以下、図面を参照しながら、本開示に係る物体検知装置の実施形態について説明する。
図1は、第1の実施形態に係る車載システム100が搭載された車両1の構成の一例を示す図である。図1に示すように、車両1は、操舵制御装置30、速度制御装置40、車両制御装置50、HMI(Human Machine Interface)装置60、およびセンサ制御装置70を備える。本実施形態においては、車載システム100は、操舵制御装置30、速度制御装置40、車両制御装置50、HMI装置60、およびセンサ制御装置70を含むものとする。なお、車両1には、さらに他の装置が搭載されても良い。また、図1では操舵制御装置30、速度制御装置40、車両制御装置50、HMI装置60、およびセンサ制御装置70を別個の装置として図示しているが、これらの装置の一部または全てが統合されても良い。
また、車両1は、複数のソナー21a~21d,22a~22d、撮像装置16a,16b、およびレーダー17a,17bを備える。
複数のソナー21a~21d,22a~22dは、本実施形態における複数の測距手段の一例である。複数のソナー21a~21d,22a~22dのうち、ソナー21a~21dは車両1の前端部に設けられる。また、ソナー22a~22dは車両1の後端部に設けられる。以下、個々のソナー21a~21d,22a~22dを特に区別しない場合には、ソナー21,22という。また、ソナー21a~21dを総称する場合には前方ソナー21という。また、ソナー22a~22dを総称する場合には後方ソナー22という。また、ソナー21,22は、測距装置とも呼ばれる。
ソナー21,22は、車両1上で、周囲の物体の検知または測距に有利な位置に配置される。例えば、複数のソナー21,22は車両1の前端部および後端部のバンパー上に、距離を置いて配置され、車両1の前後の物体を検知する。
ソナー21,22は、車両1に備えられて超音波を発信し、車両1の周囲の物体が反射した反射波を受信するまでの時間を計測することにより、車両1の周囲の物体を検知するとともに、検知した物体までの距離情報を得る。なお、本実施形態で「物体」または「障害物」という場合には、歩行者および他の車両を含むものとする。また、車両1が走行するのに障害とならないもの、例えば路面の凹凸等は障害物には含まれない。
より詳細には、車両1の前端部の中央右寄りには第1の前方センターソナー21aが設けられ、車両1の前端部の中央左寄りには第2の前方センターソナー21bが設けられる。また、車両1の前端部において、第1の前方センターソナー21aよりも右側の角部の近くに、第1の前方コーナーソナー21cが設けられる。また、車両1の前端部において、第2の前方センターソナー21bよりも左側の角部の近くに、第2の前方コーナーソナー21dが設けられる。
また、車両1の後端部の中央右寄りには第1の後方センターソナー22aが設けられ、車両1の後端部の中央左寄りには第2の後方センターソナー22bが設けられる。また、車両1の後端部において、第1の後方センターソナー22aよりも右側の角部の近くに、第1の後方コーナーソナー22cが設けられる。また、車両1の後端部において、第2の後方センターソナー22bよりも左側の角部の近くに、第2の後方コーナーソナー22dが設けられる。
図1では、第1の前方センターソナー21aが物体を検知可能な範囲を検知範囲210a、第2の前方センターソナー21bが物体を検知可能な範囲を検知範囲210b、第1の前方コーナーソナー21cが物体を検知可能な範囲を検知範囲210c、第2の前方コーナーソナー21dが物体を検知可能な範囲を検知範囲210dとする。個々の検知範囲210a~210dを特に区別しない場合には、単に検知範囲210という。
また、第1の後方センターソナー22aが物体を検知可能な範囲を検知範囲220c、第2の後方センターソナー22bが物体を検知可能な範囲を検知範囲220b、第1の後方コーナーソナー22cが物体を検知可能な範囲を検知範囲220c、第2の後方コーナーソナー22dが物体を検知可能な範囲を検知範囲220dとする。個々の検知範囲220a~210dを特に区別しない場合には、単に検知範囲220という。
なお、図1では各検知範囲210,220を分離して図示しているが、実際には、隣接するソナー21,22の検知範囲210,220同士は重複する。
例えば車両1が前進する場合には、車両1の前端部が車両1の進行方向側となるため、第1の前方センターソナー21aが第1の中央測距手段の一例となり、第2の前方センターソナー21bが第2の中央測距手段の一例となる。第1の前方センターソナー21aおよび第2の前方センターソナー21bは、車両1の進行方向を指向して設けられている。また、この場合、第1の前方コーナーソナー21cが第1のコーナー測距手段の一例となり、第2の前方コーナーソナー21dが第2のコーナー測距手段の一例となる。また、車両1の前端部が車両1の進行方向側となる場合、第1の前方センターソナー21aおよび第1の前方コーナーソナー21cが車両1の進行方向から右寄りの方向を指向して設けられた右側測距手段の一例となる。この場合、第2の前方センターソナー21cおよび第2の前方コーナーソナー21dが車両1の進行方向から右寄りの方向を指向して設けられた左側測距手段の一例となる。
また、第1の前方センターソナー21a、第2の前方センターソナー21b、第1の後方センターソナー22a、第2の後方センターソナー22bを特に区別しない場合には、単にセンターソナー21a,21b,22a,22bという。また、第1の前方コーナーソナー21c、第2の前方コーナーソナー21d、第1の後方コーナーソナー22c、第2の後方コーナーソナー22dを特に区別しない場合には、単にコーナーソナー21c,21d,22c,22dという。なお、以下、本実施形態においては、主として車両1の進行方向が前方である場合を例として、具体的な説明を記載するが、例えば、車両1の進行方向が後方である場合には、前方ソナー21を用いて例示した機能について、後方ソナー22に当てはめて適用しても良い。
車両1が前方に直進する場合、車両1の進行方向に位置する障害物は、内寄りの第1の前方センターソナー21aおよび第2の前方センターソナー21bにより検知される。また、車両1が前方に向かって左折または右折する場合、左折または右折先に位置する物体は、第1の前方コーナーソナー21cまたは第2の前方センターソナー21bにより検知される。また、車両1の右側方から、車両1の右前方に障害物が進入する時は、第1の前方コーナーソナー21cまたは第1の前方センターソナー21aが最初に検知する。また、車両1の左側方から、車両1の左前方に障害物が進入する時は、第2の前方コーナーソナー21dまたは第2の前方センターソナー21bが最初に検知する。
また、ソナー21,22の設置場所および数は、図1に示す例に限定されるものではない。なお、ソナー21,22の機能の詳細は後述する。
また、撮像装置16a,16bは、車両1の周囲を撮像するカメラである。図1では、撮像装置16aは車両1の前端部に設けられ、車両1の前方を含む周囲を撮像可能である。また、撮像装置16bは車両1の後端部に設けられ、車両1の後方を含む周囲を撮像可能である。撮像装置16a,16bの設置場所、および数は図1に示す例に限定されるものではない。
なお、後方の撮像装置16bは必須ではなく、撮像装置16aのみが車両1に搭載されていても良い。以下、撮像装置16a,16bを特に区別しない場合には、単に撮像装置16という。撮像装置16は、本実施形態における撮像手段の一例である。
また、レーダー17a,17bは、車両1の周囲の物体を検知し、当該物体と車両1との距離を測距する。例えば、レーダー17aは、車両1の前方に位置する先行車両と車両1との間の距離を測距する。また、レーダー17bは、車両1の後方に位置する後続車両と車両1との間の距離を測距する。個々のレーダー17a,17bを区別しない場合、単にレーダー17という。レーダー17は、例えばミリ波等の電波を発して、物体により反射された電波を受信する。なお、レーダー17の設置場所、および数は図1に示す例に限定されるものではない。
なお、ソナー21,22、撮像装置16、レーダー17を総称して検知装置としても良い。また、車両1は、さらにLiDAR(Light Detection and Ranging、またはLaser Imaging Detection and Ranging)等の他の検知装置を備えても良い。また、車両1は、撮像装置16およびレーダー17のいずれか、または両方を備えなくとも良い。また、車両1は、GPS(Global Positioning System)信号を受信可能なアンテナ、および受信したGPS信号に基づいて車両1の位置を表すGPS座標を特定するGPS装置(不図示)を備えても良い。
操舵制御装置30は、車両1の舵角を制御する。操舵制御装置30は、舵角制御装置ともいう。操舵制御装置30は、例えば、車両1のパワーステアリングの操舵補助に有利な位置に配置される。
速度制御装置40は、車両1の加速、および制動を制御する。速度制御装置40は、例えば、エンジンまたはモーターとブレーキの制御に有利な位置に配置される。
車両制御装置50は、車両1の各種挙動を制御する装置であり、例えば操舵制御装置30および速度制御装置40の近傍に配置される。
HMI装置60は、情報を表示可能なディスプレイと、ユーザによる操作を受け付け可能なタッチパネルまたはスイッチ等を含む。なお、ディスプレイとタッチパネルとは一体の装置として構成されても良い。ディスプレイは、表示部ともいう。タッチパネルおよびスイッチを、操作部ともいう。また、HMI装置60に含まれる表示部および操作部は、運転席周辺に配置される。
センサ制御装置70は、ソナー21,22を制御する。なお、センサ制御装置70は、さらに、撮像装置16およびレーダー17を制御しても良い。あるいは、上述の車両制御装置50が撮像装置16およびレーダー17を制御しても良い。
センサ制御装置70と、ソナー21,22とは、本実施形態における物体検知装置の一例である。なお、センサ制御装置70単体を物体検知装置の一例としても良い。また、物体検知装置は、車載システム100全体、あるいは車載システム100に含まれる操舵制御装置30、速度制御装置40、車両制御装置50、およびHMI装置60のいずれかが含まれるものとしても良い。
操舵制御装置30、速度制御装置40、車両制御装置50、HMI装置60、およびセンサ制御装置70は、例えばCAN(Controller Area Network)等のローカルエリアネットワークで有線接続される。また、ソナー21,22、撮像装置16およびレーダー17は、ローカルエリアネットワークに接続しても良いし、センサ制御装置70または車両制御装置50と専用の配線で接続されても良い。
次に、センサ制御装置70のハードウェア構成について説明する。図2は、第1の実施形態に係るセンサ制御装置70のハードウェア構成の一例を示す図である。図2に示すように、センサ制御装置70は、CPU(Central Processing Unit)11A、ROM(Read Only Memory)11B、RAM(Random Access Memory)11C、I/F(インタフェース)11D、フラッシュメモリ11E等がバス11Fにより相互に接続されており、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成となっている。
CPU11Aは、センサ制御装置70全体を制御する演算装置である。なお、CPU11Aは、プロセッサの一例であり、他のプロセッサまたは処理回路がCPU11Aの代わりに設けられても良い。ROM11Bは、CPU11Aによる各種処理を実現するプログラム等を記憶する。RAM11Cは、例えばセンサ制御装置70の主記憶装置であり、CPU11Aによる各種処理に必要なデータを記憶する。I/F11Dは、データを送受信するためのインタフェースである。また、I/F11Dは、車両1内のCAN等を介して車両1に搭載された他の装置との間で情報の送受信をしても良い。また、フラッシュメモリ11Eは書き込み可能な不揮発性の記憶媒体の一例である。ROM11B、RAM11C、およびフラッシュメモリ11Eは、記憶部ともいう。なお、センサ制御装置70は、フラッシュメモリ11Eの代わり、あるいはフラッシュメモリ11Eに加えて、HDD(Hard Disk Drive)等の他の記憶装置を備えても良い。
また、操舵制御装置30、速度制御装置40、車両制御装置50、およびHMI装置60のハードウェア構成についても、例えば、CPU等の処理回路、ROM、RAM、I/F、およびフラッシュメモリ等を備えるものとする。
また、図3は、第1の実施形態に係るセンサ制御装置70が備える機能一例を示すブロック図である。図3に示すように、本実施形態のセンサ制御装置70は、取得部701と、シーン判定部702と、制御部703とを備える。
取得部701は、ソナー21,22またはレーダー17によって測距された距離情報、車両1の速度を示す車速情報、撮像装置16により得た画像データ、または、車両1の位置を示す位置情報を取得する。
画像データは、本実施形態における画像情報の一例である。取得部701は、撮像装置16から直接画像データを取得しても良いし、車両制御装置50を介して画像データを取得しても良いし、車両制御装置50が行った歩行者検知の結果を取得しても良い。
なお、画像データを処理して歩行者の像を検出し、歩行者の位置を推定する技術があるが、画像処理による歩行者の特定は、精度に課題がある。この精度の課題は、信頼性の課題と正確性の課題とを含んでいる。画像処理による歩行者の特定は、画像内に歩行者の辞書画像と輪郭線の形が似た像があれば歩行者の像を検出したと判定するものであり、例えば水たまりの輪郭線が辞書画像と似ていれば、歩行者がいると判定し、三輪車を漕ぐ子供の様に、輪郭線が辞書画像と似ていなければ、歩行者がいないと判定する。つまり歩行者の有無の判定の信頼性に課題があり、この点で精度が高いと言えない。
また、画像処理による歩行者までの距離の特定は、歩行者の脚部の先端の位置を足の位置として推定し、歩行者の足が水平な路面上に位置すると仮定して距離に換算するが、例えば、歩行者の脚部の影を脚部の一部と誤認すると、足の位置の推定を誤る事になるし、路面に傾斜があると距離への換算で誤差が生じる事になる。つまり歩行者までの距離の正確性に課題があり、この点でも精度が高いと言えない。
本実施例の物体検知装置は、物体が歩行者か否かを判別するものではないが、ソナーによって歩行者等を高精度に検知することができる物体検知装置であり、画像データはシーンの判定に利用している。なお、発明者は画像処理による歩行者検知を否定するものではない。例えば、画像処理で歩行者と推定した物体の位置が、ソナーで特定した物体の位置と概ね符合する場合に、ソナーで特定した位置に歩行者がいると判定して、それに応じた減速や制動を行うようにしても良い。
また、取得部701は、速度制御装置40または車両制御装置50から車速情報を取得する。
また、車両1の位置を示す位置情報は、車両1の位置が地図上で特定された情報である。位置情報は、例えば、車両制御装置50が、GPS装置等から取得した情報と、車両制御装置50の記憶部に記憶された地図情報とに基づいて特定した情報である。なお、位置情報の生成手法および取得手法は特に限定されるものではなく、公知の技術を採用可能である。
シーン判定部702は、取得部701によって取得された距離情報、車速情報、画像データ、または、位置情報、のうち少なくともいずれかに基づいて、車両1の置かれたシーンを判定する。シーン判定部702は、本実施形態におけるシーン判定手段の一例である。
本実施形態において、「シーン」とは、車両1が置かれた状況、または車両1の周囲の環境の状態を意味する。例えば、シーン判定部702は、車両1の置かれたシーンが、横断歩道接近シーン、先行車両接近シーン、車歩混在シーン、または通常シーンのいずれであるかを判定する。
横断歩道接近シーンは、車両1が横断歩道に向かって接近しているシーンである。先行車両接近シーンは、車両1が先行車両に接近して後続しているシーンである。車歩混在シーンは、車両1の周囲に他の車両と歩行者とが混在する可能性が高いシーンである。また、通常シーンは、横断歩道接近シーン、先行車両接近シーン、車歩混在シーンのいずれにも該当しないシーンであり、その他のシーンともいう。各シーンの詳細は後述する。
制御部703は、シーン判定部702により得られたシーン判定結果に基づいて、ソナー21,22が反射波を検知する感度を一時的に大きくする高感度領域の設定、または、超音波を発信する発信間隔、または、超音波を発信する発信順序、のうち少なくともいずれかを変更する。なお、発信順序の変更には、複数のソナー21,22のうちの一部のソナーの発信を停止することも含む。
ソナー21,22が反射波を検知する感度は、ソナー21,22が受信した反射波を、障害物によって反射された反射波であると判定する条件である検知閾値によって変化する。また、感度はソナー21,22の受信回路の増幅率を変える事によっても変化する。検知閾値、および増幅率については、図5で後述する。また、超音波を発信する発信間隔とは、ソナー21,またはソナー22のいずれかが超音波を発信してから、次にソナー21,またはソナー22のいずれかが超音波を発信するまでの時間の間隔である。
また、超音波を発信する発信順序は、複数のソナー21,22の超音波を発信する順番である。複数のソナー21,22が同時に、または短い時間間隔で発信すると、一つの障害物から複数の反射波が重なって受信される混信が起きるため、反射波の受信タイミングから距離を特定する事が困難になる。そこで、別のソナーが発信した超音波による反射波との混信を防ぐため、複数のソナーの21,22各々の超音波の発信のタイミングが重複したり接近したりしないよう、制御部703により発信の時刻が制御される。また、車両1が停車中、または低速走行している時は、ソナー21,22が向けられた複数の方向の障害物を均等に検知するため、全てのソナー21,22が一定の順序に従って同じ頻度で、同じ時間間隔を置いて発信する。しかし、車速が比較的高めであると、車両1の進行方向の検知の頻度を高める事が必要になり、かつ、コーナーソナー21c,21dが向けられた方向で障害物を検知しても、当該障害物が車両1と接触する可能性が低くなる事から、コーナーソナー21c,21dの発信を止めて、センターソナー21a,21bだけを発信させる発信順序の変更を行う事がある。
取得部701、シーン判定部702、および制御部703は、センサ制御装置70のCPU11Aによってプログラムが実行されることにより実現される。本実施形態のセンサ制御装置70で実行されるプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD-ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD-R、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供される。また、本実施形態のセンサ制御装置70で実行されるプログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成しても良い。また、本実施形態のセンサ制御装置70で実行されるプログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成しても良い。また、本実施形態のセンサ制御装置70で実行されるプログラムを、ROM11B等に予め組み込んで提供するように構成してもよい。
なお、本実施形態においては、制御部703を、ソフトウェアによって実現される機能として説明するが、「制御部」は当該ソフトウェアによって実現される機能以外を意味しても良い。例えば、センサ制御装置70全体を「制御部」の一例としても良いし、センサ制御装置70のCPU11Aを、「制御部」の一例としても良い。また、なお、センサ制御装置70全体を「シーン判定手段」の一例としても良いし、センサ制御装置70のCPU11Aを、「シーン判定手段」の一例としても良い。あるいは、車両制御装置50を「シーン判定手段」の一例としても良いし、車両制御装置50のCPUを、「シーン判定手段」の一例としても良い。
なお、シーン判定部702は、センサ制御装置70以外の装置、例えば、車両制御装置50の機能であっても良い。また、シーン判定部702が車両制御装置50の機能である場合、車両制御装置50は、上述の取得部701の機能も備えるものとする。この場合、センサ制御装置70の取得部701は、車両制御装置50からシーン判定部702によるシーン判定結果を取得しても良い。
次に、ソナー21,22の詳細について説明する。図4は、第1の実施形態に係るソナー21,22の構成の一例を示す図である。個々のソナー21,22は、ソナーモジュールともいう。ソナーモジュールは、コントローラ23、駆動回路241、受信回路242、圧電素子25、およびマスク26を備える。また、コントローラ23は、タイマー231、通信回路232、波形メモリ233、判定回路234、および閾値メモリ235を備える。また、コントローラ23は、伝送路27を介してセンサ制御装置70と接続する。なお、コントローラ23は、車両制御装置50とも伝送路27を介して接続してもよい。
ソナー21,22は、圧電素子25に電圧が印加されることにより、超音波を発信する。例えば、コントローラ23が駆動回路241を制御して、圧電素子25に50KHzの電圧を印加することにより、圧電素子25が同じ周波数の超音波を発信する。発信される超音波はパルス状である。当該パルス状の超音波は、路面や障害物に当たると反射して、一部がソナー21,22に返って来る。
そして、圧電素子25は、返ってきた反射波の音圧を電圧に変換する。圧電素子25は、本実施形態における変換手段の一例である。受信回路242は、圧電素子25によって音圧から変換された電圧を増幅した上で整流し、音波受信強度に変換する。当該変換された音波受信強度の時間変化を示す波形を「エコー波形」という。受信信号と増幅された受信信号は交流であり、音波受信強度は増幅された受信信号を整流したものなので、交流と直流の違いがあるが、いずれも受信信号を処理して得られたものなので、交流か直流かで区別せず、一括して受信信号と呼ぶ事がある。受信回路242は、圧電素子25によって音圧から変換された電圧を増幅する不図示の増幅回路(アンプ)を備える。受信回路242に含まれる増幅回路または受信回路242は、本実施形態における増幅手段の一例である。
図5は、第1の実施形態に係るエコー波形の一例を示すグラフである。図5に示すグラフの横軸は距離および時間、縦軸は強度(dB)、すなわち音波受信強度を示す。エコー波形は、コントローラ23の波形メモリ233に記憶される。
遠くの物体ほど、超音波がソナー21,22から発信されてからソナー21,22に返るまでの時間が長いため、発信から受波までの時間の長さを、ソナー21,22から物体までの距離の長さに換算できる。ソナー21,22は車両1の端部に設けられているので、ソナー21,22から物体までの距離は、車両1から物体までの距離と略同じである。以下、ソナー21,22から物体までの距離を、車両1から物体までの距離と表現する事がある。
超音波を反射する物体のうち、車両1の走行の妨げになる物体を障害物と呼び、車両の走行の妨げにならない物体を非障害物と呼ぶ。非障害物には、路上の小さな石や路面の段差などの凹凸や、路面自体が含まれる。このような非障害物からの反射波を検知しないようにするために、音波受信強度の閾値が設定される。音波受信強度の閾値は、検知閾値ともいう。また、音波受信強度の閾値を単に閾値と呼んでも良い。当該検知閾値は、コントローラ23の閾値メモリ235に記憶される。また、当該検知閾値は、センサ制御装置70の制御部703によって変更される。
検知閾値以下の反射は、非障害物による反射波として、検知対象から除外される。また、超音波は空気中で急速に減衰するので、車両1から物体までの距離が遠くなるほど、エコー波形の高さ、つまり反射波の強度が低くなる。このため、図5に示すように、検知閾値は、車両1からの距離が長いほど小さくなるように設定される。また、車両1からの距離は、超音波の発信から当該超音波による反射波の受信までの時間の長さに対応するため、検知閾値は、超音波の発信から当該超音波による反射波の受信までの時間の長さが長いほど、小さくなる。つまり、検知閾値は、単一の数値ではなく、異なる距離に対応付けられた複数の値であり、エコー波形の上では折れ線や曲線で表される。
車両1からの距離が同じであれば、検知閾値が低いほど障害物と判定されやすくなる。このため、検知閾値が低いほど、ソナー21,22の感度が高くなる。また、エコー波形は受信回路242における増幅率によっても変わるので、増幅率もソナー21,22の感度に関係する。増幅率が一定の場合、車両1からの距離が長いほど音波が減衰するためにエコー波形は右下がりの波形となる。しかし、受信回路242における増幅率を右上がりで増す事により、この音波の減衰率を相殺すると、エコー波形が概ね水平な波形となるように補償することが出来る。このように、音波の減衰率を増幅率で補償する場合は、検知閾値も概ね水平に設定する。
エコー波形の上で障害物からの反射波を示すパルス波形は幅を持っており、そのパルス幅は「ソナーから障害物の異なる部位までの距離の違いの範囲」に相当するので、エコー波形のパルスの立ち上がりまでの時間を距離に換算する事で、ソナーから(車両1から)障害物までの最短距離を算出できる。
コントローラ23の判定回路234は、増幅された受信信号を閾値メモリ235に記憶された検知閾値と比較する事により、車両1の周囲の物体を検知する。より正確には、増幅された受信信号を整流して音波受信強度とし、この音波受信強度を検知閾値と比較するのであるが、煩雑を避ける為に、単に、受信信号を検知閾値と比較する、の様に記す事がある。判定回路234は、検知閾値を超える強度の反射波が受波された場合に、障害物を検知したと判定し、障害物を検知したこと、および車両1から障害物までの距離を示す距離情報を通信回路232に送出する。通信回路232は、障害物を検知したこと、および車両1から障害物までの距離を示す距離情報を、伝送路27を介して車両制御装置50およびセンサ制御装置70に送信する。判定回路234は、本実施形態における検知手段の一例である。
また、図5では1回分の発信に対応するエコー波形受波結果をグラフとして示したが、ソナー21,22は、時間間隔をおいて繰り返し超音波を発信する。ソナー21,22による超音波の発信間隔を、検知間隔ともいう。検知間隔は、センサ制御装置70の制御部703によって制御される。
図6は、第1の実施形態に係る検知間隔の一例を示す図である。図6に示す例では、検知間隔は、超音波が発信される発信タイミングt1と発信タイミングt2、発信タイミングt2と発信タイミングt3、および発信タイミングt3と発信タイミングt4の間の時間間隔である。
車両1の周辺にソナーを備えた他の車両がある場合、当該他の車両のソナーが発した超音波や、その超音波の反射波を、車両1のソナー21,22が受信することがある。このため、ソナー21,22は、誤検知を避けるために、例えば3回連続して発信から受信までの時間が同じ反射波を受信した場合にだけ障害物があると判定する、という様な誤検知対策をとる。しかしながら、歩行者は形状が変わるので、反射波の強度が一定しないことがあり、このような誤検知対策のために検知されない結果となる場合もある。
歩行者が検知されない回があっても、検知の回数が多ければ3回数以上、連続して検知される確率が高くなる。このため、検知間隔を短くして検知回数を増やした方が歩行者検知の為には有利である。しかし、検知間隔を短くすると、検知可能な距離が短くなる。例えば、音速が340m/sの場合に、障害物で反射波した音波が発信から20msec後に戻った場合は、340m/s ×0.02s÷2=3.4mの距離に障害物があると判る。ここで、発信間隔を20msecと仮定すると、3.4mより遠い位置で反射した音波は、発信した音に隠されてしまうので、3.4m未満の範囲しか検知できないが、発信間隔を40msecに広げると、6.8mまでの距離にある障害物が検知出来る様になる。つまり、発信間隔の時間の長さと障害物を検知可能な距離の長さは比例する。
本実施形態においては、このような発信間隔で制限される検知可能な距離を「発信間隔で制限される可測距離」と呼ぶ。発信間隔で制限される可測距離は、「発信間隔で制限される可測距離=音速×発信間隔÷2」の式により求められる。
通常は、発信間隔で制限される可測距離はソナー21,22で検知可能な標準的な可測距離に合わせて設定する。標準的な可測距離とは、例えばソナーの性能として仕様書に書かれる検知距離であり、所定の条件で検知が可能である距離の上限である。つまり、発信した音波が、他の車両などの標準的な物体に反射した場合に、所定の強度以上の反射波を受信できる標準的な可測距離と、発信間隔で制限される可測距離が同じになる様に設定する。標準的な可測距離と発信間隔で制限される可測距離が異なる場合、標準的な可測距離と発信間隔で制限される可測距離のうち、小さい方が実効的な可測距離となる。以後、本実施形態においては、可測距離d1を、標準的な可測距離と発信間隔で制限される可測距離のうち小さい方の値、として定義する。
図7は、第1の実施形態におけるソナー21の可測距離の一例を示す図である。図7に示すように、車両1からソナー21の検知範囲210の終端までの距離を、ソナー21が障害物を検知すること、および当該障害物までの距離を計測することが可能な可測距離d1とする。
例えば、音速が340m/sの時に、発信間隔を60msecとすると、上述の「発信間隔で制限される可測距離=音速×発信間隔÷2」の式により、発信間隔で制限される可測距離は約10mとなる。なお、10mは一例であるが、一般にソナー21,22で検知可能な距離、つまり、発信した音波が標準的な物体に反射すると、所定の強度の反射波を受信できる標準的な可測距離に概ね相当する。つまり、この例では、発信間隔で制限される可測距離と、標準的な可測距離は同じなので、可測距離d1は両者と一致する。ここで発信間隔を短くすると、発信間隔で制限される可測距離は発信間隔に比例して短くなり、可測距離d1は10m未満となる。これは、標準的な可測距離より短いので、可測距離が短くなる分だけ、損な設定であると言える。逆に、発信間隔を長くすると、発信間隔で制限される可測距離は発信間隔に比例して長くなるが、標準的な可測距離を超える距離では反射波が弱まって受信できなくなるので、可測距離d1は10mのままである。これは、検知の頻度が減る分だけ、損な設定であると言える。このように、可測距離d1は標準的な可測距離で制限され、検知間隔を無暗に長くしても可測距離d1は伸びないので、発信間隔で制限される可測距離が、標準的な可測距離と同じになるように検知間隔を設定するのが一般的な設定である。本実施形態においてセンサ制御装置70は、「通常シーン」の場合、一般的な設定と同様に、発信間隔で制限される可測距離が、標準的な可測距離と同じになるように発信間隔を設定する。
次に、検知閾値の設定について説明する。本実施形態において、「通常シーン」の場合は、センサ制御装置70は、音波受信強度の検知閾値を下げる操作は特にしない。ここで、検知閾値を下げる操作はしない、ということは、検知閾値を音波の減衰曲線に沿って設定し、そこから下げない、という意味である。この場合、図5で説明したように、反射波は距離に応じて、減衰曲線に従って減衰し、遠方で反射したものほど強度が小さくなるため、検知閾値は、距離に対応する発信からの時間に応じて、音波の減衰曲線に沿って値が小さくなるように設定される。このように、音波の減衰率を補償するように検知閾値を設定した場合、検知範囲全体で、ソナー21,22の感度が一定となる。
図8は、第1の実施形態に係る、通常シーンにおける障害物の検知の一例を模式的に表す図である。図8は、図5のエコー波形のグラフとは異なり、距離による反射波の減衰率を増幅率で相殺して、グラフが水平になるように補償したものである。この場合、距離による反射波の減衰の影響が増幅率で相殺されているので、通常シーンでは、検知閾値は一定となる。このように、音波の減衰率を補償するように増幅率を制御し、検知閾値は一定とした場合も、検知範囲全体で、ソナー21,22の感度が一定となる。「通常シーン」における、検知範囲全体で一定である感度を、通常感度と呼ぶ事にする。
また、「通常シーン」の場合は、センサ制御装置70は、4個のソナー21の発信順についても、初期設定から特に変更しない。初期設定の発信順は、例えば第1の前方コーナーソナー21c、第1の前方センターソナー21a、第2の前方センターソナー21b、第2の前方コーナーソナー21dの順である。発信間隔を60msecとすると、4個のソナーの発信が一巡するのに240msecを要する。例えば、車両1の正面にある障害物からのエコーが、第1の前方センターソナー21a、第2の前方センターソナー21bが超音波を発信した場合に検知可能であり、「2回連続して検知した場合に障害物と判定する」という条件があると仮定すると、当該障害物を判定するのに360msecを要する。
また、車速が20km/hの時、障害物と判定するまでの360msecの間に車両は2m前進し、障害物と判定した時点で非常制動を行うとして、停止までに更に前進する。車速が更に高くなると、制動を開始するまでの時間が長くなり、制動してから停止するまでの制動距離も車速に応じて長くなるので、ソナーで検知した障害物の手前では停止できなくなる。この様に、ソナー21,22で衝突を回避できる車速には上限があるので、センサ制御装置70は、車速が閾値を超えるとソナー21,22を停止させる。当該閾値をソナー作動閾値という。ソナー作動閾値は、例えば20km/hとするがこれに限定されない。
また、「通常シーン」の場合は、センサ制御装置70は、距離による反射波の減衰に対応して検知閾値を設定して、検知範囲全体における感度を通常感度にする。シーンが「通常シーン」から別のシーンに変わった時、特定の範囲における検知閾値を小さくすることで、当該範囲におけるソナー21,22の感度を上げることができる。ここで、範囲とは、車両1からの距離によって規定される空間の範囲を指す。感度が通常感度よりも高感度である範囲を、高感度領域と呼ぶ。
図9は、第1の実施形態に係る感度の変化の一例を示す図である。図9も、図8と同様に、距離による反射波の減衰を増幅で相殺して、グラフが水平になるように補償されたものとする。図9に示す例では、一部の範囲が、他の範囲よりも検知閾値の値が低い高感度領域に設定されている。すると、通常感度の範囲であれば反射波の強度が閾値を越えないために障害物として検知されない物体が、高感度領域においては検知閾値を超えるため障害物として検知される。
センサ制御装置70の制御部703は、反射波を検知する感度が通常感度である通常度領域と、反射波を検知する感度が高感度である高感度領域とをシーン判定部702が判定するシーンに応じて決定する。
また、図9を用いて、ソナー21,22による物体の検知処理についてさらに説明をする。超音波を発信した時点から反射波を受信した時点までの時間は、発信された超音波が物体で反射されて戻ってくるまでの飛行時間(FT:フライトタイム)であり、飛行時間を音速で割って更に半分にすると、ソナー21,22から物体までの距離が得られる。反射波を受信した時点は、反射波が閾値を越えて検知された時点であるとしてFTを特定し、FTから物体までの距離を算出しても良い。図8の様に反射波が複数ある場合は、反射波の一つ一つについて、FTから距離を算出する処理を行う。この処理を発信から次の発信まで続けたものを1回の検知処理と呼ぶ。
ソナー21,22は、図9に示す検知処理1~4の様に検知処理を繰り返す。また、検知処理の都度、物体までの距離を算出して、距離情報の変化を追跡するトラッキングと呼ばれる処理が実行される。
なお、トラッキングの処理の実行主体は特に限定されるものではないが、例えば、車両制御装置50によって実行されても良い。あるいは、センサ制御装置70、または車載システム100に含まれる他の装置がトラッキングの処理を実行しても良い。
例えば、トラッキングにより物体の距離の減少する速さ、つまり接近速度を算出して、車両1の車速と接近速度が誤差範囲内で一致するなら、物体は移動しておらず、静止物であると判定する事ができる。図9に示す例では、検知処理が進むごとに、超音波の発信から反射波が返ってくるまでのFTが短くなっているため、物体と車両1との距離が接近していることがわかる。
一つの物体が反射した音波を複数のソナーで受信した時の個々のFTを三辺測量の原理で処理すると、当該物体の座標情報が得られる。この座標上の追跡もトラッキングに含まれる。また、ソナー21,22と同じ高さにある障害物と、ソナー21,22よりも低い位置にある路上の物体とでは、車両1が接近した時に検知される距離の変化の仕方が異なる。例えば、路上に車両1が回避しなくともよい、小さな物体が存在する場合は、車両1が垂直な壁に向かって接近する場合と違って、ソナーと物体との間で高低差があるために、直線距離で定義される接近速度が、ソナーが物体に接近した時に低下する現象が発生し、この現象を捉える事で物体の高さが車体に届かない事が解る場合がある。このような車両1が接近した時に検知される距離の変化の仕方に基づいて、衝突回避が必要な障害物と、衝突回避が不要な路上の物体とを判別することも、トラッキングにより可能になる。
図9に示す例では、高感度領域は、検知範囲210のうち、通常感度領域よりも検知閾値が低い範囲である。高感度領域においては、通常感度領域よりも、物体がソナー21,22によって検知されやすくなる。図9では、高感度領域において検知閾値を下げる事により感度を上げているが、高感度領域において増幅率を上げる事によって感度を上げても良い。この場合のグラフは図示を省くが、高感度領域と高感度領域でない領域とで検知閾値を変化させず、高感度領域での増幅率を、高感度領域としない時の増幅率よりも大きくする事によって感度を上げる。または、検知閾値の変更と、増幅率の変更の両方で、感度を上げてもよい。例えば、高感度領域の近端、つまり、高感度領域のソナー21,22に近い方の端では検知閾値の変更だけで感度を上げ、高感度領域の遠端、つまり、高感度領域のソナー21,22から遠い方の端では増幅率の変更だけで感度を上げ、高感度領域の近端と遠端の間では、検知閾値の変更と増幅率の変更の両方で感度を上げるようにしても良い。
何れの手段でも、高感度領域では、歩行者が反射した微弱なエコーを検知することが期待できるが、路面の凹凸の様に障害物ではない物からのエコーも検知閾値を超えることがある。このような、衝突回避が不要な物からのエコーの検知を不要検知と呼ぶ。ソナー21,22は他の車両のソナーが発した超音波などの妨害波や、走行する車両1または他の車両のタイヤが発するノイズなども受信しており、このような妨害波やノイズが検知閾値を越えた時にも不要検知が発生する。
不要検知か否か、つまり衝突回避が不要な物からのエコーか否かを判別する為に、複数回の検知処理で得られた位置情報の一貫性を評価するトラッキングを行い、一貫性のある位置情報が得られないエコーは、不要検知であると判定して棄却し、以後の処理を行わない。逆を言うと、トラッキングするまでは不要検知であると判定して棄却することができないため、不要検知も含めてトラッキングすることになる。
トラッキングでは、例えば車両制御装置50は、複数のソナー21,22の各々について検知した各々のエコーの受信時刻から各々の距離情報を算出し、各々のソナー21,22を起点とする各々の距離情報の組み合わせから三辺測量の原理で座標情報を各々算出する。このとき、距離情報の数が増えると、エコーの数の二乗に比例して距離情報の組み合わせが増え、距離情報の組み合わせが増えると座標情報の数が増える。更に、最新の座標情報の全てについて、前回までの検知で算出していた座標情報の全てと比較して、同じ物の座標情報であると推定されるか否かを判定する同一性判定を行う。同一性判定を総当たりのクロスチェックで行うと、同一性判定を行う回数はチェックする座標情報の数の二乗になる。
つまり、検知の数が多いほど、同一性判定を含むトラッキングの処理の負荷が累乗で高くなる。このため、検知数が余りに多くなると、トラッキングの処理の負荷が車両制御装置50等の装置に含まれるCPU等のプロセッサの処理能力を超えて、トラッキング処理が間に合わなくなる可能性がある。
例えば、高感度領域を広げていくと、歩行者の微弱なエコーを高感度領域で検知できる確率が上がるが、同時に不要検知の数も増えていくので、高感度領域を無制限に広げると不要検知の数がプロセッサの処理能力でトラッキングできる数の限界を超える恐れがある。このため、ソナー21,22の検知範囲210,220の全てを高感度領域とすることは困難である。つまり、高感度領域の幅には実用的な限界があるので、この実用的な限界の範囲内で高感度領域を設定する必要がある。本実施形態においては、センサ制御装置70の制御部703が、シーンに応じて高感度領域を設定することにより、不要検知の数がトラッキングできる数の限界を超えることを回避しつつ、歩行者の検知の精度を向上させる。
次に、本実施形態におけるシーンごとの処理の詳細について説明する。まず、横断歩道接近シーンについて説明する。
図10は、第1の実施形態に係る横断歩道接近シーンの一例を示す図である。図10に示すように横断歩道接近シーンとは、車両1が横断歩道9に向かって接近している状況である。なお、図10に示す例では、車両1はソナー作動閾値以下の速度で、横断歩道9に向かって前進しているものとする。また、図10に示す例では、車両1の前方左側が歩道8に近く、車両1の前方右側は、車道の中央側に近い。
シーン判定部702が車両1の置かれた状況を「横断歩道接近シーン」であると判定する条件は、例えば、(1)撮像装置16によって撮像された画像データに、車両1の進行方向の路面上の横断歩道9が映っていることを検出したこと、(2)GPS装置等から取得した車両1の位置情報が、地図情報に含まれる横断歩道9の位置に接近していること、または(3)歩行者用信号機などにより、横断歩道の存在が推定できることである。なお、シーン判定部702は、条件(1)~(3)のうち1つ以上が満たされた場合に、横断歩道接近シーンと判定しても良いし、条件(1)~(3)を組み合わせて判定条件としても良い。
条件(2)で用いられる地図情報は、例えば車両制御装置50の記憶部に記憶されても良いし、車両制御装置50とは別に設けられたナビゲーションシステムが記憶しても良いし、車両制御装置50がナビゲーションシステムを含む構成であっても良い。地図情報の所在によらず、車両1の位置と車両1の付近の横断歩道との位置関係が判れば十分である。また、地図情報は、例えばナビゲーションシステム用のデジタルマップでも良い。
なお、横断歩道接近シーンの判定条件はこれらに限定されない。また、横断歩道接近シーンの判定条件は、後述の先行車両接近シーン、または車歩混在シーンの判定条件との組み合わせによって変化しても良い。
また、シーン判定部702は、撮像装置16によって撮像された画像データに基づいて横断歩道9を検出する場合、公知の画像処理の技術を適用しても良い。
図11は、第1の実施形態に係る横断歩道9の検出処理の一例を示す図である。横断歩道は、白い長方形を平行、かつ等間隔に、繰り返し路面に描き並べる事により、歩行者が道路を横断する為の領域を示した路面標示である。この白い長方形は、短辺に比べて長辺が著しく長いので、太い白線と呼んでも良い。よって、横断歩道9は、撮像装置16によって撮像された画像データ、つまり撮影画像の中から、例えば、並行する複数の太い白線90a~90eが繰り返すパターンとして検出可能である。図11に示すように、シーン判定部702は、横断歩道9に含まれる白線90aの前後方向の輪郭線(エッジ)901a,901bを抽出する。個々の輪郭線901a,901bを特に区別しない場合、単に輪郭線901という。図11では白線90aの輪郭線901a,901bを例示するが、シーン判定部702は、他の白線90b~90eについても、輪郭線を抽出する。横断歩道9の白線90a~90eのように平行な複数の線が画像に映っている場合、当該複数の輪郭線を画像の奥行方向に伸長すると、当該複数の線は消失点で交差する。これに対して、撮影画像に映った複数の線を伸長しても消失点で交差しない場合、当該複数の線は、現実の3次元空間では平行ではない。
図11に示す例では、複数の白線90a~90eの複数の輪郭線901は、消失点P1で交差しているので、繰り返し路面に描かれた平行な白線90a~90eがあると判定できる。この場合、シーン判定部702は、当該複数の白線90a~90eは、横断歩道9であると判定する。なお、複数の輪郭線901が完全に消失点P1で交差することを横断歩道9の検出条件としなくとも良く、複数の白線の輪郭線を延長した線が、概ね一点で交差する事を条件として、横断歩道であると判定しても良い。また、横断歩道までの距離は、白線群の手前側の端(白い長方形の手前側の短辺)の、撮影画像の中心からの縦方向の距離として現れる。撮影画像の中心は撮像装置16の光軸方向に当たるので、撮影画像の中心からの縦方向の距離は、横断歩道の端の光軸方向からの角度に対応する。撮像装置16の光軸の角度は特定できるので、撮影画像上の位置が特定できれば、撮像装置16と横断歩道の端を結ぶ線の角度(俯角)を特定できる。この俯角の情報に、路面から撮像装置16までの高さの情報と、路面が平面であるという仮定を加えると、三角関数を用いた計算により、撮像装置16から横断歩道までの距離が算出できる。白線群が横断歩道であると判定していて、横断歩道までの距離が所定の値以下である時、横断歩道への接近を検知した、と言っても良い。なお、このような横断歩道9の検出処理、または横断歩道への接近の検知処理は、撮像装置16で実行されても良いし、撮像装置16から画像データを取得した車両制御装置50で実行されても良いし、センサ制御装置70で実行されても良い。
撮像装置16によって撮像された画像データに基づく検出処理では、GPS等のナビゲーションシステムの情報を用いる場合よりも精度よく横断歩道9の位置を特定可能な場合がある。しかし、降雪などで横断歩道9が覆われていると、画像データから横断歩道9を検知することが困難な場合がある。このため、画像データだけではなく、地図情報を用いる判定や、信号機の検知による推定を併用する事が望ましい。
なお、シーン判定部702が車両1の周囲の信号機を検出する手法は、例えば、画像データに描出された信号機をパターン認識等の画像処理により特定してもよい。あるいは、シーン判定部702は、地図情報から、信号機の位置を特定しても良い。
横断歩道接近シーンにおいては、横断歩道9上や、横断歩道9に接続する領域に歩行者が存在する可能性が高い。このため、シーン判定部702が横断歩道接近シーンであると判定した場合、制御部703は、横断歩道9を含む範囲において、歩行者の検知精度を向上させるようにソナー21,22を制御する。例えば、制御部703は、シーン判定結果が横断歩道接近シーンである場合、横断歩道9上に当たる範囲、または横断歩道9を歩道上に延長した領域を基準として、反射波を検知する感度、または、超音波を発信する発信間隔、または、超音波を発信する発信順序、のいずれかを変更する。
まず、制御部703が車両1の進路上の横断歩道9の範囲に基づいて、高感度領域を設定する場合について説明する。
図12は、本実施形態に係る横断歩道接近シーンにおける高感度領域230a~230dの一例を示す図である。
制御部703は、高感度領域230a~230dの範囲を、車両1の進路上の横断歩道9の範囲に基づいて設定する。高感度領域230a~230dの範囲は、車両1からの距離によって定義される。高感度領域230a~230dの範囲は、個々のソナー21,22毎に、超音波の投射軸上に横断歩道9が存在する範囲に基づいて個別に設定しても良い。あるいは、制御部703は、車両1の進行方向上の横断歩道9が存在する範囲に基づいて、複数のソナー21,22の高感度領域230を一括して設定しても良い。以下、高感度領域230a~230dを総称して高感度領域230という。
なお、図12は検知範囲210の図示を省略しているが、検知範囲210の車両1から遠い方の端は、高感度領域230の車両1から遠い方の端と同じである。つまり、検知範囲210aの車両1から遠い方の部分は高感度領域230aである。また、検知範囲210aのうち、高感度領域230aではない範囲、つまり、車両1に近い部分は、通常感度領域である。
また、制御部703は、ソナー21,22が測距可能な距離の上限である可測距離d1を基準とする範囲で、反射波を検知する感度を高感度にする範囲、すなわち高感度領域230を決定する。より詳細には、制御部703は、高感度領域230を規定するソナーから高感度領域230の遠端までの距離が、可測距離d1になるように高感度領域230を決定する。
さらに詳細には、高感度領域230は、ソナーから高感度領域230の車両1に近い方の端までの距離である高感度領域近端距離d11と、高感度領域230の車両1に近い方の端と、車両1から遠い方の端との距離である高感度領域幅d12で定義されても良いし、ソナーから高感度領域230の車両1から遠い方の端までの距離である高感度領域遠端距離d1と、高感度領域近端距離d11と、とに挟まれる領域として定義されても良いし、あるいは、高感度領域遠端距離d1と高感度領域幅d12で定義されても良い。この例では、可測距離を高感度領域遠端距離と一致させているので、図12に示すように、高感度領域近端距離d11と高感度領域幅d12との合計は、可測距離d1と同じになる。
なお、高感度領域遠端距離と可測距離d1を決める時、高感度領域遠端距離を基準として可測距離d1を決めても良いし、可測距離d1を基準として高感度領域遠端距離を決めても良い。例えば、車両1から横断歩道9の遠い方の端までの距離が15mあり、ソナーとしての標準的な可測距離が10mであれば、横断歩道9の範囲を出来るだけ広くカバーする目的から可測距離d1が10mに決まり、高感度領域遠端距離を可測距離d1に合わせて10mとする事になる。別の例として、車両1から横断歩道9の遠い方の端までの距離が7mであれば、高感度領域遠端距離を7mと決め、可測距離d1を高感度領域遠端距離と同じ7mに合わせて、出来るだけ検知間隔が短くなる様に検知間隔を決めれば良い。
また、図12に示す例では、個々のソナー21a~21dの高感度領域230a~230dの範囲がそれぞれ異なる。例えば、図12では、コーナーソナー21c,21dの可測距離の方がセンターソナー21a,21bの可測距離よりも長く設定されている。また、コーナーソナー21c,21dの高感度領域230c,230dの方が、センターソナー21a,21bの高感度領域230a,230bよりも車両1から遠い位置に設定されている。この場合、高感度領域230a~230d全部を合せた概形のカーブが緩やかになるため、概形は横断歩道9の形状に沿った形状となる。高感度領域は検知閾値の変更によって設定するので、図12に示す例では、個々のソナー21a~21dごとに、検知閾値が異なる事になる。
なお、先の例では、高感度領域遠端距離を可測距離d1と一致させたが、必ずしも一致させる事は必要ではなく、高感度領域遠端距離を可測距離d1より短く設定してもよい。例えば、コーナーソナー21c,21dの高感度領域230cの遠端である高感度領域遠端距離は、センターソナー21a,21bの高感度領域230a,230bの高感度領域遠端距離よりも大きいので、可測距離d1を高感度領域遠端距離と一致させると、コーナーソナー21c,21dを発信してから次の発信までの時間が、センターソナー21a,21bを発信してから次の発信までの時間よりも大きくなり、発信間隔が不均一になる。発信間隔を等間隔にする事を優先する場合、発信間隔、つまり可測距離d1を、より値が大きい方のコーナーソナー21c,21dに合わせ、センターソナー21a,21bの高感度領域遠端距離を横断歩道の範囲に合わせて可測距離d1よりも短くし、高感度領域遠端距離と可測距離d1の間に感度が通常である領域が設けられる様にしても良い。
また、図13は、本実施形態に係る横断歩道接近シーンにおける高感度領域230の他の一例を示す図である。図13に示す例では、ソナー21a~21dに、共通の検知閾値が設定されている。つまり、複数のソナー21a~21dの高感度領域230a~230dの遠端と近端のソナーからの距離は、全てのソナー21a~21dで同じ長さとなる。この場合、高感度領域230a~230dは一体となり、全体として略扇形の形状の高感度領域230となる。
図12に示したように複数のソナー21a~21dの異なる検知閾値が設定される場合は、横断歩道9全体を高感度領域230で効率よくカバーできる。また、図13に示したように複数のソナー21a~21dに共通の検知閾値が設定される場合は、高感度領域230を定義するための検知閾値の設定が容易である。本実施形態においては、図12と図13のいずれの例を採用しても良い。
また、車両1が横断歩道9に接近すると、超音波の投射軸上で横断歩道9が占める範囲も近距離に移動するので、制御部703は、横断歩道9の接近に応じて高感度領域230の範囲を変える。
例えば、図14は、図12よりも車両1が横断歩道9に接近した状態の一例を示す図である。この場合、制御部703は、車両1が横断歩道9に近づいた距離分、可測距離d1を図12に図示した例よりも短くする。また、それに伴い、車両1から高感度領域230の近端および遠端までの距離も、図12に図示した例よりも短くなっている。このため車両1と横断歩道9の相対位置が変化しても、高感度領域230が横断歩道9をカバーした状態を維持できる。
図14では、制御部703は、高感度領域230を超える距離では物体を検知しない事にして、横断歩道9の接近に応じて可測距離d1を短くしている。上述のように、可測距離d1は、次の発信によりエコーが検知できなくなる距離である。また、ソナー21,22がエコーの受信を打ち切って次の音波を発信するまでの時間を短くすると、時間当たりの検知回数が多くなる。このため、可測距離d1が短くなることで、検知処理の頻度が向上する。歩行者の形状は一定ではなく、時間の経過に伴って変化するため、歩行者が反射する超音波の強度も時間の経過に伴って変化する。このため、ソナー21,22の時間当たりの検知回数を増やすことにより、歩行者を検知できる確率を高くすることが出来る。
図15は、本実施形態に係る横断歩道接近シーンにおける超音波の発信間隔の変化の一例を示す図である。図15に示す例では、車両1が横断歩道9に接近している状態であり、当該接近に伴って超音波の発信間隔が短くなっている。
換言すれば、図15は、横断歩道9に車両1が接近していく時の高感度領域230の変化と、検知間隔の変化を模式的に表したものである。図15に示す反射波は横断歩道9上の歩行者が反射したものとする。歩行者は横断歩道9上の同じ位置から移動していないが、車両1が接近する事により発信してからエコー(反射波)が返るまでの時間は検知処理1から検知処理5にかけて段々と短くなっている。図15で検知閾値が一段下がっている範囲が高感度領域230である。
高感度領域230の終了位置を可測距離d1に揃えた場合、図15に示すように高感度領域230の終了位置が、1回の検知処理において測距可能な最も遠い位置となる。このような場合、高感度領域230を超える距離では物体を検知しないこととなる。図15に示す例では可測距離d1を短くして発信間隔を詰めているので、可測距離d1に含まれる範囲は必ず高感度領域で終わっている。
また、図15では検知処理5の時点で車両1は停止したものとしている。そのため、検知処理5とその次の検知処理6では、車両1から障害物である歩行者までの距離が同じになっている。また、検知処理1の時点の発信間隔より検知処理5の時点の発信間隔の方が短くなっているため、単位時間当たりの発信回数、つまり検知回数が多くなる。これにより、歩行者検知の確実性が向上する。
また、車両1から高感度領域230の開始位置までの距離に、下限を定めても良い。これは、車両1から近い場所では、反射波の強度が高いため、高感度領域230を設定しなくても歩行者等の検知漏れが発生する可能性が低いためである。そもそも、制御部703が高感度領域230を設定する目的は、歩行者から反射する微弱なエコーを検知しやすくするためである。ソナー21,22が発信した音波は、飛距離が増す毎に拡散して弱くなるので、反射されてソナーに返るエコーは、遠方ほど遠く、近くほど強くなる。このため、歩行者が車両1から十分に近距離にいる場合は、検知閾値を引き下げていなくとも、検知が可能である。つまり、近距離の範囲は高感度領域230にする必要が無い。
図16は、本実施形態に係る高感度領域230の開始位置までの距離の下限値の一例を示す図である。エコー波形の横軸はソナーが発信してからの時間であるが、前述の様にソナー21,22が発信してからの時間は距離に換算されるので、横軸を距離に対応させても良い。図16に示すように、車両1から高感度領域230の開始位置までの距離の下限値は、例えば、1mとしても良いし、閾値を引き下げる時刻は距離1mで反射した反射波を受信する時刻である、としても良い。なお、当該下限値は、これに限定されるものではない。
また、横断歩道接近シーンにおける、検知閾値の変更による感度の変更以外の歩行者の検知精度の向上の手法について説明する。例えば、制御部703は、ソナー21,22が超音波を発信する発信間隔、または、ソナー21,22が超音波を発信する発信順序の一方または両方を変更しても良い。なお、前に述べたように、発信順序の変更には、複数のソナー21,22のうちの一部のソナーの発信を停止することも含む。また、複数のソナー21,22の一部が停止した場合、当該停止したソナーの分の発信の順番を待つ必要がなくなるため、稼働しているソナーの発信の単位時間当たりの発信回数を増加させることができる。
図17は、本実施形態に係る横断歩道接近シーンにおける、複数のソナー21のうちの一部の停止の一例を示す図である。図17に示す例では、制御部703は、前方ソナー21a~21dのうち、歩道8と反対側に位置する第1の前方コーナーソナー21cが超音波の発信を停止させている。
なお、図17に示す例では、第2の前方コーナーソナー21dは、車両1の進行方向側の端部において歩道8寄りの方向を指向して設けられた歩道側測距手段の一例である。また、第1の前方コーナーソナー21cは、車両1の進行方向側の端部において歩道側測距手段よりも車両1が走行する車道の中央寄りの方向を指向して設けられた車道側測距手段の一例である。
なお、車両1の左右のどちらが歩道8に近いかについては、例えば、車両1が走行する国または地域の道路交通法に基づいて、車両1の右または左のいずれかがセンサ制御装置70等の記憶部に記憶されていても良い。あるいは、制御部703は、撮像装置16から取得した画像データから画像処理によって歩道8を認識し、認識した歩道8に近い側を特定しても良い。あるいは、制御部703は、地図情報および車両1の位置情報に基づいて、車両1の左右のどちらが歩道8に近いかを判定しても良い。つまり、車両が位置する地域の情報、または画像処理で得た情報により歩道の方向を特定して、歩道の方向のコーナーソナーは作動を維持し、そうでない方向のコーナーソナーを停止する様にすれば良い。
このように、中央寄りの第1の前方コーナーソナー21cの発信を停止することにより、それ以外のソナーの検知間隔を短くすることが出来る。
一般に、コーナーソナー21c,21dの検知範囲210c,210dは、車両1の進路の外から車両1の進路上に進出する障害物を、早めに検知することを目的として設定されている。例えば、車両1の左または右の側方から歩行者が車両1の前方を横切る場合、複数の前方ソナー21のうち、当該歩行者を最初に検知するのは第1の前方コーナーソナー21cまたは第2の前方コーナーソナー21dである。
また、一般に、歩道8側に歩行者が存在する確率は、車両1よりも道路の中央寄りに歩行者がいる確率よりも高い。また、歩道8側にいた歩行者が車両1の進路上に進出する確率は、車両1よりも中央寄りにいた歩行者が車両1の進路上に進出する確率よりも高い。このため、検知間隔を短くするために、道路の中央寄りの第1の前方コーナーソナー21cの発信頻度を下げるか、または発信を停止することは合理的である。
歩道8から遠い第1の前方コーナーソナー21cを止めて3個の前方ソナー21で歩行者を検知する場合、4個の前方ソナー21で検知する場合より、検知の頻度を33%高めることが出来る。また、歩道8から遠い第1の前方コーナーソナー21cの発信の頻度を半分にすると、4個のソナーで均等に発信した場合より、検知の頻度を17%高めることが出来る。
制御部703は、シーン判定結果が横断歩道接近シーンである場合、複数のソナー21、22の超音波を発信する発信順序を変更することにより、歩道側測距手段が超音波を発信する頻度を車道側測距手段が超音波を発信する頻度よりも高くしても良い。この場合の頻度の変更は、道路側測距手段の超音波の発信を停止することを含む。
具体的には、制御部703は、シーン判定結果が通常シーンの場合、第1の前方コーナーソナー21c、第1の前方センターソナー21a、第2の前方センターソナー21b、第2の前方コーナーソナー21dの4つの前方ソナー21に順に超音波を発信させる。また、シーン判定結果が横断歩道接近シーンである場合、制御部703は、第1の前方コーナーソナー21cと第2の前方コーナーソナー21dのうち、歩道8から遠い方の第2の前方コーナーソナー21dの超音波の発信を停止させ、第1の前方センターソナー21aと第2の前方センターソナー21bとは超音波の発信を継続する。制御部703は、第1の前方センターソナー21a、第2の前方センターソナー21b、および、停止していない第1の前方コーナーソナー21cに、順に超音波を発信させ、これら三つのソナーの発信頻度を通常シーンの場合の3分の4倍にしても良い。
また、制御部703は、シーン判定結果が横断歩道接近シーンである場合、反射波を検知する感度を変更する範囲、つまり高感度領域230を、歩道側測距手段の高感度領域230の方が車道側測距手段の高感度領域230よりも車両1からの距離が遠くなる様に設定しても良い。これは、高感度領域230を歩道側に広げる為の制御である。
例えば、図18は、本実施形態に係る横断歩道接近シーンにおける、歩道8上の横断歩道9の延長線上への検知範囲210の拡充の一例を示す図である。
図18に示す例では、例えば図17で図示した例と比べて、高感度領域230が延長領域80に拡充している。延長領域80は、横断歩道9を路側方向に延長して歩道8上まで広げた領域である。横断歩道9に進入する歩行者は、延長領域80を通って車両1の進行方向に歩いてくる可能性が高い。つまり、延長領域80には、横断歩道9に進入予定の歩行者が存在する可能性が高い。延長領域80は、横断歩道9上に次いで、歩行者の検知が求められる領域である。
制御部703は、延長領域80を高感度領域230に含めるため、歩道8側の第2の前方コーナーソナー21dの可測距離d1を、前方センターソナーの可測距離や、歩道8と逆側の第1の前方コーナーソナー21cの可測距離(不図示)よりも長くすることにより、歩道8方向に検知範囲210および高感度領域230を広げる。
また、車両制御装置50は、延長領域80で歩行者を検知し、トラッキング処理により当該歩行者が横断歩道9の方向に移動していると判定した場合は、当該歩行者は横断歩道9を渡ろうとしている歩行者であると判定する。この場合、車両制御装置50は、速度制御装置40に車両1の制動制御を指示することにより、車両1を停止させるなどの制御を実行しても良い。但し、延長領域80で検知した歩行者が、車両1の進路上まで進んで、車両1と衝突する可能性がある場合は、車両1が低速で走行しているか、または停車している場合に限られる。検知距離を延長領域80まで広げると、検知間隔が長くなるなどのデメリットを伴うので、車速が一定以上の場合は、延長領域80まで検知距離を広げない様に制限しても良い。
ところで、前に述べたように、検知範囲210のうち高感度領域230として設定可能な範囲の大きさは、処理負荷等の制限により、限りがある。このため、横断歩道9の幅が、制限の範囲内で設定可能な高感度領域230の幅よりも広い場合がある。このような場合、高感度領域230が横断歩道9全体をカバーできない。なお、高感度領域230の幅とは、高感度領域230の開始位置から終了位置までの距離である。
図19は、本実施形態に係る横断歩道接近シーンにおいて、横断歩道9の幅が高感度領域230の幅よりも広い場合の一例を示す図である。
図19の上段に示すように、高感度領域230が横断歩道9全体をカバーできない場合、制御部703は、先ず、横断歩道9の車両1寄り(手前)の範囲をカバーするように高感度領域230を設定する。
車両1が所定の速度以上の車速で横断歩道9を通過する場合、制御部703は、設定した高感度領域230と車両1との位置関係を維持し、高感度領域230が横断歩道9を通過するまで高感度領域230の設定を継続しても良い。図19の中段および下段では、図19の上段と同様の高感度領域230を維持した状態で車両が前進している。
車両1が所定の速度以上の車速で横断歩道9を通過する場合、高感度領域230として検知処理の対象となった場所に、当該検知処理の後から歩行者が進入する可能性は低い。例えば、図19の下段では、高感度領域230と車両1との間に、横断歩道9の一部が含まれるが、当該横断歩道9の一部は、上段および中段で高感度領域230として検知処理の対象となっているため、歩行者が存在する可能性が低い。なお、所定の速度は、例えば一般的な歩行者の歩行速度よりも速い速度とする。
しかしながら、車両1が所定の速度以上の車速を保って横断歩道9を通過しない場合、例えば車両1が図19の下段に示す位置で停車する場合には、高感度領域230と車両1との間の横断歩道9部分に歩行者が進入する可能性が生じる。このような場合の対応については図20で説明する。
図20は、本実施形態に係る横断歩道接近シーンにおいて、高感度領域230の幅よりも広い横断歩道9の手前で車両1が停止した場合の一例を示す図である。図20の上段および中段は、図19と同様であるが、車両1は中段に図示した位置で停車したものとする。この場合、中段に図示した高感度領域230の配置では、車両1と高感度領域230の間に歩行者が入り込む可能性がある。そこで、図20の下段では、図19と異なり、横断歩道9の車両1寄り(手前)の範囲をカバーするように、高感度領域230の位置が車両1の近くに移動している。制御部703は、横断歩道接近シーンであり、かつ、高感度領域230の幅よりも広い横断歩道9の手前で車両1が停止した場合、高感度領域230が車両1に近い側をカバーするように、検知閾値を変更する。
次に、先行車両接近シーンについて説明する。シーン判定部702は、例えば、ソナー21,22で検知可能な距離以下に先行車両を検知している場合、先行車両接近シーンと判定する。なお、先行車両とは、車両1の進行方向に位置し、車両1と進行方向が同じ車両である。
より詳細には、制御部703は、先行車両接近シーンにおいては、先行車両と車両1との間に進入した歩行者、または、先行車両と車両1との間に進入する歩行者を高精度に検知することを目的とする。
シーン判定部702は、例えば、車両1の進行方向が前方であり、先行車両が停車しており、かつ、前方ソナー21で検知可能な距離(例えば5m)以下の車間距離を保って先行車両の後方に車両1が停車した場合、先行車両接近シーンに当たると判定する。なお、先行車両と車両1との距離が、前方ソナー21で計測されてもよいし、レーダー17で計測されても良い。
なお、先行車両接近シーンの条件に、車両1および先行車両の停車が含まれなくとも良い。例えば、車両1と先行車両が、ソナー21で検知可能な車間距離を保って低速走行(例えば2Km/h未満での走行)をしている場合も、先行車両と車両1との間に歩行者の進入が発生し得るため、先行車両接近シーンに含めても良い。
例えば、車両1が先行車追従機能を備える場合、前方の先行車両が発進した事を検知し、当該先行車両に追従して発進することができる。このような先行車追従機能の利用により運転者の負担の軽減になるが、前方を注視していなくても発進が遅れないので、運転者の注意力が低下する可能性がある。運転者が先行車両との間にいる歩行者に気付いておらず、ブレーキから足を離していて、ソナー21でも歩行者が検知できていない場合には、先行車両に追従して車両1が発進すると、歩行者と衝突する恐れがある。なお、先行車追従機能は必須の構成ではなく、車両1が先行車追従機能を備えない場合でも、先行車両との間に進入した歩行者の検知の精度向上は望ましい。
一般に、全ての歩行者が必ず道路交通法およびその他の交通安全に関する規則を遵守した行動をとるとは限らない。例えば、車道において車両1が走行する車線と対向車線の両方が渋滞して車流が止まっている時、車両1と先行者の間を歩行者がすり抜けて横断する場合がある。この時に、車両1が歩行者を検知し、追従発進を抑制する制御をすることが望ましい。
また、シーン判定部702は、車速が所定値(例えば2km/h)以上である事を条件として、先行車両接近シーンから除外しても良い。車流が速ければ、車の間を歩行者がすり抜けて横断する事は無いからである。車流とは車線上を走る車両群の動きを流れに例えた表現であり、例えば、赤信号で全ての車が停まっている時は、車流が止まっている。渋滞でノロノロ走行している時は、車流が遅い、所定値以上の速度で走行している場合は、車流が流れている、などと表現する。
シーン判定結果が先行車両接近シーンである場合、制御部703は、車両1から先行車両3までの距離を基準として、反射波を受信する検知感度、または、超音波を発信する発信間隔、または、超音波を発信する発信順序、のいずれかを変更する。例えば、先行車両接近シーンである場合、車両1から先行車両3までの距離よりも先の歩行者を検知対象とする必要はないため、制御部703は、車両1から高感度領域230の終了位置までの距離が車両1から先行車両3までの距離以下となるように検知感度を変更してもよい。
また、先行車両接近シーンでは、好ましくは隣接する車線(例えば反対車線)の車流が止まっているか否かを判定する。当該判定の処理は、センサ制御装置70の制御部703が実行しても良いし、シーン判定部702が実行しても良い。あるいは、車両制御装置50が当該判定の処理を実行しても良い。以下では、実行主体として制御部703を例示して説明する。
例えば、車両1が停車していて、左側の第2の前方コーナーソナー21dが検知した障害物との距離が一定である時には、左側の車流が止まっていると判定しても良い。また、車両1が前進していて、障害物が接近する速度が車両1の車速に相当する場合、検知した当該障害物(この場合は他の車両)は停止していると判定できる。制御部703は、隣接する車線の他の車両の速度が、所定値(例えば2Km/h)未満であれば、車流が止まっていると判定して良い。つまり、制御部703は、隣接車線を走行する他の車両の速度が閾値以上である場合、車流が流れていると判定する。また、車流が止まってから歩行者が横断を始めるまで時間遅れがあるので、制御部703は、他の車両の速度が所定値未満の状態が所定の時間(例えば1秒)継続した時に、当該他の車両が走行する車線の車流が止まったと判定しても良い。
図21は、本実施形態に係る先行車両接近シーンの一例を示す図である。図21に示す例では、車両1の前方に先行車両3が存在する。また、車両1の走行する車線に隣接する対向車線502上の他の車両4a,4bの間から、車両1と先行車両3との間に進入する歩行者81が存在する。また、車両1の走行する車線を自車線501という。また、対向車線502は隣接車線の一例である。隣接車線は対向車線502に限定されるものではなく、自車線501と同じ進行方向の車線でも良い。また、図21では自車線501は歩道8に隣接しているが、複数の隣接車線の間に位置しても良い。図21の様に、隣接車線の車流が止まっている場合は、そこが車道であっても歩行者が歩いてくる事がある、と想定して歩行者を検知する必要がある。図21の場合、車両1の右側は車流が止まっている車線であり、車両1の左側は歩道なので、左右両方から進入してくる歩行者を検知できる必要がある。
また、自車線501と隣接車線502の両方の車流が停止している時だけでなく、自車線501だけ車流が停止している場合も、歩行者81の進入を検知する必要がある。
図22は、本実施形態に係る先行車両接近シーンにおいて、対向車線502の前方に信号機51が存在する場合の一例を示す図である。例えば、対向車線502の車流が流れていても、対向車線502の前方の信号機51が赤信号に変われば、車流が止まる可能性が高い。このため、両方の車流が止まるのを待たずに歩道8から歩行者81が進入する場合がある。
ただし、現時点では対向車線502の車流が流れており、対向車線502の側から歩行者81が進入する可能性は低いので、歩道8から進入する歩行者81だけを検知対象とすれば良い。このため、図22に示す例では、制御部703は、対向車線502の側の第1の前方コーナーソナー21cの発信を停止している。つまり、制御部703は、第1の前方コーナーソナー21cと第2の前方コーナーソナー21dのうち、車流が流れている隣接車線の側のコーナーソナー21が発信する頻度を、歩道8側のコーナーソナー21が発信する頻度よりも低くする。なお、発信頻度を低くすることには、発信を停止することも含む。
図22の状態から時間が経過し、対抗車線の車流が停止すると、図21のように自車線501と対向車線502の車流が停止した状態になる。すると、歩行者81が対向車線502から自車線501に進入する事もあるし、歩道8側から歩行者81が自車線501に進入する事もあるので、両方を検知する必要がある。つまり、隣接車線の車流が停止しているか否かを刻々、判定し、その判定結果に応じて歩行者81の進入を検知する方向を決める事により、検知範囲を常に最適化する必要がある。
また図22では両側2車線を図示しているが、対向車線502を、自車線501と同じ進行方向の隣接車線に置き換えても良い。自車線501の車流が停止している場合に、隣接車線の車流が停止していれば、停止している隣接車線の側からの歩行者81の進入を警戒する必要がある。また、隣接車線の車流が流れていれば、当該隣接車線から歩行者81が進入する可能性は無いため、高感度で検知する必要は無くなる。つまり、隣接車線の車流の方向が、自車線と同じであっても反対方向であっても、流れている車流を横切って横断する歩行者81は無く、車流が止まってしまえば、流れていた時の車流の方向とは関係なく、車列の間を縫って歩行者81が横断してくる事がある、と言える。
ここまで隣接車線の車流の動きを観測して、検知範囲を最適化する方法を説明したが、簡易な手段として、隣接車線502上の他の車両4a,4bが停止しているか否かの判定をしない手法を採用しても良い。例えば、制御部703は、歩行者81を検知する領域を常に左右対称にして、左右どちらから歩行者81が進入しても検知できる様にしても良い。
また、車両1の車速が所定値以下または車両1が停車していることを、先行車両接近シーンであることの判定条件に含めても良いが、簡易化したシーン判定の方法として、車両1の車速を判定条件とせず、車両1が先行車両3に後続していることだけを先行車両接近シーンの判定条件としても良い。
ここで、横断歩道接近シーンと先行車両接近シーンの判定の優先順位について説明する。
図23は、本実施形態に係る車両1が横断歩道9に接近し、かつ、先行車両3に後続している状態の一例を示す図である。このような場合、シーン判定部702は、車両1が先行車両3に後続していれば、横断歩道9に接近していても、先行車両接近シーンであると判定する。ただし、横断歩道9と先行車両3との位置関係によってはこの限りではない。
図24は、本実施形態に係る車両1が横断歩道9に接近し、かつ、先行車両3に後続している状態の他の一例を示す図である。図24に示すように、横断歩道9が車両1と先行車両3の間に位置し、かつ、先行車両3が横断歩道上に無い場合、シーン判定部702は、横断歩道接近シーンであると判定しても良い。
車両1が横断歩道9に接近し、かつ、先行車両3が前方に停車している時は、図23の様に、先行車両3が横断歩道9上にある可能性、つまり、歩行者81が横断歩道9を通ることを妨げている可能性がある。一般に、車両が横断歩道9上に停車して歩行者81の横断を妨げることは法規違反であるが、渋滞が多発する地域では往々にして発生する。また、横断歩道9が車両で塞がれる例が多いことが、横断歩道9でない場所を歩行者81が横断する事の誘因ともなる。このような場合は、シーン判定部702は歩行者81が横断歩道9ではなく、先行車両3との間を横断すると推定して、先行車両接近シーンと判定する。
シーン判定部702は、図24の様に先行車両3が横断歩道9上に無い場合は、横断歩道接近シーンと判定し、制御部703は、歩行者81が横断歩道9を通って横断する事を前提として、横断歩道9をカバーするように高感度領域203を設定する。図23の様に、先行車両3が横断歩道を塞いでいる場合は、先行車両接近シーンであると判定し、制御部703が車両1と先行車両3の間に高感度領域203を設定すると、横断歩道9を塞いでいる先行車両3を避けて横断する歩行者81を検知する事が期待できる。
ここで、先行車両接近シーンにおける可測距離d1について説明する。
図25は、本実施形態に係る先行車両接近シーンにおける可測距離d1の一例を示す図である。渋滞している時に、歩行者81が車両1の進路に入り込むことを警戒すべき領域は、車両1と前方の先行車両3の間である。前方の先行車両3自体は前方ソナー21の検知対象に含めなくとも良いため、制御部703は、前方の先行車両3との車間距離か、それよりも少し短い距離に可測距離d1を制限しても良い。一般に、車両1が追従走行機能を備える場合、レーダー17または撮像装置16により前方の先行車両3との車間距離を監視している。このため、レーダー17等があれば、より検知可能な距離が短い前方ソナー21で前方の先行車両3との車間距離を監視しなくとも良い。可測距離d1を短く制限することにより、前方ソナー21による検知の頻度を高くすることが出来る。また、先行車両3との間を高感度領域203とすることにより、より歩行者81を検知し易くすることが出来る。
また、図26は、本実施形態に係る先行車両接近シーンにおける可測距離d1の他の一例を示す図である。図26に示す例では、可測距離d1は先行車両3の後端を含む。例えば、レーダー17または撮像装置16により測定した先行車両3との車間距離に誤差があると、前方ソナー21の可測距離d1が車間距離よりも短くなることがあり得る。この場合、先行車両3の直後に入り込んだ歩行者81が検知できない可能性がある。このような事態の発生の低減のため、制御部703は、先行車両3の後端が可測距離d1内に含まれるように超音波の発信間隔を設定しても良い。
また、これにより、先行車両3からのエコーが検知可能になり、前方ソナー21で前方の先行車両3との車間距離を監視できる。この場合、先行車両3より手前に歩行者81が進出した場合には、先行車両3のエコーよりも近い位置からのエコーが検知される。
先行車両3のエコーよりも近い位置からのエコーが検知された場合、例えば車両制御装置50は、先行車両3との間に障害物(歩行者)が入り込んだと判定し、歩行者81が通過するまで制動を保持するように速度制御装置40に指示する。また、先行車両3のエコーよりも近い位置からのエコーが検知された場合、車両制御装置50または速度制御装置40は、先行車両3が発進しても車両1は発進しないように制御しても良い。
また、制御部703は、シーン判定結果が先行車両接近シーンである場合、複数の前方ソナー21が超音波を発信する発信順序を変更してもよい。例えば、第1の前方コーナーソナー21cおよび第2の前方コーナーソナー21dが超音波を発信する頻度を、第1の前方センターソナー21a、第2の前方センターソナー21bが超音波を発信する頻度よりも高くしても良い。
例えば、先行車両接近シーンにおいては、制御部703は、第1の前方センターソナー21aおよび第2の前方センターソナー21bによる超音波の発信を停止し、第1の前方コーナーソナー21c、第2の前方コーナーソナー21dに超音波を交互に発信させてもよい。
図27は、本実施形態に係る先行車両接近シーンにおいて前方センターソナー21a,21bの発信を停止した状態の一例を示す図である。このように前方センターソナー21a,21bの発信を停止する場合、前方の先行車両3のエコーを左右のコーナーソナー21c,21dが捉えていることを前提条件とし、先行車両3との車間距離をレーダー17または撮像装置16により計測していれば、更に好ましい。
車両1が自動操舵機能を併用して先行車両3に追従走行すると、車両1は先行車両3の真後ろに停車する。この場合、左右のコーナーソナー21c,21dが検知する範囲は車両1と先行車両3の間に入り込む歩行者81を捉えられる範囲に位置する。左右のコーナーソナー21c,21dの高感度領域は、先行車両3に近い部分を覆い、高感度領域ではないコーナーソナー21c,21dに近い部分は、近距離である事により歩行者81を検知可能である。このため、歩行者81は、左右のコーナーソナー21c,21dに捉えられずに車両1の前方に進入することが出来なくなるので、センターソナー21a,21bによる検知を省略して構わない。そこで、制御部703は、センターソナー21a,21bが発信する順番を飛ばして、左右のコーナーソナー21c,21dを交互に発信する制御にし、4つの前方ソナー21を順に発信させる場合と比べて、左右のコーナーソナー21c,21dによる検知の頻度を2倍にする。これにより、より歩行者を検知し易くすることが出来る。
図27に示す例では、車両1の前方正面に位置する領域240は左右のコーナーソナー21c,21dの検知範囲に含まれないため、仮に領域240内に歩行者81が位置する場合、前方ソナー21では検知されない可能性がある。よって、センターソナー21a,21bによる検知を停止する条件として、前方ソナー21で歩行者81を検知していない事が必要である。上述のように歩行者81が車両1の斜め前方に位置する高感度領域230を通過せずに領域240に進入することは困難であるため、前方ソナー21が歩行者81を検知していない状態から開始する限り、歩行者81が領域240に到達する前に前方ソナー21によって検知される。なお、車両1が先行車両3の真後ろではなく、左右にオフセットして停車していたり、先行車両3が曲がり角に差し掛かっていて、車両1に対する角度が斜めであったりする様な、非典型的な位置関係である時には、左右のコーナーソナー21c,21dの一方が、先行車両3を捉えていない状態になる。このように、左右のコーナーソナー21c,21dの一方が、先行車両3を捉えていない時には、車両1の前方正面に位置する領域240に、左右のコーナーソナー21c,21dで検知されずに進入出来る隙間がある事になるので、センターソナー21a,21bによる検知を停止すべきでない。
また、左右のコーナーソナー21c,21dを交互に発信する制御に限定されるものではなく、制御部703は、左右のコーナーソナー21c,21dを同時に発信する制御を実行してもよい。
図28は、本実施形態に係る先行車両接近シーンにおいて前方センターソナー21a,21bの発信を停止した上で、左右のコーナーソナー21c,21dを同時に発信する状態の一例を示す図である。コーナーソナー21c,21dの指向性にも依るが、一方のコーナーソナー21が発信した超音波の反射波が反対側のコーナーソナー21に届かないか、届いても検知に影響しない強度であれば、制御部703は、左右のコーナーソナー21c,21dを同時に発信させる制御を実行しても良い。図28の右のコーナーソナー21cが発信した超音波が先行車両3に反射し、左のコーナーソナー21dにエコーが届く場合、この反対側からのエコーが、左のコーナーソナー21dが発信した超音波が先行車両3で反射して左のコーナーソナー21dに戻ったエコーの後に届き、エコーが二重になる。しかし、両方のソナーが同時に発信している事を条件として2番目のエコーを無視する様に制御するのであれば、反対側からのエコーの強度に関わらず、左右のコーナーソナー21c,21dを同時に発信させても良い。この様に左右のコーナーソナー21c,21dを同時に発信させた場合、4つの前方ソナー21を順に発信させる場合と比べて、左右のコーナーソナー21c,21dによる検知の頻度を4倍にする事が出来る。
また、制御部703は、隣接車線の車流に応じて、各前方ソナー21の発信の停止および発信間隔の変更を行っても良い。
図29は、本実施形態に係る先行車両接近シーンにおいて隣接車線の車流が流れている場合の前方ソナー21の発信の有無および発信頻度の制御の一例を示す図である。図29に示す例では、隣接車線である対向車線502側の信号機51が青色点灯しているものとする。このため、対向車線502上の他の車両4a,4bは所定値以上の速度で走行している。
隣接車線の車流が流れている場合は、車流が流れている隣接車線の側からは自車線501に歩行者81が進入しないので、歩行者81が進入する可能性の無い隣接車線の側の検知頻度を下げる制御により、当該隣接車線の反対側に対して重点的な歩行者検知が出来る。
例えば、図29に示す例では、制御部703は、対向車線502側の第1の前方コーナーソナー21cの発信を止め、反対側の第2の前方コーナーソナー21dの発信頻度を2倍にしてもよい。この場合、対向車線502の反対側から進入する歩行者81を、左右のコーナーソナー21を均等に発信する場合と比較して2倍の頻度で検知できる。
また、図30は、本実施形態に係る先行車両接近シーンにおいて隣接車線の車流が流れている場合の前方ソナー21の発信の有無および発信頻度の制御の他の一例を示す図である。図30に示す例では、対向車線502の反対側に位置する第2の前方コーナーソナー21dのみが超音波を発信し、その他の前方ソナー21は超音波の発信を停止している。このような場合、4つの前方ソナー21を均等に発信する場合と比較して、第2の前方コーナーソナー21dによる検知の頻度が4倍になる。歩行者81が進入する可能性の無い隣接車線の側の検知頻度を下げる制御は、発信を停止する制御に限らず、発信間隔を間引く制御でも良い。例えば、図29に示す例と図30に示す例の中間の例として、センターソナー21aとセンターソナー21bによる検知の頻度を4つの前方ソナー21を均等に発信する場合の半分に減らし、第2の前方コーナーソナー21dによる検知の頻度を3倍に増やす様にしても良い。
なお、制御部703は、歩行者81が検知された場合は、発信を停止していたソナー21も発信を再開し、4つの前方ソナー21の発信順を通常の順に戻す。また、例えば車両制御装置50は、歩行者81が車両1の前を通過するまでトラッキングする。つまり、図29、図30のように、一部の前方ソナー21の発信を停止または発信頻度の低下を伴うコーナーソナー21の検知頻度の増加制御は、歩行者81が検知されるまでの対応である。
次に、車歩混在シーンについて説明する。シーン判定部702は、車両1の位置が所定の地域に含まれる場合、または、車両1の進行方向に歩行者81を検知する頻度が所定値を超える場合、車歩混在シーンであると判定する。
より詳細には、シーン判定部702は、車両1が走行中であって、横断歩道接近シーンではなく、先行車両接近シーンでもない場合に、以下の(4)、(5)の条件に該当する場合は車両1の置かれたシーンが他の車両と歩行者とが混在する車歩混在シーンである、と判定する。なお、シーン判定部702は、(4)、(5)の両方を必須としても良いし、いずれか一方のみに該当すれば車歩混在シーンである、と判定しても良い。
(4)車両1が、商店街、スクールゾーン、生活道路、または駐車場に位置すると判定した場合。(5)歩行検知、または画像データからの顔検出により、車両1の進行方向に所定値を超える頻度で歩行者81を検知した場合。
上記の(4)に該当する地域は、本実施形態における所定の地域の一例であり、本発明を実施する国や地域の行政区分や法規に鑑みて、適宜変更する事は任意である。なお、これらの条件は一例であり、車歩混在シーンの判定条件はこれに限定されるものではない。
なお、本実施形態において、生活道路は、例えば日本国内であれば道路の幅員が所定値以下の道路のことをいう。所定の幅は例えば5.5mである。また、最高速度が30km/h以下である事を条件にしても良い。車両1が所定の地域にある事は、ナビゲーションシステムにより判定しても良いし、画像データから判定しても良い。例えば、センターラインや車線区分線(車道外側線を含まない)が画像データから検出されない時に、生活道路上に位置すると判定しても良い。
なお、車歩混在シーンでは、シーン判定部702は、例えば、歩行者81が車両1の進行方向上に存在する可能性がある状態で、歩行者81の検知に適した状態にソナー21を設定して走行し、歩行者81が車両1の進行方向上に存在することを検知したら制動すること、を目的としてシーン判別する。
上述の横断歩道接近シーンでは横断歩道9を基準に高感度領域230を設定し、上述の先行車両接近シーンでは先行車両3との間に高感度領域230を設定することにより、目的に合わせて合理的または効率的に高感度領域230を設定することが可能であった。
これに対して、車歩混在シーンは、歩行者81を検知すべき範囲を特定することが困難な場合に対応するので、横断歩道接近シーンや先行車両接近シーンが適用可能な場合は、それらのシーンを優先的に適用する。
例えば、(4)、(5)の条件に該当する地域を走行中でも、車両1の前方を走行する先行車両3が存在し、前方ソナー21で検知可能な車間距離を保って低速走行している場合は、シーン判定部702は先行車両接近シーンと判定してもよい。この場合、制御部703は、先行車両3との間に高感度領域230を設定しても良い。
また、(4)、(5)の条件に該当する地域を走行中でも、横断歩道に接近している時は、歩行者は横断歩道を通ると推定して、横断歩道を基準に高感度領域を設定しても良い。(4)、(5)の条件に該当する地域を走行中に、横断歩道接近シーンや先行車両接近シーンの判定条件から外れている場合に限り、より劣勢なシーンとして車歩混在シーンであると判定を変えれば良い。例えば、シーン判定部702は、横断歩道9を通過した場合や、先行車両3との距離が開いて、前方ソナー21で検知可能な車間距離(例えば10m)を越えた場合には車歩混在シーンにシーン判定を変更する。
制御部703は、シーン判定結果が車歩混在シーンである場合、車両1の車速に応じて、反射波を検知する感度、または、超音波を発信する発信間隔、のいずれかを変更する。
ここで、車歩混在シーンにおける高感度領域230の範囲について説明する。
図31は、本実施形態に係る車歩混在シーンにおける高感度領域230の範囲の一例を示す図である。
シーン判定結果が車歩混在シーンである場合、制御部703は、車速が所定値以下である事を条件として、車速に応じて高感度領域230を設定する。高感度領域230は、図31に示すように車両1の前方に扇形に設定する。車速の所定値は、例えば10km/hであるがこれに限定されない。
図31において、車両1の前端部の位置が地点X、地点Y、地点Zの順に車両1の前方方向に進む場合、高感度領域230も車両1の前方方向に進む。具体的には、車両1の前端部が地点Xにある場合は図31に示す高感度領域230x、車両1の前端部が地点Yにある場合は図31に示す高感度領域230y、車両1の前端部が地点Zにある場合は図31に示す高感度領域230z、のように車両1と一定の距離を保って進む。
また、図31では、車両1の前方に歩行者81が存在すると仮定している。更に、歩行者81は高感度領域230に居る場合だけ前方ソナー21によって検知可能であり、3回連続して検知された場合に障害物と判定される、と仮定する。この場合、検知間隔が0.1秒、車速が3m/s(10.8km/h)であれば、検知毎に30cmずつ高感度領域230が前進するので、高感度領域230の幅が90cm以上あれば3回連続して検知され、障害物と判定される。歩行者81が3回連続して検知されるようにする為には、車速が速いほど検知間隔の間に車両1が進む距離が大きくなる事に合わせて、高感度領域230の幅を広げればよい。しかし、高感度領域230の幅を車速に正比例させると、車速が低い時に高感度領域230の幅が狭くなりすぎる場合がある。例えば、車速が3m/sの時と同じ比率で高感度領域230の幅を正比例させると、車速が1m/sの時に高感度領域230の幅が30cmとなる。高感度領域230の幅が狭いと、歩行者81の移動によって高感度領域230から外れてしまう恐れがあるので、歩行者81の移動速度を考慮した固定値を、高感度領域230の幅に加える事が好ましい。歩行者81の速度を1.5m/sとすると、検知が3回実行される0.3秒の間に45cm移動する。そこで、例えば、距離マージンとして固定値=0.5mを高感度領域230の幅に加えて、「高感度領域230の幅(m)=車速(m/s)×0.3(S)+0.5m」とすると、高感度領域230の幅は車速が3m/sの時に1.4m、車速が1m/sの時に0.8mとなる。
制御部703は、車両1から高感度領域230までの距離を、制動距離を基準として設定する。通常、ドライバーが危険を認知してからブレーキを踏むまでに車両1が走行する距離を空走距離と呼ぶのに対し、ブレーキが踏まれてから車両1が停止するまでに走行する距離を制動距離と呼ぶ。ドライバーが危険を認知してから停止するまでに車両1が走行する距離は停止距離と呼ばれ、停止距離=空走距離+制動距離である。ソナーによる検知に基づく緊急ブレーキの場合、歩行者81を初めて検知した時点から障害物として判定するまでに走行する距離が空走距離に相当し、障害物として判定した時点で緊急制動を開始して車両1が停止するまでに走行する距離が制動距離に相当する。このように定義しなおすと、歩行者81を初めて検知した時点から停止するまでに走行する距離が停止距離となり、停止距離=空走距離+制動距離の式が成立する。高感度領域230はソナー21を起点とするのに対し、制動距離や停止距離は車両1の先端からの距離によって定義される。しかし、ソナー21は概ね車両1の先端に設置してあるので、ソナー21の位置と制動距離の起点は略一致すると言ってよい。つまり、高感度領域230の遠端を定義する車両1からの高感度領域遠端距離は、高感度領域の遠端で初めて歩行者81が検知された場合に、車両1が当該歩行者81の手前で停車可能な距離、すなわち、停止距離を基準として設定し、歩行者保護の必要上、必ず停止距離以上とする。
例えば、車速が3m/sの時に3回連続して検知して強制制動してから停止するまでの制動距離が1mの場合、車両から高感度領域230までの距離は少なくとも1mは必要であり、そこから3回連続して検知する間に車両1が走行する空走距離に相当する0.9mに、距離マージンとして固定値=0.5mを加えた幅1.4mの高感度領域230を設定する。つまり、停止距離=1m+0.9m=1.9mより、高感度領域遠端距離は、少なくとも1.9m必要であるのに対し、高感度領域遠端距離を2.4mに設定していれば、高感度領域の遠端で歩行者を初めて検知した時に、歩行者の0.5m手前で停車できる計算になる。以上は必要最小限の距離を試算したものであり、距離マージンが小さすぎる嫌いもあるので、実施上は停車時の歩行者との距離のマージンを増やすなどの補正を加えることが望ましい。
図32は、本実施形態に係る車歩混在シーンにおける可測距離d1の一例を示す図である。図32では、可測距離d1は、高感度領域230の遠端までの距離とする。すなわち、車両1から高感度領域230の終了位置までの距離が可測距離d1となる。制御部703は、可測距離d1を制限する事により、検知の頻度を高くする制御を加えても良い。
例えば、音速が340m/sの時に、車両1から高感度領域230の開始位置、つまり近端までの距離を1m、高感度領域230の幅を1mと仮定すると、高感度領域230の遠端、つまり終了位置までの距離は2mとなる。また、高感度領域230の遠端に障害物があった場合の超音波の飛距離は4mとなる。この距離を超音波は11.8msecで往復するので、超音波の発信間隔を12.5msecとすれば、高感度領域230の遠端で反射した超音波の検知は、次の超音波の発信で妨げられない。4個の前方ソナー21が順に発信すると、一つの前方ソナー21が発信する発信間隔は50msecとなる。3回連続して検知した場合に障害物と判定する場合、最短150msecで障害物と判定できる。
超音波の発信間隔を12.5msecの2倍の25msecとすれば、発信間隔を12.5msecとした場合の可測距離2mの2倍である4mの距離まで障害物を検知可能になる。4個の前方ソナー21が順に発信すると、一つの前方ソナー21が発信する発信間隔は100msecとなる。3回連続して検知した時に障害物と判定する場合、最短300msecで障害物と判定できる。これは、検知の頻度を低減する代わりに障害物を検知可能な距離を延ばした例である。この場合も、車両1と高感度領域230との距離を、車両1が停止可能な距離、つまり制動距離以上とするが、高感度領域230の幅は発信間隔に依存して計算する。
具体的には、制御部703は、車両1から高感度領域230までの距離を、歩行者81を3回連続して検知した時に緊急制動を開始して、歩行者81の手前で停止できる距離を基準に決定する。
例えば、車速が3m/sの時に検知間隔が50msecであって、検知してから停止するまでの走行距離が1mの場合、制御部703は、車両1から高感度領域230の開始位置までの距離を、1mに設定する。3回の検知に150msecを要するので、車両1からの距離が2mの位置で1回目に反射波が検知閾値を超え、その150msec後に当該反射波によって検知されたものが障害物であると判定されたとする。この間に車両1は45cm前進しているので、車両1が停止するまで更に1m前進したとしても、検知された障害物の55cm手前で車両1が停止できる。
別の例として、制御部703が超音波の発信間隔を25msecとして、4mの距離の障害物を検知可能にした場合、障害物と判定できるまで300msecを要し、この間に車両1は0.9m前進する。障害物と判定してから1m進んで停止すると、障害物の2.1m手前で停車する。停車した時の障害物までの距離は長くなるが、衝突防止システムとしては衝突しなければ問題ないので、2.1m手前での停車は過剰である可能性がある。しかし、超音波の発信間隔を半分の12.5msecとすると、検知の頻度が2倍になる事によって歩行者81を検知できる確率が高くなるが、可測距離d1が半分の2mになるので、歩行者81を検知して55cm手前で停車できたとしても、歩行者81を驚かせる恐れがある。つまり、障害物が歩行者81である事を考慮すると、停車時の歩行者との距離が不足している可能性がある。実施の適用としては、衝突しないことを保障可能な距離に基準としつつ、歩行者81側の心理を考慮したマージンを加えて、可測距離d1を設定する事が望ましい。以上、分かり易い試算の例として、発信間隔を最初に設定して、停止距離を算出し、歩行者の手前で停車する事を説明したが、発信間隔は可測距離d1で決まり、可測距離d1と高感度領域遠端距離は同じなので、衝突しないことを保障可能な距離に基づいて高感度領域遠端距離を最初に設定し、高感度領域遠端距離=可測距離d1から発信間隔を逆算し、発信間隔に比例して高感度領域の幅を設定する様にしても良い。発信間隔が決まれば歩行者の手前で停車した時の距離マージンを試算出来る事は、上記に示した通りである。
歩行者81は超音波の反射率が低いために検知されにくく、ソナー21,22からの距離が長いほどエコーが弱くなる。このため、本実施形態では、衝突しないことを保障可能な距離に基づいて可測距離d1を決定し、可測距離d1の内側は高感度領域230として歩行者81を検知することにより、より確実に歩行者81を検知することが出来る。
また、制御部703は、車両1の車速に応じた制動距離、または、所定の既定値のうち、大きい方を基準として高感度領域近端距離を設定しても良い。例えば、ソナーの性能として、ソナーからの距離が1m以内の近傍領域であれば高感度領域に設定しなくても歩行者を検知可能であるならば、車速が3m/s未満で制動距離が1m未満である車速範囲では、高感度領域近端距離を近傍領域に合わせて1mに固定しても良い。この場合、歩行者が高感度領域近端距離よりも内側に入っても検知が可能なので、高感度領域の幅は規定する必要が無く、高感度領域遠端距離が停止距離を下回らない様に設定していれば衝突を回避できる。
また、図31、図32では車両1が移動する場合を例示したが、車両1が走行している場合だけではなく、停車中においても、車歩混在シーンの判定結果に基づく制御が実行されても良い。
図33は、本実施形態に係る車歩混在シーンにおける停止中の車両1の高感度領域230の幅d12、および高感度領域近端距離d11の一例を示す図である。
上述の説明では車歩混在シーンである場合、制御部703が、車両1が走行していることを前提として、車速に応じて高感度領域230を設定するように説明したが、シーン判定部702は、車歩混在シーンを車両が停止している時にも適用しても良い。この場合、制御部703は、車両1の停車時も車両1の前方に扇形の高感度領域230を設定する様にしてもよい。つまり、シーン判定部702は、車両1が走行していることを、車歩混在シーンと判定する条件から除外してもよい。
車両1が停車している場合は、高感度領域230も前進しないので、同じ範囲が検知され続ける。仮に、歩行者81が移動している場合であって、かつ、当該歩行者81が高感度領域230で3回連続して検知される場合について説明する。例えば、検知間隔が0.1秒、歩行速度が1.5m/s(5.4km/h)である場合、3回検知される間に歩行者81は45cm移動する。
高感度領域230の幅d12の計算式「高感度領域230の幅(m)=車速(m/s)×0.3(S)+0.5mに車速=0」に当てはめると、高感度領域230の幅d12は0.5mとなり、歩行者81が移動しても、障害物として検知される為の条件は満足される。車両1が停車している場合は、制動してから停止するまでの制動距離は0mなので、車速に応じて高感度領域近端距離を決めると0mとなる。しかし、ソナー21,22の近傍領域、例えば1m以内の領域は、高感度に設定しなくとも歩行者81を検知できると期待できる。そこで、車両から高感度領域230までの距離は、車速に応じた高感度領域近端距離が1m以下になる時、例えば車速が3m/s以下の時は、一律に1mとしても良い。高感度領域230の設定の例としてとしては、例えば車両から高感度領域230までの距離は1mであり、そこから、幅が50cmの扇形の高感度領域230を設定することになる。
車両1が停止している時に、歩行者81を検知した場合は、車両1の制動の維持や加速の抑制を行うと良い。例えば、車両1から1m~1.5mの高感度領域230に歩行者81を検知した時は加速抑制として、低加速での前進を許容し、歩行者81の距離をトラッキングして車両から1m以内になる時は制動する様にしても良い。このように、停車時も低速時と同じシーン判定を適用して歩行者81検知を行うことにより、スムーズな制御が可能になる。なお、障害物を検知した場合に、車両1が走行中であれば制動を行い、車両1が停車中であれば制動の維持や加速の抑制を行うことについては、ソナー21による検知結果を利用した車両1の制御として一般的な技術を適用可能である。
例えば、速度制御装置40は、シーン判定結果が車歩混在シーンである場合であって、かつ、車両1から第1の距離以下の位置に歩行者81が検知された場合は、車両1の加速を抑制する。また、シーン判定結果が車歩混在シーンである場合であって、かつ、車両1から第1の距離よりも短い第2の距離以下の位置に歩行者81が検知された場合は、車両1を制動させても良い。第1の距離は、例えば上述のように1.5m程度の距離としてもよい。また、第2の距離は、例えば上述のように1m程度の距離としてもよい。
また、車歩混在シーンにおける車両1の車速の制限についてさらに説明をする。
例えば、ソナー21,22には、他の車両が発した超音波が飛び込むことがあるので、例えば車両制御装置50は、検知した物体の座標の変化をトラッキングし、同じ物体を継続して検知している事を条件として障害物を検知したと判定する。このため、走行する車両1の前方の高感度領域230の幅d12が、車両1が移動しても障害物が高感度領域230から外れないようにするためには、車両1の車速が早いほど高感度領域230の幅d12を広くする必要がある。
しかし、高感度領域230では、路面の凹凸の様に障害物ではない物からのエコーが検知閾値を超える不要検知が発生する。このため、高感度領域230の幅d12を広くすると、不要検知の数も増える。車速に応じて高感度領域230の幅を広くすると、このような不要検知の数が、車両制御装置50等がトラッキング可能な数の限界を超える恐れがある。すなわち、高感度領域230の幅には実用的な上限があるので、高感度領域230で歩行者81を検知できる車速にも、実用的な上限がある。
そこで、シーン判定部702が車歩混在シーンである、と判定した場合、具体的には上述の(4)、(5)のいずれか一つまたは両方の条件が満たされた場合、速度制御装置40は、高感度領域230で歩行者81を検知できる車速を上限として車速を制限することにより、歩行者81を確実に検知して衝突を回避できる様にする事が望ましい。
次に、以上のように構成された車載システム100で実行されるシーン判定処理の流れについて説明する。
図34は、本実施形態に係るシーン判定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
まず、シーン判定部702は、車両1の車速がソナー作動閾値以下か判定する(S101)。
車両1の車速がソナー作動閾値より速い場合(S101“No”)、ソナー21,22は作動しないため、シーン判定処理は終了する。なお、ソナー作動閾値は、例えば20km/hである。
また、車両1の車速がソナー作動閾値以下であれば(S101“Yes”)、シーン判定部702は、車両1が置かれたシーンが先行車両接近シーンに該当するか否かを判定する(S102)。先行車両接近シーンの判定条件は、例えば、前方ソナー21で検知可能な距離以下に先行車両3を検知していることである。前方ソナー21で検知可能な距離は、例えば10mである。
車両1が置かれたシーンが先行車両接近シーンに該当すると判定した場合(S102“Yes”)、シーン判定部702は、さらに、車両1が置かれたシーンが横断歩道接近シーンに該当するか否かを判定する(S103)。この場合の横断歩道接近シーンの判定条件は、横断歩道9が車両1と先行車両3の間に位置し、先行車両3が横断歩道9上に無く、車両1の車速が歩行者横断閾値以下であることである。歩行者横断閾値は、例えば2km/hである。つまり、先行車両3と車両1の間に横断歩道9があっても、車両1が2km/h以上で走行していれば、歩行者81は横断してこないので、横断歩道接近シーンを適用する必要は無い。なお、横断歩道接近シーンの判定条件はこれに限定されない。特に、先行車両3に接近している時と、そうでない時とで、横断歩道接近シーンの判定条件が異なっていても良い。例えば、先行車両3に接近していない時は、車速が歩行者横断閾値以下であることは判定条件とせず、横断歩道9に接近していれば横断歩道接近シーンであると判定するようにしても良い。
シーン判定部702は、車両1が置かれたシーンが横断歩道接近シーンに該当すると判定した場合(S103“Yes”)、車両1が置かれたシーンが横断歩道接近シーンであると判定する(S106)。
また、シーン判定部702は、車両1が置かれたシーンが横断歩道接近シーンに該当しないと判定した場合(S103“Yes”)、先行車両接近シーンと判定する(S104)。
また、S102の処理において、先行車両接近シーンに該当しないと判定した場合(S102“No”)、シーン判定部702は、車両1が置かれたシーンが横断歩道接近シーンに該当するか否かを判定する(S105)。この場合の横断歩道接近シーンの判定条件は、例えば、横断歩道9が車両1の前方にあり、横断歩道9と車両1との距離が、前方ソナー21で検知可能な距離(例えば10m)以下であることである。当該判定条件に該当する場合(S105“Yes”)、シーン判定部702は、車両1が置かれたシーンが横断歩道接近シーンであると判定する(S106)。なお、次の様な場合は、横断歩道9が車両1の前方にあっても横断歩道接近シーンとは判定せず、車歩混在シーンと判定して処理しても良い。例えば車両1がスクランブル交差点に進入して停車している場合は、歩行者81が前方の横断歩道9の範囲内で移動する事は期待できないので、横断歩道9の範囲に高感度領域を設定する横断歩道接近シーンの制御は不適当である。また、車両1が幅広の横断歩道9の直前に停車していて、横断歩道9の範囲を高感度領域でカバー出来ない場合も、車歩混在シーンの制御を適用して車両1の周囲を高感度領域にする方が安全である。条件の詳述は略すが、これらの状況が除外されるように、横断歩道接近シーンの判定条件を設定しても良い。
また、当該判定条件に該当しない場合(S105“No”)、シーン判定部702は、さらに、車両1が置かれたシーンが車歩混在シーンに該当するか否かを判定する(S107)。車歩混在シーンの判定条件は、上述の(4)、(5)のいずれか一方または両方が満たされることである。
車両1が置かれたシーンが車歩混在シーンに該当する場合(S107“Yes”)、シーン判定部702は、車両1が置かれたシーンを車歩混在シーンと判定する(S108)。
また、車両1が置かれたシーンが車歩混在シーンに該当しない場合(S107“No”)、シーン判定部702は、車両1が置かれたシーンがその他のシーン、つまり通常シーンと判定する(S109)。
このようなシーン判定処理によって車両1が置かれたシーンの判定結果が出た後、制御部703等によって、シーン判定結果に応じたソナー21,22の制御が実行される。
このように、本実施形態の車両1は車両1に備えられて超音波を発信し、車両1の周囲の物体が反射した反射波を受信するまでの時間を計測することにより、車両1の周囲の物体を検知するとともに、検知した物体までの距離情報を得る複数のソナー21,22を備える。また、本実施形態のセンサ制御装置70は、距離情報、車両1の速度を示す車速情報、車両1の周囲を撮像する撮像装置16により得た画像データ、または、車両1の位置を地図上で特定した位置情報、のうち少なくともいずれかに基づいて、車両1の置かれたシーンを判定する。そしてシーン判定結果に基づいて、反射波を検知する感度、または、超音波を発信する発信間隔、または、超音波を発信する発信順序、のうち少なくともいずれかを変更する。このため、本実施形態のセンサ制御装置70によれば、車両1の周囲の状況に応じて歩行者81等を高精度に検知することができる。
なお、本実施形態においては、シーン判定部702は、車両1の置かれたシーンが、横断歩道接近シーン、先行車両接近シーン、車歩混在シーン、または通常シーンのいずれであるかを判定していたが、これら全てのシーンを判定対象としなくとも良い。
具体的には、シーン判定部702は、横断歩道接近シーン、先行車両接近シーン、または車歩混在シーン、のうちのいずれか1つ以上を判定する機能を備えればよい。例えば、シーン判定部702は、車両1の置かれたシーンが、横断歩道接近シーンか否かを判定する機能のみを備えても良い。この場合、横断歩道接近シーンに該当しない場合は通常シーン(その他のシーン)と判定される。先行車両接近シーンだけを判定する場合、または車歩混在シーンだけを判定する場合も同様である。どのシーンに対応するかは、走行している国や地域や道路の区分に応じて変えても良い。例えば、道路に横断歩道の設定のない自動車専用道路や、横断歩道を利用するルールが守られない地域では、横断歩道接近シーンをシーン判定から除外しても良い。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。