JP7296756B2 - ステンレス鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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X=30(C+N)+0.5Mn+Ni-1.3Cr+11.8 (1)
ここで、(1)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量が代入され、無添加の元素については0(ゼロ)が代入される。
本実施形態に係るステンレス鋼板は、Niが偏析したNi偏析層を有する。本発明におけるNi偏析層とは、Ni濃度が最大となる部分と、Ni濃度が最小となる部分とのNi濃度差が1.5質量%以上であるステンレス鋼板の層と定義される。ここで、Ni濃度が最大となる部分と、Ni濃度が最小となる部分との間の直線距離は300μm以下であることが好ましい。
(凝固組織の形態)
本実施形態に係るステンレス鋼板は、凝固組織の形態の指標となる下記(1)式により定まるX値が3未満である化学組成を有することが好ましく、X値が0以下である化学組織を有することがより好ましい。
ここで、(1)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量が代入され、無添加の元素については0(ゼロ)が代入される。
C(炭素)は、鋼の強度を向上させる元素である。ただし、C含有量が高くなりすぎると延性・靱性が低下する。また、多量のC添加はエッチング液に溶解しないスマット発生の原因となり、エッチング性を低下させる。そのため、C含有量は0.08%以下に制限されることが好ましい。
Si(ケイ素)は、製鋼での脱酸作用を有する元素である。ただし、多量のSi含有はSi酸化物を主体とする硬質な介在物の形成を招き、強度、疲労特性、およびエッチング性に悪影響を及ぼす。したがって、Si含有量は1.00%以下に制限されることが好ましい。
Mn(マンガン)は、製鋼での脱酸作用を有する元素である。ただし、多量のMn含有はMn系の硬質な介在物の形成を招き、強度およびエッチング性が低下する要因となるため、Mn含有量は2.50%以下に制限されることが好ましい。
P(リン)およびS(硫黄)は、ステンレス鋼板の靱性を低下させる元素である。そのため、Pは0.045%以下に、Sは0.030%以下にそれぞれ制限されることが好ましい。
Ni(ニッケル)は、偏析によってステンレス鋼板のエッチング性を向上させる元素である。また、靱性向上にも有効である。Ni濃度の偏析を大きくするため、Ni含有量は7.00%以上であることが好ましい。ただし、Niは高価な元素であるため、製造コストの観点から15.00%以下に制限されてもよい。
Cr(クロム)は、ステンレス鋼板の耐食性向上に有効な元素である。Crの含有量は、16.00%以上であることが好ましい。ただし多量のCrは靱性低下の要因となるため、Crの含有量は20.00%以下に制限されることが好ましい。
Mo(モリブデン)は、耐食性向上に有効な元素である。Mo含有量は、2.00%以上であること好ましい。ただし、Moは高価な元素であるためコスト上昇を招くことから、Mo含有量は3.00%以下に制限されることが好ましい。
Cu(銅)は、オーステナイト層の安定化に有効な元素である。Cu含有量は、2.50%以上であることが好ましい。ただし、過度のCu添加は製造性の低下を招くので、Cu含有量は4.00%以下であることが好ましい。
N(窒素)は、Cと同様、鋼の強度向上に寄与する元素である。ただし、過度にNを含有させると表面欠陥が生じやすくなるため、N含有量は0.06%以下に制限されることが好ましい。
B(ホウ素)は、熱間加工性向上に有効な元素である。ただし、多量の添加は延性に悪影響を及ぼすので、B含有量は0.01%以下に制限されることが好ましい。
本実施形態に係るステンレス鋼板の製造方法について説明する。当該製造方法は、熱間圧延工程と、焼鈍工程とを含む。なお、熱間圧延工程および焼鈍工程以外の工程については、従来一般的なステンレス鋼板の製造方法に従って実施してよい。
熱間圧延工程では、ステンレス鋼板の素材となる素材スラブに熱間圧延処理を施した後に、得られた熱延鋼板をコイル状に巻取る。ここで、熱間圧延処理における圧延率は97%以下とする。このような圧延率であれば、熱間圧延処理において発生するひずみの蓄積が緩和され、Ni偏析消失のための駆動力が低下する。そのため、熱延鋼板が有するNi偏析が熱間圧延処理によって消失しにくい。
次に、熱延鋼板を軟質化するために、当該熱延鋼板に焼鈍を施す焼鈍工程を実施する。焼鈍工程における焼鈍温度は、900℃以上1000℃以下とする。このように、焼鈍温度を金属組織の再結晶に必要な最低限の温度範囲に設定することにより、焼鈍工程におけるNi偏析消失を低減できる。
本実施形態に係るステンレス鋼板をエッチング加工する場合に用いられるエッチング液の種類および濃度には特に制限がない。エッチング液は例えば、通常用いられる塩化第二鉄水溶液または塩化第二鉄を含む塩酸溶液等であってよい。また、エッチング加工の方法についても、ステンレス鋼板表面へのエッチング液のスプレーまたはステンレス鋼板のエッチング液への浸潤等、通常用いられる方法を用いてよい。
以下の表1に示す化学成分を有する素材スラブを用いてステンレス鋼板を製造した。このとき、熱間圧延工程における巻取り温度および焼鈍工程における焼鈍温度については、以下の表2に示す巻取り温度および焼鈍温度を用いた。
実施例1~4および比較例1のステンレス鋼板表面における偏析層を把握するために、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)によって各ステンレス鋼板表面の分析を行った。EPMAは、日本電子株式会社製のJXA-8530F Plusを使用した。より具体的には、各ステンレス鋼板におけるFe、Cr、Ni、およびCuの濃度について、EPMAを使用した各ステンレス鋼板表面のマッピング分析を行った。マッピング分析の測定範囲は1000μm2とした。
次に、実施例1~4および比較例1のステンレス鋼板の表面におけるNi濃度のライン分析を行った。ライン分析にも、上述のEPMAを用いた。ライン分析では、上述のマッピング分析によりNiの偏析が確認された部分について、ステンレス鋼板の圧延方向に対し垂直方向に300μmの直線を設定し、当該直線上におけるNi濃度を分析した。同様の分析を10視野について行い、各視野について、得られたNi濃度が最大となる部分と、Ni濃度が最小となる部分とのNi濃度差を求め、当該Ni濃度差について10視野の平均値を算出した。得られた平均値を、表2の「偏析層の濃度差(質量%)」に示した。
実施例1~4および比較例1のステンレス鋼板に対して、エッチング処理を実施し、各ステンレス鋼板のエッチング性を調査した。まず、各ステンレス鋼板を5質量%オルソケイ酸ナトリウムに浸漬し、60℃条件下でアノード電流を5A/dm2となるように10秒流すことで、アルカリ電解脱脂処理を行った。その後、各ステンレス鋼板を30℃条件下で5質量%塩酸に10秒浸漬して中和処理を行った。そして、40g/L塩酸を含む14質量%塩化第二鉄溶液をエッチング液として、中和処理後の各ステンレス鋼板を当該エッチング液に浸漬し、55℃条件下で4時間反応させることでエッチング処理を行った。エッチング処理後の各ステンレス鋼板について、板厚の減少量(μm)を測定した。
Claims (3)
- 質量%で、C:0.08%以下、N:0.06%以下、Si:1.00%以下、Mn:2.50%以下、Ni:7.00~15.00%、およびCr:16.00~20.00%を含有し、かつ
下記(1)式により定まるX値が3未満であり、残部がFeおよび不可避的不純物である化学組成を有するステンレス鋼板であって、
Niが偏析した偏析層を有し、
前記偏析層は、前記ステンレス鋼板の表面について、前記ステンレス鋼板の圧延方向に対して垂直な方向に設定した直線上でNi濃度をライン分析した結果において、Ni濃度が最大となる部分と、Ni濃度が最小となる部分とのNi濃度差が1.5質量%以上であり、
前記Ni濃度が最大となる部分と、前記Ni濃度が最小となる部分との間の距離が300μm以下である、ステンレス鋼板。
X=30(C+N)+0.5Mn+Ni-1.3Cr+11.8 (1)
ここで、(1)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量が代入され、無添加の元素については0(ゼロ)が代入される。 - 質量%で、Mo:2.00~3.00%、Cu:2.50~4.00%、P:0.045%以下、S:0.030%以下、およびB:0.01%以下からなる群から選択される1種以上をさらに含有する、請求項1に記載のステンレス鋼板。
- Niが偏析した偏析層を有するステンレス鋼板の製造方法であって、
前記ステンレス鋼板は、質量%で、C:0.08%以下、N:0.06%以下、Si:1.00%以下、Mn:2.50%以下、Ni:7.00~15.00%、およびCr:16.00~20.00%を含有し、かつ
下記(1)式により定まるX値が3未満であり、残部がFeおよび不可避的不純物である化学組成を有し、
前記偏析層は、前記ステンレス鋼板の表面について、前記ステンレス鋼板の圧延方向に対して垂直な方向に設定した直線上でNi濃度をライン分析した結果において、Ni濃度が最大となる部分と、Ni濃度が最小となる部分とのNi濃度差が1.5質量%以上であり、
前記Ni濃度が最大となる部分と、前記Ni濃度が最小となる部分との間の距離が300μm以下であり、
巻取り温度を400℃以上700℃以下とし、圧延率を97%以下とする熱間圧延工程と、
焼鈍温度を900℃以上1000℃以下とする焼鈍工程と、を含む、ステンレス鋼板の製造方法。
X=30(C+N)+0.5Mn+Ni-1.3Cr+11.8 (1)
ここで、(1)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量が代入され、無添加の元素については0(ゼロ)が代入される。
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