JP7298841B2 - 熱産生タンパク質発現促進剤 - Google Patents
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Description
UCP-1は褐色脂肪組織(BAT ; Brown adipose tissue)やベージュ細胞に発現しており、熱産生タンパク質とも呼ばれている。
一方、我国において全国民の約6 人に1 人、40〜74 歳の男性に限れば2 人に1 人が、メタボリックシンドロームに該当、もしくはその予備軍であると見込まれており、肥満症の改善は喫緊の課題である。
肥満の成因は多食など摂取したカロリー量だけではなく、個々のエネルギー消費や基礎代謝の高低も大きく影響している。さらに肥満者や糖尿病患者では、熱産生や基礎代謝がいっそう低下し、たとえ食事量を見直しても、肥満を解消することが困難となる。基礎代謝は体内での熱産生とも大きく関係しており、基礎代謝の低下は、基礎体温の低下につながり、ひいては免疫が下がるなどして、多くの疾病へと発展する恐れがある。
体内でのUCP-1発現を促進することができれば、熱産生、エネルギー消費の増加を通して、メタボリックシンドロームの治療や、肥満改善が期待される。
[1] サンショウの精油を主成分とする熱産生タンパク質発現促進剤
[2] 熱産生タンパク質がUncoupling protein 1 (UCP-1)であることを特徴とする請求項1記載の熱産生タンパク質発現促進剤
[3] 精油が、β-ミルセン、リモネン、β-フェランドレン、シトロネラール、酢酸ゲラニル、ゲラニオールの2成分以上の組み合わせからなることを特徴とする請求項1~2記載の熱産生タンパク質発現促進剤
[4]精油の揮発成分を吸引して効果を得ることを特徴とする請求項1~3記載の熱産生タンパク質発現促進剤
[5]サンショウの精油を主成分とするメタボリックシンドローム改善剤
本発明のサンショウ精油には、サンショウ属植物(Zanthoxylum)のうち、サンショウ(Zanthoxylum piperitum)、また同属異種のカホクサンショウ(Zanthoxylum simulans Hance.)、ヒレサンショウ(Zanthoxylum beecheyanum) 、アメリカサンショウ(Zanthoxylum americanum)、トウサンショウ(Zanthoxylum simulana)、イヌザンショウ(Zanthoxylum schinifolium)、カラスザンショウ(Zanthoxylum ailanthoides)、フユザンショウ(Zanthoxylum armatum) を用いることができるが、その中でもサンショウ(Zanthoxylum piperitum)を用いることが特に好ましい。
さらにサンショウの系統品種としてブドウサンショウ、アサクラザンショウ(Zanthoxylum piperium f. inerme)、ヤマアサクラザンショウ(Zanthoxylum piperium f. brevispinum)等、竜神山椒を用いることができるが、特にブドウサンショウが好ましい。
またスプレー等を用いてティッシュや布、不織布に滲み込ませてそこから発生する揮発成分を吸引させる方法にて、さらにはマスクにしみこませて装着することによって吸引して使用することもできる。
(サンショウ精油の製造)
サンショウとして、ブドウサンショウを用いた。種抜きを行った乾燥サンショウ(JAありだ)をハンマーミル(HM-100、ラボネクト株式会社製)にて乾式で粉砕を行った。次に水道水に懸濁した粉砕物2 kgをコロイドミル(株式会社シンマルエンタープレイゼス社製)にて、ギャップサイズ0.1 mmで湿式粉砕を行った。この微粉砕液をアロマ蒸留機(株式会社本村製作所社製)に投入し、さらに水道水を加え、最終的に40 Lとした。100℃に達するまでは蒸留釜に直接蒸気を15 kg/hで、100℃以降は、ジャケットに水蒸気を10 kg/hの流量で送り間接的に加熱した。品温100℃に到達した時点から1時間の常圧蒸留を行った。
得られた精油は114 mlで、乾式粉砕物当たりの収率は57 ml/kgであった。
(通常マウスでの吸引投与による褐色脂肪組織におけるUCP-1遺伝子発現増強)
近交系マウスC57BL6bマウス(8週令)を導入後、1週間にわたり実験環境(12時間の明暗サイクル、23℃)に慣らした後、1匹用マウスケージにサンショウ精油成分200 μlを吸着させたアロマストーン1枚を装着し吸引暴露させた。あらかじめ、ケージ内のアロマ成分濃度の経時的変化を調べるため、時間ごとのケージ内(半密封、1500 cm3)の空気を採取し、ガスクロマトグラフィーで定量した。その結果12時間で約半分に低下することから、12時間毎にアロマストーンを交換することとした。
上記の条件下、各時間ポイントごとに3匹のマウスを用いて、サンショウ精油を5時間、24時間、48時間、72時間、吸引暴露させた後に、褐色脂肪組織を摘出し、そのTotal RNAを抽出した。リアルタイムPCRキット(タカラバイオ)を用いて、RNAからcDNAを合成したのち、Thermal cycler Dice TP870リアルタイムPCR装置(タカラバイオ)を用いて、サンショウ精油成分暴露によって発現誘導された内在性のUCP-1 mRNA量を定量した。また、変化しない内部標準遺伝子として18S ribosomal RNAを同様に定量してUCP-1発現量を内部標準遺伝子の発現量で補正した。 UCP-1 mRNA定量のために用いたプライマーの配列及び18S ribosomal RNA のプライマーは以下の通りである。UCP-1; Forward primer; 5’-CAC TCA GGA TTG GCC TCT ACG AC-3’ 、Reverse prime; 5’-GCT CTG GGC TTG CAT TCT GAC-3’ 18S ribosomal RNA; Forward primer ; 5’-GTA ACC CGT TGA ACC CCC ATT-3’、Reverse prime; 5’- CCA TCC AAT CGG TAG TAG CG -3’
生理学的に嗅覚刺激は順応する(選択的疲労:1つの匂いに反応しなくなる)ことが知られており、このような誘導パターンとなるのは順応によるものと考えられた。
(Thermo Mouse(FVB/N-Tg(UCP-1-luc2-tdTomato)1Kajim/J 、The Jackson Laboratory)を用いた発光生体イメージング法による解析)
UCP-1遺伝子転写調節領域を含む遺伝子座をルシフェラーゼ・レポーター遺伝子に連結させた外来遺伝子を導入されたThermo Mouse(UCP-1/ルシフェラーゼ・レポーター遺伝子導入トランスジェニックマウス)を用いて、実施例2の条件下と同様に同一個体にサンショウ精油成分を5時間、24時間、48時間、72時間暴露後、ルシフェラーゼ・レポーター遺伝子発現量を生体イメージング装置IVIS-XR(Caliper社製)を用いて、発光強度を指標に定量解析した。
マウスの褐色脂肪組織付近をカバーするように関心領域を設定し、また発光に関与しない領域をバックグラウンド領域として定量し、関心領域の値からバックグラウンド量を差し引いた値を用いた。同じ面積の関心領域を各マウス個体の発光部位に重ね合わせて、イメージング装置に付属する解析ソフトを用いて発光量を定量解析した。
尚、この発光イメージング法を用いれは、同一個体で動物を殺すことなく何度でもモニターすることが可能となる。目的とするレポーター遺伝子を変えることによって、その他のアロマ成分の定量にも用いることができるものと考えられる。
この結果より、サンショウ精油の吸引によりUCP-1遺伝子発現量が増加したことが分かった。よって、UCP-1タンパク質も発現増加していることが示唆される。
ここで、図3において24時間後の発現誘導が、刺激前の10〜12倍となっているのは、1)レポータータンパク量と発光量との間の増幅効率が関与していること、また2)レポータータンパクであるルシフェラーゼのタンパク質自体の半減期とUCP-1 mRNA の半減期が異なるためであると考えられた。すなわち、定常状態においてレポータータンパク質の半減期が内在性のUCP-1 mRNAより不安定で分解されているものと考えられる。刺激前の発光がほとんど見られないのはそのためであると思われる。
(サンショウ精油の香気分析)
山椒精油の香気成分はガスクロマトグラフィー(GC)を用いて行った。精油をアセトンで 50 倍希釈してサンプルとした。
分析条件は次の通りである。
GC装置:GC-2014(島津製作所製)、カラム: DB-WAX 0.25 mmφ×30 m 膜厚0.25 μm(アジレント・テクノロジー製)、注入方法: スプリット(スプリット比 50:1)、注入口温度: 250℃、試料注入量: 1 μl、カラム温度: 40℃(2分)→6℃/分→220℃(13分)
香気分析の結果を表1に示す。表では、各成分のピークの面積比を含有%として示した。サンショウ精油中に含まれる香気成分は、多い順にリモネン、酢酸ゲラニル、β-フェランドレン、シトロネラール、β-ミルセン、ゲラニオールであった。リモネンが大部分を占めるグレープフルーツ精油とは異なり、サンショウ精油は6割以上がリモネン以外の成分で構成されていることが分かった。
(各精油におけるリモネンの定量)
リモネン標準品は、(R)-(+)-リモネン(和光純薬工業株式会社)を用いた。これを、アセトンで50 ppm、100 ppm、500 ppm、1,000 ppm、5,000 ppm、10,000 ppmとなるように調製した。試験例1で示した条件でGC分析を行い、リモネンのピークの面積と濃度で、検量線を作成した。この検量線を用いて、サンショウ精油およびグレープフルーツ精油(株式会社 生活の木)に含まれるリモネンを定量した。尚、今回用いたグレープフルーツ精油の香気成分比は、表2に示した通りである(含有%は、メーカーの試験成績表より)。
定量の結果、サンショウ精油には約324,000 ppm、グレープフルーツ精油にはその約2.2倍量の709,000 ppmのリモネンが含まれていることが分かった。
(リモネン単独暴露とグレープフルーツ精油暴露によるUCP-1レポーター発光量)
本発明のサンショウの精油を用いた熱産生タンパク質発現促進剤には、グレープフルーツ精油に含まれ、その活性成分であるとされるリモネンも含有されている。試験例2の結果から、サンショウの精油に含まれるリモネン含有量と同量のリモネン単独、及び同量のリモネンを含むグレープフルーツ精油をThermo Mouseに吸引暴露し、実施例3で示した条件下でUCP-1/ルシファラーゼレポーター発光量で比較した。
尚、サンショウ精油、グレープフルーツ精油およびリモネン標準品を用いた比較実験において、アロマストーン1枚あたりの滴下量を、サンショウ精油は200 μL、グレープフルーツ精油は91 μL、リモネン標準品は77 μLとすることで、暴露するリモネン量を同量にした。
また図5には、1)リモネン単独、2)同量のリモネンを含むグレープフルーツ精油、3)同量のリモネンを含むサンショウ精油をそれぞれ吸引暴露し、生体イメージング装置IVIS-XRでUCP-1/ルシファラーゼレポーター発光量を比較した結果を示している。
リモネン、グレープフルーツ精油でもUCP-1 遺伝子誘導効果があった。しかし、同等の量のリモネン単独暴露に比し、サンショウ精油暴露24時間における発光量は2.9 ~ 3倍程度高かった。さらにその95%がリモネンであるグレープフルーツ精油による刺激に比べても、サンショウ精油の方が2.9倍程度高かった。
また刺激に対する反応の持続性を見ると、サンショウ精油では、48時間、72時間経過後もピーク時の50%以上の発光量を維持していたが、リモネン、グレープフルーツ精油では50%以下であった。このことから、サンショウアロマでは効果の持続性においても優れていることが分かった。
以上のことから、サンショウ精油成分に含まれる他の成分もUCP-1遺伝子発現増強や感度の維持に関与していることが示され、サンショウ精油の香気成分組成特有の効果であることが分かった。
Claims (3)
- 水蒸気蒸留法により得られたサンショウ精油を主成分とし、前記精油の揮発成分を吸引して効果を得ることを特徴とする熱産生タンパク質発現促進剤。
- 熱産生タンパク質がUncoupling Protein 1(UCP-1)であることを特徴とする請求項1記載の熱産生タンパク質発現促進剤。
- 水蒸気蒸留法により得られたサンショウ精油を主成分とし、前記精油の揮発成分を吸引して効果を得ることを特徴とするメタボリックシンドローム改善剤。
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Life Sciences,2016年,Vol.153,pp.198-206 |
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