JP7316151B2 - コンクリート構造物の劣化診断ツール - Google Patents
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Description
この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が一般的に知られている。特許文献1には、コンクリート構造物からコンクリートをコアリングして分析する破壊型検査方法が記載されている。
現在、非壊型検査方法の開発が進められている。例えば、特許文献2には、モルタルパネルをコンクリート構造物に液状のエポキシ系接着剤で取り付けて、それを一定期間後に剥ぎ取って回収し、塩分量を測定することにより、コンクリート構造物が設置されている箇所の塩分量を評価する方法が提案されている。
発明者の知見によれば、蒸気養生の温度や湿度などの条件によっては、モルタルパネルの表面にひび割れなどが生じる可能性があることが判明した。
セメント急硬材には、通常、カルシウムアルミネートが用いられる。
しかしながら、カルシウムアルミネートは、可使時間が短く、製造安定性が低下する結果を示した。
カルシウムアルミネートにカルボン酸を併用することを検討したところ、可使時間を比較的長くすることが可能であるが、急硬性が不十分となり、強度が低下する恐れがあった。
さらに検討を進めた結果、カルボン酸に代えて、カルボン酸の塩をカルシウムアルミネートと併用することで、可使時間を比較的長くしつつも、ゲルタイムを短く、すなわち急硬性を高められることが判明した。
コンクリート構造物のおかれた環境に曝露される主面と、前記コンクリート構造物またはその近傍に存在する構造体に対する貼り付け面となる裏面とを有する、板状のモルタルパネルで構成されるコンクリート構造物の劣化診断ツールであって、
前記モルタルパネルは、急硬材およびセメントを含むモルタル組成物の硬化体で構成されており、
前記急硬材が、カルシウムアルミネートと、炭素数1以上10以下のカルボン酸の塩とを含む、
コンクリート構造物の劣化診断ツールが提供される。
劣化診断ツール100を構成するモルタルパネル10は、板状であれば形状を特に限定せずに使用できるが、裏面14の垂直方向から見たときの形状が、略正方形状または略長方形状としてもよい。ロット間の製造バラツキを抑制できる。
モルタルパネル10の圧縮強度は、JIS A 1108に準拠して測定される。
モルタルパネル10にける塩化物イオンの見掛けの拡散係数は、JSCE-G 572-2018
これにより、コンクリート構造物200に密着層20を介してモルタルパネル10を貼り付けたときに、コンクリート構造物200とモルタルパネル10との間に間隙が形成されるため、モルタルパネル10の引き剥がしが容易となる。よって、劣化診断ツール100の作業性を高めることができる。
裏面24側の密着層20(両面テープ)から剥離層50(カバーフィルム)を剥がすことで、劣化診断ツール100の設置が可能な状態となる。よって、劣化診断ツール100の作業性を高められる。
なお、密着層20の裏面24とは、モルタルパネル10裏面と密着した主面22とは反対側に位置する面である。また、剥離層50により密着層20の接着面を保護することにより、使用の前にかかる接着面(裏面24)が汚染されることを抑制できる。
例えば、略正方形状または直方形状を有するモルタルパネル10の4つの側面16のすべてに、遮蔽層30が被覆されてもよい。
本実施形態に係るモルタル組成物は、原料として、急硬材、セメント、細骨材、および水を含むものである。
炭素数1以上10以下のカルボン酸の塩をカルシウムアルミネートと併用することで、特異的に、水と調合しただけでは固まりにくい(すなわち可使時間が長い)が、セメントと混合するとセメントを急硬化させることが可能な(急硬性が高い)急硬材を製造することができる。したがって、モルタル組成物の製造安定性および強度を向上できる。
カルシウムアルミネートとは、水硬性材料の技術分野において、酸化アルミニウム(Al2O3)と酸化カルシウム(CaO)を主成分として含み、水和活性を有する物質を総称するものである。ここで、「主成分」とは、カルシウムアルミネート全体中の酸化アルミニウムと酸化カルシウムの合計含量が、例えば50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上であることを意味する。
ここで、不純物としては、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化硫黄などが代表的に挙げられる。その他、有機物、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、酸化チタン、酸化鉄、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、アルカリ金属硫酸塩、これらがCaOやAl2O3の一部に置換又は固溶したものなども不純物として挙げられる。もちろん、不純物はこれらのみに限定されない。
ガラス化率は、測定サンプルについて、粉末X線回折法により結晶鉱物のメインピーク面積Sを予め測定し、その後1000℃で2時間加熱後、(1から10℃)/分の冷却速度で徐冷し、粉末X線回折法による加熱後の結晶鉱物のメインピーク面積S0を求め、これらのS0及びSの値を用い、次の式を用いてガラス化率χを算出する。
ガラス化率χ(%)=100×(1-S/S0)
アルミナセメントの具体例としては、アルミナセメント1号、アルミナセメント2号などを挙げることができる。これらは、デンカ株式会社やAGC株式会社から購入可能である。
本明細書において、炭素数1以上10以下のカルボン酸の塩とは、炭素数1以上10以下のカルボン酸のカルボキシ基のプロトンが、陽イオンで置換された化合物のことをいう。換言すると、炭素数1以上10以下のカルボン酸の塩は、出発物質として炭素数1以上10以下のカルボン酸を準備し、これを適当な塩基性物質などと反応(中和反応)させて得られるものである。
炭素数は、より好ましくは1以上8以下、さらに好ましくは1以上5以下、特に好ましくは1以上3以下、とりわけ好ましくは1または2である。
なお、急硬性を特に高めたり、急硬剤の可使時間を特に長くしたりする観点からは、炭素数1以上10以下のカルボン酸は、ヒドロキシカルボン酸ではないことが好ましい。
本発明者らの知見として、ギ酸や酢酸の如き炭素数が比較的少ないカルボン酸の塩は、公知の炭素数が多い(炭素数10超の)カルボン酸の塩に比べ、急硬剤の可使時間を長くしやすく、また、セメントと混合したときの急硬性に優れる傾向を示す。
セメントとの混合前の可使時間の長さと、セメントとの混合後の急硬性とのバランスの点などからは、カルボン酸塩の量は、カルシウムアルミネート100質量部に対し、好ましくは0.1質量部以上50質量部以下、より好ましくは0.1質量部以上25質量部以下、さらに好ましくは0.15質量部以上10質量部以下である。
本実施形態の急硬材は、カルボン酸塩を1種のみ含んでも、2種以上含んでもよい。後者の場合、2種以上のカルボン酸塩の合計量が上記数値範囲内であることが好ましい。
本実施形態の急硬材は、好ましくは、さらに石膏を含んでもよい。石膏を含むことにより、セメントと混合する前の可使時間をより長く設計しやすい。
石膏の例としては、半水石膏や無水石膏を挙げることができる。強度発現性の面では無水石膏が好ましい。無水石膏としてより具体的には、弗酸副生無水石膏や天然無水石膏を挙げることができる。
石膏を水に浸漬させたときのpHについては、pH8以下の弱アルカリから酸性のものが好ましい。このpHが適度に低いことで、石膏成分の溶解度を低くすることができ、初期の強度発現性をより高めることができる。なお、ここでのpHは、石膏/イオン交換水=1g/100gの20℃における希釈スラリーのpHをイオン交換電極等により測定したものである。pHは、3以上8以下がより好ましく、5以上7以下がさらに好ましい。
石膏の量を50質量部以上とすることで、より長い可使時間を得ることができる。また、石膏の量を250質量部以下とすることで、急硬剤とセメントを混合して得られる硬化物(コンクリート)の初期強度を高めうる。
本実施形態の急硬材は、所望の効果を著しく損なわない範囲で、上記以外の任意の成分を含んでもよい。
一例として、本実施形態の急硬材は、可使時間や急硬性の微調整などの目的で、比較的少量の有機酸またはその塩(炭素数1以上10以下のカルボン酸の塩に該当しないもの)、炭酸塩、重金属炭酸塩、水酸化カルシウム、水酸化アルカリ、硫酸塩、亜硫酸塩などを含んでもよい。もちろん、本実施形態の急硬材は、これら成分を含まなくてもよい。
ポリアルキルアリルスルホン酸塩系減水剤として、例えば、メチルナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、及びアントラセンスルホン酸ホルマリン縮合物等の塩等が挙げられる。
その他、リグニンスルホン酸塩系減水剤、ポリオール系減水剤、及びオキシカルボン酸塩系減水剤等の一般減水剤を使用してもよい。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本実施形態に係るモルタルパネル10は、上記モルタル組成物を硬化することで得られる。
モルタルパネルの製造方法は、特に限定されないが、例えば、モルタル組成物を型枠内に流し入れる工程、モルタル組成物を硬化する工程を含んでもよい。
劣化診断ツール100は、包装袋に収容して保管してもよい。モルタルパネル10の諸特性のバラツキが少ないものを複数個選別し、それを同じ包装袋に収容してもよい。
下記の表1の原料比率に基づいて、カルシウムアルミネート、石膏およびカルボン酸の塩を、プロシェアミキサ(WB型、太平洋機工株式会社製)を用いて混合し、急硬材A~Eを得た。
(試験例1)
得られた第一液A 3g、セメント(デンカ社製、普通セメント)628.0g、減水剤(第一工業製薬社製、セルフロー110P、ポリアルキルアリルスルホン酸塩系減水剤)2.4g、増粘剤(信越化学工業社製、MH4000P2、メチルセルロース系増粘剤)3.4g、消泡剤(サンノプコ社製、SN デフォーマー 14HP、ポリエーテル系消泡剤)3.4gを秤量し、混合した。
これらの混合物に、標準砂((一社)セメント協会、セメント強さ試験用標準砂)1350.0g、水(水道水)376.8gを加え(水/セメント比:60%)、ミキサーを用いて、混練を行い、モルタル組成物Aを得た。
第一液Aに代えて、第一液B~Eを用いた以外は、モルタル組成物Aと同様にして、モルタル組成物B~Eを得た。
セメント(デンカ社製、普通セメント)628.0g、増粘剤(信越化学工業社製、MH4000P2、メチルセルロース系増粘剤)3.4g、消泡剤(サンノプコ社製、SN デフォーマー 14HP、ポリエーテル系消泡剤)3.4gを秤量し、混合した。これらの混合物に、標準砂((一社)セメント協会、セメント強さ試験用標準砂)1350.0g、水(水道水)376.8gを加え(水/セメント比:60%)、ミキサーを用いて、混練を行い、モルタル組成物Fを得た。
(実施例1)
可動式の仕切り板64で仕切られた複数の成形空間66を備える図4の型枠60を準備する。
テーブルバイブレータを用いて、型枠60を下記の条件で振動させつつ、調製直後のモルタル組成物Aを、型枠60の成形空間66のそれぞれに流し込んだ。
テーブルバイブレータの振動条件:
・時間:6分
・振動電動機の回転数:2800±50rpm
・振動台:全振幅0.8±0.05mm
静置後、型枠60の固定治具を取り外し、型枠60を脱型して、板状のモルタルパネルAを得た。
モルタルパネルAは、厚み:約5mm×縦:約4cm×横:約4cmの略直方形状を有していた。
モルタル組成物Aに代えて、モルタル組成物B、Cを用いた以外は、実施例1と同様にして、板状のモルタルパネルB、Cを得た。
モルタル組成物Aに代えて、モルタル組成物D、Eを用いた以外は、実施例1と同様にして、板状のモルタルパネルD、Eを得た。
モルタル組成物Aに代えて、モルタル組成物Fを用い、室内で静置することに代えて、下記の蒸気養生を行った以外は、実施例1と同様にして、板状のモルタルパネルFを得た。
蒸気養生の条件:
・20℃を、4時間保持する。
・20℃から80℃まで、1時間かけて昇温する。
・80℃を、8時間保持する。
・自然冷却で、20℃まで降温する。
表2中、「-」は評価を行わなかったことを示す。
モルタル組成物を型枠60に流し込み、未だ硬化が十分進行していない段階での強度を指触で測定した。そして、以下3段階で評価した。
◎:型枠を脱型しても形は崩れず、また、セメント組成物を指で押しても凹まなかった。
○:型枠を脱型しても形は崩れなかったが、セメント組成物を指で押すとやや凹む状態であった。あるいは、型枠を脱型しても形は崩れなかったが、セメント組成物を指で押すと凹む状態であった。
×:型枠を脱型すると形が崩れてしまう状態であった。
所定量のモルタル組成物を3つ個の型枠60に、順次流し込んだ。最初と最後の型枠60から得られたモルタルパネルについて、密度、質量のバラツキを評価した。
モルタルパネルの密度・質量のバラツキが抑制されており、実用上問題ない範囲である場合を○、モルタルパネルの密度・質量のバラツキが大きく、実用上使用できない場合を×と評価した。
比較例1の急硬材Dを用いると、急硬材を水や凝結調整剤と混合して調合した液を静置し、固形分(粗大粒子)の生成が認められるまでの可使時間が比較的短くなるためと推察される。
得られたモルタルパネルの表面外観を目視で観察し、状態を確認した。
モルタルパネルにおいて、ひび割れや変色が生じていない場合を○、ひび割れ・変色の少なくとも一方が生じた場合を×と評価した。
また、実施例1~3のモルタルパネルは、比較例3と比べて短時間に硬化させることが可能であった。
実施例1~3のモルタルパネルA~Cを用いて劣化診断ツールを作製した。
まず、アクリル系粘着両面テープ(3M社製、4485、テープ厚み:0.5mm、片面に剥離紙付き)を、縦:3.8cm×横:3.8cmにカットした。カットしたテープの粘着面を、モルタルパネルの裏面に図1(a)に示すように貼り付けた。
続いて、アルミ製シールの粘着面を、モルタルパネルの側面の4面の全体に、図3(b)に示すように貼り付けた。以上より、劣化診断ツールA~Cを得た。
したがって、実施例の劣化診断ツールを用いることで、劣化診断ツールを固定した付近のコンクリートの状況を安定的に推定することができる。
12 主面
14 裏面
16 側面
20 密着層
22 主面
24 裏面
30 遮蔽層
40 ラベル
50 剥離層
60 型枠
64 仕切り板
66 成形空間
100 劣化診断ツール
200 コンクリート構造物
202 桁
204 橋脚床板
210 構造体
300 パッケージ
310 包装袋
320 チャック
Claims (9)
- コンクリート構造物のおかれた環境に曝露される主面と、前記コンクリート構造物またはその近傍に存在する構造体に対する貼り付け面となる裏面とを有する、板状のモルタルパネルで構成されるコンクリート構造物の劣化診断ツールであって、
前記モルタルパネルは、急硬材およびセメントを含むモルタル組成物の硬化体で構成されており、
前記急硬材が、カルシウムアルミネートと、炭素数1以上10以下のカルボン酸の塩とを含む、
コンクリート構造物の劣化診断ツール。 - 請求項1に記載のコンクリート構造物の劣化診断ツールであって、
前記急硬材中、前記カルボン酸の塩が、カルボン酸の金属塩を含む、
コンクリート構造物の劣化診断ツール。 - 請求項1又は2に記載のコンクリート構造物の劣化診断ツールであって、
前記急硬材中、前記カルシウムアルミネート中のCaO/Al2O3モル比が1.0以上3.0以下である、コンクリート構造物の劣化診断ツール。 - 請求項1~3のいずれか一項に記載のコンクリート構造物の劣化診断ツールであって、
前記急硬材が石膏を含む、コンクリート構造物の劣化診断ツール。 - 請求項1~4のいずれか一項に記載のコンクリート構造物の劣化診断ツールであって、
前記急硬材中、前記カルシウムアルミネート100質量部に対する前記カルボン酸の塩の量が0.1質量部以上50質量部以下である、コンクリート構造物の劣化診断ツール。 - 請求項1~5のいずれか一項に記載のコンクリート構造物の劣化診断ツールであって、
前記モルタルパネルの前記裏面に密着層を備える、コンクリート構造物の劣化診断ツール。 - 請求項1~6のいずれか一項に記載のコンクリート構造物の劣化診断ツールであって、
JIS A 1108に準拠して測定される、前記モルタルパネルの圧縮強度は、15N/mm2以上30N/mm2以下である、コンクリート構造物の劣化診断ツール。 - 請求項1~7のいずれか一項に記載のコンクリート構造物の劣化診断ツールであって、
前記モルタルパネルの厚みは、3mm以上20mm以下である、コンクリート構造物の劣化診断ツール。 - 請求項1~8のいずれか一項に記載のコンクリート構造物の劣化診断ツールであって、
前記モルタルパネルの側面に、塩化物イオンまたは二酸化炭素を遮蔽する遮蔽層が設けられている、
コンクリート構造物の劣化診断ツール。
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