JP7278229B2 - セメント系材料による造形物の製造方法 - Google Patents
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Description
この方法の特徴は、3次元CAD等で作成した立体成型のデータを多数の水平面に分割し、これらの水平面の形状を順次積層して、成型体を製造する点にある。微細で精密な原型の構造を忠実に再現できる点に大きなメリットがある。
この方法は、半乾燥状態のセメント成形品の表面を釉薬層の形成に用いる釉薬より溶融温度が低い釉薬を用いて下地処理し、下地処理した表面に釉薬として泥しょう状の釉薬に有機エマルジョンを混入したものを用いて釉薬層を形成し、この釉薬層を有するセメント成形品を焼成して釉仕上げ層を形成した後、この釉仕上げ層を有するセメント成形品を養生硬化させて表面に釉面を備えた施釉セメント製品を製造する工程からなる方法である。
具体的には、釉薬層の形成に用いる釉薬より溶融温度が低い釉薬を用いて下地処理する工程、下地処理した表面に釉薬として泥しょう状の釉薬に有機エマルジョンを混入したものを用いて釉薬層を形成する工程を有するが、これら2つの工程は、セメント成形体と釉面との接着性を向上させるために採用される技術である。
この従来技術では、施釉対象がコンクリートパネル等の大型で単純な形状の構造体であるため、下地処理や施釉で使用する泥漿中に水が含まれていても、その水による構造体の変形は問題とはならない。
本発明は、このような問題を解決するためになされた発明であり、セメント系材料による3D構造物に対し、その微細な構造を損なうことなく化粧掛けと釉掛けを行うことにより、美しく滑らかな外表面を有し、汚れや傷が付きにくい特性を付与するための技法を提供することを課題とする。
[1]次の工程を含む、セメント系材料による3D構造体の製造方法。
1)付加製造装置を用いて水硬性組成物からなる3D構造体を形成する工程、
2)前記3D構造体に対して、化粧土または釉薬を有機溶媒と混合した処理液によって造形物表面をコーティングする工程。
[2]前記製造方法において、さらに、化粧掛けをした3D構造体に対して、釉薬を有機溶媒または水と混合した処理液により釉掛けを行う工程を有することを特徴とする[1]のセメント系材料による3D構造体の製造方法。
[3]前記3D構造体を形成する付加装置が結合剤噴射方式であることを特徴とする[1]または[2]のセメント系材料による3D構造体の製造方法。
[4]前記水硬性組成物が、セメント系材料、カルシウムアルミネート、砂を含むことを特徴とする[1]~[3]のセメント系材料による3D構造体の製造方法。
[5]前記セメント系材料が速硬セメントであり、カルシウムアルミネートが非晶質カルシウムアルミネートであることを特徴とする[1]~[4]のいずれかのセメント系材料による3D構造体の製造方法
[6]前記有機溶媒が、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール、アセトン、酢酸メチル等のエステルから選択された化合物またはその混合物であることを特徴とする[1]~[5]のいずれかのセメント系材料による3D構造体の製造方法。
[7]3D構造体を形成した後で化粧掛けを行う前に、コロイダルシリカ溶液に浸漬する工程を有することを特徴とする[1]~[6]のいずれかのセメント系材料による3D構造体の製造方法。
本発明は、セメント系材料を用いて3D構造体を形成し、これに化粧掛けまたは釉薬を施す際に使用する泥漿の溶媒の選択に関する発明である。この化粧掛けまたは施釉工程を経た後は、陶磁器の製造と同様の施釉、上絵付をすることができる。
本発明は、セメント系材料の成形手段として、付加製造装置(3Dプリンタ)を用いて3D構造物を迅速かつ精密に成形する技術に基づいている。このうち、結合剤噴射方式(粉末積層成形方式)の付加製造装置では、水硬性組成物(速硬セメント、耐火砂等)の混合粉末を平面上に敷き詰め、これにインクジェット等のノズルを通じて成形液を滴下または噴霧して固化し、逐次、固化した層を積層して所望の形状を成形する方法である。
本発明は、この方法による3D成形体の化粧掛けに適した技法である。しかし、本発明の化粧掛け技法は、他の方式の付加製造装置を用いて成形された3D構造体に適用できることは当然のことである。
本発明で使用する水硬性組成物は、付加製造装置に用いられる水硬性組成物であれば、どのような組成物であってもよい。基本的には、結合剤と耐火砂から構成される水硬性組成物が使用される。
結合剤としてはカルシウムアルミネート類、速硬セメントが選ばれ、砂としては、耐火砂であれば特に制限されず、珪砂、オリビン砂、ジルコン砂、アルミナ砂、人工砂等から選択される。
そのほかの成分として、早期強度発現性を向上するために各種添加剤を添加することができる。
カルシウムアルミネート類には多くの化合物が含まれるが、強度発現性が高いという点でカルシウムアルミネートが好ましく、非晶質カルシウムアルミネートがさらに好ましい。非晶質カルシウムアルミネートは、原料を溶融した後に急冷して製造するので、実質的に非晶質であり、この結果、成形物を形成した際の早期強度発現性が高い。
結合剤として速硬セメントを併用する。早期に強度を発現することが好ましく、凝結(始発)が30分以内の速硬セメントを使用することが好ましい。市販品として、例えば、スーパージェットセメント(太平洋セメント社製)、ジェットセメント(住友大阪セメント社製)、デンカスーパーセメント(デンカ社製)等から選ばれる。
付加製造装置は、前記水硬性組成物を積載台の上に均一に混合した後に、インクジェット等のノズルを通して成形液を滴下または噴霧して固化し、逐次、固化した層を積層して所望の形状を成形するものである。装置としては特に限定されず、結合剤噴射式の粉末積層型付加製造装置であれば、市販のいずれのものでも使用することができる。
粉体混合物の所定の位置を選択して、ノズルから粉体混合物に対して水を噴射して、該粉体混合物を固化して3D構造体を製造する。
通常の陶磁器の製造においても、装飾目的や素地表面を滑らかにするために化粧掛けが行われている。本発明は、陶磁器の製造に適用される化粧掛けをセメント系3D構造物に適用するものである。化粧掛けに使用する化粧土は、陶磁器の製造に用いられるものと同じものを使用することができる。素材は素地とは異なる質や色を形成する化粧掛け用の土が使用されるが、一般的には白色を発色する土が用いられる。
化粧掛けの技法には、粉引、刷毛目、象嵌、浸し掛け等様々な手法があるが、本発明ではいずれの手法で化粧掛けをしてもよい。
本発明は、化粧土または釉薬を分散して泥漿とする溶媒に有機溶媒を使用することに特徴がある。後記する比較例からも明らかなとおり、陶磁器の製造と同様に水を溶媒とした場合では、3D構造体の形状を損なうことなく化粧掛けをすることができない。
化粧土または釉薬の溶媒としての有機溶媒は、常温で液体の有機物であればいずれであってもよい。メタノール、ブタノール等のアルコール、酢酸メチル等のエステル、あるいはそれらの混合物を使用することができる。なお、濃度については特に条件はないが、化粧土や釉薬の厚さの点で10~70%が好ましく、より好ましくは20~60%、さらに好ましくは25~50%である。濃度が高いと厚くなりすぎ、濃度が低いと薄くなるためである。
成形したセメント系3D構造物に有機溶媒で溶いた化粧土または釉薬をかけて焼成する。焼成温度は化粧土が融着する温度を適宜設定することができる。
焼成して化粧掛けが終わったセメント系3D構造体には、陶磁器の装飾と同様に、釉薬を有機溶媒または水と混合した処理液により釉掛けを行うことができ、必要があれば上絵付をすることも可能である。
(1)カルシウムアルミネート類
非晶質のカルシウムアルミネートの試製品として、CaO/Al2O3のモル比は2.2、ガラス化率は95%以上、およびブレーン比表面積は3490cm2/gであるものを使用した。
(2)速硬セメント
スーパージェットセメント(太平洋セメント社製)
(3)砂
ナイアガラセラビーズ♯1450(伊藤忠セラテック社製。ムライト結晶からなる人工セラミック砂)を使用した。また、細骨材として、エスパール♯180L(山川産業社製のアルミナ系球状低膨張骨材)を併用した。
(4)ポリビニルアルコール
品番22-88 S1(PVA217SS)(クラレ社製)。ケン化度は87~89%、平均粒径(メディアン径、D50)は60μmで、94μmより大きい粒子の含有率は29%、および77μmより大きい粒子の含有率は47質量%であり、10%径(D10)は25μm、および90%径(D90)は121μmである。
(5)水硬性組成物
上記した、非晶質カルシウムアルミネート、スーパージェットセメント、エスパール、セラビーズを、重量比で0.9:0.1:1:1で混合した混合物を100質量%として、ポリビニルアルコールを2質量%混合した付加製造装置用水硬性組成物。
付加製造装置として結合剤噴射式粉末積層成型装置(商品名:ProJet660Pro スリーディシステム社製)を用い、室温(約20℃)、相対湿度約60%の条件下で、当該装置専用のバインダー液(スリーディシステムズ社製)を使用して、直径2mm長さ50mmの丸棒を作成した。また、その丸棒の強度を保つため、造形後にコロイダルシリカ溶液(IPA-ST)に浸漬した。
粉末状の粉引化粧土(株式会社竹昇精工製)を水(比較例1)または有機溶媒(エタノール、アセトン)(実施例1、2)と混合し、いずれも濃度47.6%の化粧掛け用の泥漿を調合した。この泥漿中に3D造形物を浸漬して浸し掛けという手法により化粧掛けを行った。ここで、泥漿の濃度は、泥漿重量に対する化粧土重量の割合として計算した。
化粧土の焼成においては、化粧掛けした3D構造物を乾燥した後に、約6時間かけて1180℃まで昇温し、1180℃に約1時間保持した後、約6時間をかけて室温まで徐冷して冷却した。
別途製造した3D構造物(格子状)について行った化粧掛けの様子(写真1)、及びこれを焼成した化粧掛け品(写真2)を示す。
Claims (7)
- 次の工程を含む、セメント系材料による3D構造体の製造方法。
1)付加製造装置を用いて水硬性組成物からなる3D構造体を形成する工程、
2)前記3D構造体に対して、化粧土または釉薬を有機溶媒と混合した処理液によって造形物表面をコーティングする工程。 - 前記製造方法において、さらに、化粧掛けをした3D構造体に対して、釉薬を有機溶媒または水と混合した処理液により釉掛けを行う工程を有することを特徴とする請求項1のセメント系材料による3D構造体の製造方法。
- 前記3D構造体を形成する付加製造装置が結合剤噴射方式であることを特徴とする請求項1または2のセメント系材料による3D構造体の製造方法。
- 前記水硬性組成物が、セメント系材料、カルシウムアルミネート、砂を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれかのセメント系材料による3D構造体の製造方法。
- 前記セメント系材料が速硬セメントであり、カルシウムアルミネートが非晶質カルシウムアルミネートであることを特徴とする請求項1~4のいずれかのセメント系材料による3D構造体の製造方法
- 前記有機溶媒が、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール、アセトン、酢酸メチル等のエステルから選択された化合物またはその混合物であることを特徴とする請求項1~5のいずれかのセメント系材料による3D構造体の製造方法。
- 3D構造体を形成した後で化粧掛けを行う前に、コロイダルシリカ溶液に浸漬する工程を有することを特徴とする請求項1~6のいずれかのセメント系材料による3D構造体の製造方法。
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