(第1の実施形態)
図1は、本発明に使用可能な、フルライン型のインクジェット記録装置1(以下、単に記録装置と言う)の内部構成図である。図において、X方向は記録媒体15の搬送方向、Y方向は記録媒体の幅方向であって記録ヘッド100における吐出口の配列方向、Z方向は重力方向をそれぞれ示している。図では、フロントドア19の一部(記録ユニットの領域)を透視した状態で示している。
フィーダユニット17内にセットされた記録媒体15は、搬送ユニット16に支持されながら+X方向に所定の速度で搬送される。搬送経路の途中には、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)及びイエロー(Y)のインクをそれぞれ吐出する記録ヘッド100K、100C、100M及び100Yがこの順に配され、記録データに従って+Z方向にインクを吐出する。記録が行われた後の記録媒体15は、スタッカトレイ20に排出されて積載される。なお、インクについては顔料インクであっても染料インクであってもよい。
記録装置1は、フロントドア19の内側に、インクタンクユニット、インク循環ユニット200(図3参照)、メンテナンスユニット91(図2参照)、制御基板等を備えている。インクタンクユニットは、記録ヘッド100に供給するためのインクを貯留するインクタンクを装着するためのユニットである。インク循環ユニット200は、インクタンクユニットと記録ヘッド100を接続する流路の途中に設けられるユニットであり、詳細については後述する。メンテナンスユニット91は、記録ヘッド100に対するメンテナンス動作を行うためのユニットである。制御基板は、記録装置1全体を制御するための電気回路が配された基板である。
フロントドア19は、装置のメンテナンスや消耗品を交換する場合に、ユーザによって開閉可能なドアである。フロントドア19を開放した状態で、ユーザは、例えば記録ヘッド100に供給するためのインクを貯留する不図示のインクカートリッジを交換することができる。
本実施形態の記録装置1は、A0サイズやB0サイズのように、比較的大判の記録媒体15に画像を記録することができ、記録ヘッド100には、このような記録媒体15の幅に相当する距離だけ、Y方向に吐出口が配列されている。なお、本実施形態において、記録媒体15は連続紙であってもよいし、カット紙であってもよい。
図2は、記録装置1における制御の構成を示すブロック図である。コントローラ30は、MPU31、ROM32、ゲートアレイ33、DRAM34を含み、インタフェース40を介して外部に接続されたホスト装置2と通信可能になっている。
ROM32は、不揮発性の記憶領域であり、MPU31が実行する制御プログラムや各種パラメータを記憶する。DRAM34は、MPU31の作業領域として利用される。ゲートアレイ33は、記録ヘッド100に対する記録データの供給制御を行うゲートアレイであり、インタフェース40、MPU31、DRAM34間のデータ転送制御も行う。
MPU31は、ROM32に記憶されているプログラムに従って、DRAM34をワークエリアとして使用しながら、装置全体を制御する。例えば、ホスト装置より、印刷ジョブが入力されると、MPU31は、受信した画像データに対し、ROM32に記憶されているプログラムに従って所定の画像処理を施し、記録ヘッド100が記録可能な記録データを生成する。そして、ヘッドドライバ50、搬送モータドライバ60、循環制御部80を制御することによって、記録媒体に画像を記録する。
ヘッドドライバ50は、記録データに従って記録ヘッド100を駆動し吐出動作を行わせる。搬送モータドライバ60は、搬送モータ70を駆動し、記録媒体を所定の速度で搬送する。循環制御部80は、加熱素子となるサブヒータ301、温度センサ302、各種ポンプやバルブを制御し、インク循環ユニット200におけるインク循環を制御する。メンテナンス制御部90は、メンテナンスユニット91を制御し、所定のタイミングで記録ヘッド100に対するメンテナンス動作を行わせる。
図3は、インク循環ユニット200と記録ヘッド100によって構成されるインク循環システムを説明するための模式図である。ここでは簡単のため、4色の記録ヘッド100のうち、1色分のインク循環システムについて説明するが、図に示すインク循環システムは、インク色ごとに用意されている。なお、インク循環システムは、基本的に図2で示した循環制御部80によって制御される。
記録ヘッド100とメインタンク2001を繋ぐ回収流路C2の途中には、負圧発生源となる第1の循環ポンプP1および第2循環ポンプP2が配されている。第1の循環ポンプP1と第2循環ポンプP2が駆動されることにより、メインタンク2001から供給流路C1を介して記録ヘッド100に供給され、記録ヘッド100から回収流路C2を介してメインタンク2001に戻る、インクの循環が形成される。記録ヘッド100では、記録データに基づいてインクの吐出動作が行われ、吐出されなかったインクが再びメインタンク2001に回収される。メインタンク2001はインクカートリッジとして取り替え可能である。
第1循環ポンプP1及び第2循環ポンプP2としては、定量的な送液能力を有する容積型ポンプが好適である。具体的には、チューブポンプ、ギアポンプ、ダイヤフラムポンプ、シリンジポンプ等が挙げられる。また、一般的な定流量弁またはリリーフ弁をポンプの出口に配備して、一定流量を確保する形態であってもよい。
メインタンク2001のインクは、メインタンク2001の鉛直下方に配されたタンク供給口2003より供給流路C1に供給され、メインタンク2001の鉛直上方に配されたタンク回収口2004より回収される。メインタンク2001には大気連通口2002が形成され、その内部は大気圧が維持されている。タンク回収口2004より回収されるインクには泡が含まれていることもあるが、泡はメインタンク内2001の気体層に回収され、大気連通口2002より外部に排出される。このため、液体層に接続するインク供給路C2には、泡が混入され難くなっている。
メインタンク2001内のインクは、記録ヘッド100による吐出動作の他、記録ヘッド100に対するメンテナンス動作によっても消費される。メインタンク2001のインクが空になった時、ユーザは、新たなメインタンク2001と交換することができる。
記録ヘッド100は、素子基板300を備えるインク吐出ユニット210と、吐出ユニット210に供給するインクの圧力を調整するための負圧制御ユニット230と、これらを互いに接続するためのインク供給ユニット220を含んでいる。素子基板300には、吐出口311及び各吐出口に対応する位置に配され、吐出口311からインクを吐出するためのエネルギを発生する記録素子323が配列されている。
負圧制御ユニット230は、第3循環ポンプP3とインク吐出ユニット210との間の供給流路C1に設けられている。負圧制御ユニット230は、インク循環システムにおけるインクの流量が、記録画像の濃度(吐出量)に応じて変動した場合であっても、インク吐出ユニット210で流れるインクの圧力を一定に維持する機能を有する。
負圧制御ユニット230を構成する2つの圧力調整機構231、232としては、それらよりも下流側の流路内の圧力を、所望の設定圧を中心とする一定の範囲内に制御できればよく、特別な構成が限定されるものではない。一例として、いわゆる減圧レギュレーターと同様の機構を採用することができる。減圧レギュレーターを用いた場合には、図3のように、負圧制御ユニット230よりも上流側の流路を、第3循環ポンプP3によって加圧することが好ましい。これにより、メインタンク2001とインク吐出ユニット210の間の水頭圧がインク吐出ユニット210に及ぼす影響を抑制して、記録装置1におけるメインタンク2001のレイアウトの自由度を高めることができる。
第3循環ポンプP3は、インク供給ユニット220の接続部224およびフィルタ221を介して圧力調整機構231及び232のそれぞれに接続される。第3循環ポンプP3は、インク吐出ユニット210の駆動時におけるインクの循環流量の範囲において、一定圧以上の揚程圧を有するものであればよく、ターボ型ポンプまたは容積型ポンプなどが使用できる。例えば、ダイヤフラムポンプなどが適用可能である。また、第3循環ポンプP3の代わりに、負圧制御ユニット230に対してある一定の水頭差をもって配置された水頭タンクも適用可能である。
負圧制御ユニット230における2つの圧力調整機構231、232には、それぞれ異なる制御圧が設定され。圧力調整機構231は、圧力調整機構232よりも高圧に設定されるため図3では「H」と記載し、圧力調整機構232は、圧力調整機構212よりも低圧に設定されるため図3では「L」と記載している。圧力調整機構231によって圧力が調整されたインクは、インク供給ユニット220を経由して、インク吐出ユニット210の第1供給口211に供給される。圧力調整機構232によって圧力が調整されたインクは、インク供給ユニット220を経由して、インク吐出ユニット210の第2供給口212に供給される。
一方、第1循環ポンプP1は第2の循環ポンプP2よりも高い圧力でインクを流し、インク吐出ユニット210の第1回収口213に接続されている。また、第2循環ポンプP2は第1の循環ポンプP1よりも低い圧力でインクを流しインク吐出ユニット210の第2回収口214に接続されている。
インク吐出ユニット210においては、第1供給口211と第1回収213を接続し、A方向にインクが流れるヘッド内共通供給流路215と、第2供給口212と第2回収口214を接続し、B方向にインクが流れるヘッド内共通回収流路216が配されている。また、吐出口が配列された複数の素子基板300が、ヘッド内共通供給流路215とヘッド内共通回収流路216に沿って配列され、夫々の素子基板300がヘッド内共通供給流路215及びヘッド内共通回収流路216に接続されている。このため、個々の素子基板300には、低負圧であることで相対的に圧力が高いヘッド内共通供給流路215から、高負圧であることで相対的に圧力が低いヘッド内共通回収流路216に向かうC方向の流れが生成される。
個々の素子基板300では、C方向に流れるインクの一部を記録データに基づいて吐出し、吐出されなかったインクはヘッド内共通回収流路216及び第2の循環ポンプP2を介して、メインタンク2001に回収される。
以上説明したインク循環システムにおいて、個々の素子基板300の各吐出口においては、吐出頻度によらずインクが循環されるため、吐出頻度が高い領域の昇温や、吐出頻度が低い領域に停留したインクが増粘するのを抑え、吐出動作を安定させることができる。
図4は、インク吐出ユニット210に配列する1つの素子基板300の積層構造を示す図である。素子基板300は、第3流路部材340、第2流路部材330、第1流路部材320、吐出口形成部材310、がこの順に積層されて構成される。
第3流路部材340は、ヘッド内共通供給流路215と接続する連通口341、343、ヘッド内共通回収流路216と接続する連通口342、344を有する。そして、連通口341、343は、第2流路部材330に形成された共通供給流路331にインクを供給し、連通口342、344は、第2流路部材330に形成された共通回収流路332よりインクを回収する。
第1流路部材320には、共通供給流路331と接続する個別供給流路321、共通回収流路332と接続する個別回収流路322、及び記録素子323が、図の左右方向に複数配列されており、個々の記録素子323の間には隔壁が形成されている。個々の記録素子323に電力を供給するための駆動回路なども、第1流路部材320に形成されている。
吐出口形成部材310には、第1流路部材320の個々の記録素子323に対向する位置に吐出口311が形成されている。吐出口形成部材310を第1流路部材320に重ねることにより、個別供給流路321から記録素子323を経て個別回収流路322に向かう、隔壁324によって分離された個別の流れが形成される。
記録素子323は、電圧を印加することによって熱エネルギを発生する電気熱変換素子である。吐出信号に応じて記録素子323に電圧が印加されると、記録素子323に接触するインク中に膜沸騰が生じ、生成された泡の成長エネルギによって記録素子323に対向する吐出口311からインクが滴として吐出される。本実施形態においては、記録素子323、個々の記録素子に対応づけられるインク流路としての圧力室325(図5(b)参照)、吐出口311によって構成される1組を、吐出素子と称する。
なお、図4では、複数の吐出素子が素子基板300の長手方向に一列に配列する形態で説明したが、吐出素子の配列はこれに限らない。長手方向に配列する吐出素子の列が短手方向に複数配列されていてもよい。また、連通口341~344の位置も図4に示した素子基板の両端部の位置に限定されるものではない。連通口の数や位置を調整することにより、共通供給流路331及び共通回収流路332において、インクが流れる距離や流路抵抗を調整することができる。
図5(a)および(b)は、吐出素子の構造を詳細に説明するための図である。図5(a)は、吐出口形成部材310を吐出口311側から見た平面透視図、同図(b)は1つの吐出素子の断面図である。
個別供給流路321から供給されたインクは、隔壁324によって形成された圧力室325を通過し、個別回収流路322に回収される。記録データに従って、記録素子323に電圧パルスが印加されると、圧力室325を流れるインク中に膜沸騰が生成され、泡の成長エネルギによって、圧力室325内のインクの一部が吐出口311より滴として吐出される。
非吐出時において吐出口311にはメニスカスが形成され、大気に曝されてインク中の液体が蒸発する箇所となる。よって、吐出頻度が低い吐出口311ではメニスカスが大気に曝されている時間が長くなり、インクの粘度上昇が懸念される。しかし、本実施形態においては、圧力室325内の流れに伴ってメニスカス近傍のインクも流れるため、個々の吐出口311では、その吐出頻度によらず、インクの粘度上昇を抑制することができる。
図6(a)および(b)は、インク吐出ユニット210及び素子基板300における、サブヒータ、温度センサ及び基板流入口、基板流出口のレイアウトを示す図である。ここでは、吐出口311、記録素子323のような吐出素子を構成する要素は省略して示している。
既に説明したように、インク吐出ユニット210には長手方向(Y方向)に複数の素子基板300が配列されている。本実施形態において、個々の素子基板300は合同の平行四辺形を呈している。個々の素子基板300は、40個(縦4、横10)の領域に分割され、図6(a)に示すように、分割領域のそれぞれにサブヒータ301と温度センサ302が配されている。サブヒータ301は、素子基板300の温度を分割領域ごと加熱するためのものであり、ここでは電気熱変換素子を利用する。吐出エネルギを発生するための記録素子323とは異なるヒータである。一方、図6(b)に示すように、1つの素子基板300には、数個ずつの基板流入口401と基板流出口402が設けられている。本図における基板流入口401と基板流出口402は、図4に示した複数の連通口341~344に相当する。インクは、基板流入口401より素子基板300内に流入し、基板流出口402より流出する。なお、基板流入口401と基板流出口402の数や位置は、図に示した形態に限定されるものではない。
記録装置1が記録動作を行う場合、素子基板300はサブヒータ301によって吐出動作に適した温度に調整される。一方、インク循環システムにおけるインク吐出ユニット210にあるインク以外のインク温度は、環境温度とほぼ等しく、吐出動作に適した温度よりも低い。よって、基板流入口401より流入されたインクは素子基板300を流れる間に徐々に加熱され、基板流出口402より流出されたインクは循環経路を流れる間に徐々に冷却される。このため、基板流入口401が配されたブロックは温度が上がり難く、当該ブロックのサブヒータ301の加熱効率は他のブロックに比べて低くなる傾向がある。本実施形態において、基板流入口401および基板流出口402の数や位置は、素子基板300全体の加熱効率を考慮して定めることが好ましい。
インク循環制御部80は、個々のブロックに配された温度センサ302より検出した温度に基づいて、個々のブロックに配されたサブヒータ301を駆動したり循環ポンプP1、P2、P3を駆動したりして、インク循環システム全体を制御する(図2、図3参照)。
図7は、インク吐出ユニット210を所定の目標温度T0に保つために、本実施形態のコントローラ30が実行する保温制御を説明するためのフローチャートである。本処理は、コントローラ30に含まれるMPU31が、ROM32に記憶されているプログラムに従って、DRAM34をワークエリアとしながら実行する(図2参照)。以下、フローチャートの各工程を、図6(a)を参照しながら説明する。
本処理が開始されると、コントローラ30は、まずS1において、インク吐出ユニット210に配列する複数の分割領域の中から、注目する分割領域(以下、注目分割領域と言う)を1つ設定する。
S2において、コントローラ30は、注目分割領域の温度センサ302の検出温度tを取得する。
S3において、コントローラ30は、S2で取得した検出温度tと目標温度T0との差分Δtを算出する。
S4において、コントローラ30は、S3で算出したΔtに基づいてサブヒータランクSHを選択する。サブヒータランクSHとは、サブヒータ301を駆動するために付与するエネルギの大きさを示すパラメータである。サブヒータランクSHが0のとき、サブヒータ301に印加するパルス幅は0となる。サブヒータランクSHが大きくなるほど、サブヒータ301に印加される電圧のパルス幅は長くなる。
本実施形態では、サブヒータランクSHと差分Δtとを互いに対応づけたテーブルが予めROM32に記憶されている。S4において、コントローラ30は当該テーブルを参照することによって、差分Δtに対応するサブヒータランクSHを選択する。
S5において、コントローラ30は、サブヒータランク補正値を取得する。サブヒータランク補正値とは、サブヒータ301のそれぞれについて用意された値であり、S4で選択されたサブヒータランクSHに加算(あるいは減算)することによって、サブヒータランクSHを補正するための値である。サブヒータランク補正値は、個々の分割領域の熱特性に応じて予め設定されている。
この際、熱特性は、発熱特性と放熱特性という2つの特性を含んでいる。発熱特性はサブヒータ301の製造公差に起因する抵抗ばらつきによって決まり、サブヒータ301の抵抗値が大きいほど発熱量も大きくなる。放熱特性は、素子基板300において、サブヒータ301が含まれる分割領域の位置に依存する。例えば、素子基板300の端部に位置するサブヒータ301の方が、中央に位置するサブヒータ301よりも放熱量が大きくなる。また、基板流入口401の近くに位置するサブヒータ301の方が、基板流出口402の近くに位置するサブヒータ301よりも放熱量が大きくなる。
本実施形態では、分割領域(あるいは各分割領域に対応するサブヒータ301)とサブヒータランク補正値とを互いに対応づけたテーブルが予めROM32に記憶されているものとする。コントローラ30は、S5において、当該テーブルを参照し、S1で設定された注目分割領域に対応するサブヒータランク補正値を取得する。
S6において、コントローラ30は、注目分割領域におけるサブヒータランクを決定する。具体的には、S5で選択したサブヒータランクSHに対し、S6で取得したサブヒータランク補正値を加算し、得られた値を注目分割領域のサブヒータランクSHとして決定する。
S7において、コントローラ30は、S7で決定されたサブヒータランクSHを用いて、注目分割領域に含まれるサブヒータ301を駆動する。
S8において、コントローラ30は、インク吐出ユニット210に未処理の分割領域が存在するか否かを判定する。未処理の分割領域が存在する場合は、S1に戻り新たな注目分割領域を設定し、この新たな注目分割領域に対しS2~S7の処理を行う。一方、S8において、未処理の分割領域は存在しないと判定した場合は、本処理を終了する。
なお、以上説明した保温制御処理は、コントローラ30が保温制御処理の停止を判断するまで繰り返し実行される。そして、その結果としてインク吐出ユニット210全体の温度が目標温度に加熱され、維持される。例えば、記録装置1の電源をONにしたとき、インク吐出ユニット210の温度は環境温度とほぼ等しく、個々の分割領域において目標温度との差分Δtは比較的大きい。このため、保温制御処理を開始した直後は、いずれの分割領域においても比較的大きなサブヒータランクSHが設定され、サブヒータ301に大きなエネルギが付与される(加熱状態)。暫くすると、各分割領域において目標温度T0と検出温度tとの差分Δtは徐々に小さくなり、比較的小さなサブヒータランクSHが設定されるようになる(保温状態)。このように、個々のサブヒータ301に設定されるサブヒータランクSH(すなわち投与エネルギ)は、保温制御処理を開始してからの経過時間に応じて変化する。
図8は、印刷ジョブを受信した際に、本実施形態のコントローラ30が実行する処理を説明するためのフローチャートである。本処理が開始されると、コントローラ30は、まずS101において、印刷ジョブに基づいて記録データを生成する。具体的には、印刷ジョブに含まれる印刷品位、印刷速度、媒体サイズ、媒体種類、印刷枚数などの様々な印刷情報に基づき、ROM32に記憶されているプログラムに従って、受信した画像データに対し所定の画像処理を施す。これにより、記録ヘッド100が記録可能な記録データが生成される。
S102において、コントローラ30は、循環制御部80を介し、本実施形態のインク循環システムにおけるインクの循環を開始する。具体的には、循環ポンプP1~P3を駆動し、メインタンク2001と記録ヘッド100の間でインクを循環させる。これにより、インク吐出ユニット210では、図3に示す矢印A、B及びCで示す方向のインクの流れが生成される。
S103において、コントローラ30は、目標温度T0を第1温度T1に設定する。この第1温度T1は循環の効果を発現させるに適する循環用温度として設定され、所定の温度である。本実施形態において、第1温度T1とは、インク循環を好適に行うために適した温度であり、後述する吐出ユニット210が吐出動作を行うのに適した設定温度である第2温度T2(以下、記録適正温度と称する)よりも低い温度である。
S104において、コントローラ30は保温制御を開始する。すなわち、目標温度T0を第1温度T1に設定した状態で、図7で説明した一連の工程を繰り返す。
S105において、コントローラ30は、S104でインク循環を開始してから所定時間Etが経過したか否かを判定し、経過したと判定されるまでインク循環処理を継続する。ここで、所定時間Etとは、S104でインク循環を開始してから、個々の圧力室325(図5参照)において、インクの循環が滞りなく行われる状態になるために必要とされる時間である。
S105で所定時間Etが経過したと判定すると、コントローラ30はS106に進み、目標温度T0を第2温度T2(記録適正温度)に変更する。本実施形態において、第2温度(記録適正温度)とは、インク吐出ユニット210が吐出動作を行うのに適した温度であり、第1温度よりも高い温度である。S106のタイミングで、図7で説明した保温制御における目標温度T0は第1温度T1から第2温度T2に変更される。
S107において、コントローラ30は、全ての分割領域の検出温度tが、目標温度T0に到達したか否かを判定する。そして、全ての分割領域においてt≧T0が満足されるまで、保温制御を継続しながら待機する。なお、ここで言う「全ての分割領域」とは、インク吐出ユニット210に配列する全ての素子基板300の分割領域でなくてもよい。インク吐出ユニット210に配列する分割領域のうち、実際に記録動作で使用される分割領域は、S101で受信した印刷ジョブが示す記録媒体サイズによって異なる。このため、S107において、コントローラ30は、実際に記録動作で使用される分割領域の全てにおいてt≧T0が満足されるか否かを判定すればよい。
S108において、コントローラ30は記録動作を実行する。具体的には、S101で生成した記録データを、ゲートアレイ33を介してヘッドドライバ50に送信し、記録ヘッド100よりインクを吐出させる。同時に、搬送モータドライバ60を駆動して記録媒体を搬送する。これにより、記録媒体には、画像データに従った画像が形成される。
S109において、コントローラ30は、保温制御を終了する。これにより、繰り返し行われている図7で説明した保温制御工程は中断される。
S110において、コントローラ30は、循環ポンプP1~P3を停止し、インク循環システムにおけるインク循環を停止する。以上で本処理を終了する。
図9は、印刷ジョブを受信し、図8で説明した処理を行った場合の、インク吐出ユニット210の温度変化の様子を示す図である。横軸は経過時間、縦軸はインク吐出ユニット210の全体温度T、をそれぞれ示している。
印刷ジョブが入力される前、吐出ユニット210の全体温度Tは、環境温度に保たれている。印刷ジョブが入力されると、インク循環開始(S102)、目標温度(第1温度)の設定(S103)、保温制御の開始(S104)がほぼ同時に行われる。インク吐出ユニット210は、複数のサブヒータ301によって加熱され、第1温度T1に到達するとこの温度で保温される。
インクの循環を開始してから所定時間Etが経過すると、目標温度は第1温度T2に変更される(S106)。これにより、複数のサブヒータ301に付与されるエネルギは増大し、インク吐出ユニット210の全体温度Tは上昇する。やがて、インク吐出ユニット210の全体温度Tが第2温度T2に到達すると、この温度が維持された状態で記録動作が実行される(S108)。
記録動作が完了すると、保温制御及びインク循環制御は終了する(S109、S110)。これにより、サブヒータ301の駆動も停止され、吐出ユニット210の全体温度Tも再び環境温度に戻る。
本実施形態のようなインク循環システムにおいては、S102で循環ポンプの駆動を開始しても、その直後からシステムの全体でインクが滑らかに流動する訳ではない。特に、吐出口311の近傍では、インクの蒸発および増粘が多少なりとも進んでおり、この部分のインクは暫く移動しなかったり、移動したとしてもその速度は遅かったりする。サブヒータ301によってインクを加熱すればインクの粘度は下がり流動しやすくなるが、その一方で、インクの加熱は吐出口311近傍の蒸発を促進し、更に粘度を上昇させてしまう場合もある。
そこで、本実施形態のように、目標温度を低く設定し短いパルスでサブヒータを駆動しながらインク循環を行うことで、吐出口311からのインク蒸発を抑えながら、インクの粘度を適度に下げてインク循環を行うことが可能となる。そして、所定時間Etが経過しインクが好適な速度で循環する状態になった後に、目標温度を吐出動作に適した第2温度T2に切替えることにより、滑らかなインク循環と記録動作に適した温度が得られた状態で、安定した吐出動作を行うことが可能となる。
なお、印刷ジョブを受信してから印刷動作が開始されるまでの時間を短縮するために環境温度に応じて第1の温度を変更する構成をようにしてもよい。例えば第1温度T1を高く設定しておくと、第2温度T2との温度差を小さくすることができ、印刷動作が開始されるまでの時間を短縮できる。環境温度が高い場合には、低い場合と比べて同じ時間でも高い温度まで加熱することができるため、環境温度が所定温度より高い場合には、環境温度が所定温度より低い場合と比べて第1温度を高く設定するようにしてもよい。
また、所定時間Etについても同様に、環境温度に応じて変更してもよい。例えば所定時間Etを短くすることによって、印刷開始前の循環時間が短くなるので、印刷動作が開始されるまでの時間を短縮できる。環境温度が高い場合、もとよりインクは流動しやすい状態にあり、循環経路内のインクが滑らかに流動し、比較的短時間で吐出内のインクの粘度を吐出に適する状態とすることができる。よって、所定時間Etは環境温度が所定の温度より高ければ、環境温度が所定の温度であるときよりも短くしてもよい。逆に、キャリッジ移動、給紙動作などの制御によって印刷動作が開始されるまでの時間が長くなる場合には、所定時間Etを長くすることができる。所定時間Etを長くした場合には、長くインクが大気に曝されるので蒸発するインク中の液体が多くなる。そのため、第1温度T1を低く設定してインクの循環を行うようにしてもよい。
(第2の実施形態)
本実施形態においても、図1~図6で説明したインクジェット記録装置1及び記録ヘッド100を用い、図7で説明したフローチャートに従って保温制御を行う。本実施形態において、第1の実施形態と異なる点は、第1温度(循環用温度)を用意せず、インク循環を開始するタイミングで保温制御を開始しないことである。
図10は、印刷ジョブを受信した際に、本実施形態のコントローラ30が実行する処理を説明するためのフローチャートである。S201で記録データを生成すると、コントローラ30はS202においてインク循環を開始する。そして、保温制御を並行して行うことなく、S203で所定時間Etが経過するまでインク循環を継続する。
所定時間Etの経過が確認されると、S204において、コントローラ30は目標温度T0を記録動作に適した第2温度T2に設定し、S205において保温制御を開始する。以降の処理は図8で説明したフローチャートのS107以降と同じである。
図11は、印刷ジョブを受信し、図10で説明した処理を行った場合の、インク吐出ユニット210の温度変化の様子を示す図である。
印刷ジョブが入力される前、吐出ユニット210の全体温度Tは、環境温度に保たれている。印刷ジョブが入力されると、インク循環が開始される(S202)。この際、保温制御は行われないため、インク吐出ユニット210の全体温度Tは環境温度が維持されている。
インクの循環を開始してから所定時間Etが経過すると、目標温度が第2温度T2に設定され(S204)、保温制御が開始される(S205)。全体温度Tが目標温度T2に達すると、第2温度T2が維持された状態で記録動作が実行される(S207)。
その後、記録動作が完了すると、保温制御及びインク循環は終了する(S208、S209)。これにより、サブヒータ301の駆動も停止され、吐出ユニット210の全体温度Tは再び環境温度に戻る。
以上説明した本実施形態によれば、インクの保温制御を行うことなくインクの循環を行うため、第1の実施形態よりも、吐出口311からのインク蒸発を更に抑えることができる。その上で、第1の実施形態と同様、滑らかなインク循環と吐出動作に適した温度が得られた状態で、記録動作を開始することができる。すなわち、本実施形態においても、吐出口近傍におけるインクの増粘を効果的に解消し、安定した吐出動作を行うことが可能となる。
但し、本実施形態では、環境温度のまま、すなわちインクの粘度を下げないままインク循環を開始するため、インクが好適な速度で循環するようになるまでに、第1の実施形態よりも多くの時間を要することが予想される。よって、本実施形態の所定時間Etについては、第1の実施形態よりも大きな値に設定することが好ましい。
なお、第1の実施形態と第2の実施形態は、状況に応じて切替え可能な構成としてもよい。例えば環境温度が比較的低い場合は、インク循環システムに含まれるインク全体の粘度が高くなっている状況が想定される。よって、このような場合には、第1実施形態を採用し、インク全体を循環用温度に調整しながらインク循環を行うことが好ましい。一方、環境温度が比較的高い場合は、保温制御を行わなくても既にインクの粘度が低い状態にあることが想定される。よって、このような場合には、第2実施形態を採用し、保温制御を行うことなくインク循環を開始し、所定時間経過後に記録動作を行うことが好ましい。
(第3の実施形態)
本実施形態においても、図1~図6で説明したインクジェット記録装置1及び記録ヘッド100を用い、図7で説明したフローチャートに従って保温制御を行う。本実施形態において、第1の実施形態と異なる点は、記録動作の前に記録準備動作を行うことである。 図12は、印刷ジョブを受信した際に、本実施形態のコントローラ30が実行する処理を説明するためのフローチャートである。本処理が開始されると、コントローラ30は、まずS301において、受信した画像データに基づいて記録データを生成する。
S302において、コントローラ30は、記録ヘッド100における記録準備が完了しているか否かを判定する。記録準備が完了していないと判定した場合はS303に進み、記録準備が完了していると判定した場合はS310に進む。
S303において、コントローラ30は、インク循環を開始する。具体的には、循環ポンプP1~P3を駆動し、メインタンク2001と記録ヘッド100の間でインクを循環させる。
S304において、コントローラ30は、目標温度T0を第1温度T1に設定する。本実施形態における第1温度T1も、第1の実施形態と同様、記録動作に適した温度よりは低い温度とする。
S305において、コントローラ30は、保温制御を開始する。これにより、目標温度T0が第1温度に設定された状態で、図7で説明した保温制御が開始される。
S306において、コントローラ30は、全ての分割領域の検出温度tが、目標温度T0に到達したか否かを判定する。そして、全ての分割領域においてt≧T0が満足されるまで、保温制御を継続しながら待機する。なお、「全ての分割領域」については第1の実施形態と同様である。
S307において、コントローラ30は記録準備動作を実行する。具体的には、メンテナンス制御部90を介してメンテナンスユニット91を制御し、吸引回復動作、予備吐出動作、ワイピング動作のような、記録ヘッド100に対するメンテナンス動作を実行する。
S308において、コントローラ30は、S305で開始した保温制御を終了する。更に、S309において、コントローラ30は、S303で開始したインク循環を停止する。その後、S302に戻り、コントローラ30は、再び記録装置1において記録準備が完了しているか否かを判定する。S309からS302に戻った場合、コントローラ30は、記録準備は完了していると判断する。S301からS302に進んだ場合も、例えば最後のメンテナンス動作から所定時間が経過していないような場合は、記録準備は完了していると判断する。一方、最後のメンテナンス動作から所定時間が経過している場合は、記録準備は完了していないと判断する。
S310以降の処理は、第1の実施形態で説明した図8のS102~S110の工程と同様である。但し、S313において所定時間Etと比較する経過時間は、S303でインク循環を開始してからの時間ではなく、直前のS310でインク循環を開始してからの時間である。
図13は、印刷ジョブを受信し、図12で説明した処理を行った場合の、インク吐出ユニット210の温度変化の様子を示す図である。ここでは、S302における最初の判定でNoとなり2回目の判定でYesとなった場合、すなわち記録準備動作を行った後に記録動作を行った場合を示している。
印刷ジョブが入力される前、吐出ユニット210の全体温度Tは、環境温度に保たれている。印刷ジョブが入力されると、インク循環開始(S303)、目標温度(第1温度)の設定(S304)、保温制御の開始(S305)がほぼ同時に行われ、インク吐出ユニット210は、複数のサブヒータ301によって加熱される。やがて、全体温度Tが第1温度T1に到達すると、この温度を維持した状態で記録準備動作が実行される(S307)。記録準備動作が完了すると、保温制御及びインク循環は一端終了し(S308、S309)、吐出ユニット210の全体温度Tも環境温度に戻る。
その後、再度、インク循環開始(S310)、目標温度(第1温度)の設定(S311)、保温制御の開始(S312)が行われ、インク吐出ユニット210は、再び複数のサブヒータ301によって加熱される。そして、所定時間Etの経過が確認されると、目標温度は第2温度T2に変更され(S314)、全体温度Tが第2温度T2に到達すると、この温度を維持した状態で記録動作が実行される(S316)。記録動作が完了すると、保温制御及びインク循環は終了し(S317、S318)、吐出ユニット210の全体温度Tも再び環境温度に戻る。
インクジェット記録装置の記録準備動作においては、吐出口のメンテナンス効果を高めるために、吐出口近傍のインク粘度はなるべく低く抑えられていることが好ましい。本実施形態によれば、循環用温度のもとでインクを循環させながら記録動作準備を行うことができるので、上記メンテナンス効果を十分に高めることがでる。その上で、第1の実施形態と同様、滑らかなインク循環と吐出動作に適した温度が得られた状態で、記録動作を行うことができる。
但し、本実施形態において、記録準備動作中に保温制御を行うことは必須の構成ではない。記録準備動作は、保温制御を行わずインク循環を行っている最中に実行してもよい。また、記録準備動作を行った後の2回目のインク循環においては、既に1回目のインク循環によってインクがある程度流動し易くなっており、比較的短時間で好適なインク循環が得られることが予想される。よって、このような場合には、S302の1回目の判定でS310に進む場合の所定時間Etよりも、2回目の判定でS310に進む場合の所定時間Etを短く設定しても良い。
(第4の実施形態)
本実施形態においても、図1~図6で説明したインクジェット記録装置1及び記録ヘッド100を用い、図7で説明したフローチャートに従って保温制御を行う。また、本実施形態においても第3の実施形態と同様、記録動作の前に記録準備動作を行う。但し、第3の実施形態では、記録準備動作と記録動作のそれぞれについてインク循環制御と保温制御を行ったが、本実施形態ではこれら一連の動作に対して、連続したインク循環制御と保温制御を行うものとする。以下、具体的に説明する。
図14は、印刷ジョブを受信した際に、本実施形態のコントローラ30が実行する処理を説明するためのフローチャートである。本処理が開始されると、コントローラ30は、まずS401において、記録データを生成する。更に、コントローラ30は、S403において目標温度T0を第1温度T1(循環用温度)に設定し、S404において保温制御を開始する。
S405において、コントローラ30は、記録装置1において記録準備が完了しているか否かを判定し、記録準備が完了していないと判断した場合はS406に進み、記録準備が完了していると判断した場合はS408に進む。
S406において、コントローラ30は、全ての分割領域の検出温度tが、目標温度T0に到達したか否かを判定する。そして、全ての分割領域においてt≧T0が満足されるまで、保温制御を継続しながら待機する。なお、「全ての分割領域」については上記実施形態と同様である。
S407において、コントローラ30は記録準備動作を実行する。具体的には、吸引回復動作、予備吐出動作、ワイピング動作のような、記録ヘッドに対するメンテナンス動作を実行する。その後、S405に戻り、再び記録装置1において記録準備が完了しているか否かを判定する。
S408において、コントローラ30は、S402でインク循環を開始してから所定時間Etが経過したか否かを判定し、経過したと判定されるまでインク循環処理を継続する。所定時間Etが経過したと判定するとS409に進み、コントローラ30は、目標温度T0を第2温度T2(記録適正温度)に変更する。以下の工程については、上記実施形態と同様であるので説明は省略する。
図15は、印刷ジョブを受信し、図14で説明した処理を行った場合の、インク吐出ユニット210の温度変化の様子を示す図である。ここでは、S405における最初の判定でNoとなり2回目の判定でYesとなった場合、すなわち記録準備動作を行った後に記録動作を行った場合を示している。
本実施形態によれば、記録準備動作が開始される前から記録動作が開始されるまで、インク循環処理が継続的に行われている。このため、最初にS408に進んだ時点で、インク循環を開始してからの経過時間が既に所定時間Etを超えていることがある。また、記録準備動作が開始される前から目標温度が第2温度に設定されるまで、第1温度を目標温度とした保温処理が継続的に行われている。このため、記録準備動作から記録動作に移行するときに、インク吐出ユニット210の温度Tが、図13のように一時的に低下することもなく、比較的短時間で目標温度(第2温度)に到達することができる。すなわち、本実施形態によれば、第3の実施形態に比べ、印刷ジョブを受信してから実際に印刷動作が開始されるまでの時間を短縮することができる。
但し、記録準備動作の種類によっては比較的長い時間を要し、本実施形態のようにインク循環と保温制御を長期間継続すると、吐出口311からの蒸発が問題となる場合もある。よって、このような場合には、記録準備動作の種類に応じて、第3の実施形態と第4の実施形態を切替え可能な構成としてもよい。
例えば、比較的長い時間を要する記録準備動作を行う場合には、吐出口311からの蒸発を抑制することを優先し、第3の実施形態を採用すればよい。また、比較的短い時間で終了する記録準備動作を行う場合は、記録動作が開始されるまでの時間の短縮化を優先し、第4の実施形態を採用すればよい。
(その他の実施形態)
上記4つの実施形態では、全て、図1~図6で説明したインクジェット記録装置1及び記録ヘッド100を用い、図7で説明したフローチャートに従って保温制御を行うものとした。しかしながら、本発明はこのような形態のインクジェット記録装置に限定されるものではない。
例えば、サブヒータ301および温度センサ302の数や配置は、図4(a)に示す形態に限定されない。インク吐出ユニット全体の温度の検出と保温を好適に行うことができれば、温度センサとサブヒータは、個々の分割領域に1つずつ用意されなくてもよいし、これらが同数ずつ用意されなくてもよい。
また、素子基板300の配列構成や形状も、図4(a)に示す形態に限定されない。素子基板の形状は、長方形や台形等であっても良い。さらに、図6では、インク吐出ユニット210上に、素子基板300を一列に配列させたが、素子基板は2列以上に配列させてもよいし、千鳥状(長手方向と短手方向に互い違い)に配列させても良い。
また、図8、10、12及び14で示したフローチャートでは、受信した画像データに対し所定の画像処理を施して記録データを生成した後に、本発明の特徴的な保温制御やインク循環処理を開始する内容で説明した。しかしながら、本発明はこのような形態に限定されるものではない。画像処理は保温制御やインク循環処理と並行して行うこともできる。
また、以上の実施形態では、図6(a)および(b)に示すように、電気熱変換素子を記録素子として用いる形態について説明したが、記録素子としては電圧を印加すると変形するアクチュエータなど、他の形態を採用することができる。
更に、以上の実施形態では、図1に示すようなフルライン型のインクジェット記録装置を例に説明してきたが、本発明の記録装置はこれに限定されない。例えば、記録ヘッドによる記録主走査と、記録主走査と交差する方向に記録媒体を搬送する搬送動作とを交互に行うことにより、記録媒体に画像を形成するシリアル型の記録装置であっても、本発明は有効に機能する。
いずれにしても、記録ヘッドとインクタンクとの間でインクを循環させるインク循環システムを備える記録装置であれば、本発明を採用することは可能であり、本発明の効果を十分に発揮することができる。
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。