JP7256151B2 - 二次電池の良否判定方法、二次電池の製造方法 - Google Patents

二次電池の良否判定方法、二次電池の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、二次電池の良否判定方法、二次電池の製造方法に係り、詳しくは、製造情報に基づいてより正確に二次電池の良否を判断する二次電池の良否判定方法、二次電池の製造方法に関する。
一般に、車両用等のリチウムイオン二次電池等の二次電池は、大電流電での充放電が繰り返され、苛酷な条件において使用されるため、例えば、微小短絡による自己放電が大きいと、十分な性能を発揮できない。そのため、そのような二次電池は、その製造時に発見し、出荷を止めることが望ましい。
そこで、特許文献1に開示された2次電池の良否判定方法は、良否を判定するために以下のような工程を備える。まず2次電池を充電する充電工程と、充電後の2次電池の開路電圧を測定する放置前電圧測定工程と、充電された2次電池を、所定条件で放置する放置工程を備える。次に、放置後の2次電池の開路電圧を測定する放置後電圧測定工程と、放置前電圧測定工程で測定された電圧から放置後電圧測定工程において測定された電圧までの電圧降下量を測定する。そして電圧降下量が予め決めた値より大きい場合に不良品であると判定し、それ以外である場合に良品であると判定する判定工程とを含むものである。
このような良否判定方法によれば、十分な性能を発揮できない二次電池は、その製造時に発見し、出荷を止めることができる。
特開2010-153275号公報
しかしながら、特許文献1に記載された発明では、良否を有意に判定するためには、放置工程において数日以上の放置が必要であったため、二次電池の生産効率が低くなってしまうという問題があった。
本発明は、上記問題点を解決するため、比較的短い時間で二次電池の良否を判定することができる二次電池の良否判定方法、二次電池の製造方法を提供することにある。
前記課題を解決するため、本発明の二次電池の良否判定方法では、二次電池の副反応電流値に影響を与える二次電池の製造工程における複数の製造条件について、それぞれの製造条件と、該製造条件が副反応電流値に与える相関関係を予め測定して補正情報として記録する補正情報取得のステップと、二次電池の製造工程において、前記製造条件を製造情報として取得する製造情報取得のステップと、製造された前記二次電池を充電して、基準となる該充電による満充電時の基準電圧を測定する基準電圧測定のステップと、予め決められた保存温度と保存時間の条件でエージングするエージングのステップと、前記エージングのステップ後の二次電池の測定電圧を取得するとともに、前記測定電圧との電圧差である実測下降電圧を算出する実測下降電圧算出のステップと、前記基準電圧から前記製造情報取得のステップで取得した製造情報に基づいて前記補正情報を参照し、前記エージングのステップ後の予測下降電圧を算出する予測下降電圧算出のステップと、前記実測下降電圧と予測下降電圧の差が判定閾値以下である場合に製造された二次電池を良品と判定する良否判定のステップとを備えたことを特徴とする。
上記発明では、前記予測下降電圧算出のステップにおいて、リチウムイオン二次電池を特定の条件で保存する保存のステップと、前記保存したリチウムイオン二次電池の保存前後の電池満容量の容量低下量を測定する容量低下量測定のステップと、前記保存したリチウムイオン二次電池の保存前後の自己放電容量を測定する自己放電容量測定のステップと、前記容量低下量及び自己放電容量とから、前記保存時の特定条件における正極及び負極の副反応電流値を求めるステップとを含む自己放電特性取得のステップを備えてもよい。
また、この発明では、前記予測下降電圧算出のステップにおいて、前記自己放電特性取得のステップにおいて取得した正極及び負極の副反応電流値に基づいて、前記エージングのステップにおける保存温度と保存時間を参照して、積算された正極及び負極の副反応電流値を補正するステップと、前記製造情報取得のステップで取得した製造情報に基づいて前記補正情報を参照して、積算された正極及び負極の副反応電流値を補正するステップと、補正された積算された正極及び負極の副反応電流値に基づいて、正極・負極の容量-開放電位の関係において、正極及び負極の容量ずれ量を参照して正極及び負極の開放電位を求めるステップと、求めた正極及び負極の開放電位から、予測下降電圧を算出してもよい。
前記製造条件は、活物質、水分量、温度のいずれかの条件を含むことも好ましい。
また、前記基準電圧測定のステップにおける充電は、前記二次電池の組立工程が完了後に行われる初充電であることが望ましい。
前記二次電池が、リチウムイオン二次電池において好適に実施できる。
上記のいずれかに記載の二次電池の良否判定方法を含む二次電池の製造方法として実施できる。
本発明の二次電池の良否判定方法、二次電池の製造方法によれば、比較的短い時間で二次電池の良否を判定することができる。
リチウムイオン二次電池の構造の一例を示す模式図。 本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法の手順を示すフローチャート。 副反応電流値の予測のフローチャート。 リチウムイオン二次電池の自己放電特性取得のため装置の構成を示すブロック図。 自己放電特性取得の手順を示すフローチャート。 活物質の比表面積に関する製造情報の補正マップの一例。 活物質の質量に関する製造情報の補正マップの一例。 水分に関する製造情報の補正マップの一例。 温度に関する製造情報の補正マップの一例。 予測下降電圧ΔVESTの推定方法の正極・負極の容量-OCP特性を示すグラフ。
図1~10を参照して、本発明の二次電池の良否判定方法、二次電池の製造方法を、リチウムイオン二次電池の製造方法の一実施形態を例に説明する。
<実施形態の概略>
本実施形態の良否判定方法を備えたリチウムイオン二次電池1の製造方法は、二次電池の製造において、電極の構成や、乾燥状態、温度条件など二次電池の副反応電流に影響を及ぼす製造条件PCを製造情報PIとして収集し記憶しておく。この製造情報PIは、製造後に追跡して検索が可能な情報としてトレーサビリティ情報(traceability information)と呼ばれることがある。一方、予め実験により製造条件PCと副反応電流との相関関係が関係づけられた補正マップMP(図6~9参照)を備える。組立工程の完了したリチウムイオン二次電池の活性化工程における初充電において基準電圧Vが測定され、その後の一定の保存温度T・保存時間ATの条件でエージング工程後に、実測下降電圧ΔVRELが実測される。一方、測定された基準電圧Vを基準として、製造情報PIに基づいて補正マップMPを参照して、同じ温度T・時間ATの条件でエージング工程をしたならば、どれだけ電圧の降下があるかを正確に予測して予測下降電圧ΔVESTを算出する。そして、良否判定のステップにおいて実測下降電圧ΔVRELと予測下降電圧ΔVESTの差が判定閾値ΔVTHR以下であると判断された場合には、製造された二次電池を良品と判定し、その差が判定閾値ΔVTHRを超える場合には、不良品として判断する。このように、正確な予測下降電圧ΔVESTを求めて、実際に測定した実測下降電圧ΔVRELと比較することで、リチウムイオン二次電池の製造工程で従来より行われる初充電の工程とエージング工程において、リチウムイオン二次電池1の良否を判定することができる。このため、別途数日間にわたるような長時間かかる良否判定をする必要もなく、リチウムイオン二次電池の製造工程を簡略化することができる。
<リチウムイオン二次電池1>
図1は、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の構造の一例を示す模式図である。リチウムイオン二次電池1は、図示しない電解質とともに、その正極3、負極4、及びセパレータ5が電池ケース12の内部に封入されたセルを構成要素とする。そして、このようなセル電池を複数スタックして電池パックとし、電気自動車やハイブリッド自動車の車載電源として用いる。
以下、このようなリチウムイオン二次電池1の構成を説明する。正極3及び負極4はそれぞれシート状に形成され、セパレータ5を挟み込む状態で積層される。この積層体を巻回することにより、その径方向において、正負の電極がセパレータ5により絶縁された状態で交互に並ぶ電極体11が形成される。電極体11は、その巻回された正極3、負極4、及びセパレータ5を径方向外側から押圧することで、扁平した外形を有するものとなっている。そして、リチウムイオン二次電池1は、このような電極体11を、電解質となる非水電解液や非水電解質ポリマー等とともに、そのセル電池の外殻を構成する電池ケース12内に収容する。
正極3及び負極4は、それぞれ、例えば、シート状の外形を有した正極集電体13及び負極集電体14に対し、活物質を含んだペーストが塗工されて整形、乾燥されることで形成される。具体的には、正極集電体13には、例えば、アルミニウム箔が用いられ、正極活物質には、リチウム遷移金属酸化物が用いられる。また、負極集電体14には、例えば、銅箔が用いられ、負極活物質には、グラファイトなどの炭素系材料が用いられる。十分に乾燥されたのちに非水電解液が充填され密封された電池ケース12には、その外部に突出する正極端子15及び負極端子16が設けられている。そして、リチウムイオン二次電池1は、これらの正極端子15及び負極端子16に対して、それぞれ、その対応する正極集電体13及び負極集電体14が電気的に接続される構成となっている。
<微小短絡による自己放電>
リチウムイオン二次電池は、リチウム金属の析出、微細な金属異物の混入などが理由となって、正極と負極が通電する微小短絡を生じることがある。微小短絡を生じると自己放電が大きくなる。そのため、リチウムイオン二次電池1を製造したのちには、このような自己放電が生じていないかの検査が必要となる。
<リチウムイオン二次電池の容量ずれ>
リチウムイオン二次電池1は、副反応電流により電解質が分解され不働態SEI被膜が形成され、正負極での不働態SEI被膜の形成量の差による容量ずれが生じることがある。SEI被膜の厚さは、基本的に、ある任意の期間における副反応電流値[A]×期間である積算値[Ah]により推定される。
<活物質の比表面積>
副反応電流の大きさは、充放電の電流の大きさ以外でも種々の要素により変化する。例えば活物質の比表面積[cm/g]が大きければ、同じ活物質の質量でも反応する面積が大きくなり、それに応じて副反応電流[A]も大きくなる。そこで、この比表面積は、例えばBET法(Brunauer-Emmett-Teller法)により測定される。そして、この活物質の比表面積[cm/g]が製造情報PIBETとして記録される。
<活物質の質量>
また、電極に塗布されたペーストの量を示す目付[g/cm]が大きければ、それだけ活物質の質量も多いため副反応電流[A]が大きくなる。この目付[g/cm]も製造条件として記録される。
同様に、電極面積[cm]、つまり電極における合材層の面積が大きくなれば、それだけ活物質の量も多いため副反応電流[A]が大きくなる。この電極面積[cm]も製造条件として記録される。
そして、目付[g/cm]×電極面積[cm]×ペースト中の活物質の割合の大きさが、電極における活物質の質量[g]の合計に関する製造情報PIACTとして記録される。
<残存水分>
また、非水電解質はリチウムイオン二次電池1には不可欠なものであり、水分が完全に除去されることが望ましい。残存水分が存在すると、正負極上で水が反応し、被膜が形成され、副反応電流値が大きくなる。そのため、電池要素が製造される源泉工程(S2)における正負極の製造においては、集電体に活物質を含むペーストを塗工し、熱風乾燥や、乾燥炉においての加熱乾燥や、その後真空乾燥などを経て、水分が除去されるが、このときの電極体内に残存した水分量が製造条件として記録される。
また、組立工程(S3)では、セパレータとともに巻回された電極体を電池ケース12に収容した後、乾燥工程(S4)が行われる。この乾燥工程(S4)での、水分の除去状態は、その後のリチウムイオン二次電池1の副反応電流の大きさに影響する、そこで、この乾燥工程の加熱温度、時間などの乾燥条件が、製造条件として記録される。
また、作業環境としての露点温度が記録される。ここで「露点」とは、一般に露点温度をいい、気体を冷却していくとき結露、すなわち凝結が起こる温度をいう。自然乾燥の場合は、露点が乾燥度を左右するので、製造条件として記録される。また、空圧機器のエアドライヤを用いる場合は、その性能を表す指標としても用いられるデータをいう。エアドライヤでは定格露点温度の低いものの方が、より乾燥した空気を作れるため、これを乾燥の条件として、製造条件として記録される。真空乾燥炉においての加熱乾燥の場合は、乾燥炉の温度や真空度が製造条件として記録される。
本実施形態では、このような電極体内水分量、乾燥条件、露点などの製造条件を統合して、水分量に関する製造情報PIAQAとして記録される。
<温度>
リチウムイオン二次電池1の製造工程については、工程環境温度[°C]の影響を受ける。組立工程完了直後の活性化工程におけるエージング工程の初充電の開始時点では、正負極におけるSEI被膜が形成されていない状態である。リチウムイオン二次電池1の初充電にて正負極にSEI被膜が形成されるが、その後においては、温度が上昇するとアレニウスの法則から主反応電流とともに副反応電流も大きくなりSEI被膜の被膜形成が進行し、その結果副反応電流値[A]が早く低下する。このような工程環境温度[°C]や、エージング時の温度[°C]は、製造条件として記録され、温度に関する製造情報PITEPとして記録される。
<その他の製造情報>
なお、本実施形態では、製造情報として上記の3つの要素を例示したが、もちろんこれらに限定されない。すなわち、副反応電流値の予測に寄与する数値化が可能なものは、いかなる要素であっても、製造条件や製造情報として捉えることができる。
<補正情報>
上述した通り、製造条件が異なると、副反応電流値の大きさも製造条件に依存して変化する。副反応電流の大きさは、その後のリチウムイオン二次電池1の劣化に影響を与える。そのため、初充電直後の基準電圧Vから一定の条件のエージング工程を経たのちの実測下降電圧ΔVRELを予測するには、このような製造条件が副反応電流値[A]の大きさにどのような影響を与えるかを知る必要がある。
そこで、予め、製造情報と副反応電流値の相関関係のマップを作製する。このマップを「補正マップMP」として、エージング工程中のリチウムイオン二次電池1の副反応電流値[A]の大きさを予測し、これに基づいてエージング工程完了後の副反応電流値[A]の積算値[Ah]を算出する。そして、この副反応電流値[A]の積算値[Ah]に基づいて、エージング工程完了後の予測下降電圧ΔVESTを算出する。
<活物質の比表面積に関する補正>
図6は、活物質の比表面積に関する製造情報の補正マップMPBETの一例を示す。比表面積[cm/g]の大きさが製造情報PIBETとして記録されている。ここで得た活物質の比表面積[cm/g]と、このリチウムイオン二次電池1の設計値である活物質の比表面積[cm/g]が基準値としてプロットされ、さらに比表面積[cm/g]が増減したときの副反応電流値[A]との関係を実験によりプロットして補正マップを作成した。なお、例えば、比表面積に誤差が少ないような場合では、これを固定値として扱ってもよい。
したがって、そのリチウムイオン二次電池1の製造時の活物質の比表面積[cm/g]の製造情報PIBETにより、どの程度副反応電流値[A]が増減するかの係数を決定することができる。すなわち、設計上の副反応電流値[A]を、この係数をかけることで、補正した副反応電流値を予測することができる。例えば、活物質の比表面積に関する製造情報PIBETにおける副反応電流値がA[A]のときは、基準値の副反応電流値A[A]で除して、A/Aにより、補正係数を求める。そして、基準となる副反応電流値にこの補正係数を乗じて予測値を導き出す。
<活物質の質量に関する補正>
図7は、活物質の質量に関する製造情報の補正マップMPACTの一例を示す。質量[g]の大きさが製造情報PIACTとして記録されている。ここで得た活物質の質量[g]と、このリチウムイオン二次電池1の設計値である活物質の質量[g]が基準値としてプロットされ、さらに質量[g]が増減したときの副反応電流値[A]との関係を実験によりプロットして補正マップを作成した。なお、本実施形態では、質量[g]は、目付[g/cm]×電極面積[cm]×ペースト中の活物質の割合で算出されるが、この3つのうちのいずれかに誤差が少ないような場合では、これを固定値として扱ってもよい。
したがって、そのリチウムイオン二次電池1の製造時の活物質の質量[g]の製造情報PIACTにより、どの程度副反応電流値[A]が増減するかの係数を決定することができる。すなわち、設計上の副反応電流値[A]を、この係数をかけることで、補正した副反応電流値を予測することができる。例えば、活物質の質量に関する製造情報PIACTにおける副反応電流値がA[A]のときは、基準値の副反応電流値A[A]で除して、A/Aにより、補正係数を求める。そして、基準となる副反応電流値にこの補正係数を乗じて予測値を導き出す。
<水分量に関する補正>
図8は、水分量に関する製造情報の補正マップの一例を示す。リチウムイオン二次電池1の製造工程では、電極体内水分量、乾燥条件、露点などの製造条件が記憶され、これらが統合されて残存する水分量に関する製造情報PIAQAとして記録される。ここで得た水分量と、このリチウムイオン二次電池1の設計値である水分量と、これが増減したときの副反応電流値[A]との関係を実験によりプロットして補正マップを作成した。
したがって、そのリチウムイオン二次電池1の製造時の水分量[g]の製造情報により、どの程度副反応電流値[A]が増減するかの補正係数を決定することができる。すなわち、設計上の副反応電流値[A]を、この補正係数をかけることで、補正した副反応電流値を予測することができる。本実施形態では、活物質に関する補正係数と水分量に関する補正係数を乗じることで、活物質と水分量の双方を織り込んだ副反応電流値の予測値を算出することができる。
<温度に関する補正>
図9は、温度に関する製造情報PITEPの補正マップの一例を示す。リチウムイオン二次電池1の製造工程については、工程環境温度[°C]の影響を受ける。特に活性化工程におけるエージング工程の初充電の開始時点では、正負極におけるSEI被膜が形成されていない状態である。正負極におけるSEI被膜の形成後においては、温度が上昇するとアレニウスの法則からSEI被膜の被膜形成が早く進行し、その結果副反応電流値[A]が早く低下する。このような工程環境温度[°C]や、エージング時の温度[°C]は、製造条件として記録され、温度に関する製造情報PITEPとして記録される。例えばここで得たエージング時の温度[°C]と、このリチウムイオン二次電池1の設計値でエージング時の温度[°C]と、これが増減したときの副反応電流値[A]との関係を実験によりプロットして補正マップを作成した。
したがって、そのリチウムイオン二次電池1の製造時のエージング時の温度[°C]の製造情報により、どの程度副反応電流値[A]が増減するかの補正係数を決定することができる。すなわち、設計上の副反応電流値[A]を、この補正係数をかけることで、補正した副反応電流値を予測することができる。この補正係数も活物質に関する補正係数や水分量に関する補正係数と同様に、乗じることで副反応電流値の予測に重畳的に反映させることができる。
(実施形態の作用)
<リチウムイオン二次電池1の製造方法>
ここで、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の製造方法について説明する。図2はリチウムイオン二次電池1の製造方法の手順を示すフローチャートである。
<材料の納入(S1)>
リチウムイオン二次電池1の製造に当たり、必要な材料を納入する(S1)。電極体11を構成する正極3、負極4、セパレータ5、および電解液の材料は、従来公知の各種材料を用いることができる。これらの材料の一例として、正極3の活物質には、コバルト酸リチウムまたはマンガン酸リチウムが用いられる。正極集電体13にはアルミニウム箔が用いられる。負極4の活物質にはカーボン(グラファイト)が用いられる。負極集電体14には銅箔が用いられる。その他、電極の合材を形成するペーストの導電材やバインダなどの原料も納入される。セパレータ5にはポリオレフィンのシートが用いられる。電解液は、有機溶媒と、リチウムイオンと、添加剤とを含む。また、電池の金属製のケース12も納入される。その他、端子なども納入される。
この材料の納入に当たっては原料の特性が検査される。例えば、負極4の活物質であるカーボン(グラファイト)の物性が検査される。例えばBET法(Brunauer-Emmett-Teller法)により比表面積が測定される。また、正極3の活物質についても、同様にBET法により比表面積が測定される。これらの活物質の比表面積[cm/g]が製造情報PIBETとして記録される。
<源泉工程(S2)>
源泉工程は、リチウムイオン二次電池の要素である正極3、負極4を製造する工程である。
例えば、正極3では、まず正極活物質に導電材やバインダなどが添加され、混錬されてペースト状にされる。次に正極集電体13となるアルミニウム箔のシートに、所定の範囲にペーストが塗工される。ペーストは、ドクターブレードなどで均一の厚さとされ、設計上の目付[g/cm]に塗工される。そして、乾燥され、プレスにより均一の厚みとされたのちに、所定の寸法にカットされる。この場合、ペーストを塗工する範囲や、目付にムラが生じ、その塗工面積や合材層の厚みに設計値に対してばらつきができる場合がある。そこで、正極3の製造に当たっては、この目付[g/cm]と電極面積[cm]が測定され、製造条件として記憶される。
これらは、目付[g/cm]×電極面積[cm]×ペースト中の活物質の割合の大きさを掛け合わせることで、正極3における活物質の質量[g]の合計に関する製造情報PIACTとして記録される。
源泉工程での正極3、負極4の製造においては、正極集電体13、負極集電体14に活物質を含むペーストを塗工し、熱風乾燥により加熱乾燥を行ったうえで、さらに真空乾燥などを経て、水分が除去されるが、それでも電極体内に水分が残存する。そしてこの残存した水分量[g]が製造情報PIAQAとして記録される。
また本実施形態では行っていないが、セパレータ5の厚さ[mm]や、電解液の濃度や抵抗などを製造情報PIとして計測してもよい。
<組立工程(S3)>
組立工程(S3)は、源泉工程(S2)で製造されたリチウムイオン二次電池1の電池要素をセル電池として組み立てる工程である。
ケース12に、シート状の正極3、負極4、セパレータ5を積層し巻回して電極体11を成形する。成形した電極体11は整形されてケース12に挿入される。正極3の正極集電体13がケース外部の正極端子15と電気的に接続される。同様に、負極4の負極集電体14がケース12外部の負極端子16と電気的に接続される。
<乾燥工程(S4)>
組立工程(S3)で電極体11の収容が完了したリチウムイオン二次電池1は、電解液を充填する前に、ケース12内に残存した水分を排除する乾燥工程(S4)が行われる。基本的には露点管理がなされたドライルームで、定格露点温度の低いエアドライヤで、乾燥した空気を循環させる。この乾燥の条件として、使用したエアドライヤの定格露点温度や、乾燥時間などが製造情報PIAQAとして記録される。
<電解液充填(S5)>
乾燥工程(S4)を経て、乾燥した電池の内部に電解液が充填される(S5)。
<封止(S6)>
乾燥工程(S4)が終了し、電解液が充填された(S5)電池ケース12に蓋をして、溶接される。
以上で、リチウムイオン二次電池1の物理的な組み立ては完了する。
<初充電(S7)>
ここからは、リチウムイオン二次電池1のコンディショニングと呼ばれる手順で、その主な目的は、負極4の表面にSEI被膜を形成することで、電解液の分解を抑制することにある。したがって、リチウムイオン二次電池1の組み立て後は、必ず初充電(S7)による活性化工程が行われる。
<基準電圧V測定(S8)>
初充電(S7)により電池セルのSOC(State Of Charge)が100%となるまで満充電され、その時のセル電圧を基準電圧Vとして測定する。この基準電圧Vは、初充電であるので、電池にほとんど劣化がない状態でのセル電圧ということになる。
<エージング工程(S9)>
初充電(S7)で満充電されたリチウムイオン二次電池1は、一定時間、例えば1日、一定の温度、例えば70°Cの状態で保存されるエージング工程(S9)が行われる。この間に、SEI被膜が形成される。つまり、リチウムイオン二次電池1としては、副反応電流が生じ、僅かであっても劣化が進行することとなる。
<冷却(S10)>
エージング工程(S9)が終了したら、必要以上に電池を高温状態に晒さないように、冷却されて常温に戻される。
<測定電圧V1REL測定(S11)>
冷却されたリチウムイオン二次電池1は、セル電圧である測定電圧V1RELが実測される(S11)。この測定電圧V1RELは、エージング工程(S9)により、自己放電などの理由から、基準電圧Vより低くなっている。この電圧低下は、基本的に副反応電流が生じると、その電流値に応じて電力を消費するため生じる。
このため、例えば、検査されたリチウムイオン二次電池1の活物質の比表面積が大きければ、その分副反応電流は増大し、電圧の低下は大きくなる。
なお、例えば電池内に微小な金属などが混入すると、セパレータ5を貫通して、正極3と負極4とが短絡を生じる場合がある。短絡の程度が大きいと、このエージング工程の間に大きな自己放電を生じて、電圧が急激に低下する場合がある。このように電圧が急激に低下したような場合は、本発明には直接関係がないのでフローチャートには記載されていない手順であるが、明らかに不良品として排除される。また、エージング後にインピーダンスが測定され、インピーダンスの極めて高いようなセル電池も不良品として排除される。
<実測下降電圧ΔVREL算出(S12)>
基準電圧V測定(S8)の手順で測定した、初充電時の基準電圧Vから、測定電圧V1REL測定(S11)の手順で測定した測定電圧V1RELを減算して実測下降電圧ΔVRELの算出を行う。
<製造情報取得(S15)>
エージング工程(S9)が終了すると、電圧の実測値の測定(S11)と並行して、予想電圧V1ESTの予測が行われる(S17)。この電圧V1ESTの予測(S17)に先立って、予測の基礎となるデータとして製造情報PIが取得される(S15)。製造情報PIは、本実施形態では、活物質、残存水分、温度に関する情報が記憶されている。
<副反応電流値を予測(S16)>
製造情報取得(S15)の手順に続いて、副反応電流値の予測(S16)が行われる。図3は、副反応電流値の予測(S16)の手順を示すフローチャートである。このフローチャートに従って副反応電流値の予測(S16)の手順を説明する。
<自己放電特性取得(S161)>
まず、最初に自己放電特性が取得される(S161)。「自己放電特性」とは、良否判定の対象となるリチウムイオン二次電池1の基本的な特性である。言い換えると、所定の保存条件において、正極と負極のそれぞれに生じる副反応電流値[A]、すなわちそのリチウムイオン二次電池1固有の劣化の速度を導き出すためのものである。固有といっても、同じ生産ロットなどでは、共通して利用できるデータである。ここで得られた自己放電特性を製造情報PIを参照して補正をすることで、対象となるリチウムイオン二次電池1の副反応電流値を予測するものである。
<リチウムイオン二次電池の自己放電特性取得の装置200の構成>
図4は、リチウムイオン二次電池1の自己放電特性取得のため装置200の構成を示すブロック図である。本実施形態のリチウムイオン二次電池1の自己放電特性取得の装置200の構成は、周知の充放電装置203、セル電圧測定器204、セル電流測定器205、温度計206、保温装置207を備える。また、これらを制御するインタフェースを備えた周知のコンピュータからなる制御装置208を備える。制御装置208は、CPU281とメモリ282を備える。メモリ282は、RAM、ROMを備える。
これらは、リチウムイオン二次電池1の自己放電特性取得の装置の構成として、リチウムイオン二次電池1を特定の条件で保存する保存手段として機能する。また保存したリチウムイオン二次電池1の保存前後の電池満容量の容量低下量Qlossを測定する電池容量低下量測定手段として機能する。また、保存したリチウムイオン二次電池1の保存前後の自己放電容量QSDを測定する自己放電量測定手段として機能する。また、測定した容量低下量Qloss及び自己放電容量QSDと、予め取得した副反応速度と使用環境の関係を用いて、正極の自己放電容量と、負極の自己放電容量とをそれぞれ算出する自己放電量算出手段として機能する。
<自己放電特性取得のフローチャート>
図5は、自己放電特性取得の手順を示すフローチャートである。このフローチャートに沿って自己放電特性の取得の手順について説明する。
ここでまず、このフローチャートの説明に先立って、説明で用いる用語について予め説明する。
「T1[°C]」は、任意の保存温度(例えば50°C)である。
「t1[h]」は、任意の保存期間(例えば24時間)である。
「Vdat1[V]」は、セル電圧VBが完全放電の電圧3.0[V](この実施形態では、セルSOC0%の完全放電状態のセル電圧VBを「下限電圧」という。)から、満充電の4.1[V](セルSOC0~100%、本実施形態では、「上限電圧」という。)の間で任意に設定した電圧(例えば3.8[V])で、本実施形態では、「基準電圧」という。本実施形態では、自己放電容量の測定の基準電圧に用いられるとともに、保存の任意の初期セル電圧VBでもある。
「Q1[Ah]」は、セル電圧VBを下限電圧3.0[V]から上限電圧(満充電のセル電圧VB=4.1[V](ここでは、セルSOC100%の電圧))の電池容量を測定した保存前電池満容量である。
「Q2[Ah]」下限電圧3.0[V]から基準電圧Vdat=3.8[V]で測定した保存前の区間容量である。
「Q3[Ah]」は、基準電圧Vdat=3.8[V]から保存を経て下限電圧3.0[V]まで放電した保存後の残存容量である。
「Q4[Ah]」は、下限電圧3.0[V]から、上限電圧4.1[V]で測定した保存後電池満容量である。
「QSD[Ah]」は、保存前の区間容量Q2と保存後の残存容量Q3の差から求めた保存期間中の自己放電容量である。
「Qloss[Ah]」は、保存前電池満容量Q1から保存後電池満容量の差から求めた容量低下量である。
「iNE0[A]」は、自己放電容量QSD[Ah]÷保存時間t1[h]で求めた負極の副反応電流(速度)である。
「iPE0[A]」は、負極の副反応電流(速度)iNE0から、容量低下量Qloss[Ah]÷保存時間t1[h]の商との差から求めた正極の副反応電流(速度)である。
本実施形態では以上のように規定する。
<自己放電特性取得のフローチャートの手順>
次に、これらの定義を用いて、リチウムイオン二次電池1の自己放電特性取得の手順を図5のフローチャートに沿って説明する。
まず、自己放電特性取得の処理を開始すると(START)、完全放電時のセルSOC0%の下限電圧3.0[V]からセルSOC100%の上限電圧4.1[V]の満充電まで充電して保存前の電池満容量Q1[Ah]を測定する(S101)。
次に、下限電圧3.0[V]から基準電圧Vdat=3.8[V]までの電圧区間において充電することで保存前の区間容量Q2[Ah]を測定する(S102)。
続いて、基準電圧Vdat=3.8[V]に電圧を調整した後、任意の温度T1(例えば50°C)で任意の時間t1(例えば24時間)保存する(S104)。この手順が「保存のステップ」に相当する。
保存前に基準電圧Vdat=3.8[V]に電圧を調整した後、保存を経て、下限電圧3.0[V]まで放電し、保存後の残存容量Q3[Ah]を測定する(S105)。続いて、下限電圧3.0[V]から、上限電圧4.1[V]までの満充電を行い、保存後の電池満容量Q4[Ah]を測定する(S106)。この場合は、電圧で規定する。保存後は、活物質・電解質の劣化、被膜の形成などの理由から保存前より満充電容量が低下するからである。
そして、保存前の区間容量Q2[Ah]と、保存後の残存容量Q3[Ah]との差を求める。保存前の区間容量Q2に対し、保存後の残存容量Q3は、自己放電による容量の低下がある。下限電圧3.0[V]から基準電圧Vdat=3.8[V]まで充電した容量を、保存を経て、下限電圧3.0[V]まで放電したときの残存容量を求める。このことで保存時間t1の自己放電量を求めることができる。この手順により、保存時間t1に減少した電気容量から自己放電容量QSDを算出する(S107)。この手順が、「自己放電量測定のステップ」に相当する。
次に、自己放電容量QSD[Ah]を保存時間t1[h]で除して、被膜の成長速度、つまり劣化速度に相当する負極の副反応電流値(被膜形成電流)iNE0[A]を算出する(S108)。
また、容量低下量Qloss[Ah]を、保存前の電池満容量Q1[Ah]と保存後の電池満容量Q4[Ah]との差から算出する(S109)。
最後に、負極の副反応電流値iNE0[A]と、容量低下量Qlossを保存時間t1[h]で除した商[A]との差から、正極の副反応電流値iPE0[A]を算出する(S110)。
以上で、本実施形態の所定の保存区間におけるリチウムイオン二次電池の負極の副反応電流値iNE0[A]と正極の副反応電流値iPE0[A]を測定する自己放電特性取得の手順が終了する(END)。
このような手順により、保存を開始する基準電圧Vdat[V]、保存温度T1[°C]、保存時間t1[h]の条件での正極の副反応電流値iPE0[A]と、負極の副反応電流値iNE0[A]とが測定できる。すなわち、このリチウムイオン二次電池1の自己放電特性が判明する。すなわち、「自己放電特性」とは、セル電圧VBとセル温度TBとから劣化を判定する基準となるデータである。この手順は、セル毎に行ってもよいが、同じ構成のリチウムイオン二次電池1であれば、全数検査せず抜き取り検査でも十分である。
以上が、リチウムイオン二次電池1の自己放電特性取得の手順である。
このように取得した自己放電特性は、判定対象となるリチウムイオン二次電池1の設計上の活物質の比表面積[cm/g]や、活物質質量[g]、残存水分[g]や、温度[°C]の補正情報により補正される元データとなるものである。
<エージング条件取得(S162)>
エージング工程の保存時間[h]、保存温度[°C]などが読み込まれ、自己放電特性における保存時間[h]や保存温度[°C]との関係から、自己放電特性の副反応電流値[A]を補正する。
<製造情報読込(S163)>
続いて、製造情報取得(S15)の手順で取得した製造情報を読み込む(S162)。本実施形態では、製造情報PIは、活物質の比表面積に関する製造情報PIBET、活物質の質量に関する製造情報PIACT、残存水分に関する製造情報PIAQA、温度に関する製造情報PITEPが記憶されている。
<補正情報読込(S164)>
続いて、補正情報CIが読み込まれる(S163)。ここで図6は、活物質の比表面積に関する補正マップMPBETを概念的に示す図である。図7は、活物質の質量に関する補正マップMPACTを概念的に示す図である。図8は、水分量に関する補正マップMPAQAを概念的に示す図である。図9は、温度に関する補正マップMPTEPを概念的に示す図である。
本実施形態では、製造情報PIは、活物質の比表面積に関する製造情報PIBET、活物質の質量に関する製造情報PIACT、水分量に関する製造情報PIAQA、温度に関する製造情報PITEPを取得している。そしてこれらに対応した、活物質の比表面積に関する補正マップMPBET、活物質の質量に関する補正マップMPACT、水分量に関する補正マップMPAQA、温度に関する補正マップMPTEPが読み込まれる。
<副反応電流値予測(S165)>
エージング条件取得(S162)で取得したエージング工程での保存時間AT[h]と保存温度T[°C]で補正した副反応電流値を、製造情報PIに基づいて補正する。
ここで、製造情報PIに基づいて、副反応電流値を補正する。ここでは、活物質の比表面積に関する製造情報PIBET、図6に示す活物質の比表面積に関する補正マップMPBETを代表例として説明する。
比表面積[cm/g]の大きさが、製造情報PIBETとして記録されている。ここで得た活物質の比表面積[cm/g]と、このリチウムイオン二次電池1の設計値である活物質の比表面積[cm/g]と、これが増減したときの副反応電流値[A]との関係を実験によりプロットして補正マップを作成した。ここでは、比表面積[cm/g]に応じて、副反応電流値[A]が大きくなる相関関係がある。そして、判定対象のリチウムイオン二次電池1の設計上の比表面積の基準値[cm/g]における副反応電流値[A]は、A0となっている。一方、製造情報読込(S163)の手順で読み込んだ活物質に関する製造情報PIBETによると、この補正マップMPBETから、副反応電流がA1であることがわかる。
そこでA0/A1=1.5であるとすると、副反応電流値は、補正係数1.5を掛けた値になる。なお、ここでは、わかりやすい例として差を極端に大きくしたが、補正係数を求めることで正確に補正ができる。
<正極と負極について>
なお、上記説明において、正極と負極について、区別しないで説明したが、自己放電特性取得(S161)の手順においては、正極の副反応電流値iPE0[A]と、負極の副反応電流値iNE0[A]とが、それぞれ個別に算出できる。また、活物質に関する補正マップMPACT、水分量に関する補正マップMPAQA、温度に関する補正マップMPTEPも、それぞれ正極及び負極を区別して作成する。したがって、これらのデータに基づけば、副反応電流値予測(S165)の手順では、正極及び負極のそれぞれについて、エージング条件及び製造情報PIに基づいて補正された副反応電流値が正確に算出できる。
<予想電圧V1ESTを予測(S17)>
ここで、図2のフローチャートに戻り、説明を続ける。副反応電流値を予測(S16)の手順で算出された正極及び負極のそれぞれについて、エージング条件及び製造情報PIに基づいて補正された副反応電流値に基づいて予想電圧V1ESTを予測(S17)する。
<被膜形成後の正極・負極の容量-OCPの関係>
図10は、副反応電流値を予測(S16)の手順で算出された副反応電流値に基づいて予想電圧V1ESTを算出するための、エージング工程後の被膜形成後の正極・負極の容量-OCP(Open Circuit Potential・開放電位)の関係を示すグラフである。
エージング工程(S9)によりSEI被膜が形成されるが、言い換えれば、リチウムイオン二次電池としては、エージング工程(S9)により被膜形成が進行したといえる。そのSEI被膜形成の進行具合は、積算された副反応電流値によって表すことができる。
リチウムイオン二次電池1は、充電によりリチウムイオンが正極から負極に移動する。このリチウムイオンの移動により負極の開放電位OCP[V]が低下する。図9に示すグラフでいえば、負極OCPの曲線UNE上を右に移動する。また放電するとリチウムイオンが負極から正極に移動する。このリチウムイオンの移動により負極の開放電位OCP[V]が上昇する。グラフでいえば、負極OCPの曲線UNE上を左に移動する。
リチウムイオン二次電池1において正負極容量ずれが生じると、満充電容量[Ah]がQ0NEからQ1NEに減少する。このときの容量Qの減少は、ΔQNEで、副反応電流値[A]×時間[h]で算出できる。
したがって、自己放電特性取得(S161)の手順で取得したリチウムイオン二次電池1の保存を開始する基準電圧Vdat[V]、保存温度T1[°C]、保存時間t1[h]の条件での負極の副反応電流値iNE0[A]を利用することができる。そして、副反応電流値予測(S165)の手順で示したように、負極の副反応電流値iNE0[A]をエージング工程(S9)の保存温度T[°C]、保存時間AT[h]で補正する。さらに、製造情報PIにより補正マップMPを参照して、ΔQNEを算出することができる。
正極も同様に、リチウムイオン二次電池1は、充電によりリチウムイオンが正極から負極に移動する。このリチウムイオンの移動により正極の開放電位OCP[V]が上昇する。図9に示すグラフでいえば、正極OCPの曲線UPE上を右に移動する。また放電するとリチウムイオンが正極から負極に移動する。このリチウムイオンの移動により正極の開放電位OCP[V]が下降する。グラフでいえば、正極OCPの曲線UPE上を左に移動する。
リチウムイオン二次電池1において、正負極上の被膜形成による容量ずれが生じると、満充電容量[Ah]がQ0PEからQ1PEに減少する。このときの容量Qの減少は、ΔQPEで、副反応電流値[A]×時間[h]で算出できる。
したがって、自己放電特性取得(S161)の手順で取得したリチウムイオン二次電池1の保存を開始する基準電圧Vdat[V]、保存温度T1[°C]、保存時間t1[h]の条件での正極の副反応電流値iPE0[A]を利用することができる。そして、副反応電流値予測(S165)の手順で示したように、正極の副反応電流値iPE0[A]をエージング工程(S9)の保存温度T[°C]、保存時間AT[h]で補正する。さらに、製造情報PIにより補正マップMPを参照して、ΔQPEを算出することができる。
以上のように、エージング工程(S9)により被膜形成した負極のOCPはQ1NEにおける電位V1NEであり、正極のOCPはQ1PEにおける電位V1PEとなる。したがって、エージング工程(S9)を経たリチウムイオン二次電池1のセル電圧V1EST=V1PE-V1NEで求めることができる。
<予測下降電圧ΔVEST算出(S18)>
以上説明したように、予想電圧V1EST予測(S17)において、セル電圧V1ESTが算出できたので、予測下降電圧ΔVEST=基準電圧V-予測電圧V1ESTにより、予測下降電圧ΔVESTが算出される。
<ΔVREL-ΔVEST<ΔVTHRの判定(S13)>
以上予測下降電圧ΔVEST算出(S18)の手順で求めた予測下降電圧ΔVESTを実測下降電圧ΔVREL算出(S12)の手順で算出した実測下降電圧ΔVRELから減算する。そして、その結果を判定閾値ΔVTHRと比較する(S13)。その結果、(ΔVREL-ΔVEST<ΔVTHR)となった場合は、実際に測定した電圧の低下と、理論的に想定された電圧の低下との差が小さく、そのリチウムイオン二次電池1は良品であるとして判断し、後処理に進む(S13:YES)。
一方、(ΔVREL-ΔVEST<ΔVTHR)ではない場合、すなわち(ΔVREL-ΔVEST≧ΔVTHR)となった場合は、実際に測定した電圧の低下と、理論的に想定された電圧の低下との差が大きく、不良と判断する。そして、そのリチウムイオン二次電池1は不良品であるとして判定し、出荷できないとして処理を終了する(S13:NO)。
以上で、図2のフローチャートに示した本実施形態のリチウムイオン二次電池1の製造方法を終了する(終了)。
<実施形態の効果>
(1)製造情報PIを用いて良否判断をするため、異なった製造条件のリチウムイオン二次電池1においても、正確に良否の判定ができる。
(2)リチウムイオン二次電池1において、必須の工程である活性化の初充電において、リチウムイオン二次電池1の良否を判定することができるため、別途時間が掛かる検査のための保存工程などがなく、リチウムイオン二次電池1の製造効率を高めることができる。
(3)自己放電特性取得の手順(S161)により、良否判定の対象となるリチウムイオン二次電池1の固有の自己放電特性を反映することができ、そのリチウムイオン二次電池1に適応した正確な判定が可能となっている。
(4)副反応電流値を正確に推定することにより予測下降電圧ΔVESTを正確に算出することができる。そのため、異なる製造条件であっても、微小短絡によるわずかな自己放電も判別することができ、正確に不良品を判定することができる。
(5)特に、副反応電流値は、正極と負極に分けて算出しているため、より精度の高い良否判定ができる。
(変形例)本発明は、上記各実施形態には限定されず、下記のように実施することもできる。
〇本実施形態では、エージング工程(S9)の後(冷却工程(S10)の前)に、予測電圧V1ESTを予測しているが(S17)、冷却工程(S10)後に、製造情報を取得し、予測電圧V1ESTの予測(S17)、予測下降電圧ΔVESTの算出(S18)を行ってもよい。これにより、冷却工程(S10)の影響を加味して、より正確に、実測下降電圧ΔVRELと比較できる。
○本実施形態では、板状に形成された車両用のリチウムイオン二次電池1のセル電池を例に説明したが、円筒状などその形状に限定されない。また、二次電池であれば、リチウムイオン二次電池に限定されるものではない。また、スタックされ車両に搭載されるセル電池に限定されるものではなく、単電池として使用したり、施設に固定される電池などとして使用したりして実施できる。
○製造条件や製造情報は、例示したものに限定されないことは言うまでもない。すなわち、副反応電流値の予測に寄与する数値化が可能なものは、いかなる要素であっても、製造条件や製造情報として捉えることができる。
○実施形態では、例えば温度に関する製造情報を、工程環境温度[°C]や、エージング時の温度[°C]を統合して、温度に関する製造情報として記録したが、工程環境温度[°C]や、エージング時の温度[°C]をそれぞれ別の製造情報として取り扱ってもよい。
○たとえば、例示した以外にも、電解質の濃度や、注入量、セル電池の抵抗値やインピーダンスなども、製造条件や製造情報として用いることができる。
○補正マップMPを例示したが、測定値の帰納的な分析による近似式によるものや、実測値をプロットしたものでもよい。あるいは表形式の参照テーブルなどの形式でもよい。
○説明のために容量-OCPのグラフを用いたが、発明の実施にはこのような具体的なグラフは必須ではない。
○さらに、機械学習やディープランニングによりマップを生成してもよい。さらに、複数の製造情報から機械学習やディープランニングにより統合した補正マップを生成してもよい。
○図2、図3、図5に示すフローチャートは、一例であり、その順序を変更し、またステップの付加、削除もしくは変更をして実施することができる。
○また、本発明は、特許請求の範囲を逸脱しない限り、当業者により、その構成を付加、削除または変更をし、又はカテゴリーを変えて装置として実施することができることは言うまでもない。
1…二次電池
3…正極
4…負極
5…セパレータ
PC…製造条件
PI…製造情報
PIBET…活物質の比表面積に関する製造情報
PIACT…活物質の量に関する製造情報
PIAQA…水分量に関する製造情報
PITEP…温度に関する製造情報
…基準電圧
T…保存温度
AT…保存時間
…測定電圧
ΔVREL…実測下降電圧
ΔVEST…予測下降電圧
ΔVTHR…判定閾値
CI…補正情報
MP…補正マップ
MPBET…(活物質の比表面積に関する)補正マップ
MPACT…(活物質に関する)補正マップ
MPAQA…(水分量に関する)補正マップ
MPTEP…(温度に関する)補正マップ

Claims (7)

  1. 二次電池の副反応電流値に影響を与える二次電池の製造工程における複数の製造条件について、それぞれの製造条件と、該製造条件が副反応電流値に与える相関関係を予め測定して補正情報として記録する補正情報取得のステップと、
    二次電池の製造工程において、前記製造条件を製造情報として取得する製造情報取得のステップと、
    製造された前記二次電池を充電して、基準となる該充電による満充電時の基準電圧を測定する基準電圧測定のステップと、
    予め決められた保存温度と保存時間の条件でエージングするエージングのステップと、
    前記エージングのステップ後の二次電池の測定電圧を取得するとともに、前記測定電圧と前記基準電圧との電圧差である実測下降電圧を算出する実測下降電圧算出のステップと、
    前記基準電圧から前記製造情報取得のステップで取得した製造情報に基づいて前記補正情報を参照し、前記エージングのステップ後の予測下降電圧を算出する予測下降電圧算出のステップと、
    前記実測下降電圧と予測下降電圧の差が判定閾値以下である場合に製造された二次電池を良品と判定する良否判定のステップとを備えたことを特徴とする二次電池の良否判定方法。
  2. 前記予測下降電圧算出のステップにおいて、
    前記二次電池を特定の条件で保存する保存のステップと、
    前記保存した二次電池の保存前後の電池満容量の容量低下量を測定する容量低下量測定のステップと、
    前記保存した二次電池の保存前後の自己放電容量を測定する自己放電容量測定のステップと、
    前記容量低下量及び自己放電容量とから、前記保存時の特定条件における正極及び負極の副反応電流値を求めるステップとを含む自己放電特性取得のステップを備えたことを特徴とする請求項1に記載の二次電池の良否判定方法。
  3. 前記予測下降電圧算出のステップにおいて、
    前記自己放電特性取得のステップにおいて取得した正極及び負極の副反応電流値に基づいて、前記エージングのステップにおける保存温度と保存時間を参照して、積算された正極及び負極の副反応電流値を補正するステップと、
    前記製造情報取得のステップで取得した製造情報に基づいて前記補正情報を参照して、積算された正極及び負極の副反応電流値を補正するステップと、
    補正された積算された正極及び負極の副反応電流値に基づいて、正極・負極の容量-開放電位の関係において、正極及び負極の容量ずれ量を参照して正極及び負極の開放電位を求めるステップと、
    求めた正極及び負極の開放電位から、予測下降電圧を算出することを特徴とする請求項2に記載の二次電池の良否判定方法。
  4. 前記製造条件は、活物質、水分量、温度のいずれかの条件を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の二次電池の良否判定方法。
  5. 前記基準電圧測定のステップにおける充電は、前記二次電池の組立工程が完了後に行われる初充電であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の二次電池の良否判定方法。
  6. 前記二次電池が、リチウムイオン二次電池であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の二次電池の良否判定方法。
  7. 請求項1~6のいずれか一項に記載の二次電池の良否判定方法を含む二次電池の製造方法。
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