JP7318202B2 - 旋削用工具及びピストン製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、旋削用工具及びピストン製造方法に関する。
車両用の内燃機関用のピストンは、シリンダボアの内側を往復移動する。当該ピストンは、シリンダヘッド部の下方側に配置されたスカート部を有しており、スカート部の外表面は、ピストンがシリンダボアの内側を往復するときに、シリンダボアの内壁面を摺動する。
スカート部の外表面には、例えば特許文献1に開示されているように、耐焼付き性を向上させるために、条痕が形成されている。ここで、条痕とは、外表面において、周方向に延びるように形成された凹溝である。条痕にオイルが溜ることにより、スカート部の外表面と、シリンダボアの内壁面との間で、良好な潤滑状態が保たれる。その結果、ピストンが高速で往復動しても、オイル切れが発生することなく、スカート部の外表面とシリンダボアの内壁面との間で、焼付きの発生が防止される。
一方で、ピストンのスカート部の外表面と、シリンダボアの内壁面との間の面圧は、通常、相対的に高い高面圧領域と、相対的に低い低面圧領域とが形成されてしまう。特許文献1には、スカート部の外表面とシリンダボアの内壁面との内圧の分布に応じて、条痕の凹溝の深さを変えるように構成されたスカート部について開示されている。この例の条痕は、所定のノーズRの刃先部を有する条痕溝形成工具を用いて、スカート部の条痕を加工している。
特開2008-223663号公報
ところが、上記例では、凹溝と凹溝との間に設けられる中間面部(プラトー部)の端に旋削加工時に発生するバリに起因する凸部が形成されることがある。当該凸部は、ピストンの摺動時にフリクションが増大する要因となる。また、上記例の条痕溝形成工具では、プラトー部を加工するために、送り速度を低く設定する必要があるため、加工時間が増大してしまう。
そのため、上記例では、フリクションを低減させるための条痕を有するピストンのスカート部の加工において、生産性を向上させる上で、改善の余地があった。また、上記のピストンのスカート部の外表面と、シリンダボアの内壁面との間の面圧を均一化させるための条痕の加工についても改善の余地があった。
本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、スカート部の外表面の凹溝部と凹溝部との間に設けられる中間面部の端に凸部が発生することを抑制し、スカート部の外表面がシリンダボアの内壁面を往復するときのフリクションを低減させ、さらに、スカート部の外表面と、シリンダボアの内壁面との間の面圧の均一化をできるようにすることである。
上記目的を達成するための本発明に係る旋削用工具は、エンジンのシリンダボアの内壁面を摺動するピストンのスカート部の外表面には、周方向に延びる溝部が設けられ、該溝部は、軸方向に間隔を空けて配置され、軸方向に隣り合う前記溝部の間には、中間面部が設けられており、前記スカート部の前記外表面の前記溝部及び前記中間面部を旋削加工するための旋削用工具において、旋削加工機に取り付けられ、前記軸方向に交差するように延びる取付け部と、前記取付け部の先端に設けられた切れ刃部と、を備えており、前記切れ刃部の先端には、前記溝部を加工する円弧刃先部と、前記軸方向に平行に延び、前記中間面部を加工する線状刃先部とが設けられ、前記円弧刃先部と前記線状刃先部は、並んで配置され、前記軸方向は、前記旋削加工機の工具送り方向であり、前記取付け部には、前記旋削加工機に取り付けるための取付け孔が設けられ、前記線状刃先部は、前記円弧刃先部に対して、前記工具送り方向の前方側に配置されている。
本発明によれば、スカート部の外表面の凹溝部と凹溝部との間に設けられる中間面部の端に凸部が発生することを抑制し、スカート部の外表面がシリンダボアの内壁面を往復するときのフリクションを低減させ、さらに、スカート部の外表面と、シリンダボアの内壁面との間の面圧を均一化することが可能である。
本発明に係るピストンの正面図である。 (A)は図1のスカート部の拡大正面図で、(B)はスカート部の外表面の条痕を模式的に示す拡大正面図である。 (A)は本発明に係る旋削用工具の平面図で、(B)は側面図である。 図3の切れ刃部の拡大平面図である。 図3の旋削用工具を用いて条痕を加工する状態を模式的に示す平面図である。 図2の外表面を加工する工程を模式的に示す平面図である。 従来の旋削用工具を用いて条痕を加工する状態を模式的に示す平面図である。
以下、本発明に係る旋削用工具20の一実施形態について、図面(図1~図7)を参照しながら説明する。ここで、当該旋削用工具20を用いたピストン1の製造方法、及び当該方法により形成されたピストン1についても合わせて説明する。なお、図において、矢印Uは、上下に往復移動するときの上方を示している。
先ず、ピストン1について説明する。本実施形態のピストン1は、本実施形態の旋削用工具20を用いるピストン1の製造方法によって製作される。当該ピストン1は、シリンダボア(図示せず)の内部を往復移動する部材で、アルミニウム合金等の軽合金によって形成されている。
本実施形態のピストン1は、図1に示すように、ピストンヘッド部2とスカート部10とを備えている。ピストンヘッド部2は、円筒状で、外周面には、第1のオイルリング溝3aと、第2のオイルリング溝3bが設けられている。第2のオイルリング溝3bは、第1のオイルリング溝3aの下方側に、配置されている。
スカート部10は、シリンダヘッド部の下方に配置されており、ピンボス部4を間に置いて両側に配置されている。スカート部10の外表面11がシリンダボアの内壁面上を摺動しながら、ピストン1はシリンダボアの内部を往復移動する。
スカート部10の外表面11には、当該外表面11とシリンダボアの内壁面との間で耐焼付き性を向上させるために、条痕15が形成されている。ここで、条痕15の形状について説明する。条痕15は、スカート部10の外表面11において周方向に延びるように形成された断面U字状の凹溝部17を有している。凹溝部17は、軸方向に間隔を空けて配置されている。凹溝部17の深さは数μmから数十μm、隣接する条痕15の凹溝部17の間隔(すなわち条痕15の溝ピッチ)は数十μmから数百μmに設定される。また、軸方向に隣り合う凹溝部17の間には、断面の径方向外側端が軸方向に直線的に延びるプラトー部(中間面部)18が設けられている。
ここで、凹溝部17について説明する。ピストン1のスカート部10の外表面11と、シリンダボアの内壁面との間の面圧は、相対的に高い高面圧領域と、相対的に低い低面圧領域とが形成される。本実施形態では、スカート部10の外表面11がシリンダボアから受ける内圧は、外表面11の軸方向の端部(図2における外表面11の上部及び下部)よりも、中間部の方が大きい。
図2において、A1及びA3で示す領域は、低面圧領域であり、A2で示す領域は、高面圧領域である。なお、図2では、A1及びA3で示す低面圧領域に、2つの凹溝部17及び2つのプラトー部18を模式的に示している。また、A2で示す高低面圧領域に、3つの凹溝部17、すなわち、軸方向に並ぶ第1の凹溝部17a、第2の凹溝部17b及び第3の凹溝部17c、並びに、第1の凹溝部17aと第2の凹溝部17bとの間の第1のプラトー部18a及び第2の凹溝部17bと第3の凹溝部17cとの間の第2のプラトー部18bを、模式的に示している。
図2に示すように、A2で示す高面圧領域の第1~第3の凹溝部17a~17cの溝深さは、A1及びA3で示す低面圧領域の凹溝部17の溝深さよりも深い。この例では、第1~第3の凹溝部17a~17cの溝深さは、約10μmで、A1及びA3で示す低面圧領域の凹溝部17の溝深さは、7~9μm程度に設定されている。
スカート部10の外表面11の条痕15は、図示しない旋削加工機(以下、旋盤と称す。)を用いて、旋削加工により形成される。ここで、旋盤の工具ホルダ(図示せず)に設置される旋削用工具20について説明する。
本実施形態の旋削用工具20は、図3に示すように、取付け部21と切れ刃部23とを備えている。取付け部21は、旋盤の工具ホルダに取り付けられ、ピストン1の軸方向に直交するように延びている。取付け部21は、略直方体状で、上下方向に貫通する取付け孔22が設けられている。当該取付け孔22に、工具設置用ボルト等(図示せず)を貫通させて、工具ホルダに、旋削用工具20が設置される。なお、旋盤の主軸の軸方向と、ピストン1の軸方向は同軸上(同一直線上)に配置され、旋削用工具20の工具送り方向は、旋盤の軸方向に対して平行である。
切れ刃部23は、取付け部21の先端に設けられている。本実施形態の切れ刃部23は、図4に示すように、円弧刃先部24及び線状刃先部25が設けられている。円弧刃先部24は、条痕15の凹溝部17を旋削加工により形成するための部分で、円弧刃先部24のR形状(ノーズR)は、凹溝部17の曲率半径に対応している。この例のノーズRは、0.5mmに設定されている。線状刃先部25は、ピストン1の軸方向に平行に延び、プラトー部18を加工する。円弧刃先部24と線状刃先部25は、ピストン1の軸方向に平行な方向で、後述する工具送り方向に並んで配置されている。
円弧刃先部24の先端は、図4に示すように、線状刃先部25の端部よりも、スカート部10に近づく方向に突出している。また、図4に示す円弧刃先部24の先端と線状刃先部25の端部との距離Dが、凹溝部17の最大溝深さに相当する。
また、図3及び図4に示すように、線状刃先部25と円弧刃先部24は、ピストン1の軸方向に平行な方向に間隔を空けて配置されている。当該間隔は、旋削用加工で旋削加工をするときに、切り屑を排出させるための逃げ部26であり、当該逃げ部26を設けることにより、排出性を良好にする。
また、本実施形態では、図4及び図5において距離X2で示される線状刃先部25の軸方向に平行な幅は、図2及び図5において距離X1で示される外表面11の1つのプラトー部18の軸方向の幅よりも大きく設定されている。
図5は、本実施形態の旋削用工具20を用いて加工している状態の一例を示している。図5の(A)に示す実線S0は加工前の表面を示し、破線S1はスカート部10の外表面11の仕上げ外周面を仮想的に示している。図5の(B)は、工具送りの状況を模式的に示しており、図5の(B)で示す上方側の切れ刃部23に対して下方側に示す切れ刃部23は、スカート部10が1回転した後の工具位置を示している。図5の(C)は、(B)のスカート部10が1回転した後の工具位置と、この時点で加工された加工面を示している。図5の(D)は、条痕15が加工された状態を示している。
また、円弧刃先部24が所定の凹溝部17を加工するときに、線状刃先部25は、所定の凹溝部17に隣接するプラトー部18の隣に位置する別のプラトー部18を加工可能に設定されている。詳細には、条痕15は、図5の(B)に示すように、円弧刃先部24は、線状刃先部25が第2のプラトー部18bを加工すると同時に、第1の凹溝部17aを加工可能に設定されている。
また、本実施形態の線状刃先部25は、図4に示すように、取付け孔22の孔中心に対して、軸方向にずれて配置されている。この例では、線状刃先部25は、旋削用工具20が工具ホルダに設置されている状態で、工具送り方向の前方側に配置されている。すなわち、旋盤の作業者が旋削用工具20を上方から見たときに、線状刃先部25は、孔中心に対して、左側に配置される。
本実施形態のように、線状刃先部25を有する旋削用工具20で、プラトー部18を旋削加工することにより、線状刃先部25の形状が、スカート部10のプラトー部18に転写されるため、図7の(A)に示すように、ノーズRを有する従来の旋削用工具29で旋削した場合に比べ、表面粗さを小さくすることが可能となる。
また、線状刃先部25に隣接するように逃げ部26が設けられているため、線状刃先部25の両端から切り屑が効率よく排出される。そのため、図7の(B)に示すように、従来の旋削用工具29で凹溝部17を所定の送り速度F3で加工する場合に比べて、プラトー部18の軸方向端等にバリが発生することを抑制することができる。その結果、ピストン1のフリクションを低減させることが可能となる。
また、図7の(A)に示すように、プラトー部18を、ノーズRを有する従来の旋削用工具29で加工する必要がないため、プラトー部18にノーズRに起因する凹凸が形成されることがなく、プラトー部18の表面粗さを低減させることも可能である。さらに、後述するノーズRを有する工具を用いた荒加工工程で加工した表面に発生するバリを、線状刃先部25で除去することが可能である。
ノーズRを有する従来の旋削用工具29でプラトー部18を加工する場合、図7の(A)に示すように、当該ノーズRに起因する凹凸を小さくするために、送り速度F4を小さくする必要があった。これに対して、プラトー部18を線状刃先部25で加工するために、送り速度を上記の送り速度F1よりも大きくすることができる。その結果、スカート部10の条痕15の加工時間が短縮される。さらに、凹溝部17と、プラトー部18とを、旋盤の主軸が1回転するときの工具送りする間に、加工することができるため、加工時間の更なる短縮が可能となる。
線状刃先部25の幅を、プラトー部18の軸方向の幅よりも大きく設定するために、プラトー部18の軸方向端のバリの発生を抑制することが可能となる。
例えば、円弧刃先部24が所定の凹溝部17を加工するときに、線状刃先部25が、所定の凹溝部17に隣接するプラトー部18を加工するように、円弧刃先部24と線状刃先部25の位置関係が設定されるとき、例えば、第1の凹溝部17aと第1のプラトー部18aとを同時に加工するように、円弧刃先部24と線状刃先部25の位置関係が設定されるときには、円弧刃先部24と線状刃先部25との間にR形状が形成されるため、プラトー部18の軸方向の幅が小さくなってしまう可能性がある。この場合、設計の自由度が低下する。
これに対して、本実施形態では、線状刃先部25の軸方向の幅を、プラトー部18の軸方向の幅よりも大きく設定し、且つ、円弧刃先部24と線状刃先部25の位置関係を上記のように設定することにより、プラトー部18の軸方向の幅を、長く設定することが可能となり、設計の自由度が向上する。
また、逃げ部26を設けることにより、切り屑の排出性が向上する。その結果、プラトー部18の軸方向端のバリの発生を抑制することが可能となり、さらに、プラトー部18に加工痕等の傷の発生が低減でき、表面品質が向上する。なお、逃げ部26は、設けなくてもよい。
また、条痕15の凹溝部17の溝深さは、浅い方がフリクションを低減させることができるため、フリクションの低減を目的とする場合、溝深さは浅い方が望ましい。しかし、高面圧領域では、より高い耐焼付き性が求められる。よって、本実施形態では、高面圧領域の凹溝部17の溝深さを、低面圧領域の凹溝部17の溝深さよりも深く設定している。これにより、低面圧領域に比べて、高面圧領域に多くのオイルを保持させることが可能となる。
続いて、本実施形態の旋削用工具20を用いて、ピストン1のスカート部10の条痕15の加工方法について説明する。
当該スカート部10の外表面11の加工は、凹溝部17を、円弧刃先部24により加工する凹溝部加工工程と、工具送り方向に隣り合う凹溝部17の間に位置し工具送り方向に延びるプラトー部18を、線状刃先部25により加工するプラトー部加工工程(中間面部加工工程)と、を同時に行う。このとき、工具送り方向は、円弧刃先部24から線状刃先部25に向かう方向に設定される。
本実施形態のスカート部10の加工は、荒加工工程、中仕上げ加工工程及び最終仕上げ加工工程の3工程を有する。凹溝部加工工程及びプラトー部加工工程は、中仕上げ加工工程に含まれる。また、最終仕上げ加工工程は、プラトー部18のみを加工する工程である。
先ず、荒加工工程について説明する。荒加工工程では、所定のノーズRを有する従来の工具を用いて、スカート部10の外表面11を旋削加工する。スカート部10の仕上げ外径寸法に対して、切込み代を200~300μm程度残すように旋削加工する。すなわち、荒加工工程後は、スカート部10の仕上げ外径寸法に対して、400~600μm程度大きい状態で、凹溝部17は形成されていない外周面が形成される。
続いて、中仕上げ加工工程について説明する。図6の(A)及び(B)は、中仕上げ加工工程を示しており、図6の(A)は、工具送りの状況を模式的に示し、(B)は、中仕上げ加工後の外表面11を示している。図6の(A)及び(B)で示すC3は、切込み量の変更量を示している。
中仕上げ加工工程では、本実施形態の旋削用工具20を用いて、凹溝部17及びプラトー部18を加工する。中上げ加工工程では、図2におけるA1及びA3で示す低面圧領域を加工するための第1の切込み量C1と、A2で示す高面圧領域を加工するための第2の切込み量C2が設定されている。第1の切込み量C1と第2の切込み量C2は、C1<C2の関係を満たしている。また、第1の切込み量C1と第2の切込み量C2との差、すなわちC3は、0.1μm~10μmの範囲とする。
また、工具の送り方向は、円弧刃先部24から線状刃先部25に向かう方向に設定される。すなわち、スカート部10が旋盤の主軸の軸周りを1回転するときに、線状刃先部25で、プラトー部18を加工すると同時に、このプラトー部18よりも送り方向の後方側に位置する凹溝部17を、円弧刃先部24で加工する。本実施形態では、上記したように、線状刃先部25が第2のプラトー部18bを加工すると同時に、円弧刃先部24が第1の凹溝部17aを加工する。
本実施形態では、旋削用工具20は、図2におけるスカート部10の下部(図6におけるA3で示す低面圧領域)から、図2におけるスカート部10の上部に向かって平行移動する。図6の(A)に示すように、先ず、A3で示す低面圧領域では、旋削用工具20は、第1の切込み量C1で切削しながら、スカート部10の下端から工具送り方向にA2に示す高面圧領域に向かって平行移動する。
次に、A3の領域とA2の領域の境界で、切込み量を、第1の切込み量C1から第2の切込み量C2に変更する。変更量は、図6の(A)及び(B)のC3で示す。以後、旋削用工具20は、A2で示す高面圧領域を、第2の切込み量C2で切削しながら、工具送り方向にA1に示す高面圧領域に向かって移動する。さらに、図示は省略するが、A2の領域とA1の領域の境界で、切込み量を、第2の切込み量C2から第1の切込み量C1に変更する(元に戻す)。以後、旋削用工具20は、A1で示す低面圧領域を、第1の切込み量C1で切削しながら、工具送り方向にスカート部10の上端に向かって移動する。
本実施形態の旋削用工具20を用いることにより、凹溝部17及びプラトー部18が形成される。上記のように切込み量を変更することにより、中仕上げ加工工程後の加工面には、領域A1とA2との境界、及び領域A2とA3との境界で、切込み量の変更に対応した段差が形成される。
中仕上げ加工工程で、A2で示す高面圧領域は、凹溝部17とプラトー部18がほぼ仕上がった状態になる。A1及びA3で示す低面圧領域では、プラトー部18の外径寸法が、スカート部10の仕上がり外径寸法に対して大きい状態である。また、A2で示す高面圧領域は凹溝部17の底は、A1及びA3で示す低面圧領域の凹溝部17の底よりも径方向内側に位置している。
次に、最終仕上げ加工工程について説明する。最終仕上げ加工工程では、スカート部10の外径寸法を仕上げ寸法に加工する工程であり、主としてプラトー部18を加工する。図6の(C)では、仕上げ面をS2で示している。図6の(C)及び(D)に示すように、最終仕上げ加工工程では、本実施形態の旋削用工具20の円弧刃先部24によって、プラトー部18を加工する。なお、最終仕上げ加工工程では、本実施形態の旋削用工具20でなく、所定のノーズRを有する従来の工具を用いてもよい。以上の手順により、図6の(E)に示すように、スカート部10の外表面11に条痕15が形成される。
また、本実施形態の旋削用工具20を用いることにより、プラトー部18の軸方向の幅を調整することが可能である。例えば、A2で示す高面圧領域を加工するときの送り速度F2を、A1及びA3で示す低面圧領域を加工するときの送り速度F1よりも早くすることで、A1及びA3で示す低面圧領域のプラトー部18の軸方向の幅よりも、A2で示す高面圧領域のプラトー部18の軸方向の幅を大きくすることが可能である。
本実施形態では、上記したように、高面圧領域の凹溝部17の溝深さを、低面圧領域の凹溝部17の溝深さよりも深く設定している。これにより、低面圧領域に比べて、高面圧領域に多くのオイルを含浸させることが可能となる。一方で、凹溝部17溝深さが深いと、フリクションが大きくなる。これに対して、上記のように送り速度を調整することにより、高面圧領域のプラトー部18の軸方向の幅を、低面圧領域のプラトー部18の軸方向の幅よりも長く設定し、フリクションを低減させることが可能である。
また、本実施形態の旋削用工具20では、プラトー部18を加工した後に凹溝部17を加工するため、凹溝部17を加工するときの切込み量が小さくなり、切削抵抗を低減できる。これにより、バリの発生を抑制し、凹溝部17の形状精度を向上させることが可能となる。さらに、円弧刃先部24の工具摩耗を低減でき、工具交換タイミングを延長することができる。
最終仕上げ加工工程により、凹溝部17を加工するときに発生するバリを、除去することができるため、フリクションを低減させることが可能になる。最終仕上げ加工工程では、中仕上げ加工工程を行うことで、凹溝部17をほぼ仕上げた状態で、プラトー部18もある程度加工しているので、最終仕上げ工程の加工時間を短縮することができる。
本実施形態の説明は、本発明を説明するための例示であって、特許請求の範囲に記載の発明を限定するものではない。また、本発明の各部構成は上記実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
上記実施形態の旋削用工具20の工具送り方向は、円弧刃先部24から線状刃先部25に向かう方向に設定されているが、逆方向でも加工可能である。
1 ピストン
2 ピストンヘッド部
3a 第1のオイルリング溝
3b 第2のオイルリング溝
4 ピンボス部
10 スカート部
11 外表面
15 条痕
17 凹溝部
17a 第1の凹溝部
17b 第2の凹溝部
17c 第3の凹溝部
18 プラトー部
18a 第1のプラトー部
18b 第2のプラトー部
20 旋削用工具
21 取付け部
22 取付け孔
23 切れ刃部
24 円弧刃先部
25 線状刃先部
26 逃げ部

Claims (4)

  1. エンジンのシリンダボアの内壁面を摺動するピストンのスカート部の外表面には、周方向に延びる溝部が設けられ、該溝部は、軸方向に間隔を空けて配置され、軸方向に隣り合う前記溝部の間には、中間面部が設けられており、
    前記スカート部の前記外表面の前記溝部及び前記中間面部を旋削加工するための旋削用工具において、
    旋削加工機に取り付けられ、前記軸方向に交差するように延びる取付け部と、前記取付け部の先端に設けられた切れ刃部と、を備えており、
    前記切れ刃部の先端には、前記溝部を加工する円弧刃先部と、前記軸方向に平行に延び、前記中間面部を加工する線状刃先部とが設けられ、
    前記円弧刃先部と前記線状刃先部は、並んで配置され、
    前記軸方向は、前記旋削加工機の工具送り方向であり、
    前記取付け部には、前記旋削加工機に取り付けるための取付け孔が設けられ、
    前記線状刃先部は、前記円弧刃先部に対して、前記工具送り方向の前方側に配置されていることを特徴とする旋削用工具。
  2. 前記線状刃先部と前記円弧刃先部とは、互いに間隔を空けて配置され、
    前記線状刃先部の幅は、前記中間面部の幅よりも大きく設定され、
    前記円弧刃先部が所定の溝部を加工するときに、前記線状刃先部は、前記所定の溝部に隣接する前記中間面部の隣に位置する別の中間面部を加工可能に設定されていることを特徴とする、請求項1に記載の旋削用工具。
  3. 前記線状刃先部の軸方向に平行な幅は、前記溝部の最大幅より小さいことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の旋削用工具。
  4. エンジンのシリンダボアの内壁面を摺動して往復移動するピストンのスカート部の外表面を、旋削加工機に設置された旋削用工具によって加工する、ピストン製造方法において、
    前記旋削加工機に設置される旋削用工具の切れ刃部には、前記外表面に向かって突出する円弧刃先部と、該円弧刃先部に対して前記旋削加工機の工具送り方向の前方側に配置され、工具送り方向に平行に延びる線状刃先部とが設けられ、
    当該ピストン製造方法は、
    前記外表面に、前記工具送り方向に平行な方向に互いに間隔を空けて配置され周方向に延びる溝部を、前記円弧刃先部により加工する溝部加工工程と、
    隣り合う前記溝部の間に位置し前記工具送り方向に平行な方向に延びる中間面部を、前記線状刃先部により加工する中間面部加工工程と、を同時に行い、
    前記工具送り方向は、前記円弧刃先部から前記線状刃先部に向かう方向であり、
    前記溝部加工工程及び前記中間面部加工工程の後に、前記溝部加工工程及び前記中間面部加工工程での切込み量よりも小さい切込み量で前記円弧刃先部により前記中間面部を旋削加工する最終仕上げ加工工程を、有することを特徴とする、ピストン製造方法。
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