以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。尚、以下において参照する各図面では互いに共通する部材に同一符号を付しており、それらについての重複する説明は省略する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の一実施形態である懸吊物200の支持構造100を示す斜視図であり、図2は、その支持構造100の側面図である。各図に示すXYZ直交座標系は、鉛直方向をZ軸として表している。図1及び図2に示す支持構造100は、天井スラブ105などの天井構造101から懸吊物200を吊り下げた状態で支持する。例えば、天井構造101は、図2に示すように、山部103と谷部104とが一定間隔で形成されたデッキプレート102の上面に天井スラブ105が打設された構造である。
支持構造100は、天井構造101から垂下するように取り付けられる吊りボルト110を有し、その吊りボルト110の下端に懸吊物200を連結して支持する構造である。例えば、吊りボルト110は、その上端部が、デッキプレート102の山部103に予め埋め込まれたインサート(図示省略)にねじ込まれることによって天井構造101に固定される。
本実施形態の懸吊物200は、吊りボルト110の下端部に連結される支持枠体120と、その支持枠体120から垂下する支持ボルト126と、空気調和機などの吊り下げ対象物180と、吊り下げ対象物180と支持ボルト126との間に配置される防振ダンパー130とを備える構成である。
支持枠体120は、複数のフレーム材121,122,123,124が井桁状に組み付けられて構成される矩形状の枠体である。複数のフレーム材121,122,123,124のうち、一対のフレーム材121,122は、互いに所定間隔を隔てた状態でX方向に沿って配置される。他の一対のフレーム材123,124は、互いに所定間隔を隔てた状態で配置され、フレーム材121,122に対して直交するようにY方向に沿って配置される。各フレーム材121,122,123,124は、その中央に長手方向に沿って延びるスリット127を有しており、そのスリット127に各種のボルトを挿通することができる。またスリット127に挿通される各種のボルトは、各フレーム材121,122,123,124の長手方向に沿って移動させることが可能であり、各フレーム材121,122,123,124に対する取り付け位置を調整することができる。
例えば、X方向に配置される一対のフレーム材121,122とY方向に配置される一対のフレーム材123,124は、その交差部の上部及び下部に概略コ字状の連結金具128を配置し、連結ボルト125をスリット127に差し込んで連結金具128で交差部を挟み込むようにしてナットを締着することにより、互いに直交する状態に固定される。尚、フレーム材121,122とフレーム材123,124との交差角度を直角に保持するため、フレーム材121,122とフレーム材123,124との間に直角保持金具を設けても良い。連結金具128の設置位置を調整することにより、支持枠体120の形状及び大きさを適宜調整することができる。
吊りボルト110の下端部は、例えば支持枠体120の一対のフレーム材121,122のスリットに差し込まれ、上記と同様の連結金具128を介してナットを締着することにより、支持枠体120に連結される。
また、支持枠体120には、複数の支持ボルト126が垂下するように取り付けられる。例えば、支持ボルト126は、一対のフレーム材123,124のスリット127に差し込まれ、ワッシャーを介してナットが締着されることにより、支持枠体120に固定される。支持ボルト126は、上記と同様に連結金具128を用いて支持枠体120に固定するようにしても良い。
吊り下げ対象物180は、側面の4箇所から外側に突出するように接続片181を備えている。吊り下げ対象物180は、それらの接続片181に吊りボルト110などが接続されることで支持される。支持枠体120から垂下する支持ボルト126は、それら接続片181の位置に合致するように配置される。支持ボルト126は、その下端部に防振ダンパー130が取り付けられ、その防振ダンパー130を介して吊り下げ対象物180の接続片181に接続される。つまり、支持ボルト126が防振ダンパー130を介して吊り下げ対象物180を支持する構造である。
防振ダンパー130は、吊り下げ対象物180の振動が吊りボルト110などを介して天井構造101に伝播しないようにするための金具である。例えば、吊り下げ対象物180が空気調和機である場合、空気調和機の運転稼働中に空気調和機が振動する。防振ダンパー130は、そのような空気調和機の振動を吸収するために配置される。防振ダンパー130は、コイルバネなどによって構成される弾性部材131を備えている。支持ボルト126は、その弾性部材131を介して吊り下げ対象物180に接続されるため、仮に吊り下げ対象物180が振動したとしても、吊り下げ対象物180と共に振動することはない。
上記のような支持構造100は、地震発生時において、支持構造100によって天井構造101から懸吊支持される吊り下げ対象物180及び懸吊物200の振れを抑制するための振れ止め装置1を備えている。この振れ止め装置1は、吊りボルト110とは別に、吊りボルト110の近傍位置に併設される。すなわち、振れ止め装置1は、天井構造101に取り付けられ、懸吊物200の近傍位置まで垂下し、少なくともXY平面内における懸吊物200の振れ幅を規制することで吊り下げ対象物180及び懸吊物200の振れ止め効果を発揮する。
図3は、振れ止め装置1を拡大して示す斜視図である。振れ止め装置1は、天井構造101に取り付けられる支柱2と、支柱2の上端部に設けられるフランジ部3と、支柱2の外周面に取り付けられる保持部4と、保持部4に設けられるアーム部5とを備える構成である。
支柱2は、例えば直径数センチメートルから十数センチメートル程度の金属製の円柱部材によって構成される。この支柱2は、大規模地震発生時においても撓みなどの変形が生じない高い剛性を有するものであることが好ましい。そのような高い剛性を有するのであれば、支柱2は、パイプ状の中空構造であっても良いし、中実構造であっても良い。ただし、中空構造の支柱2は、中実構造よりも軽量であるため、施工し易いという利点がある。そのため、支柱2は、中空構造のものを使用することが好ましい。尚、支柱2の長さは、懸吊物200の高さ位置に合わせて、予め適当な長さに整えておくことが好ましい。
フランジ部3は、例えば矩形状のプレート部材によって構成され、支柱2の上端部に固定される。フランジ部3には、複数箇所にボルトなどを挿通して天井構造101に取り付けるための孔3aが設けられている。それら複数の孔3aにボルトやアンカーなどが挿入された状態でナットが締着されることにより、フランジ部3が天井構造101に取り付けられる。フランジ部3の4辺のうち、互いに対向する少なくとも1組の2辺の長さは、デッキプレート102の山部103の幅寸法よりも小さくなるように形成される。したがって、フランジ部3は、図2に示すように、その上面をデッキプレート102の山部103に密着させた状態で取り付けることができる。このようにしてフランジ部3が天井構造101に取り付けられることにより、支柱2が天井構造101から垂下した状態に設置される。
このような支柱2は、専有スペースが小さいため、天井構造101への取り付けを簡単に行うことができる。例えば、天井構造101に配管やダクト、その他の機器などが設置されている場合であっても、支柱2の専有スペースが小さいため、吊りボルト110の近傍位置に支柱2を取り付けることが可能である。
保持部4は、例えば支柱2に対して着脱可能なクランプ部材10によって構成され、支柱2の任意の高さ位置に取り付け可能である。また保持部4は、その周囲側面の一部にアーム部5を連結するための連結部14を有しており、その連結部14にアーム部5が連結されることによりアーム部5を支柱2の外側に向かって延設させた状態に一体的に保持する。本実施形態では、保持部4は、アーム部5を支柱2の法線方向に延設させた状態で保持するように構成されている。また保持部4は、支柱2に対して取り付けるときに、支柱2の軸周りに回動させて任意の角度位置で取り付けることができる。そのため、保持部4は、Z方向におけるアーム部5の高さ位置と、XY平面内においてアーム部5が支柱2から延びる方向(角度θ)とを任意に調整することが可能である。保持部4によって保持されるアーム部5は、支柱2の近傍に位置する懸吊物200の振れ幅(振動幅)を規制する機能を有している。例えば、本実施形態におけるアーム部5は、懸吊物200から突出する棒状体の振れ幅を規制するように構成される。
図4は、保持部4及びアーム部5の構成例を示す拡大図である。クランプ部材10は、図4(a)に示すように、支柱2の外周面の約半分の部分を包囲する第1部材11と、支柱2の外周面の残部を包囲する第2部材12とを有し、それら第1部材11及び第2部材12の基端部を回動軸10aで連結した構成である。したがって、第1部材11及び第2部材12は、回動軸10a周りに回動することにより、第1部材11及び第2部材12の先端部を開閉させることができる。第1部材11の先端部には、固定部材13が設けられている。一方、第2部材12の先端部には、固定部材13を係止するための係止部12aが設けられている。固定部材13は、第1部材11の先端部に設けられる揺動軸11aを中心に揺動可能なボルト13aと、ナット13bとによって構成される。このようなクランプ部材10は、図4(b)に示すように、第1部材11の先端と第2部材12の先端とを互いに接近させた状態でボルト13aを揺動させて係止部12aに設けられた一対の切欠片の間に配置し、ボルト13aに螺合させているナット13bを締め付けて係止部12aに締着することにより、第1部材11及び第2部材12を支柱2の外周面に押圧固定する。
連結部14は、第1部材11の外周面の一部に設けられている。その連結部14に連結されるアーム部5は、支持アーム20と、振れ止め部材24と、振れ止め部材24を支持アーム20に位置決めした状態で固定する位置決め部材27とを備えている。
支持アーム20は、連結部14に対し、溶接などによって一体的に固定されるアームである。この支持アーム20も、大規模地震発生時において撓みなどの変形が生じない高い剛性を有するものであることが好ましい。支持アーム20は、保持部4の連結部14から支柱2の外側に向かって所定長さ延設されている。この支持アーム20は、その断面が概略コ字状の金属製溝形アームとなっており、支柱2から略水平な方向に延びている。支持アーム20は、その底部に支持アーム20の長手方向に沿って長尺のガイド孔21が形成されている。このガイド孔21は、支持アーム20の先端20aの近傍位置まで形成される。ただし、ガイド孔21は、支持アーム20の先端20aには至らない。したがって、支持アーム20の先端20aにおいて左右両壁部が互いに連結された状態となっている。これにより、支持アーム20の先端20aにおいても高い剛性が確保される。また、支持アーム20は、左右両壁部の間隔が振れ止め部材24の幅寸法と同一又はそれよりも若干大きい間隔に設定される。そして支持アーム20は、振れ止め部材24を左右両壁部に挟まれた内側に収容し、振れ止め部材24を長手方向に沿って移動可能に保持する。
振れ止め部材24は、例えば長方形状の金属プレートによって構成される。この振れ止め部材24は、支持アーム20の左右両壁部に挟まれた内側空間に収容され、支持アーム20(ガイド孔21)の長手方向に沿って移動可能である。この振れ止め部材24には、2つの孔25,26が形成される。そのうち、支持アーム20の先端側に位置する孔26は、円形の振れ止め孔26である。また、支持アーム20の連結部14に近い側に位置する孔25は、ボルト29aを挿通するための円形のボルト挿通孔25である。振れ止め孔26とボルト挿通孔25とは、同径であっても良いし、異径であっても良い。例えば、ボルト挿通孔25は、ボルト29aのボルトサイズに応じた直径の孔として形成される。これに対し、振れ止め孔26は、振れ止め対象である棒状体のサイズに応じた直径の孔として形成される。
位置決め部材27は、板状の添設部材28とボルト29aとナット29bで構成される。添設部材28は、概略コ字状の形状を有し、支持アーム20の下面側に添設される部材である。この添設部材28の中央には、ボルト29aを挿通するための孔28aが形成されている。ボルト29aは、振れ止め部材24と支持アーム20と添設部材28とが重ね合わされた状態で、ボルト挿通孔25、ガイド孔21及び孔28aに挿通される。ナット29bは、支持アーム20の下面側においてボルト29aの先端に装着される。ナット29bがボルト29aに対して締着されていないとき、振れ止め部材24は、支持アーム20(ガイド孔21)の長手方向に沿ってスライド移動可能である。このスライド移動により、振れ止め部材24は、支持アーム20の長手方向における振れ止め孔26の位置を調整することができる。そして振れ止め孔26の位置が決まると、ナット29bとボルト29aとをきつく締着させることにより、振れ止め部材24を支持アーム20に対して固定することができる。つまり、位置決め部材27は、支柱2に対する振れ止め孔26の相対的な位置を固定するための部材である。
振れ止め部材24に設けられる振れ止め孔26は、その直径が、懸吊物200から外側(より具体的には、上下方向)に突出する棒状体の外径よりも若干大きく形成され、棒状体を挿通可能なサイズである。したがって、振れ止め孔26に棒状体が挿通されると、振れ止め孔26の周縁部が棒状体の周囲を包囲する状態となる。例えば本実施形態では、図1及び図2に示すように、支持枠体120を構成する複数のフレーム121,122,123,124の交差部を固定するための連結ボルト125が上方に突出するように設けられる。振れ止め部材24は、その連結ボルト125を振れ止め孔26に挿通した状態に配置される。この場合、振れ止め孔26の直径は、連結ボルト125の外径よりも若干大きく形成される。そして図2において拡大断面図として示すように、アーム部5は、振れ止め孔26に連結ボルト125の上方に突出した部分を挿通し、振れ止め孔26の周縁部が連結ボルト125の外周面を包囲するように配置された状態で固定される。
上記のようにしてアーム部5が固定されると、保持部4は支柱2に対して強固に固定されることが好ましい。そのため、振れ止め装置1は、図3に示すように、振れ止め孔26に連結ボルト125が挿通された状態で保持部4を支柱2に対して固定する固定部材19を備えている。固定部材19は、例えばタッピングビスなどによって構成され、保持部4の外周面を貫通して支柱2に埋め込まれる。ただし、固定部材19は、タッピングビスに限られるものではなく、例えば雄螺子の先端に突起を設けたボルトを使用しても良い。この場合、例えば保持部4の外周面に螺子孔を形成し、雄螺子の先端に突起を設けたボルトをその螺子孔に挿入して締着することにより、ボルト先端の突起が支柱2の表面にめり込んで保持部4が支柱2に固定される。このような固定部材19を用いて保持部4を支柱2に固定しておくことにより、例えば大規模地震発生時にアーム部5に大きな応力が作用したとしても、保持部4が支柱2に対して変位してしまうことを未然に防止することが可能であり、振れ止め孔26を常に一定の位置で保持することができるようになる。
図5は、連結ボルト125(棒状体)と振れ止め孔26との位置関係を示す図である。振れ止め孔26の内径が連結ボルト125の外径よりも若干大きいため、連結ボルト125をスムーズに振れ止め孔26に挿通することができる。そして連結ボルト125が振れ止め孔26のほぼ中央に位置する状態となるように振れ止め部材24を位置調整する。振れ止め孔26の中央に連結ボルト125が配置されると、図5(a)に示すように、振れ止め孔26の周縁部と連結ボルト125の外周面との間に一定の空隙が生じる。例えば、振れ止め部材24の長手方向をX方向とすると、そのX方向における連結ボルト125の両側にΔXの隙間が生じる。また、振れ止め部材24の長手方向と直交する方向をY方向とすると、そのY方向における連結ボルト125の両側にΔYの隙間が生じる。
連結ボルト125が振れ止め部材24に対して連結されないとき、振れ止め部材24は、上記の隙間ΔX,ΔYを懸吊物200の最大振れ幅として規制する。すなわち、振れ止め装置1は、地震発生時に懸吊物200がXY平面内において振動するとき、XY平面内における振動幅が上記隙間ΔX,ΔYの範囲内であればその振動を許容する。これに対し、XY平面内における懸吊物200の振動幅が隙間ΔX,ΔYを超える振動幅となるときには、連結ボルト125の外周面が振れ止め孔26の周縁部と干渉するようになる。一方、振れ止め部材24は支持アーム20に固定されているため、振れ止め部材24は、支柱2に対して相対変位しない。そのため、連結ボルト125は、その外周面が振れ止め孔26の周縁部に干渉すると、それ以上は振れることができなくなる。その結果、懸吊物200の振動幅が、ΔX及びΔYに規制されることになる。つまり、上記のように構成される振れ止め装置1は、地震発生時において懸吊物200が大きく触れることを抑止することができるのである。
ここで、地震発生時においてXY平面内における懸吊物200の振動幅を小さくしようとすれば、上述した隙間ΔX,ΔYをなるべく小さくすれば良い。したがって、地震発生時における懸吊物200のXY平面内における振動幅をどの程度に規制するかに応じて振れ止め孔26の内径を設計すれば良い。
また、図5(b)に示すように、振れ止め部材24を挟んで連結ボルト125の上下位置にナット41,42を装着すれば、懸吊物200のZ方向の振動幅を規制することも可能である。この場合、振れ止め部材24の下方に装着されるナット42は、支持アーム20の下面20bより下側に配置されることが好ましい。すなわち、外形サイズが振れ止め孔26の内径よりも大きいナット41を連結ボルト125の上部に装着し、外形サイズがガイド孔21の幅よりも大きいナット42を連結ボルト125の下部に装着するのである。そしてナット41と振れ止め部材24の間に隙間ΔZを設けると共に、ナット42と支持アーム20の下面20bとの間にも隙間ΔZを設けるのである。これにより、地震発生時における懸吊物200のZ方向の振動幅をΔZに規制することができる。
またナット41を振れ止め部材24との隙間ΔZを無くし、ナット41が振れ止め部材24の上面を押圧するように締着させると共に、ナット42を支持アーム20との隙間ΔZを無くし、ナット42が支持アーム20の下面20bを押圧するように締着させることで、2つのナット41,42が振れ止め部材24及び支持アーム20を挟み込んだ状態で連結ボルト125をアーム部5に固定するようにしても構わない。この場合、振れ止め装置1に対して連結ボルト125が固定されることになる。したがって、懸吊物200は、振れ止め装置1によって強固に保持されるようになり、地震発生時においてXYZの各方向に対する僅かな振れ幅をも許容せず、懸吊物200の振動を完全に抑止することができるようになる。
以上のように本実施形態の振れ止め装置1は、懸吊物200を支持する支持構造100の近傍位置に支柱2を設置し、その支柱2から延設したアーム部5によって懸吊物200の振れ幅を規制するように構成される。そのため、本実施形態の振れ止め装置1を用いれば、互いに隣接する一対の吊りボルト110の間に一対のブレースを交差させた状態に配置する必要がなくなるため、懸吊物200の上部空間を有効活用することができるようになる。つまり、懸吊物200の上部空間に、ダクトやその他の機器を吊設することができるという利点がある。
また、懸吊物200を吊設しようとするとき、その位置に既にダクトやその他の機器が設置されているとしても、上述した振れ止め装置1は、専有スペースが小さいため、ダクトやその他の機器の吊設位置を避けて取り付けることが可能であり、支柱2を取り付けた後にアーム部5が延びる方向や長さを調整することによって懸吊物200の振れ幅を規制することができるように設置することが可能である。そのため、本実施形態の振れ止め装置1は、懸吊物200がどのような環境に設置されるとしても、その環境に適応させた態様で取り付けることができる。
さらに、上述した振れ止め装置1は、懸吊物200から突出する連結ボルト125などの棒状体を振れ止め孔26に挿通することによって取り付けることができる。そのため、天井構造101に対して既に懸吊物200が設置されている場合であっても、吊りボルト110を天井構造101から取り外すことなく、振れ止め装置1を設置することが可能である。したがって、本実施形態の振れ止め装置1は、簡単に施工することが可能であり、既設の懸吊物200に対してもあと施工で簡単に取り付けることができるという利点がある。
(第2実施形態)
次に本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態では、振れ止め孔26によって包囲される棒状体が既設の吊りボルト110のような棒状体である場合を例示し、そのような棒状体の振れ幅を規制することが可能なアーム部5の構成例について説明する。
図6は、本実施形態におけるアーム部5の構成例を示す図である。本実施形態のアーム部5は、振れ止め部材24の構成が第1実施形態で説明したものとは異なる。また、本実施形態のアーム部5は、支持アーム20の先端20aの構成が第1実施形態で説明したものとは異なる。
まず、支持アーム20の先端20aの構成について説明する。本実施形態では吊りボルト110などの棒状体をガイド孔21の内側に収容することが必要であるため、図6に示すようにガイド孔21が支持アーム20の先端20aまで形成されている。言い換えると、ガイド孔21は、支持アーム20の先端20aにおいて外側に開放されている。吊りボルト110などの棒状体はその開放部を介して支持アーム20の内側に差し込むことができる。
このように支持アーム20の先端20aが開放されていると、支持アーム20の先端20aにおける剛性が低下する。そのため、本実施形態ではガイド孔21に吊りボルト110などの棒状体が差し込まれた後に支持アーム20の先端20aの開放部を閉鎖して左右の壁部20c,20dが互いに連結させることができるように構成される。すなわち、支持アーム20の左右の壁部20c,20dの先端側にはボルト45を挿通するための孔20e,20fが形成される。また、左右両壁部20c,20dの間には、それら両壁部20c,20dの間隔を一定に保持するためのスペーサ46が配置される。例えば、スペーサ46は円筒状の金属部材であり、内側にボルト45を挿通することが可能である。吊りボルト110などの棒状体がガイド孔21に差し込まれた後、両壁部20c,20dの間にスペーサ46を配置し、ボルト45を孔20f、スペーサ46及び孔20eに順に挿通させ、ボルト45の先端にナット47を締着させる。これにより、支持アーム20の先端20aにおいて両壁部20c,20dが互いに連結されるため、支持アーム20の先端20aにおいて高い剛性が確保される。
次に、振れ止め部材24について説明する。図6に示すように、振れ止め部材24は、第1平板部材24aと第2平板部材24bとを有し、それらを互いに重ね合わせることによって構成される。
第1平板部材24aは、長方形状の金属プレートによって構成される。この第1平板部材24aは、先端部における左右両辺のうちの一方の辺から先端部中央まで略U字状に開放される第1開放部26aを有している。この第1開放部26aは、上述した振れ止め孔26の一部を構成する。また第1平板部材24aの基端部側には、ボルト29を挿通するためのボルト挿通孔25aが形成される。
第2平板部材24bは、第1平板部材24aと同様に、長方形状の金属プレートによって構成される。この第2平板部材24bは、先端部における左右両辺のうち、第1平板部材24aに第1開放部26aが形成されている辺とは異なる他方の辺から先端部中央まで略U字状に開放される第2開放部26bを有している。この第2開放部26bも、上述した振れ止め孔26の一部を構成する。すなわち、この第2開放部26bは、第2平板部材24bが第1平板部材24aに重ね合わせられた状態のとき、第1開放部26aと重なって略円形の振れ止め孔26を形成するように構成される。また第2平板部材24bの基端部側には、ボルト29を挿通するためのボルト挿通孔25bが形成される。
第1平板部材24aと第2平板部材24bとを互い重ね合わせるとき、第1平板部材24aに形成されている第1開放部26aの内側に吊りボルト110などの棒状体を挿入すると共に、第2平板部材24bに形成されている第2開放部26bの内側に吊りボルト110などの棒状体を挿入する。これにより、第1平板部材24aと第2平板部材24bとを重ね合わせたときに、第1開放部26aと第2開放部26bとによって構成される振れ止め孔26の内側に吊りボルト110などの棒状体を配置することができる。
そして第1平板部材24aと第2平板部材24bとを重ね合わせることによって形成される振れ止め部材24を、位置決め部材27である添設部材28とボルト29aとナット29bを用いて支持アーム20に固定することにより、第1実施形態と同様に、アーム部5の先端に設けられた振れ止め孔26の周縁部が吊りボルト110などの棒状体の外周面を包囲する状態に配置される。したがって、本実施形態の振れ止め装置1は、既設の吊りボルト110などの棒状体を振れ止めするために用いることができる。特に、既設の吊りボルト110は、上端が天井構造101に固定され、下端に懸吊物200が取り付けられている。本実施形態の振れ止め装置1は、そのような吊りボルト110に対してもあと施工で取り付けることができるのである。
図7及び図8は、本実施形態の振れ止め装置1が吊りボルト110に対して設置された例を示す図である。尚、図7は、懸吊物200に第1実施形態と同様の支持枠体120が含まれている場合を示しており、図8は、懸吊物200に支持枠体120が含まれていない場合を示している。本実施形態の振れ止め装置1は、例えば図7又は図8に示すように、天井構造101に懸吊物200が既に吊設されている状態であっても、あと施工で振れ止め孔26の周縁部が吊りボルト110の外周面を包囲するように設置することができる。このとき、吊りボルト110の上端部を天井構造101から取り外す必要がないため、安全且つ効率的に作業を行うことができるという利点がある。
また、振れ止め孔26の周縁部が吊りボルト110の外周面を包囲するだけでは、地震発生時に懸吊物200のXY平面内における振動幅を抑制することができるに留まる。これに対し、地震発生時におけるZ方向の振動幅も規制することが好ましい場合には、第1実施形態で説明したようにアーム部5を挟んで吊りボルト110の上部及び下部にナット41,42を装着すれば良い。ただし、吊りボルト110は上端部が天井構造101に固定されており、下端部が懸吊物200に連結されている。そのため、一般的なナットを吊りボルト110に装着することはできない。そこで、アーム部5を挟んで吊りボルト110の上部及び下部に装着するナット41,42として、例えば半割ナットを用いれば良い。
また、アーム部5を挟んで吊りボルト110の上部及び下部に装着するナット41,42をきつく締め付けて吊りボルト110をアーム部5に固定するようにしても良い。この場合、吊りボルト110の下端部分が振れ止め装置1によって強固に保持されるようになり、地震発生時において懸吊物200がXYZの各方向に振れることを良好に防止することができるようになる。
尚、本実施形態において上述した点以外については、第1実施形態で説明したものと同様である。
(第3実施形態)
次に本発明の第3実施形態について説明する。上述した第1及び第2実施形態では、空気調和機などの吊り下げ対象物180が防振ダンパー130を介して支持されており、振れ止め装置1が天井構造101と防振ダンパー130との間で懸吊物200から突出する棒状体の振動を抑える例を説明した。しかし、振れ止め装置1が天井構造101と防振ダンパー130との間で棒状体の振動を抑えるように配置されると、地震発生時に、防振ダンパー130によって支持される吊り下げ対象物180の振動を抑えることができない。そこで本実施形態では、地震発生時に、防振ダンパー130によって支持される吊り下げ対象物180の振動を抑えることができるようにした支持構造100の例について説明する。
図9は、第3実施形態における懸吊物200の支持構造100を示す側面図である。この支持構造100が第1実施形態と異なる点は、防振ダンパー130が吊りボルト110の下端部に設けられ、支持枠体120が防振ダンパー130を介して吊りボルト110によって支持されている点である。
そして本実施形態の振れ止め装置1は、アーム部5の先端に設けられた振れ止め孔26の周縁部が、防振ダンパー130を介して支持される支持枠体120から上方に突出する棒状体(連結ボルト125)の外周面を包囲するように配置される。つまり、本実施形態の振れ止め装置1は、防振ダンパー130を介して吊設されている懸吊物200(具体的には支持枠体120と吊り下げ対象物180)の振れ止め効果を発揮するように設置される。したがって、本実施形態の振れ止め装置1は、地震発生時において、空気調和機などの吊り下げ対象物180が大きく振動することを抑制することが可能となる。
尚、上述のように、防振ダンパー130を介して吊設されている懸吊物200の振れ止め効果を発揮するように振れ止め装置1を取り付ける場合には、連結ボルト125などの棒状体が振れ止め部材24やアーム部5に固定されないことが好ましい。棒状体を振れ止め部材24やアーム部5に固定してしまうと、防振ダンパー130による防振機能が失われてしまうからである。したがって、振れ止め装置1は、棒状体との間に一定の隙間(上述したΔX、ΔY、ΔZなど)を有するように取り付けられる。
尚、本実施形態において上述した点以外については、第1又は第2実施形態で説明したものと同様である。
(第4実施形態)
次に本発明の第4実施形態について説明する。本実施形態では、保持部4を有しない振れ止め装置1について説明する。
図10は、第4実施形態における振れ止め装置1の構成例を示す図である。図10に示す振れ止め装置1は、支柱2の外周面に連結部14を有しており、その連結部14にアーム部5が一体的に連結された構成である。つまり、本実施形態では、上述した保持部4が設けられていないことになる。
この振れ止め装置1は、アーム部5が連結された支柱2を軸周り回動可能とするため、フランジ部3に複数の円弧状の孔3bを有している。これら複数の円弧状の孔3bに装着されるボルトやアンカーなどが締め付けられる前の状態では、支柱2は、軸周りに回動可能である。そのため、支柱2の外側に向かうアーム部5の延設方向を調整することが可能である。このような振れ止め装置1を採用すると、上述した保持部4を設ける必要がないため、部品コストを抑えることができると共に、施工時の作業をより簡略化することができる。
尚、図10に示すような振れ止め装置1を構築するときには、アーム部5を連結する連結部14を支柱2の長手方向に沿って移動可能とすることが好ましい。また、本実施形態において上述した点以外については、第1乃至第3実施形態のいずれかで説明したものと同様である。
(第5実施形態)
次に本発明の第5実施形態について説明する。上述した実施形態では、アーム部5の振れ止め部材24が棒状体の振動を規制する場合を例示した。しかし、これに限られるものではなく、例えば懸吊物200に孔が設けられている場合には、その孔に棒状体を挿入した状態に設置することにより、懸吊物200の振動を規制することが可能である。そこで本実施形態では、懸吊物200の孔に挿入させる棒状体51を備えたアーム部5の構成例について説明する。
図11は、棒状体51を下方に突出させるアーム部5の一構成例を示す図である。このアーム部5に設置される振れ止め部材24は、支持アーム20のガイド孔21に挿通可能な棒状体51を備えている。棒状体51の長さは予め調整しておくことができる。このような振れ止め部材24を備えるアーム部5は、図12に示すように、懸吊物200に設けられた孔201に棒状体51を挿入した状態に配置される。したがって、本実施形態の振れ止め装置1は、地震発生時に棒状体51が懸吊物200の振れ幅を規制することができる構成である。
尚、本実施形態において上述した点以外については、第1乃至第4実施形態のいずれかで説明したものと同様である。
(第6実施形態)
次に本発明の第6実施形態について説明する。本実施形態では、懸吊物200の外周面に対して規制部材52を近接又は接触させた状態に配置することで懸吊物200の振動を規制する例について説明する。
図13は、規制部材52を下方に突出させたアーム部5の一構成例を示す図である。本実施形態では、振れ止め部材24が支持アーム20の下部に設置され、位置決め部材27である添設部材28が支持アーム20の左右両壁部の間に収容配置される。添設部材28は、例えば金属平板によって構成され、その表面にボルト29aを挿通するための孔28aが形成されている。
支持アーム20の下部に設置される振れ止め部材24は、概略コ字状の形状をした取付部24fと、取付部24fの先端側に設けられる平板状の規制部材52とを備えている。取付部24fの中央には、ボルト29aを挿通するためのボルト挿通孔25が形成される。ボルト29aは、添設部材28の孔28a、ガイド孔21を介して振れ止め部材24のボルト挿通孔25に挿通され、その先端にナット29bが装着される。このような振れ止め部材24は、位置決め部材27によって支持アーム20の下面側に仮止めされているとき、支持アーム20のガイド孔21に沿ってスライド移動可能である。このスライド移動により、規制部材52を所定位置に配置することができる。そしてボルト29aとナット29bとが締着されることにより、振れ止め部材24は支持アーム20に固定され、規制部材52を一定の位置に保持する。
このような振れ止め部材24を備えるアーム部5は、図14に示すように、規制部材52を懸吊物200(図14では吊り下げ対象物180)の外周面(例えば側面)に近接又は接触させた状態に配置して固定される。したがって、振れ止め装置1は、地震発生時に規制部材52が懸吊物200の外周面を押さえることにより懸吊物200の振動を規制することができる。
尚、本実施形態において上述した点以外については、第1乃至第4実施形態のいずれかで説明したものと同様である。
(第7実施形態)
次に本発明の第7実施形態について説明する。本実施形態では、第6実施形態と同様に、懸吊物200の外周面に対して規制部材52を近接又は接触させた状態に配置することで懸吊物200の振動を規制する他の例について説明する。
図15は、所定角度で2方向に延設される規制部材53を備えるアーム部5の一構成例を示す図である。本実施形態では、第6実施形態と同様に、振れ止め部材24が支持アーム20の下部に設置され、位置決め部材27である添設部材28が支持アーム20の左右両壁部の間に収容配置される。添設部材28は、例えば金属平板によって構成され、その表面にボルト29aを挿通するための2つの孔28aが形成されている。
支持アーム20の下部に設置される振れ止め部材24は、概略コ字状の形状をした取付部24gと、取付部24gの先端側に設けられる概略L字状の規制部材53とを備えている。取付部24gには、ボルト29aを挿通するための2つのボルト挿通孔25が形成される。2つのボルト29aは、それぞれ、添設部材28の孔28a、ガイド孔21を介して振れ止め部材24のボルト挿通孔25に挿通され、その先端にナット29bが装着される。このような振れ止め部材24は、位置決め部材27によって支持アーム20の下面側に仮止めされているとき、支持アーム20のガイド孔21に沿ってスライド移動可能である。このスライド移動により、規制部材53を所定位置に配置することができる。そしてボルト29aとナット29bとが締着されることにより、振れ止め部材24は支持アーム20に固定され、規制部材53を一定の位置に保持する。
規制部材53は、第1規制部材53aと第2規制部材53bとを有している。第1規制部材53aと第2規制部材53bとは互いに所定角度開いた状態で取付部24fに固定されている。第1規制部材53aと第2規制部材53bとの角度は例えば90度である。第1規制部材53aは、平板部54aと縦板部55aとを備えている。第2規制部材53bも同様に、平板部54bと縦板部55bとを備えている。
このような規制部材53は、例えば懸吊物200(又は吊り下げ対象物180)のコーナー部の外周面に近接又は接触するように配置される。一例を挙げると、第1規制部材53aの平板部54aは、懸吊物200の上面に近接又は接触するように配置され、縦板部55aは懸吊物200のコーナー部における一方の側面に近接又は接触するように配置される。また第2規制部材53bの平板部54bは、懸吊物200の上面に近接又は接触するように配置され、縦板部55bは懸吊物200のコーナー部における他方の側面に近接又は接触するように配置される。したがって、本実施形態の振れ止め装置1は、地震発生時において規制部材53が懸吊物200のコーナー部を押さえることにより懸吊物200の振動を規制することができる。
尚、本実施形態において上述した点以外については、第1乃至第4実施形態のいずれかで説明したものと同様である。
(第8実施形態)
次に第8実施形態について説明する。上述した各実施形態で説明した振れ止め部材24は位置決め部材27であるボルト29aとナット29bの締着力によって支持アーム20に固定されている。このような固定方式は、謂わば、平面と平面の摩擦力のみで振れ止め部材24を支持アーム20に固定する方式である。これに対し、本実施形態では、より強固に振れ止め部材24を支持アーム20に固定できる固定方式について説明する。
図16は、本実施形態におけるアーム部5の一構成例を示す図である。本実施形態のアーム部5に設けられる添設部材28は、概略コ字状の形状を有しており、平板部の中央にボルト29aを挿通するための孔28aが形成されている。また、添設部材28の互いに対向する壁部28c,28dにはボルト49を装着するための螺子孔28e,28fが形成されている。
本実施形態では、上述した実施形態と同様に、添設部材28が支持アーム20の下面側に添設された状態で孔28aにボルト29aが挿入され、そのボルト29aの先端にナット29bが装着されることによって支持アーム20の下面側に取り付けられる。そして振れ止め部材24の位置調整が完了し、ボルト29aとナット29bとがきつく締着された後に、さらに別のボルト49を螺子孔28e,28fに締着させて振れ止め部材24を固定する。ボルト49の先端には、支持アーム20の左右の壁部20c,20dに食い込む突起部49aが設けられている。そのため、ボルト49が螺子孔28e,28fに対してきつく締め付けられると、突起部49aが支持アーム20の壁部20c,20dに食い込んだ状態となる。つまり、ボルト49と壁部20c,20dとが互いに係止された状態となるのである。このような固定方式は、平面と平面の摩擦力のみで振れ止め部材24を支持アーム20に固定する方式とは異なり、突起部49aが壁部20c,20dの表面に形成した凹部に嵌り込んでいるので振れ止め部材24の固定強度が増す。したがって、大規模地震発生時でも、振れ止め部材24は、良好な振れ止め効果を発揮する。尚、ボルト49は、2つの壁部28c,28dのうちの一方の壁部のみに対して装着されるものであっても構わない。
本実施形態において上述した点以外については、第1乃至第7実施形態のいずれかで説明したものと同様である。また、本実施形態で説明した固定方式は、上述した各実施形態のアーム部5に適用することも可能である。例えば上述した第6又は第7実施形態では、振れ止め部材24が支持アーム20の下面側に配置されている。そのため、本実施形態を第6又は第7実施形態に適用する場合には、振れ止め部材24の左右両壁部(又は一方の壁部)に螺子孔28e,28fを形成してボルト49を装着可能な構成とすれば良い。
(第9実施形態)
次に第9実施形態について説明する。上記各実施形態で説明した振れ止め装置1は、支柱2の上端部にフランジ部3が設けられ、そのフランジ部3が天井構造101に固定される。このような構造において、例えば地震発生時に吊り下げ対象物180や懸吊物200に横方向の力が作用すると、その力はアーム部5を介して支柱2の下部に伝わる。支柱2は、上述のように高い剛性を有するため、アーム部5から伝わる力によって変形することはない。しかし、その反面、アーム部5から支柱2に伝わる力が、てこの原理により、フランジ部3を天井構造101に固定しているボルトやアンカーに対して大きな力となって作用する。すなわち、支柱2においてアーム部5が取り付けられている位置が力点となり、フランジ部3の周縁部一点が支点となり、ボルトやアンカーの位置が作用点となるため、フランジ部3を天井構造101に固定しているボルトやアンカーに過大な力が作用し、天井構造101に対する取り付け強度が低下してしまう可能性がある。
上記のような強度低下を抑制するためには、フランジ部3のサイズをなるべく大きなサイズとすることが好ましい。フランジ部3のサイズを大きくすることにより、てこの原理が働いたとしても、ボルトやアンカーに作用する力を低減することができるからである。
しかしながら、支柱2の上端部に対して一体的に設けるフランジ部3のサイズを大きくすると、例えば狭小スペースに振れ止め装置1を設置する場合に、フランジ部3が周囲にある配管やダクトなどの他の吊設部材と干渉しやすくなるため、フランジ部3を天井構造101の近傍位置まで持ち上げることが困難になるケースが発生し、施工時の作業効率を著しく低下させてしまう可能性がある。
そこで、本実施形態では、振れ止め装置1を施工する際の作業効率を著しく低下させることなく、ボルトやアンカーに作用する力を低減できるようにした振れ止め装置1及びその施工方法について説明する。
図17は、第9実施形態における振れ止め装置1の構成例を示す図である。図17に示す振れ止め装置1は、上記各実施形態で説明した構成に加え、支柱2の上端部に連結されるベースプレート60を備えている。ベースプレート60は、フランジ部3の上面に接合するように配置される部材である。このベースプレート60は、概略矩形状の平板部61と、その平板部61の下面から垂下するように設けられる複数のボルト63とを有する。平板部61は、フランジ部3よりも面積の大きい部材であり、その四隅の複数箇所にボルトなどを挿通して天井構造101に取り付けるための孔62が設けられている。複数のボルト63は、例えば平板部61の中心から所定半径の円上において略等間隔に配置される。例えば、各ボルト63は、フランジ部3に設けられる複数の孔3aに対応する位置に設けられている。
上記のようなベースプレート60は、各ボルト63をフランジ部3の孔3aに挿入され、各ボルト63の先端に装着されるナット64が締め付けられることにより、フランジ部3と一体的なプレート部材となる。言い換えると、ベースプレート60は、平板部61がフランジ部3の上面に接合するようにしてフランジ部3に連結されることにより、フランジ部3との一体構造物を形成する。そのため、ベースプレート60は、実質的にフランジ部3の外形サイズを大きくする作用効果を奏するのである。したがって、本実施形態の振れ止め装置1は、支柱2の上端部において、フランジ部3に着脱可能なベースプレート60を備えることにより、ベースプレート60を先に天井構造101に取り付けておき、そのベースプレート60に対してフランジ部3を連結させることで、簡単に施工することができるようになる。
図18は、振れ止め装置1の施工手順の一例を示す図である。例えば、図18(a)に示すように、振れ止め装置1の設置対象位置に、ダクトや配管などの他の吊設部材141,142が既に取り付けられており、それら吊設部材141,142の間隔Wがベースプレート60の幅よりも狭いことがある。そのような場合、ベースプレート60をフランジ部3に対して先に取り付けてしまうと、作業者が支柱2の上端部にあるベースプレート60を吊設部材141,142の間に差し込むことができない。そのため、作業者は、図18(a)に示すように、ベースプレート60をフランジ部3へ取り付ける前に、ベースプレート60を先に天井構造101に取り付ける。ベースプレート60が支柱2に連結されていない状態のとき、作業者は、ベースプレート60を傾けることで吊設部材141,142の間隔Wを簡単に通すことができ、天井構造101の近傍位置に配置することができる。
ベースプレート60は、四隅に設けられた孔62に対して天井構造101に対して予め取り付けられているボルトやアンカーなどの雄螺子部材108を挿通し、その雄螺子部材108の先端にナット109を装着して締め付けることにより、天井構造101に固定される。尚、図18では、天井構造101の下面が平面状である場合を例示しているが、上述したデッキプレート102のように下面に凹凸のある場合であっても構わない。
上記のようにしてベースプレート60を先に天井構造101に取り付けると、次に作業者は、図18(b)に示すように、振れ止め装置1のフランジ部3をベースプレート60のボルト63に連結する作業を行う。このとき、作業者は、支柱2を立てた状態でフランジ部3をベースプレート60に接近させることができる。つまり、フランジ部3のサイズがベースプレート60よりも小さいため、作業者は、フランジ部3を吊設部材141,142に接触させることなく、簡単にフランジ部3をベースプレート60の近傍位置へ配置することができるのである。
そしてフランジ部3は、複数の孔3aに対してベースプレート60から垂下するボルト63を挿通し、そのボルト63の先端にナット64を装着して締め付けることにより、天井構造101に固定される。これにより、フランジ部3は、図18(c)に示すように、サイズの大きいベースプレート60と一体構造物を形成する。そして、振れ止め装置1は、ベースプレート60を介して天井構造101に固定された状態となる。このような形態の場合、仮に支柱2に対して横方向の力が作用し、てこの原理が働いたとしても、ベースプレート60のサイズが大きいため、支点と作用点との距離が長いことから雄螺子部材108に対して過大な力が作用することを防止することができ、天井構造101への取り付け強度が低下してしまうことを有効に防止することができる。
上記のようにして振れ止め装置1を天井構造101に取り付けると、作業者は、その後、アーム部5の位置及び姿勢を調整することにより、振れ止め装置1が懸吊物200の振れ幅を規制できる状態に設置する。以上で、振れ止め装置1の施工作業が終了する。
このように本実施形態の振れ止め装置1は、支柱2の上端部に連結されるベースプレート60を備えており、ベースプレート60が先に天井構造101に取り付けられた状態で、支柱2の上端部がベースプレート60に連結されることにより、天井構造101に固定される。このような振れ止め装置1によれば、狭小スペースに設置する場合であっても、ベースプレート60を先に天井構造101に取り付けることができるので、フランジ部3のサイズを大きくする必要がなく、簡単に施工することができるという利点がある。
尚、本実施形態で説明したベースプレート60は、上記各実施形態において説明した振れ止め装置1のいずれにも適用可能である。
(変形例)
以上、本発明に関する幾つかの実施形態について説明したが、本発明は、上記各実施形態で説明したものに限られない。すなわち、本発明は、上記各実施形態で説明した構成以外にも種々の変形例を適用することが可能である。
例えば上記実施形態では、吊り下げ対象物180が空気調和機である場合を例示したが、吊り下げ対象物180は空気調和機に限られるものではない。例えば、吊り下げ対象物180としては、空気調和機の他にも、照明器具、ダクト、各種配管、棚などを挙げることができる。
また、上記実施形態では、懸吊物200の4箇所に振れ止め装置1が配置される場合を例示した。しかし、振れ止め装置1は、1つの懸吊物200の少なくとも2箇所に対して配置されるものであれば良い。
また、上記実施形態では、懸吊物200を支持する天井構造101として、デッキプレート102の上面に天井スラブ105が打設された構造を例示した。しかし、天井構造101は、必ずしもそのような構造に限られない。例えば、天井構造101は、梁やその他の鋼材であっても構わない。
また、上記実施形態では、懸吊物200に防振ダンパー130が設けられている場合を例示した。しかし、懸吊物200に、防振ダンパー130は必須のものではない。