[無電解メッキ抑制組成物]
無電解メッキ抑制組成物は、触媒活性妨害剤と、第1溶媒及び第2溶媒の混合溶媒とを含む。無電解メッキ抑制組成物は、メッキ部品の製造方法に用いられる。例えば、無電解メッキ抑制組成物は、メッキ部品の製造において、基材の無電解メッキ膜の形成を予定していない部分に付与され、無電解メッキ膜の生成を抑制する。
触媒活性妨害剤(触媒失活剤)は、アミド基及びアミノ基の少なくとも一方を有する化合物である。触媒活性妨害剤は、アミド基及びアミノ基の少なくとも一方を有する化合物であれば特に限定されないが、ポリマーであることが好ましい。触媒活性妨害剤が、アミド基及びアミノ基の少なくとも一方を有するポリマー(以下、適宜「アミド基/アミノ基含有ポリマー」と記載する)である場合、その重量平均分子量は、例えば、1000~1,000,000であってもよい。アミド基/アミノ基含有ポリマーは、メッキ部品の製造方法において、様々な種類の基材の表面をポリマー層(以下適宜、「触媒活性妨害層」、又は「妨害層」と記載する)として均一に覆って、そこに留まることができる。これにより、基材の種類、形状及び状態に依存せずに、無電解メッキ膜の生成を抑制できる。この結果、基材の選択の幅が広がる。尚、触媒活性妨害剤の重量平均分子量は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算で測定できる。
アミド基/アミノ基含有ポリマーは、アミド基のみを有するポリマーであってもよいし、アミノ基のみを有するポリマーであってもよいし、アミド基及びアミノ基の両方を有するポリマーであってもよい。アミド基/アミノ基含有ポリマーは、任意のものを用いることができるが、無電解メッキ触媒の触媒活性を妨げる観点からは、アミド基を有するポリマーが好ましく、また、側鎖を有する分岐ポリマーが好ましい。分岐ポリマーにおいては、側鎖がアミド基及びアミノ基の少なくとも一方を含むことが好ましく、側鎖がアミド基を含むことがより好ましい。
アミド基/アミノ基含有ポリマーが無電解メッキ触媒の触媒活性を妨げるメカニズムは定かではないが、以下のように推測される。アミド基及び/又はアミノ基は、無電解メッキ触媒に吸着、配位、反応等して複合体を形成し、これにより無電解メッキ触媒は、アミド基/アミノ基含有ポリマーにトラップされる。特に、分岐ポリマーの側鎖に含まれるアミド基及び/又はアミノ基は自由度が高く、また、分岐ポリマー1分子中には、多数のアミド基及び/又はアミノ基を含むことができる。このため、分岐ポリマーは、複数のアミド基及び/又はアミノ基により、無電解メッキ触媒を効率的且つ強力にトラップできる。例えば、分岐ポリマーは多座配位子として作用し、複数のアミド基及び/又はアミノ基が無電解メッキ触媒に配位してキレート構造を形成できる。この様にトラップされた無電解メッキ触媒は、触媒活性を発揮できない。例えば、パラジウム等の金属が無電解メッキ触媒として妨害層上に付与されると、分岐ポリマーのアミド基及び/又はアミノ基がパラジウムをパラジウムイオンの状態でトラップする。パラジウムイオンは無電解メッキ液中に含まれる還元剤によって還元されて金属パラジウムとなり、無電解メッキ触媒活性を発揮する。しかし、分岐ポリマーにトラップされたパラジウムイオンは、無電解メッキ液中に含まれる還元剤によっても還元されず、触媒活性を発揮できない。これにより、触媒活性妨害層か形成された基材の表面では、無電解メッキ膜の形成が抑制される。ただし、このメカニズムは推定に過ぎず、本発明はこれに限定されない。
アミド基/アミノ基含有ポリマーに含まれるアミド基は、特に限定されず、1級アミド基、2級アミド基、3級アミド基のいずれであってもよく、アミド基/アミノ基含有ポリマーに含まれるアミノ基は、特に限定されず、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基のいずれであってもよい。これらのアミド基及びアミノ基は、ポリマー内に1種類のみが含まれてもよいし、2種類以上が含まれてもよい。
アミド基/アミノ基含有ポリマーとして分岐ポリマーを用いる場合、無電解メッキ触媒の触媒活性を効率的に妨害する観点から、分岐ポリマーに含まれるアミド基は、2級アミド基であることが好ましく、また、アミド基の窒素には、イソプロピル基が結合していることが好ましい。また、分岐ポリマーに含まれるアミノ基は、1級アミノ基(‐NH2)又は2級アミノ基(‐NH‐)が好ましい。
分岐ポリマーの側鎖は、アミド基及びアミノ基の少なくとも一方を有し、更に硫黄を含む基を有してもよい。硫黄を含む基は、上述のアミド基及びアミノ基と同様に無電解メッキ触媒を吸着等する傾向がある。これにより、分岐ポリマーが無電解メッキ触媒の触媒活性を妨げる効果が促進される。硫黄を含む基は、特に限定されず、例えば、スルフィド基、ジチオカルバメート基、チオシアン基であり、好ましくは、ジチオカルバメート基である。これらの硫黄を含む基は、分岐ポリマーの側鎖に1種類のみが含まれてもよいし、2種類以上が含まれてもよい。
分岐ポリマーは、デンドリティックポリマーであることが好ましい。デンドリティックポリマーとは、頻繁に規則的な分岐を繰り返す分子構造で構成されたポリマーであり、デンドリマーとハイパーブランチポリマーに分類される。デンドリマーは、核となる分子を中心に、規則正しく完全に樹状分岐した構造をもつ、直径数nmの球形のポリマーであり、ハイパーブランチポリマーは、完全な樹状構造をもつデンドリマーとは異なり、不完全な樹状分岐をもつポリマーである。デンドリティックポリマーの中でも、ハイパーブランチポリマーは、比較的合成が容易で且つ安価であるため、本実施形態の分岐ポリマーとして好ましい。
デンドリティックポリマーは、自由度の高い側鎖部分が多いため、無電解メッキ触媒に吸着し易く、効率的に無電解メッキ触媒の触媒活性を妨害できる。このため、デンドリティックポリマーは、薄膜化しても触媒活性妨害剤として効率よく作用する。また、デンドリティックポリマーの分散液は高濃度でも低粘度であるため、複雑形状の基材に対しても、均一な膜厚の妨害層を形成できる。更に、デンドリティックポリマーは耐熱性が高い。このため、ハンダリフロー耐性を要求されるメッキ部品に好適である。
デンドリティックポリマーは、アミド基及び/又はアミノ基に加えて、基材との親和性が高い官能基を含んでもよい。これにより、基材と触媒活性妨害層との密着性を強められる。基材との親和性が高い官能基は、基材の種類により適宜選択できる。例えば、基材がポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマー等の芳香環を有する材料である場合、デンドリティックポリマーは芳香環を含むことが好ましい。基材がガラスである場合、デンドリティックポリマーは、ガラスと親和性の高いシラノール基を含むことが好ましい。
本実施形態のデンドリティックポリマーは、例えば、国際公開第2018/131492号に記載されている下記式(1)で表されるポリマーであることが好ましい。下記式(1)で表されるポリマーは、触媒活性妨害剤として効率よく作用する。
式(1)において、A
1は芳香環を含む基であり、A
2はアミド基を含む基であり、A
3は硫黄を含む基であり、R
0は、水素又は炭素数1~10個の置換若しくは無置換の炭化水素基であり、m1は0.5~11であり、n1は5~100である。
A
1は、芳香環を含む基であれば、任意のものを用いることができるが、例えば、下記式(2)で表される基であることが好ましい。
A1が、式(2)で表される基である場合、本実施形態のハイパーブランチポリマーのハイパーブランチ構造は、スチレン骨格を有する。ハイパーブランチ構造がスチレン骨格を有すると、ハイパーブランチポリマーの耐候性、耐熱性が向上する。
ハイパーブランチポリマーは、複数の末端基を有する。上記式(1)で表されるハイパーブランチポリマーの末端基において、A2は、アミド基を含む基であり、A3は、硫黄を含む基である。また、m1は、各末端基におけるアミド基を含む基(A2)の数(繰り返し数)mの平均値である。したがって、m1は整数でなくてもよい。本実施形態のハイパーブランチポリマーは、平均値であるm1が0.5~11であればよく、アミド基を含む基(A2)を有さない末端基を有してもよい。各末端基におけるアミド基を含む基(A2)の数(繰り返し数)mは、例えば、0~11である。式(1)のm1は、分子内におけるアミド基を含む基(A2)の総数(分子内におけるmの合計)を末端基の数で除した商である。m1の値は、NMR法や元素分析法により定量できる。
上記式(1)において、A2はアミド基を含む基であれば特に限定されず、また、A2に含まれるアミド基は、1級アミド基、2級アミド基、3級アミド基のいずれであってもよい。また、A2は、アミド基を1個含む基であってもよいし、2個以上含む基であってもよい。A2は下記式(3)で表される基であることが好ましい。A2が下記式(3)で表される基であると、本実施形態のハイパーブランチポリマーは、金属捕捉能力がより向上する。これにより、無電解メッキ抑制効果がより高まる。
式(3)において、R
1は炭素数が1~5である置換若しくは無置換のアルキレン基、又は単結合であり、R
2及びR
3は、それぞれ、炭素数が1~10である置換若しくは無置換のアルキル基又は水素である。また、式(3)において、R
1は単結合であることが好ましく、R
2は水素であることが好ましく、R
3はイソプロピル基であることが好ましい。
上記式(1)において、A3は、硫黄を含む基であれば特に限定されず、例えば、ジチオカルバメート基、トリチオカーボネート基、スルフィド基、チオシアン基等が挙げられ、中ででも、ジチオカルバメート基であることが好ましい。A3がジチオカルバメート基であると、本実施形態のハイパーブランチポリマーは、合成が容易となり、また、金属捕捉能力が向上する。更に、A3は、下記式(4)で表される基であることが好ましい。
式(4)において、R
4及びR
5は、それぞれ、炭素数が1~5である置換若しくは無置換のアルキル基、又は水素である。また、式(4)において、R
4及びR
5はエチル基であることが好ましい。
上記式(1)において、R0は、水素又は炭素数1~10個の置換若しくは無置換の炭化水素基であれば、任意の炭化水素基を用いることができる。上記炭化水素基は、鎖状若しくは環状の飽和脂肪族炭化水素基、鎖状若しくは環状の不飽和脂肪族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基であってもよい。R0が、置換の炭化水素基である場合の置換基は、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、ビニル基、アリル基、アリール基、アルコキシ基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、アミノ基、イミノ基、ニトロ基、シリル基又はエステル基等であってもよい。また、R0は、無置換の炭化水素基であってもよく、例えば、ビニル基又はエチル基であってもよい。
本実施形態のハイパーブランチポリマーは、式(1)において、R0が異なるハイパーブランチポリマーの混合物であってもよい。例えば、R0が不飽和結合を有する場合、ハイパーブランチポリマーの合成過程において、不飽和結合の一部に何らかの付加反応が生じて飽和結合となる場合がある。この場合、上記式(1)において、R0が不飽和炭化水素基のハイパーブランチポリマーと、R0が飽和炭化水素基のハイパーブランチポリマーとの混合物が得られる。本実施形態のハイパーブランチポリマーは、上記式(1)において、R0がビニル基のハイパーブランチポリマーと、R0がエチル基のハイパーブランチポリマーとの混合物であってもよい。
本実施形態のハイパーブランチポリマーは、数平均分子量が、3,000~30,000であり、重量平均分子量が、10,000~300,000であることが好ましく、数平均分子量が、5,000~30,000であり、重量平均分子量が、14,000~200,000であることがより好ましい。数平均分子量又は重量平均分子量が上記範囲内であれば、無電解メッキ抑制組成物の安定性と、メッキ抑制効果とを両立できる。尚、ハイパーブランチポリマーの重量平均分子量及び数平均分子量は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算で測定できる。
本実施形態のハイパーブランチポリマーの合成方法は、特に限定されず、任意の方法により合成できる。例えば、市販のハイパーブランチポリマーを出発物質として、本実施形態のハイパーブランチポリマーを合成してもよい。また、モノマーの合成、モノマーの重合、末端基修飾等を順に行って、本実施形態のハイパーブランチポリマーを合成してもよい。尚、本実施形態のハイパーブランチポリマーの重量平均分子量及び数平均分子量、式(1)中のm1及びn1は、合成に用いる試薬の比率、合成条件等を任意の方法で調整することにより、所定の範囲内に調整できる。
無電解メッキ抑制組成物中における、触媒活性妨害剤の配合量は、特に限定されないが、無電解メッキ抑制組成物の安定性とメッキ抑制効果とを両立する観点から、上記配合量は、0.2質量%~5.0質量%が好ましく、0.3質量%~2.0質量%がより好ましい。
第1溶媒は、蒸気圧が、0.3kPa~5kPaであり、第2溶媒は、蒸発圧が5kPaより大きい。
メッキ部品の製造において、本実施形態の無電解メッキ抑制組成物は基材上に付与され、溶媒が蒸発することにより基材上に触媒活性妨害層が形成される。このとき、溶媒が急激に蒸発すると周囲の空気が冷却され、空気中の水分が凝結して触媒活性妨害層に混入し、白濁が生じる(ブラッシング、白化)。ブラッシングが生じると、触媒活性妨害層が不均一となり、無電解メッキ膜の生成を十分に抑制できなくなる。この結果、メッキ選択性(メッキ膜有無のコントラスト)が低下する。この現象は、空気中の水蒸気量が多いとき、即ち、多湿環境下において顕著である。一方で、溶媒が蒸発し難いと触媒活性妨害層内に溶媒が残存し、乾燥が不十分となる。乾燥が不十分な場合も、触媒活性妨害層が不均一となりメッキ選択性が低下する。特に、ライン・アンド・スペース(L/S)が小さい微細な配線パターン、アンテナパターン等においてメッキ選択性が不十分となり、短絡が生じる虞がある。
本実施形態では、蒸気圧の異なる第1溶媒及び第2溶媒を用いることで、全溶媒(第1溶媒と第2溶媒との混合溶媒)の蒸発速度を制御する。一般に、溶媒(溶剤)を含む組成物から形成される塗膜(湿潤塗膜)の乾燥プロセスは、次の3つの期間を経る。(I)溶剤が急激に蒸発し始める温度に達するまで塗膜の温度が上昇する湿潤塗膜の材料予熱期間、(II)塗膜から溶剤が蒸発することによって塗膜から奪われる蒸発潜熱と、塗膜が周囲から受け取る熱量との釣合いがほぼ取れている恒率乾燥期間、(III)塗膜中の溶剤がほぼ無くなった後、塗膜が固化し、塗膜の表面温度が上昇して周囲の温度(例えば、乾燥機内雰囲気の温度)に近づいていく減率乾燥期間。そして、塗膜中の溶媒は、(II)恒率乾燥期間に主に蒸発する。一般に、蒸気圧が小さい溶媒は蒸発し難く、蒸気圧が大きい溶媒は蒸発し易い。蒸気圧が比較的小さく蒸発し難い第1溶媒と、蒸気圧が比較的大きく蒸発し易い第2溶媒とを混合することで、(II)恒率乾燥期間において主に蒸気圧が大きい第2溶媒が蒸発し、その後の(III)減率乾燥期間において、蒸気圧が小さい第1溶媒が蒸発する。これにより、ブラッシングを抑制しつつ、混合溶媒を十分に蒸発させることができる。この結果、メッキ抑制組成物は、高いメッキ選択性を示すことができる。本実施形態の無電解メッキ抑制組成物は、ブラッシングが発生し易い多湿環境下においても、同様に高いメッキ選択性を示すことができる。
第1溶媒は、第2溶媒よりも蒸気圧が低い。第1溶媒の蒸気圧は、0.3kPa~5kPaであり、好ましくは、0.5kPa~5kPaであってもよい。第1溶媒を含むことにより、ブラッシングを抑制できる。第2溶媒は、第1溶媒よりも蒸気圧が高い。第2溶媒の蒸気圧は、5kPaより大きく、好ましくは、10kPa以上であってもよい。また、第2溶媒の蒸気圧の上限値は特に限定されないが、例えば、25kPa以下、又は20kPa以下であってもよい。尚、本願明細書において、各溶媒の蒸気圧は、常温(例えば、20~25℃)における平衡蒸気圧を意味する。
第1溶媒としては、例えば、トルエン(2.9kPa、20℃)、シクロヘキサノン(0.6kPa、25℃)、メチルイソブチルケトン(MIBK)(2.1kPa、20℃)、グリコールエーテル、イソプロパノール(IPA)(4.4kPa、25℃)、酢酸ブチル(1.2kPa、20℃)等が挙げられる。グリコールエーテルは、2価アルコールのモノエーテル、又はジエーテルであれば、特に限定されず、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)(0.9kPa、20℃)、エチレングリコールモノメチルエーテル(0.8kPa、20℃)、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(0.3kPa、20℃)等が挙げられる。中でも、第1溶媒としては、トルエン、シクロヘキサノン、MIBKが好ましく、トルエンがより好ましい。これらの溶媒は、単独で用いても2種類以上を混合して用いてもよい。
第2溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン(MEK)(10.3kPa、25℃)、テトラヒドロフラン(THF)(18.9kPa、20℃)、アセトン(24.7kPa、20℃)、1,2-ジメトキシエタン(DMG)(6.4kPa、20℃)等が挙げられ、中でも、MEK、THFが好ましく、MEKがより好ましい。これらの溶媒は、単独で用いても2種類以上を混合して用いてもよい。
第1溶媒の溶解性パラメータと、第2溶媒の溶解性パラメータとの差は、小さい方が好ましい。溶解性パラメータの差が小さければ、第1溶媒と第2溶媒とは相溶性が高まる。これにより、均一な触媒活性妨害層を形成でき、メッキ選択性がより向上する。例えば、第1溶媒の溶解性パラメータと、第2溶媒の溶解性パラメータとの差(差の絶対値)は、0.8以下が好ましく、0.4以下がより好ましい。例えば、第1溶媒が、トルエン、シクロヘキサノン、又はMIBKであり、第2溶媒が、MEK又はTHFであることが好ましい。また、第1溶媒がトルエンであり、第2溶媒がMEKであることがより好ましい。
表1に、主な第1及び第2溶媒の蒸気圧と、溶解性パラメータ(SP値)を示す。
無電解メッキ抑制組成物中において、第2溶媒の配合量(B)は第1溶媒の配合量(A)より多いことが好ましい(B>A)。即ち、第2溶媒が無電解メッキ抑制組成物の主溶媒であることが好ましい。これにより、無電解メッキ抑制組成物の混合溶媒の蒸発を更に促進できる。また、無電解メッキ抑制組成物中において、第1溶媒の配合量(A)の、第2溶媒の配合量(B)に対する質量比(A/B)は、(A/B)=3/97~35/65であることが好ましく、3/97~30/70であることがより好ましい。質量比(A/B)を上記範囲の下限値以上とすることでブラッシングをより抑制でき、上記範囲の上限値以下とすることで混合溶媒の蒸発をより促進できる。この結果、より高いメッキ選択性が得られる。
触媒活性妨害剤は、第2溶媒に溶解可能であることが好ましい。上述のように、第2溶媒は無電解メッキ抑制組成物の主溶媒であることが好ましい。触媒活性妨害剤が主溶媒である第2溶媒に溶解することで、均一な触媒活性妨害層を形成でき、この結果、メッキ選択性がより向上する。触媒活性妨害剤の第2溶媒に対する溶解度は高い方が好ましく、例えば、1(g/100g)以上が好ましく、5(g/100g)以上がより好ましい。尚、本願明細書において、溶解度とは、25℃、常圧(例えば、1気圧)における溶媒100gに溶ける溶質の質量(飽和溶解量)を意味する。触媒活性妨害剤の第2溶媒に対する溶解度を上記値以上とすることで、蒸発し易い第2溶媒が蒸発して触媒活性妨害剤の濃度が上昇しても、触媒活性妨害剤の凝集を抑制できる。この結果、均一な触媒活性妨害層が形成でき、メッキ選択性が更により向上する。
触媒活性妨害剤は、第1溶媒に溶解可能であるか、又は第1溶媒に分散可能であることが好ましい。主に恒率乾燥期間で蒸気圧が相対的大きい第2溶媒の蒸発が進むと、蒸気圧が相対的小さい蒸発し難い第1溶媒の比率が高まる。触媒活性妨害剤が、第1溶媒に溶解可能、又は分散可能であれば、第1溶媒の比率が高まった場合に触媒活性妨害剤の凝集を抑制でき、均一な触媒活性妨害層が形成できる。この結果、メッキ選択性がより向上する。ここで、分散とは、粒子が溶媒中に、一定時間、凝集、沈降等せずに安定に浮遊又は懸濁している状態をいう。例えば、第1溶媒中の触媒活性妨害剤の平均粒子径が250nm未満、好ましくは、150nm未満であるとき、触媒活性妨害剤は第1溶媒に分散していると判断してもよい。尚、第1溶媒中の触媒活性妨害剤の平均粒子径は、汎用の粒度分布測定装置を用いて室温において測定できる。平均粒子径は、例えば、レーザー回折・散乱粒子径分布測定法により求めた体積基準の平均粒子径(算術平均径)であってもよい。
触媒活性妨害剤の第2溶媒に対する溶解度は、第1溶媒に対する溶解度以上であることが好ましく、第1溶媒に対する溶解度より高いことがより好ましい。触媒活性妨害剤の第2溶媒(主溶媒)に対する溶解度が高いことにより、均一な触媒活性妨害層を形成できる。一方で、触媒活性妨害剤の第1溶媒に対する溶解度は、第2溶媒に対する溶解度より低くてもよい。上述のように、第1溶媒の配合量(A)は第2溶媒の配合量(B)より低くてもよい。このため、触媒活性妨害剤の第1溶媒に対する溶解度が低くとも、第2溶媒に対する溶解度が十分に高ければ、均一な触媒活性妨害層を形成できる。均一な触媒活性妨害層を形成する観点からは、触媒活性妨害剤は、第1溶媒と第2溶媒との混合溶媒(全溶媒)に溶解可能であることが好ましい。即ち、触媒活性妨害剤は、無電解メッキ抑制組成物中で溶解していることが好ましい。触媒活性妨害剤が溶解していることで、より均一な触媒活性妨害層が形成でき、メッキ選択性がより向上する。
例えば、上述した式(1)で表されるポリマーを触媒活性妨害剤として用いた場合、触媒活性妨害剤は、第1溶媒であるシクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、第2溶媒であるメチルエチルケトン(MEK)、テトラヒドロフラン(THF)、1,2-ジメトキシエタン(DMG)に溶解可能であり、これらの溶媒に対する触媒活性妨害剤の溶解度は、5.0以上である。一方、式(1)で表されるポリマーを触媒活性妨害剤として用いた場合、第1溶媒であるトルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)に対する触媒活性妨害剤の溶解度は、0.1以下と低いが、これらの溶媒に対して触媒活性妨害剤は分散可能である。
無電解メッキ抑制組成物中における、第1溶媒と第2溶媒との混合溶媒(全溶媒)の配合量(A+B)は、特に限定されないが、例えば、95質量%~99.8質量%、又は、98質量%~99.7質量%である。
無電解メッキ抑制組成物は、触媒活性妨害剤と、第1溶媒と第2溶媒との混合溶媒(全溶媒)のみから構成されてもよい。また、本実施形態の無電解メッキ抑制組成物は、触媒活性妨害剤及び混合溶媒に加えて、界面活性剤、濡れ性調整剤等、汎用の添加剤を含んでもよい。また、本実施形態の効果を阻害しない範囲で、第1及び第2溶媒以外の有機溶剤等を含んでもよい。
本実施形態の無電解メッキ抑制組成物は、汎用の方法により調製できる。例えば、無電解メッキ抑制組成物は、撹拌機、超音波分散機、ミキサー等汎用の装置を用いて、触媒活性妨害剤と、第1溶媒と第2溶媒との混合溶媒と、必要により、その他の添加剤とを混合して調製できる。
本実施形態の無電解メッキ抑制組成物は、例えば、以下の効果を奏する。無電解メッキ抑制組成物は、触媒活性妨害剤を含む。メッキ部品の製造方法において、基材の無電解メッキ膜の形成を予定していない部分に、本実施形態の無電解メッキ抑制組成物を付与することにより、基材の種類、形状及び状態に依存せずに、無電解メッキ膜の形成を予定していない部分での無電解メッキ膜の生成を抑制できる。これにより、メッキ膜を有する部分と、メッキ膜を有さない部分とのコントラストが明確なメッキ部品を製造できる。
また、無電解メッキ抑制組成物は、第1溶媒と第2溶媒との混合溶媒を用いることで、ブラッシングを抑制しつつ、溶媒(混合溶媒)を十分に蒸発させることができる。この結果、高いメッキ選択性(メッキ膜有無のコントラスト)が得られる。本実施形態の無電解メッキ抑制組成物は、ブラッシングが発生し易い多湿環境下においても、同様に高いメッキ選択性を示す。
[メッキ部品の製造方法]
図1に示すフローチャートに従って、本実施形態のメッキ部品の製造方法について説明する。本実施形態で製造するメッキ部品は、選択的にメッキ膜が形成されたメッキ部品であり、基材の表面の一部(所定パターン、所定部分)に無電解メッキ膜が形成されており、それ以外の部分には無電解メッキ膜が形成されていない。
まず、基材の表面に、上述した本実施形態の無電解メッキ抑制組成物を付与する(図1のステップS1)。基材上に付与された無電解メッキ抑制組成物から溶媒(混合溶媒)が蒸発することにより、基材上に触媒活性妨害層が形成される。
基材の材料は特に限定されないが、表面に無電解メッキ膜を形成する観点から絶縁体が好ましく、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、セラミックス及びガラス等を用いることができる。中でも、成形の容易性から、基材は、樹脂から形成される樹脂基材が好ましい。
熱可塑性樹脂としては、ナイロン6(PA6)、ナイロン66(PA66)、ナイロン12(PA12)、ナイロン11(PA11)、ナイロン6T(PA6T)、ナイロン9T(PA9T)、10Tナイロン、11Tナイロン、ナイロンMXD6(PAMXD6)、ナイロン9T・6T共重合体、ナイロン6・66共重合体等のポリアミドを用いることができる。ポリアミド以外の樹脂としては、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート(PC)、アモルファスポリオレフィン、ポリエーテルイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ABS樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミドイミド、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、液晶ポリマー(LCP)、シクロオレフィンポリマー等を用いることができる。中でも、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)、液晶ポリマー(LCP)、ナイロン6(PA6)は、汎用性が高いため、基材の材料として好ましい。尚、これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
熱硬化性樹脂としては、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等を用いることができる。透明な熱硬化性樹脂を用いることで、透明でハンダリフロー耐性を有するデバイス(メッキ部品)を製造できる。光硬化性樹脂としては、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド等を用いることができる。また、セラミックスとしては、アルミナ、窒化アルミ、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸バリウム、シリコンウエハ等を用いることができる。
本実施形態で用いる基材は、市販品であってもよいし、市販の材料から成形等により製造してもよい。また、本実施形態で用いる基材は、内部に発泡セルを有する発泡成形体であってもよい。
基材上に付与された無電解メッキ抑制組成物は、基材上で触媒活性妨害層(妨害層)を形成することが好ましい。妨害層は、基材の耐熱性等の物性や誘電率等の電気特性に影響を与えないように、薄い方が好ましい。妨害層の厚みは、例えば、5000nm以下が好ましく、1000nm以下がより好ましく、300nm以下が更により好ましい。一方で、無電解メッキ触媒の触媒活性を妨害する観点からは、例えば、10nm以上が好ましく、30nm以上がより好ましく、50nm以上が更により好ましい。尚、所定パターン以外での無電解メッキ膜の生成を抑制する観点から、妨害層は、後述する無電解メッキ工程において、少なくとも無電解メッキ液と接触する基材表面の領域に形成することが好ましく、基材の表面全面に形成することがより好ましい。
基材の表面に妨害層を形成する方法は、特に限定されない。例えば、無電解メッキ抑制組成物を基材に塗布してもよいし、無電解メッキ抑制組成物に基材を浸漬してもよい。具体的な形成方法としては、ディップコート、スクリーンコート、スプレーコート等が挙げられる。中でも、形成される妨害層の均一性と作業の簡便性の観点から、無電解メッキ抑制組成物に基材を浸漬する方法(ディップコート)が好ましい。
無電解メッキ抑制組成物に基材を浸漬するときの無電解メッキ抑制組成物の温度及び浸漬時間は特に限定されず、触媒活性妨害剤の種類、形成される妨害層の膜厚等を考慮して適宜決定できる。無電解メッキ抑制組成物の温度は、例えば、0℃~100℃、又は10℃~50℃であり、浸漬時間は、例えば、1秒~10分、又は5秒~2分である。
次に、無電解メッキ抑制組成物を付与した基材の表面の一部を加熱又は光照射する(図1のステップS2)。光を照射する方法は、特に限定されず、例えば、レーザー光を基材の表面に所定パターンに従って照射する方法(レーザー描画)や、光を照射しない部分をマスクした後に、基材の表面全体に光を照射する方法等が挙げられる。基材の表面の一部に光を照射することにより、光が熱に変換され、基材の表面は加熱されると推測される。また、基材の表面に光を照射せずに基材の表面を加熱する方法としては、凸部によりパターンが形成された簡易金型等で基材の表面を直接、熱プレスする方法が挙げられる。作業の簡便性及び加熱部分の選択性に優れていること、更に、パターンの変更及び微細化が容易であることから、レーザー描画により基材を加熱することが好ましい。
レーザー光は、例えば、CO2レーザー、YVO4レーザー、YAGレーザー等のレーザー装置を用いて照射でき、これらのレーザー装置は、妨害層に用いる触媒活性妨害剤の種類に応じて適宜選択できる。
加熱又は光照射された基材の表面の一部(加熱部分)において、妨害層は除去される。ここで、「妨害層の除去」とは、例えば、加熱部分の妨害層が、蒸発により消失することを意味する。妨害層が付与された基材の表面に、所定パターンのレーザー描画を行うことにより、所定パターンの妨害層除去部分と、妨害層が残存している妨害層残存部分とを形成できる。尚、加熱部分である妨害層除去部分では、妨害層と共に基材の表層部分が蒸発して消失してもよい。また、「妨害層の除去」とは、妨害層が完全に消失するだけでなく、後工程の無電解メッキ処理の進行に影響がない程度に妨害層が残存する場合も含む。妨害層が残存していても、後工程の無電解メッキ処理に影響なければ、無電解メッキ触媒の触媒活性を妨害する作用が消失したことになる。更に、本実施形態では、妨害層の加熱部分が変性又は変質して妨害層として作用しなくなる場合も、「妨害層の除去」に含める。例えば、触媒活性妨害剤がアミド基/アミノ基含有ポリマーである場合、アミド基及び/又はアミノ基が変性又は変質し、その結果、アミド基/アミノ基含有ポリマーが無電解メッキ触媒をトラップできない場合が挙げられる。この場合、妨害層の加熱部分は完全に消失するのではなく、変性物(変質物)が残存する。この変性物は、触媒活性を妨害しない。このため、妨害層が変性又は変質した部分も、妨害層が消失した妨害層除去部分と同様の作用を生じる。
次に、加熱又は光照射した基材の表面に無電解メッキ触媒を付与する(図1のステップS3)。無電解メッキ触媒を基材の表面に付与する方法は、特に限定されない。例えば、センシタイザー・アクチベータ法、キャタライザー・アクセラレータ法等、汎用の方法により、無電解メッキ触媒を基材に付与してもよい。また、例えば、特開2017-036486号公報に開示されている塩化パラジウム等の金属塩を含むメッキ触媒液を用いて、基材の表面に無電解メッキ触媒を付与してもよい。尚、金属塩を含むメッキ触媒液としては、市販のアクチベータ処理液を用いてもよい。
次に、基材の表面に無電解メッキ液を接触させる(図1のステップS4)。基材表面には、妨害層が残存している妨害層残存部分と、加熱等により妨害層が除去された、所定パターンの妨害層除去部分が存在する。この基材表面に無電解メッキ触媒を付与して、無電解メッキ液を接触させることにより、所定パターンの妨害層除去部分のみに、無電解メッキ膜を形成できる。
無電解メッキ液としては、目的に応じて任意の汎用の無電解メッキ液を使用しできるが、触媒活性が高く液が安定であるという点から、無電解ニッケルリンメッキ液、無電解銅メッキ液、無電解ニッケルメッキ液が好ましい。
無電解メッキ膜上には、更に、異なる種類の無電解メッキ膜を形成してもよいし、電解メッキにより電解メッキ膜を形成してもよい。基材上のメッキ膜の総厚みを厚くすることにより、所定パターンのメッキ膜を電気回路として用いた場合に電気抵抗を小さくできる。メッキ膜の電気抵抗を下げる観点から、無電解メッキ膜上に積層するメッキ膜は、無電解銅メッキ膜、電解銅メッキ膜、電解ニッケルメッキ膜等が好ましい。また、電気的に孤立した回路には電解メッキを行えないため、このような場合は、無電解メッキにより、基材上のメッキ膜の総厚みを厚くすることが好ましい。また、ハンダリフローに対応できるようメッキ膜パターンのハンダ濡れ性を向上させるために、錫、金、銀等のメッキ膜をメッキ膜パターンの最表面に形成してもよい。
本実施形態のメッキ部品の製造方法は、無電解メッキ抑制組成物を用いることにより、基材の種類、形状及び状態に依存せずに、無電解メッキ膜の形成を予定していない部分での無電解メッキ膜の生成を抑制できる。本実施形態のメッキ部品の製造方法は、メッキ膜を有する部分と、メッキ膜を有さない部分とのコントラストが明確なメッキ部品を製造できる。
また、本実施形態のメッキ部品の製造方法は、無電解メッキ抑制組成物が第1溶媒と第2溶媒との混合溶媒を含むことで、溶媒の蒸発過程において、ブラッシングを抑制しつつ、溶媒(混合溶媒)を十分に蒸発させることができる。この結果、例えば、ブラッシングが発生し易い多湿環境下においても、高いメッキ選択性(メッキ膜有無のコントラスト)が得られる。
尚、上述したメッキ部品の製造方法では、基材に無電解メッキ抑制組成物を付与し(図1のステップS1)、その後、基材の表面の一部を加熱又は光照射する(図1のステップS2)。しかし、本実施形態は、これに限定されず、基材の表面の一部を加熱又は光照射し(図1のステップS2)、その後、基材に無電解メッキ抑制組成物を付与してもよい。例えば、レーザー描画(光照射)した基材の表面は粗化されるため、その上に無電解メッキ抑制組成物を付与しても、無電解メッキを抑制するのに十分な妨害層が形成されない。このため、レーザー描画部分にのみ、選択的にメッキ膜を形成できる。
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例及び比較例により制限されない。
以下に説明する方法により、試料1~15(無電解メッキ抑制組成物)を調製した。試料1~15の組成を表2及び3に示す。尚、試料2~9及び11~15の無電解メッキ抑制組成物は本発明の実施例に相当し、試料1及び10は本発明の比較例に相当する。
[試料1]
触媒活性妨害剤として、下記式(5)で表されるハイパーブランチポリマーを、国際公開第2018/131492号に開示される方法により合成した。
式(5)で表されるハイパーブランチポリマーは、式(1)で表されるポリマーであり、式(1)において、A1が式(2)で表される基であり;A2が式(3)で表される基であって、R1が単結合であり、R2が水素であり、R3がイソプロピル基であり;A3が式(4)で表されるジチオカルバメート基であり、R4及びR5がエチル基であり、R0がビニル基又はエチル基である。
合成したハイパーブランチポリマーの分子量をGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)で測定した。分子量は、数平均分子量(Mn)=9,946、重量平均分子量(Mw)=24,792であり、ハイパーブランチ構造独特の数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)とが大きく異なった値であった。
合成した式(5)で表されるハイパーブランチポリマーと、第2溶媒(MEK)とを表2に示す組成比率で混合し、試料1(無電解メッキ抑制組成物)を調製した。
[試料2~9]
試料2~9は、第2溶媒(MEK)に加えて第1溶媒(トルエン)を含むこと以外は、試料1と同様の方法により調製した。試料2~9中において、第1溶媒の配合量(A)の、第2溶媒の配合量(B)に対する質量比(A/B)は、表2に示す値とした。
[試料10]
試料10は、第2溶媒(MEK)を含まず、代わりに第1溶媒(トルエン)を含むこと以外は、試料1と同様の方法により調製した。
[試料11~14]
試料11~14は、第2溶媒(MEK)に加えて第1溶媒を含むこと以外は、試料1と同様の方法により調製した。試料11~14では、第1溶媒として表3に示す化合物を用い、第1溶媒の配合量(A)の、第2溶媒の配合量(B)に対する質量比(A/B)は表3に示す値とした。
[試料15]
試料15は、第2溶媒としてMEKに変えてTHFを用い、更に第2溶媒に加えて第1溶媒(トルエン)を含むこと以外は、試料1と同様の方法により調製した。試料15では、第1溶媒の配合量(A)の、第2溶媒の配合量(B)に対する質量比(A/B)は表3に示す値とした。
以上説明した試料1~15に用いた第1及び第2溶媒に対する、触媒活性妨害剤の溶解度を表2及び表3に併せて示す。第1溶媒として用いたシクロヘキサノン、MIBK、第2溶媒として用いたMEK及びTHFに対して、触媒活性妨害剤は溶解可能であった。これらの溶媒に対する触媒活性妨害剤の溶解度は、5.0以上であった。一方、第1溶媒であるトルエン、PGM、IPAに対する触媒活性妨害剤の溶解度は、0.1以下と低かったが、IPA以外の溶媒、即ち、トルエン及びPGMに対して触媒活性妨害剤は分散可能であった(第1溶媒中の触媒活性妨害剤の平均粒子径が250nm未満)。
[評価方法]
試料1~15について、以下の評価を行った。評価結果を表2及び3に示す。
(1)ブラッシング(白化)評価
試料1~15それぞれをディップコーターにより板状のガラス基材(松浪硝子工業社製、大型スライド白縁磨No.2)に温度:25℃、湿度:80%の多湿環境下で塗布し(ディップコート)、温度:80℃で5分間乾燥させ、膜厚約100nmの触媒活性妨害層をカラス基材上に形成した。触媒活性妨害層を目視により観察し、以下の価基準に基づいてブラッシングを評価した。
<ブラッシングの評価基準>
○:目視でブラッシングが認められなかった。
×:目視でブラッシングが認められた。
(2)ヘイズ値の測定
ブラッシング評価で形成した、試料1~15の触媒活性妨害層それぞれのヘイズ値をヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH2000)を用いて測定した。尚、ヘイズ値は、その値が小さい程、触媒活性妨害層において光散乱が生じていない(曇っていない)ことを示す。即ち、ヘイズ値が小さい程、触媒活性妨害層において、ブラッシング及び触媒活性妨害剤の凝集が生じておらず、均一な層が形成されていると判断できる。
(3)無電解メッキ選択性の評価
まず、汎用の射出成形機を用いてポリフェニレンサルファイド(帝人株式会社製、ガラス繊維強化PPS 1040G、黒色)を5cm×8cm×0.2cmの板状体に成形した。この板状体を基材として用いた。試料1~15それぞれを、温度:25℃、湿度:80%の多湿環境下で基材に塗布し(ディップコート)、温度:80℃で5分間乾燥させた。これにより、膜厚約100nmの触媒活性妨害層を基材上に形成した。
触媒活性妨害層を形成した基材にYVO4レーザー(キーエンス製、MD-V9929WA、波長1064nm)を用いて、下記の配線パターンA及びBをレーザー描画した。レーザー描画時のパワーは80%、周波数は40kHz,線速度は600mm/sとした。
配線パターンA(L/S=0.5mm/0.5mm):0.1mmピッチの格子パターンによって形成されたライン(0.5mm×5mm)をスペース0.5mmにて5本描画。
配線パターンB(L/S=0.2mm/0.2mm):0.05mmピッチの格子パターンによって形成されたライン(0.2mm×5mm)をスペース0.2mmにて5本描画。
レーザー描画した基材に、市販の無電解メッキ用触媒液(奥野製薬工業製、センシタイザー、アクチベータ)を用い汎用の方法により、無電解メッキ触媒を付与した(センシタイザー・アクチベータ法)。次に、無電解メッキ触媒を付与した基材を60℃に調整した無電解ニッケルリンメッキ液(奥野製薬工業製、トップニコロンLPH-L、pH6.5)に10分間浸漬した。これにより、試料1~15それぞれを用いて作製したメッキ部品を得た。
作製したメッキ部品それぞれの表面を目視およびマイクロスコープ顕微鏡にて観察し、以下の評価基準に従って無電解メッキの選択性を評価した。
<無電解メッキ選択性の評価基準>
○:配線パターンA及びB両方において、隣接する配線間の短絡(繋がり)が無かった。
△:配線パターンA(L/S=0.5mm/0.5mm)では、配線間の短絡(繋がり)が無いが、配線パターンB(L/S=0.2mm/0.2mm)では、一部の隣接する配線間に短絡が認められた。
×:配線パターンA及びB両方において、一部の隣接する配線間に短絡(繋がり)が認められた。
表2及び3に示すように、試料2~9及び11~15(無電解メッキ抑制組成物)は、いずれも、多湿環境下での触媒活性妨害層の形成においてブラッシングが生じず、高いメッキ選択性(メッキ膜有無のコントラスト)を示した(評価結果:〇又は△)。また、試料2~9及び11~15の触媒活性妨害層のヘイズ値は、2.0%以下と低かった。これから、試料2~9及び11~15の触媒活性妨害層は、ブラッシング及び触媒活性妨害剤の凝集が生じておらず、均一であると判断できる。
中でも、質量比(A/B)=3/97~30/70を満たす試料2~8及び11~15は、より高いメッキ選択性を示した(評価結果:〇)。試料2~8及び11~15と比較して、試料9のメッキ選択性がやや低い(評価結果:△)原因は、質量比(A/B)がやや高いため((A/B)=35/65)、混合溶媒の乾燥が不十分となり触媒活性妨害層が不均一となったためと推測される。
尚、試料2~9及び11~15では第2溶媒が主溶媒であり、第2溶媒に対する触媒活性妨害剤の溶解度は5.0(g/100g)以上であった。試料2~9及び11~15において、触媒活性妨害剤は第1溶媒と第2溶媒との混合溶媒中に溶解していた。
一方、第1溶媒を含まない試料1では、ブラッシングが生じ、この結果、メッキ選択性が低下した。試料1の触媒活性妨害層のヘイズ値が高い原因は、ブラッシング(白化)である。また、第2溶媒を含まない試料10では、ブラッシングは生じなかったが、メッキ選択性が低かった。この原因は、第2溶媒を含まないため溶媒の乾燥が不十分だったためと推測される。試料10の触媒活性妨害層は、ブラッシングが生じていないがヘイズ値が高かった。この原因は、触媒活性妨害層中で触媒活性妨害剤が分散しているためである。