以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。以下の説明では、分注装置により吸引または吐出される液体を試料と呼ぶ。分注装置の用途に応じて、様々な種類の液体を試料として用いる場合がある。例えば、一例として後述するように、分注装置を微生物検査に使用する場合、検体を含む検体液、あるいは検体液が所定の倍率で希釈された希釈検体液を試料として用いる。
<分注装置の概要>
図1は、本実施の形態である分注装置の構成例を示す説明図である。図2は、図1に示す分注装置の外観構造を示す斜視図である。図2は、複数のシリンジが配列される前面側から視た斜視図である。図3は、図1に示すピストンおよびシリンジの動作方向を模式的に示す説明図である。以下で説明する各図には、X方向、Y方向、およびZ方向が必要に応じて記載されている。X方向、Y方向、およびZ方向のそれぞれは、互いに直交する。したがって、Z方向はX-Y平面に対する法線方向、X方向はY-Z平面に対する法線方向、Y方向はX-Z平面に対する法線方向になっている。また、Z方向は、装置の設置面に対する法線方向である。したがって、以下の説明において、「Z方向に沿って動作する」と説明した場合、上昇動作または下降動作することを意味する。図1では、ピストン駆動部40およびシリンジ駆動部50の動作方向を両矢印で模式的に示している。また、図3では、連結板11および21の動作方向を片矢印で模式的に示している。
図1に示すように、本実施の形態の分注装置100は、ピストン10と、シリンジ20と、ノズル30と、ピストン駆動部40と、シリンジ駆動部50と、を有する。ピストン10は、分注装置100の高さ方向であるZ方向に延びるように設けられている。また、ピストン10は、シリンジ20の内壁に密着している。シリンジ20の内壁とピストン10とに囲まれた空間の体積は、ピストン10がZ方向に上昇または下降することにより変化する。分注装置100は、シリンジ20の内壁とピストン10とに囲まれた空間の体積の変化に応じて、試料を吸引または吐出する。このように、ピストン10とシリンジ20を用いた分注方式の場合、高い精度で試料を分注することができるという特徴を有する。したがって、後述する微生物検査など、高い分注精度が要求される場合に適用することができる。
ピストン10は、一方の端部(下端部)はシリンジ20の内部に挿入され、下端部の反対側(図1に示す例では、ピストン10の上端部)は、連結板11に固定されている。連結板11は、ピストン駆動部40の駆動力をZ方向に沿った上下動作としてピストン10に伝達する板状部材である。ピストン駆動部40は、モータ41、ネジ軸42、およびナット43を有する。
モータ41は、Z方向に延びるネジ軸42に連結されている。ネジ軸42は、Z方向に延びる回転軸を中心に回転可能な状態で、上部の支持板61および下部の支持板62の間に挟まれている。ネジ軸42にモータ41の回転力が伝達されると、ネジ軸42は、Z方向に対して直交する平面(図2に示すX-Y平面)に沿って回転する。ネジ軸42には、ナット43が係合され、ナット43とネジ軸42との間には、図示しない複数のボールが挿入されている。ピストン駆動部40は、所謂、ボールねじである。
ネジ軸42が回転すると、ネジ軸42に係合されるナット43は、ネジ軸42の回転方向および回転数に応じて、Z方向に上昇または下降する。ナット43は、連結板11に固定されている。このため、連結板11は、ネジ軸42の回転方向および回転数に応じて、上昇または下降する。ピストン10には、連結板11、ナット43およびネジ軸42を介してモータ41の駆動力が伝達される。言い換えれば、ピストン駆動部40は、ピストン10に連結され、ピストン10をZ方向に沿って動作させる機構を備える。なお、図1では、分注装置100の構成例を単純化して示している。このため、ネジ軸42がモータ41に直接接続されている例を示している。ただし、ネジ軸42にモータ41の駆動力が伝達される構造であれば足りるので、例えば、ネジ軸42とモータ41との間に、ギアやカムなどのカップリング部品が配置されている場合もある。
シリンジ20およびノズル30のそれぞれは、Z方向にピストン10と同軸上に設けられている。ピストン10の一部分は、シリンジ20内に挿入されている。ノズル30は、シリンジ20の下端部に接続され、シリンジ20に固定されている。図1に示す例では、ノズル30の下端部には、チップ31が接続されている。図1に示す例の場合、試料は、チップ31の内部に保持される。このためノズル30には、試料が侵入しない構造になっている。この場合、ノズル30が試料により汚染されることを防止できる。ただし、試料の種類によっては、ノズル30の汚染を考慮しなくても良い場合がある。この場合には、チップ31を取り付ける必要はなく、ノズル30の内部に試料が保持される。
また、図1に示す例では、ピストン10がシリンジ20に密着する構造を示しているが、変形例として、ピストン10の径がシリンジ20の内径よりも小さい場合もある。この場合、ピストン10とシリンジ20との間に、樹脂などの弾性シール部材を介在させ、弾性シール部材とシリンジ20とが密着するように配置する。弾性シール部材を介在させることにより、シリンジ20の内部空間の気密性を向上させることができる。
シリンジ20の一部分(図1では上端部)は、連結板21に固定されている。連結板21は、ピストン駆動部40とは別に設けられた、シリンジ駆動部50の駆動力をZ方向に沿った上下動作としてシリンジ20に伝達する板状部材である。シリンジ駆動部50は、ピストン駆動部40と同様の構造を備える駆動機構部であり、モータ51、ネジ軸52、およびナット53を有する。
モータ51は、Z方向に延びるネジ軸52に連結されている。ネジ軸52は、Z方向に延びる回転軸を中心に回転可能な状態で、上部の支持板61および下部の支持板62の間に挟まれている。ネジ軸52にモータ51の回転力が伝達されると、ネジ軸52は、Z方向に対して直交する平面(図2に示すX-Y平面)に沿って回転する。ネジ軸52には、ナット53が係合され、ナット53とネジ軸52との間には、図示しない複数のボールが挿入されている。シリンジ駆動部50は、所謂、ボールねじである。
ネジ軸52が回転すると、ネジ軸52に係合されるナット53は、ネジ軸52の回転方向および回転数に応じて、Z方向に上昇または下降する。ナット53は、連結板21に固定されている。このため、連結板21は、ネジ軸52の回転方向および回転数に応じて、上昇または下降する。シリンジ20には、連結板21、ナット53およびネジ軸52を介してモータ51の駆動力が伝達される。言い換えれば、シリンジ駆動部50は、シリンジ20に連結され、シリンジ20、ノズル30、およびチップ31のそれぞれをZ方向に沿って動作させる機構を備える。なお、上記したピストン駆動部40の場合と同様に、ネジ軸52にモータ51の駆動力が伝達される構造であれば足りるので、例えば、ネジ軸52とモータ51との間に、ギアやカムなどのカップリング部品が配置されている場合もある。
図1に示す分注装置100の場合、ピストン10およびシリンジ20のそれぞれは、互いに別の駆動部(ピストン駆動部40およびシリンジ駆動部50)により駆動されるので、互いに独立して動作可能である。「ピストン10およびシリンジ20が互いに独立して動作可能」とは、ピストン10およびシリンジ20のうちの一方が、他方の動作に影響を受けずに動作可能であることを意味する。例えば、シリンジ20を下降させながらピストン10は停止させることができる。シリンジ20に連結板21を介して連結されるネジ軸52は、ピストン10に連結される連結板11とは接触しない。また、ピストン10に連結板11を介して連結されるネジ軸42は、シリンジ20に連結される連結板21とは接触しない。なお、分注装置100の場合、連結板21には、連結板11と連結板21との離間距離が過剰に大きくなることを抑制するための昇降動作制御部材12が固定されている。この昇降動作制御部材12は、連結板11と連結板21との離間距離が大きくなりすぎて、シリンジ20からピストン10が抜けてしまうことを防止するための部材である。昇降動作制御部材12の上端部近傍にはストッパ13が取り付けられており、ストッパ13は、連結板11と連結板21との離間距離が予め設定された上限値に達すると、連結板11に接触するが、離間距離が上限値未満の場合には、連結板11と接触しない。
分注装置100の場合、上記の通り、ピストン10に連結される部材と、シリンジ20に連結される部材とが互いに干渉しない構造になっているので、ピストン10およびシリンジ20のそれぞれを、互いに独立して動作させることができる。この結果、図3に示す以下の動作が可能になる。すなわち、第1に、試料の吸引および吐出を行わない状態で、ピストン10およびシリンジ20をZ方向沿って同じ方向に昇降動作させることができる(以下、この動作を第1動作と呼ぶ)。第2に、ピストン10およびシリンジ20のいずれか一方の昇降動作を停止した状態で、他方を昇降動作させて、試料の吸引または吐出を行う動作ができる(以下、この動作を第2動作と呼ぶ)。第3に、ピストン10およびシリンジ20をZ方向に沿って互いに反対方向に昇降動作させて、試料の吸引または吐出を行う動作ができる(以下、この動作を第3動作と呼ぶ)。
上記第1動作は、試料を吸引または吐出する際に、吸引元または吐出先の容器と、チップ31との位置関係を調整する動作である。また、上記第1動作は、吸引処理または吐出処理を実施した後、次の処理に移行する際に実施される。
上記第2動作および第3動作は、試料の吸引または吐出を行う動作である。例えば、試料の吸引量または吐出量が少ない場合には、ピストン10またはシリンジ20のストローク量(Z方向の相対的な移動距離)は小さい。この場合、上記第2動作により試料の吸引または吐出を行うことで、少量、例えば1ml(ミリリットル)以下の試料を高精度で吸引または吐出することができる。
また例えば、試料の吸引量または吐出量が多い場合には、ピストン10またはシリンジ20のストローク量を大きくする必要がある。この場合、上記第2動作で対応しようとすれば、例えばピストン10(あるいはシリンジ20)の移動距離を大きくする必要があるので、分注装置100が大型化する。一方、上記第3動作の場合、ピストン10およびシリンジ20の両方を互いに反対方向に動作させるので、ストローク量が大きくなっても、ピストン10およびシリンジ20のそれぞれの移動距離の増大を抑制できる。
本実施の形態の分注装置100によれば、上記した第1動作、第2動作、および第3動作を実行できるので、分注装置100の大型化を抑制し、かつ、様々な分注量に幅広く対応することができる。
ところで、上記した第1動作および第3動作を行う場合、ピストン10およびシリンジ20のそれぞれを昇降動作させるので、ピストン10の昇降動作と、シリンジ20の昇降動作とを同期させる必要がある。特に、上記第3動作の場合、同期の程度により、分注量の精度が変化するので、高い精度で同期させる必要がある。本実施の形態の場合、ピストン駆動部40のモータ41と、シリンジ駆動部50のモータ51とは、それぞれ共通の制御回路70に接続されている。このため、モータ41の駆動とモータ51の駆動とを容易に同期させることができる。また、上記したように、ピストン10の昇降動作は、モータ41により駆動されるネジ軸42の回転方向および回転数により制御される。また、シリンジ20の昇降動作は、モータ51により駆動されるネジ軸52の回転方向および回転数により制御される。したがって、モータ41の駆動とモータ51の駆動とを同期させることができれば、ピストン10の昇降動作とシリンジ20の昇降動作を同期させることができる。
また、図2に示すように、分注装置100は、複数(図2では4個)の分注ユニット100Aを有している。複数の分注ユニット100Aのそれぞれは、Z方向に直交するX方向に沿って配列される。複数の分注ユニット100Aのそれぞれは、図1を用いて説明したピストン10、シリンジ20、ノズル30、ピストン駆動部40、およびシリンジ駆動部50を有する。一つの分注装置100が複数の分注ユニット100Aを備えていれば、同時に複数の試料分注作業を行うことができる。このため、一つの分注ユニット100Aのみで作業する場合と比較して、分注工程の効率を向上させることができる。
ところで、同時に複数の試料の分注作業を実施可能な分注装置として、例えば図5に検討例として示す分注装置101のように、複数の部品のうちの一部を兼用化して、部品点数を減らす取り組みが考えられる。図4は、図2に示す複数の分注ユニットの構成例を示す正面図である。図5は、図4に対する検討例である分注装置の構成例を示す正面図である。
図5に示す分注装置101の場合、複数の分注ユニット100Aのそれぞれは、ピストン10をZ方向に動作させるピストン駆動部としてのモータ41を備える。このため、複数のピストン10のそれぞれは、互いに独立して動作させることが可能である。一方、複数のシリンジ20のそれぞれは、一体に形成された連結板21に接続されている。連結板21は、搬送ガイド55に接続され、搬送ガイド55に沿ってZ方向に動作する。このため、複数のシリンジ20のそれぞれは、一括してZ方向に動作する。
また、ピストン10に接続される複数のネジ軸42のそれぞれは、連結板21に支持されている。このため、連結板21がZ方向に動作すると、複数のピストン10のそれぞれは、連結板21の動作に伴ってZ方向に動作する。
分注装置101の場合、図4に示す分注装置100と比較して、複数のシリンジ20を動作させる駆動部が共通化されているので、部品点数は少ない。しかし、複数のシリンジ20、複数のピストン10、および複数のモータ41を一括して支持する連結板21には、高い支持強度が要求される。また、連結板21をZ方向に動作させるモータ51および搬送ガイド55には、強力な駆動力が要求される。このため、分注装置101の場合、分注装置100と比較して、装置のサイズが大きく成り易い。また、連結板21は、複数のシリンジ20、複数のピストン10に加えて複数のモータ41の荷重まで支える必要があるので、連結板21における各部材のレイアウトに制約がある。このため、複数のシリンジ20のそれぞれを狭ピッチで配置することが難しい。
図4に示すように、本実施の形態の分注装置100が備える、複数のピストン10および複数のシリンジ20は、互いに独立して動作可能であり、かつ、互いに同期させて動作させることが可能である。このため複数の連結板11のそれぞれは、分注ユニット100A毎に分割されている。また、複数の連結板21のそれぞれは、分注ユニット100A毎に分割されている。このように、分注装置100の場合、分注ユニット100Aを構成するピストンユニット(ピストン10に連結される可動部分)とシリンジユニット(シリンジ20に連結される可動部分)とがそれぞれ独立するように(言い換えれば互いに分離可能な状態で)支持される。このため、1台のモータ51およびネジ軸52に加わる荷重は、1枚の連結板21、1個のシリンジ20、1個のノズル30、1個のチップ31の荷重ですむ。この場合、分注ユニット100Aの数と同数のモータ51を準備する必要はあるが、複数のモータ51のそれぞれに要求される出力は小さくて良い。このため、分注装置100は、複数の試料を同時に分注することが可能な多連式の分注装置であるが、装置の外形サイズはコンパクトにすることができる。分注装置のコンパクト化は、分注装置の性能向上に含まれる。
また、図1に示すように、分注装置100は、複数のガイド板(ガイド、ガイド部材)80を有する。複数のガイド板80のそれぞれは、上部の支持板61および下部の支持板62の間に挟まれ、かつ、固定されている。連結板21および連結板11のそれぞれは、ガイド板80に係合され、Z方向に延びるガイド板80に沿って動作する。言い換えれば、連結板11は、ネジ軸42およびガイド板80にガイドされてZ方向に動作する。また、連結板21は、ネジ軸52およびガイド板80にガイドされてZ方向に動作する。連結板11および21を昇降動作させる場合、一つの軸のみにガイドされている場合、X-Y平面での位置ずれ、あるいはZ方向に対して傾斜する場合がある。分注装置100のように、Z方向に延びる複数の部材によりガイドされる場合、X-Y平面での位置ずれ、あるいはZ方向に対して傾斜することを防止できる。
図6は、図1に示すピストン用のネジ軸およびガイド板を背面側から視た側面図である。図6に示すように、複数のガイド板80のそれぞれは、Z方向に延びる板状の部材であり、互いに離間している。連結板11にはブロック81が取り付けられ、ブロック81は、ガイド板80の一方の面(図6の場合前面側)を包むように係合されている。また、連結板21にはブロック82が取り付けられ、ブロック82は、ガイド板80の一方の面(図6の場合前面側)を包むように係合されている。この構造により、連結板11および21のそれぞれは、ガイド板80の延在方向であるZ方向に動作方向が矯正される。
図6に示すように、ガイド板80は、複数の分注ユニット100Aのそれぞれに設けられている。分注装置100の場合、連結板11と連結板21とは共通のガイド板80に係合されている。このため、複数のガイド板80の数は、複数の分注ユニット100Aの数と同数(図6では4個)である。複数のガイド板80のそれぞれには、連結板11の一部分、および連結板21の一部分がZ方向に沿って移動可能な状態で係合されている。言い換えれば、ピストン10の動作方向をガイドする部材と、シリンジ20の動作方向をガイドする部材とが兼用化されている。この場合、ピストン10の動作方向をガイドする部材とシリンジ20をガイドする部材とが別々に設けられている場合と比較して、部品点数を低減することができる。また、兼用化されたガイド板80の大きさは兼用化しない場合と同様なので、部品点数が低減した効果として分注装置100の重量を低減できる。
また、複数のガイド板80のそれぞれは、支持板61および62に固定されている。このため、複数のガイド板80は、分注装置100の構造を維持するための構造上の支持部材として機能する。本実施の形態に対する検討例として、支持板61および62を連結する厚い壁を設けることにより、分注装置100の構造を維持する方法が考えられる。この場合、装置全体の重量が壁により増大する。一方、本実施の形態の分注装置100の場合、複数のガイド板80が構造上の支持部材として機能するので、厚い壁を設けることなく、分注装置100の構造上の強度を維持することができる。例えば図2に示す例では、支持板61および62は、平面視において4つの角部のそれぞれに設けられた柱83に固定されている。4つの柱83(図2は斜視図のため、4つの柱83のうちの3つが図示されている。)は、支持板61および62に囲まれた空間の構造を維持する支持棒である。また、4つの柱83の内側には、複数のガイド板80が設けられ、柱83の支持強度を補強する構造になっている。このように、分注装置100の場合、構造を維持するための壁を設ける必要がないので、装置全体を軽量化することができる。
また、図1および図2に示すように、連結板11と連結板21との間には、昇降動作制御部材12が設けられている。連結板11と連結板21との離間距離は、昇降動作制御部材12により上限値が制限されている。詳しくは、昇降動作制御部材12は、連結板21に固定され、Z方向に延びる棒状の部材であって、連結板11を貫通するように配置される。図1および図2に示す例では、昇降動作制御部材12の下端部が連結板21に固定されている。また、昇降動作制御部材12の上端部近傍には、ストッパ13が取り付けられている。ストッパ13は、連結板11よりも上方に取り付けられている。連結板11および連結板21は、互いに独立してZ方向に動作するため、連結板11と連結板21との離間距離は可変である。ただし、この離間距離が極端に大きくなると、シリンジ20からピストン10が完全に抜けてしまう可能性がある。分注装置100の場合、ストッパ13の位置により、連結板11と連結板21との離間距離の上限値を設定することができる。したがって、連結板11および連結板21が、互いに独立してZ方向に動作した場合でも、シリンジ20からピストン10が抜けてしまうことを防止できる。分注装置100の場合、複数の連結板11および21がそれぞれ独立して昇降動作することが可能なので、複数の連結板21のそれぞれに、昇降動作制御部材12が取り付けられている。
また、図7に示すように、分注装置100は、位置センサ91を有する。図7は、図2に示す分注装置が備える複数の位置検出部品のうちの一つを拡大して示す拡大斜視図である。位置センサ91は、Z方向における連結板21の位置を検出する位置検出部品90の一部分である。位置検出部品90は、位置センサ91、センサ支持板92、および支持板取り付け部材93を備える。位置センサ91は、センサ支持板92に固定される。センサ支持板92は、支持板取り付け部材93を介してガイド板80に固定されている。位置センサ91は例えばイメージセンサであって、ガイド板80の後方に取り付けられている。言い換えれば、連結板21と位置センサ91とはガイド板80を介して互いに反対側に配置されている。位置センサ91の受光面は、ガイド板80とはずれた位置に配置されている。位置センサ91は、連結板21または、ブロック82と対向可能な位置に配置されている。位置センサ91は、連結板21の下限位置および上限位置を監視するセンサである。例えば、位置センサ91と連結板21とが対向している時には、位置センサ91により連結板21が検出される。一方、連結板21の位置が極端に下方または上方になった場合、位置センサ91により連結板21が検出されなくなる。この場合、位置センサ91から出力される検出信号に基づいて、図示しない制御回路が図1に示すモータ51の動作を停止させる。
上記したように、分注装置100の場合、複数のガイド板80のそれぞれが互いに離間しているので、隣り合うガイド板80の隙間において、連結板21の位置を監視することができる。この場合、連結板21の近傍で、位置検出を行うことができるので、位置検出の精度を向上させることができる。
なお、図1では、連結板11および21の移動方向をガイドするガイド部材として、板状部材であるガイド板80を例示した。ただし、ガイド部材の形状は板状部材には限定されず、例えば、ネジ軸42および52と同様に、円柱棒状の部材を用いることができる。図8は、図1に対する変形例を示す断面図である。図8に示す分注装置102は、図1に示すガイド板80に代えて、円柱棒状のスプライン軸(ガイド、ガイド部材)84をガイド部材として利用している点で図1に示す分注装置100と相違する。スプライン軸84には、ナット85が係合され、ナット85とスプライン軸84との間には、図示しない複数のボールが挿入されている。スプライン軸84は、連結板11および21のそれぞれに取り付けられたナット85を介して連結板11および21と係合されている。このように、スプライン軸84に設けられた溝に沿ってボールが転がることにより、ナット85がスプライン軸84の延在方向に沿って移動する方式をボールスプライン方式と呼ぶ。
<適用例>
次に、図1~図4、図6、および図7を用いて説明した分注装置100の適用例について説明する。図9は、図1~図4、図6、および図7の分注装置を使用するシステムのレイアウトの一例を示す平面図である。図9に示すシステムでは、例えば、一般細菌数(一般性菌数と呼ぶ場合もある)、大腸菌群あるいは大腸菌、黄色ブドウ球菌、または乳酸菌など、特定の菌群または細菌の有無の検査、あるいはこれらの数を測定する微生物検査に供される試料として、検体液を調整することができる。検体液を調整する希釈装置では、検体原液を複数段階に希釈した複数の希釈検体液を調製する。例えば、検体原液、検体原液を10倍に希釈した10倍希釈検体液、および10倍希釈検体液をさらに10倍に希釈した102倍希釈検体液、102倍希釈検体液をさらに10倍に希釈した103倍希釈検体液の4種類の検体液をそれぞれ調製する。なお、各希釈検体液の希釈倍率や、検体液の希釈倍率の種類の数は、上記の例には限定されず、種々の変形例が適用できる。
図9に示すように、希釈装置DA1は希釈処理室2を備え、希釈処理室2には、架台3が設けられている。架台3上には、以下で説明する希釈方法に含まれる各工程を自動的に行うための装置(機構部)が設けられている。図9に示す希釈装置DA1は、試験管ラック搬送機構部4と、試験管搬送機構部5と、処理部6と、希釈液分注機構部7と、検体液分注機構部としての分注装置100と、を有する。本実施の形態の希釈方法によれば、各工程(例えば、希釈液分注工程、検体液撹拌工程および検体液分注工程など)を複数本の試験管単位で一括して行う。このため、各工程を1本の試験管毎に順次実施する場合と比較して処理効率を向上させることができる。
まず、ラック供給工程として、試験管ラック46を希釈装置DA1の試験管ラック搬送機構部4に供給する。試験管ラック46は、行列状に配列された複数の開口部を備える。複数の試験管は、試験管ラック46に形成された複数の開口部のそれぞれに挿入され、試験管ラック46に保持される。搬送された当初の試験管ラック46に収容される試験管には、検体原液が既に注入された試験管と、空の試験管とが含まれる。
試験管ラック46は、パスボックス9Aから希釈処理室2内に供給される。パスボックス9Aは、希釈処理室2内に、外部から機器を搬入する際に、希釈処理室2内の汚染を抑制するための前室として機能する。なお、希釈装置DA1は、パスボックス9Aの他、パスボックス9Bを有している。パスボックス9Bは、分注装置100で使用する複数のチップを保持するチップラック47をチップラック搬送機構部48に供給するために利用されるパスボックスである。パスボックス9Bとパスボックス9Aの構成および機能は同様である。
希釈処理室2内において、複数の試験管のそれぞれは、試験管ラック46に保持された状態で搬送される。試験管ラック搬送機構部4は、試験管が保持された状態で、複数の試験管ラック46をガイドレールに沿って搬送する機構を備えている。試験管ラック46は、試験管ラック搬送機構部4により、パスボックス9Aと重なる位置から試験管搬送機構部5と重なる位置まで搬送される。
処理前試験管搬送工程として、試験管ラック46から、複数の試験管を処理部6に搬送する。例えば、最初のサイクルでは、複数の試験管のうち、検体原液が入った複数の試験管と、空の複数の試験管とが処理部6に搬送される。
試験管搬送機構部5は、試験管を保持可能な保持部、および保持部を搬送する搬送部を備える。試験管搬送機構部5は、保持部により複数の試験管を保持した状態で、搬送部により処理部6上に複数の試験管を搬送し、処理部6に設けられた複数の試験管の収容スペースのそれぞれに複数の試験管のそれぞれを配置する。
次に、希釈液分注工程では、処理部6において、複数の試験管のうち、複数の空の試験管のそれぞれに希釈液を分注する。なお、複数の試験管のそれぞれの開口部にキャップが取り付けられている場合、希釈液を分注する前に、複数の試験管からキャップを取り外す。複数の試験管からキャップを取り外した後、処理部6において、複数の空の試験管のそれぞれに希釈液を分注する。
希釈装置DA1は、複数の空の試験管のそれぞれに希釈液を分注する機構を備えた希釈液分注機構部7を備える。希釈液分注機構部7は、希釈液を吐出する希釈液吐出ノズルを含む希釈液用ノズル部71と、希釈液をタンクから吸い上げ、希釈液吐出ノズルまで供給するポンプ部72と、を備える。
希釈液用ノズル部71は、希釈液吐出ノズルをX方向およびY方向に沿って搬送可能な状態で配置される。このため、処理部6の位置を移動させることなく、処理部6に保持された試験管に希釈液を分注することができる。1本の試験管に分注される希釈液の量には種々の変形例が適用可能であるが、例えば9ml(ミリリットル)の希釈液が分注される。
次に、検体液撹拌工程では、処理部6において、検体液(検体原液または希釈検体液)が入った複数の試験管のそれぞれを振り、内部の検体液を撹拌する。これにより、試験管内部の検体液を均質化することができる。
次に、検体液分注工程では、処理部6において、検体液(検体原液または希釈検体液)が入った複数の試験管のそれぞれから検体液を吸引し、かつ、希釈液が分注された後の複数の試験管のそれぞれに検体液を分注する。本実施の形態の分注装置100は、処理部6において、複数の試験管のうち、希釈対象の検体液が入った複数の試験管のそれぞれから検体液を吸引し、かつ、希釈液が分注された後の複数の試験管のそれぞれに検体液を分注する機構を備える。分注装置100は、Y方向に延び、かつ、分注装置100を挟むように配置された2本のガイドレール100G上に支持される。分注装置100は、モータの駆動力により、ガイドレール100Gの延在方向に沿って移動可能に構成される。
図1に示すチップ31は、図9に示すチップラック47に収容されて、希釈処理室2内にパスボックス9Bから搬入される。チップラック47は、2本のガイドレール100Gの間の領域まで搬送される。2本のガイドレール100Gの間の領域において、図2に示す分注装置100は、複数のノズル30のそれぞれの先端が、未使用のチップ31と対向する位置まで移動する。この状態で、シリンジ20を下降させると、複数のノズル30の先端部分(チップ取付け部)のそれぞれは、チップ31に挿入され、チップ31が固定される。チップ31は、検体液に接液するので、汚染を回避するために、使い捨てで使用される。検体液を吐出したチップ31は、ノズル30から取り外され、図示しない回収ボックスに投入される。チップ31をノズル30から取り外す方法は、例えば、チップ31の先端側の一部分を上記回収ボックスの内壁に押し付ける。これにより、ノズル30とチップ31との接続部分に外力が付与され、チップ31を取り外すことができる。チップ31が取り外されたノズル30は、次のサイクルの検体液分注工程を行うために、チップラック47(図9参照)内のチップ31と重なる位置に移動する。チップ31の取り付けおよび取り外しを行う際には、図3を用いて説明した動作のうち、第1動作を行う。第1動作により、ピストン10およびシリンジ20の全体の高さを調整することができる。
検体液分注工程の最初のサイクルでは、検体液が入った試験管は、検体原液が入った試験管である。この場合、上記検体液撹拌工程において検体原液を撹拌する前に、試験管に入った検体原液の液面高さを計測する、液面検知処理を行う。試験管に液を分注する方法として、希釈液分注機構部7や分注装置100のように、装置を用いて分注する場合、分注量をある程度の精度で揃えることができる。試験管に検体原液を分注する場合でも、同様に装置を用いて分注すれば、分注量のばらつきを抑制できる。
ところで、試験管に検体原液を分注する場合に用いる手段は特に限定されず、例えば、人手を介して分注される場合も含まれる。人手により分注する場合、分注作業者の熟練度や技術によっては、分注量のばらつきが大きい場合がある。試験管に入っている検体原液の分注量のばらつきが大きい状態で検体原液を吸引すると、分注量の程度によって、吸引される検体原液の吸引量にばらつきが生じる場合がある。希釈工程では、検査の種類によっては、10の指数倍にまで希釈して細菌数を評価するので、検体原液の吸引量に誤差が生じれば、希釈検体液の誤差が大きく成り易い。そこで、本実施の形態の場合、検体原液を吸引する前に、試験管内に分注された検体原液の液面高さを計測する。
また、本実施の形態の場合、複数のシリンジ20のそれぞれは、互いに独立して昇降動作させることが可能である。したがって、本実施の形態の場合、4個のチップ31のZ方向における位置を、それぞれ独立して制御することができる。例えば、液面検知処理の計測結果に基づいて、検体原液の液面高さが低い試験管には、チップ31が低い位置まで下降するので、チップ31と検体原液とを確実に接液させることができる。一方、検体原液の液面高さが高い試験管の場合、チップ31が他のチップ31と比較して相対的に高い位置で停止する。この場合、チップ31を検体原液内に深く浸漬することで、検体原液があふれる、あるいは、吸引する際に過剰に検体原液が吸引されることを防止できる。また、検体原液を分注する工程において、分注量のばらつきを抑制することにより、最終的な希釈検体液に含まれる細菌の数の正確性、言い換えれば、希釈工程の正確性を向上させることができる。1本のチップ31に吸引される検体液の吸引量には種々の変形例が適用可能であるが、例えば1ml(ミリリットル)の検体液が吸引される。
上記した液面検知処理は、試験管に入っている検体液の量のばらつきが大きい場合に有効である。したがって、図9に示す希釈液分注機構部7および分注装置100を用いて分注された希釈検体液を吸引する、第2回目以降のサイクルでは、液面検知処理を省略することができる。第1回目のサイクルと比較すると、液面検知処理を行うことにより、誤差を低減する効果は小さくなるが、変形例として第2回目以降のサイクルでも液面検知処理を行う場合もある。希釈工程の全体の作業効率を向上させる観点からは、第2回目以降の液面検知処理を行わないことが好ましい。
また、分注装置100を様々な用途に適用する場合、吸引量には幅がある。本実施の形態の場合、図3を用いて説明したように、ピストン10およびシリンジ20のうち一方を動作させる第2動作と、ピストン10およびシリンジ20を互いに反対方向に動作させる第3動作と、をそれぞれ行うことができる。これにより、ピストン10とシリンジ20とに囲まれた気密空間の体積を広範囲で変化させることができる。このため、幅広い吸引量の設定に対して高い精度で吸引することができる。同様に、本実施の形態の分注装置100の場合、幅広い分注量の設定に対して、高い精度で分注することができる。
複数のチップ31のそれぞれに吸入された検体液(検体原液または希釈検体液)は、希釈液が入った複数の試験管のそれぞれに分注される。したがって、複数のチップ31のそれぞれが、希釈液が入った複数の試験管のそれぞれと対向する位置に移動する。検体液を保持した複数のチップ31のそれぞれは、希釈液が入った複数の試験管のそれぞれの上方に配置される。この状態、あるいはチップ31の先端が試験管の開口部内に挿入された状態で、ピストン10は、チップ31の内部を加圧して、検体液を吐出する。これにより、複数のチップ31内にそれぞれ保持された検体液は、複数の試験管のそれぞれに分注される。
次に、処理後試験管搬送工程として、検体液が分注された後の複数の試験管は、処理済の試験管として、図9に示す試験管搬送機構部5を介して試験管ラック46に搬送される。また、第1回目のサイクルにおける処理後試験管搬送工程が終わった後、試験管ラック46から、新たに複数の空の試験管が処理部6に搬送される。以降、処理前試験管搬送工程から処理後試験管搬送工程までの各工程を複数回繰り返す。処理済の試験管が保持された試験管ラック46は、希釈処理室2から外部に搬出される。
本発明は前記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しな
い範囲で種々変更可能である。例えば、図2では、複数の分注ユニット100Aを有する分注装置100を取り上げて説明したが、変形例として、一つの分注ユニット100Aのみを備える分注装置にも適用できる。この場合でも、図3を用いて説明した第1、第2および第3動作を行うことはできるので、幅広い分注量の設定に対して高精度で分注することができる。