本発明の一実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態及び実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態及び実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。本明細書中、数値範囲に関して「A~B」と記載した場合、当該記載は「A以上B以下」を意図する。
〔1.皮膚疾患の指標の検出方法〕
本発明の一実施形態の「皮膚疾患の指標の検出方法」は、「皮膚疾患を診断するための指標の検出方法」であってもよく、「皮膚疾患を診断するためのデータの取得方法」であってもよく、「皮膚疾患を診断するための補助方法」であってもよい。
本発明の一実施形態の皮膚疾患の指標の検出方法は、被験体から採取された免疫関連細胞における(i)一次繊毛数と、(ii)ロリクリン量及び/又はフィラグリン量と、を検出する工程を含む。当該構成であれば、客観的かつ定量的な、皮膚疾患の発症リスクの判定指標を提供することができる。
本明細書において、「皮膚疾患の発症リスク」とは、例えば、(a)皮膚疾患が治癒した皮膚が皮膚疾患を再発するリスク、(b)皮膚疾患が治癒しつつある皮膚が皮膚疾患を悪化させるリスク、(c)皮膚疾患を患っている皮膚が皮膚疾患を悪化させるリスク、又は(d)皮膚疾患を患っていない皮膚に新たに皮膚疾患が発症するリスクを意図する。
前記皮膚疾患は、特に限定されず、例えば、アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、膿疱性乾癬、掌蹠膿疱症、尋常性魚鱗癬、紅斑性角化症局面、及びロリクリン角化症を挙げることができる。比較的症状が重く、各疾患に適した治療が必要であるという観点から、皮膚疾患は、アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、膿疱性乾癬、及び掌蹠膿疱症が好ましい。
前記被験体は、特に限定されず、例えば、ヒト、及び非ヒト動物を挙げることができる。非ヒト動物は、特に限定されず、例えば、実験動物、愛玩動物、及び家畜を挙げることができ、より具体的に、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、及びウマを挙げることができる。前記被験体は、上述したヒト、又は非ヒト動物から採取された組織(例えば、皮膚組織)であってもよい。
前記免疫関連細胞には、免疫反応を主に担当する免疫細胞と、免疫細胞に間接的に関与する免疫機能保有細胞とが包含される。免疫機能保有細胞は、例えば、免疫細胞を活性化させる機能を有している。免疫細胞としては、例えば、皮膚樹状細胞(例えば、ランゲルハンス細胞、真皮樹状細胞)、リンパ球系の免疫細胞(例えば、T細胞、NK細胞、B細胞)、及び単球系の免疫細胞(例えば、通常型樹状細胞、単球系樹状細胞(例えば、形質細胞様樹状細胞))を挙げることができる。一方、免疫機能保有細胞としては、例えば、ケラチノサイト、繊維芽細胞、及び上皮細胞を挙げることができる。皮膚疾患の発症リスクをより精度高く判定するという観点から、免疫関連細胞としては、ケラチノサイトが好ましい。
〔A-1〕一次繊毛数の検出
本実施の形態の皮膚疾患の指標の検出方法では、皮膚疾患の指標の1つとして、免疫関連細胞における一次繊毛数を検出する。
正常検体における免疫関連細胞は、一般的に、免疫関連細胞1個あたり、1本以下の一次繊毛を有している。それ故に、本実施の形態の皮膚疾患の指標の検出方法にて一次繊毛数を検出する場合、例えば、(a)免疫関連細胞1個あたりの一次繊毛数を検出してもよいし、(b)所定の数の免疫関連細胞あたりの、一次繊毛を有する免疫関連細胞の割合を検出してもよいし、(c)前記(a)及び(b)の両方の検出を行ってもよい。
例えば、上述した(a)の場合、下記の式(I)にしたがって、[免疫関連細胞の一次繊毛の形成率]として、一次繊毛数を算出することができる;
[免疫関連細胞の一次繊毛の形成率]=〔[検体に含まれる免疫関連細が有する一次繊毛の全数]/[検体に含まれる免疫関連細胞の全数]〕×100 ・・・式(I)。
例えば、上述した(b)の場合、下記の式(II)にしたがって、[免疫関連細胞の一次繊毛の形成率]として、一次繊毛数を算出することができる;
[免疫関連細胞の一次繊毛の形成率]=〔[検体に含まれる一次繊毛を有する免疫関連細胞の全数]/[検体に含まれる免疫関連細胞の全数]〕×100 ・・・式(II)。
一次繊毛数の検出は、例えば、公知の免疫組織化学染色法によって行うことができる。具体的に、一次繊毛数の検出は、被験検体含有試料(例えば、被験検体をパラフィン包埋切片化したもの)と、一次繊毛に対する特異的結合物質(以下、「第1の特異的結合物質」と呼ぶ)とを接触させて、第1の特異的結合物質を被験検体含有試料に含まれる一次繊毛に結合させ、当該第1の特異的結合物質に結合した標識物質を検出することによって行うことができる。なお、被験検体含有試料(例えば、被験検体をパラフィン包埋切片化したもの)の作製方法は、限定されず、公知の方法を用いることができる。
第1の特異的結合物質としては、一次繊毛のマーカーとなる物質に特異的に結合する物質(例えば、抗体(一次抗体))を挙げることができる。一次繊毛のマーカーとなる物質としては、例えば、ADPリボシル化因子様タンパク質(Arl13B)、アセチル化チューブリン、アデニル酸シクラーゼIII、ネフロシスチン3(NPHP3)、鞭毛内輸送タンパク質(IFT88)、ソマトスタチンレセプター3(sstr3)、ポリシステン-1(TRPC1)、一過性受容体電位バニロイド4(TRPV4)、血小板由来成長因子レセプターα(PDGFRα)、及びスムーズンド(Smo)を挙げることができる。
上述したように、第1の特異的結合物質としては、例えば、一次繊毛のマーカーとなる物質に特異的に結合する抗体を挙げることができる。当該抗体としては、例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、及びこれら抗体の断片(例えば、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、及び単鎖抗体)を挙げることができる。
モノクローナル抗体は、例えば、免疫関連細胞の一次繊毛のマーカーに対するモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマを所望の培地中にて培養して培養上清を得、必要に応じて当該培養上清を精製することによって得ることができる。ハイブリドーマは、免疫関連細胞の一次繊毛のマーカーを動物(例えば、マウス、ラット)の静脈内、皮下、又は腹腔内に投与した後、当該動物から抗体産生細胞を得、当該抗体産生細胞とミエローマ細胞とを細胞融合させることによって得ることができる。
ポリクローナル抗体は、例えば、免疫関連細胞の一次繊毛のマーカーを動物(例えば、ウサギ)の静脈内、皮下、又は腹腔内に投与した後、当該動物から血清を得、必要に応じて当該血清を精製することによって得ることができる。
Fabフラグメントは、例えば、免疫関連細胞の一次繊毛のマーカーに対するモノクローナル抗体をパパインによって消化し、必要に応じて当該消化産物を精製することによって得ることができる。
F(ab’)2フラグメントは、例えば、免疫関連細胞の一次繊毛のマーカーに対するモノクローナル抗体をペプシンによって消化し、必要に応じて当該消化産物を精製することによって得ることができる。
単鎖抗体は、例えば、免疫関連細胞の一次繊毛のマーカーに対するモノクローナル抗体の軽鎖の可変領域をコードする核酸と、リンカーをコードする核酸と、当該モノクローナル抗体の重鎖の可変領域をコードする核酸とを連結させた核酸構築物を含有するファージミドベクターを宿主細胞に導入し、当該宿主細胞内にて核酸構築物にコードされるポリペプチドを発現させ、必要に応じて当該ポリペプチドを精製することによって得ることができる。
前記標識物質は、蛍光、又は色などの検出可能なシグナルを生成できる物質(例えば、蛍光色素、酵素)であればよい。なお、当該標識物質は、第1の特異的結合物質と直接結合していてもよいし、第1の特異的結合物質に対する特異的結合物質(以下、「第2の特異的結合物質」と呼ぶ)と直接結合していてもよい。第2の特異的結合物質としては、例えば、第1の特異的結合物質に特異的に結合する物質(例えば、抗体(二次抗体))を挙げることができる。
標識物質としては、例えば、フルオレセインイソチオシアネート;2-(3-イミニオ-4,5-ジスルホナト-6-アミノ-3H-キサンテン-9-イル)-5-[[5-(2,5-ジオキソ-3-ピロリン-1-イル)ペンチル]カルバモイル]安息香酸(例えば、Invitrogen社製のAlexa Fluor 488);6-(2-カルボキシラト-4-カルボキシフェニル)-1,2,10,11-テトラヒドロ-1,2,2,10,10,11-ヘキサメチル-4,8-ビス-(スルホメチル)-1,11-ジアザ-13-オキソニアペンタセン(例えば、Invitrogen社製のAlexa Fluor 594);ペルオキシダーゼ;アルカリホスファターゼを挙げることができる。
第1の特異的結合物質に結合した標識物質の検出は、例えば、光学顕微鏡(例えば、蛍光顕微鏡、及び共焦点レーザー顕微鏡)、画像解析装置(例えば、蛍光イメージングアナライザー)、又はフローサイトメトリー装置(蛍光フローサイトメーター、及びイメージングフローサイトメーター)を用いて目視による検出や、蛍光強度などの数値による検出として行うことができる。
〔A-2〕一次繊毛数の検出結果
被験体における一次繊毛数の検出結果(例えば、式(I)又は式(II)にて算出した、免疫関連細胞の一次繊毛の形成率の値A)は、比較対象における一次繊毛数の検出結果(例えば、式(I)又は式(II)にて算出した、免疫関連細胞の一次繊毛の形成率の値B)を基準として、複数に分類することが可能である。なお、A及びBの値は、複数の試験結果の平均値又は中央値であってもよい。
例えば、Bの値よりもAの値が少し増加している場合には、被験体における一次繊毛数の検出結果は「微増」に分類され、Bの値よりもAの値が大幅に増加している場合には、被験体における一次繊毛数の検出結果は「増加」に分類され、Bの値よりもAの値が少し減少している場合には、被験体における一次繊毛数の検出結果は「微減」に分類され、Bの値よりもAの値が大幅に減少している場合には、被験体における一次繊毛数の検出結果は「減少」に分類され、Bの値とAの値とが略同じである場合には、被験体における一次繊毛数の検出結果は「変化なし」に分類され得る。
なお、「微増」と「増加」とを区別するAの値の臨界値、及び、「微減」と「減少」とを区別するAの値の臨界値は、限定されず、試験される被験体、及び/又は、比較対象に応じて、設定すればよい。
一例として、「B<A<2×B」の場合には、被験体における一次繊毛数の検出結果は「微増」に分類され、「2×B≦A」の場合には、被験体における一次繊毛数の検出結果は「増加」に分類され、「0.5×B<A<B」の場合には、被験体における一次繊毛数の検出結果は「微減」に分類され、「A≦0.5×B」の場合には、被験体における一次繊毛数の検出結果は「減少」に分類され、「A=B」の場合には、被験体における一次繊毛数の検出結果は「変化なし」に分類され得る。
上述した「減少」、「微減」、「変化なし」、「微増」及び「増加」からなる5段階の分類を、「減少」、「変化なし」及び「増加」からなる3段階の分類に、分類し直してもよい。例えば、5段階の分類における「減少」及び「微減」を3段階の分類における「減少」に分類し、5段階の分類における「変化なし」を3段階の分類における「変化なし」に分類し、5段階の分類における「微増」及び「増加」を3段階の分類における「増加」に分類してもよい。また、5段階の分類における「減少」を3段階の分類における「減少」に分類し、5段階の分類における「微減」、「変化なし」及び「微増」を3段階の分類における「変化なし」に分類し、5段階の分類における「増加」を3段階の分類における「増加」に分類してもよい。勿論、本発明は、これらの分類に限定されない。
勿論、上述した分類は例示にすぎず、本発明は、これらの分類に限定されない。分類(例えば、分類の数、分類の閾値)は、試験される被験体、及び/又は、比較対象に応じて、設定することが可能である。例えば、本発明の一実施形態の皮膚疾患の指標の検出方法では、「微増」、「増加」、「微減」、「減少」及び「変化なし」からなる群から選択される少なくとも2つの分類(例えば、「微増」、「増加」及び「変化なし」)を用いることが可能である。
比較対象は、特に限定されず、例えば、被験体とは別の生体から採取された正常な皮膚組織であってもよく、被験体から採取された正常な皮膚組織であってもよい。皮膚疾患の発症リスクをより精度高く判定するという観点から、比較対象は、被験体から採取された正常な皮膚組織であることが好ましい。
〔B-1〕ロリクリン量及び/又はフィラグリン量の検出
本実施の形態の皮膚疾患の指標の検出方法では、皮膚疾患の指標の1つとして、免疫関連細胞におけるロリクリン量、及び/又は、フィラグリン量を検出する。
ロリクリン量及び/又はフィラグリン量の検出は、(a)ロリクリン及び/又はフィラグリンのタンパク質の量を検出することによって行われてもよいし、(b)ロリクリン及び/又はフィラグリンのmRNAの量を検出することによって行われてもよい。皮膚疾患の発症リスクをより精度高く判定するという観点から、ロリクリン及び/又はフィラグリンのタンパク質の量を間接的に検出する(b)の方法よりも、ロリクリン及び/又はフィラグリンのタンパク質の量を直接的に検出する(a)の方法の方が好ましい。
上述した(a)の方法の場合、ロリクリン量及び/又はフィラグリン量の検出は、例えば、公知の免疫組織化学染色法によって行うことができる。具体的に、ロリクリン量及び/又はフィラグリン量の検出は、被験検体含有試料(例えば、被験検体をパラフィン包埋切片化したもの)と、ロリクリンタンパク質、又はフィラグリンタンパク質に対する特異的結合物質(以下、「第3の特異的結合物質」と呼ぶ)とを接触させて、第3の特異的結合物質を被験検体含有試料に含まれるロリクリンタンパク質、又はフィラグリンタンパク質に結合させ、当該第3の特異的結合物質に結合した標識物質を検出することによって行うことができる。なお、被験検体含有試料(例えば、被験検体をパラフィン包埋切片化したもの)の作製方法は、限定されず、公知の方法を用いることができる。
第3の特異的結合物質としては、ロリクリンタンパク質、又はフィラグリンタンパク質に特異的に結合する物質(例えば、抗体(一次抗体))を挙げることができる。当該抗体としては、例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、及びこれら抗体の断片(例えば、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、及び単鎖抗体)を挙げることができる。当該抗体の作製方法は、基本的に上述した「〔A-1〕一次繊毛数の検出」の欄にて説明した方法を用いればよく、当該方法に用いる抗原として、ロリクリンタンパク質、又はフィラグリンタンパク質を用いればよい。
上述した(b)の方法の場合、ロリクリン量及び/又はフィラグリン量の検出は、例えば、公知のin situ hybridizationによって行うことができる。具体的に、ロリクリン量及び/又はフィラグリン量の検出は、被験検体含有試料と、ロリクリンmRNA、又はフィラグリンmRNAとハイブリダイズするプローブとを接触させて、プローブを被験検体含有試料に含まれるロリクリンmRNA、又は、フィラグリンmRNAにハイブリダイズさせ、当該プローブに結合した標識物質を検出することによって行うことができる。なお、被験検体含有試料の作製方法は、限定されず、公知の方法を用いることができる。
標識物質としては、「〔A-1〕一次繊毛数の検出」の欄にて説明した標識物質を用いればよく、標識物質の検出は、「〔A-1〕一次繊毛数の検出」の欄にて説明した方法にしたがって行えばよい。
ロリクリン量及び/又はフィラグリン量は、タンパク質の量、及び/又は、mRNAの量として具体的に検出されてもよいが、これらの量を反映する前記標識物質に由来するシグナル(例えば、蛍光、又は色など)の強度として検出され得る。
〔B-2〕ロリクリン量及び/又はフィラグリン量の検出結果
被験体におけるロリクリン量、又はフィラグリン量の検出結果(例えば、検出された標識物質に由来するシグナルの強度C)は、比較対象におけるロリクリン量、又はフィラグリン量の検出結果(例えば、検出された標識物質に由来するシグナルの強度D)を基準として、複数に分類することが可能である。なお、C及びDの値は、複数の試験結果の平均値又は中央値であってもよい。
例えば、Dの値よりもCの値が少し増加している場合には、ロリクリン量、又はフィラグリン量の検出結果は「微増」に分類され、Dの値よりもCの値が大幅に増加している場合には、被験体におけるロリクリン量、又はフィラグリン量の検出結果は「増加」に分類され、Dの値よりもCの値が少し減少している場合には、被験体におけるロリクリン量、又はフィラグリン量の検出結果は「微減」に分類され、Dの値よりもCの値が大幅に減少している場合には、被験体におけるロリクリン量、又はフィラグリン量の検出結果は「減少」に分類され、Dの値とCの値とが略同じである場合には、被験体におけるロリクリン量、又はフィラグリン量の検出結果は「変化なし」に分類され得る。
なお、「微増」と「増加」とを区別するCの値の臨界値、及び、「微減」と「減少」とを区別するCの値の臨界値は、限定されず、試験される被験体、及び/又は、比較対象に応じて、設定すればよい。
一例として、「D<C<2×D」の場合には、被験体におけるロリクリン量、又はフィラグリン量の検出結果は「微増」に分類され、「2×D≦C」の場合には、被験体におけるロリクリン量、又はフィラグリン量の検出結果は「増加」に分類され、「0.5×D<C<D」の場合には、被験体におけるロリクリン量、又はフィラグリン量の検出結果は「微減」に分類され、「C≦0.5×D」の場合には、被験体におけるロリクリン量、又はフィラグリン量の検出結果は「減少」に分類され、「C=D」の場合には、被験体におけるロリクリン量、又はフィラグリン量の検出結果は「変化なし」に分類され得る。
上述した「減少」、「微減」、「変化なし」、「微増」及び「増加」からなる5段階の分類を、「減少」、「変化なし」及び「増加」からなる3段階の分類に、分類し直してもよい。例えば、5段階の分類における「減少」及び「微減」を3段階の分類における「減少」に分類し、5段階の分類における「変化なし」を3段階の分類における「変化なし」に分類し、5段階の分類における「微増」及び「増加」を3段階の分類における「増加」に分類してもよい。また、5段階の分類における「減少」を3段階の分類における「減少」に分類し、5段階の分類における「微減」、「変化なし」及び「微増」を3段階の分類における「変化なし」に分類し、5段階の分類における「増加」を3段階の分類における「増加」に分類してもよい。勿論、本発明は、これらの分類に限定されない。
勿論、上述した分類は例示にすぎず、本発明は、これらの分類に限定されない。分類(例えば、分類の数、分類の閾値)は、試験される被験体、及び/又は、比較対象に応じて、設定することが可能である。例えば、本発明の一実施形態の皮膚疾患の指標の検出方法では、「微増」、「増加」、「微減」、「減少」及び「変化なし」からなる群から選択される少なくとも2つの分類(例えば、「微減」、「減少」及び「変化なし」)を用いることが可能である。
比較対象は、特に限定されず、例えば、被験体とは別の生体から採取された正常な皮膚組織であってもよく、被験体から採取された正常な皮膚組織であってもよい。皮膚疾患の発症リスクをより精度高く判定するという観点から、比較対象は、被験体から採取された正常な皮膚組織であることが好ましい。
〔C〕皮膚疾患の発症リスクの判定の例
本発明の一実施形態の皮膚疾患の指標の検出方法では、一次繊毛数と、ロリクリン量及び/又はフィラグリン量とに基づいて、皮膚疾患の発症リスクを判定することができる。より具体的に、本発明の一実施形態の皮膚疾患の指標の検出方法では、前記「〔A-2〕一次繊毛数の検出結果」の欄にて説明した一次繊毛数に基づく分類と、前記「〔B-2〕ロリクリン量及び/又はフィラグリン量の検出結果」の欄にて説明したロリクリン量及び/又はフィラグリン量に基づく分類とに基づいて、皮膚疾患の発症リスクを判定することができる。
例えば、「〔A-2〕一次繊毛数の検出結果」の欄にて説明したように、被験体における一次繊毛数の検出結果を5種類に分類することができる。また、「〔B-2〕ロリクリン量及び/又はフィラグリン量の検出結果」の欄にて説明したように、被験体におけるロリクリン量の検出結果を5種類に分類することができ、被験体におけるフィラグリン量の検出結果を5種類に分類することができる。
本発明の一実施形態の皮膚疾患の指標の検出方法が、(i)一次繊毛数と、(ii)ロリクリン量と、を検出する工程を含む場合には、一例として、25種類(=5×5)、15種類(=5×3)、又は9種類(=3×3)の皮膚疾患の指標を提供することができる。本発明の一実施形態の皮膚疾患の指標の検出方法が、(i)一次繊毛数と、(ii)フィラグリン量と、を検出する工程を含む場合には、一例として、25種類(=5×5)、15種類(=5×3)、又は9種類(=3×3)の皮膚疾患の指標を提供することができる。本発明の一実施形態の皮膚疾患の指標の検出方法が、(i)一次繊毛数と、(ii)ロリクリン量及びフィラグリン量と、を検出する工程を含む場合には、一例として、125種類(=5×5×5)、45種類(=5×3×3)、又は27種類(=3×3×3)の皮膚疾患の指標を提供することができる。
これらの指標は、皮膚疾患の重症度の指標として利用することも可能であり、皮膚疾患の種類の指標として利用することも可能である。
例えば、前記「〔A-2〕一次繊毛数の検出結果」の欄にて説明した一次繊毛数に基づく分類と、前記「〔B-2〕ロリクリン量及び/又はフィラグリン量の検出結果」の欄にて説明したロリクリン量及び/又はフィラグリン量に基づく分類とが、表1に示す組み合わせの場合には、表1に示す特定の皮膚疾患の発症リスクが高いと判定することができる。なお、表1において「-」は、特定の皮膚疾患の発症リスクとの関連性について未検討であることを示している。
表1に示した皮膚疾患は、あくまでも例示に過ぎず、本発明は、これらの皮膚疾患に限定されない。
〔2.評価方法〕
本発明の一実施形態の評価方法は、被験試料が皮膚疾患に対する抑制作用を有する物質であるか否かを評価する評価方法であって、皮膚疾患を罹患した被験体から採取された免疫関連細胞に被験試料を接触させる工程と、前記被験試料を接触させた免疫関連細胞における(i)一次繊毛数と、(ii)ロリクリン量及び/又はフィラグリン量を検出する工程と、を有する。
上述したように、本発明の一実施形態の評価方法は、皮膚疾患を罹患した被験体から採取された免疫関連細胞に被験試料を接触させる工程を有する。
前記皮膚疾患は、特に限定されず、例えば、アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、膿疱性乾癬、掌蹠膿疱症、尋常性魚鱗癬、紅斑性角化症局面、及びロリクリン角化症を挙げることができる。比較的症状が重く、各疾患に適した治療が必要であるという観点から、皮膚疾患は、アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、膿疱性乾癬、及び掌蹠膿疱症が好ましい。
前記被験体は、特に限定されず、例えば、ヒト、及び非ヒト動物を挙げることができる。非ヒト動物は、特に限定されず、例えば、実験動物、愛玩動物、及び家畜を挙げることができ、より具体的に、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、及びウマを挙げることができる。前記被験体は、上述したヒト、又は非ヒト動物から採取された組織(例えば、皮膚組織)であってもよい。
前記免疫関連細胞には、免疫反応を主に担当する免疫細胞と、免疫細胞に間接的に関与する免疫機能保有細胞とが包含される。免疫機能保有細胞は、例えば、免疫細胞を活性化させる機能を有している。免疫細胞としては、例えば、皮膚樹状細胞(例えば、ランゲルハンス細胞、真皮樹状細胞など)、リンパ球系の免疫細胞(例えば、T細胞、NK細胞、B細胞など)、及び単球系の免疫細胞(例えば、通常型樹状細胞、単球系樹状細胞(例えば、形質細胞様樹状細胞))を挙げることができる。一方、免疫機能保有細胞としては、例えば、ケラチノサイト、繊維芽細胞、及び上皮細胞を挙げることができる。皮膚疾患の発症リスクをより精度高く判定するという観点から、免疫細胞としては、ケラチノサイトが好ましい。
前記被験試料は、特に限定されず、例えば、無機化合物、有機化合物、植物抽出物、微生物抽出物、及び各種細胞の培養上清を挙げることができる。被験試料は、そのままの状態にて用いられてもよく、溶媒に溶解された状態にて用いられてもよい。当該溶媒としては、例えば、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、及び水を挙げることができる。
免疫関連細胞に被験試料を接触させる工程では、免疫関連細胞に被験試料を接触させた後、当該免疫関連細胞を、所望の時間、培養することが可能である。なお、当該培養の間、免疫関連細胞と被験試料とは接触していなくてもよいし、免疫関連細胞と被験試料とは接触していてもよい。なお、培養時間は、特に限定されず、1日~3日であってもよく、1日~7日であってもよく、7日以上であってもよい。
上述したように、本発明の一実施形態の評価方法は、被験試料を接触させた免疫関連細胞における(i)一次繊毛数と、(ii)ロリクリン量及び/又はフィラグリン量を検出する工程を有する。一次繊毛数の検出方法と、ロリクリン量及び/又はフィラグリン量の検出方法とは、上述した〔1.皮膚疾患の指標の検出方法〕の欄にて既に説明したので、ここでは、その説明を省略する。
本発明の一実施形態の評価方法は、被験試料を接触させた免疫関連細胞における(i)一次繊毛数と、(ii)ロリクリン量及び/又はフィラグリン量を検出する工程の後に、検出結果に基づいて、被験試料が皮膚疾患に対する抑制作用を有する物質であるか否かを評価する工程を有していてもよい。
皮膚疾患を罹患した被験体から採取された免疫関連細胞の(i)一次繊毛数と、(ii)ロリクリン量及び/又はフィラグリン量とは、正常な被験体から採取された免疫関連細の(i)一次繊毛数と、(ii)ロリクリン量及び/又はフィラグリン量とは、異なる値を示す。評価する工程では、皮膚疾患を罹患した被験体から採取された免疫関連細胞に被験試料を接触させることによって、当該免疫関連細胞の(i)一次繊毛数と、(ii)ロリクリン量及び/又はフィラグリン量とが、正常な被験体から採取された免疫関連細の(i)一次繊毛数と、(ii)ロリクリン量及び/又はフィラグリン量に近づけば、当該被験試料は皮膚疾患に対する抑制作用を有する物質であると判定することができる。
例えば、皮膚疾患を罹患した被験体から採取された免疫関連細胞における一次繊毛数の検出結果(例えば、式(I)又は式(II)にて算出した、免疫関連細胞の一次繊毛の形成率の値A)は、正常な被験体から採取された免疫関連細胞における一次繊毛数の検出結果(例えば、式(I)又は式(II)にて算出した、免疫関連細胞の一次繊毛の形成率の値B)を基準として、複数に分類(例えば、「微増」、「増加」、「微減」、「減少」又は「変化なし」)することが可能である。
また、皮膚疾患を罹患した被験体から採取された免疫関連細胞におけるロリクリン量及び又はフィラグリン量の検出結果(例えば、検出された標識物質に由来するシグナルの強度C)は、正常な被験体から採取された免疫関連細胞におけるロリクリン量及び又はフィラグリン量の検出結果(例えば、検出された標識物質に由来するシグナルの強度D)を基準として、複数に分類(例えば、「微増」、「増加」、「微減」、「減少」又は「変化なし」)することが可能である。
評価する工程では、被験試料を接触させる前に「微増」、「増加」、「微減」又は「減少」に分類されていた検出結果((i)値A、並びに、(ii)ロリクリン量に関する強度C、及び/又は、フィラグリン量に関する強度C)が、被験試料を接触させた後に「変化なし」に分類される検出結果に近づいた場合に、被験試料が皮膚疾患に対する抑制作用を有する物質であると判定することができる。また、評価する工程では、被験試料を接触させる前に「微増」、「増加」、「微減」又は「減少」に分類されていた検出結果((i)値A、並びに、(ii)ロリクリン量に関する強度C、及び又は、フィラグリン量に関する強度C)が、被験試料を接触させた後に「変化なし」に分類される検出結果により近づいた場合に、被験試料が皮膚疾患に対するより強い抑制作用を有する物質であると判定することができる。
〔3.ロリクリン量及び/又はフィラグリン量の増加剤〕
後述する実施例にて実証しているように、皮膚疾患を患うと、免疫関連細胞における一次繊毛数が増加する傾向を示す。更に、後述する実施例にて実証しているように、免疫関連細胞における一次繊毛数が増加すると、ロリクリン量及び/又はフィラグリン量が減少する傾向を示す。このことは、一次繊毛を有する免疫関連細胞から一次繊毛を除去する作用を有する一次繊毛除去作用物質が、ロリクリン量及び/又はフィラグリン量を増加させ得ることを示唆している。
本発明の一実施形態のロリクリン量及び/又はフィラグリン量の増加剤は、一次繊毛を有する免疫関連細胞から一次繊毛を除去する作用を有する一次繊毛除去作用物質を有効成分として含有している。
一次繊毛除去作用物質としては、特に限定されず、例えば、ステロイド剤、及び生理活性物質を挙げることができる。
ステロイド剤としては、例えば、コルチゾン系ステロイド剤(例えば、コルチゾン、酢酸コルチゾン)、ヒドロコルチゾン系ステロイド剤(例えば、ヒドロコルチゾン、リン酸ヒドロコルチゾンナトリウム、コハク酸ヒドロコルチゾンナトリウム、酢酸ヒドロコルチゾン、酪酸ヒドロコルチゾン、酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン)、デキサメタゾン系ステロイド剤(例えば、デキサメタゾン、プロピオン酸デキサメタゾン、吉草酸デキサメタゾン、酢酸デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、パルミチン酸デキサメタゾン)、ベタメゾン系ステロイド剤(例えば、ベタメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、酪酸プロピオン酸ベタメタゾン、吉草酸ベタメタゾン)、プレドニゾロン系ステロイド剤(例えば、プレドニゾロン、酢酸プレドニゾロン、コハク酸プレドニゾロンナトリウム、ブチル酢酸プレドニゾロン、リン酸プレドニゾロンナトリウム)、メチルプレドニゾロン系ステロイド剤(例えば、メチルプレドニゾロン、酢酸メチルプレドニゾロン、コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム、メチルプレドニゾロンナトリウムスクシネート)、及びトリアムシノロン系ステロイド剤(例えば、トリアムシノロン、酢酸トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド)が挙げられる。生理活性物質としては、例えば、腫瘍壊死因子α(TNFα)、及びプロスタグランジンE2が挙げられる。
一次繊毛除去作用物質は、溶媒和物を形成していてもよい。溶媒和物としては、例えば、水和物、エタノール付加物、ジメチルスルホキシド付加物が挙げられる。
本発明の一実施形態のロリクリン量及び/又はフィラグリン量の増加剤は、有効成分以外の成分を含有していてもよい。当該有効成分以外の成分としては、特に限定されないが、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、防腐剤、抗酸化剤、高分子量重合体、賦形剤、担体、希釈剤、溶媒、可溶化剤、安定剤、充填剤、結合剤、界面活性剤、安定化剤等が挙げられる。
本発明の一実施形態のロリクリン量及び/又はフィラグリン量の増加剤に含有されている有効成分の量は、特に限定されず、例えば、増加剤を100重量%とした場合に、0.001重量%~100重量%であってもよく、0.01重量%~100重量%であってもよく、0.1重量%~100重量%であってもよく、0.1重量%~95重量%であってもよく、0.1重量%~90重量%であってもよく、0.1重量%~80重量%であってもよく、0.1重量%~70重量%であってもよく、0.1重量%~60重量%であってもよく、0.1重量%~50重量%であってもよく、0.1重量%~40重量%であってもよく、0.1重量%~30重量%であってもよく、0.1重量%~20重量%であってもよく、0.1重量%~10重量%であってもよい。
本発明の一実施形態のロリクリン量及び/又はフィラグリン量の増加剤に含有されている有効成分以外の量は、特に限定されず、例えば、増加剤を100重量%とした場合に、0重量%~99.999重量%であってもよく、0重量%~99.99重量%であってもよく、0重量%~99.9重量%であってもよく、5重量%~99.9重量%であってもよく、10重量%~99.9重量%であってもよく、20重量%~99.9重量%であってもよく、30重量%~99.9重量%であってもよく、40重量%~99.9重量%であってもよく、50重量%~99.9重量%であってもよく、60重量%~99.9重量%であってもよく、70重量%~99.9重量%であってもよく、80重量%~99.9重量%であってもよく、90重量%~99.9重量%であってもよい。
本発明の一実施形態のロリクリン量及び/又はフィラグリン量の増加剤に含有されている有効成分の量は、例えば、増加剤を100重量%とした場合に、下限値が0.000001重量%以上、又は0.0001重量%以上であり、上限値が5重量%以下、又は1重量%以下であってもよい。当該構成であれば、十分にロリクリン量及び/又はフィラグリン量を増加させることができるのみならず、正常細胞に対する負荷を低減することができる。
〔4.皮膚疾患の検査キット〕
本発明の一態様に係る皮膚疾患の検査キットは、(i)一次繊毛に対する特異的結合物質と、(ii)ロリクリンに対する特異的結合物質及び/又はフィラグリンに対する特異的結合物質と、を備えている。本検査キットは、上述した皮膚疾患の検出方法のために使用し得る。
本発明の一態様に係る皮膚疾患の検査キットは、一次繊毛に対する特異的結合物質と、ロリクリンに対する特異的結合物質及び/又はフィラグリンに対する特異的結合物質と、を備えているので、被験体から採取された免疫関連細胞における一次繊毛数と、ロリクリン量及び/又はフィラグリン量と、を迅速かつ容易に調べることができる。したがって、本発明の一態様に係る皮膚疾患の検査キットによれば、皮膚疾患を迅速かつ容易に検査することができる。
一次繊毛に対する特異的結合物質としては、例えば、上述した「〔A-1〕一次繊毛数の検出」の欄にて説明した「第1の特異的結合物質」を挙げることができる。当該第1の特異的結合物質は、標識物質と複合化されていてもよく、標識物質と複合化されていなくてもよい。当該第1の特異的物質の具体的な構成については既に説明したので、ここではその説明を省略する。
第1の特異的結合物質が標識物質と複合化されていない場合、本発明の一態様に係る皮膚疾患の検査キットは、第1の特異的結合物質に対する特異的結合物質(第2の特異的結合物質)を備え得る。そして、当該第2の特異的結合物質が、標識物質と複合化され得る。
ロリクリンに対する特異的結合物質及びフィラグリンに対する特異的結合物質としては、例えば、上述した「〔B-1〕ロリクリン量及び/又はフィラグリン量の検出」の欄にて説明した「第3の特異的結合物質」を挙げることができる。当該第3の特異的結合物質は、例えば、ロリクリンタンパク質、又はフィラグリンタンパク質に対する特異的結合物質であってもよく、ロリクリンmRNA、又はフィラグリンmRNAとハイブリダイズするプローブであってもよい。当該第3の特異的結合物質は、標識物質と複合化されていてもよく、標識物質と複合化されていなくてもよい。当該第3の特異的物質の具体的な構成については既に説明したので、ここではその説明を省略する。
第3の特異的結合物質が標識物質と複合化されていない場合、本発明の一態様に係る皮膚疾患の検査キットは、第3の特異的結合物質に対する特異的結合物質(第4の特異的結合物質)を備え得る。そして、当該第4の特異的結合物質が、標識物質と複合化され得る。
本発明の一態様に係る皮膚疾患の検査キットは、免疫関連細胞の種類を同定するための同定試薬;検査に用いられる試料の調製用の試薬(例えば、固定液、洗浄液、ブロッキング剤など);及び/又は、結合反応用緩衝液を備えていてもよい。
同定試薬としては、例えば、免疫関連細胞の種類に応じたマーカーに対する抗体(例えば、抗CD1a抗体、抗CD14抗体、抗CD3抗体、抗CD20抗体、抗CD4抗体、抗CD8抗体、抗CD56抗体、抗ランゲリン抗体、抗CD205抗体、抗CD11C抗体、抗CD123抗体、及び抗HLA-DR抗体)を挙げることができる。免疫関連細胞の種類に応じたマーカーとしては、例えば、ランゲルハンス細胞マーカー(例えば、ランゲリン(CD207)、CD1a、及びCD205)及び単球系樹状細胞マーカー(例えば、CD11c、CD123、及びHLA-DR)を挙げることができる。
また、同定試薬としては、例えば、免疫機能保有細胞の種類に応じたマーカーに対する抗体(例えば、抗ケラチン1抗体、抗ケラチン10抗体、抗インボルクリン抗体、抗α平滑筋アクチン抗体、抗ビメンチン抗体、抗サイトケラチン抗体、及び抗E-カドヘリン抗体)を挙げることができる。免疫機能保有細胞の種類に応じたマーカーとしては、例えば、ケラチノサイトマーカー(例えば、ケラチン1、ケラチン10、及びインボルクリン)、繊維芽細胞マーカー(例えば、α平滑筋アクチン、及びビメンチン)、及び上皮細胞マーカー(例えば、サイトケラチン、及びE-カドヘリン)を挙げることができる。
固定液としては、例えば、アセトン、メタノール、アセトンとメタノールとの混合液、ホルムアルデヒド水溶液、ホルムアルデヒドを含有するリン酸緩衝液、パラホルムアルデヒド水溶液、パラホルムアルデヒドを含有するリン酸緩衝生理食塩水、及びパラホルムアルデヒドを含有するリン酸緩衝液を挙げることができる。
洗浄液としては、例えば、リン酸緩衝生理食塩水を挙げることができる。ブロッキング剤としては、例えば、アルブミンを含有するリン酸緩衝生理食塩水、アルブミンを含有するリン酸緩衝液、及びアルブミンと界面活性剤とを含有するリン酸緩衝生理食塩水を挙げることができる。
第1の特異的結合物質、及び第3の特異的結合物質は、グリセロール、エチレングリコール、ウシ血清アルブミン、2-メルカプトエタノール、ジチオスレイトール、及びエチレンジアミン四酢酸からなる群から選択される少なくとも1つの安定化剤を含む緩衝液が入った容器中に封入されていてもよく、乾燥された状態にて容器中に封入されていてもよい。当該緩衝液としては、第1の特異的結合物質、及び第3の特異的結合物質が安定して存在し得るpHを有する緩衝液を挙げることができる。上述した同定試薬、固定液、洗浄液、及びブロッキング剤は、通常、第1の特異的結合物質及び/又は第3の特異的結合物質を封入する容器とは別の容器中に封入され得る。
本発明の一態様に係る皮膚疾患の検査キットは、皮膚疾患の発症リスクの判定の例を示した判定表を備えていてもよい。当該構成によれば、客観的かつ定量的に、皮膚疾患の発症リスクを判定することができる。判定表に示されるデータとしては、例えば、上述した「〔C〕皮膚疾患の発症リスクの判定の例」の欄にて例示した表に示されるデータを挙げることができる。なお、判定表の形態は、特に限定されず、例えば、データが印刷された紙の形態であってもよいし、データが保存された記録媒体(例えば、ROM(Read Only Memory)、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路)の形態であってもよい。
本発明の一態様に係る皮膚疾患の検査キットは、一次繊毛に対する特異的結合物質と、ロリクリンに対する特異的結合物質及び/又はフィラグリンに対する特異的結合物質と、を備えているので、皮膚疾患を迅速かつ容易に検査することができる。したがって、本発明の一態様に係る皮膚疾患の検査キットは、皮膚疾患抑制薬又は皮膚疾患治療薬の開発;検査機関又は医療機関の検査部などにおける皮膚疾患の検査;医療機関における医師による皮膚疾患の診断などに用いられ得る。
<1.皮膚疾患と一次繊毛数との関係の検討>
様々な皮膚疾患(アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、膿疱性乾癬、又は掌蹠膿疱症)を患っている患者の病変部に由来する皮膚生検のパラフィン包埋サンプル、及び、当該患者の正常部に由来する皮膚生検のパラフィン包埋サンプルを、キシレンを用いて脱パラフィン化した。
脱パラフィン化されたサンプルを浸す溶液を、100%エタノールから精製水に変更することによって、サンプルに対して徐々に加水した。当該サンプルを15分間煮沸することによって、サンプル中に含まれる抗原の賦活化を行った。
当該サンプルを、ブロッキング処理、及び透過処理を行うための溶液中でインキュベーションすることによって、当該サンプルに対して、ブロッキング処理、及び透過処理を施した。
当該サンプルと、抗チューブリン抗体〔シグマ-アルドリッチ社製、商品名:MONOCLONAL ANTI-ACETYLATED TUBULIN CLONE 6-11B-1、品番:T6793〕とを、一晩4℃にて反応させた。
反応後のサンプルを、界面活性剤含有PBS溶液を用いて洗浄した。洗浄後のサンプルと、蛍光色素にて標識された抗マウスIgG抗体〔アブカム社製、商品名:Goat Anti-Mouse IgG H&L(蛍光色素:Alexa Fluor(登録商標)488、カタログナンバー:ab150113)〕と、核染色剤Hoechst 33342〔サーモフィッシャー社製、商品名:Hoechst 33342, Trihydrochloride, Trihydrate - 10 mg/mL Solution in Water、品番:H3570〕とを、室温(25℃)にて1時間反応させることによって、サンプルを染色した。染色後のサンプルを、界面活性剤含有PBS溶液を用いて洗浄した。
洗浄後のサンプルを、褪色防止用封入剤〔サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック(株)製、商品名:ProLong(登録商標) Gold褪色防止用封入剤、品番:P36934〕の中に封入した。共焦点顕微鏡〔オリンパス(株)製、品番:FV1200〕を用いて、サンプルに含まれる細胞核、及び一次繊毛マーカーを検出することによって、各サンプルに含まれる一次繊毛を有する細胞を観察した。
各サンプルについて、表皮の基底部周辺、有棘層周辺、及び角質層周辺を含む範囲の画像を5枚取得し、画像中に含まれる細胞核の数と一次繊毛の数をそれぞれ測定した。その後、式(Ia)にしたがって、表皮を構成する細胞の一次繊毛の形成率を算出した;
[一次繊毛の形成率]=[画像中の一次繊毛の数]/[画像中の全細胞核数]×100
・・・・・(Ia)。
図1に試験結果を示す。図1に示すように、正常部のサンプルにおける一次繊毛を有している細胞の割合を基準として、(i)掌蹠膿疱症を患っている患者の病変部のサンプルにおける一次繊毛を有している細胞の割合は「微増」しており、(ii)アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、又は膿疱性乾癬を患っている患者の病変部のサンプルにおける一次繊毛を有している細胞の割合は「増加」していた。
より具体的に、正常部のサンプル、掌蹠膿疱症を患っている患者の病変部のサンプル、アトピー性皮膚炎を患っている患者の病変部のサンプル、尋常性乾癬を患っている患者の病変部のサンプル、膿疱性乾癬を患っている患者の病変部のサンプルの各々における、一次繊毛を有している細胞の割合の中央値は、各々、1.25%、4.46%、12.64%、7.67%、及び7.02%であった。
<2.皮膚疾患とロリクリン量及び/又はフィラグリン量との関係の検討>
<2-1.ロリクリン、及びフィラグリンの染色>
本試験では、アトピー性皮膚炎を患っている患者の病変部に由来する皮膚生検のパラフィン包埋サンプルを用いて、免疫関連細胞を含む皮膚組織中のロリクリン及びフィラグリンの染色を行った。目視にて、標準的なロリクリンの染色強度を有する皮膚組織Aと、ロリクリンの染色強度が減少している皮膚組織Bと、標準的なフィラグリンの染色強度を有する皮膚組織Cと、フィラグリンの染色強度が減少している皮膚組織Dとを分類した。
アトピー性皮膚炎を患っている患者の病変部に由来する皮膚生検のパラフィン包埋サンプルを、風乾させた。
風乾されたサンプルを、4℃にて15分間、氷冷アセトン中に浸し、当該サンプルを固定化した。
固定化されたサンプルを風乾した後、当該サンプルを、PBS(phosphate-buffered saline)にて洗浄し、次いで、ブロッキング剤を含むPBSを用いてブロッキングした。
ブロッキングされたサンプルと、ブロッキング剤を含むPBSに溶解された抗ロリクリン抗体〔アブカム社製、商品名;Anti-Loricrin抗体、カタログナンバー:ab85679〕とを、4℃にて一晩反応させた。
また、ブロッキングされたサンプルと、ブロッキング剤を含むPBSに溶解された抗フィラグリン抗体〔アブカム社製、商品名;Anti-Filaggrin、カタログナンバー:ab81468〕とを、4℃にて一晩反応させた。
抗ロリクリン抗体と反応させたサンプル、又は抗フィラグリン抗体と反応させたサンプルをPBSにて洗浄した後、各サンプルと、ブロッキング剤を含むPBSに溶解された、蛍光色素にて標識された抗ウサギIgG抗体〔インビトロジェン社製、商品名:Goat Anti-Rabbit IgG H&L(蛍光色素:Goat anti-Rabbit IgG (H+L) Cross-Absorbed Secondary Antibody, Alexa Fluor 488、カタログナンバー:A11008)〕とを、37℃にて30分間反応させることによって、サンプルを染色した。
各サンプルをPBSにて洗浄した後、洗浄後のサンプルを、核染色剤を含む封入剤〔ベクターラボラトリーズ社製、商品名;VECTASHIELD Mounting Medium with DAPI、カタログナンバー;H-1200〕を用いて封入した。
共焦点顕微鏡〔オリンパス(株)製、品番:FV1200〕を用いて染色されたサンプルを観察し、標準的なロリクリンの染色強度を有する皮膚組織Aと、ロリクリンの染色強度が減少している皮膚組織Bとを分類した。
アトピー性皮膚炎を患っている10人の患者の病変部に由来する皮膚生検のパラフィン包埋サンプルを用いて、皮膚組織Aと皮膚組織Bとを分類した結果、5サンプルが免皮膚組織Bに分類された。
共焦点顕微鏡〔オリンパス(株)製、品番:FV1200〕を用いて染色されたサンプルを観察し、標準的なフィラグリンの染色強度を有する皮膚組織Cと、フィラグリンの染色強度が減少している皮膚組織Dとを分類した。
アトピー性皮膚炎を患っている10人の患者の病変部に由来する皮膚生検のパラフィン包埋サンプルを用いて、皮膚組織Cと皮膚組織Dとを分類した結果、4サンプルが皮膚組織Dに分類された。
<2-2.一次繊毛の染色>
上述のように分類された皮膚組織A、皮膚組織B、皮膚組織C、及び皮膚組織Dの各々について、<2-1>の試験とは別に、一次繊毛の染色を行った。なお、一次繊毛の染色方法は、<1.皮膚疾患と一次繊毛数との関係の検討>の欄にて説明した方法にしたがった。
共焦点顕微鏡〔オリンパス(株)製、品番:FV1200〕を用いて染色されたサンプルを観察し、(A)皮膚組織A、皮膚組織B、皮膚組織C、及び皮膚組織Dの各々に含まれる免疫関連細胞の全数、及び、(B)皮膚組織A、皮膚組織B、皮膚組織C、及び皮膚組織Dの各々に含まれる一次繊毛を有する免疫関連細胞の数を計測した。
当該計測値に基づいて、(i)皮膚組織Aに含まれる免疫関連細胞の全数に対する、一次繊毛を有する免疫関連細胞の数の比率、(ii)皮膚組織Bに含まれる免疫関連細胞の全数に対する、一次繊毛を有する免疫関連細胞の数の比率、(iii)皮膚組織Cに含まれる免疫関連細胞の全数に対する、一次繊毛を有する免疫関連細胞の数の比率、及び、(iv)皮膚組織Dに含まれる免疫関連細胞の全数に対する、一次繊毛を有する免疫関連細胞の数の比率を算出した。
前記(i)の結果を図2(a)の左側に示し、前記(ii)の結果を図2(a)の右側に示す。図2(a)から、アトピー性皮膚炎を患う患者の免疫関連細胞では、ロリクリン量が減少している患者ほど一次繊毛の増加率が高いこと、すなわちロリクリンの減少と一次繊毛の増加に相関があることが明らかになった。
前記(iii)の結果を図2(b)の左側に示し、前記(iv)の結果を図2(b)の右側に示す。図2(b)から、アトピー性皮膚炎を患う患者の免疫関連細胞では、フィラグリン量の減少と一次繊毛の増加率とは相関がないことが明らかになった。
<3.ケラチノサイトの分化状態に関する検討>
ロリクリン、及びフィラグリンは、表皮の最外層である角質層の近傍に存在する、分化が進んだケラチノサイトによって生産され、角質層の形成に重要な役割を担っている。本発明者は、皮膚疾患を患っている患者の病変部におけるロリクリン及び/又はフィラグリンの発現量の異常は、ケラチノサイトの分化異常と関連しているとの独自の仮説を立て、当該仮説の正否を検討した。
皮膚疾患(アトピー性皮膚炎)を患っている患者の病変部に由来する皮膚生検のパラフィン包埋サンプル、及び、当該患者の正常部に由来する皮膚生検のパラフィン包埋サンプルを、キシレンを用いて脱パラフィン化した。
脱パラフィン化されたサンプルを浸す溶液を、100%エタノールから精製水に変更することによって、サンプルに対して徐々に加水した。当該サンプルを15分間煮沸することによって、サンプル中に含まれる抗原の賦活化を行った。
当該サンプルを、ブロッキング処理、及び透過処理を行うための溶液中でインキュベーションすることによって、当該サンプルに対して、ブロッキング処理、及び透過処理を施した。
当該サンプルと、抗ケラチン14抗体〔アブカム社製、商品名:Ms mAb to Cytokeratin 14〔LL002〕、品番:ab7800〕とを、一晩4℃にて反応させた。
反応後のサンプルを、界面活性剤含有PBS溶液を用いて洗浄した。洗浄後のサンプルと、蛍光色素にて標識された抗マウスIgG抗体〔アブカム社製、商品名:Goat Anti-Mouse IgG H&L(蛍光色素:Alexa Fluor(登録商標)488、カタログナンバー:ab150113)〕と、核染色剤Hoechst 33342〔サーモフィッシャー社製、商品名:Hoechst 33342, Trihydrochloride, Trihydrate - 10 mg/mL Solution in Water、品番:H3570〕とを、室温(25℃)にて1時間反応させることによって、サンプルを染色した。染色後の各サンプルを、界面活性剤含有PBS溶液を用いて洗浄した。
洗浄後のサンプルを、褪色防止用封入剤〔サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック(株)製、商品名:ProLong(登録商標) Gold褪色防止用封入剤、品番:P36934〕の中に封入した。共焦点顕微鏡〔オリンパス(株)製、品番:FV1200〕を用いて、サンプルに含まれるK14陽性細胞を検出することによって、サンプルに含まれる未成熟なケラチノサイト(換言すれば、K14陽性細胞)を観察した。
図3(a)及び図3(b)に試験結果を示す。なお、図3(a)及び図3(b)の各々において、左側の像は、蛍光染色した像をグレースケールに変換した像であり、右側の像は、蛍光染色した像を白黒に変換した像である。
図3(a)に示すように、正常部のサンプルでは、基底層周辺にK14陽性細胞が多く存在するが、基底層周辺から角質層に向かって、徐々にK14陽性細胞が減少した。このことは、正常な皮膚組織では、基底層周辺から角質層に向かって移動するにしたがって、ケラチノサイトの分化が進むことを示している。一方、図3(b)に示すように、病変部のサンプルでは、角質層においてもK14陽性細胞が多く存在した。このことは、皮膚疾患を患っている皮膚組織では、基底層周辺から角質層への移動に伴うケラチノサイトの分化が進まず、角質層においても未分化なケラチノサイトが多く存在することを示している。
つまり、皮膚疾患を患っている患者の病変部におけるロリクリン及び/又はフィラグリンの発現量の異常は、ケラチノサイトの分化異常と関連しているとの発明者の仮説が正しいことが実証された。