(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る回路基板について図1を参照して説明する。回路基板1は、基材2と、基材2上のプライマ層3と、プライマ層3上の光焼成皮膜4と、光焼成皮膜4上のめっき層5を備える。光焼成皮膜4は、銅微粒子の光焼成によってプライマ層3上に形成される。基材2は、ポリエーテルエーテルケトンから成る。プライマ層3は、溶剤可溶型熱可塑性ポリイミド樹脂及びエポキシ樹脂を含有する樹脂層31である。
回路基板1について詳述する。回路基板1は、プリント基板である。回路基板1において、光焼成皮膜4及びめっき層5が導体層6となる。導体層6は、プリント基板の配線を構成する。なお、導体層6が回路素子の一部又は全部を構成してもよい。
基材2は、回路基板1において光焼成皮膜4を支持するための支持体であり、ポリエーテルエーテルケトンを成形したものである。本実施形態では、基材2は、板状であるので基板とも呼ばれる。
プライマ層3は、光焼成皮膜4の下地として基材2上に形成される層である。本実施形態では、プライマ層3は、樹脂層31である。樹脂層31は、溶剤可溶型熱可塑性ポリイミド樹脂及びエポキシ樹脂を含有する。ポリイミドは、繰り返し単位にイミド結合を含む高分子である。イミド結合が強い分子間力を持つため、一般のポリイミド樹脂は、熱硬化性樹脂である。熱可塑性ポリイミド樹脂は、イミド基以外の官能基等を導入することによって繰り返し単位中でのイミド基を減らして、熱可塑性を付与したポリイミド樹脂である。溶剤可溶型熱可塑性ポリイミド樹脂は、溶剤に可溶な熱可塑性ポリイミド樹脂である。溶剤可溶型熱可塑性ポリイミド樹脂とエポキシ樹脂との割合は、適宜調整され、例えば、重量比で8:2程度である。プライマ層3は、本実施形態では単層である。なお、本発明において、プライマ層3が複層である場合については第2の実施形態で述べる。
光焼成皮膜4は、銅微粒子分散液を用いて形成される。その銅微粒子分散液は、銅微粒子と、少なくとも1種の分散媒と、少なくとも1種の分散剤とを有する。その銅微粒子は、例えば、メジアン径が1nm以上100nm未満のナノ粒子を含む。このため、この銅微粒子分散液は、銅ナノインクとも呼ばれる。銅微粒子分散液は、μmオーダーの銅微粒子を含んでもよい。
分散媒は、例えば、プロトン性分散媒又は比誘電率が30以上の非プロトン性の極性分散媒である。
プロトン性分散媒は、1個のヒドロキシル基を有する炭素数が5以上30以下の直鎖または分岐鎖状のアルキル化合物もしくはアルケニル化合物である。このプロトン性分散媒は、1個以上10個以下のエーテル結合を有してもよく、1個以上5個以下のカルボニル基を有してもよい。
このようなプロトン性分散媒としては、例えば、3-メトキシ-3-メチルブタノール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル、2-オクタノール、等が挙げられるが、これらに限定されない。
また、プロトン性分散媒は、2個以上6個以下のヒドロキシル基を有する炭素数が2以上30以下の直鎖または分岐鎖状のアルキル化合物もしくはアルケニル化合物であってもよい。このプロトン性分散媒は、1個以上10個以下のエーテル結合を有してもよく、1個以上5個以下のカルボニル基を有してもよい。
このようなプロトン性分散媒としては、例えば、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ソルビトール等が挙げられるが、これらに限定されない。
比誘電率が30以上の非プロトン性極性分散媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ヘキサメチルフォスフォラミド、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、ニトロベンゼン、N、N-ジエチルホルムアミド、N、N-ジメチルアセトアミド、フルフラール、γ-ブチロラクトン、エチレンスルファイト、スルホラン、ジメチルスルホキシド、スクシノニトリル、エチレンカーボネート等が挙げられるが、これらに限定されない。
これらの極性分散媒は、1種類を単独で用いても、2種類以上を適宜混合して用いてもよい。
分散剤は、銅微粒子を分散媒中で分散させるものであり、例えば、少なくとも1個の酸性官能基を有し、分子量が200以上100000以下の化合物又はその塩である。分散剤の酸性官能基は、酸性、すなわち、プロトン供与性を有する官能基であり、例えば、リン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、硫酸基及びカルボキシル基である。
これらの分散剤は、1種類を単独で用いても、2種類以上を適宜混合して用いてもよい。
めっき層5は、光焼成皮膜4にめっきが施されることによって光焼成皮膜4上に形成される。光焼成皮膜4に施されるめっきは、電気めっきであっても、無電解めっきであってもよい。めっきが電気めっきである場合、めっき金属は、銅、ニッケル、錫、クロム、パラジウム、金、ビスマス、コバルト、鉄、銀、鉛、白金、イリジウム、亜鉛、インジウム、ルテニウム、ロジウム等が挙げられる。めっきが無電解めっきである場合、めっき金属は、銅、錫、銀、ニッケル、パラジウム、金等が挙げられる。本実施形態では、光焼成皮膜4に施されるめっきは、電気銅めっきである。
上記のように構成される回路基板1の作製方法について図2(a)~(f)を参照して説明する。図2(a)に示すように、ポリエーテルエーテルケトンから成る基材2が用意される。基材2の表面にプラズマ処理を施してもよい。基材2のプラズマ処理は、放電によって発生させたプラズマを基材2の表面にぶつける表面処理である。プラズマ処理によって、基材2が表面改質される。基材2の表面処理として、コロナ処理又は紫外線処理等を用いてもよい。プラズマ処理等の表面処理は、基材2への密着性を向上するために行われる。なお、基材2の表面処理を省略してもよい。
溶剤可溶型熱可塑性ポリイミド樹脂及びエポキシ樹脂を溶剤で希釈した塗布液が予め作られる。そして、その塗布液が基材2上に塗布される。そして、その塗布液中の溶剤が乾燥され、図2(b)に示すように、溶剤可溶型熱可塑性ポリイミド樹脂及びエポキシ樹脂を含有する樹脂層31が基材2上に形成される。本実施形態では、この単層の樹脂層31がプライマ層3である。
図2(c)に示すように、銅微粒子分散液から成る液膜42が樹脂層31上に形成される。銅微粒子分散液は、銅微粒子41が液中に分散された液体である。樹脂層31上の液膜42は、例えば、印刷法で形成される。印刷法では、銅微粒子分散液が印刷用のインクとして用いられ、印刷装置によって樹脂層31上に所定のパターンが印刷され、そのパターンの液膜42が形成される。次に、液膜42が乾燥される。液膜42の乾燥によって、図2(d)に示すように、銅微粒子41が樹脂層31上に残り、銅微粒子41から成る微粒子層43が樹脂層31上に形成される。
次に、微粒子層43は、光が照射され、光焼成される。光焼成は、大気下、室温で行われる。光焼成に用いられる光源は、例えば、キセノンランプである。光源にレーザー装置を用いてもよい。光焼成において、微粒子層43内の銅微粒子41の表面酸化皮膜が除去され、銅微粒子41が互いに溶融してバルク化するとともに、樹脂層31に溶着する。すなわち、図2(e)に示すように、光焼成によって光焼成皮膜4が樹脂層31上に形成される。なお、液膜42の乾燥及び微粒子層43の光焼成を、光の照射によっていっぺんに行ってもよい。
図2(f)に示すように、光焼成皮膜4にめっきが施され、その光焼成皮膜4上にめっき層5が形成される。本実施形態では、光焼成皮膜4に施されるめっきは、電気めっきである。電気めっきにおいて、光焼成皮膜4は、めっき液に浸漬され、シード層としての陰極となる。なお、無電解めっきの場合、光焼成皮膜4は、めっき液に含まれる還元剤の酸化反応に対して触媒活性なシード層となる。
なお、回路基板1の作製方法おいて、銅微粒子41から成る微粒子層43に照射される光のエネルギーは、樹脂層31を損傷しないように設定される。微粒子層43の光焼成によって形成された光焼成皮膜4は、バルク化が不十分となって、電気抵抗(シート抵抗)が高くなった場合であっても、導電性を有するので、電気めっきにおけるシード層として機能する。また、無電解めっきにおいては、シード層の電気抵抗は問題とならない。光焼成皮膜4は、銅微粒子41の焼結体である。その焼結体に気孔(銅微粒子間の隙間)があると、その気孔にめっき液の金属イオンが浸入して析出する。このため、光焼成皮膜4は、めっき金属によって焼結体の気孔が充填され、電気抵抗が低くなる。さらに、めっき層5によって、回路基板1の導体層6の膜厚が増大するので、導体層6の電気抵抗が低くなる。
ところで、図5に示すように、プライマ層を設けずに、ポリエーテルエーテルケトンから成る基材2上に光焼成皮膜4を直接形成した場合、光焼成皮膜4は、めっきを施そうとすると、めっき中に基材2から剥離する。ポリエーテルエーテルケトンから成る基材2上の光焼成皮膜4は、基材2への十分な密着性を有しないからである。
これに対して、ポリエーテルエーテルケトンから成る基材2と光焼成皮膜4との間に、プライマ層3として、溶剤可溶型熱可塑性ポリイミド樹脂及びエポキシ樹脂を含有する樹脂層31を設けることにより、光焼成皮膜4の密着性が向上し、めっき層5を形成することができるとともに、光焼成皮膜4及びめっき層5から成る導体層6が十分な密着性を有することを、本発明の発明者が実験によって発見した。
このような、溶剤可溶型熱可塑性ポリイミド樹脂及びエポキシ樹脂を含有する樹脂層31による光焼成皮膜4の密着性の向上は、下記のような作用によると考えられる。溶剤可溶型熱可塑性ポリイミド樹脂は、溶剤に溶かされた状態では、熱可塑性ポリイミドワニスとも呼ばれ、接着剤として機能する。また、エポキシ樹脂は、接着剤に使用される成分である。このため、溶剤に溶かされた溶剤可溶型熱可塑性ポリイミド樹脂及びエポキシ樹脂は、強い接着力を有する塗布液となる。その塗布液が基材2に塗布され、塗布液中の溶剤が乾燥されると、基材2に接着された樹脂層31が形成される。
そして、銅微粒子41から成る微粒子層43が光焼成される時、銅微粒子41は、光のエネルギーを吸収して発熱する。樹脂層31は、溶剤可溶型熱可塑性ポリイミド樹脂を含有するので、熱可塑性を有する。樹脂層31の表面は、銅微粒子41の発熱により瞬間的に軟化した後に固まり、樹脂層31に接している銅微粒子41は、樹脂層31にくい込むように溶着する。微粒子層43を光焼成して形成される光焼成皮膜4は、樹脂層31にくい込むように溶着した銅微粒子がアンカーとなって、樹脂層31に密着する。光焼成皮膜4にめっきが施されると、めっき層5内に残留する内部応力によって、光焼成皮膜4を樹脂層31から剥離する力が発生する。しかし、光焼成皮膜4は、樹脂層31への密着性が十分高いので、樹脂層31からの剥離が防がれる。なお、上記の作用は、実験結果を説明するための後付けによる理由である。
なお、樹脂層31に含有される溶剤可溶型熱可塑性ポリイミドは、所定の温度範囲の軟化点を有することが望ましい。所定の温度範囲は、例えば、90℃以上180℃以下である。溶剤可溶型熱可塑性ポリイミドの軟化点が低過ぎると、銅微粒子41の焼結が不十分な状態で樹脂層31が軟化し、光焼成によって形成された光焼成皮膜4にクラックが入り、連続した皮膜が得られない。軟化点が高過ぎると、光焼成で、銅微粒子41が樹脂層31に溶着する前に、低抵抗で連続した光焼成皮膜4が得られ、樹脂層31へのくい込みが発生しないからである。樹脂層31に含有されるエポキシ樹脂は、熱硬化性樹脂であるので、軟化した溶剤可溶型熱可塑性ポリイミドが流れ出さないように維持する。エポキシ樹脂は、熱可塑性樹脂ではないので、光焼成皮膜4の樹脂層31への密着にとっては、多くないほうが望ましい。
以上、本実施形態に係る回路基板1及びその作製方法によれば、溶剤可溶型熱可塑性ポリイミド樹脂及びエポキシ樹脂を含有する樹脂層31がポリエーテルエーテルケトンから成る基材2に接着し、光焼成皮膜4がその樹脂層31に溶着するので、樹脂層31(プライマ層3)を介して光焼成皮膜4の基材2への密着性が向上する。
ところで、回路基板は、常温より高い温度で用いられるものがある。例えば、日本工業規格JIS D 0208-1993「自動車用スイッチ類の試験方法通則」には、スイッチ類の耐温度特性の試験方法として、高温放置試験が規定されている。高温放置試験における温度及び放置時間の試験条件は、スイッチ類の装着位置による。例えば、エンジンに直接装着されるスイッチは、高い耐温度特性が求められる。本実施形態の回路基板1について、JIS D 0208-1993に規定されている試験条件よりも若干厳しい温度及び放置時間の後に剥離試験をしたとき、回路基板1は、樹脂層31と光焼成皮膜4との間で界面剥離が発生した。そこで、本発明の発明者は、多数の実験を行い、耐温度特性を向上した回路基板を開発した。その回路基板について第2の実施形態で述べる。
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る回路基板について図3を参照して説明する。図3は本実施形態の回路基板10の断面構成を示す。本実施形態の回路基板10は、第1の実施形態の回路基板1と同様の構成を有し(以下同様)、プライマ層3が単層ではなく、複層である点が異なる。本実施形態では、第1の実施形態と同等の箇所には同じ符号を付している。以下の説明において、第1の実施形態と同等の箇所の詳細な説明は省略する。
回路基板10は、基材2と、基材2上のプライマ層3と、プライマ層3上の光焼成皮膜4と、光焼成皮膜4上のめっき層5を備える。光焼成皮膜4は、銅微粒子の光焼成によってプライマ層3上に形成される。基材2は、ポリエーテルエーテルケトンから成る。プライマ層3は、第1の樹脂層31と、第1の樹脂層31上の第2の樹脂層32から成る。第1の樹脂層31は、溶剤可溶型熱可塑性ポリイミド樹脂及びエポキシ樹脂を含有する。第2の樹脂層32は、ポリアミドイミド樹脂を含有する。
回路基板10について詳述する。回路基板10は、プリント基板である。回路基板10において、光焼成皮膜4及びめっき層5が導体層6となる。
基材2は、回路基板10において光焼成皮膜4を支持するための支持体であり、ポリエーテルエーテルケトンを成形したものである。
プライマ層3は、光焼成皮膜4の下地として基材2上に形成される層である。本実施形態では、プライマ層3は、複層であり、第1の実施形態と同じ第1の樹脂層31と、その第1の樹脂層31上の第2の樹脂層32から成る。
第1の樹脂層31は、溶剤可溶型熱可塑性ポリイミド樹脂及びエポキシ樹脂を含有する。溶剤可溶型熱可塑性ポリイミド樹脂は、溶剤に可溶な熱可塑性ポリイミド樹脂である。溶剤可溶型熱可塑性ポリイミド樹脂とエポキシ樹脂との割合は、適宜調整され、例えば、重量比で8:2程度である。
第2の樹脂層32は、ポリアミドイミド樹脂を含有する。ポリアミドイミド樹脂は、熱可塑性樹脂である。
光焼成皮膜4は、銅微粒子分散液を用いて形成される。本実施形態で用いられる銅微粒子分散液は、第1の実施形態で用いられるものと同様である。
めっき層5は、光焼成皮膜4にめっきが施されることによって光焼成皮膜4上に形成される。光焼成皮膜4に施されるめっきは、電気めっきであっても、無電解めっきであってもよい。本実施形態では、光焼成皮膜4に施されるめっきは、電気銅めっきである。
上記のように構成される回路基板10の作製方法について図4(a)~(g)を参照して説明する。図4(a)に示すように、ポリエーテルエーテルケトンから成る基材2が用意される。基材2の表面にプラズマ処理を施してもよい。プラズマ処理によって、基材2が表面改質される。基材2の表面処理として、コロナ処理又は紫外線処理等を用いてもよい。なお、基材2の表面処理を省略してもよい。
溶剤可溶型熱可塑性ポリイミド樹脂及びエポキシ樹脂を溶剤で希釈した第1の塗布液が予め作られる。そして、その第1の塗布液が基材2上に塗布される。そして、その第1の塗布液中の溶剤が乾燥され、図4(b)に示すように、溶剤可溶型熱可塑性ポリイミド樹脂及びエポキシ樹脂を含有する第1の樹脂層31が基材2上に形成される。
そして、ポリアミドイミド樹脂を溶剤で希釈した第2の塗布液が予め作られる。そして、その第2の塗布液が第1の樹脂層31上に塗布される。そして、その第2の塗布液中の溶剤が乾燥され、図4(c)に示すように、ポリアミドイミド樹脂を含有する第2の樹脂層32が第1の樹脂層31上に形成される。本実施形態では、第1の樹脂層31と、その第1の樹脂層31上の第2の樹脂層32がプライマ層3である。
図4(d)に示すように、銅微粒子分散液から成る液膜42が第2の樹脂層32上に形成される。第2の樹脂層32上の液膜42は、例えば、印刷法で形成される。印刷法では、銅微粒子分散液が印刷用のインクとして用いられ、印刷装置によって第2の樹脂層32上に所定のパターンが印刷され、そのパターンの液膜42が形成される。次に、液膜42が乾燥される。液膜42の乾燥によって、図4(e)に示すように、銅微粒子41が第2の樹脂層32上に残り、銅微粒子41から成る微粒子層43が第2の樹脂層32上に形成される。
次に、微粒子層43は、光が照射され、光焼成される。光焼成は、大気下、室温で行われる。光焼成に用いられる光源は、例えば、キセノンランプである。光源にレーザー装置を用いてもよい。光焼成において、微粒子層43内の銅微粒子41の表面酸化皮膜が除去され、銅微粒子41が互いに溶融してバルク化するとともに、第2の樹脂層32に溶着する。すなわち、図4(f)に示すように、光焼成によって光焼成皮膜4が第2の樹脂層32上に形成される。なお、液膜42の乾燥及び微粒子層43の光焼成を、光の照射によっていっぺんに行ってもよい。
図4(g)に示すように、光焼成皮膜4にめっきが施され、その光焼成皮膜4上にめっき層5が形成される。本実施形態では、光焼成皮膜4に施されるめっきは、電気めっきである。電気めっきにおいて、光焼成皮膜4は、めっき液に浸漬され、シード層としての陰極となる。なお、無電解めっきの場合、光焼成皮膜4は、めっき液に含まれる還元剤の酸化反応に対して触媒活性なシード層となる。
ところで、第2の樹脂層32を設けずに、溶剤可溶型熱可塑性ポリイミド樹脂及びエポキシ樹脂を含有する樹脂層31上に光焼成皮膜4を形成した場合(図1参照)、高温放置試験において、導体層6は、高温で放置した後に剥離することがある。
これに対して、プライマ層3を複層とし、溶剤可溶型熱可塑性ポリイミド樹脂及びエポキシ樹脂を含有する第1の樹脂層31と光焼成皮膜4との間にポリアミドイミド樹脂を含有する第2の樹脂層32を設けることにより、高温放置試験において、高温で放置した後であっても、導体層6の剥離が防がれることを、本発明の発明者が実験によって発見した。
このような、ポリアミドイミド樹脂を含有する第2の樹脂層32を追加することによる回路基板10における密着性及び耐温度特性の向上は、下記のような作用によると考えられる。溶剤可溶型熱可塑性ポリイミド樹脂は、溶剤に溶かされた状態では、熱可塑性ポリイミドワニスとも呼ばれ、接着剤として機能する。また、エポキシ樹脂は、接着剤に使用される成分である。このため、溶剤に溶かされた溶剤可溶型熱可塑性ポリイミド樹脂及びエポキシ樹脂は、強い接着力を有する塗布液となる。その塗布液が基材2に塗布され、塗布液中の溶剤が乾燥されると、基材2に接着された第1の樹脂層31が形成される。
ポリアミドイミド樹脂は、ポリアミド樹脂とポリイミド樹脂の両方の特性を併せ持つ。このため、溶剤に溶かされたポリアミドイミド樹脂は、溶剤可溶型熱可塑性ポリイミド樹脂との接着性を有する塗布液となる。その塗布液が第1の樹脂層31に塗布され、塗布液中の溶剤が乾燥されると、第1の樹脂層31に接着された第2の樹脂層32が形成される。なお、溶剤可溶型熱可塑性ポリイミド樹脂は、低軟化点(例えば100℃強)を有し、比較的低分子であるため、第1の樹脂層31を形成する(成膜する)ためにエポキシ樹脂で固める必要がある。第2の樹脂層32に含有されるポリアミドイミド樹脂は、高軟化点(例えば250℃程度)を有し、比較的高分子であるため、溶剤を除去するだけで、単独で膜になる。
そして、銅微粒子41から成る微粒子層43が光焼成される時、銅微粒子41は、光のエネルギーを吸収して発熱する。第2の樹脂層32は、ポリアミドイミド樹脂を含有するので、熱可塑性を有する。第2の樹脂層32の表面は、銅微粒子41の発熱により瞬間的に軟化し、第2の樹脂層32に接している銅微粒子41は、第2の樹脂層32にくい込むように溶着する。微粒子層43を光焼成して形成される光焼成皮膜4は、第2の樹脂層32にくい込むように溶着した銅微粒子がアンカーとなって、第2の樹脂層32に密着する。光焼成皮膜4にめっきが施されると、めっき層5内に残留する内部応力によって、光焼成皮膜4を第2の樹脂層32から剥離する力が発生する。しかし、光焼成皮膜4は、第2の樹脂層32への密着性が十分高いので、第2の樹脂層32からの剥離が防がれる。
ポリアミドイミド樹脂は、溶剤可溶型熱可塑性ポリイミド樹脂よりも光焼成皮膜4との密着性が高いことと、耐熱性が高い(軟化点が高い)ので、第2の樹脂層32を有する回路基板10は、高温放置試験に耐える。上記の作用は、実験結果を説明するための後付けによる理由である。
以上、本実施形態に係る回路基板10及びその作製方法によれば、複層のプライマ層3を有し、溶剤可溶型熱可塑性ポリイミド樹脂及びエポキシ樹脂を含有する第1の樹脂層31がポリエーテルエーテルケトンから成る基材2に接着し、ポリアミドイミド樹脂を含有する第2の樹脂層32が第1の樹脂層31に接着し、光焼成皮膜4が熱可塑性樹脂を含有する第2の樹脂層32に溶着するので、第1の樹脂層31及び第2の樹脂層32(プライマ層3)を介して光焼成皮膜4の基材2への密着性が向上する。また、第1の樹脂層31が第2の樹脂層32に被覆されるので、密着性と耐温度特性が向上する。
第1の実施形態の回路基板の作製方法を用い、実施例として回路基板1を作製した(図1及び図2参照)。
基材2としてポリエーテルエーテルケトン(倉敷紡績株式会社製、商品名「EXPEEK(登録商標)」)を板状に成形したものを用いた。基材の厚みは、25μmとした。基材2にはプラズマ処理等の表面処理を施さなかった。
溶剤可溶型熱可塑性ポリイミド樹脂(荒川化学工業株式会社製、商品名「PIAD(登録商標)300」及びエポキシ樹脂(三菱瓦斯化学株式会社製、商品名「TETRAD-X(登録商標)」)を極性溶媒で希釈して塗布液を作った。溶剤可溶型熱可塑性ポリイミド樹脂とエポキシ樹脂との割合は、重量比で8:2とした。その塗布液をスピンコート法により基材2上に塗布し、170℃で30分間加熱乾燥して樹脂層31を基材2上に形成した。樹脂層31の膜厚は0.3μmであった。膜厚は、レーザー顕微鏡で測定した(以下、同様)。
そして、銅微粒子分散液(石原ケミカル株式会社製、銅ナノインク試作品「02A」)をスピンコート法により膜厚0.6μmになるように樹脂層31上に塗布して液膜42を形成した。その液膜42を加熱乾燥した後、キセノンランプを有するフラッシュ照射装置(ウシオ電機株式会社製、製品名「SUS462」)を用いて光を照射し、銅微粒子41を光焼成して、光焼成皮膜4を樹脂層31上に形成した。光照射のエネルギーは、1.67J/cm2、照射時間は1msとした。光焼成皮膜4の膜厚は、0.4μmであった。
そして、基材2上に形成した光焼成皮膜4に、前処理として酸性脱脂処理を30秒間施し、硫酸前処理を30秒間施し、そして電気銅めっきを施した。めっきの電流密度は2A/dm2、めっき時間は約23分とした。この電気銅めっきにより、光焼成皮膜4上にめっき厚10μmのめっき層5が形成された。
次に、作製した回路基板1における導体層6の密着性を試験した。その試験方法は、JIS K 6854-2:1999「接着剤-はく離接着強さ試験方法-第2部:180度はく離」を用いた(180°ピール試験)。JIS K 6854-2:1999は、国際規格ISO 8501-2:1990(Adhesives-Determination of peel strength of bonded assemblies-Part 2:180 degree peel)を翻訳した日本工業規格である。
180°ピール試験において、試料(回路基板1)を70℃で30分間乾燥した後、5×50mmに裁断してピール試験片とした。そして、ピール試験片の端部を約5mm剥離し、基材側(導体層6が形成されていない側)を両面テープで板材に貼り付けた。そして、銅箔側(導体層6が形成された側)をピール強度試験機の測定治具に固定した。剥離速度は50mm/分とし、剥離距離は20mm以上とし、剥離強度を測定した。試料1個につきピール試験片2個の測定を行い、その2試行の平均値を剥離強度とした。
実施例1における導体層6の剥離強度は、0.64N/mmであった。剥離強度が0.5以上であれば、密着性が十分であると評価される。したがって、実施例1の回路基板1における導体層6は十分な密着性を有していた。すなわち、銅微粒子41の光焼成によって形成される光焼成皮膜4とポリエーテルエーテルケトンから成る基材2とを有する回路基板1において、導体層6(光焼成皮膜4及びめっき層5)の十分な密着性を得ることができた。なお、180°ピール試験における剥離面は、プライマ層3と光焼成皮膜4間であった(界面剥離)。
塗布液を塗布する前に、表面処理として、基材2にプラズマ処理を施した。プラズマ処理におけるプラズマ電力は100Wとし、処理時間は30秒とした。それ以外の条件を実施例1と同じにして回路基板1を作製した。
作製した回路基板1について、実施例1と同様に180°ピール試験をした。導体層6の剥離強度は、0.56N/mmであった。導体層6は十分な密着性を有していた。実施例1と比べて、基材2にプラズマ処理を施したことによる剥離強度の有意差は無かった。なお、180°ピール試験における剥離面は、実施例1と同様、プライマ層3と光焼成皮膜4間であった。
プラズマ処理におけるプラズマ電力を200Wに増加し、処理時間は30秒とした。それ以外の条件を実施例2と同じにして回路基板1を作製した。
作製した回路基板1について、実施例1と同様に180°ピール試験をした。導体層6の剥離強度は、0.53N/mmであった。導体層6は十分な密着性を有していた。実施例2と比べて、プラズマ電力を200Wに増加したことによる剥離強度の有意差は無かった。なお、180°ピール試験における剥離面は、実施例2と同様、プライマ層3と光焼成皮膜4間であった。
プラズマ処理におけるプラズマ電力を400Wに増加し、処理時間は30秒とした。それ以外の条件を実施例3と同じにして回路基板1を作製した。
作製した回路基板1について、実施例1と同様に180°ピール試験をした。導体層6の剥離強度は、0.59N/mmであった。導体層6は十分な密着性を有していた。実施例2及び実施例3と比べれば、プラズマ電力を400Wに増加したことによって剥離強度がわずかに向上したが、実施例1と比べて、剥離強度の有意差は無かった。なお、180°ピール試験における剥離面は、実施例3と同様、プライマ層3と光焼成皮膜4間であった。
光焼成皮膜4の電気銅めっきにおいて、めっき時間を約45分に増やし、めっき厚20μmのめっき層5を形成した。それ以外の条件を実施例1と同じにして回路基板1を作製した。
作製した回路基板1について、実施例1と同様に180°ピール試験をした。導体層6の剥離強度は、0.74N/mmであった。導体層6は十分な密着性を有していた。180°ピール試験における剥離面は、実施例1と同様、プライマ層3と光焼成皮膜4間であった。
基材2の厚みを50μmに厚くした。それ以外の条件を実施例5と同じにして回路基板1を作製した。
作製した回路基板1について、実施例1と同様に180°ピール試験をした。導体層6の剥離強度は、0.90N/mmであった。導体層6は十分な密着性を有していた。180°ピール試験における剥離面は、実施例5と同様、プライマ層3と光焼成皮膜4間であった。
第2の実施形態の回路基板の作製方法を用い、実施例として回路基板10を作製した(図3及び図4参照)。
基材2としてポリエーテルエーテルケトン(倉敷紡績株式会社製、商品名「EXPEEK(登録商標)」)を板状に成形したものを用いた。基材の厚みは、実施例6と同じ50μmとした。基材2に表面処理を施さなかった。
実施例1と同じ塗布液を実施例7における第1の塗布液として用いた。第1の塗布液をスピンコート法により基材2上に塗布し、170℃で30分間加熱乾燥して第1の樹脂層31を基材2上に形成した。第1の樹脂層31の膜厚は0.3μmであった。
そして、ポリアミドイミド樹脂(荒川化学工業株式会社製、商品名「コンポセラン(登録商標)AI301」)を極性溶媒で希釈して第2の塗布液を作った。その第2の塗布液をスピンコート法により基材2上に塗布し、170℃で30分間加熱乾燥して第2の樹脂層32を第1の樹脂層31上に形成した。第2の樹脂層32の膜厚は0.3μmであった。
そして、実施例1と同じ銅微粒子分散液を用い、実施例1と同様の光焼成により、光焼成皮膜4を第2の樹脂層32上に形成した。
そして、第2の樹脂層32上に形成された光焼成皮膜4に、前処理として酸性脱脂処理を30秒間施し、硫酸前処理を30秒間施し、電気銅めっきを施した。めっきの電流密度は2A/dm2、めっき時間は約45分とした。この電気銅めっきにより、光焼成皮膜4上にめっき厚20μmのめっき層5が形成された。
次に、作製した回路基板10について、実施例1と同様に180°ピール試験をした。実施例7における導体層6の剥離強度は、1.00N/mmであり、実施例1~6よりも大きかった。すなわち、プライマ層3が第2の樹脂層32を有することにより、単層の樹脂層31の場合と比べて導体層6の密着性が向上した。
さらに、実施例7の回路基板10の試験片を用いて、高温放置試験を行った。試験片を150℃で168時間放置後、180°ピール試験をした。高温放置後の導体層6の剥離強度は、0.87N/mmであった。高温放置後も導体層6は十分な密着性を有していた。180°ピール試験における剥離面は、プライマ層3の凝集剥離であった。第2の樹脂層32を設けることによって、回路基板10における密着性と耐温度特性が向上することが確認された。
実施例1~6に対する比較例として、プライマ層3(樹脂層31)を省略した回路基板を作製して試験を行った。
(比較例1)
実施例1と同じ基材2を用い、基材2に表面処理は施さなかった。基材2上にプライマ層3を形成しなかった。それ以外の条件は実施例1と同じにして、基材2上に光焼成皮膜4を直接形成した(図5参照)。基材2上に形成された光焼成皮膜4に実施例1と同様に電気銅めっきを施した。めっき中に光焼成皮膜4が基材2から剥離した。プライマ層3を設けない場合、光焼成皮膜4の基材2への密着性が不十分であることが確認された。
(比較例2)
基材2の厚みを50μmとし、基材2にプラズマ処理を施した。プラズマ処理におけるプラズマ電力は400Wとし、処理時間は30秒とした。それ以外の条件を比較例1と同じにして基材2上に光焼成皮膜4を直接形成した。基材2上に形成された光焼成皮膜4に電気銅めっきを施した。めっき中に光焼成皮膜4が基材2から剥離した。プライマ層3を設けない場合、基材2にプラズマ処理を施しても、光焼成皮膜4の基材2への密着性が不十分であることが確認された。
(比較例3)
実施例7に対する比較例として、図6に示すように、プライマ層3における第1の樹脂層を省略し、第2の樹脂層32を設けた回路基板100を作製して試験を行った。実施例7と同じ基材2を用い、基材2に表面処理を施さなかった。基材2上に第1の樹脂層を形成せず、ポリアミドイミド樹脂を含有する第2の樹脂層32を形成した。そして、実施例7と同じ銅微粒子分散液を用い、実施例7と同様の光焼成により、第2の樹脂層32上に光焼成皮膜4を形成した。そして、光焼成皮膜4に電気銅めっきを施した。この電気銅めっきにより、光焼成皮膜4上にめっき厚10μmのめっき層5を形成した。
次に、作製した回路基板100について、実施例7と同様に180°ピール試験をした。比較例3における導体層6の剥離強度は、0.03N/mmであった。180°ピール試験における剥離面は、基材2とプライマ層3(第2の樹脂層32のみ)間であった。これにより、ポリアミドイミド樹脂を含有する第2の樹脂層32は、ポリエーテルエーテルケトンから成る基材2への十分な密着性を有しないことが確認された。
(比較例4)
第2の樹脂層を設けない実施例1~実施例6では、実施例6が最も導体層6の剥離強度が大きかった。実施例7に対する比較例として、実施例6で作製した回路基板1について、実施例7と同様に高温放置試験を行った。試験片を150℃で168時間放置後、180°ピール試験をした。高温放置後、導体層6の剥離強度は、0.03N/mmに低下していた。その試験における剥離面は、樹脂層31と光焼成皮膜4間であった。すなわち、プライマ層3として、第2の樹脂層32を設けず、溶剤可溶型熱可塑性ポリイミド樹脂及びエポキシ樹脂を含有する樹脂層31のみの場合、回路基板1は、この高温放置試験に耐えないことが確認された。
(比較例5)
実施例6に対する比較例として、実施例6と同じ材料を用い、光焼成にかえて、熱焼成を行って同様の構成を有する回路基板を作製して試験を行った。その熱焼成において、窒素雰囲気にギ酸を混入し、焼成温度150℃、焼成時間10分間とし、樹脂層31上に焼成皮膜を形成した。その焼成皮膜は、光焼成の場合と同程度の電気抵抗(シート抵抗)となった。その焼成皮膜に電気銅めっきを施すことは可能であった。作成した回路基板について実施例6と同様に180°ピール試験をした。比較例5における導体層の剥離強度は、0.05N/mm未満であった。この試験結果は、熱焼成では、銅微粒子の樹脂層31へのくい込みが発生しないためと考えられる。
(比較例6)
実施例7に対する比較例として、実施例7と同じ材料を用い、光焼成にかえて、熱焼成を行って同様の構成を有する回路基板を作製して試験を行った。その熱焼成において、窒素雰囲気にギ酸を混入し、焼成温度150℃、焼成時間10分間とし、第2の樹脂層32上に焼成皮膜を形成した。その焼成皮膜は、光焼成の場合と同程度の電気抵抗(シート抵抗)となった。その焼成皮膜に電気銅めっきを施すことは可能であった。作成した回路基板について実施例7と同様に180°ピール試験をした。比較例6における導体層の剥離強度は、0.05N/mm未満であった。この試験結果は、熱焼成では、銅微粒子の第2の樹脂層32へのくい込みが発生しないためと考えられる。
なお、本発明は、上記の実施形態の構成に限られず、発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、基材2の形状は、板状に限られず、任意の3次元形状であってもよい。