力し続けるように点火コイル300の通電制御を行い、これにより図5(b)のような短い放電路212の形成を維持することで、点火プラグ200の電極付近を通過するガスとの接触機会をより長時間にわたって得ることが好ましい。
[従来の点火コイルの電気回路]
次に、本発明の実施形態を説明する前に、従来の点火コイルについて説明する。
図6は、本発明の比較例としての従来の点火コイル300Cを含む電気回路400Cを説明する図である。電気回路400Cにおいて、点火コイル300Cは、所定の巻き数で巻かれた1次側コイル310と、1次側コイル310よりも多い巻き数で巻かれた2次側コイル320と、を含んで構成される。
1次側コイル310の一端は、直流電源330に接続されている。これにより、1次側コイル310には、所定の電圧(例えば12V)が印加される。
1次側コイル310の他端は、イグナイタ340に接続されており、イグナイタ340を介して接地されている。イグナイタ340には、トランジスタや電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor:FET)などが用いられる。
イグナイタ340のベース(B)端子は、点火制御部83に接続されている。点火制御部83から出力された点火信号SAは、イグナイタ340のベース(B)端子に入力される。イグナイタ340のベース(B)端子に点火信号SAが入力されると、イグナイタ340のコレクタ(C)端子とエミッタ(E)端子間が通電状態となり、コレクタ(C)端子とエミッタ(E)端子間に電流が流れる。これにより、点火制御部83からイグナイタ340を介して点火コイル300の1次側コイル310に点火信号SAが出力され、1次側コイル310に電流が流れて電力(電気エネルギー)が蓄積される。
点火制御部83からの点火信号SAの出力が停止して、1次側コイル310に流れる電流が遮断されると、1次側コイル310に対するコイルの巻き数比に応じた高電圧が2次側コイル320に発生する。
点火信号SAにより2次側コイル320に発生する高電圧が、点火プラグ200(中心電極210)に印加されることで、点火プラグ200の中心電極210と、外側電極220との間に電位差が発生する。この中心電極210と外側電極220との間に発生した電位差が、ガス(気筒150内の混合気)の絶縁破壊電圧Vm以上になると、ガス成分が絶縁破壊されて中心電極210と外側電極220との間に放電が生じ、燃料(混合気)への点火(着火)が行われる。
比較例では、点火制御部83は、以上説明したような電気回路400Cの動作により、点火信号SAを用いて点火コイル300Aの通電を制御する。これにより、点火プラグ200を制御するための点火制御を実施する。
[従来の点火コイルの放電制御]
次に、従来の点火コイルの放電制御について説明する。図7は、従来の放電制御における点火コイルへ入力される制御信号と出力の関係を説明するタイミングチャートの一例を示す図である。図7のタイミングチャートは、従来の点火コイル300Cを用いてガスが高流速の場合に点火プラグ200を放電させたときの一例である。図7では、点火制御部83から出力される点火信号SAと、この点火信号SAに応じて1次側コイル310に流れる1次電流I1、点火コイル300Cに蓄積される電気エネルギーE、2次側コイル320に流れる2次電流I2、および2次側コイル320に発生する2次電圧V2との関係を示している。なお、2次電流I2と2次電圧V2の測定ポイントは、図6に示すように、点火プラグ200と点火コイル300Cの間としている。また、1次電流I1の測定ポイントは、直流電源330と点火コイル300Cの間としている。
点火信号SAがHIGHになると、イグナイタ340が1次側コイル310を通電し、1次電流I1が上昇する。1次側コイル310の通電中は、点火コイル300C内の電気エネルギーEが時間と共に上昇する。
その後、点火信号SAがLOWになると、イグナイタ340は1次側コイル310の通電を遮断する。これにより、2次側コイル320へ起電力が生じて、点火コイル300Cから点火プラグ200への電気エネルギーEの供給が開始される。点火プラグ200の電極間の絶縁が破壊されると、点火プラグ200の放電が開始される。このような絶縁破壊を伴う点火プラグ200の放電は、容量放電と呼ばれる。点火プラグ200の放電開始後は、点火コイル300C内の電気エネルギーEが時間と共に減少し、点火プラグ200の放電が維持される。このような絶縁破壊を伴わない点火プラグ200の放電は、誘導放電と呼ばれる。
2次電流I2は、容量放電時に大きく上昇する。この容量放電による2次電流I2は短時間で終了する。点火プラグ200の放電が開始されて電極間に放電路が形成されると、2次電流I2は急激に低下し、その後の誘導放電時には時間と共に減少する。放電路はガスの流れと共に伸長するため、時間経過と共に2次電圧V2が上昇する。このとき、点火プラグ200の電極間に存在するガスの流速に応じて、放電路の維持に必要な2次電流I2の大きさが変化する。
2次電流I2が、放電路の維持に必要な最低値から、放電できなくなる最大値までの間になると、点火プラグ200は放電路の吹き消えと再放電を繰り返す。このように放電路の吹き消えと再放電が繰り返される2次電流I2の範囲を、以下では「断続運転領域」と言う。すなわち、2次電流I2が断続運転領域に入ると、放電路を維持できなくなり、放電路がガス流れによって吹き消えることで、点火プラグ200の放電が中断する。このとき、放電路が無くなっても点火コイル300C内の電気エネルギーEは残っているため、点火プラグ200において容量放電を伴う再放電(リストライク)が発生する。図7の例では、初放電が1回と再放電3回となっており、容量放電回数は4回である。
点火コイル300C内の電気エネルギーEが減少すると、それに伴って2次電流I2も低下する。2次電流I2が放電できなくなる最大値以下になると、点火プラグ200の放電が停止する。
本発明では、図6で説明した点火コイル300Cに替えて、1次側コイルを2つ有する点火コイル300を採用し、この点火コイル300に対して放電制御を行うことにより、容量放電回数を抑制した点火プラグ200の放電を実現している。
[第1の実施形態:点火コイルの電気回路]
次に、本発明の第1の実施形態にかかる点火コイル300を含む電気回路400を説明する。
図8は、本発明の第1の実施形態にかかる点火コイル300を含む電気回路400を説明する図である。電気回路400において、点火コイル300は、所定の巻き数でそれぞれ巻かれた2種類の1次側コイル310、360と、1次側コイル310、360よりも多い巻き数で巻かれた2次側コイル320と、を含んで構成される。ここで、点火プラグ200の点火時には、先に1次側コイル310からの電力が2次側コイル320に供給され、その電力に重ねて、1次側コイル360からの電力が2次側コイル320に供給される。そのため以下では、1次側コイル310を「主1次コイル」、1次側コイル360を「副1次コイル」とそれぞれ称する。また、主1次コイル310に流れる電流を「主1次電流」、1次副コイル360に流れる電流を「副1次電流」とそれぞれ称する。
主1次コイル310の一端は、直流電源330に接続されている。これにより、主1次コイル310には、所定の電圧(実施の形態では、例えば12V)が印加される。
主1次コイル310の他端は、イグナイタ340に接続されており、イグナイタ340を介して接地されている。イグナイタ340には、トランジスタや電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor:FET)などが用いられる。
イグナイタ340のベース(B)端子は、点火制御部83に接続されている。点火制御部83から出力された点火信号SAは、イグナイタ340のベース(B)端子に入力される。イグナイタ340のベース(B)端子に点火信号SAが入力されると、イグナイタ340のコレクタ(C)端子とエミッタ(E)端子間が通電状態となり、コレクタ(C)端子とエミッタ(E)端子間に電流が流れる。これにより、点火制御部83からイグナイタ340を介して点火コイル300の主1次コイル310に点火信号SAが出力され、主1次コイル310に主1次電流が流れて電力(電気エネルギー)が蓄積される。
点火制御部83からの点火信号SAの出力が停止して、主1次コイル310に流れる主1次電流が遮断されると、主1次コイル310に対するコイルの巻き数比に応じた高電圧が2次側コイル320に発生する。
副1次コイル360の一端は、主1次コイル310と共通で直流電源330に接続されている。これにより、副1次コイル360にも、所定の電圧(実施の形態では、例えば12V)が印加される。
副1次コイル360の他端は、イグナイタ350に接続されており、イグナイタ350を介して接地されている。イグナイタ350には、トランジスタや電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor:FET)などが用いられる。
イグナイタ350のベース(B)端子は、点火制御部83内に設けられた位相制御部380に接続されている。位相制御部380は、イグナイタ350のオンオフを制御するための信号として、点火信号SBを出力する。位相制御部380から出力された点火信号SBは、イグナイタ350のベース(B)端子に入力される。イグナイタ350のベース(B)端子に点火信号SBが入力されると、イグナイタ350のコレクタ(C)端子とエミッタ(E)端子間が点火信号SBの電圧変化に応じた通電状態となり、コレクタ(C)端子とエミッタ(E)端子間に点火信号SBの電圧変化に応じた電流が流れる。これにより、点火制御部83からイグナイタ350を介して点火コイル300の副1次コイル360に点火信号SBが出力され、副1次コイル360に副1次電流が流れて電力(電気エネルギー)が発生する。
位相制御部380からの点火信号SBの出力が変化して、副1次コイル360に流れる副1次電流が変化すると、副1次コイル360に対するコイルの巻き数比に応じた高電圧が2次側コイル320に発生する。
点火信号SAにより2次側コイル320に発生する高電圧に、点火信号SBにより2次側コイル320に発生する高電圧が加わって、点火プラグ200(中心電極210)に印加されることで、点火プラグ200の中心電極210と、外側電極220との間に電位差が発生する。この中心電極210と外側電極220との間に発生した電位差が、ガス(気筒150内の混合気)の絶縁破壊電圧Vm以上になると、ガス成分が絶縁破壊されて中心電極210と外側電極220との間に放電が生じ、燃料(混合気)への点火(着火)が行われる。
位相制御部380は、点火信号SAの立下り時期Sを起点として、そこから予め定めた重畳通電開始時間を経過した時期Aで点火信号SBを立ち上げるとともに、その後に所定の重畳通電期間を経過した時期Bで点火信号SBを立ち下げるように、点火信号SBの出力制御を行う。これにより、主1次コイル310からの供給電力に重畳して、副1次コイル360からの電力が点火プラグ200へ供給され、中心電極210と外側電極220との間に形成された放電路が維持される。なお、点火信号SBの具体的な出力制御方法については後述する。
点火制御部83は、以上説明したような電気回路400の動作により、点火信号SAとSBを用いて点火コイル300の通電を制御する。これにより、点火プラグ200を制御するための点火制御を実施する。
なお、位相制御部380は、点火制御部83の内部に設けなくてもよい。すなわち、点火制御部83と位相制御部380を別構成としてもよい。いずれの場合であっても、位相制御部380は点火制御部83の制御に応じて動作するため、点火制御部83が点火コイル300の通電を制御すると言うことができる。
[第1の実施形態:点火コイルの放電制御]
次に、本発明の第1の実施形態にかかる点火コイルの放電制御について説明する。本実施形態では、点火制御部83の位相制御部380において、予め定めた重畳通電開始時間および重畳通電期間に基づき、点火信号SBの出力時間および出力タイミングを決定する。重畳通電開始時間とは、点火信号SAの立下り時期Sから点火信号SBの立上り時期Aまでの時間、すなわち、点火信号SAに応じて主1次コイル310の放電が開始されてから副1次コイル360の通電を開始するまでの時間である。一方、重畳通電期間とは、点火信号SBの立上り時期Aから立下り時期Bまでの時間、すなわち、副1次コイル360の通電を開始してから終了するまでの時間である。これらの時間は、点火制御部83の開発段階において、気筒150内で点火プラグ200を放電させたときの再放電の発生状況を計測した結果に基づいて設定される。以下では、その具体的な方法の一例を説明する。
まず、図8に示した電気回路400において、点火プラグ200と点火コイル300の間に電圧センサを設置し、この電圧センサを用いて、気筒150内で点火プラグ200を放電させたときの2次電圧V2を検出する。なお、電気回路400に替えて、図6に示した電気回路400Cを用いて、気筒150内で点火プラグ200を放電させたときの2次電圧V2を検出してもよい。そして、得られた2次電圧V2の値に基づき、点火プラグ200の再放電が発生する直前の時点での2次電圧V2(以下、「再放電電圧」と称する)を計測するとともに、再放電電圧が計測された時期に基づき、点火プラグ200の放電開始から再放電までの時間(以下、「再放電時間」と称する)を計測する。
例えば、図7に示した2次電圧V2の波形において、点火プラグ200の放電期間中における2次電圧V2の最大値、すなわち放電開始後に2次電圧V2が急激に低下する直前の値を、V2maxと定義する。このV2maxの値と、点火信号SAの立下りからV2maxが検出されるまでの時間(V2max時期)とを、2次電圧V2の検出結果からそれぞれ求めることにより、再放電電圧と再放電時間の計測を行うことができる。なお、V2maxを検出する際には、2次電圧V2の時間微分dV2/dtを求め、この時間微分dV2/dtの値を予め定めた閾値と比較してもよい。このようにすれば、2次電圧V2が急激に低下する点をV2maxとして容易に検出し、再放電時間を計測することができる。
上記のような2次電圧V2の検出結果に基づく再放電電圧および再放電時間の計測を複数回行い、各計測結果を統計的に処理することで、重畳通電開始時間および重畳通電期間の設定値が決定される。その手法を、図9、図10を参照して以下に説明する。
図9は、再放電電圧と再放電時間の計測結果を記録した散布図の例を示す図である。この散布図において、横軸は点火信号SAの立下り時期Sを起点としたV2max時期、すなわち再放電時間を表し、縦軸はV2maxの値、すなわち再放電電圧を表している。
内燃機関100の運転中、気筒150内において点火プラグ200の電極間のガス流動や電極の温度は、燃焼サイクルごとにばらつきがある。そのため、V2maxやV2max時期の値は、図9に示すように、燃焼サイクルごとに変動して一定とはならない。しかしながら、Vmax時期の変動範囲に応じた全ての再放電時間の範囲内で、副1次コイル360による点火プラグ200への重畳電流の供給を行おうとすると、副1次コイル360の通電時間が過剰となる。その結果、点火コイル300の消費電力や発熱量が過大となり、点火コイル300を実装するためには、点火コイル300の冷却能力を必要以上に大きくしなければならず、容積やコストの増大を引き起こすおそれがある。
そこで本実施形態では、再放電時間の計測を複数回行ったときの各計測結果の分布において、発熱上許容できる副1次コイル360の通電期間を重畳通電期間に設定し、この重畳通電期間内で点火プラグ200の再放電の発生回数が最大となるように、重畳通電開始時間を設定する。これにより、点火コイル300の冷却能力を上げることなく、点火プラグ200における再放電の発生をできるだけ抑制し、点火コイル300の消費電力の抑制と、点火プラグ200の電極間における放電路の延長とを、両立させるようにしている。
具体的には、例えば図9に示した散布図において、点火信号SBの立上り時期Aと立下り時期Bにそれぞれ対応する線分91,92を設定し、線分91と線分92の間隔を、内燃機関100の回転数に応じて発熱上許容できる副1次コイル360の通電期間に合わせて固定する。この状態で、線分91,92を散布図上で横方向に移動させ、線分91と線分92の間に入る測定点の数が最大となる位置を探索する。こうして探索された線分91の位置により、重畳通電開始時間を設定することができる。なお、点火コイル300の発熱上問題がない場合は、線分91と線分92の間に全ての測定点が入るように、重畳通電開始時間を設定してもよい。
さらに、図9に示した散布図において、2次電圧V2の下限電圧Cと上限電圧Dにそれぞれ対応する線分93,94を設定してもよい。例えば、線分93と線分94の間隔や、線分93と線分94の間に入る測定点の数などに基づいて、所定の条件を満たすように線分93と線分94の位置をそれぞれ決定する。このとき、線分93と線分94の間に全ての測定点が入るようにしてもよい。こうして設定された線分93,94の位置により、2次電圧V2の下限電圧Cと上限電圧Dを設定し、これらを用いて点火信号SBの制御を行うことができる。なお、下限電圧Cおよび上限電圧Dを用いた点火信号SBの制御方法については、後述する第2の実施形態において説明する。
なお、再放電時間の計測結果をヒストグラムに記録し、このヒストグラムを用いて重畳通電開始時間を設定してもよい。図10は、再放電時間の計測結果を記録したヒストグラムの例を示す図である。このヒストグラムにおいて、横軸は点火信号SAの立下り時期Sを起点としたV2max時期、すなわち再放電時間を表し、縦軸は各V2max時期の値が計測された内燃機関100の燃焼サイクル数、すなわち再放電時間の計測結果ごとの頻度を表している。
図10に示したヒストグラムでも、図9の散布図と同様の方法により、重畳通電開始時間を設定することができる。すなわち、点火信号SBの立上り時期Aと立下り時期Bにそれぞれ対応する線分95,96を設定し、線分95と線分96の間隔を、内燃機関100の回転数に応じて発熱上許容できる副1次コイル360の通電期間に合わせて固定する。この状態で、線分95,96をヒストグラム上で横方向に移動させ、線分95と線分96の間に入る燃焼サイクル数の合計値(頻度)が最大となる位置を探索する。こうして探索された線分95の位置により、重畳通電開始時間を設定することができる。なお、点火コイル300の発熱上問題がない場合は、ヒストグラムが分布している全領域を重畳通電開始時間に設定してもよい。
上記では、図9の散布図や図10のヒストグラムを用いて再放電時間の計測結果を記録した場合の重畳通電開始時間の設定方法を説明したが、他の方法で再放電時間の計測結果を記録した場合についても、図9や図10と同様に重畳通電開始時間の設定を行うことができる。すなわち、任意の方法で記録された再放電時間の計測結果の分布において、所定の重畳通電期間内で再放電の発生回数が最大となるように、重畳通電開始時間を設定することが好ましい。
図11は、本発明の第1の実施形態にかかる放電制御における点火コイルへ入力される制御信号と出力の関係を説明するタイミングチャートの一例を示す図である。図11のタイミングチャートは、本実施形態の点火コイル300を用いてガスが高流速の場合に点火プラグ200を放電させたときの一例である。図11では、点火制御部83から出力される点火信号SAと、この点火信号SAに応じて主1次コイル310に流れる主1次電流I1と、位相制御部380から出力される点火信号SBと、この点火信号SBに応じて副1次コイル360に流れる副1次電流I3と、点火コイル300に蓄積される電気エネルギーE、2次側コイル320に流れる2次電流I2、および2次側コイル320に発生する2次電圧V2との関係を示している。
点火信号SAがHIGHになると、イグナイタ340が主1次コイル310を通電し、主1次電流I1が上昇する。主1次コイル310の通電中は、点火コイル300内の電気エネルギーEが時間と共に上昇する。
その後、点火信号SAが立下り時期SにおいてLOWになると、イグナイタ340は主1次コイル310の通電を遮断する。これにより、2次側コイル320へ起電力が生じて、点火コイル300から点火プラグ200への電気エネルギーEの供給が開始される。点火プラグ200の電極間の絶縁が破壊されると、点火プラグ200の放電(容量放電)が開始される。点火プラグ200の放電開始後は、点火コイル300内の電気エネルギーEが時間と共に減少し、点火プラグ200の放電(誘導放電)が維持される。
2次電流I2および2次電圧V2は、容量放電時に大きく上昇する。この容量放電による2次電流I2および2次電圧V2の上昇は、短時間で終了する。点火プラグ200の放電が開始されて電極間に放電路が形成されると、2次電流I2と2次電圧V2はそれぞれ急激に低下する。その後の誘導放電時には、2次電流I2は時間と共に減少する。一方、放電路はガスの流れと共に伸長するため、時間経過と共に2次電圧V2が上昇する。このとき、点火プラグ200の電極間に存在するガスの流速に応じて、放電路の維持に必要な2次電流I2の大きさが変化する。
位相制御部380は、点火信号SAがHIGHからLOWに変化する立下り時期Sを起点として、そこから所定の重畳通電開始時間を経過した時期Aにおいて、点火信号SBをONにする。その後、時期Aから所定の重畳通電期間を経過した時期Bにおいて、点火信号SBをOFFにする。この点火信号SBの制御で用いられる重畳通電開始時間および重畳通電期間は、前述のように位相制御部380において予め設定されている。すなわち、重畳通電開始時間は、気筒150内で点火プラグ200を放電させたときの再放電時間の計測結果を統計処理した結果に基づいて設定されている。また、重畳通電期間は、内燃機関100の回転数に応じて発熱上許容できる副1次コイル360の通電期間に応じて予め設定されている。
位相制御部380がイグナイタ350へ点火信号SBを出力している間、点火信号SAにより2次側コイル320に発生する高電圧に、点火信号SBにより2次側コイル320に発生する高電圧が加わる。この高電圧は点火プラグ200(中心電極210)に印加される。その結果、2次電流I2が増加して、放電路の維持が継続される。したがって、点火プラグ200において容量放電を伴う再放電(リストライク)の発生が抑制される。図11の例では、初放電が1回と再放電1回となっており、容量放電回数は2回である。
なお、点火信号SBが出力されているときの2次電流I2には、主1次コイル310により2次側コイル320に流れる電流と、副1次コイル360により2次側コイル320に流れる電流とが含まれる。
図12は、本発明の効果を説明する図である。図12において、信号波形501は、本発明による重畳電流用の点火信号として、上記の実施形態で説明した方法により出力される点火信号SBの波形を示している。なお、信号波形501における点火信号SBのパルス幅、すなわち点火信号SBがONになる立上り時期AからOFFになる立下り時期Bまでの重畳通電期間は、内燃機関100の回転数に応じて定まり、例えば内燃機関100の回転数が2400[rpm]のときには、0.5[msec]である。一方、信号波形502は、比較例による重畳電流用の点火信号として、点火プラグ200で発生し得る全ての再放電時間の範囲に対して出力される点火信号SBの波形を示している。また、電流波形503,504は、これらの信号波形501,502で示した点火信号SBに応じて流れる2次電流I2の波形例をそれぞれ示している。
プロット図505は、点火信号SBに応じた重畳電流の供給による点火コイル300のエネルギー消費量と点火プラグ200の燃焼安定性との関係を示している。このプロット図505において、点506,507は、信号波形501,502にそれぞれ示した本発明と比較例での点火信号SBによるエネルギー消費量と接続安定性との関係をそれぞれ表している。また、点508は、図6の電気回路400Cを用いた従来例でのエネルギー消費量と接続安定性との関係を表している。
点506と点507を比較すると、燃焼安定性(着火性能)については本発明と比較例が同等であるが、エネルギー消費量(発熱量)については本発明が比較例よりも大幅に低減していることが分かる。また、点506と点508を比較すると、本発明では従来例よりもエネルギー消費量(発熱量)が少し増えているものの、燃焼安定性(着火性能)が大きく向上していることが分かる。
以上説明したように、本発明による点火コイル300の制御方法を採用することで、点火コイル300の消費電力の抑制と、点火プラグ200の着火不良抑制との両立を図ることができる。したがって、点火プラグ200によるガスへの着火不良を抑えつつ、点火コイル300の容積やコストの増大を抑制することが可能となる。
[第1の実施形態:重畳通電開始時間の設定フロー]
次に、上記の放電制御を実施するために、事前に行われる重畳通電開始時間の設定方法を説明する。図13は、本発明の第1の実施形態にかかる重畳通電開始時間の設定方法を説明するフローチャートの一例である。図13のフローチャートに示す処理は、例えば点火コイル300の開発段階や出荷前など、内燃機関100に取り付けられた点火コイル300がイグナイタ340,350を介して点火制御部83と接続されることで点火コイル300の実運用が開始される前に、所定の実験設備や試験設備において実施される。
点火プラグ200や点火コイル300を実験用の内燃機関100の所定位置にそれぞれ搭載し、図8の電気回路400を構成して2次電圧V2の測定準備ができたら、ステップS101で図13の処理フローを開始する。
ステップS102では、点火制御部83から点火コイル300に点火信号SAを出力して点火プラグ200を放電させたときの2次電圧V2を検出する。
ステップS103では、2次電圧V2の時間微分値dV2/dtを算出し、予め定めた閾値と比較する。dV2/dtが閾値を超過した場合は、点火プラグ200の電極間に形成された放電路が吹き消えて再放電が発生したと判断し、ステップS104へ進む。一方、dV2/dtが閾値を超過していない場合は、ステップS102へ戻って2次電圧V2の検出を継続する。
本実施形態では、上記ステップS103の処理により、2次電圧V2の時間微分dV2/dtに基づいて、点火プラグ200の電極間に形成された放電路が吹き消えて再放電が発生したことを検知するようにしている。これにより、1次電圧V1に基づいて再放電の発生を検知する場合と比べて、点火プラグ200の電極間の電圧から再放電の有無を直接的に判断できるため、検知精度を向上させることができる。また、2次電流I2に基づいて再放電の発生を検知することも可能であるが、図7に示したように、点火プラグ200の再放電による2次電流I2の変化は、短時間で一瞬のうちに起こる。したがって上記のように、2次電圧V2の時間微分dV2/dtに基づいて点火プラグ200の再放電を検知することで、より確実な検知が可能となる。
2次電圧V2の時間微分dV2/dtが閾値を超過した場合、ステップS104において、当該超過時点の前後の一定期間における2次電圧V2の値を記録し、その中から極大点を検出する。これにより、点火プラグ200の電極間における再放電の直前のタイミングを検出することができる。
ステップS105では、ステップS104で検出した極大点の発生時期を、極大時期として記録する。
ステップS106では、これまでに実施したステップS101~S105の処理において所定数の測定結果が得られたか否かを判定する。ここでは、統計上の観点等により予め定めたサンプル数の測定結果が得られたか否かを判定し、得られた場合はステップS107へ進む。一方、所定数の測定結果が得られていない場合は、ステップS102へ戻って2次電圧V2の検出を継続する。
ステップS107では、これまでに実施したステップS105で記録された極大時期の分布図を作成する。ここでは、例えば図9に示したような散布図や図10に示したようなヒストグラムを、極大時期の分布図として作成することができる。
ステップS108では、ステップS107で作成した分布図に対して、点火信号SBの立上り時期Aと立下り時期Bの間隔を設定する。ここでは前述のように、内燃機関100の回転数に応じて発熱上許容できる副1次コイル360の通電期間に合わせて、分布図上での立上り時期Aと立下り時期Bの間隔を固定する。
ステップS109では、ステップS107で作成した分布図において、ステップS108で設定した固定の間隔の範囲内で、極大時期が記録されている合計回数が最大となる立上り時期Aと立下り時期Bを特定する。
ステップS110では、ステップS109で特定した立上り時期Aと立下り時期Bに基づき、重畳通電開始時間を設定する。
上記の処理により重畳通電開始時間を設定できたら、ステップS111で図13の処理フローを終了する。
なお、図13の処理は、内燃機関100の運転状態ごとに実施することが好ましい。例えば、エンジン回転数に対して複数の測定対象値を設定し、その測定対象値ごとに図13の処理を実施する。このようにすれば、内燃機関100の運転状態ごとに重畳通電開始時間を設定することができる。
[第1の実施形態:副1次コイルの放電制御フロー]
次に、上記の放電制御を実施する際の位相制御部380による副1次コイル360の制御方法を説明する。図14は、本発明の第1の実施形態にかかる位相制御部380による副1次コイル360の制御方法を説明するフローチャートの一例である。本実施形態において、位相制御部380は、車両のイグニッションスイッチがONされて内燃機関100の電源が投入されると、図14のフローチャートに従って副1次コイル360の制御を開始する。なお、図14のフローチャートに示す処理は、内燃機関100の1サイクル分の処理を表しており、位相制御部380は各サイクルごとに図14のフローチャートに示す処理を実施する。
ステップS201において、位相制御部380は、図14のフローチャートに示す処理を開始する。
ステップS202において、位相制御部380は、重畳通電開始時間を選択する。ここでは、予め設定されたマップ情報等を用いて、内燃機関100の運転状態、例えばエンジン回転数に応じた重畳通電開始時間を選択する。なお、ここで使用されるマップ情報は、内燃機関100の運転状態ごとの重畳通電開始時間を表しており、図13の処理によって事前に設定されたものである。
ステップS203において、位相制御部380は、点火信号SAがHIGHからLOWに変化したか否かを判定する。前述のように、点火制御部83は、所定のタイミングで点火信号SAの出力を開始し、その後、所定のタイミングで点火信号SAの出力を停止する。これにより、主1次コイル310によって点火プラグ200に電気エネルギーEの供給が開始され、点火プラグ200の放電が開始される。位相制御部380は、このときの点火信号SAの立下り時期SをステップS203において検知することで、点火プラグ200の放電開始時期を検出することができる。
ステップS210において、位相制御部380は、ステップS203で検知した点火信号SAの立下り時期Sを起点として、その時点から現在までの経過時間を計測する。
ステップS211において、位相制御部380は、ステップS202で選択した重畳通電開始時間と、ステップS210で計測した経過時間とを比較し、点火信号SAの立下り時期Sから重畳通電開始時間を経過したか否かを判定する。経過時間が重畳通電開始時間未満の場合は、まだ重畳通電開始時間を経過していないと判定し、ステップS210に戻って経過時間の計測を継続する。一方、経過時間が重畳通電開始時間以上の場合は、重畳通電開始時間を経過したと判定し、ステップS220へ進む。
ステップS220において、位相制御部380は、点火信号SBをONにして点火信号SBの出力を開始する。これにより、点火信号SBの立上り時期Aにおいて副1次コイル360から点火プラグ200への重畳電流の供給が開始される。
ステップS221において、位相制御部380は、ステップS220の処理を行うことで決定された点火信号SBの立上り時期Aを起点として、その時点から現在までの経過時間を所定の重畳通電期間と比較する。なお、ここで比較される重畳通電期間は、前述のように、内燃機関100の回転数に応じて発熱上許容できる副1次コイル360の通電期間に従って予め設定されている。その結果、経過時間が重畳通電期間未満の場合は、まだ重畳通電期間を経過していないと判定し、ステップS221の判定を継続する。一方、経過時間が重畳通電期間以上の場合は、重畳通電期間を経過したと判定し、ステップS222へ進む。
ステップS222において、位相制御部380は、点火信号SBをOFFにして点火信号SBの出力を停止する。これにより、点火信号SBの立下り時期Bにおいて副1次コイル360から点火プラグ200への重畳電流の供給が停止される。
ステップS223において、位相制御部380は、図14のフローチャートに示す処理を終了する。
以上説明した本発明の第1の実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
(1)電子制御装置である制御装置1は、1次側にそれぞれ配置された主1次コイル310および副1次コイル360と、2次側に配置された2次コイル320とを備えた点火コイル300の通電を制御することで、点火コイル300から内燃機関100の気筒150内で放電する点火プラグ200への電気エネルギーの供給を制御するものである。この制御装置1は、位相制御部380により、主1次コイル310の放電を開始してから所定の重畳通電開始時間を経過したときに(ステップS211:Yes)、副1次コイル360の通電を開始し(ステップS220)、副1次コイル360の通電を開始してから内燃機関100の回転数に応じた所定の重畳通電期間を経過したときに(ステップS221:Yes)、副1次コイル360の通電を終了する(ステップS222)ように、点火コイル300の通電を制御する。このようにしたので、点火コイル300の容積やコストの増大を抑えつつ、内燃機関100の燃費向上と点火プラグ200による燃料への着火不良の抑制とを両立することができる。
(2)重畳通電開始時間は、内燃機関100の気筒150内で点火プラグ200を放電させたときの放電開始から再放電までの時間を示す再放電時間の計測結果に基づいて決定される。具体的には、重畳通電開始時間は、図13の処理により、再放電時間の計測を複数回行ったときの各計測結果の分布において、所定の重畳通電期間内で再放電の発生回数が最大となるように決定される(ステップS109、S110)。このようにしたので、内燃機関100の燃費向上と点火プラグ200による燃料への着火不良の抑制とを両立できるように、副1次コイル360の通電開始時期を適切に決定することができる。
(3)再放電時間の計測では、2次コイル320の電圧を2次電圧V2として計測したときの2次電圧の微分値dV2/dtに基づいて、再放電の発生が検出されるようにしてもよい。このようにすれば、2次電圧V2が急激に低下したときに再放電が発生したと判断して、再放電の発生を容易に検出可能となる。そのため、再放電時間の計測を正確に行うことができる。
[第2の実施形態:点火コイルの電気回路]
次に、本発明の第2の実施形態にかかる点火コイル300を含む電気回路400Aを説明する。
図15は、本発明の第2の実施形態にかかる点火コイル300を含む電気回路400Aを説明する図である。本実施形態では、点火コイル300は、第1の実施形態で説明した図8と同様の構成を有している。すなわち、本実施形態の点火コイル300も、所定の巻き数でそれぞれ巻かれた2種類の1次側コイル310、360(主1次コイル310、副1次コイル360)と、1次側コイル310、360よりも多い巻き数で巻かれた2次側コイル320と、を含んで構成される。
本実施形態において、電気回路400Aは、第1の実施形態で説明した電気回路400と比べて、電圧検知部370が2次側コイル320と点火プラグ200の間に設けられている点が異なっている。電圧検知部370は、2次電圧V2を検知し、その値を点火制御部83へ送信する。
本実施形態において位相制御部380は、電圧検知部370により検知された2次電圧V2と、所定の重畳通電電圧範囲とを比較する。この重畳通電電圧範囲は、第1の実施形態で説明した重畳通電開始時間と同様に、点火制御部83の開発段階において、内燃機関100の気筒150内で点火プラグ200を放電させたときの再放電の発生状況を計測した結果に基づいて設定される。具体的には、例えば第1の実施形態で説明した図9の散布図において、前述のようにして2次電圧V2の下限電圧Cと上限電圧Dを設定し、この下限電圧Cと上限電圧Dの間の電圧範囲を、重畳通電電圧範囲として設定する。
なお、他の方法で再放電の発生状況を記録した場合についても、同様にして重畳通電電圧範囲の設定を行うことができる。任意の方法で記録された再放電電圧、すなわち再放電の発生直前時点での2次電圧V2の計測結果の分布において、所定の電圧範囲内で再放電の発生回数が最大となるように、重畳通電電圧範囲の下限電圧と上限電圧を設定することが可能である。
2次電圧V2と重畳通電電圧範囲を比較した結果、2次電圧V2が重畳通電電圧範囲内のときに点火プラグ200の再放電が発生した場合には、位相制御部380は、第1の実施形態で説明したのと同様に点火信号SBを出力する。これにより、副1次コイル360から点火プラグ200への重畳電流の供給を行い、点火プラグ200において容量放電を伴う再放電(リストライク)の発生が抑制されるようにする。一方、2次電圧V2が重畳通電電圧範囲外のときに点火プラグ200の再放電が発生した場合には、位相制御部380は、点火信号SBを出力しないようにする。これにより、点火プラグ200において再放電が発生する可能性が低いときには、副1次コイル360から点火プラグ200への重畳電流の供給を停止して、消費電力が抑制されるようにする。
[第2の実施形態:重畳通電開始時間および重畳通電電圧範囲の設定フロー]
次に、上記の放電制御を実施するために、事前に行われる重畳通電開始時間および重畳通電電圧範囲の設定方法を説明する。図16は、本発明の第2の実施形態にかかる重畳通電開始時間および重畳通電電圧範囲の設定方法を説明するフローチャートの一例である。なお、図16のフローチャートにおいて、第1の実施形態で説明した図13のフローチャートと共通の処理を実施する各ステップには、図13と同一のステップ番号を付している。以下では、図13との相違点を中心に、図16のフローチャートに示す処理について説明する。
ステップS105Aでは、ステップS104で検出した極大点の値と発生時期を、極大値および極大時期としてそれぞれ記録する。
ステップS107Aでは、これまでに実施したステップS105Aで記録された極大値と極大時期の分布図を作成する。ここでは、例えば図9に示したような散布図を、極大値と極大時期の分布図として作成することができる。
ステップS108Aでは、ステップS107Aで作成した分布図に対して、点火信号SBの立上り時期Aと立下り時期Bの間隔、および下限電圧Cと上限電圧Dの間隔を設定する。ここでは前述のように、発熱上許容できる副1次コイル360の通電期間に合わせて、分布図上での立上り時期Aと立下り時期Bの間隔を固定するとともに、所定の条件、例えば消費電力の要求値などに基づいて下限電圧Cと上限電圧Dの間隔を固定する。
ステップS109Aでは、ステップS107Aで作成した分布図において、ステップS108Aで設定した固定の間隔の範囲内で、極大時期が記録されている合計回数が最大となる立上り時期Aと立下り時期B、および下限電圧Cと上限電圧Dをそれぞれ特定する。
ステップS110Aでは、ステップS109Aで特定した立上り時期Aと立下り時期Bに基づき、重畳通電開始時間を設定する。また、ステップS109Aで特定した下限電圧Cと上限電圧Dに基づき、重畳通電電圧範囲を設定する。
上記の処理により重畳通電開始時間および重畳通電電圧範囲を設定できたら、ステップS111で図16の処理フローを終了する。
なお、図16の処理も図13の処理と同様に、内燃機関100の運転状態ごとに実施することが好ましい。例えば、エンジン回転数に対して複数の測定対象値を設定し、その測定対象値ごとに図16の処理を実施する。このようにすれば、内燃機関100の運転状態ごとに重畳通電開始時間および重畳通電電圧範囲を設定することができる。
[第2の実施形態:副1次コイルの放電制御フロー]
次に、上記の放電制御を実施する際の位相制御部380による副1次コイル360の制御方法を説明する。図17は、本発明の第2の実施形態にかかる位相制御部380による副1次コイル360の制御方法を説明するフローチャートの一例である。なお、図17のフローチャートにおいて、第1の実施形態で説明した図14のフローチャートと共通の処理を実施する各ステップには、図14と同一のステップ番号を付している。以下では、図14との相違点を中心に、図17のフローチャートに示す処理について説明する。
ステップS211で点火信号SAの立下り時期Sからの経過時間が重畳通電開始時間以上の場合は、重畳通電開始時間を経過したと判定し、ステップS212へ進む。
ステップS212において、位相制御部380は、電圧検知部370により検知された2次電圧V2の値を取得する。
ステップS213において、位相制御部380は、ステップS212で取得した2次電圧V2と、予め設定された重畳通電電圧範囲とを比較し、2次電圧V2が重畳通電電圧範囲内であるか否かを判定する。なお、ここで2次電圧V2との比較に使用される重畳通電電圧範囲は、図16の処理によって事前に設定されたものであり、内燃機関100の運転状態ごとに設定されている。
ステップS213で2次電圧V2が重畳通電電圧範囲内であると判定した場合、位相制御部380はステップS220へ進み、点火信号SBをONにして点火信号SBの出力を開始する。これにより、点火信号SBの立上り時期Aにおいて副1次コイル360から点火プラグ200への重畳電流の供給が開始される。一方、ステップS213で2次電圧V2が重畳通電電圧範囲外であると判定した場合、すなわち上限電圧Dよりも大きいか、または下限電圧C未満の場合には、位相制御部380はステップS223へ進み、図17のフローチャートに示す処理を終了する。この場合、副1次コイル360から点火プラグ200への重畳電流の供給は行われない。
以上説明した本発明の第2の実施形態によれば、第1の実施形態で説明した(1)~(3)に加えて、さらに以下の作用効果を奏する。
(4)制御装置1は、位相制御部380により、主1次コイル310の放電を開始してから重畳通電開始時間を経過したときの2次コイル320の電圧V2が所定の上限電圧Dよりも大きいか、または所定の下限電圧C未満の場合(ステップS213:No)は、副1次コイル360の通電を行わない。このようにしたので、点火プラグ200において再放電が発生する可能性が低いときには、副1次コイル360から点火プラグ200への重畳電流の供給を停止して、点火コイル300の消費電力をより一層抑制することができる。
(5)上限電圧Dおよび下限電圧Cは、内燃機関100の気筒150内で点火プラグ200を放電させたときの再放電の発生直前時点での2次コイル320の電圧V2を示す再放電電圧の計測結果に基づいて決定される。具体的には、上限電圧Dおよび下限電圧Cは、図16の処理により、再放電電圧の計測を複数回行ったときの各計測結果の分布において、所定の電圧範囲内で再放電の発生回数が最大となるように決定される(ステップS109A、S110A)。このようにしたので、点火プラグ200によるガスへの着火不良を抑制しつつ、点火コイル300のさらなる消費電力の抑制を図ることができるように、副1次コイル360への通電を行う2次電圧V2の範囲を適切に設定することができる。
[第3の実施形態:点火コイルの電気回路]
次に、本発明の第3の実施形態にかかる点火コイル300を含む電気回路400Bを説明する。
図18は、本発明の第3の実施形態にかかる点火コイル300を含む電気回路400Bを説明する図である。本実施形態では、点火コイル300は、第1の実施形態で説明した図8と同様の構成を有している。すなわち、本実施形態の点火コイル300も、所定の巻き数でそれぞれ巻かれた2種類の1次側コイル310、360(主1次コイル310、副1次コイル360)と、1次側コイル310、360よりも多い巻き数で巻かれた2次側コイル320と、を含んで構成される。
本実施形態において、電気回路400Bは、第1の実施形態で説明した電気回路400と比べて、点火制御部83とは別にタイマー回路381が設置され、このタイマー回路381内に位相制御部380が設けられている点が異なっている。タイマー回路381は、重畳通電期間に応じたタイマー値を設定し、位相制御部380により点火信号SBが出力されて副1次コイル360の通電が開始されると、点火信号SBの立上り時期Aからの経過時間をカウントする。そして、経過時間が設定したタイマー値に到達すると、点火信号SBの出力を停止して副1次コイル360の通電を終了する。本実施形態では、このようなタイマー回路381の機能を用いて、点火信号SBのON期間を制御している。
本実施形態においてタイマー回路381は、点火信号SAのON期間(主1次コイル310の充電期間)または周期(点火プラグ200の放電周期)を取得する。そして、取得したこれらの値に基づき、タイマー値を設定する。例えば、点火信号SAのON期間または周期に所定の倍率を乗じた値をタイマー値として設定する。
図19は、内燃機関100のエンジン回転数と点火信号SAのON期間との関係を示したマップ情報の一例である。図19に示すように、点火信号SAのON期間は、内燃機関100のエンジン回転数に応じて変化する。
図20は、点火信号SAのON期間と点火信号SBのON期間との関係を示したグラフの一例である。図20のグラフに示すように、点火信号SAのON期間が短くなるほど、点火信号SBのON期間も短く設定される。
タイマー回路381は、図19に示したエンジン回転数と点火信号SAのON期間との関係を利用して、例えば図20のグラフに従い、取得した点火信号SAのON期間に対応する点火信号SBのON期間に合わせてタイマー値を設定する。これにより、内燃機関100の運転状態ごとに予め設定されたマップ情報を用いることなく、エンジン回転数に応じて変化するタイマー値の設定が可能となる。
なお、上記では点火信号SAのON期間が内燃機関100のエンジン回転数に応じて変化することを利用して、点火信号SAのON期間に基づきタイマー回路381のタイマー値を設定して点火信号SBのON期間を制御する例を説明したが、点火信号SAの周期、すなわち点火プラグ200の放電周期についても、同様の制御が可能である。すなわち、点火信号SAの周期は、内燃機関100のエンジン回転数に応じて変化する。そのため、これを利用し、点火信号SAの周期に基づきタイマー回路381のタイマー値を設定して点火信号SBのON期間を制御することもできる。このようにしても、内燃機関100の運転状態ごとに予め設定されたマップ情報を用いることなく、エンジン回転数に応じて変化するタイマー値の設定が可能となる。
[第3の実施形態:副1次コイルの放電制御フロー]
次に、上記の放電制御を実施する際の位相制御部380およびタイマー回路381による副1次コイル360の制御方法を説明する。図21は、本発明の第3の実施形態にかかる位相制御部380およびタイマー回路381による副1次コイル360の制御方法を説明するフローチャートの一例である。なお、図21のフローチャートにおいて、第1の実施形態で説明した図14のフローチャートと共通の処理を実施する各ステップには、図14と同一のステップ番号を付している。以下では、図14との相違点を中心に、図21のフローチャートに示す処理について説明する。
ステップS201で図21のフローチャートに示す処理を開始すると、ステップS202において、位相制御部380は、重畳通電開始時間を選択する。ここでは第1の実施形態と同様の方法で事前に設定された情報を用いて、内燃機関100の運転状態、例えばエンジン回転数に応じた重畳通電開始時間を選択する。
ステップS203で点火信号SAがHIGHからLOWに変化したと判定すると、続くステップS204において、タイマー回路381は、点火信号SAのON期間を取得する。ここでは、例えば点火制御部83から点火信号SAと同期して出力される所定のモニタ信号を取得することで、点火信号SAのON期間を取得する。
ステップS205において、タイマー回路381は、ステップS204で取得した点火信号SAのON期間に基づいてタイマー値を設定する。ここでは、例えば点火信号SAのON期間に所定の倍率を乗じた値をタイマー値として設定する。
なお、前述のように点火信号SAの周期に基づいてタイマー回路381のタイマー値を設定する場合は、ステップS204において、点火信号SAのON期間に替えて周期を取得し、その周期に基づいてステップS205の処理を実施することで、タイマー値の設定を行えばよい。
ステップS205で設定したタイマー値は、ステップS221の判定に用いられる。すなわち、本実施形態ではステップS221において、タイマー回路381は、ステップS220で点火信号SBがONされてからカウントした経過時間と、ステップS205で設定したタイマー値とを比較する。その結果、経過時間がタイマー値未満の場合は、まだ重畳通電期間を経過していないと判定し、ステップS221の判定を継続する。一方、経過時間がタイマー値に到達した場合は、重畳通電期間を経過したと判定し、ステップS222へ進む。
以上説明した本発明の第3の実施形態によれば、第1の実施形態で説明した(1)~(3)に加えて、さらに以下の作用効果を奏する。
(6)制御装置1は、重畳通電期間に応じたタイマー値を設定し、副1次コイル360の通電を開始してからの経過時間がタイマー値に到達すると、副1次コイル360の通電を終了するタイマー回路381を有する。このようにしたので、内燃機関100の運転状態ごとに予め設定されたマップ情報を用いることなく、内燃機関100の運転状態を反映した副1次コイル360の通電制御を行うことができる。
(7)タイマー回路381は、主1次コイル310の充電期間または点火プラグ200の放電周期に基づいてタイマー値を設定する。このようにしたので、エンジン回転数に応じて副1次コイル360の通電期間を適切に変化させるように、タイマー値の設定を行うことができる。
[第4の実施形態]
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。本実施形態では、第2の実施形態で説明した電気回路400Aを用いて、点火プラグ200の放電中における電極間のガス流速に応じた重畳通電開始時間の補正を行う例を説明する。
図22は、本発明の第4の実施形態にかかる放電制御における点火コイルへ入力される制御信号と出力の関係を説明するタイミングチャートの一例を示す図である。本実施形態では、図22のタイミングチャートに示すように、点火信号SAの立下り時期S以降における点火プラグ200の放電期間中に、時期T1、T2での2次電圧V2の値をそれぞれ取得する。そして、取得した各2次電圧V2の値から、2次電圧V2の時間変化を表すグラフの傾きを求め、その傾きの大きさに基づいて重畳通電開始時間を調節する。例えば、予め設定された重畳通電開始時間を基準値として、そこに2次電圧V2の時間変化に応じた補正値を加算することで、重畳通電開始時間を調節することができる。
点火プラグ200の放電中における2次電圧V2は、電極間のガス流速に応じて変化する。そのため、上記のように2次電圧V2の時間変化を表すグラフの傾きを求め、その傾きの大きさに応じて重畳通電開始時間を変化させることで、点火信号SAの立下り時期Sから点火信号SBの立上り時期Aまでの時間間隔を、電極間のガス流速に応じて調節することができる。したがって、点火プラグ200の放電中における電極間のガス流速に応じた重畳通電開始時間の補正を行うことが可能となる。
図23は、電極間のガス流速(2次電圧V2の時間変化)と点火信号SBの立上り時期Aに対する補正加算値との関係を示したグラフの一例である。図23のグラフに示すように、電極間のガス流速が高流速となり、それに応じて2次電圧V2の時間変化が大きくなるほど、立上り時期Aに対する補正加算値が小さく設定され、これによって点火信号SBの立上り時期Aが前倒しとなるように補正される。その結果、重畳通電開始時間を短縮させ、ガス流速に応じて副1次コイル360の通電期間を調節することができる。
[第4の実施形態:副1次コイルの放電制御フロー]
次に、上記の放電制御を実施する際の位相制御部380による副1次コイル360の制御方法を説明する。図24は、本発明の第4の実施形態にかかる位相制御部380による副1次コイル360の制御方法を説明するフローチャートの一例である。なお、図24のフローチャートにおいて、第1の実施形態で説明した図14のフローチャートと共通の処理を実施する各ステップには、図14と同一のステップ番号を付している。以下では、図14との相違点を中心に、図24のフローチャートに示す処理について説明する。
ステップS201で図24のフローチャートに示す処理を開始すると、ステップS202において、位相制御部380は、重畳通電開始時間を選択する。ここでは第1の実施形態と同様の方法で事前に設定された情報を用いて、内燃機関100の運転状態、例えばエンジン回転数に応じた重畳通電開始時間を選択する。
ステップS203で点火信号SAがHIGHからLOWに変化したと判定すると、続くステップS206において、位相制御部380は、電圧検知部370により検知された2次電圧V2の値を取得する。
ステップS207において、位相制御部380は、ステップS206で取得した2次電圧V2に基づいて、点火プラグ200の電極間のガス流速を推定する。ここでは前述のように、現時点とその直前の時期においてそれぞれ取得された2次電圧V2の値に基づいて、2次電圧V2の傾きを求め、その傾きの大きさから電極間のガス流速を推定する。なお、2次電圧V2の値がまだ1つしか取得されておらず、そのため2次電圧V2の傾きを算出できない場合は、ステップS207の処理を省略してもよい。
ステップS208において、位相制御部380は、ステップS207で推定したガス流速に基づいて、ステップS202で選択した重畳通電開始時間を補正する。ここでは、例えば図23に示した電極間のガス流速と点火信号SBの立上り時期Aへの補正加算値との関係に基づいて補正加算値を決定し、その補正加算値を加えることで重畳通電開始時間を補正する。これにより、ガス流速の変化に応じた2次電圧V2の時間変化に基づいて、重畳通電開始時間を変化させる。
ステップS208で補正した重畳通電開始時間は、ステップS211の判定に用いられる。すなわち、本実施形態ではステップS211において、位相制御部380は、ステップS208で補正した重畳通電開始時間と、ステップS210で計測した経過時間とを比較し、点火信号SAの立下り時期Sから重畳通電開始時間を経過したか否かを判定する。その結果、経過時間が重畳通電開始時間未満の場合は、まだ重畳通電開始時間を経過していないと判定し、ステップS206に戻って2次電圧V2の時間変化に基づく重畳通電開始時間の補正と、経過時間の計測とを継続する。一方、経過時間が重畳通電開始時間以上の場合は、重畳通電開始時間を経過したと判定し、ステップS220へ進む。
以上説明した本発明の第4の実施形態によれば、第1の実施形態で説明した(1)~(3)に加えて、さらに以下の作用効果を奏する。
(8)制御装置1は、位相制御部380により、2次コイル320の電圧V2の時間変化に基づいて重畳通電開始時間を変化させる(ステップ206~S208)。このようにしたので、点火プラグ200における電極間のガス流速に応じて副1次コイル360の通電期間を調節することができる。そのため、内燃機関100の運転状態が燃焼サイクルごとに変動する場合でも、点火プラグ200によるガスへの着火不良を確実に抑制することが可能となる。これは、内燃機関100により発電用モータを駆動させ、その電力を用いて駆動用モータを駆動させるシリーズハイブリッド型の電気自動車のみならず、内燃機関100により車両を駆動させる従来型の自動車やパラレルハイブリッド型の電気自動車においても好適である。
[変形例]
なお、以上説明した第1~第4の各実施形態において、制御装置1は、位相制御部380により、内燃機関100の運転状態に応じて主1次コイル310の放電開始タイミング、すなわち点火信号SAの立下り時期Sが早くなるほど、点火信号SAの立下り時期Sから点火信号SBの立上り時期Aまでの期間を長くし、重畳通電開始時間を増加させるようにしてもよい。このようにすれば、内燃機関100の気筒150内で点火プラグ200を放電させたときに、気筒150内のガスにおいてタンブル流の崩壊(タンブル崩壊)が生じるタイミングに合わせて、点火信号SBを出力して副1次コイル360から点火プラグ200への重畳電流の供給を行うことができる。したがって、タンブル崩壊による放電路の吹き消えを効果的に抑制し、点火プラグ200によるガスへの着火性を向上させることができる。
なお、以上説明した各実施形態において、図3で説明した制御装置1の各機能構成は、前述のようにMPU50で実行されるソフトウェアにより実現してもよいし、あるいはFPGA(Field-Programmable Gate Array)等のハードウェアにより実現してもよい。また、これらを混在して使用してもよい。
以上説明した第1~第4の実施形態は、それぞれ単独で適用してもよいし、いずれか2つ以上を任意に組み合わせて適用してもよい。また、内燃機関100の運転条件等に基づいて、いずれかを選択的に適用可能としてもよい。
以上説明した各実施形態や各種変形例はあくまで一例であり、発明の特徴が損なわれない限り、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。また、上記では種々の実施形態や変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。