JP7285482B2 - 法枠形成具及び法枠形成方法 - Google Patents

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Description

本発明は、例えば、法枠の形成に用いられる法枠形成具及び法枠形成方法に関する。
近年、我が国において多発している法面表層の崩壊を防止する工法としては、法面上に金属製の型枠を設置し、この型枠にモルタルコンクリートを吹き付けて行う吹付法枠工法が一般的である。しかし、その施工には熟練が不可欠であるところ、熟練工の高齢化や労働者不足等の問題により、施工自体が年々難しくなってきているのが実情である。
そのため、従来の吹付法枠工法に代わり得る工法が求められている。その工法の一つとして、本出願人は、セメント流動物を筒状体(布製型枠)に流し込んで法枠を形成する工法を提案している(特許文献1参照)。この工法では、転落等の危険を伴う法面上でのモルタルコンクリートの吹き付けという比較的高度な作業を不要とすることができる。
特開2018-59336号公報
ところで、上記工法によって形成する法枠の強度向上を図るために、筒状体内に引張材を配することが考えられるが、単に筒状体内に引張材を挿入しておくだけでは、引張材がその機能を十分に発揮しない恐れがある。
本発明は上述の事柄に留意してなされたもので、その目的は、法枠の構築の簡易化と強度向上との両立を図ることのできる法枠形成具及び法枠形成方法を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明に係る法枠形成具は、セメント流動物を流通させるための流路部を有する型枠と、前記流路部内に装填される引張材と、前記流路部内に配され、前記引張材を浮設保持する保持体とを具備し、前記保持体は、前記流路部の長手方向に延びる長尺状を呈し、シート状に形成した前記保持体を前記引張材に巻き付けてある(請求項1)。
上記法枠形成具において、前記保持体は、セメント流動物の通過を妨げない部分を有していてもよい(請求項2)。また、前記引張材はチェーンであってもよ(請求項3)。
一方、上記目的を達成するために、本発明に係る法枠形成方法は、請求項1~の何れか一項に記載の法枠形成具の前記型枠内にセメントを充填して法枠を形成する(請求項)。
本願発明では、法枠の構築の簡易化と強度向上との両立を図ることのできる法枠形成具及び法枠形成方法が得られる。
すなわち、本願の各請求項に係る発明の法枠形成具では、保持体によって引張材を所定の有効高さに浮設保持するようにすれば、この引張材が芯材として確実に機能し、この法枠形成具によって構築される法枠の強度の向上を図ることができる。
また、本発明の法枠形成具では、法枠の流路部にセメント流動物を流し込むようにすることにより、転落等の危険を伴う法面上でのモルタルコンクリートの吹き付けという比較的高度な作業を不要とすることができる上、流路部に引張材及び保持体を挿入しておくだけで、引張材を浮設保持させることができ、その作業性の簡便化をも図ることができる。
請求項2に係る発明の法枠形成具では、保持体にセメント流動物の通過を妨げない部分を設けることにより、流路部内に配され、引張材を浮設保持する状態の保持体が、流路部内に注入されるセメント流動物の流れをそれだけ妨げないことになり、さらには、流路部内にセメント流動物で満たされない空間(部分)をそれだけ形成しないことになるので、法枠の施工効率及び強度の両方の向上に資するものとなる。
本発明の一実施の形態に係る法枠形成具及び法枠形成方法によって形成した法枠の構成を概略的に示す斜視図である。 前記法枠形成具の構成を概略的に示す分解斜視図である。 (A)~(F)はそれぞれ前記法枠形成具の要部の具体例の構成を概略的に示す斜視図である。 前記型枠の変形例の構成を概略的に示す説明図である。 前記法枠の変形例の構成を概略的に示す斜視図である。
本発明の実施の形態について図面を参照しながら以下に説明する。
図1に示す法枠1は、図2に示す法枠形成具2を用いて法面N上に構築されるものである。
すなわち、図2に示す法枠形成具2は、セメント流動物を流通させるための流路部3を有する布製型枠(型枠の一例)4と、流路部3内に装填される引張材5と、流路部3内に配され、引張材5を浮設保持する保持体6と、布製型枠4が片面に装着される植生マット7とを具備する。
そして、図1に示すように、複数の法枠形成具2を法面N上に縦横に並べ、布製型枠4どうし、引張材5どうしを接続した状態で、全ての法枠形成具2の布製型枠4の内部にセメント流動物を注入し、法枠1を構築する。
以下、法枠形成具2の具体的な構成について、図2を参照しながら説明する。
布製型枠4は、流路部3として、法枠形成具2(植生マット7)の長手方向に延びる縦流路部3Aと、この縦流路部3Aに連通する状態でこの縦流路部3Aに直交する方向に延びる二つの横流路部3Bとを有し、二つの横流路部3Bは、縦流路部3Aの長手方向に離れた位置において互いに平行に、かつ、縦流路部3Aを横断するように延びている。
この布製型枠4は、水(又は空気)を通過させ、セメント粒子を通過させない目合いを有する織布によって構成する。その織布には、炭素繊維等、引張強度の強い繊維を使用し、セメント粒径が20μmであるのに対して、概ね0.001μm(1nm)の目合い(セメント粒径の約1/20000の大きさの目合い)を有する織布を用いるのが好ましい。
引張材5は、法枠1(図1参照)の芯材としてその強度向上のために用いるものであり、法面Nの凹凸に沿わせて法枠1を構築する関係上、この引張材5に柔軟性をもたせ、法面N上での引張材5の湾曲・屈曲作業を不要とするのが好ましい。斯かる観点から、引張材5は、所望の引張強度と柔軟性を有する索状体によって構成することが好ましい。
具体的には、引張材5として、チェーン、ロープ(ワイヤーロープ等)、ベルト、紐、糸、ピアノ線、針金等を用いることが考えられ、その素材、寸法、形状は、特に限定されず、引張強度、柔軟性の他、耐久性、耐腐食性(例えばセメント流動物に由来するアルカリ性に対する耐腐食性)、固化後のセメント流動物の付着力等を考慮して適宜選択すればよい。ここで、引張材5として、紐、糸、ピアノ線、針金のように比較的細いものを用いる場合、引張材5に対するセメント流動物の付着力が乏しくならないようにするため、引張材5に結び目やアイ部分等を適宜設けるようにしてもよい。また、例えば引張材5を複数本束ねて使用する場合であれば、一本の引張材5では所望の性能が得られなくても複数本束ねた状態で所望の性能が得られればよい。
なお、本明細書でいうチェーンとは、複数の部材を相互に回動可能に繋げて線状にしたものを指し、チェーンを構成する鎖素子は、一種類でも複数種類でもよい。具体的には、リンクチェーン、ローラーチェーン、ボールチェーン等の一般的な構造を有するチェーンの他、特殊な形状を有するチェーン等であってもよい。
また、法枠形成具1を法面Nに敷設する際に、少なくとも法面Nの傾斜方向に隣接する法枠形成具1の引張材5どうしを接続する必要があり、この接続は適宜に行えばよい。例えば、引張材5がリンクチェーンのように略環状の鎖要素どうしを繋げて形成されたものであれば引張材5どうしをカラビナ等の接続具で接続すればよく、インナーリンクとアウターリンクがピン(コネクティングピン)で連結されるローラーチェーンのように鎖要素に接続機能を有するものであればその接続機能を利用して引張材5どうしを接続すればよい。また、引張材5がロープの場合には両端部をアイ加工し、ワイヤーロープの場合にはワイヤークリップを用いて両端部にアイ部分を設けておけば、カラビナ等の接続具により両端のアイ部分どうしを接続することができる。さらに、引張材5が紐、糸、ピアノ線、針金のように比較的細い索状体である場合は、両端にアイ加工や結び(二重8字結び、もやい結び等)を施すことによりアイ部分(固定状態の輪)を形成してアイ部分どうしをカラビナ等の接続具で接続する、あるいは、二つの引張材5を直接結んで繋げるようにする、といったことが考えられる。
保持体6は、流路部3内に配され、引張材5を浮設保持する状態で、流路部3内に注入されるセメント流動物の流れをなるべく妨げないものであることが、施工効率の面で好ましく、さらには、流路部3内にセメント流動物で満たされない空間(部分)をなるべく形成しないものであることが、強度向上の面で好ましい。斯かる観点から、保持体6は、少なくともセメント流動物の通過を妨げない部分を有していることが望ましく、特に、立体網状構造体や多孔質構造体で構成することが好ましい。
具体的には、保持体6として、ポリプロピレン等の合成樹脂からなる一本又は複数本の糸をカールさせて糸の複数箇所を相互に絡ませる、あるいはさらに糸の複数箇所を他の箇所に接合することにより立体状にしたもの、スチールウール、ロックウール、スポンジ等を用いることが考えられる。
また、保持体6による引張材5の保持は、適宜に行えばよい。例えば、図3(A)の例では、シート状に形成した保持体6を引張材5に巻き付けてある。この図示例では、保持体6をロールケーキ状に巻き付けているが、これに限らず、例えば筒状に巻き付けるようにしてもよい。また、複数の引張材5に保持体6を巻き付ける場合、引張材5を束ねてもよいが、図3(B)に示すように、複数の引張材5が相互に離れた状態となるように保持体6を巻き付けてもよい。なお、巻き付けた保持体6がその状態を維持せず展開してしまう場合、例えば紐状体による結束や接着剤・接着テープ等を用いた接着により、保持体6を固定するようにしてもよい。
図3(C)の例では、円柱状に形成した保持体6にその軸方向に延びる貫通孔6aを設け、この貫通孔6aに引張材5を通してある。ここで、保持体6に貫通孔6aを複数設けたり、一つの貫通孔6aに複数の引張材5を通したりしてもよい。一方、図3(D)の例では、図3(C)の保持体6に対し、貫通孔6aから外周面側に至るスリット6bをその全長にわたって設け、このスリット6bを開いて引張材5を挿入することができるように構成してある。なお、図3(D)の例において、引張材5の挿入後、スリット6bから引張材5が脱落する恐れがある場合には、スリット6bを接着テープ等で閉じたり、紐状体により保持体6を結束したりしてもよい。
図3(C)の例では保持体6を円柱状にしているが、これに限らず、例えば図3(E)に示すように三角柱状にしたり、他の多角柱状、楕円柱状等としたりしてもよい。さらに、図3(F)に示すように、保持体6を、その軸方向に直交する断面視形状が軸心から放射状に広がるような形状を呈する柱体としてもよい。
また、保持体6の直径ないし軸方向に直交する断面視形状は、一端から他端まで均一としても不均一としてもよい。特に、保持体6の両端部については、それぞれ先端側ほど細くなるように構成すれば、流路部3への挿入作業の容易化を図ることができる。図3(A)及び(B)の例のように、シート状の保持体6を巻き付ける場合は、例えばその巻き付け回数や保持体6の厚みを、軸方向の一端から他端までの間で変化させるようにしてもよい。
植生マット7は、ネットの下面に植生シートを重合してなるものであり、例えば平面視において縦2m、横1mの矩形状を呈するように構成されている。
ここで、ネットの材質としては、年月の経過とともに土壌化する必要があるときは、天然繊維や生分解性プラスチックの繊維を使用し、表層土の流動や侵食防止効果を半永久的に確保したい場合には、ポリエチレン、ナイロン等の繊維を使用すればよい。
また、植生シートは、スフ等の薄綿状シートに、植生種子、肥料、土壌改良材等の植生基材を担持させたものである。薄綿状シートは、シート状の薄綿(綿花を意味しているのではなく、薄い綿状のものを意味している)であることが望ましいが、不織布や紙のようなものであってもよく、この薄綿状シートは植物の通芽や通根を妨げない程度の強度を有するものであり、その平均厚みを0.1~10mm、望ましくは、0.5~5mmに設定することで、侵食防止機能を有しながらも植物を地面に根付かせ易くすることができる。
そして、ネットと植生シートとは積層状態で一体化されて植生マット7を構成するのであり、その一体化は、例えば植生シートの薄綿状シートの繊維をネットに絡み付かせることによって行ってもよいし、ネットと植生シートとを少量の水溶性接着剤で接着することによって行ってもよく、両方の手段を併用するようにしてもよい。薄綿状シートの繊維をネットに絡み付かせる方法としては、ネットと植生シートとを積層した状態でローラ間に通して加圧することにより、薄綿状シートの繊維をネットに絡み付かせる方法や、薄綿状シート側から空気を吹きつけたり、ネット側から空気を吸引したりすることにより、薄綿状シートの繊維をネット側に起毛させてネットに絡みつかせる方法が考えられる。
そして、植生マット7の片面に対する布製型枠4の装着は、例えば、圧着、縫合、適宜の部材による連結等によって行うことができる。ここで、引張材5及び保持体6に適宜の柔軟性を持たせてあれば、布製型枠4の流路部3に引張材5及び保持体6を挿入してあっても、布製型枠4を装着した植生マット7をロール状に梱包することができ、ひいては法面Nへの法枠形成具2の敷設作業の効率化を図ることができる。ただし、流路部3への引張材5及び保持体6の挿入は現場(法面N上やその付近)で行うようにしてもよく、さらには、植生マット7に対する布製型枠4の装着も、現場で行うようにしてもよい。
次に、法枠形成具2を用いた法枠形成方法について説明する。
(1)まず、予め表面を整地した法面N上に、複数の法枠形成具2を縦横に敷き並べた状態とする。
この際、植生マット7の短手方向及び布製型枠4の横流路部3Bが等高線に沿うように各法枠形成具2を配置し、かつ、各法枠形成具2の適宜の箇所をアンカーピン等の固定部材によって法面Nに固定する。
ここで、法枠形成具2は、法面Nに運搬されるまでの段階で、植生マット7に対する布製型枠4の装着と、布製型枠4の流路部3に対する引張材5及び保持体6の挿入とがいずれも行われ、組み上がっていてもよいし、法面Nにおいて上記装着または上記挿入のいずれか一方又は両方を行うようにしてもよい。なお、上記装着及び上記挿入は、いずれを先に行ってもよい。
また、本例では、流路部3のうち、縦流路部3Aのみに引張材5及び保持体6を挿入する。
(2)続いて、縦方向(法面Nの傾斜方向)に隣り合う法枠形成具2の引張材5どうしを接続するとともに、縦方向及び横方向(等高線方向)に隣り合う法枠形成具2の布製型枠4の流路部3の端部どうしを接続する。
ここで、流路部3の端部どうしの連結は、端部の一方を他方に挿入した状態で行うこともできるし、適宜の連結具8等を用いて行うこともできるが、何れにしても、後の工程で流路部3内を流通することになるセメント流動物がその連結部から漏れ出さないようにするのが望ましい。
(3)各流路部3の端部のうち、他の法枠形成具2の流路部3に接続されない端部を閉塞し、この際、山側に向かって開口する少なくとも一つの端部は閉塞せずに放置する。
流路部3の端部の閉塞は、例えば適宜の部材や装置を用いた縫合、圧着、緊縛等によって行うことができる。なお、この閉塞は、現場において行ってもよいし、流路部3の特定の端部が予め閉塞されている法枠形成具2を必要に応じて配置することにより、現場にて上記閉塞作業を行う手間を省くようにしてもよい。
なお、本実施形態において、端部が閉塞される流路部3を有するのは、複数敷き並べられた法枠形成具2のうち、外周部(最外部)に位置するもののみである。
(4)上記(3)において、閉塞せずに放置した流路部3の端部から、セメント流動物を流し込み、各布製型枠4内に充填する。
セメント流動物は、W/C比が10~800%程度のセメントミルク(水とセメント及び必要に応じてセメント混和剤からなるもの)若しくはモルタル(少なくとも水とセメントと細骨材を含むもの)であり、法面Nの凹凸への馴染み易さ、流動性を考慮して状況に応じて適宜のものが用いられ、上記の範囲に限定されるものではない。そして、本実施形態では、図1に示すように、水とセメントとを混合して生成されたセメント流動物としてのセメントミルクが、圧送用ポンプ(例えば毎分30L以上の吐出能力を有するモルタル圧送用ポンプ)9によりホース10内を圧送され、ホース10の先端のノズル11から布製型枠4内に充填される。
(5)セメント流動物を収容した各布製型枠4から、重力により余剰水がある程度自動的に排出される(布製型枠4が目減りする)のを待って、再度、セメント流動物を布製型枠4内に充填する、という手順を、各布製型枠4が目減りしなくなるまで繰り返す。
すなわち、上述したように、布製型枠4は、水を通過させ、セメント粒子を通過させない目合いを有する織布からなるため、セメント流動物を収容した各布製型枠4から余剰水は排出されるが、セメント粒子は布製型枠4内に残留することになる。
ここで、セメント成分はpH12.5の強アルカリ性であり、布製型枠4から排出された余剰水による植生への影響を抑えるためには、その中和を図るのが好ましく、具体的には、例えば、中和剤をセメント流動物に混合する、布製型枠4に担持させる、法面Nに散布する、といった方法をとることができる。
(6)各布製型枠4の内部空間に収容されたセメント流動物が固化すれば、法枠1が法面N上に築造された状態となるのであり、これにより、法枠形成方法が完了する。
上記法枠形成具2及び法枠形成方法により構築される法枠1では、各法枠形成具2の流路部3内において保持体6により所定の有効高さに浮設保持された引張材5が芯材として確実に機能し、その強度が大いに向上したものとなる。
そして、流路部3に引張材5及び保持体6を挿入しておくだけで、引張材5を浮設保持させることができ、その作業性の簡便化をも図ることができる。
本例の法枠1は、植生マット7によって法面Nの緑化機能を発揮し、その内部空間にセメントの入った(その内部空間にてセメント流動物が固化した)布製型枠4によって法面Nの表層の崩壊防止に必要な構造物機能を発揮することになる。
また、セメント流動物を収容した各布製型枠4から余剰水のみを排出することができる本方法では、セメント流動物の固化後に構築される法枠1の強度低下防止、ひいては高強度化を図ることができるだけでなく、布製型枠4内に充填(収容)するまでのセメント流動物の水セメント比を高くしておいてその流動性を上げ、セメント流動物を布製型枠4に充填するスピードを高めれば、施工の短期化をも図ることが可能となる。
しかも、上記従来の吹付法枠工法では型枠の設置等に多大な労力が掛かるが、本方法では、そういった型枠の設置やモルタル吹付け等は不要であり、法枠1を簡易に構築することができる。
ここで、引張材5にリンクチェーン(亜鉛めっきされた鉄製のもの)を使用した場合と、上記従来の吹付法枠工法で用いられていた直径10mmの鉄筋を使用した場合とで曲げ試験を行った結果、リンクチェーンは、断面積が鉄筋の3分の1であるにも拘わらず、破断荷重は鉄筋を使用した場合の概ね3分の2、約70%発現させることが可能となり、同一断面積では、従来の、現場での加工が難しい鉄筋に比べ、曲げ耐力を約2倍以上と大幅に向上させることが可能となることが確認された。
併せて、本例の布製型枠4を使用すれば、セメントミルクの水セメント比(W/C)に拘わらず、40%以上の余剰水は全て型枠外へ排出されるため、布製型枠4内に留まるセメントミルクの水セメント比は、自動的に水和反応に必要な35%を若干上回る40%程度に調整され、今までの実験の結果、容易に4週圧縮強度が80N/mm以上の発現が可能となることが確認されている。また、前述のとおり、本方法は、4週圧縮強度が80N/mm以上と極めて高いため、中性化に至るまでの所要時間が飛躍的に伸びるため、維持補修に至るまでの時間も長期化させることが可能となり、コンクリート構造物の飛躍的な高寿命化を図ることが可能となる。
そして、本例の法枠形成具2は、例えば山間部に道路を造成するため切り土が施された法面(斜面)の表層崩壊防止兼緑化用の法枠、若しくは例えば河川、湖沼、ダム等の岸辺の法面(堤体の法面、下線の低水位敷き等)の緑化と表層崩壊の防止(護岸)を同時に図ることのできる法枠の構築に用いることができる。
なお、本発明は、上記の実施の形態に何ら限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々に変形して実施し得ることは勿論である。例えば、以下のような変形例を挙げることができる。
上記実施形態における法枠1、法枠形成具2及び法枠形成方法は、法面Nに限らず、平地等において使用・施工してもよい。
布製型枠4内に収容するセメント流動物に、減水剤を混和させてあってもよい。また、セメント流動物に、アラミド繊維、ナノセルロース等の混和剤を混入させてもよく、この場合、布製型枠4によって形成される本構造体の枠の引張強度は飛躍的に向上する。
セメント流動物として、少なくとも水とセメントと粗骨材を含むコンクリートを用いても良い。また、上記実施形態では、布製型枠4内に収容するセメントに、少なくとも水とセメントを含むセメント流動物の形態をとらせているが、これに限らず、布製型枠4内に収容する際のセメントに、例えば乾燥粉末セメント、ドライモルタル(セメントに粒状の砂、バーミキュライト、パーライト(軽石)等の骨材を混合したもの)、粒状セメントといった形態をとらせ、布製型枠4内への収容後に布製型枠4への散水もしくは降雨等による自然吸水・吸湿によりセメントを硬化させるようにしてもよい。
図1に示す例では、圧送用ポンプ9を用いてセメントミルク(セメント流動物)を布製型枠4内に流し込んでいるが、これに限らず、例えば布製型枠4の山側でセメントミルク(セメント流動物)を作成し、自重によってセメントミルクを布製型枠4内に流し込むようにしてもよい。
布製型枠4に設ける縦流路部3A、横流路部3Bの数や配置、太さや間隔(ピッチ)、方向は種々に変更可能である。また、例えば横流路部3Bを設けず、布製型枠4が縦流路部3Aのみを有するようにしてもよく(図5参照)、この場合、縦流路部3Aをジグザグ状等としてもよい。また、布製型枠4の形状を適宜に改変すれば、擁壁、土留め堰堤等、多種多様な土木建築分野への利用が容易に可能となる。
上記実施の形態では、図1に示すように横流路部3Bを等高線に沿うように配置するために、図2に示す例では、横流路部3Bを縦流路部3Aに直交する方向に延ばしてあるが、これに限らず、横流路部3Bを、縦流路部3Aから離れるにつれて谷側(下側)に位置するように構成してもよく、この場合、横流路部3Bに対するセメント(セメント流動物)の充填をより容易に行える。なお、この場合の等高線に対する横流路部3Bのなす角度は、0~45度付近とするのが好ましい。この角度を0度未満とし、横流路部3Bを山側に向けて傾斜させると横流路部3Bに対するセメントの充填が困難となり、この角度を45度より大きくすると、横流路部3Bの谷側への傾斜が急峻となって、横流路部3Bによって得られる土砂流亡・小転石の抑止効果や小段効果(周囲からの飛来種子、木の葉や、法面山側からの流亡土砂等を堰き止めることにより、堆積した植生基盤が小段状に形成され、その小段において植物が生長し易くなる効果)が大幅に損なわれるようになるからである。
布製型枠4は、織布によって一重構造にしてあってもよいが、二重以上の多重構造にしてもよい。この場合、内側にある織布ほどセメント流動物の膨張等に伴って膨らみ、目合いが拡大し易い傾向にあるが、外側にある織布ほどそういった影響を受け難く、これにより、圧力が分散され、布製型枠4の全てで目合いが大きくならず、より確実に余剰水のみを布製型枠4の目合いから抜くことが可能となる。また、法面N等に突起が存在する場合でも、外側にある織布がその突起によって破損しても内側にある織布まで破損してしまう可能性は低いため、布製型枠4が全体として破損し難いものとなる。図4には、三重に重ねた織布12と、これとは別に三重に重ねた織布12とを表裏に重ね、その重ねた端部どうしを縫合して布製型枠4を形成する例を示している。
また、布製型枠4に、織布でなく不織布を用いるようにしてもよい。この場合も、織布を用いた場合と同様に、布製型枠4が水(又は空気)を通過させ、セメント粒子を通過させないように構成すればよい。
さらに、上記実施形態の型枠4は布製としてあるが、布製以外の材料で型枠4を形成するようにしてもよい。この材料は、型枠4が、水(又は空気)を通過させ、セメント粒子を通過させないように構成することのできるものであればよく、例えば多孔性材料(多孔性ゴム、多孔性PTFE等であり、発泡材料を含む)を用いることが考えられる。
セメント流動物にスチールファイバー等の補強材を混合し、硬化後の布製型枠4の強度向上効果が得られるようにしてもよい。また、セメント流動物に硬化遅延材を配合し、硬化スピードを下げることにより、硬化後の布製型枠4のひび割れ防止効果が得られるようにしてもよい。
上記実施形態では、引張材5、保持体6を縦流路部3A内にのみ配しているが、これに限らず、横流路部3B内にも配するようにしてもよい。この場合、縦流路部3Aと横流路部3Bの交差する箇所において、保持体6を部分的に設けないようにしたり、保持体6の部分的な薄型化を図ったりすることにより、縦流路部3A内を通る引張材5と、横流路部3B内を通る引張材5の両方の配置を可能とすることが考えられる。
植生マット7は、ネットの下面に植生シートを重合してなるものに限らず、例えば、ネット状や厚みの薄いシート状をしていてもよい。
上記実施の形態では、法枠形成具2に植生マット7を含めているが、これに限らず、植生マット7を用いないようにしてもよい。
なお、本明細書で挙げた変形例どうしを適宜組み合わせてもよいことはいうまでもない。
1 法枠
2 法枠形成具
3 流路部
3A 縦流路部
3B 横流路部
4 布製型枠
5 引張材
6 保持体
6a 貫通孔
6b スリット
7 植生マット
8 連結具
9 圧送用ポンプ
10 ホース
11 ノズル
12 織布
N 法面

Claims (4)

  1. セメント流動物を流通させるための流路部を有する型枠と、
    前記流路部内に装填される引張材と、
    前記流路部内に配され、前記引張材を浮設保持する保持体とを具備し、
    前記保持体は、前記流路部の長手方向に延びる長尺状を呈し、
    シート状に形成した前記保持体を前記引張材に巻き付けてある法枠形成具。
  2. 前記保持体は、セメント流動物の通過を妨げない部分を有している請求項1に記載の法枠形成具。
  3. 前記引張材はチェーンである請求項1または2に記載の法枠形成具。
  4. 請求項1~3の何れか一項に記載の法枠形成具の前記型枠内にセメントを充填して法枠を形成する法枠形成方法。
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