以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本開示の一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される、数値、形状、材料、構成要素、及び、構成要素の配置位置や接続形態などは、一例であって本開示を限定する主旨ではない。
また、各図は模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、各図において縮尺等は必ずしも一致していない。なお、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
また、本明細書において、「上方」及び「下方」という用語は、絶対的な空間認識における上方向(鉛直上方)及び下方向(鉛直下方)を指すものではなく、積層構成における積層順を基に相対的な位置関係により規定される用語として用いる。また、「上方」及び「下方」という用語は、2つの構成要素が互いに間隔をあけて配置されて2つの構成要素の間に別の構成要素が存在する場合のみならず、2つの構成要素が互いに接する状態で配置される場合にも適用される。
また、本明細書及び図面において、X軸、Y軸及びZ軸は、三次元直交座標系の三軸を表している。X軸及びY軸は、互いに直交し、且つ、いずれもZ軸に直交する軸である。
(実施の形態1)
実施の形態1に係る半導体レーザ素子について説明する。
[半導体レーザ素子の構成]
まず、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1の構成について、図1A及び図1Bを用いて説明する。図1A及び図1Bは、それぞれ、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1の構成を示す模式的な上面図及び断面図である。図1Bには、図1AのIB-IB線における半導体レーザ素子1の断面が示されている。
本実施の形態に係る半導体レーザ素子1は、導波路構造を有し、レーザ光を出射する素子である。図1Bに示すように、半導体レーザ素子1は、基板10と、第1半導体層20と、発光層30と、第2半導体層40とを備える。本実施の形態では、半導体レーザ素子1は、電極部材50と、誘電体層60と、n側電極80とをさらに備える。半導体レーザ素子1は、フロント側端面Cfとリア側端面Crとで形成される共振器を有し、フロント側端面Cfからレーザ光を出射する。また、半導体レーザ素子1は、窒化物半導体を含む。
基板10は、例えば、GaN基板である。本実施の形態では、基板10として、主面が(0001)面であるn型六方晶GaN基板を用いている。基板10の厚さは、半導体レーザ素子1を個片化する際のへき開ができる厚さであればよく、例えば、50μm以上、130μm以下である。本実施の形態では、基板10の厚さは90μmである。
第1半導体層20は、基板10の上方に配置されている。本実施の形態では、第1半導体層20は、窒化物半導体を含む。具体的には、第1半導体層20は、厚さ3μmのn型Al0.03Ga0.97Nからなるn側クラッド層である。なお、第1半導体層20の厚さ及びAl組成は、上記の例に限定されない。例えば、第1半導体層20の厚さは0.5μm以上、5.0μm以下であってもよく、Al組成はn型AlxGa1-xN(0<x<1)であってもよい。また、第1半導体層20は、n型Al0.03Ga0.97N以外のn型半導体層を含んでいてもよい。なお、n側クラッド層の厚さ及びAl組成の少なくとも一方が大き過ぎる場合、GaN基板との格子定数差に起因するクラックの発生や、直列抵抗の増加に起因する動作電圧の増加といった不具合が生じ得る。
発光層30は、第1半導体層20の上方に配置されている。本実施の形態では、発光層30は、窒化物半導体を含む。具体的には、発光層30は、厚さ0.2μmのn型GaNからなるn側光ガイド層31と、厚さ5nmのIn0.06Ga0.94N量子井戸層を厚さ10nmのIn0.02Ga0.98N障壁層で挟んだ活性層32と、厚さ0.1μmのp型GaNからなるp側光ガイド層33との積層構造を有する。本実施の形態では、活性層32は、2層の量子井戸層を含み、それぞれの量子井戸層は障壁層で挟まれている。なお、量子井戸層の数は2層に限定されることはなく、1層でも3層以上であってもよい。また、量子井戸層及び障壁層のIn組成及び厚さはこれに限定されず、およそ400nm以上470nm以下の光を放射できる組成及び厚さであればよい。
第2半導体層40は、発光層30の上方に配置されており、レーザ光を導波する導波路部40aを有する。本実施の形態では、第2半導体層40は、窒化物半導体を含む。第2半導体層40は、例えば、厚さ10nmのAl0.35Ga0.65Nからなる電子障壁層41と、厚さ1.5nmのp型Al0.06Ga0.94Nと厚さ1.5nmのp型GaNとを220周期繰り返して形成した厚さ0.66μmの歪超格子からなるp側クラッド層42と、厚さ0.05μmのp型GaNからなるp側コンタクト層43との積層構造を有する。p側コンタクト層43は、導波路部40aの最上層として形成されている。なお、p側クラッド層42の構成はこれに限定されない。p側クラッド層42の厚さは、例えば、0.3μm以上、1μm以下であってもよく、組成はp型AlxGa1-xN(0<x<1)であってもよい。
p側クラッド層42は、共振器長方向に延びる凸部を有している。このp側クラッド層42の凸部とp側コンタクト層43とによってストライプ状(言い換えるとリッジ状)の導波路部40aが構成されている。また、p側クラッド層42は、導波路部40aの両側方に、平坦部40bとして平面部を有している。つまり、平坦部40bの最上面は、p側クラッド層42の表面であり、平坦部40bの最上面にはp側コンタクト層43が形成されていない。
導波路部40aの高さ(つまり、Z軸方向の寸法)は、特に限定されないが、一例として、100nm以上1μm以下である。半導体レーザ素子1を高い光出力(例えばワットクラス)で動作させるために、導波路部40aの高さを、300nm以上800nm以下にしてもよい。本実施の形態では、導波路部40aの高さは、650nmである。
また、図1Aに示すように、導波路部40aの少なくとも一部の幅は、導波路部40aの長手方向である共振器長方向(つまり、各図のY軸方向)の位置に対して変調されている。ここで、導波路部40aの幅とは、導波路部40aの、共振器長方向及び第2半導体層40の厚さ方向(つまり、各図のZ軸方向)に垂直な方向の寸法である。導波路部40aの詳細構成については後述する。
電極部材50は、第2半導体層40の上方に配置されている。電極部材50は、導波路部40aよりも幅広である。つまり、電極部材50の幅(つまり、各図のX軸方向の幅)は、導波路部40aの幅(つまり、各図のX軸方向の幅)よりも大きい。電極部材50は、誘電体層60及び導波路部40aの上面と接触している。
本実施の形態において、電極部材50は、電流供給のためのp側電極51と、p側電極51の上方に配置されたパッド電極52とを有する。
p側電極51は、導波路部40aの上面と接触している。p側電極51は、導波路部40aの上方においてp側コンタクト層43とオーミック接触するオーミック電極であり、導波路部40aの上面であるp側コンタクト層43の上面と接触している。p側電極51は、例えば、Pd、Pt、Niなどの金属材料を用いて形成される。本実施の形態において、p側電極51は、Pd/Ptの2層構造を有する。
パッド電極52は、導波路部40aよりも幅広であって、誘電体層60と接触している。つまり、パッド電極52は、導波路部40a及び誘電体層60を覆うように形成されている。パッド電極52は、例えば、Ti、Ni、Pt、Auなどの金属材料を用いて形成される。本実施の形態において、パッド電極52は、Ti/Pt/Auの3層構造を有する。
なお、図1Aに示すように、パッド電極52は、半導体レーザ素子1を個片化する際の歩留まりを向上させるために、半導体レーザ素子1の上面視において、誘電体層60の内側(つまり、第2半導体層40の内側)に形成されている。すなわち、半導体レーザ素子1を上面視した場合に、パッド電極52は、半導体レーザ素子1の端部周縁には形成されていない。これにより、半導体レーザ素子1は、端部周縁に電流が供給されない非電流注入領域を有する。
誘電体層60は、光を閉じ込めるために、導波路部40aの側面に形成された絶縁膜である。具体的には、誘電体層60は、導波路部40aの側面(つまり、図1BのX軸方向と交差する面)から平坦部40bにわたって連続的に形成されている。本実施の形態において、誘電体層60は、導波路部40aの周辺において、p側コンタクト層43の側面とp側クラッド層42の凸部の側面とp側クラッド層42の上面とにわたって連続して形成されている。本実施の形態では、誘電体層60は、SiO2で形成される。
誘電体層60の形状は、特に限定されないが、誘電体層60は、導波路部40aの側面及び平坦部40bと接していてもよい。これにより、導波路部40aの直下で発生した光を安定的に閉じ込めることができる。
また、高い光出力で動作させること(つまり高出力動作)を目的とした半導体レーザ素子では、フロント側端面Cfには誘電体多層膜などの端面コート膜が形成される。この端面コート膜は、端面のみに形成することが難しく、半導体レーザ素子1の上面にも回りこむ。この場合、半導体レーザ素子1の共振器長方向(つまり、各図のY軸方向)の端部では、パッド電極52が形成されていないため、端面コート膜が上面にまで回りこんでしまうと、半導体レーザ素子1の共振器長方向の端部で誘電体層60と端面コート膜とが接してしまう場合がある。この際、誘電体層60が形成されていない場合、又は、誘電体層60の膜厚が光閉じ込めに対して薄い場合には、光が端面コート膜の影響を受けるため、光損失の原因となる。そこで、発光層30で発生した光を十分に閉じ込めるために、誘電体層60の膜厚は、100nm以上であってもよい。一方、誘電体層60の膜厚が厚過ぎると、パッド電極52の形成が困難となるため、誘電体層60の膜厚は、導波路部40aの高さ以下であってもよい。
また、導波路部40aの側面及び平坦部40bには、導波路部40aを形成する際のエッチング工程でエッチングダメージが残存してリーク電流が発生する場合があるが、導波路部40a及び平坦部40bを誘電体層60で被覆することで、不要なリーク電流の発生を低減できる。
n側電極80は、基板10の下方に配置された電極であり、基板10とオーミック接触するオーミック電極である。n側電極80は、例えば、Ti/Pt/Auからなる積層膜である。n側電極80の構成はこれに限定されない。n側電極80は、Ti及びAuが積層された積層膜であってもよい。
[導波路部の詳細構成]
第2半導体層40は、上述のとおり、共振器長方向に延在するストライプ状の凸部からなる導波路部40aと、導波路部40aの根元から横方向(X軸方向)に広がる平坦部40bとを有する。
導波路部40aの少なくとも一部の幅は、導波路部40aの共振器長方向の位置に対して変調されている。つまり、共振器長方向の位置に対して、導波路部40aの幅が変動する。本実施の形態では、導波路部40aの幅は連続的に変化しており、幅の広い部分と幅の狭い部分とがY軸方向に交互に配置される。ここで、図1Aに示すように、導波路部40aの幅の極大値をWa、幅の極小値をWbとする。また、導波路部40aの幅が極大となる位置から、幅が極小となる位置のうち、フロント側(図1Aの上側)に位置するものまでのY軸方向の最短距離をLaと定義し、導波路部40aの幅が極大となる位置から、幅が極小となる位置のうち、リア側(図1Aの下側)に位置するものまでのY軸方向の最短距離をLbと定義する。また、本実施の形態では、導波路部40aの幅は直線状に変化している。導波路部40aの側面のうち、導波路部40aの幅が極大となる位置のフロント側及びリア側に位置する側面と、共振器長方向とがなす角度をそれぞれθa及びθbと定義すると、以下の関係が成り立つ。
θa=arctan{(Wa-Wb)/(2×La)}・・・(式1)
θb=arctan{(Wa-Wb)/(2×Lb)}・・・(式2)
このθa、θbの値が、後述する限界角度(θcと定義)より小さくなる。すなわち、以下の関係を満たすように、Wa、Wb、La及びLbが設定される。
θa<θc、かつ、θb<θc・・・・・・・・・・・・・・(式3)
言い換えると、導波路部40aの幅方向(つまり、X軸方向)と交差する側面と共振器長方向とのなす角度は、導波路部40aの内側及び導波路部40aの外側の有効屈折率で規定される限界角度θc未満である。本実施の形態では、限界角度θcは、レーザ光が幅方向と交差する側面において全反射する角度の最大値である。
一例として、導波路部40aの幅は1μm以上100μm以下である。半導体レーザ素子1を高い光出力(例えばワットクラス)で動作させるには、導波路部40aの幅の極大値Waを10μm以上50μm以下に設定してもよい。導波路部40aの幅の極小値Wbが小さいほど高次モード成分を低減できるが、小さくなり過ぎると基本モード成分も損失を受けて低減されてしまう。一方、導波路部40aの幅の極小値Wbを大きくすると、高次モード成分の低減効果が小さくなる。基本モードを維持しつつ高次モード成分を効率よく抑制するために、導波路部40aの幅の極小値Wbは、幅の極大値Waのおよそ1/4以上、3/4以下にしてもよい。
また、距離La及びLbを小さくし過ぎるとθa及びθbが大きくなるため(式3)を満たさなくなる。一方、距離La及びLbを大きくし過ぎると、導波路部40a内で幅が狭くなる部分の数が減るため、高次モードの抑制効果が小さくなる。本実施の形態では、Wa=16μm、Wb=10μm、La=Lb=60μmである。このとき、θa=θb=2.9°となる。
また、(式1)及び(式2)の条件を満たせば、La≠Lbであってもよい。La≠Lbとすると、光が共振器内をY軸方向に往復する中で、往路と復路とで高次モードへの損失を変えることができる。例えば、La>Lbとすると、光がリア側からフロント側へ進行する際の高次モードへの損失を高めることができる。また、共振器内でのリア側からフロント側に向かって幅が狭くなる部分(つまり、図1Aの距離Laの部分)の割合が増加するため、高次モードへの損失がより増加する。
次に、限界角度θcの求め方について説明する。本実施の形態では、等価屈折率法を用いて、3次元の導波路部40aの構造(つまり、リッジ構造)を2次元スラブ導波路構造で近似して計算を行った。まず、図1BのZ1-Z1線における各層の厚さと屈折率を用いて、積層方向の光分布及び等価屈折率(つまり、有効屈折率)を計算する。詳細は省略するが、2次元のスカラ波動方程式を離散化して、固有値問題を解くことで、等価屈折率を計算した。図1BのZ1-Z1線における等価屈折率をniと定義すると、本実施の形態では、ni=2.535が得られた。同様に、図1BのZ2-Z2線における等価屈折率をnoと定義すると、no=2.527が得られた。これらの値は、各半導体層の厚さ及び屈折率に依存するが、本実施の形態のように凸部を有する導波路構造の場合は、常にni>noの関係を満たす。
次に、スネルの法則を用いて全反射条件を満たすときの角度の最大値(この角度を限界角度θcと定義する)を計算する。スネルの法則より、限界角度θcは、以下の式で表される。
θc=90-arcsin(no/ni)
本実施の形態では、θc=4.6°が得られ、(式3)の関係を満たす。
なお、限界角度θcは各層の厚さ、屈折率、及び導波路部40aの高さに依存するため、本実施の形態以外の構造では、構造毎に計算が必要である。ここで、導波路部40aの内外の屈折率差と限界角度θcとの関係について、図1Cを用いて説明する。図1Cは、本実施の形態に係る導波路部40a内外の屈折率差(ni-no)と限界角度θcとの関係の計算結果を示すグラフである。ここではni=2.535として計算した。導波路部40a内部と導波路部40a外部の屈折率差が大きくなるほど、限界角度θcが大きくなることがわかる。
続いて、所定の限界角度θcを実現するための導波路部40aの形状例について図1Dを用いて説明する。図1Dは、本実施の形態に係る導波路部40aの幅の極大値Waを固定し、限界角度θcをパラメータとして変化させた場合の、距離Laと、導波路部40aの幅の極小値Wbとの関係の計算結果を示すグラフである。図1Dには、導波路部40aの幅の極大値Waを16μmとした場合の、(式3)を満たす距離Laと、導波路部40aの幅の極小値Wbとをそれぞれの限界角度θcに対して計算した結果が示されている。図1D中の各直線よりも上の領域で、(式3)の条件を満たす。距離Lbについても同様に計算できる。
本実施の形態では、導波路部40aの幅を直線状に変化させたが、(式3)の条件を満たすなら曲線状に変化させてもよい。また、導波路部40a中の一部の領域に幅が変化しない領域があってもよい。
[半導体レーザ素子の製造方法]
次に、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1の製造方法について、図2A~図2Hを用いて説明する。図2A~図2Hは、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1の製造方法における各工程を示す模式的な断面図である。
まず、図2Aに示すように、主面が(0001)面であるn型六方晶GaN基板である基板10上に、有機金属気層成長法(Metalorganic Chemical Vapor Deposition;MOCVD法)を用いて、第1半導体層20、発光層30及び第2半導体層40を順次成膜する。
具体的には、厚さ400μmの基板10の上に、第1半導体層20としてn型AlGaNからなるn側クラッド層を3μm成長させる。続いて、n型GaNからなるn側光ガイド層31を0.2μm成長させる。続いて、InGaNからなるバリア層とInGaN量子井戸層との2周期からなる活性層32を成長させる。続いて、p型GaNからなるp側光ガイド層33を0.1μm成長させる。続いて、AlGaNからなる電子障壁層41を10nm成長させる。続いて、膜厚1.5nmのp型AlGaN層と膜厚1.5nmのGaN層とを220周期繰り返して形成した厚さ0.66μmの歪超格子からなるp側クラッド層42を成長させる。続いて、p型GaNからなるp側コンタクト層43を0.05μm成長させる。ここで、各層において、Ga、Al及びInを含む有機金属原料には、それぞれ、例えば、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルアンモニウム(TMA)及びトリメチルインジウム(TMI)を用いる。また、窒素原料には、アンモニア(NH3)を用いる。
次に、図2Bに示すように、第2半導体層40上に、第1保護膜91を成膜する。具体的には、p側コンタクト層43の上に、シラン(SiH4)を用いたプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって、第1保護膜91として、シリコン酸化膜(SiO2)を300nm成膜する。なお、第1保護膜91の成膜方法は、プラズマCVD法に限るものではなく、例えば、熱CVD法、スパッタ法、真空蒸着法、又は、パルスレーザ成膜法など、公知の成膜方法を用いることができる。また、第1保護膜91の成膜材料は、上記のものに限るものではなく、例えば、誘電体、金属など、後述する第1半導体層20のエッチングに対して、選択性のある材料であればよい。
次に、図2Cに示すように、フォトリソグラフィー法及びエッチング法を用いて、第1保護膜91が帯状に残るように、第1保護膜91を選択的に除去する。リソグラフィー法としては、短波長光源を利用したフォトリソグラフィー法や、電子線で直接描画する電子線リソグラフィー法、またナノインプリント法などを用いることができる。エッチング法としては、例えば、CF4などのフッ素系ガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE)によるドライエッチング、又は、1:10程度に希釈した弗化水素酸(HF)などを用いたウェットエッチングを用いることができる。
次に、図2Dに示すように、帯状に形成された第1保護膜91をマスクとして、p側コンタクト層43及びp側クラッド層42をエッチングすることで、第2半導体層40に導波路部40a及び平坦部40bを形成する。p側コンタクト層43及びp側クラッド層42のエッチングとしては、Cl2などの塩素系ガスを用いたRIE法によるドライエッチングを用いてもよい。
次に、図2Eに示すように、帯状の第1保護膜91を弗化水素酸などを用いたウェットエッチングによって除去した後、p側コンタクト層43及びp側クラッド層42を覆うように、誘電体層60を成膜する。つまり、導波路部40a及び平坦部40bの上に誘電体層60を形成する。誘電体層60としては、例えば、シラン(SiH4)を用いたプラズマCVD法によって、シリコン酸化膜(SiO2)を300nm成膜する。
次に、図2Fに示すように、フォトリソグラフィー法と弗化水素酸を用いたウェットエッチングとにより、導波路部40a上の誘電体層60のみを除去して、p側コンタクト層43の上面を露出させる。その後、真空蒸着法及びリフトオフ法を用いて、導波路部40a上のみにPd/Ptからなるp側電極51を形成する。具体的には、誘電体層60から露出させたp側コンタクト層43の上にp側電極51を形成する。なお、p側電極51の成膜方法は、真空蒸着法に限るものではなく、スパッタ法又はパルスレーザ成膜法などであってもよい。また、p側電極51の電極材料は、Ni/Au系、Pt系など、第2半導体層40(p側コンタクト層43)とオーミック接触する材料であればよい。
次に、図2Gに示すように、p側電極51及び誘電体層60を覆うようにパッド電極52を形成する。具体的には、フォトリソグラフィー法などによって、形成したい部分以外にネガ型レジストをパターニングし、基板10の上方の全面に真空蒸着法などによってTi/Pt/Auからなるパッド電極52を形成し、リフトオフ法を用いて不要な部分の電極を除去する。これにより、p側電極51及び誘電体層60の上に所定形状のパッド電極52を形成できる。以上のように、p側電極51及びパッド電極52からなる電極部材50が形成される。
次に、図2Hに示すように、基板10の下面にn側電極80を形成する。具体的には、基板10の裏面に真空蒸着法などによってTi/Pt/Auからなるn側電極80を形成し、フォトリソグラフィー法及びエッチング法を用いてパターニングすることで、所定形状のn側電極80を形成する。
以上のように、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1を製造することができる。
[半導体レーザ素子の実装形態]
次に、図3A及び図3Bを用いて、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1の実装形態を説明する。図3A及び図3Bは、それぞれ、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1が実装された半導体レーザ装置2の模式的な上面図及び断面図である。図3Bには、図3AのIIIB-IIIB線における半導体レーザ装置2の断面が示されている。
本実施の形態に係る半導体レーザ装置2は、図3Bに示すように、半導体レーザ素子1と、サブマウント100とを備える。
図3Bに示すように、サブマウント100は、基台101と、第1電極102aと、第2電極102bと、第1接着層103aと、第2接着層103bとを有する。
基台101は、半導体レーザ素子1の基板10の下方に配置された基台であり、ヒートシンクとして機能する。基台101の材料は、特に限定されないが、アルミナイトライド(AlN)、シリコンカーバイト(SiC)などのセラミック、CVDで成膜されたダイヤモンド(C)、Cu、Alなどの金属単体、又は、CuWなどの合金など、半導体レーザ素子1と比べて熱伝導率が同等かそれ以上の材料で構成されていてもよい。
第1電極102aは、基台101の一方の面に配置される。また、第2電極102bは、基台101の他方の面に配置される。第1電極102a及び第2電極102bは、例えば、膜厚0.1μmのTi、膜厚0.2μmのPt及び膜厚0.2μmのAuの三つの金属膜からなる積層膜である。
第1接着層103aは、第1電極102a上に配置される。第2接着層103bは、第2電極102b上に形成される。第1接着層103a及び第2接着層103bは、例えば、Au及びSnがそれぞれ70%及び30%の含有率で含まれる金スズ合金からなる共晶半田である。
半導体レーザ素子1は、サブマウント100に実装される。本実施の形態では、半導体レーザ素子1のp側(つまり、電極部材50側)がサブマウント100に接続される実装形態、つまりジャンクションダウン実装であるので、半導体レーザ素子1のパッド電極52がサブマウント100の第1接着層103aに接続される。
なお、本実施の形態のように、第1接着層103aに金スズ半田を用いて実装する場合、金スズ半田がパッド電極52の金や第1電極102aの金と共晶反応を起こすため、境界を判別するのが困難となることがある。その場合は、第1接着層103aの厚さは、パッド電極52の金スズ半田と共晶反応しない層(例えば、Pt)から、第1電極102aの金スズ半田と共晶反応しない層(例えば、Pt)までの距離と定義する。
また、ワイヤボンディングによって、半導体レーザ素子1のパッド電極52及びサブマウント100の第1電極102aの各々には、ワイヤ110が接続される。これにより、ワイヤ110によって半導体レーザ素子1に電流を供給することができる。
なお、図示しないが、サブマウント100は、放熱性の向上及び取り扱いの簡便化の目的で、例えば、CANパッケージなどの金属パッケージに実装される。つまり、サブマウント100は、第2接着層103bによって金属パッケージに接着される。なお、基台101自体がパッケージとして機能してもよい。この場合、サブマウント100は、第2接着層103bを備えなくてもよい。
[半導体レーザ素子の作用効果]
次に、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1の作用効果について、図4A~図4Dを用いて説明する。図4Aは、比較例の半導体レーザ素子の構成を簡略化して示す上面図である。なお、図4Aには、比較例の半導体レーザ素子のレーザ光の基本モードの光分布、及び、高次モードの光分布の一例の概略図が併せて示されている。図4B及び図4Cは、比較例の半導体レーザ素子におけるレーザ光の基本モード光分布DL1及びDL2を示す断面図である。図4B及び図4Cには、それぞれ、図4AのIVB-IVB線及びIVC-IVC線における断面と、当該断面における基本モード光分布DL1及びDL2が示されている。図4Dは、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1の構成を簡略化して示す上面図である。
図4Aに示す比較例の半導体レーザ素子においては、レーザ発振時においてレーザ光が導波路部1040a中をY軸方向へと伝搬する。このとき、導波路部1040aの幅が狭い部分が存在しても、光はおおむねY軸方向へと伝搬する。つまり、図4Aは、導波路部1040a内外で全反射条件を満たさない場合(つまり、θa>θc、θb>θc)の模式図である。図4Aにおいて破線矢印で、光の伝搬の様子が示されている。導波路部1040aの幅が狭くなる部分では、光は導波路部1040a内外の屈折率差の影響で、わずかに内側に進行するが、全反射条件を満たさないので、大部分の光は導波路部1040a外を通りY軸方向へと進行する。
図4Bの基本モード光分布DL1に示すように、導波路部1040a内を伝搬する光は、活性層32近傍に閉じ込められるように設計されている。すなわち、導波路部1040a内を伝搬する光は、基板10にかからないように設計されている。しかしながら、図4Cの基本モード光分布DL2に示すように、導波路部1040a外を伝搬する光は、導波路部1040a外の部分のp側クラッド層42の厚さが薄いため、基板10側へと押し下げられる。すると、活性層32から第1半導体層20(n側クラッド層)の間、及び、第1半導体層20から基板10の間で、基板モードと呼ばれる垂直方向の高次モードが励振される。この基板モードが生じると、垂直FFPにリップルが生じる。このようなリップルは、特に、導波路部1040aの外側に光強度のピークをもつ高次モードによって増大される。
図4Dは、本実施の形態に係る半導体レーザ素子の構成を簡略化して示す模式図である。本実施の形態では、上述のとおり導波路部40a内外で全反射条件を満たす(つまり、θa、θb<θcを満たす)。この構造では、導波路部40a内外の屈折率差が全反射条件を満たすので、図4D中の破線矢印で示したように、光は導波路部40aの幅方向の端で反射され、導波路部40a外へと放射される。すなわち、レーザ光として外部に出射される光は導波路部40a外を伝搬しないので、図4Aに示す比較例で生じた基板モードは、本実施の形態に係る導波路部40aの構造では抑制される。よって、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1によれば、垂直FFPにおけるリップルを抑制できる。
図5は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1の導波路部40aの構造を変えた場合の垂直FFPの実験結果を示すグラフである。本実験では、La=Lb、Wa=16μmとし、距離Laを15μmから90μmまでの範囲で、15μm間隔で変化させた。また、幅Wbを4μmから10μmまでの範囲で、2μm間隔で変化させた。図5には、これらの各構造を有する半導体レーザ素子1における、光出力Pが1Wのときの垂直FFPが示されている。図5の各グラフの縦軸は最大値で規格化されている。また、横軸は規格化された角度を示している。また、図5において、(式3)の関係を満たす構造を有する半導体レーザ素子1からの垂直FFPを示すグラフと、(式3)の関係を満たさない構造を有する半導体レーザ素子1からの垂直FFPを示すグラフとの境界を一点鎖線で示している。一点鎖線よりも右側のグラフは、(式3)の関係を満たす半導体レーザ素子1の垂直FFPを示す。図5の一点鎖線より左側のグラフに示すように、θa、θb>θcの構造を有する半導体レーザ素子では、垂直FFPにリップルが生じていることが分かる。一方、図5の一点鎖線より右側のグラフに示すように、θa、θb<θcの構造を有する半導体レーザ素子1では、垂直FFPにリップルが生じていないことが分かる。また、リップルの強度は、幅Wbが小さいほど、大きくなることが分かる。これは、幅Wbが小さい程、導波路部40a外を通過する光の割合が大きくなるためである。また、リップルが生じる構造において、(式3)の関係を満たす構造に近くなるほど、リップルが小さくなることがわかる。これは、(式3)の関係を満たす構造に近くなるほど、全反射条件を満たす光の割合が増えていくためである。
以上のように、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1によれば、垂直FFPにおけるリップルを抑制できる。
(実施の形態2)
実施の形態2に係る半導体レーザ素子について説明する。本実施の形態に係る半導体レーザ素子は、導波路部に沿って設けられた溝部を有する点において実施の形態1に係る半導体レーザ素子1と相違し、その他の点において一致する。以下、本実施の形態に係る半導体レーザ素子について、実施の形態1に係る半導体レーザ素子1との相違点を中心に説明する。
[半導体レーザ素子の構成]
まず、本実施の形態に係る半導体レーザ素子の構成について、図6A及び図6Bを用いて説明する。図6A及び図6Bは、それぞれ、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1aの構成を示す模式的な上面図及び断面図である。図6Bには、図6AのVIB-VIB線における半導体レーザ素子1aの断面が示されている。
本実施の形態に係る半導体レーザ素子1aは、図6Bに示すように、基板10と、第1半導体層20と、発光層30と、第2半導体層40と、電極部材50とを備える。第2半導体層40は、導波路部40aと、平坦部40bとを有する。
本実施の形態では、図6A及び図6Bに示すように、導波路部40aの外側に配置され、第2半導体層40の上方の面から発光層30まで到達し、共振器長方向(つまり、各図のY軸方向)に延びる溝部70が形成されている。本実施の形態では、溝部70は、基板10まで到達し、導波路部40aの両方の外側に形成されている。溝部70の導波路部40a側の端から導波路部40aまでの距離dは一定であり、かつ、溝部70のX軸方向の長さ(幅)は一定である。なお、ここで、距離d及び幅が一定とは、距離d及び幅が実質的に一定である場合も含む。例えば、距離d及び幅は、製造誤差程度の変動があってもよい。
また、溝部70内には誘電体層60及びパッド電極52が形成されている。溝部70があることで、実施の形態1に係る半導体レーザ素子1より、レーザ光に対する導波路部40a内外の屈折率差を大きくできる。したがって、図1Cで示した関係から、実施の形態1に係る半導体レーザ素子1より限界角度θcが大きくなる。限界角度θcが大きくなると、角度θa及びθbを大きくすることができるため、導波路部40aの側面で散乱する光の割合を増大できる。したがって、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1aでは、基本モードの比率をより一層高めることが可能となる。また、溝部70の側面の積層方向に対する角度を積層方向(つまり、各図のZ軸方向)に対して傾斜させる(つまり、側面の上方部方が導波路部40a側に近づく向きに傾斜させる)ことで、散乱光を基板10側へと誘導することができ、フロント側端面Cfから出射されるレーザ光に不要な散乱光が含まれることを抑制できる。本実施の形態では、溝部70の側面の角度を積層方向に対して約10°傾けている。
導波路部40aから溝部70までの距離dは、(Wa-Wb)/2以下としてもよい。これにより、溝部70による限界角度θcの増大効果を確実に得ることができる。また、活性層32までエッチングした領域が電流注入領域の近傍に存在すると、エッチングダメージの影響で電流注入が不均一になるため、溝部70の導波路部40a側の端は、導波路部40aから1μm以上離してもよい。本実施の形態では、導波路部40aから溝部70までの距離dを1μmとした。
なお、本実施の形態では、溝部70は基板10まで到達しているが、光が存在する部分に溝部70が存在すればよく、例えば、溝部70は、発光層30又は第1半導体層20の途中まで到達すればよい。
[半導体レーザ素子の製造方法]
次に、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1aの製造方法について、図7A~図7Dを用いて説明する。図7A~図7Dは、それぞれ、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1aの製造方法における各工程を示す模式的な断面図である。以下、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1aの製造方法について、実施の形態1に係る半導体レーザ素子1の製造方法と異なる点について説明する。
まず、図7Aに示すように、図2A~図2Dを用いて説明した実施の形態1の各工程と同様に、基板10上に、順に、第1半導体層20、発光層30及び第2半導体層40を積層し、導波路部40a及び平坦部40bを形成する。なお、図7Aは、第1保護膜91を除去した後の断面図である。
次に、図7Bに示すように第2保護膜92を形成し、フォトリソグラフィー法及びエッチング法を用いて、第2保護膜92を所望の形状にパターニングする。具体的には、後の工程にて溝部70を形成する領域以外の領域に第2保護膜92を形成する。第2保護膜92の成膜材料としては、第1保護膜91と同様の成膜材料を用いることができる。
次に、図7Cに示すように、第2保護膜92をマスクにして、第2半導体層40及び発光層30をエッチングすることによって、溝部70を形成する。本実施の形態では、第1半導体層20及び基板10の一部もエッチングする。
次に、第2保護膜92を弗化水素酸などを用いたウェットエッチングによって除去した後、図7Dに示すように、誘電体層60を成膜する。
その後は、実施の形態1で示した、図2E以降の工程と同様に、p側電極51、パッド電極52及びn側電極80を形成する。このように、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1aを製造できる。
(実施の形態3)
実施の形態3に係る半導体レーザ素子について説明する。本実施の形態に係る半導体レーザ素子は、実施の形態2に係る半導体レーザ素子1aと同様に溝部を有するが、溝部の深さにおいて、実施の形態2に係る半導体レーザ素子1aと相違する。以下、本実施の形態に係る半導体レーザ素子について、実施の形態2に係る半導体レーザ素子1aとの相違点を中心に図8A及び図8Bを用いて説明する。
図8A及び図8Bは、それぞれ、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1bの構成を示す模式的な上面図及び断面図である。図8Bには、図8AのVIIIB-VIIIB線における半導体レーザ素子1bの断面が示されている。
本実施の形態に係る半導体レーザ素子1bは、図8Bに示すように、基板10と、第1半導体層20と、発光層30と、第2半導体層40と、電極部材50とを備える。第2半導体層40は、導波路部40aと、平坦部40bとを有する。
本実施の形態では、図8A及び図8Bに示すように、半導体レーザ素子1bは、導波路部40aの外側に、第2半導体層40の上方の面から第2半導体層40の途中まで到達し、共振器長方向(各図のY軸方向)に延びる溝部71が形成されている。本実施の形態では、溝部71は、導波路部40aの両方の外側に形成されている。溝部71は、実施の形態2に係る溝部70と同様に、溝部71の導波路部40a側の端から導波路部40aまでの距離は一定であり、かつ、溝部71のX軸方向の長さ(幅)は一定である。溝部71の底はp側クラッド層42に形成されており、電子障壁層41の上側に位置する。なお、溝部71は、p側クラッド層42をエッチングすることによって形成できる。
以上のように、本実施の形態に係る溝部71は、発光層30には到達しない点において、実施の形態2に係る溝部70と相違する。このような溝部71によっても実施の形態2に係る溝部70と同様に、導波路部40a内外の屈折率差が大きくなるため、限界角度θcが大きくなり、基本モードの比率を高めることができる。
(実施の形態4)
実施の形態4に係る半導体レーザ素子について説明する。本実施の形態に係る半導体レーザ素子は、実施の形態2に係る半導体レーザ素子1aと同様に溝部を有するが、主に溝部の位置において、実施の形態2に係る半導体レーザ素子1aと相違する。以下、本実施の形態に係る半導体レーザ素子について、実施の形態2に係る半導体レーザ素子1aとの相違点を中心に図9A及び図9Bを用いて説明する。
図9A及び図9Bは、それぞれ、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1cの構成を示す模式的な上面図及び断面図である。図9Bには、図9AのIXB-IXB線における半導体レーザ素子1cの断面が示されている。
本実施の形態に係る半導体レーザ素子1cは、図9Bに示すように、基板10と、第1半導体層20と、発光層30と、第2半導体層40と、電極部材50とを備える。第2半導体層40は、導波路部40aと、平坦部40bとを有する。
本実施の形態に係る半導体レーザ素子1cは、導波路部40aの外側に配置され、第2半導体層40の上面から発光層30まで到達し、共振器長方向に延びる溝部72を有する。本実施の形態に係る溝部72は、導波路部40aにおけるレーザ光のスポットより外側に配置される。例えば、溝部72は、導波路部40aの幅方向(つまり、X軸方向)の端から、導波路部40aの最大幅以上離れていてもよい。本実施の形態では、導波路部40aの幅方向の端から約70μm外側に溝部72の導波路部40a側の端が配置されている。また、溝部72の導波路部40a側の端のX軸方向の位置は、共振器長方向の位置に対して変調されている。つまり、溝部72の導波路部40a側の端は、凹凸形状を有している。一方、溝部72のX軸方向における導波路部40a側と反対側の端は、共振器長方向と平行な平面状の形状を有している。つまり、溝部72の幅は、共振器長方向の位置に対して変調されている。なお、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1cは、実施の形態2に係る半導体レーザ素子1aと同様の工程を用いて製造できる。具体的には、実施の形態2に係る半導体レーザ素子1aの製造方法のうち、溝部70の形成位置及び溝部70の形状を変更した製造方法によって、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1cを製造できる。
本実施の形態では、導波路部40aの側面で全反射条件を満たした光は上述のように散乱され、一部の散乱光はX軸方向へと進行する。このようにX軸方向に進行して溝部72に到達した散乱光は、溝部72の導波路部40a側の凹凸形状により散乱されるため、フロント側端面Cfから出射されるレーザ光に不要な散乱光が入ることを抑制できる。また、溝部72の幅の変調の周期(言い換えると、ピッチ)は、導波路部40aの幅の変調の周期よりも小さくてもよい。本実施の形態では、溝部72の導波路部40a側の幅のX軸方向の位置の変調の周期は、導波路部40aの幅の変調の周期よりも小さくしてもよい。これにより、溝部72に到達した光をより確実に散乱させることができる。すなわち、フロント側端面Cfから出射されるレーザ光に不要な散乱光が入ることをより一層抑制できる。
(実施の形態5)
実施の形態5に係る半導体レーザ素子について説明する。本実施の形態に係る半導体レーザ素子は、導波路部の外側に配置された光吸収層を備える点において実施の形態1に係る半導体レーザ素子1と相違する。以下、本実施の形態に係る半導体レーザ素子について、実施の形態1に係る半導体レーザ素子1との相違点を中心に説明する。
[半導体レーザ素子の構成]
まず、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1dの構成について図10A及び図10Bを用いて説明する。図10A及び図10Bは、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1dの構成を示す模式的な上面図及び断面図である。図10Bには、図10AのXB-XB線における半導体レーザ素子1dの断面が示されている。
本実施の形態に係る半導体レーザ素子1dは、図10Bに示すように、基板10と、第1半導体層20と、発光層30と、第2半導体層40と、電極部材50とを備える。第2半導体層40は、導波路部40aと、平坦部40bとを有する。
本実施の形態に係る半導体レーザ素子1dは、導波路部40aの外側に配置され、発光層30で生成される光を吸収する光吸収層をさらに備える。半導体レーザ素子1dは、導波路部40aから離れた位置のp側クラッド層42上(つまり平坦部40b上)において誘電体層60が開口部(又はスリット)を有し、当該開口部の少なくとも一部に配置された光吸収層としてのp側電極53を備える。具体的には、導波路部40a端から約10μm外側にp側電極53の端が配置されている。つまり、導波路部40aとp側電極53との間隔は、10μmである。p側電極53の構成は、導波路部40a上に形成されているp側電極51と同じであってもよい。また、p側電極53の幅は特に限定されないが、本実施の形態ではおよそ20μmである。
本実施の形態では、導波路部40aの側面で全反射条件を満たした光は上述のように散乱され、一部の散乱光はX軸方向へと進行する。本実施の形態のように、p側電極53が形成されていると、この部分でX軸方向へと進行する光が吸収されるため、フロント側端面Cfから出射されるレーザ光に不要な散乱光が入ることを抑制できる。また、p側クラッド層42の平坦部40bにはp側コンタクト層43が形成されていないので、p側電極53からn側電極80へ電流が流れることはない。なお、本実施の形態では、光吸収層としてp側電極53がp側クラッド層42上に形成されている構造を示したが、光吸収層はp側電極51と異なる構成を有していてもよい。例えば、パッド電極52が平坦部40bと接していてもよい。
[半導体レーザ素子の製造方法]
次に、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1dの製造方法について図11A及び図11Bを用いて説明する。図11A及び図11Bは、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1dの製造方法の各工程を説明する模式的な断面図である。以下、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1dの製造方法の各工程のうち、実施の形態1と異なる工程について説明する。
図11Aに示すように、図2A~図2Eを用いて説明した実施の形態1の各工程と同様に、基板10上に、順に、第1半導体層20、発光層30及び第2半導体層40を積層し、導波路部40a及び平坦部40bを形成した後、誘電体層60を形成する。
次に、図11Bに示すようにp側電極51及び53を形成する。具体的には、レジストを塗布し、p側電極51及び53を形成する部分が開口されるように誘電体層60のパターニングを行う。次に、弗化水素酸を用いて開口部の誘電体層60を除去し、ウエハ全面にp側電極を蒸着する。続いて、リフトオフ法により、レジスト上の電極を除去する。これにより、図11Bに示すように、誘電体層60の開口部にp側電極51及び53を形成できる。
以下、実施の形態1と同様に、パッド電極52及びn側電極80を形成することで、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1dを製造できる。以上のように、本実施の形態では、光吸収層としてのp側電極53をp側電極51と同じ工程において形成できるため、工程を追加することなく、光吸収層を形成できる。
(実施の形態6)
実施の形態6に係る半導体レーザ素子について説明する。本実施の形態に係る半導体レーザ素子は、実施の形態5と同様に導波路部の外側に配置された光吸収層を備えるが、光吸収層の構成において、実施の形態5に係る半導体レーザ素子1dと相違する。以下、本実施の形態に係る半導体レーザ素子について、実施の形態5に係る半導体レーザ素子1dとの相違点を中心に図12A及び図12Bを用いて説明する。
図12A及び図12Bは、それぞれ、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1eの構成を示す模式的な上面図及び断面図である。図12Bには、図12AのXIIB-XIIB線における半導体レーザ素子1eの断面が示されている。
本実施の形態に係る半導体レーザ素子1dは、図12Bに示すように、基板10と、第1半導体層20と、発光層30と、第2半導体層40と、電極部材50とを備える。第2半導体層40は、導波路部40aと、平坦部40bとを有する。
本実施の形態に係る半導体レーザ素子1eは、光吸収層として、第2半導体層40にイオンが注入されたイオン注入層75を備える。具体的には、イオン注入層75は、p側クラッド層42にイオンを注入することによって形成される。イオン注入層75は、例えば、B、N、Ar、Fe、Mg、Siなど発光層で生成された光を吸収する元素のイオンをp側クラッド層42に注入することによって形成される。本実施の形態では、イオンは、基板10、第1半導体層20、発光層30及び第2半導体層40に注入される。これにより、第2半導体層40の上方の面から基板10にまで到達するイオン注入層75が形成される。
本実施の形態に係る半導体レーザ素子1eによっても、実施の形態5に係る半導体レーザ素子1dと同様に、光吸収層であるイオン注入層75によって散乱光が吸収されるため、フロント側端面Cfから出射されるレーザ光に不要な散乱光が入ることを抑制できる。また、本実施の形態では、光吸収層をイオン注入によって形成できるため、半導体レーザ素子1eの半導体積層構造を変更することなく、容易に光吸収層を形成できる。
(実施の形態7)
実施の形態7に係る半導体レーザ素子について説明する。本実施の形態に係る半導体レーザ素子は、導波路部の周期が共振器長方向において一様でない点において、実施の形態1に係る半導体レーザ素子1と相違する。以下、本実施の形態に係る半導体レーザ素子について、実施の形態1に係る半導体レーザ素子1との相違点を中心に図13を用いて説明する。
図13は、本実施の形態に係る半導体レーザ素子1fの構成を示す模式的な上面図である。本実施の形態に係る半導体レーザ素子1fは、導波路部140aを有し、実施の形態1に係る半導体レーザ素子1と同様に、導波路部140aの幅は、共振器長方向に対して変調されている。本実施の形態では、導波路部140aの幅の変調の周期は、共振器長方向の位置によって異なる。導波路部140aの幅の変調の周期は、半導体レーザ素子1fのフロント側で小さく、リア側で大きい。具体的には、導波路部140aの幅の極大値Waは16μmで一定であるが、極小値が共振器長方向で異なる。導波路部140aの幅の極小値は、フロント側に近づくほど大きくなる。例えば、図13に示されるように、導波路部140aの共振器長方向の中央付近における幅の極小値Wb2より、フロント側付近の幅の極小値Wb1の方が大きい。本実施の形態では、導波路部140aの幅の極小値は、フロント側の最大値15μmから、リア側の最小値2μmまで変化する。導波路部140aの幅の極小値は共振器長方向に連続的に変化している。なお、導波路部140aの側面と、共振器長方向とがなす角度θa及びθbは、共振器長方向で一定となるように、距離La及びLbが設定されている。
半導体レーザ素子1fの導波路部140aにおける光強度は、フロント側で大きくなる。光強度(つまり、光密度)が大きくなると、誘導放出に起因してキャリアが減少し、屈折率変化及び利得低下が生じ、レーザ効率が低下する。そこで、光強度を低下させるため、フロント側の導波路の断面積(つまり、導波路部140aの共振器長方向に垂直な断面の面積)を大きくすることがレーザ効率の低下を抑制する手段として有効となる。本実施の形態のように、導波路部140aの幅のフロント側における極小値を大きくすることで、フロント側で導波路部140aの断面積を大きくし、光強度を低減できる。これにより、半導体レーザ素子1fのレーザ効率を高めることができる。
(変形例)
以上、本開示に係る半導体レーザ素子について、各実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、上記各実施の形態に限定されるものではない。
例えば、上記各実施の形態において、半導体レーザ素子は、窒化物半導体レーザ素子であったが、半導体レーザ素子の構成はこれに限定されない。例えば、半導体レーザ素子は、窒化物半導体以外の半導体によって構成された半導体レーザ素子であってもよく、例えば、ガリウムヒ素系の半導体材料によって構成された半導体レーザ素子であってもよい。
また、上記各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で上記各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本開示に含まれる。