JP7252698B2 - J型アンカーボルトの定着状態判定装置及び定着状態判定方法 - Google Patents

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Description

本発明は、コンクリート構造物に埋設されたJ型アンカーボルトの定着状態の良否を判定する定着状態判定装置及び定着状態判定方法に関する。
通常、コンクリートに設備などの取付物が取り付けられている場合、取付用のアンカーボルトが母材のコンクリートに埋め込まれ、しっかりと定着しているか否かについて、施工直後を含めて定期的に検査していく必要がある。真っ直ぐなアンカーボルトのコンクリート構造物への施工直後の埋込長さ自体の確認は、JIS-Z-2355「超音波パルス反射法による厚さ測定方法」という規格を適用して、超音波厚さ測定装置による非破壊検査を行うことが可能である。
また、アンカーボルトの定着状態を判定可能な手法として、特許文献1では、超音波のバースト波基本周波数を1バースト波パルス送受信サイクルごとに変化させ、複数の周波数応答微小反射受信信号から、コンクリートに埋設したアンカーボルトの定着状態や腐食状況を検知する手法が提案されている。また、特許文献2では、鉄筋の赤錆発生状態の基準値から鉄筋の腐食を検知する手法が提案されている。
特許第5397969号公報 特開2019-15655号公報
ところで、JIS-Z-2355「超音波パルス反射法による厚さ測定方法」による測定方法では、超音波の伝搬時間に基づき、真っ直ぐなアンカーボルトの埋込長さ自体を測定することは可能であるものの、アンカーボルトがJ型アンカーボルトである場合にコンクリートに埋設したJ型アンカーボルトの定着状態の判定に適するものではない。
また、J型アンカーボルトと鉄筋が配筋されているコンクリート構造物において、J型アンカーボルトの定着状態の判定に特許文献2の手法を用いると、J型アンカーボルトと鉄筋の緩衝により、複数の周波数応答の微小反射受信信号が多様な様相を呈してしまうため、J型アンカーボルトの定着状態が不良なのか、鉄筋の定着状態が不良なのか、或いはそれ以外の状況なのかの判断が出来なくなってしまう。そのため、コンクリートに埋設されたJ型アンカーボルトの定着状態の良否を正確に判定することができる手法が求められている。
本発明は上記課題に鑑み提案するものであり、コンクリートに埋設されたJ型アンカーボルトの定着状態の良否を簡単且つ正確に判定することができるJ型アンカーボルトの定着状態判定装置及び定着状態判定方法を提供することを目的とする。
本発明のJ型アンカーボルトの定着状態判定装置は、コンクリート構造物の脱落を検知せずに前記コンクリート構造物に埋設されたJ型アンカーボルトの定着状態の良否を判定する定着状態判定装置であって、周波数が2~10MHzの垂直P波である超音波の送信と受信波の受信を担い、埋設されたJ型アンカーボルトの突出端に当接される超音波探触子と、前記超音波探触子から前記受信波を取り込み、送信した前記超音波が前記J型アンカーボルトの軸部の先端近傍の境界で反射された先端反射波の検出可能な先端反射信号が前記受信波の受信信号に含まれるか否かに応じて、定着状態の良否を判定する定着状態判定部と、前記定着状態判定部の判定結果を出力する出力部を備えることを特徴とする。
これによれば、超音波が行き来するJ型アンカーボルトの周囲の表面近傍に定着不良箇所があると、J型アンカーボルトの軸部の先端近傍の境界から先端反射波が返ってこなくなることに基づき、先端反射信号が受信信号に含まれる場合には、J型アンカーボルトの定着状態が良好である、先端反射信号が受信信号に含まれない場合には、J型アンカーボルトの定着状態が不良と判断することができる。即ち、先端反射信号の有無により、補強用鉄筋の配筋の有無を問わずコンクリート構造物に埋設されたJ型アンカーボルトの定着状態の良否を簡単且つ正確に判定することができる。
本発明のJ型アンカーボルトの定着状態判定装置は、J型アンカーボルトにおける前記超音波の伝搬速度を記憶部に記憶し、前記定着状態判定部が、前記超音波の送信開始時から前記先端反射波の受信時までの経過時間を認識し、前記経過時間と前記超音波の伝搬速度から前記J型アンカーボルトの軸部の先端近傍と前記J型アンカーボルトの突出端までの距離を取得することを特徴とする。
これによれば、先端反射波の検出を利用し、コンクリート構造物に既設のJ型アンカーボルトの軸部の先端近傍と突出端までの距離の情報、ひいては既設のJ型アンカーボルトの定着長の情報を付随して取得することができる。更に、J型アンカーボルトの定着状態の詳細な情報を得ることができ、より一層正確に定着状態の良否を判断することができる。
本発明のJ型アンカーボルトの定着状態判定方法は、コンクリート構造物の脱落を検知せずに前記コンクリート構造物に埋設されたJ型アンカーボルトの定着状態の良否を判定する定着状態判定方法であって、周波数が2~10MHzの垂直P波である超音波の送信と受信波の受信を担う超音波探触子を埋設されたJ型アンカーボルトの突出端に当接し、前記超音波探触子から前記超音波を送信すると共に前記超音波探触子で前記受信波を受信し、送信した前記超音波が前記J型アンカーボルトの軸部の先端近傍の境界で反射された先端反射波の検出可能な先端反射信号が前記受信波の受信信号に含まれるか否かに応じて定着状態の良否を判定することを特徴とする。
これによれば、超音波が行き来するJ型アンカーボルトの周囲の表面近傍に定着不良箇所があると、J型アンカーボルトの軸部の先端近傍の境界から先端反射波が返ってこなくなることに基づき、先端反射信号が受信信号に含まれる場合には、J型アンカーボルトの定着状態が良好である、先端反射信号が受信信号に含まれない場合には、J型アンカーボルトの定着状態が不良と判断することができる。即ち、先端反射信号の有無により、補強用鉄筋の配筋の有無を問わずコンクリート構造物に埋設されたJ型アンカーボルトの定着状態の良否を簡単且つ正確に判定することができる。
本発明のJ型アンカーボルトの定着状態判定方法は、前記定着状態の良好と判定した場合に、前記超音波の送信開始時から前記先端反射波の受信時までの経過時間と前記J型アンカーボルトにおける前記超音波の伝搬速度から前記J型アンカーボルトの軸部の先端近傍と前記J型アンカーボルトの突出端までの距離を認識することを特徴とする。
これによれば、先端反射波の検出を利用し、コンクリート構造物に既設のJ型アンカーボルトの軸部の先端近傍と突出端までの距離の情報、ひいては既設のJ型アンカーボルトの定着長の情報を付随して取得することができる。更に、J型アンカーボルトの定着状態の詳細な情報を得ることができ、より一層正確に定着状態の良否を判断することができる。
本発明によれば、コンクリートに埋設されたJ型アンカーボルトの定着状態の良否を簡単且つ正確に判定することができる。
本発明による実施形態のJ型アンカーボルトの定着状態判定装置のブロック図。 実施形態のJ型アンカーボルトの定着状態判定装置による定着状態判定処理のフローチャート。 コンクリート構造物にJ型アンカーボルトが埋設されて取付物が取り付けられている例を示す斜視説明図。 (a)は実施形態の定着状態判定処理におけるJ型アンカーボルトの定着状態が良好な場合の超音波の反射を説明する一部断面説明図、(b)は実施形態の定着状態判定処理におけるJ型アンカーボルトの定着状態が不良な場合の超音波の反射を説明する一部断面説明図。 実験例の対象であるJ型アンカーボルトをコンクリート構造物に埋設した状態の一部断面説明図。 (a)~(c)は実験例のJ型アンカーボルトに基づく試験体No.1、No.2、No.3を説明する説明図。 (a)~(c)は試験体No.1、No.2、No.3に対する超音波反射実験の結果を示すグラフ。 実験結果から想定される先端反射波の反射位置を説明する一部断面説明図。
〔実施形態のJ型アンカーボルトの定着状態判定装置及び定着状態判定方法〕
本発明による実施形態のJ型アンカーボルトの定着状態判定装置1は、図1に示すように、MPU、CPU等の演算制御部2と、HDD、フラッシュメモリ、EEPROM、ROM、RAM等で構成される記憶部3と、マウス、キーボード、タッチパネル等の入力部4と、ディスプレイ、プリンター等の出力部5と、タイマー6を備えると共に、高電圧発生器である超音波生成部7と、超音波の受信波を取り込んで受信波の受信信号を生成する受信波取込部8を備え、超音波生成部7と受信波取込部8に振動子を有する超音波探触子9が電気的に接続され、超音波探触子9が超音波の送信と受信波の受信を担うようになっている。尚、定着状態判定装置1は、例えば専用機器で構成する、或いはパーソナルコンピュータ、スマートフォンのような携帯端末等の汎用コンピュータ機器に超音波生成部7、受信波取込部8、超音波探触子9を設けて構成することが可能であり、又、入力部4と出力部5は、入出力可能なタッチパネルとして一体化することも可能である。
記憶部3は、定着状態判定プログラムを含む所定の制御プログラムが格納されているプログラム格納部31を有し、演算制御部2は、所定の制御プログラムに従って所定の処理を実行し、定着状態判定プログラムと協働して定着状態判定部21として所定の処理を実行する。また、記憶部3は、超音波生成部7を介して超音波探触子9で発生させて送信する超音波データを記憶している超音波データ格納部32を有し、定着状態判定部21は、入力部4からの入力に応じて、超音波データ格納部32の超音波データを認識し、超音波生成部7を介して超音波探触子9でこれに対応する超音波を発生させて送信させるようになっている。
また、記憶部3は、J型アンカーボルトの軸部の先端近傍の境界で反射された先端反射波の先端反射信号が受信波の受信信号に含まれるか否かを判定するための判定基準データ格納部33を有する。判定基準データ格納部33には、定着状態判定部21が実行する判定処理に対応して必要な適宜の判定基準データが格納される。例えば定着状態判定部21がテンプレートマッチングで先端反射信号の有無を判定する場合には、判定基準データ格納部33に先端反射信号を有する波形信号の基準テンプレートと閾値が格納され、定着状態判定部21は、受信波の受信信号と基準テンプレートとの相関度を取得し、取得した相関度が判定基準データ格納部33の閾値以上の場合に先端反射信号が有ると判定する処理を実行する。また、例えば判定基準データ格納部33に対象とする先端反射信号のエコー高(超音波反射波の強度)の閾値範囲と収束時間の閾値範囲を格納し、定着状態判定部21が、受信波の受信信号にエコー高(超音波反射波の強度)の閾値範囲内で且つ収束時間の閾値範囲内にある受信信号があるか否かを認識し、当該受信信号がある場合に先端反射信号が有ると判定する処理を実行してもよい。
また、記憶部3は、コンクリート構造物に埋設されたJ型アンカーボルトの軸部の先端近傍とJ型アンカーボルトの突出端までの距離を取得するための距離取得用データ格納部34を有する。距離取得用データ格納部34には、例えばJ型アンカーボルトにおける超音波の伝搬速度が格納され、定着状態判定部21が、タイマー6によって超音波の送信開始時から先端反射波の受信時までの経過時間を認識し、この経過時間と超音波の伝搬速度からJ型アンカーボルトの軸部の先端近傍の位置とJ型アンカーボルトの突出端までの距離を取得する処理を実行する。その他、記憶部3は、演算制御部2の所定の制御プログラムの実行に当たって必要なデータを格納する所定記憶領域を有する。
出力部5には、例えば定着状態判定処理の操作画面、J型アンカーボルトの軸部の先端近傍の境界で反射された先端反射波の先端反射信号の有無などの定着状態判定処理の判定結果、先端反射信号が有る場合のJ型アンカーボルトの軸部の先端近傍の位置とJ型アンカーボルトの突出端までの距離等が出力される。振動子を有する超音波探触子9は、超音波生成部7による電圧印加で発生させた超音波を送信すると共に、送信した超音波の反射波を受信し、この反射波の受信波を受信波取込部8に出力するようになっている。
この定着状態判定装置1で定着状態判定処理が行われるJ型アンカーボルトは、コンクリート構造物に埋設された適宜のJ型アンカーボルトを対象とすることが可能であり、例えば図3に示すJ型アンカーボルト10とすることが可能である。図3のJ型アンカーボルト10は、軸部11と、軸部11の先端側のカーブ部12とから構成され、軸部11の後部には雄ねじ13が形成されている。
この図3の例では、コンクリート補強用鉄筋101が内部に配筋されたコンクリート構造物100にJ型アンカーボルト10が埋設されていると共に、コンクリート構造物100から突出するJ型アンカーボルト10の後部に取付物200のベースプレート201の挿通穴が外挿され、ナット15を雄ねじ13に締め付けることにより、ベースプレート201及び取付物200がコンクリート構造物100に固定して取り付けられている。
そして、本実施形態の定着状態判定装置1でJ型アンカーボルトの定着状態の良否を判定する際には、図4に示すように、例えばコンクリート構造物100に埋設されたJ型アンカーボルト10の突出端14に超音波探触子9を当接し、この当接状態を維持する(図3のS1参照)。この状態で、定着状態判定装置1の定着状態判定部21は、入力部4からの入力に応じて、超音波生成部7を介して超音波探触子9で超音波を発生させて送信すると共に、超音波探触子9で反射した受信波を受信する(図3のS2参照)。ここで送信する超音波は、周波数が2~10MHz程度の垂直P波(バースト波)とする。
その後、超音波探触子9で受信された受信波を受信波取込部8が取り込んで受信波の受信信号を生成し(図3のS3参照)、定着状態判定部21は、判定基準データ格納部33の判定基準データを用い、生成された受信波の受信信号に、送信した超音波がJ型アンカーボルト10の軸部11の先端近傍の境界Bで反射された先端反射波の先端反射信号が含まれるか否かを判定する(図3のS4、図4(a)参照)。定着状態判定部21は、先端反射信号が含まれると判定した場合にはJ型アンカーボルト10の定着状態を良好と判定し(図3のS5参照)、又、先端反射信号が含まれないと判定した場合にはJ型アンカーボルト10の定着状態を不良と判定し、定着状態が不良であるとの判定結果を出力部5から出力する(図3のS6、S7参照)。
即ち、図4(a)に示すように、J型アンカーボルト10とコンクリート構造物100との間、或いはJ型アンカーボルト10のその周囲の充填材との間に空隙がなく、J型アンカーボルト10が周囲と密着、密接している場合には、高い強度のJ型アンカーボルト10の軸部11の先端近傍の境界Bで反射された先端反射波の先端反射信号が受信波の受信信号に含まれているため、定着状態が良好と判断することができる。また、図4(b)のように、J型アンカーボルト10が周囲と密接しておらず、J型アンカーボルト10の周囲に空隙Sが存在する場合には、J型アンカーボルト10の軸部11の先端近傍の境界Bで反射された先端反射波の先端反射信号が、少なくとも明確な形では受信波の受信信号に含まれていないため、定着状態が不良と判断することができる。尚、図4の一点鎖線は超音波とその反射波を示している。
次いで、J型アンカーボルト10の定着状態を良好と判定した場合には、定着状態判定部21は、距離取得用データ格納部34のJ型アンカーボルト10における超音波の伝搬速度を用い、超音波の送信開始時から先端反射波の受信時までの経過時間とJ型アンカーボルト10における超音波の伝搬速度からJ型アンカーボルト10の軸部11の先端近傍の位置とJ型アンカーボルトの突出端までの距離を認識する(図3のS8参照)。そして、定着状態判定部21は、例えば定着状態が良好である旨と、J型アンカーボルト10の軸部11の先端近傍の位置とJ型アンカーボルトの突出端までの距離を示す判定結果を出力部5から出力する(図3のS9参照)。
そして、J型アンカーボルト10とコンクリート構造物100との定着状態が不良であると判定されたJ型アンカーボルト10に対しては、当該不良のJ型アンカーボルト10の周辺のコンクリートを斫り、無収縮モルタルを注入したり、J型アンカーボルト10の腐食が認められればJ型アンカーボルト10自体を交換する、等の適切な補修措置をとる。
本実施形態によれば、超音波が行き来するJ型アンカーボルト10の周囲の表面近傍に定着不良箇所があると、J型アンカーボルト10の軸部11の先端近傍の境界Bから先端反射波が返ってこなくなることに基づき、先端反射信号が受信信号に含まれる場合には、J型アンカーボルト10の定着状態が良好である、先端反射信号が受信信号に含まれない場合には、J型アンカーボルトの定着状態が不良と判断することができる。即ち、先端反射信号の有無により、コンクリート補強用鉄筋101の配筋の有無を問わずコンクリート構造物100に埋設されたJ型アンカーボルト10の定着状態の良否を簡単且つ正確に判定することができる。
また、先端反射波の検出を利用し、コンクリート構造物100に既設のJ型アンカーボルト10の軸部11の先端近傍の位置と突出端14までの距離の情報、ひいては既設のJ型アンカーボルト10の定着長の情報を付随して取得することができる。更に、J型アンカーボルト10の定着状態の詳細な情報を得ることができ、より一層正確に定着状態の良否を判断することができる。
〔実験例〕
次に、図5に示すJ型アンカーボルト10を対象として本発明に基づく定着状態判定処理を行った実験例について説明する。図5では、J型アンカーボルト10がコンクリート構造物100に埋設され、軸部11の突出部分にベースプレート201が外挿され、雄ねじ13にナット15が螺合されて締め付けられている。図5の例では、J型アンカーボルト10の軸部11の先端位置(カーブ部12の曲りはじめの位置)と突出端14までの距離h1:800mm、J型アンカーボルト10の軸部11の先端位置(カーブ部12の曲りはじめの位置)とコンクリート構造物100の表面までの埋込長h2:600mm、雄ねじ13の長さh3:170mm、J型アンカーボルト10の軸部11の突出部分のうちコンクリート構造物100の表面から雄ねじ13の先端位置までの距離h4:30mm、J型アンカーボルト10の軸部11の先端位置からのカーブ部12の軸方向への長さh5:107mm、J型アンカーボルト10の軸部11の先端位置より軸部11側に延びるカーブ部12の先端部の長さh6:53mmに設定されている。
そして、図6に示すように、健全な試験体No.1として図5のJ型アンカーボルト10を用意し、ボルト周囲に意図的に空隙を形成した試験体として試験体No.2と試験体No.3を用意した。試験体No.2は、図5のJ型アンカーボルト10のコンクリート構造物100の表面に相当する位置からカーブ部12に向かって300mmの範囲で隙間形成テープSTを巻いたものであり、又、試験体No.3は、図5のJ型アンカーボルト10のコンクリート構造物100の表面に相当する位置からカーブ部12に向かって600mmの範囲で隙間形成テープSTを巻いたものである。これらの各試験体No.1、No.2、No.3を試験用コンクリートに図5と同じように埋込長600mmで埋設し、J型アンカーボルト10の突出端14に平滑処理を施し、定着状態判定装置1の超音波探触子9を当接し、超音波としてバースト波によるP波を送受信して定着状態判定処理の実験を行った。また、超音波は3つの異なる周波数3.66MHz、4.5MHz、5.0MHzで送信して実験を行った。
この実験結果を図7に示す。図7において、縦軸は超音波の強度、横軸はJ型アンカーボルト10の突出端14(超音波の送受信位置)から反射波が得られた反射点までの距離になっている。この横軸の反射点までの距離は、J型アンカーボルト10の材料である鉄筋の超音波の伝搬速度と超音波の送信開始時から反射波の受信時までの経過時間によって算出したものである。
図7(a)に示されるように、健全な試験体No.1では、超音波探触子9から830mmの位置でJ型アンカーボルト10の軸部11の先端近傍の境界Bで反射された先端反射波の先端反射信号が検出された。これに対して、図7(b)、(c)に示されるように、隙間形成テープSTを巻いた試験体No.2と試験体No.3からは、試験体No.1のような先端反射波の先端反射信号は検出されなかった。健全な試験体No.1における先端反射波の先端反射信号が生じた830mmの反射位置Pは、J型アンカーボルト10がやや曲がり始めた箇所と推定される(図8参照)。更に、図3のような実際のJ型アンカーボルトによる取付物の設置現場において、ベースプレート、ワッシャー、ナットを装着したまま、同様の試験を行った結果、健全なJ型アンカーボルトからはいずれも所定の深さ位置からの先端反射波の先端反射信号が検出された。
〔本明細書開示発明の包含範囲〕
本明細書開示の発明は、発明として列記した各発明、実施形態の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な内容を本明細書開示の他の内容に変更して特定したもの、或いはこれらの内容に本明細書開示の他の内容を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な内容を部分的な作用効果が得られる限度で削除して上位概念化して特定したものを包含する。そして、本明細書開示の発明には下記内容や変形例も含まれる。
例えば上記実施形態では、定着状態判定部21が、超音波の送信開始時から先端反射波の受信時までの経過時間とJ型アンカーボルト10における超音波の伝搬速度からJ型アンカーボルト10の軸部11の先端近傍の位置とJ型アンカーボルトの突出端までの距離を取得する構成としたが、J型アンカーボルト10のコンクリート構造物100からの突出長さを入力部4から入力する等により、記憶部3の所定記憶領域に格納し、定着状態判定部21が、J型アンカーボルト10の軸部11の先端近傍の位置とJ型アンカーボルトの突出端までの距離を取得した後、この距離からJ型アンカーボルト10の突出長さを減算して定着長として取得し、更に、出力部5から出力する構成としてもよい。
また、本発明における定着状態判定装置及び定着状態判定方法には、J型アンカーボルトの軸部の先端近傍とJ型アンカーボルトの突出端までの距離を取得する処理を行わずに、J型アンカーボルトの軸部の先端近傍の境界で反射された先端反射波の先端反射信号が受信波の受信信号に含まれるか否かに応じて、定着状態の良否を判定する処理だけを行うものの含まれる。また、本発明における定着状態判定方法には、先端反射波の先端反射信号の有無を作業者等が人為的に判定するものも含まれる。
本発明は、コンクリート構造物に埋設されたJ型アンカーボルトの定着状態を判断する際に利用することができる。
1…J型アンカーボルトの定着状態判定装置 2…演算制御部 21…定着状態判定部 3…記憶部 31…プログラム格納部 32…超音波データ格納部 33…判定基準データ格納部 34…距離取得用データ格納部 4…入力部 5…出力部 6…タイマー 7…超音波生成部 8…受信波取込部 9…超音波探触子 10…J型アンカーボルト 11…軸部 12…カーブ部 13…雄ねじ 14…突出端 15…ナット 100…コンクリート構造物 101…コンクリート補強用鉄筋 200…取付物 201…ベースプレート B…J型アンカーボルトの軸部の先端近傍の境界 S…空隙 ST…隙間形成テープ P…反射位置

Claims (4)

  1. コンクリート構造物の脱落を検知せずに前記コンクリート構造物に埋設されたJ型アンカーボルトの定着状態の良否を判定する定着状態判定装置であって、
    周波数が2~10MHzの垂直P波である超音波の送信と受信波の受信を担い、埋設されたJ型アンカーボルトの突出端に当接される超音波探触子と、
    前記超音波探触子から前記受信波を取り込み、送信した前記超音波が前記J型アンカーボルトの軸部の先端近傍の境界で反射された先端反射波の検出可能な先端反射信号が前記受信波の受信信号に含まれるか否かに応じて、定着状態の良否を判定する定着状態判定部と、
    前記定着状態判定部の判定結果を出力する出力部を備えることを特徴とするJ型アンカーボルトの定着状態判定装置。
  2. J型アンカーボルトにおける前記超音波の伝搬速度を記憶部に記憶し、
    前記定着状態判定部が、前記超音波の送信開始時から前記先端反射波の受信時までの経過時間を認識し、前記経過時間と前記超音波の伝搬速度から前記J型アンカーボルトの軸部の先端近傍と前記J型アンカーボルトの突出端までの距離を取得することを特徴とする請求項1記載のJ型アンカーボルトの定着状態判定装置。
  3. コンクリート構造物の脱落を検知せずに前記コンクリート構造物に埋設されたJ型アンカーボルトの定着状態の良否を判定する定着状態判定方法であって、
    周波数が2~10MHzの垂直P波である超音波の送信と受信波の受信を担う超音波探触子を埋設されたJ型アンカーボルトの突出端に当接し、
    前記超音波探触子から前記超音波を送信すると共に前記超音波探触子で前記受信波を受信し、
    送信した前記超音波が前記J型アンカーボルトの軸部の先端近傍の境界で反射された先端反射波の検出可能な先端反射信号が前記受信波の受信信号に含まれるか否かに応じて定着状態の良否を判定することを特徴とするJ型アンカーボルトの定着状態判定方法。
  4. 前記定着状態の良好と判定した場合に、前記超音波の送信開始時から前記先端反射波の受信時までの経過時間と前記J型アンカーボルトにおける前記超音波の伝搬速度から前記J型アンカーボルトの軸部の先端近傍と前記J型アンカーボルトの突出端までの距離を認識することを特徴とする請求項3記載のJ型アンカーボルトの定着状態判定方法。
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