以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
〈第1実施形態〉
(モータの全体構造)
図1は、第1実施形態に係るモータを例示する断面図である。図1に示すように、モータ1は、インペラ10と、ロータシャフト20と、転がり軸受30と、軸受ハウジング40と、ステータ50と、ロータ60と、ケーシング70とを有する軸流ファンモータである。
インペラ10は、ロータハウジング11と、ロータハウジング11の外周に設けられた羽根12とを有している。インペラ10の中心には、回転軸mを有するロータシャフト20が固定されている。ロータシャフト20は、長手方向の両端近傍に配置された2つの転がり軸受30により回転可能な状態で支持されている。
転がり軸受30は、外輪31と、内輪32と、複数の転動体33とを有している。外輪31は、回転軸mを中心軸とする円筒形の構造体である。内輪32は、外輪31の内周側に外輪31と同軸状に配置された円筒形の構造体である。複数の転動体33の各々は外輪31と内輪32との間に形成される軌道内に配置された球体である。軌道内にはグリース等の潤滑剤が封入される。
転がり軸受30は、軸受ハウジング40に圧入や接着等により固定され、軸受ハウジング40に保持されている。軸受ハウジング40は、外輪31の外周面を全周に亘って押さえている。軸受ハウジング40は、例えば、真鍮等の金属により形成できる。
ステータ50は、インシュレータ51と、ステータコア52と、コイル53とを有し、軸受ハウジング40の外周に配置されている。ステータコア52は、例えば、軸受ハウジング40の外周に圧入等により固定されている。
ロータ60は、ロータハウジング11の内側に一体的に設けられたロータヨーク61と、ロータヨーク61の内側に装着されたロータマグネット62とを有している。なお、図1の例では、ロータヨーク61は、ロータハウジング11の内側に一体的に設けられているが、これには限定されず、ロータヨーク61はロータハウジング11の内側に装着されてもよい。又、ロータシャフト20は、ロータヨーク61に装着されてロータハウジング11の中心に固定されているが、ロータシャフト20はロータハウジング11に直接固定してもよい。
ケーシング70は、インペラ10の外周を覆うケーシング外枠71と、軸受ハウジング40を固定するベース部ハブ72と、ケーシング外枠71とベース部ハブ72とを連結する静翼73とを有している。
なお、図1の例では、ケーシング外枠71とベース部ハブ72とが、静翼73で連結されている場合を示しているが、ケーシング外枠71とベース部ハブ72とは、連結シャフトのような棒状の構造で連結されてもよい。
又、軸受ハウジング40は、ケーシング70を樹脂で射出成形するときに、ベース部ハブ72に一体化するように固定してもよいが、先にケーシング70を成形しておき、後からベース部ハブ72の部分に固定するようにしてもよい。
モータ1において、ステータ50とロータ60とでモータ部80が構成されており、電源部(図示せず)からコイル53に電流を供給することにより、軸受ハウジング40内に回転自在に支持されたロータシャフト20の中心軸を回転軸mとしてインペラ10が回転する。すなわち、モータ1は、所謂アウターロータ型のモータである。
モータ1において、図1の上側が吸込み口側であり、下側が吹出し口側である。従って、モータ1では、ケーシング外枠71の空気の吸込み口側にインペラ10が設けられ、吹出し口側にベース部ハブ72が設けられている。
図2は、第1実施形態に係るモータのロータシャフト近傍の部分拡大断面図である。図3は、図2のC部の部分拡大平面図である。図4は、軸受ハウジング外周部の部分拡大斜視図である。なお、図3では、転がり軸受は簡略化して図示されており、又、一部の部材の図示は省略されている。
図2~図4に示すように、ひずみゲージ100は、ステータコア52の内径よりも径方向内側(回転軸m側)に固定されている。具体的には、転がり軸受30を保持する軸受ハウジング40の外周面40aに、回転軸m側に窪む凹部40xが設けられている。そして、凹部40xに、ひずみゲージ100が接着剤等により固定されている。なお、ステータコア52の内径とは、ステータコア52において軸受ハウジング40の外周面40aに接している部分である。
図2~図4に示す例では、凹部40xは、軸受ハウジング40の外周面40aの周方向の一部に設けられている。ただし、凹部40xは、図2~図4に示す形態には限定されない。例えば、図5に示すように、凹部40xは、軸受ハウジング40の外周面40aの軸方向端部に達してもよい。また、図6に示すように、凹部40xは、軸受ハウジング40の外周面40aの全周にわたって設けられてもよい。
又、下側に配置された転がり軸受30を保持する部分の軸受ハウジング40の外周面40aに、回転軸m側に窪む凹部40xを設けてもよい。例えば、図7に示すように、凹部40xは、軸受ハウジング40の外周面40aの全周にわたって設けることができる。或いは、凹部40xは、軸受ハウジング40の外周面40aの周方向の一部に設けられてもよい。
ひずみゲージ100は、転がり軸受30のひずみ(例えば、外輪31のひずみ)を検出する抵抗体103を備えたセンサである。軸受ハウジング40の外周面40aに設けられた凹部40xにひずみゲージ100を配置することにより、転がり軸受30のひずみは、軸受ハウジング40を介してひずみゲージ100に伝わり、ひずみゲージ100で検出可能である。本実施形態では、ひずみゲージ100は、転がり軸受30のひずみを抵抗体103の抵抗値の変化として検出する。
なお、ひずみゲージ100において、抵抗体103は、長手方向(ゲージ長方向)を軸受ハウジング40の周方向に向けて配置されている。軸受ハウジング40の周方向は軸方向よりも伸縮し易いため、抵抗体103の長手方向を軸受ハウジング40の周方向に向けて配置することで、大きなひずみ波形を得ることができる。
ひずみゲージ100は、配線104を介して抵抗体103の両端に接続された一対の端子部105を有しており、各々の端子部105には、はんだ等により、配線200が電気的に接続されている。配線200は、ステータコア52の内周に設けられたノッチ52x(配線を通すための凹部)を通って、ステータコア52よりも軸方向下側、つまりモータ1の外部側に引き出されている。ノッチ52xは、例えば、回転軸mと略平行に設けられた細長状の凹部とすることができる。
なお、図2では、ひずみゲージ100と電気的に接続された配線200は、ステータコア52の内周に設けられたノッチ52xを通ってステータコア52よりも軸方向下側に引き出され、モータ1の外部に直接引き出されている。しかし、これには限定されず、ひずみゲージ100と電気的に接続された配線200は、ステータコア52の内周に設けられたノッチ52xを通ってステータコア52よりも軸方向下側に引き出され、モータ1の内部に配置された回路基板と電気的に接続されてもよい。この場合には、回路基板から別の配線がモータ1の外部に引き出される。
配線200は、コイル53等から発生する電磁ノイズの干渉を受けるため、少なくとも一部分がシールドされていることが好ましい。図2~図6に示す例では、配線200は、少なくともノッチ52xを通る部分がシールドされていることが好ましい。図7に示す例では、配線200は、少なくともモータ1の内部を通過する部分がシールドされていることが好ましい。
配線200は、例えば、同軸ケーブルであってもよいし、フレキシブル基板の少なくとも一方側にベタ状のGNDが形成された構造等であってもよい。電磁ノイズの影響を抑制する観点から、ひずみゲージ100が固定されている軸受ハウジング40は、配線200のシールド部分と同電位のGNDであることが好ましい。例えば導電性接着剤により軸受ハウジング40と配線200のシールド部分とを接着することで、両者を同電位のGNDとすることができる。導電性接着剤としては、例えば銀、ニッケル、金、銅、カーボンブラック等の粒子が接着剤中に分散したペーストが挙げられる。
なお、図7の場合には、ひずみゲージ100と電気的に接続された配線200は、例えば、凹部40xからモータ1の外部に直接引き出されるか、或いはモータ1の内部に配置された回路基板と電気的に接続される。そのため、図7の場合には、ステータコア52の内周に、ノッチ52xを設けなくてもよい。
このように、モータ1では、ひずみを検知しやすい位置であるステータコア52の内径よりも径方向内側にひずみゲージ100を配置しているため、僅かなひずみも検知できる。すなわち、転がり軸受30の外輪31が僅かでもひずんだ場合、軸受ハウジング40も同様にひずむため、この僅かなひずみを軸受ハウジング40の外周面40aに設けられた凹部40xに固定されたひずみゲージ100で検知できる。
ひずみゲージ100の端子部105間で得られたひずみ波形を、例えばFFT解析(高速フーリエ変換)することで、転がり軸受け30の状態を監視できる。よって、ひずみ波形の変化をモニタリングすることで、転がり軸受け30の異常を検知し、モータ1が回転不具合を発生する前に異常を検知することが可能となる。例えば、サーバの冷却等に用いられる軸流ファンモータは、常に動作しており、一時的にでもストップすると冷却能力が下がる。この場合、軸流ファンモータの異常を少しでも早く検知したいため、転がり軸受け30の状態をモニタリングすることは特に有効である。
又、モータ1では、軸受ハウジング40の外周面40aに設けられた凹部40xにひずみゲージ100が固定されており、ひずみゲージ100は外周面40aより外側にはみ出ることがない。そのため、軸受ハウジング40にひずみゲージ100を固定した後に、軸受ハウジング40の外周にステータコア52を圧入することが可能である。この際、ステータコア52の内周面とひずみゲージ100とは干渉しない。なお、配線200は、ステータコア52の内周に形成されたノッチ52xに通すようにする。
又、モータ1では、例えば、配線200をステータコア52の内周に形成されたノッチ52xに通し、かつ、配線200の少なくともノッチ52xを通る部分がシールドされている。この場合、図8に示すように、例えば、配線200をステータコア52の外側を通す場合(図9の比較例)と比べて、電磁ノイズの影響を大幅に抑制できる。その結果、転がり軸受け30の異常検知の精度を向上できる。
図8は、ひずみゲージ100の出力に基づいて得られた波形の一例であり、モータ1において配線200をステータコア52の内周に形成されたノッチ52xに通し、かつ、配線200の少なくともノッチ52xを通る部分がシールドされている場合の波形である。図9は、比較例であり、モータ1において配線200をステータコア52の外側を通した場合の波形である。
ひずみゲージ100の出力に基づいて得られる波形は、ひずみゲージ100の抵抗体103の直下を転動体33が通過したときに、ひずみ量(出力強度)がピークとなり、隣接する転動体33の中間点でボトムとなり、ピークとボトムを繰り返す周期的な波形になる。図8では、電磁ノイズに埋もれることなく、ピークとボトムを繰り返す周期的なひずみ波形が得られていることが確認できる。一方、図9では、電磁ノイズが大きく、正しいひずみ波形は得られていない。
(ひずみゲージ)
図10は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する平面図である。図11は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図であり、図10のA-A線に沿う断面を示している。図10及び図11を参照すると、ひずみゲージ100は、基材101と、機能層102と、抵抗体103と、配線104と、端子部105とを有している。但し、機能層102は、必要に応じて設ければよい。
なお、本実施形態では、便宜上、ひずみゲージ100において、基材101の抵抗体103が設けられている側を上側又は一方の側、抵抗体103が設けられていない側を下側又は他方の側とする。又、各部位の抵抗体103が設けられている側の面を一方の面又は上面、抵抗体103が設けられていない側の面を他方の面又は下面とする。但し、ひずみゲージ100は天地逆の状態で用いることができ、又は任意の角度で配置できる。又、平面視とは対象物を基材101の上面101aの法線方向から視ることを指し、平面形状とは対象物を基材101の上面101aの法線方向から視た形状を指すものとする。
基材101は、抵抗体103等を形成するためのベース層となる部材であり、可撓性を有する。基材101の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、5μm~500μm程度とすることができる。特に、基材101の厚さが5μm~200μmであると、接着層150を介して基材101の下面に接合される起歪体表面(例えば、軸受ハウジング40の外周面40a)からの歪の伝達性、環境に対する寸法安定性の点で好ましく、10μm以上であると絶縁性の点で更に好ましい。
基材101は、例えば、PI(ポリイミド)樹脂、エポキシ樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、PEN(ポリエチレンナフタレート)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、ポリオレフィン樹脂等の絶縁樹脂フィルムから形成できる。なお、フィルムとは、厚さが500μm以下程度であり、可撓性を有する部材を指す。
ここで、『絶縁樹脂フィルムから形成する』とは、基材101が絶縁樹脂フィルム中にフィラーや不純物等を含有することを妨げるものではない。基材101は、例えば、シリカやアルミナ等のフィラーを含有する絶縁樹脂フィルムから形成しても構わない。
基材101の樹脂以外の材料としては、例えば、SiO2、ZrO2(YSZも含む)、Si、Si2N3、Al2O3(サファイヤも含む)、ZnO、ペロブスカイト系セラミックス(CaTiO3、BaTiO3)等の結晶性材料が挙げられ、更に、それ以外に非晶質のガラス等が挙げられる。又、基材101の材料として、アルミニウム、アルミニウム合金(ジュラルミン)、チタン等の金属を用いてもよい。この場合、金属製の基材101上に、例えば、絶縁膜が形成される。
機能層102は、基材101の上面101aに抵抗体103の下層として形成されている。すなわち、機能層102の平面形状は、図10に示す抵抗体103の平面形状と略同一である。
本願において、機能層とは、少なくとも上層である抵抗体103の結晶成長を促進する機能を有する層を指す。機能層102は、更に、基材101に含まれる酸素や水分による抵抗体103の酸化を防止する機能や、基材101と抵抗体103との密着性を向上する機能を備えていることが好ましい。機能層102は、更に、他の機能を備えていてもよい。
基材101を構成する絶縁樹脂フィルムは酸素や水分を含むため、特に抵抗体103がCr(クロム)を含む場合、Crは自己酸化膜を形成するため、機能層102が抵抗体103の酸化を防止する機能を備えることは有効である。
機能層102の材料は、少なくとも上層である抵抗体103の結晶成長を促進する機能を有する材料であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、Cr(クロム)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Ni(ニッケル)、Y(イットリウム)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Si(シリコン)、C(炭素)、Zn(亜鉛)、Cu(銅)、Bi(ビスマス)、Fe(鉄)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Re(レニウム)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Au(金)、Co(コバルト)、Mn(マンガン)、Al(アルミニウム)からなる群から選択される1種又は複数種の金属、この群の何れかの金属の合金、又は、この群の何れかの金属の化合物が挙げられる。
上記の合金としては、例えば、FeCr、TiAl、FeNi、NiCr、CrCu等が挙げられる。又、上記の化合物としては、例えば、TiN、TaN、Si3N4、TiO2、Ta2O5、SiO2等が挙げられる。
機能層102が金属又は合金のような導電材料から形成される場合には、機能層102の膜厚は抵抗体の膜厚の1/20以下であることが好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、抵抗体に流れる電流の一部が機能層102に流れて、ひずみの検出感度が低下することを防止できる。
機能層102が金属又は合金のような導電材料から形成される場合には、機能層102の膜厚は抵抗体の膜厚の1/50以下であることがより好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、抵抗体に流れる電流の一部が機能層102に流れて、ひずみの検出感度が低下することを更に防止できる。
機能層102が金属又は合金のような導電材料から形成される場合には、機能層102の膜厚は抵抗体の膜厚の1/100以下であることが更に好ましい。このような範囲であると、抵抗体に流れる電流の一部が機能層102に流れて、ひずみの検出感度が低下することを一層防止できる。
機能層102が酸化物や窒化物のような絶縁材料から形成される場合には、機能層102の膜厚は、1nm~1μmとすることが好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、機能層102にクラックが入ることなく容易に成膜できる。
機能層102が酸化物や窒化物のような絶縁材料から形成される場合には、機能層102の膜厚は、1nm~0.8μmとすることがより好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、機能層102にクラックが入ることなく更に容易に成膜できる。
機能層102が酸化物や窒化物のような絶縁材料から形成される場合には、機能層102の膜厚は、1nm~0.5μmとすることが更に好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、機能層102にクラックが入ることなく一層容易に成膜できる。
なお、機能層102の平面形状は、例えば、図10に示す抵抗体の平面形状と略同一にパターニングされている。しかし、機能層102の平面形状は、抵抗体の平面形状と略同一である場合には限定されない。機能層102が絶縁材料から形成される場合には、抵抗体の平面形状と同一形状にパターニングしなくてもよい。この場合、機能層102は少なくとも抵抗体が形成されている領域にベタ状に形成されてもよい。或いは、機能層102は、基材101の上面全体にベタ状に形成されてもよい。
又、機能層102が絶縁材料から形成される場合に、機能層102の厚さを50nm以上1μm以下となるように比較的厚く形成し、かつベタ状に形成することで、機能層102の厚さと表面積が増加するため、抵抗体が発熱した際の熱を基材101側へ放熱できる。その結果、ひずみゲージ100において、抵抗体の自己発熱による測定精度の低下を抑制できる。
抵抗体103は、機能層102の上面に所定のパターンで形成された薄膜であり、ひずみを受けて抵抗変化を生じる受感部である。
抵抗体103は、例えば、Cr(クロム)を含む材料、Ni(ニッケル)を含む材料、又はCrとNiの両方を含む材料から形成できる。すなわち、抵抗体103は、CrとNiの少なくとも一方を含む材料から形成できる。Crを含む材料としては、例えば、Cr混相膜が挙げられる。Niを含む材料としては、例えば、Cu-Ni(銅ニッケル)が挙げられる。CrとNiの両方を含む材料としては、例えば、Ni-Cr(ニッケルクロム)が挙げられる。
以降は、抵抗体103がCr混相膜である場合を例にして説明する。ここで、Cr混相膜とは、Cr、CrN、Cr2N等が混相した膜である。Cr混相膜は、酸化クロム等の不可避不純物を含んでもよい。又、Cr混相膜に、機能層102を構成する材料の一部が拡散されてもよい。この場合、機能層102を構成する材料と窒素とが化合物を形成する場合もある。例えば、機能層102がTiから形成されている場合、Cr混相膜にTiやTiN(窒化チタン)が含まれる場合がある。
抵抗体103の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、0.05μm~2μm程度とすることができる。特に、抵抗体103の厚さが0.1μm以上であると抵抗体103を構成する結晶の結晶性(例えば、α-Crの結晶性)が向上する点で好ましく、1μm以下であると抵抗体103を構成する膜の内部応力に起因する膜のクラックや基材101からの反りを低減できる点で更に好ましい。
機能層102上に抵抗体103を形成することで、安定な結晶相により抵抗体103を形成できるため、ゲージ特性(ゲージ率、ゲージ率温度係数TCS、及び抵抗温度係数TCR)の安定性を向上できる。
例えば、抵抗体103がCr混相膜である場合、機能層102を設けることで、α-Cr(アルファクロム)を主成分とする抵抗体103を形成できる。α-Crは安定な結晶相であるため、ゲージ特性の安定性を向上できる。
ここで、主成分とは、対象物質が抵抗体を構成する全物質の50質量%以上を占めることを意味する。抵抗体103がCr混相膜である場合、ゲージ特性を向上する観点から、抵抗体103はα-Crを80重量%以上含むことが好ましく、90重量%以上含むことが更に好ましい。なお、α-Crは、bcc構造(体心立方格子構造)のCrである。
又、抵抗体103がCr混相膜である場合、Cr混相膜に含まれるCrN及びCr2Nは20重量%以下であることが好ましい。Cr混相膜に含まれるCrN及びCr2Nが20重量%以下であることで、ゲージ率の低下を抑制できる。
又、CrN及びCr2N中のCr2Nの割合は80重量%以上90重量%未満であることが好ましく、90重量%以上95重量%未満であることが更に好ましい。CrN及びCr2N中のCr2Nの割合が90重量%以上95重量%未満であることで、半導体的な性質を有するCr2Nにより、TCRの低下(負のTCR)が一層顕著となる。更に、セラミックス化を低減することで、脆性破壊の低減がなされる。
一方で、膜中に微量のN2もしくは原子状のNが混入、存在した場合、外的環境(例えば高温環境下)によりそれらが膜外へ抜け出ることで、膜応力の変化を生ずる。化学的に安定なCrNの創出により上記不安定なNを発生させることがなく、安定なひずみゲージを得ることができる。
又、機能層102を構成する金属(例えば、Ti)がCr混相膜中に拡散することにより、ゲージ特性を向上できる。具体的には、ひずみゲージ100のゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを-1000ppm/℃~+1000ppm/℃の範囲内とすることができる。
端子部105は、配線104を介して抵抗体103の両端部から延在しており、平面視において、抵抗体103及び配線104よりも拡幅して略矩形状に形成されている。端子部105は、ひずみにより生じる抵抗体103の抵抗値の変化を外部に出力するための一対の電極である。抵抗体103は、例えば、端子部105及び配線104の一方からジグザグに折り返しながら延在して他方の配線104及び端子部105に接続されている。端子部105の上面を、端子部105よりもはんだ付け性が良好な金属で被覆してもよい。
なお、抵抗体103と配線104と端子部105とは便宜上別符号としているが、これらは同一工程において同一材料により一体に形成できる。
抵抗体103及び配線104を被覆し端子部105を露出するように基材101の上面101aにカバー層106(絶縁樹脂層)を設けても構わない。カバー層106を設けることで、抵抗体103及び配線104に機械的な損傷等が生じることを防止できる。又、カバー層106を設けることで、抵抗体103及び配線104を湿気等から保護できる。なお、カバー層106は、端子部105を除く部分の全体を覆うように設けてもよい。
カバー層106は、例えば、PI樹脂、エポキシ樹脂、PEEK樹脂、PEN樹脂、PET樹脂、PPS樹脂、複合樹脂(例えば、シリコーン樹脂、ポリオレフィン樹脂)等の絶縁樹脂から形成できる。カバー層は、フィラーや顔料を含有しても構わない。カバー層の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、2μm~30μm程度とすることができる。
ひずみゲージ100を製造するためには、まず、基材101を準備し、基材101の上面101aに機能層102を形成する。基材101及び機能層102の材料や厚さは、前述の通りである。但し、機能層102は、必要に応じて設ければよい。
機能層102は、例えば、機能層102を形成可能な原料をターゲットとし、チャンバ内にAr(アルゴン)ガスを導入したコンベンショナルスパッタ法により真空成膜できる。コンベンショナルスパッタ法を用いることにより、基材101の上面101aをArでエッチングしながら機能層102が成膜されるため、機能層102の成膜量を最小限にして密着性改善効果を得ることができる。
但し、これは、機能層102の成膜方法の一例であり、他の方法により機能層102を成膜してもよい。例えば、機能層102の成膜の前にAr等を用いたプラズマ処理等により基材101の上面101aを活性化することで密着性改善効果を獲得し、その後マグネトロンスパッタ法により機能層102を真空成膜する方法を用いてもよい。
次に、機能層102の上面全体に抵抗体103、配線104、及び端子部105となる金属層を形成後、フォトリソグラフィによって機能層102並びに抵抗体103、配線104、及び端子部105を図10に示す平面形状にパターニングする。抵抗体103、配線104、及び端子部105の材料や厚さは、前述の通りである。抵抗体103、配線104、及び端子部105は、同一材料により一体に形成できる。抵抗体103、配線104、及び端子部105は、例えば、抵抗体103、配線104、及び端子部105を形成可能な原料をターゲットとしたマグネトロンスパッタ法により成膜できる。抵抗体103、配線104、及び端子部105は、マグネトロンスパッタ法に代えて、反応性スパッタ法や蒸着法、アークイオンプレーティング法、パルスレーザー堆積法等を用いて成膜してもよい。
機能層102の材料と抵抗体103、配線104、及び端子部105の材料との組み合わせは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、機能層102としてTiを用い、抵抗体103、配線104、及び端子部105としてα-Cr(アルファクロム)を主成分とするCr混相膜を成膜可能である。
この場合、例えば、Cr混相膜を形成可能な原料をターゲットとし、チャンバ内にArガスを導入したマグネトロンスパッタ法により、抵抗体103、配線104、及び端子部105を成膜できる。或いは、純Crをターゲットとし、チャンバ内にArガスと共に適量の窒素ガスを導入し、反応性スパッタ法により、抵抗体103、配線104、及び端子部105を成膜してもよい。この際、窒素ガスの導入量や圧力(窒素分圧)を変えることや加熱工程を設けて加熱温度を調整することで、Cr混相膜に含まれるCrN及びCr2Nの割合、並びにCrN及びCr2N中のCr2Nの割合を調整できる。
これらの方法では、Tiからなる機能層102がきっかけでCr混相膜の成長面が規定され、安定な結晶構造であるα-Crを主成分とするCr混相膜を成膜できる。又、機能層102を構成するTiがCr混相膜中に拡散することにより、ゲージ特性が向上する。例えば、ひずみゲージ100のゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを-1000ppm/℃~+1000ppm/℃の範囲内とすることができる。
なお、抵抗体103がCr混相膜である場合、Tiからなる機能層102は、抵抗体103の結晶成長を促進する機能、基材101に含まれる酸素や水分による抵抗体103の酸化を防止する機能、及び基材101と抵抗体103との密着性を向上する機能の全てを備えている。機能層102として、Tiに代えてTa、Si、Al、Feを用いた場合も同様である。
その後、必要に応じ、基材101の上面101aに、抵抗体103及び配線104を被覆し端子部105を露出するカバー層106を設けることで、ひずみゲージ100が完成する。カバー層106は、例えば、基材101の上面101aに、抵抗体103及び配線104を被覆し端子部105を露出するように半硬化状態の熱硬化性の絶縁樹脂フィルムをラミネートし、加熱して硬化させて作製できる。カバー層106は、基材101の上面101aに、抵抗体103及び配線104を被覆し端子部105を露出するように液状又はペースト状の熱硬化性の絶縁樹脂を塗布し、加熱して硬化させて作製してもよい。
このように、抵抗体103の下層に機能層102を設けることにより、抵抗体103の結晶成長を促進可能となり、安定な結晶相からなる抵抗体103を作製できる。その結果、ひずみゲージ100において、ゲージ特性の安定性を向上できる。又、機能層102を構成する材料が抵抗体103に拡散することにより、ひずみゲージ100において、ゲージ特性を向上できる。
なお、抵抗体103の材料としてCr混相膜を用いたひずみゲージ100は、高感度化(従来比500%以上)かつ、小型化(従来比1/10以下)を実現している。例えば、従来のひずみゲージの出力が0.04mV/2V程度であったのに対して、ひずみゲージ100では0.3mV/2V以上の出力を得ることができる。又、従来のひずみゲージの大きさ(ゲージ長×ゲージ幅)が3mm×3mm程度であったのに対して、ひずみゲージ100の大きさ(ゲージ長×ゲージ幅)は0.3mm×0.3mm程度に小型化できる。
このように、抵抗体103の材料としてCr混相膜を用いたひずみゲージ100は小型であり、軸受ハウジング40の外周面40aに設けられた凹部40xに容易に貼り付け可能である。そのため、特に、直径(外輪31の外径)が30mm以下である小型の転がり軸受30を用いたモータ1に使用すると好適である。又、抵抗体103の材料としてCr混相膜を用いたひずみゲージ100は高感度であり、小さい変位を検出できるため、従来は検出が困難であった微小なひずみを検出可能である。すなわち、抵抗体103の材料としてCr混相膜を用いたひずみゲージ100を有することにより、ひずみを精度よく検出する機能を備えたモータ1を実現できる。
〈第2実施形態〉
第2実施形態では、転がり軸受の外輪の外周面にひずみゲージを固定したモータの例を示す。なお、第2実施形態において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
図12は、第2実施形態に係るモータのロータシャフト近傍の部分拡大断面図である。図13は、図12のD部の部分拡大平面図である。なお、図13では、転がり軸受は簡略化して図示されており、又、一部の部材の図示は省略されている。
図12及び図13に示すように、ひずみゲージ100は、ステータコア52の内径よりも径方向内側(回転軸m側)に固定されている。具体的には、ひずみゲージ100は、接着層を介して外輪31の外周面31aに固定されている。ひずみゲージ100と径方向に対向する軸受ハウジング40の内周面40bには、ひずみゲージ100との干渉を防止するための凹部40yが設けられている。つまり、ひずみゲージ100は、軸受ハウジング40の内周面40bに設けた凹部40yと対向する外輪31の外周面31aに固定されている。凹部40yは、軸受ハウジング40の内周面40bの周方向の一部に設けられてもよいし、軸受ハウジング40の内周面40bの全周にわたって設けられてもよい。
凹部40yは、軸受ハウジング40の軸方向上端まで伸びているため、転がり軸受30を軸受ハウジング40の内周面40bに取り付ける際に、軸受ハウジング40の内周面40bとひずみゲージ100とは干渉しない。又、凹部yよりも軸方向下方の軸受ハウジング40の内周面40bは、転がり軸受30と隙間嵌めになる。
配線200は、軸受ハウジング40の軸方向上端を回り込んでステータコア52の内周に形成されたノッチ52xに入り込み、ノッチ52xを通ってステータコア52よりも軸方向下側、つまりモータ1の外部側に引き出されている。
なお、図12では、ひずみゲージ100と電気的に接続された配線200は、ステータコア52の内周に設けられたノッチ52xを通ってステータコア52よりも軸方向下側に引き出され、モータ1の外部に直接引き出されている。しかし、これには限定されず、ひずみゲージ100と電気的に接続された配線200は、ステータコア52の内周に設けられたノッチ52xを通ってステータコア52よりも軸方向下側に引き出され、モータ1の内部に配置された回路基板と電気的に接続されてもよい。この場合には、回路基板から別の配線がモータ1の外部に引き出される。
第1実施形態と同様に、配線200は、コイル53等から発生する電磁ノイズの干渉を受けるため、少なくともノッチ52xを通る部分がシールドされている。配線200は、例えば、同軸ケーブルであってもよいし、フレキシブル基板の少なくとも一方側にベタ状のGNDが形成された構造等であってもよい。電磁ノイズの影響を抑制する観点から、外輪31を、配線200のシールド部分と同電位のGNDとすることが好ましい。
このように、ひずみゲージ100を外輪31の外周面31aに固定してもよい。モータ1において、外輪31の外周面31aは、ひずみを検知しやすい位置であるため、僅かなひずみも検知できる。すなわち、転がり軸受30の外輪31が僅かでもひずんだ場合、この僅かなひずみを外輪31の外周面31aに固定されたひずみゲージ100で検知できる。
又、ひずみゲージ100を外輪31の外周面31aに固定する場合でも、ひずみゲージ100と径方向に対向する軸受ハウジング40の内周面40bに凹部40yを設けることで、軸受ハウジング40の内周面40bとひずみゲージ100との干渉を防止できる。
又、配線200をステータコア52の内周に形成されたノッチ52xに通し、かつ、配線200の少なくともノッチ52xを通る部分がシールドされたことで、第1実施形態と同様に、電磁ノイズの影響を大幅に抑制できる。
以上、好ましい実施形態等について詳説したが、上述した実施形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
例えば、上記の実施形態では、モータとして軸流ファンモータを例示したが、これには限定されず、本発明は軸流ファンモータ以外のモータにも広く適用可能である。
又、上記の実施形態では、図1等において上側に配置された転がり軸受、又は下側に配置された転がり軸受にひずみゲージを設ける例を示したが、両方の転がり軸受にひずみゲージを設けてもよい。又、図1等において上側に配置された転がり軸受、下側に配置された転がり軸受の一方又は両方に、複数のひずみゲージを設けてもよい。
本国際出願は2020年7月31日に出願した日本国特許出願2020-131004号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願2020-131004号の全内容を本国際出願に援用する。