JP7295704B2 - 電解装置の運転方法及び電解装置 - Google Patents

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Description

本発明は、電解装置の運転方法及び電解装置に関する。
近年、二酸化炭素等の温室効果ガスによる地球温暖化、化石燃料の埋蔵量の減少等の問題を解決するため、再生可能エネルギーを利用した風力発電や太陽光発電等の技術が注目されている。
再生可能エネルギーは、出力が気候条件に依存するため、その変動が非常に大きいという性質がある。そのため、再生可能エネルギーによる発電で得られた電力を一般電力系統に輸送することが常に可能とはならず、電力需給のアンバランスや電力系統の不安定化等の社会的な影響が懸念されている。
そこで、再生可能エネルギーから発電された電力を、貯蔵及び輸送が可能な形に代えて、これを利用しようとする研究が行われている。具体的には、再生可能エネルギーから発電された電力を利用した水の電気分解(電解)により、貯蔵及び輸送が可能な水素を発生させ、水素をエネルギー源や原料として利用することが検討されている。
水素は、石油精製、化学合成、金属精製等の場面において、工業的に広く利用されており、近年では、燃料電池車(FCV)向けの水素ステーションやスマートコミュニティ、水素発電所等における利用の可能性も広がっている。このため、再生可能エネルギーから特に水素を得る技術の開発に対する期待は高い。
水の電気分解の方法としては、固体高分子型水電解法、高温水蒸気電解法、アルカリ水電解法等があるが、数十年以上前から工業化されていること、大規模に実施することができること、他の水電解システムに比べると安価であること等から、アルカリ水電解は特に有力なものの一つとされている。
しかしながら、アルカリ水電解を今後エネルギーの貯蔵及び輸送のための手段として適応させるためには、前述のとおり出力の変動が大きい電力を効率的且つ安定的に利用して水電解を行うことを可能にする必要があり、アルカリ水電解用の電解セルや装置の諸課題を解決することが求められている。
例えば、アルカリ水電解において電解電圧を低く抑えて、水素製造の電力原単位を改善するという課題を解決するためには、電解セルの構造として、特に、隔膜と電極との隙間を実質的に無くした構造である、ゼロギャップ構造と呼ばれる構造を採用することが有効なことはよく知られている(特許文献1、2参照)。ゼロギャップ構造では、発生するガスを電極の細孔を通して電極の隔膜側とは反対側に素早く逃がすことによって、電極間の距離を低減しつつ、電極近傍におけるガス溜まりの発生を極力抑えて、電解電圧を低く抑制している。ゼロギャップ構造は、電解電圧の抑制にきわめて有効であり、種々の電解装置に採用されている。
特許第5553605号公報 国際公開第2015/098058号
しかしながら、従来の電解装置では、太陽光や風力等の変動電源下において、電解運転時に陽極及び陰極に蓄積された電荷が電解停止時に陽極及び陰極に逆に流れ逆電流が生じることがあった。そして、当該逆電流が生じて電極の電位が変化し、陽極の電位が所定の水素発生電位に、陰極の電位が所定の酸素発生電位に達すると、陽極では水素が、陰極室では酸素が発生する。その結果、電解停止時には各電極室内の気体が滞留しやすいことから、局部的に酸素中水素濃度または水素中酸素濃度が高くなりやすくなる虞があった。特に、電解装置は、通常、電解セルが複数直列にスタックされるが、この場合、直列に並んだ中央側の電解セルは、陽極や陰極の電位が水素発生電位、酸素発生電位に外側の電解セルよりも早期に達しやすかった。
そこで、本発明は、電解装置において局部的に、特に直列にスタックした複数の電解セルのうち中央側の電解セルでの酸素中水素濃度または水素中酸素濃度が高くなることを抑制することが可能な電解装置の運転方法及び電解装置を提供することを目的とする。
本発明の要旨は以下の通りである。
〈1〉相互に隔膜で区画された、陽極を有する陽極室と陰極を有する陰極室とをそれぞれ複数備える電解装置の運転方法であって、
前記陽極室および前記陰極室中の電解液の電気分解が行われる通電工程と、
前記陽極室および前記陰極室中の電解液の電気分解が停止している停止工程と、を有し、
前記停止工程において、全ての前記陰極室内の水素中の酸素濃度が1.0モル%以下であることを特徴とする、電解装置の運転方法。
〈2〉更に、前記停止工程において前記陰極の少なくとも一部が水素ガスに接触した状態になるようにするとともに、当該停止工程における前記陰極室中の水素ガスの量H(mol)が、下記式
M(mol)≦H(mol)
M(mol)=逆電流量I(C/Sec)×停止工程時間T(Sec)/(2×ファラデー定数F(C/mol))
を満たすように制御する制御工程を有する、上記〈1〉の電解装置の運転方法。
〈3〉相互に隔膜で区画された、1つの陽極室と1つの陰極室とを1つの電解セルとするとき、更に、前記停止工程において前記陰極の少なくとも一部が水素ガスに接触した状態になるようにすることで、下記式
電解セルの電圧(V)≧0.20V
を満たすように制御する制御工程を有する、上記〈1〉の電解装置の運転方法。
〈4〉前記電解槽がN個の前記電解セルを有し、
前記制御工程において、下記式
電解槽の電圧(V)≧0.20V×N
を満たすように制御する、上記〈3〉の電解装置の運転方法。
〈5〉前記制御工程における制御は、前記陰極室の外部から水素ガスを供給することを含む、上記〈2〉~〈4〉のいずれかの電解装置の運転方法。
〈6〉前記停止工程において、前記陰極室及び/又は前記陽極室の前記電解液の液面が前記隔膜の非被覆上端よりも鉛直方向上方に位置する、上記〈2〉~〈5〉のいずれかの電解装置の運転方法。
〈7〉前記制御工程における前記制御は、前記陰極室内の前記電解液の量を、前記制御工程前の前記陰極室内の前記電解液の量よりも減少させることを含む、上記〈2〉~〈6〉のいずれかの電解装置の運転方法。
〈8〉前記陰極の保有電荷量が、前記陽極の保有電荷量に対して0.1倍以下である上記〈1〉~〈7〉のいずれかの電解装置の運転方法。
〈9〉相互に隔膜で区画された、陽極を有する陽極室と陰極を有する陰極室とをそれぞれ複数備える電解装置の運転方法であって、
前記陽極室および前記陰極室中の電解液の電気分解が行われる通電工程と、
前記陽極室および前記陰極室中の電解液の電気分解が停止している停止工程と、を有し、
前記停止工程において、全ての前記陽極室内の酸素中の水素濃度が1.0モル%以下であることを特徴とする、電解装置の運転方法。
〈10〉前記電解装置の電解槽が複極式であって、1つの前記陽極室と1つの前記陰極室とを1つの電解セルとするとき、当該電解槽が30以上の電解セルを有する、上記〈1〉~〈9〉のいずれかの電解装置の運転方法。
〈11〉前記電解装置は、前記陰極室への前記電解液の供給経路及び、前記陰極室からの前記電解液の排出経路を備え、
前記停止工程において、前記供給経路及び/又は前記排出経路を、前記陰極室に対して絶縁する、上記〈1〉~〈10〉のいずれかの電解装置の運転方法。
〈12〉前記停止工程において、前記電解装置の、電解槽と電解電源とを含む電気回路を、遮断する、上記〈1〉~〈11〉のいずれかの電解装置の運転方法。
〈13〉前記電解装置が、前記陽極と、前記陰極と、前記陽極および前記陰極を隔離する隔壁と、前記隔壁を縁取る外枠とを有するエレメントを複数備え、
複数の前記エレメントは、相互に絶縁された状態で前記隔膜を挟んで重ね合わせられている、上記〈1〉~〈12〉のいずれかの電解装置の運転方法。
〈14〉前記電解液がアルカリ水溶液である、上記〈1〉~〈13〉のいずれかの電解装置の運転方法。
〈15〉前記停止工程において前記陽極室および/または前記陰極室が閉鎖系である、上記〈1〉~〈14〉のいずれかの電解装置の運転方法。
〈16〉相互に隔膜で区画された、陽極を有する陽極室と陰極を有する陰極室とを備え、
更に、前記陰極室中の水素ガスの量を制御可能な第1の混合防止部を備えることを特徴とする、電解装置。
本発明によれば、電解装置において局部的に、特に直列にスタックした複数の電解セルのうち中央側の電解セルでの酸素中水素濃度または水素中酸素濃度が高くなることを抑制することが可能な電解装置の運転方法及び電解装置を提供することができる。
本実施形態の電解装置の概要を示す図である。 本実施形態の電解装置の電解槽の一例の全体について示す側面図である。 本実施形態の外部ヘッダー型の電解装置の電解槽の一例の電解室、ヘッダー、導管について示す斜視図である。 本実施形態の外部ヘッダー型の電解装置の電解槽の一例について示す平面図である。 本実施形態の外部ヘッダー型の電解装置の電解槽の一例の陰極室を模式的に示す図であり、(a)は、当該陰極室について、鉛直方向及び陰極に垂直な方向に沿う面での断面で示す、模式的な断面図である。また、(b)は、当該陰極室について示す模式的な平面図である。 図5に示す本実施形態の一例の陰極室を変形させた一例について、鉛直方向及び陰極に垂直な方向に沿う面での断面で示す、模式的な断面図である。
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
図1に、本実施形態の電解装置の運転方法に使用可能な電解装置、及び本実施形態の電解装置の概要を示す。
(電解装置)
本実施形態の電解装置70は、例えば、図1に示すように、電解槽50と、電解液を循環させるための送液ポンプ71と、電解液と水素及び/又は酸素とを分離する気液分離タンク72と、電解により消費した水を補給するための水補給器73とを有する。また、より具体的には、本実施形態の電解装置70は、相互に隔膜4で区画された、陽極2aを有する陽極室5aと陰極2cを有する陰極室5cとを備える。
また、本実施形態の電解装置70は、陰極室5c中の水素ガスの量を制御可能な第1の混合防止部を備える。
本実施形態の電解装置70によれば、電解装置において局部的に、特に直列にスタックした複数の電解セルのうち中央側の電解セルでの酸素中水素濃度または水素中酸素濃度が高くなることを抑制することが可能な電解装置70を提供することができる。
初めに、本実施形態の電解装置70の構成要素のうち、主に電解槽50について説明する。
(電解槽)
本実施形態の電解装置70における電解槽50は、特に限定されることなく、単極式としても複極式としてもよいが、図1等に示すように、工業的に、複極式の電解槽が好ましい。
複極式は、多数のセルを電源に接続する方法の1つであり、片面が陽極2a、片面が陰極2cとなる複数の複極式エレメント60を同じ向きに並べて直列に接続し、両端のみを電源に接続する方法である。
複極式電解槽50は、電源の電流を小さくできるという特徴を持ち、電解により化合物や所定の物質等を短時間で大量に製造することができる。電源設備は出力が同じであれば、定電流、高電圧の方が安価でコンパクトになるため、工業的には単極式よりも複極式の方が好ましい。
本実施形態の電解装置70の複極式電解槽50は、図2に示すとおり、陽極2aと、陰極2cと、陽極2aと陰極2cとを隔離する隔壁1と、隔壁1を縁取る外枠3とを備える複数の複極式エレメント60が隔膜4を挟んで重ね合わせられている複極式電解槽50である。
((複極式エレメント))
一例の電解装置70の複極式電解槽50に用いられる複極式エレメント60は、図2に示すように、陽極2aと陰極2cとを隔離する隔壁1を備え、隔壁1を縁取る外枠3を備えている。より具体的には、隔壁1は導電性を有し、外枠3は隔壁1の外縁に沿って隔壁1を取り囲むように設けられている。
なお、本実施形態では、複極式エレメント60は、通常、隔壁1に沿う所与の方向D1が、鉛直方向となるように、使用してよく、具体的には、図3、図4に示すように隔壁1の平面視形状が長方形である場合、隔壁1に沿う所与の方向D1が、向かい合う2組の辺のうちの1組の辺の方向と同じ方向となるように、使用してよい(図2、図3参照)。
本実施形態では、図2に示すとおり、複極式電解槽50は複極式エレメント60を必要数積層することで構成されている。
図2に示す一例では、複極式電解槽50は、一端からファストヘッド51g、絶縁板51i、陽極ターミナルエレメント51aが順番に並べられ、更に、陽極側ガスケット部分7、隔膜4、陰極側ガスケット部分7、複極式エレメント60が、この順番で並べて配置される。このとき、複極式エレメント60は陽極ターミナルエレメント51a側に陰極2cを向けるよう配置する。陽極側ガスケット部分7から複極式エレメント60までは、設計生産量に必要な数だけ繰り返し配置される。陽極側ガスケット部分7から複極式エレメント60までを必要数だけ繰り返し配置した後、再度、陽極側ガスケット部分7、隔膜4、陰極側ガスケット部分7を並べて配置し、最後に陰極ターミナルエレメント51c、絶縁板51i、ルーズヘッド51gをこの順番で配置される。複極式電解槽50は、全体をタイロッド方式51r(図2参照)や油圧シリンダー方式等の締め付け機構により締め付けることによりー体化され、複極式電解槽50となる。
複極式電解槽50を構成する配置は、陽極2a側からでも陰極2c側からでも任意に選択でき、上述の順序に限定されるものではない。
図2に示すように、複極式電解槽50では、複極式エレメント60が、陽極ターミナルエレメント51aと陰極ターミナルエレメント51cとの間に配置されている。隔膜4は、陽極ターミナルエレメント51aと複極式エレメント60との間、隣接して並ぶ複極式エレメント60同士の間、及び複極式エレメント60と陰極ターミナルエレメント51cとの間に配置されている。
また、本実施形態における複極式電解槽50では、図3、図4に示すとおり、隔壁1と外枠3と隔膜4とにより、電解液が通過する電極室5が画成されている。
本実施形態では、特に、複極式電解槽50における、隣接する2つの複極式エレメント60間の互いの隔壁1間における部分、及び、隣接する複極式エレメント60とターミナルエレメントとの間の互いの隔壁1間における部分を電解セル65と称する。電解セル65は、一方のエレメントの隔壁1、陽極室5a、陽極2a、及び、隔膜4、及び、他方のエレメントの陰極2c、陰極室5c、隔壁1を含む。
詳細には、電極室5は、外枠3との境界において、電極室5に電解液を導入する電解液入口5iと、電極室5から電解液を導出する電解液出口5oとを有する。より具体的には、陽極室5aには、陽極室5aに電解液を導入する陽極電解液入口5aiと、陽極室5aから導出する電解液を導出する陽極電解液出口5aoとが設けられる。同様に、陰極室5cには、陰極室5cに電解液を導入する陰極電解液入口5ciと、陰極室5cから導出する電解液を導出する陰極電解液出口5coとが設けられる。
本実施形態では、陽極室5a及び陰極室5cにおいて、電解液を電解槽50内部で、電極面内に均一に分配するための内部ディストリビュータを備えてもよい。また、電極室5は、電解槽50内部での液の流れを制限する機能を備えるバッフル板を備えてもよい。さらに、陽極室5a及び陰極室5cにおいて、電解槽50内部での電解液の濃度や温度の均一化、及び、電極2や隔膜4に付着するガスの脱泡の促進のために、カルマン渦を作るための突起物を備えてもよい。
そして、本実施形態における複極式電解槽50は、外枠3の外方に、電極室5に連通するヘッダー10を備える(図3、図4参照)。
図3、図4に示す一例では、複極式電解槽50に、ガスや電解液を配液又は集液する管であるヘッダー10が取り付けられる。詳細には、ヘッダー10は、電極室5に電解液を入れるための入口ヘッダーと電極室5からガスや電解液を出すための出口ヘッダーとからなる。
一例では、隔壁1の端縁にある外枠3の下方に、陽極室5aに電解液を入れる陽極入口ヘッダー10Oaiと、陰極室5cに電解液を入れる陰極入口ヘッダー10Ociとを備えており、また、同様に、隔壁1の端縁にある外枠3の側方に、陽極室5aから電極液を出す陽極出口ヘッダー10Oaoと、陰極室5cから電解液を出す陰極出口ヘッダー10Ocoとを備えている。
また、一例では、陽極室5a及び陰極室5cにおいて、入口ヘッダーと出口ヘッダーとが、電極室5の中央部を挟んで向かい合うように設けられている。
特に、この一例の複極式電解槽50は、複極式電解槽50とヘッダー10とが独立している形式である外部ヘッダー10O型を採用している。
図4に、本実施形態の外部ヘッダー型の電解装置の電解槽の一例について平面図で示す。
なお、図2~図4に示す複極式電解槽に取り付けられるヘッダー10の配設態様として、代表的には、内部ヘッダー型と外部ヘッダー10O型とがあるが、本発明では、いずれの型を採用してもよく、特に限定されない。
さらに、図3、図4に示す一例では、ヘッダー10に、ヘッダー10に配液又は集液されたガスや電解液を集める管である導管20が取り付けられる。詳細には、導管20は、入口ヘッダーに連通する配液管と出口ヘッダーに連通する集液管とからなる。
一例では、外枠3のうちの下方に、陽極入口ヘッダー10Oaiに連通する陽極用配液管20Oaiと、陰極入口ヘッダー10Ociに連通する陰極用配液管20Ociとを備えており、また、同様に、外枠3のうちの側方に、陽極出口ヘッダー10Oaoに連通する陽極用集液管20Oaoと、陰極出口ヘッダー10Ocoに連通する陰極用集液管20Ocoとを備えている。
本実施形態では、陽極室5a及び陰極室5cにおいて、入口ヘッダーと出口ヘッダーとは、水電解効率の観点から、離れた位置に設けられることが好ましく、電極室5の中央部を挟んで向かい合うように設けられることが好ましく、図3、図4に示すように隔壁1の平面視形状が長方形である場合、長方形の中心に関して対称となるように設けられることが好ましい。
通常、図3、図4に示すように、陽極入口ヘッダー10Oai、陰極入口ヘッダー10Oci、陽極出口ヘッダー10Oao、陰極出口ヘッダー10Ocoは、各電極室5に1つずつ設けられるが、本実施形態では、これに限定されず、各電極室5にそれぞれ複数設けられてもよい。
また、通常、陽極用配液管20Oai、陰極用配液管20Oci、陽極用集液管20Oao、陰極用集液管20Ocoは、各電極室5に1つずつ設けられるが、本実施形態では、これに限定されず、複数の電極室5で兼用されてもよい。
なお、図示した例では、平面視で長方形形状の隔壁1と平面視で長方形形状の隔膜4とが平行に配置され、また、隔壁1の端縁に設けられる直方体形状の外枠の隔壁1側の内面が隔壁1に垂直となっているため、電極室5の形状が直方体となっている。しかしながら、本発明において、電極室5の形状は、図示の例の直方体に限定されることなく、隔壁1や隔膜4の平面視形状、外枠3の隔壁1側の内面と隔壁1とのなす角度等により、適宜変形されてよく、本発明の効果が得られる限り、いかなる形状であってもよい。
本実施形態では、電極室5とヘッダー10との位置関係は、特に限定されず、図3、図4に示すように、複極式エレメント60を隔壁1に沿う所与の方向D1が鉛直方向となるように使用した場合に、入口ヘッダーは、電極室5に対して下方や側方に位置し(図示では、下方)、出口ヘッダーは、電極室5に対して上方や側方に位置していてよく(図示では、側方)、また、入口ヘッダーに連通する配液管は、電極室5に対して下方や側方に位置し(図示では、下方)、出口ヘッダーに連通する集液管は、電極室5に対して上方や側方に位置していてよい(図示では、側方)。
本実施形態では、ヘッダー10の延在方向は、特に限定されない。
本実施形態では、導管20の延在方向は、特に限定されないが、図3、図4に示す一例のように、本発明の効果を得られやすくする観点から、配液管(陽極用配液管20Oai、陰極用配液管20Oci)及び集液管(陽極用集液管20Oao、陰極用集液管20Oco)は、ぞれぞれ、隔壁1に垂直な方向に延びることが好ましく、導管20のいずれもが、隔壁1に垂直な方向に延びることがさらに好ましい。
なお、本実施形態の電解装置70の複極式電解槽50では、電解室5内における気液の流れの乱れにより電解室5に生じる対流を低減して、局所的な電解液の温度の上昇を抑制するため、隔壁1に沿う所与の方向D1に対して平行に配置される複数の整流板6を備えていてもよい。
本実施形態の電解装置70の複極式電解槽50は、29~500の複極式エレメント60を有することが好ましく、50~500の複極式エレメント60を有することがより好ましく、70~300の複極式エレメント60を有することがさらに好ましく、100~200の複極式エレメント60を有することが特に好ましい。
対数が減ると、リーク電流によるガス純度の影響は緩和される一方で、対数が増加すると、電解液を各電解セル65に均一に分配することが困難になる。下限未満の場合や上限超の場合には、電力供給を停止した際に生じる自己放電を低減して、電気制御システムの安定化を可能にする効果、及び、高効率での電力の貯蔵、具体的には、ポンプ動力の低減やリーク電流の低減を実現することを可能にする効果の並立が困難になる。
また、複極式エレメント60の数(対数)が増え過ぎると、電解槽50の製作が困難になるおそれがあり、製作精度が悪い複極式エレメント60を多数スタックした場合には、シール面圧が不均一になりやすく、電解液の漏れやガス漏洩が生じやすい。
本実施形態の電解装置70では、複数のエレメント60は、相互に絶縁された状態で隔膜4を挟んで重ね合わせられていることが好ましい。このようにすることにより、エレメント60間では相互に絶縁された状態となるので、通電工程(電解液の電気分解が行われる工程)でそれぞれのエレメント60に蓄積された電荷が、停止工程(電解液の電気分解が停止している工程)において他のエレメント60に影響することを抑制することができる。
なお、複数のエレメント60が相互に絶縁された状態になるとは、具体的には、エレメント60の外枠3間で絶縁された状態となることが好ましく、例えば、エレメント60間に配置するガスケット7の絶縁性を高める等により行うことができる。また、ここでの絶縁とは、エレメント60間で、絶縁抵抗が1MΩ以上であることが好ましい。
本実施形態の電解装置70の複極式電解槽50は、30以上の電解セル65を有することが好ましく、100以上の電解セル65を有することがより好ましく、150~200の電解セル65を有することがさらに好ましい。電解セル65を30以上とした場合において、直列に並んだ中央側の電解セル65は、陽極2aや陰極2cの電位が水素発生電位、酸素発生電位に外側の電解セル65よりも早期に達しやすい。したがって、本実施形態の電解装置70および後述の本実施形態の電解装置70の運転方法をより好適に適用することができる。
以下、本実施形態の電解装置70の主に複極式電解槽50の構成要素について詳細に説明する。
また、以下では、本発明の効果を高めるための好適形態についても詳述する。
-隔壁-
本実施形態における隔壁1の形状は、所定の厚みを有する板状の形状としてよいが、特に限定されない。
なお、隔壁1は、通常、隔壁1に沿う所与の方向D1が、鉛直方向となるように、使用してよく、具体的には、図3、図4に示すように隔壁1の平面視形状が長方形である場合、隔壁1に沿う所与の方向D1が、向かい合う2組の辺のうちの1組の辺の方向と同じ方向となるように、使用してよい。
隔壁1の材料としては、電力の均一な供給を実現する観点から、導電性を有する材料が好ましく、耐アルカリ性や耐熱性といった面から、ニッケル、ニッケル合金、軟鋼、ニッケル合金上にニッケルメッキを施したものが好ましい。
-電極-
本実施形態のアルカリ水電解による水素製造において、エネルギー消費量の削減、具体的には電解電圧の低減は、大きな課題である。この電解電圧は電極2に大きく依存するため、両電極2の性能は重要である。
アルカリ水電解の電解電圧は、理論的に求められる水の電気分解に必要な電圧の他に、陽極反応(酸素発生)の過電圧、陰極反応(水素発生)の過電圧、陽極2aと陰極2cとの電極2間距離による電圧とに分けられる。ここで、過電圧とは、ある電流を流す際に、理論分解電位を越えて過剰に印加する必要のある電圧のことを言い、その値は電流値に依存する。同じ電流を流すとき、過電圧が低い電極2を使用することで消費電力を少なくすることができる。
低い過電圧を実現するために、電極2に求められる要件としては、導電性が高いこと、酸素発生能(或いは水素発生能)が高いこと、電極2表面で電解液の濡れ性が高いこと等が挙げられる。
アルカリ水電解の電極2として、過電圧が低いこと以外に、再生可能エネルギーのような不安定な電流を用いても、電極2の基材及び触媒層の腐食、触媒層の脱落、電解液への溶解、隔膜4への含有物の付着等が起きにくいことが挙げられる。
本実施形態における電極2としては、電解に用いられる表面積を増加させるため、また、電解により発生するガスを効率的に電極2表面から除去するために、多孔体が好ましい。特に、ゼロギャップ電解槽の場合、隔膜4との接触面の裏側から発生するガスを脱泡する必要があるため、電極2の膜に接する面と反対に位置する面が、貫通していることが好ましい。
多孔体の例としては、平織メッシュ、パンチングメタル、エキスパンドメタル、金属発泡体等が挙げられる。
本実施形態における電極2は、基材そのものとしてもよく、基材の表面に反応活性の高い触媒層を有するものとしてもよいが、基材の表面に反応活性の高い触媒層を有するものが好ましい。
基材の材料は、特に制限されないが、使用環境への耐性から、軟鋼、ステンレス、ニッケル、ニッケル基合金が好ましい。
陽極2aの触媒層は、酸素発生能が高いものであることが好ましく、ニッケルやコバルト、鉄もしくは白金族元素等を使用することができる。これらは、所望の活性や耐久性を実現するために、金属単体や、酸化物等の化合物、複数の金属元素からなる複合酸化物や合金、或いはそれらの混合物として、触媒層を形成できる。耐久性や基材との接着性を向上させるために高分子等の有機物が含まれていてもよい。
陰極2cの触媒層は、水素発生能が高いものであることが好ましく、ニッケルやコバルト、鉄もしくは白金族元素等を使用することができる。これらは、所望の活性や耐久性を実現するために、金属単体や、酸化物等の化合物、複数の金属元素からなる複合酸化物や合金、或いはそれらの混合物として、触媒層を形成できる。耐久性や基材との接着性を向上させるために高分子材料等の有機物が含まれていてもよい。
基材上に触媒層を形成させる方法としては、めっき法、プラズマ溶射法等の溶射法、基材上に前駆体層溶液を塗布した後に熱を加える熱分解法、触媒物質をバインダー成分と混合して基材に固定化する方法、及び、スパッタリング法等の真空成膜法といった手法が挙げられる。
-外枠-
本実施形態における外枠3の形状は、隔壁1を縁取ることができる限り特に限定されないが、隔壁1の平面に対して垂直な方向に沿う内面を隔壁1の外延に亘って備える形状としてよい。
外枠3の形状としては、特に限定されることなく、隔壁1の平面視形状に合わせて適宜定められてよい。
外枠3の材料としては、導電性を有する材料が好ましく、耐アルカリ性や耐熱性といった面から、ニッケル、ニッケル合金、軟鋼、ニッケル合金上にニッケルメッキを施したものが好ましい。
-隔膜-
本実施形態の電解装置70の複極式電解槽50において用いられる隔膜4としては、イオンを導通しつつ、発生する水素ガスと酸素ガスを隔離するために、イオン透過性の隔膜4が使用される。このイオン透過性の隔膜4は、イオン交換能を有するイオン交換膜と、電解液を浸透することができる多孔膜が使用できる。このイオン透過性の隔膜4は、ガス透過性が低く、イオン伝導率が高く、電子電導度が小さく、強度が強いものが好ましい。
--多孔膜--
多孔膜は、複数の微細な貫通孔を有し、隔膜4を電解液が透過できる構造を有する。電解液が多孔膜中に浸透することにより、イオン伝導を発現するため、孔径や気孔率、親水性といった多孔構造の制御が非常に重要となる。一方、電解液だけでなく、発生ガスを通過させないこと、すなわちガスの遮断性を有することが求められる。この観点でも多孔構造の制御が重要となる。
多孔膜は、複数の微細な貫通孔を有するものであるが、高分子多孔膜、無機多孔膜、織布、不織布等が挙げられる。これらは公知の技術により作製することができる。
高分子多孔膜の製法例としては、相転換法(ミクロ相分離法)、抽出法、延伸法、湿式ゲル延伸法等が挙げられる。
多孔膜は、高分子材料と親水性無機粒子とを含むことが好ましく、親水性無機粒子が存在することによって多孔膜に親水性を付与することができる。
---高分子材料---
高分子材料としては、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリビニリデンフロライド、ポリカーボネート、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロスルホン酸、パーフルオロカルボン酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等が挙げられる。これらの中でも、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリテトラフルオロエチレン、であることが好ましく、ポリスルホンであることがより好ましい。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
多孔膜は、分離能、強度等適切な膜物性を得る為に、孔径を制御することが好ましい。また、アルカリ水電解に用いる場合、陽極2aから発生する酸素ガス及び陰極2cから発生する水素ガスの混合を防止し、かつ電解における電圧損失を低減する観点から、多孔膜の孔径を制御することが好ましい。
多孔膜の平均孔径が大きいほど、単位面積あたりの多孔膜透過量は大きくなり、特に、電解においては多孔膜のイオン透過性が良好となり、電圧損失を低減しやすくなる傾向にある。また、多孔膜の平均孔径が大きいほど、アルカリ水との接触表面積が小さくなるので、ポリマーの劣化が抑制される傾向にある。
一方、多孔膜の平均孔径が小さいほど、多孔膜の分離精度が高くなり、電解においては多孔膜のガス遮断性が良好となる傾向にある。さらに、後述する粒径の小さな親水性無機粒子を多孔膜に担持した場合、欠落せずしっかりと保持することができる。これにより、親水性無機粒子が持つ高い保持能力を付与でき、長期に亘ってその効果を維持することができる。
かかる観点から、本実施形態の多孔膜においては、平均孔径は、0.1μm以上1.0μm以下の範囲であることが好ましい。多孔膜は、孔径がこの範囲であれば、優れたガス遮断性と高いイオン透過性とを両立することができる。また、多孔膜の孔径は実際に使用する温度域において制御されることが好ましい。従って、例えば90℃の環境下での電解用隔膜4として使用する場合は、90℃で上記の孔径の範囲を満足させることが好ましい。また、多孔膜は、アルカリ水電解用隔膜4として、より優れたガス遮断性と高いイオン透過性とを発現できる範囲として、平均孔径が0.1μm以上0.5μm以下であることがより好ましい。
多孔膜の平均孔径は、以下の方法で測定することができる。
多孔膜の平均孔径とは、完全性試験機(ザルトリウス・ステディム・ジャパン社製、「Sartocheck Junior BP-Plus」)を使用して以下の方法で測定した平均透水孔径をいう。まず、多孔膜を芯材も含めて所定の大きさに切り出して、これをサンプルとする。このサンプルを任意の耐圧容器にセットして、容器内を純水で満たす。次に、耐圧容器を所定温度に設定した恒温槽内で保持し、耐圧容器内部が所定温度になってから測定を開始する。測定が始まると、サンプルの上面側が窒素で加圧されていき、サンプルの下面側から純水が透過してくる際の圧力及び透過流量の数値を記録する。平均透水孔径は、圧力が10kPaから30kPaの間の圧力と透水流量との勾配を使い、以下のハーゲンポアズイユの式から求めることができる。
平均透水孔径(m)={32ηLμ/(εP)}0.5
ここで、ηは水の粘度(Pa・s)、Lは多孔膜の厚み(m)、μは見かけの流速であり、μ(m/s)=流量(m/s)/流路面積(m)である。また、εは空隙率、Pは圧力(Pa)である。
アルカリ水電解用隔膜4は、ガス遮断性、親水性の維持、気泡の付着によるイオン透過性低下の防止、さらには長時間安定した電解性能(低電圧損失等)が得られるといった観点から、多孔膜の気孔率を制御することが好ましい。
ガス遮断性や低電圧損失等を高いレベルで両立させるといった観点から、多孔膜の気孔率の下限は30%以上であることが好ましく、35%以上であることがより好ましく、40%以上であることが更に好ましい。また、気孔率の上限は70%以下であることが好ましく、65%以下であることがより好ましく、55%以下であることが更に好ましい。多孔膜の気孔率が上記上限値以下であれば、膜内をイオンが透過しやすく、膜の電圧損失を抑制できる。
多孔膜の気孔率とは、アルキメデス法により求めた開気孔率をいい、以下の式により求めることができる。
気孔率P(%)=ρ/(1+ρ)×100
ここで、ρ=(W3-W1)/(W3-W2)であり、W1は多孔膜の乾燥質量(g)、W2は多孔膜の水中質量(g)、W3は多孔膜の飽水質量(g)である。
気孔率の測定方法としては、純水で洗浄した多孔膜を3cm×3cmの大きさで3枚に切出して、測定サンプルとする。まず、サンプルのW2及びW3を測定する。その後、多孔膜を50℃に設定された乾燥機で12時間以上静置して乾燥させて、W1を測定する。そして、W1、W2、W3の値から気孔率を求める。3枚のサンプルについて気孔率を求め、それらの算術平均値を気孔率Pとする。
多孔膜の厚みは、特に限定されないが、100μm以上700μm以下であることが好ましく、より好ましくは100μm以上600μm以下、更に好ましくは200μm以上600μm以下である。
多孔膜の厚みが、上記下限値以上であると、突刺し等で破れにくく、電極間がショートしにくい。また、ガス遮断性が良好となる。また、上記上限値以下であると、電圧損失が増大しにくい。また、多孔膜の厚みのばらつきによる影響が少なくなる。
また、隔膜の厚みが、100μm以上であると、突刺し等で破れにくく、電極間がショートしにくい。また、ガス遮断性が良好となる。600μm以下であると、電圧損失が増大しにくい。また、多孔膜の厚みのばらつきによる影響が少なくなる。
多孔膜の厚みが、250μm以上であれば、一層優れたガス遮断性が得られ、また、衝撃に対する多孔膜の強度が一層向上する。この観点より、多孔膜の厚みの下限は、300μm以上であることがより好ましく、350μm以上であることが更に好ましく400μm以上でることがより一層好ましい。一方で、多孔膜の厚みが、700μm以下であれば、運転時に孔内に含まれる電解液の抵抗によりイオンの透過性を阻害されにくく、一層優れたイオン透過性を維持すことができる。かかる観点から、多孔膜の厚みの上限は、600μm以下であることがより好ましく、550μm以下であることが更に好ましく、500μm以下であることがより一層好ましい。
---親水性無機粒子---
多孔膜は、高いイオン透過性及び高いガス遮断性を発現するために親水性無機粒子を含有していることが好ましい。親水性無機粒子は多孔膜の表面に付着していても良いし、一部が多孔膜を構成する高分子材料に埋没していても良い。また親水性無機粒子が多孔膜の空隙部に内包されると、多孔膜から脱離しにくくなり、多孔膜の性能を長時間維持できる。
親水性無機粒子としては、例えば、ジルコニウム、ビスマス、セリウムの酸化物又は水酸化物;周期律表第IV族元素の酸化物;周期律表第IV族元素の窒化物、及び周期律表第IV族元素の炭化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の無機物が挙げられる。これらの中でも、化学的安定性の観点から、ジルコニウム、ビスマス、セリウムの酸化物、周期律表第IV族元素の酸化物がより好ましく、ジルコニウム、ビスマス、セリウムの酸化物が更に好ましく、酸化ジルコニウムがより更に好ましい。
親水性無機粒子の形態は、微粒子形状であることが好ましい。
--多孔性支持体--
隔膜4として多孔膜を用いる場合、多孔膜は多孔性支持体と共に用いてよい。好ましくは、多孔膜が多孔性支持体を内在した構造であり、より好ましくは、多孔性支持体の両面に多孔膜を積層した構造である。また、多孔性支持体の両面に対称に多孔膜を積層した構造であってもよい。
多孔性支持体としては、例えば、メッシュ、多孔質膜、不織布、織布、不織布及びこの不織布に内在する織布とを含む複合布等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。多孔性支持体のより好適な態様としては、例えば、ポリフェニレンサルファイドのモノフィラメントで構成されるメッシュ基材、又は不織布及び該不織布内に内在する織布とを含む複合布等が挙げられる。
--イオン交換膜--
イオン交換膜としては、カチオンを選択的に透過させるカチオン交換膜とアニオンを選択的に透過させるアニオン交換膜があり、いずれの交換膜でも使用することができる。
イオン交換膜の材質としては、特に限定されず、公知のものを用いることができる。例えば、含フッ素系樹脂やポリスチレン・ジビニルベンゼン共重合体の変性樹脂が好適に使用できる。特に耐熱性及び耐薬品性等に優れる点で、含フッ素系イオン交換膜が好ましい。
含フッ素系イオン交換膜としては、電解時に発生するイオンを選択的に透過する機能を有し、かつイオン交換基を有する含フッ素系重合体を含むもの等が挙げられる。ここでいうイオン交換基を有する含フッ素系重合体とは、イオン交換基、又は、加水分解によりイオン交換基となり得るイオン交換基前駆体、を有する含フッ素系重合体をいう。例えば、フッ素化炭化水素の主鎖を有し、加水分解等によりイオン交換基に変換可能な官能基をペンダント側鎖として有し、かつ溶融加工が可能な重合体等が挙げられる。
含フッ素系共重合体の分子量は、特に限定されないが、該前駆体を、ASTM:D1238に準拠して(測定条件:温度270℃、荷重2160g)測定されたメルトフローインデックス(MFI)の値で0.05~50(g/10分)であることが好ましく、0.1~30(g/10分)であることがより好ましい。
イオン交換膜が有するイオン交換基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基等のカチオン交換基、4級アンモニウム基等のアニオン交換基が挙げられる。
イオン交換膜は、イオン交換基の当量質量EWを調整することによって、優れたイオン交換能と親水性を付与することができる。また、より小さなクラスター(イオン交換基が水分子を配位及び/又は吸着した微小部分)を数多く有するように制御でき、耐アルカリ性やイオン選択透過性を向上する傾向にある。
この当量質量EWは、イオン交換膜を塩置換し、その溶液をアルカリ又は酸溶液で逆滴定することにより測定することができる。当量質量EWは、原料であるモノマーの共重合比、モノマー種の選定等により調整することができる。
イオン交換膜の当量質量EWは、親水性、膜の耐水性の観点から300以上であることが好ましく、親水性、イオン交換能の観点から1300以下であることが好ましい。
イオン交換膜の厚みは特に制限されないが、イオン透過性や強度の観点から、5μm~300μmの範囲が好ましい。
イオン交換膜の表面の親水性を向上させる目的で、表面処理を施してもよい。具体的には、酸化ジルコニウム等の親水性無機粒子をコーティングする方法や、表面に微細な凹凸を付与する方法が挙げられる。
イオン交換膜は、膜強度の観点から、補強材と共に用いることが好ましい。補強材としては、特に限定されず、一般的な不織布や織布、各種素材からなる多孔膜が挙げられる。この場合の多孔膜としては、特に限定されないが、延伸されて多孔化したPTFE系膜が好ましい。
((ゼロギャップ構造))
ゼロギャップ型セルにおける複極式エレメント60では、極間距離を小さくする手段として、電極2と隔壁1との間に弾性体であるバネを配置し、このバネで電極2を支持する形態をとることが好ましい。例えば、第1の例では、隔壁1に導電性の材料で製作されたバネを取り付け、このバネに電極2を取り付けてよい。また、第2の例では、隔壁1に取り付けた電極リブにバネを取り付け、そのバネに電極2を取り付けてよい。なお、このような弾性体を用いた形態を採用する場合には、電極2が隔膜4に接する圧力が不均一にならないように、バネの強度、バネの数、形状等必要に応じて適宜調節する必要がある。
-電極室-
本実施形態における複極式電解槽50では、図3に示すとおり、隔壁1と外枠3と隔膜4とにより、電解液が通過する電極室5が画成されている。
本実施形態においては、複極式電解槽のヘッダー10の配設態様としては、内部ヘッダー型及び外部ヘッダー10O型を採用できるところ、例えば、図示の例の場合、陽極2a及び陰極2c自身が占める空間も電極室5の内部にある空間であるものとしてよい。また、特に、気液分離ボックスが設けられている場合、気液分離ボックスが占める空間も電極室5の内部にある空間であるものとしてよい。
-整流板-
本実施形態の電解装置70の複極式電解槽50では、隔壁1に整流板6(陽極整流板6a、陰極整流板6c)が取り付けられ、整流板6が電極2と物理的に接続されていることが好ましい。かかる構成によれば、整流板6が電極2の支持体となり、ゼロギャップ構造Zを維持しやすい。
ここで、整流板6に、電極2が設けられていてもよく、整流板6に、集電体2r、導電性弾性体2e、電極2がこの順に設けられていてもよい。
前述の一例の電解装置70の複極式電解槽50では、陰極室5cにおいて、整流板6-集電体2r-導電性弾性体2e-電極2の順に重ね合わせられた構造が採用され、陽極室5aにおいて、整流板6-電極2の順に重ね合わせられた構造が採用されている。
なお、前述の一例の電解装置70の複極式電解槽50では、陰極室5cにおいて上記「整流板6-集電体2r-導電性弾性体2e-電極2」の構造が採用され、陽極室5aにおいて上記「整流板6-電極2」の構造が採用されているが、本発明ではこれに限定されることなく、陽極室5aにおいても「整流板6-集電体2r-導電性弾性体2e-電極2」構造が採用されてもよい。
整流板6(陽極整流板6a、陰極整流板6c)には、陽極2a又は陰極2cを支える役割だけでなく、電流を隔壁1から陽極2a又は陰極2cへ伝える役割を備えることが好ましい。
本実施形態の電解装置70の複極式電解槽50では、整流板6の少なくとも一部が導電性を備えことが好ましく、整流板6全体が導電性を備えことがさらに好ましい。かかる構成によれば、電極たわみによるセル電圧の上昇を抑制することができる。
整流板6の材料としては、一般的に導電性の金属が用いられる。例えば、ニッケルメッキを施した軟鋼、ステンレススチール、ニッケル等が利用できる。
隣接する陽極整流板6a同士の間隔、又は隣接する陰極整流板6c同士の間隔は、電解圧力や陽極室5aと陰極室5cの圧力差等を勘案して決められる。
整流板6(陽極整流板6a、陰極整流板6c)の長さは、隔壁1のサイズに応じて、適宜に定められてよい。
整流板6の高さは、隔壁1から各フランジ部までの距離、ガスケット7の厚さ、電極2(陽極2a、陰極2c)の厚さ、陽極2aと陰極2cとの間の距離等に応じて、適宜に定められてよい。
また、整流板6の厚みは、コストや製作性、強度等も考慮して、0.5mm~5mmとしてよく、1mm~2mmのものが用いやすいが、特に限定されない。
-ガスケット-
本実施形態の電解装置70の複極式電解槽50では、隔壁1を縁取る外枠3同士の間に隔膜4を有するガスケット7が挟持されることが好ましい。
ガスケット7は、複極式エレメント60と隔膜4の間、複極式エレメント60間を電解液と発生ガスに対してシールするために使用され、電解液や発生ガスの電解槽外への漏れや両極室間におけるガス混合を防ぐことができる。
ガスケット7の一般的な構造としては、エレメントの枠体に接する面に合わせて、電極面をくり抜いた四角形状又は環状である。このようなガスケット2枚で隔膜4を挟み込む形でエレメント間に隔膜4をスタックさせることができる。さらに、ガスケット7は、隔膜4を保持できるように、隔膜4を収容することが可能なスリット部を備え、収容された隔膜4がガスケット7両表面に露出することを可能にする開口部を備えることも好ましい。これにより、ガスケット7は、隔膜4の縁部をスリット部内に収容し、隔膜4の縁部の端面を覆う構造がとれる。したがって、隔膜4の端面から電解液やガスが漏れることをより確実に防止できる。
ガスケット7の材質としては、特に制限されるものではなく、絶縁性を有する公知のゴム材料や樹脂材料等を選択することができる。
ゴム材料や樹脂材料としては、具体的には、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、シリコーンゴム(SR)、エチレン-プロピレンゴム(EPT)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、フッ素ゴム(FR)、イソブチレン-イソプレンゴム(IIR)、ウレタンゴム(UR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)等のゴム材料、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)等のフッ素樹脂材料や、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアセタール等の樹脂材料を用いることができる。これらの中でも、弾性率や耐アルカリ性の観点でエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、フッ素ゴム(FR)が特に好適である。
ガスケット7は、補強材が埋設されていてもよい。これにより、スタック時に枠体に挟まれて押圧されたときに、ガスケット7が潰れることを抑制でき、破損を防止し易くできる。
このような補強材は公知の金属材料、樹脂材料及び炭素材料等が使用でき、具体的には、ニッケル、ステンレス等の金属、ナイロン、ポリプロピレン、PVDF、PTFE、PPS等の樹脂、カーボン粒子や炭素繊維等の炭素材料が挙げられる。
ガスケット7のサイズは、特に制限されるものではなく、電極室5や膜の寸法に合わせて設計すればよいが、幅が10mm~40mmにするのがよい。
この場合、ガスケット7がスリット部を備える場合、スリット部のサイズはスリットの内寸が膜のサイズより縦横で0.5mm~5mm大きくなるようにするのがよい。
ガスケット7の厚みは、特に制限されるものではなく、ガスケット7の材質や弾性率、セル面積に応じて設計される。好ましい厚みの範囲としては、1.0mm~10mmが好ましく、3.0mm~10mmがより好ましい。
また、ガスケット7がスリット部を備える場合、スリット部の開口幅としては、膜の厚みの0.5倍~1.0倍としてよい。
ガスケット7の弾性率は、特に制限されるものではなく、電極2の材質やセル面積に応じて設計される。好ましい弾性率の範囲としては、100%変形時の引張応力で、0.20MPa~20MPaの範囲がより好ましく、シーリング特性やスタック時のセル強度の観点から、1.0MPa~10MPaの範囲がより好ましい。
なお、引張応力は、JIS K6251に準拠して、測定することができる。例えば、島津製作所社製のオートグラフAGを用いてよい。
特に、本実施形態では、ガスケット7の厚みが3.0mm~10mmであり、100%変形時の引張応力で1.0MPa~10MPaであることが、電極たわみによるセル電圧の上昇を抑制する観点、また、シーリング特性やスタック時のセル強度の観点から、好ましい。
本実施形態においては、ガスケット7の表面を絶縁性の樹脂シート(例えばポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂等)で覆うことが好ましい。このようにすることにより、複数のエレメント60間では相互に絶縁された状態となるので、通電工程(電解液の電気分解が行われる工程)でそれぞれのエレメント60に蓄積された電荷が、停止工程(電解液の電気分解が停止している工程)において他のエレメント60に影響することを抑制することができる。
-ヘッダー-
電解装置70の複極式電解槽50は、電解セル65毎に、陰極室5c、陽極室5aを有する。電解槽50で、電気分解反応を連続的に行うためには、各電解セル65の陰極室5cと陽極室5aとに電気分解によって消費される原料を十分に含んだ電解液を供給し続ける必要がある。
電解セル65は、複数の電解セル65に共通するヘッダー10と呼ばれる電解液の給排配管と繋がっている。一般に、陽極用配液管は陽極入口ヘッダー10ai、陰極用配液管は陰極入口ヘッダー10ci、陽極用集液管は陽極出口ヘッダー10ao、陰極用集液管は陰極出口ヘッダー10coと呼ばれる。電解セル65はホース等を通じて各電極用配液管及び各電極用集液管と繋がっている。
ヘッダー10の材質は特に限定されないが、使用する電解液の腐食性や、圧力や温度等の運転条件に十分耐えうるものを採用する必要がある。ヘッダー10の材質に、鉄、ニッケル、コバルト、PTFE、ETFE,PFA、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン等を採用しても良い。
本実施形態において、電極室5の範囲は、隔壁1の外端に設けられる外枠3の詳細構造により、変動するところ、外枠3の詳細構造は、外枠3に取り付けられるヘッダー10(電解液を配液又は集液する管)の配設態様により異なることがある。複極式電解槽50のヘッダー10の配設態様としては、内部ヘッダー10I型及び外部ヘッダー10O型が代表的である。
-内部ヘッダー-
内部ヘッダー型とは、複極式電解槽50とヘッダー10(電解液を配液又は集液する管)とが一体化されている形式をいう。
内部ヘッダー型複極式電解槽50では、より具体的には、陽極入口ヘッダー及び陰極入口ヘッダーが、隔壁1内及び/又は外枠3内の下部に設けられ、且つ、隔壁1に垂直な方向に延在するように設けられ、また、陽極出口ヘッダー及び陰極出口ヘッダーが、隔壁1内及び/又は外枠3内の上部に設けられ、且つ、隔壁1に垂直な方向に延在するように設けられる。
内部ヘッダー型複極式電解槽50が内在的に有する、陽極入口ヘッダーと、陰極入口ヘッダーと、陽極出口ヘッダーと、陰極出口ヘッダーを総称して、内部ヘッダーと呼ぶ。
内部ヘッダー型の例では、隔壁1の端縁にある外枠3のうちの下方に位置する部分の一部に、陽極入口ヘッダーと陰極入口ヘッダーとを備えており、また、同様に、隔壁1の端縁にある外枠3のうちの上方に位置する部分の一部に、陽極出口ヘッダーと陰極出口ヘッダーとを備えている。
-外部ヘッダー-
外部ヘッダー10O型とは、複極式電解槽50とヘッダー10(電解液を配液又は集液する管)とが独立している形式をいう。
外部ヘッダー10O型複極式電解槽50は、陽極入口ヘッダー10Oaiと、陰極入口ヘッダー10Ociとが、電解セル65の通電面に対し、垂直方向に、電解槽50と並走する形で、独立して設けられる。この陽極入口ヘッダー10Oai及び陰極入口ヘッダー10Ociと、各電解セル65が、ホースで接続される。
外部ヘッダー10O型複極式電解槽50に外在的に接続される、陽極入口ヘッダー10Oaiと、陰極入口ヘッダー10Ociと、陽極出口ヘッダー10Oaoと、陰極出口ヘッダー10Ocoを総称して、外部ヘッダー10Oと呼ぶ。
外部ヘッダー10O型の例では、隔壁1の端縁にある外枠3のうちの下方に位置する部分に設けられたヘッダー10用貫通孔に、管腔状部材が設置され、管腔状部材が、陽極入口ヘッダー10Oai及び陰極入口ヘッダー10Ociに接続されており、また、同様に、隔壁1の端縁にある外枠3のうちの上方に位置する部分に設けられたヘッダー10用貫通孔に、管腔状部材(例えば、ホースやチューブ等)が設置され、かかる管腔状部材が、陽極出口ヘッダー10Oao及び陰極出口ヘッダー10Ocoに接続されている。
なお、内部ヘッダー10I型及び外部ヘッダー10O型の複極式電解槽50において、その内部に電解によって発生した気体と、電解液を分離する気液分離ボックスを有してもよい。気液分離ボックスの取付位置は、特に限定されないが、陽極室5aと陽極出口ヘッダー10aoとの間や、陰極室5cと陰極出口ヘッダー10coとの間に取付けられてもよい。
気液分離ボックスの表面は、電解液の腐食性や、圧力や温度等の運転条件に十分耐えうる材質のコーティング材料で、被覆されていても良い。コーティング材料の材質は、電解槽内部での漏洩電流回路の電気抵抗を大きくする目的で、絶縁性のものを採用してもよい。コーティング材料の材質に、EPDM、PTFE、ETFE,PFA、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン等を採用してもよい。
-液面計-
本実施形態に使用することができる電解装置70の電解槽50は、電解槽50の各電極室5a、5c内の液面を測定することができる液面計を有することが好ましい。当該液面計により、各電極室5a、5c内の液面を監視し(電極室5a、5c内での液面の高さを監視し)、各電極室5a、5c内の隔膜4の表面が電解液に対して浸漬状態であるか、または浸漬していない非浸漬状態であるかを把握することができる。
液面計としては、特に限定されないが例えば、直視式、接触式、差圧式の液面計を用いることができる。
(第1の混合防止部)
本実施形態において、陰極室5c中の水素ガスの量を制御可能な第1の混合防止部を有することが好ましい。第1の混合防止部を有することにより、停止工程における陰極室5c中の水素ガスの量を制御することができ、それにより、停止工程中に陰極2cに逆電流が生じても、陰極2cに接触する当該水素が酸化し、陰極2cにおいて電位が所定の酸素発生電位に達しないようにすることができる。その結果として、電解装置70において局部的に、特に直列にスタックした複数の電解セル65について中央側の電解セル65での水素中酸素濃度が高くなることを抑制することができる。
ここで、第1の混合防止部は、特に限定されないが例えば、(i)陰極室5c、陰極電解液入口5ci、陰極室5cの上流側の配管(具体的には、陰極用配液管20Oci、陰極入口ヘッダー(陰極入口側ホース)10Oci等))に設けた、水素ガスを注入可能な水素注入口を有するものとすることができる。これにより、停止工程において、陰極室5cよりも流通方向の上流側から水素注入口を介して水素ガスを注入することで、停止工程での陰極室5c中の水素ガスの量を制御することができる。
また、注入した水素ガスにより陰極室5cに水素ガス層が形成されるようにするため、第1の混合防止部は、陰極室5cよりも流通方向の下流側(例えば、陰極電解液出口5co、陰極室陰極用集液管20Oco、陰極出口ヘッダー(陰極出口側ホース)10Oco、気液分離タンク72の排出側等)に閉止弁を有することもできる。
なお、流通方向とは、電解装置70の通電工程等において、電解装置70内を電解液が流れる方向である。
また、第1の混合防止部は、(ii)陰極電解液出口5co、陰極室5cの下流側の配管(陰極室陰極用集液管20Oco、陰極出口ヘッダー(陰極出口側ホース)10Oco、気液分離タンク72の排出側等)に設けた、水素ガスを注入可能な水素注入口を有するものとすることができる。これにより、停止工程において、陰極室5cよりも流通方向の下流側から水素注入口を介して水素ガスを注入することで、停止工程での陰極室5c中の水素ガスの量を制御することができる。
また、注入した水素ガスにより陰極室5cに水素ガス層が形成されるようにするため、第1の混合防止部は、陰極室5cへの水素ガスを注入する水素注入口よりも流通方向の下流側(例えば、陰極室陰極用集液管20Oco、陰極出口ヘッダー(陰極出口側ホース)10Oco、気液分離タンク72の排出側等)に閉止弁を有することもできる。
また、第1の混合防止部は、(iii)陰極室5cよりも流通方向下流側を閉止することが可能な下流側閉止部と、陰極室5c内の電解液の量を調整可能な電解液調整部とを有することができる。
下流側閉止部は、陰極室5cよりも流通方向下流側である、陰極電解液出口5co、又は陰極室5cからの電解液の排出経路(具体的には、陰極用集液管20Oco、陰極出口ヘッダー(陰極出口側ホース)10Oco等)を閉止することが可能な例えば閉止弁を挙げることができる。これにより、電解装置70を用いた運転において、通電工程から停止工程に移行する際に、陰極室5cよりも流通方向下流側を閉止するとともに、陰極室5c内の電解液の量を、制御工程前の陰極室5c内の電解液の量よりも減少させ、それにより、停止工程での陰極室5c中の水素ガスの量を制御することができる。
また、電解液調節部としては、陰極室5cよりも流通方向上流側の供給経路に設けた閉止弁とすることができる。
さらに、第1の混合防止部は、(iv)陰極室5cよりも流通方向の下流側の配管(例えば、陰極用集液管20Oco等)を閉止することが可能な第1の閉止弁と、陰極室5cよりも流通方向の上流側の配管(例えば、陰極用配液管20Oci等)を閉止することが可能な第2の閉止弁と、第1の閉止弁よりも流通方向の上流側および第2の閉止弁よりも流通方向の下流側の間に設けた、水素ガスを供給可能な水素注入口とを有するものとすることができる。これにより、停止工程において、陰極室5cよりも流通方向の下流側及び上流側を閉止するとともに、陰極室5cの外部より陰極室5cに水素ガスを供給することで、停止工程での陰極室5c中の水素ガスを加圧状態としつつその量を制御することができる。
また、第1の混合防止部は、(iv)陰極室5cよりも流通方向の上流側(例えば、陰極室5cの上流側の配管)に設けた、水素ガスを供給可能な水素注入口を有するものとすることができる。これにより、停止工程において、陰極室5cよりも流通方向の上流側から水素注入口を介して水素ガスを供給し続けることで、停止工程での陰極室5c中の水素ガスの量を制御することができる。
さらに、第1の混合防止部は、上記の(i)~(iv)の組合せとすることもできる。
(第2の混合防止部)
本実施形態において、供給経路及び/又は排出経路を、陽極室5aおよび陰極室5cに対して絶縁することが可能な第2の混合防止部を有することが好ましい。停止工程において、第2の混合防止部によって供給経路及び/又は排出経路を、陽極室5aおよび陰極室5cに対して絶縁することにより、停止工程において、通電工程中に供給経路や排出経路に蓄積された電荷による陽極2aおよび陰極2cへの影響を抑えることができるので、陽極2aおよび陰極2cに生じる逆電流の全体量を低減することができる。その結果として、より効果的に、陽極2aおよび陰極2cにおいて電位が所定の水素発生電位および酸素発生電位に達しないようにすることができる。
なお、第2の混合防止部としては、供給経路及び/又は排出経路(具体的には、陰極用配液管20Oci、陰極入口ヘッダー(陰極入口側ホース)10Oci、陰極用集液管20Oco、陰極出口ヘッダー(陰極出口側ホース)10Oco等)に樹脂製のバルブを設けることが挙げられる。
また、第2の混合防止部としては、供給経路が陰極室5cに対して鉛直方向上方に位置すること、排出経路が陰極室5cに対して鉛直方向上方に位置すること、も挙げることができ、このようにすることにより、停止工程において、例えば、送液ポンプ71を停止した際、電解液が自重で流れ落ち、それにより供給経路及び/又は排出経路に絶縁性のガス層を形成させることができる。
(第3の混合防止部)
本実施形態の電解装置70において、電解槽と電解電源(整流器)74とを含む電気回路が形成されているところ、当該電気回路を遮断すること可能な第3の混合防止部を有することが好ましい。停止工程において第3の混合防止部によって電気回路を遮断することにより、陽極2aおよび陰極2cに生じる逆電流を低減することができ、より効果的に、陽極2aおよび陰極2cにおいて電位が所定の水素発生電位および酸素発生電位に達しないようにすることができる。
なお、第3の混合防止部としては、電気回路の遮断器、断路器、開閉器、逆向きの電流を阻害するダイオードが挙げられる。
(陰極及び隔膜の鉛直方向D1の上端の位置関係について)
本実施形態の電解装置70において、陰極2cの少なくとも一部が、隔膜4の非被覆上端4tよりも鉛直方向D1上方に存在することが好ましい。これにより、停止工程において、図5、図6に示すように、陰極2cの少なくとも一部が水素ガスに接触(露出)しつつ、陰極室5c及び/又は陽極室5aの電解液の喫水線L(液面の位置)を隔膜4の非被覆上端4tよりも鉛直方向D1上方に位置させることができ、隔膜4の表面を液体に浸漬した状態にすることができる。したがって、陰極2cの少なくとも一部を水素ガスに接触(露出)するので、陰極2cにおいて電位が所定の酸素発生電位に達しないようにすることができる。また、隔膜4の表面が気体中に露出する場合には、それぞれの電極室中の気体がわずかに隔膜4を透過してそれぞれの電極室5に拡散することがあるが、図5、図6に示すように、隔膜4の表面が電解液に浸漬した状態となるので、陽極室5aの酸素が陰極室5cに漏れ出ることを抑えることができ、それ故に、陰極室5cに存在する水素中への酸素の混合と酸素濃度が高まることを防ぐことができる。
なお、上記の「隔膜の非被覆上端」とは、隔膜4の鉛直方向D1の上端であるか、或いは、隔膜自体のうちの鉛直方向D1の上端側の部分が、例えば、図5(a)に示すように、隔膜4を電解槽50の外枠3の間に固定する際に用いるガスケット等で隔膜4の表面の一部が覆われている場合や、図6に示すように、ガスケット7とともに後述するように被覆材41で隔膜4の表面の一部が覆われている場合には、「隔膜の非被覆上端」とは、隔膜4のうちのガスケット7や被覆材41等で覆われていない部分についての鉛直方向D1の上端を指す。
このような電解装置70としては、具体的には、陰極室5cを模式的に表す図5(a)、(b)に示すように、陰極2cとして、陰極本体部2c1と、陰極本体部2c1と導線部2c3で接続された陰極補助部2c2と、で形成されたものを用い、また、当該陰極補助部2c2のうち少なくとも鉛直方向D1上方の一部が、図5(a)に示すように、隔膜4の非被覆上端4tよりも鉛直方向D1上方に存在している。このように陰極2cが陰極補助部2c2を有することにより、停止工程において、電解液の喫水線Lを図示のような位置にすることで、逆電流が生じても陰極補助部2c2が水素ガスを酸化することで陰極2cの電位が所定の酸素発生電位に達しないようにすることができ、また、停止工程で隔膜4の表面が気体中に露出することにより生じうる陰極室5cに存在する水素中への酸素の混合を防ぐことができる。
なお、本実施形態の電解装置70としては、陰極2cが、陰極本体部2c1から離間した陰極補助部2c2を有するものではなく、陰極2cが陰極本体部2c1のみからなり、陰極本体部2c1の鉛直方向D1の上端を、図5(a)の陰極補助部2c2の鉛直方向D1の上端の位置まで伸長させたものを用いることもできる。しかし、図5(a)のように陰極2cが陰極補助部2c2を有することにより、有しないものと比較して、メンテナンス時に陰極2cの交換をより行いやすくすることができる。また、陰極補助部2c2を用いることで陰極2c全体としての大きさを小さくすることができたり、或いは、例えば陰極補助部2c2は通電工程時の電解性能を陰極本体部2c2よりも低くする(例えば触媒量を減少させる等)ことができるので、陰極2cのコストを低減することができる。
ここで、陰極本体部2c1は、陰極補助部2c2を有しない場合の陰極2cのように、通電工程において電解液を電気分解するための電極であり、陰極補助部2c2を有しない場合の陰極2cと同様な構成や材料を有することができる。
また、陰極補助部2c2は、陰極本体部2c1に用い得る材料で形成することができ、また、陰極本体部2c1と同じ材料とすることもできるが、逆電流が生じた際に水素と接触して酸化させることができれば特に限定されない。また、陰極補助部2c2は、図5(b)の陰極室5cの模式的な平面図に示すように、鉛直方向D1の長さ、及び、鉛直方向D1に直交する方向の長さが、陰極本体部2c1の水平方向の長さ、及び、鉛直方向D1に直交する方向の長さよりも小さくなっている。具体的な寸法は、陰極補助部2c2が陰極本体部2c1とともに陰極室5cに収まる大きさよりも小さければ特に限定されず、陰極補助部2c2の鉛直方向D1の長さは、90mm以下が好ましい。
また、陰極本体部2c1と陰極補助部2c2と接続する導線部2c3は、陰極2cの基材に用い得る材料で形成することができ、また陰極本体部2c1と同じ材料とすることもできる。
なお、図5(a)の例では、図6の例で用いるような隔膜4の表面を覆う被覆材41を用いていないが、当該被覆材41を用いることもできる。
また、陰極2cの少なくとも一部が隔膜4の非被覆上端4tよりも上方に存在する電解装置70としては、図5に示す例に変えて、図6に示す電解装置70とすることも好ましい。具体的には、図6に示す電解装置70は、隔膜4の表面が、被覆材41により、当該被覆材41の鉛直方向下端が隔膜4の非被覆上端4tとなるように覆われている。より具体的には、図6に示す電解装置70は、ガスケット7とともに後述するように被覆材41で隔膜4の表面の一部が覆われており、それにより、陰極2cの少なくとも一部が、隔膜4の非被覆上端4tよりも上方に存在することとなっている。このようにすることにより、図5に示す電解装置70と同様な効果を奏するとともに、図5に示すように陰極2cが陰極補助部2c2を有する場合と比較して、陰極自体の構造を簡略にすることができる。
ここで、上記の被覆材41としては、隔膜4の表面を覆うことが可能であるとともに、隔膜4のうち被覆材41で覆われている部分が気体中に存在した場合に、隔膜4で区画されるそれぞれの電極室5内の気体が透過するのを防止することができれば、特に限定されないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等を用いることができる。
また、被覆材41は、図6では隔膜4の両方の表面に設けているが、隔膜4のうち被覆材41で覆われている部分が気体中に存在した場合に、隔膜4で区画されるそれぞれの電極室5内の気体が透過するのを防止することができれば、隔膜4の片方の表面だけに設けてもよい。
また、隔膜4の表面に被覆材41を設ける場合には、隔膜4の上端より被覆材41を用いて表面を覆い(ガスケット等により隔膜4の上端側の表面が覆われる場合には、そのガスケット等の下端に隣接する位置から覆い)、被覆材41の鉛直方向D1の下端が、陰極2cの鉛直方向D1の上端の位置よりも鉛直方向D1下方となるように位置することが好ましい。また、より好ましくは、被覆材41の鉛直方向D1の下端が、陰極2cの鉛直方向D1の上端の位置よりも鉛直方向D1下方であって、陰極2cの鉛直方向D1の上端の位置よりも鉛直方向D1で20mm下方に離間した位置よりも鉛直方向D1上方にあり、さらに好ましくは、当該下端が、陰極2cの鉛直方向D1の上端の位置よりも鉛直方向D1で10mm下方に離間した位置よりも鉛直方向D1上方にあることである。
続いて、本実施形態の電解装置70の構成要素のうち、主に電解槽50以外について説明する。
-送液ポンプ-
本実施形態において用いられる送液ポンプ71としては、特に限定されず、適宜定められてよい。
-気液分離タンク-
本実施形態において用いられる気液分離タンク72は、電解液と水素ガスとを分離する水素分離タンク72hと、電解液と酸素ガスとを分離する酸素分離タンク72oとを含む。
水素分離タンク72hは陰極室5cに接続され、酸素分離タンク72oは陽極室5aに接続されて用いられる。
電解装置70の気液分離タンク72は、陽極室5a用に用いられる酸素分離タンク72oと、陰極室5cに用に用いられる水素分離タンク72hの二つが備えられる。
陽極室5a用の気液分離タンク72は、陽極室5aで発生した酸素ガスと電解液を分離し、陰極室5c用の気液分離タンク72は、陰極室5cで発生した水素ガスと電解液を分離する。
電解セル65から電解液と発生ガスが混合した状態で排出されたものを、気液分離タンク72に流入させる。気液分離が適切に行われなかった場合は、陰極室5cと陽極室5aの電解液が混合したときに、酸素ガス、水素ガスが混合されてしまい、ガスの純度が低下する。最悪の場合、爆鳴気を形成してしまう危険性がある。
気液分離タンク72に流入したガスと電解液は、ガスはタンク上層の気相へ、電解液はタンク下層の液相に分かれる。気液分離タンク72内での電解液の線束と、発生したガス気泡の浮遊する速度と、気液分離タンク72内の滞留時間によって、気液分離の度合いが決まる。
ガスが分離された後の電解液は、タンク下方の流出口から流出し、電解セル65に再び流入することで循環経路を形成する。タンク上方の排出口から排出された酸素、及び水素ガスは、いずれもアルカリミストを含んだ状態であるため、排出口の下流に、ミストセパレーターや、クーラー等の、余剰ミストを液化し気液分離タンク72に戻すことが可能な装置を取り付けることが好ましい。
気液分離タンク72には、内部に貯留する電解液の液面高さを把握するために、液面計を備えることも可能である。
また、前記気液分離タンク72は、圧力解放弁を備えることが好ましい。これにより電解で発生するガスによる圧力の上昇を受けても、設計圧力を超えた場合、安全に圧力を下げることが可能となる。
気液分離タンク72への流入口は、気液分離性を向上させる上で、電解液面よりも上面に位置することが好ましいが、これに限定されるものではない。
循環停止時の電解槽中の液面の低下を防ぐ目的で、気液分離タンク72内の電解液面を電解槽上面よりも高いことが好ましいが、これに限定されるものではない。
電解セル65と気液分離タンク72との間に遮断弁を付けることが好ましいが、これに限定されるものではない。
気液分離タンク72の材料には、ニッケル等の耐アルカリ性金属が用いられる。一方、鉄等の汎用金属をタンク筐体材料として用いる場合においては、タンク内部の電解液接触面に、フッ素系樹脂等で被覆処理を施したものを用いることもあるが、本発明における気液分離タンク72の素材を限定するものではない。
気液分離タンク72の容量は、設置容積を考慮すると、小さい方が好ましいが、容積が小さすぎると、陰極2cと陽極2aの圧力差が大きくなった場合や電解電流値に変動が生じた場合、タンク内の液面が変動するため、この変動分を考慮する必要がある。
また、タンク高さも同様に、高さが低い場合は、上記変動の影響を受けやすいため、高くすることが好ましい。
-水補給器-
本実施形態において用いられる水補給器73としては、特に限定されず、適宜定められてよい。
水としては、一般上水を使用してもよいが、長期間に亘る運転を考慮した場合、イオン交換水、RO水、超純水等を使用することが好ましい。
-その他-
本実施形態の電解装置70は、電解槽50、気液分離タンク72、水補給器73以外にも、整流器74、酸素濃度計75、水素濃度計76、流量計77、圧力計78、熱交換器、圧力制御弁80を備えてよい。
また、本実施形態の電解装置70は、さらに、電力供給の停止を検知する検知器、及び、送液ポンプを自動停止する制御器を備えることが好ましい。検知器及び制御器を備えることで、再生可能エネルギーのように、変動が激しい電力源下でも、人為的な操作なしに、自己放電の影響を効率的に低減することが可能になる。
(電解装置の運転方法)
本実施形態の電解装置の運転方法は、上述した本実施形態の電解装置70を用いて、実施することができる。具体的には、本実施形態の電解装置の運転方法は、相互に隔膜4で区画された、陽極2aを有する陽極室5aと陰極2cを有する陰極室5cとを備える電解装置70を用いた電解装置70の運転方法であって、陽極室5aおよび陰極室5c中の電解液の電気分解が行われる通電工程と、陽極室5aおよび陰極室5c中の電解液の電気分解が停止している停止工程と、を有する。
まず、本実施形態の電解装置70の運転方法の構成要素のうち、通電工程について説明する。
本実施形態において、通電工程は、陽極室5aおよび陰極室5c中の電解液の電気分解が行われる工程である。具体的には、図1に示すような電解装置70において、電解槽50の陽極室5a及び陰極室5cに電解液を送液ポンプ71を用いて送液しつつ、整流器74より正通電して陽極室5a及び陰極室5c中の電解液を電気分解する。また、電気分解より発生した酸素を含む電解液、水素を含む電解液を、それぞれ陽極室5aおよび陰極室5cから気液分離タンク72へ送液し、それぞれ気液分離する。さらに、気液分離タンク72で気液分離した電解液は水補給器73にて水が補給されつつ、送液ポンプ71に戻る。このように通電工程において電解液が循環しながら電気分解されることにより、効率よく電気分解を行うことができる。
ここで正通電とは、電解装置70を用いた電解液の電気分解により、陽極2aで酸素、陰極2cで水素を得ることができる方向に電気を通電することを指す。
ここで、本実施形態において用いられる電解液としては、アルカリ塩が溶解されたアルカリ性の水溶液としてよく、例えば、NaOH水溶液、KOH水溶液等が挙げられる。
アルカリ塩の濃度としては、20質量%~50質量%が好ましく、25質量%~40質量%がより好ましい。
本実施形態では、イオン導電率、動粘度、冷温化での凍結の観点から、25質量%~40質量%のKOH水溶液が特に好ましい。
本実施形態の通電工程において、電解セル65内にある電解液の温度は、80℃~130℃であることが好ましい。
上記温度範囲とすれば、高い電解効率を維持しながら、ガスケット7、隔膜4等の電解装置70の部材が熱により劣化することを効果的に抑制することができる。
電解液の温度は、85℃~125℃であることがさらに好ましく、90℃~115℃であることが特に好ましい。
本実施形態の通電工程において、電解セル65に与える電流密度としては、4kA/m~20kA/mであることが好ましく、6kA/m~15kA/mであることがさらに好ましい。
特に、変動電源を使用する場合には、電流密度の上限を上記範囲にすることが好ましい。
なお、本実施形態の通電工程においては、上記の好ましい電流密度で電気分解を行うことが製造上好ましいが、当該好ましい電流密度を下回るような電流が流れる場合も通電工程に含まれる。
本実施形態の通電工程において、電解セル65内の圧力(ゲージ圧)としては、3kPa~1000kPaであることが好ましく、3kPa~300kPaであることがより好ましく、3kPa~100kPaであることがさらに好ましい。
続いて、本実施形態の電解装置70の運転方法の構成要素のうち、停止工程について説明する。
本実施形態において、停止工程は、陽極室5aおよび陰極室5c中の電解液の電気分解が停止している工程である。具体的には、上記通電工程では、陽極室5aにおいて電解液の電気分解により酸素が発生し、陰極室5cでは電解液の電気分解により水素が発生するが、当該停止工程では、このような電気分解が停止する。ただし、停止工程では、通電量が、電解装置70に流すことが許容される最大の正通電量(kA/m)の1%以下となる通電量であれば正通電していてもよい。なお、最大の正通電量は使用される電解装置70において運転条件として許容される最大の正通電量を意味する。
また、本実施形態の停止工程において、送液ポンプ71を停止させてもよくまたは動かした状態にしてもよいが、好ましくは送液ポンプ71を停止することが好ましい。
ここで、本実施形態において、第1の態様では、停止工程において、全ての陰極室5c内の水素中の酸素濃度が1.0モル%以下である。したがって、停止工程において、陰極室5c内で、特に、複数直列にスタックされた電極室5の中でも中央側の陰極室5cで、局部的に水素中酸素濃度が高くなるおそれを十分に低減することができる。
なお、停止工程において、全ての陰極室5c内の水素中の酸素濃度が0.1モル%以下であることがより好ましい。また、陰極室5c内の水素中酸素濃度は、各陰極室5cの水素ガスを例えば外枠3等の陰極室5cに設けた測定口よりサンプリングして、濃度測定器にて測定することができ、また、各陰極室5cの水素中酸素濃度が上記濃度範囲になるものとする。
第1の態様において、上記のように、停止工程において、全ての陰極室5c内の水素中の酸素濃度を0.1モル%以下にする方法としては、特に限定されないが、例えば、下記の(A)、(B)の方法が挙げられる。すなわち、電解装置70の運転方法は、(A)停止工程において陰極2cの少なくとも一部が水素ガスに接触した状態になるようにするとともに、当該停止工程における陰極室5c中の水素ガスの量H(mol)が、下記式
M(mol)≦H(mol)
M(mol)=逆電流量I(C/Sec)×停止工程時間T(Sec)/(2×ファラデー定数F(C/mol))
を満たすように制御する制御工程を有する。または、電解装置70の運転方法は、(B)停止工程において陰極2cの少なくとも一部が水素ガスに接触した状態になるようにすることで、下記式
電解セル65の電圧(V)≧0.20V
を満たすように制御する制御工程を有する。
第1の態様によれば、停止工程において陰極2cの少なくとも一部が水素ガスに接触した状態になるので、停止工程中に陰極2c(及び陽極2a)に逆電流が生じても、陰極2cに接触する水素が酸化し、陰極2cにおいて電位が所定の酸素発生電位に達しないようにすることができる。さらに、第1の態様では、制御工程において、陰極室5cに存在する水素ガスの量Hが上記の所定の範囲となるように制御されたり、電解セル65の電圧(V)が、電解セル65の電圧(V)≧0.20Vを満たすように、制御されるので、陰極2cに保有された電荷に対応する逆電流が生じても、電位が所定の酸素発生電位に達しないようにすることができる。その結果として、停止工程において、全ての陰極室5c内の水素中の酸素濃度を所定の範囲にしやすくすることができる。
ここで、第1の態様において、上記の(A)の方法では、上記逆電流量I(C/sec)は次に定める手順で測定する。
(1)陰極2cに逆電流が流れた際の電位φ(V)と逆電流の時間積分値Q(C)の相関fを取得する。これは陰極2cを一部切り出したサンプルで実施してもよい。
(2)電解装置70を運転し、1000A/m~6000A/mの電流密度において正通電(通電工程)を1時間行う。
(3)電解装置70の正通電(通電工程)を停止し、停止工程とする。
(4)制御工程を行う対象となる電解セル65の陰極室5cを窒素パージ(当該陰極室5cの容量の5倍量を供給)して当該陰極室5c内の水素を速やかに置換する。
(5)停止工程において、制御工程を行う対象となる電解セル65のうち最も電圧降下の速い電解セル65のセル電圧(V)を取得する。外部ヘッダー型電解槽の場合は、電解槽中央の電解セル65を対象としてもよい。
(6)電解停止後(停止工程開始)から10分が経過した時点での電解セル電圧Vc(V)を測定し、当該電解セル電圧Vcから、上記相関fを用いて逆電流によって消費された電荷量Q(C)を求める。電解セル電圧Vcは陽極電位φaと陰極電位φcの差とする。
(7)逆電流量Iを下記式
逆電流量I=電解停止後10分間に消費された電荷量Q(C)/10分
により得る。
逆電流量Iは、対象の電解セル65において最大となる逆電流量となることから、陰極室5cに水素量Mが供給されることで、制御工程中の陰極2cの電位は水素の酸化電位に保持され、ひいては陰極室5cにおける酸素の発生を抑制することができる。
また、上記停止工程時間T(Sec)は、停止工程が開始されてから停止工程が終わるまでの時間を意味する。
第1の態様において、上記の(A)の方法では、複数の陰極室5cのうち、少なくとも1つの陰極室5cが制御工程により所定の水素ガスの量Hを満たすように制御されればよい。
また、本実施形態において、「電解装置中の陰極の保有電荷量(C)」とは、通電工程における電解液の電気分解を停止したとき(通電工程の終了時)に、当該保有電荷量(C)に基づき水素ガスの量を制御する陰極室5cの陰極2cが保有する電荷量である。具体的には、陰極2cの保有電荷量(C)は、陰極2cに正通電を流して十分に還元した後、正通電を停止し、逆電流を流しながら陰極2cの電位を測定して、陰極2cの電位が陽極2aの電位と等しくなるまでの逆電流の時間積算値を陰極2cが保有する保有電荷量とする。
さらに、水素ガスの量H(mol)は、制御工程の制御によって陰極室5c内に存在することとなる全ての水素ガスと、制御工程の制御の開始時点で陰極室5c内に存在する水素ガスとの合計量(mol)である。
制御工程の制御の開始時点で陰極室5c内に存在する水素ガスの量(mol)は、下記の状態方程式
水素ガス量H(mol)=陰極室の気相容積(m)×陰極室の圧力(Pa(絶対圧力))÷気体定数R(J/Kmol)÷陰極室の温度(K)
により算出することができる。その際、必要に応じて、液面計、温度計、圧力計等用いてもよい。
また、制御工程の制御によって陰極室5c内に存在することとなる全ての水素ガスの量は、陰極室5cに供給した水素ガスを流量計などに基づき、測定することができる。その際、必要に応じて、液面計、温度計、圧力計等用いてもよい。
また、第1の態様において、「陰極の少なくとも一部が水素ガスに接触」とは、陰極室5c内に形成された水素ガス層(水素溜まり)に陰極2cの一部が水素ガスに露出して水素ガスと接触することや、陰極室5c内の水素ガスの気泡が陰極2cの一部に衝突することで接触することのいずれでもよい。具体的には、例えば、陰極室5c内の鉛直方向D1上方に水素ガス層(水素溜まり)が形成されることにより陰極2cの一部が水素ガスに露出して水素ガスと接触することや、また、陰極室5c内に流通方向の上流側(通常は鉛直方向D1下方側)から水素ガスを導入することで、水素ガスの気泡が陰極2cの一部と接触することが挙げられる。
なお、より確実に陰極2cに水素ガスを接触させる観点から、制御工程では、停止工程において陰極2cの少なくとも一部が水素ガスに露出した状態になるようにすることが好ましい。
第1の態様において、制御工程での水素ガスの量H(mol)は、下記式
M(mol)≦H(mol)
を満たすことで、陰極2cにおいて電位が所定の酸素発生電位に達しないようにすることができるので、陰極室5cの水素中酸素濃度を所定の範囲にする観点からは上限値は特に限定されないが、水素ガスの使用量を適切にする観点から水素ガスの量H(mol)は、下記式
M(mol)≦H(mol)≦10×M(mol)
を満たすことが好ましい。
ここで、第1の態様において、上記の(B)の方法での電解セル65の電圧(V)の測定は、電解槽50中の隣接する電解セル65の間の電位差を電圧計または電位差計を用いることで行うことができる。また、電解槽50中の端部となる電解セル65の陽極2aと、電解槽50中の端部となる電解セル65の陰極2cと、の間の電位差を測定し、電解セル65の数で除することにより、電解セルの電圧を得ることができる。または、各電解セル65についての電圧を測定し、それぞれの電圧の積算値を電解セルの数で除することで得ることができる。
上記の(B)の方法において、制御工程では、例えば電解槽50中の特定の陰極室5cの水素中酸素濃度を所定の範囲にする観点から、電解槽50中の1つまたは一部の電解セル65について所定の電圧(V)を満たすように制御することもできる。しかし、電解槽50の全ての電解セル65について所定の電圧(V)を満たすように制御することが好ましい。換言すれば、電解槽50がN個の電解セル65を有するとき、制御工程において、下記式
電解槽の電圧(V)≧0.20V×N
を満たすように制御することが好ましい。これにより、電解槽50中の全体の陰極室5cの水素中酸素濃度を所定の範囲にすることができる。
また、上記の(B)の方法において、制御工程では、下記式
電解セルの電圧(V)≧1.20V
を満たすように制御することが好ましい。また、制御工程では、下記式
電解槽の電圧(V)≧1.20V×N
を満たすように制御することがより好ましい。
停止工程中では、陰極2cに逆電流が生じることがあり、逆電流が生じると陰極2cの電位が変化し、陰極2c自体が酸化するような電圧域に入る恐れがある。しかし、当該範囲にすることにより、陰極2c自体が酸化することを防止することができ、陰極2cの劣化を抑制することができる。
第1の態様において、上記(A)の方法および(B)の方法での制御工程において、具体的に、陰極室5c中の水素ガスの量Hを所定の式を満たすように制御する方法、および、電解セル65の電圧(V)を所定の範囲に制御する方法としては、特に限定されないが例えば、次の方法が挙げられる。
すなわち、(i)陰極室5cよりも流通方向の上流側より水素ガスを陰極室5cへ供給する方法が挙げられる。具体的には例えば、陰極室5c、陰極電解液入口5ci、陰極室5cの上流側の配管(具体的には、陰極用配液管20Oci、陰極入口ヘッダー(陰極入口側ホース)10Oci等))に設けた水素注入口を介して水素ガスを注入して、陰極室5cに水素ガスを供給する。或いは、(ii)陰極室5cよりも流通方向の下流側より水素ガスを陰極室5cへ供給する。具体的には例えば、陰極電解液出口5co、陰極室5cの下流側の配管(陰極室陰極用集液管20Oco、陰極出口ヘッダー(陰極出口側ホース)10Oco、気液分離タンク72の排出側等)に設けた水素注入口を介して水素ガスを注入して、陰極室5cに水素ガスを供給したり、または、陰極室5cよりも流通方向の下流側の配管等の内側に水素ガス層が形成されていれば、陰極室5cの水素ガス層と配管内の水素ガス層が連通するようにして、陰極室5cに水素ガスを供給する。
上記(i)の方法によれば、積極的に水素ガスを供給することで制御工程の例えば時間などを管理しやすくすることができる。
なお、流通方向とは、電解装置70の通電工程等において、電解装置70内を電解液が流れる方向を指すものとする。また、上記(i)の方法と(ii)の方法とを組み合わせることもできる。
上記(i)の方法について、具体的には、陰極室5cの陰極電解液出口5coよりも流通方向の上流側より陰極室5c内に直接的または間接的に水素ガスが陰極室5cへ供給されれば特に限定されないが、(i-a)陰極室5cに供給した水素ガスが、陰極室5c内に形成された水素ガス層に溜まり、または、水素ガス層を形成するようにすることで、陰極2cの少なくとも一部が水素ガス層に露出させることができる。或いは、(i-b)供給した水素ガスが、陰極室5c内において、陰極2cが水素ガス層に露出するような水素ガス層を形成せず、水素ガスが陰極2cに主に気泡の状態で接触するようにする(この場合、例えば陰極室5cよりも流通方向の下流側を閉止せずに水素ガスを供給し続ける)。後者の場合、供給した水素ガスが、陰極2cに主に気泡の状態で接触することにより、陰極2cを露出させずに陰極2cの劣化を防止することができるが、効率よく陰極2cの劣化を防止できる観点から、上記(i-a)のように、供給した水素ガスが、陰極室5cに形成された水素ガス層に溜まり、または、水素ガス層を形成するようにすることが好ましい。
上記(i-a)の方法では、陰極室5c内に形成される水素ガス層は、陰極室5cよりも流通方向の下流側(例えば、陰極電解液出口5co、陰極室陰極用集液管20Oco、陰極出口ヘッダー(陰極出口側ホース)10Oco、気液分離タンク72の排出側等)を弁や液封(系統内に存在する電解液、またはシールポッド)により閉止することにより、陰極室5cに水素ガス層が形成されるようにしてもよい。または、陰極室5cの陰極電解液出口5coの鉛直方向D1の上端の位置を、陰極室5cの外枠3の内面の鉛直方向D1の上端の位置よりも鉛直方向D1下方に、且つ、陰極2cの鉛直方向D1の上端よりも鉛直方向D1下方に位置させた電解装置70を用いることにより、陰極室5cに水素ガス層が形成されるようにしてもよい。
上記(ii)の方法について、具体的には、(ii-a)陰極室5cに供給した水素ガスが、陰極室5c内に形成された水素ガス層に溜まり、または、水素ガス層を形成するようにすることで、陰極2cの少なくとも一部が水素ガス層に露出させることができる。また、(ii-a)の方法では、陰極室5c内に形成される水素ガス層は、陰極室5cへの水素ガスを注入する位置よりも流通方向の下流側(例えば、陰極室陰極用集液管20Oco、陰極出口ヘッダー(陰極出口側ホース)10Oco、気液分離タンク72の排出側等)を弁や液封(系統内に存在する電解液、またはシールポッド)により閉止することにより、陰極室5cに水素ガス層が形成されるようにしてもよい。また、陰極室5cよりも流通方向の下流側の配管等の内側に水素ガス層が形成されている場合には、当該配管内の水素ガス層と排出側を閉止した気液分離タンク72内の水素ガス層とが連通していてもよい。また、陰極室5cの陰極電解液出口5coの鉛直方向D1の上端の位置を、陰極室5cの外枠3の内面の鉛直方向D1の上端の位置よりも鉛直方向D1下方に、且つ、陰極2cの鉛直方向D1の上端よりも鉛直方向D1下方に位置させた電解装置70を用いることにより、陰極室5cに水素ガス層が形成されるようにしてもよい。
また上記の(i)(ii)の方法以外の方法としては、(iii)陰極室5c内の電解液の量を、制御工程前の陰極室5c内の電解液の量よりも減少させて、陰極室5c内に存在する水素ガスで調整することが挙げられる。陰極室5c内の電解液の量を、制御工程前の陰極室5c内の電解液の量よりも減少させるには、特に限定されないが例えば、(iii-a)通電工程から停止工程に移行する際に、通電工程で発生する水素ガスの圧力により陰極室5c中の電解液を押し下げたり、陰極室5c中の電解液を抜き取ったり、電解液がタンクに戻るように自重で若しくはポンプを逆転させることで逆流させたりすることにより行うことができる。また、(iii-b)停止工程中において、外部より注入する水素ガスの圧力により陰極室5c中の電解液を押し下げたり、停止工程中において陰極室5cよりも流通方向下流側の配管(例えば、陰極用集液管20Oco等)内が水素ガスで充満している状態になっていれば、陰極室5c中の電解液を抜き取ったり、電解液がタンクに戻るように自重で若しくはポンプを逆転させることで逆流させたりすることにより行うことができる。(iii)では、陰極室5c内に存在する水素ガスを所定の水素ガスの量Hとし、または陰極室5c内に存在する水素ガスにより所定の電圧に制御することから、陰極室5cの陰極電解液出口5coを閉止することが好ましい(陰極室5cの陰極電解液出口5coよりも下流側の配管を閉止し、その内側に水素ガス層が形成された場合には、制御工程において当該配管内の水素ガス層を陰極室5cへ供給することもできる)。
なお、上記(i)、(ii)の方法においても、上記(iii)の方法のように、陰極室5c内の電解液の量を、制御工程前の陰極室5c内の電解液の量よりも減少させることができ、具体的には、陰極室5c内の電解液の量を減少させて、陰極室5cよりも流通方向の上流側より、または下流側より、水素ガスを陰極室5cへ供給することができる。制御工程において、電解液の量を、通電工程の電解液の量よりも減少させることによって、陰極室5c内に水素ガスをより多く存在させやすくすることができる。
なお、上記(i)、(ii)の方法において、上記(iii)のような方法により、制御工程中に陰極室5c内の電解液の量を減少させて液面Lを調整したり、または、例えばポンプを用いて、陰極室5c内の電解液の量を増加させることもできる。
さらに、上記(i)~(iii)以外の方法としては、(iv)陰極室5c内の水素ガスを加圧状態にすることが挙げられる。具体的には、特に限定されないが例えば、通電工程から停止工程に移行する際に、通電工程で発生する水素ガスの圧力、または、陰極室5cに対して、外部より水素注入口を介して注入する水素ガスの圧力により、行うことができる。なお、この際、陰極室5c内の圧力を高めることができるように、陰極電解液入口5ci、陰極電解液出口5coを閉止したり、または、陰極室5cよりも流通方向の下流側の配管(例えば、陰極用集液管20Oco等)及び、陰極室5cよりも流通方向の上流側の配管(例えば、陰極用配液管20Oci等)を例えば便により閉止して陰極室5cを閉鎖系にしたりしてもよい。また、(iv)の方法においては、加圧した陰極室5cに、水素ガスの消費にあわせて、水素ガスを供給してもよい。
なお、上記(iv)の方法においても、上記(iii)の方法のように、陰極室5c内の電解液の量を、制御工程前の陰極室5c内の電解液の量よりも減少させることができる。
上記(iv)の方法によれば、陰極2cにより多くの水素ガスを接触させることができる。
なお、上記の陰極室5cの外部より水素注入口を介して注入する水素ガスは、水素分離タンク72h後に水素を貯蔵する貯蔵タンクと上記の水素注入口を配管で連結して当該貯蔵タンクより注入することや、水素が充填された移動式ボンベを上記の水素注入口に接続して当該ボンベより注入することができる。
また、本実施形態において、陰極2cの少なくとも一部を陰極室5c内に形成された水素ガス層(水素溜まり)に露出させて、陰極2cと水素ガスと接触させる場合において、制御工程時に、電解液の量(電解液の液面L)を調整等することができる。
さらに、陰極室5cの電解液の液面Lが低下しすぎないようにするため、陰極室5cよりも電解液の流通方向上流側の配管等に弁を設けることもでき、また、各配管等の内側の水素ガス層の形成は、当該配管内の電解液を抜き取ったり、陰極室5cや気液分離タンク72に流し込むことで、行うこともできる。
ところで、第1の態様において、停止工程において、図5、図6に示すように、陰極室5c及び/又は陽極室5aの電解液の液面(電解液の喫水線)Lが隔膜4の非被覆上端4tよりも鉛直方向D1上方に位置することが好ましい。隔膜4の両方の表面が気体中に露出すると、それぞれの電極室5中の気体がわずかに隔膜4を透過してそれぞれの電極室5に拡散することがあるが、上記のようにすることにより、隔膜4は少なくとも一方の表面が液体に浸漬した状態になる。したがって、陽極室5aの酸素が陰極室5cに漏れ出ることを抑えることができ、それ故に、陰極室5cに存在する水素中への酸素の混合と酸素濃度が高まることを防ぐことができる。
なお、上記の「隔膜の非被覆上端」とは、隔膜4の鉛直方向D1の上端であるか、或いは、隔膜自体のうちの鉛直方向D1の上端側の部分が、例えば、図5(a)に示すように、隔膜4を電解槽の外枠3の間に固定する際に用いるガスケット等で隔膜4の表面の一部が覆われている場合や、図6に示すように、ガスケット7とともに後述するように被覆材41で隔膜4の表面の一部が覆われている場合には、「隔膜の非被覆上端」とは、隔膜4のうちのガスケット7や被覆材41等で覆われていない部分についての鉛直方向D1の上端4tを指す。
第1の態様において、上記のように、停止工程において、陰極室5c及び/又は陽極室5aの電解液の液面Lを隔膜4の非被覆上端4tよりも鉛直方向D1上方に位置させるためには、電解装置70において、陰極2cの少なくとも一部が、隔膜4の非被覆上端4tよりも上方に存在することが好ましい。陰極2cの少なくとも一部が、隔膜4の非被覆上端4tよりも上方に存在することで、停止工程において陰極の少なくとも一部を水素ガスに露出させやすくすることができる。
本実施形態の第1の態様において、陰極2cの保有電荷量が、陽極2aの保有電荷量に対して0.1倍以下であることが好ましい。このような電極を用いて電解装置70を運転した場合に、本実施形態の第1の態様の電解装置70の運転方法を好適に適用することができる。
当該陰極2cの保有電荷量は、上述の方法により測定することができ、また、陽極2aの保有電荷量は陰極2cの保有電荷量と同様に測定することができる。
また、本実施形態の第1の態様および第2の態様において、陰極2cの保有電荷量を、陽極2aの保有電荷量に対して0.1倍以下にする方法としては、陽極2aや陰極2cの材料等を適宜選択することにより行うことができる。
ここで、本実施形態において、第2の態様では、停止工程において、全ての陽極室5a内の酸素中の水素濃度が1.0モル%以下である。したがって、停止工程において、陽極室5a内で、特に、複数直列にスタックされた電極室5の中でも中央側の陽極室5aで、局部的に酸素中水素濃度が高くなるおそれを十分に低減することができる。
なお、停止工程において、全ての陽極室5a内の酸素中の水素濃度が0.1モル%以下であることがより好ましい。また、陽極室5a内の酸素中水素濃度は、各陽極室5aの酸素ガスを例えば外枠3等の陽極室5aに設けた測定口よりサンプリングして、濃度測定器にて測定することができ、また、各陽極室5aの酸素中水素濃度が上記濃度範囲になるものとする。
ところで、本実施形態の第1の態様および第2の態様では、電解装置70が、陽極室5aおよび陰極室5cへの電解液の供給経路(具体的には、陽極用配液管20Oai、陰極用配液管20Oci、陽極入口ヘッダー(陽極入口側ホース)10Oai、陰極入口ヘッダー(陰極入口側ホース)10Oci等)及び、陽極室5aおよび陰極室5cからの電解液の排出経路(具体的には、陽極用集液管20Oao、陰極用集液管20Oco、陽極出口ヘッダー(陽極出口側ホース)10Oao、陰極出口ヘッダー(陰極出口側ホース)10Oco等)を備える場合、停止工程において、供給経路及び/又は排出経路を、陽極室5aおよび陰極室5cに対して絶縁することが好ましい。具体的には、供給経路及び/又は排出経路(具体的には、陽極用配液管20Oai、陰極用配液管20Oci、陽極入口ヘッダー(陽極入口側ホース)10Oai、陰極入口ヘッダー(陰極入口側ホース)10Oci、陽極用集液管20Oao、陰極用集液管20Oco、陽極出口ヘッダー(陽極出口側ホース)10Oao、陰極出口ヘッダー(陰極出口側ホース)10Oco等)に樹脂製のバルブを設け、停止工程において、当該バルブを閉止することで絶縁することができる。また、供給経路が陽極室5a、陰極室5cに対して鉛直方向上方に位置すること、及び/又は、排出経路が陽極室5a、陰極室5cに対して鉛直方向上方に位置すること、により、停止工程において、例えば、送液ポンプ71を停止した際、電解液が自重で流れ落ち(例えば水素分離タンク72hから水素が逆流する)、または、適宜水素ガスを供給経路や排出経路に注入し電解液を抜き取る等して、供給経路及び/又は排出経路に絶縁性のガス層を形成させることができる。
停止工程において上記のように絶縁することにより、陽極2a、陰極2cに生じる逆電流の全体量を低減することができる。
なお、当該絶縁は、停止工程の開始時から終了時まで行うことが好ましい。
また本実施形態の第1の態様および第2の態様では、電解装置70において電解槽と電解電源(整流器)74とを含む電気回路が形成されているところ、停止工程において、当該電気回路を遮断することが好ましい。
停止工程において上記のように遮断することにより、停止工程において、陽極2aおよび陰極2cに生じる逆電流を低減することができる。具体的には、電気回路の遮断器、断路器、開閉器、逆向きの電流を阻害するダイオードを用いて遮断することができる。
本実施形態の第1の態様および第2の態様において、電解装置70が、陽極2aと、陰極2cと、陽極2aおよび陰極2cを隔離する隔壁1と、隔壁1を縁取る外枠3とを有するエレメント60を複数備える場合において、複数のエレメント60は、相互に絶縁された状態で隔膜4を挟んで重ね合わせられていることが好ましい。このようにすることにより、エレメント60間では相互に絶縁された状態となるので、通電工程でそれぞれのエレメント60に蓄積された電荷が、停止工程において他のエレメント60に影響することを抑制することができる。
複数のエレメント60が相互に絶縁された状態にする方法とは、具体的には、エレメント60の外枠3間で絶縁された状態とすることが好ましく、具体的には、例えば、エレメント60間に配置するガスケット7の絶縁性を高める等により行うことができる。また、ここでの絶縁とは、エレメント60間で、絶縁抵抗が1MΩ以上であることが好ましい。または、当該ガスケット7の表面を絶縁性の樹脂シート(例えばポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂等)で覆うことにより行うことができる。
本実施形態の第1の態様および第2の態様において、電解装置70の電解槽が複極式であって、1つの陽極室5aと1つの陰極室5cとを1つの電解セル65とするとき、30以上の電解セル65を有する電解槽を用いることができる。このような電解槽において、本実施形態の電解装置の運転方法をより好適に適用することができる。
また、本実施形態の第1の態様および第2の態様において、停止工程において陽極室5aおよび/または陰極室5cは閉鎖系とすることができる。具体的には、停止工程において陽極室5aおよび/または陰極室5cが供給経路(具体的には、陽極用配液管20Oai、陰極用配液管20Oci、陽極入口ヘッダー(陽極入口側ホース)10Oai、陰極入口ヘッダー(陰極入口側ホース)10Oci等)及び、陽極室5aおよび陰極室5cからの電解液の排出経路(具体的には、陽極用集液管20Oao、陰極用集液管20Oco、陽極出口ヘッダー(陽極出口側ホース)10Oao、陰極出口ヘッダー(陰極出口側ホース)10Oco等)を備える場合、それらに設けることが可能な閉止弁、液封(系統内に存在する電解液、またはシールポッド)により当該供給経路および排出経路を閉止することができる。このように電解装置70を運転する場合において、局部的に、特に、複数直列にスタックさた電解セル65のうち中央側の電解セル65が、酸素中水素濃度または水素中酸素濃度がより高くなりやすく、本実施形態の電解装置の運転方法をさらに好適に適用することができる。
本実施形態の第1の態様および第2の態様では、前述の電解装置70の構成要素を用いて、例えば、図1に示すような構成の電解装置70を作製することができるが、これに限定されるものではない。
本実施形態の第1の態様および第2の態様の電解装置の運転方法では、太陽光や風力等の変動電源を使用することによって、上述の効果が顕著になる。
以上、図面を参照して、本発明の実施形態の電解装置、電解装置の運転方法について例示説明したが、本発明の電解装置、電解装置の運転方法は、上記の例に限定されることはなく、上記実施形態には、適宜変更を加えることができる。
本発明によれば、電解装置において局部的に、特に直列にスタックした複数の電解セルのうち中央側の電解セルでの酸素中水素濃度または水素中酸素濃度が高くなることを抑制することができる。
1 隔壁
2 電極
2a 陽極
2c 陰極
2c1 陰極本体部
2c2 陰極補助部
2c3 導線部
3 外枠
4 隔膜
41 被覆材
4t 隔膜の非被覆上端
5 電極室
5a 陽極室
5c 陰極室
5i 電解液入口
5o 電解液出口
5ai 陽極電解液入口
5ao 陽極電解液出口
5ci 陰極電解液入口
5co 陰極電解液出口
6 整流板
7 ガスケット
10 ヘッダー
10O 外部ヘッダー
10Oai 陽極入口ヘッダー(陽極入口側ホース)
10Oao 陽極出口ヘッダー(陽極出口側ホース)
10Oci 陰極入口ヘッダー(陰極入口側ホース)
10Oco 陰極出口ヘッダー(陰極出口側ホース)
20 導管
20Oai 陽極用配液管
20Oao 陽極用集液管
20Oci 陰極用配液管
20Oco 陰極用集液管
50 複極式電解槽
51g ファストヘッド、ルーズヘッド
51a 陽極ターミナルエレメント
51c 陰極ターミナルエレメント
51r タイロッド
51i 絶縁板
60 複極式エレメント
65 電解セル
70 電解装置
71 送液ポンプ
72 気液分離タンク
72h 水素分離タンク
72o 酸素分離タンク
73 水補給器
74 整流器
75 酸素濃度計
76 水素濃度計
77 流量計
78 圧力計
80 圧力制御弁
D1 隔壁に沿う所与の方向(鉛直方向)
L 喫水線
Z ゼロギャップ構造

Claims (16)

  1. 相互に隔膜で区画された、陽極を有する陽極室と陰極を有する陰極室とをそれぞれ複数備える電解装置の運転方法であって、
    前記陽極室および前記陰極室中の電解液の電気分解が行われる通電工程と、
    前記陽極室および前記陰極室中の電解液の電気分解が停止している停止工程と、を有し、
    前記停止工程において、全ての前記陰極室内の水素中の酸素濃度が1.0モル%以下であることを特徴とする、電解装置の運転方法。
  2. 更に、前記停止工程において前記陰極の少なくとも一部が水素ガスに接触した状態になるようにするとともに、当該停止工程における前記陰極室中の水素ガスの量H(mol)が、下記式
    M(mol)≦H(mol)
    M(mol)=逆電流量I(C/Sec)×停止工程時間T(Sec)/(2×ファラデー定数F(C/mol))
    を満たすように制御する制御工程を有する、請求項1に記載の電解装置の運転方法。
  3. 相互に隔膜で区画された、1つの陽極室と1つの陰極室とを1つの電解セルとするとき、更に、前記停止工程において前記陰極の少なくとも一部が水素ガスに接触した状態になるようにすることで、下記式
    電解セルの電圧(V)≧0.20V
    を満たすように制御する制御工程を有する、請求項1に記載の電解装置の運転方法。
  4. 前記電解装置が電解槽を有し、前記電解槽がN個の前記電解セルを有し、
    前記制御工程において、下記式
    電解槽の電圧(V)≧0.20V×N
    を満たすように制御する、請求項3に記載の電解装置の運転方法。
  5. 前記制御工程における制御は、前記陰極室の外部から水素ガスを供給することを含む、請求項2~4のいずれかに記載の電解装置の運転方法。
  6. 前記停止工程において、前記陰極室及び/又は前記陽極室の前記電解液の液面が前記隔膜の非被覆上端よりも鉛直方向上方に位置する、請求項2~5のいずれかに記載の電解装置の運転方法。
  7. 前記制御工程における前記制御は、前記陰極室内の前記電解液の量を、前記制御工程前の前記陰極室内の前記電解液の量よりも減少させることを含む、請求項2~6のいずれかに記載の電解装置の運転方法。
  8. 前記陰極の保有電荷量が、前記陽極の保有電荷量に対して0.1倍以下である、請求項1~7のいずれかに記載の電解装置の運転方法。
  9. 相互に隔膜で区画された、陽極を有する陽極室と陰極を有する陰極室とをそれぞれ複数備える電解装置の運転方法であって、
    前記陽極室および前記陰極室中の電解液の電気分解が行われる通電工程と、
    前記陽極室および前記陰極室中の電解液の電気分解が停止している停止工程と、を有し、
    前記停止工程において、全ての前記陽極室内の酸素中の水素濃度が1.0モル%以下であることを特徴とする、電解装置の運転方法。
  10. 前記電解装置の電解槽が複極式であって、1つの前記陽極室と1つの前記陰極室とを1つの電解セルとするとき、当該電解槽が30以上の電解セルを有する、請求項1~9のいずれかに記載の電解装置の運転方法。
  11. 前記電解装置は、前記陰極室への前記電解液の供給経路及び、前記陰極室からの前記電解液の排出経路を備え、
    前記停止工程において、前記供給経路及び/又は前記排出経路を、前記陰極室に対して絶縁する、請求項1~10のいずれかに記載の電解装置の運転方法。
  12. 前記停止工程において、前記電解装置の、電解槽と電解電源とを含む電気回路を、遮断する、請求項1~11のいずれかに記載の電解装置の運転方法。
  13. 前記電解装置が、前記陽極と、前記陰極と、前記陽極および前記陰極を隔離する隔壁と、前記隔壁を縁取る外枠とを有するエレメントを複数備え、
    複数の前記エレメントは、相互に絶縁された状態で前記隔膜を挟んで重ね合わせられている、請求項1~12のいずれかに記載の電解装置の運転方法。
  14. 前記電解液がアルカリ水溶液である、請求項1~13のいずれかに記載の電解装置の運転方法。
  15. 前記停止工程において前記陽極室および/または前記陰極室が閉鎖系である、請求項1~14のいずれかに記載の電解装置の運転方法。
  16. 請求項1に記載された電解装置の運転方法で運転する電解装置であって、
    相互に隔膜で区画された、陽極を有する陽極室と陰極を有する陰極室とをそれぞれ複数備え、
    更に、前記陰極室中の水素ガスの量を制御可能な第1の混合防止部を備え、
    前記第1の混合防止部は、前記停止工程における全ての前記陰極室内の水素中の酸素濃度が1.0モル%以下であるように制御することを特徴とする、電解装置。
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