JP7321963B2 - 二次電池の劣化推定方法、寿命推定方法、及び制御装置 - Google Patents
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Description
例えば車両に搭載されるリチウムイオン二次電池は、温度環境や経過時間といった劣化要因に加えて、使用者による充放電の状況、使用頻度、使用される二次電池のSOCの状態なども劣化要因として大きく寄与する。そのため単純に経過時間や走行距離などからは、劣化度を推定することができない。
ここで、i0を交換電流密度、αを移動係数、Fをファラデー定数、Rを気体定数、Tを絶対温度、Usideを被膜形成電位、UNEを負極開放電位とする。
このような方法によれば、リチウムイオン二次電池の劣化度を推定することができる。
また、本発明の二次電池の寿命推定方法では、将来の時間tmaxにおける二次電池の劣化推定することで当該二次電池の寿命を推定する寿命推定方法であって、上記リチウムイオン二次電池の劣化推定方法を用いて寿命推定時t1の正負極組成対応ずれ容量ΔQを算出する二次電池の劣化推定のステップと、前記二次電池の劣化推定のステップにおいて算出した正負極組成対応ずれ容量ΔQ及び条件に基づいて、寿命推定時t1から将来の寿命目標である時間tmaxにわたる二次電池の劣化を積算することで時間tmaxにおける二次電池の劣化を推定する二次電池の寿命推定のステップとを備えたことを特徴とする。
本実施形態のリチウムイオン二次電池1の劣化推定方法は、車両10に搭載されたリチウムイオン二次電池1について劣化状態を推定する。推定は、逐次測定したセル電圧VBとセル温度TBとに基づいて、正極及び負極の正負極組成対応ずれ容量ΔQをそれぞれΔQPEとΔQNEと個別に算出して、リチウムイオン二次電池1の劣化状態を推定する。その推定に基づいた予測の結果、その使用SOC域では、リチウムイオン二次電池1の劣化状態が想定する寿命までに想定した閾値より大きくなると判断する場合がある。その場合には、そのリチウムイオン二次電池1のこれまで使用した使用SOC域を避け、劣化の進行が遅くなる使用SOC域を選択するように制御を行う。
まず、本実施形態のリチウムイオン二次電池1が搭載される車両10について、簡単に説明する。
モータジェネレータ42は、主として電動機として動作し、急加速時にはリチウムイオン二次電池1から供給された大電流で駆動輪80を駆動する。一方、車両の制動時や下り斜面では、モータジェネレータ42は、発電機として動作して大電流の回生発電を行ない、リチウムイオン二次電池1に大電流を供給する。
監視ユニット20は、電圧センサ21と、電流センサ22と、温度センサ23とを含む。電圧センサ21は、セル電圧VBを検出する。電流センサ22は、リチウムイオン二次電池1に入出力される電流IBを検出する。温度センサ23は、ブロック毎のセル温度TBを検出する。各センサは、その検出結果を示す信号をECU100に出力する。これらのセル電圧VB、電流IBは、このリチウムイオン二次電池1の履歴として、一定時間毎にセル温度TB、セル電圧VBとして記憶される。
本実施形態では、リチウムイオン二次電池1が車両10に搭載された使用開始の時間t0から、その運用時には、Δt(例えば、0.1秒)毎に、セル電圧VB・電流IB・セル温度TBの測定及び記録、劣化の判定が行われている。ECU100は、測定したセル電圧VBと正負極組成対応ずれ容量ΔQから、セルSOCを推定し、新たな正負極組成対応ずれ容量ΔQを算出し、その値を累積して記憶する。
本実施形態では、リチウムイオン二次電池1とこれを搭載する車両10により、以下のような作用を奏することができる。
次に、本発明の劣化推定の原理を説明する。説明のため従来の技術から説明する。図2は、(a)劣化前の正極・負極の容量-OCP(Open circuit potential)特性(電池容量とそのときの正極・負極の開放電位との関係を示すもの)を示すグラフ、(b)劣化後のOCP特性を示すグラフである。図2(a)に示すグラフは電極の組成などから特定される電池の初期の劣化前の特性を示すグラフで、セル電圧VBがわかれば、負極及び正極の容量に応じた開放電位VNE及びVPEがわかる。図2(a)からわかるように、正極OCPのグラフUPE及び負極OCPのグラフUNE0は、不規則な曲線となっている。特に、負極はリチウムイオンの吸収・拡散から階段状のグラフとなる。ここでセル電圧VBは、正極の電位VPE0と負極の電位VNE0の電位差となる。そうすると、図2(a)に示す正極OCPのグラフUPEと負極OCPのグラフUNEとの相対的な位置関係と、正負極の容量により、セル電圧VBは変化することになる。このときには、正負極組成対応ずれ容量ΔQは生じていない。
<本実施形態の正負極組成対応ずれ容量ΔQの算出の特徴>
図3(a)は、本実施形態の劣化前の正極・負極のSOC-OCP特性を示すグラフである。従来においても正極が負極と同じように副反応を生じること自体は知られていたが、どのような副反応がどのように作用するかは周知ではなかった。また、将来の副反応電流を推定することも容易ではなかった。さらに正極の副反応の影響は小さなものと思われていた。このため、専ら負極の劣化のみを考慮し、正極のずれを考慮することに対しては、単に処理を複雑にするだけであるという阻害要因があったといえる。そのため、当業者は引用文献1においても図2(b)に示すのと同じように正極の副反応は考慮されていなかった。
図3(a)は、本実施形態の劣化前の正極・負極のSOC-OCP特性を示すグラフである。図3(b)は、本実施形態の劣化後の正極・負極のSOC-OCP特性を示すグラフである。本発明者の知見によれば、実際には、図3(b)に示すように、正極においても副反応による容量低下ΔQPEが生じる。正極の容量低下ΔQPEが生じると、図3(a)に示す正極OCPのグラフ上の点UPE0上の位置が、左向きの矢印で示すΔQPEだけ左側の位置にずれ、グラフ上の点UPE1となる。
さらに、従来のΔQNE>本実施形態のΔQNEという関係から、負極における副反応による容量低下量ΔQNEの低下によるずれと、正極における副反応による容量低下量ΔQPEの低下によるずれとが、相殺されてΔQが小さくなる。すなわち、ΔQ=ΔQNE-ΔQPEという関係になる。したがって、本実施形態のΔQは、従来のΔQよりもさらに小さなものとなる。
<本発明の正負極組成対応ずれ容量ΔQの算出>
ここで、本発明は、負極の被膜形成電流密度iNEに経過時間Δtを乗じることで負極における副反応による容量低下量ΔQNEの低下を求め、正極被膜形成電流密度をiPEに経過時間Δtを乗じることで正極における副反応による容量低下ΔQPEを求め、これらの差から正負極組成対応ずれ容量ΔQを求めるようにしても実施できる。そうすると、いずれにしてもΔQNEとΔQPEとをそれぞれ算出する必要がある。
図4は、このような方法に基づいて本実施形態の時間t0から所定の時間t1までに積算された正負極組成対応ずれ容量ΔQを算出するフローチャートの一例である。
S3の処理と並行して、S2の処理に続けてセル電圧VBとセル温度TBとから正極電位VPEを算出する(S5)。正極電位VPEから正極における副反応電流値ISR(PE)を算出する(S6)。
ここで、負極及び正極における副反応による容量低下ΔQNE及びΔQPE、すなわち負極における副反応電流値ISR(NE)と正極における副反応電流値ISR(PE)は、以下のようにして求められる。
により負極における容量低下量ΔQNEを算出することができる。
により正極における容量低下量ΔQPEを算出することができる。
次に、これらの式を用いて具体的に負極及び正極における副反応による容量低下量ΔQNEの低下及び容量低下量ΔQPEの低下を求める方法について説明する。
すなわち、負極における副反応による容量低下量ΔQNEの低下は、負極副反応電流値ISR(NE)をΔtの間で積分する。負極副反応電流値ISR(NE)は、負極被膜形成電流密度iNEに基づいて算出することができる。負極被膜形成電流密度iNEは、セル電圧VB及びセル温度TBに基づいて、次のターフェル式により求めることができる。
本実施形態では、以下に示すターフェル式(式(3))により、負極被膜形成電流密度iNEを求める。
ここで、i0を交換電流密度、αを移動係数、Fをファラデー定数、Rを気体定数、Tを絶対温度、Usideを被膜形成電位、UNEを負極開放電位とする。
ターフェル式(数(3))による負極での被膜形成電流密度iの求め方は、詳しくは、引用文献1の段落0024~0081、特にターフェルの式を用いた正負極組成対応ずれ容量ΔQの計算方法は、段落0076~0081に詳細に記載されているため、ここでは詳しい記載は省略する。
従来、正負極組成対応ずれ容量ΔQは、負極表面上でのSEI被膜形成(副反応)の影響が主であると考えられていた。負極で形成される被膜は、SEIのほか、LiF、Li2Co3などがあるが、負極副反応電流ISR(PE)は、上述のターフェルの式により推定されていた。
ここで、i0を交換電流密度、αを移動係数、Fをファラデー定数、Rを気体定数、Tを絶対温度、Usideを被膜形成電位、UPEを正極開放電位とする。
そして、この正極被膜形成電流密度をiPEに基づいて、正極副反応電流値ISR(PE)を算出する。
そして、図4に示すフォローチャートのS7において、このように算出した負極副反応電流値ISR(NE)と、正極副反応電流値ISR(PE)とから、ΔQ(t0~t1)=(ISR(NE)-ISR(PE))×Δtを算出する。すなわち、負極における副反応電流値ISR(NE)と正極における副反応電流値ISR(PE)の差に、経過時間Δtを乗じて、経過時間Δtの正負極組成対応ずれ容量ΔQ(t0~t1)の総容量を算出する(S7)。
図5(a)は、図2(a)、(b)に示す従来技術のΔQを、図5(b)は、図3(a)、(b)に示す本実施形態のΔQを示し、これらを簡単に比較する模式図である。特許文献1に示す従来の劣化の判断において、図5(a)の上の図は劣化前の正負極組成対応ずれがない状態を示している。この状態から、図5(a)の下の図のように負極容量低下量ΔQNEが3マス分ずれたときは、正負極組成対応ずれ容量ΔQが3マス分となる。
<リチウムイオン二次電池の劣化抑制制御方法>
このような本実施形態のリチウムイオン二次電池1の劣化推定方法により推定された正負極組成対応ずれ容量ΔQに基づいて、リチウムイオン二次電池1の劣化を抑制するリチウムイオン二次電池の寿命推定方法及び劣化抑制制御方法について説明する。本実施形態では、セルSOCθ、セル電圧VB及びセル温度TBの履歴に基づいて、将来的なリチウムイオン二次電池1の劣化状態を予測することができる。そして、この結果に基づいて必要に応じてセルSOCθの使用帯域を制御することで、リチウムイオン二次電池1の寿命を延命することが可能になる。
図6は、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の劣化を抑制するリチウムイオン二次電池の劣化抑制制御方法のフローチャートである。
<劣化特性取得の手順>
正確な予測のためには、その予測の基準となるリチウムイオン二次電池1の劣化特性、つまり劣化の速度の取得が重要である。そこで、リチウムイオン二次電池1を車両に搭載する前、若しくは車両に搭載されたリチウムイオン二次電池1を車両から取り外して、劣化特性取得の装置にセットして測定をする。そして、予め設定された特定の温度、時間、充放電の条件で「保存」を行い、その前後での副反応電流の実測値の差から、このリチウムイオン二次電池1の固有の劣化の速度を正極と負極に分けて測定する。この副反応電流の実測値を基準として、将来的に予想される条件で補正することにより、リチウムイオン二次電池1の負極容量低下量ΔQNEと正極容量低下量ΔQPEを正確に算出することができるものである。
図7は、リチウムイオン二次電池1の劣化特性取得のため装置の構成を示すブロック図である。本実施形態のリチウムイオン二次電池1の劣化情報取得の装置の構成は、周知の充放電装置3、セル電圧測定器4、セル電流測定器5、温度計6、保温装置7を備える。また、これらを制御するインタフェースを備えた周知のコンピュータからなる制御装置8を備える。制御装置8は、CPU81とメモリ82を備える。メモリ82は、RAM、ROMを備える。
次に、図8のフローチャートを参照して、本実施形態のリチウムイオン二次電池の寿命推定方法、劣化抑制制御方法の前提である劣化特性取得について説明する。劣化特性取得の手順は、このリチウムイオン二次電池1固有の副反応電流値、自己放電の測定により、このリチウムイオン二次電池1の劣化速度の個体差がわかる。
「T1(°C)」は、任意の保存温度(例えば50°C)である。
「V1(V)」は、セル電圧VBが完全放電の電圧3.0(V)(この実施形態では、セルSOC0%の完全放電状態のセル電圧VBを「下限電圧」という。)から、満充電の4.1(V)(セルSOC0~100%、本実施形態では、「上限電圧」という。)の間で任意に設定した電圧(例えば3.8(V))で、本実施形態では、「基準電圧」という。本実施形態では、自己放電容量の測定の基準電圧に用いられるとともに、保存の任意の初期セル電圧VBでもある。
「Q3(Ah)」は、基準電圧V1=3.8(V)から保存を経て下限電圧3.0(V)まで放電した保存後の残存容量である。
「QSD(Ah)」は、保存前の区間容量Q2と保存後の残存容量Q3の差から求めた保存期間中の自己放電容量である。
「ISR(NE)0(A)」は、自己放電容量QSD(Ah)÷保存時間t1(h)で求めた負極の副反応電流(速度)である。
<劣化特性取得のフローチャートの手順>
次に、これらの定義を用いて、リチウムイオン二次電池1の劣化特性取得の手順を図8のフローチャートに沿って説明する。
続いて、基準電圧V1=3.8(V)に電圧を調整したまま、任意の温度T1(例えば50°C)で任意の時間t1(例えば24時間)保存する(S104)。この手順が「保存のステップ」に相当する。したがって、この保存は、開始セル電圧、保存温度T1、保存時間t1が常に一定な条件で行われる。
また、容量低下量Qloss(Ah)を、保存前の電池満容量Q1(Ah)と保存後の電池満容量Q4(Ah)との差から算出する(S109)。
次に、図6に戻り、リチウムイオン二次電池の劣化抑制制御方法のフローチャートの計算が開始された後に処理される、「現在までの劣化情報取得(S10)」のステップについて説明する。
ここでは、開始時間t0から現在の時間t1までの劣化情報を取得する(S10)。
これは、S11~S16のステップにおいて車両10の制御装置18のECU100により実際に測定され、記憶され、処理されて算出された正負極組成対応ずれ容量ΔQが、順次積算されたものである。したがって第1巡目の処理では、リチウムイオン二次電池1の劣化がなく、ΔQもゼロである。したがって、この「現在までの劣化情報」は、ゼロである。2巡目から、順次劣化情報が蓄積されていく。この手順により、使用開始から現在までに積算されたリチウムイオン二次電池1の劣化の状態を知ることができ、この状態を起点にさらに将来の劣化を予測することができる。
現在までの劣化情報取得(S10)の手順が完了したら、次に、入力情報が決定される(S11)。本実施形態のリチウムイオン二次電池1の劣化を抑制するリチウムイオン二次電池の制御方法は、将来的な寿命が到来するときのリチウムイオン二次電池1の劣化を予測する必要がある。
S10で現在までの劣化が判明したが、将来の劣化を推定するためのセルSOCと、セル温度TBは、車両10のECU100により蓄積されたセル電圧VBとセル温度TBから推定される。
図9(a)は、将来の劣化を推定するためのセルSOC(%)の推定方法を示す図である。蓄積された、過去のセルSOC(%)から確率密度関数PDF(probability distribution function)が導かれる。確率密度関数PDFは、上に凸のグラフで、存在確率を示す。この例では、概ね50~60%にピークを有する。ここからこれを累積した累積確率(cumulative probabilities)、すなわち累積分布関数CDF(cumulative distribution function)が導かれる。累積確率0~100%を示す右上がりのグラフとなる。
一方、図9(b)は、将来の劣化を推定するためのセル温度TB(°C)の推定方法を示す図である。セル温度TBに関してもセルSOCと同じような処理がなされる。蓄積された、過去のセル温度TB(°C)は、確率密度関数PDFが導かれる。確率密度関数PDFは、上に凸のグラフで、存在確率を示す。この例では、概ね30°Cにピークを有する。ここからこれを累積した累積分布関数CDFが導かれる。累積確率0~100%を示す右上がりのグラフとなる。
そして、入力情報決定(S11)で決定されたセルSOCθとセル温度TBにより、その時間t2に生じた副反応電流値が計算され、正負極組成対応ずれ容量ΔQが算出される。
入力が決定された情報に基づいて、正極電位V´PE、負極電位V´NEを算出する。
<電位に基づくISR(PE)、ISR(NE)を算出(S14)>
S13で算出された正極電位V´PE、負極電位V´NEに基づいて、正極における副反応電流値ISR(PE)、負極における副反応電流値ISR(NE)を算出する(S14)。
ここで、負極及び正極における副反応による容量低下ΔQNE及びΔQPE、すなわち負極における副反応電流値ISR(NE)と正極における副反応電流値ISR(PE)は、上述したように以下のようにして求められる。
により負極における副反応電流値ISR(NE)を算出することができる。
により正極における副反応電流値ISR(PE)を算出することができる。
入力されたセル温度TBと、S14で算出された正極における副反応電流値ISR(PE)、負極における副反応電流値ISR(NE)に基づいて、正極容量低下量ΔQPEと負極容量低下量ΔQNEを求める。
本実施形態では、以下に示すターフェル式(式(3))により、負極被膜形成電流密度iNEを求める。
ここで、i0を交換電流密度、αを移動係数、Fをファラデー定数、Rを気体定数、Tを絶対温度、Usideを被膜形成電位、UNEを負極開放電位とする。
正極においても、下記式(4)のターフェル式により正極での被膜形成電流密度iPEを算出する。
そして、この正極被膜形成電流密度をiPEに基づいて、正極副反応電流値ISR(PE)を算出する。
なお、前記ターフェル式では、SEI被膜の厚みについては、考慮されていない。そこで、ΔQPE、ΔQNEの算出において、各経過時間における被膜形成量に応じて、副反応電流値を減衰させた値を用いてΔQPE、ΔQNEを算出する。
本実施形態では、以上に述べた正負極の副反応電流値の被膜成長に応じた減衰を考慮するため、図14に示すように、本実施形態の劣化推定の方法は、従来の技術によるターフェル式のみの劣化推定の方法よりも、より実際の劣化に近い推定が可能となっている。
また、図6のフローチャートに戻り説明を続ける。正極容量低下量ΔQPEと負極容量低下量ΔQNEとの差分から正負極組成対応ずれ容量ΔQを算出する。
S11~S16の処理を、時間tn毎に行い、寿命目標期間tmaxまで完了していなければ、S11に戻り、次の時間tn+1について処理を続行する(S17:NO→S11)。
<寿命目標到達可能(S18)>
寿命目標期間tmaxまで正負極組成対応ずれ容量ΔQを積算し、その結果、予め設定された正負極組成対応ずれ容量ΔQの閾値と比較し、この閾値より小さければ、寿命目標期間tmaxまで、所定の性能が維持できるとして計算を終了する。
ここで、図15は、劣化量とSOCの関係を示す図である。通常ハイブリッド自動車においては、二次電池が回生電力を受入れられるように、また要求があれば直ちに電動機に対して電力を供給できるようにするために、そのSOC使用域は満充電の状態(100%)と、全く充電されていない状態(0%)のおおよそ中間付近(50~60%)に制御する。しかしながら、シミュレーションの結果、現在のSOC使用域の制御では、劣化が進み寿命目標期間tmaxまで性能を維持できないことが判明した場合には、劣化量の少ないSOC使用域を使用する必要がある。限定されたSOC使用域に限定するようにPCU30により充放電制御する必要がある。ここで、ECU100では、元の使用SOC域から対応後の使用SOC域とした場合、寿命目標期間tmaxまで性能を維持できるか否かを、使用SOC域の設定を変えて、再度S10~S18の処理を行う。使用SOC域の設定は、現在の使用SOC域が50~60%であれば、60~70%などとする。但し、その充電率は満充電の状態(100%)と、全く充電されていない状態(0%)からは、ある程度のマージンを取る必要がある。また、現在の使用SOC域が50~60%であれば、40~50%としてもよく、複数回シミュレーションを行い、最も劣化が少ない使用SOC域を選択するようにしてもよい。
(1)本実施形態のリチウムイオン二次電池1の劣化推定方法では、劣化を正極と負極とに分けて求め、それぞれ正極容量低下量ΔQPEと負極容量低下量ΔQNEとに分けて劣化を推定するため、正確に推定することができる。
(5)また、実際にリチウムイオン二次電池1が搭載された車両10により、過去のセルSOC、セル電圧VBやセル温度TBを測定して蓄積し、これらに基づいて劣化を推定するため、過去から現在に至る劣化を極めて正確に推定することができる。
(7)また、これらは、ターフェル式などの理論に基づき計算されているので、車両においても正確な推定ができる。
(9)また、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の制御方法では、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の劣化推定方法に基づいて、リチウムイオン二次電池1の劣化状況に即した制御ができる。
(12)これらは、車載のECU100により処理することが可能であるため、リチウムイオン二次電池1の使用開始から、常時正確な情報に基づいて、常時適正な制御を行うことができる。
(変形例)
本発明は、上記実施形態には限定されず、下記のように実施することもできる。
〇本実施形態では、二次電池は、リチウムイオン二次電池を例として説明したが、二次電池は、リチウムイオン二次電池に限定されるものではなく、ニッケル水素二次電池、さらに将来的に想定されるナトリウムイオン二次電池、リチウム空気二次電池なども排除するものではない。
〇実施形態の二次電池の検査方法は、いつでも実施可能であるため、リチウムイオン二次電池の製造時の出荷可否の検査に用いることができるだけでなく、中古車両から回収したリチウムイオン二次電池の再販売時に行うことができる。また、他の目的において単に二次電池の劣化の判断に用いることができることは当然である。
〇実施形態では、負極における副反応電流値ISR(NE)と正極における副反応電流値ISR(PE)の差に、経過時間Δtを掛けて、経過時間Δtの正負極組成対応ずれ容量ΔQ(t0~tn)の総容量を算出している。これに対して、負極の被膜形成電流密度iNEに経過時間Δtを乗じることで負極における副反応による容量低下ΔQNEを、正極被膜形成電流密度をiPEに経過時間Δtを乗じることで正極における副反応による容量低下ΔQPEをそれぞれ求める。そして、これらの差から正負極組成対応ずれ容量ΔQを求めるようにしても実施できる。
○また、本発明は、特許請求の範囲を逸脱しない限り、当業者により、その構成を付加、削除または変更をし、又はカテゴリーを変えて実施することができることは言うまでもない。
1A…セル
1NE…負極
1PE…正極
1a…合材
1c…集電箔
1sei…SEI被膜
2…寿命推定装置
3…充放電装置
4…セル電圧測定装置
5…セル電流測定器
6…温度計
7…保温装置
8…制御装置
81…CPU
82…メモリ
10…車両
18…制御装置
20…監視ユニット
21…電圧センサ
22…電流センサ
23…温度センサ
30…PCU
100…ECU
101…CPU
102…メモリ
t0…(使用開始の)時間
t1…(ΔQ算出の)時間
t2…(次のΔQ算出の)時間
t3…(寿命推定間隔の)時間
tn、tn+1…(繰り返しの)時間
tmax…寿命目標期間
Δt…経過時間
VB…セル電圧
TB…セル温度
IB…電流
θ…セルSOC
UNE…(負極開放電位の)グラフ
UPE…(正極開放電位の)グラフ
VPE…正極電位
VNE…負極電位
iNE…負極被膜形成電流密度
iPE…正極被膜形成電流密度
I…副反応電流値
ISR(NE)…負極における副反応電流値
ISR(PE)…正極における副反応電流値
Q…容量
ΔQ…正負極組成対応ずれ容量
ΔQ(t0~t1)…Δt(t0~t1)の正負極組成対応ずれ容量
ΔQNE…負極容量低下量
ΔQPE…正極容量低下量
Q1…保存前電池満容量
Q2…保存前の区間容量
Q3…保存後の残存容量
Q4…保存後電池満容量。
QSD(Ah)…保存期間中の自己放電容量
Qloss(Ah)…容量低下量
T1(°C)…保存温度
V1(V)…(保存の初期電圧である)基準電圧
Claims (11)
- 負極の被膜形成電流密度をiNEとし、
aNEを負極上で起こる副反応の交換電流密度とし、bNEを負極上で起こる副反応の過電圧項としたとき、下記式(1)
正極被膜形成電流密度をiPEとし、
aPEを正極上で起こる副反応の交換電流密度とし、bPEを正極上で起こる副反応の過電圧項としたとき、下記式(2)
前記負極容量低下量算出のステップで算出した負極容量低下量ΔQNEと、前記正極容量低下量算出のステップで算出した正極容量低下量ΔQPEとの差から、正負極組成対応ずれ容量ΔQを算出する正負極組成対応ずれ容量ΔQ算出のステップとを備え、
前記負極容量低下量算出のステップにおいて、
i0を交換電流密度、αを移動係数、Fをファラデー定数、Rを気体定数、Tを絶対温度、Usideを被膜形成電位、UNEを負極開放電位、UPEを正極開放電位としたとき、下記式(3)
前記正極容量低下量算出のステップにおいて、
下記式(4)
- 前記負極容量低下量算出のステップ及び前記正極容量低下量算出のステップにおいて、経過時間に応じて副反応電流値を減衰させた値を用いて正極容量低下量ΔQPE、負極容量低下量ΔQNEを算出することを特徴とする請求項1に記載の二次電池の劣化推定方法。
- 前記負極容量低下量算出のステップ及び前記正極容量低下量算出のステップにおいて、
二次電池を特定の条件で保存する保存のステップと、
前記保存した二次電池の保存前後の電池満容量の容量低下量Qlossを測定する電池容量低下量測定のステップと、
前記保存した二次電池の保存前後の自己放電容量QSDを測定する自己放電容量測定のステップと、
前記容量低下量Qloss及び自己放電容量QSDから、前記保存時の特定条件における正極及び負極の副反応電流値を求める劣化特性取得のステップとを含み、前記劣化特性取得のステップにより正極及び負極の副反応電流値に基づいて劣化を推定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の二次電池の劣化推定方法。 - 前記二次電池がリチウムイオン二次電池であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の二次電池の劣化推定方法。
- 将来の時間tmaxにおける二次電池の劣化推定することで当該二次電池の寿命を推定す
る寿命推定方法であって、
請求項1~4のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池の劣化推定方法を用いて寿命推定時t1の正負極組成対応ずれ容量ΔQを算出する二次電池の劣化推定のステップと、
前記二次電池の劣化推定のステップにおいて算出した正負極組成対応ずれ容量ΔQ及び条件に基づいて、寿命推定時t1から将来の寿命目標である時間tmaxにわたる二次電池の劣化を積算することで時間tmaxにおける二次電池の劣化を推定する二次電池の寿命推定のステップと
を備えたことを特徴とする二次電池の寿命推定方法。 - 前記二次電池の寿命推定のステップにおいて、前記二次電池の劣化推定のステップにおける条件として蓄積されたセルSOC及びセル温度により導かれた確率密度関数に基づいて求められた累積分布関数を参照関数として、乱数を発生させてモンテカルロシミュレーションにより、寿命推定時t1から将来の時間tmaxにわたる二次電池の劣化を積算することを特徴とする請求項5に記載の二次電池の寿命推定方法。
- 前記二次電池の寿命推定のステップにおいて推定された時間tmaxにおける二次電池の
劣化と、予め設定された二次電池の劣化の閾値とを比較することで、前記二次電池が時間tmaxにおける劣化が前記閾値未満で寿命に到達するか否かを判定する二次電池の寿命判断のステップをさらに備えたことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の二次電池の寿命推定方法。 - 前記二次電池の寿命判断のステップにおいて、前記二次電池が時間tmaxにおける寿命
に到達できないと判定された場合に、二次電池の寿命推定のステップにおけるセルSOCの条件を変更することで寿命に到達できるか否かを再判定する再判定のステップをさらに備えたことを特徴とする請求項5~7のいずれか一項に記載の二次電池の寿命推定方法。 - 前記再判定のステップで、
条件を変えた場合に寿命に到達できると判定できた場合に、当該セルSOCの条件に従って、二次電池のセルSOCの制御を行う制御のステップを備えたことを特徴とする請求項8に記載の二次電池の寿命推定方法。 - 二次電池のセル電圧を検出する電圧センサと、
二次電池のセル温度を検出する温度センサと、
CPUとメモリとを有し、前記電圧センサからセルSOCを推定するコンピュータと
を備えた二次電池の制御装置であって、
請求項9に記載の寿命推定方法を実行する制御手段を構成することを特徴とする二次電池の制御装置。 - 前記二次電池は車両に搭載され、前記コンピュータが前記車両に搭載されたコンピュータであることを特徴とする請求項10に記載の二次電池の制御装置。
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