以下、本発明を具体化した一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、ばら積み船等の貨物を運搬する船舶10は、複数の船倉11と、各船倉11を開閉するハッチカバー12と、甲板(デッキ)13に設けられた複数のデッキクレーン14とを有している。船倉11には船舶10によって運搬する貨物が積まれる。寄港地では、ハッチカバー12を開放した上で、デッキクレーン14を用いて貨物の荷役作業が行われる。なお、船舶10に設けられる船倉11やデッキクレーン14の数は任意であり、また複数ではなく一つだけ設けられる場合であってもよい。
(デッキクレーン14の概要)
図2に示すように、デッキクレーン14は、甲板13に立設されたクレーンポスト21を有している。クレーンポスト21はクレーン本体22を支持している。クレーンポスト21とクレーン本体22との間には回転部23が設けられ、回転部23によりクレーンポスト21に対してクレーン本体22が鉛直方向を中心として回転可能となっている。
図3及び図4には、回転部23における回転機構30が示されている。なお、図3及び図4では、回転機構30に関わらない装置や部品等については適宜省略されている。図3に示すように、クレーン本体22は、本体内に設けられた機械室24の床面となるベース部22aを有している。ベース部22aには電動モータ及び減速機等よりなる回転装置31が設置されており、回転装置31が有する回転軸31aはクレーンポスト21の内部へ突出している。
回転装置31の回転軸31aには、クレーンポスト21の内部側においてピニオン32が設けられている。図3及び図4に示すように、クレーンポスト21の上端部には、内側にラック33aを有する環状の内輪33が設けられている。ピニオン32はこのラック33aと噛合している。内輪33の外周には、ベース部22aの下方において当該ベース部22aに固定された外輪34が設けられている。そのため、回転装置31を駆動してピニオン32を回転させるとベース部22aが回動し、それによってクレーン本体22が回動する。
内輪33と外輪34との間には、上下2段に配置された転動体35が周方向全体にわたって多数設けられ、それぞれが転動自在に保持されている。転動体35は数mの直径を有している。外輪34の外周部には、上段に配置された転動体35にグリス等の潤滑油を供給する複数の上段給油部36と、下段に配置された転動体35に潤滑油を供給する複数の下段給油部37とが設けられている。図4に示すように、上段給油部36と下段給油部37とは等角度で交互に設けられている。図示の例では、上段給油部36及び下段給油部37がそれぞれ6つずつ設けられている。そのため、30度ごとに上段給油部36又は下段給油部37が設けられている。転動体35に潤滑油が供給されることにより、クレーン本体22の回転が円滑に行われるようになっている。
図2に戻り、クレーン本体22には、ジブ25が設けられている。ジブ25は、クレーン本体22の下部を基端として斜めに延びるように設けられ、基端部に設けられた中心軸25aを中心として俯仰可能に支持されている。ジブ25の先端部には、貨物の積み下ろしのためのフック26が昇降可能に吊り下げられている。ジブ25の俯仰やフック26の昇降は、クレーン本体22の内部に設けられた電動ウインチ(図示略)から複数の滑車27を通してワイヤ28が繰り出され、また巻き取られることによって行われる。なお、フック26に代えてグラブバケット等が設けられるようにしてもよい。クレーン本体22の側部に設けられた運転室29にてジブ25の俯仰やフック26の昇降が操作され、これにより荷役が実施される。
(デッキクレーン14の給油装置)
デッキクレーン14には、図5に示すように、上段給油部36及び下段給油部37に潤滑油を供給するための給油装置40が設けられている。給油装置40は、潤滑油を貯蔵する供給源としてのタンク41と、タンク41から潤滑油を送り出す供給ポンプ42とを有している。タンク41及び供給ポンプ42は、クレーン本体22の機械室24(図3参照)に設けられている。供給ポンプ42には、当該供給ポンプ42から送り出された潤滑油を複数に分配する分配弁44が供給管Tを通じて接続されている。なお、分配弁44は機械室24の外に設けられている。
分配弁44は供給ポート46と複数の吐出ポート47とを備えおり、供給ポンプ42から送り出された潤滑油はまず供給ポート46に供給される。吐出ポート47は、デッキクレーン14の上記回転機構30が有する各給油部36,37と同じ数(この実施形態では12個)だけ設けられ、図4及び図5に示した丸付き数字と同じ数字が付された吐出ポート47及び給油部36,37同士が分配管48によって接続されている。なお、図示の丸付き数字は、説明の便宜のために付されたもので、数字の並びも便宜的に付したものである。
分配弁44は、その構成を後で詳しく説明するように、供給ポート46に供給された潤滑油を、複数の吐出ポート47から所定量ずつ順に分配して吐出する。そのため、供給ポンプ42が駆動して潤滑油が供給ポート46に供給されると、まず、特定の吐出ポート47から所定量の潤滑油が吐出され、対応する給油部36,37に供給される。次いで、別の吐出ポート47から所定量の潤滑油が吐出され、対応する給油部36,37に供給される。分配弁44への潤滑油の供給が継続する間、各吐出ポート47から所定量の潤滑油が順次吐出されるようになっている。
供給ポンプ42には供給ポンプ42の駆動を制御する制御装置43が電気的に接続されている。制御装置43には、運転室29に設けられた回転操作レバー45が接続されている。回転操作レバー45が操作されると、クレーン本体22は回転動作する。制御装置43は、例えば次のような制御を実施することで、潤滑油が上記各給油部36,37に対して定期的に供給されるようにしている。
まず、デッキクレーン14のオペレータによって回転操作レバー45が操作されると、その操作に連動して供給ポンプ42の動作を開始する。その後、所定の駆動継続時間(例えば15秒)が経過すると、供給ポンプ42の駆動を自動的に停止する。供給ポンプ42を自動停止させた後は、所定のインターバル(例えば30分)が経過するまでは、回転操作レバー45が操作されても供給ポンプ42を駆動しない。他方、そのインターバルが経過した後に回転操作レバー45が操作されると、再度所定の駆動継続時間だけ供給ポンプ42を駆動して潤滑油を送り出す。
(分配弁44の構成説明)
次に、分配弁44の構成について詳しく説明する。図6に示すように、分配弁44は、鋳鉄等によりブロック状をなすように形成された弁本体50を有している。図7は、図6におけるA-A断面図であり、以下、上下左右については図7の状態を基準とする。
図6及び図7に示すように、弁本体50の上面には供給ポート46が設けられ、前後の両側面にはそれぞれ吐出ポート47が6つずつ設けられている。弁本体50には、後側の各吐出ポート47から潤滑油を順次吐出するための後側吐出機構51と、前側の各吐出ポート47から潤滑油を順次吐出するための前側吐出機構52とが内蔵されている。供給ポート46から供給された潤滑油は、まず後側吐出機構51を流通し、それにより後側の各吐出ポート47から潤滑油が吐出する。それがすべて終了すると、供給ポート46に供給された潤滑油は、両吐出機構51,52をつなぐ連通流路53を通じて前側吐出機構52に流入し、それにより前側の各吐出ポート47から潤滑油が吐出する。両吐出機構51,52はいずれも同じ構成を有し、動作も同じである。そこで、以下では、後側吐出機構51の構成及び動作のみ説明することとし、前側吐出機構52の構成及び動作の説明は省略する。
(後側吐出機構51の構成説明)
図7に示すように、後側吐出機構51は、弁本体50に設けられた複数のスプール61~63を有している。この実施形態では、後側吐出機構51には6つの吐出ポート47が設けられているため、スプール61~63は3つ設けられている。各スプール61~63は、その中心軸線方向を平行にした状態で上下方向に並んで設けられ、それぞれがスプール収容部64~66に収容されている。収容された状態の各スプール61~63は、その中心軸線方向を左右方向とし、当該中心軸線方向に沿って移動可能となっている。
各スプール61~63は全体として略円柱状をなし、鋼材等により例えば15mm程度の直径を有して形成されている。各スプール61~63は、丸軸部61a~63aと、丸軸部61a~63aよりも径が大きく形成された複数のランド(弁部)61b~63bとを有している。ランド61b~63bにより、スプール収容部64~66は複数の空間に区画されている。具体的には、ランド61b~63b同士の間には、弁室64a~64c,65a,65b,66a,66bが形成され、各スプール61~63の左右両側方には、側方室64d~66d,64e~66eが設けられている。なお、右端のランド61bの右側方を右側方室64d~66dとし、左端のランド61bの左側方を左側方室64e~66eとする。
3つのスプール61~63のうち上段スプール61は、後側吐出機構51の最も上側に設けられており、4つのランド61bを有している。そのため、上段スプール61を収容する上段スプール収容部64には、3つの弁室64a~64cが形成されている。各弁室64a~64cのうち、中心軸線方向の中央に設けられた弁室64cは、供給ポート46と直接連通しており、供給ポート46に供給された潤滑油はまずこの弁室64c(以下「導入弁室64c」という。)に流入する。導入弁室64cを挟んで右側には右弁室64aが設けられ、左側には左弁室64bが設けられている。
中段スプール62は上段スプール61の下方に設けられ、中段スプール62の下方に下段スプール63が設けられている。中段スプール62及び下段スプール63は、それぞれ3つのランド62b,63bを有している。そのため、中段スプール62を収容する中段スプール収容部65及び下段スプール63を収容する下段スプール収容部66には、中央のランド62b,63bを挟んで右側には右弁室65a,66aが設けられ、左側に左弁室65b,66bが形成されている。
上段スプール収容部64の導入弁室64cと中段スプール収容部65との間は、第1導入通路71によって連通している。第1導入通路71は、中段スプール収容部65と下段スプール収容部66との間を連通する第2導入通路72と連通している。これら各導入通路71,72は連通路に相当する。
上段スプール収容部64と中段スプール収容部65との間は、第1送出通路81及び第2送出通路82によって連通している。第1送出通路81は、上段スプール収容部64と中段スプール収容部65の右側方室65dとを連通している。後述するように、第1送出通路81は、上段スプール61が左右へ移動することにより、右弁室64a又は導入弁室64cへ連通するように切り替えられる(図9参照)。第2送出通路82は、上段スプール収容部64と、中段スプール収容部65の右側方室65dとを連通する。後述するように、第2送出通路82は、上段スプール61が左右へ移動することにより、左弁室64b又は導入弁室64cへ連通するように切り替えられる(図9参照)。
中段スプール収容部65と下段スプール収容部66との間は、第3送出通路83及び第4送出通路84によって連通している。第3送出通路83は、中段スプール収容部65の右弁室64aと、下段スプール収容部66の右側方室66dとを連通している。第4送出通路84は、中段スプール収容部65の左弁室65bと、下段スプール収容部66の左側方室66eとを連通している。
下段スプール収容部66と上段スプール収容部64との間は、第5送出通路85及び第6送出通路86によって連通している。第5送出通路85は、下段スプール収容部66の右弁室66aと、上段スプール収容部64の右側方室64dとを連通している。第6送出通路86は、下段スプール収容部66の左弁室66bと、上段スプール収容部64の左側方室64eとを連通している。なお、図7が示す図6のA-A断面には、第5送出通路85及び第6送出通路86が現れないため、図7では便宜的に一点鎖線にて示している。また、上記各送出通路81~86は連通路に相当する。
各スプール収容部64~66のそれぞれには、左右両側に吐出口67~69が設けられている。そのため、合計で6つの吐出口67~69が設けられており、それぞれが6つの吐出ポート47と1対1で対応し、各吐出ポート47と連通している。
上段スプール収容部64に設けられた吐出口67のうち右吐出口67aは、上段スプール収容部64の右弁室64aと連通するように設けられている。他方、左吐出口67bは、上段スプール収容部64の左弁室64bと連通するように設けられている。中段スプール収容部65に設けられた吐出口68のうち右吐出口68aは、中段スプール収容部65の右弁室65aと連通するように設けられている。他方、左吐出口68bは、中段スプール収容部65の左弁室65bと連通するように設けられている。下段スプール収容部66に設けられた吐出口69のうち右吐出口69aは、下段スプール収容部66の右弁室66aと連通するゆうに設けられている。他方、左吐出口69bは、下段スプール収容部66の左弁室66bと連通するように設けられている。
ここで、これまで述べてきた各スプール収容部64~66は、円筒状をなすスリーブ91~93の内側空間によって形成されている。そのため、各スプール61~63は各スリーブ91~93の内側空間に設けられ、ランド61b~63bとの間のクリアランスは例えば15~30μm、より好ましくは20~30μmに設定されている。弁本体50には3つのスリーブ用孔54~56が設けられており、各スリーブ用孔54~56にそれぞれ鋼材等により形成されたスリーブ91~93が設置されている。
図8は、上段スプール収容部64に設けられた上段スリーブ91の構成について、上段スプール61の図示を省略して示している。図8に示すように、上段スリーブ91には、第1導入通路71、第1~第2及び第5~第6送出通路81,82,85,86が上段スプール収容部64と連通する箇所において、上段スプール収容部64の内面に、周方向に沿って内側環状溝94及び外側環状溝95が設けられている。また、上段の左右の吐出口67が設けられる箇所にも、同様に、内側環状溝94及び外側環状溝95が設けられている。内側環状溝94によって形成される内側環状空間96と、外側環状溝95によって形成される外側環状空間97とは、それらが設けられたすべての箇所において、複数の連通孔98を通じて連通している。
なお、第1導入通路71及び各送出通路81,82,85,86の通路端と連通する内側環状空間96と、吐出口67に連通する内側環状空間96とを区別する場合には、前者を第1内側環状空間96aとし、後者を第2内側環状空間96bとする。
このような構成を有するため、第1導入通路71では、上段スリーブ91の外側環状空間97、連通孔98及び第1内側環状空間96aを介して、上段スプール収容部64に連通している。第1送出通路81及び第2送出通路82も同様に、上段スリーブ91の外側環状空間97、連通孔98及び第1内側環状空間96aを介して、上段スプール収容部64に連通している。左右の吐出口67は、弁本体50に設けられたスリーブ用孔54の内面に形成されており、上段スリーブ91の外側環状空間97、連通孔98及び第2内側環状空間96bを介して、上段スプール収容部64に連通している。
以上と同様に、中段スプール収容部65及び下段スプール収容部66でも、中段スリーブ92及び下段スリーブ93がそれぞれ設けられたことにより、第1内側環状空間96a、連通孔98及び外側環状空間97を介して導入通路71,72及び送出通路81~86と連通している。また、中段及び下段の左右の吐出口68,69は、弁本体50に設けられたスリーブ用孔55,56の内面にそれぞれ形成され、中段及び下段のスリーブ92,93の外側環状空間97、連通孔98及び第2内側環状空間96bを介して、中段及び下段のスプール収容部65,66に連通している。
その結果、図7に示すように、まず第1導入通路71と第2導入通路72とは、中段スプール収容部65につながる通路端同士が外側環状空間97を通じて常時連通した状態となっている。
上段スプール収容部64においては、図9(a)に示すように、上段スプール61が左端に配置された状態で、導入弁室64cと左弁室64bとを区画するランド61bの右側周縁部PRが、第2送出通路82の通路端に設けられた内側環状空間96の開口領域内に配置されている。これにより、当該右側周縁部PRの周囲全域にわたり環状隙間99が形成され、導入弁室64cが第1内側環状空間96a、連通孔98、外側環状空間97及び環状隙間99を通じて第2送出通路82と連通する。他方、導入弁室64cと右弁室64aとを区画するランド61bにより、導入弁室64cと第1送出通路81との連通は閉塞されている。また、右弁室64aと右側方室64dとを区画するランド61bの左側周縁部PLは、右吐出口67aが設けられた箇所の第2内側環状空間96bの開口領域内に配置されている。これにより、当該左側周縁部PLの周囲全域にわたり環状隙間99が形成され、右弁室64aが第2内側環状空間96b、連通孔98、外側環状空間97及び環状隙間99を通じて右吐出口67aと連通する。
上段スプール61が右側へ移動して右端に配置された状態では、図9(b)に示すように、導入弁室64cと右弁室64aとを区画するランド61bの左側周縁部PLが、第1送出通路81の通路端に設けられた第1内側環状空間96aの開口領域内に配置されている。これにより、当該左側周縁部PLの周囲全域にわたり環状隙間99が形成され、導入弁室64cが第1内側環状空間96a、連通孔98、外側環状空間97及び環状隙間99を通じて第1送出通路81と連通している。他方、上段スプール61が左端に配置された状態で導入弁室64cと連通していた第2送出通路82との連通は、導入弁室64cと左弁室64bとを区画するランド61bにより逆に閉塞されている。また、左弁室64bと左側方室64eとを区画するランド61bの右側周縁部PRは、左吐出口67bが設けられた箇所の第2内側環状空間96bの開口領域内に配置されている。これにより、当該右側周縁部PRの周囲全域にわたり環状隙間99が形成され、左弁室64bが第2内側環状空間96b、連通孔98、外側環状空間97及び環状隙間99を通じて左吐出口67bと連通する。
中段スプール収容部65においては、図10(a)に示すように、中段スプール62が左端に配置された状態で、中央のランド61bの右側周縁部PRが、導入通路71,72の通路端に設けられた第1内側環状空間96aの開口領域内に配置されている。これにより、当該右側周縁部PRの周囲全域にわたり環状隙間99が形成され、第1導入通路71が第1内側環状空間96a、連通孔98、外側環状空間97及び環状隙間99を通じて右弁室65aと連通する。他方、中央のランド62bにより、導入通路71,72と左弁室65bとの連通は閉塞されている。また、左側のランド61bの右側周縁部PRは、左吐出口68bが設けられた箇所の第2内側環状空間96bの開口領域内に配置されている。これにより、当該右側周縁部PRの周囲全域にわたり環状隙間99が形成され、左弁室65bが第2内側環状空間96b、連通孔98、外側環状空間97及び環状隙間99を通じて左吐出口68bと連通する。
中段スプール62が右側へ移動して右端に配置された状態では、図10(b)に示すように、中央のランド62bの左側周縁部PLが、導入通路71,72の通路端に設けられた第1内側環状空間96aの開口領域内に配置されている。これにより、当該左側周縁部PLの周囲全域にわたり環状隙間99が形成され、第1導入通路71が第1内側環状空間96a、連通孔98、外側環状空間97及び環状隙間99を通じて左弁室65bと連通する。他方、中段スプール62が左端に配置された状態で導入通路71,72と連通していた右弁室65aとの連通は、中央のランド62bにより逆に閉塞されている。また、右側のランド62bの左側周縁部PLは、右吐出口68aが設けられた箇所の第2内側環状空間96bの開口領域内に配置されている。これにより、当該左側周縁部PLの周囲全域にわたり環状隙間99が形成され、右弁室65aが第2内側環状空間96b、連通孔98、外側環状空間97及び環状隙間99を通じて右吐出口68aと連通する。
下段スプール収容部66においては、図11(a)に示すように、下段スプール63が左端に配置された状態で、中央のランド63bの右側周縁部PRが、第2導入通路72の通路端に設けられた第1内側環状空間96aの開口領域内に配置されている。これにより、当該右側周縁部PRの周囲全域にわたり環状隙間99が形成され、第2導入通路72が第1内側環状空間96a、連通孔98、外側環状空間97及び環状隙間99を通じて右弁室66aと連通する。他方、中央のランド63bにより、第2導入通路72と左弁室66bとの連通は閉塞されている。また、左側のランド63bの右側周縁部PRは、左吐出口69bが設けられた箇所の第2内側環状空間96bの開口領域内に配置されている。これにより、当該右側周縁部PRの周囲全域にわたり環状隙間99が形成され、左弁室66bが第2内側環状空間96b、連通孔98、外側環状空間97及び環状隙間99を通じて左吐出口69bと連通する。
下段スプール63が右側へ移動して右端に配置された状態では、図11(b)に示すように、中央のランド63bの左側周縁部PLが、第2導入通路72の通路端に設けられた第1内側環状空間96aの開口領域内に配置されている。これにより、当該左側周縁部PLの周囲全域にわたり環状隙間99が形成され、第2導入通路72が第1内側環状空間96a、連通孔98、外側環状空間97及び環状隙間99を通じて左弁室66bと連通する。他方、下段スプール63が左端に配置された状態で第2導入通路72と連通していた右弁室66aとの連通は、中央のランド63bにより逆に閉塞されている。また、右側のランド63bの左側周縁部PLは、右吐出口69aが設けられた箇所の第2内側環状空間96bの開口領域内に配置されている。これにより、当該左側周縁部PLの周囲全域にわたり環状隙間99が形成され、右弁室66aが第2内側環状空間96b、連通孔98、外側環状空間97及び環状隙間99を通じて右吐出口69aと連通する。
以上のように、各スプール61~63が左右の一方側に配置された状態で形成されていた環状隙間99は、当該各スプール61~63が他方の側へ移動することに伴って閉塞される。代わりに、新たに別の環状隙間99が形成され、その新たな環状隙間99と第1内側環状空間96aを通じて新たに別のスプール61~63を移動させる移動流路が形成される。そのため、各スプール61~63の移動により、流路の切替えが行われる。なお,第1内側環状空間96a及び環状隙間99により,流路連通部が形成されている。
流路切替えにおいては、各スプール61~63がその全ストローク量(例えば5mm)の9割程度移動すれば、新たに環状隙間99を形成するランド61bの周縁部Pが第1内側環状空間96aの開口領域内に至るように設定されている。環状隙間99は、その後、各スプール61~63の移動によって徐々に広がっていく。
(スプール61~63の状態観察構成)
上記分配弁44では、各スプール61~63の移動状態が観察可能となっている。次に、その構成について図6及び図7に戻ってこれらの図を参照しながら説明する。
図7に示すように、各スプール61~63の中心軸線方向の両端面には、当該方向に向けて弁本体50の側面50a,50bより突出可能な突出軸部101~103が設けられている。なお、これら側面50a,50bは弁本体50の外面に相当する。突出軸部101~103を挿通する軸挿通孔104~106は、シールにより潤滑油の漏れが抑制されている。
左右の突出軸部101~103のうち右側突出軸部101a~103aは、スプール61~63が左端に配置されると、右側の軸挿通孔104aに入り込んで右側面50aから非突出の状態となる。スプール61~63が右端に配置されると、右側突出軸部101a~103aは、右側面50aから突出した状態となる。他方、左側突出軸部101b~103bは、スプール61~63が左端に配置されると、左側面50bから突出した状態となる。スプール61~63が右端に配置されると、左側突出軸部101b~103bは、左側の軸挿通孔104b~106bに入り込んで左側面50bから非突出の状態となる。そのため、左右の突出軸部101~103の突出状態により、各スプール61~63の移動状態を把握することが可能となる。
弁本体50の左右両側面50a,50bには、図6に示すように、側面50a,50bの略全域に側面カバー107,108がボルトB等により取り付けられている。側面カバー107,108は、ステンレス鋼等により形成されている。図7に戻り、各側面カバー107,108には、挿入孔111,112と、インジケータカバー113,114とが設けられている。
挿入孔111,112は、各側面カバー107,108のそれぞれに、後側吐出機構51が有する各スプール61~63と、前側吐出機構52が有する各スプール61~63の数とを合せた数だけ設けられている。各挿入孔111,112は、側面カバー107,108を左右に貫通するように設けられており、左右の各側面50a,51bから突出する突出軸部101~103がその突出時に挿入される。
インジケータカバー113,114は、透明なアクリル樹脂等の透明な樹脂素材により形成されている。インジケータカバー113,114は、各側面カバー107,108において、後側及び前側の吐出機構51,52ごとに、それぞれのスプール61~63の突出軸部101~103が挿入される挿入孔111,112を塞ぐように取り付けられている。そのため、インジケータカバー113,114を通して、突出軸部101~103の突出状態を視認することが可能となっている。
なお、側面カバー107,108とインジケータカバー113,114とが一体化された状態のものが被覆部に相当し、インジケータカバー113,114それ自体が観察部に相当する。
(後側吐出機構51の動作)
次に、後側吐出機構51の動作について図12及び図13を参照して説明する。ここでは、図12(a)に示すように、すべてのスプール61~63が左端に配置された状態を説明の起点とするが、起点となるスプール61~63の配置位置は任意である。
図12(a)に示すように、すべてのスプール61~63が左端に配置された状態では、供給ポート46に潤滑油が供給されると、薄い網掛けにより図示された領域が潤滑油で充たされる。この領域では、導入弁室64cは環状隙間99や内外の環状空間96a,97を通じて第2送出通路82に連通し(図9参照)、第2送出通路82は中段スプール収容部65の左側方室65eと連通している。そのため、供給ポート46に供給された潤滑油は、導入弁室64cから第2送出通路82を経て当該左側方室65eに流入し、その供給圧によって中段スプール62を右側へ押圧して移動させる。なお、ここでは、導入弁室64c、第2送出通路82によって移動流路が形成されている。
この時、中段スプール収容部65の右側方室65dは、第1送出通路81に連通している。上段スプール61が左端に配置されているため、第1送出通路81は、環状隙間99や内外の環状空間96,97を通じて上段スプール収容部64の右弁室64aと連通している(図9(a)参照)。また、当該右弁室64aは、環状隙間99や内外の環状空間96b,97を通じて上段の右吐出口67aとも連通している(図9(a)参照)。そのため、中段スプール62が右側へ移動することにより、中段スプール収容部65の右側方室65dから上段の右吐出口67aに至る流路(濃い網掛けにより示す部分)に存在する潤滑油が上段の右吐出口67aへ送り出される。これにより、当該右吐出口67aが連通する吐出ポート47より潤滑油が吐出する。この吐出ポート47からの吐出は、中段スプール62が右端まで移動するまで行われる。なお、ここでは、中段スプール収容部65の右側方室65d、第1送出通路81及び上段スプール収容部64の右弁室64a等によって送出流路が形成されている。
図12(b)に示すように、中段スプール62が右端に配置されると、供給ポート46に供給された潤滑油は、薄い網掛けにより図示された領域が潤滑油で充たされる。この領域では、上段スプール収容部64の導入弁室64cに連通する第1導入通路71は、中段スプール収容部65の右弁室65aとの連通が閉塞され、環状隙間99や内外の環状空間96a,97を通じて左弁室65bと連通している(図10(b)参照)。そして、当該左弁室65bは、第4送出通路84を通じて下段スプール収容部66の左側方室66eと連通している。そのため、導入弁室64cから第1導入通路71、中段スプール収容部65の左弁室65b及び第4送出通路84を経て、下段スプール収容部66の左側方室66eに潤滑油が流入する新たな移動流路が形成される。この移動流路を通じて流入した潤滑油の供給圧により、下段スプール63は右側へ押圧されて移動する。
この時、下段スプール収容部66の右側方室66dは、第3送出通路83を通じて中段スプール収容部65の右弁室65aと連通している。当該右弁室65aは、中段スプール62が右端に配置されたため、導入通路71,72との連通が閉塞され、環状隙間99や内外の環状空間96b,97を通じて中段の右吐出口68aと連通している(図10参照)。そのため、下段スプール63が右側へ移動することにより、下段スプール収容部66の右側方室66dから中段の右吐出口68aに至る流路(濃い網掛けにより示す部分)に存在する潤滑油が中段の右吐出口68aへ送り出される。これにより、当該右吐出口68aが連通する吐出ポート47より潤滑油が吐出する。この吐出ポート47からの吐出は、下段スプール63が右端まで移動するまで行われる。なお、ここでは、下段スプール収容部66の右側方室66d、第3送出通路83及び中段スプール収容部65の右弁室65a等によって送出流路が形成されている。
図12(c)に示すように、下段スプール63が右端に配置されると、供給ポート46に供給された潤滑油は、薄い網掛けにより図示された領域が潤滑油で充たされる。この領域では、第1導入通路71と常時連通する第2導入通路72は、下段スプール収容部66の右弁室66aとの連通が閉塞され、環状隙間99や内外の環状空間96a,97を通じて左弁室66bと連通している(図11(b)参照)。そして、当該左弁室66bは、第6送出通路86を通じて上段スプール収容部64の左側方室64eと連通している。そのため、導入弁室64cから各導入通路71,72、下段スプール収容部66の左弁室66b、第6送出通路86を経て、上段スプール収容部64の左側方室64eに流入する新たな移動流路が形成される。この移動流路を通じて流入した潤滑油の供給圧により、上段スプール61は右側へ押圧されて移動する。
この時、上段スプール収容部64の右側方室64dは、第5送出通路85を通じて下段スプール収容部66の右弁室66aと連通している。当該右弁室66aは、下段スプール63が右端に配置されたため、導入通路71,72との連通が閉塞され、環状隙間99や内外の環状空間96b,97を通じて下段の右吐出口69aと連通している(図11(b)参照)。そのため、上段スプール61が右側へ移動することにより、上段スプール収容部64の右側方室64dから下段の右吐出口69aに至る流路(濃い網掛けにより示す部分)に存在する潤滑油が下段の右吐出口69aへ送り出される。これにより、当該右吐出口69aが連通する吐出ポート47より潤滑油が吐出する。この吐出ポート47からの吐出は、上段スプール61が右端まで移動するまで行われる。なお、ここでは、上段スプール収容部64の右側方室64d、第5送出通路85及び下段スプール収容部66の右弁室66a等によって送出流路が形成されている。
図13(a)に示すように、上段スプール61が右端に配置されると、供給ポート46に供給された潤滑油は、薄い網掛けにより図示された領域が潤滑油で充たされる。この領域では、導入弁室64cは、第2送出通路82との連通が閉塞され、環状隙間99や内外の環状空間96a,97を通じて第1送出通路81に連通し(図9(a)参照)、第1送出通路81は中段スプール収容部65の右側方室65dと連通している。そのため、導入弁室64cから第1送出通路81を経て、中段スプール収容部65の右側方室65dに潤滑油が流入する新たな移動流路が形成される。この移動流路を通じて流入した潤滑油の供給圧により、中段スプール62は左側へ押圧されて移動する。
この時、中段スプール収容部65の左側方室65eは、第2送出通路82を通じて上段スプール収容部64の左弁室64bと連通している。当該左弁室64bは、上段スプール61が右端に配置されているため、導入弁室64cとの連通が閉塞され、環状隙間99や内外の環状空間96b,97を通じて上段の左吐出口67bと連通している(図9(a)参照)。そのため、中段スプール62が左側へ移動することにより、中段スプール収容部65の左側方室65eから上段の左吐出口67bに至る流路(濃い網掛けにより示す部分)に存在する潤滑油が上段の左吐出口67bへ送り出される。これにより、当該左吐出口67bが連通する吐出ポート47より潤滑油が吐出する。この吐出ポート47からの吐出は、中段スプール62が左端まで移動するまで行われる。なお、ここでは、中段スプール収容部65の左側方室65e、第2送出通路82及び上段スプール収容部64の左弁室64b等によって送出流路が形成されている。
図13(b)に示すように、中段スプール62が左端に配置されると、供給ポート46に供給された潤滑油は、薄い網掛けにより図示された領域が潤滑油で充たされる。この領域では、上段スプール収容部64の導入弁室64cに連通する第1導入通路71は、中段スプール収容部65の左弁室65bとの連通が閉塞され、環状隙間99や内外の環状空間96a,97を通じて右弁室65aと連通している(図10(a)参照)。そして、当該右弁室65aは、第3送出通路83を通じて下段スプール収容部66の右側方室66dと連通している。そのため、導入弁室64cから第1導入通路71、中段スプール収容部65の右弁室65a及び第3送出通路83を経て、下段スプール収容部66の右側方室66dに潤滑油が流入する新たな移動流路が形成される。この移動流路を通じて流入した潤滑油の供給圧により、下段スプール63は左側へ押圧されて移動する。
この時、下段スプール収容部66の左側方室66eは、第4送出通路84を通じて中段スプール収容部65の左弁室65bと連通している。当該左弁室65bは、中段スプール62が左端に配置されたため、導入通路71,72との連通が閉塞され、環状隙間99や内外の環状空間96b,97を通じて中段の左吐出口68bと連通している(図10(a)参照)。そのため、下段スプール63が左側へ移動することにより、下段スプール収容部66の左側方室66eから中段の左吐出口68bに至る流路(濃い網掛けにより示す部分)に存在する潤滑油が中段の左吐出口68bへ送り出される。これにより、当該左吐出口68bが連通する吐出ポート47より潤滑油が吐出する。この吐出ポート47からの吐出は、下段スプール63が左端まで移動するまで行われる。なお、ここでは、下段スプール収容部66の左側方室66e、第4送出通路84及び中段スプール収容部65の左弁室65b等によって送出流路が形成されている。
図13(c)に示すように、下段スプール63が左端に配置されると、供給ポート46に供給された潤滑油は、薄い網掛けにより図示された領域が潤滑油で充たされる。この領域では、第1導入通路71と常時連通する第2導入通路72は、下段スプール収容部66の左弁室66bとの連通が閉塞され、環状隙間99や内外の環状空間96a,97を通じて右弁室66aと連通している(図11(a)参照)。そして、当該右弁室66aは、第5送出通路85を通じて上段スプール収容部64の右側方室64dに連通している。そのため、導入弁室64cから各導入通路71,72、下段スプール収容部66の右弁室66a、第5送出通路85を経て、上段スプール収容部64の右側方室64dに流入する新たな移動流路が形成される。この移動流路を通じて流入した潤滑油の供給圧により、上段スプール61は左側へ押圧されて移動する。
この時、上段スプール収容部64の左側方室64eは、第6送出通路86を通じて下段スプール収容部66の左弁室66bと連通している。当該左弁室66bは、下段スプール63が左端に配置されたため、導入通路71,72との連通が閉塞され、環状隙間99や内外の環状空間96b,97を通じて下段の左吐出口69bと連通している(図11(a)参照)。そのため、上段スプール61が左側へ移動することにより、上段スプール収容部64の左側方室64eから下段の左吐出口69bに至る流路(濃い網掛けにより示す部分)に存する潤滑油が下段の左吐出口69bへ送り出される。これにより、当該左吐出口69bが連通する吐出ポート47より潤滑油が吐出する。この吐出ポート47からの吐出は、上段スプール61が左端まで移動するまで行われる。なお、ここでは、上段スプール収容部64の左側方室64e、第6送出通路86及び下段スプール収容部66の左弁室66b等によって送出流路が形成されている。
以上の動作を経て、後側吐出機構51が有する6つの吐出ポート47からの潤滑油の順次吐出が終了する。これに次いで供給ポート46に潤滑油が供給されると、潤滑油は前側吐出機構52に供給され、前側吐出機構52が有する6つの吐出ポート47から上記と同様、順に潤滑油が吐出する。前側吐出機構52が有する6つの吐出ポート47のすべてから吐出が終了すると、潤滑油は再び前側吐出機構52に供給され、上記の動作により潤滑油が吐出する。分配弁44ではこのような動作が繰り返される。なお、前述したように、分配弁44に対する潤滑油の供給は所定の駆動継続時間が経過すると停止する。この供給停止により、スプール61~62の移動も停止して分配弁44からの潤滑油の吐出がいったん停止する。潤滑油の供給が再開されれば、スプール61~63の動作は、上記のルーティンの続きから再開する。
ところで、船舶10は航海中に様々な気候にさらされる。その気候の影響等により、分配弁44から複数の給油部36,37へ潤滑油を供給する分配管48において、潤滑油の固化等を原因とする詰まりが発生することも少なくない。そのような詰まりが生じた場合を想定し、その場合における分配弁44の動作について、図14を参照して説明する。ここでは、一例として、図12(c)に示すように、中段スプール62及び下段スプール63が右端に配置され、上段スプール61が左端から右側へ移動することで、下段の右吐出口69a~潤滑油が吐出する先の分配管48で詰まりが発生したことを想定する。
このように分配管48で詰まりが発生した場合、上段スプール61は右側へ正常に移動しないため、下段の右吐出口69aから潤滑油は正常に吐出しない。もっとも、潤滑油にはエア(気泡)が含まれている。そのため、上段スプール61を右側へ移動させる移動流路への潤滑油の供給圧の高まりにより、上段スプール61は、図14に二点鎖線で示すように、上段スプール61の移動方向の下流側に存在する潤滑油を圧縮しつつ移動する。この移動により、導入弁室64cと右弁室64aとを区画するランド61bの外周面と上段スリーブ91の内面との重なり量Rは、移動前と比較して小さくなる。
ここで、分配弁44では、各スプール61~63の移動によって新たな環状隙間99が形成される場合に、ランド61bの外周面と上段スリーブ91の内面との重なり量Rは、各スプール61~63が移動するにつれて周方向全域で徐々に小さくなっていく。各スプール61~63の移動が正常に完了すれば、その後、環状隙間99が形成される。このように重なり量Rの小さい箇所が周方向の全域に存在するため、スプール61~63の移動によって新たな環状隙間99が形成されるよりも前の段階で、ランド61bの外周面と上段スリーブ91の内面との間から潤滑油がリークしやすくなっている。その上、分配管48の詰りによって、潤滑油を供給する供給圧は通常の供給圧よりも高まる。
そのため、図14に示すように、上段スプール61が全てのストローク量を移動しなくても、潤滑油の圧縮によって生じる移動によって重なり量Rが小さくなれば、導入弁室64cから第1送出通路81へのリークが生じる。その結果、上段スプール61が正常に右側へ移動して右端に配置された場合と同様の移動流路(図13(a)参照)が形成される。そうすると、上段スプール61の右端への移動に続く移動対象である中段スプール62が左側へ移動し、次の吐出ポート47から潤滑油が吐出する。これにより、分配弁44に詰りが発生しても、分配弁44からの潤滑油の吐出が継続して行われる。
この場合、上段スプール61が左端から右側へ正常に移動しないため、上段スプール61の右側突出軸部101aが弁本体50の右側面50aから突出する突出量は、正常に移動した場合の突出量と比較して小さくなっている。また、上段スプール61の左側突出軸部101bは、正常に右端へ移動すれば左側の軸挿通孔104bに入り込んで非突出状態となるはずが、左側面50bから突出したままの状態なっている。給油装置40のメンテナンス時には、作業員は、インジケータカバー113,114からその様子を視認することで、上段スプール61の左端から右側への動きに不具合があり、その移動によって潤滑油が流通する分配管48に詰まりが発生していることを把握できる。
なお、潤滑油の圧縮によって生じる移動によって導入弁室64cから第1送出通路81へのリークを確実に生じさせるには、十分な圧縮量を確保するため、分配管48の配管長としては、少なくとも50cm以上とすることが好ましい。
以上詳述した本実施形態の分配弁44によれば、次の効果を得ることができる。
(1)各スプール61~63がそれぞれ左右端のいずれかに配置された状態で、供給された潤滑油の供給圧により、いずれか一つのスプール61~63を移動させる移動流路が形成されている。この移動流路の流路途中では、導入通路71,72や送出通路81~86の通路端が第1内側環状空間96aと連通し、第1内側環状空間96aは環状隙間99を介して弁室64a~64c,65a,65b,66a,66bと連通している。環状隙間99は、ランド61b~63bの周縁部Pの周囲全域にわたって形成されているため、通路71,72,81~86と弁室64a~64c,65a,65b,66a,66bとの連通領域は、両者の連通領域が通路開口部に制限されていた場合と比べ、広げられている。そのため、潤滑油がより流通しやすくなり、弁室64a~64c,65a,65b,66a,66bと導入通路71,72及び送出通路81~86との間の流通性を向上させることができる。また、連通領域の広がりにより、スプール61~63の移動によって新たな環状隙間99が形成されるその形成当初からより多くの流通量が確保される。そのため、通路開口部を通じた連通よりも、流通量の変動幅を少なくして流通量を安定化させることができる。
しかも、連通領域の広がりにより、スプール61~63の移動によって新たな環状隙間99が形成されるよりも前の段階で、ランド61bの外周面とスリーブ91~93の内面との間から潤滑油がリークしやすくなっている。そのため、分配管48に詰りが発生してスプール61~64が全ストローク量を移動できなくても、潤滑油のリークが発生し、スプール61~64が正常に移動した場合と同様の移動流路を形成することが可能となる。これにより、分配弁44に詰りが発生しても、分配弁44からの潤滑油の吐出が継続して行われ、回転機構30の転動体35が潤滑油不足に陥るおそれを低減できる。
(2)潤滑油が送り出される各吐出口67~69についても、各吐出口67~69が設けられた箇所に第2内側環状空間96bが設けられ、環状隙間99を介して弁室64a,64b,65a,65b,66a,66bと連通している。そのため、吐出口67~69と弁室64a,64b,65a,65b,66a,66bとの連通領域が吐出口67~69の開口領域に制限される場合と比べ、その連通領域が広げられている。これにより、潤滑油がより流通しやすくなり、弁室64a,64b,65a,65b,66a,66bから吐出口67~69に至る潤滑油の流通について、その流通性を向上させることができる。
(3)スプール収容部64~66はスリーブ91~93の内面によって形成され、スプール61~63はスリーブ91~93の内部に収容されている。そして、スリーブ91~93の内面に内側環状空間96a,96bが設けられている。これにより、弁本体50に内側環状空間96a,96bを形成する内側環状溝94が形成されるのではなく、弁本体50とは別部材であるスリーブ91~93の内面に内側環状溝94が形成される。そのため、スプール収容部64~66が例えば10~20mm程度の比較的小径とされる場合でも、スプール収容部64~66の内面に内側環状溝94を形成する加工が行いやすい。
(4)スリーブ91~93には、内側環状空間96a,96bだけでなく外側環状空間97が設けられ、両空間96,97は複数の連通孔98によって連通している。そして、導入通路71,72及び送出通路81~86の通路端や吐出口67~69は、外側環状空間97と連通している。そのため、導入通路71,72及び送出通路81~86の通路端や吐出口67~69の開口領域がランド61b~63bによって狭められることなく、その開口領域全体を連通領域に利用でき、その分、潤滑油の流動性を向上させることができる。また、弁本体50にスリーブ91~93を組み付ける際に、導入通路71,72及び送出通路81~86の通路端や吐出口67~69と、スリーブ91~93に設けられた連通孔98とが合致するように位置決めしなくても、内側環状空間96との連通状態を確保できる。これにより、弁本体50へのスリーブ91~93の組み付けを容易に行うことができる。
(5)弁本体50の側面50a,50bから突出するスプール61~63の突出軸部101~103が側面カバー107,108及びインジケータカバー113,114によって覆われている。そのため、航海中の潮風により、突出軸部101~103に錆等が発生することを抑制できる。この場合でも、インジケータカバー113,114を通じて突出軸部101~103の状態を観察することが可能となっている。そのため、突出軸部101~103を有するスプール61~63の移動が正常に行われているか否かを視認し、異常と判断されるスプール61~63を容易に発見することができ、分配弁44のメンテナンス性を向上させることができる。
なお、本実施形態の分配弁44は、上記の形態に限られるものではなく、例えば次のような構成を採用してもよい。
(a)上記実施の形態では、分配弁44はそれぞれ3つのスプール61~63を有する2つの吐出機構51,52を備えた構成としたが、吐出機構51,52の数をより増やすようにしてもよい。例えば、吐出機構51,52を3つ備えた構成とすれば、18個の吐出ポート47が設けられ、潤滑油の分配数を増やすことができる。また、一つの吐出機構51,52において、スプール61~63の数を増減してもよい。
(b)上記実施の形態では、スリーブ91~93を設けてその内面によってスプール収容部64~66が形成されているが、スリーブ91~93を省略し、内側環状溝94を弁本体50の内面に直接形成するようにしてもよい。この場合、外側環状空間97や連通孔98は形成されず、省略されることとなる。
(c)上記実施の形態では、吐出口67~69が形成された箇所にも内側環状空間96、外側環状空間97及び連通孔98が形成されているが、これを省略した構成を採用してもよい。この場合、吐出口67~69に至る流路では流通性を向上することができなくなるが、導入通路71,72や送出通路81~86の通路端において少なくとも内側環状空間96等が形成され、その部分での流通性を向上させることができる。また、詰りが発生した場合でも潤滑油を継続して供給するという機能を保持することはできる。
(d)上記実施の形態では、スプール61~63に設けられた突出軸部101~103を側面カバー107,108及びインジケータカバー113,114によって覆うようにしたが、これを露出させるようにしてもよい。もっとも、突出軸部101~103が潮風にあたって錆等が発生することを避けるには、側面カバー107,108等と設けた方が好ましい。また、インジケータカバー113,114を省略した上で、側面カバー107,108の全体を透明なアクリル樹脂等で構成して、側面カバー107,108自身にインジケータ機能を付与させてもよい。