以下、本開示に係るエレベータ用音響システムの実施の形態について図面を参照して説明する。本開示は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本開示の主旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、本開示は、以下の実施の形態およびその変形例に示す構成のうち、組み合わせ可能な構成のあらゆる組み合わせを含むものである。また、各図において、同一の符号を付したものは、同一の又はこれに相当するものであり、これは明細書の全文において共通している。なお、各図面では、各構成部材の相対的な寸法関係または形状等が実際のものとは異なる場合がある。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係るエレベータ1の構成を示す斜視図である。図1に示すように、エレベータ1は建物内に設置され、昇降路2内を上昇または下降する。昇降路2の上部には、巻上機3が設けられている。巻上機3に設けられた綱車3aには、主ロープ4が掛け渡されている。主ロープ4の両端には、それぞれ、かご5と釣り合いおもり6とが連結されている。かご5と釣り合いおもり6とは、主ロープ4により、綱車3aにつるべ式に吊り下げられている。また、昇降路2の上部には、エレベータ制御盤7が設置されている。エレベータ制御盤7は、通信線を介して巻上機3に接続されるとともに、制御ケーブル8を介してかご5に接続されている。制御ケーブル8は、かご5へ電力と制御信号とを伝送する。制御ケーブル8は、テールコードとも呼ばれる。
かご5は、4枚の側板5aと、床板5bと、天井板5cとで構成されている。4枚の側板5aは、それぞれ、かご5の右側、左側、前側、後側に配置されている。また、4枚の側板5aのうちの前側の側板5aには、かご扉5dが設置されている。かご5が各階床の乗場に停車したとき、かご扉5dは、乗場に設置された乗場扉(図示せず)と係合して、開閉動作を行う。
かご5の天井板5cの上面には、図1に示すように、かご制御装置9が設置されている。かご制御装置9は、かご5に設けられた各装置の動作の制御を行う。かご5に設けられた装置としては、かご扉5d、照明装置5e(図2参照)、かご操作盤5f(図2参照)、エレベータ用音響システム13(図3参照)などが挙げられる。以下では、エレベータ用音響システム13を、単に、音響システム13と呼ぶ。
かご5の天井板5cの下面には、図1に示すように、吊り天井10が固定されている。吊り天井10は、直方体の形状を有している。吊り天井10は、4つの側面10aと下面10b(図2参照)とを有している。また、吊り天井10は、下面10bと対向して配置される上面をさらに有していてもよい。吊り天井10の内部空間には、照明装置5e(図2参照)および音響システム13(図3参照)が設置されている。吊り天井10の側面10aとかご5の側板5aとの間には、一定距離Dの空隙11(図2および図3参照)がある。以下では、一定距離Dを、第1距離Dと呼ぶ。
なお、図1の例では、エレベータ1がロープ式エレベータの場合を示しているが、この場合に限定されない。エレベータ1は、例えば、リニア式エレベータなどの他のタイプのエレベータであってもよい。
図2は、実施の形態1に係るエレベータ1のかご5の内部の様子を示した図である。図2に示すように、かご5の内部空間は、側板5aと、床板5bと、吊り天井10の下面10bとによって囲われている。かご5の内部空間は、例えば、直方体状の形状である。床板5bは、水平な方向に設置された平面で構成されている。側板5aは、垂直な方向に設置された平面で構成されている。ここで、垂直な方向とは、例えば鉛直方向である。吊り天井10の下面10bは、床板5bに対向して配置されている。吊り天井10には、照明装置5eが設けられている。照明装置5eの本体は、吊り天井10の内部空間に設置されている。照明装置5eは、例えば、LED照明装置である。照明装置5eの照射面5eaは、図2に示すように、床板5bに対向している。照明装置5eは、照射面5eaから照射された光によってかご5の内部空間を照らす。
4つの側板5aのうちの前側の側板5aには、上述したように、かご扉5dが設けられている。また、当該前側の側板5aには、図2に示すように、かご操作盤5fが設けられている。かご操作盤5fには、各階床に対応して設けられた複数のかご呼び登録釦と、かご扉5dの開閉動作を制御する扉開閉釦とが設けられている。さらに、かご操作盤5fには、非常時等に乗客が外部との通信を行うためのインターホン装置5hが設けられている。インターホン装置5hは、外部との通信だけでなく、「ドアが閉まります」などの乗客への音声メッセージを流すために用いられてもよい。
図2に示すように、かご制御装置9は、例えば制御ケーブル8(図1参照)を介して、エレベータ制御盤7に接続されている。かご制御装置9は、図2に示すように、入力部9aと、制御部9bと、出力部9cと、音場制御部9dと、記憶部9eとを有している。入力部9aは、エレベータ制御盤7からの制御信号を制御部9bに入力する。制御部9bは、当該制御信号に基づいて、かご5に設けられた各装置の動作の制御を行う。出力部9cは、制御部9bの制御により、各装置に対して駆動信号を出力する。また、出力部9cは、かご操作盤5fに対して乗客から入力されたかご呼び登録などの信号を、制御部9bの制御により、エレベータ制御盤7に送信する。音場制御部9dは、音響システム13の構成要素の1つである。音場制御部9dは、かご5の内部空間全体に、立体的な高音質の音場を形成するように、音響システム13の動作を制御する。出力部9cと音場制御部9dとは、後述する音場制御装置21を構成している。
ここで、かご制御装置9のハードウェア構成について説明する。かご制御装置9における入力部9a、制御部9b、出力部9c、および、音場制御部9dの各機能は、処理回路により実現される。処理回路は、専用のハードウェア、または、プロセッサから構成される。専用のハードウェアは、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)などである。プロセッサは、メモリに記憶されるプログラムを実行する。記憶部9eはメモリから構成される。メモリは、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)などの不揮発性または揮発性の半導体メモリ、もしくは、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスクなどのディスクである。
図3は、実施の形態1に係る音響システム13の構成を示す正面図である。図4は、実施の形態1に係る音響システム13のスピーカーキャビネット20の配置を示す上面図である。図3および図4において、かご5の高さ方向をY方向とし、かご5の幅方向をX方向とし、かご5の奥行き方向をZ方向とする。Y方向は、例えば、鉛直方向である。また、図4に示すように、かご5内の左右前後を定義すると、X方向は、かご5の左右方向であり、Z方向は、かご5の前後方向である。
図3および図4に示すように、音響システム13は、1以上のスピーカーキャビネット20と、音場制御装置21と、入力装置22とから構成されている。音響システム13は、かご5の乗客に対して、音の放射を行う。実施の形態1では、当該音として、例えば、川のせせらぎ、鳥のさえずり、など、自然界をイメージできる音声コンテンツを用いる。
実施の形態1では、図3に示すように、スピーカーキャビネット20の個数は2個である。しかしながら、スピーカーキャビネット20の個数は、これに限定されず、1以上の任意の個数であってよい。各スピーカーキャビネット20は、図3に示すように、吊り天井10の内部空間に設置されている。各スピーカーキャビネット20は、スピーカーユニット23と、筐体25とから構成されている。
図5は、実施の形態1に係るスピーカーキャビネット20の一例の構成を示す側面図である。図6は、図5のスピーカーキャビネット20の正面図である。図5および図6に示すように、スピーカーユニット23は、筐体25の中に収容されている。スピーカーユニット23は、筐体25の正面25aに、音を放射させる放射面23aが設けられている。筐体25は、例えば直方体の形状を有している。筐体25は、密閉装置である。スピーカーユニット23の放射面23aは、筐体25に設けられた設置孔から外部に露出している。スピーカーユニット23の他の部分は、すべて、筐体25内に設置されている。従って、スピーカーユニット23の放射面23aからの音は、図5の矢印A方向のみに放射され、放射面23a以外の筐体25の他の部分を介して外部に放射されることはない。
図7は、実施の形態1に係るスピーカーキャビネット20の他の例の構成を示す側面図である。図8は、図7のスピーカーキャビネット20の正面図である。図7および図8に示すように、スピーカーキャビネット20は、筐体25内に、2以上のスピーカーユニット23を収容していてもよい。この場合、例えば、一方のスピーカーユニット23-1をフルレンジスピーカーとし、他方のスピーカーユニット23-2をツイーターとしてもよい。フルレンジスピーカーとは、低域から高域までを1つのスピーカーで再現するものである。本開示の各実施の形態において、スピーカーキャビネット20の筐体25内に1つのスピーカーユニット23が収容されている場合、当該スピーカーユニット23は、フルレンジスピーカーとする。また、ツイーターとは、フルレンジスピーカーの補助として用いられる低域専用のスピーカーである。低域から高域までを1つのスピーカーで再現するのは難しく、音質が不十分になってしまう場合が想定される。そのような場合に、それを補うために、ツイーターが使用される。筐体25内に配置される2以上のスピーカーユニット23は、このように、異なる種別のものを用いてもよく、あるいは、同一の種別のものを用いてもよい。このように、1つのスピーカーキャビネット20が複数のスピーカーユニット23を有している場合には、スピーカーキャビネット20単体で、音質感の向上および再生帯域の拡大を図ることができる。
図3および図4の説明に戻る。図3および図4に示すように、スピーカーキャビネット20は、吊り天井10の内部空間に配置されている。吊り天井10のY方向(かご5の高さ方向)の高さは、5cm程度である。従って、図3に示すように、スピーカーキャビネット20の筐体25のY方向(かご5の高さ方向)の高さH1は、5cm以下である。また、スピーカーユニット23の放射面23aは、かご5の側板5aに対向するように配置されている。放射面23aは、吊り天井10の側面10aの縁に沿って配置されている。放射面23aは、吊り天井10の側面10aと同じ平面内に位置している。従って、放射面23aのX方向(かご5の幅方向)の位置は、吊り天井10の側面10aのX方向の位置と一致またはほぼ一致している。吊り天井10の側面10aには、放射面23aの位置に合わせて、開口が設けられている。なお、吊り天井10の側面10a全体が、開口状態となっていてもよい。従って、放射面23aから放射された音は、吊り天井10の側面10aによって遮蔽されない。また、上述したように、吊り天井10の側面10aとかご5の側板5aとの間には、第1距離Dの空隙11がある。第1距離Dは、5cm程度である。図3および図4に示すように、スピーカーユニット23の放射面23aから放射される音は、矢印A方向に放射される。その後、当該音は、かご5の側板5aで反射されて、反射音となる。反射音は、図3および図4に示すように、矢印B方向に進む。このように、実施の形態1では、スピーカーユニット23が、かご5の側板5aの反射を利用して、乗客に対して音放射を行う「間接的な音放射」を行っている。
また、図4に示すように、スピーカーキャビネット20は、吊り天井10のZ方向(かご5の奥行き方向)の中央部分に配置されている。また、図3に示すように、スピーカーキャビネット20は、吊り天井10のY方向(かご5の高さ方向)の中央部分に配置されている。
図4に示す、2つのスピーカーキャビネット20のうち、一方のスピーカーキャビネット20に設けられたスピーカーユニット23を、スピーカーユニット23Rと呼ぶ。また、スピーカーキャビネット20に設けられたスピーカーユニット23を、スピーカーユニット23Lと呼ぶ。スピーカーユニット23Rとスピーカーユニット23Lとは、互いに離間して配置されている。スピーカーユニット23Rとスピーカーユニット23Lとは、背面同士が対向するように配置されている。図4に示す乗客モデル42を基準にして説明すると、スピーカーユニット23Rの放射面23aは、かご5の右側の側板5aに対向して配置されている。一方、スピーカーユニット23Lの放射面23aは、かご5の左側の側板5aに対向して配置されている。スピーカーユニット23Rおよび23Lの放射面23aのそれぞれは、空隙11に面して配置されている。スピーカーユニット23Rおよび23Lの放射面23aのそれぞれは、吊り天井10の左右の側面10aと同じ平面内に配置されている。
実施の形態1においては、スピーカーユニット23の再生音圧周波数帯域は、例えば、150Hz~48kHzの範囲とする。すなわち、150Hz未満の低周波数の音は用いない。この理由について説明する。かご5内は閉ざされた空間である。そのため、波長の長い低周波成分は、かご5内の側板5a間で反射が複数回行われる。そのため、反射時間が長く、いつまでも定在波があり、残響時間が長くなる。音の反射で発生する定在波を、以下では、エコーと呼ぶ。このように、かご5内では、開空間で音放射するときと比べて、低周波音が減衰しにくい。その結果、かご5内に、いつまでも低周波音のエコーが響き、乗客に対して不必要な低周波騒音を与えてしまい、これが余計な不快感を乗客に与える原因となる。従って、実施の形態1では、150Hz以上の周波数帯域を再生必要帯域とする。これにより、乗客に対して、不快感を与えることが防止でき、快適性を与えることができる。また、高周波成分に関しては、ハイレゾ(High Resolution)音源による高分解能化で高音質を提供するために、96kHz/24bit対応を可能とした周波数帯域の再生を可能とする。なお、実施の形態1では、96kHz/24bitの半分の48kHz以下の周波数帯域とする。
図3の説明に戻る。音場制御装置21は、かご5の天井板5cの上面に設けられたかご制御装置9内に配置されている。音場制御装置21は、図2に示すように、出力部9cと、音場制御部9dとを有している。また、音場制御装置21は、さらに、電源(図示せず)を有している。音場制御部9dには、音場制御基板が設けられている。
図9は、実施の形態1に係る音場制御装置21の構成を示したブロック図である。音場制御装置21は、上述したように、出力部9cと、音場制御部9dとを有している。
出力部9cは、D/Aコンバータ36と、増幅器37とを有している。D/Aコンバータ36は、デジタル信号をアナログ信号に変換して出力する。増幅器37は、D/Aコンバータ36から出力されたアナログ信号を増幅する。増幅器37から出力されたアナログ信号は、スピーカーユニット23に送信される。スピーカーユニット23は、放射面23aから、当該アナログ信号を音として放射する。
音場制御部9dは、A/Dコンバータ30と、伝搬特性制御部31と、指向性制御部32と、遅延制御部33と、残響時間制御部34と、合成部35と、記憶装置39とを有している。なお、記憶装置39は、図2に示した記憶部9eの一部分としてもよいし、あるいは、別のメモリから構成するようにしてもよい。
A/Dコンバータ30には、入力装置22から入力される入力信号38が入力される。入力信号38は、アナログ信号である。入力信号38は、上述した音声コンテンツである。A/Dコンバータ30は、アナログ信号をデジタル信号に変換して出力する。A/Dコンバータ30から出力されたデジタル信号は、伝搬特性制御部31と、指向性制御部32と、遅延制御部33と、残響時間制御部34とに入力される。
伝搬特性制御部31は、A/Dコンバータ30から出力されたデジタル信号に対して、時間軸クロストーク位相分制御を行う。時間軸クロストーク位相分制御では、乗客の左右の耳に間接的に伝搬する音放射成分(以下、クロス音とする)を室内環境特性に合わせて減衰させる。これにより、音場が拡大化される。詳細については、後述する。
指向性制御部32は、A/Dコンバータ30から出力されたデジタル信号に対して、同相リニアフェイズ制御を行う。同相リニアフェイズ制御では、任意角度毎におけるスピーカーユニット23からの放射音方向を時間軸で制御し、位相を合わせた放射音を生成する。これにより、かご5内の何れの位置でも、聞こえ方が変わらないサラウンド効果が得られる。詳細については、後述する。
遅延制御部33は、A/Dコンバータ30から出力されたデジタル信号に対して、リニアフェイズ制御を行う。リニアフェイズ制御では、周波数毎の伝搬時間の遅延による音質の劣化をなくすために、全周波数帯域の音が、乗客に同時に届くように制御する。詳細については、後述する。
残響時間制御部34は、A/Dコンバータ30から出力されたデジタル信号に対して、残響時間制御を行う。残響時間制御では、反射によって発生するエコーの残響時間を減らす制御を行う。上述したように、かご5のような密閉空間では、音が、壁での反射を繰り返す。その結果、当該音が、不快なエコーになり、音の明瞭性が悪くなる。そのため、残響時間制御では、音の残響時間を減らす制御を行うことで、音の聞こえを鮮明にする。詳細については、後述する。
合成部35は、伝搬特性制御部31と、指向性制御部32と、遅延制御部33と、残響時間制御部34とから出力された、デジタル信号を合成する。合成部35から出力された合成デジタル信号は、上記のD/Aコンバータ36に入力される。
なお、ここでは、合成部35が、伝搬特性制御部31と、指向性制御部32と、遅延制御部33と、残響時間制御部34とから出力された、デジタル信号を合成すると説明した。しかしながら、その場合に限らず、合成部35を設けなくてもよい。その場合、伝搬特性制御部31と、指向性制御部32と、遅延制御部33と、残響時間制御部34とが、順に処理を行って、残響時間制御部34から出力されたデジタル信号をスピーカーユニット23から放出するようにしてもよい。また、伝搬特性制御部31、指向性制御部32、遅延制御部33、および、残響時間制御部34の各処理を、必ずしも、全て行う必要はない。伝搬特性制御部31、指向性制御部32、遅延制御部33、および、残響時間制御部34の処理のうち、必要に応じて、少なくとも1つの処理を行うようにしてもよい。
図3の説明に戻る。入力装置22は、かご5内の側板5aに設けられた開き戸5g内に収容されている。開き戸5gは、通常時は、閉扉しており、乗客が触ることはない。入力装置22には、USBコネクタ22aと、音量調整コントローラ22bとが設けられている。USBコネクタ22aには、音声コンテンツの音源データを記憶したUSBメモリが接続される。音量調整コントローラ22bは、作業員が操作することで音量の設定が行われる。
音響システム13が生成する音場27は、図3の破線で示される範囲である。具体的には、音場27の下限27aの高さH2は、かご5の床板5bから例えば1.6mである。また、音場27の上限の高さは、かご5の床板5bから例えば1.8mである。音場27は、床板5bからの高さが、1.6m~1.8mの範囲に形成されることが望ましい。このように、音場27は、かご5内において、下限27aよりも上の部分に生成される。その結果、音場27は、図3に示すように、乗客の頭周辺に形成される。床板5bからの高さが1.6m~1.8mの範囲は、乗客の平均的な両耳の位置に相当する。なお、床板5bからの高さが0mから1.6m未満までの範囲は、かご5内に複数の乗客が乗っている場合には、乗客の身体によって音が遮蔽または吸収されるため、良好な音場を形成することはできない。また、床板5bからの高さが1.8mを超えた範囲では、音場27が乗客の頭上に偏って形成されるため、乗客にとって聴感的な聞き取りにくさが生じる。
一般的なエレベータの多くは、緊急時の音声メッセージまたは警報を放射するためのスピーカー、着床階を知らせるためのスピーカー、および、外部との通信を行うためのインターホンを備えている。エレベータの機種によっては、乗客への快適性を考慮して、インターホン用のスピーカーから音楽を再生するものもある。しかしながら、音楽再生を行っているエレベータは非常に少なく、スピーカーも必要最小限の数量として1つだけ搭載している場合がほとんどである。現況においては、積極的に、かご内の乗客に対して快適性の提供を行えているものはほとんど無い。
かご内でたとえ音楽を提供していても、当該音楽は、インターホンのスピーカーを流用して流されている。インターホンのスピーカーは、通常、かご内の操作盤に配置されている。インターホンのスピーカーは、操作盤内のスペースの関係で、軽量、薄型、小型、および、モノラル再生という特性が求められる。従って、インターホンのスピーカーからの再生音の音質は、非常に悪いものになっており、明らかに、家庭内のオーディオ装置で再生されている音楽とは異なる音放射である。
また、エレベータ利用者のほとんどが、知らない人との乗車で、且つ、狭い空間に閉じ込められているに起因する「気まずさ」を感じている。そのため、かご内の空間が、乗客にとっては、快適な空間ではないことが問題になっている。
その反面、建物そのものが高層化しているために、エレベータの乗車時間が長くなっており、乗車時間が1分以上の場合も多くなっている。
こうした背景から、実施の形態1に係る音響システム13は、エレベータ利用者が気兼ねなくエレベータを利用できるようにすることと、利用時にはかご5内が快適な空間であることを提供することを目的としている。具体的には、音響システム13は、かご5内の乗客が、かご5内を広い空間、例えば、野原などの空間と感じることができるように、映画館のような立体音響空間を提供する。音響システム13は、かご5内の乗客に対して、狭空間を広空間と感じさせるために、「広空間および快適空間を疑似体験できる」ようにする。これにより、エレベータ利用者が、気持ちよく、エレベータを利用できるようにする。
また、音響システム13は、2つのスピーカーユニット23を用いて、広空間および快適空間を疑似体験させる。音響システム13は、スピーカーユニット23の個数を抑えながら、高音質の音の再生を実現する。
ここで、かご5内の前提条件を定めておく。図1および図2を用いて説明したように、かご扉5dは最低1つと想定するが、乗客はかご扉5dに向かって立つことが殆どである。これは、かご5の出口がわかっているからその方向を向くとの諸説があるが、この乗客の行動が、音環境的には有利に働くことにもなる。つまりは、殆どの乗客が一方向に向いているために、かご扉5dを中心にして、左右の面にスピーカーユニット23を設置すれば、自然とステレオ環境を構成できることになる。
[伝搬特性制御部31]
伝搬特性制御部31について説明する。伝搬特性制御部31は、スピーカーユニット23の放射面23aから放射される音波が、1対の仮想のマイクロフォン40に到達する際の一方に到達する直接音、他方に到達するクロス音との伝搬時間の差に基づいて、音波の伝搬特性を制御する。
はじめに、伝搬特性制御部31で実行される制御の原理について説明する。図10は、実施の形態1に係る音響システム13において、スピーカーユニット23とマイクロフォン40との関係のモデルを示す上面図である。図10において、乗客モデル42は、一般的な乗客の等身大の人形である。乗客モデル42の右側の耳にマイクロフォン40Rを設置し、左側の耳にマイクロフォン40Lを設置する。また、必要に応じて、図3に示すように、マイクロフォン40Rおよび40Lの上方に、さらに、追加のマイクロフォン41Rおよび41Lを設置してもよい。以下では、説明を簡略化するために、マイクロフォン40Rおよび40Lのみが設置されている場合を例に挙げて説明する。図10のモデルにおいて、乗客モデル42の手前右側に設置されたスピーカーユニット23をスピーカーユニット23Rと呼ぶ。同様に、乗客モデル42の手前左側に設置されたスピーカーユニット23をスピーカーユニット23Lと呼ぶ。
このとき、スピーカーユニット23Rから放射された音は、直接音R(符号43)とクロス音RL(符号44)となって、それぞれ、マイクロフォン40Rおよび40Lに到来する。すなわち、直接音R(符号43)は、スピーカーユニット23Rから任意時間で伝搬してマイクロフォン40Rに到来する直接音である。また、クロス音RL(符号44)は、スピーカーユニット23Rから任意時間で伝搬してマイクロフォン40Lに到来する間接音である。
同様に、スピーカーユニット23Lから放射された音は、直接音L(符号45)とクロス音LR(符号46)となって、それぞれ、マイクロフォン40Lおよび40Rに到来する。
図11は、実施の形態1に係る直接音およびクロス音の波形を示した図である。図11では、マイクロフォン40Rおよび40Lで受信された直接音R(符号43)、直接音L(符号45)、クロス音RL(符号44)、および、クロス音LR(符号46)の波形を示している。図11において、横軸は時間、縦軸は位相である。図11に示すように、これらの4つの音の到着時刻には、時間差があることが分かる。
このことをさらに詳細に説明する。図12は、スピーカーユニット23とマイクロフォン40との関係のモデルを示した上面図である。図12では、説明を分かりやすくするために、複数のスピーカーユニット23のうち、何れか1つのスピーカーユニット23から音が放射される場合を示している。図12のモデルは、x軸上に、原点を中心にして一定距離だけ離してマイクロフォン40Rおよび40Lを設置している。また、原点を中心とする円周上に、複数のスピーカーユニット23を配置している。各スピーカーユニット23は、y軸の正方向を0deg、x軸の正方向を90degとして角度で位置を特定する。
音速を340m/sとして、スピーカーユニット23からマイクロフォン40Lまでの音波70の伝達時間をY1とし、スピーカーユニット23からマイクロフォン40Rまでの音波71の伝達時間をY2とする。このとき、音波70が、マイクロフォン40Lに到達するまでには、遅延時間(Y1―Y2)が生じる。
しかしながら、スピーカーユニット23が0degの位置または180degの位置にあるときには、スピーカーユニット23からの音波は、マイクロフォン40Rおよび40Lに同一時刻に到着し、遅延時間(Y1―Y2)=0となる。
一方、スピーカーユニット23が90degの位置または270degの位置にあるときには、遅延時間(Y1―Y2)が最大となる。すなわち、スピーカーユニット23が90degの位置のときには、マイクロフォン40Rへの音波の到着は最速であるが、マイクロフォン40Lへの音波の到着は最も遅い。また、スピーカーユニット23が270degの位置のときには、マイクロフォン40Lへの音波の到着は最速であるが、マイクロフォン40Rへの音波の到着は最も遅い。
このように、スピーカーユニット23の位置ごとに、遅延時間(Y1―Y2)が異なる。従って、スピーカーユニット23から試験音を流すことで、スピーカーユニット23の位置ごとの遅延時間(Y1―Y2)を事前に計測することができる。そして、計測した遅延時間(Y1―Y2)だけ、マイクロフォン40Lに到着した音波70の波形に対して、マイクロフォン40Rに到着した音波71の波形を遅延させる。これにより、スピーカーユニット23の位置にかかわらず、マイクロフォン40Rに到着する音波70の波形と、マイクロフォン40Lに到着する音波71の波形とを一致させることができる。
この原理を利用して、伝搬特性制御部31では、図11に示す4つの波形から、図13に示す4つの波形を得るために、以下の処理を行う。図13は、実施の形態1に係る音響システム13に設けられた伝搬特性制御部31から出力される音波の波形を示した図である。図13において、横軸は時間、縦軸は位相である。
まず、図4の位置に、2つのスピーカーユニット23を設置する。次に、かご5内に、乗客モデル42を設置する。乗客モデル42の右側の耳には、マイクロフォン40Rが設置され、左側の耳には、マイクロフォン40Lが設置されている。
次に、図4の位置に設置された2つのスピーカーユニット23から試験音を流し、マイクロフォン40Rおよび41Lで当該試験音を受信することで、バイノーラル測定を行う。バイノーラル測定では、直接音とクロス音とが伝搬時間の違いとなってそれぞれ計測される。このとき用いる試験音は、例えば、全周波数帯域が同音圧レベルで信号処理されているホワイトノイズである。図4に示すように、乗客モデル42の右側のスピーカーユニット23をスピーカーユニット23Rと呼び、左側のスピーカーユニット23をスピーカーユニット23Lとする。スピーカーユニット23から試験音を再生する順序は、スピーカーユニット23Rのみ、スピーカーユニット23Lのみ、スピーカーユニット23Rと23Lとの両方、の順である。このように、スピーカーユニット23の個数が2個の場合には、順番に片側毎に試験音を再生し、最後に両側から試験音を同時再生させる。当該再生により、各スピーカーユニット23が試験音を別々に放射したときのかご5内の放射特性の情報と、全てのスピーカーユニット23が試験音を同時放射したときのかご5内の放射特性の情報とが取得できる。
このようにして、かご5内で、試験音を再生すると、図11の4つの音波の波形43~46が得られる。また、当該4つの音波の波形43~46に基づいて、直接音R(符号43)に対するクロス音RL(符号44)の遅延時間が求められる。当該遅延時間を第1遅延時間と呼ぶ。同様に、当該4つの音波の波形43~46に基づいて、直接音L(符号45)に対するクロス音LR(符号46)の遅延時間が求められる。当該遅延時間を第2遅延時間と呼ぶ。第1遅延時間および第2遅延時間は、音響システム13の記憶装置(図示せず)に記憶される。
次に、伝搬特性制御部31は、図11に示す直接音R(符号43)の負の位相成分47の絶対値を求めて、直接音R(符号43)の正の位相成分48に加算する。同様に、伝搬特性制御部31は、直接音L(符号45)の負の位相成分47の絶対値を求めて、直接音L(符号45)の正の位相成分48に加算する。また、伝搬特性制御部31は、クロス音RL(符号44)およびクロス音LR(符号46)についても同様の処理を行う。
さらに、伝搬特性制御部31は、直接音R(符号43)の波形と直接音L(符号45)の波形との振幅と位相とを制御して、同振幅同位相に揃える。さらに、伝搬特性制御部31は、クロス音RL(符号44)の波形とクロス音LR(符号45)の波形との振幅と位相とを制御して、同振幅同位相に揃える。また、図11において、マイクロフォン40Rおよび40Lで受信された直接音R(符号43)とクロス音RL(符号44)とを比較すると、伝搬時間に差があるだけでなく、明らかに音圧レベルに差があることがわかる。同様に、図11において、直接音L(符号45)とクロス音LR(符号46)とを比較すると、伝搬時間に差があるだけでなく、明らかに音圧レベルに差があることがわかる。従って、伝搬特性制御部31は、直接音R(符号43)の波形とクロス音RL(符号44)の波形との振幅を同振幅に揃える制御を行う。同様に、伝搬特性制御部31は、直接音L(符号45)とクロス音LR(符号46)との振幅を同振幅に揃える制御を行う。
そして、第1遅延時間だけ、直接音R(符号43)の波形を、クロス音RL(符号44)の波形よりも遅延させる。同様に、第2遅延時間だけ、直接音L(符号45)の波形を、クロス音RL(符号46)の波形よりも遅延させる。これにより、図13の4つの波形が得られる。図13では、クロス音RL(符号44)およびクロス音RL(符号46)が先に放射されている。その後、直接音R(符号43)および直接音L(符号45)が、それぞれ、第1遅延時間および第2遅延時間だけ遅れて放射される。
クロス音の成分によって、スピーカーユニット23からの放射音の音像は、クロス成分の中央、すなわち、乗客の左右耳の中央に集まって聞こえる。ここで、放射音によって、かご5内の狭空間を広空間と聴覚的に錯覚させるためには、音像が広がっているように乗客に聞こえさせる必要がある。このためには、直接音とクロス音とに時間差をつけて音放射することが必要である。そこで、最初にクロス音を放射し、次に、時間差をもって、直接音を放射させる。クロス音と直接音との音放射に伴う位相特性は絶対に逆相にならないように、位相特性は揃える必要がある。そのため、伝搬特性制御部31は、位相調整を行っている。これにより、先に放射されたクロス音で乗客に音の移動感を与え、その後に放射された直接音で乗客に音の定位感を与えることができる。その結果、乗客は、自身の頭上だけ音場が中抜けしているような違和感を持つことなく、位相が揃っていることから得られる移動感と定位感とを有する音放射を聞くことが可能となる。
このように、伝搬特性制御部31は、予め第1遅延時間および第2遅延時間を記憶装置39に記憶しておく。伝搬特性制御部31は、直接音R(符号43)および直接音L(符号45)を、クロス音RL(符号44)およびクロス音RL(符号46)よりも、第1遅延時間および第2遅延時間だけ遅延させて、放射する。なお、伝搬特性制御部31において、同振幅同位相に揃える処理、および、放射時刻を遅延させる処理としては、例えば、FIR(Finite Impulse Response)またはIIR(Infinite Impulse Response)などのフィルタ処理を用いる。これにより、高音質感のある音場27をかご5内に生成することができる。
なお、乗客モデル42は、試験のために一時的に設置されるものである。そのため、エレベータ1の実際の運行時には、乗客モデル42は撤去される。従って、エレベータ1の実際の運行時には、マイクロフォン40Rおよび40Lも撤去されている。従って、上記の説明における「伝搬時間」および「遅延時間」等は、マイクロフォン40Rおよび40Lが設置されていると仮定した場合の時間である。そのため、実際の運用時においては、仮想のマイクロフォンに対する「伝搬時間」および「遅延時間」となる。
[指向性制御部32]
指向性制御部32について説明する。指向性制御部32は、乗客の向きに合わせて、角度毎に、スピーカーユニット23からの放射音方向を時間軸で制御し、位相を合わせた放射音を生成する。これにより、かご5内のどこでも聞こえ方が変わらないサラウンド効果を得る。すなわち、指向性制御部32は、スピーカーユニット23の放射面23aから放射される音波の放射角度に基づいて、音波の指向性を制御する。
はじめに、指向性制御部32において行われる同相リニアフェイズ制御の原理について説明する。一般に、信号を忠実に伝送するためには、信号の位相特性が周波数に対して直線的に変化する、いわゆるリニアフェイズ特性が要求される。リニアフェイズ特性を得るために、一般的には、リニアフェイズ回路が用いられている。指向性制御部32においても、リニアフェイズ回路を用いて、リニアフェイズ特性を得る。但し、指向性制御部32においては、リニアフェイズ回路に、例えば遅延回路を追加して、音波の放射角度毎に、スピーカーユニット23からの放射音方向を時間軸で制御する。
図14は、2つのスピーカーユニット23Rおよび23Lが一定距離dを隔てて配置されている場合を示すモデル図である。図14において、角度αは、スピーカーユニット23の中心軸に対するマイクロフォン40の傾き角度である。このとき、スピーカーユニット23Rおよび23Lのそれぞれとマイクロフォン40との間の距離差ΔLは、ΔL=dsinαで計算される。距離差ΔLは、位相差として音放射パターンに影響を与える。そのため、スピーカーユニット23Rおよび23Lからの音圧の位相差Δφは、Δφ=φR-φL+360°×d×sinα/λとなる。ここで、λは波長、φRはスピーカーユニット23Rの位相、φLはスピーカーユニット23Lの位相である。このとき、音圧が加算されて極大となる部分と、音圧が打ち消し合って極小となる部分とが発生するので、結果的に、例えば図15に示すような合成音圧72の音放射パターンが得られる。
図15は、2つのスピーカーユニット23Rおよび23Lで作られる合成音圧72の音放射パターンを示すモデル図である。図15から明らかなように、合成音圧72のピーク方向は、中心軸から角度βだけスピーカーユニット23L側にずれている。図14に示す位置にマイクロフォン40が設置されていると仮定すると、合成音圧72の音放射方向は不適となり、最適な音響再生が得られない。
そこで、指向性制御部32は、スピーカーユニット23Rおよび23Lからの放射音方向を時間軸で制御し、位相を合わせた放射音を作成する。そのために、指向性制御部32は、マイクロフォン40の角度を変えて、スピーカーユニット23Rおよび23Lから試験音を流す。そして、角度ごとの放射音方向を測定する。試験音としては、インパルスレスポンスを用いる。
図16は、実施の形態1に係る音響システム13に設けられた指向性制御部32における試験音を流す状態を示す図である。図16(a)~(d)に示すように、まず、乗客モデル42にマイクロフォン40Rおよび40Lを装着する。その状態で、乗客モデル42を、図16(a)~(d)に示すように、90°ずつ回転させる。このようにして、図16(a)~(d)の4つの状態で、マイクロフォン40Rおよび40Lで、スピーカーユニット23Rおよび23Lから放射される試験音を計測する。また、これらの4つの状態に限らず、図16(a)~(d)以外の別の指向角度に乗客モデル42を設置して試験音を計測するようにしてもよい。
指向性制御部32は、当該計測結果を指向角度ごとに、記憶装置39に予め記憶しておき、当該計測結果に基づいて、指向角度ごとに位相を時間軸で制御する。図17は、実施の形態1に係る指向性制御部32による、第1指向角度Pの位相信号の制御前と制御後とを示す図である。図17(a)が制御前の位相信号80を示し、図17(b)が制御後の位相信号81を示す。図17は、例えば0°から90°の場合を例に挙げている。図17において、横軸は時間、縦軸は位相信号の電圧である。指向性制御部32は、図17(a)に示す位相信号80を、矢印Eで示すように、特定の遅延時間だけシフトさせて、図17(b)に示す位相信号81に変換している。具体的には、図17(a)に示す位相信号80のピーク時を遅延させて、図17(b)に示す基準時に一致させている。なお、この特定の遅延時間は、上記の図16(a)~(d)で示す試験音の計測結果に基づいて、指向角度ごとに決定される時間である。また、遅延処理には、例えば遅延回路52(図19参照)を用いる。
図18は、実施の形態1に係る指向性制御部32による、第2指向角度Qの位相信号の制御前と制御後とを示す図である。図18(a)が制御前の位相信号82を示し、図18(b)が制御後の位相信号83を示す。図18は、例えば90°から180°の場合を例に挙げている。図18において、横軸は時間、縦軸は位相信号の電圧である。指向性制御部32は、図18(a)に示す位相信号82を、矢印Fに示すように、特定の遅延時間だけシフトさせて、図18(b)に示す位相信号83に変換している。但し、図18の例では、特定の遅延時間だけ遅延させた結果、矢印Fで示されるように、時間軸のマイナスの方向にシフトされている。従って、具体的には、図18(a)に示す位相信号82のピーク時を、特定の遅延時間に相当する時間だけ早まらせて、図18(b)に示す基準時に一致させている。なお、この特定の遅延時間は、上記の図16(a)~(d)で示す試験音の計測結果に基づいて、角度ごとに決定される時間である。
図17(b)の制御後の位相信号81と、図18(b)の制御後の位相信号83とを比較すると、2つの位相信号81および83のピーク時が、いずれも基準時に一致していることがわかる。このように、指向性制御部32は、スピーカーユニット23の放射面23aから放射される音波の指向方向と、マイクロフォン40の設置方向とが成す角度に基づいて、音波の音圧のピーク時を基準時に一致させる制御を行う。これにより、かご5内のどこでも聞こえ方が変わらないサラウンド効果を得ることができる。なお、ここでは、すべての位相信号のピーク時を基準時に一致させると説明したが、その場合に限定されない。例えば、いずれか一方のピーク時を、他方のピーク時に一致させてもよい。すなわち、例えば、図17(a)の位相信号80のピーク時を、図18(a)の位相信号82のピーク時に一致させてもよい。
図19は、実施の形態1に係る指向性制御部32の構成の一例を示す図である。図19に示すように、リニアフェイズ回路は、低域通過フィルタ50と、減算器51とから構成されている。図19に示すように、入力信号は2分岐され、一方の信号は、低域通過フィルタ50を通過して出力される。他方の信号は、減算器51に入力される。減算器51は、当該他方の信号から、低域通過フィルタ50を通過した後の信号を減算する。これがリニアフェイズ回路の基本的な動作である。指向性制御部32は、リニアフェイズ回路に、図19に示すように、遅延回路52を追加している。遅延回路52は、指向性制御部32によって決定された角度ごとの遅延時間分だけ、信号を遅延させて出力する。
[遅延制御部33]
遅延制御部33について説明する。遅延制御部33は、周波数毎の伝搬時間の遅延による音質の劣化を無くすために、全周波数の音が乗客に同時に届くように、リニアフェイズ制御を行う。すなわち、遅延制御部33は、スピーカーユニット23の放射面23aから放射される音波の周波数に由来する伝搬時間の遅延を制御する。具体的には、遅延制御部33は、音波の周波数ごとの伝搬時間を予め記憶装置39に記憶しておく。遅延制御部33は、複数の周波数の音波を放射面23aから放射するときに、音波の周波数ごとの伝搬時間に基づいて、複数の周波数の音波の位相のピークが一致するように、それらの音波の放射時刻を制御する。
音は、周波数毎に伝搬時間が変化することが知られている。
図20は、実施の形態1に係るマイクロフォン40Rまたは40Lで受信された音の波形を示した図である。図20において、横軸は時間、縦軸は位相である。図20に示すように、周波数が1kHzの音の波形60に比べて、周波数が500Hzの音の波形61の方が遅延して、マイクロフォン40に到着している。すなわち、波形60の伝搬時間62の方が、波形61の伝搬時間63より短い。
遅延制御部33は、試験音をスピーカーユニット23から流してマイクロフォン40で受信することで、周波数毎の音の伝搬時間を測定し、記憶装置39に予め記憶する。遅延制御部33は、周波数が異なる全ての音が同時に届くように、それらの音の伝搬時間が一致するように制御する。具体的には、波形60の音を、伝搬時間63と伝搬時間62との時間差Δtだけ遅延させて、スピーカーユニット23から放出する。その結果、図21に示すように、波形60のピーク値の時刻と、波形61のピーク値の時刻とが一致する。図21は、実施の形態1に係る遅延制御部33から出力される波形を示す図である。
遅延制御部33では、図20の2つの波形から、図21に示す2つの波形を得るために、以下の処理を行う。
まず、図4の位置に2つのスピーカーユニット23を設置する。遅延制御部33は、スピーカーユニット23から試験音を流し、マイクロフォン40Rおよび41Lで当該試験音を受信する。試験音は、ホワイトノイズを用いる。遅延制御部33は、音の周波数を一定幅毎に順に変化させ、周波数毎の音の伝搬時間を計測する。スピーカーユニット23から試験音を再生する順序は、スピーカーユニット23Rのみ、スピーカーユニット23Lのみ、スピーカーユニット23Rと23Lとの両方の順である。このように、スピーカーユニット23の個数が2個の場合には、順番に片側毎に試験音を再生し、最後に両側から試験音を同時再生させる。当該再生により、各スピーカーユニット23が試験音を別々に放射したときのかご5内の放射特性の情報と、全てのスピーカーユニット23が試験音を同時放射したときのかご5内の放射特性の情報とが取得できる。
このようにして試験音を再生した結果、例えば、図20の2つの波形60および61が得られる。また、当該2つの波形60および61に基づいて、波形60に対する波形61の遅延時間として時間差Δtが求められる。遅延制御部33は、周波数毎に時間差Δtを求めて、記憶装置に記憶する。
また、遅延制御部33は、時間差Δtに基づいて、図21に示すように、まず、波形61の音をスピーカーユニット23から放出する。遅延制御部33は、その後、時間差Δtだけ遅延させて、波形60の音をスピーカーユニット23から放出する。これにより、図21に示すように、波形60のピーク値の時刻と、波形61のピーク値の時刻とが一致する。
なお、図20および図21では、説明を分かりやすくするために、2つの周波数、すなわち、1kHzと500Hzとを例に挙げて説明した。しかしながら、実際の処理としては、一定幅の周波数帯域ごとに、音の放射時刻を制御する。一定の周波数帯域は、例えば、1/3オクターブである。しかしながら、一定の周波数帯域は、これに限定されるものではなく、任意に設定可能である。
また、遅延制御部33の構成は、例えば、図19に示した指向性制御部32の構成と同様にすればよい。すなわち、遅延制御部33は、リニアフェイズ回路に、図19に示すように、遅延回路52を追加して構成される。遅延回路52は、遅延制御部33によって決定された時間差Δtだけ、信号を遅延させて出力する。
このように、遅延制御部33は、周波数帯域毎の音の伝搬時間を予め計測する。遅延制御部33は、周波数帯域毎に、当該伝搬時間に基づいて、スピーカーユニット23から音を放出させる時刻を制御する。これにより、全周波数帯域の音が利用者に同時に届くようになり、周波数帯域毎の伝搬時間の遅延による音質の劣化を無くすことができる。
[残響時間制御部34]
残響時間制御部34について説明する。残響時間制御部34は、かご5の空間容積および側板5aの表面の材質などに基づいて、残響時間を短縮させる時間長を、予め決定する。残響時間制御部34は、音波の波形から、当該時間長の部分の波形を削除する。このようにして、残響時間制御部34は、スピーカーユニット23から放射された音波がかご5の側板5aで反射することで発生するエコーの残響時間を制御する。
かご5は、立方体または直方体の形状を有している。また、かご5の側板5aは、金属壁、あるいは、化粧用の不織布などの布材が貼り付けられた金属壁である。かご5の側板5aの表面は平らな面となっており、特に凹凸部分も設けられていない。なお、以下では、側板5aが金属むきだし状態の金属壁で構成されている場合を「金属壁面」とよび、側板5aが、化粧用の不織布が貼り付けられた金属壁で構成されている場合を「不織布貼壁面」と呼ぶ。
そのため、スピーカーユニット23から放射された音は、互いに対向している側板5aで反射される。また、側板5aが「金属壁面」の場合には、対向している側板5a同士で、音の反射が繰り返され、その反射時間は長くなる。そのため、音の残響時間が長い。一方、側板5aが「不織布貼壁面」の場合には、不織布による吸音効果で、音の残響時間は短い。さらに、側板5aが「不織布貼壁面」の場合には、当該吸音効果が、或る周波数帯域の音の音圧レベルを、必要以上に低減させてしまうという問題もある。具体的には、図27の波形68で示されるように、周波数が1kHz以上の周波数帯域において、音圧レベルが必要以上に低減する。これに対する対策の一例である減衰音補償処理については後述する。
また、かご5の空間容積は、エレベータ毎に異なる。
そのため、残響時間制御部34は、かご5の音の残響時間を予め測定し、その時間成分から周波数特性を分析し、かご5内の状態を把握する。また、残響時間制御部34は、残響時間を音の伝搬時間として利用することで、音の広がり感に適用させる。
例えば、かご5内の環境は、例えば、大きく3つの仕様に分類することができる。高さ方向は2.5m~3m以内に設定されることが一般的である。実際のかご5に音響システムを設置した後の音場制御時における音の広がり感の設定を簡素に選定することもできる。かご5内の空間を大中小のような3要素に分けて、大きさに応じた残響時間を利用する音場制御方式を選定するようにしても良い。
実施の形態1では、例えば、かご5を、以下の3仕様に分類する。
・仕様A:容積5m3以下、金属壁面 →この場合の残響時間は0.5秒以下
・仕様B:容積5m3以下、不織布貼壁面 →この場合の残響時間は0.25秒以下
・仕様C:容積10m3以下、金属壁面 →この場合の残響時間は0.8秒以下
図22は、実施の形態1に係る仕様Aの場合のマイクロフォン40で計測した音の波形を示す図である。図23は、実施の形態1に係る残響時間制御部34から出力される音の波形を示す図である。残響時間制御部34は、図22の波形から、仕様Aに対応する時間長の残響時間を削除することで、図23の波形を得る。
また、図24は、実施の形態1に係る仕様Bの場合のマイクロフォン40で計測した音の波形を示す図である。図25は、実施の形態1に係る仕様Cの場合のマイクロフォン40で計測した音の波形を示す図である。残響時間制御部34は、図24および図25の波形に対しても、図23の波形に対して行う処理と同様の処理を行う。すなわち、残響時間制御部34は、図24および図25の波形から、仕様Bおよび仕様Cに対応する時間長の残響時間をそれぞれ削除することで、図23の波形を得る。
残響時間制御部34は、図22、図24および図25の各波形から、図23の波形を得るために、以下の処理を行う。
残響時間制御部34は、仕様A、BおよびCのかご5内で、試験音をスピーカーユニット23から流してマイクロフォン40で受信することで、かご5の仕様A、BおよびC毎の音の残響時間を測定し、記憶装置39に予め記憶する。試験音は、ホワイトノイズを用いる。また、残響時間制御部34は、仕様A、BおよびCのすべてで試験を行う必要はなく、実際にスピーカーユニット23が設けられているかご5でのみ試験を行ってもよい。
各仕様A、BおよびCにおいて、スピーカーユニット23の設置位置は、図4に示す位置とする。また、かご5の床板5bから1.6~1.8mの範囲内で、残響時間を含む再生周波数を計測する。
図26は、実施の形態1に係る音響システム13に設けられた残響時間制御部34における試験音を流す状態を示す図である。図26(a)~(c)に示すように、まず、乗客モデル42にマイクロフォン40Rおよび40Lを装着する。その状態で、乗客モデル42を、図26(a)に示すように、かご5の中央部分に設置して、1回目の試験を行う。次に、図26(b)に示すように、乗客モデル42を、かご5の右寄り部分に移動させて、2回目の試験を行う。最後に、図25(c)に示すように、乗客モデル42を、かご5の左寄り部分に移動させて、3回目の試験を行う。このようにして、図26(a)~(c)のそれぞれが示す3つの状態で、マイクロフォン40Rおよび40Lで、スピーカーユニット23Rおよび23Lから放射される試験音を計測する。また、これらの3つの状態に限らず、図26(a)~(c)以外の別の位置に乗客モデル42を設置して試験音を計測するようにしてもよい。また、図3に示すように、必要に応じて、乗客モデル42にマイクロフォン41Rおよび41Lをさらに装着するようにしてもよい。
このように、複数回の試験を行うことで、かご5内の位置毎の音響特性の違いを把握することができる。
しかしながら、かご5は、立方体の閉ざされた空間のために、乗客がどこにいても、側板5aでの反射が含まれた伝搬特性を浴びることになる。そのため、側板5aが金属壁面の場合には、幸いにも、かご5内の音響特性は、かご5の中央部分での音響特性の分析結果だけで、音場制御特性を作りこんでも良い結果が得られる。従って、側板5aが金属壁面の場合には、図26(a)の状態の試験のみでもよい。
しかしながら、側板5aが不織布貼壁面の場合は、音の反射が少ない上に、不織布による吸音効果によって、かご5内の音響特性は、高周波帯域が減衰してしまう特性傾向になる。よって、側板5aが不織布貼壁面の場合は、少なくとも、図26(a)~(c)の3つの状態で試験を行って、音響特性の違いを把握して、スピーカーユニット23からの放射特性を制御することが必要となる。
図26(a)~(c)の各状態において、片チャンネルに、2つ以上の音伝搬方向が計測できるマイクロフォン40を装着して、バイノーラル測定を行う。人間の耳は2つあり、スピーカーユニット23からの音が、直接音、間接音、および、クロス音として、両耳に到達する。なお、間接音とは、反射音である。バイノーラル測定によって、これらの音成分を計測する。その結果、これらの音成分が、伝搬時間の違いとなって計測される。
例えば、1kHzの単一周波数音を放射した場合の測定位置/壁面条件別での伝搬時間の違いを示す。左右のマイクロフォン40へ直接音は短時間で入射し、間接音は、直接音よりも遅く入射する。このとき、当然に、左右のマイクロフォン40Rおよび40Lに入射する時間差もある。
基本的に、以下の伝搬特性が計測される。
(a)間接音は、直接音よりも遅く入射する。
(b)クロス音RLとクロス音LRとの間に伝搬時間の差がある。
上述したように、伝搬特性制御部31の制御により、クロス音の後に、直接音が放射される。ここで、クロス音の後に放射する直接音は、かご5内の残響時間によって調整される。上述したように、音の残響時間は、かご5の仕様によって変化し、大きくは、上記仕様A~Cの3種類に分けられる。
図22に示すように、仕様Aの場合は、残響時間は、0.5秒以下である。
図24に示すように、仕様Bの場合は、残響時間は、0.25秒以下である。このように、仕様Bの場合は、仕様Aに比べて、残響時間が短くなる。また、仕様Bの場合は、その周波数特性として、図27の波形68のように、1kHzよりも高い周波数成分の音圧レベルが減衰する傾向を示す。そのため、実施の形態1では、仕様Bの場合は、伝搬特性制御部31の制御により、クロス音と直接音との時間差を、0.05s以内に調整する。この時間以上に時間差を生じさせると、クロス音の反射が壁面で再度発生することになる。その結果、壁面反射による音の逆位相関係が発生して、音の逆位相成分による違和感が出てくる。そのため、クロス音と直接音との時間差は、0.05s以内に調整される。
仕様Bの場合は、上述したように、1kHzよりも高い高周波成分が減衰する。そのため、残響時間制御部34は、聴感的に音質感を得られるように、図27に示すように、イコライザ処理によって、減衰した周波数特性の音圧レベルを増加させる処理を行う。図27は、実施の形態1に係る残響時間制御部34による減衰音補償処理を示す図である。図27において、横軸は周波数、縦軸は音圧レベルである。また、図27において、矢印Cは、イコライザ処理による音圧レベルの増加分を示す。これにより、波形68において減衰した音成分を再現して、波形69を得ることができる。
以上のように、実施の形態1に係る音響システム13においては、クロス音及び直接音の時間差放射、角度毎および周波数毎の位相制御、および、残響時間制御を行う。これにより、かご5内の音の広がり感を制御することができ、かご5内の狭い環境を広い室内空間であるかのような錯覚を乗客に与えることができる。このように、実施の形態1に係る音響システム13においては、スピーカーユニットの個数を抑えながら、かご5の内部全体に立体的な音場環境を形成し、音質の向上を図ることができる。その結果、広い室内空間として使われることの多い例えば教会または競技場のようなリバーブ的な音環境を作り出すことができる。
また、実施の形態1では、基本的な構成として、2個のスピーカーユニット23を左右側に配置している。これにより、乗客の左右から音が放射されるので、より自然な音場を乗客が感じることができる。
実施の形態1では、音響システム13が、立体的な音場環境を形成するため、乗客が狭いかご5内の空間に居ながら、広空間にいる疑似体験を味わうことができる。実施の形態1では、乗客は、かご5に乗車すると同時に、空間の広がりを聴覚的に感じることができる。そのため、かご5内の狭い環境下で、見知らぬ人と同乗するときのストレスを低減することができる。
また、図7に示すように、1つのスピーカーキャビネット20内に、複数のスピーカーユニット23を装着してもよい。その場合には、各スピーカーユニット23ごとに放射する音の周波数帯域を変化させることができ、種々の周波数帯域を細かく放射することができる。その結果、広い周波数帯域を1つのスピーカーキャビネット20でカバーすることができる。そのため、音響システム13の音質を、容易に、さらに向上させることができる。
実施の形態2.
図28は、実施の形態2に係る音響システム13の構成を示す上面図である。正面図については、上記の図3と基本的に同じになるため、ここでは、図3を参照することとする。
図4と図28とを比較すると、図28においては、スピーカーユニット23Rおよび23Lが、Z方向(かご5の奥行き方向)の中央部分よりも奥側寄りに配置されている。ここでは、かご5内で、かご扉5dが設けられている側を「前側」と呼び、前側に対向している側を「後側」と呼ぶこととする。
他の構成については、実施の形態1と同様であるため、ここでは、その説明を省略する。
図28に示すように、実施の形態2においても、実施の形態1と同様に、スピーカーユニット23の放射面23aは、かご5の左右の側板5aに対向するように配置されている。すなわち、放射面23aは、空隙11に面している。また、放射面23aは、吊り天井10の側面10aの辺に沿って配置されている。従って、放射面23aのX方向(かご5の幅方向)の位置は、吊り天井10の側面10aのX方向の位置と一致またはほぼ一致している。このように、放射面23aは、吊り天井10の側面10aと同じ平面内に配置されている。
上記の実施の形態1で説明したように、吊り天井10の側板とかご5の側板5aとの間には、第1距離Dの空隙11がある。図28に示すように、スピーカーユニット23から放射される音は、矢印A方向に、放射面23aから放射される。その後、当該音は、かご5の側板5aで反射されて、反射音となる。反射音は、図28に示すように、矢印B方向に進む。このように、実施の形態2においても、実施の形態1と同様に、かご5の側板5aの反射を利用して、吊り天井10から乗客に対して音放射を行う「間接的な音放射」を行っている。
以上のように、実施の形態2に係る音響システム13は、実施の形態1と基本的に同様の構成を有しているため、実施の形態1と同様の効果が得られる。
実施の形態3.
図29は、実施の形態3に係る音響システム13の構成を示す上面図である。正面図については、上記の図3と基本的に同じになるため、ここでは、図3を参照することとする。
図4と図29とを比較すると、図29においては、4つのスピーカーユニット23R-1、23R-2、23L-1、23L-2が設けられている。スピーカーユニット23R-1および23L-1は、Z方向の中央部分よりも後ろ寄りに配置されている。一方、スピーカーユニット23R-2および23L-2は、Z方向の中央部分よりも前寄りに配置されている。
スピーカーユニット23R-1とスピーカーユニット23R-2とは、吊り天井10のZ方向の中央部分を中心にして一定の第2距離D2だけ離して配置されている。同様に、スピーカーユニット23L-1とスピーカーユニット23L-2とは、吊り天井10のZ方向の中央部分を中心にして一定の第2距離D2だけ離して配置されている。なお、ここでは、第2距離D2を、スピーカーユニット23間の距離としているが、その場合に限定されない。第2距離D2は、スピーカーキャビネット20の筐体25間の距離でもよい。
他の構成については、実施の形態1と同様であるため、ここでは、その説明を省略する。
図29に示すように、実施の形態3においても、実施の形態1と同様に、スピーカーユニット23の放射面23aは、かご5の左右の側板5aに対向するように配置されている。また、放射面23aは、吊り天井10の側面10aの辺に沿って配置されている。従って、放射面23aのX方向(かご5の幅方向)の位置は、吊り天井10の側面10aのX方向の位置と一致またはほぼ一致している。
上記の実施の形態1で説明したように、吊り天井10の側板とかご5の側板5aとの間には、第1距離Dの空隙11がある。図29に示すように、4つのスピーカーユニット23から放射される音は、矢印A方向に、放射面23aから放射される。その後、当該音は、かご5の側板5aで反射されて、反射音となって、かご5内に放射される。このように、実施の形態3においても、実施の形態1と同様に、かご5の側板5aの反射を利用して、吊り天井10から乗客に対して音放射を行う「間接的な音放射」を行っている。
以上のように、実施の形態3に係る音響システム13は、実施の形態1と基本的に同様の構成を有しているため、実施の形態1と同様の効果が得られる。また、実施の形態3においては、スピーカーユニット23の個数が、実施の形態1よりも多いので、さらに、高音質で立体的な音場環境を形成することができるので、擬似的な広空間をより体感することができる。
実施の形態4.
図30は、実施の形態4に係る音響システム13の構成を示す正面図である。図31は、実施の形態4に係る音響システム13の構成を示す上面図である。
図4と図31とを比較すると、図31においては、4つのスピーカーユニット23R-1、23R-2、23L-1、23L-2が設けられている。また、上記の図4においては、スピーカーユニット23が、かご5の左右の側板5aに対向して設けられていた。しかしながら、図31では、4つのスピーカーユニット23R-1、23R-2、23L-1、23L-2が、かご5の前後の側板5aに対向して設けられている。
さらに詳細に説明する。2つのスピーカーユニット23R-1および23L-1が、かご5の後側の側板5aに対向して設けられている。スピーカーユニット23R-1とスピーカーユニット23L-1とは、吊り天井10のX方向の中央部分を中心にして一定距離だけ離して配置されている。当該一定距離は、例えば、図29に示した第2距離D2と同じでよい。また、他のスピーカーユニット23R-2および23L-2が、かご5の前側の側板5aに対向して設けられている。従って、スピーカーユニット23R-2および23L-2の放射面23aは、図30に示すように、かご扉5d側に向く方向に配置されている。スピーカーユニット23R-2とスピーカーユニット23L-2とは、吊り天井10のX方向の中央部分を中心にして一定距離だけ離して配置されている。当該一定距離は、例えば、図29に示した第2距離D2と同じでよい。
他の構成については、実施の形態1と同様であるため、ここでは、その説明を省略する。
図31に示すように、実施の形態3においても、実施の形態1と同様に、スピーカーユニット23の放射面23aのそれぞれは、かご5の側板5aに対向するように配置されている。また、放射面23aのそれぞれは、吊り天井10の側面10aの辺に沿って配置されている。従って、各放射面23aのZ方向(かご5の奥行き方向)の位置は、吊り天井10の側面10aのZ方向の位置と一致またはほぼ一致している。
上記の実施の形態1で説明したように、吊り天井10の側板とかご5の側板5aとの間には、第1距離Dの空隙11がある。図31に示すように、4つのスピーカーユニット23から放射される音は、矢印A方向に、放射面23aから放射される。その後、当該音は、かご5の側板5aで反射されて、反射音となる。反射音は、図31に示すように、矢印B方向に進む。このように、実施の形態4においても、実施の形態1と同様に、かご5の側板5aの反射を利用して、吊り天井10から乗客に対して音放射を行う「間接的な音放射」を行っている。
以上のように、実施の形態4に係る音響システム13は、実施の形態1と基本的に同様の構成を有しているため、実施の形態1と同様の効果が得られる。また、実施の形態4においては、スピーカーユニット23の個数が、実施の形態1よりも多いので、さらに、高音質で立体的な音場環境を形成することができるので、擬似的な広空間をより体感することができる。
実施の形態5.
図32は、実施の形態5に係る音響システム13の構成を説明のために模式的に示した正面図である。図33は、実施の形態5に係る音響システム13の構成を示す上面図である。
実施の形態5では、図33に示すように、4つのスピーカーユニット23R-1、23R-2、23L-1、23L-2が設けられている。図33では、4つのスピーカーユニット23R-1、23R-2、23L-1、23L-2のうち、2つのスピーカーユニット23R-2および23L-2が、かご5の前側の側板5aに対向して設けられている。また、他の2つのスピーカーユニット23R-1および23L-1が、かご5の床板5bに対向して設けられている。従って、スピーカーユニット23R-1および23L-1の放射面23aは、図32に示すように、かご5の床板5bに対向して配置されている。
さらに詳細に説明する。図33に示すように、前側の2つのスピーカーユニット23R-2および23L-2が、かご5の前側の側板5aに対向して設けられている。スピーカーユニット23R-2とスピーカーユニット23L-2とは、吊り天井10のX方向の中央部分を中心にして一定距離だけ離して配置されている。当該一定距離は、例えば、図29に示した第2距離D2と同じでよい。
従って、スピーカーユニット23R-2および23L-2の放射面23aのそれぞれは、かご5の側板5aに対向するように配置されている。また、放射面23aのそれぞれは、吊り天井10の側面10aの辺に沿って配置されている。従って、各放射面23aのZ方向(かご5の奥行き方向)の位置は、吊り天井10の側面10aのZ方向の位置と一致またはほぼ一致している。
上記の実施の形態1で説明したように、吊り天井10の側板とかご5の側板5aとの間には、第1距離Dの空隙11がある。図33に示すように、スピーカーユニット23R-2および23L-2から放射される音は、矢印A方向に、放射面23aから放射される。その後、当該音は、かご5の側板5aで反射されて、反射音となる。反射音は、図33に示すように、矢印B方向に進む。このように、スピーカーユニット23R-2および23L-2は、かご5の側板5aの反射を利用して、吊り天井10から乗客に対して音放射を行う「間接的な音放射」を行っている。
一方、後ろ側の2つのスピーカーユニット23R-1および23L-1は、かご5の床板5bに対向して設けられている。従って、上述したように、スピーカーユニット23R-1および23L-1の放射面23aは、図32に示すように、かご5の床板5bに対向して配置されている。なお、スピーカーユニット23R-1とスピーカーユニット23L-1とは、吊り天井10のX方向の中央部分を中心にして一定距離だけ離して配置されている。当該一定距離は、例えば、図29に示した第2距離D2と同じでよい。
図32に示すように、スピーカーユニット23R-1および23L-1の放射面23aのそれぞれは、吊り天井10の下面10bと同じ平面内に配置されている。従って、各放射面23aのY方向(かご5の高さ方向)の位置は、吊り天井10の下面10bのY方向の位置と一致またはほぼ一致している。また、スピーカーユニット23R-1および23L-1の放射面23a部分は、吊り天井10の下面10bに設けられた取付孔に嵌合されている。スピーカーユニット23R-1および23L-1の放射面23aのそれぞれは、当該取付孔から外部に露出している。従って、スピーカーユニット23R-1および23L-1の放射面23aのそれぞれから放射された音は、吊り天井10の下面10bで遮蔽されない。
図32に示すように、スピーカーユニット23R-1および23L-1から放射される音は、矢印A方向に、放射面23aから放射される。このように、スピーカーユニット23R-1および23L-1は、吊り天井10から、乗客に対して、直接的に音放射を行う「直接的な音放射」を行っている。
このように、実施の形態5においては、「間接的な音放射」と「直接的な音放射」とを混合して行っている。
他の構成については、実施の形態1~4のいずれかと同様であるため、ここでは、その説明を省略する。
以上のように、実施の形態5に係る音響システム13は、実施の形態1と基本的に同様の構成を有しているため、実施の形態1と同様の効果が得られる。また、実施の形態5においては、スピーカーユニット23の個数が、実施の形態1よりも多いので、さらに、高音質で立体的な音場環境を形成することができるので、擬似的な広空間をより体感することができる。また、実施の形態5においては、「間接的な音放射」と「直接的な音放射」の両方を行っているため、さらに、高音質で立体的な音場環境を形成することができる。
実施の形態6.
図34は、実施の形態6に係る音響システム13の構成を示す上面図である。正面図については、上記の図30と基本的に同じになるため、ここでは、図30を参照することとする。
図34に示すように、4つのスピーカーユニット23R-1、23R-2、23L-1、23L-2が設けられている。図34においては、後ろ側の2つのスピーカーユニット23R-1および23L-1は、かご5の左右の側板5aに対向して設けられている。従って、スピーカーユニット23R-1および23L-1は、互いに背面同士が対向している。スピーカーユニット23R-1および23L-1は、Z方向の中央部分よりも後ろ寄りに配置されている。
一方、前側の2つのスピーカーユニット23R-2および23L-2は、かご5の前側の側板5aに対向して設けられている。スピーカーユニット23R-2とスピーカーユニット23L-2とは、吊り天井10のX方向の中央部分を中心にして一定距離だけ離して配置されている。ここで、一定距離は、例えば、図29に示す第2距離D2と同じでよい。
他の構成については、実施の形態1~5のいずれかと同様であるため、ここでは、その説明を省略する。
図34に示すように、実施の形態6においても、実施の形態1と同様に、スピーカーユニット23の放射面23aのそれぞれは、かご5の側板5aに対向するように配置されている。また、放射面23aのそれぞれは、吊り天井10の側面10aの辺に沿って配置されている。従って、各放射面23aは、吊り天井10の側面10aと同じ平面内に配置されている。
上記の実施の形態1で説明したように、吊り天井10の側板とかご5の側板5aとの間には、第1距離Dの空隙11がある。図34に示すように、4つのスピーカーユニット23から放射される音は、矢印A方向に、放射面23aから放射される。その後、当該音は、かご5の側板5aで反射されて、反射音となる。反射音は、図34に示すように、矢印B方向に進む。このように、実施の形態6においても、実施の形態1と同様に、かご5の側板5aの反射を利用して、吊り天井10から乗客に対して音放射を行う「間接的な音放射」を行っている。
以上のように、実施の形態6に係る音響システム13は、実施の形態1と基本的に同様の構成を有しているため、実施の形態1と同様の効果が得られる。また、実施の形態6においては、スピーカーユニット23の個数が、実施の形態1よりも多いので、さらに、高音質で立体的な音場環境を形成することができるので、擬似的な広空間をより体感することができる。
実施の形態7.
図35は、実施の形態7に係る音響システム13の構成を示す正面図である。上記の図2を用いて説明したように、吊り天井10内には、照明装置5eが設けられている。実施の形態7では、照明装置5eを、図35に示すように、青空照明器具から構成する。青空照明器具は、例えば青色LEDと白色LEDとの組み合わせにより、晴れた日の澄んだ青空の色を再現する。従って、青空照明器具を設置することで、かご5の天井に天窓があるような疑似体験を乗客に与えることができる。
図36は、実施の形態7に係る照明装置5eの構成を示した断面図である。図36に示すように、ハウジング75内に、青色LED76と、白色LED77とが設けられている。また、互いに対向する2つの青色LED76の間には、導光板73が設けられている。青色LED76と導光板73とは、青空パネルを構成している。導光板73は、内部に光散乱体を備える。青色LED76から出射された光は、導光板73の端部から、導光板73に入射される。当該光は、導光板73の上面と下面とで全反射しながら、導光板73内を進む。そのときに、当該光は、導光板73の光散乱体に当たると散乱する。当該光散乱体によって、レイリー散乱が疑似される。レイリー散乱とは、大気圏に太陽光が入射した際に大気を構成している分子によって発生する現象である。光散乱体によって散乱した光は、青色光となって、導光板73の出射面73aから下方に出射される。これにより、青空が表現される。一方、白色LED77から出射された光は、フレームに設けられた発光面74から出射される。これにより、天窓から差し込む自然光が表現される。このように、照明装置5eが青空照明器具の場合には、薄型の青空パネルと、太陽光が差し込む様子を表現するフレームとで、かご5内において奥行き感のある青空と自然光とを表現することができる。
他の構成については、実施の形態1~6のいずれかと同様であるため、ここでは、その説明を省略する。
以上のように、実施の形態7に係る音響システム13は、実施の形態1と基本的に同様の構成を有しているため、実施の形態1と同様の効果が得られる。また、実施の形態7においては、照明装置5eを青空照明器具から構成するようにしたので、かご5内の乗客は、擬似的な広空間を、聴覚的および視覚的に体感することができる。