以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
[第1実施形態]
図1Aは、システム200の構成の概要を示す。システム200は、送受信部10およびセンサ装置100を備える。システム200は、生体300を検知し、センシングする。送受信部10は、送信部12および受信部14を有する。
送信部12は、生体300に周波数変調連続波レーダー(FMCWレーダー:Frequency Modulated Continuous Wave radar)を送信波として送信する。FMCWレーダーは、周波数を変調した連続発振レーダーである。例えば、FMCWレーダーは、複数のチャープを含むバースト波を有する。各チャープでは、周波数が時間的に掃引されている。本例のセンサ装置100は、距離Rを位相で計算することにより、FMCWレーダーを数mm単位の微小振動を検知する生体センシングに用いる。
受信部14は、生体300で反射したFMCWレーダーの反射波を受信し、IF信号を出力する。IF信号は、反射波のTOF(Time of Flight)に比例したIF(Intermediate Frequency)周波数にダウンコンバートした信号である。TOFは、送信された送信波が反射波として受信されるまでの時間である。TOFは、センサ装置100と生体300との距離Rが大きいほど長くなる。センサ装置100は、IF信号をAD変換し、信号処理することにより、生体300の距離Rおよび速度Vを算出する。センサ装置100は、複数の受信部14を備えてよい。センサ装置100は、複数の受信部14を備えることにより、生体300の位置の角度θに関する情報を取得することができる。
入力部20には、受信部14が受信した生体300の反射波をダウンコンバートしたIF信号が入力される。入力部20は、入力されたアナログのIF信号をデジタルに変換する。例えば、送受信部10と入力部20は、RFIC等の集積回路である。
信号処理部30は、入力部20が出力したデジタルの受信信号に基づいて、生体300を検知する。本明細書において、生体300の検知とは、生体300の距離R、速度Vおよび角度θ等を取得して、生体300の存在を検出することを指す。例えば、信号処理部30は、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)である。なお、生体300の距離R、速度Vおよび角度θについては後述する。
また、信号処理部30は、受信信号として、生体300の微小振動データに基づいて生体300をセンシングする。本明細書において、生体300のセンシングとは、生体300の微小振動データ等の生体信号を取得することを指す。生体信号は、生体300が生きていれば存在するものであり、呼吸や心拍などにより発生する。
微小振動データは、生体300の心拍や呼吸に基づくデータである。一例において、センサ装置100は、微小振動データとして、FMCWレーダーの波長を最大とした解像度の振動を得る。例えば、FMCWレーダーで用いられる事の多いミリ波帯(30~300GHz程度の周波数帯)の1波長の100倍~1000倍の解像度である。
センサ装置100は、生体300にFMCWレーダーを送信することにより、生体300をセンシングする。センサ装置100は、FMCWレーダーの変調された周波数に基づく受信信号を適切に信号処理することにより、センサ装置100と生体300との相対速度が0の場合であっても、生体300との距離変化無しとして、生体300を検知できる。
なお、信号処理部30は、受信信号のパワー変換スペクトルの複数のピークを検出することにより、複数の生体300を検知し、センシングしてもよい。センサ装置100は、FMCWレーダーを用いることにより、複数の生体300の距離R、速度Vおよび角度θをそれぞれ取得することができる。
センサ装置100は、FMCWレーダーを用いるので、広い空間に存在する1つもしくは複数の生体300の距離R、速度Vおよび角度θを検知するシステムにおいて、広角のビームで走査すればよく、狭ビームで走査する必要がない。また、センサ装置100は、FMCWレーダーによる生体300の検知と同時に、位相変換等の簡単な信号処理の追加だけで、生体センシングも実現できる。
図1Bは、送信部12が送信するFMCWレーダーの一例を示す。FMCWレーダーは、1バースト中にm個のチャープを含む。mは、2以上の整数である。センサ装置100は、チャープの周波数を変調し、送信波と受信波の差分を解析することにより、生体300の距離R、速度Vおよび角度θを算出する。センサ装置100は、生体300の位置や状態に応じて、チャープの周波数の変調幅や周期を適宜調整してよい。本例のFMCWレーダーでは、m個の同一波形のチャープを含むが、異なる波形のチャープを含んでもよい。
FMCWレーダーは、生体300からのエコーが返ってくる時間差を利用して、ターゲットまでの距離や相対速度を検知するレーダーである。本例のFMCWレーダーは、より広角での近距離検知に重きをおいて、ファーストチャープFMCW方式を採用している。例えば、FMCWレーダーは、数μ秒から数百μ秒程度の周期で周波数をリニアにアップダウンさせ、アップもしくはダウンの一方のみを検知に用いる。但し、FMCW方式では、アップおよびダウンの両方を検知に用いてもよい。
FMCWレーダーは、複数のチャンネルを配置する事で角度情報も同時に検知できる。例えば、FMCWレーダーは、76G帯(76~77GHz)において長距離検知を実現し、79G帯(77~81GHz)において中距離検知や短距離検知を実現する。なお、FMCWレーダーは、数ミリ秒から数百ミリ秒程度の周期で周波数をリニアに上下させる方式であってもよい。
これに対して、ドップラーレーダーは、ターゲットの相対速度に起因するドップラーシフトを利用してターゲットまでの距離や相対速度を検知するレーダーである。例えば、ドップラーレーダーは、2周波CW方式に代表される。ドップラーレーダーでは、ドップラーシフトが無いとターゲットを検知できない。また、ドップラーレーダーでは、複数のターゲットを中間の距離にある1つのターゲットと認識してしまうので、複数のターゲットを検知できない。
図1Cは、生体300の距離R、速度Vおよび角度θを説明するための図である。同図は、送受信部10からFMCWレーダーの送信波を送信し、生体300からの反射波を送受信部10で受信する場合を示している。本例では、簡略化のため、送信部12および受信部14を同一の位置として考えている。
生体300は、送受信部10から距離Rの位置において、速度Vで変動している。速度Vは、送受信部10と生体300との相対速度である。角度θは、送受信部10からみた生体300の角度である。具体的には、受信部14が配列された方向をX軸方向とし、FMCWレーダーを出射するX軸と垂直な方向をY軸とした場合、角度θは、XY平面において、Y軸と生体300の位置がなす角度である。
図1Dは、生体300の距離R、速度V、角度θおよび角度φを説明するための図である。センサ装置100は、XY平面と垂直な新たな軸(Z軸)を検知する、いわゆる3Dレーダーとしても同様の原理で生体300を検知し、センシングすることができる。その場合、センサ装置100は、生体300をXY平面に投影した角度θに加えて、YZ平面に投影した角度φを用いることにより、3次元の情報を取得する。
図2は、システム200の動作原理を説明するための図である。システム200は、生体300の距離R、速度Vおよび角度θを検知する。
送受信部10は、複数のチャネルを有する。一例において、送受信部10は、1個の送信部12と、k個の受信部14を有する。kは、1以上の整数である。送受信部10は、複数のチャネルを有することにより、角度θを検出することができる。k個の受信部14には、生体300aと生体300bからの反射信号がそれぞれ入力される。入力部20には、送受信部10からのIF信号が入力されAD変換される。信号処理部30には、入力部20からのデジタルデータが入力され、FFTなどの信号処理が実行される。
データキューブ38は、距離R、速度Vおよび角度θに関するデータを含む。データキューブ38は、距離FFT、速度FFTおよび角度FFTにより得られたデータ列を含む。
距離データ列をパワー変換する事によって、BIN数がn/2の距離パワースペクトルが得られる。距離パワースペクトルは、生体300aおよび生体300bの距離に対応する2つのピークBINを含む。
距離パワースペクトルのピークBIN位置に対応したデータ列に速度FFTを実行し、新たに得られた速度データ列をパワー変換する事によって、BIN数がmの速度パワースペクトルが得られる。速度パワースペクトルは、生体300aもしくは生体300bの速度に対応するピークBINを含む。どちらの生体の速度に対応するかは、選択した距離パワースペクトルのピークBIN位置に依存する。
距離パワースペクトルのピークBIN位置に対応したデータ列に角度FFTを実行し、新たに得られた角度データ列をパワー変換する事によって、BIN数がkの角度パワースペクトルが得られる。角度パワースペクトルは、生体300aもしくは生体300bの角度に対応するピークBINを含む。どちらの生体の角度に対応するかは、選択した距離パワースペクトルのピークBIN位置に依存する。センサ装置100は、距離FFTで得られた生体300の距離データ列を位相変換する事で得られる位相情報を時系列に算出し、生体300の生体信号データを取得する。なお、生体信号情報として用いる位相情報のBIN位置は、距離パワースペクトルのピークBIN位置に対応する。
図3Aは、生体300までの距離Rを検知する原理を説明するための図である。生体300までの距離Rは、少なくとも1つのチャープの距離FFTにより算出される。グラフの実線は、FMCWレーダーの波形を示す。グラフの破線は、FMCWレーダーの受信波を示す。縦軸は周波数を示し、横軸は時間を示す。
IF周波数は、FMCWレーダーの送信波および受信波をミキシングして得られる周波数である。IF周波数は、センサ装置100と生体300との距離Rが大きいほど高くなる。センサ装置100は、一定期間、生体300までの距離Rに比例したIF周波数を得ることができる。即ち、センサ装置100は、IF周波数を解析することにより、生体300までの距離Rを取得できる。
センサ装置100は、チャープ毎に距離FFT処理を実行する。例えば、FFTポイント数がnポイントの場合、実部と虚部のデータ列がそれぞれn/2ポイント得られる。即ち、BIN数がn/2となる。センサ装置100は、距離FFTの結果に基づいてパワー変換することにより、ピークBINを算出する。センサ装置100は、ピークが現れる周波数に基づいて生体300までの距離Rを算出できる。
図3Bは、生体300の速度Vを検知する原理を説明するための図である。バースト内の複数回のチャープに対する距離FFTで得られた各データ列に対し、距離パワースペクトルのピークBIN位置に対応する新たなデータ列に対して、速度FFTを実行する。1バーストには、m回のチャープが含まれる。生体300の速度Vは、速度FFTの結果に基づいてパワー変換することにより算出される。
センサ装置100は、1バースト分で速度FFT処理を実行する。例えば、1バースト中のチャープ数がmの場合、実部と虚部のデータ列がそれぞれmポイント得られる。即ち、BIN数がmとなる。センサ装置100は、速度FFTの結果に基づいてパワー変換することにより、ピークBIN位置を算出する。センサ装置100は、ピークの周波数から速度Vを計算することができる。
図3Cは、生体300の角度θを検知する原理を説明するための図である。角度θは、各チャネルのチャープに対する距離FFTで得られた各データ列に対し、距離パワースペクトルのピークBIN位置に対応する新たなデータ列に対して、角度FFTを実行する。1回のチャープにより、k個のチャネルに応じたk個のチャープが含まれる。
センサ装置100は、kチャネル分で角度FFT処理を実行する。例えば、kチャネルの場合、実部と虚部のデータ列がそれぞれkポイント得られる。即ち、BIN数がkとなる。センサ装置100は、X軸方向に配列したkチャネルの受信部14で受信波を受信する。それぞれの受信部14が受信する受信波には、生体300の角度θに応じた位相差が生じるので、kチャネルの受信信号を解析することにより、生体300の角度θを算出できる。角度FFTの結果に基づいてパワー変換することにより、ピークBIN位置を算出する。センサ装置100は、ピークの周波数から角度θを計算することができる。
図4Aは、単一の生体300をセンシングする方法の一例を説明するための図である。センサ装置100は、距離FFTにより得られたパワースペクトルのピークの位相をチャープごとに算出する。本例では、BIN数がn/2のパワースペクトルにおいて、1つのピークが得られる。即ち、センサ装置100は、1つの生体300をセンシングしている。
センサ装置100は、生体300のパワースペクトルのピーク位置の位相情報を取得することにより、生体300の生体信号をセンシングする。センサ装置100は、チャープ毎の位相情報の変化を、生体300の微小な距離変化として検出する。例えば、80GHzのFMCWレーダーにおいて、360°が1波長である約4mmに相当する。本例のセンサ装置100は、距離データに基づいて、生体300の位相情報を取得する。
ピークBINの位相情報は、tan-1(虚部/実部)であらわされる。なお、本例のセンサ装置100は、距離データに基づいて、生体300の位相情報を取得するが、これに限られない。例えば、センサ装置100は、速度データ又は角度データに基づいて、生体300の位相情報を取得してもよい。以下に、算術的な説明を記載する。
図4Bは、生体300を送受信部10とセンサ装置100を用いてセンシングする場合において、生体300からセンシングする情報(距離、速度、角度および生体信号)が、時間的なスケール差や、空間的なスケール差を利用することによって、各FFT処理により、どのようにして各情報を分離していくかを算術的に説明するための図である。
送受信部10の出力であるIF信号の一般式は、スケールの異なる時間と空間(チャネル)を変数として、次式で示される。
ここで、tは、距離検知の時間スケールの実時間を示す。ω
rは、距離に依存した周波数成分を示す。T
cは、チャープ周期(即ち、相対速度検知の時間スケール)を示す。ω
vは、相対速度に依存した周波数成分を示す。ω
σは、角度に依存した周波数成分を示す。T
bは、バースト周期(即ち、生体信号検知の時間スケール)を示す。ω
hは、生体信号に依存した周波数成分を示す。
(数1)式においてtを変数としてフーリエ変換すると、距離FFTを実行した場合と同意となり、次式のように変換される。
(数3)式は、一段階長い時間スケール(この場合T
c)で距離がほとんど変わらないことが条件となる。(数3)式の右辺第二項において、距離に依存した周波数がω
R=ω
rである時に、Yは極値(ピーク)となり、つまり距離を示す周波数となる。FFTの場合は、BIN位置に相当する。当該周波数のみに注目すれば(数3)式は、次式で示される。
続いて、(数4)式について、T
cを変数としてフーリエ変換すると、速度FFTを実行した場合と同意となり、次式のように変換される。
(数6)式は、一段階長い時間スケール(この場合T
b)で速度がほとんど変わらないことが条件となる。(数6)式の右辺第二項において、速度に依存した周波数がω
V=ω
vである時に、Yは極値(ピーク)となり、つまり速度を示す周波数となる。FFTの場合は、BIN位置に相当する。当該周波数のみに注目すれば(数6)式は、次式で示される。
続いて、(数7)式についてkを変数としてフーリエ変換すると、角度FFTを実行した場合と同意となり、次式のように変換される。
(数9)式は、全ての受信部で検知した距離と速度が同じであることが条件となる。(数9)式の右辺第二項において、角度に依存した周波数がω
θ=ω
σである時に、Yは極値(ピーク)となり、つまり角度を示す周波数となる。FFTの場合は、BIN位置に相当する。当該周波数のみに注目すれば(数9)式は、次式で示される。
以上に示した3段階のフーリエ変換(FFT)を経て、距離、速度および角度の情報を分離することが可能となった。ここで、(数4)式、(数7)式、(数10)式の全てに、生体信号に依存する周波数成分ωhを含むので、各式のTbを時間スケールとした変化に注目すれば、上記3式の示す各情報の分離結果の全てから生体情報に依存した周波数ωH=ωhを分離することができる。
なお、FMCWレーダーの時間スケールは、ファーストチャープFMCW方式と呼ばれる周波数変調方式を基準としている。Tcはμ秒オーダー、Tbはミリ秒オーダーを前提としており、生体信号は秒オーダーの周波数であるという認識に基づく。また、一般的に生体信号の要因となる(生体300の体表面の)変化量は、ターゲットとなる生体300の距離、速度および角度の各情報に対するFMCWレーダーの感度に比べて非常に小さい。よって、生体信号そのものが距離、速度、および角度の情報に影響を与えることはない。
図4Cは、複数の生体300をセンシングする方法の一例を説明するための図である。本例のセンサ装置100は、生体300aおよび生体300bをセンシングする。基本的な生体300のセンシング方法は、生体300が単数の場合と同様である。
センサ装置100は、距離FFTにより得られたパワースペクトルのピークの位相をチャープごとに算出する。本例では、BIN数がn/2のパワースペクトルにおいて、2つのピークが得られる。即ち、センサ装置100は、異なる距離Rに位置する2つの生体300aおよび生体300bをセンシングしている。センサ装置100は、生体300のパワースペクトルのピーク位置の位相情報を取得することにより、生体300の生体信号をセンシングする。このように、センサ装置100は、生体300aおよび生体300bの生体信号を同時に取得することができる。
図4Dは、体動のある生体300をセンシングする方法を説明するための図である。生体300の体動は、心拍等の生体信号と比べて、大きな動きである。生体300の体動があると、距離FFTにより得られたパワースペクトルのピークBINの位置が移動する場合がある。
センサ装置100は、FMCWレーダーによる生体センシングの基本原理として、生体300が距離FFTのピークBINをトラックすることにより、生体300の正確な距離情報を得ることができる。一方で、ピークBINがシフトした場合であっても、同一のBINのみをトラックすると、ピークBINに比べて得られる位相情報精度が劣化してしまう場合がある。本例のセンサ装置100は、このような位相情報の精度の劣化を抑制することができる。
図5は、センサ装置100の構成の一例を示す。入力部20は、AD変換部22を備える。信号処理部30は、選択部31と、FFT変換部32と、パワー変換部33と、判断部34と、記憶部35と、出力部36と、位相変換部37とを備える。
AD変換部22は、受信部14が出力したIF信号をデジタルに変換する。AD変換部22は、k個のチャネルごとに設けられてよい。AD変換部22は、変換したデジタルの受信信号を信号処理部30に送信する。AD変換部22は、チャープの波形がアップもしくはダウンしている状態で、サンプリング数nでAD変換する。
選択部31は、AD変換部22が変換したデジタルの受信信号が入力される。選択部31は、距離FFT、速度FFTおよび角度FFTのいずれかに応じたタイミングでデジタルの受信信号を選択する。選択部31は、選択したデジタルの受信信号をFFT変換部32に出力する。選択部31は、kチャネルに対応してk個設けられている。例えば、選択部31は、距離FFT時に受信信号を選択し、速度FFTおよび角度FFT時に記憶部35に記憶されたデータを選択する。
FFT変換部32は、AD変換部22が出力したデジタルの受信信号、もしくは記憶部35に記憶された信号をFFT変換する。FFT変換部32は、kチャネルに対応してk個設けられている。FFT変換部32は、選択部31が選択したデータに応じて、距離FFT、速度FFTおよび角度FFTのいずれかを実行する。
パワー変換部33は、FFT変換部32が変換した信号に基づいて、パワースペクトルを算出する。パワースペクトルを算出することにより、生体300の距離R、速度Vおよび角度θを検出することができる。パワー変換部33は、kチャネルに対応してk個設けられている。
判断部34は、パワースペクトルのピーク位置を判断する。これにより、判断部34は、生体300の存在を検知する。一例において、判断部34は、スペクトルレベルが周辺よりも高いBINを判断する。例えば、判断部34は、一定誤警報率(CFAR:Constant False Alarm Ratio)処理を実行する。判断部34は、CFAR処理を実行することにより、クラッタ等の不要な信号を分離し、より精度の高いピークBIN検出を実行することが可能となる。判断部34は、kチャネルに対応してk個設けられている。
記憶部35は、FFT変換部32が出力したFFT変換信号を記憶する。記憶部35は、記憶したデータを選択部31に出力する。また、記憶部35は、記憶したデータを外部に出力してもよい。記憶部35は、BIN数がn/2の距離データ列と、BIN数がmの速度データ列と、BIN数がkの角度データ列とをそれぞれ記憶する。nは1チャープ当たりのADCサンプリング数であり、mは1バースト当たりのチャープ数であり、kはチャネル数である。
出力部36は、判断部34の出力結果に応じて、記憶部35のアドレスを指定する。出力部36の示すアドレスは、距離、速度および角度それぞれのパワースペクトルのピークBIN位置を意味することであり、即ち、生体300の距離、速度および角度の検知結果として外部に出力してもよい。
位相変換部37は、各FFT結果として得られた、距離データ列、速度データ列および角度データ列を位相変換することにより、生体300の位相情報を取得する。位相変換部37は、生体300のセンシング結果である生体信号データを外部に出力してよい。
図6Aは、距離FFT実行時のセンサ装置100の動作の一例を示す。本例のセンサ装置100は、FMCWレーダーの受信波からIF信号を取得し、距離データを算出する。
AD変換部22は、m個のチャープの最初のチャープに対してAD変換を実行する。AD変換部22のサンプル数はn個である。ADCサンプル時刻は、均等な間隔でサンプルするように設定されている。選択部31は、AD変換部22からの信号を選択してFFT変換部32に入力する。
FFT変換部32は、FFT変換した信号を記憶部35およびパワー変換部33に出力する。出力部36は、判断部34から入力されたパワースペクトルに応じて、ピークBINを取得する。出力部36は、距離データを外部に出力する。
図6Bは、生体信号データの出力時のセンサ装置100の動作の一例を示す。本例のセンサ装置100は、1番目のチャープの距離FFTに基づいて生体信号データを出力する。
出力部36は、1番目のチャープに基づくパワースペクトルのピークBINに対応するアドレスを記憶部35に出力する。記憶部35は、出力部36が指定したアドレスを生体300aおよび生体300bのデータとして選択する。
位相変換部37は、出力部36が指定したピークBINに対応するデータを位相変換部37へ出力する。位相変換部37で変換された位相情報が生体300の微小振動データに相当する。本例のセンサ装置100は、生体300aおよび生体300bの2つの生体300を検出している。一例として、センサ装置100は、複数の生体300を距離の違いで区別することにより、複数の生体300の検知を同時に実行する。
図6Cは、図6Aと異なるチャープを対象とした距離FFT実行時のセンサ装置100の動作の一例を示す。本例のセンサ装置100は、m番目のチャープをサンプリングする。m番目のチャープは、バースト内の最後のチャープである。
センサ装置100は、m番目のチャープをサンプリングして距離データ列を取得する。センサ装置100は、バースト内の最初のチャープの距離データ列から最後のチャープの距離データ列までの任意のデータ列を平均化してもよい。また、センサ装置100は、バースト内の全てのチャープ1~mの距離データ列を平均化してもよい。センサ装置100は、複数のチャープの平均データ列に対する距離FFT結果を用いることにより、S/N比を向上できる。
図6Dは、生体信号データの出力時のセンサ装置100の動作の一例を示す。本例のセンサ装置100は、m番目のチャープの距離FFTに基づいて生体信号データを出力する。
出力部36は、m番目のチャープに基づくパワースペクトルのピークBINに対応するアドレスを記憶部35に出力する。記憶部35は、出力部36が指定したアドレスを生体300aおよび生体300bのデータとして選択する。本例では、m番目のチャープの距離FFTに基づいて生体信号データを出力している点で、図6Bの場合と相違する。
センサ装置100は、チャープ1~mの距離データ列を平均化することにより、S/N比を向上させてもよい。例えば、センサ装置100は、最後のチャープ終了後に記憶部35のデータ列を平均化した後にパワー変換し、パワースペクトルのピークBINに対応するデータを、位相変換部37へ出力する。位相変換部37で変換された位相情報が生体300の微小振動データに相当する。
図7Aは、速度FFT実行時のセンサ装置100の動作の一例を示す。センサ装置100は、1~m番目のチャープのデータを記憶部35に記憶した後に実行する。即ち、センサ装置100は、バーストの終了後に速度FFTを実行する。本例のセンサ装置100は、出力部36から速度データを出力する。
記憶部35は、記憶したデータ列を選択部31に出力する。本例の記憶部35は、距離FFTにより得られたパワースペクトルのピークBIN位置に対応するデータを選択部31に出力する。選択部31は、記憶部35から入力されたデータをFFT変換部32に出力する。即ち、速度データを出力する場合、選択部31には、AD変換部22から新たな受信信号が入力されない。
このように、センサ装置100は、距離FFTで検出した生体300のパワースペクトルのピークBINに応じて、速度FFTを選択的に実行する。これにより、信号処理部30で処理するデータ数を低減できる。なお、センサ装置100は、ピークBINに加えて、ピークBINに隣接するBINの速度FFTを実行してもよい。
図7Bは、生体信号データの出力時のセンサ装置100の動作の一例を示す。本例のセンサ装置100は、速度FFTに基づいて生体信号データを出力する。
位相変換部37は、出力部36が指定したピークBINに対応するデータを、位相変換部37へ出力する。位相変換部37で変換された位相情報が生体信号データとして外部に出力される。本例のセンサ装置100は、生体300aおよび生体300bの2つの生体300の生体信号をセンシングしている。一方で、センサ装置100は、複数の生体300を速度の違いで区別することにより、複数の生体300の検知を同時に実行することも可能である。
図8Aは、角度FFT実行時のセンサ装置100の動作の一例を示す。センサ装置100は、1~k番目のチャネルのデータを記憶部35に記憶した後に実行する。即ち、センサ装置100は、バーストの終了後に角度FFTを実行する。本例のセンサ装置100は、出力部36から角度データを出力する。
記憶部35は、記憶したデータ列を選択部31に出力する。本例の記憶部35は、距離FFTにより得られたパワースペクトルのピークBINの周波数のデータを選択部31に出力する。選択部31は、記憶部35から入力されたデータをFFT変換部32に出力する。即ち、本例では、選択部31には、AD変換部22から新たなデジタルの受信信号が入力されない。
このように、センサ装置100は、距離FFTで検出した生体300のパワースペクトルのピークBINに応じて、角度FFTを選択的に実行する。これにより、信号処理部30で処理するデータ数を低減できる。なお、センサ装置100は、ピークBINに加えて、ピークBINに隣接するBINの角度FFTを実行してもよい。
図8Bは、生体信号データの出力時のセンサ装置100の動作の一例を示す。本例のセンサ装置100は、角度FFTに基づいて生体信号データを出力する。一方で、センサ装置100は、複数の生体300を角度の違いで区別することにより、複数の生体300の検知を同時に実行することも可能である。
図9Aは、ピークBIN周辺のパワースペクトルを示す。本例のセンサ装置100は、位相情報を用いることにより、生体300が移動した場合であっても、ピークBINを追従できる。
ここであらためて図4Dを見ると、例えば生体300の体動により、BIN位置がkからk+1に移動する場合がある。このように、BIN位置が移動すると、位相情報の連続性が失われてしまう。以下に、このようなBIN位置シフトが起こっても、位相情報の連続性が失われないようにする方法を説明する。
位相変換部37は、受信信号から位相情報を取得する。位相変換部37は、ピークBINの位相情報に加えて、ピーク隣接BINの位相情報を取得する。
ピーク隣接BINとは、ピークBINの前後で隣接するBINである。例えば、ピークBINがBIN(k)の場合、ピーク隣接BINは、BIN(k-1)およびBIN(k+1)となる。センサ装置100は、ピークBIN(k)だけでなく、ピーク隣接BIN(k-1)およびピーク隣接BIN(k+1)も生体300の生体信号として用いることができる。
位相変換部37は、位相情報に基づいて、ピークBINと、ピークBINと他のBINとの間の位相オフセットをモニターする。位相オフセットとは、ピークBINとピーク隣接BINのそれぞれとの位相差である。位相変換部37は、ピークBINと隣り合うBINとの間の位相オフセットのみをモニターしてよい。センサ装置100は、同一の生体300の生体信号を検知しているので、基本的に隣接BINの位相オフセットは一定値となる。
生体300が移動すると、ピークBINの位置が動く場合がある。センサ装置100は、位相オフセットに基づいて、生体300のピークBINをトラックする。例えば、センサ装置100は、生体300の体動によりピークBINのシフトが発生した場合、位相モニターもピークBINへシフトさせる。また、センサ装置100は、それまでモニターしてきた位相オフセットを考慮することにより、位相の連続性を保つことができる。
ここで、距離FFTのパワースペクトルは、ノイズや窓関数などの効果により、ピークBIN±数BINのサイドローブを有する。FMCWレーダーの距離FFT結果におけるBIN間隔は、チャープ周波数幅をFswpとすると、次式で示される。
BIN間隔=C/(2・Fswp)
例えば、Fswp=4GHzの場合、BIN間隔は3.75cmとなる。一例において、ファーストチャープFMCW方式におけるチャープ周期は、数μ秒から数百μ秒である。ピークBINシフトが2BIN分となる体動速度(Vbody)は、次式で示される。
Vbody=2×3.75/100(cm/μ秒)=750(m/秒)
したがって、センサ装置100は、ピークBINシフトが2BIN分となる体動速度は考えにくく、ピークBINの前後1BIN分の位相をモニターすれば十分である。よって、センサ装置100は、ピークBIN(k)とそのピーク隣接BIN(k-1)およびピーク隣接BIN(k+1)をモニターすればよい。
なお、位相変換部37は、一例において、距離FFTのデータに基づいて、生体300の位相情報を算出する。この場合、位相変換部37は、複数のチャープで平均化した距離FFTのデータに基づいて、生体300の位相情報を算出してよい。また、位相変換部37は、速度FFT又は角度FFTのデータに基づいて、生体300の位相情報を算出してよい。速度FFT又は角度FFTのデータに基づいて、生体300の位相情報を算出する場合、位相情報が複数のチャープに基づくのでS/N比が向上しやすくなる。
本例のセンサ装置100は、1つもしくは複数の生体300の体動等により、検知中に距離FFTのピークBINがシフトした場合、予めピーク隣接BINの位相情報を算出しておき、ピークBINシフトが発生した場合でも、位相情報が不連続になる事を回避する。これにより、センサ装置100は、生体300の体動があった場合であっても、精度よく生体300を検知し、センシングすることができる。
センサ装置100は、生体300が静止している(即ち、生体信号を発していない)場合でも、ターゲットを見失う事なく、「静止している、かつ、生体信号を発していないターゲット」として認識できる。例えば、センサ装置100は、不測の事態で生体信号が停止してしまった生体300の急変を検知することもできる。
センサ装置100は、本来の物体検知(距離、速度および角度)に加えて生体信号もセンシングできる。例えば、センサ装置100は、ADAS(先進運転アシストシステム)や自動運転システムのセンサ装置として用いると、画像認識などの複雑な信号処理を必要としないで、検知された物体が生体(例えば、人など)かどうかを瞬時に識別することが可能となる。これにより、車などの非生体と生体(例えば、人など)が混在する交差点などの状況において、容易に人を認識して早めの回避アクションをとることが可能となる。よって、人身事故などの重大事故を未然に防ぐことができる。
センサ装置100を災害救助などに用いると、土砂や雪、倒壊家屋などで埋もれてしまった数多くの物体から生体(人など)を容易に識別できるようになる。これにより、センサ装置100を災害時の人命救助に役立てることができる。
センサ装置100を用いると、非接触な生体センシングの課題の一つであった生体信号以外の体動の影響を容易に除去することが可能となり、必要以上のダイナミックレンジを確保する必要がなくなる。以下で、その説明を行う。
前述したように、センサ装置100で検知した距離FFTのパワースペクトルのBIN間隔は、C/(2・Fswp)で与えられる。例えば、Fswp=4GHzでは、BIN間隔は3.75cmとなる。即ち、生体300の体動により3.75cmの移動があると、パワースペクトルのピークBIN位置が隣接BINに移動することになる。図9Aを用いて説明した動作により、BINの移動が観測されると、位相変換部37へ入力するデータ列をピークBINのシフトに追従させればよい。これにより、生体センシング精度の劣化を抑制できる。言い換えると、生体300の体動により3.75cmの移動が起こった場合、生体300の生体信号による微小な動きの延長として捉える必要はなく、BINの移動で対応すればよいことになるので、生体信号検知のダイナミックレンジを大きく抑圧することができることを意味する。
例えば、生体300の最大移動範囲(即ち、生体センシングを行ううえで想定しておく移動範囲)を10mとし、生体センシングに必要な微小変位の解像度を0.01mmとする。解像度が0.01mmあれば、心拍などを検知することもできる。この場合、必要なダイナミックレンジは次のように計算できる。
体動によりピークBINのシフトを考慮しない場合次式を満たす。
Drange1=10[m]/0.01[mm]=1000000(120dB)
ピークBINシフトを考慮した場合次式を満たす。
Drange2=3.75[cm]/0.01[mm]=3750(72dB)
FMCWレーダーを用いて生体センシングを行うことは、必要なダイナミックレンジを大きく抑圧できることに他ならない。
一方、センサ装置100で検知した速度FFTのパワースペクトルのBIN間隔は、次のような式で計算できる。
ここで、c:光速、f0:送受信の中心周波数(チャープの中心周波数)、T
c:チャープ周期、m:1バースト中のチャープ数、である。例えば、f0=79GHz、T
c=100μ秒、m=256、とすれば、BIN間隔は±0.074[m/秒]となり、生体300の速度検知の解像度となる。
図9Bは、体動を持った生体300の生体信号の時間的な変動の一例を示した図と、速度情報から体動を補正した図を示す。図9Bは、速度情報を生体センシングに利用してダイナミックレンジを抑圧する概念を示す。グラフが示す振動は生体300による微小変動を示し、全体的な傾きは生体300の体動による速度(=距離/時間)を示している。
例えば、Fswp=4GHz(距離の解像度は3.75[cm])、生体300の体動の速度=1[m/秒]とすれば、生体300の体動で距離BIN1つ分移動する時間は、3.75[cm]/1[m/秒]=37.5[ミリ秒]となる。一方で、この3.75[ミリ秒]の時間において、速度解像度=±0.074[m/秒]で補正できる距離解像度は、37.5[ミリ秒]×0.074[m/秒]=2.775[mm]となり、この値はf0=79GHzの一波長(約3.8[mm])以下であるので、速度情報を生体センシングに用いれば、必要なダイナミックレンジは一波長分あればよいという事になる。
Drange3=3.8[mm]/0.01[mm]=380(52dB)
したがって、速度情報を生体センシングに利用してダイナミックレンジを抑圧することは、距離情報を生体センシングに用いた場合のダイナミックレンジ抑圧よりもさらに大きな抑圧が期待できるということになる。
図10は、他の実施例に係るシステム200の構成の一例を示す。本例のシステム200は、送受信部10にレーダー制御部16と信号処理制御部17を備える点で図1Aのシステム200と相違する。
レーダー制御部16は、送信部12が送信するFMCWレーダー送信状態や、受信部14が受信するFMCWレーダー受信状態を制御する。
レーダー制御部16は、生体検知に適した第1FMCWレーダー条件を送信部12に設定する。第1FMCWレーダーは、生体300の距離、速度および角度を検知するために適当なチャープ波形、送信パワー、送信ビームフォーミングなどを有する。また、レーダー制御部16は、生体検知に適した第1FMCWレーダー条件を受信部14に設定する。第1FMCWレーダーは、生体300を検知するために適した受信感度、受信ビームフォーミングなどを有する。レーダー制御部16は、センサ装置100が検知する生体300に応じて、第1FMCWレーダーの送受信条件を適宜変更してよい。例えば、レーダー制御部16は、広い空間内に存在する可能性のある生体位置を検知するために、比較的遠距離に適したチャープ波形、比較的大きい送信パワー、比較的高い受信感度、比較的高角度な検知範囲となるビームフォーミングなどを、送信部12や受信部14に設定する。
信号処理制御部17は、生体検知に適した第1FMCWレーダー条件に適した信号処理条件を信号処理部30に設定する。第1FMCWレーダーは、生体300の距離、速度および角度を検知するために適当なデジタルビームフォーミング、FFTポイント数、FFTウィンドウ関数、各FFT結果の平均数、ピーク判断条件(例えば、CFAR条件)などを有する。信号処理制御部17は、センサ装置100が検知する生体300に応じて、第1FMCWレーダーの信号処理条件を適宜変更してよい。例えば、信号処理制御部17は、広い空間内に存在する可能性のある生体位置を検知するために、比較的遠距離や比較的数の多い検知対象(非生体も含む)に適したデジタルビームフォーミング、FFTポイント数、FFTウィンドウ条件、FFT平均数、ピーク判断条件(例えば、CFAR条件)などの設定を、信号処理部30に設定する。
また、レーダー制御部16は、生体センシングに適した第2FMCWレーダー条件を送信部12に設定する。第2FMCWレーダーは、生体300の生体情報をセンシングするために適当なチャープ波形、送信パワー、送信ビームフォーミングなどを有する。また、レーダー制御部16は、生体センシング用に適した第2FMCWレーダー条件を受信部14に設定する。第2FMCWレーダーは、生体300の生体情報をセンシングするために適当な受信感度、受信ビームフォーミングなどを有する。レーダー制御部16は、センサ装置100がセンシングする生体300に応じて、第2FMCWレーダーの送受信条件を適宜変更してよい。レーダー制御部16は、第1FMCWレーダーによって検知された生体300の距離、速度および角度によって、例えば、比較的近距離に、比較的狭い範囲に、比較的少ない生体数であることが判明したとすれば、第2FMCWレーダーとして、それに適したチャープ波形、送信パワー、受信感度、ビームフォーミングなどを、送信部12や受信部14に設定する。
信号処理制御部17は、生体センシングに適した第2FMCWレーダー条件に適した信号処理条件を信号処理部30に設定する。第2FMCWレーダーは、生体300の生体情報をセンシングするために適当なデジタルビームフォーミング、FFTポイント数、FFTウィンドウ関数、各FFT結果の平均数、ピーク判断条件(例えば、CFAR条件)などを有する。信号処理制御部17は、センサ装置100が検知する生体300に応じて、第2FMCWレーダーの信号処理条件を適宜変更してよい。信号処理制御部17は、第1FMCWレーダーによって検知された生体300の距離、速度および角度によって、例えば、比較的近距離に、比較的狭い範囲に、比較的少ない生体数であることが判明したとすれば、第2FMCWレーダーは、それに適したデジタルビームフォーミング、FFTポイント数、FFTウィンドウ条件、FFT平均数、ピーク判断条件(例えば、CFAR条件)などの設定を、信号処理部30に設定する。
本例のセンサ装置100は、広い空間に存在する1つもしくは複数の生体300の距離R、速度Vおよび角度θを生体検知に適したFMCWレーダー条件で検知した後、生体300と認識された生体300に対し、生体センシングに適したFMCWレーダー条件でセンシングする。これにより、センサ装置100は、より広範囲な検知領域に存在する1つもしくは複数の生体300の生体信号をより精度よく取得することができる。
図11は、生体300の検知およびセンシングに適したFMCWレーダー条件の一例を説明するための図である。センサ装置100は、第1FMCWレーダー条件および第2FMCWレーダー条件の2種類のFMCWレーダー条件で検知およびセンシングする。
第1FMCWレーダー条件と第2FMCWレーダー条件の違いを、一例を示して説明する。第1FMCWレーダー条件は、前述のように、比較的広い空間に存在する、比較的数の多い検知対象(非生体を含む)を検知することに適するように設定される。第2FMCWレーダー条件は、第1FMCWレーダー条件で検知された生体に対して、比較的狭い空間に存在する、比較的数の少ない生体の生体信号をセンシングすることに適するように設定される。
チャープ波形については、第1FMCWレーダー条件として、第2FMCWレーダー条件との比較で、比較的長い距離、比較的低い距離解像度、比較的低い速度解像度となり、チャープ周波数幅は狭く、チャープ周期は長く、1バースト中のチャープ数は少なく設定される。送信パワーや受信感度については、第1条件は第2条件に比べ、高送信パワー、高受信感度(ともに高電力消費)に設定される。ビームフォーミングについては、第1条件は第2条件に比べ、広範囲に指向性が少なく設定される。信号処理については、第1条件は第2条件に比べ、FFTポイント数は少なく、CFARは検知対象数が多い場合に適した計算法で設定される。
なお、センサ装置100は、第1FMCWレーダー条件と、第2FMCWレーダー条件を同一にしてもよい。例えば、比較的狭く限られた空間に、比較的少ない数の検知対象と生体が存在するような場合は、ことさら第1FMCWレーダー条件と、第2FMCWレーダー条件を異なって設定する必要はない。
図12は、送信部12の構成の一例を示す。送信部12は、FMCW生成部40と、位相シフタ41と、パワーアンプ42と、送信アンテナ43とを備える。送信部12は、p個のチャネルを有する。pは、2以上の整数である。
FMCW生成部40は、FMCWレーダーの送信波を生成する。FMCW生成部40は、生成した送信波をp個の位相シフタ41に入力する。
位相シフタ41は、レーダー制御部16からの制御により、入力された送信波の位相を調整する。位相シフタ41は、送信部12のチャネル数に応じてp個設けられている。
パワーアンプ42は、位相シフタ41の出力を電力増幅する。パワーアンプ42は、p個の位相シフタ41に対応してp個設けられる。
送信アンテナ43は、送信波を空中へ放射する。送信アンテナ43は、p個のパワーアンプ42に対応してp個設けられる。p個の送信アンテナ43から放射された送信波は空中で合成されてターゲットに向かう。送信波は、位相シフタ41で制御する位相により、放射方向や放射幅などの指向性が制御される。このように、送信部12で送信波の指向性を制御することを、送信ビームフォーミングと呼ぶ。
なお、本例では、送信部12がp個のチャネルを有する場合について説明しているが、送信波の空中放射後には単一のビームとして考えることができる。即ち、p個のチャネルを有する送信部12から単一の送信波が放射されると考えることにより、送信部12がチャネル数を1つのみを有する場合とみなすこともできる。
例えば、レーダー制御部16は、位相シフタ41_1の位相に対して、位相シフタ41_2の位相を+10°シフトさせ、さらに位相シフタ41_pの位相を(+10°×p)シフトさせる。これにより、レーダー制御部16は、全ての位相シフタ41の位相が等しい場合の放射に対して、+10°の方向に放射角度を制御すること(即ち、指向性を持たすこと)が可能である。なお、全ての位相シフタ41の位相が等しい場合とは、位相シフトが0°の場合である。
また、例えば、p個の位相シフタ41のうち、中央の位相シフタ41_(p/2)の位相に対して、位相シフタ41_(p/2+1)を+Y°シフトさせ、さらに位相シフタ41_(p/2+X)を+Y°×(X)シフトさせる。さらに、レーダー制御部16は、位相シフタ41_(p/2-1)を-Y°シフトさせ、位相シフタ41_(p/2-X)を-Y°×(X)シフトさせる。これにより、レーダー制御部16は、全ての位相シフタ41の位相が等しい場合の放射に対して、放射幅に広がりのある指向性を実現できる。
以上の通り、送信部12は、送信ビームフォーミングにより、FMCWレーダーの条件を変更することができる。例えば、送信部12は、生体センシングする第2FMCWレーダー条件として、第1FMCWレーダー条件よりも狭角で、かつ、生体検知された方向に指向性を持たせたビームフォーミングを実行する。
また、レーダー制御部16は、p個のパワーアンプ42を制御してもよい。例えば、レーダー制御部16は、第1FMCWレーダー条件として、より高い電力増幅量で放射することにより比較的長距離の生体検知を実現する。一方、レーダー制御部16は、生体300の検知結果に応じて、パワーアンプ42の電力増幅量を調整する。例えば、レーダー制御部16は、比較的近距離で生体300を検知した場合、第2FMCWレーダー条件として、第1FMCWレーダー条件よりも低い電力増幅量でFMCWレーダーを放射させる。これにより、送信部12は、消費電力を抑圧しつつ、比較的近距離の生体300をセンシングすることができる。
図13は、受信部14の構成の一例を示す。受信部14は、受信アンテナ50と、LNA51と、ミキサ52と、位相シフタ53と、LO信号生成部54とを備える。受信部14は、k個のチャネルを有する。kは、2以上の整数である。
受信アンテナ50は、FMCWレーダーが生体300に反射された受信波を受信する。受信アンテナ50は、任意の間隔でk個配列されている。受信アンテナ50は、受信波をLNA51に出力する。
LNA51は、低ノイズアンプ(LNA:Low Noise Amplifier)である。LNA51は、k個の受信アンテナ50に対応してk個設けられる。なお、受信部14は、LNA51を設けずに受信波を後段のミキサ52に直接入力してもよい。
ミキサ52は、受信波と位相シフタ53の出力とをミキシングする。ミキサ52は、k個のLNA51に対応してk個設けられる。ミキサ52は、受信波と位相シフタ53の出力とをミキシングすることにより、受信波をIF信号にダウンコンバートする。
位相シフタ53は、LO信号生成部54からのLO信号の位相を、レーダー制御部16からの制御に基づいて調整する。レーダー制御部16は、位相シフタ53を適切に制御することにより、受信波の指向性を制御することができる。このように、受信部14で受信波の指向性を制御することを、受信ビームフォーミングと呼ぶ。
例えば、レーダー制御部16は、位相シフタ53_1の位相に対して、位相シフタ53_2の位相を+10°シフトさせ、さらに位相シフタ53_pの位相を(+10°×p)シフトさせる。これにより、レーダー制御部16は、全ての位相シフタ53の位相が等しい場合の放射に対して、+10°の方向に受信角度を制御すること(即ち、指向性を持たすこと)が可能である。なお、全ての位相シフタ53の位相が等しい場合とは、位相シフトが0°の場合である。
以上の通り、受信部14は、受信ビームフォーミングにより、FMCWレーダーの条件を変更することができる。例えば、受信部14は、生体センシングする第2FMCWレーダー条件として、第1FMCWレーダー条件よりも生体検知された方向に指向性を持たせたビームフォーミングを実行する。
また、レーダー制御部16は、k個のLNA51を制御してもよい。例えば、レーダー制御部16は、第1FMCWレーダー条件として、より高い増幅率(即ち、受信感度)で受信することにより、比較的長距離の生体検知を実現する。一方、レーダー制御部16は、生体300の検知結果に応じて、LNA51の増幅率を調整する。例えば、レーダー制御部16は、比較的近距離で生体300を検知した場合、第2FMCWレーダー条件として、第1FMCWレーダー条件よりも低い増幅率で受信波を受信させる。これにより、受信部14は、消費電力を抑圧しつつ、比較的近距離の生体300をセンシングすることができる。
図14は、信号処理部30の具体的な構成の一例である。信号処理部30は、FFT変換部32として、FFT実行部60と、ウィンドウ部61と、位相調整部62と、平均部63とを備える。
選択部31は、AD変換されたIF信号、および記憶部35から選択されたデータ列のいずれかを選択する。k個の選択部31は、選択した信号を、k個のFFT実行部60に入力する。
FFT実行部60は、入力された信号をFFT変換する。ウィンドウ部61は、FFT変換された信号にウィンドウ処理を施す。ウィンドウ部61は、FFT実行部60の後段に設けられるが、FFT実行部60の前段にあってもよい。即ち、FFT実行部60は、ウィンドウ部61でウィンドウ処理された信号をFFT変換してもよい。
位相調整部62は、ウィンドウ処理された信号をデジタル位相調整する。平均部63は、入力された信号を平均処理する。平均部63は、平均処理した信号を記憶部35もしくはパワー変換部33に送信する。出力部36は、記憶部35のデータ選択時のアドレス信号として、判断部34からの出力信号を使用してもよい。
レーダー制御部16は、k個のFFT実行部60、k個のウィンドウ部61、k個の位相調整部62、k個の平均部63およびk個の判断部34のそれぞれの動作を制御してよい。一例において、レーダー制御部16は、FFT実行部60におけるFFTポイント数を制御する。レーダー制御部16は、FFTポイント数を増加させることにより、チャープ周波数幅が一定であれば、より長距離の検知を実現する。
レーダー制御部16は、FFTポイント数をFMCWレーダー条件として制御する。例えば、レーダー制御部16は、第1FMCWレーダー条件として、第2FMCWレーダー条件よりも多くのFFTポイントを設定する。これにより、長距離に位置する生体300を検知する。また、レーダー制御部16は、第2FMCWレーダー条件として、第1FMCWレーダー条件よりも少ないFFTポイントを設定することにより、近距離に位置する生体300のセンシングを実現できる。
図15は、2つのウィンドウ処理方法によるパワースペクトラムの違いを示す。ウィンドウ部61によるウィンドウ処理の方法は、レーダー制御部16により制御されてよい。本例では、Hann窓による処理と、B_H(Blackman_Harris)窓による処理とを比較する。例えば、Hann窓は、B_H窓に比べ、ピーク付近のサイドローブが狭くなるが、ピークから離れたところでのフロアノイズレベルが高くなる。
レーダー制御部16は、FMCWレーダー条件として、ウィンドウ部61の処理方法を制御してよい。例えば、レーダー制御部16は、第1FMCWレーダー条件としてHann窓を用い、第2FMCWレーダー条件としてB_H窓を用いる。これにより、センサ装置100は、ターゲット数が多い状況で出来るだけサイドローブは狭くして生体300を検知することができる。また、センサ装置100は、ターゲット数が限られるものの、フロアノイズを抑圧して生体300をセンシングすることができる。
また、レーダー制御部16は、位相調整部62を制御することにより、各チャネルのFFT結果に対しデジタル的に位相をシフトさせてよい。このように、デジタル的に位相をシフトさせ、結果的に受信指向性を持たせることを、デジタルビームフォーミングと呼ぶ。レーダー制御部16は、デジタルビームフォーミングをFMCWレーダー条件と考え、受信ビームフォーミングと同様に、位相調整部62を制御する。例えば、レーダー制御部16は、第2FMCWレーダー条件として、第1FMCWレーダー条件よりも、生体検知された方向に指向性を持たせたビームフォーミングを実行する。
レーダー制御部16は、平均部63を制御することにより、データの平均数を調整してよい。レーダー制御部16は、平均数をFMCWレーダー条件と考え、第1FMCWレーダー条件として比較的遠方までの生体を検知するために、平均数を多くしてS/N比を向上さてよい。例えば、レーダー制御部16は、比較的近距離で生体300を検知した後、第2FMCWレーダー条件として、第1FMCWレーダー条件よりも平均数を抑える。これにより、信号処理時間を短縮することができる。
図16は、異なるCFAR条件を用いたCFAR判定の結果を示す。レーダー制御部16は、判断部34を制御することにより、CFAR条件を変更する。本例では、SOCA-CFAR(Smallest Of Cell Averaging CFAR)と、GOCA-CFAR(Greatest Of Cell Averaging CFAR)の2つのCFAR条件を用いる。
FFT_resultは、パワースペクトル結果の一例である。図16は、2種類のCFAR条件でターゲット有無のスレショルドを判定した結果を示す。SOCA-CFARは、GOCA-CFARよりも、スペクトルピークの周辺でのスレショルドレベルが低くなる。結果として大きなピークから少し離れたところにある小さなピークに対しても、スレショルドよりも高いレベルが存在している。つまりターゲット有りと判定されている。
このように、センサ装置100は、CFAR条件をFMCWレーダー条件と考え、CFAR条件を調整してよい。センサ装置100は、第1FMCWレーダー条件としてSOCA-CFARを選択すれば、比較的広い空間に存在する比較的数の多いターゲットをもれなく検知することができる。また、センサ装置100は、第2FMCWレーダー条件としてGOCA-CFARを選択すれば、生体数として限られた条件でセンシングすることができる。
[第2実施形態]
図17は、実施例1に係るセンサ装置1100の構成の概要を示す。センサ装置1100は、送受信部1010と、入力部1020と、信号処理部1030とを備える。センサ装置1100は、ターゲット1300を検知する。送受信部1010は、送信部1012および受信部1014を有する。送信部1012および受信部1014は、複数のアンテナ1016を有する。
送信部1012は、ターゲット1300に送信波を送信する。送信部1012は、1又は複数の送信アンテナTXを有する。本例の送信部1012は、N個の送信アンテナTX1~送信アンテナTXNを有する。送信アンテナTXは、アンテナ1016の一例である。
受信部1014は、ターゲット1300で反射した反射波を受信する。受信部1014は、1又は複数の受信アンテナRXを有する。本例の受信部1014は、N個の受信アンテナRX1~受信アンテナRXNを有する。受信部1014は、複数の受信アンテナRXを有することにより、ターゲット1300の位置の角度θに関する情報を取得することができる。受信アンテナRXは、アンテナ1016の一例である。なお、角度θは、後述する通り、複数のアンテナ1016が配列された方向と垂直な軸に対して、ターゲット1300からの送信波が入射する角度である。
例えば、受信部1014は、IF信号を出力する。IF信号は、反射波のTOF(Time of Flight)に比例したIF(Intermediate Frequency)周波数にダウンコンバートした信号である。TOFは、送信された送信波が反射波として受信されるまでの時間である。TOFは、センサ装置1100とターゲット1300との距離Rが大きいほど長くなる。センサ装置1100は、IF信号をAD変換し、信号処理することにより、ターゲット1300の距離Rおよび速度Vを算出する。
入力部1020には、受信部1014の受信アンテナRXが受信した信号が入力される。入力部1020には、受信部1014が受信したターゲット1300の反射波をダウンコンバートしたIF信号が入力される。入力部1020は、入力されたアナログのIF信号をデジタルに変換する。例えば、送受信部1010および入力部1020は、RFIC等の集積回路である。
信号処理部1030は、入力部1020が出力したデジタルの受信信号に基づいて、ターゲット1300を検知する。本明細書において、ターゲット1300の検知とは、ターゲット1300の距離R、速度Vおよび角度θ等を取得して、ターゲット1300の存在を検出することを指す。なお、例えば、信号処理部1030は、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)である。
一例において、センサ装置1100は、ターゲット1300にミリ波を送信し、ターゲット1300を検知するミリ波レーダーとして動作する。本例のセンサ装置1100は、後述する通り、複数のアンテナ1016の配置を工夫し、MIMO技術および相関処理技術を用いることにより、センサ装置1100の開口長の全空間をカバーすることができる。
図18は、MIMO方式のレーダー技術を説明するための図である。本例では、2つの送信アンテナTXと4つの受信アンテナRXを用いて8つの仮想アンテナVを設定する場合について説明する。
MIMO(Multi-In/Multi-Out)方式のレーダー技術では、複数の送信アンテナTXと、複数の受信アンテナRXを用いることにより、複数の仮想アンテナVを設定する。これにより、角度解像度が向上する。例えば、MIMO方式では、送信アンテナ数をNTXとし、受信アンテナ数をNRXとした場合、MIMOによる仮想アンテナ数NMIMOの最大値が、NMIMO=NTX×NRXとなる。MIMO方式では、単純にアンテナ数を増加させる場合よりも、低コストで角度解像度を向上することができる。
本例の仮想アンテナVでは、間隔dで配列された8つの仮想アンテナV1~仮想アンテナV8が得られる。一例において、仮想アンテナVは、間隔4dで配列された2つの送信アンテナTXと、間隔dで配列された4つの受信アンテナRXを用いて生成される。また、他の例において、仮想アンテナVは、間隔dで配列された2つの送信アンテナTXと、間隔2dで配列された4つの受信アンテナRXを用いて生成される。
図19Aは、MIMOレーダーの原理を説明するための図である。本例では、1つの送信アンテナTXと4つの受信アンテナRXを用いて、MIMOレーダーの原理を説明する。4つの受信アンテナRX1~受信アンテナRX4は、それぞれ間隔dで配列されている。隣接する受信アンテナRXには、間隔dに応じて、d・sin(θ)のレーダーの距離差がそれぞれ生じる。これにより、隣接する受信アンテナRXには、位相差ωがそれぞれ発生している。センサ装置1100は、位相差ωを利用することにより、角度θを計算することができる。
図19Bは、1つの送信アンテナTXと8つの受信アンテナRXを用いた場合について説明する図である。受信アンテナRXを8つ設けることにより、0~7d・sin(θ)まで、8種類の距離差を生成できる。これにより、0~7ωまで8種類の位相差が得られる。このように、アンテナ数を増やすことで、角度θの分解能を向上することができる。
図19Cは、2つの送信アンテナTXと4つの受信アンテナRXを用いた場合について説明する図である。2つの送信アンテナTX1および送信アンテナTX2は、間隔4dで配列されている。これにより、送信部1012側において、4d・sin(θ)の位相差を生成しておくことができる。
一方、4つの受信アンテナRXは、間隔dでそれぞれ配列されている。これにより、受信アンテナRXは、0~3d・sin(θ)まで、4種類の距離差を生成できる。これにより、0~3ωまで8種類の位相差が得られる。
ここで、各送信アンテナTXからの受信を区別できれば、4つの受信アンテナRXであっても、0~7d・sin(θ)まで、8種類の距離差を生成できる。結果的に0~7ωまで8種類の位相差が得られる。即ち、図19Cの構成では、図19Bの構成と実質的に等しい位相差を算出できる。
図20Aは、実施形態に係るアンテナ1016の配置例を示す。図20Aでは、アンテナ数が1~8の場合とアンテナ数が16の場合のアンテナ配置例が示されている。本例では、一方向でのアンテナ配置の一例を示す。
アンテナ1016は、予め定められた間隔で配列される。センサ装置1100は、アンテナ1016の配列を工夫することにより、より少ないアンテナ1016で広い開口長をカバーすることができる。本例のアンテナ1016の配置例は、送信アンテナTXの配置に適用されてもよく、受信アンテナRXの配置に適用されてもよい。
例えば、アンテナ1016は、n番目のアンテナ位置pos(n)が(数12)式を満たすように配置される。
ここで、floor(x)は、実数xに対してx以下の最大の整数と定義される床関数である。ceiling(x)は、実数xに対してx以上の最小の整数と定義される天井関数である。modulus(x,a)は、被除数をxとし、除数をaとした剰余演算を示す。例えば、x=3aの場合、modulus(x,a)=0となり、x=3a+1の場合、modulus(x,a)=1となる。
センサ装置1100は、(数12)式を満たすようにアンテナ1016を配列することにより、少ないアンテナエリアで、開口長内の全空間を、最小の信号処理(後述する相関処理)でカバーすることができる。例えば、センサ装置1100は、送信アンテナTXが(数12)式を満たすように配列する。また、センサ装置1100は、受信アンテナRXが(数12)式を満たすように配列してもよい。
図20Bは、(数12)式を用いたアンテナ配置の一例を表形式で示す。図20Bでは、アンテナ番号n、アンテナ位置pos(n)と、アンテナ位置の間隔Δを示す。アンテナ1016は、配列順に応じてアンテナ番号nが割り振られている。
アンテナ位置pos(n)は、アンテナ番号1のアンテナ1016を基準とした位置を示す。アンテナ位置pos(n)の間隔Δは、隣接するアンテナ1016の間隔を示す。例えば、Δ(n)=pos(n+1)-pos(n)で示される。ここで、nは1以上の整数である。
また、(数12)式は、nの値によって場合分けすることにより、(数13)式~(数16)式を用いた次の条件と実質的に等価である。
n=4m-3の場合、次式を満たすようにアンテナ1016が設けられる。
[数13]
Δ(n)=Δ(4m-3)=1
n=4m-2の場合、次式を満たすようにアンテナ1016が設けられる。
[数14]
Δ(4m-2)=2
n=4m-1の場合、次式を満たすようにアンテナ1016が設けられる。
[数15]
Δ(4m-1)=2
ここで、mは、1以上の整数である。
具体的には、
Δ(1)=Δ(5)=Δ(9)=・・・=1
Δ(2)=Δ(6)=Δ(10)=・・・=2
Δ(3)=Δ(6)=Δ(10)=・・・=2
となる。
さらに、その他のnについては、1以上の整数mと、1以上の整数lを用いると、次式を満たすようにアンテナ1016が設けられる。
具体的には、
m=1において、lに1以上の整数を代入すると、次式で示される。
Δ(4)=Δ(12)=Δ(20)=・・・=6
m=2において、lに1以上の整数を代入すると、次式で示される。
Δ(8)=Δ(24)=Δ(40)=・・・=17
m=3において、lに1以上の整数を代入すると、次式で示される。
Δ(16)=Δ(48)=Δ(80)=・・・=50
このように、アンテナ1016を配列するための数式は、(数12)式と同等にアンテナ1016を配列できるものであれば、(数12)式に限定されない。
図21は、アンテナを2次元で配列する場合のMIMO方式の原理を説明するための図である。受信アンテナRXおよび送信アンテナTXは、同一の方向に配列される場合に限られず、2次元的に配置されてもよい。本例では、X軸方向とY軸方向の2方向にアンテナ1016が配列される場合について説明する。
受信アンテナRXは、X軸方向に配列された4つの受信アンテナRX1~受信アンテナRX4を有する。受信アンテナRX1~受信アンテナRX4は、予め定められた間隔dで配列されている。
送信アンテナTXは、3つの送信アンテナTX1~送信アンテナTX3を有する。送信アンテナTX1~送信アンテナTX3は、受信アンテナRXの配列方向に対して2dの間隔で配列されている。また、送信アンテナTX3は、送信アンテナTX1と送信アンテナTX2が配列された方向と垂直なY軸方向において、送信アンテナTX1および送信アンテナTX2と間隔dで配列されている。本例では、4つの受信アンテナRXと、3つの送信アンテナTXを用いて、12個の仮想アンテナV1~仮想アンテナV12が得られる。
仮想アンテナV1~仮想アンテナV8は、送信アンテナTX1および送信アンテナTX2と、受信アンテナRX1~受信アンテナRX4とに基づく仮想アンテナVである。仮想アンテナV1~仮想アンテナV8は、X軸方向に間隔dで設けられる。
仮想アンテナV9~仮想アンテナV12は、送信アンテナTX3と、受信アンテナRX1~受信アンテナRX4とに基づく仮想アンテナVである。送信アンテナTX3が送信アンテナTX1および送信アンテナTX2と間隔dでY軸方向に設けられているので、仮想アンテナV9~仮想アンテナV12も、Y軸方向において、仮想アンテナV1~仮想アンテナV8と間隔dで設けられる。
したがって、センサ装置1100は、アンテナ1016を2次元状に配列することにより、仮想アンテナVの配列を2次元状とすることができる。この場合であっても、センサ装置1100は、送信アンテナTXおよび受信アンテナRXの少なくとも一方が(数12)式を満たすように配列してよい。
図22Aは、実施例1に係るアンテナ1016の配置方法の一例を示す。センサ装置1100は、8つのアンテナ1016で構成される。本例のセンサ装置1100は、4つの送信アンテナTXと、4つの受信アンテナRXを備える。ここでは、5×5のアンテナエリアを使用する場合の実施例について説明する。
受信アンテナRX1~受信アンテナRX4は、X軸方向に配列されている。受信アンテナRX1~受信アンテナRX4は、(数12)式を満たすように配列されている。例えば、受信アンテナRX1と受信アンテナRX2との間の間隔は、予め定められたDhである。受信アンテナRX2と受信アンテナRX3との間の間隔は、2・Dhである。受信アンテナRX3と受信アンテナRX4との間の間隔は、2・Dhである。
送信アンテナTX1~送信アンテナTX4は、Y軸方向に配列されている。送信アンテナTX1~送信アンテナTX4は、(数12)式を満たすように配列されている。例えば、送信アンテナTX1と送信アンテナTX2との間の間隔は、予め定められたDvである。送信アンテナTX2と送信アンテナTX3との間の間隔は、2・Dvである。送信アンテナTX3と送信アンテナTX4との間の間隔は、2・Dvである。
なお、本例の受信アンテナRXは、X軸方向の負側から正側に向けて順番に配列されているが、X軸方向の正側から負側に向けて順番に配列されてもよい。同様に、送信アンテナTXは、Y軸方向の正側から負側に向けて順番に配列されているが、Y軸方向の負側から正側に向けて順番に配列されてもよい。
また、本例では、受信アンテナRXの個数と送信アンテナTXの個数が同一である。但し、受信アンテナRXの個数と送信アンテナTXの個数は、異なっていてもよい。受信アンテナRXの個数と送信アンテナTXの個数が異なる場合であっても、送信アンテナTXおよび受信アンテナRXは、それぞれ(数12)式を満たすように配列される。
図22Aに示すアンテナ配置は、主に送受信間のアイソレーション特性を劣化させないようにL字型に配置した。送信アンテナと受信アンテナのそれぞれが本明細書で開示された実施例に従って配置されていれば、送受信間の相対的なアンテナ位置は本質的には関係ない。
図22Bは、例えば4つのアンテナを本明細書で開示された実施例の趣旨に従って0、1、3、5の位置に配置した場合に、どのような開口長と空間カバーを実現できるかを、理解しやすく説明するための図である。0に位置するアンテナを基準アンテナとして、それぞれのアンテナ位置を基準アンテナからの相対位置を示した。例えば、縦軸に示す3の位置のアンテナから見て、横軸に示す0の位置のアンテナとの相対位置は3(=3-0)であり、横軸に示す1の位置のアンテナとの相対位置は2(=3-1)である。このように、全てのアンテナ間の相対位置を計算した結果が図22Bである。
図22Bを見ると、相対位置の最大値は5であり、この値がこのアンテナ配置の開口長を示している。また、1から5までの全ての整数が含まれていることで、このアンテナ配置は開口長までの全ての空間をカバーできていることを示している。一方で、2が複数(2か所)に存在することは、このアンテナ配置は冗長性を含んでいることも示している。
センサ装置1100は、異なる大きさのアンテナ間隔を得ることにより、角度θの分解能を向上させることができる。本例のセンサ装置1100は、(数12)式で示される配列によって、アンテナ位置Pos(TX)とアンテナ位置Pos(RX)の差分として、1~5までの全ての整数を得ることができる。このように、センサ装置1100は、欠損なくアンテナ位置Pos(TX)とアンテナ位置Pos(RX)の差分を得ることにより、少ないアンテナ数で角度θの分解能を向上させることができる。
図22Cは、センサ装置1100の開口長における仮想アンテナVを示す図である。本例のセンサ装置1100は、5×5のアンテナエリアを使用して、6×6の開口数を実現している。センサ装置1100は、MIMOアンテナ1017とコリレーションアンテナ1018により、開口長の全空間をカバーする。
MIMOアンテナ1017は、受信アンテナRXと送信アンテナTXとの関係により直接得られる仮想アンテナVである。本例では、6×6の開口数のうち、16個のMIMOアンテナ1017が得られている。
コリレーションアンテナ1018は、MIMOアンテナ1017間の相関処理によって設定された仮想アンテナVである。コリレーションアンテナ1018は、MIMOアンテナ1017間の相関処理により、MIMOアンテナ1017を補うように設けられる。本例では、6×6の開口数のうち、20個のコリレーションアンテナ1018が設けられている。
例えば、信号処理部1030は、MIMOアンテナ1017の存在するアンテナ位置の信号を処理する。また、信号処理部1030は、MIMOアンテナ1017における信号の相関処理により、MIMOアンテナ1017の存在しないアンテナ位置にコリレーションアンテナ1018を生成してよい。信号処理部1030は、比較的単純な信号処理(即ち、相関処理)で、開口長内の全空間をカバーできる。例えば、センサ装置1100は、5×5のアンテナエリアを使用して、6×6のエリアの全てをカバーすることができる。
図23Aは、比較例に係るセンサ装置1500の構成の一例を示す。センサ装置1500は、8つのアンテナ1516で構成される。本例のセンサ装置1500は、4つの送信アンテナTXと、4つの受信アンテナRXを備える。センサ装置1500は、7×7のアンテナエリアを使用している。
3つの送信アンテナTX1~送信アンテナTX3は、Y軸方向に配列されている。送信アンテナTX4は、送信アンテナTX1と同じY軸方向の位置において、送信アンテナTX1よりもX軸方向の正側に設けられている。
3つの受信アンテナRX1~受信アンテナRX3は、X軸方向に配列されている。受信アンテナRX4は、受信アンテナR3と同じX軸方向の位置において、受信アンテナRX3よりもY軸方向の正側に設けられている。
図23Bは、センサ装置1500の開口長における仮想アンテナVを示す図である。センサ装置1500は、7×7のアンテナエリアを使用して、11×11の開口数を実現している。
センサ装置1500は、MIMOアンテナ1517およびコリレーションアンテナ1518によって、11×11の開口数を実現する。但し、センサ装置1500は、MIMOアンテナ1517およびコリレーションアンテナ1518が設けられていない非アンテナ領域1519を有する。そのため、MIMOアンテナ1517およびコリレーションアンテナ1518により全空間をカバーする平面は、4×4の領域1520のみである。したがって、センサ装置1500は、7×7のアンテナエリアを使用して、全空間をカバーできるのが4×4のエリアのみである。センサ装置1500は、開口長内にターゲットが存在していても、4×4の領域1520以外では検知できない場合がある。
図24Aは、実施例2に係るアンテナ1016の配置方法の一例を示す。センサ装置1100は、16個のアンテナ1016で構成される。本例のセンサ装置1100は、8つの送信アンテナTXと、8つの受信アンテナRXを備える。ここでは、16×16のアンテナエリアを使用する場合の実施例について説明する。
受信アンテナRX1~受信アンテナRX8は、X軸方向に配列されている。受信アンテナRX1~受信アンテナRX8は、(数12)式を満たすように配列されている。例えば、受信アンテナRX1と受信アンテナRX2との間の間隔は、予め定められたDhである。受信アンテナRX2と受信アンテナRX3との間の間隔は、2・Dhである。受信アンテナRX3と受信アンテナRX4との間の間隔は、2・Dhである。受信アンテナRX4と受信アンテナRX5との間の間隔は、6・Dhである。受信アンテナRX5と受信アンテナRX6との間の間隔は、Dhである。受信アンテナRX6と受信アンテナRX7との間の間隔は、2・Dhである。受信アンテナRX7と受信アンテナRX8との間の間隔は、2・Dhである。
送信アンテナTX1~送信アンテナTX8は、Y軸方向に配列されている。送信アンテナTX1~送信アンテナTX8は、(数12)式を満たすように配列されている。例えば、送信アンテナTX1と送信アンテナTX2との間の間隔は、予め定められたDvである。送信アンテナTX2と送信アンテナTX3との間の間隔は、2・Dvである。送信アンテナTX3と送信アンテナTX4との間の間隔は、2・Dvである。送信アンテナTX4と送信アンテナTX5との間の間隔は、6・Dvである。送信アンテナTX5と送信アンテナTX6との間の間隔は、Dvである。送信アンテナTX6と送信アンテナTX7との間の間隔は、2・Dvである。送信アンテナTX7と送信アンテナTX8との間の間隔は、2・Dvである。
受信アンテナRXおよび送信アンテナTXは、クロスして配列されている。受信アンテナRXがX軸方向に配列される場合、受信アンテナRXのY軸方向の座標が送信アンテナTX1と送信アンテナTX8との間に設けられる。また、送信アンテナTXがY軸方向に配列される場合、送信アンテナTXのX軸方向の座標が受信アンテナRX1と受信アンテナRX8との間に設けられる。
本例のセンサ装置1100は、アンテナ1016の間隔の広い位置で送信アンテナTXと受信アンテナRXとをクロスさせる。即ち、受信アンテナRXは、n mod 4=0を満たすn番目の送信アンテナTXと、n+1番目の送信アンテナTXとの間で複数の送信アンテナTXとクロスする。また、送信アンテナTXは、n mod 4=0を満たすn番目の受信アンテナRXと、n+1番目の受信アンテナRXとの間で複数の受信アンテナRXとクロスする。
本例のセンサ装置1100は、送信アンテナTXと受信アンテナRXとをクロスさせることにより、アンテナ1016の設置面積を小さくすることができる。また、送信アンテナTXおよび受信アンテナRXがクロスする位置は、送信アンテナTXの間隔の広い位置であっても、受信アンテナRXの間隔の広い位置であってもよい。これにより、送信アンテナTXと受信アンテナRXのアイソレーションが改善する。センサ装置1100は、送信アンテナTXおよび受信アンテナRXの両方の間隔の広い位置でクロスさせることにより、送信アンテナTXと受信アンテナRXのアイソレーションをさらに改善しやすくなる。
図24Bは、例えば8つのアンテナを本発明に従って配置した場合に、どのような開口長と空間カバーを実現できているかを理解しやすく説明するための図である。0に位置するアンテナを基準アンテナとして、それぞれのアンテナ位置の基準アンテナからの相対位置を示し、全てのアンテナ間の相対位置を計算した結果が図24Bである。
図24Bを見ると、相対位置の最大値は16であり、この値がこのアンテナ配置の開口長を示している。また、1から16までの全ての整数が含まれていることで、このアンテナ配置は開口長までの全ての空間をカバーできていることを示している。一方で、同じ整数が複数に存在すること(例えば2は4回出現)は、このアンテナ配置は冗長性を含んでいることも示している。
図24Cは、センサ装置1100の開口長のカバー率を説明するための図である。本例のセンサ装置1100は、16×16のアンテナエリアを使用して、17×17の開口数を実現している。センサ装置1100は、MIMOアンテナ1017とコリレーションアンテナ1018により、開口長の全空間をカバーする。例えば、17×17の開口数のうち、64個のMIMOアンテナ1017と、225個のコリレーションアンテナ1018が得られている。
このように、センサ装置1100は、比較的単純な信号処理(即ち、相関処理)で、開口長内の空間を全てカバーできる。本例のセンサ装置1100は、16×16のアンテナエリアを使用して、17×17のエリアの全てをカバーすることができる。
図25Aは、センサ装置1100の動作方法の一例を示す。本例のセンサ装置1100は、TDM MIMO(Time Division Multiplex MIMO)を用いて、送信波をターゲット1300に送信する。TDM MIMOでは、各送信アンテナから出力するタイミングを変える。これにより、複数の送信アンテナTXからの信号を、受信側で区別することができる。本例では、2つの送信アンテナTXと2つの受信アンテナRXを用いる場合について説明する。但し、アンテナ1016の個数は本例に限られない。
送信アンテナTX1および送信アンテナTX2は、異なるタイミングで送信波をそれぞれ送信する。受信アンテナRX1および受信アンテナRX2は、それぞれ送信アンテナTX1および送信アンテナTX2からの送信波を受信する。これにより、4つの異なる仮想アンテナV1~仮想アンテナV4が得られる。
仮想アンテナV1は、出力データTX1/RX1を得る。出力データTX1/RX1は、受信アンテナRX1で受信した送信アンテナTX1からの信号を意味する。仮想アンテナV2は、出力データTX1/RX2を得る。出力データTX1/RX2は、受信アンテナRX2で受信した送信アンテナTX1からの信号を意味する。
同様に、仮想アンテナV3は、出力データTX2/RX1を得る。出力データTX2/RX1は、受信アンテナRX1で受信した送信アンテナTX2からの信号を意味する。仮想アンテナV4は、出力データTX2/RX2を得る。出力データTX2/RX2は、受信アンテナRX2で受信した送信アンテナTX2からの信号を意味する。
このように、センサ装置1100は、TDM MIMOを用いることにより、複数の送信アンテナTXからの信号を受信側で区別して、複数の仮想アンテナVを設定することができる。TDM MIMOは、いずれの実施例においても適用し得る。
図25Bは、センサ装置1100の動作方法の一例を示す。本例のセンサ装置1100は、BPM MIMO(Binary Phase Modulate MIMO)を用いて、送信波をターゲット1300に送信する。BPM MIMOでは、各送信アンテナにコード情報(0°または180°の位相差)を加えて送信する。本例では、2つの送信アンテナTXと2つの受信アンテナRXを用いる場合について説明する。但し、アンテナ1016の個数は本例に限られない。
送信アンテナTX1は、第1の期間および第2の期間において、位相を変更せずに送信波を送信する。送信アンテナTX2は、第1の期間において0°の位相差で送信波を送信し、第2の期間において180°の位相差で送信波を送信する。
第1の期間において、受信アンテナRX1および受信アンテナRX2は、TX1+TX2の送信波を受信する。また、第2の期間において、受信アンテナRX1および受信アンテナRX2は、TX1-TX2の送信波を受信する。
ここで、第1の期間および第2の期間において、受信アンテナRX1および受信アンテナRX2のそれぞれで得られた信号の組み合わせにより、4つの異なる仮想アンテナV1~仮想アンテナV4が得られる。第1の期間で得られる信号をS1とし、第2の期間で得られる信号をS2とする。
仮想アンテナV1は、第1の期間と第2の期間で得られた信号の和S1+S2によって、出力データ2・TX1/RX1を得る。出力データ2・TX1/RX1は、受信アンテナRX1で受信した2・TX1の信号を意味する。
仮想アンテナV2は、第1の期間と第2の期間で得られた信号の和S1+S2によって、出力データ2・TX1/RX2を得る。出力データ2・TX1/RX2は、受信アンテナRX2で受信した2・TX1の信号を意味する。
仮想アンテナV3は、第1の期間と第2の期間で得られた信号の差S1-S2によって、出力データ2・TX2/RX1を得る。出力データ2・TX2/RX1は、受信アンテナRX1で受信した2・TX1の信号を意味する。
仮想アンテナV4は、第1の期間と第2の期間で得られた信号の差S1-S2によって、出力データ2・TX2/RX2を得る。出力データ2・TX2/RX2は、受信アンテナRX2で受信した2・TX2の信号を意味する。
このように、センサ装置1100は、BPM MIMOを用いることにより、複数の送信アンテナTXからの信号を受信側で区別して、複数の仮想アンテナVを設定することができる。BPM MIMOは、いずれの実施例においても適用し得る。
図26は、相関処理を説明するための図である。センサ装置1100は、相関処理により、MIMOアンテナ1017のデータ出力から、アンテナが存在しない部分のデータを生成する。センサ装置1100は、仮想アンテナVのデータ出力を用いて、MIMOアンテナ1017が存在しない部分のデータを生成してもよい。
センサ装置1100は、入力されたデータ列のFFT処理により実部と虚部のデータを取得する。データは、時間や周波数などの関数で示される。相関処理は、FFT処理後のデータに施されるので、周波数の関数として、複素数の信号になる。
本例では、アンテナ位置A1、A2およびA4にアンテナが存在し、アンテナ位置A3にアンテナが存在しない場合について考える。センサ装置1100は、相関処理により、アンテナ位置A3の信号を取得する。これにより、センサ装置1100は、アンテナ位置A1~A4について、それぞれデータC1~C4を取得することができる。データC1~C4は、FFT処理後のデータである。
データC1は、自己相関(auto-correlation)により取得されるデータである。自己相関は、同一のデータを用いて相関を取ることを指す。本例のデータC1は、受信アンテナRX1で取得したデータの自己相関に基づいて得られる。
データC2~C4は、相互相関(cross-correlation)により取得されるデータである。相互相関は、異なるデータを用いて相関を取ることを指す。本例のデータC2は、受信アンテナRX1で取得したデータと、受信アンテナRX2で取得したデータとの相互相関に基づいて得られる。データC3は、受信アンテナRX2で取得したデータと、受信アンテナRX4で取得したデータとの相互相関に基づいて得られる。データC4は、受信アンテナRX1で取得したデータと、受信アンテナRX4で取得したデータとの相互相関に基づいて得られる。
なお、FMCWレーダーの相関処理は、ターゲットが存在するBINに対して行えばよい。そのため、k番目のBINであるk-binのデータに対する相関処理について考える。
データC1は、次のように算出される。
C1=A1*conj(A1)
=(Re1[k]+j・Im1[k])・(Re1[k]-j・Im1[k])
=(Re1[k]2+Im1[k]2)
conj(A1)はA1の複素共役を示す。
データC2は、次のように算出される。
C2=A1*conj(A2)
=(Re1[k]+j・Im1[k])・(Re2[k]-j・Im2[k])
=(Re1[k]・Re2[k]+Im1[k]・Im2[k])
+j・(Re2[k]・Im1[k]-Re1[k]・Im2[k])
conj(A2)はA2の複素共役を示す。
データC3は、次のように算出される。
C3=A2*conj(A4)
=(Re2[k]+j・Im2[k])・(Re4[k]-j・Im4[k])
=(Re2[k]・Re4[k]+Im2[k]・Im4[k])
+j・(Re4[k]・Im2[k]-Re2[k]・Im4[k])
conj(A4)はA4の複素共役を示す。
データC4は、次のように算出される。
C4=A1*conj(A4)
=(Re1[k]+j・Im1[k])・(Re4[k]-j・Im4[k])
=(Re1[k]・Re4[k]+Im1[k]・Im4[k])
+j・(Re4[k]・Im1[k]+Re1[k]・Im4[k])
conj(A4)はA4の複素共役を示す。
以上の通り、センサ装置1100は、相関処理により、アンテナが存在していないアンテナ位置A3についても、FFT後のデータC3を算出することができる。これにより、センサ装置1100は、簡単な相関処理で、開口長の全空間をカバーすることができる。
[第3実施形態]
図27は、実施例に係るレーダー装置2100の構成の一例を示す。本例のレーダー装置2100は、レーダーを送受信する送受信部2010を備え、被測定ターゲット2300の位置や速度を検知する。被測定ターゲット2300は、ヒトなどの生体であってよいが、これに限定されない。
送受信部2010は、送信部2020および受信部2030を備える。送受信部2010は、複数のチャネルを有する。本例では、送信部2020および受信部2030のそれぞれが複数のチャネルを有する。送受信部2010は、被測定ターゲット2300からの反射波に基づいて、送受信部2010が有する複数のチャネル間の相対位相を調整する。
送信部2020は、被測定ターゲット2300に送信波を送信する。送信部2020は、M個のチャネル1~チャネルMを有する。Mは、2以上の整数である。送信部2020は、複数のチャネル1~チャネルMに対応した複数の送信アンテナ2012に接続されている。
送信アンテナ2012は、M個の送信アンテナTX1~送信アンテナTXMを有する。M個の送信アンテナTX1~送信アンテナTXMは、それぞれ被測定ターゲット2300に送信波を送信する。
受信部2030は、被測定ターゲット2300で反射した反射波を受信する。受信部2030は、N個のチャネル1~チャネルNを有する。Nは、2以上の整数である。受信部2030のチャネル数Nは、送信部2020のチャネル数Mと同一であってもよく、異なっていてもよい。受信部2030は、複数のチャネル1~チャネルNに対応した複数の受信アンテナ2013に接続されている。受信部2030は、複数の受信アンテナ2013を有することにより、被測定ターゲット2300から受信する反射波の角度情報を取得することができる。
受信アンテナ2013は、N個の受信アンテナRX1~受信アンテナRXNを有する。N個の受信アンテナRX1~受信アンテナRXNは、それぞれ反射波を受信する。
送受信部2010は、送信波および反射波の情報に基づいて、被測定ターゲット2300の距離、速度および角度等を算出することができる。例えば、送受信部2010は、反射波のTOF(Time of Flight)に基づいて、被測定ターゲット2300の距離を算出する。
TOFは、送信された送信波が反射波として受信されるまでの時間である。TOFは、レーダー装置2100と被測定ターゲット2300との距離Rが長いほど大きくなる。一例において、レーダー装置2100は、反射波のTOFに比例したIF(Intermediate Frequency)周波数にダウンコンバートしたIF信号を算出する。レーダー装置2100は、IF信号をAD変換し、信号処理することにより、被測定ターゲット2300の距離および速度を算出することができる。
ここで、送信アンテナ2012は、複数の送信アンテナTXのそれぞれから位相が異なる送信波を送信する。複数の送信アンテナTXから送信された複数の送信波は、特定の方向において同位相となることによって強め合い、他の方向においては逆位相となることによって弱め合って打ち消される。そして、送信部2020は、送信側に指向性を持たせるために、複数のチャネル間の相対位相を適切に制御する必要がある。受信部2030も同様に、受信側に指向性を持たせるために、複数のチャネル間の相対位相を適切に制御する必要がある。よって、レーダー装置2100は、被測定ターゲット2300を高精度に検知するために、複数のチャネル間の相対位相を調整する。本例のレーダー装置2100は、外部キャリブレーションによって、高い精度で、チャネル間の相対位相を調整することができる。
外部キャリブレーションとは、モジュール全体を考慮してチャネル間の相対位相を調整することを指す。外部キャリブレーションでは、送信部2020および受信部2030の影響だけでなく、アンテナの影響や、送受信部2010の内部の導波路の影響等を総合的に考慮する。外部キャリブレーションには、送信部2020の外部キャリブレーションと、受信部2030の外部キャリブレーションが含まれる。
また、レーダー装置2100は、外部キャリブレーションに加えて、内部キャリブレーションを併用して、チャネル間の相対位相を調整することもできる。レーダー装置2100は、状況に応じて、外部キャリブレーションおよび内部キャリブレーションを使い分けてよい。
内部キャリブレーションとは、レーダー装置2100が有する構成ごとのキャリブレーションを指す。内部キャリブレーションには、送信部2020の内部キャリブレーションと、受信部2030の内部キャリブレーションが含まれる。送信部2020の内部キャリブレーションでは、送信部2020でキャリブレーションが完結するため、受信部2030やアンテナの影響が考慮されない。受信部2030の内部キャリブレーションでは、受信部2030でキャリブレーションが完結するため、送信部2020やアンテナの影響が考慮されない。
図28は、レーダー装置2100の動作を示すフローチャートの一例である。本例のレーダー装置2100は、ステップS100~ステップS120により動作するものの、ステップを実行する順番は本例に限られない。
ステップS100において、レーダー装置2100は、実動作前のプレキャリブレーションを開始する。レーダー装置2100の実動作とは、例えば、レーダー装置2100が被測定ターゲット2300を検知することを指す。次に、レーダー装置2100は、ステップS102~ステップS108の少なくとも1つのステップを実行する。
ステップS102において、レーダー装置2100は、受信部2030を内部キャリブレーションする。これにより、レーダー装置2100は、受信部2030が有するチャネル間の相対位相を調整する。受信部2030の内部キャリブレーションでは、受信部2030内でキャリブレーション信号を生成し、キャリブレーション信号を用いて、受信部2030のチャネル間の相対位相を調整する。
ステップS104において、レーダー装置2100は、送信部2020を内部キャリブレーションする。これにより、レーダー装置2100は、送信部2020が有するチャネル間の相対位相を調整する。送信部2020の内部キャリブレーションでは、送信部2020内でキャリブレーション信号を生成し、キャリブレーション信号を用いて、送信部2020のチャネル間の相対位相を調整する。
ステップS106において、レーダー装置2100は、外部キャリブレーションとして、受信部2030が有するチャネル間の相対位相を調整する。受信部2030の外部キャリブレーションでは、後述する校正用ターゲット2310が設置され、校正用ターゲット2310に送信波が送信される。
ステップS108において、レーダー装置2100は、外部キャリブレーションとして、送信部2020が有するチャネル間の相対位相を調整する。送信部2020の外部キャリブレーションでは、後述する校正用ターゲット2310が設置され、校正用ターゲット2310に送信波が送信される。
ここで、ステップS102~ステップS108を実行する順番は本例に限られない。本例では、内部キャリブレーションを実行した後に、外部キャリブレーションが実行されている。また、受信部2030のキャリブレーションの後に送信部2020がキャリブレーションされている。但し、送信部2020のキャリブレーションの後に受信部2030がキャリブレーションされてもよい。また、ステップS102~ステップS108のいずれかのステップを複数回実行してもよい。
ステップS110において、プレキャリブレーションを終了するか否かを判断する。プレキャリブレーションを終了する場合、ステップS112において、レーダー装置2100の実動作を開始する。プレキャリブレーションを終了しない場合、ステップS100に戻り、ステップS102~ステップS108の少なくとも1つのステップを再び実行してもよい。
ステップS114において、レーダー装置2100の実動作時に再キャリブレーションを開始する。本例のレーダー装置2100は、実動作前にプレキャリブレーションを実行し、実動作の開始後に再キャリブレーションする。例えば、実動作時の再キャリブレーションは、レーダー装置2100の間欠動作時に実行される。
ステップS116において、レーダー装置2100は、受信部2030を内部キャリブレーションする。これにより、レーダー装置2100は、受信部2030が有するチャネル間の相対位相を調整する。ステップS116では、ステップS102と同一の方法で、受信部2030を内部キャリブレーションしてよい。
ステップS118において、レーダー装置2100は、送信部2020を内部キャリブレーションする。これにより、レーダー装置2100は、送信部2020が有するチャネル間の相対位相を調整する。ステップS118では、ステップS104と同一の方法で、送信部2020を内部キャリブレーションしてよい。
ステップS120において、実動作を終了するか否かを判断する。実動作を終了しない場合、ステップS112に戻り、実動作を継続してよい。また、レーダー装置2100は、さらに再キャリブレーションを実行してもよい。
以上の通り、レーダー装置2100は、外部キャリブレーションを実行することにより、より高い精度の位相調整を実現することができる。また、本例のように、レーダー装置2100は、外部キャリブレーションを、内部キャリブレーションと併用してよい。
図29は、受信部2030の内部キャリブレーションの一例を説明するための図である。受信部2030は、受信端子2031と、増幅部2032と、ミキサ2033と、IF回路2034と、AD変換部2035と、位相シフタ2036と、LO信号生成部2037と、演算部2038とを備える。
受信部2030は、N個の複数のチャネルを備える。本例では、N=2の場合について説明するがこれに限られない。複数のチャネルは、参照チャンネル(CH_r)およびキャリブレーションチャンネル(CH_c)を含む。参照チャンネル(CH_r)は、受信部2030の複数のチャネルのうち、位相調整の基準となるチャネルである。キャリブレーションチャンネル(CH_c)は、参照チャネルを基準として、チャネル間の相対位相が調整されるチャネルである。符号に付されたrは、参照チャンネルであることを示す。符号に付されたcは、キャリブレーションチャンネルであることを示す。
受信端子2031は、受信アンテナ2013に接続されている。受信端子2031は、送信波が被測定ターゲット2300に反射された反射波を受信波として受信する。受信端子2031は、受信波を増幅部2032に出力する。受信端子2031は、受信アンテナ2013の個数に応じてN個設けられてよい。
増幅部2032は、入力された受信波を増幅する。例えば、増幅部2032は、低ノイズアンプ(LNA:Low Noise Amplifier)である。増幅部2032は、増幅した受信波をミキサ2033に出力する。なお、受信部2030は、増幅部2032を設けずに受信波を後段のミキサ2033に直接入力してもよい。増幅部2032は、受信部2030のチャネル数に応じてN個設けられてよい。
ミキサ2033は、受信波と位相シフタ2036の出力とをミキシングする。ミキサ2033は、N個の増幅部2032に対応してN個設けられてよい。ミキサ2033は、受信波と位相シフタ2036の出力とをミキシングすることにより、受信波の位相を調整する。ミキサ2033は、位相を調整した受信波をIF回路2034に出力する。
IF回路2034は、受信波をIF信号にダウンコンバートする。IF回路2034は、N個のミキサ2033に対応してN個設けられてよい。IF回路2034は、IF信号をAD変換部2035に出力する。
AD変換部2035は、IF回路2034が出力したIF信号をデジタルに変換する。本例のAD変換部2035は、受信部2030のチャネル数に応じてN個設けられてよい。AD変換部2035は、変換したデジタルの受信信号を演算部2038に出力する。
演算部2038は、AD変換部2035rおよびAD変換部2035cからデジタル信号が入力される。演算部2038は、入力されたデジタル信号に基づいて、参照チャネルとキャリブレーションチャネルの位相差が予め定められた値となるように位相シフタ2036を調整する。例えば、演算部2038は、受信部2030において、参照チャネルとキャリブレーションチャネルの位相差がゼロとなるように、位相シフタ2036を調整する。演算部2038は、位相シフタ2036rおよび位相シフタ2036cの両方を調整してもよいし、いずれか一方を調整してもよい。
LO信号生成部2037は、LO信号を位相シフタ2036に出力する。本例のLO信号生成部2037は、複数のチャネルに対して1つ設けられている。即ち、LO信号生成部2037は、同一のLO信号を位相シフタ2036rおよび位相シフタ2036cのそれぞれに入力する。
位相シフタ2036は、入力された反射波の位相を調整する。位相シフタ2036は、受信部2030のチャネル数に応じてN個設けられてよい。位相シフタ2036は、LO信号生成部2037からのLO信号の位相を、演算部2038からの制御に基づいて調整する。
受信部2030は、チャネル間の位相差を適切に調整することにより、受信波の指向性を制御することができる。このように、受信部2030で受信波の指向性を制御することを、受信ビームフォーミングと呼ぶ。本例の受信部2030は、IC内のチャネル間の相対位相精度を保つキャリブレーション回路を内蔵している。
ここで、受信部2030は、キャリブレーション信号により、複数のチャネル間の相対位相を調整することができる。この場合、受信部2030は、受信アンテナ2013から受信波を入力することなく、受信部2030の内部で位相調整を完結することができる。
本例の受信部2030は、ミリ波帯で位相シフタ補正量を調整している。即ち、複数のチャネル間の相対位相は、反射波に応じた信号のミリ波帯における位相シフタ補正量により調整される。
また、レーダー装置2100は、デジタル変換後に位相を調整してもよい。この場合、複数のチャネル間の相対位相は、反射波に応じた信号のデジタル変換後の位相差により調整される。即ち、演算部2038は、位相シフタ2036の位相シフタ補正量を調整するのではなく、AD変換部2035によりデジタル変換された信号をデジタルで調整する。
但し、レーダー装置2100は、ミリ波帯で位相シフタ補正量を調整することにより、デジタル変換後に位相を調整するよりも、精度を向上することができる。また、ミリ波帯で位相シフタ補正量を調整した方が、位相と周波数の対応が取りやすくなる。
図30は、送信部2020の内部キャリブレーションの一例を説明するための図である。送信部2020は、LO信号生成部2021と、増幅部2022と、位相シフタ2023と、増幅部2024と、送信端子2025と、位相差検出部2026と、演算部2027とを備える。
送信部2020は、M個の複数のチャネルを備える。本例では、M=2の場合について説明するがこれに限られない。複数のチャネルは、参照チャンネル(CH_r)およびキャリブレーションチャンネル(CH_c)を含む。参照チャンネル(CH_r)は、送信部2020の複数のチャネルのうち、位相調整の基準となるチャネルである。キャリブレーションチャンネル(CH_c)は、参照チャンネルを基準として、チャネル間の相対位相が調整されるチャネルである。符号に付されたrは、参照チャンネルであることを示す。符号に付されたcは、キャリブレーションチャンネルであることを示す。
LO信号生成部2021は、LO信号を増幅部2022および位相差検出部2026に出力する。本例のLO信号生成部2021は、複数のチャネルに対して1つ設けられている。即ち、LO信号生成部2021は、同一のLO信号を、増幅部2022r、増幅部2022c、位相差検出部2026r、および位相差検出部2026cのそれぞれに入力する。
増幅部2022は、入力されたLO信号を増幅する。増幅部2022は、増幅したLO信号を位相シフタ2023に出力する。本例の増幅部2022は、送信部2020のチャネル数に応じてM個設けられてよい。
位相シフタ2023は、増幅部2022から入力された信号の位相を調整する。位相シフタ2023は、送信部2020のチャネル数に応じてM個設けられてよい。位相シフタ2023は、増幅部2022から入力されたLO信号の位相を、演算部2027からの位相シフタ補正量に基づいて調整する。
増幅部2024は、位相シフタ2023で位相調整された信号が入力される。増幅部2024は、送信部2020のチャネル数に応じてM個設けられてよい。増幅部2024は、入力された信号を増幅して送信端子2025に出力する。例えば、増幅部2024は、パワーアンプ(PA:Power Amplifier)である。
送信端子2025は、増幅部2024と接続される。送信端子2025は、送信部2020のチャネル数に応じてM個設けられてよい。送信端子2025は、送信アンテナ2012と接続される。但し、送信部2020の内部キャリブレーションの実行時、送信端子2025は、入力された信号を送信アンテナ2012に送信しなくてもよい。
位相差検出部2026は、送信端子2025に入力された信号と、LO信号生成部2021とを受信する。位相差検出部2026は、入力された信号の位相差を検出する。位相差検出部2026は、検出した信号を演算部2027に出力する。
演算部2027は、参照チャネルの位相差およびキャリブレーションチャネルの位相差に基づいて、参照チャネルおよびキャリブレーションチャネルの位相差を予め定められた値に調整する。例えば、演算部2027は、送信部2020において、参照チャネルとキャリブレーションチャネルの位相差がゼロとなるように、位相シフタ2023を調整する。演算部2027は、位相シフタ2023rおよび位相シフタ2023cの両方を調整してもよいし、いずれか一方を調整してもよい。一例において、演算部2027は、位相シフタ2023の位相シフタ補正量を変更することにより位相差を調整する。
図31は、比較例に係るレーダー装置2500の位相調整方法を説明するための図である。レーダー装置2500は、送受信部2510が有する複数のチャネルの相対位相を調整する。本例のレーダー装置2500は、送信部2520および受信部2530の内部キャリブレーションを実行する。即ち、レーダー装置2500は、送信部2520および受信部2530をそれぞれ単体で位相調整するものの、アンテナ等を含めたモジュール全体の位相差を調整していない。
即ち、レーダー装置2500の位相調整方法では、送信アンテナ2512および受信アンテナ2513の影響を考慮していない。例えば、アンテナの長さに起因して位相シフトが生じる場合もある。また、レーダー装置2500の位相調整方法では、レーダー装置2500がRF基板上に設けられる場合、RF基板上の導波路の影響を考慮していない。そのため、レーダー装置2500では、送信部2520および受信部2530のそれぞれの内部キャリブレーションが実行されているものの、モジュール全体で相対位相が調整されているわけではない。したがって、レーダー装置2500では、高い精度のキャリブレーションを実現できない。
図32Aは、受信部2030の外部キャリブレーションの一例を説明するための図である。本例では、送受信部2010が2チャネルの送信部2020および受信部2030を有する場合について説明する。但し、チャネル数は本例に限られない。
校正用ターゲット2310は、受信部2030を外部キャリブレーションするためのリファレンスターゲットである。例えば、校正用ターゲット2310は、静止状態でレーダー装置2100に対して予め定められた位置に設けられる。校正用ターゲット2310は、レーダー装置2100の正面に設けられてよい。校正用ターゲット2310の設けられた位置がキャリブレーションの基準として用いられる。即ち、レーダー装置2100は、校正用ターゲット2310を用いて受信部2030を外部キャリブレーションすることにより、校正用ターゲット2310のある方向が、受信チャンネルにとっての「正面」となる。
送信部2020は、複数の送信アンテナTXを用いて送信波を送信する。送信部2020は、校正用ターゲット2310に送信波を送信する。送信波の送信チャネル数は、特に限定されない。また、送信部2020のキャリブレーションを実行するか否かは問わない。
受信部2030は、複数の受信アンテナRXを用いて反射波を受信する。本例の受信部2030は、校正用ターゲット2310からの反射波を全ての受信アンテナ2013で受信している。
本例のレーダー装置2100は、外部キャリブレーションとして、受信部2030のチャンネル間の相対位相誤差をキャンセルすることができる。レーダー装置2100は、受信部2030のチャネル間の相対位相差がゼロになるように、位相シフタ2036の位相シフタ補正量を調整する。位相シフタ2036の位相シフタ補正量は、実動作時の再キャリブレーションに用いられてもよい。なお、レーダー装置2100は、受信チャンネル間の相対的な補正だけでなく、受信側にとっての0°補正(即ち、絶対値補正)を行ってもよい。
図32Bは、送信部2020の外部キャリブレーションの一例を説明するための図である。本例では、送受信部2010が2チャネルの送信部2020および受信部2030を有する場合について説明する。但し、チャネル数は本例に限られない。
図32Cは、シーケンシャルに送信される送信波のタイミングチャートの一例を示す。例えば、レーダー装置2100は、送信波として、周波数変調されたFMCWレーダーを送信する。送信波TX_rは、参照チャネルに接続された送信アンテナ2012から送信される送信波である。送信波TX_c~送信波TX_c'は、キャリブレーションチャネルに接続された送信アンテナ2012から送信される送信波である。
送信部2020は、複数の送信アンテナTXを用いて送信波を送信する。送信部2020は、校正用ターゲット2310に向けて送信波をシーケンシャルに送信する。送信波の送信チャネル数は、特に限定されない。
受信部2030は、校正用ターゲット2310からの反射波を、いずれか1チャンネルの受信チャンネルで受信する。但し、受信部2030は、複数のチャネルを用いて反射波を受信してもよい。受信部2030は、シーケンシャル送信毎に受信した反射波の位相差を、IF周波数にダウンコンバートした後のFFTなどにより検知する。
送信部2020は、シーケンシャル毎の位相差がゼロになるように、位相シフタ2023を調整する。これにより、レーダー装置2100は、チャネル間の相対位相を調整することができる。本例の送信部2020は、ミリ波帯で位相シフタ補正量を調整している。即ち、複数のチャネル間の相対位相は、反射波に応じた信号のミリ波帯における位相シフタ補正量により調整される。
校正用ターゲット2310は、送信部2020を外部キャリブレーションするためのリファレンスターゲットである。校正用ターゲット2310は、レーダー装置2100の正面に設けられてよい。校正用ターゲット2310の設けられた位置がキャリブレーションの基準として用いられる。即ち、レーダー装置2100は、校正用ターゲット2310を用いて送信部2020を外部キャリブレーションすることにより、校正用ターゲット2310のある方向が、送信チャンネルにとっての「正面」となる。
なお、レーダー装置2100は、送信チャンネル間の相対的補正だけでなく、送信にとっての0°補正(即ち、絶対値補正)をすることもできる。
図32Dは、外部キャリブレーションするためのフローチャートの一例を示す。外部キャリブレーションでは、ステップS200において、校正用ターゲット2310を設置する。ステップS202において、送受信部2010に接続された送信アンテナから送信波を送信する。ステップS204において、送信波の反射波を、受信アンテナ2013を用いて受信部2030が受信する。ステップS206において、受信部2030が受信した反射波に基づいて、複数のチャネル間の相対位相を調整する。
図33は、再キャリブレーションを実行するレーダー装置2100を説明するための図である。本例では、送受信部2010が2チャネルの送信部2020および受信部2030を有する場合について説明する。但し、チャネル数は本例に限られない。
再キャリブレーションでは、図29および図30で示した通り、内部キャリブレーションが実行される。内部キャリブレーションでは、校正用ターゲット2310を設ける必要がなく、送受信部2010から送信波が送信されなくてよい。即ち、内部キャリブレーションでは、校正用ターゲット2310を配置することが困難な状況であっても、送信部2020および受信部2030のキャリブレーションを実行することができる。
ここで、レーダー装置2100は、プレキャリブレーション時に取得した補正値を再キャリブレーション時にも使用することができる。例えば、レーダー装置2100は、取得したIF帯の位相差、またはミリ波帯の位相シフタ補正量を、受信部2030の補正値として用いる。また、レーダー装置2100は、取得したミリ波帯の位相シフタ補正量を、送信部2020の補正値として用いてよい。
実動作時では、温度や経年変化などによって位相差が変化し、補正量を更新する必要が生じる場合がある。しかしながら、実動作時において、プレキャリブレーション時に用いた校正用ターゲット2310を同じ位置に配置することは困難である。そのため、実動作時では、校正用ターゲット2310を用いた外部キャリブレーションが困難な場合がある。
一例において、レーダー装置2100は、再キャリブレーションとして、環境因によって影響の受けやすい部分の補正値を更新する。これにより、不要なキャリブレーションによって生じる計算量が削減される。例えば、レーダー装置2100は、再キャリブレーションとして、アクティブ素子を含む部分の補正値を更新する。
アクティブ素子は、パッシブ素子よりも、温度や経年変化などの環境因による影響を受けやすい。アクティブ素子は、送受信部2010等のRFIC内に存在する。例えば、アクティブ素子は、PA等の増幅部2024やLNA等の増幅部2032である。
一方、パッシブ素子は、アクティブ素子よりも、温度や経年変化などの環境因による影響を受けにくい。例えば、パッシブ素子であるアンテナや導波路では、環境因での位相差変動が無視できるレベルである。そのため、温度や経年変化などによる環境因でのチャンネル間位相差変動は、その主な発生因が送受信部2010の内部に存在する。
ここで、レーダー装置2100は、実動作時の補正値更新の方法として、外部キャリブレーションではなく、内部キャリブレーションを実行してよい。レーダー装置2100は、内部キャリブレーションによって、アクティブ素子を含む送信部2020および受信部2030のチャネル間の相対位相を調整することができる。
一例において、レーダー装置2100は、送受信部2010が有するチャネル間の相対位相を調整するための補正量を保管する。例えば、レーダー装置2100は、内部キャリブレーションを実行し、送信部2020および受信部2030のそれぞれの位相シフタ補正量を、TXint、RXintとして保管する。また、レーダー装置2100は、外部キャリブレーションを実行し、送信部2020および受信部2030のそれぞれの位相シフタ補正量を、TXext、RXextとして保管する。
パッシブ素子に起因する位相差を、TXpsv、RXpsvとすると、TXextおよびRXextが次式で示される。
TXext=TXint+TXpsv
RXext=RXint+RXpsv
レーダー装置2100は、実動作時において、環境因で変化する項(TXintおよびRXint)のみを更新すればよい。この場合、校正用ターゲット2310などの特殊なセットアップが不要である。レーダー装置2100は、パッシブ素子に起因する位相差TXpsvおよびRXpsvの変化を無視することができる。
以上の通り、レーダー装置2100は、外部キャリブレーションと、内部キャリブレーションとを組み合わせることにより、状況に応じて最適なキャリブレーション方法を実現することができる。これにより、レーダー装置2100は、より高い精度の位相調整を、現実的な使用方法で実行することができる。また、環境や経年変化により位相誤差の再キャリブレーションが必要になった場合、特殊なセットアップを必要とせず、実動作中であっても再キャリブレーションが可能である。
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
本発明の実施態様を以下に示す。
[項目1]
FMCWレーダーを用いて物体をセンシングするセンサ装置であって、
上記FMCWレーダーの受信波に基づく受信信号を取得し、上記物体をセンシングする信号処理部と、
上記受信信号から位相情報を取得し、上記位相情報に基づいて、ピークBINと、上記ピークBINと他のBINとの間の位相オフセットをモニターすることにより、上記生体をトラックする位相変換部と、
を備える
センサ装置。
[項目2]
上記信号処理部は、上記受信信号として、上記物体の微小振動データに基づいて上記物体をセンシングする
項目1に記載のセンサ装置。
[項目3]
上記信号処理部は、
上記受信信号のパワー変換スペクトルの複数のピークを検出することにより、複数の物体を検知する
項目1又は2に記載のセンサ装置。
[項目4]
上記位相変換部は、上記ピークBINと隣り合うBINとの間の位相オフセットをモニターする
項目3に記載のセンサ装置。
[項目5]
上記位相変換部は、複数のチャープで平均化した距離FFTのデータに基づいて、上記位相情報を算出する
項目3又は4に記載のセンサ装置。
[項目6]
上記位相変換部は、速度FFT又は角度FFTのデータに基づいて、上記位相情報を算出する
項目3又は4に記載のセンサ装置。
[項目7]
上記信号処理部は、上記受信信号の距離FFTの後に、上記受信信号の速度FFTおよび角度FFTを実行する
項目1から6のいずれか一項に記載のセンサ装置。
[項目8]
上記受信信号をFFT変換するFFT変換部と、
上記FFT変換部がFFT変換した信号に基づいて、パワースペクトルを算出するパワー変換部と、
上記パワースペクトルのピーク位置を判断する判断部と
を備える
項目1から7のいずれか一項に記載のセンサ装置。
[項目9]
上記信号処理部は、BIN数がn/2の距離データと、BIN数がmの速度データと、
BIN数がkの角度データとを記憶する記憶部を更に備え、
nはADCサンプリング数であり、mは1バースト当たりのチャープ数であり、kはチャネル数である
項目1から8のいずれか一項に記載のセンサ装置。
[項目10]
上記信号処理部は、距離FFT時に上記受信信号を選択し、速度FFTおよび角度FFT時に上記記憶部に記憶されたデータを選択する選択部を更に備える
項目9に記載のセンサ装置。
[項目11]
上記受信信号が入力される入力部を更に備え、
上記入力部は、
上記受信信号がそれぞれ入力される複数のチャネルと、
上記複数のチャネルごとに設けられ、上記受信信号をデジタル信号に変換する複数のAD変換部と
を備える
項目1から10のいずれか一項に記載のセンサ装置。
[項目12]
上記位相変換部は、
同一の上記チャネルにおいて、上記ピークBINと、上記ピークBINと他のBINとの間の位相オフセットをモニターすることにより、上記物体をトラックする
項目11に記載のセンサ装置。
[項目13]
上記物体は、生体である
項目1から12のいずれか一項に記載のセンサ装置。
[項目14]
FMCWレーダーを送受信する送受信部と、
項目1から12のいずれか一項に記載のセンサ装置と
を備えるシステム。
[項目15]
FMCWレーダーを用いる生体センシング方法であって、
生体検知用の第1FMCWレーダー条件で送信波を生体に送信する段階と、
上記第1FMCWレーダー条件で受信波を受信する段階と、
上記第1FMCWレーダー条件で信号処理して、上記生体の存在を検知する段階と、
生体センシング用の第2FMCWレーダー条件で送信波を上記生体に送信する段階と、
上記第2FMCWレーダー条件で受信波を受信する段階と、
上記第2FMCWレーダー条件で信号処理して、上記生体の生体信号をセンシングする段階と
を備える生体センシング方法。
[項目16]
上記第1FMCWレーダー条件の送信波は、上記第2FMCWレーダー条件の送信波と異なる波形を有する
項目15に記載の生体センシング方法。
[項目17]
FMCWレーダーを送受信する送受信部と、
上記送受信部が受信した受信信号に基づいて、生体を検知し、上記生体の生体信号をセンシングする信号処理部と、
上記信号処理部の動作条件を制御する信号処理制御部と
を備え、
上記送受信部は、
生体検知用の第1FMCWレーダー条件および生体センシング用の第2FMCWレーダー条件で送信波を上記生体に送信する送信部と、
上記第1FMCWレーダー条件および上記第2FMCWレーダー条件で受信波を受信する受信部と、
上記送信部および上記受信部の動作条件を、上記第1FMCWレーダー条件または上記第2FMCWレーダー条件に制御するレーダー制御部と、
を有し、
上記信号処理部は、上記第1FMCWレーダー条件または上記第2FMCWレーダー条件で信号処理し、
上記信号処理制御部は、上記信号処理部の動作条件を、上記第1FMCWレーダー条件または上記第2FMCWレーダー条件に制御する
システム。