JP7251512B2 - 鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、低温靭性と、応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking, SCC)に対する耐久性(耐SCC特性)とに優れた鋼板に関し、より好適には、上記特性に優れた高張力かつ厚鋼板である低温用鋼板に関する。また、本発明は、上記特性に優れた鋼板の製造方法に関する。そして、本発明は、例えば、液化天然ガス(LNG)貯蔵用タンクなどの、低温環境下で使用される構造用鋼に好適に用いることができる。
鋼素材に熱間圧延を施して得られる熱延鋼板は、液化ガス貯蔵用構造物用に広く使用されている。このような用途に熱延鋼板が使用される際には、使用環境が極低温ともなり得るため、鋼板の強度のみならず、極低温環境にも耐え得る低温靱性が要求される。例えば、LNGの貯蔵用タンクに熱延鋼板が使用される場合には、LNGの沸点である-164℃以下での優れた低温靱性を確保する必要がある。熱延鋼板等の鋼材が低温靱性に劣ると、低温貯蔵用構造物としての安全性を維持できなくなる虞があるため、用いられる熱延鋼板における低温靱性の向上に対する要求は高い。
この要求に対し、例えば、特許文献1~3には、5%超~8%未満のNi量を含有する鋼材について、低温靭性の向上を図る技術が提案されている。
国際公開第2007/034576号 国際公開第2007/080646号 特開2011-241419号公報
ここで、例えば、船舶用のLNG貯蔵タンクに熱延鋼板を使用する場合は、その使用環境に硫化物及び/又は塩化物が含まれることから、用いた熱延鋼板に、水素起因の応力腐食割れが発生する可能性が高い。したがって、液化ガス貯蔵用構造物用に使用する熱延鋼板には、上述した良好な低温靭性に加え、良好な耐SCC特性も兼備することが求められる。
しかしながら、特許文献1~3に記載の鋼材は、低温靱性の向上については検討しているものの、SCCについては何ら言及されておらず、未だ検討の余地があった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、特に低温環境下での使用に適した、優れた低温靭性と優れた耐SCC特性とを両立した鋼板を提供することを目的とする。また、本発明は、上記鋼板を製造するための方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋼板の成分組成およびミクロ組織に関して鋭意研究を行い、以下の知見を得た。
(1)鋼板の板厚方向に沿って、残留オーステナイト(γともいう)の量を異なる範囲に制御することにより、良好な低温靭性と耐SCC特性とを両立できる。より具体的には、鋼板のミクロ組織を、体積率で、ベイナイト及びマルテンサイトの合計で80%以上とし、鋼板の板厚中心部における残留γ量を3%以上20%以下に確保することにより、所定のシャルピー吸収エネルギーを有する良好な低温靭性を確保しつつ、鋼板の表層部における残留γ量を3%未満に抑制することにより良好な耐SCC特性を実現できる。
(2)上記板厚中心部における所定の残留γ量は、Ac点とAc点との間であってフェライト(αともいう)およびγが存在する二相域温度のうち所定の低温域にて二相域加熱を行った後、該板厚中心部を、平均冷却速度1℃/s以上で急冷し、450℃以下300℃以上の温度にて急冷途中停止することにより、実現可能である。そして、板厚中心部における量が3~20%の比較的多量に制御された、安定した残留γを有するミクロ組織は、良好な低温靭性に寄与する。
(3)一方、上記表層部における所定の残留γ量は、上記二相域加熱を行った後、該表層部を急冷し、200℃以下の最低温度にて急冷途中停止することにより、急冷+板厚中心部からの低温焼き戻しの熱履歴となり、実現可能である。そして、水素のトラップサイトとなる残留γ量が3%未満の比較的少量に抑制された、表層部におけるミクロ組織は、良好な耐SCC特性に寄与する。
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、その要旨は以下のとおりである。
1.質量%で、
C :0.01~0.15%、
Si:0.01~0.50%、
Mn:2.00%以下、
Ni:5.0~10.0%、
P :0.03%以下、
S :0.005%以下、および
N :0.0010~0.0080%を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成と、
ベイナイト及びマルテンサイトの合計体積率が80%以上であるミクロ組織とを有し、
該ミクロ組織は、オーステナイトの体積率が、表面から板厚方向内部に0.5mmの位置(表層部)においては3%未満かつ板厚tの中心である(1/2)t位置(板厚中心部)においては3%以上20%以下であり、
JIS Z 2242の規定に準拠した、-196℃におけるシャルピー吸収エネルギーが150J以上である、鋼板。
なお、本明細書において、表層部および板厚中心部におけるオーステナイトの各体積率、並びに、ベイナイト及びマルテンサイトの合計体積率は、後述する実施例に記載の手法に従って測定することができる。
2.前記成分組成が、さらに、質量%で、
Al:0.01~0.10%、
Mo:0.05~0.50%、
Cr:1.00%以下、
Cu:0.40%以下、
Nb:0.05%以下、
V :0.05%以下、
Ti:0.03%以下、および
B :0.05%以下
からなる群より選択される1または2以上を含有する、前記1に記載の鋼板。
3.前記成分組成が、さらに、質量%で、
Ca :0.007%以下、
REM:0.010%以下、および
Mg :0.070%以下
からなる群より選択される1または2以上を含有する、前記1または2に記載の鋼板。
4.前記1~3のいずれかに記載の成分組成を有する鋼素材に熱間圧延を施した熱延鋼板に対し、焼入れを行い、
前記焼入れ後の熱延鋼板に二相域加熱を施し、
前記二相域加熱後の熱延鋼板に加速冷却を施す、鋼板の製造方法であって、
前記二相域加熱では、加熱温度を、板厚tの中心である(1/2)t位置(板厚中心部)における温度でAc点以上(Ac点+Ac点)/2未満とし、
前記加速冷却では、前記(1/2)t位置における平均冷却速度を1℃/s以上とするとともに、冷却停止温度を、前記(1/2)t位置における温度で450℃以下300℃以上かつ前記熱延鋼板の表面から板厚方向内部に0.5mmの位置(表層部)における温度で200℃以下とする、鋼板の製造方法。
なお、本明細書において、表層部および板厚中心部における各温度は、鋼板の製造方法について後述する手法に従って求めることができる。
本発明によれば、応力腐食割れに対して高い耐久性を有する、低温靭性に優れた鋼板を提供することができる。また、本発明によれば、上記鋼板を製造可能な方法を提供することができる。そして、本発明に従った鋼板は、液化ガス貯蔵用タンク等の、低温環境下で使用される鋼構造物に用いた際に、該鋼構造物の安全性を向上させることができ、産業上格段の効果をもたらす。
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。なお、以下の説明は、本発明の好適な実施形態を示すものであって、本発明はこれに限定されない。
(鋼板)
本発明の鋼板は、所定の成分組成、ミクロ組織、及びシャルピー吸収エネルギーを有する。本発明で規定する所定の成分組成、ミクロ組織、及びシャルピー吸収エネルギーを満たせば、鋼板が優れた低温靭性と優れた耐SCC特性とを両立できる。そして、本発明の鋼板は、例えば、本発明の製造方法に従って製造することができる。
[成分組成]
以下、本発明の鋼板が有する成分組成に含まれる各成分について説明する。なお、特に断らない限り、本明細書において成分の含有量の単位としての「%」は「質量%」を意味する。
C:0.01%~0.15%
Cは、鋼板の強度を向上させる効果を有する元素である。また、Cは、残留オーステナイトについて所望の体積率を得るうえでも重要な元素である。これらの効果を得るために、C含有量を0.01%以上とし、好ましくは0.03%以上とする。一方、C含有量が0.15%を超えると、鋼板の低温靭性が低下する。また、C含有量が0.15%を超えると、残留γが安定化して鋼板の表層部にγが残り易くなるため、耐SCC特性も低下する。そのため、C含有量は0.15%以下とし、好ましくは0.12%以下とする。
Si:0.01~0.50%
Siは、鋼板の強度向上に寄与する元素であり、脱酸剤としての作用を有する元素でもある。これらの効果を発現させるために、Si含有量は0.01%以上とする。一方、Si含有量が過剰に高くなると、鋼板の低温靭性が低下する。また、Si含有量が過剰に高くなると、残留γが安定化して鋼板の表層部にγが残り易くなるため、耐SCC特性も低下する。そのため、Si含有量は0.50%以下とし、好ましくは0.30%以下とする。
Mn:2.00%以下
Mnは、鋼の焼き入れ性を高め、鋼板の高靭性化に有効な元素である。しかし、Mnを2.00%を超えて含有すると、かえって靭性が低下する。そのため、Mn含有量は2.00%以下とし、好ましくは1.00%以下とし、より好ましくは0.10%以上1.00%以下の範囲とする。
Ni:5.0%~10.0%
Niは、鋼板の低温靭性の向上に極めて有効な元素である。Ni含有量が5.0%未満になると、鋼板の強度が低下することに加え、低温環境下において安定した残留γが得られなくなる結果、鋼板の低温靭性も低下する。したがって、Ni含有量は5.0%以上とする。一方、Niは高価な元素であるため、その含有量が高くなるにつれて鋼板コストが高騰する。したがって、Ni含有量は10.0%以下とする。
P:0.03%以下
Pは、鋼板の低温靭性に悪影響を及ぼす有害な元素である。例えば、鋼板を溶接して溶接構造物とした際に健全な母材および溶接継手を得るためには、Pの含有量を可能な限り抑制することが好ましい。そのため、P含有量は0.03%以下とする。また、低温靭性の観点からは、P含有量は低ければ低いほど良いため、下限は特に限定されず、0%であってもよい。一方、Pの過度の低減はコスト増の原因となるため、コストの観点からは、P含有量は0.001%以上とすることが好ましい。
S:0.005%以下
Sは、鋼中でMnSを形成し低温靭性を著しく劣化させる。したがって、S含有量は0.005%を上限とし、可能なかぎり低減することが望ましい。S含有量は、好ましくは0.002%以下とする。
N:0.0010%~0.0080%
Nは、鋼中で析出物を形成するため、含有量が0.0080%を超えると、母材における低温靭性の低下の原因となる。したがって、N含有量は0.0080%以下とし、好ましくは0.0060%以下とする。一方、Nは、AlNを形成することにより母材の細粒化に寄与する元素でもあり、このような効果はN含有量を0.0010%以上とすることにより得られる。したがって、N含有量は0.0010%以上とし、好ましくは0.0020%以上とする。
本発明の一実施形態における鋼板が有する成分組成は、上述した元素と、残部がFe及び不可避的不純物からなるものとすることができる。
また、本発明の他の実施形態における鋼板が有する成分組成は、任意に、Al、Mo、Cr、Cu、Nb、V、およびTiからなる群より選択される1または2以上を、以下に記す量で更に含有することができる。
Al:0.01~0.10%
Alは脱酸作用のある元素である。Al含有量が0.01%未満では脱酸剤としての効果が乏しい。そのため、Alを含有させる場合は、Al含有量を0.01%以上とすることが好ましく、0.02%以上とすることがより好ましい。一方、Al含有量が0.10%を超えると鋼の清浄性が損なわれる。そのため、Al含有量は0.10%以下とすることが好ましく、0.05%以下とすることがより好ましい。
Mo:0.05~0.50%
Moは、低温靭性を損なうことなく鋼板の強度を向上させることができる元素である。Moを添加する場合、前記効果を得るために、Mo含有量を0.05%以上とすることが好ましく、0.10%以上とすることがより好ましい。一方、Mo含有量が0.50%を超えると低温靭性が低下する。そのため、Mo含有量は0.50%以下とすることが好ましく、0.30%以下とすることがより好ましい。
Cr:1.00%以下
Crは、Moと同様の効果を有する元素であるが、Cr含有量が1.00%を超えると鋼板の低温靭性が低下する。そのため、Crを添加する場合、Cr含有量を1.00%以下とすることが好ましく、0.50%以下とすることがより好ましい。一方、Cr含有量の下限は特に限定されないが、上記の効果を得るためには、Cr含有量を0.01%以上とすることが好ましい。
Cu:0.40%以下
Cuは、焼入れ性を向上させて鋼板の強度を高める効果を有する元素である。しかし、Cu含有量が0.40%を超えると、鋼板の低温靭性が低下することに加え、鋳造後の鋼(スラブ)表面の性状が悪化する。したがって、Cuを添加する場合、Cu含有量を0.40%以下とすることが好ましく、0.30%以下とすることがより好ましい。一方、Cu含有量の下限は特に限定されないが、上記の効果を得るためには、Cu含有量を0.10%以上とすることが好ましい。
Nb:0.05%以下
Nbは、析出強化により鋼板の強度を高める観点で有効な元素である。しかし、Nb含有量が過剰に高くなると、鋼板の低温靭性が低下する。そのため、Nbを添加する場合、Nb含有量を0.05%以下、好ましくは0.03%以下とする。一方、Nb含有量の下限は特に限定されないが、上記の効果を得るためには、Nb含有量を0.01%以上とすることが好ましい。
V:0.05%以下
Vは、Nbと同様、析出強化により鋼板の強度を高める観点で有効な元素である。しかし、V含有量が過剰に高くなると、鋼板の低温靭性が低下する。そのため、Vを添加する場合、V含有量を0.05%以下、好ましくは0.04%以下とする。一方、V含有量の下限は特に限定されないが、上記の効果を得るためには、V含有量を0.01%以上とすることが好ましい。
Ti:0.03%以下
Tiは、鋼板を溶接して溶接構造物とする際、母材の機械的特性を低下させることなく溶接部の靭性を高める効果を有する元素である。したがって、任意に、Tiを0.03%以下の範囲で含有させることができる。
B:0.05%以下
Bは、焼き入れ性を高め、鋼板の強度を高める観点で有効な元素である。しかし、B含有量が過剰に高くなると、鋼板の靭性が低下するため、Bを添加する場合、B含有量を0.05%以下、好ましくは0.01%以下とする。一方、B含有量の下限は特に限定されないが、上記の効果を得るためには、B含有量を0.0005%以上とすることが好ましい。
また、本発明の更に他の実施形態における鋼板が有する成分組成は、任意に、Ca、REM、およびMgからなる群より選択される1または2以上を、以下に記す量で更に含有することができる。
Ca:0.007%以下
Caは、鋼中の介在物の形態を制御することで鋼板の低温靭性を向上させる効果を有する元素である。しかし、Caが過剰に含有されると鋼の清浄性を損なう。そのため、Caを添加する場合、Ca含有量を0.007%以下とすることが好ましく、0.004%以下とすることがより好ましい。一方、Ca含有量の下限は特に限定されないが、上記の効果を得るためには0.001%以上とすることが好ましい。
REM:0.010%以下
REM(希土類金属)は、Caと同様、鋼中の介在物の形態を制御することで鋼板の低温靭性を向上させる効果を有する元素である。しかし、REMが過剰に含有されると鋼の清浄性を損なう。そのため、REMを添加する場合、REM含有量を0.010%以下とすることが好ましく、0.008%以下とすることがより好ましい。一方、REM含有量の下限は特に限定されないが、上記の効果を得るためにはREM含有量を0.0005%以上とすることが好ましい。
Mg:0.070%以下
Mgは、CaおよびREMと同様、鋼中の介在物の形態を制御することで鋼板の低温靭性を向上させる作用を有する元素である。しかし、Mgが過剰に含有されると鋼の清浄性を損なう。そのため、Mgを添加する場合、Mg含有量を0.070%以下とすることが好ましく、0.004%以下とすることがより好ましい。一方、Mg含有量の下限は特に限定されないが、上記の効果を得るためにはMg含有量を0.001%以上とすることが好ましい。
[ミクロ組織]
本発明の鋼板が有するミクロ組織には、ベイナイト及び/又はマルテンサイトと、オーステナイトとが所定の体積率で存在する。特に、本発明の鋼板が有するミクロ組織では、オーステナイトの体積率が、鋼板の表層部と板厚中心部とでそれぞれ異なる所定範囲内に制御されていることが肝要である。このように、オーステナイトの体積率を板厚方向に沿って異なる所定の体積率に制御することにより、鋼板に良好な低温靭性と耐SCC特性とを両立させることができる。
[[オーステナイトの体積率]]
オーステナイトの体積率は、表面から板厚方向内部に0.5mmの位置である表層部においては3%未満とする。水素はオーステナイトにトラップされ易いため、表層部に残留するγ量が3%以上であると、表層部に局所的に水素が集中する部位が発生し、水素脆性に起因して耐SCC特性が低下する。
なお、良好な耐SCC特性の観点からは、表層部よりも更に表面側の位置におけるγ量も3%未満であることが好ましいのは言うまでもない。表層部におけるγ量が3%未満であれば、通常、表層部よりも更に表面側の位置におけるγ量も3%未満である。すなわち、後述する本発明の製造方法に従えば、通常、鋼板表面は表層部よりも早く冷却されるため、表面では表層部よりも更にγ量が低減されることとなる。
また、オーステナイトの体積率は、(1/2)tである板厚中心部においては3%以上20%以下とする。板厚中心部におけるオーステナイトの体積率は、5%以上が好ましい。所望の低温靭性を得るには、上述した表層部から表面までの領域を除き、鋼中に残留γを適度に分散させる必要があるところ、板厚中心部におけるγ量が3%未満では、所望の低温靭性が得られない。また、板厚中心部において20%超のγ量を確保するためには更なる量のNiを添加する必要があり、経済性を損なう。
このように、本発明の鋼板では、オーステナイトに関しては、表層部と板厚中心部とでγ量に上記所定の差が生じてさえいれば、優れた低温靭性と耐SCC特性とを両立させることが可能である。
[[ベイナイト+マルテンサイトの合計体積率]]
本発明の鋼板が有するミクロ組織では、ベイナイト及びマルテンサイトの合計体積率を80%以上とする。所望の強度を得るには、鋼板の組織をベイナイト+マルテンサイト主体組織とする必要があり、ベイナイト+マルテンサイトの合計体積率が上記下限に満たなければ鋼板は強度に劣るものとなる。ベイナイトとマルテンサイトとの比率は任意の比率でよく、上記合計体積率を満たす限り、ベイナイト及びマルテンサイトのいずれか一方のみが存在していてもよい。
ここで、後述する本発明の製造方法からも分かるとおり、表層部におけるマルテンサイトは焼戻しされたマルテンサイトである。
[板厚]
本発明の鋼板の板厚は特に限定されず、任意の厚さとすることができる。板厚方向に位置に応じて異なるγ量を良好に制御する観点からは、板厚を30mm以上とすることが好ましい。一般に、厚鋼板であるほど、例えば、後述する製造方法の第二の加速冷却において、板厚中心部の温度に対する表層部の温度をより大きな温度差をもって下げることができるため、それぞれのγ量を良好に制御可能である。この観点からは、板厚の上限は特に制限されない。
[機械的特性]
[[低温靱性]]
鋼板の低温靱性は、-196℃におけるシャルピー吸収エネルギー(vE-196℃)で150J以上である必要があり、180J以上であることが好ましく、200J以上であることがより好ましい。vE-196℃の値が高いほど、鋼板が低温靭性に優れていることを示す。
なお、シャルピー吸収エネルギーは、後述する実施例に記載した方法で測定することができる。
[[耐SCC特性]]
鋼板の耐SCC特性は、実施例で後述するNACE TM0177-96 2003版に準拠したDCB試験におけるKISSCで25MPa√m以上であることが好ましい。KISSCの値が高いほど、鋼板が耐SCC特性に優れていることを示す。
[[引張強さ]]
鋼板の引張強さ(TS)は、特に限定されないが、700MPa以上であることが好ましく、720MPa以上であることがより好ましく、740MPa以上であることが更に好ましい。鋼板が上記下限以上のTSを有する高張力鋼板であれば、LNG貯蔵用タンク等の過酷な環境下で使用される構造用鋼により好適に用いることができる。一方、引張強さは、930MPa以下であることが好ましく、900MPa以下であることがより好ましい。一般に強度と靭性とはトレードオフの関係にあるところ、鋼板のTSが上記上限以下であれば、鋼板により良好な低温靭性を発揮させ易い。
なお、前記引張強さは、実施例に記載した方法で測定することができる。
(鋼板の製造方法)
次に、本発明の鋼板の製造方法について説明する。
本発明の一実施形態に従った製造方法は、鋼板について上述した成分組成を有する鋼素材を用いて、以下(1)~(4)の工程を順に行う。
(1)上記鋼素材に対する熱間圧延
(2)熱間圧延で得られた熱延鋼板に対する焼入れ
(3)焼入れ後の熱延鋼板に対する二相域加熱
(4)二相域加熱後の熱延鋼板に対する加速冷却
また、上記(1)熱間圧延に先立ち、鋼素材の加熱を行ってもよい。以下の説明においては、特に断らない限り、温度は板厚中心部(1/2t)における温度を指すものとする。そして、1/2tにおける温度は、放射温度計で測定した鋼板表面温度から、伝熱計算により求めることができる。
[鋼素材の加熱]
まず、上述した成分組成を有する鋼素材を加熱する。鋼素材としては、例えば、鋼スラブを用いることができる。以下、便宜上、鋼素材の加熱を「スラブ加熱」とよぶことがある。
スラブ加熱における加熱温度は特に制限されないが、900℃以上であることが好ましく、1200℃以下であることが好ましい。加熱温度が900℃未満であると、鋼素材の変形抵抗が高いため、次工程である熱間圧延において圧延機への負荷が増大し、熱間圧延を行うことが困難となる。一方、加熱温度が1200℃よりも高いと、鋼の酸化が顕著となり、酸化によるロスが増大する結果、歩留まりが低下する。
鋼素材の製造方法は、とくに限定されないが、例えば、上述した成分組成を有する溶鋼を常法により溶製し、鋳造することにより製造することができる。溶製は、転炉、電気炉、誘導炉等、任意の方法により行うことができる。また、鋳造は、生産性の観点から連続鋳造法で行うことが好ましいが、造塊-分解圧延法で行うこともできる。
スラブ加熱は、鋳造などの方法によって得た鋼素材を一旦冷却した後に行ってもよい。また、得られた鋼素材を冷却することなく直接、スラブ加熱に供することもできる。
[(1)熱間圧延]
上述したスラブ加熱の後、加熱された鋼素材に熱間圧延を施して熱延鋼板とする。熱延鋼板により得られる最終板厚は特に限定されないが、上述したように、30mm以上とすることが好ましい。また、熱間圧延に際しての温度は、通常、鋼素材のAr点よりも高い。
[(2)焼入れ]
熱間圧延に次いで、得られた熱延鋼板に対して焼入れを行う。焼入れは、例えば、直接焼入れ(Direct Quenching, DQ)であってもよいし、再加熱焼入れ(Reheat Quenching, RQ)であってもよい。適切に急冷することにより、熱間圧延後の熱延鋼板が焼入れされ、ミクロ組織をベイナイト及び/又はマルテンサイトとすることができる。
以下、一例として、DQ及びRQの条件について詳述する。
[[DQの好適条件]]
DQは、熱間圧延後の熱延鋼板に対して直接的に加速冷却(以下、便宜上、「DQ時冷却」とも称す)を施して行うことができる。好適なDQの条件としては、DQ時冷却において、700℃以下500℃以上の温度域における平均冷却速度が1℃/s以上であり、冷却停止温度が200℃以下である。
DQ時冷却の平均冷却速度
DQ時冷却において、700℃~500℃の温度域における平均冷却速度が1℃/s未満であると、所望の変態組織が得難く、良好な低温靭性を得ることが困難となる。そのため、DQ時冷却における平均冷却速度は1℃/s以上が好ましい。一方、DQ時加速冷却における平均冷却速度の上限は特に限定されないが、200℃/sよりも高いと、熱延鋼板内の各位置における温度制御が困難となり、板幅方向および圧延方向に材質のばらつきが出易くなる。そして、その結果、引張特性等の特性にばらつきが生じ易くなる。そのため、DQ時冷却における平均冷却速度は200℃/s以下が好ましい。
DQ時冷却の冷却停止温度
DQ時冷却における冷却停止温度は200℃以下が好ましい。冷却停止温度が200℃よりも高いと、不安定な残留γが生成し、最終組織の表層部に残留γが残存し易くなるため、良好な耐SCC特性を得難い。
[[RQの好適条件]]
RQは、熱間圧延後の熱延鋼板に対して、空冷し、再加熱したうえで、加速冷却(以下、便宜上、それぞれ「熱延後空冷」、「RQ時加熱」、「RQ時冷却」とも称す)の順に施して行うことができる。好適なRQの条件としては、熱延後空冷における空冷停止温度が300℃以下であり、RQ時加熱の温度がAc点~1000℃である。また、好適なRQ時冷却の条件は、上述したDQ時冷却の好適条件に従う。
熱延後空冷
熱間圧延後の熱延鋼板を、300℃以下の空冷停止温度まで空冷することが好ましい。RQを行う実施形態では、次のRQ時加熱によって起こる相変態により、細粒化したオーステナイト組織を得ることが好ましい。そのために、熱延後空冷においては、300℃以下の十分に低い空冷停止温度まで徐冷することにより、一旦、鋼板のミクロ組織をマルテンサイト+ベイナイト組織とすることができる。
RQ時加熱
熱延後空冷がなされた熱延鋼板を、Ac点以上1000℃以下の範囲の温度まで加熱する。この加熱により、熱延鋼板の組織をオーステナイト組織へと逆変態させることができる。そして、逆変態したオーステナイト組織は、次のRQ時冷却によってマルテンサイト組織とベイナイト組織とに変態させることができる。
RQ時加熱における温度はAc点以上が好ましく、1000℃以下が好ましい。上記範囲内の温度までRQ時加熱をすることにより、熱延鋼板の組織を均一で細粒化したオーステナイト組織にし易くなる。RQ時加熱の温度がAc点未満であると、熱延でできた低強度の組織が残存し、所望の強度が得難い。また、RQ時加熱の温度が1000℃よりも高いと、操業負荷が大きくなることに加え、オーステナイトが粗大化するため、所望の低温靭性が得難い。
前記RQ時加熱には、任意の加熱方法を用いることができる。加熱方法の一例としては、炉加熱が挙げられる。炉加熱には、特に限定されることなく、一般的な熱処理炉を用いることができる。
RQ時冷却
RQ時冷却の好適条件は、上述したDQ時冷却の好適条件に従う。DQ時冷却及びRQ時冷却は、特に限定されることなく任意の方法で行うことができる。DQ時及びRQ時冷却は、例えば、空冷及び水冷の一方又は両方を用いることができる。水冷としては、水を用いた任意の冷却方法(例えば、スプレー冷却、ミスト冷却、ラミナー冷却など)を用いることができる。
[(3)二相域加熱]
次いで、焼入れ後の冷却された熱延鋼板に対して二相域加熱を行う。この二相域加熱を以下に詳述する所定の温度範囲で行うことが、γ量を表層部と板厚中心部とで意図的に異なる範囲に制御する本発明において極めて重要である。
加熱温度
二相域加熱では、加熱温度を、(1/2)tにおいてAc点以上(Ac点+Ac点)/2未満とする。このように、α相からγ相への変態が進行するAc点~Ac点のうち所定の低温域にて加熱を行うことにより、熱延鋼板の組織の一部をベイナイト及び/又はマルテンサイトから逆変態させ、C、Ni、Mnが濃化したオーステナイトとの混合組織とすることができる。
二相域加熱での加熱温度がAc点未満であると、加熱温度が低すぎるため上記の逆変態によるオーステナイトがほとんど得られず、引き続き加速冷却を行ったとしても、γ量を所望に制御したミクロ組織を得ることができない。その結果、最終的に得られる鋼板において所望の低温靭性が得られない。一方、二相域加熱での加熱温度が(Ac点+Ac点)/2以上であると、加熱温度が高すぎるためベイナイト及びマルテンサイトからオーステナイトへの逆変態率が高くなる。すると、続く加速冷却において、逆変態したオーステナイトがマルテンサイト又はベイナイトに変態する量が過剰となり、最終的に得られる鋼板において、焼き戻しが十分でないベイナイト及びマルテンサイトの分率が高くなりすぎ、所望の低温靭性が得られない。
ここで、Ac点及びAc点は、下記式(1)及び(2)に従ってそれぞれ求めることができる。
Ac(℃)=750.8 - 26.6C + 17.6Si - 11.6Mn - 22.9Cu - 23Ni + 24.1Cr + 22.5Mo- 39.7V - 5.7Ti + 232.4Nb - 169.4Al ・・・(1)
Ac(℃)=937.2 - 436.5C + 56Si - 19.7Mn - 16.3Cu - 26.6Ni - 4.9Cr + 38.1Mo+ 124.8V + 136.3Ti - 19.1Nb + 198.4Al ・・・(2)
ただし、上記式(1)及び(2)中の元素記号は、各元素の含有量(質量%)を表し、当該元素が含有されていない場合は0とする。
保持時間
二相域加熱では、上述した所定の加熱温度に到達した後、直ちに次の加速冷却を開始してもよく、上述した所定の加熱温度で任意の時間保持した後に次の加速冷却を開始してもよい。二相域加熱において加熱保持を行う場合、保持時間は特に限定されないが、十分に所望の変態を進める観点からは5分以上とすることが好ましい。
二相域加熱には、加熱温度を上述したとおりに制御できる方法であれば、任意の加熱方法を用いることができる。加熱方法の一例としては、炉加熱が挙げられる。炉加熱には、特に限定されることなく、一般的な熱処理炉を用いることができる。
[(4)加速冷却]
次いで、二相域加熱後の熱延鋼板に対して、直後に加速冷却を行う。この加速冷却を以下に詳述する所定の条件で行うことも、γ量を表層部と板厚中心部とで意図的に異なる範囲に制御する本発明において極めて重要である。
平均冷却速度
加速冷却では、(1/2)tにおける平均冷却速度を1℃/s以上として加速冷却を行う。(1/2)tでの平均冷却速度が1℃/s未満であると、鋼板の内部に炭化物の析出量が増加し、最終的に得られる鋼板の低温靭性が低下する。一方、加速冷却における平均冷却速度の上限は特に限定されないが、平均冷却速度が200℃/sよりも高いと、鋼板内部の各位置における温度制御が困難となり、板幅方向及び圧延方向に材質のばらつきが出る。その結果、得られる鋼板において引張特性等の特性にばらつきが生じる。そのため、加速冷却における平均冷却速度は200℃/s以下とすることが好ましい。
なお、加速冷却における平均冷却速度は、冷却開始から冷却停止までの間における平均速度を指すものとする。
冷却停止温度
加速冷却では、冷却停止温度を板厚中心部と表層部とで異なる範囲に制御する。具体的には、加速冷却では、(1/2)tにおける冷却停止温度を450℃以下300℃以上の範囲とし、熱延鋼板の表面から板厚方向内部に0.5mmの位置における冷却停止温度を200℃以下とする。
これらの異なる冷却停止温度が板厚中心部と表層部とで同時に満たされたタイミングで、加速冷却を停止すればよい。なお、加速冷却後は空冷をすることが望ましい。
板厚中心部において、上述の条件にて急冷停止することで、未変態のオーステナイトへCを濃化させ、鋼板内部に存在するオーステナイトを安定化することができる。同時に、炭化物等の析出に起因した低温靭性の劣化を十分に抑制することができる。板厚中心部における冷却停止温度が300℃未満であると、過度な急冷により、未変態のオーステナイトがマルテンサイトへと変態してしまい、鋼板内部において所望の残留オーステナイト量が得られない。一方、板厚中心部における冷却停止温度が450℃よりも高いと、加速冷却後の空冷中に、鋼板内部に炭化物の析出が増加し、所望の低温靱性を得ることができない。
一方、表層部においては、温度が200℃以下の条件にて急冷停止することにより、表層部に残留したオーステナイトがマルテンサイトに変態し、表層部におけるγ量を所望の範囲に抑制可能となる。その結果、得られる鋼板に所望の耐SCC特性を発揮させることができる。
ここで、表層部において変態したマルテンサイトは、通常、低温靭性に悪影響をもたらすことが知られている。しかしながら、本発明の製造方法、特には、上述した二相域加熱及び加速冷却を行えば、板厚中心部の比較的高い温度が表層部の比較的低い温度にも伝わる。この復熱効果により、表層部に存在するマルテンサイトがセルフテンパーされて焼き戻しマルテンサイトとなるため、本発明では、良好な低温靭性を確保することができる。
加速冷却は、特に限定されることなく任意の方法で行うことができる。加速冷却は、例えば、空冷及び水冷の一方又は両方を用いることができる。水冷としては、水を用いた任意の冷却方法(例えば、スプレー冷却、ミスト冷却、ラミナー冷却など)を用いることができる。加速冷却では、加速冷却し易い観点から、水冷を用いることが好ましい。
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明する。なお、以下の実施例は、本発明の好適な一例を示すものであり、本発明を何ら限定するものではない。また、以下の実施例は、本発明の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、そのような態様も本発明の技術的範囲に含まれる。
以下に述べる手順で鋼板を製造し、鋼板の特性を評価した。
まず、表1に示す成分組成を有する溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法によって鋼素材としての鋼スラブ(厚さ:200mm)を製造した。なお、上述した式(1)によって求めたAc点(℃)及び式(2)によって求めたAc点(℃)を表1に併記する。
次に、得られた鋼スラブに対し、表2に示した条件に従って、スラブ加熱、熱間圧延、直接焼入れ又は再加熱焼入れ、二相域加熱、及び加速冷却をこの順に行った。また、加速冷却後に、全てのサンプルNo.に対して200℃以下の温度まで空冷した。このようにして鋼板を得た。
なお、上記各工程における加熱には、熱処理炉を用いた。
次に、得られた鋼板について、ミクロ組織及び種々の特性を評価した。評価は、以下に述べる方法で行った。
(ミクロ組織)
各鋼板から、表面から板厚方向内部に0.5mmの位置と、(1/2)t位置とが観察位置となるように、ミクロ組織観察用の試験片を採取した。この試験片を、圧延方向と垂直な方向での断面が観察面となるよう樹脂に埋め、鏡面研磨した。次いで、ナイタール腐食を実施した後、倍率400倍の走査型電子顕微鏡で観察して組織の画像を撮影した。得られた画像を解析して、ミクロ組織を同定した。
なお、上記のようにして得られた鋼板は、比較例No.6を除き、いずれもラス状のミクロ組織を有しており、このミクロ組織は、焼戻しマルテンサイト、或いは、焼戻しマルテンサイト及びベイナイト組織の混合組織であった。また、得られた鋼板は、残留オーステナイトの体積率が0%であった比較例No.7を除き、マトリックス中に残留オーステナイトが分散したミクロ組織を有していた。
[残留オーステナイト体積率]
鋼板の、表面から板厚方向内部に0.5mmの位置と、(1/2)t位置とから、板面に平行にX線回折用試験片を5枚採取した。この表面から板厚方向内部に0.5mmの位置と(1/2)t位置とが測定面となるよう、得られた試験片に研削及び化学研磨を施し、X線回折に供した。対称反射X線回折パターンに現れるα-Feの(200)、(211)面、γ-Feの(200)、(220)、(311)面の回折強度を求め、γ-Feの体積率を算出し、それぞれ5枚の平均値を求め、オーステナイトの体積率とした。
(特性)
[引張強さ(TS)]
得られた鋼板の(1/2)t位置から、JIS4号引張試験片を採取した。引張試験片に対して、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を実施して、鋼板の引張強さ(TS)を評価した。結果を表2に示す。
[低温靭性]
得られた鋼板の(1/2)t位置から、JIS Z 2202の規定に準拠してVノッチ試験片を採取した。このVノッチ試験片を用い、JIS Z 2242の規定に準拠してシャルピー衝撃試験を実施し、-196℃におけるシャルピー吸収エネルギー(vE-196℃)を求めた。シャルピー吸収エネルギーは、鋼板の低温環境下における靭性の指標と見なすことができる。優れた低温靭性を有するには、シャルピー吸収エネルギーが150J以上であることが望ましい。結果を表2に示す。
[耐SCC特性]
応力腐食割れ試験である、NACE TM0177-96 2003版に準拠した、DCB(Double-Cantilever-Beam)試験を実施した。試験環境は、NACE TM0177 sol.A(初期pHが2.7)×100%HSガス飽和(0.1MPa)であり、浸漬時間は336時間とした。浸漬終了後、Wedge loadとcrack lengthとから、KISSCを導出した。各試料につき3本の試験片での試験を実施し、それらのKISSCの平均値を評価した。KISSCの平均値が25MPa√m以上である場合、鋼板が耐SCC特性に優れているとした。結果を表2に示す。
Figure 0007251512000001
Figure 0007251512000002
本発明に従う発明例の鋼板は、優れた低温靭性を確保しつつ、優れた耐SCC特性を発揮することが確認された。一方、本発明の範囲を外れる比較例の鋼板は、vE-196℃の値及びKISSCの値のうちいずれか一方又は両方に劣っており、優れた低温靭性と耐SCC特性とを両立できていなかった。
本発明によれば、例えば、液化天然ガス(LNG)貯蔵用タンクなどの低温用途に好適な、優れた低温靭性および耐SSC特性を両立した鋼板を得ることができる。

Claims (4)

  1. 質量%で、
    C :0.01~0.15%、
    Si:0.01~0.50%、
    Mn:2.00%以下、
    Ni:5.0~10.0%、
    P :0.03%以下、
    S :0.005%以下、および
    N :0.0010~0.0080%を含有し、
    残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成と、
    ベイナイト及びマルテンサイトの合計体積率が80%以上であるミクロ組織とを有し、
    該ミクロ組織は、オーステナイトの体積率が、表面から板厚方向内部に0.5mmの位置においては3%未満かつ板厚tの中心である(1/2)t位置においては3%以上20%以下であり、
    JIS Z 2242の規定に準拠した、-196℃におけるシャルピー吸収エネルギーが150J以上である、鋼板。
  2. 前記成分組成が、さらに、質量%で、
    Al:0.01~0.10%、
    Mo:0.05~0.50%、
    Cr:1.00%以下、
    Cu:0.40%以下、
    Nb:0.05%以下、
    V :0.05%以下、
    Ti:0.03%以下、および
    B :0.05%以下
    からなる群より選択される1または2以上を含有する、請求項1に記載の鋼板。
  3. 前記成分組成が、さらに、質量%で、
    Ca :0.007%以下、
    REM:0.010%以下、および
    Mg :0.070%以下
    からなる群より選択される1または2以上を含有する、請求項1または2に記載の鋼板。
  4. 請求項1~3のいずれか一項に記載の成分組成を有する鋼素材に熱間圧延を施した熱延鋼板に対し、焼入れを行い、
    前記焼入れ後の熱延鋼板に二相域加熱を施し、
    前記二相域加熱後の熱延鋼板に加速冷却を施す、鋼板の製造方法であって、
    前記二相域加熱では、加熱温度を、板厚tの中心である(1/2)t位置における温度でAc点以上(Ac点+Ac点)/2未満とし、
    前記加速冷却では、前記(1/2)t位置における平均冷却速度を1℃/s以上とするとともに、冷却停止温度を、前記(1/2)t位置における温度で450℃以下300℃以上かつ前記熱延鋼板の表面から板厚方向内部に0.5mmの位置における温度で200℃以下とする、ベイナイト及びマルテンサイトの合計体積率が80%以上であるミクロ組織を有し、該ミクロ組織は、オーステナイトの体積率が、表面から板厚方向内部に0.5mmの位置においては3%未満かつ板厚tの中心である(1/2)t位置においては3%以上20%以下であり、JIS Z 2242の規定に準拠した、-196℃におけるシャルピー吸収エネルギーが150J以上である、鋼板の製造方法。
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