ここで、図23に示すように、日本人の体温分布は35℃~38℃と広範囲に広がっており、高体温の判定は、37.5℃といった一定の絶対基準では、本来行うことはできない。厚生労働労省が2021年の事務連絡で、新型コロナに対する発熱に対し「37.5℃」の基準を撤回したのもこの理由による。また、日本医師会COVID-19有識者会議からは、本発明者の「平均値+2σ」を用いた発熱基準が提言され、体温の固体内変動について考慮すべきとされた。
また、上述したように、ウェアラブルと呼ばれるリストバンド型のバイタル測定器が販売され、深部体温を計測できるタイプもある。しかし、これらの従来品は、成人一般の基準値を使用しており、バイタルの個体内変動差については考慮されていない。
ある測定値がその個人にとって「正常」か「異常」かの判別は、個人の個体内変動を基準とした「個人の正常値」の範囲と比較して行われるべきである。これを実現しており初めて「個の管理」を行うことが可能となる。
バイタルの基準値および基準域(対象者が正常な状態とみなせる範囲)は、人的または検査機器の測定誤差を除けば、個人の生理的な変動が要因である。よって、あるバイタル測定値が、その個人にとって「正常」か「異常」かの判定は、個人の個体内変動を基準とした「個人の正常値」の範囲と比較して行われるべきである。
特に、高齢者は一般成人とは異なるバイタル変動を行うため、成人一般の基準値を適用するのは難しい。また、独居老人などは、熱中症を発病しても、周囲が気付かないケースが多く、日本での平成27年6月~9月の熱中症による高齢者の死亡者数は、900件以上となっている。また、幼児の熱中症も問題になっている。
ここで、繰り返し述べているように、集団のバイタルサインの測定値から設定された基準値では、バイタルサインにおける個人ごとの特性に対応することができない。例えば、図24に示すように高齢者とそれ以外では、平均体温が大きく異なっている。また、高血圧等の病態の有無によっても、対象者ごとにバイタルサインの値は大きく異なるものとなる。
つまり、対象者の年齢や病態の有無等を考慮した場合、集団のバイタルサインの測定値から設定された「正常な範囲」や「異常な範囲」は、適切な基準とならないことがある。
ここで、本発明者は、個々人の体温、血圧、脈拍、脈圧のバイタルサインが、特殊な疾患を除き、必ず正規分布する性質を検証した上で、その人固有の個体内変動を含んで分布する特性に着目し、一定数のデータを取得し、そのデータの平均値(μ)及び標準偏差(σ)に基づく判定基準(基準域)を設けて、対象者のバイタルの異常判定(例えば、特許文献2参照)及びスコアリング判定(例えば、特許文献3及び特許文献4参照)を行う「バイタル異常値検知」技術を発明した。
しかしながら、従前の医療統計学において、バイタルサインに関する多くの人の標準偏差を見る「個体間変動」の論文や報告等は存在するが、バイタルサインについて、同一の対象者の「個体内変動」を扱ったものは皆無である。
また、従来技術には、同一個体に対するバイタルサインの測定値が正規分布に従うことを解析した結果や、これを異常判定に用いた技術は全く存在しなかった。当然に、上述した熱中症対策の異常検知システムの基準として、バイタルサインの測定値が正規分布に従うことを利用する技術も皆無であった。
そこで、本発明者らは、個人のバイタルサインをバイオマーカーとして利用し、対象者の一人ひとりで異なる個体内変動を適切に捉え、熱中症を早期に発見することが可能な技術を開発した。
また、本発明者らは、熱中症を早期に発見するだけでなく、その個体に熱中症が発症していないにも関わらず、熱中症と判定される偽陽性の発生を抑止することも重要であると考えた。
また、本発明者らは、個々人の体温、血圧、脈拍、脈圧のバイタルサインが、特殊な疾患を除き、必ず正規分布する性質を鑑み、更に、少ないデータ数、又は、短期間で、迅速な判定を可能にするために、精度を保ちながら測定点を減らす検討を行った。
ここで本発明者は、1日1回測定したバイタルサインの値について、156人に及ぶ分散が少ないバイタルデータを分析し、4日分のデータ群が、30日分のデータ群との間で、統計的仮説検定を行い、4日分のデータ群が、30日分のデータ群と比較しても有意差がなく(P>0.05)、かつ差が無い(Pが1に近い)検証を行い、4日分と30日分のデータでの検知精度に差が無いことを立証した。なお、詳細については後述する。
これにより「バイタル異常値検知」、または、「熱中症の判定」を行うために必要な基準域(判定基準)の作成には、4日分のデータがあれば良いことが立証された。これにより短期間のバイタルデータにより、テーラーメイドでのバイタル異常値検知が可能となる。なお、分布に用いるデータは4日分以降も蓄積していくため、30日(30回)分のデータが集積された時点で、従前の30日以上のデータを用いる技術結果と同じになる。
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであり、熱中症の指標となる体温は個人差が大きく、37.5℃といった絶対基準の判定では偽陽性が多くなるため、個人ごとの基準域から異常値検知することで、偽陽性が少なく、対象者の熱中症の判定精度に優れたソフトウェア、熱中症判定装置及び熱中症判定方法に係るものである。
上記の目的を達成するために、本発明のソフトウェアは、測定された深部体温の値である深部体温情報に基づいて、個体の熱中症を判定するソフトウェアであって、情報処理機器を、同一個体から測定された正規分布に従う前記深部体温情報及び測定日時の情報の入力を受け付ける情報入力手段と、入力された前記深部体温情報及び測定日時の情報を記録させる情報記録手段と、記録された複数の前記深部体温情報の全部又は一部の、平均μ1及び標準偏差σ1を算出すると共に、前記平均μ1をピーク値とした正規分布に基づき設定され、前記平均μ1及び前記標準偏差σ1を用いて表された下記の式(1)の値を第1の閾値とする正常域条件を算出する基準算出手段と、入力された所定の深部体温情報が前記正常域条件を満たすか否かを一次判定すると共に、前記一次判定で、前記所定の深部体温情報が前記正常域条件を満たすと判定された際に、前記所定の深部体温情報の測定日時から所定の時間の経過後に測定され、入力された前記深部体温情報が、所定の二次判定条件を満たす場合に、個体が熱中症であると判定する判定手段と、を含む手段として機能させるためのソフトウェアであり、前記第1の閾値は、少なくとも4個分の前記深部体温情報から作成されている。
μ1+2σ1・・・式(1)
なお、本明細書において、ソフトウェアとは、コンピュータの動作に関するプログラムのことである。また、プログラムとは、コンピュータによる処理に適した命令の順番付けられた列からなるものをいう。
また、本発明において、「4個分の深部体温情報」とは、幅広くは1秒ごとに測定した深部体温情報のデータであり、例えば、1分ごと、数分ごと、1時間ごと、1日ごと、1か月ごとに測定した深部体温情報のデータのように、時間の長さが異なるものを含んでいる。また、「4個分の測定データの深部体温情報」には、上述した、1秒ごと又は1分ごと等のように、一定間隔で規則的に取得されたデータだけでなく、不規則に取得されたデータも含んでいる。例えば、1分間(60秒)中に、一定間隔で取得するのではなく、不規則に取得した少なくとも4個のデータ(例えば、1秒、3秒、6秒、7秒、9秒等のような取得)が採用できる。また、例えば、30分間の中で不規則に取得した少なくとも4個のデータ、1時間の中で不規則に取得した少なくとも4個のデータ、数時間の中で不規則に取得した少なくとも4個のデータ、1日の中で不規則に取得した少なくとも4個のデータ、数日間の中で不規則に取得した少なくとも4個のデータ、1週間の中で不規則に取得した少なくとも4個のデータ、数週間の中で不規則に取得した少なくとも4個のデータ、1か月の中で不規則に取得した少なくとも4個のデータ等が、「4個分の測定データの深部体温情報」として採用することができる。更に、一定間隔、又は、不規則な間隔に関わらず、蓄積したバイタル情報の中から、ランダムに少なくとも4個分のデータを抽出して、「4個分の測定データの深部体温情報」として採用することができる。後述するように、時間の長さや測定間隔の規則性の有無に関わらず、少なくとも4個分の測定データを取得すれば、4個分のバイタル情報に基づく正規分布は、30個分のバイタル情報に基づく正規分布と同様に採用しうる。
ここで、情報入力手段が、同一個体から測定された正規分布に従う深部体温情報及び測定日時の情報の入力を受け付け、情報記録手段に、入力された深部体温情報を記録させることによって、同一個体の深部体温情報を蓄積することができる。なお、ここでいう同一個体とは、取得した深部体温の値が異常な値か否かを判定する判定対象を指すものである。
また、ここでいう「深部体温」とは、体の内部の温度を意味するものである。また、深部体温は、既知の非侵襲式の深部体温測定装置を用いて測定することができる。このような非侵襲式の深部体温測定装置とは、例えば、以下のような装置がある。
(1)耳の孔に挿入し、鼓膜及びその周辺から出る赤外線をセンサで検出して、鼓膜温を深部体温として検出する耳式体温計。(2)体表面に貼り付け可能な温度センサと、熱流補償式の体温測定原理を組み合わせて、深部体温を推計する計測装置。例えば、体表面に貼り付け可能なパッチ型センサの内部に、皮膚表面にあたる場所に2点のサーミスタセンサを配置し、そのすぐ上部にそれぞれサーミスタセンサを配置することで、2点間の熱流束(単位時間に単位面積を横切る熱量)を計測し、その値から双熱流法の原理に基づき深部体温を推定する測定装置。なお、本発明における深部体温測定装置は、上述した例に限定されるものではなく、非侵襲的に対象者の深部体温を測定(又は推定)するものであれば採用しうる。
また、ここでいう「個体」とは、単独の生物(ヒト又は動物)のことである。なお、本発明は、単一のソフトウェアで、単独の同一個体の深部体温(またはバイタル情報)を記録する態様と、複数の同一個体の深部体温(またはバイタル情報)を同一個体ごとに記録する態様を含んでいる。同一個体とは、例えばヒトであれば、同一人物のことをいう。
また、ここでいう「同一個体から測定された深部体温」とは、情報入力手段での入力の段階で個体の区別が可能であることを意味している。例えば、1人の対象者のみの深部体温情報を入力する態様や、複数の対象者の情報を取り扱う際に、特定の個人用の入力画面が表示されて深部体温情報を入力する態様等、入力するための形式を異ならせて、個体を区別することが考えられる。
また、情報入力手段が、同一個体から測定された正規分布に従う深部体温情報の入力を受け付け、情報記録手段に、入力された深部体温情報を記録させることによって、同一個体の深部体温の測定値の情報を蓄積することができる。同一個体から取得した深部体温の測定値は正規分布に従うものであり、その測定値の情報を蓄積することで、正規分布に基づく基準を設定可能となる。
また、情報入力手段が、同一個体から測定された正規分布に従う深部体温情報及び測定日時の情報の入力を受け付け、情報記録手段に、入力された深部体温情報及び測定日時の情報を記録させることによって、同一個体の深部体温情報が測定された日時の情報と共に蓄積されるものとなる。即ち、同一個体の複数の深部体温情報を測定日時の情報と紐付けて取り扱うことが可能となる。また、異なる深部体温情報を比較する際に、比較する深部体温情報の間での変位の状況や、変位量を確認可能となる。さらに、各測定日における深部体温の最高温度や、各測定日における深部体温の平均値を出すことも可能になる。なお、ここでいう測定日時の情報には、測定装置が個体から深部体温を測定した日時の情報が採用される態様や、または、深部体温を入力する際の日時の情報が採用される態様が含まれている。また、測定日時の情報は、入力者が情報を入力する態様と、情報入力手段に自動的に入力される態様が含まれている。
また、基準算出手段が、記録された複数の深部体温情報の全部又は一部の、平均μ1を算出することによって、同一個体の個体内変動が反映された深部体温情報の平均値の情報を利用可能となる。なお、ここでいう平均μ1とは、「各深部体温の測定値の総和」から「深部体温の測定値のデータ数」を割った値を意味するものである。また、ここでいう「記録された複数の深部体温情報の平均μ1」は、記録された深部体温情報の全データから算出するものだけでなく、全データのうちの一部から算出されるものを含んでいる。更に、平均μ1の算出根拠となる深部体温情報は連続的なデータ、例えば、毎秒、毎分、毎時間、毎日等継続的に測定したデータだけでなく、秒、分、時間、日数等の間隔を開けて抽出したデータから算出されるものであってもよい。
また、基準算出手段が、記録された複数の深部体温情報の全部又は一部の標準偏差σ1を算出することによって、同一個体の個体内変動が反映された深部体温情報の標準偏差の情報を利用可能となる。なお、ここでいう標準偏差σ1とは、所定の条件の深部体温情報の「偏差の二乗平均」である。更に言えば、「偏差」とは、所定の条件の深部体温情報の「各深部体温の測定値」から「所定の条件の深部体温の測定値の平均値」を引いた値である。また、ここでいう「記録された複数の深部体温情報の標準偏差σ1」は、記録された深部体温情報の全データから算出するものだけでなく、全データのうちの一部から算出されるものを含んでいる。更に、標準偏差σ1の算出根拠となる深部体温情報は連続的なデータ、例えば、毎秒、毎分、毎時間、毎日等継続的に測定したデータだけでなく、秒、分、時間、日数等の間隔を開けて抽出したデータから算出されるものであってもよい。
また、基準算出手段が、平均μ1をピーク値とした正規分布に基づき設定され、平均μ1及び標準偏差σ1を用いて表された下記の式(1)の値を第1の閾値とする正常域条件を算出することによって、平均μ1をピーク値とした正規分布と、標準偏差σ1に基づき設定した第1の閾値を基準とする正常域条件を判定条件として利用可能となる。
μ1+2σ1・・・式(1)。
また、この際の平均μ1をピーク値とした正規分布に基づき設定した正常域条件は、同一個体の個体内変動が反映された基準であり、個体内変動を反映した状態で、同一個体の深部体温情報につき、正常域条件を満たすか否かの判定を行うことが可能となる。
なお、ここでいう「平均μ1をピーク値とした正規分布に基づき設定される正常域条件」は、入力された深部体温情報、即ち、正常域条件を基準とする判定の対象となる所定の深部体温情報を含んで設定されるものと、判定の対象となる所定の深部体温情報を含まずに、それ以前の過去の深部体温情報(例えば、判定を行う日を含まず、これより過去の日の情報)から設定されたものの両方を含むものである。また、入力された深部体温情報は、直近に入力された深部体温情報であることができる。また、入力された深部体温情報は、以前に入力された深部体温情報のうちの一つまたは複数の深部体温情報であることができる。
また、ここでいう「平均μ1をピーク値とした正規分布」は、深部体温情報について、(1)全ての測定値に基づき作成されるもの、(2)一定時間おき(例えば、1時間おき)の測定値に基づき作成されるもの、(3)各測定日の最高値に基づき作成されるもの、(4)各測定日の平均値に基づき作成されるもの、(5)各判定時に第1の閾値(μ1+2σ1)を超えた(または以上)値に基づき作成されるもの、(6)各判定時に閾値(μ1+3σ1)を超えた(または以上)値に基づき作成されるもの、(7)所望の抽出条件で抽出した測定値に基づき作成されるもの、が含まれている。
ここで、正規分布が、各測定日の最高値または各測定日の平均値に基づき作成される態様では、都度の正規分布の作成時に必要なデータ量が少なくなり、データ容量の削減に寄与するものとなる。また、正規分布が、各測定日の最高値、各判定時に第1の閾値(μ1+2σ1)を超えた(または以上)値、または、各判定時に閾値(μ1+3σ1)を超えた(または以上)値、に基づき作成される態様では、正規分布を構成する値が大きくなり、深部体温が顕著に上昇した状態、即ち、深刻な体調異常が生じている状態を精度高く検知することが可能となる。
また、ここでいう「平均μ1をピーク値とした正規分布」は、深部体温情報について、(1)全ての測定値に基づき作成されるもの、(2)異常値を外すための条件(各判定時に第1の閾値を超えた(または以上)値である、各判定時に閾値(μ1+3σ1)を超えた(または以上)値である、所定の条件、または、統計的な外れ値等)を満たす測定値を算出根拠から除いて作成されるもの、(3)問診への回答に異常が確認された場合の測定値を算出根拠から除いて作成されるもの、が含まれている。
また、ここでいう「平均μ1をピーク値とした正規分布」は、上述した、「判定の対象となる所定の深部体温情報を含む/含まない」の各設定と、「(1)全ての測定値に基づき作成されるもの~(7)所望の抽出条件で抽出した測定値に基づき作成されるもの」の各設定と、「(1)全ての測定値に基づき作成されるもの~(3)問診への回答に異常が確認された場合の測定値を算出根拠から除いて作成されるもの」の各設定と、「正規分布を作成するための期間として、30日分、90日分、1年分、または、測定を行った全期間を採用する」の各設定を、個別に組み合わせた全ての態様を含んでいる。
また、判定手段が、入力された所定の深部体温情報が正常域条件を満たすか否かを一次判定することによって、判定の対象となる所定の深部体温情報に対して、正常域条件を基準とした一次判定を行うことが可能となる。正常域条件は、上述したように、同一個体の個体内変動が反映された基準である。また、ここでいう一次判定は、個体が熱中症であるか否かの最終的な判定ではなく、そのような熱中症の有無の判定を行うための前提条件となる判定である。また、ここでいう「正常域条件を満たす」の内容には、入力された所定の深部体温情報が、第1の閾値を超える場合とする態様(第1の閾値と同一値は条件を満たさない)と、入力された所定の深部体温情報が、第1の閾値以上となる場合とする態様(第1の閾値と同一値は条件を満たす)の両方が採用しうる。
また、判定手段が、一次判定で、所定の深部体温情報が正常域条件を満たすと判定された際に、所定の深部体温情報の測定日時から所定の時間の経過後に測定され、入力された深部体温情報が、所定の二次判定条件を満たす場合に、個体が熱中症であると判定することによって、正常域条件を基準とした一次判定と、所定の二次判定条件を基準とした判定の、深部体温情報について2つの判定で条件を満たした状態の個体を熱中症と判断することが可能となる。また、所定の二次判定条件を基準とする判定においては、一次判定が行われた後、所定の時間の経過後に測定された深部体温情報が、判定の対象となる。このように、異なるタイミングで、一次判定と、所定の二次判定条件を基準とした判定を行うことで、深部体温が、対象者が正常な状態とみなせる範囲に戻らない状態を評価することが可能となる。
なお、ここでいう「所定の時間の経過後」とは、適宜設定することが可能であり、その内容が限定されるものではない。例えば、一次判定から5分後、10分後、15分後、30分後、1時間後等が設定しうる。但し、一度上昇した深部体温はすぐに戻らない現象が見られるため、例えば、「所定の時間の経過後」の内容として、5分以上の経過が採用されることが好ましい。
また、少なくとも4個分の深部体温情報には、個体に固有の個体内変動が反映されることによって、深部体温情報をバイオマーカーとして活用して、対象者が熱中症の状態であるか否かを早期に検知可能となる。即ち、個人ごとに異なる「バイオマーカー」として、深部体温情報を利用することができる。
このバイオマーカーとは、一般的に、特定の病状や生命体の状態の指標であり、「通常の生物学的過程、病理学的過程、もしくは治療的介入に対する薬理学的応答の指標として、客観的に測定され評価される特性と定義されている。即ち、本発明で対象とする「健康状態の悪化を検知するバイオマーカー」は、対象者が平穏な状態、体調に何等かの異常を生じている状態、及び、体調に異常を生じる前の段階の状態を含む、対象者の種々の状態を反映した対象者に固有の指標である。
ここで、バイタルサイン(体温(表層体温及び深部体温)、血圧(脈圧)、脈拍、呼吸数)の変化の仕方は、対象者ごとに異なる変化の幅を反映するものであり、これが正規分布するものとなっている。このバイタルサインの変化は、対象者の一人ひとりで異なる個体内変動を含むものであり、個体内変動を含むバイタルサインをバイオマーカーとして利用し、解析することで、対象者の健康管理や診断等を行い、個別化医療を実現することが可能となる。
また、第1の閾値が、少なくとも4個分の深部体温情報から作成されることによって、判定手段により、対象の個体における深部体温が異常な値であり、正常な状態とみなせる範囲に戻らない状態、即ち、「熱中症である状態」を捉えることが充分に可能となる。
ここで本発明において「4個分のバイタル情報(深部体温情報、脈拍情報、及び、表層体温情報)」が、熱中症の判定(又はスコアリング判定)に利用しうることについて詳細を説明する。より詳細には、体温、脈拍、血圧、及び脈圧のバイタルサインについて、少なくとも4個分の測定データを取得すれば、対象者の個体内変動を反映した判定が可能となる点について説明する。
まず、前提として、本発明者は、これまでの検討により、同一個体から取得したバイタルデータについて、少なくとも30個分の測定データが取得できれば、その測定データが、対象者ごとの個体内変動を反映して正規分布することを確認している(特許文献4参照)。
例えば、図11~図18に示すように、脈拍を各条件で測定した場合、30個分の測定データが揃えば、その測定したデータに基づき、対象者ごとに異なる正規分布曲線が得られる結果となった。図11、図13、図15及び図17は、同一対象者(ここではAさんと称する)から取得した脈拍の結果であり、図12、図14、図16及び図18は、別の同一対象者(ここではBさんと称する)から取得した脈拍の結果である。なお、図11~図18において、30個分の測定データを示し、曲線上の丸印は1つの測定データに対応しているが、平均値を中心に重なっているデータが複数存在するため、図面上では、30個分の丸印が表れていない。
より詳細には、図11及び図12では、1分ごとに脈拍を測定して、30個分の脈拍の測定データを取得した結果に基づくグラフである。いずれも平均値を頂点とした正規分布の形を示す結果が得られた。また、AさんとBさんでは、頂点となる平均値が異なり、かつ、曲線の両端に位置する値(最小値及び最大値)も異なっている。従って、個体なりの正規分布が得られることが明らかである。なお、この点は、図13~図18において、同様の傾向が確認された。
また、図13及び図14は、7分ごとに脈拍を測定して、30個分の脈拍の測定データを取得した結果に基づくグラフである。このように、測定する時間間隔を変えた際にも、各対象者の平均値を頂点とした正規分布の形が得られた。
また、図15及び図16は、1日の中で、不規則な時間で、30個分の脈拍の測定データを取得した結果に基づくグラフである。更に、図17は、30時間の中で、不規則な時間で、30個分の脈拍の測定データを取得した結果に基づくグラフであり、図18は、30日の中で、不規則な時間で、30個分の脈拍の測定データを取得した結果に基づくグラフである。ここで示すように、一定間隔で規則的に取得されたデータでなくても、30個分の測定データを取得すれば、そのデータが、各対象者の平均値を頂点として正規分布の形を取ることが確認された。
また、例えば、図19及び図20に示すように、体温についても、30個分の測定データが揃えば、その測定したデータに基づき、対象者ごとに異なる正規分布曲線が得られる結果となった。図19及び図20は、2分ごとに体温を測定して、30個分の体温の測定データを取得した結果に基づくグラフである。また、図19と図20では、体温を測定した対象者が異なっている。このように、体温でも、30個分の測定データを取得すれば、そのデータが、各対象者の平均値を頂点として正規分布の形を取ることが確認された。
30個分の測定データから、個体なりの正規分布が得られる点は、脈拍と体温だけでなく、血圧(収縮期血圧及び拡張期血圧)、脈圧についても確認された。
従って、本発明者は、時間の長さや測定間隔の規則性の有無に関わらず、バイタルサインについて、少なくとも30個分の測定データを取得すれば、対象者の個体内変動を反映した正規分布を得ることができ、これをバイオマーカーとして利用しうることを確認していた。
ここで、本発明者は、1日1回測定したバイタルサインの値について、4日分のデータ群と、30日分のデータ群との間で、統計的仮説検定を行い、4日分のデータ群が、30日分のデータ群と比較しても有意差がなく(P>0.05)、かつ、差が無い(Pが1に近い)検証を行い、4日分のデータ群と30日分のデータ群での検知精度に差が無いことを立証した。
より詳細には、収縮期血圧、拡張期血圧、脈圧、脈拍、体温の各バイタルサインについて、1日1回の測定を行い、4日分のデータ群(4日データ群)、10日分のデータ群(10日データ群)、14日分のデータ群(14日データ群)、及び、30日分のデータ群(30日データ群)につき、それぞれのデータ群の「平均値」と、「標準偏差」を算出した。また、データ数は156人分(n=156)に基づくものである。
そして、4日データ群、10日のデータ群、14日データ群、及び、30日データ群のデータ群を比較するために、分散分析(analysis of variance、略称:ANOVA)の1種である一元配置分散分析に基づき、各バイタルサインのP値を算出した。また、P値は、帰無仮説を棄却するための証拠を測定する有意確率であり、本検証では、P値の値が1に近い程、各データ群に有意差がないものと推定できるものとした。データ群の平均値、標準偏差、及び、P値の結果を表1に示す。
なお、一元配置分散分析は、既知の方法で計算可能であるため、詳細な説明は省略するが、各データ群について、郡内平方和、群間平方和、自由度、F値及びP値を段階的に求めることで算出することができる。
表1に示すように、4日データ群、10日のデータ群、14日データ群、及び、30日データ群の4つのデータ群についてのP値は、収縮期血圧、拡張期血圧、脈圧、脈拍、体温の各バイタルサインにおいて、0.960~0.999となり、1に近い値となったことから、各データ群に有意差がないものと推定できる結果を示した。また、各データ群の平均値及び標準偏差を比較しても、データ群間での平均値の差、及び、標準偏差の差は、非常に小さな値となった。
以上の結果から、各バイタルサインについて、4個分(4日分)のデータ群の平均値及び標準偏差は、30個分(30日分)のデータ群の平均値及び標準偏差と比較して、有意差がなく(P>0.05)、かつ差が無いものと推定できることが確認された。
そして、これにより、対象者個人における、熱中症の判定、バイタルの異常判定又はスコアリング判定を行う際に、判定基準(所定の数値範囲)の算出根拠として、4個分のバイタル情報に基づく、平均値(μ)及び標準偏差(σ)が採用できると考え、本発明に至った。
即ち、4個分のバイタル情報に基づく、平均値(μ)及び標準偏差(σ)から設定された判定基準にも、対象者個人の個体内変動が反映されており、これを判定に用いることで、迅速な判定を行うことが可能となる。
また、所定の二次判定条件が、第1の閾値以上または第1の閾値を超えた場合を含む際には、同一個体の個体内変動が反映された基準である正常域条件を基準として、熱中症の有無を判定することができる。また、異なるタイミングで測定した深部体温情報を利用して、深部体温が異常な値であり、正常な状態とみなせる範囲に戻らない状態を適切に捉えることが可能となる。
また、第1の閾値が、異なる日の同じ時間帯に測定された複数の深部体温情報から作成される場合には、同じ対象者の深部体温の日内変動を考慮して、熱中症の判定の基準を設けることが可能となる。例えば、同じ対象者について、午前10時、午前11時、午前12時、午後1時、午後2時等と、決まった時間帯に測定した深部体温を集めて、時間帯ごとの複数の深部体温から、第1の閾値を作成する。この場合、同じ対象者でも、午前10時の基準、午前11時の基準、午前12時の基準、午後1時の基準、午後2時の基準等、時間帯ごとに基準を生成することができる。こうすることで、同じ対象者でも、1日の時間帯によって、深部体温の測定値が変化する日内変動を反映して、各時間帯での基準を設定することができる。また、例えば、対象者が、同じ環境で、同じような作業スケジュールで活動する作業者であれば、時間帯によって、作業の種類が変わっても、異なる日の同じ時間帯は、大体同じ作業を行っている可能性があり、同じ時間帯かつ同様の作業を行う対象者の深部体温と、それに基づく第1の閾値が作成され、対象者が熱中症である状態を、より精度の高い判定に繋げることができる。
また、基準算出手段が、各測定日における深部体温情報の最高値、または、各測定日における深部体温情報の平均値について、その全部又は一部の、平均μ2及び標準偏差σ2を算出すると共に、平均μ2をピーク値とした正規分布に基づき設定され、平均μ2及び標準偏差σ2を用いて表された下記の式(1)の値である第2の閾値を算出する場合には、各測定日における深部体温情報の最高値、または、各測定日における深部体温情報の平均値に基づく基準を設定可能となる。
μ2+2σ2・・・式(1)。
なお、ここでいう「第2の閾値」は、少なくとも4個分の深部体温情報から作成されるものである。即ち、深部体温情報における、少なくとも4個分の最高値または平均値から第2の閾値が作成される。
また、所定の二次判定条件が、第1の閾値以上または前記第1の閾値を超えて、かつ、第2の閾値以上または第2の閾値を超えた場合を含む際には、正常域条件に加えて、各測定日における深部体温情報の最高値、または、各測定日における深部体温情報の平均値に基づく第2の閾値を基準とした条件を用いて、熱中症の有無を判定することができる。即ち、熱中症の有無の判定に際して、単に第1の閾値と比較するだけでなく、深部体温情報の、各測定日の最高値または平均値から作成された正規分布と比較しても、異常な値であるとみなせる深部体温が確認された上で、個体が熱中症であると判断することが可能となる。これにより、熱中症の有無の判定において、1つの判定基準のみを用いる態様に比べて、実際には熱中症でない状態について、熱中症であると判定してしまう偽陽性の発生を抑止しやすくなる。
また、情報入力手段が、同一個体から測定された正規分布に従う脈拍情報の入力を受け付け、情報記録手段に、入力された脈拍情報を記録させる場合には、同一個体の脈拍の測定値の情報を蓄積することができる。同一個体から測定した脈拍の測定値は正規分布に従うものであり、その測定値の情報を蓄積することで、正規分布に基づく基準を設定可能となる。
また、情報入力手段が、同一個体から測定された正規分布に従う脈拍情報及び測定日時の情報の入力を受け付け、情報記録手段に、入力された脈拍情報及び測定日時の情報を記録させる場合には、同一個体の脈拍情報が測定された日時の情報と共に蓄積されるものとなる。即ち、同一個体の複数の脈拍情報を測定日時の情報と紐付けて取り扱うことが可能となる。なお、ここでいう測定日時の情報には、測定装置が個体から脈拍を測定した日時の情報が採用される態様や、または、脈拍を入力する際の日時の情報が採用される態様が含まれている。また、測定日時の情報は、入力者が情報を入力する態様と、情報入力手段に自動的に入力される態様が含まれている。
また、基準算出手段が、第1の閾値を深部用スコアリング基準値とする深部体温スコアリング条件を算出する場合には、同一個体の個体内変動が反映された第1の閾値を、入力された深部体温情報をスコアリングする際の基準値として利用できる。
また、基準算出手段が、記録された複数の脈拍情報の全部又は一部の、平均μ3を算出する場合には、同一個体の個体内変動が反映された脈拍情報の平均値の情報を利用可能となる。なお、ここでいう平均μ3とは、「各脈拍の測定値の総和」から「脈拍の測定値のデータ数」を割った値を意味するものである。また、ここでいう「記録された複数の脈拍情報の平均μ3」は、記録された脈拍情報の全データから算出するものだけでなく、全データのうちの一部から算出されるものを含んでいる。更に、平均μ3の算出根拠となる脈拍情報は連続的なデータ、例えば、毎秒、毎分、毎時間、毎日等継続的に測定したデータだけでなく、秒、分、時間、日数等の間隔を開けて抽出したデータから算出されるものであってもよい。
また、基準算出手段が、記録された複数の脈拍情報の全部又は一部の標準偏差σ3を算出する場合には、同一個体の個体内変動が反映された脈拍情報の標準偏差の情報を利用可能となる。なお、ここでいう標準偏差σ3とは、所定の条件の脈拍情報の「偏差の二乗平均」である。更に言えば、「偏差」とは、所定の条件の脈拍情報の「各脈拍の測定値」から「所定の条件の脈拍の測定値の平均値」を引いた値である。また、ここでいう「記録された複数の脈拍情報の標準偏差σ3」は、記録された脈拍情報の全データから算出するものだけでなく、全データのうちの一部から算出されるものを含んでいる。更に、標準偏差σ3の算出根拠となる脈拍情報は連続的なデータ、例えば、毎秒、毎分、毎時間、毎日等継続的に測定したデータだけでなく、秒、分、時間、日数等の間隔を開けて抽出したデータから算出されるものであってもよい。
また、基準算出手段が、平均μ3をピーク値とした正規分布に基づき設定され、平均μ3及び標準偏差σ3を用いて表された下記の式(1)の値を脈拍用スコアリング基準値とする脈拍スコアリング条件を算出する場合には、平均μ3をピーク値とした正規分布と、標準偏差σ3に基づき設定した脈拍用スコアリング基準値を基準とする脈拍スコアリング条件を、入力された脈拍情報をスコアリングする際のスコアリング条件として利用可能となる。
μ3+2σ3・・・式(1)。
なお、ここでいう「平均μ3をピーク値とした正規分布に基づき設定される脈拍スコアリング条件」は、入力された脈拍情報、即ち、脈拍スコアリング条件を基準とする判定の対象となる所定の脈拍情報を含んで設定されるものと、判定の対象となる所定の脈拍情報を含まずに、それ以前の過去の脈拍情報(例えば、判定を行う日を含まず、これより過去の日の情報)から設定されたものの両方を含むものである。また、入力された脈拍情報は、直近に入力された脈拍情報であることができる。また、入力された脈拍情報は、以前に入力された脈拍情報のうちの一つまたは複数の脈拍情報であることができる。
また、ここでいう「平均μ3をピーク値とした正規分布」は、脈拍情報について、(1)全ての測定値に基づき作成されるもの、(2)一定時間おき(例えば、1時間おき)の測定値に基づき作成されるもの、(3)各測定日の最高値に基づき作成されるもの、(4)各測定日の平均値に基づき作成されるもの、(5)各判定時に脈拍用スコアリング基準値(μ3+2σ3)を超えた(または以上)値に基づき作成されるもの、(6)各判定時に閾値(μ3+3σ3)を超えた(または以上)値に基づき作成されるもの、(7)所望の抽出条件で抽出した測定値に基づき作成されるもの、が含まれている。
ここで、正規分布が、各測定日の最高値または各測定日の平均値に基づき作成される態様では、都度の正規分布の作成時に必要なデータ量が少なくなり、データ容量の削減に寄与するものとなる。また、正規分布が、各測定日の最高値、各判定時に脈拍用スコアリング基準値(μ3+2σ3)を超えた(または以上)値、または、各判定時に閾値(μ3+3σ3)を超えた(または以上)値、に基づき作成される態様では、正規分布を構成する値が大きくなり、脈拍が顕著に上昇した状態、即ち、深刻な体調異常が生じている状態を精度高く検知することが可能となる。
また、ここでいう「平均μ3をピーク値とした正規分布」は、脈拍情報について、(1)全ての測定値に基づき作成されるもの、(2)異常値を外すための条件(各判定時に脈拍用スコアリング基準値を超えた(または以上)値である、各判定時に閾値(μ3+3σ3)を超えた(または以上)値である、所定の条件、または、統計的な外れ値等)を満たす測定値を算出根拠から除いて作成されるもの、(3)問診への回答に異常が確認された場合の測定値を算出根拠から除いて作成されるもの、が含まれている。
また、ここでいう「平均μ3をピーク値とした正規分布」は、上述した、「判定の対象となる所定の脈拍情報を含む/含まない」の各設定と、「(1)全ての測定値に基づき作成されるもの~(7)所望の抽出条件で抽出した測定値に基づき作成されるもの」の各設定と、「(1)全ての測定値に基づき作成されるもの~(3)問診への回答に異常が確認された場合の測定値を算出根拠から除いて作成されるもの」の各設定と、「正規分布を作成するための期間として、30日分、90日分、1年分、または、測定を行った全期間を採用する」の各設定を、個別に組み合わせた全ての態様を含んでいる。
また、第1のスコアリング処理手段が、深部体温スコアリング条件及び脈拍スコアリング条件を基準にして、入力された深部体温情報及び脈拍情報をスコアリングした、それぞれのスコアの値である第1のスコア結果情報を算出する場合には、入力された入力された深部体温情報及び脈拍情報を、その内容に応じたスコア結果情報(点数)に変換することができる。なお、脈拍情報は、深部体温情報と相関のあるパラメータであり、深部体温の挙動を把握する際に、利用することができる。
また、第1のスコアリング処理手段が、深部体温情報及び脈拍情報に対応する第1のスコア結果情報を合計して第1のスコア合計点情報を算出する場合には、入力された入力された深部体温情報及び脈拍情報の内容に応じたスコア結果情報(点数)の合計点である第1のスコア合計点情報を、スコアリングに基づく判定に利用することができる。また、深部体温情報及び脈拍情報に対応する第1のスコア結果情報を合計して第1のスコア合計点情報を判定に利用することで、深部体温情報のみ、または、脈拍情報のみでスコアリングに基づく判定を行う態様と比較して、スコアリングに基づく異常な値であるか否かの判定において、偽陽性が発生することを抑止しやすくなる。
また、判定手段が、第1のスコア合計点情報が所定の第1のスコア判定条件を満たすか否かを判定する場合には、入力された深部体温情報及び脈拍情報の内容に基づく第1のスコア合計点情報に対して、第1のスコア判定条件を基準にして、異常な値か否かを判定することが可能となる。
また、所定の二次判定条件が、第1の閾値以上または第1の閾値を超えて、かつ、所定の深部体温情報の測定日時から所定の時間の経過後に測定され、入力された深部体温情報及び脈拍情報に基づく第1のスコア合計点情報が、第1のスコア判定条件を満たす場合である際には、深部体温情報が正常域条件を満たすか否かに加えて、入力された深部体温情報及び脈拍情報の内容に基づく第1のスコア合計点情報が異常な値であるか否かを確認して、熱中症の有無を判定することができる。即ち、熱中症の有無の判定に際して、単に第1の閾値と比較するだけでなく、深部体温情報及び脈拍情報を、各情報から作成した正規分布に基づきスコアリングした結果を見て、異常な値であるとみなせる深部体温が確認された上で、個体が熱中症であると判断することが可能となる。これにより、熱中症の有無の判定において、1つの判定基準のみを用いる態様に比べて、実際には熱中症でない状態について、熱中症であると判定してしまう偽陽性の発生を抑止しやすくなる。
また、脈拍用スコアリング基準値が、少なくとも4個分の脈拍情報から作成される場合には、脈拍について、対象者個人の個体内変動が反映された判定基準をもって、迅速にスコアリングを行うことが可能となる。
また、基準算出手段が、平均μ1及び標準偏差σ1を用いて表された下記の式(1)の値である第3の閾値を算出する場合には、同一個体における深部体温が顕著に上がった状態を確認する基準を設定可能となる。
μ1+3σ1・・・式(1)。
また、判定手段は、入力された深部体温情報が、第3の閾値以上または第3の閾値を超えた場合に、個体が熱中症であると判定する場合には、同一個体における深部体温が顕著に上がった状態を捉え、一回の判定で、個体が熱中症であると判定することができる。即ち、一次判定の有無に限らず、個体の深部体温が高温になった危険な状態を素早く検知することができる。
また、第3の閾値が、少なくとも4個分の深部体温情報から作成される場合には、深部体温が顕著に上がった状態について、対象者個人の個体内変動が反映された判定基準をもって、迅速に判定を行うことが可能となる。
また、第3の閾値が、環境中の所定の暑さ指数の数値が一定の条件を満たす際、または、対象者が暑熱順化の状態となる前の状態にある際に、3σ1の数値を、より小さな値に変更して閾値が設定される場合には、対象者が置かれた環境における暑さ指数の数値の内容、または、対象者が暑熱順化の状態となる前の暑さに慣れていない状態を考慮して、熱中症であると判定する基準を、より厳しい基準(熱中症と判定されやすい基準)にすることができる。
所定の暑さ指数とは、「WBGT(湿球黒球温度):Wet Bulb Globe Temperature」と呼ばれ、熱中症予防のための指数であり、日常生活や運動といった異なる場面ごとに、一定の数値と数値に対応する警戒レベル(ほぼ安全、注意、警戒、厳重警戒、運動はすぐ中止等)が設定されている。また、暑さ指数の数値は、湿度、日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境、気温の3つを取り入れ、既知の手法で数値が算出可能である。また、暑熱順化の状態とは、暑さに慣れた状態を意味し、詳細は後述する。こうした、暑さ指数の数値が一定値以上高くなり、警戒レベルが上がった環境や、対象者が暑熱順化になる前の状態では、対象者が熱中症になるリスクが上がる。そのため、暑さ指数の数値が一定値以上高くなり、警戒レベルが上がった環境や、対象者が暑熱順化になる前の状態では、対象者が熱中症になることを、更に注意すべき環境または期間として、第3の閾値の基準を下げて基準を設定し、熱中症の状態を、より捉えやすくすることができる。
また、第3の閾値における、「3σ1の数値をより小さな値に変更して閾値を設定」とは、所定の暑さ指数の内容や、暑熱順化とみなすために設定した期間(一般的には、7~10日間)に応じて、適宜設定することができる。また、より小さな値に変更とは、適宜設定変更できるが、例えば、「3σ1」を「2.8σ」や「2.5σ」等に変更することができる。このように、熱中症を判定する基準(基準域)において、1回の測定結果で、熱中症の「警戒」と判定できる「3σ1」の基準を、暑さ指数の数値が一定値以上高くなり、警戒レベルが上がった環境や、対象者が暑熱順化になる前の状態に合わせて、厳しい基準にすることで、熱中症となるリスクの高い対象者に対して、熱中症の判定を、より適切に行うことが可能となる。
また、判定手段が、所定の二次判定で、個体が熱中症であると判定した際に、警告を通知する警告通知手段を備える場合には、判定の対象者自身や、対象者の管理者及び監視者等に、対象者が熱中症と判断された状況を警告して知らせることができる。
また、入力された深部体温情報が、所定の二次判定条件を満たさなくなり、かつ、入力された脈拍情報が、脈拍用スコアリング基準値以下または脈拍用スコアリング基準値未満になると共に、そのタイミングから所定の時間の経過後に、警告通知手段が通知した警告の状態を解除する警告解除手段とを備える場合には、判定の対象者自身や、対象者の管理者及び監視者等に、対象者が熱中症を発症した状態から、正常な状態とみなせる範囲に戻ったことを、警告を解除することで知らせることができる。即ち、深部体温及び脈拍が下がり、その下がった状態から所定の時間が経過したことを確認して、警告を解除し、対象者が作業等に復帰してよい状態になったことを通知可能となる。なお、脈拍が上昇して、上昇した5分後の脈拍と、深部体温との間に相関があるという報告があることから、ここでいう所定の時間とは、5分後が採用されることが好ましい。
また、情報入力手段が、同一個体から測定された正規分布に従う表層体温情報の入力を受け付け、情報記録手段に、入力された表層体温情報を記録させる場合には、同一個体の表層体温の測定値の情報を蓄積することができる。同一個体から測定した表層体温の測定値は正規分布に従うものであり、その測定値の情報を蓄積することで、正規分布に基づく基準を設定可能となる。
また、情報入力手段が、同一個体から測定された正規分布に従う表層体温情報及び測定日時の情報の入力を受け付け、情報記録手段に、入力された表層体温情報及び測定日時の情報を記録させる場合には、同一個体の表層体温情報が測定された日時の情報と共に蓄積されるものとなる。即ち、同一個体の複数の表層体温情報を測定日時の情報と紐付けて取り扱うことが可能となる。なお、ここでいう測定日時の情報には、測定装置が個体から表層体温を測定した日時の情報が採用される態様や、または、表層体温を入力する際の日時の情報が採用される態様が含まれている。また、測定日時の情報は、入力者が情報を入力する態様と、情報入力手段に自動的に入力される態様が含まれている。
また、基準算出手段が、記録された複数の表層体温の全部又は一部の、平均μ4を算出する場合には、同一個体の個体内変動が反映された表層体温情報の平均値の情報を利用可能となる。なお、ここでいう平均μ4とは、「各表層体温の測定値の総和」から「表層体温の測定値のデータ数」を割った値を意味するものである。また、ここでいう「記録された複数の表層体温情報の平均μ4」は、記録された表層体温情報の全データから算出するものだけでなく、全データのうちの一部から算出されるものを含んでいる。更に、平均μ4の算出根拠となる表層体温情報は連続的なデータ、例えば、毎秒、毎分、毎時間、毎日等継続的に測定したデータだけでなく、秒、分、時間、日数等の間隔を開けて抽出したデータから算出されるものであってもよい。
また、基準算出手段が、記録された複数の表層体温情報の全部又は一部の標準偏差σ4を算出する場合には、同一個体の個体内変動が反映された表層体温情報の標準偏差の情報を利用可能となる。なお、ここでいう標準偏差σ4とは、所定の条件の表層体温情報の「偏差の二乗平均」である。更に言えば、「偏差」とは、所定の条件の表層体温情報の「各表層体温の測定値」から「所定の条件の表層体温の測定値の平均値」を引いた値である。また、ここでいう「記録された複数の表層体温情報の標準偏差σ4」は、記録された表層体温情報の全データから算出するものだけでなく、全データのうちの一部から算出されるものを含んでいる。更に、標準偏差σ4の算出根拠となる表層体温情報は連続的なデータ、例えば、毎秒、毎分、毎時間、毎日等継続的に測定したデータだけでなく、秒、分、時間、日数等の間隔を開けて抽出したデータから算出されるものであってもよい。
また、基準算出手段が、記録された複数の脈拍情報の全部又は一部の、平均μ5を算出する場合には、同一個体の個体内変動が反映された脈拍情報の平均値の情報を利用可能となる。なお、ここでいう平均μ5とは、「各脈拍の測定値の総和」から「脈拍の測定値のデータ数」を割った値を意味するものである。また、ここでいう「記録された複数の脈拍情報の平均μ5」は、記録された脈拍情報の全データから算出するものだけでなく、全データのうちの一部から算出されるものを含んでいる。更に、平均μ5の算出根拠となる脈拍情報は連続的なデータ、例えば、毎秒、毎分、毎時間、毎日等継続的に測定したデータだけでなく、秒、分、時間、日数等の間隔を開けて抽出したデータから算出されるものであってもよい。
また、基準算出手段が、記録された複数の脈拍情報の全部又は一部の標準偏差σ5を算出する場合には、同一個体の個体内変動が反映された脈拍情報の標準偏差の情報を利用可能となる。なお、ここでいう標準偏差σ5とは、所定の条件の脈拍情報の「偏差の二乗平均」である。更に言えば、「偏差」とは、所定の条件の脈拍情報の「各脈拍の測定値」から「所定の条件の脈拍の測定値の平均値」を引いた値である。また、ここでいう「記録された複数の脈拍情報の標準偏差σ5」は、記録された脈拍情報の全データから算出するものだけでなく、全データのうちの一部から算出されるものを含んでいる。更に、標準偏差σ5の算出根拠となる脈拍情報は連続的なデータ、例えば、毎秒、毎分、毎時間、毎日等継続的に測定したデータだけでなく、秒、分、時間、日数等の間隔を開けて抽出したデータから算出されるものであってもよい。
また、基準算出手段が、平均μ4をピーク値とした正規分布に基づき設定され、平均μ4及び標準偏差σ4を用いて表された下記の式(1)の値を表層用スコアリング基準値とする表層体温スコアリング条件を算出する場合には、平均μ4をピーク値とした正規分布と、標準偏差σ4に基づき設定した表層用スコアリング基準値を基準とする表層体温スコアリング条件を、入力された表層体温情報をスコアリングする際のスコアリング条件として利用可能となる。
μ4+2σ4・・・式(1)。
なお、ここでいう「平均μ4をピーク値とした正規分布に基づき設定される表層体温スコアリング条件」は、入力された表層体温情報、即ち、表層体温スコアリング条件を基準とする判定の対象となる所定の表層体温情報を含んで設定されるものと、判定の対象となる所定の表層体温情報を含まずに、それ以前の過去の表層体温情報(例えば、判定を行う日を含まず、これより過去の日の情報)から設定されたものの両方を含むものである。また、入力された表層体温情報は、直近に入力された表層体温情報であることができる。また、入力された表層体温情報は、以前に入力された表層体温情報のうちの一つまたは複数の表層体温情報であることができる。
また、ここでいう「平均μ4をピーク値とした正規分布」は、表層体温情報について、(1)全ての測定値に基づき作成されるもの、(2)一定時間おき(例えば、1時間おき)の測定値に基づき作成されるもの、(3)各測定日の最高値に基づき作成されるもの、(4)各測定日の平均値に基づき作成されるもの、(5)各判定時に表層用スコアリング基準値(μ4+2σ4)を超えた(または以上)値に基づき作成されるもの、(6)各判定時に閾値(μ4+3σ4)を超えた(または以上)値に基づき作成されるもの、(7)所望の抽出条件で抽出した測定値に基づき作成されるもの、が含まれている。
ここで、正規分布が、各測定日の最高値または各測定日の平均値に基づき作成される態様では、都度の正規分布の作成時に必要なデータ量が少なくなり、データ容量の削減に寄与するものとなる。また、正規分布が、各測定日の最高値、各判定時に表層用スコアリング基準値(μ4+2σ4)を超えた(または以上)値、または、各判定時に閾値(μ4+3σ4)を超えた(または以上)値、に基づき作成される態様では、正規分布を構成する値が大きくなり、表層体温が顕著に上昇した状態、即ち、深刻な体調異常が生じている状態を精度高く検知することが可能となる。
また、ここでいう「平均μ4をピーク値とした正規分布」は、表層体温情報について、(1)全ての測定値に基づき作成されるもの、(2)異常値を外すための条件(各判定時に表層用スコアリング基準値を超えた(または以上)値である、各判定時に閾値(μ4+3σ4)を超えた(または以上)値である、所定の条件、または、統計的な外れ値等)を満たす測定値を算出根拠から除いて作成されるもの、(3)問診への回答に異常が確認された場合の測定値を算出根拠から除いて作成されるもの、が含まれている。
また、ここでいう「平均μ4をピーク値とした正規分布」は、上述した、「判定の対象となる所定の脈拍情報を含む/含まない」の各設定と、「(1)全ての測定値に基づき作成されるもの~(7)所望の抽出条件で抽出した測定値に基づき作成されるもの」の各設定と、「(1)全ての測定値に基づき作成されるもの~(3)問診への回答に異常が確認された場合の測定値を算出根拠から除いて作成されるもの」の各設定と、「正規分布を作成するための期間として、30日分、90日分、1年分、または、測定を行った全期間を採用する」の各設定を、個別に組み合わせた全ての態様を含んでいる。
また、基準算出手段が、平均μ5をピーク値とした正規分布に基づき設定され、平均μ5及び標準偏差σ5を用いて表された下記の式(2)の値を脈拍用スコアリング基準値とする脈拍スコアリング条件を算出する場合には、平均μ5をピーク値とした正規分布と、標準偏差σ5に基づき設定した脈拍用スコアリング基準値を基準とする脈拍スコアリング条件を、入力された脈拍情報をスコアリングする際のスコアリング条件として利用可能となる。
μ5+2σ5・・・式(2)。
なお、ここでいう「平均μ5をピーク値とした正規分布に基づき設定される脈拍スコアリング条件」は、入力された脈拍情報、即ち、脈拍スコアリング条件を基準とする判定の対象となる所定の脈拍情報を含んで設定されるものと、判定の対象となる所定の脈拍情報を含まずに、それ以前の過去の脈拍情報(例えば、判定を行う日を含まず、これより過去の日の情報)から設定されたものの両方を含むものである。また、入力された脈拍情報は、直近に入力された脈拍情報であることができる。また、入力された脈拍情報は、以前に入力された脈拍情報のうちの一つまたは複数の脈拍情報であることができる。
また、ここでいう「平均μ5をピーク値とした正規分布」は、脈拍情報について、(1)全ての測定値に基づき作成されるもの、(2)一定時間おき(例えば、1時間おき)の測定値に基づき作成されるもの、(3)各測定日の最高値に基づき作成されるもの、(4)各測定日の平均値に基づき作成されるもの、(5)各判定時に脈拍用スコアリング基準値(μ5+2σ5)を超えた(または以上)値に基づき作成されるもの、(6)各判定時に閾値(μ5+3σ5)を超えた(または以上)値に基づき作成されるもの、(7)所望の抽出条件で抽出した測定値に基づき作成されるもの、が含まれている。
ここで、正規分布が、各測定日の最高値または各測定日の平均値に基づき作成される態様では、都度の正規分布の作成時に必要なデータ量が少なくなり、データ容量の削減に寄与するものとなる。また、正規分布が、各測定日の最高値、各判定時に脈拍用スコアリング基準値(μ5+2σ5)を超えた(または以上)値、または、各判定時に閾値(μ5+3σ5)を超えた(または以上)値、に基づき作成される態様では、正規分布を構成する値が大きくなり、脈拍が顕著に上昇した状態、即ち、深刻な体調異常が生じている状態を精度高く検知することが可能となる。
また、ここでいう「平均μ5をピーク値とした正規分布」は、脈拍情報について、(1)全ての測定値に基づき作成されるもの、(2)異常値を外すための条件(各判定時に脈拍用スコアリング基準値を超えた(または以上)値である、各判定時に閾値(μ5+3σ5)を超えた(または以上)値である、所定の条件、または、統計的な外れ値等)を満たす測定値を算出根拠から除いて作成されるもの、(3)問診への回答に異常が確認された場合の測定値を算出根拠から除いて作成されるもの、が含まれている。
また、ここでいう「平均μ5をピーク値とした正規分布」は、上述した、「判定の対象となる所定の脈拍情報を含む/含まない」の各設定と、「(1)全ての測定値に基づき作成されるもの~(7)所望の抽出条件で抽出した測定値に基づき作成されるもの」の各設定と、「(1)全ての測定値に基づき作成されるもの~(3)問診への回答に異常が確認された場合の測定値を算出根拠から除いて作成されるもの」の各設定と、「正規分布を作成するための期間として、30日分、90日分、1年分、または、測定を行った全期間を採用する」の各設定を、個別に組み合わせた全ての態様を含んでいる。
また、第2のスコアリング処理手段が、表層体温スコアリング条件及び脈拍スコアリング条件を基準にして、入力された表層体温情報及び脈拍情報をスコアリングした、それぞれのスコアの値である第2のスコア結果情報を算出する場合には、入力された入力された表層体温情報及び脈拍情報を、その内容に応じたスコア結果情報(点数)に変換することができる。なお、脈拍情報は、深部体温情報と相関のあるパラメータであり、深部体温の挙動を把握する際に、利用することができる。また、表層体温とは、深部体温とは異なり、「体の表面の温度」であり、皮膚温とも呼ばれ、例えば、ワキ(腋窩)、口(舌下)等で測定される体温である。
また、第2のスコアリング処理手段が、表層体温情報及び脈拍情報に対応する第2のスコア結果情報を合計して第2のスコア合計点情報を算出する場合には、入力された入力された表層体温情報及び脈拍情報の内容に応じたスコア結果情報(点数)の合計点である第2のスコア合計点情報を、スコアリングに基づく判定に利用することができる。また、表層体温情報及び脈拍情報に対応する第2のスコア結果情報を合計して第2のスコア合計点情報を判定に利用することで、表層体温情報のみ、または、脈拍情報のみでスコアリングに基づく判定を行う態様と比較して、スコアリングに基づく異常な値であるか否かの判定において、偽陽性が発生することを抑止しやすくなる。
また、判定手段が、一次判定として、第2のスコア合計点情報が所定の第2のスコア判定条件を満たすか否かを判定する場合には、深部体温情報の代わりに、表層体温情報及び脈拍情報のスコアリングに基づき、一次判定を行うことが可能となる。
また、判定手段が、一次判定で所定の第2のスコア合計点情報が第2のスコア判定条件を満たすと判定された際に、所定の第2のスコア合計点情報の根拠となる表層体温情報または脈拍情報の測定日時から所定の時間の経過後に測定され、入力された表層体温情報及び脈拍情報に基づく第2のスコア合計点情報が、第2のスコア判定条件を満たす場合に、個体が熱中症であると判定する場合には、一次判定と、これに続く、熱中症の有無の判定を、表層体温情報及び脈拍情報のスコアリングに基づき行うことができる。即ち、深部体温情報を用いずに、表層体温情報及び脈拍情報から、熱中症の有無を判断することができる。
なお、ここでいう「所定の時間の経過後」とは、適宜設定することが可能であり、その内容が限定されるものではない。例えば、一次判定から5分後、10分後、15分後、30分後、1時間後等が設定しうる。但し、一度上昇した表層体温及び脈拍はすぐに戻らない現象が見られるため、例えば、「所定の時間の経過後」の内容として、5分以上の経過が採用されることが好ましい。
また、表層用スコアリング基準値が、少なくとも4個分の表層体温情報から作成され、脈拍用スコアリング基準値が、少なくとも4個分の脈拍情報から作成される場合には、表層体温情報及び脈拍情報をバイオマーカーとして活用して、対象者が熱中症の状態であるか否かを早期に検知可能となる。
正常域条件が、各測定日における深部体温情報の最高値の全部又は一部の、平均μ6及び標準偏差σ6から算出されると共に、平均μ6をピーク値とした正規分布に基づき設定され、平均μ6及び標準偏差σ6を用いて表された下記の式(1)の値を第1の閾値とする場合には、第1の閾値の作成にあたって必要な根拠となる深部体温の情報量が少なくなり、データ容量の削減に寄与しうる。
μ6+2σ6・・・式(1)。
また、上記の目的を達成するために、本発明のソフトウェアは、測定された表層体温の値である表層体温情報及び脈拍の値である脈拍情報に基づいて、個体の熱中症を判定するソフトウェアであって、情報処理機器を、同一個体から測定された正規分布に従う表層体温情報及び測定日時の情報と、同一個体から測定された正規分布に従う脈拍情報及び測定日時の情報の入力を受け付ける情報入力手段と、入力された前記表層体温情報、前記脈拍情報及びそれらの測定日時の情報を記録させる情報記録手段と、記録された複数の前記表層体温情報の全部又は一部の、平均μ7及び標準偏差σ7を算出すると共に、前記平均μ7をピーク値とした正規分布に基づき設定され、前記平均μ7及び前記標準偏差σ7を用いて表された下記の式(1)の値を表層用スコアリング基準値とする表層体温スコアリング条件と、記録された複数の前記脈拍情報の全部又は一部の、平均μ8及び標準偏差σ8を算出すると共に、前記平均μ8をピーク値とした正規分布に基づき設定され、前記平均μ8及び前記標準偏差σ8を用いて表された下記の式(2)の値を脈拍用スコアリング基準値とする脈拍スコアリング条件と、を算出する基準算出手段と、前記表層体温スコアリング条件及び前記脈拍スコアリング条件を基準にして、入力された前記表層体温情報及び前記脈拍情報をスコアリングした、それぞれのスコアの値であるスコア結果情報を算出すると共に、前記表層体温情報及び前記脈拍情報に対応する前記スコア結果情報を合計してスコア合計点情報を算出するスコアリング処理手段と、所定のスコア合計点情報が所定のスコア判定条件を満たすか否かを一次判定すると共に、前記一次判定で前記所定のスコア合計点情報が前記所定のスコア判定条件を満たすと判定された際に、前記所定のスコア合計点情報の根拠となる前記表層体温情報または前記脈拍情報の測定日時から所定の時間の経過後に測定され、入力された前記表層体温情報及び前記脈拍情報に基づく前記スコア合計点情報が、前記所定のスコア判定条件を満たす場合に、個体が熱中症であると判定する判定手段と、を含む手段として機能させるためのソフトウェアであり、前記表層用スコアリング基準値は、少なくとも4個分の前記表層体温情報から作成され、前記脈拍用スコアリング基準値は、少なくとも4個分の前記脈拍情報から作成されている。
μ7+2σ7・・・式(1)
μ8+2σ8・・・式(2)
ここで、判定手段が、一次判定で所定のスコア合計点情報が所定のスコア判定条件を満たすと判定された際に、所定のスコア合計点情報の根拠となる表層体温情報または脈拍情報の測定日時から所定の時間の経過後に測定され、入力された表層体温情報及び脈拍情報に基づく所定のスコア合計点情報が、所定のスコア判定条件を満たす場合に、個体が熱中症であると判定する場合には、一次判定と、これに続く、熱中症の有無の判定を、表層体温情報及び脈拍情報のスコアリングに基づき行うことができる。即ち、深部体温情報を用いずに、表層体温情報及び脈拍情報から、熱中症の有無を判断することができる。
また、判定手段が、個体が熱中症であると判定した際に、警告を通知する警告通知手段と、入力された表層体温情報及び脈拍情報に基づくスコア合計点情報が、所定のスコア判定条件を満たさなくなり、かつ、入力された脈拍情報が、脈拍用スコアリング基準値以下または脈拍用スコアリング基準値未満になる共に、そのタイミングから所定の時間の経過後に、警告通知手段が通知した警告の状態を解除する警告解除手段とを備える場合には、判定の対象者自身や、対象者の管理者及び監視者等に、対象者が熱中症と判断された状況を警告して知らせることができる。また、判定の対象者自身や、対象者の管理者及び監視者等に、対象者が熱中症を発症した状態から、正常な状態とみなせる範囲に戻ったことを、警告を解除することで知らせることができる。即ち、表層体温及び脈拍が下がり、その下がった状態から所定の時間が経過したことを確認して、警告を解除し、対象者が作業等に復帰してよい状態になったことを通知可能となる。なお、脈拍が上昇して、上昇した5分後の脈拍と、深部体温との間に相関があるという報告があることから、ここでいう所定の時間とは、5分後が採用されることが好ましい。
また、上記の目的を達成するために、本発明の熱中症判定装置は、測定された深部体温の値である深部体温情報に基づいて、個体の熱中症を判定するための熱中症判定装置であって、同一個体から測定された正規分布に従う前記深部体温情報及び測定日時の情報の入力を受け付ける情報入力手段と、入力された前記深部体温情報及び測定日時の情報を記録させる情報記録手段と、記録された複数の前記深部体温情報の全部又は一部の、平均μ1及び標準偏差σ1を算出すると共に、前記平均μ1をピーク値とした正規分布に基づき設定され、前記平均μ1及び前記標準偏差σ1を用いて表された下記の式(1)の値を第1の閾値とする正常域条件を算出する基準算出手段と、入力された所定の深部体温情報が前記正常域条件を満たすか否かを一次判定すると共に、前記一次判定で、前記所定の深部体温情報が前記正常域条件を満たすと判定された際に、前記所定の深部体温情報の測定日時から所定の時間の経過後に測定され、入力された前記深部体温情報が、所定の二次判定条件を満たす場合に、個体が熱中症であると判定する判定手段とを備え、前記第1の閾値は、少なくとも4個分の前記深部体温情報から作成されている。
μ1+2σ1・・・式(1)
また、上記の目的を達成するために、本発明の熱中症判定方法は、コンピュータが実行する方法であり、測定された深部体温の値である深部体温情報に基づいて、個体の熱中症を判定するための熱中症判定方法であって、同一個体から測定された正規分布に従う前記深部体温情報及び測定日時の情報の入力を受け付けて記録する情報記録工程と、記録された複数の前記深部体温情報の全部又は一部の、平均μ1及び標準偏差σ1を算出すると共に、前記平均μ1をピーク値とした正規分布に基づき設定され、前記平均μ1及び前記標準偏差σ1を用いて表された下記の式(1)の値を第1の閾値とする正常域条件を算出する基準算出工程と、入力された所定の深部体温情報が前記正常域条件を満たすか否かを一次判定すると共に、前記一次判定で、前記所定の深部体温情報が前記正常域条件を満たすと判定された際に、前記所定の深部体温情報の測定日時から所定の時間の経過後に測定され、入力された前記深部体温情報が、所定の二次判定条件を満たす場合に、個体が熱中症であると判定する判定工程とを備え、前記第1の閾値は、少なくとも4個分の前記深部体温情報から作成されている。
μ1+2σ1・・・式(1)。
本発明に係るソフトウェア、熱中症判定装置及び熱中症判定方法は、対象者の個人差を考慮したバイタルサインや日々の体調を反映して、対象者ごとに異なる個体内変動を精度高く捉えることが可能であり、かつ、偽陽性が少なく、対象者における熱中症の判定精度に優れたものとなっている。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明し、本発明の理解に供する。
図1は、本発明を適用したソフトウェアを導入したタブレット端末の概略構成を示す図である。なお、以下に示す構造は本発明の一例であり、本発明の内容はこれに限定されるものではない。
[1.全体の装置構成について]
本発明を適用したソフトウェアは、汎用の情報処理機器に導入可能であり、組み込まれた情報処理機器に対して本発明の実施するために必要な各情報処理機能を付与する。この結果、管理端末3において、対象者の深部体温情報、脈拍情報、表層体温情報等のバイタル情報を収集して、特定の条件を満たすか否かを確認することにより、対象者における熱中症の発症の有無について判定を行うことができる。
なお、情報処理機器とは、CPUなどの演算部と、RAMやROMなどの記憶部と、液晶画面等の表示画面や、キーボード等の入力部、インターネット等との通信を制御する通信部等を備えたものである。例えば、汎用のパーソナルコンピュータやタブレット端末、スマートフォン等である。また、情報処理機器としては、例えば、各種のヘルスケア機器、医療システム等も対象となり、本発明を適用したソフトウェアがこれらに組み込まれて使用されるものでもよい。
本発明を適用したソフトウェアは、アプリケーションソフトウェアとして管理端末3に組み込まれており、熱中症の判定機能を備えた管理端末3を熱中症判定装置1とする。
なお、以下では、熱中症判定装置1の使用者、即ち、熱中症の有無を判定される人物を「対象者」と呼ぶものとする。
図1に示すように、熱中症判定装置1(管理端末3)は、演算部2を備えている。演算部2は、熱中症判定装置1の有する各情報処理機能を実行する処理部である。即ち、本発明を適用したソフトウェアでは、管理端末3の演算部2を情報入力手段23、情報記録手段24、基準算出手段5、スコアリング処理手段100、判定処理手段6等として機能させる。この各手段の処理機能により、情報の送受信、情報の記録、バイタル情報の内容に基づくスコアリング、スコアリング条件の設定、各種判定、判定基準の設定、判定結果の通知(注意や警告の通知)、警告の状態の解除、表示情報の作成や表示等を行う。なお、管理端末3は、インターネットを介して、外部のサーバ、端末等にアクセス可能であり、外部のサーバや端末等との間で情報の送受信を行うことも可能である。情報記録手段24、基準算出手段5、スコアリング処理手段100、判定処理手段6は、それぞれ本願請求項の「情報記録手段」、「基準算出手段」、「第1のスコアリング処理手段、第2のスコアリング処理手段、またはスコアリング処理手段」、及び「判定手段」の一例である。
管理端末3は、情報記録部4と、情報送受信部3cと、入力部3aと、表示部3bを有している。
情報送受信部3cは、演算部2、情報記録部4、入力部3a及び表示部3b等の間での情報の送受信を担う部分である。また、情報送受信部3cは、後述するバイタル測定器21(ウェアラブル測定器)及びスマートフォン端末70(対象者)及び71との間で情報の送受信を担う部分である。また、管理端末3は、外部端末との間で情報の送受信可能に構成されるものであってもよい。
ここで、以下、本発明を適用したソフトウェアが取り扱う各情報が、必ずしも、管理端末3の情報記録部4に記録される必要はない。例えば、管理端末3の情報送受信部3cを介して、外部サーバや外部端末に各種情報を送信して記録させ、判定等の際に、外部サーバ等から必要な情報を受信する態様であってもよい。
更に言えば、管理端末3に、熱中症判定装置1の主要な構成が全てダウンロードされる必要はない。例えば、管理端末3では、判定結果の情報や表示情報の表示のみを行い、各種情報の記録及び判定処理等は外部サーバ等で行う態様であってもよい。
本発明を適用したソフトウェアは、システム上の構成において、複数のバリエーションが存在しうる。以下、幾つかのバリエーションの事例を説明する。
(第1のシステム構成)
図1に示した管理端末3の概略構成は、本発明を適用したソフトウェアを端末に導入して、端末単体で、深部体温情報等の入力(バイタル測定器21からのバイタル情報の受信)、記録、判定、スコア値の表示、判定結果の表示、スコアリング条件の設定、判定算出基準の設定、注意または警告の通知が可能となっている。情報処理機器は、例えば、各種のヘルスケア機器や、医療システムに本発明のソフトウェアを導入して、専用機器として利用することができる。なお、ここでは管理端末3を情報処理機器の一例として挙げており、図1に示す構成であれば、バイタル測定器21からバイタル情報を受信して、管理端末3の内部機能のみで、熱中症の判定を行うことができる。
(第2のシステム構成)
図2では、第2のシステム構成として、本発明を適用したソフトウェア1aの機能を外部サーバに持たせた構成も採用しうる。ここでは、スマートフォン端末50aや、外部端末50bが、インターネット30aを介して、情報管理サーバ32aにアクセス可能となっている。情報管理サーバ32aは、例えば、クラウド形式で提供される外部サーバであり、情報管理サーバ32a上で本発明を適用したソフトウェア1aの機能が利用しうる。
情報管理サーバ32aは、情報記録部4a、情報送受信部3c、演算部2aを有している。また、演算部2aは、基準算出手段5a、情報記録手段24a、スコアリング処理手段100a、判定処理手段6aを有している。深部体温情報等の入力は、バイタル測定器21からバイタル情報が情報管理サーバ32aに送信され、情報管理サーバ32a側で情報の入力及び記録、熱中症の判定がなされる。判定結果や、記録された情報は、対象者が所有するスマートフォン端末50aや、外部端末50bに送信され、各端末で確認することができる。このように、外部サーバ上にソフトウェア1aの機能を付与するシステム構成も採用しうる。
(第3のシステム構成)
図3では、第3のシステム構成として、本発明を適用したソフトウェア32bの機能以外に、複数のソフトウェア32c、32d等を有するモジュールAを備える管理端末70bの構成を示している。本発明を適用したソフトウェア32bは、これとは異なる各種機能を管理端末70bに実行させる他のソフトウェアと共に、1つのモジュールAを構成している。即ち、予め複数のソフトウェア32c、32d等が導入された管理端末70bのモジュールAに、ソフトウェア32bを組み込んで機能させることが可能である。例えば、対象者が働く作業所に設置された端末が備えるモジュールに本発明を適用したソフトウェアを組み込むこともできる。
このような第3のシステム構成では、管理端末70bにバイタル測定器21からバイタル情報が送信されて、バイタル情報が入力され、熱中症の判定を行い、結果の情報を管理端末70b上で確認することができる。また、対象者が所有するスマートフォン端末60aや、外部端末60bと、管理端末70bを接続させて、結果の情報をスマートフォン端末60aや、外部端末60bで受信して確認することもできる。このように、本発明を適用したソフトウェアは、複数のソフトウェアで構成されたモジュールの一部として機能させる構成も採用しうる。
以上のように、本発明を適用したソフトウェア(又は熱中症判定装置)のシステム上の構成は複数のバリエーションが存在する。なお、上記では、3つの例を中心に説明したが、本発明を適用したソフトウェア(又は熱中症判定装置)の構成はこれに限定されるものではない。例えば、情報記録部をスマートフォン端末70及び71に設けて、基準算出手段、スコアリング処理手段及び判定処理手段は外部サーバに持たせて、必要な機能の所在を端末とサーバに分ける構成であってもよい。即ち、対象者の深部体温等のバイタル情報が記録され、個体内変動を反映した判定基準が設定され、熱中症の判定が可能であれば、種々の構成が採用しうる。
図1に示した管理端末3の使用態様を用いて、以下、詳細な構成の説明を続ける。
[2.情報記録部]
図4に示すように、情報記録部4には、各種情報が記録されている。
対象者の個人情報や、バイタル測定器21(ウェアラブル測定器)で測定されたバイタルサインの値を、情報送受信部3cで受信して、情報入力手段23がバイタルサインの値の入力手段として機能することで、その対象者のバイタルサインの値は、測定日時又は取得日時の情報と共に、情報記録部4に記録される。情報記録部4に記録された各種の情報は管理端末3が有する入力部3aを介して入力や情報の修正が可能となっている。また、情報記録部4に記録された各種の情報は管理端末3が有する表示部3b及び情報送受信部3cを介して、その内容を確認可能となっている。
情報記録部4は、対象者の個人情報7、各バイタル計測器で計測したバイタルサインの測定値及びその測定日時又は取得日時の情報を含むバイタル情報8が記録されている。また、個人情報7及びバイタル情報8は、個別の対象者を識別可能な識別情報と紐付けられて記録可能に構成されている。これにより、複数の対象者が識別可能となり、複数の対象者が1つの熱中症判定装置1を使用可能となっている。
バイタル情報8には、深部体温、表層体温、脈拍の測定値が含まれている。また、バイタル情報8に含まれる測定日時又は取得日時とは、対象者がバイタル計測を行った日時であり、例えば、ウェアラブル測定器が対象者のバイタル計測を行った時間が自動的に入力されるものである。
また、バイタル情報8は、後述するバイタル除外基準情報200の条件を満たさないバイタル情報8aと、バイタル除外基準情報200の条件を満たすバイタル情報8bとが含まれている。このバイタル情報8aと、バイタル情報8bとは、両者を区別して、正規分布の作成やスコアリング基準情報102の作成に用いることができる。
また、バイタル情報8aと、バイタル情報8bとの分類は、バイタル除外基準情報200に含まれる複数の条件について、その選択または組み合わせによって、適宜区別することができる。
即ち、単一のバイタル除外条件だけで、バイタル情報8aと、バイタル情報8bに分類することもできる。また、複数のバイタル除外条件の中から、2つ以上を組み合わせて、各条件を全て満たす情報をバイタル情報8bとし、それ以外の情報をバイタル情報8aとすることも可能である。
また、バイタル情報8は、後述する二次判定基準情報181に基づき、その値が、熱中症であると判定された根拠となった、バイタルサインの値を除外して構成することができる。即ち、バイタル情報8は、熱中症でないと判定された際のバイタルサインの値だけで構成され、熱中症であると判定された際のバイタルサインの値を除いて構成されている。
ここで、必ずしも、バイタル情報8が、二次判定基準情報181に基づき、その値が、熱中症であると判定された根拠となった、バイタルサインの値を除外して構成される必要はなく、そのようなバイタルサインの値を含める態様も考えられる。但し、熱中症の判定の精度が向上する点から、バイタル情報8が、二次判定基準情報180に基づき、その値が、熱中症であると判定された根拠となった、バイタルサインの値を除外して構成されることが好ましい。
また、バイタルサインの値を計測するバイタル測定器21は、特に限定されるものではなく、深部体温、表層体温、脈拍が測定可能であれば充分である。但し、熱中症判定装置1を、作業中の対象者における熱中症の判定に利用することを考慮した場合、体に装着したままバイタルサインの値が測定できるウェアラブル形式の測定器が採用される必要がある。
バイタル情報8(バイタル情報8a)は、幅広くは1秒ごとのバイタル情報8を記録可能に構成されている。また、バイタル情報8は、例えば、1分ごと、1時間ごと等、異なる時間間隔で記録するように設定することもできる。
また、バイタル情報8(バイタル情報8a)は、一定間隔ごとの測定ではなく、不規則な時間で測定した測定値を記録する構成も採用しうる。また、この不規則な測定の場合、例えば、30分間に少なくとも4個分のバイタル情報8を取得する、1時間に少なくとも4個分のバイタル情報8を取得する、1日に少なくとも4個分のバイタル情報8を取得する、1週間に少なくとも4個分のバイタル情報8を取得する等、一定の期間で、少なくとも4個のバイタル情報8(バイタル情報8a)を記録する構成としてもよい。
更に、バイタル情報8(バイタル情報8a)は、一定間隔、又は、不規則な間隔に関わらず、蓄積したバイタル情報の中から、ランダムに少なくとも4個分のデータを抽出して、「4個分の測定データのバイタル情報8」として記録することもできる。
このように、バイタル情報8(バイタル情報8a)は、時間の長さや測定間隔の規則性の有無に関わらず、少なくとも4個分の測定データを記録可能に構成されている。
また、少なくとも4個分のバイタル情報8(バイタル情報8a)の測定データは、例えば、(1)定時(午前10時)にバイタルサインの値を測定して、これを4日分以上取得して、基準の算出等に利用することができる。また、例えば、(2)同日の各時間帯(午前8時、9時、10時、11時~)の1時間ごとに測定して、4回分以上取得して、基準の算出等に利用することができる。
また、情報記録部4には、対象者がバイタル情報の測定及び取得を行う目安となる時刻の情報である目安時刻情報9が記録可能となっている。目安時刻情報9は、例えば、1分毎、2分毎、5分毎、10分毎、30分毎、1時間毎等の設定が可能である。また、バイタル測定器21は、目安時刻情報9で設定された時間に基づき、対象者のバイタルサインを測定するように制御可能に構成されている。
また、目安時刻情報9に基づき、複数のバイタル測定器21の測定を制御することができる。この目安時刻情報9は、自由に設定及び修正することができる。
後述するが、基準算出手段及びスコアリング処理手段によるスコアリング条件の算出や、このスコアリング条件の算出に利用するバイタル平均値、バイタル標準偏差の算出の処理において利用する一定のデータ数(少なくとも4個分)が記録されていれば、バイタル情報の記録回数は限定されるものではない。また、バイタル情報8が毎秒、毎分、毎時、毎日等、一定間隔で常に記録される必要はなく、バイタル情報8が記録されない時が存在してもよい。ここで、同一個体の個体内変動を適切に捉える観点から、幅広くは1秒ごとのバイタル情報を記録する態様がよく、1日に1回~24回のバイタル情報が記録される構成であってもよい。
また、必ずしも、情報記録部4に目安時刻情報9が記録される必要はない。例えば、管理端末9とは別の外部サーバが、バイタル測定器21を制御する構成とすることも可能である。
図4に示すように、情報記録部4には、対象者に対してバイタル測定器21が継続的に測定するバイタルサインの値に対して、一次判定を行う際の基準の情報となる一次判定基準情報180と、二次判定を行う際の基準の情報となる二次判定基準情報181が記録されている。また、ここでいう二次判定が、対象者が熱中症を発症しているか否かについての判定となる。
なお、一次判定基準情報180及び二次判定基準情報181の内容に基づく複数の判定方法の詳細については後述する。
また、情報記録部4には、一次判定の判定結果の情報、及び、二次判定の判定結果の情報が、対象者を識別する情報に紐づいて、判定の根拠となった情報(判定の基準、バイタルサインの値、合計スコア値の値等)と共に、判定結果情報182として記録されている。
図4に示すように、情報記録部4には、一次判定基準情報180及び二次判定基準情報181の1つである第1の閾値情報183が記録されている。第1の閾値情報183は、対象者の深部体温の測定値から算出される平均値μ1の値と、標準偏差σ1の値に基づき算出される第1の閾値(μ1+2σ1)を内容とする情報である。
また、情報記録部4には、二次判定基準情報181の1つである第2の閾値情報184が記録されている。第2の閾値情報184は、ある判定日において、その前日までの各測定日における深部体温の最高値についての平均値μ2の値と、標準偏差σ2の値に基づき算出される第2の閾値(μ2+2σ2)を内容とする情報である。
また、情報記録部4には、二次判定基準情報181の1つである第3の閾値情報185が記録されている。第3の閾値情報185は、対象者の深部体温の測定値から算出される平均値μ1の値と、標準偏差σ1の値に基づき算出される第3の閾値(μ1+3σ1)を内容とする情報である。なお、第1の閾値、第2の閾値及び第3の閾値の算出については後述する。
図4に示すように、情報記録部4には、入力される各バイタル情報をスコアリング処理手段100でスコアリングする際の基準となる基準域条件220及びスコアリング基準情報102が記録されている。また、情報記録部4には、スコアリング基準情報102に基づきスコアリングされた結果の数値の情報であるスコア値情報103が記録されている。
なお、基準域条件220とは、スコアリング基準情報102となる数値範囲である。
また、情報記録部4には、入力されたバイタル情報の内容から得られた、複数のバイタルサインからスコアリングされた各スコア値情報103の合計点(合計スコア値)を判定する際の基準となるスコア判定基準情報18が記録されている。なお、本発明では、スコア判定基準情報18の一例として、「合計スコア値が2点以上である」という内容を設定している。
この、スコア判定基準情報18は、二次判定基準情報181の1つである。また、バイタル情報8として、表層体温及び脈拍のみを用いて熱中症の判定を行う場合には、スコア判定基準情報18は、一次判定基準情報180及び二次判定基準情報181となる。
後述するスコアリング基準情報102及びスコア判定基準情報18は、管理端末3の入力部3aを介して情報の追加や修正が可能となっている。また、各スコアリング基準情報102は管理端末3の表示部3bを介して、その内容を確認可能となっている。なお、基準設定手段101における各基準の詳細な内容は後述する。
情報記録部4には、判定処理手段6が、複数のバイタルサインからスコアリングされた各スコア値情報103の合計点の情報である合計スコア値情報12が記録されている。
また、情報記録部4では、バイタル情報8として、バイタル情報の測定及び取得に関して、再度の測定等を行った際のバイタル情報及び測定時の日付の情報である再測定バイタル情報13が記録可能となっている。
再測定バイタル情報13とは、入力されたバイタル情報が、バイタル除外基準情報200として設定された、バイタル除外条件を満たす際に、バイタル情報の正確性を確認するために行った再度の計測のバイタル情報である。
ここで、必ずしも、情報記録部4において、再測定バイタル情報13が記録可能とされる必要はない。但し、バイタル情報の正確性を担保することに繋がる点や、再測定バイタル情報13を用いて、バイタル測定が正確であったか否かを検証可能となる点から、情報記録部4において、再測定バイタル情報13が記録可能とされることが好ましい。
図4に示すように、情報記録部4には、問診情報500と、問診結果情報501が記録されている。問診情報500は、判定処理部6が、二次判定において、対象者に「警告」の判定がなされた場合に、対象者の体調に異常が生じているかどうかを確認するための問診の情報である。また、問診結果情報501は、問診情報500に対して、対象者が回答した結果の情報、または、対象者を観察した観察者(例えば、作業管理者)が確認した結果の情報である。
[3.基準算出手段]
基準算出手段5について説明する。基準算出手段5は、本発明を適用したソフトウェアが演算部2に実行させる機能の1つであり、情報記録部4に記録されるバイタル情報について、一次判定基準情報180及び二次判定基準情報181を算出するための処理を行う部分である。
より詳細には、基準算出手段5は、情報記録部4に記録されるバイタル情報8について、第1の閾値情報183、第2の閾値情報184、及び、第3の閾値情報185の算出や、これらの算出に利用するバイタル平均値、バイタル標準偏差の算出の処理を行う。
また、基準算出手段5は、情報記録部4に記録されるバイタル情報8について、スコア値情報103を算出するためのスコアリング基準情報102となる数値範囲(基準域条件220)の算出や、このスコアリング基準情報102となる数値範囲の算出に利用するバイタル平均値、バイタル標準偏差の算出の処理を行う。
熱中症判定装置1においては、深部体温、表層体温、及び、脈拍の測定値について、基準域条件220がスコアリングの際の基準となる。
演算部2を基準算出手段5として機能させて算出又は記録された各種の情報は、タブレット端末3の入力部3aを介して情報の追加や修正が可能となっている。また、演算部2を基準算出手段5として機能させて算出又は記録された各種の情報はタブレット端末3の表示部3bを介して、その内容を確認可能となっている。
図4には本発明を適用したソフトウェアが演算部2に実行させる機能を記載している。演算部2は、基準算出手段5を構成する平均値算出手段14、標準偏差算出手段15、正規分布算出手段16、基準設定手段101、バイタル除外基準設定手段110として機能する。
また、平均値算出手段14及び標準偏差算出手段15は、情報記録部4に記録されたバイタル情報8(または再測定バイタル情報13)に基づき、所定の条件下の記録情報から、同条件下の「バイタル情報の平均値」と、同条件下のバイタル情報を統計した分布における「バイタル情報の標準偏差」を、それぞれ算出する。なお、以下では、特別な算出を行う種類の平均値や標準偏差の名称を指す場合以外には、バイタル情報の平均値を「バイタル情報平均値」と呼び、また、バイタル情報の標準偏差を「バイタル情報標準偏差」と呼ぶものとする。なお、所定の条件については後述する。
また、本発明では、深部体温、表層体温及び脈拍の各バイタルサインについて、平均値算出手段14及び標準偏差算出手段15に基づき算出されたバイタル情報平均値をピーク値とする正規分布が、それぞれ作成される。
なお、平均値算出手段14及び標準偏差算出手段15は、情報記録部4に記録されたバイタル情報8a(深部体温、表層体温、脈拍の測定値)(または再測定バイタル情報13a)に基づき、バイタル除外基準情報200として設定されたバイタル除外条件下の記録情報から、「除外後のバイタル情報の平均値」と、同条件下のバイタル情報を統計した分布における「除外後のバイタル情報の標準偏差」を、それぞれ算出することも可能である。
平均値算出手段14及び標準偏差算出手段15の算出の際に採用される「所定の条件」は、通常、判定日を起点に、判定日の前日までの測定値における少なくとも4個分のバイタル情報8(深部体温、表層体温、脈拍の測定値)を利用する方法が採用されている。
また、少なくとも4個分のバイタル情報8は、同一の対象者における(1)全ての測定値を含む場合、(2)一定時間おき(例えば、1時間おき)の測定値のみを含む場合、(3)各測定日の最高値のみ、または、各測定日の平均値のみを含む場合の各パターンが採用しうる。
ここで、少なくとも4個分の設定は、上述したように、幅広くは1秒ごとに測定したバイタル情報のデータであり、この他にも、1分ごと、数分ごと、1時間ごと、1日ごと、1か月ごとに測定したバイタル情報のデータのように、時間の長さが異なるものが採用しうる。また、不規則に取得されたデータを、過去4個分抽出するようにしてもよい。この際、単純に、取得された順番を遡るように4個分抽出する方法でもよい。また、不規則に取得されたデータに対して、何等かの抽出条件を設定して4個分抽出する方法でもよい。抽出条件は、例えば、所定の1時間の範囲内から4個分抽出するとの条件や、バイタル情報同士の取得時間の間隔が、一定の条件を満たす(間隔が最低5分以上ある、又は、間隔が1時間以内である等)条件も考えられる。更に、一定間隔で規則的に測定したバイタル情報8に対して、ランダムに、4個分のバイタル情報8を選択して抽出する方法であってもよい。少なくとも4個分の抽出条件は、必要に応じて、適宜設定可能である。どのような取り方をしても、少なくとも4個分のバイタル情報8が抽出できれば、個体内変動を反映した正規分布が得られ、スコアリング基準情報102(基準域条件220)に利用することができる。
また、少なくとも4個分のバイタル情報8は、ある判定日における「判定日の前日までの測定値」を用いる場合と、ある判定日における「同判定日に記録した測定値」を含める場合の各パターンが採用しうる。また、「同判定日に記録した測定値」は、判定対象の測定値を含める場合と、判定対象の測定値を含めない場合の両方が採用しうる。
また、上述したように、バイタル情報8として、幅広くは1秒ごとのバイタル情報8を記録可能に構成されている。また、バイタル情報8は、例えば、1分ごと、1時間ごと等、異なる時間間隔で記録するように設定することもできる。更に、不規則に、1日に複数回測定したバイタル情報が記録可能に構成されている。演算部2が平均値算出手段14及び標準偏差算出手段15として機能して、バイタル平均値及びバイタル標準偏差を算出する際には、適宜、設定した条件で、バイタル平均値及びバイタル標準偏差を算出することができる。例えば、4個分のバイタル情報を抽出する条件が設定されていれば、抽出した4個分のバイタル情報から、バイタル平均値及びバイタル標準偏差を算出することができる。
また、平均値算出手段14及び標準偏差算出手段15は、入力された対象者のバイタル情報に基づく一次判定及び二次判定の判定時点において、都度、その判定日より前日に記録されたバイタル情報8を参照して、その判定日のバイタル情報平均値及びバイタル情報標準偏差の算出を行う。これにより、判定処理手段6(又はスコアリング処理手段100)が利用する基準が、判定日ごとに改められるものとなり、各バイタルサインのバイタル情報に基づく、熱中症の判定に、対象者のバイタル情報の個体内変動を反映しやすいものとなる。
また、バイタル情報8を利用する個数が4個分以上の数であり、更に多い数、例えば、10個、30個、90個以上等、より多くの数のバイタル情報を利用する構成であってもよい。なお、個体内変動を捉えるための最低の個数として、4個分以上のデータ数となることが好ましい。
また、バイタル情報8(深部体温、表層体温、脈拍)に基づき正規分布を算出する際に、利用するバイタル情報8を取得した期間としては、少なくとも4個分のデータ数が収集できれば特に限定されるものではない。ここで本発明では、正規分布を作成するための期間として、例えば、1週間、30日分、90日分、1年分、または、測定を行った全期間のバイタル情報8を採用することが可能である。このように、1週間、30日分、90日分、1年分、または、測定を行った全期間を採用することで、対象者のバイタル情報8として、まとまった量の情報が反映された、より対象者の個体内変動を細かく捉えた正規分布を算出することが可能となる。
この平均値算出手段14及び標準偏差算出手段15の算出の際に採用する「所定の条件」として、例えば、「90日間」を採用した場合には、この算出期間は、例えば、図5に示すような時間経過とともに90日間の範囲が1日ずつ移動する設定にすることができる。即ち、ある測定日(判定日)における算出に利用する90日の期間は、その測定日を含めず、測定日の91日前から測定日の1日前までの範囲(符号A)で示すものとなる。また、1日前の日に行う判定では、算出に利用する90日の期間は、1日前の日の測定を含めず、測定日の92日前から2日前までの範囲(符号B)で示すものとなる。このように、「所定の条件」の90日間の範囲は、時間の経過(符号Tの矢印の方向)と共に、1日ずつ移動する設定とすることができる。この点は、異なる時間の長さ(例えば、数分、数時間、1日の中)で、4個分のデータ数として利用する場合にも同様である。
また、平均値算出手段14及び標準偏差算出手段15の算出の際に採用される「所定の条件」は、必ずしも連続した日付(個数)で計測されたバイタル情報である必要はない。例えば、対象者がバイタル測定を行っていない日(タイミング)があり、バイタル情報の記録がない日(タイミング)が存在するケースでは、所定の条件の日数(個数)が「合計で4日(4個分)」となるものであってもよい。
例えば、図6の符号A(黒丸の図形)で示すように、毎日継続して測定した結果について、1日のうちの、午前と午後の2回のバイタル情報を利用して、全ての情報を平均値算出手段14及び標準偏差算出手段15の算出に利用することもできる。
ここで、本発明では、設定した個数分のバイタル情報のデータ数が揃うのであれば、必ずしも、毎秒、毎分、毎時、毎日等、連続的に取得されたバイタル情報である必要はない。図6の符号B(バツの図形)や、符号C(白抜き三角)で示すバイタル情報のように、バイタル情報を取得した日(タイミング)が非連続的であり、数日(数回)に1回取得される態様であってもよい。更には、連続的なバイタル情報の記録が存在した状態で、設定した条件に基づいて部分的に抽出する態様であってもよい。設定した条件とは、例えば、毎週月曜日のバイタル情報のみ抽出する、午前中に取得したバイタル情報のみ抽出する、指定した日付のみ抽出するといったような内容である。
また、本発明では、バイタル情報8を取得して、基準の設定(μ±nσ)や、正規分布を作成する際には、例えば、(1)バイタルサインの値の測定時間に関わらず、基準の設定、及び、正規分布を作成し、判定に利用するケースと、(2)バイタルサインの値の測定時間の時間帯ごとに、基準の設定、及び、正規分布を作成し、判定に利用するケースが採用しうる。
ここで、(1)バイタルサインの値の測定時間に関わらず、基準の設定、及び、正規分布を作成し、判定に利用するケースでは、基準の設定、及び、正規分布の作成が、短時間で行えるという利点が生じる。
また、(2)バイタルサインの値の測定時間の時間帯ごとに、基準の設定、及び、正規分布を作成し、判定に利用するケースとは、例えば、同じ対象者について、それぞれの時間帯ごとに、基準の設定、及び、正規分布の作成(例:8時帯の分布、9時帯の分布、10時帯の分布等)を作成し、熱中症の判定に利用する。このケースでは、基準の設定、及び、正規分布が作成可能となるまでの期間が長くなるが、対象者のバイタルサインが日内変動することに対して、各時間帯で、基準を設定し、及び、正規分布の作成が可能となるため、日内変動の影響も含めた上での、熱中症の判定が可能となる。
正規分布算出手段16は、所定の条件におけるバイタル情報の平均値及び標準偏差から正規分布を算出する部分である。対象者の各判定時点における正規分布を算出可能であり、算出した正規分布は、第1の閾値情報183、第2の閾値情報184、及び、第3の閾値情報185の算出や、スコアリング基準情報102となる数値範囲(基準域条件220)の算出に利用される。また、確立密度関数をグラフ化した正規分布曲線が作成され、この正規分布曲線がタブレット端末3の表示部3bに表示できるように構成されている。
基準設定手段101は、平均値算出手段14及び標準偏差算出手段15と連動して、各算出部から算出されたバイタル平均値及びバイタル標準偏差に基づき、判定処理手段6が一次判定又は二次判定に用いる第1の閾値情報183、第2の閾値情報184、及び、第3の閾値情報185を作成する。作成された第1の閾値情報183、第2の閾値情報184、及び、第3の閾値情報185は情報記録部4に記録される。
より詳細には、基準設定手段101は、平均値算出手段14、標準偏差算出手段15、正規分布算出手段16と連動して、対象者から測定された深部体温の測定値に対して、各算出手段から算出されたバイタル平均値及びバイタル標準偏差に基づき、一次判定又は二次判定に用いる第1の閾値(μ1+2σ1)、第2の閾値(μ2+2σ2)、及び、第3の閾値(μ1+3σ1)を作成する。
ここで、第1の閾値(μ1+2σ1)は、同一の対象者から測定した深部体温の値の平均μ1をピーク値とした正規分布に基づき設定されるものである。また、第1の閾値は、同一の対象者から測定した深部体温の値の平均μ1及び標準偏差σ1から算出される。
また、この正規分布を作成するための、同一の対象者における個々の深部体温の値は、(1)全ての測定値を含む場合、(2)一定時間おき(例えば、1時間おき)の測定値のみを含む場合、(3)各測定日の最高値のみ、または、各測定日の平均値のみを含む場合、(4)各判定時に第1の閾値(μ1+2σ1)を超えた(または以上)値のみを含む場合、(5)各判定時に閾値(μ1+3σ1)を超えた(または以上)値のみを場合の各パターンが採用しうる。
ここで、本発明における正規分布を作成するための深部体温の値は、上記の各パターンのいずれもが採用しうる。但し、情報記録部4に記録するデータの容量を減らせる観点から、(2)一定時間おきの測定値のみを含む場合、または、(3)各測定日の最高値のみ、または、各測定日の平均値のみを含む場合のパターンが採用されることが好ましい。
また、本発明における正規分布を作成するためのバイタルサインの測定値は、データ量の抑制の観点から、以下のような取得方法を採用することができる。例えば、バイタル情報8(またはバイタル情報8a)について、正規性が取れるだけの一定のデータ(正規分布が作成しうるデータ)が、情報記録部4に記録されたら、その後のデータの記録は、所定の取得条件を設定して、記録の対象とするデータの量を抑制することができる。
また、所定の取得条件とは、特に限定されるものではないが、例えば、対象者の深部体温を経時的に測定する際に、1時0分の測定データ、2時0分の測定データ、3時0分の測定データのみを、情報記録部4に記録するといったように、決まった時間の測定データのみを記録し、これをその後の基準の設定、及び、正規分布の作成に利用することで、データ量を抑制することが可能となる。
また、本発明における正規分布を作成するための深部体温の値が、(3)各測定日の最高値のみを含む場合、(4)各判定時に第1の閾値(μ1+2σ1)を超えた(または以上)値のみを含む場合、(5)各判定時に閾値(μ1+3σ1)を超えた(または以上)値のみを場合の各パターンの場合、正規分布を構成する値が大きくなり、深部体温が顕著に上昇した状態、即ち、深刻な体調異常が生じている状態を精度高く検知することが可能となる。
また、この正規分布を作成するための、同一の対象者における個々の深部体温の値は、情報記録部4に記録された、ある判定日における「判定日の前日までの測定値」を用いる場合と、ある判定日における「同判定日に記録した測定値」を含める場合の各パターンが採用しうる。また、「同判定日に記録した測定値」は、判定対象の測定値を含める場合と、判定対象の測定値を含めない場合の両方が採用しうる。
ここで、本発明における正規分布を作成するための深部体温の値は、上記の各パターンのいずれもが採用しうる。但し、判定日当日の対象者の体調不良等の影響を排除する点からは、「判定日の前日までの測定値」を用いることが好ましい。
さらに、この正規分布を作成するための、同一の対象者における個々の深部体温の値は、(1)全ての測定値を含む場合、(2)判定処理手段6により「注意」または「警告」の判定の対象となった測定値を除外する場合、(3)各判定時に第1の閾値を超えた(または以上)値を除外する、または、各判定時に閾値(μ1+3σ1)を超えた(または以上)値を除外する場合、(4)バイタル除外基準情報200の条件を満たす測定値を除外する場合、(5)問診結果情報501に異常があった日の測定値を除外する場合の各パターンが採用しうる。
また、第2の閾値は、同一の対象者から測定した、ある判定日の前日までの、深部体温の各測定日の最高値の平均μ2をピーク値とした正規分布に基づき設定されるものである。また、第2の閾値は、同一の対象者から測定した、ある判定日の前日までの、深部体温の各測定日の最高値の平均μ2及び標準偏差σ2から算出される。
また、最高値の算出に用いられる日数は、適宜設定することができ、例えば、ある判定日の前日を基準にして、過去の全ての測定日の各最高値、過去7日間の測定日の各最高値、過去1か月間の測定日の各最高値等を採用することができる。
また、第3の閾値(μ1+3σ1)は、第1の閾値と同様に、同一の対象者から測定した深部体温の値の平均μ1をピーク値とした正規分布に基づき設定されるものである。また、第1の閾値は、同一の対象者から測定した深部体温の値の平均μ1及び標準偏差σ1から算出される。
また、基準設定手段101は、平均値算出手段14及び標準偏差算出手段15と連動して、各算出部から算出されたバイタル平均値及びバイタル標準偏差に基づき、スコアリング処理手段100がスコアリングに用いるスコアリング基準情報102、基準域条件220を作成する。作成されたスコアリング基準情報102、基準域条件220は情報記録部4に記録される。
より詳細には、基準設定手段101は、平均値算出手段14、標準偏差算出手段15、正規分布算出手段16と連動して、対象者から測定された深部体温、表層体温、及び脈拍の測定値に対して、各算出手段から算出されたバイタル平均値及びバイタル標準偏差に基づき、スコアリングに用いるスコアリング基準情報102、基準域条件220を作成する。
[4.スコアリング処理手段]
スコアリング処理手段100について説明する。スコアリング処理手段100は、本発明を適用したソフトウェアが演算部2に実行させる機能の1つであり、入力された判定時点のバイタル情報8について、平均値算出手段14、標準偏差算出手段15の処理情報や、予め設定した基準を含むスコアリング基準情報102、基準域条件220に基づき、バイタル情報の内容に応じたスコア値情報103(点数の情報)、複数のバイタルサインの各スコア値情報の合計点を算出する処理を行う。
スコアリング処理手段100にて算出されたスコア値情報103及び各スコア値情報の合計点は、上述したように、情報記録部4に記録される。その際、スコア値情報103及び各スコア値情報の合計点は、個体を識別可能な識別情報や、スコア値の算出基準となった情報に紐付けられて記録される。スコアリング処理手段100は、情報記録部4及び基準算出手段5と連動して、スコア値情報103及び各スコア値情報の合計点を算出するように構成されている。
また、スコア値情報103及び各スコア値情報の合計点は、管理端末3の表示部3bを介して、その内容を確認可能となっている。また、スコア値情報103及び各スコア値情報の合計点は、外部のサーバや、スマートフォン端末70及び71に合計スコア値情報12を送信して、これらの画面等でも確認することもできる。
[5.判定処理手段]
判定処理手段6について説明する。判定処理手段6は、本発明を適用したソフトウェアが演算部2に実行させる機能の1つであり、入力された判定時点のバイタル情報に対して、一次判定基準情報180又は二次判定基準情報181に基づき、判定基準を満たすか否かの判定の処理を行う。
判定処理手段6にて判定された判定結果である「注意」又は「警告」の判定は、情報記録部4に記録される。また、これらの情報は管理端末3の表示部3bを介して、その内容を確認可能となっている。また、同情報を、外部のサーバや、スマートフォン端末70及び71に送信して、これらの画面等でも確認することもできる。
また、「注意」又は「警告」の判定は、アラート通知手段120(図4参照)を介して、「注意」又は「警告」が出されたことを通知する通知音やメールメッセージで、対象者、または、作業管理者に通知される構成となっている。
また、アラート通知手段120は、例えば、二次判定の内容につき、「警告」の結果となった際にのみ、警報を通知する設定とすることができる。これにより、対象者が熱中症であると判定された場合にだけ、対象者本人や、外部(作業管理者)に警報が通知されるものとなり、異常検知の精度を高めつつ、不用意に警報が通知されない仕組みとすることができる。
続いて、バイタル測定器21から管理端末3へ情報を送信する構成について説明する。
例えば、図7に示すように、バイタル情報の取得は、ウェアラブル型のバイタル測定器21で行い、これらで計測した測定値を、測定した時間の情報と共に、管理端末3に送信する態様が考えられる。
また、図7に示すように、バイタル測定器21で測定した測定値等の情報を、対象者の有するスマートフォン端末70に送信して、スマートフォン端末70を介して、管理端末3に送信する態様が考えられる。
[6.バイタル平均値等の算出、スコアリング及び判定について]
バイタル情報8における深部体温の値は、上述したように、第1の閾値(μ1+2σ1)、第2の閾値(μ2+2σ2)、及び、第3の閾値(μ1+3σ1)の算出に用いられる。
また、バイタル情報8(深部体温、表層体温、脈拍)は、バイタルサインの測定値をスコアリングする際の基準域条件220の算出に用いられる。基準域条件220は、例えば、バイタル平均値情報及びバイタル標準偏差に基づき、「μ±nσ以内」として設定される。この基準域条件220は、スコアリング基準情報102の1つである。
バイタル平均値、バイタル標準偏差及びこれらに基づく第1の閾値情報183、第2の閾値情報184、及び、第3の閾値情報185、スコアリング基準情報102及び基準域条件220の設定方法として、情報記録部4に記録されたバイタル情報8をバイタル平均値等の算出に利用する方法が挙げられる。本方法では、バイタル平均値とバイタル情報の分布に基づく標準偏差は、平均値算出手段14及び標準偏差算出手段15において、以下の式(3)及び式(4)を用いて算出される。
μ=(1/N)×ΣSi・・・式(3)
σ=√((1/N)×Σ(Si-μ)2)・・・式(4)
ここでμはバイタル情報の平均値、Siは各バイタル情報の計測値、Nは全バイタル情報のデータ数であり、σは標準偏差である。ΣSiは、全バイタル情報の計測値の合計を示す。また、各バイタル情報の計測値とは、上述したように、設定した所定の条件で取得したバイタル情報の値である。なお、ここでいう全バイタル情報の内容は、上述したように、情報記録部4に記録された情報の一部を抽出するものであってよい。
ある一次判定又は二次判定の判定時点において、対象者の熱中症の有無を判定する際には、判定日の前日までの計測値であり、情報記録部4に記録された同一の対象者のデータから、上記の式(3)、式(4)を用いて、バイタル平均値μ、バイタル標準偏差σが算出される。
続いて、基準設定手段101が、以下の式(1)で表される値を、第1の閾値情報183として、以下の式(2)で表される値を、第2の閾値情報184として、さらに、以下の式(3)で表される値を、第3の閾値情報185として利用する。
μ1+2σ1・・・式(1)
μ2+2σ2・・・式(2)
μ1+3σ1・・・式(3)
入力されたバイタルサインの測定値に対する第1の閾値情報183、第2の閾値情報184、及び、第3の閾値情報185は、判定日の前日までの測定値から算出されたバイタル平均値、バイタル標準偏差により、各判定日ごとの基準が設定される。また、深部体温、表層体温、及び、脈拍の測定値は、正規分布に従うバイタルサインであり、算出された第1の閾値情報183、第2の閾値情報184及び、第3の閾値情報185は、対象者の個体内変動が反映された基準であり、かつ、その対象者の正規分布に基づき設定された基準となる。そのため、対象者の体調の変動を正確に捉えることが可能な指標となる。
また、基準設定手段101が、以下の式(4)で表される値を、基準域条件220として利用する。
μ±nσ・・・式(4)
ここでnは0より大きい数である。
基準域条件220では、上記の式(4)で表された値と、所定のスコア値情報103、即ち、0点~2点の点数の情報が組み合わされている。基準域条件220、スコアリング基準情報102と、スコア値情報103との組み合わせは、下記の表2に示す通りである。
なお、表2において、「-2σ」は、「μ-2σ」の値であり、「+3σ」は、「μ+3σ」の値であり、「+2σ」は、「μ+2σ」の値を意味している。また、μ及びσは、所定の条件(例えば4個分のバイタル情報8)で測定された各バイタルサインの測定値から算出される値である。
表2に示すように、深部体温、表層体温、及び、脈拍の測定値について、その内容に基づいて、0点~2点の各スコア値にスコアリングする際には、上記の「μ±2σ及びμ+3σ」の値が利用されている。
より詳細には、入力されたバイタルサインの測定値が、その判定時点において算出されたバイタル平均値及びバイタル標準偏差において、「μ-2σ超(以上)~μ+2σ未満(以下)」の値であれば0点のスコア、「μ+2σ以上(超)~μ+3σ未満(以下)」の値であれば1点のスコア、「μ+3σ以上(超)」の値であれば2点のスコアとなる。
入力されたバイタルサインの測定値に対するスコアリングは、判定日の前日までの測定値から算出されたバイタル平均値、バイタル標準偏差により、各判定日ごとの基準が設定される。また、深部体温、表層体温、及び、脈拍の測定値は、正規分布に従うバイタルサインであり、算出された基準域条件220は、対象者の個体内変動が反映された基準であり、かつ、その対象者の正規分布に基づき設定された基準となる。そのため、対象者の体調の変動を正確に捉えることが可能な指標となる。
なお、表2で示すスコア値情報103の配点の内容は一例であり、必ずしも表2の内容に限定されるものではなく、各範囲とスコア値情報103の配点は適宜設定変更が可能である。
また、必ずしも、基準域条件220として「μ±2σ及びμ+3σ」の条件が設定される必要はなく、「2σ及び3σ」以外の数値が採用されてもよい。但し、「μ±2σ」の範囲には、通常、対象者のバイタルサインの約95%が含まれるため、「正常なバイタルの範囲(対象者の通常のバイタルの範囲)」と位置付けた基準にしやすい範囲である。そのため、基準域条件220の代表的な設定事例として、「μ±2σ」の条件が設定されることが好ましい。
また、表2に示すスコアリング基準情報102では、スコア値情報103は0点から2点の範囲で設定されているが、必ずしもこの範囲に限定される必要はない。例えば、スコア値情報を0点、1点、2点及び3点の範囲でスコアリングする設定に変更することも可能である。更には、3点より大きな数値を採用することも可能である。スコア値情報103を変更する場合、これに合わせて基準域条件220及びスコアリング基準情報102を適宜設定可能であることは言うまでもない。
また、スコア判定基準情報18は、複数のバイタルサインからスコアリングされた各スコア値情報103の合計点(合計スコア値)が2点以上であるという基準として設定されている。ここでの複数のバイタルサインとは、後述する判定の内容にあっては、「深部体温のスコア値と、脈拍のスコア値」または「表層体温のスコア値と、脈拍のスコア値」の組み合わせが利用される。
ここで、必ずしも、スコア判定基準情報18として、合計スコア値が2点以上に限定される必要はなく、点数の設定は、基準域条件220の変更に合わせて、適宜変更することが可能である。
各バイタルサインの種類ごとに、0点~2点のスコア値情報103が算出され、各スコア値情報103から、スコアリング処理手段100がスコア値情報103の「合計点」を算出する。
そして、判定処理手段6は、各バイタルサインのスコア値情報103の合計点が、2点以上となる場合には、スコア値に関する条件を満たすと判定する。この判定結果は、一次判定又は二次判定の条件の1つとして利用される。
続いて、バイタル情報に対する具体的な判定(一次判定及び二次判定)の内容について説明する。
本発明を利用した熱中症判定装置1では、対象者から測定したバイタルサインの値に基づき、対象者が熱中症であるか否かを判定することができる。
また、熱中症判定装置1は、対象者が「熱中症となっている」と判定した場合に「警告」を通知する構成となっている。また、「警告」を通知する前段階の状態について「注意」を通知する構成となっている。
この「警告」または「注意」が検知された状態は、管理端末3の演算部2をアラート通知手段120として機能させ、管理端末3の表示部3b、外部端末、または、対象者が所有するスマートフォン端末70に向けて、音声やメッセージ等で通知可能となっている。
また、アラート通知手段120により警告が通知された状態は、後述する「警告解除までの流れ」を経て、管理端末3等に表示された警告の状態が解除されるように構成されている。
以下、「警告」が通知されるまでの複数の態様をそれぞれ説明する。
[A.深部体温の正常域条件に基づく判定]
本態様は、対象者の深部体温の測定値に対して、各測定値が正常域条件の第1の閾値(μ1+2σ1)を超えた場合に、判定処理手段6が、「注意」または「警告(熱中症である)」と判定する態様である。
より詳細には、ある判定日において、バイタル測定器21により、同一の対象者における深部体温を継続的に測定して、その測定値が、正常域条件の第1の閾値(μ1+2σ1)を超えた場合に、一次判定で正常域条件を満たすとして、判定処理手段6が「注意」の判定を行う。
また、一次判定で「注意」の判定がなされ、一次判定の対象となった深部体温の測定時刻から少なくとも5分以上が経過したタイミングで、バイタル測定器21により、対象者の深部体温を測定する(一次判定後の測定)。ここで、一次判定後の測定において、深部体温の測定値が、正常域条件の第1の閾値(μ1+2σ1)を超えた場合に、二次判定で正常域条件を満たすとして、判定処理手段6が「警告(熱中症である)」の判定を行う。
即ち、同一の対象者について、一次判定及び二次判定で継続して、深部体温の値が正常域条件の第1の閾値(μ1+2σ1)を超えている状態を捉えることで、対象者の深部体温が基準域(対象者が正常な状態とみなせる範囲)に戻らない状態であると判断している。即ち、熱中症であるとの判定をする。本態様は、熱中症判定装置1による最も基本的な判定の方法である。
また、一次判定後の測定において、深部体温の測定値が、正常域条件の第1の閾値(μ1+2σ1)以下の場合、二次判定で正常域条件を満たさないため、判定処理手段6は「警告」の判定はなされない。また、対象者における深部体温の継続的な測定が行われる。
ここで、判定の基準となる正常域条件の第1の閾値(μ1+2σ1)は、同一の対象者から測定した深部体温の値の平均μ1をピーク値とした正規分布に基づき設定されるものである。また、第1の閾値は、同一の対象者から測定した深部体温の値の平均μ1及び標準偏差σ1から算出される。
また、この正規分布を作成するための、同一の対象者における個々の深部体温の値は、(1)全ての測定値を含む場合、(2)一定時間おき(例えば、1時間おき)の測定値のみを含む場合、(3)各測定日の最高値のみ、または、各測定日の平均値のみを含む場合、(4)各判定時に第1の閾値(μ1+2σ1)を超えた(または以上)値のみを含む場合、(5)各判定時に閾値(μ1+3σ1)を超えた(または以上)値のみを場合の各パターンが採用しうる。の各パターンが採用しうる。また、上記の各パターンが採用しうる点は、脈拍に基づく正規分布、および、表層体温に基づく正規分布の作成においても同様である。
ここで、この正規分布を作成するための、同一の対象者における個々の深部体温の値は、情報記録部4に記録された、ある判定日における「判定日の前日までの測定値」を用いる場合と、ある判定日における「同判定日に記録した測定値」を含める場合の各パターンが採用しうる。また、「同判定日に記録した測定値」は、判定対象の測定値を含める場合と、判定対象の測定値を含めない場合の両方が採用しうる。また、上記の各パターンが採用しうる点は、脈拍に基づく正規分布、および、表層体温に基づく正規分布の作成においても同様である。
ここで、本発明における正規分布を作成するための深部体温の値は、上記の各パターンのいずれもが採用しうる。但し、判定日当日の対象者の体調不良等の影響を排除する点からは、「判定日の前日までの測定値」を用いることが好ましい。
さらに、この正規分布を作成するための、同一の対象者における個々の深部体温の値は、(1)全ての測定値を含む場合、(2)判定処理手段6により「注意」または「警告」の判定の対象となった測定値を除外する場合、(3)各判定時に第1の閾値を超えた(または以上)値を除外する、または、各判定時に閾値(μ1+3σ1)を超えた(または以上)値を除外する場合、(4)バイタル除外基準情報200の条件を満たす測定値を除外する場合、(5)問診結果情報501に異常があった日の測定値を除外する場合の各パターンが採用しうる。また、上記の各パターンが採用しうる点は、脈拍に基づく正規分布、および、表層体温に基づく正規分布の作成においても同様である。
また、(4)問診結果情報501に異常があった日の測定値を除外する場合には、複数の問診に対して、その問診結果情報の1つでも異常がある際に、その日の測定値を除外する内容と、複数の問診結果情報の中に、設定した数の異常がある際に、その日の測定値を除外する内容の両方が含まれる。
ここで、本発明における正規分布を作成するための深部体温の値は、上記の各パターンのいずれもが採用しうる。但し、判定処理手段6による判定の精度を向上させる点から、(2)判定処理手段6により「注意」または「警告」の判定の対象となった測定値を除外する場合、(3)バイタル除外基準情報200の条件を満たす測定値を除外する場合、または、(4)問診結果情報501に異常があった日の測定値を除外する場合のパターンが採用されることが好ましい。
また、本態様の一次判定及び二次判定における基準として、必ずしも、正常域条件の第1の閾値(μ1+2σ1)を超える内容が採用される必要はない。例えば、深部体温の測定値が、第1の閾値「以上」となることを基準とすることもできる。
また、本態様の一次判定後の測定のタイミングは、必ずしも、一次判定の対象となった深部体温の測定時刻から少なくとも5分以上が経過した時に限定されるものではない。ここでの5分の時間は、適宜変更することができる。例えば、10分等の時間に設定することも可能である。また、一度上昇した体温は、対象者が安静にしたとしても、平穏時の体温にすぐに戻らないという検証があることから、一次判定後の測定のタイミングとして、一次判定の対象となった深部体温の測定時刻から少なくとも30分以上が経過した時が採用することも可能である。
続いて、上述した「A.深部体温の正常域条件に基づく判定」の更なる態様として、二次判定の条件を追加する態様も考えられる。ここでは、二次判定の条件に、深部体温の測定値が、前日までの各測定日における深部体温の最高値に基づき算出された第2の閾値(μ2+2σ2)を超えることという条件を追加する。
即ち、二次判定では、深部体温の測定値が、「正常域条件の第1の閾値(μ1+2σ1)を超えて」、かつ、「深部体温の最高値に基づき算出された第2の閾値(μ2+2σ2)を超える」場合に、二次判定で条件を満たすとして、判定処理手段6が「警告(熱中症である)」の判定を行う。なお、一次判定は、「A.深部体温の正常域条件に基づく判定」と同様に行う。
即ち、二次判定の条件に、同一の対象者における各測定日の深部体温の最高値で作成した基準が加わることで、偽陽性の検出を減らして、精度高く熱中症であることを捉えることが可能となる。
ここで、判定の基準となる第2の閾値(μ2+2σ2)は、同一の対象者から測定した、ある判定日の前日までの、深部体温の各測定日の最高値の平均μ2をピーク値とした正規分布に基づき設定されるものである。また、第2の閾値は、同一の対象者から測定した、ある判定日の前日までの、深部体温の各測定日の最高値の平均μ2及び標準偏差σ2から算出される。
また、最高値の算出に用いられる日数は、適宜設定することができ、例えば、ある判定日の前日を基準にして、過去の全ての測定日の各最高値、過去7日間の測定日の各最高値、過去1か月間の測定日の各最高値等を採用することができる。
ここで、本発明では、必ずしも、二次判定の条件に、深部体温の測定値が、前日までの各測定日における深部体温の最高値に基づき算出された第2の閾値(μ2+2σ2)を超えることという条件を追加する必要はなく、上述した「A.深部体温の正常域条件に基づく判定」のみでも熱中症の判定は可能である。但し、偽陽性の検出を減らして、熱中症の判定の精度が向上する点から、二次判定の条件に、第2の閾値を用いた基準を採用することができる。
また、二次判定だけでなく、一次判定の条件についても、深部体温の測定値が、前日までの各測定日における深部体温の最高値に基づき算出された第2の閾値(μ2+2σ2)を超えることという条件を追加することも可能である。
続いて、上述した「A.深部体温の正常域条件に基づく判定」の更なる態様として、二次判定の条件を追加する別の態様を説明する。ここでは、二次判定の条件に、深部体温の測定値に対するスコアリングのスコア値と、脈拍の測定値に対するスコアリングのスコア値との「合計スコア値」が2点以上となるという条件を追加する。
即ち、二次判定では、深部体温の測定値が、「正常域条件の第1の閾値(μ1+2σ1)を超えて」、かつ、「深部体温のスコア値と、脈拍のスコア値との合計スコア値が2点以上となる」場合に、二次判定で条件を満たすとして、判定処理手段6が「警告(熱中症である)」の判定を行う。なお、一次判定は、「A.深部体温の正常域条件に基づく判定」と同様に行う。
即ち、二次判定の条件に、深部体温及び脈拍のスコアリングの結果に基づく基準が加わることで、偽陽性の検出を減らして、精度高く、熱中症であることを捉えることが可能となる。
ここで、深部体温及び脈拍に対するスコアリングについては、前述した「スコアリング処理」の内容で行うものである。
また、本態様で、合計スコア値が2点以上になるのは、深部体温のスコア値が1点かつ脈拍のスコア値が1点となる内容に限られない。例えば、深部体温のスコア値が2点(脈拍のスコア値が0点)や、脈拍のスコア値が2点(深部体温のスコア値が0点)となるケースも含まれる。また、後述するように、90日間で、1日の中で1時間おきに測定したバイタルサイン(深部体温または脈拍)の値から算出した閾値(μ+2σ)を基準として、判定時の測定値が基準を超えた場合に、合計スコア値に1点追加した結果、最終的な合計スコア値が2点以上になるケースを含めてもよい。
ここで、本発明では、必ずしも、二次判定の条件に、深部体温の測定値に対するスコアリングのスコア値と、脈拍の測定値に対するスコアリングのスコア値との「合計スコア値」が2点以上となるという条件を追加する必要はなく、上述した「A.深部体温の正常域条件に基づく判定」のみでも熱中症の判定は可能である。但し、偽陽性の検出を減らして、熱中症の判定の精度が向上する点から、二次判定の条件に、深部体温のスコア値と、脈拍のスコア値との合計スコア値に基づく基準を採用することができる。
また、二次判定だけでなく、一次判定の条件についても、深部体温の測定値に対するスコアリングのスコア値と、脈拍の測定値に対するスコアリングのスコア値との「合計スコア値」が2点以上となるという条件を追加することも可能である。
さらに、二次判定の条件として、上述した「深部体温の測定値が、前日までの各測定日における深部体温の最高値に基づき算出された第2の閾値(μ2+2σ2)を超えることという条件」と、「深部体温の測定値に対するスコアリングのスコア値と、脈拍の測定値に対するスコアリングのスコア値との「合計スコア値」が2点以上となるという条件」を併用することも可能である。即ち、二次判定の追加条件として、どちらの条件も設定しておき、いずれか一方/または両方の条件を満たした場合に、判定処理手段6が「警告」と判定する態様にすることもできる。
続いて、上述した「A.深部体温の正常域条件に基づく判定」の更なる態様として、深部体温の値が顕著な上昇を示した際に、「警告」と判定するパターンを説明する。ここでは、深部体温の測定値に対するスコアリングのスコア値について、第3の閾値(μ1+3σ1)を超えた場合に、判定処理手段6が「警告(熱中症である)」の判定を行う。
即ち、基本となる「A.深部体温の正常域条件に基づく判定」の一次判定または二次判定に関わらず、ある判定日における深部体温の測定値が、第3の閾値(μ1+3σ1)を超えたら「警告」と判定するものである。
このように、深部体温の測定値が第3の閾値(μ1+3σ1)を超えた状態は、正規分布に基づく、対象者の深部体温から見て、深部体温が顕著な上昇を示していると考えられるため、そのような場合には、すぐに「警告」の判定がなされるものとする。
なお、第3の閾値(μ1+3σ1)を用いた判定は、上述した「深部体温の測定値が、前日までの各測定日における深部体温の最高値に基づき算出された第2の閾値(μ2+2σ2)を超えることという条件」や、「深部体温の測定値に対するスコアリングのスコア値と、脈拍の測定値に対するスコアリングのスコア値との「合計スコア値」が2点以上となるという条件」と併用することができる。
また、第3の閾値(μ1+3σ1)については、環境中の所定の暑さ指数の数値が一定の条件を満たす際、または、対象者が暑熱順化の状態となる前の状態にある際に、3σ1の数値を、より小さな値に変更して閾値が設定可能に構成されている。
ができる。
ここでは、暑さ指数の数値が一定値以上高くなり、警戒レベルが上がった環境や、対象者が暑熱順化になる前の状態に合わせて、第3の閾値における、3σ1の数値をより小さな値に変更して閾値が設定されるものとなる。また、小さな値への変更は、所定の暑さ指数の内容や、暑熱順化とみなすために設定した期間(一般的には、7~10日間)に応じて、適宜設定することができる。より小さな値に変更とは、適宜設定変更できるが、例えば、「3σ1」を「2.8σ」や「2.5σ」等に変更することができる。
このように、熱中症を判定する基準(基準域)において、1回の測定結果で、熱中症の「警戒」と判定できる「3σ1」の基準を、暑さ指数の数値が一定値以上高くなり、警戒レベルが上がった環境や、対象者が暑熱順化になる前の状態に合わせて、厳しい基準にすることで、熱中症となるリスクの高い対象者に対して、熱中症の判定を、より適切に行うことが可能となる。
続いて、上述した「A.深部体温の正常域条件に基づく判定」の更なる態様として、深部体温の代わりに、表層体温及び脈拍に対するスコアリングを用いる判定について説明する。
本態様は、対象者における、表層体温の測定値に対するスコアリングのスコア値と、脈拍の測定値に対するスコアリングのスコア値との「合計スコア値」が2点以上となるという条件を満たす場合に、判定処理手段6が、「注意」または「警告(熱中症である)」と判定する態様である。
即ち、ある判定日における一次判定において、「表層体温のスコア値と、脈拍のスコア値との合計スコア値が2点以上となる」場合に、一次判定で条件を満たすとして、判定処理手段6が「注意」の判定を行う。
また、一次判定で「注意」の判定がなされ、一次判定の対象となった表層体温(または脈拍)の測定時刻から少なくとも5分以上が経過したタイミングで、バイタル測定器21により、対象者の表層体温及び脈拍を測定する(一次判定後の測定)。ここで、一次判定後の測定における表層体温及び脈拍の測定値に対してスコアリングを行い、「表層体温のスコア値と、脈拍のスコア値との合計スコア値が2点以上となる」場合に、二次判定で条件を満たすとして、判定処理手段6が「警告(熱中症である)」の判定を行う。
即ち、同一の対象者について、一次判定及び二次判定で継続して、表層体温の測定値に対するスコアリングのスコア値と、脈拍の測定値に対するスコアリングのスコア値との「合計スコア値」が2点以上となる状態を捉えることで、対象者の深部体温が基準域(対象者が正常な状態とみなせる範囲)に戻らない状態であると判断している。
ここで、脈拍は深部体温と相関のあるバイタルサインの値であり、脈拍の変動を観察することで、深部体温の変動を捉えることが可能となる。また、本態様では、脈拍に加えて、表層体温の測定値をスコアリングすることで、判定において偽陽性の検出を減らして、精度高く、熱中症であることを捉えることが可能となる。
また、表層体温及び脈拍に対するスコアリングについては、前述した「スコアリング処理」の内容で行うものである。
また、本態様で、合計スコア値が2点以上になるのは、表層体温のスコア値が1点かつ脈拍のスコア値が1点となる内容に限られない。例えば、表層体温のスコア値が2点(脈拍のスコア値が0点)や、脈拍のスコア値が2点(表層体温のスコア値が0点)となるケースも含まれる。また、後述するように、90日間で、1日の中で1時間おきに測定したバイタルサイン(表層体温または脈拍)の値から算出した閾値(μ+2σ)を基準として、判定時の測定値が基準を超えた場合に、合計スコア値に1点追加した結果、最終的な合計スコア値が2点以上になるケースを含めてもよい。
ここで、本発明では、必ずしも、深部体温に基づく条件の代わりに、一次判定及び二次判定の条件に、「表層体温のスコア値と、脈拍のスコア値との合計スコア値が2点以上となる」という条件を採用する必要はなく、上述した「A.深部体温の正常域条件に基づく判定」のみでも熱中症の判定は可能である。但し、偽陽性の検出を減らして、熱中症の判定の精度が向上する点から、一次判定及び二次判定の条件に、表層体温のスコア値と、脈拍のスコア値との合計スコア値に基づく基準を採用することができる。
また、仮に、深部体温のバイタル測定器21がない場合でも、表層体温及び脈拍を測定可能なバイタル測定器21があれば、深部体温の代わりに、表層体温と脈拍を測定して、スコアリングを行うことで、熱中症の判定を行うことが可能となる。
したがって、本発明を適用した熱中症判定装置では、バイタルサインの値として、深部体温は用いずに、表層体温及び脈拍のみを用いて、これらのスコアリングに基づく基準を元に、熱中症の判定を行う構成も採用しうる。
続いて、警告の判定において、更に追加しうる条件を説明する。
まず、暑熱馴化と非順応の関係から、警告の判定を行う構成がある。暑熱馴化とは、体が暑さになれることであり、例えば、暑い日が続くと、体は次第に暑さに慣れて(暑熱順化)、暑さに強くなる。このように体が暑さになれた状態を、暑熱順化の状態という。暑熱順化がすすむと、発汗量や皮膚血流量が増加し、発汗による気化熱や体の表面から熱を逃がす熱放散がしやすくなる。即ち、体が暑さになれ、暑熱馴化の前よりも熱中症になりにくい状態となる。
一般的に、暑熱馴化の状態になるには、気温の高い環境で、概ね1週間から10日程度の期間を要するとされている。また、非順応とは暑熱馴化となっていない状態を指す。
そこで、例えば、対象者が、気温の高い環境下で作業をする場合に、その作業環境で、1週間以上作業しているか否かを判別して、1週間未満であれば、非順応であることを個人情報7として記録しておく。
その上で、非順応の対象者について、上述した「A.深部体温の正常域条件に基づく判定」の一次判定にて、深部体温の測定値が第1の閾値(μ1+2σ1)を超えた場合に、判定処理手段6が「警告」と判定すると共に、対象者に対する「問診」を促す態様とする。ここでは、「警告」の判定に加えて、問診を行い、問診結果情報501で異常があった場合に、対象者の作業を中止させることが考えられる。
このように、対象者を暑熱馴化または非順応で区別して、暑さに順応していない非順応の対象者に対する熱中症の判定を厳しくすることで、判定の精度を高めることができる。
また、暑熱馴化期間が経過しているか否かにより、「注意」と「警告」の判定を異ならせてもよい。即ち、例えば、対象者において、暑熱馴化期間が経過している(例:気温の高い環境下で1週間以上作業している)場合には、通常どおり、「注意」と「警告」の判定を行う。
一方、暑熱馴化期間が経過していない、非順応の対象者では、通常は、「注意」と判定される結果について、警戒のレベルを上げて、「警告」と判定するように構成することができる。このように、暑熱馴化期間が経過していない、非順応の対象者では、熱中症になるリスクが高まるため、判定の基準を厳しく設定し、熱中症の状態を捉えることもできる。
また、対象者における個人要因から、警告の判定を行う構成がある。ここで、個人要因とは、例えば、判定日の前日に飲酒している、または、睡眠不足の状態である等、対象者の体調に関する因子である。このような前日の飲酒または睡眠不足の状態の有無を、対象者から回答を得て、個人情報7に記録しておく。
その上で、前日の飲酒または睡眠不足の状態のある対象者について、上述した「A.深部体温の正常域条件に基づく判定」の一次判定にて、深部体温の測定値が第1の閾値(μ1+2σ1)を超えた場合に、判定処理手段6が「警告」と判定する態様とする。即ち、一次判定で、熱中症であると判定される。
このように、対象者の個人要因に基づき、前日の飲酒または睡眠不足の状態のある対象者に対する熱中症の判定を厳しくすることで、判定の精度を高めることができる。
また、上述した各種の警告の判定で、スコアリングを用いる判定に関して追加しうる条件を説明する。
ここでは、深部体温、表層体温または脈拍の測定値に対するスコアリングにおいて、合計スコア値に、1点を更に加算する基準を設けることになる。
具体的には、同一の対象者について、判定日より前の90日間の期間で、1日の中で1時間おきに測定したバイタルサインの値から算出した閾値(μ+2σ)を基準として、判定時の測定値が閾値(μ+2σ)を超えた場合に、合計スコア値に1点追加するものである。これにより、最終的な合計スコア値の点数が増えた結果、「注意」または「警告」の判定が出やすくなる。
このように、各バイタルサインの過去90日間の測定値から算出した基準を用いることで、同一の対象者における90日分のバイタルサインの変動から見て、異常な値であると考えられるバイタルサインの値を検知して、熱中症の判定の精度を高めることができる。
続いて、本発明を適用した熱中症判定装置1における「警告」の状態が解除される仕組みの一例について説明する。
以下は、対象者が作業現場で作業する作業者であり、作業現場には対象者の体調管理を行う作業管理者がいるケースを想定した内容である。
上記の各判定方法において、対象者に「警告」の判定がなされた場合、管理端末または作業管理者の有する端末(スマートフォン端末等)を介して作業管理者に、ある対象者において、警告の判定がなされたことと、その対象者の氏名が通知される。
また、作業管理者は、警告と判定された対象者の作業を中止させ、管理端末または管理作業者の有する端末を用いて、端末上に表示される情報を見ながら、以下の内容の問診を行う。
問診は、例えば、「体に異常を感じますか?」または「めまいがしますか?」など、対象者の不調を確認する内容である。また、その他、「めまい、失神、筋肉痛、筋肉の硬直、大量の発汗、頭痛、不快感、吐き気、嘔吐、倦怠感、虚脱感、意識障害、けいれん、手足の障害」等の各種問診につき、1つ、または、複数の問診を組み合わせて確認する内容である。なお、ここでいう各種情報が問診情報500である。
作業管理者は、警告と判定された対象者に問診を行い、その結果を管理端末または作業管理者の有する端末を介して、問診結果情報501を入力する。問診の結果、問診結果情報501の中に、異常がある旨の回答がある場合、問題ありとして、作業管理者は、対象者が作業を再開しないように休憩させる。または、対象者の様子に応じて、休憩だけでなく、医師による診断を促す、または、病院への搬送を行う態様もある。
また、問診結果情報501の中に、異常がある旨の回答がない場合、問題なしとして、作業管理者は、対象者を作業に戻し、または、休憩させる。その後、対象者をモニターして、後述する内容で、警告の状態が解除されるか否かを確認する。また、警告の状態が解除された後、一定時間経過後のバイタルサインの測定に基づき、警告の判定が出たら、再度、管理端末または管理作業者の有する端末に、警告の判定がなされた通知がなされるものとなる。
ここで、問診結果情報501の中に、異常がある旨の回答がある場合とは、複数の問診の中から、1つでも異常と思われる問診結果が出た場合や、異常と思われる問診結果が、複数かつ所定の数が確認された場合等が採用しうる。
この問診結果情報501に異常がある旨の回答がある場合で、対象者が休憩する場合には、「警告」の状態は解除せず継続するものとする。一定時間の経過後、再度、深部体温、表層体温、または、脈拍を測定して、測定結果の内容から、再び警告と判定されるか否かを確認する。この一定時間経過後の測定で、再度、「警告」と判定された場合には、その旨を管理端末3または作業管理者の端末に通知する。この後は、対象者に対して、再度、休憩の取得、その日の作業の中止、医師の診断、病院への搬送等の処置をとる。
また、一定時間経過後の測定で、「警告」と判定されなかった場合には、再度、問診情報500を利用して、対象者に対して、自覚症状または他覚症状の有無を確認し、問題がなければ、警告を解除して、作業現場に戻れるものとする。
また、別の態様として、一定時間経過後の測定で、「警告」と判定されなかった場合で、判定の根拠となったバイタルが脈拍及び表層体温の測定値であれば、脈拍の測定値が閾値(μ+2σ)以下となってから、5分後に警告を解除して、作業現場に戻れる態様も採用しうる。
ここで、脈拍の測定値が閾値(μ+2σ)以下となってから、5分後に警告を解除する構成とするのは、脈拍上昇後の5分後と直腸温(深部体温)の相関があるとの検証に基づくものである。このような構成とすることで、深部体温が下がった状態(熱中症でない状態)を担保して、対象者を作業に戻すことができる。
また、本発明では、必ずしも、管理端末または作業管理者の有する端末(スマートフォン端末等)を介して作業管理者に、ある対象者において、警告の判定がなされたことと、その対象者の氏名が通知される必要はない。例えば、対象者(作業者)自身が有するスマートフォン端末に、「警告」の判定が出たことの通知がなされる態様とすることもできる。
また、対象者(作業者)自身が有するスマートフォン端末に、「警告」の判定が出たことの通知がなされ、そのスマートフォン端末の画面上に問診情報500を表示して、対象者に問診結果情報501を入力させることも可能である。
そして、作業者自身が回答した問診結果情報501の中に、異常がある旨の回答がある場合、問題ありとして、対象者のスマートフォン端末の画面上に、作業を中止して休憩する旨の指示や作業管理者に通達する旨の指示を表示することができる。また、警告の状態を解除する内容については、既に述べたとおりである。
また、作業者自身が回答した問診結果情報501の中に、異常がある旨の回答がない場合、上述した内容と同様に、対象者は、作業に戻る、または、休憩をとるものとする。その後、対象者をモニターして、再度、警告の状態が解除されるか否かを確認する。また、警告の状態が解除された後、一定時間経過後のバイタルサインの測定に基づき、警告の判定が出たら、再度、管理端末または管理作業者の有する端末に、警告の判定がなされた通知がなされるものとなる。
以上のような流れで、熱中症判定装置1における「警告」の状態を解除することができる。なお、上述した内容はあくまで一例であり、「警告」の状態を解除する方法はこれに限定されるものではない。
[7.固体内変動を利用する意義]
続いて、複数の対象者のバイタル情報を利用して、異なる個体の情報に基づくバイタル情報の分布を作成した場合と、同一の対象者のバイタル情報を利用して、同一個体のバイタル情報の分布を作成した場合との違いについて、説明する。
図9(a)及び図9(b)は、いずれも表層体温の情報を元に作成された正規分布曲線のグラフである。図9(a)及び図9(b)において、横軸は表層体温の確率変数、縦軸は確率密度である。(a)は多数の対象者で作成し、(b)は、同一の対象者のみで作成されている。図9(a)では、様々な平熱や、体温の変動をする人が含まれており、平均値μは多数の対象者の平均値である37.0℃となり、μ+2σの値は37.7℃、μ-2σの値は36.0℃となっている。
しかしながら、図9(b)では、同一個体のバイタル情報を記録したものであり、その人特有の平熱や、表層体温の変動となるため、平均値μは35.6℃、μ+2σの値は37.0℃、μ-2σの値は35.2℃となる。
即ち、仮に、各分布を用いて、基準値をμ+2σに設定すると、図9(a)の方では、37.0℃の体温はμの位置(図9(a)中の黒い丸)に該当する。一方、図9(b)の方では、37.℃の体温は、上限値であるμ+2σの位置(図9(b)中の黒い丸)になる。つまり、図9(a)に示す分布と、図9(b)に示す分布では、分布上における同じμ+2σの数値が全く違う値になる。そのため、第1の閾値情報183や、スコアリング基準情報102、スコア値情報103も変わり、判定結果も異なるものとなる。換言すれば、図9(b)の対象者の判定を行う上では、多数の対象者のバイタル情報に基づく第1の閾値情報183や、スコアリング基準情報102、スコア値情報103は、「異常な値」を捉えるために使用できないものといえる。多数の人数のバイタル情報を基準に用いることは、従来行われていた「個体間変動」での判定に他ならず、対象者に特有のバイタル情報の変動をみるためには、「個体内変動」が有効であることを示している。
なお、図9(b)に示す体温の平均値や変動を行う対象者は、特殊な事例にあたるものではない。また、表層体温に限って起こる現象ではなく、深部体温や脈拍数でも、対象者に固有の変動が生じ、これらは正規分布に従うものとなる。上記の体温の例でいえば、図9(b)に示す温度域で体温が変化する高齢者は多く、このような高齢者の熱中症の判定をバイタルサインで行う際には、「個体内変動」が有効である。
[8.表示情報の作成]
本発明を適用した熱中症判定装置1では、対象者のバイタル情報について、その内容を正規分布曲線として表示することが可能である。
また、図10には、本発明のソフトウェアの機能を有するアプリケーションソフトウェアをスマートフォン端末等で利用する際に、その画面上にバイタル情報の内容に基づくスコア値情報の値や、対象者に対する熱中症の判定結果を示した画像を示している。例えば、図10には、スマートフォン端末を所有する対象者のバイタル情報の記録(深部体温)と深部体温の値が変動したグラフを示す。
また、図10には、対象者の深部体温の測定結果から判定した判定結果を示す。ここでは、対象者が熱中症になっているリスクについて、注意または警告の2段階で結果が表示される。また、警告は赤字、注意は黄色の字で表示される。
図10では、一例として、「警告」の判定結果を表示し、その横に、「危険な状態です。すぐに指定者に通知してください。水分補給や暑熱環境から退避してください。」とのメッセージが表示されている。
また、例えば、「注意」の判定結果を表示する際には、黄色の字で、「注意してください。具合が悪いときは指定者に通知してください。水分補給など対応をしてください。」とのメッセージが表示される。また、ここでの「指定者」とは、利用条件により異なるが、例えば、医師や健康管理担当者が該当するものとなる。
また、図10には、画面の上部には、「WBGT・気温・湿度・順化」の表示がなされ、ここを選択することで各種情報が表示可能に構成されている。なお、「順化」は、対象者が、暑熱順化の期間中にある場合に表示される部分である。
また、図10には、画面の右下に「健康情報」の表示がなされ、ここを選択することで利用者の年齢・男女・既往歴等の属性に関する各種情報が表示可能に構成されている。このように、本発明のソフトウェアの機能を有するアプリケーションソフトウェアをスマートフォン端末等で利用し、その画面上で、対象者の情報や、熱中症の判定結果を確認することができる。
[9.正規分布の有無による測定精度の判定]
本発明を適用した熱中症判定装置1では、測定したバイタル情報が正規分布に当て嵌まっているかを確認する手法として、Q-Qプロットが利用できる。例えば、横軸にバイタル標準偏差の値を、縦軸に標準偏差の累積確率に対応する標準正規分布のパーセント点の値をとり、対象者のバイタル標準偏差をプロットする。各プロットが直線上に位置していれば、取得したバイタル情報が正規分布していることが視覚的に確認可能となる。
[10.バイタル除外基準情報について]
以下、個々のバイタル除外基準情報200の内容について説明する。本発明においては、正規分布に基づく基準である第1の閾値情報等や、基準域条件220を算出するにあたり、バイタル除外基準情報200の条件を満たすバイタル情報8bを除いて、正規分布を算出する態様も採用しうる。
[10-1]「μ±2σ」の値を下限値及び上限値とするバイタル除外条件
バイタル除外条件として、バイタル平均値情報及びバイタル標準偏差に基づき、「μ-2σ」の値を下限値とし、「μ+2σ」の値を上限値とする範囲内に、バイタルサインの測定値が含まれるか否かを条件の内容とする。
即ち、深部体温、表層体温、及び、脈拍の測定値が、μ-2σ以下、または、μ+2σ以上の値となる場合には、バイタル除外条件を満たす値として、その測定値は、基準域条件220の算出根拠から除外される。
この条件によれば、深部体温、表層体温、及び、脈拍の測定値につき、対象者における通常の正常域とみなせるバイタルサインの測定値が集約されやすくなり、「μ±2σ」の範囲を外れる測定値を、バイタルサインの値として異常とみなされるような値として取り扱うことができる。
また、この条件での「μ±2σ」におけるバイタル平均値「μ」と、バイタル標準偏差「σ」自体の値も、バイタルサインの測定値が入力された際に、既に記録されているバイタル情報の中で、「μ±2σ」の範囲内に含まれるという条件を満たす測定値から算出される。
このように、バイタル除外条件を「μ±2σ」の範囲内に設定することで、対象者の通常の正常域とみなせるバイタルサインの測定値が集約され、バイタル情報8aが抽出される。
[10-2]統計的な手法により外れ値を判定するバイタル除外条件
バイタル除外条件として、統計的な手法により「外れ値」と判定できるバイタルサインの測定値を、バイタルサインの値として異常とみなされるような値として除外する。ここで、外れ値を除外する統計的な手法として、例えば、スミルノフ・グラブス検定が採用できる。
スミルノフ・グラブス検定は、バイタルサインの測定値の集合について、バイタルサインの値として異常とみなされるような値を除外するか否か検定する手法である。正規分布に従うバイタルサインにおいて利用される。
スミルノフ・グラブス検定では、平均値から最も離れた観測値を選び、その残差をσで割った値を検定統計量とする。そして有意性を判断して、外れ値とした場合は、これを除外して、検定のやり直しを続けていく。最終的に、外れ値が出力されなくなると、外れ値の無いデータセット(バイタル情報8a)を作ることができる。
スミルノフ・グラブス検定は、次のような手順で進める。
(1)対象データ(バイタルサインの測定値の集合)に対して、平均値、分散、最大値(または最小値)を求める。
(2)検定統計量Tを求める。
(3)有意性を判断する。
(4)外れ値とした場合は、外れ値を除外して検定処理を実施し、外れ値が出力されなくなるまで繰り返す。
このように、バイタル除外条件として、スミルノフ・グラブス検定に基づく、外れ値に該当するか否かという条件を採用することで、統計的に、バイタルサインの値として異常とみなされるような値を除外することができる。この結果、バイタル情報8aを、医学的に取り得ない値が算出根拠に含まれにくい情報とすることができる。
[10-3]医師が医療介入した日・期間に関するバイタル除外条件
バイタル除外条件として、医師が医療介入した日または期間に測定されたバイタルサインの値であるか否かを条件の内容とする。
この医師が医療介入した日または期間とは、対象者を医師が診断して、医師による処方がなされた日、処方内容に含まれる期間、及び、入院期間が該当する。医師による処方とは、服薬、点滴、注射、経管栄養等の処置や、看取り(医療介入を望まない)の際の経過観察を含んでいる。
また、ここでいう、処方内容に含まれる期間とは、例えば、服薬の開始から終了までの期間である。また、入院期間は、医師の診断の結果、対象者が病院等の医療機関に入院した日から退院するまでの期間である。
また、看取り(医療介入を望まない)とは、対象者が何等かの病気であると診断されたが、対象者の家族が、服薬等の治療のための処置を行うことを希望しない場合に、具体的な処置を行わずに経過を観察するように指示した状態を意味する。
この医師が医療介入した日または期間の情報は、対象者の個人情報7として、情報記録部4に記録される。例えば、服薬の処方がなされた場合、「臨時薬10日間投与」といった情報や該当する期間の情報が記録される。
この医師が医療介入した日または期間において測定されたバイタルサインの値は、対象者が病気と判断された状態、または、何等かの処置が必要な状態でのバイタルとなる。そのため、このような条件下で測定されたバイタルサインの値を、異常とみなされるような値として除外することで、バイタル情報8aを、対象者における通常の正常域とみなせるバイタルサインの測定値が集約された内容とすることができる。
[10-4]「μ±2σ」の値が2回以上続く場合のバイタル除外条件
バイタル平均値情報及びバイタル標準偏差に基づき、「μ-2σ」の値を下限値とし、「μ+2σ」の値を上限値とする範囲を設定する。また、一定の条件下で、複数回測定したバイタルサインの測定値について、μ-2σ以下、または、μ+2σ以上の値が2回以上続けて測定された場合に、1回目の測定値は除外せずにバイタル情報8aに含め、2回目以降の測定値を除外するという内容のバイタル除外条件である。
ここで、一定の条件とは、例えば、5分間の間に複数回深部体温を測定するといった内容であり、同一条件で測定したバイタルサインとして取り扱えるような条件を意味する。なお、本バイタル除外条件は、その内容から、上記[1]で説明したバイタル除外条件とは重複して設定されない条件となる。
このように複数回のバイタル測定を行い、「μ±2σ」の範囲を外れた測定値が2回以上測定され、1回目の測定値はバイタル情報8aに含めることで、「μ±2σ」の範囲を外れた測定値を厳密に排除せずに、基準域条件220を設定することができる。また、2回目以降の「μ±2σ」の範囲を外れた測定値は除外されるため、基準域条件220での異常の検知の精度が過度に下がることが抑止できる。
[10-5]t検定に基づくバイタル除外条件
バイタル除外条件として、t検定により、「平均値から大きく外れた値」と判定できるバイタルサインの測定値を、バイタルサインの値として異常とみなされるような値として除外する内容である。正規分布に従うバイタルサインにおいて利用される。
[10-6]主値以外を除外するバイタル除外条件
一定の条件下で、複数回測定したバイタルサインの測定値について、所定の主値選択条件で選択された主値以外の測定値を除外するという内容のバイタル除外条件である。主値とは、複数の測定値の中から1つを選び出すことを意味する。
ここで、所定の主値選択条件として、人為的、または、一定の条件を設けてシステム的に1つの値を選択する条件がある。人為的な選択とは、例えば、測定値の中から、明らかな入力ミスによる測定値とわかる数値を除いて、1つの測定値を選択するような行為が含まれる。
また、システム的な選択とは、例えば、バイタルサインの測定値についてQ-Qプロットに基づき、プロットの範囲内から精度の高い測定値を選択するような態様が考えられる。
このように、バイタル除外条件として、複数回測定したバイタルサインの測定値について、所定の主値選択条件で選択された主値以外の測定値を除外する内容とすることで、バイタル情報8aを、信頼性の高い情報とすることができる。
[10-7]正規性に基づくバイタル除外条件
バイタル除外条件として、所定の検定法に基づき、正規性が担保されない値と判定できるバイタルサインの測定値を、バイタルサインの値として異常とみなされるような値として除外する。ここで、正規性を判定する手法として、例えば、シャピロ-ウィルク検定が採用できる。
シャピロ-ウィルク検定は、バイタルサインの測定値の集合についてp値を求め、例えば、有意水準5%と設定した場合には、p<0.05の場合は「正規分布に従わない」、p≧0.05であった場合は「正規分布に従う」と判断する検定法である。なお、p値とは、帰無仮説を棄却するための証拠を測定する確率である。
このシャピロ-ウィルク検定を用いて、バイタルサインの測定値の集合について、p<0.05の根拠となった「外れ値」となる測定値を抽出する。即ち、この外れ値を正規性が担保されないバイタルサインの測定値として除外する。
このようにバイタルサインの測定値について、シャピロ-ウィルク検定のp値を用いて、正規性が担保されない測定値を、外れ値として除外することができる。このように、シャピロ-ウィルク検定により、バイタル情報8aを正規性が担保された情報とすることができる。
また、シャピロ-ウィルク検定により、バイタルサインの測定値の精度検証が可能となる。バイタル情報8aは、精度が悪いデータが除外され、品質が担保された「クオリティデータ」のみで集団が形成されるものとなる。
[10-8]所定の時間条件に基づくバイタル除外条件
バイタル除外条件として、バイタルサインの測定値が、所定の時間条件を満たして測定された値であるか否かを条件とする。本条件は、例えば、バイタルサインの測定値が、設定した時刻を基準に、1時間以内に測定されたかどうかといった内容で設定される。
このように時間の条件を設定して、決められた時間に適切に測定されなかったバイタルサインの測定値を除外して、バイタル情報8aを抽出する。例えば、対象者の行動やタイミングにより、設定した時刻にバイタル測定が行えないケースがある。そのような場合、測定が遅れたバイタルサインの測定値を除外して、バイタル情報8aを、信頼できる情報とすることができる。
[10-9]「μ±2σ」の値を下限値及び上限値とする複数回測定のバイタル除外条件
バイタル平均値情報及びバイタル標準偏差に基づき、「μ-2σ」の値を下限値とし、「μ+2σ」の値を上限値とする範囲を設定する。また、一定の条件下で、複数回測定したバイタルサインの測定値について、「μ±2σ」の範囲を外れた測定値を除外する内容である。
ここで、一定の条件とは、例えば、5分間の間に複数回深部体温を測定するといった内容であり、同一条件で測定したバイタルサインとして取り扱えるような条件を意味する。なお、本バイタル除外条件は、本除外方法は、上記[1]で説明したバイタル除外条件とは、複数回の測定を想定している点で異なっている。
本除外方法は、一定の条件下で、複数回、バイタルサインの測定を行い、各測定には、厳密には多少の時間差があって測定しているので、それぞれの値について、全ての測定値を有効に取り扱うことを考慮して設定している。また、例えば、一連のバイタル測定の行為で5回測定したら、そのうち「μ±2σ」の範囲を外れた測定値である1~4回を除外する(通常、落ち着くまでの最初の場合が多い)ということを考慮して設定している。
以上で説明したバイタル除外条件について、単一の条件、または、複数の条件を組み合わせて、バイタル除外基準情報200を設定することができる。
[11.熱中症判定装置による情報処理の流れ]
続いて、本発明を適用したソフトウェアにおける情報処理の一連の流れの一例について説明する。
まず、初めに、バイタル計測器21(ウェアラブル計測器)を装着した対象者に対して、一定時間ごとに、深部体温、表層体温及び脈拍の測定を行う。対象者は、例えば、野外で作業を行い、作業中に継続的に、バイタル情報8が測定されている。
バイタル計測器21で測定された対象者のバイタルサインの値(深部体温、表層体温及び脈拍の測定値)は、計測値と測定日時の情報が、管理端末3に送信され、情報記録部4に記録される。
情報記録部4に記録された判定の対象となるバイタル情報に対して、判定日の前日までの計測値から、演算部2が基準算出手段5として機能して、第1の閾値情報183、第2の閾値情報184、第3の閾値情報185、及び、基準域条件220の算出を行う。ここでは、バイタル平均値と、バイタル標準偏差が算出され、これらの値を元に、設定した条件で、上記各情報が作成される。
次に、入力された判定の対象のバイタル情報について、上述した各種判定の方法により、一次判定が行われる。
例えば、第1の閾値(μ1+2σ1)を一次判定及び二次判定の基準とする際には、入力された深部体温の値が、第1の閾値(μ1+2σ1)を超えるか否かの判定が行われる。図21では、判定日における「μ1+2σ1」の値を一点鎖線で示し、「μ1+3σ1」の値を二点鎖線で示している。
図21の符号A1で示す箇所では、対象者の深部体温の値が、第1の閾値(μ1+2σ1)を超えているため、一次判定で条件を満たすものとなり、判定処理手段が「注意」の判定を行う。
また、図21の符号A2で示す箇所では、対象者の深部体温を、一次判定から約5分後に測定した測定値において、その値が、第1の閾値(μ1+2σ1)を超えているため、二次判定でも条件を満たすものとなり、判定処理手段6が「警告」の判定を行う。即ち、対象者が熱中症であるとの判定を行う。
対象者に対して、判定処理手段6が「警告」の判定を行うと、管理端末3(または作業管理者のスマートフォン端末71)、または、対象者が有するスマートフォン端末70に、「警告」の判定がなされたことが、警報として通知され、上述した警告解除までの流れに進むものとなる。
また、例えば、一次判定又は二次判定の条件として、脈拍のスコア値と、表層体温のスコア値の合計点を利用する例であれば、図22に示すように、あるタイミングでの、対象者から測定した脈拍の測定値と、表層体温の測定値に対して、スコアリングを行う。
その結果、図22の符号A1で示す箇所では、脈拍の測定値に基づくスコア値が1点となり、図22の符号B1で示す箇所では、表層体温の測定値に基づくスコア値が1点となった場合、スコア合計点が2点以上となるため、判定処理手段6が、「注意」又は「警告」を判定するものとなる。
また、例えば、図22の符号A2で示す箇所では、脈拍の測定値に基づくスコア値が2点となり、スコア合計点が2点以上となるため、判定処理手段6が、「注意」又は「警告」を判定するものとなる。
このようなバイタルサインの値に対するスコア値を算出することで、「注意」又は「警告」の判定を行うことや、他の基準と組み合わせることで、「警告」の判定の精度を高めることもできる。
以上は、本発明を適用したソフトウェアがバイタル情報から熱中症の判定を行う流れの一例である。
以上のように、本発明のソフトウェアは、対象者の個人差を考慮したバイタルサインや日々の体調を反映して、対象者ごとに異なる個体内変動を精度高く捉えることが可能であり、かつ、偽陽性が少なく、対象者における熱中症の判定精度に優れたものとなっている。
また、本発明の熱中症判定装置は、対象者の個人差を考慮したバイタルサインや日々の体調を反映して、対象者ごとに異なる個体内変動を精度高く捉えることが可能であり、かつ、偽陽性が少なく、対象者における熱中症の判定精度に優れたものとなっている。
また、本発明の熱中症判定方法は、対象者の個人差を考慮したバイタルサインや日々の体調を反映して、対象者ごとに異なる個体内変動を精度高く捉えることが可能であり、かつ、偽陽性が少なく、対象者における熱中症の判定精度に優れたものとなっている。