JP7304725B2 - 珪窒化バナジウム膜被覆部材およびその製造方法 - Google Patents
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Description
(1):3300≦{電力密度[W/m2]×(窒素分圧/水素分圧)}≦35000
まず、チャンバー11に鋼材2を搬入して所定位置に鋼材2をセットする。その後、チャンバー11内の圧力を例えば10Pa以下となるように真空排気を行う。このときチャンバー11内の温度は室温程度となっている。続いて、ヒーター(不図示)を作動させて鋼材2のベーキング処理を行う。その後、一度ヒーターの電源を切り、プラズマ処理装置10を放置する。
次に、チャンバー11内に少量の水素ガスを供給し、再度ヒーターを作動させる。この加熱工程では鋼材2の温度をプラズマ処理温度近傍まで昇温させる。チャンバー11内の圧力は例えば100Pa程度に維持される。
(水素プラズマ工程)
本実施形態においては鋼材2のプラズマ窒化処理に先立って水素ガスのプラズマ化を行う。具体的には、加熱工程で供給されていた水素ガスを引き続き供給した状態でパルス電源14を作動させる。これにより、電極間において水素ガスがプラズマ化する。このようにして生成された水素ラジカルにより鋼材表面の酸化膜が還元され、鋼材表面がクリーニングされる。なお、パルス電源14はチャンバー11内に供給されるガスがプラズマ化するように電圧や周波数,Duty比等が適宜設定されている。Duty比は、図3に示すように1周期あたりの電圧印加時間で定義され、Duty比=100×印加時間(ON time)/{印加時間(ON time)+印加停止時間(OFF time)}で算出される。
水素ガスをプラズマ化した後、水素ガスを供給しているチャンバー11内にさらに窒素ガスおよびアルゴンガスを供給する。これにより、水素ガス、窒素ガスおよびアルゴンガスのプラズマが生成され、鋼材2のプラズマ窒化処理が行われる。これにより、鋼材2の表面から窒素が侵入し、鋼材2の表面近傍に窒化層2aが形成される。珪窒化バナジウム膜3は、プラズマ窒化処理で形成される窒化物と同様に窒素を含んでいることから、鋼材2の表面近傍に窒化層2aが存在することで、鋼材2と珪窒化バナジウム膜3の化学的な相性の改善や格子の不整合の解消がなされる。これによって鋼材2と珪窒化バナジウム膜3との密着性が向上し、結果的に珪窒化バナジウム膜被覆部材1としての耐久性が向上する。
(1):3300≦{電力密度[W/m2]×(窒素分圧/水素分圧)}≦35000
式(1)を満たす条件のプラズマ窒化処理で形成された窒化層2aの上に珪窒化バナジウム膜3を形成することで、鋼材2と珪窒化バナジウム膜3の密着性が向上し、珪窒化バナジウム膜被覆部材1としての耐久性を向上させることができる。なお、“電力密度[W/m2]”は、電力[W]/陰極の表面積[m2]で算出される値である。“陰極の表面積[m2]”は、鋼材2の表面積と陰極13の表面積の合計値である。“電力[W]”は、電圧[V]×電流[A]で算出される値である。“電圧”はパルス電源14の設定電圧であり、“電流”は、パルス電源14に表示される電流値を用い、プラズマ窒化工程内における(最大電流+最小電流)/2で算出される値である。
(2):24000≦{総エネルギー密度[kJ/m2]×(窒素分圧/水素分圧)}≦500000
なお、“総エネルギー密度[kJ/m2]”は(電力[W]×処理時間[s])/陰極の表面積[m2]で算出される値である。“処理時間[s]”は、プラズマ窒化処理時間であり、窒素ガスの供給を開始してから、珪窒化バナジウム膜3の形成工程におけるバナジウム塩化物ガスまたはシラン源ガスの供給を開始するまでの時間である。プラズマ窒化工程における処理時間は、例えば30~300分である。
鋼材2の表面近傍に窒化層2aが形成された後、チャンバー11内にバナジウム源ガスとしてのバナジウム塩化物ガスとシラン源ガスをさらに供給する。これにより、チャンバー11内に水素ガスと、窒素ガスと、アルゴンガスと、バナジウム塩化物ガスと、シラン源ガスが供給された状態となる。チャンバー11内の圧力は例えば50~200Paに設定される。
実施例1の試験片の作製方法について説明する。なお、以降の説明における水素ガス、窒素ガス、アルゴンガス、四塩化バナジウムガスおよび四塩化珪素ガスの流量は0℃、1atmにおける体積流量である。
まず、成膜装置のチャンバー内に試験片用の鋼材をセットし、30分間チャンバー内を真空引きし、チャンバー内の圧力を10Pa以下まで小さくする。このとき、ヒーターは作動させない。なお、ヒーターはチャンバーの内部に設けられており、チャンバー内の雰囲気温度はシース熱電対で測定している。続いて、ヒーターの設定温度を200℃とし、10分間鋼材のベーキング処理を行う。その後、ヒーターの電源を切り、30分間成膜装置を放置してチャンバー内を冷却する。
次に、チャンバー内に100ml/minの流量で水素ガスを供給し、排気量を調節してチャンバー内の圧力を100Paとする。そして、ヒーターの設定温度を485℃とし、30分間鋼材を加熱する。この加熱工程により鋼材の温度をプラズマ処理温度近傍まで昇温させる。
(水素プラズマ工程)
次に、電圧:800V,周波数:25kHz,Duty比:30%,ユニポーラ出力形式でパルス電源を作動させる。これにより、チャンバー内の電極間において水素ガスがプラズマ化し、水素ラジカルにより鋼材表面のクリーニングを行う。
その後、水素ガスの流量を200ml/minに上げると共にチャンバー内に窒素ガスおよびアルゴンガスを供給する。本工程においては、窒素ガスの流量を100ml/minとし、アルゴンガスの流量を5ml/minとする。このとき、チャンバー内の全圧は排気量が調節されることで58Paに維持される。実施例1における窒素分圧と水素分圧の分圧比(N2/H2)は0.5であった。その後、パルス電源の電圧を1500Vに上げる。ここでパルス電源の電圧が上げられることによって電極間では水素ガス、窒素ガスおよびアルゴンガスがプラズマ化した状態となる。これにより、鋼材の表面から窒素が侵入し、鋼材の表面近傍に窒化層が形成される。窒化処理時間は120分であり、電流は0.30Aであった。なお、実施例1のプラズマ窒化工程における電力密度[W/m2]×(窒素分圧/水素分圧)は3533であり、総エネルギー密度[kJ/m2]×(窒素分圧/水素分圧)は25439であった。
続いて、チャンバー内に四塩化バナジウムガスを4.5sccm、四塩化珪素ガスを5.0sccmの流量で供給する。これにより四塩化バナジウムガスがバナジウムと塩素に分解され、四塩化珪素ガスが珪素と塩素に分解される。また、本工程においては、水素ガスの流量を140ml/minとし、窒素ガスの流量を110ml/minとする。そして、プラズマ化した珪素、バナジウム、および窒素が鋼材に吸着することにより、鋼材表面の窒化層の上に珪窒化バナジウム膜が形成されていく。この状態を120分間維持する。以上の工程を経て、珪窒化バナジウム膜が被覆された実施例1の試験片が作製された。この試験片を用いて下記の評価を実施した。
スクラッチ試験機(csm社製 Revetest)を用い、鋼材と珪窒化バナジウム膜の密着性を評価した。スクラッチ試験は、先端曲率100μmの円錐形ダイヤモンド圧子を用い、最小荷重1N、最大荷重100N、荷重速度100N/分、スクラッチ速度5mm/分、スクラッチ距離5mmにて実施された。そして、圧子と試験片の接触箇所周辺の珪窒化バナジウム膜が破壊されたときの荷重、すなわち鋼材から珪窒化バナジウム膜が剥離したときの荷重である臨界荷重を測定し、この臨界荷重に基づいて珪窒化バナジウム膜の密着性を評価した。なお、珪窒化バナジウム膜の膜厚が0.5~4.0μmの範囲内であれば、膜厚の違いに起因するスクラッチ試験結果のばらつきが無視できるほどに小さくなる。
硬度測定は、Fischer Instruments製のFISCHER SCOPE(登録商標)H100Cを用いたナノインデンテーション法により実施する。具体的には、最大押し込み荷重を10mNとして試験片にバーコビッチ圧子を押し込み、連続的に押し込み深さを計測する。得られた押し込み深さの計測データからフィッシャー・インストルメンツ社製のソフトウエアである「商品名:WIN-HCU(登録商標)」を用いて、マルテンス硬さ、マルテンス硬さから換算されるビッカース硬さを算出する。算出されたビッカース硬さは測定装置の画面に表示され、この数値を測定点における膜の硬度として扱う。本実施例では各試験片表面の任意の20点のビッカース硬さを求め、得られた硬度の平均値を膜の硬度として記録する。なお、試験片に圧子を押し込む際には、圧子の最大押し込み深さの約10倍まで押し込み荷重が伝播する場合がある。このため、押し込み荷重の伝播が試験片の鋼材に到達してしまうと、硬度測定の結果に鋼材の影響が含まれてしまう場合がある。したがって、純粋な硬質膜の硬度を測定するためには、「硬質膜の膜厚>圧子の最大押し込み深さ×10」を満たす必要がある。
珪窒化バナジウム膜の膜厚は、試験片を垂直に切断して切断面を鏡面研磨した後、金属顕微鏡の倍率を1000倍として切断面を観察し、観察した画像情報に基づいて算出することで測定された。
試験片に形成された硬質膜の組成を分析した。分析条件は次の通りである。
EPMA:日本電子株式会社製JXA-8530F
測定モード:半定量分析
加速電圧:15kV
照射電流:1.0×10-7A
ビーム形状:スポット
ビーム径設定値:0
分光結晶:LDE6H, TAP, LDE5H, PETH, LIFH,
LDE1H
プラズマ窒化工程において、パルス電源の電圧が1800V、電流が0.38Aであることを除き、実施例1と同様の条件で試験片が作製された。なお、実施例2のプラズマ窒化工程における電力密度[W/m2]×(窒素分圧/水素分圧)は5386であり、総エネルギー密度[kJ/m2]×(窒素分圧/水素分圧)は38778であった。
プラズマ窒化工程において、パルス電源の電圧が1300V、Duty比が90%、電流が0.46Aであることを除き、実施例1と同様の条件で試験片が作製された。なお、実施例3のプラズマ窒化工程における電力密度[W/m2]×(窒素分圧/水素分圧)は4800であり、総エネルギー密度[kJ/m2]×(窒素分圧/水素分圧)は34561であった。
プラズマ窒化工程において、パルス電源の電圧が1800V、Duty比が65%、電流が0.47A、(窒素分圧/水素分圧)が0.375であることを除き、実施例1と同様の条件で試験片が作製された。なお、実施例4のプラズマ窒化工程における電力密度[W/m2]×(窒素分圧/水素分圧)は5071であり、総エネルギー密度[kJ/m2]×(窒素分圧/水素分圧)は36509であった。
プラズマ窒化工程において、パルス電源の電圧が1800V、電流が0.36A、(窒素分圧/水素分圧)が0.8であることを除き、実施例1と同様の条件で試験片が作製された。なお、実施例5のプラズマ窒化工程における電力密度[W/m2]×(窒素分圧/水素分圧)は8251であり、総エネルギー密度[kJ/m2]×(窒素分圧/水素分圧)は59404であった。
プラズマ窒化工程において、パルス電源の電圧が1800V、電流が0.38A、処理時間が240分間であることを除き、実施例1と同様の条件で試験片が作製された。なお、実施例6のプラズマ窒化工程における電力密度[W/m2]×(窒素分圧/水素分圧)は5386であり、総エネルギー密度[kJ/m2]×(窒素分圧/水素分圧)は77555であった。
プラズマ窒化工程において、パルス電源の電圧が1800V、電流が1.20A、処理時間が120分間、(窒素分圧/水素分圧)が2.0であることを除き、実施例1と同様の条件で試験片が作製された。なお、実施例7のプラズマ窒化工程における電力密度[W/m2]×(窒素分圧/水素分圧)は18190であり、総エネルギー密度[kJ/m2]×(窒素分圧/水素分圧)は130968であった。
プラズマ窒化工程において、パルス電源の電圧が1300V、電流が0.24Aであることを除き、実施例1と同様の条件で試験片が作製された。なお、比較例1のプラズマ窒化工程における電力密度[W/m2]×(窒素分圧/水素分圧)は2483であり、総エネルギー密度[kJ/m2]×(窒素分圧/水素分圧)は17876であった。
プラズマ窒化工程において、パルス電源の電圧が1300V、Duty比が60%、電流が0.30Aであることを除き、実施例1と同様の条件で試験片が作製された。なお、比較例2のプラズマ窒化工程における電力密度[W/m2]×(窒素分圧/水素分圧)は3145であり、総エネルギー密度[kJ/m2]×(窒素分圧/水素分圧)は22643であった。
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、プラズマ窒化工程終了時における試験片の表面性状を観察した。このときのSEM画像を図6に示す。いずれの試験片においても、マトリックスの部分と析出物の部分が確認された。窒化処理を施した試験片の析出物は、窒化処理をしていないものと比べて形状の変化が確認され、変化の度合いはプラズマ電圧が高くなるほど、また、窒化処理時間が長いほど大きくなっていた。
XRD解析装置を用いて、プラズマ窒化工程終了時における試験片の表面のX線回折解析を実施した。試験片の表面近傍の情報のみを得るため、傾角入射法により解析を行い、入射角を1.0°とし、X線源としてCuKα線を用いた。XRD解析結果を図7に示す。図7中の点線部は未窒化析出物のピークであり、プラズマ電圧が高いほど、また、窒化時間が長いほど、未窒化析出物のピーク強度が小さくなり、窒化が進行することが確認された。上記表1に示されるように、スクラッチ試験における臨界荷重は比較例1、実施例2、実施例6の順で大きくなっていることから、鋼材の窒化が進むことにより鋼材と珪窒化バナジウム膜の密着性が向上することがわかる。
2 鋼材
2a 窒化層
3 珪窒化バナジウム膜
10 プラズマ処理装置
11 チャンバー
12 陽極
13 陰極
14 パルス電源
15 ガス供給管
16 ガス排気管
Claims (3)
- 表面に窒化層を有する鋼材と、
前記鋼材の前記窒化層の上に形成された珪窒化バナジウム膜と、を備え、
スクラッチ試験における臨界荷重が65N以上である、珪窒化バナジウム膜被覆部材。 - 下記式(1)を満たす条件で鋼材のプラズマ窒化処理を行い、
前記鋼材に形成された窒化層の上に珪窒化バナジウム膜を形成する、珪窒化バナジウム膜被覆部材の製造方法。
(1):3300≦{電力密度[W/m2]×(窒素分圧/水素分圧)}≦35000 - 前記プラズマ窒化処理で、さらに下記式(2)を満たす、請求項2に記載の珪窒化バナジウム膜被覆部材の製造方法。
(2):24000≦{総エネルギー密度[kJ/m2]×(窒素分圧/水素分圧)}≦500000
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